(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007312
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】複層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20220105BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220105BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20220105BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
B32B27/40
G02B5/30
C08L75/04
C08L63/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110214
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 祐二
【テーマコード(参考)】
2H149
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AB16
2H149DA02
2H149DA12
2H149DA25
2H149DB33
2H149EA02
2H149EA22
2H149FA05Y
2H149FA06Y
2H149FA68
2H149FA69
2H149FD21
4F100AK01C
4F100AK02A
4F100AK45B
4F100AK51B
4F100AK53B
4F100AT00A
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4F100GB41
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4F100JL11
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4F100JN18C
4F100YY00B
4J002CD012
4J002CK031
4J002CK041
4J002CK051
4J002GF00
4J002GJ00
(57)【要約】
【課題】他の部材との密着性が十分である、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層と接着層とを含む複層フィルム。
【解決手段】基材層と、前記基材層の少なくとも一方の表面に接して配置される接着層とを含み、前記基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含み、前記接着層は、ポリウレタン(A)とソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)とを含むウレタン樹脂を硬化させた層である、複層フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の少なくとも一方の表面に接して配置される接着層とを含み、
前記基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含み、
前記接着層は、ポリウレタン(A)とソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)とを含むウレタン樹脂を硬化させた層である、複層フィルム。
【請求項2】
前記ポリウレタン(A)が、カーボネート構造を有する、請求項1に記載の複層フィルム。
【請求項3】
前記エポキシ化合物(B)は、エポキシ当量が165g/当量以上180g/当量以下である、請求項1又は2に記載の複層フィルム。
【請求項4】
前記複層フィルムが長尺であり、前記基材層の配向角が、0°より大きく90°未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項5】
前記基材層が、斜め延伸フィルムである、請求項4に記載の複層フィルム。
【請求項6】
前記接着層の表面に接する熱可塑性樹脂層を更に含み、前記基材層、前記接着層、及び前記熱可塑性樹脂層が、この順で配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の複層フィルム。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂層がネガティブAプレートである、請求項6に記載の複層フィルム。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載の複層フィルムを含む、延伸用複層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、耐熱性に優れ、吸湿性が低く、光弾性定数が小さいため、光学フィルムの材料として注目されている。脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含むフィルムを、他の光学要素と貼り合わせるために、かかるフィルムに更に接着層を形成することが行われている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-206343号公報
【特許文献2】国際公開第2015/098956号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層と接着層とを含む複層フィルムを、位相差を有する位相差層、偏光子などの他の部材と積層した場合に、基材層と他の部材との密着性が不十分である場合がある。
そのため、他の部材との密着性が十分である、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層と接着層とを含む複層フィルムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した結果、特定の接着層を用いることにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0006】
[1] 基材層と、前記基材層の少なくとも一方の表面に接して配置される接着層とを含み、
前記基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含み、
前記接着層は、ポリウレタン(A)とソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)とを含むウレタン樹脂を硬化させた層である、複層フィルム。
[2] 前記ポリウレタン(A)が、カーボネート構造を有する、[1]に記載の複層フィルム。
[3] 前記エポキシ化合物(B)は、エポキシ当量が165g/当量以上180g/当量以下である、[1]又は[2]に記載の複層フィルム。
[4] 前記複層フィルムが長尺であり、前記基材層の配向角が、0°より大きく90°未満である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の複層フィルム。
[5] 前記基材層が、斜め延伸フィルムである、[4]に記載の複層フィルム。
[6] 前記接着層の表面に接する熱可塑性樹脂層を更に含み、前記基材層、前記接着層、及び前記熱可塑性樹脂層が、この順で配置されている、[1]~[5]のいずれか一項に記載の複層フィルム。
[7] 前記熱可塑性樹脂層がネガティブAプレートである、[6]に記載の複層フィルム。
[8] [1]~[5]のいずれか一項に記載の複層フィルムを含む、延伸用複層フィルム。
【0007】
本開示には、以下の製造方法が含まれる。
[9] [6]又は[7]に記載の複層フィルムの製造方法であって、
脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層上に、ポリウレタン(A)とソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)とを含むウレタン樹脂を含む接着層材料を塗布して硬化させ、接着層を形成する工程(i)
前記接着層上に、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層材料を塗布して熱可塑性樹脂層を形成し、未延伸複層フィルムを得る工程(ii)、及び
前記未延伸複層フィルムを延伸して複層フィルムを得る工程(iii)
を含む、複層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、他の部材との密着性が十分である、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層と接着層とを含む複層フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0010】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0011】
以下の説明において、フィルム又は層の遅相軸とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の面内における遅相軸を表す。
【0012】
以下の説明において、フィルム又は層の配向角とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の遅相軸が、当該フィルム又は層の幅方向に対してなす角度を表す。
【0013】
以下の説明において、長尺のフィルムの斜め方向とは、別に断らない限り、そのフィルムの面内方向であって、そのフィルムの長手方向に平行でもなく垂直でもない方向を示す。
【0014】
以下の説明において、固有複屈折が正の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。また、固有複屈折が負の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0015】
以下の説明において、層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、層の厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0016】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0017】
[1.複層フィルムの概要]
本発明の一実施形態に係る複層フィルムは、基材層と、前記基材層の少なくとも一方の表面に接して配置される接着層とを含む。
前記基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む。前記接着層は、ポリウレタン(A)とソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)とを含むウレタン樹脂を硬化させた層である。
本実施形態の複層フィルムは、前記接着層を含むので、複層フィルムを他の部材と積層した場合に、基材層と他の部材とが十分に密着する。一般に、所望の光学特性を与えるために、複層フィルムと他の部材との積層体を延伸する場合、基材層と他の部材とが剥離しやすい傾向がある。本実施形態の複層フィルムによれば、積層体を延伸する場合であっても、基材層と他の部材とが剥離することを抑制できる。
よって、一実施形態において、複層フィルムは、延伸用途に好適である。
【0018】
[1.1.基材層]
基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む。
通常、基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂から形成される層を含む。基材層は、単層構造を有していても、複層構造を有していてもよい。通常、脂環式構造含有重合体を含む樹脂から形成される層は、基材層の最も外側に配置され、また、通常、脂環式構造含有重合体を含む樹脂から形成される層は、接着層に接するように配置されている。例えば、基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂から形成される層のみからなる単層構造を有していてもよいし、脂環式構造含有重合体を含む樹脂から形成される層の複数が積層された複層構造を有していてもよい。
【0019】
(脂環式構造含有重合体)
脂環式構造含有重合体とは、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を有する重合体であり、主鎖に脂環式構造を有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を有する重合体のいずれを用いてもよい。脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、機械的強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0020】
脂環式構造としては、例えば、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造などが挙げられる。中でも、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が特に好ましい。
【0021】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及び基材層の成形性が高度にバランスされ、好適である。
【0022】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択してもよく、好ましくは55重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、基材層の透明性及び耐熱性の観点から好ましい。
【0023】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系重合体及びこれらの水素化物は、透明性と成形性が良好なため、好適である。
【0024】
ノルボルネン系重合体及びこれらの水素化物の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、又はノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、又はノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体;及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。ここで「(共)重合体」とは、重合体及び共重合体のことをいう。
【0025】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、及びこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)が挙げられる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一又は相異なって、複数個が環に結合していてもよい。また、ノルボルネン構造を有する単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0026】
極性基の種類としては、例えば、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団が挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、及びハロゲン原子が挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン酸基などが挙げられる。
【0027】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類及びその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエン及びその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体の開環共重合体は、例えば、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造してもよい。
【0029】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどの炭素数2~20のα-オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの中でも、α-オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。また、ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体の付加共重合体は、例えば、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合又は共重合することにより製造してもよい。
【0031】
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環を有する環状オレフィン系モノマーの付加重合体を挙げることができる。
【0032】
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン系モノマーの付加重合体を環化反応して得られる重合体;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状共役ジエン系モノマーの1,2-又は1,4-付加重合体;及びこれらの水素化物;などを挙げることができる。
【0033】
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサン等のビニル脂環式炭化水素系モノマーの重合体及びその水素化物;スチレン、α-メチルスチレン等のビニル芳香族炭化水素系モノマーを重合してなる重合体に含まれる芳香環部分を水素化してなる水素化物;ビニル脂環式炭化水素系モノマー、又はビニル芳香族炭化水素系モノマーとこれらビニル芳香族炭化水素系モノマーに対して共重合可能な他のモノマーとのランダム共重合体若しくはブロック共重合体等の共重合体の、芳香環の水素化物;等を挙げることができる。前記のブロック共重合体としては、例えば、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体又はそれ以上のマルチブロック共重合体、並びに傾斜ブロック共重合体等を挙げることもできる。
【0034】
脂環式構造含有重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、更に好ましくは50,000以下である。ここで、前記の重量平均分子量及び後述する数平均分子量(Mn)は、それぞれ、溶媒としてシクロヘキサンを用いて(但し、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合にはトルエンを用いてもよい)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量及び数平均分子量である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、複層フィルムの機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされ好適である。
【0035】
脂環式構造含有重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.7以下である。分子量分布を前記範囲の下限値以上にすることにより、重合体の生産性を高め、コストを抑制することができる。また、上限値以下にすることにより、低分子量成分を減らすことができるので、緩和時間を長くできる。そのため、高温曝露時の緩和を抑制でき、基材層の安定性を高めることができる。
【0036】
脂環式構造含有重合体のガラス転移温度は、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは120℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下である。ガラス転移温度が前記下限値以上であることにより、基材層の高温下における耐久性が向上し、前記上限値以下であることにより延伸加工性が向上する。
【0037】
脂環式構造含有重合体は、光弾性係数の絶対値が10×10-12Pa-1以下であることが好ましく、7×10-12Pa-1以下であることがより好ましく、4×10-12Pa-1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、「C=Δn/σ」で表される値である。脂環式構造含有重合体を含む樹脂の光弾性係数を前記範囲に納めることにより、基材層でのレターデーションのバラツキを小さくできる。
【0038】
脂環式構造含有重合体の飽和吸水率は、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、基材層の面内レターデーションRe及び厚み方向のレターデーションRthの経時変化を小さくすることができる。
【0039】
飽和吸水率は、試験片を一定温度の水中に一定時間浸漬して増加した質量を、浸漬前の試験片の質量に対する百分率で表した値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。脂環式構造含有重合体における飽和吸水率は、例えば、脂環式構造含有重合体中の極性基の量を減少させることにより、前記の範囲に調節することができる。飽和吸水率をより低くする観点から、脂環式構造含有重合体は、極性基を有さないことが好ましい。
【0040】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、脂環式構造含有重合体以外に任意の成分を含んでいてもよい。その任意の成分の例を挙げると、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;酸化防止剤;滑剤;界面活性剤などの添加剤が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂における重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%である。本実施形態に係る複層フィルムは、高い疎水性を有する脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む層を有する場合であっても、所定のウレタン樹脂を硬化させた層である接着層を備えることにより、例えば親水性が高い他の部材との密着性に優れる。この利点を効果的に活用する観点からは、脂環式構造含有重合体を含む樹脂に含まれる重合体の量が、好ましくは80重量%~100重量%、より詳しくは90重量%~100重量%となるように、その他の成分の量を調整することが好ましい。
【0042】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂は、実質的に粒子を含まないことが好ましい。ここで、実質的に粒子を含まないとは、脂環式構造含有重合体を含む樹脂に粒子を含ませても、粒子を全く含まない状態からの基材層のヘイズの上昇幅が0.05%以下の範囲である量までは許容できることを意味する。
【0043】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層は、その製法によって特に制限されない。例えば、脂環式構造含有重合体を含む樹脂からなる基材層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を公知のフィルム成形法で成形することによって得られる。フィルム成形法としては、例えば、キャスト成形法、押出成形法、及びインフレーション成形法が挙げられる。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法が、残留揮発成分量を効率よく低減させることができ、地球環境や作業環境の観点、及び製造効率に優れる観点から好ましい。溶融押出法としては、例えばダイスを用いるインフレーション法が挙げられ、中でも生産性や厚み精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
【0044】
基材層は、上に述べた方法で得られた等方なフィルムをさらに延伸することにより得られる層であってもよい。延伸の具体的な条件は、最終的な製品としての複層フィルムの光学的特性を所望のものとしうるよう適宜選択しうる。延伸の方向は、例えば、縦延伸(フィルム長手方向への延伸)、横延伸(フィルム幅方向への延伸)、斜め延伸(フィルム斜め方向への延伸)、及びこれらの組み合わせとしうる。特に、基材層として斜め延伸されたフィルムを採用し、さらに縦延伸を行うことにより、光学的に有用な特性を有する長尺の複層フィルムを、容易に製造することができる。したがって、基材層は、斜め延伸フィルムであることが好ましい。
【0045】
複層フィルムが長尺である場合、すなわち、基材層が長尺である場合、基材層は、配向角(基材層の遅相軸が、基材層の幅方向に対してなす角度)が、好ましくは0°より大きく、より好ましくは15°より大きく、更に好ましくは17°より大きく、特に好ましくは20°より大きく、また、好ましくは90°未満、より好ましくは50°未満、更に好ましくは49°未満、特に好ましくは48°未満である。基材層の配向角が前記範囲にある長尺の複層フィルムを更に延伸(好ましくは縦延伸)することにより、得られる長尺の延伸された複層フィルムが、好ましい光学特性を備えうる。
【0046】
基材層は、位相差を有する位相差層であってもよい。例えば、基材層は、λ/4板としての機能を有する位相差層、λ/2板としての機能を有する位相差層でありうる。基材層が位相差層である場合、基材層の面内レターデーションReは、例えば180nm~250nmであってよい。基材層の厚み方向のレターデーションRthは、例えば100nm~150nmであってよい。
【0047】
基材層の厚みは、適宜調整しうる。基材層の厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは95μm以下、更に好ましくは90μm以下である。
【0048】
基材層の表面は、改質処理がされていてもよい。改質処理により、基材層と接着層との密着性を向上させうる。基材層に対する表面改質処理としては、例えば、エネルギー線照射処理及び薬品処理が挙げられる。エネルギー線照射処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理等が挙げられ、処理効率の点等から、コロナ放電処理、プラズマ処理が好ましく、コロナ放電処理が特に好ましい。また、薬品処理としては、例えば、ケン化処理、重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸等の酸化剤水溶液中に浸漬し、その後、水で洗浄する方法が挙げられる。
【0049】
コロナ放電処理の出力は、処理対象面のダメージをできるだけ少なく処理する条件が好ましく、具体的には、好ましくは0.02kW以上、より好ましくは0.04kW以上であり、好ましくは5kW以下、より好ましくは2kW以下である。
【0050】
[1.2.接着層]
接着層は、ポリウレタン(A)とソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)とを含む、未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させた層である。
【0051】
接着層は、基材層の少なくとも一方の表面に接して配置される。したがって、接着層は、通常アンダーコート層などの他の層を介することなく、直接基材層の表面に設けられる。
接着層は、基材層の一方の表面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。基材層の取り扱い性を効果的に改善する観点から、基材層の両面に接着層を設けることが好ましい。
【0052】
(ポリウレタン(A))
ポリウレタンとしては、例えば、(i)1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分と(ii)多価イソシアネート成分とを反応させて得られるポリウレタン;または、上記(i)成分及び(ii)成分をイソシアネート基過剰の条件下で、反応に不活性で水との親和性の大きい有機溶媒中でウレタン化反応させてイソシアネート基含有プレポリマーとし、次いで、該プレポリマーを中和し、鎖延長剤を用いて鎖延長し、水を加えて分散体とすることによって製造されるポリウレタン;などが挙げられる。これらのポリウレタンには酸構造(酸残基)を含有させてもよい。
【0053】
イソシアネート基含有プレポリマーの鎖伸長方法は公知の方法としてもよく、例えば、鎖伸長剤として、水、水溶性ポリアミン、グリコール類などを使用し、イソシアネート基含有プレポリマーと鎖伸長剤とを、必要に応じて触媒の存在下で反応させてもよい。
【0054】
前記(i)成分(すなわち、1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分)としては、特に限定されるものではないが、水酸基性の活性水素を有するものが好ましい。このような化合物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0055】
(1)ポリオール化合物
ポリオール化合物として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサングリコール、2,5-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチルプロパンジオール、1,4-ブタンジオールなどが挙げられる。
【0056】
(2)ポリエーテルポリオール
ポリエーテルポリオールとして、例えば、前記のポリオール化合物のアルキレンオキシド付加物;アルキレンオキシドと環状エーテル(例えばテトラヒドロフランなど)との開環(共)重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコールの共重合体;グリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリオクタメチレングリコールなどのグリコール類;などが挙げられる。
【0057】
(3)ポリエステルポリオール
ポリエステルポリオールとして、例えば、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸又はその無水物と、上記(1)で挙げられたようなエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタメチレンジオール、ネオペンチルグリコールなどのポリオール化合物とを、水酸基過剰の条件で重縮合させて得られたものなどが挙げられる。より具体的には、例えば、エチレングリコール-アジピン酸縮合物、ブタンジオール-アジピン酸縮合物、ヘキサメチレングリコール-アジピン酸縮合物、エチレングリコール-プロピレングリコール-アジピン酸縮合物、或いはグリコールを開始剤としてラクトンを開環重合させたポリラクトンジオールなどが挙げられる。
【0058】
(4)ポリエーテルエステルポリオール
ポリエーテルエステルポリオールとして、例えば、エーテル基含有ポリオール(例えば、前記(2)のポリエーテルポリオールやジエチレングリコール等)または、これと他のグリコールとの混合物を上記(3)で例示したようなジカルボン酸又はその無水物に加えてアルキレンオキシドを反応させてなるものなどが挙げられる。より具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコール-アジピン酸縮合物などが挙げられる。
【0059】
(5)ポリカーボネートポリオール
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、一般式HO-R-(O-C(O)-O-R)x-OH(ただし、式中、Rは炭素原子数1~12の飽和脂肪酸ポリオール残基を示す。また、xは分子の繰り返し単位の数を示し、通常5~50の整数である。)で示される化合物などが挙げられる。これらは、飽和脂肪族ポリオールと置換カーボネート(例えば、炭酸ジエチル、ジフェニルカーボネートなど)とを、水酸基が過剰となる条件で反応させるエステル交換法;前記飽和脂肪族ポリオールとホスゲンとを反応させるか、又は必要に応じて、その後さらに飽和脂肪族ポリオールを反応させる方法;などにより得ることができる。
【0060】
上記の(1)から(5)に例示したような化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
前記(i)成分と反応させる(ii)成分(即ち、多価イソシアネート成分)としては、例えば、1分子中に平均2個以上のイソシアネート基を含有する脂肪族、脂環族又は芳香族の化合物を使用してもよい。
【0062】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数1~12の脂肪族ジイソシアネートが好ましく、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート(HDI)などが挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物としては、炭素原子数4~18の脂環式ジイソシアネートが好ましく、例えば、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)などが挙げられる。芳香族イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0063】
ポリウレタンは、酸構造を有することが好ましい。酸構造を有するポリウレタンは、界面活性剤を使用せずに、若しくは界面活性剤の量が少なくても、水中に分散させることが可能となるので、接着層の耐水性が良くなることが期待される。これを自己乳化型といい、界面活性剤を使用すること無く分子イオン性のみで、水中にポリウレタンが分散安定化しうることを意味する。このようなポリウレタンを用いた接着層は、界面活性剤が不要であるために、脂環式構造含有重合体樹脂との密着性に優れ、かつ高い透明性を維持できるため、好ましい。
【0064】
酸構造としては、例えば、カルボキシル基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)等の酸基などを挙げることができる。また、酸構造は、ポリウレタンにおいて側鎖に存在していてもよく、末端に存在していてもよい。なお、酸構造は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
ポリウレタンの数平均分子量は、好ましくは1,000以上、より好ましくは20,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは200,000以下である。
【0066】
ポリウレタンとしては、水系ウレタン樹脂として市販されているものを用いてもよい。水系ウレタン樹脂とは、ポリウレタンと水とを含む組成物であり、通常、ポリウレタン及び必要に応じて含まれる他の成分が水の中に分散しているものである。水系ウレタン樹脂としては、例えば、ADEKA社製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井化学社製の「オレスター」シリーズ、DIC社製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル社製の「インプラニール」シリーズ、積水ソフランウイズ社製の「ソフランネート」シリーズ、花王社製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業社製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業社製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ社製の「ネオレッツ」シリーズなどを用いることができる。
ポリウレタンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
ポリウレタンは、耐久性と密着性を高度にバランスする観点より、カーボネート構造(「-O-C(=O)-O-」で表される構造)を有することが好ましい。カーボネート構造を有するポリウレタンの例としては、前記(i)1分子中に平均2個以上の活性水素を含有する成分として、前記(5)ポリカーボネートポリオールを用いたポリウレタンが挙げられる。
【0068】
(エポキシ化合物(B))
ソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)は、エポキシ構造を有する、ソルビトールのエーテルである。エポキシ化合物(B)が有するソルビトール骨格は、D-ソルビトールが有する骨格であっても、L-ソルビトールが有する骨格であってもよい。エポキシ化合物(B)の原料の入手が容易であることから、エポキシ化合物(B)が有するソルビトール骨格は、D-ソルビトールが有する骨格であることが好ましい。
好ましくは、エポキシ化合物(B)は、下記式(BD)又は(BL)で表される化合物である。
【0069】
【0070】
式(BD)中、R1~R6は、それぞれ独立して、水素原子又はエポキシ構造を有する置換基を表し、但し、R1~R6の少なくとも一つは、エポキシ構造を有する置換基である。
式(BL)中、R7~R12は、それぞれ独立して、水素原子又はエポキシ構造を有する置換基を表し、但し、R7~R12の少なくとも一つは、エポキシ構造を有する置換基である。
【0071】
エポキシ構造を有する置換基の例としては、オキシラニルアルキル基(例、グリシジル基)、エポキシ基が挙げられ、グリシジル基が好ましい。
【0072】
エポキシ化合物(B)は、例えば、ソルビトールと、エピクロルヒドリンなどの、エポキシ構造を有するハロゲン化合物とを、適当な触媒下で反応させて、エーテル結合を形成することにより製造できる。
【0073】
エポキシ化合物(B)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
エポキシ化合物(B)のエポキシ当量は、好ましくは165g/当量以上、より好ましくは170g/当量以上であり、好ましくは180g/当量以下、より好ましくは178g/当量以下である。エポキシ化合物(B)のエポキシ当量が前記範囲内であることにより、複層フィルムと他の部材との密着性をより向上させることができる。
【0075】
エポキシ化合物(B)として、市販品を用いうる。
例えば、エポキシ化合物(B)として、ナガセケムテックス社製「デナコールEX-614」、「デナコールEX-614B」を用いうる。
【0076】
エポキシ化合物(B)の量は、ポリウレタン100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは2重量部以上、更に好ましくは5重量部以上であり、好ましくは25重量部以下、より好ましくは20重量部以下、更に好ましくは15重量部以下である。エポキシ化合物の量を前記下限値以上とすることによりエポキシ化合物(B)とポリウレタンとの反応が十分に進行するので接着層の機械的強度を適切に向上させることができ、前記上限値以下とすることにより未反応のエポキシ化合物(B)の残留を少なくでき、接着層の機械的強度を適切に向上させることができる。
【0077】
ウレタン樹脂は、前記のポリウレタン(A)及びエポキシ化合物(B)の他に、任意の成分を含みうる。
かかる任意の成分の例としては、一級アミン;二級アミン;三級アミン;含窒素複素環式化合物(例、イミダゾール化合物、イミダゾリン化合物);エポキシ化合物(B)以外の架橋剤(例、水系イソシアネート化合物、水系カルボジイミド化合物、水系オキサゾリン化合物);微粒子(例、シリカなどの無機微粒子、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの有機微粒子);耐熱安定剤;耐候安定剤;レベリング剤;帯電防止剤;スリップ剤;アンチブロッキング剤;防曇剤;滑剤;染料;顔料;天然油;合成油;ワックス;が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0078】
ウレタン樹脂中のかかる任意の成分の合計の量は、ポリウレタン100重量部に対して、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下、更に好ましくは2重量部以下であり、通常0重量部以上であり、0.01重量部以上であってもよい。
【0079】
未硬化状態のウレタン樹脂は、通常、溶剤を含む流体状の形態である。通常、ポリウレタン(A)、エポキシ化合物(B)、及び必要に応じて添加される任意成分を、溶剤に溶解又は分散させて液状の組成物として、当該組成物を接着層材料として用いうる。溶剤としては、水又は水溶性の溶剤が好ましい。
【0080】
水溶性の溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールモノメチルエーテル、及びエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。中でも、溶剤としては、水又は水を含む溶剤が好ましい。なお、溶剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0081】
溶剤の量は、ウレタン樹脂を含む接着層材料の粘度が、塗布に適した範囲になるように設定することが好ましい。
【0082】
接着層の厚みは、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上が更に好ましく、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。接着層の厚みが前記範囲内にあると、基材層と接着層との密着密着性が向上し、かつ、複層フィルムの反りを減少させうる。
【0083】
基材層の厚みt1と接着層の厚みt2との比t2/t1は、0.0005以上が好ましく、0.001以上がより好ましく、0.005以上が特に好ましく、また、0.0500以下が好ましく、0.030以下がより好ましく、0.020以下が特に好ましい。これにより、複層フィルムの透明性を向上させることができる。なお、複層フィルムが基材層を一層だけ備える場合には当該基材層の厚みが厚みt1となり、複層フィルムが基材層を二層以上備える場合にはそれらの基材層の厚みの合計が厚みt1となる。また、複層フィルムが接着層を一層だけ備える場合には当該接着層の厚みが厚みt2となり、複層フィルムが接着層を二層以上備える場合にはそれらの接着層の厚みの合計が厚みt2となる。
【0084】
(接着層の製造方法)
接着層を製造する方法は任意である。好ましくは、接着層は、基材層上(基材層の表面)に、接着層材料の層を形成し、その後、当該接着層材料に含まれるウレタン樹脂を硬化させることにより製造する。接着層材料は、ポリウレタン(A)、エポキシ化合物(B)、及び必要に応じて添加される任意成分を含む未硬化状態のウレタン樹脂を含む。接着層材料は、通常、これらの成分が溶剤に溶解又は分散した組成物であり、例えば、エマルション、コロイド分散系、水溶液などの形態であってよい。
【0085】
通常、基材層の表面に未硬化状態のウレタン樹脂の層を形成する場合には、塗布法によって未硬化状態のウレタン樹脂を含む接着層材料を塗布し、塗膜を形成する。塗布方法は特に限定されず、公知の塗布法を採用してもよい。具体的な塗布法としては、例えば、ワイヤーバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スライドコート法、及びエクストルージョンコート法が挙げられる。
【0086】
未硬化状態のウレタン樹脂を含む塗膜を基材層上に形成した後で、当該塗膜中のウレタン樹脂を硬化させて、本実施形態に係る接着層を得る。
通常、塗膜を形成するための接着層材料は、溶剤を含むので、ウレタン樹脂を硬化させる際には塗膜から溶剤を乾燥させて除去する。乾燥方法は任意であり、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられる。中でも、樹脂中において架橋反応等の反応を速やかに進行させる観点から、加熱乾燥によってウレタン樹脂を硬化させることが好ましい。
【0087】
加熱によりウレタン樹脂を硬化させる場合、加熱温度は、溶剤を乾燥させて未硬化状態のウレタン樹脂を硬化させることができる範囲で適切に設定してよい。ただし、基材層として延伸フィルムを用い、かつ、当該基材層に発現した位相差を変化させたくない場合には、加熱温度は、基材層において配向緩和が生じない温度に設定することが好ましい。具体的には、基材層を形成する材料のガラス転移温度をTgとしたときに、好ましくは(Tg-30℃)以上、より好ましくは(Tg-10℃)以上であり、好ましくは(Tg+60℃)以下、より好ましくは(Tg+50℃)以下である。
【0088】
[1.3.任意の層]
一実施形態において、複層フィルムは、前記の基材層及び接着層の他に、任意の層を含みうる。
例えば、複層フィルムは、接着層の表面に接する熱可塑性樹脂層を更に含み、基材層、接着層、及び熱可塑性樹脂層が、この順で配置されている。
本実施形態の複層フィルムは、前記接着層を備えることによって、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層、接着層、及び熱可塑性樹脂層が、互いに高い密着性を有する。複層フィルムに所望の光学特性を与えるために、複層フィルムを延伸工程を含む方法により製造する場合、一般に、基材層と熱可塑性樹脂層とが剥離しやすい傾向がある。本実施形態の複層フィルムによれば、複層フィルムが延伸工程を含む工程により製造されても、基材層と熱可塑性樹脂層とが剥離するといった密着不良を抑制できる。
【0089】
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層は、熱可塑性樹脂を含み、熱可塑性樹脂で形成された層である。熱可塑性樹脂の例としては、ビニル芳香族化合物の重合体樹脂(例、スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体又はコモノマーとの共重合体を含む、ポリスチレン系樹脂);トリアシルセルロース樹脂等のセルロース系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリフェニレンサルファイドなどのポリアリーレンサルファイド樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリアリールサルホン樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;脂環式構造を有する重合体を含む樹脂;棒状液晶ポリマー;ポリアクリロニトリル樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂;あるいはこれらの多元共重合ポリマーなどを挙げることができる。
スチレン誘導体の例としては、クロロスチレン、フルオロスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ジビニルベンゼンが挙げられる。
ポリスチレン系樹脂に含まれうるコモノマーの例としては、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、及びブタジエンが挙げられ、これらが好ましい。
熱可塑性樹脂は、通常重合体を含み、本発明の効果を著しく損なわない限り、更に任意の成分を含みうる。重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
トリアシルセルロース樹脂におけるアシル基の例としては、アセチル基やプロピオニル基などの脂肪族アシル基、ベンゾイル基などの芳香族アシル基が挙げられる。芳香族アシル基に含まれる芳香族環の例としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。
【0090】
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂;及び、トリアシルセルロース樹脂等のセルロース系樹脂が好ましい。
【0091】
熱可塑性樹脂に含まれうる任意の成分の例としては、脂環式構造含有重合体を含む樹脂に含まれうる任意の成分と同様の成分が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0092】
熱可塑性樹脂は、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤の例としては、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、およびエポキシ誘導体が挙げられる。可塑剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。可塑剤の中でも、入手が容易であり、安価であることから、リン酸エステルが好ましい。
【0093】
熱可塑性樹脂層は、いわゆるネガティブAプレートであることが好ましい。ここで、ネガティブAプレートとは、nx、xy、及びnzが、下式の関係にある層を意味する。
nz≒nx>ny
【0094】
ここで、nz≒nxの関係とは、|nz-nx|の値が、0であるか、0に近いことを意味する。|nz-nx|の値は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.03以下であり、通常0以上であり、0であってもよい。
【0095】
熱可塑性樹脂層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。
【0096】
[1.4.複層フィルムの用途]
本開示の複層フィルムによれば、基材層と他の部材とを、接着層を介して高い密着性で積層できる。例えば、複層フィルムを、他の部材として、位相差層、偏光フィルムなどの光学要素と組み合わせることにより、剥がれが少なく、耐久性に優れた、円偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムなどの光学要素を製造できる。
【0097】
[2.複層フィルムの製造方法]
複層フィルムは、任意の方法により製造できる。例えば、複層フィルムは、工程(i)を含む方法により製造できる。例えば、複層フィルムが、任意の層として熱可塑性樹脂層を更に含み、基材層、接着層、及び熱可塑性樹脂層がこの順で配置されている複層フィルムである場合は、工程(i)~(iii)を含む製造方法により製造できる。以下、工程(i)~(iii)について説明する。
【0098】
[2.1.工程(i)]
工程(i)では、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を含む基材層上に、ポリウレタン(A)とソルビトール骨格を有するエポキシ化合物(B)とを含むウレタン樹脂を含む接着層材料を塗布して硬化させ、接着層を形成する。
【0099】
本工程において、接着層材料の塗膜を形成し、硬化させるために、例えば、前記(接着層の製造方法)の項において例示した、塗布法及び乾燥方法を用いうる。
【0100】
[2.2.工程(ii)]
工程(ii)では、前記接着層上に、熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層材料を塗布して熱可塑性樹脂層を形成し、未延伸複層フィルムを得る。
熱可塑性樹脂層材料は、熱可塑性樹脂に加えて、溶剤を含んでいてもよい。溶剤の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、3-メチル-2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロヘキサノン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、2-ペンタノン、及びN,N-ジメチルホルムアミドが挙げられる。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
熱可塑性樹脂層材料が、溶剤を含む場合、通常、熱可塑性樹脂材料を接着層上に塗布して熱可塑性樹脂を含む塗膜を形成した後、塗膜から溶剤を乾燥させて除去することにより、熱可塑性樹脂層が形成される。乾燥方法は任意であり、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥が挙げられる。
基材層として延伸フィルムを用い、かつ、当該基材層に発現した位相差を変化させたくない場合には、加熱乾燥の際の加熱温度は、基材層において配向緩和が生じない温度に設定することが好ましい。例えば、加熱温度は、接着層の製造方法において例示した好ましい範囲と同様としうる。
【0101】
[2.3.工程(iii)]
工程(iii)では、前記未延伸複層フィルムを延伸して複層フィルムを得る。延伸方法としては、任意の方法を用いうる。例えば、未延伸複層フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、未延伸複層フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;未延伸複層フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、未延伸複層フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;及び、未延伸複層フィルムを斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);が挙げられる。
【0102】
一実施形態では、工程(iii)において、未延伸複層フィルムを縦一軸延伸することが好ましい。
【0103】
工程(iii)における延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは3倍以下、より好ましくは2.5倍以下である。本開示の複層フィルムは、高い密着性を有するので、工程(iii)において比較的高い延伸倍率で延伸を行っても、基材層と熱可塑性樹脂層とが剥離しにくい。
【0104】
[2.4.任意の工程]
工程(i)の後に、接着層の表面に親水化表面処理を施してもよい。親水化表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケン化処理、紫外線照射処理などが挙げられる。中でも、処理効率の点などからコロナ放電処理及びプラズマ処理が好ましく、コロナ放電処理がより好ましい。また、プラズマ処理としては、大気圧プラズマ処理が好ましい。
【実施例0105】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0106】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0107】
[評価方法]
(密着性の評価方法)
密着性の評価方法として、JIS K5600-5-6で定められたクロスカット試験を行った。
複層フィルムが備える、熱可塑性樹脂層及び接着層に、1mm間隔で10mm×10mmの範囲に切り込みを入れ、1mm角の正方形を100個作成した。この熱可塑性樹脂層の表面に、セロハンテープを貼り付けて、セロハンテープを剥離した。剥がれずに複層フィルムの基材層に残った正方形の数を計測した。
【0108】
(層の厚み)
複層フィルムにおける層の厚みについて、フィルメトリクス社の反射分光式膜厚測定システム「F20」を用いて測定を行った。
【0109】
(層のRe、nx、ny、及びnz)
複層フィルムを、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)のステージに設置した。そして、複層フィルムを透過する偏光の、透過する前後での偏光状態の変化を、複層フィルムの透過偏光特性として測定した。前記の測定の測定波長は、590nmであった。
前記のように測定した透過偏光特性から、フィッティング計算をすることで、層のRe、nx、ny、及びnzを求めた。前記のフィッティング計算には、前記の位相差計(AxoScan)の付属ソフト(Axometrics社製「Multi-Layer Analysis」)を使用した。
【0110】
[実施例1]
(1-1.基材層としての基材フィルム(a)の製造)
ペレット状のノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製;ガラス転移温度126℃)を100℃で5時間乾燥した。乾燥した樹脂を、押出機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押し出し、押出成形を行った。成形された樹脂を冷却し、厚み70μmの長尺の延伸前フィルムを得た。得られた延伸前フィルムはロールに巻き取って回収した。
【0111】
延伸前フィルムをロールから引き出して、テンター延伸機に連続的に供給した。そして、このテンター延伸機によって、延伸前フィルムを、当該延伸前フィルムの幅方向に対して45°の角度をなす延伸方向に、延伸温度135℃、延伸倍率1.5倍で延伸して、基材フィルム(a)としての長尺の斜め延伸フィルムを得た。得られた斜め延伸フィルムの配向角は45°、面内レターデーションReは215nmであった。得られた斜め延伸フィルムの厚みは、47μmであった。得られた斜め延伸フィルムはロールに巻き取って回収した。
【0112】
(1-2.工程(i):接着層の形成)
カーボネート系ウレタン樹脂として、スーパーフレックス460(第一工業製薬社製)24部を使用し、ここに架橋剤として、エポキシ化合物であるデナコールEX-614B(ナガセケムテックス社製、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量173g/eq.)0.9部(スーパーフレックス460中のポリウレタン100部に対して10部)と、水75部とを配合して、未硬化状態のウレタン樹脂として固形分10%の液状の水系樹脂を得た。この水系樹脂を、接着層材料として用いた。
デナコールEX-614の化学構造を以下に示す。
【0113】
【0114】
(1-1)で得た斜め延伸フィルムをロールから引き出して、片面にコロナ処理を実施した。コロナ処理は、ライン速度10m/min、窒素雰囲気下、出力1.5kWの条件で実施した。その後コロナ処理面に、フィルムの搬送方向と逆向きに回転するリバースグラビアを用いて、接着層材料を塗布した。塗布された接着層材料を120℃で乾燥させた。乾燥の際、接着層材料の架橋が進行して、接着層が形成された。これにより、(基材フィルム(a))/(接着層)の層構成を有する長尺の複層フィルム(I)を得た。得られた積層フィルム(I)上の接着層の厚みは、0.5μmであった。したがって、積層フィルム(I)における、接着層の厚みt2(0.5μm)の、基材層の厚みt1(47μm)に対する比(t2/t1)は、0.0106であった。
【0115】
(1-3.工程(ii):複層フィルム(II)の製造)
固有複屈折率が負の樹脂としてスチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂(ノヴァ・ケミカル社製「Daylark D332」)を用意した。また、メチルエチルケトン及びイソブチルケトンの混合溶媒(重量比8:2)を準備した。
スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂100部を混合溶媒に溶かし、さらに可塑剤としてリン酸トリフェニルを5部添加して、固形分濃度12.5重量%の熱可塑性樹脂層材料(b)を得た。
【0116】
熱可塑性樹脂層材料(b)を、(1-2)で得た複層フィルム(I)に、ダイコーティングによって塗布した。塗布は、複層フィルム(I)の、接着層側の面に行った。
【0117】
塗布された熱可塑性樹脂層材料(b)を、120℃で乾燥させて、熱可塑性樹脂層(B-II)を形成した。これにより、複層フィルム(II)を得た。複層フィルム(II)は、基材フィルム(a)からなる基材層(A-II)と、接着層と、熱可塑性樹脂層(B-II)とをこの順に備えるフィルムであった。得られた複層フィルム(II)は、ロールに巻き取って回収した。得られた積層フィルム(II)上の熱可塑性樹脂層(B-II)の厚みは、8μmであった。
【0118】
得られた複層フィルム(II)について、基材層-接着層-熱可塑性樹脂層の密着性を測定した。その結果、(基材層から剥がれずに残った正方形の数)/(作成した正方形の数)は100/100であり、剥離は見られなかった。これにより、基材層と接着層との密着性、及び接着層と熱可塑性樹脂層との密着性が高いことが示された。
【0119】
(1-4.工程(iii):複層フィルム(III)の製造)
(1-3)で得た複層フィルム(II)をロールから引き出して、縦延伸機に連続的に供給した。そして、この縦延伸機によって、複層フィルム(II)に対し、当該複層フィルムの長手方向に、延伸温度127℃、延伸倍率1.4倍で自由一軸延伸を行った。これにより、複層フィルム(II)を延伸して、複層フィルム(III)を得た。複層フィルム(III)は、基材層(A-III)と、延伸された接着層と、熱可塑性樹脂層(B-III)とをこの順に有するフィルムであった。基材層(A-III)及び熱可塑性樹脂層(B-III)は、それぞれ、基材層(A-II)及び熱可塑性樹脂層(B-II)の延伸の結果得られた層である。得られた熱可塑性樹脂層(B-III)のRe=(nx-ny)×dは115nm、|nz-nx|は0.0000であった。したがって、熱可塑性樹脂層(B-III)はいわゆるネガティブAプレートであることが確認された。
【0120】
得られた複層フィルム(III)について、基材層-接着層-熱可塑性樹脂層の密着性を測定した。その結果、(基材層から剥がれずに残った正方形の数)/(作成した正方形の数)は100/100であり、剥離は見られなかった。これにより、延伸された複層フィルム(III)についても、基材層と接着層との密着性、及び接着層と熱可塑性樹脂層との密着性が高いことが示された。
【0121】
[比較例1]
(1-2.工程(i):接着層の形成)において、架橋剤として、デナコールEX-614Bの代わりにデナコールEX-521(ナガセケムテックス社製、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、エポキシ当量183g/eq.)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、複層フィルム(II)、次いで複層フィルム(III)を得た。得られた複層フィルム(II)について、密着性を測定した。その結果、(基材層から剥がれずに残った正方形の数)/(作成した正方形の数)は20/100であった。
また、得られた積層フィルム(III)について、密着性を測定した。その結果、(基材層から剥がれずに残った正方形の数)/(作成した正方形の数)は0/100であった。
【0122】
[比較例2]
(1-2.工程(i):接着層の形成)において、架橋剤として、デナコールEX-614Bの代わりにエポクロスWS-500(日本触媒社製 オキサゾリン基含有ポリマー)を使用した。それ以外は、実施例1と同様にして、複層フィルム(II)、次いで複層フィルム(III)を得た。得られた複層フィルム(II)について、密着性を測定した。その結果、(基材層から剥がれずに残った正方形の数)/(作成した正方形の数)は50/100であった。
また、得られた積層フィルム(III)について、密着性を測定した。その結果、(基材層から剥がれずに残った正方形の数)/(作成した正方形の数)は20/100であった。
【0123】
結果を下表に示す。
下表において、略号は以下の意味を表す。
「EX-614B」:デナコールEX-614B(ソルビトールポリグリシジルエーテル)
「EX-521」:デナコールEX-521(ポリグリセロールポリグリシジルエーテル)
「WS-500」:エポクロスWS-500(オキサゾリン基含有ポリマー)
「密着性」:密着性評価結果は、(基材層から剥がれずに残った正方形の数)/(作成した正方形の数)として示されている。基材から剥がれずに残った正方形の数が大きいほど、密着性が高い。
【0124】
【0125】
以上の結果より、以下の事項が分かる。
接着層が、架橋剤としてエポキシ化合物(B)を含むウレタン樹脂を硬化させた層である実施例1の複層フィルムは、密着性の評価が高い。
一方、接着層がエポキシ化合物(B)を含まないウレタン樹脂を硬化させた層である、比較例1及び2の複層フィルムは、密着性の評価が低い。