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特開2022-73176酸素濃度予測システムおよび酸素濃度制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022073176
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】酸素濃度予測システムおよび酸素濃度制御システム
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20220510BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020182992
(22)【出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100193378
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 明生
(72)【発明者】
【氏名】永井 勇太
(72)【発明者】
【氏名】沓掛 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】番場 博則
(72)【発明者】
【氏名】堀川 智之
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EB01
4G077EB06
4G077EH05
4G077GA01
4G077PF52
(57)【要約】
【課題】シリコンインゴットの酸素濃度の制御精度を向上させること。
【解決手段】酸素濃度予測システムは、結晶成長中に操作することが可能な制御パラメータ群と、結晶成長開始前に値が判明している固定パラメータ群と、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群と、シリコンインゴットの酸素濃度との組で構成される製造実績データを備え、製造実績データのうちから選択された参照データの制御パラメータ群、固定パラメータ群、およびモニターパラメータ群と、目標シリコンインゴットに対する制御パラメータ群および固定パラメータ群とを用いて、目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する酸素濃度予測システムであって、
結晶成長中に操作することが可能な制御パラメータ群と、結晶成長開始前に値が判明している固定パラメータ群と、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群と、シリコンインゴットの酸素濃度との組で構成される製造実績データと、
前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群を入力して酸素濃度を出力する第一予測モデルと、
前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群を入力して酸素濃度を出力する第二予測モデルと、
前記製造実績データのうちから参照データを選択し、前記参照データの前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群を前記第一予測モデルに入力して第一酸素濃度予測値を予測する第一予測手段と、
前記参照データの前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群を前記第二予測モデルに入力して第二酸素濃度予測値を予測する第二予測手段と、
前記目標シリコンインゴットのための制御パラメータ群および固定パラメータ群を前記第三予測モデルに入力して第三酸素濃度予測値を予測する第三予測手段と、
前記第一酸素濃度予測値と前記第二酸素濃度予測値との差を用いて前記第三酸素濃度予測値を補正し、前記補正後の第三酸素濃度予測値を前記目標シリコンインゴットの酸素濃度とする補正手段と、
を備える酸素濃度予測システム。
【請求項2】
前記第一予測モデルは、前記製造実績データにおける前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群の3つのパラメータ群と前記3つのパラメータ群を用いて製造されたシリコンインゴットの酸素濃度とを教師データとして用いて学習されており、
前記第二予測モデルは、前記製造実績データにおける前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群の2つのパラメータ群と前記2つのパラメータ群を用いて製造されたシリコンインゴットの酸素濃度とを教師データとして用いて学習されている、
請求項1に記載の酸素濃度予測システム。
【請求項3】
目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する酸素濃度予測システムであって、
結晶成長中に操作することが可能な制御パラメータ群と、結晶成長開始前に値が判明している固定パラメータ群と、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群と、シリコンインゴットの酸素濃度との組で構成される製造実績データと、
第一の制御パラメータ群と、第一の固定パラメータ群、第一のモニターパラメータ群と、第二の制御パラメータ群と、第二の固定パラメータ群とを入力して酸素濃度を出力する第三予測モデルと、
前記製造実績データのうちから参照データを選択し、前記参照データの制御パラメータ群を前記第一の制御パラメータ群とし、前記参照データの固定パラメータ群を前記第一の固定パラメータ群とし、前記参照データのモニターパラメータ群を前記第一のモニターパラメータ群とし、前記目標シリコンインゴットのための制御パラメータ群を前記第二の制御パラメータ群とし、前記目標シリコンインゴットのための固定パラメータ群を前記第二の固定パラメータ群として、前記第三予測モデルに入力して前記目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する第四予測手段と、
を備える酸素濃度予測システム。
【請求項4】
前記第三予測モデルは、前記製造実績データにおける第一シリコンインゴットを選択し、前記第一シリコンインゴットに対して第二シリコンインゴットを選択し、前記第一シリコンインゴットにおける前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群と、前記第二シリコンインゴットにおける前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群と、前記第二シリコンインゴットにおける酸素濃度とを組み合わせた教師データを用いて学習されている、請求項3に記載の酸素濃度予測システム。
【請求項5】
前記教師データは、複数の第二シリコンインゴットに対して共通している第一シリコンインゴットの組み合わせに関するデータセットを含む、請求項4に記載の酸素濃度予測システム。
【請求項6】
前記参照データは、前記目標シリコンインゴットの製造条件に近いシリコンインゴットにおける製造実績データを選択する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の酸素濃度予測システム。
【請求項7】
前記制御パラメータ群は、ルツボ回転数、磁場強度、および炉内圧を含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の酸素濃度予測システム。
【請求項8】
前記固定パラメータ群は、ヒーター使用回数、ルツボ使用回数、および石英ルツボの肉厚を含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の酸素濃度予測システム。
【請求項9】
前記モニターパラメータ群は、結晶直径、クラウン部の形状、総通電時間、積算電力量、および炉内各箇所の温度測定値を含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の酸素濃度予測システム。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の酸素濃度予測システムと、
前記酸素濃度予測システムが予測する前記目標シリコンインゴットの酸素濃度が所定の範囲内になるように前記制御パラメータ群を制御する単結晶引き上げ装置と、
を備える酸素濃度制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素濃度予測システムおよび酸素濃度制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(以下、CZ法)は、半導体デバイス用のシリコン単結晶(いわゆるシリコンインゴット)の代表的な製造方法である。このCZ法によるシリコンインゴットの育成では、石英ルツボからシリコン融液に不可避的に酸素が溶け込み、その結果としてシリコンインゴットに酸素が混入する。シリコンインゴット中の酸素は、半導体デバイス製造時の熱処理プロセス等により酸素析出物が形成されるとデバイス特性に影響を与えるため、各デバイスメーカーによって酸素濃度の様々な要求仕様がある。
【0003】
しかしながら、シリコンインゴット中の酸素濃度をインゴット全長で精度よく予測し、自在に制御することは現時点においても非常に難しい技術である。CZ法のシリコンインゴットの育成では、石英ルツボとシリコン融液の接触界面から酸素が溶解され、溶解された酸素がシリコン融液の熱対流(自然対流、強制対流)の挙動に応じて融液内で搬送される。近年の大口径のシリコンインゴットにおいては、融液の対流を精密に制御するために融液に磁界を印加する引上方法が主流であり、磁場の種類や磁場強度、残融液量などによって融液内の酸素の挙動は大きく影響を受けることが知られている。
【0004】
また、自由表面においては、融液からの酸素の蒸発が非常に活発に生じており、自由表面におけるアルゴン(Ar)ガスの流速の条件によって、融液内(特に自由表面近傍)の酸素濃度は大きく影響を受けることも分かっている。つまり、結晶に取り込まれる酸素濃度は、石英ルツボから融液への溶解、対流による融液内の輸送、自由表面からの蒸発等、非常に多くの因子が複雑に作用しあうことで決定されるといえる。また、実際の製造現場では、使用部材の経時変化やロット間での炉内部材のセッティングバラツキに起因する炉内環境のバラツキ、部材間のバラツキ、装置毎の機差、オペレーターによる調整バラツキなど様々な要因による製造バラツキが生じており、毎ロット同じ操業条件で育成したとしても、同じプロファイルの酸素濃度のシリコンインゴットが得られるとは限らないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-262593号公報
【特許文献2】特開平10-291891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シリコンインゴットにおける酸素濃度は以下の手順で測定されている。
【0007】
(1)単結晶引上終了後、単結晶インゴットの指定部位から評価サンプルを切断する。
(2)評価サンプルを研磨、エッチング、洗浄する。
(3)評価サンプルをフーリエ変換型赤外分光法(FT-IR)で測定する。
【0008】
このように、シリコンインゴットの引上完了後から、酸素濃度の測定までにはタイムラグがある。このことは、実際に測定された酸素濃度を、その後のシリコンインゴットの製造工程の制御に反映するまでに時間を要することである。当然ながら、このタイムラグは酸素濃度の制御精度にも大きく影響することになる。
【0009】
そこで、シリコンインゴットからサンプルを取得して酸素濃度を直接測定するのではなく、製造条件から酸素濃度を予測する手法が各種提案されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。しかしながら、上記したようにシリコンインゴットにおける酸素濃度に影響を与える要素は多岐にわたり、十分に高い精度で酸素濃度を予測することは依然として容易ではない。特に、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータを今から製造するシリコンインゴットの酸素濃度の予測に用いることは困難であり、今から製造するシリコンインゴットに対する制御パラメータ群を決定するのを困難にしている。
【0010】
本発明の目的は、シリコンインゴットの酸素濃度の制御精度を向上させる酸素濃度予測システムおよび酸素濃度制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様の酸素濃度予測システムは、目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する酸素濃度予測システムであって、結晶成長中に操作することが可能な制御パラメータ群と、結晶成長開始前に値が判明している固定パラメータ群と、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群と、シリコンインゴットの酸素濃度との組で構成される製造実績データと、前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群を入力して酸素濃度を出力する第一予測モデルと、前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群を入力して酸素濃度を出力する第二予測モデルと、前記製造実績データのうちから参照データを選択し、前記参照データの前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群を前記第一予測モデルに入力して第一酸素濃度予測値を予測する第一予測手段と、前記参照データの前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群を前記第二予測モデルに入力して第二酸素濃度予測値を予測する第二予測手段と、前記目標シリコンインゴットのための制御パラメータ群および固定パラメータ群を前記第三予測モデルに入力して第三酸素濃度予測値を予測する第三予測手段と、前記第一酸素濃度予測値と前記第二酸素濃度予測値との差を用いて前記第三酸素濃度予測値を補正し、前記補正後の第三酸素濃度予測値を前記目標シリコンインゴットの酸素濃度とする補正手段と、を備える。
【0012】
このように、本発明の一態様の酸素濃度予測システムは、目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する際に、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群を用いることはないが、モニターパラメータ群を含む参照データを用いた第一酸素濃度予測値とモニターパラメータ群を含まない参照データを用いた第二酸素濃度予測値とを用いて補正することで、目標シリコンインゴットの酸素濃度の予測精度を向上させる。
【0013】
また、本発明の一態様の酸素濃度予測システムにおける前記第一予測モデルは、前記製造実績データにおける前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群の3つのパラメータ群と前記3つのパラメータ群を用いて製造されたシリコンインゴットの酸素濃度とを教師データとして用いて学習されており、前記第二予測モデルは、前記製造実績データにおける前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群の2つのパラメータ群と前記2つのパラメータ群を用いて製造されたシリコンインゴットの酸素濃度とを教師データとして用いて学習されている。本発明の一態様の酸素濃度予測システムは、第一予測モデルと第二予測モデルを用いており、それぞれを事前に教師データを用いて学習する。
【0014】
また、本発明の一態様の酸素濃度予測システムは、目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する酸素濃度予測システムであって、結晶成長中に操作することが可能な制御パラメータ群と、結晶成長開始前に値が判明している固定パラメータ群と、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群と、シリコンインゴットの酸素濃度との組で構成される製造実績データと、第一の制御パラメータ群と、第一の固定パラメータ群、第一のモニターパラメータ群と、第二の制御パラメータ群と、第二の固定パラメータ群とを入力して酸素濃度を出力する第三予測モデルと、前記製造実績データのうちから参照データを選択し、前記参照データの制御パラメータ群を前記第一の制御パラメータ群とし、前記参照データの固定パラメータ群を前記第一の固定パラメータ群とし、前記参照データのモニターパラメータ群を前記第一のモニターパラメータ群とし、前記目標シリコンインゴットのための制御パラメータ群を前記第二の制御パラメータ群とし、前記目標シリコンインゴットのための固定パラメータ群を前記第二の固定パラメータ群として、前記第三予測モデルに入力して前記目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する第四予測手段と、を備える。
【0015】
このように、本発明の一態様の酸素濃度予測システムは、目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する際に、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群を用いることはないが、モニターパラメータ群を含む参照データを用いて予測を行うことで、目標シリコンインゴットの酸素濃度の予測精度を向上させる。
【0016】
また、本発明の一態様の酸素濃度予測システムにおける前記第三予測モデルは、前記製造実績データにおける第一シリコンインゴットを選択し、前記第一シリコンインゴットに対して第二シリコンインゴットを選択し、前記第一シリコンインゴットにおける前記制御パラメータ群、前記固定パラメータ群、および前記モニターパラメータ群と、前記第二シリコンインゴットにおける前記制御パラメータ群および前記固定パラメータ群と、前記第二シリコンインゴットにおける酸素濃度とを組み合わせた教師データを用いて学習されている。本発明の一態様の酸素濃度予測システムにおける前記第三予測モデルは、モニターパラメータ群を含む参照データとモニターパラメータ群を含まない周辺データを組み合わせた教師データを用いて学習されている。
【0017】
さらに、前記教師データは、複数の第二シリコンインゴットに対して共通している第一シリコンインゴットの組み合わせに関するデータセットを含むことが好ましい。モニターパラメータ群を用いる予測からモニターパラメータ群を用いない予測の摂動の影響を学習するためである。
【0018】
前記参照データは、前記目標シリコンインゴットの製造条件に近いシリコンインゴットにおける製造実績データを選択することが好ましい。目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する際に有益なモニターパラメータ群を含むと考えられるからである。
【0019】
なお、前記制御パラメータ群は、ルツボ回転数、磁場強度、および炉内圧を含むことが好ましい。また、固定パラメータ群は、ヒーター使用回数、ルツボ使用回数、および石英ルツボの肉厚を含むことが好ましい。モニターパラメータ群は、結晶直径、クラウン部の形状、総通電時間、積算電力量、および炉内各箇所の温度測定値を含むことが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の一態様の酸素濃度制御システムは、上記記載の酸素濃度予測システムと、前記酸素濃度予測システムが予測する前記目標シリコンインゴットの酸素濃度が所定の範囲内になるように前記制御パラメータ群を制御する単結晶引き上げ装置とを備える。
【0021】
上記記載の酸素濃度予測システムは、目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する際に、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群を用いることはないので、制御パラメータ群を調整することで目標シリコンインゴットの酸素濃度を所定の範囲内にすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、シリコンインゴットの酸素濃度の制御精度を向上させる酸素濃度予測システムおよび酸素濃度制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、酸素濃度制御システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、第一予測モデルにおけるニューラルネットワークの概略構成を示す図である。
図3図3は、第二予測モデルにおけるニューラルネットワークの概略構成を示す図である。
図4図4は、第一予測モデルにおける学習について説明する図である。
図5図5は、第二予測モデルにおける学習について説明する図である。
図6図6は、酸素濃度予測システムにおける予測方法について説明する図である。
図7図7は、第三予測モデルにおけるニューラルネットワークの概略構成を示す図である。
図8図8は、第三予測モデルにおける学習について説明する図である。
図9図9は、酸素濃度予測システムにおける予測方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0025】
〔酸素濃度制御システム〕
図1は、本発明の実施形態に係る酸素濃度制御システムの概略構成を示す図である。図に示すように、酸素濃度制御システム100は、酸素濃度予測システム10と単結晶引き上げ装置20とを備える。
【0026】
単結晶引き上げ装置20は、CZ法を用いてシリコンインゴットSを製造する装置である。単結晶引き上げ装置20は、チャンバ炉21とヒーター22とルツボ23とモーター24とを備える。単結晶引き上げ装置20は、ルツボ23内のシリコン融液を結晶化しながらモーター24で引き上げることで、シリコンの単結晶からなるシリコンインゴットSを製造する。なお、先述のように、近年の大口径のシリコンインゴットにおいては、融液の対流を精密に制御するために融液に磁界を印加するのが一般的である。
【0027】
単結晶引き上げ装置20は、各種のセンサーが設けられており、各シリコンインゴットSの製造ごとに、製造実績データDが取得される。製造実績データDは、制御パラメータ群と固定パラメータ群とモニターパラメータ群の3種類のパラメータ群とに大きく分けられる。また、製造実績データDは、当該3種類のパラメータ群で製造されたシリコンインゴットSにおける酸素濃度の測定値を含む。
【0028】
制御パラメータ群は、結晶成長中に操作することが可能なパラメータ群であり、例えば、ルツボ回転数、磁場強度、および炉内圧を含む。固定パラメータ群は、結晶成長開始前に値が判明しているパラメータ群であり、例えば、ヒーター使用回数、ルツボ使用回数、および石英ルツボの肉厚を含む。モニターパラメータ群は、結晶成長時の炉内状況を反映したパラメータ群であり、例えば、結晶直径、クラウン部の形状、総通電時間、積算電力量、および炉内各箇所の温度測定値を含む。
【0029】
一方、酸素濃度予測システム10は、目標シリコンインゴットのための制御パラメータ群と固定パラメータ群とを入力して、製造される目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測するシステムである。
【0030】
酸素濃度予測システム10は、目標シリコンインゴットSの酸素濃度を予測するために、製造実績データDを参照する。目標シリコンインゴットSの酸素濃度を予測するために参照するデータは、目標シリコンインゴットに特性および製造条件が近いシリコンインゴット(参照インゴット)の製造実績データである。なお、参照データは、結晶成長中に操作することが可能な制御パラメータ群、結晶成長開始前に値が判明している固定パラメータ群、および結晶成長時の炉内状況を反映した値であるモニターパラメータ群を含む。
【0031】
また、酸素濃度予測システム10は、ニューラルネットワークを備え、当該ニューラルネットワークは、製造実績データDを用いて学習されている。なお、酸素濃度予測システム10における予測および学習の方法は後に詳述する。
【0032】
上記のような酸素濃度予測システム10と単結晶引き上げ装置20とを備える酸素濃度制御システム100は、酸素濃度予測システム10が予測する目標シリコンインゴットSの酸素濃度が所定の範囲内になるように制御パラメータ群を制御する。すなわち、酸素濃度予測システム10が予測する目標シリコンインゴットSの酸素濃度が所定の範囲内である場合、酸素濃度予測システム10に入力した制御パラメータ群を用いて目標シリコンインゴットSを製造する。一方、予測する目標シリコンインゴットSの酸素濃度が所定の範囲外である場合、制御パラメータ群を調整し、調整後の制御パラメータ群を用いて酸素濃度を再度予測する。そして、予測する目標シリコンインゴットSの酸素濃度が所定の範囲内となるまで、制御パラメータ群の調整を繰り返す。
【0033】
このように、酸素濃度制御システム100は、酸素濃度予測システム10と単結晶引き上げ装置20とを備え、酸素濃度予測システム10が予測する目標シリコンインゴットSの酸素濃度が所定の範囲内になるように制御パラメータ群を制御することで、目標シリコンインゴットSの酸素濃度の制御精度を向上させる。従来は、結晶成長時の炉内状況を反映したモニターパラメータ群を目標シリコンインゴットSの酸素濃度の予測に用いることは困難であったが、酸素濃度制御システム100は、参照データのモニターパラメータ群を参照することで、結晶成長中に操作することが可能な制御パラメータ群を調整するだけで、目標シリコンインゴットSの酸素濃度が所定の範囲内となるように制御することができる。
【0034】
〔第一実施形態に係る酸素濃度予測システム〕
第一実施形態に係る酸素濃度予測システムは、ニューラルネットワークを備える人工知能の技術で構成される。第一実施形態に係る酸素濃度予測システムは、第一予測モデルと第二予測モデルとを含み、図2は、第一予測モデルにおけるニューラルネットワークの概略構成を示す図であり、図3は、第二予測モデルにおけるニューラルネットワークの概略構成を示す図である。
【0035】
図2に示すように、第一予測モデルにおけるニューラルネットワーク11は、制御パラメータ群、固定パラメータ群、およびモニターパラメータ群を入力して、シリコンインゴットの酸素濃度を出力するものである。なお、図2に示すニューラルネットワーク11は、入力層に3つのノードを有するものとして図示しているが、制御パラメータ群、固定パラメータ群、およびモニターパラメータ群は、それぞれが複数のパラメータを含むものであり、入力層のノードの個数は、これら複数のパラメータの入力に対応した数を有している。また、中間層におけるノードの構成も便宜的に省略して記載したものであり、実際のノードの構成を示すものではない。
【0036】
図3に示すように、第二予測モデルにおけるニューラルネットワーク12は、制御パラメータ群および固定パラメータ群を入力して、シリコンインゴットの酸素濃度を出力するものである。同様に、図2に示すニューラルネットワーク12におけるノードの構成は便宜的に省略したものであり、実際のノードの構成を示すものではない。
【0037】
(学習フェーズ)
図4は、第一予測モデルにおける学習について説明する図であり、図5は、第二予測モデルにおける学習について説明する図である。
【0038】
図4に示すように、第一予測モデルは、製造実績データにおける制御パラメータ群、固定パラメータ群、およびモニターパラメータ群の当該3つのパラメータ群と3つのパラメータ群を用いて製造されたシリコンインゴットの酸素濃度とを教師データT1として用いて学習されている。
【0039】
例えば、インゴットIDがXの製造実績データを用いて学習する場合、第一予測モデルにおけるニューラルネットワーク11の入力層に、制御パラメータ群:a、固定パラメータ群:b、およびモニターパラメータ群:cを入力し、出力層から出力された値と酸素濃度:dとの差を評価する。このような評価を製造実績データに記録されている教師データT1のすべてに対して行い。出力層から出力された値と酸素濃度:dとの差が最小になるように最適化を行う。
【0040】
一方、図5に示すように、第二予測モデルは、製造実績データにおける制御パラメータ群および固定パラメータ群の2つのパラメータ群と当該2つのパラメータ群を用いて製造されたシリコンインゴットの酸素濃度とを教師データT1として用いて学習する。
【0041】
例えば、インゴットIDがXの製造実績データを用いて学習する場合、第二予測モデルにおけるニューラルネットワーク12の入力層に、制御パラメータ群:aおよび固定パラメータ群:bを入力し、出力層から出力された値と酸素濃度:dとの差を評価する。このような評価を製造実績データに記録されている教師データT1のすべてに対して行い。出力層から出力された値と酸素濃度:dとの差が最小になるように最適化を行う。
【0042】
ここで注意すべきは、第一予測モデルの学習には、モニターパラメータ群を用いるが、第二予測モデルの学習には、モニターパラメータ群を用いないということである。つまり、第一実施形態に係る酸素濃度予測システムは、モニターパラメータ群を用いて学習された第一予測モデルとモニターパラメータ群を用いずに学習された第二予測モデルを備えることになる。
【0043】
(予測フェーズ)
図6は、酸素濃度予測システムにおける予測方法について説明する図である。第一実施形態に係る酸素濃度予測システムは、モニターパラメータ群を用いて学習された第一予測モデルとモニターパラメータ群を用いずに学習された第二予測モデルを備える。しかしながら、説明を容易にするため、図6では、一つの第一予測モデルにおけるニューラルネットワーク11と、二つの第二予測モデルにおけるニューラルネットワーク12を図示している。実際の構成では、ニューラルネットワーク12を重複して備える必要はない。
【0044】
図6に示すように、第一実施形態に係る酸素濃度予測システムは、予測フェーズにおいて、第一実施形態に係る酸素濃度予測システムは、第一酸素濃度予測値と第二酸素濃度予測値と第三酸素濃度予測値とを予測し、第一酸素濃度予測値と第二酸素濃度予測値との差を用いて第三酸素濃度予測値を補正し、補正後の第三酸素濃度予測値を目標シリコンインゴットの酸素濃度とする。
【0045】
補正の計算手法は特定の方法に限定されないが、例えば、補正式は、以下の計算方法とすることができる。
目標シリコンインゴットの酸素濃度=第一酸素濃度予測値-第二酸素濃度予測値+第三酸素濃度予測値
【0046】
第一酸素濃度予測値は、ニューラルネットワーク11の入力層に参照インゴットの制御パラメータ群:a、固定パラメータ群:b、およびモニターパラメータ群:cを入力し、ニューラルネットワーク11の出力層から出力された予測値である。
【0047】
第二酸素濃度予測値は、ニューラルネットワーク12の入力層に参照インゴットの制御パラメータ群:aおよび固定パラメータ群:bを入力し、ニューラルネットワーク12の出力層から出力された予測値である。
【0048】
一方、第三酸素濃度予測値は、ニューラルネットワーク12の入力層に目標インゴットの制御パラメータ群:Aおよび固定パラメータ群:Bを入力し、ニューラルネットワーク12の出力層から出力された予測値である。
【0049】
上記のような第一酸素濃度予測値と第二酸素濃度予測値と第三酸素濃度予測値の定義から解るように、第一酸素濃度予測値と第二酸素濃度予測値の差は、モニターパラメータ群を予測に用いるか否かの差である。したがって、第一酸素濃度予測値と第二酸素濃度予測値との差を用いて第三酸素濃度予測値を補正することで、モニターパラメータ群を予測に用いないことに起因する誤差を相殺することができる。
【0050】
このように、第一実施形態に係る酸素濃度予測システムは、予想フェーズにおいて、目標インゴットのモニターパラメータ群を用いることはないが、参照インゴットのモニターパラメータ群を用いた第一酸素濃度予測値と参照インゴットのモニターパラメータ群を用いない第二酸素濃度予測値とを用いて補正することで、目標シリコンインゴットの酸素濃度の予測精度を向上させる。
【0051】
なお、参照インゴットの制御パラメータ群:aおよび固定パラメータ群:bと、目標インゴットの制御パラメータ群:Aおよび固定パラメータ群:Bとは、必ずしも一致している必要はないが、製造実績データの中から、目標シリコンインゴットの製造条件に近いシリコンインゴットを選択することが好ましい。参照インゴットの制御パラメータ群:aおよび固定パラメータ群:bと、目標インゴットの制御パラメータ群:Aおよび固定パラメータ群:Bとが近いほど、モニターパラメータ群を予測に用いないことに起因する誤差をより良く相殺することができるからである。
【0052】
〔第二実施形態に係る酸素濃度予測システム〕
第二実施形態に係る酸素濃度予測システムは、ニューラルネットワークを備える人工知能の技術で構成される。第二実施形態に係る酸素濃度予測システムは、第三予測モデルを含み、図7は、第三予測モデルにおけるニューラルネットワークの概略構成を示す図である。
【0053】
図7に示すように、第三予測モデルにおけるニューラルネットワーク13は、第一の制御パラメータ群、第一の固定パラメータ群、および第一のモニターパラメータ群と、第二の制御パラメータ群および第二の固定パラメータ群とを入力して前記シリコンインゴットの酸素濃度を出力するものである。なお、図7に示すニューラルネットワーク12におけるノードの構成は便宜的に省略したものであり、実際のノードの構成を示すものではない。
【0054】
(学習フェーズ)
図8は、第三予測モデルにおける学習について説明する図である。
【0055】
図8に示すように、第三予測モデルは、第一シリコンインゴットにおける制御パラメータ群、固定パラメータ群、およびモニターパラメータ群と、第二シリコンインゴットにおける制御パラメータ群および固定パラメータ群と、第二シリコンインゴットにおける酸素濃度とを組み合わせた教師データT2を用いて学習されている。
【0056】
第一シリコンインゴットは、製造実績データの中から参照インゴットに対応するものとして選択し、第二シリコンインゴットは、製造実績データの中から参照インゴットに近い特性および製造条件である周辺インゴットに対応するものとして選択する。したがって、一つの第一シリコンインゴット(参照インゴット)に対して、第一シリコンインゴット(参照インゴット)に近い性質の第二シリコンインゴット(周辺インゴット)が複数存在し得る。言い方を変えると、教師データT2は、複数の第二シリコンインゴットに対して共通している第一シリコンインゴットの組み合わせに関するデータセットを含むことになる。周辺インゴットとして参照インゴットそれ自身を選択することが好ましい。周辺インゴットとして参照インゴットそれ自身を選択すると、参照インゴットの酸素濃度の出力を返すようにモデルを学習することが可能であるからである。
【0057】
例えば、図8に示すように、インゴットIDがXとインゴットIDがY1の製造実績データの組を用いて学習する場合、第三予測モデルにおけるニューラルネットワーク13の入力層に、制御パラメータ群:aを第一の制御パラメータ群として入力し、固定パラメータ群:bを第一の固定パラメータ群として入力し、モニターパラメータ群:cを第一のモニターパラメータ群として入力し、制御パラメータ群:e1を第二の制御パラメータ群として入力し、固定パラメータ群:f1を第二の固定パラメータ群として入力し、出力層から出力された値と酸素濃度:d1との差を評価する。このような評価を製造実績データに記録されている教師データT2のすべてに対して行い。出力層から出力された値と酸素濃度:diとの差が最小になるように最適化を行う。
【0058】
上記のような最適化を行うと、ニューラルネットワーク13は、第一シリコンインゴット(参照インゴット)における制御パラメータ群、固定パラメータ群、およびモニターパラメータ群と、第二シリコンインゴット(周辺インゴット)における制御パラメータ群および固定パラメータ群とを入力すると、第二シリコンインゴット(周辺インゴット)における酸素濃度の推測値を出力するようになる。
【0059】
なお、図8に示した教師データT2では、第一シリコンインゴット(参照インゴット)のデータでは酸素濃度が含まれず、第二シリコンインゴット(周辺インゴット)のデータではモニターパラメータ群が含まれないように図示したが、製造実績データの中に酸素濃度が含まれないものまたはモニターパラメータが含まれないものを別途用意する必要はない。第三予測モデルにおけるニューラルネットワーク13の学習時に教師データT2として用いなければよいだけである。
【0060】
(予測フェーズ)
図9は、酸素濃度予測システムにおける予測方法について説明する図である。図9に示すように、第二実施形態に係る酸素濃度予測システムは、予測フェーズにおいて、ニューラルネットワーク13の入力層に、参照インゴットの制御パラメータ群:aを第一の制御パラメータ群として入力し、参照インゴットの固定パラメータ群:bを第一の固定パラメータ群として入力し、参照インゴットのモニターパラメータ群:cを第一のモニターパラメータ群として入力し、目標シリコンインゴットのための制御パラメータ群:Aを第二の制御パラメータ群として入力し、目標シリコンインゴットのための固定パラメータ群:Bを第二の固定パラメータ群として入力し、目標シリコンインゴットの酸素濃度を予測する。
【0061】
このように、第二実施形態に係る酸素濃度予測システムは、予想フェーズにおいて、目標インゴットのモニターパラメータ群を用いることはないが、ニューラルネットワーク13の最適化の方法を考えれば、参照データにおけるモニターパラメータ群を除いた影響が考慮されており、目標シリコンインゴットの酸素濃度の予測精度を向上させる。
【0062】
なお、第二実施形態と同時に、参照インゴットの制御パラメータ群:aおよび固定パラメータ群:bと、目標インゴットの制御パラメータ群:Aおよび固定パラメータ群:Bとは、必ずしも一致している必要はないが、製造実績データの中から、目標シリコンインゴットの製造条件に近いシリコンインゴットを選択することが好ましい。参照インゴットの制御パラメータ群:aおよび固定パラメータ群:bと、目標インゴットの制御パラメータ群:Aおよび固定パラメータ群:Bとが近いほど、モニターパラメータ群を予測に用いないことに起因する誤差をより良く相殺することができるからである。
【0063】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記の実施形態よって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0064】
100 酸素濃度制御システム
10 酸素濃度予測システム
11,12,13 ニューラルネットワーク
20 単結晶引き上げ装置
21 チャンバ炉
22 ヒーター
23 ルツボ
24 モーター
S シリコンインゴット
D 製造実績データ
T1,T2 教師データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9