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特開2022-74059整流板、流体導入装置、及び、成膜装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022074059
(43)【公開日】2022-05-17
(54)【発明の名称】整流板、流体導入装置、及び、成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20220510BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20220510BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20220510BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/31 B
C23C16/455
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021175156
(22)【出願日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2020182540
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】古谷 優樹
(72)【発明者】
【氏名】醍醐 佳明
(72)【発明者】
【氏名】梅津 拓人
(72)【発明者】
【氏名】春山 俊
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 恵子
【テーマコード(参考)】
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4K030EA03
4K030EA04
4K030EA05
4K030KA05
4K030KA12
4K030KA45
5F045AA06
5F045BB03
5F045DP03
5F045DP28
5F045EB05
5F045EE02
5F045EF02
5F045EF14
5F045EM10
5F045GB05
(57)【要約】
【課題】 成膜対象物への成膜速度の変動を抑制可能な整流板を提供すること。
【解決手段】 実施形態によれば、流体を噴射する複数のノズルに対向して設けられ流体を整流する整流板は、複数のノズルのそれぞれに対向するノズル対向領域を有する複数の高流路抵抗部領域と、複数の高流路抵抗領域をそれぞれ取り囲み、複数の第1貫通孔が形成され、高流路抵抗領域より流路抵抗が小さい低流路抵抗領域と、を有する。
【選択図】 図15

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射する複数のノズルに対向して設けられ、前記流体を整流する整流板であって、
前記複数のノズルのそれぞれに対向するノズル対向領域を有する複数の高流路抵抗領域と、
前記複数の高流路抵抗領域をそれぞれ取り囲み、複数の第1貫通孔が形成され、前記高流路抵抗領域より流路抵抗が小さい低流路抵抗領域と、
を有する整流板。
【請求項2】
前記高流路抵抗領域は、閉塞していることを特徴とする請求項1に記載の整流板。
【請求項3】
前記高流路抵抗領域に、前記複数の第1貫通孔より開口面積が小さい1又は複数の第2貫通孔が形成されることを特徴とする請求項1に記載の整流板。
【請求項4】
前記高流路抵抗領域の開口面積密度は、前記低流路抵抗領域の開口面積密度より小さいことを特徴とする請求項3に記載の整流板。
【請求項5】
複数の前記高流路抵抗領域の、前記複数の第2貫通孔の数はそれぞれ同数である、請求項3に記載の整流板。
【請求項6】
前記複数の第1貫通孔は、前記整流板に所定のピッチで形成されている、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の整流板。
【請求項7】
前記整流板は円盤状であり、
前記複数の第1貫通孔は、前記整流板の中心に対して点対称、又は、前記整流板の中心を通る所定の軸に対して線対称となる位置に形成されている、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の整流板。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の整流板と、
前記整流板の前記複数のノズル対向領域に対向してそれぞれ配置される複数の前記ノズルと、
を有する、流体導入装置。
【請求項9】
請求項8に記載の流体導入装置と、
前記流体導入装置より前記流体が流入されるチャンバと
を有する、成膜装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、整流板、その整流板を有する流体導入装置、及び、その流体導入装置を有する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスをノズルから噴射し、貫通孔を有する整流板を通してチャンバ内にガスを導入する流体導入装置が知られている。また、このような流体導入装置を用いてチャンバ内にガスを導入し、ウェハ等の基板上に成膜する成膜装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-126968号公報
【特許文献2】特許第4819411号公報
【特許文献3】特開2013-149513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、成膜対象物への成膜速度の変動を抑制可能な、整流板、流体導入装置、及び、成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、流体を噴射する複数のノズルに対向して設けられ、前記流体を整流する整流板は、複数のノズルのそれぞれに対向するノズル対向領域を有する複数の高流路抵抗領域と、複数の高流路抵抗領域をそれぞれ取り囲み、複数の第1貫通孔が形成され、高流路抵抗領域より流路抵抗が小さい低流路抵抗領域と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態、比較例1、第2実施形態に係る成膜装置を示す概略的な斜視図。
図2】第1実施形態及び第2実施形態に係る成膜装置を図1中の矢印IIに示す方向から見た上面図。
図3】第1実施形態及び第2実施形態に係る成膜装置の図2に示す流体導入装置の整流板とノズルとの位置関係を示す概略図。
図4図2及び図3中のIV-IV断面図。
図5】第1実施形態に係る成膜装置の静止した基板上の成膜速度分布を示す概略的な斜視図。
図6】第1実施形態に係る流体導入装置の整流板をチャンバの基準位置に対して0.3mmずらして取り付けたときの、整流板とノズルとの位置関係を示す概略的な断面図。
図7】第1実施形態に係る成膜装置の静止した基板上の成膜速度分布を示す概略的な斜視図。
図8】第1実施形態に係る成膜装置の図5及び図7に示す基板の中心軸からの距離と成膜速度との関係を示すグラフ。
図9】比較例1に係る成膜装置の流体導入装置の整流板とノズルとの位置関係を示す概略図。
図10】比較例1の図9中のX-X断面図。
図11】比較例1の成膜装置の静止した基板上の成膜速度分布を示す概略的な斜視図。
図12】比較例1の流体導入装置の整流板をチャンバの基準位置に対して0.3mmずらして取り付けたときの、整流板とノズルとの位置関係を示す概略的な断面図。
図13】比較例1の成膜装置の静止した基板上の成膜速度分布を示す概略的な斜視図。
図14】比較例1の成膜装置の図11及び図13に示す基板の中心軸からの距離と成膜速度との関係を示すグラフ。
図15】第2実施形態に係る成膜装置の流体導入装置の整流板を示す概略的な上面図。
図16図15中の符号XVIで示す位置を示す図。
図17図15中のXVII-XVII断面図。
図18】第2実施形態に係る整流板をチャンバの基準位置に対してX+1.5mmずらして配置した成膜装置の回転した基板上の任意の時刻における成膜速度分布を示す概略的な斜視図。
図19】第2実施形態に係る整流板をチャンバの基準位置に対してX-1.5mmずらして配置した成膜装置の回転した基板上の任意の時刻における成膜速度分布を示す概略的な斜視図。
図20】第2実施形態に係る整流板をチャンバの基準位置に対してずらして配置した成膜装置での、基板の中心軸からの距離と時間平均した成膜速度との関係を示すグラフ。
図21】第2実施形態の第1変形例に係る整流板を示す概略的な上面図。
図22】第2実施形態の第1変形例に係る整流板をチャンバの基準位置に対してずらして配置した成膜装置での、基板の中心軸からの距離と成膜速度との関係を示すグラフ。
図23】基板の中心からエッジまでの成膜速度の差分を求める数式。
図24】第2実施形態の第2変形例に係る整流板を示す概略的な上面図。
図25図24に示す整流板をチャンバの基準位置に取り付けた状態で基板に成膜を行うとき、整流板の直下のチャンバ内でガスの上昇気流が生じていないことを示す等高線図。
図26】第2実施形態に係る図15に示す整流板をチャンバの基準位置に取り付けた状態で基板に成膜を行うとき、整流板の直下のチャンバ内でのガスの上昇気流を示す等高線図。
図27】比較例に係る整流板を示す概略的な上面図。
図28図27に示す整流板をチャンバの基準位置に取り付けた状態で基板に成膜を行うとき、整流板の直下のチャンバ内でのガスの上昇気流を示す等高線図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ、第1実施形態及び第2実施形態について説明する。
【0008】
[第1実施形態]
図1には、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、ウェハ等の基板8の表面に単結晶膜をエピタキシャル成長させる成膜装置10を示す。この成膜装置10は、例えば円筒状のチャンバ12と、チャンバ12の一端(上部)に着脱可能に固定される流体導入装置(整流装置)14と、チャンバ12の他端(下部)に設けられる排気部16と、チャンバ12内に設けられる基板8の回転ステージ18とを有する。
【0009】
チャンバ12の一端はチャンバ12の上端に配置され、チャンバ12の他端はチャンバ12の下端に配置される。チャンバ12は、中心軸Cに対して回転対称に形成されていることが好適である。チャンバ12の一端には、流体導入装置14が固定されている。チャンバ12の他端には、排気部16が設けられている。チャンバ12内は、大気圧であってもよく、例えば排気部16に接続される図示しない吸引ポンプ等により大気圧よりも低圧としてもよい。ここでは、チャンバ12内が、大気圧よりも低圧であるものとして説明する。
【0010】
回転ステージ18は、チャンバ12の下方に設けられている。回転ステージ18は、基板8を保持可能である。回転ステージ18は、チャンバ12の中心軸Cの軸回りに、図示しないモータ等によりチャンバ12に対して回転可能である。回転ステージ18の回転軸とチャンバ12の中心軸Cとは一致することが好適である。このため、成膜装置10は、回転ステージ18に基板8を保持した状態で、例えば1000rpmの回転数でチャンバ12の中心軸Cを中心として回転ステージ18を回転させることで、基板8を1000rpmの回転数で回転させることができる。
【0011】
なお、本実施形態では、基板8は、一例として6インチ(約150mm)の直径を有する円盤状である。
【0012】
流体導入装置14は、流体を整流する整流板22と、成膜装置10の外部の図示しないガス源からの複数種のガスを整流板22に向かって噴射する複数のノズル24とを有する。整流板22は、流体を噴射するノズル24に対向する。なお、流体導入装置14は、一例として、ガスの漏洩を防止するカバー(閉塞板)26を有するとともに、複数のノズル24がカバー26を貫通する構造となっている。各ノズル24の外周面とカバー26との間はシールされている。すなわち、成膜装置10に導入するガスの漏れを防止するため、チャンバ12の一端は、流体導入装置14のカバー26により閉塞されている。流体導入装置14は、カバー26と整流板22との間にガスが供給される空間(流体導入部)28を有する。
【0013】
図2は、第1実施形態に係る成膜装置10の図1中の矢印IIに示す方向から見たノズル24及び整流板22の上面図を示す。図3は、整流板22に対して図2に示すノズル24の位置を破線で描いた整流板22の概略図を示す。図4は、第1実施形態に係る成膜装置10の、チャンバ12に対して整流板22を、基準位置に取り付けたときの整流板22とノズル24との位置関係を示す図2及び図3中のIV-IV線に沿う位置の概略的な断面図を示す。図5は、図4に示す整流板22を図1に示す成膜装置10のチャンバ12の一端に取り付けた状態で静止した基板8上に成膜したときの基板8上の成膜速度分布の斜視図を示す。図6は、チャンバ12に対して整流板22を、基準位置に対して許容誤差の範囲内である0.3mmずらして取り付けたときの整流板22とノズル24との位置関係を示す概略的な断面図を示す。図7は、図6に示す整流板22を図1に示す成膜装置10のチャンバ12の一端に取り付けた状態で静止した基板8上に成膜したときの基板8上の成膜速度分布の斜視図を示す。
【0014】
図2から図4、及び、図6に示すように、整流板22は、例えば石英などの透光材で円盤状に形成されている。整流板22の中心軸と、図1に示すチャンバ12の中心軸Cと、回転ステージ18の回転軸とは一致することが好適である。図4に示す例では、整流板22の中心軸と、チャンバ12の中心軸Cと、回転ステージ18の回転軸とは一致する。しかし、図6に示す例では、整流板22の中心軸は、チャンバ12の中心軸C及び回転ステージ18の回転軸と平行であるが、チャンバ12の中心軸C及び回転ステージ18の回転軸に対して0.3mmのズレを生じさせている。
【0015】
整流板22の直径は、本実施形態では、一例として基板8の直径の1.2倍程度の186mmである。なお、チャンバ12の一端と回転ステージ18との間のチャンバ12内の領域の内径は、整流板22の直径と同程度の大きさ、又は、整流板22の直径より大きく形成されている。
【0016】
整流板22は、チャンバ12の一端に着脱可能に固定される。整流板22は、交換可能である。このとき、チャンバ12の一端に対する整流板22を固定するときの許容誤差は、一例として、例えば中心軸Cに対する径方向に±0.3mmなど、所定の大きさである。
【0017】
図2及び図3に示すように、整流板22は、閉塞部(流路抵抗が無限大となる高流路抵抗領域)32と、閉塞部(高流路抵抗領域)32を取り囲むように設けられた複数の貫通孔(第1貫通孔)34を有する低流路抵抗領域33とを有する。複数の貫通孔34は、それぞれガスの流路として形成される。ここで、流路抵抗とは、流体がある形状の流路を通るときにその形状により流れが妨げられる力をいう。
【0018】
貫通孔34は、例えば、基本的には所定の間隔(ピッチ)で形成されているが、一部間隔が異なる領域を有する。貫通孔34の開口量(開口径)は、それぞれ同一であることが好適であるが、異なっていてもよい。開口量は、例えば直径2.6mmから3.5mm程度など、適宜に設定される。整流板22の中心軸付近から外周付近まで、単位面積あたりの貫通孔34の大きさ及び数は、一定であることが好適である。貫通孔34は、一例として、格子状の位置に配置されている。貫通孔34のピッチ幅は、例えば8mmである。
【0019】
なお、整流板22の貫通孔34のうち、整流板22の中心軸から最も離れた外周縁に近い位置の貫通孔34は、基板8の外周縁の直上又は基板8の外周縁よりも外側の位置にあることが好適である。この場合、基板8の外周縁の位置にも、均一に成膜し易い。
【0020】
図4及び図6に示すノズル24は、例えば整流板22の中心軸に平行に成膜用のガスを噴射するように配置されている。本実施形態では、複数のノズル24によるガスの噴射方向は、チャンバ12の中心軸Cと平行であることが好適である。
【0021】
図2から図4、及び、図6に示すように、各ノズル24は、閉塞部(高流路抵抗領域)32に向けて流体を噴射するように、閉塞部(高流路抵抗領域)32に対向する。各ノズル24の先端と閉塞部(高流路抵抗領域)32との間は、離間している。閉塞部(高流路抵抗領域)32は、ノズル24の形状、噴射されるガス等の流体の流量、噴射されるガス等の流体が広がる角度をいうスプレー角度、噴射されるガス等の流体がノズル24の先端から到達する距離での広がり幅をいうスプレー幅、噴射されるガス等の流体が拡散したときの断面形状をいうスプレーパターン等により変化するが、ノズル24からガスが直接噴射される領域である。一方、閉塞部(高流路抵抗領域)32以外の領域であって、複数の貫通孔34が設けられる低流路抵抗領域33は、ノズル24からガスが直接噴射されない領域であり、複数の貫通孔(第1貫通孔)34のうち、ノズル24の先端に対向するノズル対向領域36に最も近接する貫通孔34は、ノズル24から噴射されるガスが間接的に導入される位置に配置される。すなわち、ノズル24と、整流板22との間の距離(スプレー距離)でのスプレー角度等との関係で、ノズル24から噴射されるガスにより形成されるスプレーパターンの外側に貫通孔34が形成されている。複数の貫通孔34のうち、ノズル対向領域36に最も近接する貫通孔34は、ノズル24の先端と閉塞部32との間の距離として規定されるスプレー距離でのスプレーパターンを除く領域に形成される。
【0022】
すなわち、閉塞部(高流路抵抗領域)32は、ノズル24に対向するノズル対向領域36(図3図4図6参照)を有する。ノズル対向領域36は、貫通孔34を除く領域に位置し、貫通孔34が設けられていないスルーホールレスである。言い換えると、流体導入装置14は、貫通孔34に対向しない位置に、流体を噴射するノズル24が配置される。ノズル対向領域36は、基本的に規則的に(同じ間隔で)形成された貫通孔34の間隔が異なる領域に形成される。
【0023】
なお、ノズル24の開口径は、例えば13mmである。
【0024】
本実施形態では、整流板22は、図2及び図3に示すように、整流板22を上側から見たとき、整流板22の中心軸から径方向外方に向かい、後述する3つのパイロメーター用ノズル44の中心を通る仮想線(X軸)に対して線対称に形成されている。貫通孔34は、本実施形態では、整流板22の中心軸に対して点対称又は略点対称、もしくは、閉塞部(高流路抵抗領域)32に沿い整流板22の中心軸を通る所定の軸に対して線対称又は略線対称となる位置に形成されている。
【0025】
なお、本実施形態では、流体導入装置14は、パイロメーターにより基板8の温度を間接的にモニタするためのパイロメーター用ノズル44を有する。パイロメーター用ノズル44にはパージガスが導入されており、パイロメーター用ノズル44に対向する位置(パイロメーター用ノズル対向領域46(図3参照))には、貫通孔34が設けられていない。言い換えると、流体導入装置14は、貫通孔34に対向しない位置に、パイロメーター用ノズル44が配置される。パイロメーターは、基板8から放射される光(赤外光)を、透光材である整流板22及びパイロメーター用ノズル44を通して受光して温度を計測する。
【0026】
なお、パイロメーター用ノズル44の開口径は、ノズル24と同程度の例えば13mmである。パイロメーター用ノズル44の開口径は、ノズル24の開口径よりも大きくてもよく、小さくてもよい。
【0027】
次に、第1実施形態に係る成膜装置10の流体導入装置14の動作について説明する。
【0028】
図1に示す回転ステージ18上の基板8を例えば1000rpmで回転させながら、流体導入装置14の整流板22の閉塞部(高流路抵抗領域)32に向けてノズル24から複数種の流体としてガスを噴射する。このとき、貫通孔34は、複数種のガスそれぞれのスプレーパターンの範囲外であることが好ましい。そして、図4に示すように、閉塞部32に向けて噴射された複数種のガスは、整流板22の表面の閉塞部32にそれぞれ所定のスプレー角度で到達した後、閉塞部32から放射状に広がり、貫通孔34に到達する。
【0029】
なお、チャンバ12内でガスを化学反応させるためのエネルギーとして、例えば熱などを用いる。
【0030】
閉塞部(高流路抵抗領域)32から貫通孔34に向けて流されたガスは、チャンバ12の一端から、貫通孔34を通してチャンバ12の他端に向かって流れる。すなわち、チャンバ12に流体導入装置14の貫通孔34を通して流体が流入されることで、複数種のガスがチャンバ12内に導入され、基板8上に成膜される。
【0031】
一方、上述した図4に示す例においては、整流板22を基準位置(正規の取り付け位置)に設置している。図6に示す例では、整流板22を基準位置より0.3mmずらして設置した。
【0032】
図5に、図4に示すチャンバ12の基準位置に整流板22を取り付けたとき、図7に、図6に示すチャンバ12の基準位置から0.3mmの誤差を生じるように取り付けたときにおける基板8上での、成膜速度分布のシミュレーション結果をそれぞれ示す。図5及び図7中の成膜速度分布は図5中の最低速度を1.0としたときの相対速度として示す。なお、図5及び図7に示すシミュレーション結果は、回転ステージ18を回転させず、基板8を静止した状態で成膜したときの結果を示す。いずれも、基板8の中心よりも、少しずれた位置で成膜速度が大きくなっており、同じ傾向を示すことがわかる。
【0033】
また、図4に示す例、図6に示す例のそれぞれにおける基板8内の成膜速度をシミュレーションしたところ、図8に示すようになった。図4に示すチャンバ12の一端に対して整流板22を基準位置(正規の取り付け位置)に誤差なく取り付けたとき(黒丸でプロット)と、図6に示すチャンバ12の一端に対して整流板22を基準位置から0.3mmの誤差を生じるように取り付けたとき(白丸でプロット)とを比較すると、大きな変化は見られないことがわかる。このとき、基板8の中心部分での成膜速度の変動率は6%程度に抑えられた。
【0034】
(比較例1)
ここで、図9から図14を用いて比較例1の整流板122について説明する。
【0035】
図9図10図12に示すように、比較例1は、流体導入装置14の整流板122及びノズル124の位置関係が第1実施形態と異なる以外は、上述した第1実施形態の流体導入装置14の整流板22及びノズル24の位置関係と同じである。
【0036】
図9は、流体導入装置14の比較例1の整流板122及びノズル124の位置関係を示す。図10は、比較例1の成膜装置10の、チャンバ12に対して整流板122を、基準位置に取り付けたときの整流板122とノズル124との位置関係を示す図9中のX-X線に沿う位置の概略的な断面図を示す。図12は、成膜装置のチャンバ12の一端に対して整流板122を、基準位置に対して許容誤差の範囲内である0.3mmずらして取り付けたときの整流板122とノズル124との位置関係を示す概略的な断面図を示す。
【0037】
第1実施形態と異なり、比較例1では、各ノズル124は、図9図10及び図12に示すように、閉塞部(高流路抵抗領域)132ではなく、貫通孔134と対向している。すなわち、ノズル124の直下に貫通孔134が形成されている。ノズル124と整流板122との位置関係が所定位置で、位置ズレがない図10の場合、ノズル124の中心軸と貫通孔134の中心軸とは同軸上にあることが好適である。
【0038】
図11には、図10に示すチャンバ12の一端に対して整流板122を基準位置に誤差なく取り付けたときにおける基板8上での成膜速度分布のシミュレーション結果の斜視図を示す。図13には、図12に示すチャンバ12の一端に対して整流板122を基準位置に対して0.3mmの誤差を生じるように取り付けたときにおける基板8上での成膜速度分布のシミュレーション結果の斜視図を示す。図11及び図13中の成膜速度分布は図13中の最低速度を1.0としたときの相対速度として示す。なお、図11及び図13に示すシミュレーション結果は、回転ステージ18を回転させず、基板8を静止した状態で成膜したときの結果を示す。図11では、基板8の中心で成膜速度分布が大きくなっている。図13では、基板8の中心から少しずれた位置で成膜速度分布が大きくなっている。図11及び図13に示すシミュレーション結果は、成膜速度分布の傾向が異なることがわかる。
【0039】
また、図10に示す例、図12に示す例のそれぞれにおける基板8内の成膜速度をシミュレーションした。図14に示すように、チャンバ12の一端に対して整流板122を基準位置に誤差なく取り付けたとき(黒丸でプロット)の方が、基準位置より誤差0.3mmずらして取り付けたとき(白丸でプロット)に比べて成膜速度が速くなり、成膜速度が大きく変化することがわかる。このとき、基板8の中心部分での成膜速度の変動率は20%程度となった。
【0040】
(本実施形態と比較例1との比較)
比較例1では、ノズル124の直下に貫通孔134が形成されているので、ノズル124から噴射されるガスの一部が、直接貫通孔134を通る。そして、チャンバ12に対して整流板122を基準位置より0.3mmずらして取り付けたとき、ノズル124と整流板122の貫通孔134との相対位置がずれることにより、ノズル124から直接、貫通孔134を通りチャンバ12内に導入されるガスの流入方向、速度等が変化する。このため、基板8の中心における成膜速度に20%の差が生じると考えられる。
【0041】
一方、本実施形態では、ノズル24の直下に閉塞部(高流路抵抗領域)32が形成されているので、ノズル24から噴射されるガスは、直接貫通孔34を通るのではなく、閉塞部(高流路抵抗領域)32に到達し放射状に広がった後、貫通孔34を通りチャンバ12内に導入される。そのため、チャンバ12に対して整流板22を基準位置より0.3mmずらして取り付け、ノズル24と整流板22の貫通孔34との相対位置が0.3mmずれても、ずれによる成膜速度の変化が6%程度に抑えられる。
【0042】
したがって、本実施形態に係る成膜装置10、流体導入装置14、及び、整流板22により、チャンバ12に対する整流板22の取り付け誤差による基板8上の成膜速度の変動を抑制することができる。
【0043】
本実施形態の流体導入装置14は、ノズル24から気体だけでなく、液体を噴出する際にも用いることができる。
【0044】
本実施形態では、整流板22が円盤状である例について説明した。整流板22は、円盤状に限られず、楕円形状、矩形状等、種々の形状が許容される。
【0045】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について、図15から図20を用いて説明する。第2実施形態は第1実施形態の変形例であって、第1実施形態で説明した部材と同一の部材又は同一の機能を有する部材には極力同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0046】
図15には、第2実施形態に係る成膜装置10の流体導入装置14の整流板222を示す概略的な上面図を示す。図16には、図15中の符号XVIで示す位置を示す図を示す。図17には、図15中のXVII-XVII断面図を示す。
【0047】
本実施形態では、第1実施形態で説明した成膜装置10の流体導入装置14の整流板22の代わりに整流板222を用いる例について説明する。本実施形態に係る成膜装置10の流体導入装置14は、流体を整流する整流板222と、ガス源からの複数種のガスを整流板222に向かって噴射する複数のノズル24と、複数のパイロメーター用ノズルとを有する。
【0048】
図15に示すように、本実施形態に係る整流板222は、第1実施形態で説明した整流板22と同じ大きさで例えば円盤状である。整流板222は、例えば3つのパージガス流路246を有する。パージガスが導入されるパイロメーター用ノズルは整流板222のパージガス流路246の直上に配置されている。パージガス流路246は、整流板222の中心軸からある径方向に沿って例えば略等間隔に配置されている。各パージガス流路246の中心軸は、整流板222の中心軸を原点とする+X軸上に位置する。パージガス流路246には、整流板222を通して、チャンバ12内に、パージガスとして、例えばアルゴンガス又は水素ガスが通される。このため、チャンバ12内には、パージガス流路246を通してパージガスが供給される。本実施形態では、各パージガス流路246の開口径は、例えば18mmである。
【0049】
図16に示すように、整流板222は、ノズル24に対向するノズル対向領域を有する高流路抵抗領域232と、高流路抵抗領域232を取り囲むように設けられる低流路抵抗領域234とを有する。整流板222には、成膜用の反応ガスを通す流路としての複数の貫通孔252,254が一定ピッチに配置されている。整流板222においては、高流路抵抗領域232の外側に、低流路抵抗領域234が形成されていればよい。本実施形態では、複数の貫通孔252,254は、例えば8mmのピッチに配置される。また、整流板222において、一定ピッチに貫通孔254が形成されていない位置があってもよい。整流板222において、第1の貫通孔252と第2の貫通孔254との間が一定ピッチに形成されていない位置があってもよい。
【0050】
なお、整流板222の貫通孔252,254のうち、整流板222の中心軸から最も離れた整流板222の外周縁に近い位置の貫通孔252,254は、基板8の外周縁の直上又は基板8の外周縁よりも外側の位置にあることが好適である。この場合、基板8の外周縁の位置にも、均一に成膜し易い。
【0051】
高流路抵抗領域232は、第1の径の複数の第1の貫通孔(第2貫通孔)252を有する。低流路抵抗領域234は、それぞれ高流路抵抗領域232を取り囲むように設けられ、高流路抵抗領域232の第1の貫通孔252より開口率が大きい第2の径の1又は複数の第2の貫通孔(第1貫通孔)254を有する。第1の貫通孔252は第2の貫通孔254に比べて小径に形成されている。例えば、第1の貫通孔252の直径は5mmであり、第2の貫通孔254の直径は7mmである。
【0052】
図15に示すように、整流板222は、内側から外側に向かって、第1のゾーンZ1、第2のゾーンZ2、及び、第3のゾーンZ3を有する。第1のゾーンZ1は、整流板222の中心軸と同心状の円盤の内側の領域である。第2のゾーンZ2は、第1のゾーンZ1の外側の円環状の領域である。第3のゾーンZ3は、第2のゾーンZ2の外側の円環状の領域である。第3のゾーンZ3の外縁は、整流板222の外縁に一致する。整流板222の中心軸と第1のゾーンZ1の外縁(第2のゾーンZ2の内縁)との間の距離、第1のゾーンZ1の外縁と第2のゾーンZ2の外縁(第3のゾーンZ3の内縁)との間の距離、及び、第2のゾーンZ2の外縁と第3のゾーンZ3の外縁との間の距離は、例えば、等距離である。各ゾーンZ1,Z2,Z3は、それぞれ、高流路抵抗領域232と、低流路抵抗領域234とを有する。第1のゾーンZ1での第1の貫通孔252、第2のゾーンZ2での第1の貫通孔252、及び、第3のゾーンZ3での第1の貫通孔252は、それぞれ4つで1組である。これらの場合、各ゾーンZ1,Z2,Z3での第1の貫通孔252は、一定ピッチに相当する長さの線分で形成される正方形の頂点にある。
【0053】
図17に示すノズル24の開口径は、例えば13mmである。図17に示すように、各ノズル24は、高流路抵抗領域232に向けて流体を噴射するように、高流路抵抗領域232に対向する。各ノズル24の先端と整流板222の高流路抵抗領域232との間は、離間する。ノズル24の形状、噴射されるガス等の流体の流量、噴射されるガス等の流体が広がる角度をいうスプレー角度、噴射されるガス等の流体がノズル24の先端から到達する距離での広がり幅をいうスプレー幅、噴射されるガス等の流体が拡散したときの断面形状をいうスプレーパターン等によるが、複数の第1の貫通孔252は、ノズル24から噴射されるガスが直接導入される位置に配置される。このため、ノズル24と、整流板222との間の距離(スプレー距離)でのスプレー角度等との関係で、ノズル24から噴射されるガスにより形成されるスプレーパターンの外縁の内側に第1の貫通孔252が形成されている。
【0054】
なお、ノズル24の中心軸は、4つで1組の各第1の貫通孔252の中心を頂点とする正方形の重心に交差するように配置されることが好適である。
【0055】
一方、低流路抵抗領域234の複数の第2の貫通孔254は、ノズル24から噴射されるガスが間接的に導入される位置に配置される。第2の貫通孔254は、ノズル24と、整流板222との間の距離(スプレー距離)でのスプレー角度等との関係で、ノズル24から噴射されるガスにより形成されるスプレーパターンの外縁の外側に形成されている。このため、複数の第2の貫通孔254のうち、高流路抵抗領域232に最も近接する第2の貫通孔254は、ノズル24の先端と高流路抵抗領域232との間の距離として規定されるスプレー距離でのスプレーパターンを除く領域に形成される。
【0056】
ノズル24と第1の貫通孔252との位置関係は、例えばノズル24の中心軸に対してそれぞれ等距離離間することが好適である。第1の貫通孔252が例えばノズル24の中心軸上に形成され、第1の貫通孔252の外側に円環状にさらに第1の貫通孔252が形成されていてもよい。すなわち、ノズル24の中心軸と第1の貫通孔252の各組の1つの貫通孔252の中心軸とが一致していてもよい。この場合も、第2の貫通孔254には、ノズル24が対向しない。
【0057】
ノズル24と、整流板222との間の距離は、第1の貫通孔252だけでなく、第2の貫通孔254にガスが流れる距離に設定されている。本実施形態では、ノズル24と整流板222との間の距離は、例えば2.5mmに設定されている。
【0058】
本実施形態に係る整流板222を第1実施形態で説明した整流板22と同様にチャンバ12に取り付け、チャンバ12内の基板8に成膜するときのガスの流れについて説明する。
【0059】
ノズル24から成膜用のガスが整流板222に向けて噴射されると、ガスにより形成される図16及び図17に示すスプレーパターンの内側の高流路抵抗領域232の第1の貫通孔252を通して、チャンバ12内にガスの一部が入る。残りのガスは、整流板222の上面に当接し、整流板222の上面に沿って広がる。ノズル24から噴射されるガスのスプレーパターンの外側には低流路抵抗領域234の第2の貫通孔254が形成されているため、ガスの一部は第2の貫通孔254を通してチャンバ12内に入る。
【0060】
整流板222を通して、ガスがチャンバ12内に導入されると、整流板222の下面近傍のチャンバ12内の圧力分布が変化する。第1の貫通孔252に対して、第2の貫通孔254の方が、開口径が大きく、第1の貫通孔252よりも、第2の貫通孔254の方が、ガスが通りやすい。また、第2の貫通孔254の方が、第1の貫通孔252よりも数が多い。このため、整流板222は、第1の貫通孔252を通して直接的にチャンバ12内に入るガスの流量と、第2の貫通孔254を通してチャンバ内に入るガスの流量とのバランスを取ることができる。また、貫通孔252,254は一定ピッチに配置されているため、整流板222の下面近傍のチャンバ12内の圧力分布に、偏りが生じることが抑制される。
【0061】
例えば、第1実施形態で説明した整流板22を用いる場合、閉塞部(高流路抵抗領域)32にガスが噴射された後、閉塞部(高流路抵抗領域)32の外側の貫通孔34をガスが通過し、チャンバ12内にガスが導入される。貫通孔34を通してガスがチャンバ12内に導入されるため、貫通孔34の直下で圧力が高く、隣接する貫通孔34同士の間の整流板22の下面側の領域で圧力が低下することが想定される。このため、ガスが貫通孔34直下以外の圧力が低い領域の下面側に流れ、チャンバ12内でガスの撹拌や逆流が生じ、チャンバ12内のガス流の制御が難しくなる可能性がある。
【0062】
本実施形態に係る整流板222は、第1実施形態で説明したようにチャンバ12に対する整流板222の取り付け誤差による基板8上の成膜速度の変動を抑制することができる。また、本実施形態に係る整流板222は、第1の貫通孔252により、整流板222の下面近傍のチャンバ12内の圧力分布の偏りを抑制できる。このため、本実施形態に係る整流板222をチャンバ12に取り付けて用いることで、チャンバ12内でのガスの撹拌や逆流を抑制し、チャンバ12内のガス流の制御が容易になる。そして、例えばゾーンZ1,Z2,Z3ごとにチャンバ12内のガス流を制御することで、基板8の中心からの距離に応じて成膜速度を制御することができる。
【0063】
なお、第1の貫通孔252及び第2の貫通孔254は、大小関係を維持することで、適宜の径など、適宜の大きさに設定可能である。そして、パージガス流路246を通してチャンバ12内に入れられるパージガスの単位時間あたりの流量、ノズル24から噴射されるガスの単位時間当たりの流量等にも依存するが、第1の貫通孔252及び第2の貫通孔254を適宜に大きくすることにより、成膜に寄与するガスラインの流れを強くし、整流板222を通してチャンバ12内に供給されるパージガスの流れによる影響を抑えることができる。
【0064】
図18には、チャンバ12の基準位置から+X軸方向に1.5mmずらして整流板222を取り付けたときにおける成膜装置10の回転した基板8上での任意の時刻における成膜速度分布のシミュレーション結果を示す。図18は、基板8の斜視図として示す。図19には、チャンバ12の基準位置から-X軸方向に1.5mmずらして整流板222を取り付けたときにおける成膜装置10の回転した基板8上での任意の時刻における成膜速度分布のシミュレーション結果を示す。図19は、基板8の斜視図として示す。なお、ここでの1.5mmは、チャンバ12に対して整流板222を取り付けるときの基準位置に対する許容誤差である0.3mmよりも大きい。図18及び図19中の成膜速度分布は図18中の最低速度を1.0としたときの相対速度として示す。図18に示す例では、基板8の中心付近で成膜速度が大きくなった。図19に示す例では、基板8の中心からずれた位置で成膜速度が大きくなった。
【0065】
図18に示す例、図19に示す例のそれぞれにおける基板8内の成膜速度をシミュレーションしたところ、図20に示すようになった。図20は、第2実施形態に係る整流板222をチャンバ12の基準位置に対してずらして配置した成膜装置10での、基板8の中心軸からの距離と時間平均した成膜速度との関係を示すグラフである。図20に示す黒丸プロットは、チャンバ12の一端に対して整流板222を基準位置から+1.5mmX軸方向にずらして取り付けたときの例である。図20に示す白丸プロットは、チャンバ12の一端に対して整流板222を基準位置から-1.5mmX軸方向にずらして取り付けたときの例である。図20中の黒丸プロットと白丸プロットとを比較すると、大きな変化は見られないことがわかる。この傾向は、第1実施形態の図8に示す傾向と略一致する。なお、基板8の中心部分での成膜速度の変動率は7%程度に抑えられた。チャンバ12に対する整流板222の取り付け位置を基準位置に近づけるにつれて、ノズル24の中心軸に対して4つの第1の貫通孔252が等距離に配置されることになる。このため、整流板222をチャンバ12に取り付けて用いる場合、基板8の中心部分での成膜速度の変動率はさらに低下することができる、と想定される。
【0066】
したがって、本実施形態によれば、例えばメンテナンスにより整流板222を交換する前後の、成膜対象物への成膜速度の変動を抑制可能な整流板222、その整流板222を有する流体導入装置14、及び、その流体導入装置14を有する成膜装置10を提供することができる。
【0067】
本実施形態では、4つの第1の貫通孔252を1つの組として説明したが、第1の貫通孔252が高流路抵抗領域232に1以上設けられていればよい。高流路抵抗領域232は、低流路抵抗領域234より流路抵抗が大きくなるように、高流路抵抗領域232の開口面積密度は、低流路抵抗領域234の開口面積密度よりも小さければよい。例えば、2つを1つの組とする第1の貫通孔252を所定のピッチに配置してもよく、3つを1つの組とする第1の貫通孔252を、例えば正三角形の頂点の位置に配置してもよく、5つを1つの組とする第1の貫通孔252を、例えば正五角形の頂点の位置に配置しても、同様の効果を得ることができる。第1の貫通孔252の配置は、整流板222の下面近傍のチャンバ12内の圧力分布の偏りを抑制できればよい。
【0068】
第1の貫通孔252及び第2の貫通孔254は、本実施形態では、円形貫通孔である例について説明した。第1の貫通孔252及び第2の貫通孔254は、三角形、四角形など、多角形であってもよい。また、第2の貫通孔254は、複数が連結された長孔などとして形成されていてもよい。第2の貫通孔254は、複数の第1の貫通孔252の周囲の一部又は全部を囲む、連続した1つの孔として形成されていてもよい。
【0069】
(第1変形例)
第2実施形態の第1変形例について、図21及び図22を用いて説明する。
【0070】
図21には、本変形例に係る整流板322の概略的な上面図を示す。図21ではノズル24の図示を省略する。本変形例に係る整流板322では、第2実施形態で説明した整流板222に対して、第1の貫通孔252及び第2の貫通孔254の配置及び数が異なる。貫通孔252,254のピッチは本変形例に係る整流板322では10mmである。
【0071】
図21に示すように、第1のゾーンZ1での第1の貫通孔252は、2つで1組である。この場合、第1の貫通孔252は、一定ピッチに相当する長さの線分の一端と他端の位置にある。第2のゾーンZ2での第1の貫通孔252は、3つで1組である。この場合、第1の貫通孔252は、一定ピッチに相当する長さの2つの線分を有する直角二等辺三角形の頂点にある。第3のゾーンZ3での第1の貫通孔252は、4つで1組である。この場合、第1の貫通孔252は、一定ピッチに相当する長さの線分で形成される正方形の頂点にある。
【0072】
整流板322に対してノズル24は、第2実施形態の整流板222の第1の貫通孔252に対する位置関係と同様に配置される。すなわち、ノズル24は、各ゾーンZ1,Z2,Z3において、ノズル24に対向するノズル対向領域を有する高流路抵抗領域232の第1の貫通孔252に対向している。ノズル24から成膜用のガスが整流板322に向けて噴射されると、ガスにより形成されるスプレーパターンの内側の第1の貫通孔252を通して、チャンバ12内にガスの一部が導入される。残りのガスは、整流板322の上面に当接し、整流板322の上面に沿って広がる。ノズル24から噴射されるガスのスプレーパターンの外側には第2の貫通孔254が形成されているため、ガスの一部は第2の貫通孔254を通してチャンバ12内に導入される。
【0073】
整流板322を通して、ガスがチャンバ12内に入れられると、整流板322の下面近傍のチャンバ12内の圧力分布が変化する。第1の貫通孔252及び第2の貫通孔254の径の大きさの大小関係は第2実施形態で説明した整流板222と同じである。したがって、整流板322は、第1の貫通孔252を通して直接的にチャンバ12内に入るガスの流量と、第2の貫通孔254を通してチャンバ内に入るガスの流量とのバランスを取ることができる。また、貫通孔252,254は一定ピッチに配置されているため、整流板222の下面近傍のチャンバ12内の圧力分布の偏りを抑制できる。
【0074】
本実施形態に係る整流板322をチャンバ12に取り付けて用いることで、チャンバ12内で、ガスの撹拌や逆流を抑制し、チャンバ12内のガス流の制御が容易になる。そして、例えばゾーンZ1,Z2,Z3ごとにチャンバ12内のガス流を制御できるので、基板8の中心からの距離に応じて成膜速度を制御することができる。
【0075】
したがって、本変形例によれば、例えばメンテナンスにより整流板322を交換する前後の、成膜対象物への成膜速度の変動を抑制可能な整流板322、その整流板322を有する流体導入装置14、及び、その流体導入装置14を有する成膜装置10を提供することができる。
【0076】
ここで、図22には、本変形例に係る整流板322を、チャンバ12に対して、整流板322の中心軸から、パージガス流路246の3つの中心軸に向かう+X軸方向に1.5mmずらして取り付けたときと、整流板322の中心軸から、パージガス流路246の3つの中心軸側とは反対側の-X軸方向に、1.5mmずらして取り付けたときとの、基板8上の成膜速度分布との関係を示す。なお、ここでの1.5mmは、チャンバ12に対して整流板322を取り付けるときの基準位置に対する許容誤差である0.3mmよりも大きい。
【0077】
そして、図23に示す数式のように、基板8の中心(中心含む)から基板8のエッジまでの各点での成膜速度の差分を成膜速度(X+1.5mm)の平均で除したものを中心からエッジまでの16点分足し合わせ、16で割ったものに、100をかけて、(%)で表示した。これを、基板8の中心からエッジまでの成膜速度の差分とする。
【0078】
第2実施形態に係る整流板222をチャンバ12に取り付けて用いたとき、基板8の中心から基板8のエッジまでの成膜速度の差分は、図20に示すデータを用いて算出すると、4.6%となった。本変形例に係る整流板322をチャンバ12に取り付けて用いたとき、基板8の中心から基板8のエッジまでの成膜速度の差分は、図22に示すデータを用いて算出すると、31.1%となった。したがって、第1の貫通孔252の数は、各ゾーンZ1,Z2,Z3において、同数であることが好適であるといえる。第2実施形態に係る整流板222のように、各ゾーンZ1,Z2,Z3で第1の貫通孔252の数を同数とすることにより、基板8の中心から基板8のエッジまでの成膜速度の差を、本変形例で説明した整流板322を用いる場合に比べて小さくすることができる。
【0079】
(第2変形例)
第2実施形態の第2変形例について、図24から図28を用いて説明する。
【0080】
図24には、本変形例に係る整流板422の概略的な上面図を示す。図24ではノズル24の図示を省略する。ノズル24は、各ゾーンZ1,Z2,Z3において、ノズル24に対向するノズル対向領域を有する高流路抵抗領域232の第1の貫通孔252に対向している。本変形例に係る整流板422の第1の貫通孔252の直径は3mmで、第2実施形態に係る整流板222の第1の貫通孔252の直径である5mmよりも小さくした。整流板422の第2の貫通孔254の直径は7mmで、第2実施形態に係る整流板222と同一とした。整流板422の貫通孔252,254の一定ピッチは、第2実施形態に係る整流板222と同一で、8mmである。
【0081】
本変形例に係る整流板422をチャンバ12の適切な位置に取り付けた状態で整流板422の直下100mmの位置でのガスの流れを分析した。
【0082】
図25は、整流板422と回転ステージ18との間で、チャンバ12内における整流板422の直下100mmの位置での円筒状のチャンバ12の概略的な断面を示す。また、図25は、チャンバ12内における整流板422の直下100mmの位置でのガスの上方(+Z方向)への移動を捕らえたシミュレーション結果を示す。このため、図25は、本変形例に係る整流板422をチャンバ12の基準位置に取り付けた状態で基板8に成膜を行うとき、整流板422の直下100mmのチャンバ12内でガスの上昇気流が生じていないことを示す等高線図である。図25では、ガスの下方への移動を表示しない。また、図25では、ガスが上方に移動することに伴う速度分布は最低速度を1.0としたときの相対速度として示す。図25に示すように、整流板422の直下100mmのチャンバ12内における位置における全面積の領域で、ガスが上方に移動することが確認されなかった。ノズル24からのガスの流量、パージガスの流量等によるが、ある条件において、本変形例に係る整流板422をチャンバ12に取り付けて用いたとき、整流板422の下側の領域で、ガスが上昇していないことが確認できる。
【0083】
ここで、本変形例に係る整流板422との比較のため、第2実施形態に係る整流板222をチャンバ12の適切な位置に取り付けた状態で整流板222の直下100mmの位置でのガスの流れを分析した。
【0084】
図26は、整流板222と回転ステージ18との間で、チャンバ12内における整流板222の直下100mmの位置での円筒状のチャンバ12の概略的な断面を示す。図26は、チャンバ12内における整流板222の直下100mmの位置でのガスの上方(+Z方向)への移動を捕らえたシミュレーション結果を示す。このため、図26は、第2実施形態に係る図15に示す整流板222をチャンバ12の基準位置に取り付けた状態で基板8に成膜を行うとき、整流板222の直下100mmのチャンバ12内でのガスの上昇気流を示す等高線図である。
【0085】
図26には、ガスの下方への移動を表示しない。また、図26では、ガスが上方に移動することに伴う速度分布は最低速度を1.0としたときの相対速度として示す。図26に示すように、整流板222の直下100mmのチャンバ12内における位置における全面積の21%の領域で、ガスが上方に移動することが確認できる。ノズル24からのガスの流量、パージガスの流量等によるが、ある条件において、第2実施形態に係る整流板222をチャンバ12に取り付けて用いたとき、整流板222の下側のチャンバ12内の領域で、ガスが上昇していることが確認できる。
【0086】
また、本変形例に係る整流板422、及び、第2実施形態に係る整流板222との比較のため、比較例として、図27に示す整流板522を用いた。図27には、比較例に係る整流板522を示す概略的な上面図を示す。図27ではノズル24の図示を省略する。ノズル24は、各ゾーンZ1,Z2,Z3において、ノズル24に対向するノズル対向領域を含む高流路抵抗領域232の第1の貫通孔552に対向している。整流板522の第1の貫通孔552は、図24に示す整流板422の第1の貫通孔252の配置と同じとする。整流板522の第2の貫通孔254は、図24に示す整流板422の第2の貫通孔254の配置と同じとする。比較例に係る整流板522の第1の貫通孔552の直径、及び、第2の貫通孔254の直径は、それぞれ7mmで同一である。整流板522の貫通孔552,254の一定ピッチは、第2実施形態に係る整流板222と同一で、8mmである。
【0087】
比較例に係る整流板522をチャンバ12の適切な位置に取り付けた状態で整流板522の直下100mmの位置でのガスの流れを分析した。
【0088】
図28は、チャンバ12内における整流板522の直下100mmの位置でのガスの上方(+Z方向)への移動を捕らえたシミュレーション結果を示す。このため、図28は、比較例に係る図27に示す整流板522をチャンバ12の基準位置に取り付けた状態で基板8に成膜を行うとき、整流板522の直下100mmのチャンバ12内でのガスの上昇気流を示す等高線図である。
【0089】
図28では、ガスの下方への移動を表示しない。また、図28では、ガスが上方に移動することに伴う速度分布は最低速度を1.0としたときの相対速度として示す。図28に示すように、整流板522の直下100mmのチャンバ12内における位置における全面積の31%の領域で、ガスが上方に移動することが確認できる。ノズル24からのガスの流量、パージガスの流量等によるが、ある条件において、比較例に係る整流板522をチャンバ12に取り付けて用いたとき、整流板522の下側の領域で、ガスが上昇していることが確認できる。
【0090】
したがって、第2の貫通孔254に対して第1の貫通孔252の直径が大きい(開口面積が大きい)ほど、整流板の下側の領域で、ガスが上昇しやすく、チャンバ12内で意図せずガスが撹拌等されている、と言える。このため、本変形例に係る整流板422の第1の貫通孔252の直径は、5mmよりも小さいことが好適である。第1の貫通孔252の直径は、例えば、第2の貫通孔254の0.7倍以内であることが好適である。
【0091】
一方、第1の貫通孔252の直径を小さくすることで、ガスの攪拌や逆流の抑制、ガス流の制御の観点では、十分な効果が得られないことが考えられる。そこで、変形例に係る整流板422の第1の貫通孔252は、チャンバ12内の所定位置でガスの逆流を防止するようにチャンバ12内のガスの流れを整流する径を最小径(最小開口面積)として設定される。このとき、第1の貫通孔252の径の最小径は、ノズル24から噴射するガス、パージガスの流量等によるが、ガスの逆流を防止するように設定される。或いは、経時的に第1の貫通孔252が塞がれ流路抵抗が変動することによるガス流の変化を抑制するように、最小径(最小開口面積)を設定してもよい。
【0092】
したがって、本変形例に係る整流板422の第2の貫通孔254に対する第1の貫通孔252の径を適切に設定することで、チャンバ12に整流板422を取り付けたときに、チャンバ12内でガスの攪拌や逆流を抑制し、基板8の中心からの距離に応じて成膜速度を制御することができる。
【0093】
このように、第2の貫通孔254、第1の貫通孔252の関係は、第1の貫通孔252を通して下方に流入するガスによって、整流板422の下面に向かう逆流が生じない穴径であることが好適である。例えば、ノズル24からの単位時間あたりの流量など、種々の条件によるが、整流板422とノズル24との間の隙間が2.5mm、整流板422の第1の貫通孔252及び第2の貫通孔254が8mmの一定ピッチに配置され、第2の貫通孔254の径が7mm、第1の貫通孔252の径が第2の貫通孔254の0.7倍よりも小さい3mmであるとき、ノズル24からガスを噴射するとともに、パージガスノズルから水素ガスを噴射したときに、チャンバ12内において、ガスの逆流の発生が抑制される。
【0094】
チャンバ12に対して、整流板422の位置にズレが生じたとしても、成膜速度分布のズレを抑制することができる。
【0095】
本変形例によれば、例えばメンテナンスにより整流板422を交換する前後の、成膜対象物への成膜速度の変動を抑制可能な整流板422、その整流板422を有する流体導入装置14、及び、その流体導入装置14を有する成膜装置10を提供することができる。
【0096】
以上述べた少なくともひとつの実施形態によれば、例えばメンテナンスにより整流板を交換する前後の、成膜対象物への成膜速度の変動を抑制可能な整流板、その整流板を有する流体導入装置、及び、その流体導入装置を有する成膜装置を提供することができる。
【0097】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
8…基板、10…成膜装置、12…チャンバ、14…流体導入装置、16…排気部、18…回転ステージ、22…整流板、24…ノズル、26…カバー、28…空間、32…閉塞部、34…貫通孔、36…ノズル対向領域。

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