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特開2022-7467油脂組成物、及び油脂組成物における層分離を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007467
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】油脂組成物、及び油脂組成物における層分離を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20220105BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
A23D7/005
A23D7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020110473
(22)【出願日】2020-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100169317
【弁理士】
【氏名又は名称】濱野 愛
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 太一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DK10
4B026DL01
4B026DL02
4B026DP01
4B026DX03
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、油脂、エタノール、及び水を含むにもかかわらず、層分離が抑制された油脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、油脂組成物であって、油脂、エタノール、水、及び、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含み、前記水の含量が、前記油脂組成物に対して0.05質量%以上1.10質量%以下であり、前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記水の含量の0.4質量倍以上であり、前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記油脂組成物に対して5.0質量%以下である、油脂組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂組成物であって、
油脂、エタノール、水、及び、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含み、
前記水の含量が、前記油脂組成物に対して0.05質量%以上1.10質量%以下であり、
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記水の含量の0.4質量倍以上であり、
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記油脂組成物に対して5.0質量%以下である、
油脂組成物。
【請求項2】
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記油脂組成物に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂組成物が、食品へのコーティング用である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
油脂、エタノール、及び水を含む油脂組成物における層分離を抑制する方法であって、
前記油脂組成物に対して5.0質量%以下、かつ、前記油脂組成物中の水の含量の0.4質量倍以上のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを配合する工程を含み、
前記水の含量が、前記油脂組成物に対して0.05質量%以上1.10質量%以下である、
方法。
【請求項5】
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの配合量が、前記油脂組成物に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物、及び油脂組成物における層分離を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌の増殖を抑制し、食品の腐敗を防ぐ観点から、各種静菌剤が利用されている。
【0003】
静菌剤としては、アルコール製剤、特に、含水エタノール(主にエタノールを含む、エタノール及び水の混合物)が広く用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】アルコール製剤(食品添加物)自主基準(日本食品洗浄剤衛生協会、制定年月日:平成26年4月1日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、含水エタノール等のアルコール製剤では、エタノールが揮発してしまうため、長期にわたって静菌効果を発揮することが難しい。
そのため、含水エタノールと、揮発しにくい成分(例えば、油脂等)との混合物を静菌剤として用いることが考えられるものの、水を含む混合物は層分離してしまい、静菌剤としての使用が難しいという問題があった。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、油脂、エタノール、及び水を含むにもかかわらず、層分離が抑制された油脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、油脂、エタノール、水、及び、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む油脂組成物において、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等の含有量や配合比を調整することで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 油脂組成物であって、
油脂、エタノール、水、及び、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含み、
前記水の含量が、前記油脂組成物に対して0.05質量%以上1.10質量%以下であり、
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記水の含量の0.4質量倍以上であり、
前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記油脂組成物に対して5.0質量%以下である、
油脂組成物。
【0009】
(2) 前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、前記油脂組成物に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である、(1)に記載の油脂組成物。
【0010】
(3) 前記油脂組成物が、食品へのコーティング用である、(1)又は(2)に記載の油脂組成物。
【0011】
(4) 油脂、エタノール、及び水を含む油脂組成物における層分離を抑制する方法であって、
前記油脂組成物に対して5.0質量%以下、かつ、前記油脂組成物中の水の含量の0.4質量倍以上のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを配合する工程を含み、
前記水の含量が、前記油脂組成物に対して0.05質量%以上1.10質量%以下である、
方法。
【0012】
(5) 前記ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの配合量が、前記油脂組成物に対して0.1質量%以上5.0質量%以下である、(4)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油脂、エタノール、及び水を含むにもかかわらず、層分離が抑制された油脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
<油脂組成物>
本発明の油脂組成物は、以下の要件を全て満たす。
(要件1)油脂、エタノール、水、及び、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む。
(要件2)水の含量が、油脂組成物に対して0.05質量%以上1.10質量%以下である。
(要件3)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、水の含量の0.4質量倍以上である。
(要件4)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量が、油脂組成物に対して5.0質量%以下である。
【0016】
含水エタノール等のような水性成分と油脂とを混合させるには、通常、乳化剤の使用が考えられる。
しかし、本発明者らの検討の結果、乳化剤を使用した場合であっても、含水エタノールと油脂とを必ずしも混合させることができず、層分離してしまう可能性があることが見出された。
【0017】
そこで、本発明者らがさらに検討を重ねた結果、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等を上記要件1~4を全て満たすように配合することで、含水エタノールと油脂とを良好に混合でき、層分離を抑制できるという意外な知見が見出された。
【0018】
具体的には、含水エタノールと油脂との層分離を抑制する観点から、所定量のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを用いること(すなわち、要件1及び4を満たすこと)、水の含量を所定範囲に調整すること(すなわち、要件2を満たすこと)、さらには、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルと、水との質量比を調整すること(すなわち、要件3を満たすこと)が必要であることがわかった。
【0019】
本発明の作用は定かではないが以下のように推察される。
エタノールは、水及び油脂それぞれとの相溶性が高いものの、油脂と水との相溶性は低い。そのため、水分量が多い(例えば、組成物全体に対して0.05質量%以上)場合、層分離が生じ得る。このような場合、層分離を防ぐためには、可溶化機能や乳化機能を有する乳化剤の配合が考えられる。
他方で、エタノール等のアルコールは、水及び油脂それぞれとの相溶性が高いことから界面を不明確にするため、乳化剤によって得られるエマルションを解乳化し得る。
しかし、本発明者らの検討の結果、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを用いると、このような解乳化を抑制でき、層分離を防ぐことができるという意外な知見が得られた(要件1)。その理由は、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルが、親油基中に極性基(親水基)であるエステル基を含むために、水を抱き込みやすいためであると推察される。
本発明者らによるさらなる検討の結果、安定的に層分離を防ぐ観点からは、組成物全体に含まれる水分量に応じたポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量の調整を要すること、すなわち、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量は、組成物全体に含まれる水分量の0.4質量倍以上に調整することを要することが見出された(要件3)。
ただし、本発明による層分離の抑制効果を安定的に奏するには、水分量の上限を組成物全体に対して1.10質量%以下とすることを要した(要件2)。
また、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量を、油脂組成物に対して5.0質量%以下に調整することで、油脂の風味を損なわずに層分離の抑制ができることも見出された(要件4)。
【0020】
なお、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを用いることで確認された上記効果は、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの代わりに他の乳化剤(トリオレイン酸ペンタグリセリン、ペンタオレイン酸デカグリセリン等)を使用した場合には奏され難かった。
【0021】
本発明において「層分離」とは、油脂、エタノール、及び水を少なくとも含む組成物において、水性成分(すなわち、エタノール及び水等)含有層と、油性成分(すなわち、油脂等)含有層とが分離することを意味する。
なお、本発明において、水性成分含有層は、乳化及び/又は可溶化によって油性成分を含有してもよい。また、油性成分含有層は、乳化及び/又は可溶化によって水性成分を含有してもよい。
【0022】
油脂、エタノール、及び水を少なくとも含む組成物において、通常、「層分離」した状態では、上下に分かれた2層が形成される。
かかる場合、水性成分含有層と油性成分含有層の比重に応じて、いずれの層が上層又は下層となるかが決定される。
例えば、水性成分含有層の主成分が、エタノール(油脂よりも比重が軽い)である場合、油性成分含有層の上層に水性成分含有層が位置する。
他方で、水性成分含有層の主成分が、水(油脂より比重が重い)である場合、油性成分含有層の下層に水性成分含有層が位置する。
「層分離」が生じているかどうかは実施例に示した方法で特定できる。
【0023】
本発明において「層分離が抑制されている」とは、油脂、エタノール、及び水を少なくとも含む組成物において、水性成分(すなわち、エタノール及び水等)含有層と、油性成分(すなわち、油脂等)含有層との分離が、油脂組成物の製造後、長期間(例えば、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上、さらに好ましくは3日以上)にわたって生じないことを意味する。
【0024】
本発明において「エタノールと油脂とが混合している」とは、油脂、エタノール、及び水を少なくとも含む組成物において、水性成分(すなわち、エタノール及び水等)含有層と、油性成分(すなわち、油脂等)含有層とが上下2層以上に分離せず、乳化状態(W/O等)や可溶化状態となっていることを意味する。
【0025】
以下、本発明の油脂組成物の構成について説明する。
【0026】
(ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル)
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR)は、縮合リシノール酸とポリグリセリンとをエステル化反応させることで得られるエステルである。
なお、縮合リシノール酸は、リシノール酸(ひまし油の主成分である脂肪酸として知られる。)を重縮合反応させることで得られる。
【0027】
本発明におけるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしては、食品等に配合される乳化剤として知られる任意のものを使用できる。このようなポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとして、例えば、商品名「ポエムPR-400」(理研ビタミン株式会社製)、商品名「サンソフトNo.818JC」(太陽化学株式会社製)等の市販品が挙げられる。
【0028】
本発明の油脂組成物におけるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量は、油脂組成物に含まれる水の含量の0.4質量倍以上、かつ、油脂組成物に対して5.0質量%以下である。
【0029】
本発明の油脂組成物におけるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量の下限は、油脂組成物に対して、層分離をより抑制しやすいという観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。
【0030】
本発明の油脂組成物におけるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量の上限は、油脂組成物に対して、油脂組成物の風味を損ないにくいという観点から、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。
【0031】
(油脂)
本発明における油脂としては、食用油脂として知られる任意の油脂を使用できる。油脂は1種単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。油脂として複数の種類のものを組み合わせる場合、その配合比は得ようとする風味等に応じて適宜設定される。
【0032】
本発明における油脂としては、例えば、動植物油、及び動植物油由来の加工油脂等が挙げられる。具体的には、植物性油脂(菜種油(キャノーラ油等)、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、ごま油、落花生油、オリーブ油、グレープシード油、パーム油、ヤシ油、米糠油等)、動物性油脂(牛脂、ラード、乳脂、魚油等);これらの油脂の硬化油又はエステル交換油;これらの油脂を分別して得られる液体油又は固体脂等が挙げられる。
【0033】
本発明における油脂は、作業性の点からは10℃で液状の油脂が好ましく、風味を損ないにくい点からは精製油脂が好ましく、良好な風味を付与しやすい点からは焙煎ごま油、オリーブ油等が好ましい。
【0034】
本発明の油脂組成物における油脂の含量は、エタノールの揮発を防ぐことができる範囲で任意に調整でき、特に限定されない。
【0035】
本発明の油脂組成物における油脂の含量の下限は、油脂組成物に対して、好ましくは85.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、さらに好ましくは95.0質量%以上である。
【0036】
本発明の油脂組成物における油脂の含量の上限は、油脂組成物に対して、好ましくは99.8質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、さらに好ましくは98.0質量%以下、ことさらに好ましくは95.0質量%以下である。
【0037】
(エタノール及び水)
本発明におけるエタノールは、静菌作用を奏する成分である。通常、エタノールは、含水エタノール(すなわち、エタノール及び水の混合物)として油脂組成物に配合される。
【0038】
本発明におけるエタノール及び水は、一般的なアルコール製剤において採用される配合比で使用できる。
例えば、15℃におけるエタノールの割合は、エタノール及び水の総量に対して、好ましくは35質量%以上98質量%以下、より好ましくは37質量%以上95質量%以下、さらに好ましくは40質量%以上91質量%以下であってもよい。
【0039】
本発明におけるエタノール及び水の配合比は、アルコール製剤(食品添加物)自主基準(日本食品洗浄剤衛生協会、制定年月日:平成26年4月1日)の下記規定に基づき調整してもよい。
「主剤であるアルコール(エタノール)は、一般社団法人アルコール協会が制定したアルコール協会規格 JAAS001:2012『エタノール』記載の発酵アルコールの品質規格に適合し、且つ、15℃における製剤中のアルコール濃度は、45度(37.88重量%)以上で90度(85.70重量%)未満であること。」
【0040】
本発明の油脂組成物における水の含量は、油脂組成物に対して0.05質量%以上1.10質量%以下である。
ただし、本発明の油脂組成物に含まれる水の由来は含水エタノールに限定されない。例えば、油脂等の成分にも水が少量含まれ得るし、本発明の油脂組成物には水そのものを添加してもよい。したがって、本発明において「油脂組成物における水の含量」、「油脂組成物に含まれる水の質量」、「油脂組成物中の水の含量」等の記載は、特段の規定がない限り、油脂組成物に含まれる水(由来を問わない)の総量を意味する。
【0041】
本発明の油脂組成物における水の含量の下限は、油脂組成物に対して、好ましくは0.10質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上である。
【0042】
本発明の油脂組成物における水の含量の上限は、油脂組成物に対して、好ましくは1.00質量%以下、より好ましくは0.85質量%以下である。
【0043】
本発明の油脂組成物におけるエタノールの含量は、静菌作用を奏することができる範囲で任意に調整でき、特に限定されない。
【0044】
本発明の油脂組成物におけるエタノールの含量の下限は、良好な静菌作用を奏しやすいという観点から、油脂組成物に対して、好ましくは0.06質量%以上、より好ましくは0.08質量%以上、0.4質量%以上、0.8質量%以上、1.6質量%以上、2.4質量%以上、3.0質量%以上、5.0質量%以上のいずれかである。
本発明の油脂組成物におけるエタノールの含量の上限は、油脂組成物に対して、好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下のいずれかである。
なお、上記の値はいずれも油脂組成物におけるエタノールそのものの含量を意味する。したがって、油脂組成物に配合されるエタノールが含水エタノール等の形態である場合、エタノール以外の成分(水等)の含量は上記の値に含まれない。
【0045】
(その他の成分)
本発明の油脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル以外の乳化剤、トコフェロール類等の抗酸化剤、シリコーンオイル等の消泡剤等が挙げられる。また、静菌作用を補助する作用を有する成分を含んでもよく、例えば、炭素数6~12の直鎖飽和脂肪酸、炭素数6~12の直鎖飽和脂肪酸のモノグリセリド等、有機酸等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの成分の配合量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定される。
【0046】
(各成分の比率)
本発明の油脂組成物においては、各成分の配合比を調整することで、より容易に本発明の効果を実現できる。
【0047】
本発明の油脂組成物において、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量は、水の含量の0.4質量倍以上である。換言すれば、本発明の油脂組成物において、油脂組成物に含まれる水の質量に対する、油脂組成物に含まれるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの質量の割合(PGPR/全HO)は、0.4以上である。
【0048】
「PGPR/全HO」の下限は、好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上である。
【0049】
「PGPR/全HO」の上限は、特に限定されないが、好ましくは10.0以下、より好ましくは5.0以下である。
【0050】
本発明の油脂組成物において、本発明の効果がより奏されやすくなるという観点から、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含量は、油脂以外に由来する水の含量の0.5質量倍以上に調整することが好ましい。換言すれば、本発明の油脂組成物において、油脂以外に由来する水の質量に対する、油脂組成物に含まれるポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの質量の割合(PGPR/添加HO)が、0.5以上である。
なお、「油脂以外に由来する水の含量」とは、油脂組成物に配合される原料である油脂に含まれる水分以外の水分の総量を意味する。「油脂以外に由来する水」としては、含水エタノール中の水、水性成分に含まれる水分、及び、水そのもの(滅菌水、蒸留水等)が挙げられる。
【0051】
「PGPR/添加HO」の下限は、好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上である。
【0052】
「PGPR/添加HO」の上限は、好ましくは10.0以下、より好ましくは5.0以下である。
【0053】
<油脂組成物の形態>
本発明の油脂組成物の形態は特に限定されないが、例えば、その使用(食品へのコーティング等)の直前において、油相及び水相を含む乳化物であってもよい。
【0054】
本発明の油脂組成物は、通常、可溶化状態かつ/又は乳化状態である。油脂組成物中の水の含量が0.2質量%以下の場合は可溶化状態となることが多く、油脂組成物中の水の含量が0.4質量%以上の場合は乳化状態となることが多い。
【0055】
<油脂組成物の製造方法>
本発明の油脂組成物は、特に限定されず、油脂を含む組成物の製造方法として知られる任意の方法を採用できる。例えば、油脂組成物を構成する成分を混合及び撹拌等することで製造することができる。
【0056】
<油脂組成物の保存>
本発明の油脂組成物はエタノールを含むため、エタノールの揮発を防ぐ観点から、油脂組成物の製造後、その使用(食品へのコーティング等)の直前までは密封容器で保存することが好ましい。
【0057】
本発明の油脂組成物はエタノールを含むため、エタノールの揮発を防ぐ観点から、油脂組成物は、エタノールの揮発が促進される温度よりも低い温度(例えば、50℃未満)で保存することが好ましい。
【0058】
本発明の油脂組成物は、油脂及びエタノールを含むにもかかわらず、層分離が抑制されている。例えば、本発明の油脂組成物は、製造後、好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上、さらに好ましくは3日以上にわたって層分離が良好に抑制されている。
【0059】
本発明の油脂組成物は製造後3日以内に容器充填することが好ましい。ただし、本発明の油脂組成物は、層分離が認められても、撹拌等によって、容易に再度層分離を抑制でき、その状態を維持できる。そのため、本発明の油脂組成物は、製造後長期間(例えば、半年以上)経過していても、使用前(例えば、使用3日前以内)に適宜撹拌等することで各種用途に使用することができる。
撹拌の方法は特に限定されず、例えば、任意の手段(手、機械等)で油脂組成物の充填された容器を振ること等が挙げられる。
【0060】
<油脂組成物の用途>
本発明の油脂組成物は、油脂及びエタノールを含むにもかかわらず、層分離が抑制されている。かつ、本発明の油脂組成物においては、油脂の作用によりエタノールが揮発しにくい。
したがって、本発明の油脂組成物は、従来のアルコール製剤の代替品として使用できる。具体的には、本発明の油脂組成物は、好ましくは食品の腐敗を防ぐための静菌剤として利用でき、より好ましくは食品へのコーティング用に利用できる。
【0061】
本発明の油脂組成物が食品へのコーティング用である場合、コーティングの対象である食品の種類は特に限定されず、その表面に本発明の油脂組成物を保持できる任意の食品が挙げられる。
このような食品としては、麺類(パスタ、うどん、そば等)、パン類(食パン、菓子パン等)、飯類(おにぎり等)等が挙げられる。
【0062】
本発明の油脂組成物が食品へのコーティング用である場合、本発明の油脂組成物に含まれるエタノールが揮発しにくいという観点から、コーティングの対象である食品の温度(品温)は50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0063】
本発明の油脂組成物が食品へのコーティング用である場合、コーティング方法としては特に限定されず、コーティングの対象である食品の表面の一部又は全部を本発明の油脂組成物によって被覆できる任意の方法を採用できる。
このような方法としては、噴霧、塗布、浸漬等が挙げられる。
【0064】
本発明の油脂組成物が食品へのコーティング用である場合、食品への、本発明の油脂組成物のコーティング量は、食品の種類や、得ようとする静菌作用の程度等に応じて適宜設定される。
【0065】
本発明の油脂組成物が食品へのコーティング用である場合、食品へ本発明の油脂組成物のコーティングを行った後は、本発明の油脂組成物に含まれるエタノールの揮発を防ぐため、エタノールの揮発が促進される温度(例えば、50℃以上)に食品をさらさないことが好ましい。
例えば、食品へ本発明の油脂組成物のコーティングを行った後は、加熱(例えば、50℃以上の温度条件下での加熱)を全く行わないことや、喫食の直前まで加熱(例えば、50℃以上の温度条件下での加熱)を行わないことが好ましい。
【0066】
<層分離を抑制する方法>
上記のとおり、油脂、エタノール、水、及び、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを含む油脂組成物において、水、及び、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルの含有量を調整することで、油脂及びエタノールを含むにもかかわらず、層分離を抑制することができる。
したがって、本発明は、油脂組成物に対して0.1質量%以上5.0質量%以下、かつ、水の含量の0.5質量倍以上のポリグリセリン縮合リシノール酸エステルを配合する工程を含み、水の含量が、油脂組成物に対して0.02質量%以上1.10質量%以下である、油脂、エタノール、及び水を含む油脂組成物における層分離を抑制する方法も提供する。
【0067】
本発明の層分離を抑制する方法において、油脂組成物の構成等は、上述の条件を適宜採用できる。
【実施例0068】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
<油脂組成物の作製>
下記表中の「組成」の項に示す各成分を混合し、油脂組成物を作製した。
【0070】
なお、油脂組成物の材料として以下を用いた。
含水エタノール(エタノール濃度:80質量%又は65質量%):エタノール(商品名「Ethanol(99.5)」、富士フィルム和光純薬株式会社製)を脱イオン水で希釈して調製した。
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR):商品名「ポエムPR-400」、理研ビタミン株式会社製
トリオレイン酸ペンタグリセリン:商品名「サンソフトA173-E」、太陽化学株式会社製
ペンタオレイン酸デカグリセリン:商品名「サンソフトQ-175S」、太陽化学株式会社製
精製菜種油(水分含有量:0.03質量%):商品名「日清キャノーラ油」、日清オイリオグループ株式会社製
【0071】
表中、「水分量」の項の上段に、油脂組成物に含まれる、水分の質量の総量を示した。
表中、「水分量」の項の下段に、油脂組成物に含まれる、含水エタノールに由来する水分の質量(Et水分量)を示した。
「PGPR/全HO」の項に、油脂組成物に含まれる水分の質量の総量に対する、油脂組成物に含まれるポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR)の質量の割合を示した。
「PGPR/添加HO」の項に、油脂組成物に含まれる、含水エタノールに由来する水分の質量(Et水分量)に対する、油脂組成物に含まれるポリグリセリン縮合リシノール酸エステル(PGPR)の質量の割合を示した。
【0072】
<油脂組成物の評価>
油脂組成物を構成する各成分を混合して油脂組成物を調製した直後(すなわち、油脂組成物を構成する成分の混合直後)から3日間にわたり、油脂組成物の分離状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。その結果を表中の「評価」の項に示す。
なお、本評価における「油脂組成物の分離状態」とは、油脂組成物が上下の2層に分かれているかどうかの状態を意味する。
したがって、油脂組成物が「2層に分離していない」とは、油脂組成物が上下の2層に分離しておらず、乳化状態(W/O等)、又は可溶化状態にあることを意味する。
油脂組成物が「2層に分離している」とは、油脂組成物が上下の2層に分離していることを意味する。
【0073】
[油脂組成物の評価基準]
〇:2層に分離していない。
×:2層に分離している。

【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】
【0078】
表に示されるとおり、本発明の要件を全て満たす油脂組成物によれば、組成物調製後24時間以上にわたって、2層の分離が認められなかった。
なおデータは示していないが、これらの油脂組成物は食品に塗布することで、静菌作用も認められた。
【0079】
これに対し、本発明の要件のいずれかを満たさない油脂組成物は、組成物の混合直後、又は混合後24時間以内に2層の分離が認められた。