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特開2022-75025静電チャック装置、静電チャック装置の製造方法
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  • 特開-静電チャック装置、静電チャック装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075025
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】静電チャック装置、静電チャック装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20220511BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20220511BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
C23C16/458
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185543
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】前田 進一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 幸夫
【テーマコード(参考)】
4K030
5F131
【Fターム(参考)】
4K030GA02
4K030KA46
5F131AA02
5F131CA02
5F131CA03
5F131CA09
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB14
5F131EB18
5F131EB19
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB82
(57)【要約】
【課題】静電チャック部材の載置面の温度の均一性を確保し、静電チャック部材に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制する静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックスからなる静電チャック部材2と、金属からなる温度調整用ベース部材3と、接着剤層4と、を備える静電チャック装置1であって、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とが接合する接合面において、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3のいずれか一方に粗面を有し、接着剤層4を介して、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3が接合されている静電チャック装置1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスからなる静電チャック部材と、金属からなる温度調整用ベース部材と、接着剤層と、を備える静電チャック装置であって、
前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材とが接合する接合面において、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材のいずれか一方に粗面を有し、
前記接着剤層を介して、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材が接合されていることを特徴とする静電チャック装置。
【請求項2】
前記粗面は、突起であることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記突起の高さを、25μm以上400μm以下とする、請求項2に記載の静電チャック装置。
【請求項4】
前記粗面において、前記接合面の算術平均粗さ(Ra)を0.01μm以上2.0μm以下とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の静電チャック装置。
【請求項5】
セラミックスからなる静電チャック部材と、金属からなる温度調整用ベース部材とを、接着剤層を介して接合してなる静電チャック装置の製造方法であって、
前記静電チャック部材における前記温度調整用ベース部材と接合する接合面のどちらかに凸部を形成する粗面加工を施す工程と、
前記粗面加工を施した前記接合面を、接着剤を介して、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材と接合する工程と、を有する静電チャック装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電チャック装置は、静電チャック部材となる誘電体の内部に静電吸着用内部電極が設けられたものである。静電チャック装置では、静電チャック部材の載置面に半導体ウエハ等の板状試料を載置し、板状試料と静電吸着用内部電極との間に静電気力を発生させて、板状試料を吸着固定する。
【0003】
静電チャック部材は、接着剤層を介して温度調整用ベース部材と接合・一体化され、温度調整用ベース部材によって温度が一定に保たれる。
従来、接着剤層の厚さを一定に保つために、接着剤層内には、スペーサが設けられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-058748号公報
【特許文献2】特開2017-059771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接着剤層内に、接着剤層とは組成が異なるスペーサを設けると、使用時の熱応力によって、スペーサが静電チャック部材もしくは温度調整用ベース部材がから剥離し、それに起因して、静電チャック部材の載置面の温度の均一性が損なわれたり、静電チャック部材に電圧を印加した際に放電が生じたりするという課題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、静電チャック部材の載置面の温度の均一性を長期間確保し、静電チャック部材に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制する静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、セラミックスからなる静電チャック部材と、金属からなる温度調整用ベース部材と、接着剤層と、を備える静電チャック装置であって、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材とが接合する接合面において、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材のいずれか一方に粗面を有し、前記粗面を有する前記接合面を、前記接着剤層を介して、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材が接合されていることを特徴とする静電チャック装置を提供する。
【0008】
本発明の一態様においては、前記粗面は、突起であってもよい。
【0009】
本発明の一態様においては、前記突起の高さを、25μm以上400μm以下としてもよい。
【0010】
本発明の一態様においては、前記粗面において、前記接合面の算術平均粗さ(Ra)を0.01μm以上2.0μm以下としてもよい。
【0011】
本発明の一様態は、セラミックスからなる静電チャック部材と、金属からなる温度調整用ベース部材とを、接着剤層を介して接合してなる静電チャック装置の製造方法であって、前記静電チャック部材における前記温度調整用ベース部材と接合する接合面のどちらかに凸部を形成する粗面加工を施す工程と、前記粗面加工を施した前記接合面を、接着剤を介して、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材と接合する工程と、を有する静電チャック装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、静電チャック部材の載置面の温度の均一性を長期間確保し、静電チャック部材に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制する静電チャック装置および静電チャック装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る静電チャック装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係る静電チャック装置および静電チャック装置の製造方法の実施の形態について説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、便宜上、特徴となる部分を拡大して示しており、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更できる。
【0015】
[静電チャック装置]
本発明の一実施形態に係る静電チャック装置は、セラミックスからなる静電チャック部材と、金属からなる温度調整用ベース部材と、接着剤層と、を備える静電チャック装置であって、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材とが接合する接合面において、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材のいずれか一方に粗面を有し、前記接着剤層を介して、前記静電チャック部材と前記温度調整用ベース部材が接合されているものである。
【0016】
「静電チャック装置」
まず、図1を参照しながら、本実施形態の静電チャック装置について説明する。
図1は、本実施形態における静電チャック装置を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の静電チャック装置1は、円板状の静電チャック部材2と、静電チャック部材2を所望の温度に調整する円板状の温度調節用ベース部材3と、これら静電チャック部材2および温度調整用ベース部材3を接合・一体化する接着剤層4と、を有している。
以下の説明においては、載置板11の載置面11a側を「上」、温度調整用ベース部材3側を「下」として記載し、各構成の相対位置を表すことがある。
【0017】
「静電チャック部材」
静電チャック部材2は、上面が半導体ウエハ等の板状試料を載置する載置面11aとされたセラミックスからなる載置板11と、載置板11の載置面11aとは反対の面側に設けられた支持板12と、これら載置板11と支持板12との間に挟持された静電吸着用電極13と、載置板11と支持板12とに挟持され静電吸着用電極13の周囲を囲む環状の絶縁材14と、静電吸着用電極13に接するように支持板12の貫通孔15内に設けられた給電端子16と、温度調節用ベース部材3の固定孔17内に設けられた電極ピン18と、を有している。
【0018】
「載置板」
載置板11の載置面11aには、半導体ウエハ等の板状試料を支持するための多数の突起が立設され(図示略)ている。さらに、載置板11の載置面11aの周縁部には、ヘリウム(He)等の冷却ガスが漏れないように、この周縁部を一周するように、断面四角形状の環状突起部が設けられていてもよい。さらに、この載置面11a上の環状突起部に囲まれた領域には、環状突起部と高さが同一であり横断面が円形状かつ縦断面が略矩形状の複数の突起部が設けられていてもよい。
【0019】
載置板11の材料は、体積固有抵抗値が1013Ω・cm以上かつ1015Ω・cm以下程度であり、機械的な強度を有し、しかも腐食性ガスおよびそのプラズマに対する耐久性を有するものであれば、特に限定されない。このような材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化アルミニウム(Al)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体等が挙げられるが、高温での誘電特性、高耐食性、耐プラズマ性、耐熱性の観点から、酸化アルミニウム(Al)-炭化ケイ素(SiC)複合焼結体が好ましい。
【0020】
「支持板」
支持板12は、載置板11と静電吸着用電極13を下側から支持している。
【0021】
支持板12の材料は、載置板11の材料と同一である。
【0022】
支持板12は、温度調節用ベース部材3と接合する面(接合面)12aが粗面となっている。具体的には、支持板12は、温度調節用ベース部材3と接合する面(接合面)12aの粗面は、突起19であることが好ましい。
突起19は、接着剤層4の厚さを均一にするために設けられたものである。
【0023】
突起19の形状としては、特に限定されず、例えば、接合面12a側から見た場合の形状が、三角形状、四角形状、五角形以上の多角形状、円形状、楕円形状等が挙げられる。
【0024】
接合面12aを基準とする突起19の高さは、25μm以上400μm以下であることが好ましく、50μm以上350μm以下であることがより好ましい。突起19の高さが25μm以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。一方、突起19の高さが400μm以下であれば、熱による応力緩和を吸収し、耐電圧の低下を防ぐことができるうえ、熱の伝達に影響がない。接合面12aを基準とする突起19の高さが前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
【0025】
突起19の高さ、表面粗さ輪郭形状複合測定器(商品名:SURFCOM NEX 東京精密社製)によって測定する。
【0026】
接合面12aの算術平均粗さ(Ra)は0.01μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。接合面12aの算術平均粗さ(Ra)が前記下限値以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。接合面12aの算術平均粗さ(Ra)が前記上限値以下であれば、アンカー効果による接着性の向上が得られ、さらに接着剤層4と接合面に気泡が残らないので好ましい。接合面12aの算術平均粗さ(Ra)が前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
【0027】
接合面12aの算術平均粗さ(Ra)は、東京精密社製の触針式の表面粗さ計を用いて、JIS B 0601:2013「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」に準じて測定する。
【0028】
突起19を接合面12a側から見た場合の外径は、0.05mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。突起19の外径が前記下限値以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。突起19の外径が前記上限値以下であれば、突起19が接合面に食い込み、変形することがなく、十分な接着強度が得られる。突起19を接合面12a側から見た場合の外径が前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
なお、接合面12a側から見た場合の突起19の形状が円形状である場合には円の直径、接合面12a側から見た場合の突起19の形状が楕円形状である場合には楕円の長径、接合面12a側から見た場合の突起19の形状が三角形状である場合には三角形の最も長い辺、接合面12a側から見た場合の突起19の形状が四角形状または多角形状である場合には最も長い対角線が、突起19の外径である。
【0029】
接合面12aにおいて、突起19が占める割合(占有率)は、接合面12aの全面積100%に対して、0.01%以上5.0%以下であることが好ましく、0.5%以上3.5%以下であることがより好ましい。突起19の占有率が前記下限値以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。突起19の占有率が前記上限値以下であれば、接着剤層の厚みにばらつきが発生しないうえ、接着強度も確保できる。接合面12aにおいて、突起19が占める割合(占有率)が前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
【0030】
「静電吸着用電極」
静電吸着用電極13では、電圧を印加することにより、載置板11の載置面11aに板状試料を保持する静電吸着力が生じる。
【0031】
静電吸着用電極13は、絶縁性物質と導電性物質の複合体である。
【0032】
静電吸着用電極13に含まれる絶縁性物質は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、酸化イットリウム(III)(Y)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)およびSmAlOからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
静電吸着用電極13に含まれる導電性物質は、炭化モリブデン(MoC)、モリブデン(Mo)、炭化タングステン(WC)、タングステン(W)、炭化タンタル(TaC)、タンタル(Ta)、炭化ケイ素(SiC)、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
「絶縁材」
絶縁材14は、静電吸着用電極13を囲繞して腐食性ガスおよびそのプラズマから静電吸着用電極13を保護するためのものである。
絶縁材14により、載置板11と支持板12とが、静電吸着用電極13を介して接合一体化されている。
【0035】
絶縁材14は、載置板11と支持板12の境界部、すなわち静電吸着用電極13形成部以外の外縁部領域を接合するために設けられたものである。絶縁材14の形状(絶縁材14を平面視した(厚さ方向から見た)場合の形状)は、特に限定されず、静電吸着用電極13の形状に応じて適宜調整される。
本実施形態の静電チャック装置1では、絶縁材14の厚さは、静電吸着用電極13の厚さと等しくなっている。
【0036】
絶縁材14は、絶縁性物質からなる。
絶縁材14を構成する絶縁性物質は、特に限定されないが、載置板11および支持板12の主成分と同じにすることが好ましく、例えば、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化イットリウム(Y)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)等が挙げられる。絶縁材14を構成する絶縁性物質は、酸化アルミニウム(Al)であることが好ましい。絶縁材14を構成する絶縁性物質が、酸化アルミニウム(Al)であることにより、高温での誘電特性、高耐食性、耐プラズマ性、耐熱性が保たれる。
【0037】
「給電端子」
給電端子16は、静電吸着用電極13に電流を供給するものである。
給電端子16の数、形状等は、静電吸着用電極13の形態、すなわち単極型か、双極型かにより決定される。
【0038】
「電極ピン」
電極ピン18は、給電端子16に電流を供給するものである。
【0039】
「温度調整用ベース部材」
温度調整用ベース部材3は、金属およびセラミックスの少なくとも一方からなる厚みのある円板状のものである。温度調整用ベース部材3の躯体は、プラズマ発生用内部電極を兼ねた構成とされている。温度調整用ベース部材3の躯体の内部には、水、Heガス、Nガス等の冷却媒体を循環させる流路21が形成されている。
【0040】
温度調整用ベース部材3の躯体は、外部の高周波電源22に接続されている。また、温度調整用ベース部材3の固定孔17内には、その外周が絶縁材料23により囲繞された電極ピン18が、絶縁材料23を介して固定されている。電極ピン18は、外部の直流電源24に接続されている。
【0041】
温度調整用ベース部材3を構成する材料は、熱伝導性、導電性、加工性に優れた金属、またはこれらの金属を含む複合材であれば特に制限されるものではない。温度調整用ベース部材3を構成する材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS)、チタン(Ti)等が好適に用いられる。
温度調整用ベース部材3における少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理またはポリイミド系樹脂による樹脂コーティングが施されていることが好ましい。また、温度調整用ベース部材3の全面が、前記のアルマイト処理または樹脂コーティングが施されていることがより好ましい。
【0042】
温度調整用ベース部材3にアルマイト処理または樹脂コーティングを施すことにより、温度調整用ベース部材3の耐プラズマ性が向上するとともに、異常放電が防止される。したがって、温度調整用ベース部材3の耐プラズマ安定性が向上し、また、温度調整用ベース部材3の表面傷の発生も防止することができる。
【0043】
「接着剤層」
接着剤層4は、静電チャック部材2と、温度調整用ベース部材3とを接着一体化するものである。
【0044】
接着剤層4は、例えば、シリコーン系樹脂組成物を加熱硬化した硬化体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等で形成されている。
シリコーン系樹脂組成物は、シロキサン結合(Si-O-Si)を有するケイ素化合物であり、耐熱性、弾性に優れた樹脂であるので、より好ましい。
【0045】
このようなシリコーン系樹脂組成物としては、特に、熱硬化温度が70℃~140℃のシリコーン樹脂が好ましい。
ここで、熱硬化温度が70℃を下回ると、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを対向させた状態で接合する際に、接合過程で硬化が十分に進まないことから、作業性に劣ることになるため好ましくない。一方、熱硬化温度が140℃を超えると、静電チャック部材2および温度調整用ベース部材3との熱膨張差が大きく、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3との間の応力が増加し、これらの間で剥離が生じることがあるため好ましくない。
【0046】
本実施形態の静電チャック装置1によれば、静電チャック部材2を構成する支持板12が、温度調節用ベース部材3と接合する面(接合面)12aに突起19を有するため、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを接合する接着剤層4の厚さを均一にすることができる。その上、スペーサを用いたときにおこる接着面の剥離を低減させることができる。その結果、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保し、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制できる。
【0047】
なお、本実施形態では、静電チャック部材2を構成する支持板12における温度調節用ベース部材3と接合する面(接合面)12aに突起19を有する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、温度調整用ベース部材における静電チャック部材と接合する面(接合面)に、上記の突起19と同様の突起を有していてもよい。
【0048】
「静電チャック装置の製造方法」
上述のような静電チャック部材2を用意する。
その静電チャック部材2における温度調整用ベース部材3と接合する面(接合面)2aを粗面加工する。言い換えれば、静電チャック部材2を構成する支持板12の接合面12aを粗面加工する。
【0049】
接合面12aを粗面加工する方法は、特に限定されないが、例えば、サンドブラスト加工、レシプロ加工、数値制御(NC)加工等が用いられる。
【0050】
接合面12aを粗面加工する工程において、上述のように、接合面12aに突起(凸部)19を形成することが好ましい。接合面12aに突起19を形成することにより、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。
【0051】
接合面12aを粗面加工する工程において、上述のように、突起の高さを、25μm以上400μm以下とすることが好ましく、50μm以上350μm以下とすることがより好ましい。突起19の高さが前記下限値以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。一方、突起19の高さが前記上限値以下であれば、熱による応力緩和を吸収し、耐電圧の低下を防ぐうえ、熱の伝達に影響がない。接合面12aを基準とする突起19の高さが前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
【0052】
接合面12aを粗面加工する工程において、上述のように、接合面12aの算術平均粗さ(Ra)を0.01μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.5μm以下とすることがより好ましい。接合面12aの算術平均粗さ(Ra)が前記下限値以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。接合面12aの算術平均粗さ(Ra)が前記上限値以下であれば、アンカー効果による接着性の向上が得られ、さらに接着剤層4と接合面に気泡が残らないので好ましい。接合面12aの算術平均粗さ(Ra)が前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
【0053】
また、接合面12aを粗面加工する工程において、突起19を接合面12a側から見た場合の外径を、0.05mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下とすることがより好ましい。突起19の外径が前記下限値以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。突起19の外径が前記上限値以下であれば、突起19が接合面に食い込み、変形することがなく、十分な接着強度が得られる。突起19を接合面12a側から見た場合の外径が前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
【0054】
さらに、接合面12aを粗面加工する工程において、接合面12aにて、突起19が占める割合(占有率)を、接合面12aの全面積100%に対して、0.01%以上5.0%以下であることが好ましく、0.5%以上3.5%以下であることがより好ましい。突起19の占有率が前記下限値以上であれば、接着剤層4の厚さを均一にすることができる。突起19の占有率が前記上限値以下であれば、接着剤層の厚みにばらつきが発生しないうえ、接着強度も確保できる。接合面12aにおいて、突起19が占める割合(占有率)が前記範囲内であれば、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保することができる。また、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制することができる。
【0055】
温度調整用ベース部材3の一主面(上面)3aの所定領域に、シリコーン系樹脂組成物からなる接着剤を塗布する。ここで、接着剤の塗布量を、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とが接合一体化できるように調整する。
この接着剤の塗布方法としては、ヘラ等を用いて手動で塗布する他、バーコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。
【0056】
上述のように粗面加工した接合面2aを、接着剤を介して、温度調整用ベース部材3と接合する。
より詳細には、温度調整用ベース部材3の一主面(上面)3aに接着剤を塗布した後、温度調整用ベース部材3側に接合面2aを向けて、静電チャック部材2と、接着剤を塗布した温度調整用ベース部材3とを重ね合わせる。
【0057】
また、電極ピン18を、温度調整用ベース部材3中に穿孔された固定孔17に挿入し嵌め込む。
次いで、静電チャック部材2を温度調整用ベース部材3に対して所定の圧力にて押圧し、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3を接合一体化する。これにより、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3が接着剤層4を介して接合一体化されたものとなる。
【0058】
以上により、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3が接着剤層4を介して接合一体化された静電チャック装置1が得られる。
【0059】
本実施形態の静電チャック装置の製造方法によれば、接合面12aを粗面加工することにより、静電チャック部材2と温度調整用ベース部材3とを接合する接着剤層4の厚さを均一にすることができる。その結果、静電チャック部材2の載置面(載置板11の載置面11a)の温度の均一性を確保し、静電チャック部材2に電圧を印加した際に放電が生じることを抑制できる静電チャック装置が得られる。
【0060】
なお、本実施形態では、静電チャック部材2を構成する支持板12における温度調節用ベース部材3と接合する面(接合面)12aに突起19を形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、温度調整用ベース部材における静電チャック部材と接合する面(接合面)に、上記の突起19と同様の突起を形成していてもよい。
【実施例0061】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
「実施例1」
(静電チャック装置の作製)
公知の方法により、内部に厚み20μmの静電吸着用内部電極13が埋設された静電チャック部2を作製した。
この静電チャック部2の載置板11は、炭化ケイ素を8.5質量%含有する酸化アルミニウム-炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は298mm、厚みは0.5mmの円板状であった。また、この載置板11の静電吸着面を、高さが40μmの多数の突起部16を形成することで凹凸面とし、これらの突起部16の頂面を板状試料Wの保持面とし、凹部と静電吸着された板状試料Wとの間に形成される溝に冷却ガスを流すことができるようにした。
【0063】
また、支持板12も載置板11と同様、炭化ケイ素を8.5質量%含有する酸化アルミニウム-炭化ケイ素複合焼結体であり、直径は298mm、厚みは2mmの円板状であった。
これら載置板11及び支持板12を接合一体化することにより、静電チャック部2の全体の厚みは2.5mmとなっていた。
【0064】
一方、直径350mm、高さ30mmのアルミニウム製の温度調整用ベース部3を、機械加工により作製した。この温度調整用ベース部3の内部には冷媒を循環させる流路(図示略)を形成した。
【0065】
次に、静電チャック部載置面の裏面側に、サンドブラスト加工法によって、φ0.5mm、高さ100μmの円柱状の突起を作成した。突起が占める割合(占有率)を、接合面の全面積100%に対して、1.0%(直径298mmの載置板の場合突起を3598個作製)とし、載置面の裏面に均一に配置されるように形成した。
【0066】
次いで、温度調整用ベース部上に、スクリーン印刷法によりシリコーン系樹脂組成物を塗布し、次いで、静電チャック部と温度調整用ベース部とをシリコーン系樹脂組成物を介して重ね合わせた。
次いで、静電チャック部と温度調整用ベース部との間隔が100μmになるまで落し込んだのち、110℃にて12時間保持し、シリコーン系樹脂組成物を硬化させて静電チャック部と温度調整用ベース部とを接合させ、実施例1の静電チャック装置を作製した。
【0067】
「接合面の表面粗さ(Ra)
シリコーン系樹脂組成物を塗布する前に、表面粗さ輪郭形状複合測定器(商品名:SURFCOM NEX 東京精密社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0068】
「実施例2」
突起部を温度調整用ベース部材に設けた以外は実施例1と同様にして、実施例2の静電チャック装置を作製した。結果を表1に示す。
【0069】
「比較例1」
実施例1において、静電チャック部載置板に凸部を設けず、幅2mm、長さ2mm、高さ100μmのポリイミド製のスペーサを用いた。なお、スペーサの添加量は接合面の全面積100%に対して、0.48%(直径298mmの載置板の場合85個のポリイミドスペーサを用いた)になるように調整した以外は、実施例1と同様にして比較例1の静電チャック装置を作製した。なお、ポリイミドスペーサの表面粗さは0.03~0.07μmであった。結果を表1に示す。
【0070】
「実装試験」
静電チャック装置をプラズマ処理装置に設置し、3000時間実装試験を行った。実装試験開始直後と終了直前の、載置面の温度を、サーモグラフィーTVS-200EX(日本アビオニクス社製)を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
以上の結果によると、実施例1、2は、実装試験前後でも、載置面の表面温度のばらつきの差が、比較例1と比較して小さくほとんど変化していない。
これは、スペーサを用いた場合、長時間の実装試験において、スペーサと静電チャックの載置面の裏面または、温度調整用ベース部材の界面に存在している接着剤層が、熱履歴によって膨張、収縮を繰り返すことで徐々に剥離し、部分的に熱伝導係数が変化ために発生したと考えられる。
以上から、本発明は有用である。
【符号の説明】
【0073】
1 静電チャック装置
2 静電チャック部材
3 温度調節用ベース部材
4 接着剤層
11 載置板
12 支持板
13 静電吸着用電極
14 絶縁材
15 貫通孔
16 給電端子
17 固定孔
18 電極ピン
19 突起
21 流路
22 高周波電源
23 絶縁材料
24 直流電源
図1