(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075052
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】基板保持体、基板処理装置および基板処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20220511BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20220511BHJP
C30B 25/12 20060101ALI20220511BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20220511BHJP
C23C 16/458 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/68 N
C30B25/12
C23C14/50 D
C23C16/458
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185584
(22)【出願日】2020-11-06
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄一
【テーマコード(参考)】
4G077
4K029
4K030
5F045
5F131
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB01
4G077EG04
4G077EG14
4G077HA12
4G077TA04
4G077TA12
4G077TF01
4G077TF02
4G077TF06
4K029AA04
4K029AA24
4K029BD01
4K029JA01
4K029JA05
4K030BA37
4K030CA04
4K030CA12
4K030GA02
4K030GA05
4K030JA01
4K030LA12
5F045AB06
5F045BB02
5F045BB08
5F045BB14
5F045DP03
5F045DP28
5F045EF02
5F045EM02
5F045EM09
5F131AA02
5F131AA22
5F131BA04
5F131CA02
5F131CA09
5F131CA45
5F131EA04
5F131GA05
5F131GA26
5F131GA42
(57)【要約】
【課題】基板を安定かつ継続して保持することができ、基板外周部に未成膜領域が生じ難い基板保持体、基板処理装置および基板処理方法を提供する。
【解決手段】基板1が平面部111aに載置され該平面部外周の直径が基板の外径以上である基板載置部111と、平面部外周端から垂直に延びる壁部112aと壁部上端から水平に延びる上面112bとで構成される周縁部112とを有するサセプタ110と、上面112bに載置されかつ平面部111aに対向した部位に開口部120aが設けられた蓋材120を備える基板保持体100であって、蓋材の開口部内壁面におけるサセプタ側端部近傍に該開口部径を基板の外径より大きくした大径部121が設けられ、開口部内壁面におけるサセプタ側端部近傍を除いた部位に該開口部径を基板の外径より小さくした小径部122が設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象となる基板が平面部に載置されかつ当該平面部外周の直径が上記基板の外径以上である基板載置部と、当該基板載置部を囲むと共に上記平面部の外周端から垂直方向に延びる壁部と当該壁部の上端から水平方向に延びる上面とで構成される周縁部を有するサセプタと、
当該サセプタにおける周縁部の上面に載置されかつ上記基板載置部の平面部に対向する部位に開口部が設けられた蓋材を備える基板保持体において、
上記蓋材の開口部内壁面におけるサセプタ側の端部近傍に当該開口部径を上記基板の外径より大きくした大径部が設けられ、かつ、上記開口部内壁面におけるサセプタ側の端部近傍を除いた部位に当該開口部径を基板の外径より小さくした小径部が設けられていることを特徴とする基板保持体。
【請求項2】
上記大径部の開口部径がサセプタ側方向に向かって漸増していることを特徴とする請求項1に記載の基板保持体。
【請求項3】
上記蓋材の開口部内壁面におけるサセプタ側の端部を面取り加工して上記大径部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の基板保持体。
【請求項4】
上記蓋材の厚み方向の長さをC(mm)、上記大径部の厚み方向の長さをD(mm)とした場合、
D(mm)=C/2(mm)に設定されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項5】
上記小径部の直径をφY(mm)、基板の外径をφW(mm)とした場合、
φW(mm)-1.0mm≦φY(mm)≦φW(mm)-0.5mmに設定されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項6】
上記基板載置部における平面部外周の直径をφX(mm)、基板の外径をφW(mm)とした場合、
φW(mm)<φX(mm)≦φW(mm)+0.5mmに設定されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項7】
上記基板の厚みをA(mm)、上記サセプタにおける壁部の厚みをB(mm)とした場合、
A(mm)≦B(mm)≦A(mm)+0.5mmに設定されていることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項8】
上記サセプタにおける周縁部の上面に上記蓋材が載置された状態でサセプタに蓋材を固定する固定手段を備えることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の基板保持体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の基板保持体を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項10】
化学気相蒸着法により上記基板に膜を成膜する成膜装置であることを特徴とする請求項9に記載の基板処理装置。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の基板保持体に上記基板を保持する基板保持工程と、
上記基板保持工程後、上記サセプタを回転させつつ上記基板を処理する処理工程と、
を有することを特徴とする基板処理方法。
【請求項12】
上記処理工程は、上記基板に膜を成膜する成膜工程であることを特徴とする請求項11に記載の基板処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板保持体、基板処理装置および基板処理方法に関し、例えば炭化珪素(SiC)のエピタキシャル膜を成膜することのできる基板処理装置、当該基板処理装置に備えることのできる基板保持体および当該基板保持体を用いる基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、珪素(Si)と炭素(C)で構成される化合物半導体材料である。SiCは絶縁破壊電界強度がSiの10倍、バンドギャップがSiの3倍と優れているだけでなく、デバイスの作製に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であること等から、Siの限界を超えるパワーデバイス用材料として期待されている。
【0003】
また、炭化珪素は、より薄い厚さでも高い耐電圧が得られるため、薄く構成することにより、ON抵抗が小さく、低損失の半導体が得られることが特徴である。
【0004】
エピタキシャル成長装置等の炭化珪素のエピタキシャル成長技術に使用される成膜装置では、常圧または減圧に保持された成膜室の内部に、例えばウエハを載置する。そして、ウエハを加熱しながら、成膜室内に、成膜のための原料となるガス(以下、「原料ガス」と略称する場合がある)を供給すると、ウエハの表面で原料ガスの熱分解反応および水素還元反応が起こり、ウエハ上にエピタキシャル膜が成膜される(例えば特許文献1)。
【0005】
エピタキシャルウェハを高い歩留まりで安定的に製造するには、均一に加熱されたウエハの表面に新たな原料ガスを次々に接触させて気相成長の速度を向上させる必要がある。このため、ウエハを高速回転させながらエピタキシャル成長させることが行われている。
【0006】
ところで、従来のSiCエピタキシャル成長装置では、ウエハへのSiCの成膜だけでなく、ウエハを保持するサセプタのおもて面にもSiC膜が堆積していた。おもて面にSiC膜が堆積したサセプタは、おもて面部とSiC膜が堆積していないうら面部との熱膨張率の違いにより変形する場合がある。この変形が生じた場合には、ウエハを安定して保持することができず、高速回転することができない。
【0007】
また、SiCエピタキシャル成膜処理を装置内で繰り返すことにより、サセプタのおもて面にSiCが成膜・堆積され続け、これによりサセプタ表面や内径部側壁に突起や段差を生じる場合がある。生じた段差や突起によって、サセプタにセットされたウエハをサセプタが安定して保持することができなくなり、これが成膜時におけるサセプタの回転によってウエハがサセプタからが外れてしまうことに繋がる。サセプタからウエハが外れてしまうと、ウエハが破損するおそれや、成膜炉内に破損したウエハが残存することになり、成膜時におけるパーティクルの一因ともなってしまう。
【0008】
以下、SiCのエピタキシャル成膜処理について具体的に説明すると、まず、成膜対象となるウエハはサセプタに設置され、ウエハが設置されたサセプタは、エピタキシャル成長装置における育成炉内の回転部上にセットされる。そして、成膜時には回転部上にセットされたウエハおよびサセプタを回転させ、ウエハに原料ガスが吹き付けられることでエピタキシャル成長し、成膜が進んでいく。
【0009】
成膜処理を繰り返し行うと、原料ガスの反応の影響を受け、ウエハ以外にもSiCの堆積が生じる。特に、サセプタのおもて面へのSiCの堆積は多く、堆積が進行すると、ウエハを載置するサセプタの載置部の面内で堆積したSiCが段差となり、ウエハを安定して保持することが困難となる場合がある。エピタキシャル成長による成膜時は、安定的な成膜を行うため、ウエハを回転させた上で原料ガスを吹き付けることが必要である。このため、サセプタの載置部に生じた段差の影響でウエハが不安定な保持状態になると、サセプタを回転させることでサセプタからウエハが飛び出すおそれがあり、飛び出しによる結果、ウエハの破損に繋がってしまう場合がある。
【0010】
そこで、サセプタへのSiCの付着を抑えることが理想となるが、ウエハのみに原料ガスを供給する制御をすることは、サセプタにウエハが保持されている点から構造的に困難である。尚、サセプタのみ温度を変更してSiCの付着を抑えるという手法も挙げられるが、サセプタへの熱伝導の影響を抑えることが難しく、現実的にはサセプタへの成膜を防止することは難しい。
【0011】
このため、ウエハを安定して保持できるように定期的にサセプタに付着したSiCを除去することが好ましいが、SiCは非常に硬い物質であり、サセプタに付着したSiCを容易に除去することができない。また、SiCの除去を行うとしても、多大なるコストおよび時間を要すことになる。このため、サセプタに付着したSiCを除去する頻度を高めることは好ましくない。
【0012】
このような技術的背景の下、本発明者は、サセプタへの炭化珪素の成膜・堆積を抑制し、基板(例えばウエハ)を安定かつ継続して保持することができる基板保持体と、当該基板保持体を備える基板処理装置、および、上記基板保持体を用いる基板処理方法を既に提案している(特許文献2参照)。
【0013】
すなわち、基板を安定かつ継続して保持することのできる上記基板保持体は、
図12に示すように処理対象となる基板1が平面部11aに載置されかつ当該平面部11a外周の直径が上記基板1の外径以上である基板載置部11と、当該基板載置部11を囲むと共に上記平面部11aの外周端から垂直方向に延びる壁部12aと当該壁部12aの上端から水平方向に延びる上面12bとで構成される周縁部12を有するサセプタ10と、当該サセプタ10における周縁部12の上面12bに載置されかつ上記基板載置部11の平面部11aに対向する部位に開口部20aが設けられた蓋材20を備えることを特徴とするものであった。尚、
図12中、符号30は蓋材20をサセプタ10に固定するネジ等の固定手段を示す。
【0014】
上記基板保持体によれば、蓋材20の作用によりサセプタ10への炭化珪素の成膜・堆積が抑制されるため基板1を安定かつ継続して保持することが可能になると共に、炭化珪素の除去作業を要さずにサセプタ10の長寿命化が図れるため当該サセプタ10を繰り返し使用することが可能となる。このため、炭化珪素のエピタキシャル成長による安定した成膜を安価にかつ長期的に行うことが可能な基板保持体、基板処理装置および基板処理方法を提供できる効果を有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2018-046149号公報
【特許文献2】特願2019-230377号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、その後の本発明者による研究、開発の結果、上記基板保持体には更なる改善の余地を有していることが判明した。
【0017】
すなわち、上記基板保持体においては、
図12に示すように蓋材20が基板1上面の外周部を覆うように設置されているため、基板1の上方側から供給される原料ガスの流れが上記蓋材20により阻まれて基板1の外周部に原料ガスが到達し難くなり、その結果、基板1外周部に幅1mm以上の未成膜領域を生じる場合があることが確認された。
【0018】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、特許文献2に記載された基板保持体の効果を具備し、かつ、基板の外周部に未成膜領域が生じない基板保持体、基板処理装置および基板処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
処理対象となる基板が平面部に載置されかつ当該平面部外周の直径が上記基板の外径以上である基板載置部と、当該基板載置部を囲むと共に上記平面部の外周端から垂直方向に延びる壁部と当該壁部の上端から水平方向に延びる上面とで構成される周縁部を有するサセプタと、当該サセプタにおける周縁部の上面に載置されかつ上記基板載置部の平面部に対向する部位に開口部が設けられた蓋材を備える基板保持体において、
上記蓋材の開口部内壁面におけるサセプタ側の端部近傍に当該開口部径を上記基板の外径より大きくした大径部が設けられ、かつ、上記開口部内壁面におけるサセプタ側の端部近傍を除いた部位に当該開口部径を基板の外径より小さくした小径部が設けられていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載の基板保持体において、
上記大径部の開口部径がサセプタ側方向に向かって漸増していることを特徴とし、
第3の発明は、
第2の発明に記載の基板保持体において、
上記蓋材の開口部内壁面におけるサセプタ側の端部を面取り加工して上記大径部が設けられていることを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明~第3の発明のいずれかに記載の基板保持体において、
上記蓋材の厚み方向の長さをC(mm)、上記大径部の厚み方向の長さをD(mm)とした場合、D(mm)=C/2(mm)に設定されていることを特徴とし、
第5の発明は、
第1の発明~第4の発明のいずれかに記載の基板保持体において、
上記小径部の直径をφY(mm)、基板の外径をφW(mm)とした場合、
φW(mm)-1.0mm≦φY(mm)≦φW(mm)-0.5mmに設定されていることを特徴とし、
第6の発明は、
第1の発明~第5の発明のいずれかに記載の基板保持体において、
上記基板載置部における平面部外周の直径をφX(mm)、基板の外径をφW(mm)とした場合、φW(mm)<φX(mm)≦φW(mm)+0.5mmに設定されていることを特徴とし、
第7の発明は、
第1の発明~第6発明のいずれかに記載の基板保持体において、
上記基板の厚みをA(mm)、上記サセプタにおける壁部の厚みをB(mm)とした場合、A(mm)≦B(mm)≦A(mm)+0.5mmに設定されていることを特徴とし、
また、第8の発明は、
第1の発明~第7発明のいずれかに記載の基板保持体において、
上記サセプタにおける周縁部の上面に上記蓋材が載置された状態でサセプタに蓋材を固定する固定手段を備えることを特徴とする。
【0021】
次に、本発明に係る第9の発明は、
基板処理装置において、
第1の発明~第8発明のいずれかに記載の基板保持体を備えることを特徴とし、
第10の発明は、
第9の発明に記載の基板処理装置において、
化学気相蒸着法により上記基板に膜を成膜する成膜装置であることを特徴とする。
【0022】
更に、本発明に係る第11の発明は、
基板処理方法において、
第1の発明~第8発明のいずれかに記載の基板保持体に上記基板を保持する基板保持工程と、
上記基板保持工程後、上記サセプタを回転させつつ上記基板を処理する処理工程と、
を有することを特徴とし、
第12の発明は、
第11の発明に記載の基板処理方法において、
上記処理工程は、上記基板に膜を成膜する成膜工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る基板保持体によれば、特許文献2に記載の基板保持体と同様、蓋材の作用によりサセプタへの炭化珪素の成膜・堆積が抑制されるため基板を安定かつ継続して保持することが可能になり、かつ、炭化珪素の除去作業を要さずにサセプタの長寿命化が図れるため当該サセプタを繰り返し使用することが可能となる。
【0024】
更に、上記蓋材の開口部内壁面におけるサセプタ側端部近傍に、当該開口部径を上記基板の外径より大きくした大径部が設けられているため、当該大径部の作用により、上方側から供給される原料ガスの流れが蓋材で阻まれることなく基板の外周部に原料ガスが到達し易くなり、かつ、上記蓋材の開口部内壁面におけるサセプタ側端部近傍を除いた部位に、当該開口部径を基板の外径より小さくした小径部が設けられているため、当該小径部の作用により、サセプタからの基板の飛び出しを確実に防止することができる。
【0025】
従って、炭化珪素のエピタキシャル成長による安定した成膜を安価にかつ長期的に行うことが可能な基板保持体、基板処理装置および基板処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る基板保持体の一例を示す構成断面図。
【
図2】
図2(a)は本発明に係る基板保持体の一部を構成するサセプタの構成断面図、
図2(b)は上記サセプタの平面図。
【
図4】
図4(a)は本発明に係る基板保持体の一部を構成する蓋材の構成断面図、
図4(b)は上記蓋材の平面図。
【
図6】化学気相蒸着法により基板に膜を成膜する成膜装置(エピタキシャル成長装置)の構成断面図。
【
図7】サセプタに載置された基板(ウエハ)上方側から供給される原料ガスの流れを示す説明図。
【
図8】炭化珪素が付着したサセプタに基板(ウエハ)を載置した状態を示す概略断面図。
【
図9】本発明に係る基板保持体のサセプタと蓋材における寸法例を示す説明図。
【
図10】
図10(a)と
図10(b)は蓋材の開口部内壁面のサセプタ側端部近傍に設けられる大径部121の変形例を示す概略断面図、
図10(c)と
図10(d)は上記開口部内壁面のサセプタ側端部近傍を除いた部位に設けられる小径部122の変形例を示す概略断面図。
【
図11】累積成膜量あたりの基板の飛び出し回数を示すグラフ図。
【
図12】特許文献2に記載された基板保持体の一例を示す構成断面図。
【
図13】蓋材の開口部内壁面に大径部を有しない基板保持体の蓋材20の厚みの違いが与える膜厚への影響を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は、実施形態によって何ら限定されるものではない。
【0028】
[基板保持体]
本発明に係る基板保持体としては、
図1に示す基板1を保持する基板保持体100が挙げられ、サセプタ110と、蓋材120とを備える。
【0029】
〈サセプタ110〉
図2はサセプタ110の概略図であり、
図2(a)はサセプタ110の構成断面図、
図2(b)はサセプタ110の平面図である。
【0030】
サセプタ110は、処理対象となる基板1が平面部111aに載置されかつ当該平面部111a外周の直径が上記基板1の外径以上である基板載置部111と、当該基板載置部111を囲むと共に上記平面部111aの外周端から垂直方向に延びる壁部112aと当該壁部112aの上端から水平方向に延びる上面112bとで構成される周縁部112を有する。また、基板載置部111の平面部111aは、周縁部112の上面112bより凹んだ円形状であり、上記上面112bは所定の幅を有する平面状である。
【0031】
基板載置部111の平面部111aに基板1を載置してサセプタ110を回転させた場合、基板1の側面にある周縁部112の壁部112aが基板1のずれや飛び出しを防止する役目を担うことができる。
【0032】
尚、
図9に示す基板保持体において、上記基板載置部(図示せず)における平面部外周の直径をφX(mm)、基板1の外径をφW(mm)とした場合、
φW(mm)<φX(mm)≦φW(mm)+0.5mmに設定されることが好ましい。
【0033】
また、本発明に係るサセプタとしては、サセプタ110の他にも、
図3に示す複数の基板載置部211を有するサセプタ210が挙げられ、複数の基板を基板載置部211の平面部211aに載置することができる。サセプタ210は、サセプタ110と同様、平面部211a外周の直径が上記基板の外径以上であり、上記平面部211aの外周端から垂直方向に延びる壁部212aと当該壁部212aの上端から水平方向に延びる上面212bとで構成される周縁部212を有する。また、基板載置部211の平面部211aは、周縁部212の上面212bより凹んだ円形状であり、上記上面212bは所定の幅を有する平面状である。
【0034】
サセプタ110、210としては、例えばSiCのエピタキシャル成長装置に用いる場合には、カーボン製のサセプタを用いることができる。また、他の用途の場合には、それぞれの用途に適した素材のサセプタを用いることができる。
【0035】
尚、処理対象となる基板としては例えば円盤状のウエハが挙げられるが、特に限定されず、何らかの機能を実現するための部品等を配置することのできる板であってもよい。
【0036】
〈蓋材120〉
図4は蓋材120の概略図であり、
図4(a)は蓋材120の構成断面図、
図4(b)は蓋材120の平面図である。
【0037】
蓋材120は、上記サセプタ110における基板載置部111の平面部111a(
図1参照)に対向する部位に開口部120aを有しており、開口部120a内壁面におけるサセプタ110側の端部近傍に当該開口部径を上記基板の外径より大きくした大径部121が設けられていると共に、上記開口部120a内壁面におけるサセプタ110側の端部近傍を除いた部位に当該開口部径を基板の外径より小さくした小径部122が設けられている。尚、蓋材120の外径は、サセプタ110の外径と略同一であってもよい。
【0038】
そして、
図1に示すように、基板載置部111の平面部111aに基板1を載置し、かつ、サセプタ110における周縁部112の上面112bに蓋材120を載置した状態で基板保持体100を回転させた場合、基板1の側面にある周縁部112の壁部112aが基板1のずれや飛び出しを防止する役目を担うことができる。
【0039】
更に、上記蓋材120の開口部120a内壁面におけるサセプタ110側端部近傍に、当該開口部径を上記基板1の外径より大きくした大径部121が設けられているため、当該大径部121の作用により、上方側から供給される原料ガスの流れが蓋材120で阻まれることなく基板1の外周部に原料ガスが到達し易くなり、かつ、上記蓋材120の開口部120a内壁面におけるサセプタ110側端部近傍を除いた部位(
図1に示すように上記開口部120a内壁面におけるサセプタ110側とは反対側の端部)に、当該開口部径を基板1の外径より小さくした小径部122が設けられているため、当該小径部122の作用により、基板保持体100の回転によるサセプタ110からの基板1の飛び出しを確実に防止できると共に、基板保持体100の外部より蓋材120の開口部120aを介して基板1に所定の処理を施すことができる。
【0040】
尚、蓋材120の開口部120a内壁面に設けられる上記大径部121と小径部122の形状については、
図1に示す形状の他にも、
図10に示す各種形状が挙げられる。
【0041】
上記大径部121の形状としては、
図10(a)(b)が例示され、上記小径部122の形状としては、
図10(c)(d)が例示される。
【0042】
また、本発明に係る蓋材としては、蓋材120の他にも、
図5に示す複数の開口部220aを有する蓋材220が挙げられ、複数の基板の飛び出しを防止することができる。蓋材220は、蓋材120と同様、各開口部220a内壁面におけるサセプタ210(
図3参照)側の端部近傍に当該開口部径を上記基板の外径より大きくした大径部(図示せず)が設けられていると共に、各開口部220a内壁面におけるサセプタ210側の端部近傍を除いた部位に当該開口部径を基板の外径より小さくした小径部(図示せず)が設けられている。また、蓋材220の外径は、
図3に示した複数の基板載置部211を有する上記サセプタ210の外径と略同一であってもよい。
【0043】
蓋材120、220としては、例えばSiCのエピタキシャル成長装置に用いる場合には、カーボン製の蓋材を用いることができる。また、他の用途の場合には、それぞれの用途に適した素材の蓋材を用いることができる。
【0044】
〈固定手段〉
図1に示す基板保持体100は、
図12に示す固定手段30と同様、サセプタ110における周縁部112の上面112bに蓋材120が載置された状態でサセプタ110に固定する固定手段(図示せず)を備えることができる。固定手段によって蓋材120をサセプタ110に固定することで、基板保持体100を回転させたときの基板1の飛び出しをより確実に防止することができる。尚、
図5に示した蓋材220をサセプタ210に固定する場合にも、同様に固定手段を用いることができる。
【0045】
固定手段の固定形態としては、蓋材をサセプタに固定することができれば、特に限定されない。例えば、
図12に示す固定手段30のように、釘、ネジ、ネイルのような形状のものでもよく、ボルトとナットからなる締結部材や、クリップ、クランプ等によって蓋材とサセプタを固定してもよい。
【0046】
固定手段の素材としては、例えばSiCのエピタキシャル成長装置に用いる場合には、カーボン製の固定手段を用いることができる。また、他の用途の場合には、それぞれの用途に適した素材の固定手段を用いることができる。
【0047】
(基板保持体100の使用例)
以下、基板保持体100の使用例について説明する。
図6は、化学気相蒸着法により基板1に炭化珪素のエピタキシャル膜を成膜する成膜装置(エピタキシャル成長装置1000)の構成断面図である。エピタキシャル成長装置1000は、成膜室1100を形成するボックス型の断熱材1200と、原料ガスを成膜室1100へ導入する原料ガス導入口1300と、基板載置部111の平面部に基板1が載置されたサセプタ110を保持して回転させる回転ステージ1400を少なくとも備える。
【0048】
エピタキシャル成長装置1000を用いて基板1にエピタキシャル膜を成長させる手順を説明すると、例えば、エピタキシャル成長装置1000の成膜室1100内にて、基板1はサセプタ110における基板載置部111の平面部に載置される。または、基板1が載置されたサセプタ110が、エピタキシャル成長装置1000の成膜室1100へセットされる。その後、成膜室1100内の温度を指定温度まで上昇させる。温度上昇後に基板1が載置されたサセプタ110は、矢印Aで示す回転のように回転ステージ1400により回転し、原料ガス導入口1300より矢印Bで示す方向に成膜室1100へ導入される原料ガスを基板1に吹き付けることで、成膜を行うことができる。
【0049】
図7は、サセプタ110に載置された基板1の上方側から供給される原料ガスの流れを示した説明図である。
【0050】
基板1にエピタキシャル膜を成長させる場合、原料ガスは基板1の上方側から基板1のおもて面1aへ吹きつけられることになる。これにより、基板1の表面での反応により成膜が進むことになるが、原料ガスは基板1が回転することにより遠心力の影響を受け、基板1のおもて面1a全体へと行き渡らせることができる。基板1のおもて面1a中心から基板1の端部1bへの原料ガスの流れにおいて、蓋材(図示せず)の開口部内壁面におけるサセプタ110側端部に設けられた上記大径部の作用によって端部1bまで到達した原料ガスは、サセプタ110の壁部112aに到達する。原料ガスの流れは、壁部112aに阻まれることによって基板1の端部1b付近において対流が生じ、この対流が、基板1のおもて面1a内でのエピタキシャル膜の膜厚分布にバラつきが生じる一因となることがある。よって、この対流を生じさせないよう、基板1のおもて面1aとサセプタ110の上面112bは、段差が無く同一平面上にあることが好ましいが、サセプタ110の回転により基板1の飛び出しが防止できるようにする必要もある。
【0051】
そこで、
図9に示す基板保持体において、基板1の厚みをA(mm)、サセプタ110における壁部112aの厚みをB(mm)とした場合、
A(mm)≦B(mm)≦A(mm)+0.5mmの条件を満たすように周縁部112の高さを設定することができる。
【0052】
このように設定することにより、基板1に吹付けられる原料ガスの自然な流れを阻害することなく、異常な成膜を抑制することができ、基板1の成膜対象面における成膜の偏りを抑えて安定的な成膜を維持することができる。また、成膜処理中に、載置された基板1の側面への原料ガスの侵入を阻止または抑制できることにより、基板載置部111や壁部112aへの炭化珪素の付着や堆積を防止または抑制することができる。
【0053】
尚、A(mm)≦B(mm)≦A(mm)+0.5mmの条件が満たされない場合、原料ガスの自然な流れを阻害するおそれがあり、その結果として基板1の成膜対象面における成膜の偏りが生じ、安定的な成膜を維持することが困難となることがある。また、成膜処理中に載置された基板1の側面へ原料ガスが侵入するおそれがあり、これにより基板載置部111や壁部112aへの炭化珪素の付着や堆積が生じるおそれがある。
【0054】
図8に、エピタキシャル成長装置1000による成膜処理を繰り返し行うことで、炭化珪素300が付着したサセプタ110に基板1を載置した状態の概略断面図を示す。
【0055】
成膜処理を繰り返し行うことで、サセプタ110の基板載置部111や壁部112aに炭化珪素300が付着し堆積していくことで、基板1を保持するために重要な基板載置部111や壁部112aにおいて炭化珪素300による突起や段差が生じることになる。このような突起や段差が生じると、基板載置部111に基板1を載置しても、基板載置部111と基板1との間に隙間ができる等により基板1が不安定な状態で載置されてしまう。この状態で成膜室1100内においてサセプタ110を回転させと、サセプタ110が基板1をしっかりと保持することができず、サセプタ110から基板1が飛んでしまう場合がある。この場合には、成膜室110の内壁への衝突等により、基板1の破損が生じてしまうおそれがある。また、飛んでしまった基板1には成膜の制御ができないため、所望のエピタキシャル膜を成長させることができない。そして、先に述べたように、サセプタ110に付着した炭化珪素300の除去には多大なるコストおよび時間を要すことから、炭化珪素300を除去するメンテナンスの頻度を上げることは好ましくない。
【0056】
但し、基板保持体100を使用することで、上記問題を解消することができる。
【0057】
すなわち、サセプタ110のみならず蓋材120を備える基板保持体100であれば、蓋材120があることで原料ガスが基板1の側面を介して基板載置部111や壁部112aへ炭化珪素が付着することを防止できる。このため、基板保持体100を繰り返し使用しても、基板1を安定してしっかりと保持し続けることができ、基板1が飛んでしまうことを防止できるため、エピタキシャル成長装置1000に設置した全ての基板1においてエピタキシャル膜を成膜できることで歩留まりを上げることができる。
【0058】
また、基板載置部111や壁部112aへ炭化珪素が付着しにくいため、サセプタ110を長寿命化させて繰り返し使用できる。また、炭化珪素300を除去するためのメンテナンスの回数が減る、またはメンテナンス不要となることで、成膜にかかるコストを抑えることができる。そのため、炭化珪素のエピタキシャル成長による安定した成膜を、安価にかつ長期的に行うことができる。
【0059】
更に、上記基板保持体100においては、蓋材120の開口部120a内壁面におけるサセプタ110側端部近傍に、当該開口部径を基板1の外径より大きくした大径部121が設けられているため、上方側から供給される原料ガスの流れが蓋材120で阻まれることなく基板1の外周部に原料ガスが到達し易くなり、かつ、上記蓋材120の開口部120a内壁面におけるサセプタ110側端部近傍を除いた部位に、当該開口部径を基板1の外径より小さくした小径部122が設けられているため、基板保持体100の回転によるサセプタ110からの基板1の飛び出しを確実に防止することができる。
【0060】
尚、
図9に示す基板保持体において、蓋材120の厚み方向の長さをC(mm)、上記大径部121の厚み方向の長さをD(mm)とした場合、
D(mm)=C/2(mm)に設定されることが好ましい。
【0061】
このように設定されることで、基板1に吹付けられる原料ガスの自然な流れを阻害することなく、異常な成膜を抑制することができ、基板1の成膜対象面における成膜の偏りを抑えて安定的な成膜を維持することができる。また、原料ガスの流れを阻害しないよう、蓋材120の厚みはできるだけ均一であることが好ましく、例えば厚みの誤差を厚みの平均の±0.1mm以内に設定することができる。
【0062】
また、上記蓋材120の開口部120a内壁面におけるサセプタ110側端部近傍を除いた部位に設けられる小径部122については、以下の要件を満たすことが好ましい。
【0063】
すなわち、
図9に示す基板保持体において、上記小径部122の直径をφY(mm)、基板1の外径をφW(mm)とした場合、
φW(mm)-1.0mm≦φY(mm)≦φW(mm)-0.5mmの条件を満たすことが好ましい。
【0064】
この条件を満たすことにより、仮に基板載置部111や壁部112a等に炭化珪素300が付着して段差等が生じた場合であっても、サセプタ110の回転による基板1の飛び出しを防止することができる。また、基板1の処理対象面積が過度に狭くならないため、例えば基板1にエピタキシャル膜を成膜させる場合において、その成膜面積が過度に狭くはならず、エピタキシャル基板の製造効率への影響はない。
【0065】
尚、炭化珪素のエピタキシャル成長装置1000における基板保持体100の使用例を主として挙げたが、本発明の基板保持体としては他の用途も考えられる。本発明の基板保持体は、基板を回転させて処理する場合に有用であり、例えば、基板を回転させて炭化珪素の多結晶膜を成膜する成膜装置や、基板の塗布対象面に所定の処理液をスピンコートするスピンコータ、基板の洗浄対象面を洗浄液で洗浄した後に基板を回転させて洗浄液を除去する仕組みを備える基板の洗浄装置等にも基板保持体100を用いることができる。
【0066】
[基板処理装置]
次に、本発明に係る基板処理装置の例について説明する。本発明の基板処理装置は、上記した本発明の基板保持体を備えるものである。
【0067】
基板処理装置としては、基板保持体を備えるものであれば特に限定されない。例えば、化学気相蒸着法により前記基板に膜を成膜する成膜装置であってもよく、具体的には、成膜装置として
図6に示すエピタキシャル成長装置1000であれば、炭化珪素製の基板にエピタキシャル膜を成膜することができる。
【0068】
また、本発明の基板保持体は、基板を回転させて処理する場合に有用であることから、本発明の基板処理装置としては、基板の塗布対象面に所定の処理液をスピンコートするスピンコータであってもよい。更に別の態様としては、基板の洗浄対象面を洗浄液で洗浄した後に基板を回転させて洗浄液を除去する仕組みを備える基板の洗浄装置であってもよい。
【0069】
[基板処理方法]
次に、本発明に係る基板処理方法の例について説明する。本発明の基板処理方法は、上記した本発明の基板保持体に基板を保持する基板保持工程と、基板保持工程後、サセプタを回転させつつ基板を処理する処理工程と、を含む。
【0070】
処理工程は、基板に膜を成膜する成膜工程であってもよい。例えば、本発明の基板処理方法として、エピタキシャル成長装置1000を用いて基板1にエピタキシャル膜を成長させる基板処理方法を例示して説明する。
【0071】
〈基板保持工程〉
基板保持工程としては、例えば、エピタキシャル成長装置1000の成膜室1100内にて、基板1をサセプタ110の基板載置部111に載置した後、蓋材120を被せて、適宜固定手段(図示せず)でサセプタ110と蓋材120を固定する工程が挙げられる。または、成膜室1100の外部にて、基板1をサセプタ110の基板載置部111に載置した後、蓋材120を被せて、適宜固定手段(図示せず)でサセプタ110と蓋材120を固定する工程が挙げられる。この場合には、基板保持工程後に基板保持体100がエピタキシャル成長装置1000の成膜室1100へセットされる。
【0072】
〈処理工程〉
処理工程としては、例えば、成膜工程の場合には、基板保持工程後、成膜室1100内の温度を指定温度まで上昇させる。温度上昇後に基板1が載置された基板保持体100を、矢印Aで示す回転のように回転ステージ1400により回転させ、原料ガス導入口1300より矢印Bで示す方向に成膜室1100へ導入される原料ガスを基板1に吹き付けることで、成膜処理を行うことができる。
【0073】
処理工程は成膜工程に限定されず、例えば、スピンコータを用いる場合には、基板1の塗布対象面に所定の処理液をスピンコートする工程であってもよい。更に別の態様としては、基板の洗浄装置を用いる場合には、基板1の洗浄対象面を洗浄液で洗浄した後に基板を回転させて洗浄液を除去する工程であってもよい。
【0074】
(その他の工程)
本発明の基板処理方法は、基板保持工程と処理工程の他にも、更なる工程を含んでもよい。例えば、処理対象となる基板1を清浄な状態とするような養生工程や、処理工程後に基板への処理が十分であったか否かを判定する判定工程等が挙げられる。
【実施例0075】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。但し、本発明は、これ等の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0076】
[評価の内容]
図6に示すエピタキシャル成長装置1000を使用し、サセプタ110および蓋材120を備える基板保持体100(
図1参照)に基板1を保持してエピタキシャル成長膜の成膜処理した場合と、従来のように蓋材120は使用せずにサセプタ110に基板1を載置してエピタキシャル成長膜の成膜処理をした場合とについて、基板1の飛び出しの有無およびエピタキシャル成長膜の膜厚への影響について、評価した。
【0077】
尚、評価においては、基板1の保持に基板保持体100を用いるか、サセプタ110を用いるかのみを違いとし、基板1や、原料ガスの組成や混合比、原料ガスの流量や吹き付け時間、基板1の回転速度等の成膜条件は同一として、成膜を繰り返し行った。
【0078】
〈基板1の飛び出しの評価〉
エピタキシャル成長装置1000により基板1への成膜処理を繰り返し、累積成膜量あたりの基板1の飛び出し回数を評価した。
【0079】
尚、基板1は直径152.4mm(6インチ)、厚さ0.5mmの炭化珪素単結晶ウエハを使用した。サセプタ110は、カーボン製で、直径163mm、基板載置部111における平面部111aの直径153mm、周縁部112の幅は5mm、基板載置部111の厚みは2mm、壁部112aの高さは基板1の厚さに合わせて0.5mmとした。
【0080】
そして、蓋材120は、カーボン製で、厚みは均一で0.5mm、蓋材120の開口部内壁面に設けられる小径部122の直径は基板1の直径よりも0.3mm小さい152.1mm、蓋材120の直径はサセプタ110と同様に163mmのリング形状であり、リングの幅は5.45mmとした。また、固定手段として、ネジ頭の出っ張りを抑えたカーボン製の低頭ネジを使用し、均等に4か所の部分でネジ止めしてサセプタ110と蓋材120を固定した。
【0081】
また、成膜処理においては、基板保持体100およびサセプタ110は交換せずに、当初から試験を終了するまで繰り返し使用した。
【0082】
結果を
図11に示す。
図11では横軸がエピタキシャル成長膜を成膜した累積成膜量であり、白抜きのグラフが基板保持体100を使用した場合で、黒塗りのグラフがサセプタ110を使用した場合である。また、「100μm」の項目は成膜処理1回目から累積成膜量が100μmまでの間に発生した基板1の飛び出し回数を表示している。「300μm」の項目は累積成膜量が100μmから300μmまでの間に発生した基板1の飛び出し回数を表示している。500μm~1500μmの項目についても同様であり、各項目について、10回ずつ成膜処理を行った。
【0083】
図11の結果より、蓋材120を使用せずにサセプタ110を使用した場合には、累積成膜量が300μmの項目までは基板1の飛び出しは認められないものの、累積成膜量が500μmを超えて急激に基板1の飛び出しの発生頻度が上がることが分かった。成膜処理後には、その都度、基板1が飛び出したサセプタ110の状態を確認したところ、基板載置部111の平面部111a表面や壁部112aに炭化珪素が徐々に付着し、累積成膜量が500μmを超えると、この付着した炭化珪素が段差および突起へと成長していることが確認され、これ等の段差や突起が基板1の飛び出しの要因となったことは明らかであった。
【0084】
一方で、基板保持体100を使用した場合においては、成膜処理の開始から累積成膜量が1500μmの状態下まで、基板1の飛び出しが一度も発生しなかった。特に、蓋材120があることで、サセプタ110の基板載置部111や壁部112aには炭化珪素がほとんど付着していなかった。また、繰り返しの成膜処理の終盤において、基板載置部111や壁部112aに炭化珪素が付着して段差や突起が生じた場合であっても、蓋材120があることで基板1の飛び出しを防止することができた。
【0085】
〈蓋材120の開口部内壁面に設けられた大径部121の膜厚への影響の評価〉
ここでは、
図1に示す基板保持体100(蓋材120の開口部内壁面に大径部121と小径部122を有する)、および、
図12に示す基板保持体10(蓋材20の開口部内壁面に大径部を有しない)を用い、かつ、開口部内壁面に大径部を有しない基板保持体10については厚みが0.5mmから2.0mmまで異なる蓋材20を用意し、各基板保持体としてエピタキシャル成長膜の成膜処理を1回行い、基板1にエピタキシャル成長膜を成膜した。そして、得られたエピタキシャル成長膜の膜厚を測定し、
図1に示す基板保持体100と
図12に示す基板保持体10を使用した場合のエピタキシャル成長膜の膜厚の平均値と比較し、膜厚の偏りについて評価した。
【0086】
(1)基板保持体10を使用した場合
結果を
図13に示す。
図13のグラフ図では、蓋材20の厚みを横軸とし、0mmには蓋材20を使用せずにサセプタ110を使用した場合におけるエピタキシャル成長膜の膜厚の平均値を100%として示した。
【0087】
そして、この膜厚の平均値と、蓋材20を用いて成膜したエピタキシャル成長膜のうち、最も厚みのある部分の膜厚とを比較して、膜厚が1.2倍厚くなった場合を120%、1.4倍厚くなった場合を140%としてプロットした。
【0088】
基板保持体10を使用した場合、蓋材20の厚みが1mm以下であれば、
図13のグラフ図に示すように成膜されたエピタキシャル成長膜の厚みはほぼ均一であり、蓋材20を使用しなかった場合と同様の膜厚のものを得ることができた。基板保持体10を使用した場合、蓋材20の厚みが1mm以下であれば、蓋材20が原料ガスの自然な流れを阻害せず、蓋材20が無い状態と殆ど変わらないことを指し示している。
【0089】
(2)基板保持体100を使用した場合
他方、蓋材120の開口部内壁面に大径部121を有する基板保持体100を使用した場合、上記大径部121の作用により、上方側から供給される原料ガスの流れが蓋材120で阻まれることなく原料ガスが基板1の外周部に到達し易いため、蓋材120の厚みC(
図9参照)が1mm以上であっても、大径部121の厚み方向の長さD(
図9参照)がC/2に設定されていれば成膜されたエピタキシャル成長膜の厚みはほぼ均一であることが確認された。
本発明によれば、サセプタへの炭化珪素の成膜・堆積が抑制され、サセプタからの基板の飛び出しを防止できると共に、基板外周部へ原料ガスを均等に到達させることが可能なため、炭化珪素のエピタキシャル成長による安定した成膜を安価にかつ長期的に行うことができる基板保持体として利用される産業上の利用可能性を有している。