(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075129
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】固体電解質を用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220511BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20220511BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20220511BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/054
H01M10/052
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020185715
(22)【出願日】2020-11-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省・科学技術試験研究委託事業「実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点」に係る産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155516
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 亜子佳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
(72)【発明者】
【氏名】中本 康介
(72)【発明者】
【氏名】猪石 篤
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 重人
(72)【発明者】
【氏名】今野 巧
(72)【発明者】
【氏名】吉成 信人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆文
(72)【発明者】
【氏名】池田 征明
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA11
5G301CA14
5G301CA27
5G301CA30
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AL15
5H029AM12
5H029HJ02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イオン伝導度が高く、さらに製造コストが低く、熱安定性の高い固体電解質を活用し、また資源量が多く、安価であるナトリウムやカリウムを用いた全固体二次電池を提供する。
【解決手段】非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いた二次電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いた二次電池。
【請求項2】
前記固体電解質として、Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnから選択される1種の金属(M1)とZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuから選択される1種の金属(M2)と配位子からなるアニオン性異種金属錯体が、集積して結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在する非クーロン性イオン固体を用いた請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記固体電解質として、下記一般式(1)で表される非クーロン性イオン固体を用いた請求項1又は2に記載の二次電池。
(X)l[(M1)4(M2)4(Am)12(E)m]・nH2O (1)
(式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr、Pd、Pt又はMnを示し;M2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示し;Xはカチオンを示し;Amはアミノ酸を示し;EはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-、I-又はH-を示し;lはXのイオン価との積が4~14になる数を示し;mは0又は1の数を示し;nは1~100の数を示す。)
【請求項4】
前記一般式(1)中、M1が、Rh、Ir又はCoを示し、M2がAg又はZnを示す請求項3記載に記載の二次電池。
【請求項5】
前記一般式(1)中、Amが、チオール基を有するアミノ酸である請求項3又は4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記一般式(1)中、Amが、システイン、ペニシラミン及びホモシステインから選ばれるアミノ酸である請求項3~5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記一般式(1)中、Xが、第1族又は第2族に属する金属のカチオンである請求項3~6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記一般式(1)中、Xが、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+である請求項3~7のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記一般式(1)中、Xが、Li+、Na+、K+である請求項3~8のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項10】
前記一般式(1)中、Xが、Na+である請求項3~9のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項11】
前記一般式(1)中、Xが、K+である請求項3~9のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項12】
正極と負極を備えた、請求項1~11のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電解質を用いた二次電池に関する。詳しくは非クーロン性イオン固体を電解質として用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォン、ノートパソコンなどの携帯機器から電気自動車、又太陽電池、風力発電の蓄電などの需要に向けて、高容量高性能二次電池の開発が行われている。その様な状況のなか、リチウムイオン電池は電解液の漏洩や発火などに対する安全性の確保が大きな課題となっている。現在、構成要素が全て固体からなる全固体二次電池は安全対策が比較的容易と考えられ、研究開発が盛んに行われている。例えば、Li7La3Zr2O12(非特許文献1)どの酸化物系固体電解質やThio-LISICON(非特許文献2)などの硫化物系固体電解質などはイオン伝導性の向上が確認され、実用化が図られている。しかし、硫化物系固体電解質は水分による分解が発生するなどの課題が存在する。他に、酸化物系固体電解質は全固体二次電池の製造プロセス時に高温での加圧が必要であり、製造コストが高いことや高温での分解などの問題点がある。他に、有機材料を用いた固体電解質の提案もなされているが、イオン伝導性が比較的低く、特に低温での性能の低下が大きく、安定性が悪いなどの問題点が挙げられていた。そのため、イオン伝導度が高く、さらに二次電池製造のコストが低く、安定性の高い新しい固体電解質の開発が求められている。その中で、新しいイオン性固体として非クーロン性イオン固体がイオン二次電池などの電気化学的デバイスに活用できるとの提案がなされていた。非クーロン性イオン固体は室温において10-2S/cmオーダーの非常に高いカリウムイオン伝導度を示していたが、具体的な全固体二次電池としての活用はなされていなかった(非特許文献3、特許文献1)。
一方、二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池は高電圧で高エネルギー密度での充放電が可能であり、非常に多く実用されている。しかし、リチウムは資源量が限定されており、高価であるため、今後も伸び続ける蓄電池としては課題が残っている。そこで、リチウムに代わり資源量が多く、安価であるナトリウムイオンやカリウムイオン二次電池の開発が検討されている。カリウムイオンを活用した全固体電池は殆ど報告がなく、例えばβ”-Al2O3(非特許文献4)、K2Fe4O7(非特許文献5)又はポリマー電解質(非特許文献6及び非特許文献7)のみであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/079831号
【特許文献2】米国特許出願公開第2014/0326007号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Angew.Chem.Int.Ed.2007年,第46巻,p.7778-7781
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc,2001年.第148巻、A742
【非特許文献3】N.Yoshinariら,Chem.Sci,2019年、第10巻、p.587
【非特許文献4】X.Lu,M.E.Bowden,V.L.Sprenkle,and J.Liu,Adv.Mater,2015年、第27巻、p.5915.
【非特許文献5】H.Yuanら,J.Mater.Chem.A,2018年、第6巻、p.8413
【非特許文献6】H.Feiら,J.Power Sources,2018年、第399巻、p.294
【非特許文献7】J.Power Sources,2019年、第433巻、p.226697
【非特許文献8】Bull.Chem.Soc.Jpn.1990年、第63巻,p.792
【非特許文献9】Inorg.Chem.1994年、第33巻、p.538-544
【非特許文献10】J.Am.Chem.Soc.2014年、第136巻、p.16112
【非特許文献11】“ジイミド官能基を有する有機構造体を用いた水系二次電池特性”、化学関連支部合同九州大会、2019年7月、第56回、p032
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、イオン伝導度が高く、さらに製造コストが低く、熱安定性の高い固体電解質を活用し、また資源量が多く、安価であるナトリウムやカリウムを用いた全固体二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、非クーロン性イオン固体を固体電解質として活用することにより、有用な全固体二次電池を得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、下記[1]~[11]に関する。
【0007】
[1] 非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いた二次電池。
[2] 前記固体電解質として、Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr又はMnから選択される1種の金属M1とZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuから選択される1種の金属M2と配位子からなるアニオン性異種金属錯体が、集積して結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在する非クーロン性イオン固体を用いた前項[1]に記載の二次電池。
[3] 前記固体電解質として、下記一般式(1)で表される非クーロン性イオン固体を用いた前項[1]又は[2]に記載の二次電池。
(X)l[(M1)4(M2)4(Am)12(E)m]・nH2O (1)(式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr、Pd、Pt又はMnを示し; M2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示し;Xはカチオンを示し;Amはアミノ酸を示し;EはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-、I-又はH-を示し;lはXのイオン価との積が4~14になる数を示し;mは0又は1の数を示し;nは1~100の数を示す。)
[4] 前記一般式(1)中、M1が、Rh、Ir又はCoを示し、M2がAg又はZnを示す前項[3]に記載の二次電池。
[5] 前記一般式(1)中、Amが、チオール基を有するアミノ酸である前項[3]又は[4]に記載の二次電池。
[6] 前記一般式(1)中、Amが、システイン、ペニシラミン及びホモシステインから選ばれるアミノ酸である前項[3]~[5]のいずれか1項に記載の二次電池。
[7] 前記一般式(1)中、Xが、第1族又は第2族に属する金属のカチオンである前項[3]~[6]のいずれか1項に記載の二次電池。
[8] 前記一般式(1)中、Xが、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+である前項[3]~[7]のいずれか1項に記載の二次電池。
[9] 前記一般式(1)中、Xが、Li+、Na+、K+である前項[3]~[8]のいずれか1項に記載の二次電池。
[10] 前記一般式(1)中、Xが、Na+である前項[3]~[9]のいずれか1項に記載の二次電池。
[11] 前記一般式(1)中、Xが、K+である前項[3]~[9]のいずれか1項に記載の二次電池。
[12] 正極と負極を備えた、前項[1]~[11]のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いた二次電池は優れた電池性能を備え、また資源量が多く、安価であるナトリウム、カリウムを活用可能で、製造に関するコストの大幅な低減が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の二次電池の実施形態を示す概略断面図である。
【
図2】実施例1の全固体セルと比較例1の水系セルの充放電曲線を示す図である。
【
図3】実施例1の全固体セルのEDS(エネルギー分散型X線分析)による充放電前後の正極と負極中のK量変化を示す図である。
【
図4】実施例1の全固体セルのXPS(X線光電子分光)分析による充放電前後の正極と負極の酸化還元状態を示す図である。
【
図5】実施例1の全固体セルと比較例1の水系セルのサイクル特性を示す図である。
【
図6】全固体二次電池の充放電レート特性を示す図である。
【
図7】実施例2の全固体セルの充放電曲線を示す図である。
【
図8】固体電解質(1-1)と(1-4)の電位窓を示した図である。
【
図9】実施例3の全固体セルの充放電曲線を示す図である。
【
図10】固体電解質(1-1:カリウム)の単結晶と多結晶の電気伝導度を測定した図である。
【
図11】固体電解質(1-2:ナトリウム)の単結晶と多結晶の電気伝導度を測定した図である。
【
図12】固体電解質(1-3:リチウム)の単結晶と多結晶の電気伝導度を測定した図である。
【
図13】固体電解質(1-1:カリウム)と(1-2:ナトリウム)と(1-3:リチウム)の電位窓を測定した図である。
【
図14】実施例4の全固体セルと比較例2の水系セルの充放電曲線を示す図である。
【
図15】実施例4の全固体セルと比較例2の水系セルのサイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の二次電池は非クーロン性イオン固体を固体電解質として使用している。
【0012】
本発明の二次電池において、固体電解質として用いられる非クーロン性イオン固体は、アニオン性異種金属錯体が結晶格子を形成し、結晶格子の隙間にカチオン種が存在しているものである。結晶格子の隙間にカチオン種が存在するとは、アニオン性異種金属錯体が結晶格子を形成する特定の位置に束縛されているのに対して、カチオン種は結晶格子の隙間において自由な位置に存在している状態を指している。非クーロン性イオン固体中のカチオン種はイオン性固体の中を移動することが可能である。
一般的なイオン性固体ではクーロン力を最小化するようにカチオンとアニオンが交互に配列するが、非クーロン力支配型イオン性固体は巨大な金属錯体をイオンとするため、電荷密度が減少し、クーロン相互作用よりも水素結合などの非クーロン相互作用が支配的となる。そのため、通常のイオン性固体と異なる特性を有し、固体内でアニオンが集積したイオン性固体となる性質を有する。
【0013】
本発明の二次電池で固体電解質として用いられる非クーロン性イオン固体は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
(X)l[(M1)4(M2)4(Am)12(E)m]・nH2O (1)
【0015】
式中、M1はIr、Rh、Co、Os、Ru、Fe、Ni、Cr、Pd、Pt又はMnを示す。好ましくはRh、Ir、Coが挙げられる。
式中、M2はZn、Cd、Hg、Au、Ag又はCuを示す。好ましくはAg又はZnが挙げられる。
式中、Amはアミノ酸を示す。好ましくはチオール基を有するアミノ酸であり、さらに好ましくはシステイン、ペニシラミン、ホモシステインが挙げられる。
式中、Eはアニオンであり、具体的にはO2-、S2-、Se2-、Te2-、F-、Cl-、Br-、I-又はH-が挙げられ、O2-、S2-、Cl-、Br-又はH-が好ましく、更にO2-、S2-、又はH-が好ましい。mは0又は1の数を示し、mが0のときEは存在しない。Eはアニオン性異種金属錯体を形成する金属イオンの配位圏を満たし安定化させるために存在させるものである。
式中、Xはカチオンを示す。好ましくは第1族又は第2族に属する金属のカチオンである。具体例を示すとLi+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+で、好ましくはLi+、Na+、K+、更に好ましくはNa+、K+が挙げられる。lはXのイオン価との積が4~14になる数を示す。例えば、Xが第1族金属イオンである場合、lは4~14の数を示す。Xが第2族金属イオンの場合、lは2~7の数を示す。
式中、nは1~100の数を示す。nとしては1~80が好ましく、20~80がより好ましく、30~60がさらに好ましい。nは、X(カチオン種)を通過させる媒体の量として、アニオン性配位子の種類、カチオン種の種類により、流動性が増すように調整される。nは、錯体形成後に単離操作の温度、時間等により調節することができる。
【0016】
式中、M1とM2の好ましい組み合わせとしては、RhとZn、RhとAg、RhとCu、CoとZn、CoとAg、CoとCu、IrとZn、IrとAg、IrとCuの組み合わせが挙げられ、さらに、RhとZn、RhとAg、IrとZn、IrとAgの組み合わせがより好ましい。上記の組み合わせであれば、安定な結晶格子を形成するアニオン性異種金属錯体が合成できるため好ましい。合成できる理由としては、Am配位子を用いて、d6電子配置のM1とd10電子配置のM2から安定な八面体構造と四面体構造がそれぞれ形成できることが挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(1)で表される非クーロン性イオン固体の具体例としては、例えば、下記式(2)~(5)で表されるものが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
(X)l〔(Rh)4(Zn)4(cys)12(O)〕・nH2O (2)
(X)l〔(Rh)4(Ag)4(cys)12〕・nH2O (3)
(X)l〔(Ir)4(Zn)4(cys)12(O)〕・nH2O (4)
(X)l〔(Co)4(Ag)4(cys)12〕・nH2O (5)
(X)l〔(Co)4(Zn)4(cys)12(O)〕・nH2O (6)
(X、l、nは前記式(1)と同様であり、cysはL-システインを表す)
【0019】
一般式(1)で表される非クーロン性イオン固体の製造方法としては、公知の文献(非特許文献8あるいは非特許文献9、特許文献1参照)と同様の反応により得ることができる。例えば、金属M1にアミノ酸(Am)を反応させ、次いで金属M2を反応させ、さらにカチオン(X)を反応させることにより製造することができる。M1とアミノ酸との反応は、例えば、塩基性水溶液等の溶媒中でM1とアミノ酸を撹拌することにより行うことができる。この反応により、M1(Am)3が得られる。M1(Am)3とM2との反応は、例えば、水や酢酸/酢酸カリウム緩衝液等の溶媒中で撹拌下行うことができる。次に、得られた化合物とカチオンとの反応は、水中でカチオンの無機塩等を添加することにより行なわれる。
非クーロン性イオン固体(1)は、例えばエタノール/メタノール等の添加やカチオン塩を大過剰に添加し、冷暗所に静置し、ろ過操作することで単離することが出来る。
【0020】
本発明で用いる固体電解質は巨大なクラスターアニオンが集積した構造をとり、この隙間にカチオン及び水が存在していることによりカチオンの伝導パスが確保される。特にリチウムより大きなイオン半径を持つナトリウムやカリウムの様なカチオンが水和し、クーロン相互作用を低下させることにより高いイオン伝導度を示す。
高出力密度の電池を設計するためには高いイオン伝導度が求められる。室温におけるイオン伝導度としては10-6S/cm以上あれば電池として駆動可能であるが、10-5S/cm以上が好ましく、更に10-4S/cm以上がより好ましい。
【0021】
本発明に用いる非クーロン性イオン固体は、高い可塑性を有する。例えば非クーロン性イオン固体の粉末を圧縮することで緻密な成形体が得られる。結晶化工程を経て得られた単結晶と同等またはそれ以上のイオン伝導度を示し、本粉末をコールドプレスにて圧縮することで容易に高いイオン伝導度を得ることが出来る。単結晶のイオン伝導度はすでに報告されているが(非特許文献3)、全固体電池を作製する際には多結晶のままの方が取り扱い易く、コストの低減を図ることが可能となる。本発明で用いる固体電解質は、固体電解質内のカチオンとアニオンが弱い相互作用によって集積しており、塑性変形がおこりやすい為、結晶間のカチオンの移動が容易となり多結晶のイオン伝導度も非常に高い数値を示すと考えられる。
【0022】
次に、上述した非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いた二次電池について説明する。
図1は、本発明の二次電池の一例を示す概略断面図であって、本実施の形態では非クーロン性イオン固体を固体電解質として使用している。
【0023】
本発明の二次電池は正極1と負極2と、正極1および負極2の間に形成された固体電解質5と、正極1の集電を行う正極集電体3と、負極2の集電を行う負極集電体4とを有するものである。
【0024】
二次電池の電極活物質は、充放電により可逆的に酸化または還元されるため、充電状態、放電状態、あるいはその途中の状態で異なる構造、状態を有するが、本実施の形態では、前記電極活物質は、少なくとも充電反応における反応出発物(電池電極反応で化学反応を起こす物質)、生成物(化学反応の結果生じる物質)、及び中間生成物のうちのいずれかに含まれている。
【0025】
本発明の非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いる二次電池において、固体電解質の電位窓の範囲が広いと電池の設計が容易になり、好ましい。その範囲は1V以上あることが望まれるが、好ましくは1.3V以上、更に好ましくは1.5V以上あることが好ましい。
その時の電位としては用いる正及び負電極活物質によって異なるため、一概には言えないが、固体電解質の電位窓の範囲内で充放電する正負極材料を選択することが重要となる。その時に組み合わせる正極活物質の電位は、用いる固体電解質の電位窓の上限近くで充放電する材料が好ましく用いられる。例えば電位窓の上限を超えずに0.5V以内で充放電する正極、更に好ましくは0.3V以内で充放電する正極が好ましい。
同様に組み合わせる負極活物質も用いる固体電解質の電位窓の下限近くで充放電する材料が用いられる。例えば電位窓の下限を超えずに0.5V以内で充放電する負極、更に好ましくは0.3V以内で充放電する負極が好ましい。
【0026】
例えば、本発明の実施形態として、実施例1の化合物(1-1)において、その電位窓はAg/AgCl換算で0.97V~―0.48Vである為、正極の充放電する電位が0.97V~0.47Vであることが好ましく、0.97V~0.67Vが更に好ましい。また負極においては0.02V~-0.48Vであることが好ましく、-0.18V~-0.48Vが更に好ましい。
さらにカリウムの様な大きなイオン半径を持つカチオンでは用いることの出来る電極活物質の選択肢が現状では少ないため、更に良好な電極の開発も望まれる。正及び負電極活物質の選択肢が多いほうが電池の設計幅が広まるために好ましい。
【0027】
正極集電体3には、例えば、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、アルミニウム合金等の金属材料でできた多孔質または無孔のシートを使用できる。金属材料でできたシートには、例えば、金属箔およびメッシュ体が用いられる。一方で、負極集電体4には、正極集電体と同じものに加えて、銅、ニッケル、銅合金、ニッケル合金などの金属材料でできた多孔質または無孔のシートを使用できる。
【0028】
カチオンがリチウムである場合、特に限定はされないが主に正極活物質にはリチウム複合酸化物を含む。具体的にはLixMO2(0.05<x<1.30で、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、典型的にはCo、Ni、Mn、Alからなる群から選択される)で示されるリチウム複合酸化物である。好ましくは層状岩塩構造またはスピネル構造を有する。例として、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixNiMnO2、LixNiCoO2、LixCoMnO2など及びこれらの固溶物などが挙げられる。また他のMg,Al,Si,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo.Ag,Sn,Sb、Te,Ba,Bi及びWから選択される1種類以上の元素が含まれていても良い。さらにLiFePO4,LiMnPO4,LiMn2O4,Li3V2(PO4)3などや酸化還元可能な有機化合物、例えばポリピロール、ポリアニリン系化合物、ジスルフィド系、ペリレン化合物、キノン系化合物等を使用できる。
【0029】
カチオンがナトリウムである場合、特に限定はされないが主に正極活物質にはナトリウム複合酸化物を含む。例えばNa4Ti5O12,NaFeO2,NaCoO2,Na0.44MnO2,NaVO2,NaCrO2,NaNiO2,Na2NiMn3O8,NaNi1/3Co1/3Mn1/3O2,Na2/3[Fe1/2Mn1/2]O2などが挙げられ、S,Na2S,FeS,TiS2,NaFeO2,NaFePO4,Na3V2(PO4)3,NaMnPO4,NaMn2O4,Na2TiS3、Na3V2(PO4)2F3,NaMnPO4,NaMn2O4,Na2TiS3,Na2Ni[Fe(CN)6],Na2Cu[Fe(CN)6],Na2Fe[Fe(CN)6],Na2Mn[Fe(CN)6],Na2Co[Fe(CN)6],Na2Zn3[Fe(CN)6]2などや酸化還元可能な有機化合物、例えばポリピロール、ポリアニリン系化合物、ジスルフィド系、ペリレン化合物、キノン系化合物等が挙げられる。
【0030】
カチオンがカリウムである場合、正極活物質には特に限定はされないが、具体的には、KxMy[Fe(CN)6]zの(M=Fe、Mn、Co、Zn、Ni、Cr又はCuを表し、xは0以上2以下の数を表し、yは0.5以上3以下の数を表し、zは0.5以上1.5以下の数を表す。)、KFeSO4F、リン酸バナジウムカリウム化合物、カリウムコバルト複合酸化物、カリウムニッケル複合酸化物、カリウムニッケルチタン複合酸化物、カリウムニッケルマンガン複合酸化物、カリウムマンガン複合酸化物、カリウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、カリウム鉄複合酸化物、カリウムクロム複合酸化物、カリウム鉄リン酸化合物、カリウムマンガンリン酸化合物、カリウムコバルトリン酸化合物、活性炭、K0.3MnO2、酸化還元可能な有機化合物、例えばポリピロール、ポリアニリン系化合物、ジスルフィド系、ペリレン化合物、キノン系化合物等が挙げられる。
その他のカチオンについても、適切な活物質を選択することにより、良好に使用することが出来る。
【0031】
負極活物質には、黒鉛、コークス類、ハードカーボン、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素材料、鉄リン酸化合物、チタンリン酸化合物、P、Sn、Sb、MXene(複合原子層物質)、有機材料、有機金属構造体(MOF)などが挙げられる。これらの中でも、黒鉛及びハードカーボン、鉄リン酸化合物、チタンリン酸化合物、有機材料、有機金属構造体(MOF)が好ましい。負極活物質としては、一般式(1)におけるXのカチオンに対応する第1族又は第2族に属する金属も用いることができる。
【0032】
炭素材料としては各種カチオンを吸蔵及び放出することが可能であれば特に限定されず、例えば、黒鉛(グラファイト);低結晶性カーボンの一例であるソフトカーボン、フラーレン、カーボンナノ材料全般、ポリアセン;カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等);ハードカーボン等を含有するものが挙げられ、黒鉛を含有するものが好ましい。本発明において、負極炭素として例示した上記各種は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
負極活物質としては、負極炭素とともに、更に、他の負極活物質を含有するものであってもよい。他の負極活物質としては、例えば、Ge、Sn、Pb、In、Zn、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等のカチオン原子と合金化する元素の単体や金属間化合物、これらの元素を含む酸化物(一酸化ケイ素(SiO)、SiOx(0<x<2)、二酸化スズ(SnO2)、SnOx(0<x<2)、SnSiO3等)及び炭化物(炭化ケイ素(SiC)等)等が挙げられ、また、例えば、各種二酸化チタンやX-チタン複合酸化物(チタン酸カリウム:X2Ti3O7、X4Ti5O12)等のカリウム-遷移金属複合酸化物も挙げられる。これらの他の負極活物質は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
負極活物質において有機材料としては、特に限定はされないが、酸化還元可能な有機化合物、例えばポリピロール、ポリアニリン系化合物、ジスルフィド系、ペリレン化合物、キノン系化合物等が挙げられる。キノン系化合物として、ベンゾキノン、ジメチルベンゾキノン、ジメトキシベンゾキノン、ジクロロベンゾキノン、クロラニル、ナフトキノン、アントラキノン、インディゴ、キナクリドンなどが挙げられる。
負極活物質において用いる金属有機構造体(MOF)は、金属と有機リガンドが相互作用することによる多孔質の配位ネットワーク構造をもつ材料である。例えば2,7-ジアントラキノンジカルボン酸と銅が配位しネットワーク構造をもった[Cu(2,7-AQDC)(DMF)]n(Cu-MOF)(非特許文献10)やナフタレンテトラカルボン酸ジイミドのジピラゾール誘導体と亜鉛が配位しネットワーク構造をもった[Zn(Pyr)2NDI]nMOF(特許文献2)などが挙げられる。
負極活物質における鉄リン酸化合物の具体例として、K3Fe2(PO4)3、Na3Fe2(PO4)3、Li3Fe2(PO4)3などが挙げられ、チタンリン酸化合物の具体例としてはK3Ti2(PO4)3、Na3Ti2(PO4)3、Li3Ti2(PO4)3などが挙げらる。
【0034】
上記で、本発明に係る二次電池の構成について説明したが、電池形状は特に限定されるものではないのは言うまでもなく、円筒型、角型、シート型等にも適用できる。また、外装方法も特に限定される、金属ケースや、モールド樹脂、アルミラミネートフィルム等を使用してもよい。
【0035】
次に、上記二次電池の製造方法の一例を詳細に述べる。
【0036】
まず、電極活物質を電極形状にペレット形成する。電極活物質を電極としてそのまま用いてもよいが、電極のレート特性を向上させるために、非クーロン性イオン固体及び公知の導電材との複合体を形成させてもよい。例えば、レート特性を向上させる観点から、電極活物質と非クーロン性イオン固体を導電補助剤と共に粉砕・混合することにより、カーボンコートすることができる。場合により、電極活物質と非クーロン性イオン固体と炭素微粒子等の導電補助剤、必要に応じて結着剤及び溶媒を加えて混練し合材を得る。全固体電池の場合は液体の電解液を用いないため、結着剤の必要性は低い。該合材を正極または負極集電体上に任意の手法を用いて設置し、乾燥や、プレスすることにより正極1と正極集電体3または負極2と負極集電体4の各電極を形成することができる。
【0037】
導電補助剤は、電気抵抗を低減するために用いられる。ここで、導電補助剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、カーボンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ポーラスカーボン等の炭素質微粒子、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子等を使用することができる。電極として使用する際の導電性の高さからアセチレンブラックが好適である。また、導電補助剤を2種類以上混合して用いることもできる。なお、導電補助剤の電極1中の含有率は0~50質量%が望ましい。
【0038】
カーボンコートの際の粉砕・混合に適用される具体的手段は、特に限定されるものではなく、固形物質の粉砕・混合の目的で従来から用いられている各種の手段が適用可能であるが、活物質の構造変化を抑えるという観点から有機活物質を活物質とし使用する際には一例としてハンマーミル、ジェットミル、ボールミル、ハンドミルなどにより原料を粉砕・混合することができる。
【0039】
上記活物質の粉末を必要に応じてポリエチレン等の公知の結着剤を混合することができる。結着剤も特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、チルアクリレート共重合体、アクリロニトリル-メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸共重合体、アクリロニトリル-ビニルアセテート共重合体等のアクリロニトリル系重合体、さらにはポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、及びこれらのアクリレート体やメタクリレート体の共重合体等を挙げることができる。
【0040】
さらに、溶媒についても、特に限定されるものではなく、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン等の塩基性溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトン等の非水溶媒、メタノール、エタノール等のプロトン性溶媒、さらには水等を使用することができる。
【0041】
二次電池の製造プロセスとして、特に制限はされないが、各極の合材を正極集電体3または負極集電体4上に任意の手法を用いて塗布し、乾燥や、プレスすることにより正極1と正極集電体3または負極2と負極集電体4の各電極を形成することができる。その間に本発明の非クーロン性イオン固体を塗布、プレスすることで二次電池が得られる。正極、非クーロン性固体、負極の各部材を順に塗布、プレスを繰り返しても良いし、各部材を塗布した後、一度にプレスすることも可能である。この時に必要に応じて熱をかけても良い。熱をかけることにより、各電極と固体電解質の界面が良好に形成され、内部抵抗の低減がみられる場合がある。しかし熱をかけ過ぎることにより、各部材の劣化や製造コストの増加がおこる可能性があるため、出来るだけ加熱工程は避けたプロセスが好ましい。特に本発明の非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いた場合は低温低圧でのプレスで良好な界面が得られることにより、良好な特性を示すため、低コストで二次電池を製造することが可能となる。更に、本発明の非クーロン性イオン固体は加水分解などがおこりにくく、湿度がある状態でも安定であるため、大気中でのプロセスが可能であり、低コスト製造プロセスを達成することが出来る。
【0042】
本発明の二次電池は、用いる固体電解質が可燃性の有機溶剤を含まず、水分子を固体内に含有するため、安全なセル設計が可能となる。また、用いる固体電解質が極低温下においてもイオン電導を示すため、幅広い環境下での使用が可能となる。さらに、用いる固体電解質が高いイオン電導度を示すことから、本発明の全固体電池は高い充放電レート特性を示し、充放電の速度が速い特性を有する。
【0043】
上記で、本発明に係る二次電池の構成について説明したが、電池形状は特に限定されるものではないのは言うまでもなく、円筒型、角型、シート型等にも適用できる。また、外装方法も特に限定される、金属ケースや、モールド樹脂、アルミラミネートフィルム等を使用してもよい。
【実施例0044】
以下、実施例では、本発明に係る二次電池用固体電解質の製造を行い、二次電池としての電池特性を確認した。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0045】
[実施例1]
(非クーロン性固体(カリウム体:1-1):(K)6〔(Rh)4(Zn) 4(cys)12(O)〕・nH2Oを用いた二次電池の製造)
【0046】
固体電解質の作製:非クーロン性イオン固体(1-1)として、(K)
6〔(Rh)
4(Zn)
4(cys)
12(O)〕・nH
2O(nは40~60の範囲)を非特許文献3の記載に従い合成し、金箔で挟み510MPaで一軸成型し、このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、イオン伝導度はポテンショ・ガルバノスタット(SP300、Bio-Logic Science Instruments Ltd)を用いて測定した。結果を
図10に示す。多結晶のイオン伝導度は300Kで1.1×10
-2S/cmであった。
【0047】
(固体電解質の電位窓の測定)
対極兼参照電極としてのフェロシアン化カリウムとフェリシアン化カリウムの電極合材は予め、(K
4Fe(CN)
6:K
3Fe(CN)
6=1:1)と非クーロン性イオン固体(1-1)、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末を用い、それぞれ質量比で、電極活物質:非クーロン性イオン固体(1-1):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、メノウ乳鉢で均一になるように混合し、電極合材とした。
金箔、非クーロン性イオン固体(1-1)、フェロシアン化カリウムとフェリシアン化カリウムの電極合材の順にセル直径10mmの治具に入れ、510MPaで一軸成型し、ペレットを作成した。このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、電位窓を求める為に、リニアスイープボルタンメトリー測定をした。結果を
図13に示す。非クーロン性イオン固体(1-1)の電位窓の範囲は、0.97~-0.48V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0048】
正極の作製:共沈法により合成した正極活物質K1.82Ni[Fe(CN)6]0.94・0.5H2O(KNHCF:組成はICP-AES(高周波誘導結合プラズマ、Optima 8300、PerkinElmer Co.,Ltd.)とTG-DTA(熱重量示差熱分析装置、Thermo Plus TG8110、Rigaku Corp.)を用いて確認)、非クーロン性イオン固体(1-1)と、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製)を用い、それぞれ質量比で、正極活物質:非クーロン性イオン固体(1-1):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、メノウ乳鉢で均一になるように混合し、正極合材とした。正極活物質K1.82Ni[Fe(CN)6]0.94・0.5H2Oの電位は0.7V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0049】
負極の作製:負極活物質としてクロラニル(東京化成工業株式会社社製)、非クーロン性イオン固体(1-1)、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末を用い、それぞれ質量比で、負極活物質:非クーロン性イオン固体(1-1):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、まずは負極活物質と導電補助剤をメノウ乳鉢で均一になるように混合した後、非クーロン性イオン固体(1-1)を添加し、メノウ乳鉢で均一になるように混合して負極合材とした。負極活物質のクロラニルの電位は0.03V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0050】
全固体セルの作製:前記負極合材(10mg)、前記非クーロン性イオン固体(1-1)(100mg)、前記正極合材(25.8mg)の順にセル直径10mmの治具に入れ、510MPaで一軸成型し、三層のペレットを作成した。このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、本発明の二次電池を作製した。
【0051】
(全固体二次電池特性の測定)
以上のようにして得られた本発明の全固体二次電池の充放電容量を測定した。充放電プロファイルを
図2に示す。25℃、0.5mA/cm
2の条件において可逆に充放電しており、初回充電/放電容量はそれぞれ38と22mAh/gであった。
【0052】
(ESDによる電荷キャリアの同定)
充放電に伴うカリウム(K)の挙動を確認するため、EDS(エネルギー分散型X線分析)分析による充放電前後の正極と負極中のK量変化を追跡した。その結果、
図3に示すように、正極側では初期状態でK/Niのモル比が約1.9であるが、充電により約0.9まで減少し、放電で約1.5まで増加した。一方で、負極側ではK/Clのモル比は初期、充電と放電状態でそれぞれ0、0.37、0.19に増減する可逆的挙動を確認でき、全固体セルにおいて実際にカリウムが電荷キャリアとして機能していることが確認できた。
【0053】
(XPSによる正負極の酸化還元状態の同定)
充放電前後のXPS(X線光電子分光)分析を実施した。その結果を
図4に示す。
図4の左図に正極側の鉄(Fe)のXPSスペクトルを示しており、上部から初期状態、充電後、放電後の結果となる。初期状態から充電状態に変化すると鉄のピークが高エネルギー側にシフトし鉄が酸化される事が確認できた。さらに、放電状態では鉄のピークは初期状態に戻った。このことから、正極側では鉄の2価と3価のレドックスで充放電していることが示唆される。続いて中央図と右図に負極側の塩素(Cl)と酸素(O)のXPSスペクトルを示す。塩素では初期状態から充電状態に変わるにつれてピークが低エネルギーシフトし、放電状態ではわずかに高エネルギーシフトした。この現象は非水ナトリウム系で報告されているクロラニルの充放電の際の挙動と一致する。また酸素のピークに関しても初期状態から充電すると低エネルギー側にシフトし、放電で高エネルギー側にシフトした。このことはクロラニルが充放電していることを示唆している。以上の結果から、正極側ではKNHCFの鉄のレドックス、負極側ではクロラニルのレドックスにより容量が発現していることが示唆される。
【0054】
図5に実施例1の全固体セルと比較例1の水系セルのサイクル特性を示す。水系セルではサイクル劣化が顕著だが、全固体セルでは安定したサイクル特性を示すことが確認できた。このことから、全固体セルでは溶解しやすい有機活物質などの電極活物質でも使用可能であることが示唆される。
【0055】
図6に実施例1の全固体セルの充放電レート特性を示す。容量が安定する5サイクル程度までは低レートの方が高い放電容量を示すが、それ以降は容量に大きな差がなく、25サイクル以降では、高レートの方が高い放電容量を示した。従来の全固体電池と比較して非常に優れた充放電レート特性を示すことが分かった。
【0056】
[比較例1]
(水系二次電池特性の測定)
正極の作製:電極活物質として実施例1の正極活物質K1.82Ni[Fe(CN)6]0.94・0.5H2O(組成はICP-AESとTG-DTAを用いて確認)と導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製)と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン樹脂(ダイキン工業株式会社製)を用い、それぞれ質量比で、正極活物質K1.82Ni[Fe(CN)6]0.94・0.5H2O:導電補助剤:結着剤=70:25:5の比になるように秤量した。正極活物質と導電補助剤をメノウ乳鉢で十分に混合し、さらに結着剤を加え、引き続き均一になるように混合した後、その混合物を薄く延ばしてシート化した。これを直径3mmに打抜いたペレットを正極合材(3.00mg)とし、Tiメッシュの集電体で挟み正極(正極と正極集電体)とした。
【0057】
負極の作製:電極活物質としてクロラニルを用いる以外は比較例1の正極の作製と同様にし、これを直径3mmに打抜いたペレットを負極合材(1.16mg)とし、Tiメッシュの集電体で挟み負極(負極と負極集電体)とした。
水系セルの作製:上記の正極と負極を2極式ビーカーセル中に設置し、19mol/kgのKSO
3CF
3水溶液で満たし、水系カリウムイオンセルを作製し、充放電測定試験を実施した。充放電プロファイルを
図2に示す。
【0058】
[実施例2]
(非クーロン性固体(ナトリウム体:1-2):(Na)6〔(Rh)4(Zn) 4(cys)12(O)〕・nH2Oを用いた二次電池の製造)
【0059】
固体電解質の作製:非クーロン性イオン固体(1-2)として、(Na)
6〔(Rh)
4(Zn)
4(cys)
12(O)〕・nH
2O(nは40~60の範囲)を非特許文献3の記載に従い合成し、金箔で挟み510MPaで一軸成型し、このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、イオン伝導度はポテンショ・ガルバノスタット(SP300、Bio-Logic Science Instruments Ltd)を用いて測定した。結果を
図11に示す。多結晶のイオン伝導度は300Kで3×10
-3S/cmであった。
【0060】
(固体電解質の電位窓の測定)
対極兼参照電極としてのクロラニル電極合材とNaFe[Fe(CN)
6]電極合材は予め、それぞれクロラニルとNaFe[Fe(CN)
6]、非クーロン性イオン固体(1-2)、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末を用い、それぞれ質量比で、電極活物質:非クーロン性イオン固体(1-2):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、メノウ乳鉢で均一になるように混合し、電極合材とした。
金箔、非クーロン性イオン固体(1-2)、各電極合材の順にセル直径10mmの治具に入れ、510MPaで一軸成型し、ペレットを作成した。このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、電位窓を求める為に、リニアスイープボルタンメトリー測定をした。結果を
図13に示す。非クーロン性イオン固体(1-2)の電位窓の範囲は、0.99~-0.67V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0061】
正極の作製:正極活物質Na2Zn3[Fe(CN)6]2・nH2O(NaZnHCF)、非クーロン性イオン固体(1-2)と、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製)を用い、それぞれ質量比で、正極活物質:非クーロン性イオン固体(1-2):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、メノウ乳鉢で均一になるように混合し、正極合材とした。正極活物質Na2Zn3[Fe(CN)6]2・nH2Oの電位は0.93V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0062】
負極の作製:負極活物質としてNa3Fe2(PO4)3(NFP)、非クーロン性イオン固体(1-2)、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末を用い、それぞれ質量比で、負極活物質:非クーロン性イオン固体(1-2):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、まずは負極活物質と導電補助剤をボールミルで均一になるように混合した後、非クーロン性イオン固体(1-2)を添加し、メノウ乳鉢で均一になるように混合して負極合材とした。負極活物質のNa3Fe2(PO4)3の電位は-0.21V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0063】
全固体セルの作製:セル直径10mmの治具に前記負極合材(12mg)を入れ、255MPaで成形し、次いで治具に前記非クーロン性イオン固体(1-2)(100mg)を追加し、255MPaで成形、最後に前記正極合材(12mg)を追加し、510MPaで一軸成型し、三層のペレットを作成した。このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、本発明の二次電池を作製した。
【0064】
(全固体二次電池特性の測定)
以上のようにして得られた本発明の全固体二次電池の充放電容量を測定した。充放電プロファイルを
図7に示す。25℃、0.2mA/cm
2の条件において可逆に充放電しており、初回充電/放電容量はそれぞれ34と23mAh/gであった。
【0065】
[実施例3]
(非クーロン性固体(1-4):(K)6〔(Ir)4(Zn) 4(cys)12(O)〕・nH2Oを用いた二次電池の製造)
【0066】
固体電解質の作製:非クーロン性イオン固体(1-4)として、(K)6〔(Ir)4(Zn)4(cys)12(O)〕・nH2O(nは40~60の範囲)を非特許文献3の記載に従い合成し、金箔で挟み510MPaで一軸成型し、このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、イオン伝導度はポテンショ・ガルバノスタット(SP300、Bio-Logic Science Instruments Ltd)を用いて測定した。多結晶のイオン伝導度は300Kで7.9×10-3S/cmであった。
【0067】
(固体電解質の電位窓の測定)
対極兼参照電極としてのフェロシアン化カリウムとフェリシアン化カリウムの電極合材は予め、(K4Fe(CN)6:K3Fe(CN)6=1:1)と非クーロン性イオン固体(1-4)、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末を用い、それぞれ質量比で、電極活物質:非クーロン性イオン固体(1-4):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、メノウ乳鉢で均一になるように混合し、電極合材とした。
金箔、非クーロン性イオン固体(1-4)、フェロシアン化カリウムとフェリシアン化カリウムの電極合材の順にセル直径10mmの治具に入れ、510MPaで一軸成型し、ペレットを作成した。このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、電位窓を求める為に、リニアスイープボルタンメトリー測定をした。その結果、非クーロン性イオン固体(1-4)の電位窓の範囲は、1.17~-0.48V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0068】
正極の作製:正極活物質K2Fe0.35Mn0.65[Fe(CN)6]・nH2O(KFeMnHCF)、非クーロン性イオン固体(1-4)と、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製)を用い、それぞれ質量比で、正極活物質:非クーロン性イオン固体(1-4):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、メノウ乳鉢で均一になるように混合し、正極合材とした。正極活物質K2Fe0.35Mn0.65[Fe(CN)6]・nH2Oの電位は0.83V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0069】
負極の作製:負極活物質としてクロラニル(東京化成工業株式会社社製)、非クーロン性イオン固体(1-4)、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末を用い、それぞれ質量比で、負極活物質:非クーロン性イオン固体(1-4):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、まずは負極活物質と導電補助剤をメノウ乳鉢で均一になるように混合した後、非クーロン性イオン固体(1-4)を添加し、メノウ乳鉢で均一になるように混合して負極合材とした。負極活物質のクロラニルの電位は0.03V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0070】
全固体セルの作製:負極合材(12mg)、非クーロン性イオン固体(1-4)(100mg)、正極合材(24mg)の順にセル直径10mmの治具に入れ、510MPaで一軸成型し、三層のペレットを作成した。このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、二次電池を作製した。
【0071】
(全固体二次電池特性の測定)
以上のようにして得られた本発明の全固体二次電池の充放電容量を測定した。充放電プロファイルを
図8に示す。25℃、0.5mA/cm
2の条件において可逆に充放電しており、初回充電/放電容量はそれぞれ38と16mAh/gであった。
【0072】
[実施例4]
(非クーロン性固体(カリウム体:1-1):(K)6〔(Rh)4(Zn)4(cys)12(O)〕・nH2Oを用いた二次電池の製造)
【0073】
正極の作製:正極活物質K1.82Ni[Fe(CN)6]0.94・0.5H2O(KNHCF)、非クーロン性イオン固体(1-1)と、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製)を用い、それぞれ質量比で、正極活物質:非クーロン性イオン固体(1-1):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、メノウ乳鉢で均一になるように混合し、正極合材とした。
【0074】
負極の作製:負極活物質としてZn(NDI)(ジメチルピラゾール-ナフタレンジイミドと亜鉛の金属有機構造体(非特許文献11を参照))、非クーロン性イオン固体(1-1)、導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末を用い、それぞれ質量比で、負極活物質:非クーロン性イオン固体(1-1):導電補助剤:=6:2:2の比になるように秤量し、まずは負極活物質と導電補助剤をメノウ乳鉢で均一になるように混合した後、非クーロン性イオン固体(1-1)を添加し、メノウ乳鉢で均一になるように混合して負極合材とした。負極活物質のZn(NDI)の電位は-0.54V(vs.Ag/AgCl)であった。
【0075】
全固体セルの作製:セル直径10mmの治具に負極合材(22mg)を入れ、255MPaで成形し、次いで治具に非クーロン性イオン固体(1-1)(100mg)を追加し、255MPaで成形、最後に正極合材(20mg)を追加し、510MPaで一軸成型し、三層のペレットを作成した。このペレットを湿度70%の雰囲気でHSセル((株)宝泉製)に密閉し、二次電池を作製した。
【0076】
(全固体二次電池特性の測定)
以上のようにして得られた本発明の全固体二次電池の充放電容量を測定した。充放電プロファイルを
図14に示す。25℃、0.2mA/cm
2の条件において大きな不可逆容量を示しているが、充放電の確認ができた。
【0077】
図15に実施例4の全固体セルと比較例2の水系セルのサイクル特性を示す。水系セルでは比較的安定なサイクル特性を示しサイクル劣化は観測されないが、全固体セルは比較的不安定なサイクル特性を示すことがわかった。このことから、本発明の全固体二次電池において、充放電は可能であるが、固体電解質の電位窓の範囲外に充放電電位をもつ電極を使用することにより、電池の性能が低くなり、劣化することが分かった。
【0078】
[比較例2]
(水系二次電池特性の測定)
正極の作製:電極活物質として実施例4の正極活物質K1.82Ni[Fe(CN)6]0.94・0.5H2O(KNHCF)と導電補助剤としてのアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製)と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン樹脂(ダイキン工業株式会社製)を用い、それぞれ質量比で、正極活物質KNiHCF:導電補助剤:結着剤=70:25:5の比になるように秤量した。正極活物質と導電補助剤をメノウ乳鉢で十分に混合し、さらに結着剤を加え、引き続き均一になるように混合した後、その混合物を薄く延ばしてシート化した。これを直径3mmに打抜いたペレットを正極合材(3.00mg)とし、Tiメッシュの集電体で挟み正極(正極と正極集電体)とした。
【0079】
負極の作製:電極活物質としてZn(NDI)を用いる以外は比較例1の正極の作製と同様にし、これを直径3mmに打抜いたペレットを負極合材(2.7mg)とし、Tiメッシュの集電体で挟み負極(負極と負極集電体)とした。
水系セルの作製:上記の正極と負極を2極式ビーカーセル中に設置し、19mol/kgのKSO
3CF
3水溶液で満たし、水系カリウムイオンセルを作製し、充放電測定試験およびサイクル特性の測定を実施した。充放電プロファイルを
図14に、サイクル特性を
図15に示す。
【0080】
以上の評価結果から、本発明の非クーロン性イオン固体を固体電解質として用いた二次電池が、優れた電池性能を備えることが確認できた。さらに、用いる固体電解質の電位窓の範囲内に充放電電位をもつ電極を使用することにより、電池の性能が高くなることが確認できた。