IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人放射線医学総合研究所の特許一覧 ▶ 出光興産株式会社の特許一覧

特開2022-75618リチウム回収装置及びリチウム回収方法
<>
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図1
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図2
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図3
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図4
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図5
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図6
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図7
  • 特開-リチウム回収装置及びリチウム回収方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075618
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】リチウム回収装置及びリチウム回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20220511BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20220511BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220511BHJP
   C25B 1/16 20060101ALI20220511BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220511BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20220511BHJP
   C25B 9/67 20210101ALI20220511BHJP
   C25B 15/021 20210101ALI20220511BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20220511BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20220511BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20220511BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/22
C22B7/00 C
C25B1/16
C25B9/00 Z
C25B9/23
C25B9/67
C25B15/021
C25B15/08 302
B01D61/44 500
B01D61/46 500
B01D61/46 510
B01D61/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180281
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020186092
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 毅
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 太
(72)【発明者】
【氏名】星 正太
(72)【発明者】
【氏名】町田 雅志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】勝又 聡
【テーマコード(参考)】
4D006
4K001
4K021
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006HA41
4D006JA02A
4D006JA02C
4D006JA02Z
4D006JA42A
4D006JA42C
4D006JA56Z
4D006JA66A
4D006JA67Z
4D006KA31
4D006KA41
4D006KA72
4D006KB12
4D006KB13
4D006KD01
4D006KD17
4D006KD21
4D006KD22
4D006KD23
4D006KD24
4D006KE15Q
4D006KE15R
4D006KE16Q
4D006KE16R
4D006MA03
4D006MA13
4D006MB07
4D006MC03X
4D006NA39
4D006NA54
4D006NA63
4D006PA04
4D006PB12
4D006PB27
4D006PC01
4K001AA34
4K001BA22
4K001DB16
4K021AB01
4K021BA17
4K021BB02
4K021BC01
4K021BC03
4K021BC05
4K021BC07
4K021CA08
4K021CA09
4K021CA10
4K021CA12
4K021DB05
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
4K021EA06
(57)【要約】
【課題】リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から効率的にリチウムイオンを回収することができるリチウム回収装置及びリチウム回収方法を提供する。
【解決手段】所定のリチウム選択透過膜と、前記リチウム選択透過膜の前記一方の主面側に固定されたメッシュ状の第1電極と、前記リチウム選択透過膜の他方の主面側に固定されたメッシュ状の第2電極と、リチウムイオン抽出液の温度を調節する温度調節手段A及び前記リチウム選択透過膜の温度を調節する温度調節手段Bから選ばれる温度調節手段等と、を具備するリチウム回収装置、並びに前記リチウムイオン抽出液から、リチウム選択透過膜を用い、かつ前記リチウムイオン抽出液の温度を30℃以上100℃以下に調節し、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させて前記回収液にリチウムを回収することを含むリチウムの回収方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させてリチウムを前記回収液中に回収するリチウム回収装置であって、
前記リチウムイオン抽出液を一方の主面側、前記回収液を他方の主面側として前記リチウムイオン抽出液と前記回収液とを仕切るように処理槽中に設置されたリチウム選択透過膜と、
前記リチウム選択透過膜の前記一方の主面側に固定されたメッシュ状の第1電極と、
前記リチウム選択透過膜の他方の主面側に固定されたメッシュ状の第2電極と、
前記リチウムイオン抽出液の貯留槽と、
前記貯留槽と前記処理槽との間に設けられた抽出液配管と、
少なくとも前記リチウムイオン抽出液の温度を調節する温度調節手段A及び前記リチウム選択透過膜の温度を調節する温度調節手段Bから選ばれる温度調節手段と、
を具備するリチウム回収装置。
【請求項2】
前記温度調節手段Aが、少なくとも前記貯留槽、前記抽出液配管、及び前記処理槽が収容された空間内の温度を調節する請求項1に記載のリチウム回収装置。
【請求項3】
更に、前記回収液を貯留する回収液槽と、前記処理槽と前記回収液槽との間に設けられた回収液配管と、を具備し、前記温度調節手段Aが、少なくとも前記回収液槽、及び前記回収液配管が収容された空間内の温度を調節する請求項1又は2に記載のリチウム回収装置。
【請求項4】
前記温度調節手段Aが、前記貯留槽及び前記抽出液配管の少なくとも一方に接して設けられる請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウム回収装置。
【請求項5】
前記温度調節手段Aが、前記回収液槽及び前記回収液配管の少なくとも一方に接して設けられる請求項3又は4に記載のリチウム回収装置。
【請求項6】
前記温度調節手段Aが、熱交換器である請求項4又は5に記載のリチウム回収装置。
【請求項7】
前記貯留槽が第一貯留槽と第二貯留槽を備え、かつ前記回収液槽が第一回収液槽と第二回収液槽を備える請求項3~6のいずれか1項に記載のリチウム回収装置。
【請求項8】
前記第一貯留槽又は第二貯留槽にリチウムイオン抽出液を連続的又は断続的に供給し、かつ前記第一回収液槽又は第二回収液槽に純水を連続的又は断続的に供給する請求項7に記載のリチウム回収装置。
【請求項9】
前記貯留槽と、前記処理槽との間で、前記リチウムイオン抽出液を循環させる循環手段を備える請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム回収装置。
【請求項10】
前記リチウムイオン抽出液のリチウムイオン濃度を高める濃縮手段を備える請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウム回収装置。
【請求項11】
前記リチウム選択透過膜が表面リチウム吸着処理されたものである請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウム回収装置。
【請求項12】
前記リチウムイオン抽出液のpHを調節するpH調節手段を具備する請求項1~11のいずれか1項に記載のリチウム回収装置。
【請求項13】
リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオンを含むリチウムイオン抽出液から、リチウム選択透過膜を用い、かつ前記リチウムイオン抽出液の温度及び前記リチウム選択透過膜の温度の少なくとも一方の温度を30℃以上100℃以下に調節し、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させて前記回収液にリチウムを回収することを含む、リチウム回収方法。
【請求項14】
前記回収液の温度を30℃以上100℃以下に調節することを含む請求項13に記載のリチウム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム回収装置及びリチウム回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種携帯機器用二次電池として、リチウム二次電池等が大量に使用されており、この二次電池に用いられている金属イオンを効率良く回収する技術の開発が待ち望まれている。また、炭酸ガス排出規制への対応のために開発されているハイブリッドカー及び電気自動車にも、リチウム二次電池が使用されている。このリチウム二次電池のリサイクル技術は、これまでにも多数開発されてきているが、効率性の高いリチウム回収技術の開発が切望されている。リチウム回収技術として、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているものが知られている。
【0003】
特許文献1には、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から、リチウム選択透過膜を用い、かつ前記リチウムイオン抽出液のpHを12以上14以下に調節し、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させて前記回収液にリチウムを回収することを含む、リチウム回収方法が記載されている。
特許文献2には、ペロブスカイト型Liイオン伝導性固体電解質を主体に構成された隔壁に対し、その片側にLi成分と不純物成分とを含有する原液を接触させるとともに他方の側に回収液を接触させ、その状態で前記隔壁に対し前記原液側が正、前記回収液側が負となるように電界を印加することにより、前記原液側のLi成分をLiイオンの形で前記隔壁を介して選択的に通過させた後、前記回収液側に抽出することを特徴とするLi抽出方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-81953号公報
【特許文献2】特開平10-102270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載の技術によれば、リチウムイオン伝導体を用いて、リチウムイオンを含む原液からリチウムイオンを効率的に回収している。しかしながら、リチウムイオンの回収にかかるコストをさらに低くする必要があり、リチウム回収の効率のさらなる向上が求められている。
【0006】
本発明の目的は、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から高効率でリチウムイオンを回収することができるリチウム回収装置及びリチウム回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の方法が提供される。
[1]リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させてリチウムを前記回収液中に回収するリチウム回収装置であって、
前記リチウムイオン抽出液を一方の主面側、前記回収液を他方の主面側として前記リチウムイオン抽出液と前記回収液とを仕切るように処理槽中に設置されたリチウム選択透過膜と、
前記リチウム選択透過膜の前記一方の主面側に固定されたメッシュ状の第1電極と、
前記リチウム選択透過膜の他方の主面側に固定されたメッシュ状の第2電極と、
前記リチウムイオン抽出液の貯留槽と、
前記貯留槽と前記処理槽との間に設けられた抽出液配管と、
少なくとも前記リチウムイオン抽出液の温度を調節する温度調節手段A及び前記リチウム選択透過膜の温度を調節する温度調節手段Bから選ばれる温度調節手段と、
を具備するリチウム回収装置。
[2]前記温度調節手段Aが、少なくとも前記貯留槽、前記抽出液配管、及び前記処理槽が収容された空間内の温度を調節する上記[1]に記載のリチウム回収装置。
[3]更に、前記回収液を貯留する回収液槽と、前記処理槽と前記回収液槽との間に設けられた回収液配管と、を具備し、前記温度調節手段Aが、少なくとも前記回収液槽、及び前記回収液配管が収容された空間内の温度を調節する上記[1]又は[2]に記載のリチウム回収装置。
[4]前記温度調節手段Aが、前記貯留槽及び前記抽出液配管の少なくとも一方に接して設けられる上記[1]~[3]のいずれか1に記載のリチウム回収装置。
[5]前記温度調節手段Aが、前記回収液槽及び前記回収液配管の少なくとも一方に接して設けられる上記[3]又は[4]に記載のリチウム回収装置。
[6]前記温度調節手段Aが、熱交換器である上記[4]又は[5]に記載のリチウム回収装置。
[7]前記貯留槽が第一貯留槽と第二貯留槽を備え、かつ前記回収液槽が第一回収液槽と第二回収液槽を備える上記[3]~[6]のいずれか1に記載のリチウム回収装置。
[8]前記第一貯留槽又は第二貯留槽にリチウムイオン抽出液を連続的又は断続的に供給し、かつ前記第一回収液槽又は第二回収液槽に純水を連続的又は断続的に供給する上記[7]に記載のリチウム回収装置。

[9]前記貯留槽と、前記処理槽との間で、前記リチウムイオン抽出液を循環させる循環手段を備える上記[1]~[8]のいずれか1に記載のリチウム回収装置。
[10]前記リチウムイオン抽出液のリチウムイオン濃度を高める濃縮手段を備える上記[1]~[9]のいずれかに記載のリチウム回収装置。
[11]前記リチウム選択透過膜が表面リチウム吸着処理されたものである上記[1]~[10]のいずれか1に記載のリチウム回収装置。
[12]前記リチウムイオン抽出液のpHを調節するpH調節手段を具備する上記[1]~[11]のいずれか1に記載のリチウム回収装置。
[13]リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から、リチウム選択透過膜を用い、かつ前記リチウムイオン抽出液の温度及び前記リチウム選択透過膜の温度の少なくとも一方の温度を30℃以上100℃以下に調節し、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させて前記回収液にリチウムを回収することを含む、リチウム回収方法。
[14]前記回収液の温度を30℃以上100℃以下に調節することを含む上記[13]に記載のリチウム回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から高効率でリチウムイオンを回収することができるリチウム回収装置及びリチウム回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態のリチウム回収装置の構成を示す模式図である。
図2】本実施形態のリチウム回収装置の構成を示す模式図である。
図3】本実施形態のリチウム回収装置の構成を示す模式図である。
図4】本実施形態のリチウム回収装置の構成を示す模式図である。
図5】実施例1、2及び比較例1の電流値の経時変化を示すグラフである。
図6】実施例1、2及び比較例1のリチウム回収量の経時変化を示すグラフである。
図7】実施例5の電流値及びリチウム回収率の経時変化を示すグラフである。
図8】実施例6及び7の電流値及びリチウム回収率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と称する。)のリチウム回収装置について説明する。なお、本発明の一実施形態のリチウム回収装置はあくまで本発明のリチウム回収装置の一実施形態であり、本発明は本発明の一実施形態のリチウム回収装置に限定されるものではない。また、本明細書においては、リチウムとはリチウム又はリチウムイオンの両方を意味するものとし、技術的に矛盾が生じない限り、適宜解釈されるものとする。
【0011】
〔リチウム回収装置〕
本実施形態のリチウム回収装置は、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させてリチウムを回収液中に回収するリチウム回収装置であり、リチウムイオン抽出液を一方の主面側、回収液を他方の主面側としてリチウムイオン抽出液と回収液とを仕切るように処理槽中に設置されたリチウム選択透過膜と、リチウム選択透過膜の一方の主面側に固定されたメッシュ状の第1電極と、リチウム選択透過膜の他方の主面側に固定されたメッシュ状の第2電極と、リチウムイオン抽出液の貯留槽と、貯留槽と処理槽との間に設けられた抽出液配管と、少なくともリチウムイオン抽出液の温度を調節する温度調節手段A及び前記リチウム選択透過膜の温度を調節する温度調節手段Bから選ばれる温度調節手段と、を具備するものである。前記第1電極及び第2電極は、リチウム選択透過膜の主面に固定されていればよく、その態様に特に制限はないが、リチウムイオンの回数率を向上させる観点から、これらの電極の少なくとも一方は、リチウム選択透過膜の主面側に密着していることが好ましい。
また、本実施形態のリチウム回収装置は、装置の運転の多様性の観点から、更に回収液を貯留する回収液槽、処理槽と回収液槽との間に設けられた回収液配管と、を具備することが好ましく、また回収液の温度を調節する回収液温度調節手段を具備することが好ましい。
【0012】
(リチウムイオン抽出液)
本実施形態のリチウム回収装置に使用されるリチウムイオン抽出液は、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液であり、該処理部材から抽出したものであれば特に制限はないが、例えば硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材から抽出したもの、すなわち硫化物系固体電解質を含むリチウムイオン抽出液が挙げられる。
本実施形態において、硫化物系固体電解質とは、少なくともリチウム元素及び硫黄元素を含む固体電解質であり、代表的には、LiS-P等のリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含むものをはじめとし、更にハロゲン元素等を含む、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等が例示される。
なお、本実施形態において使用されるリチウムイオン抽出液としては、リチウムイオンを含む抽出液であれば効率的にリチウムイオンを回収するという本発明の効果は得られるので、例えば、海水、塩湖かん水、鉱業廃水、地熱水又はこれらのいずれかを組み合わせたものを、蒸発等の手段により濃縮した濃縮水を用いてもよい。また、これらの中から単独で、又は複数種を組み合わせたものを用いることもできる。
【0013】
硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材には、例えば前記の硫化物系固体電解質の製造過程で用いた原料(未反応原料)、反応副生成物等に由来する、リチウム、硫黄が含まれている。本実施形のリチウム回収装置は、リチウム、硫黄が含まれる前記処理部材からリチウムを効率的に回収しようとするものである。硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液としては、代表的には、リチウム二次電池に使用されていた硫化物系固体電解質をアルカリ性水溶液で溶解することによって得られる硫化物系固体電解質の水溶液が挙げられる。
【0014】
硫化物系固体電解質を溶解するためのアルカリ性水溶液のアルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム(II)、水酸化タリウム(I)、グアニジン等が好ましく挙げられる。これらのアルカリ成分は、1種のみ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。硫化物系固体電解質の溶解のしやすさという観点から、アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムがより好ましい。
【0015】
本実施形態のリチウム回収装置に使用される回収液は、リチウムイオンを溶解できる水溶液であれば特に限定されず、最終的に得るリチウムの形態により適宜選択することができる。例えば、好ましい回収液は純水やイオン交換水等の水である。
【0016】
(温度調節手段)
本実施形態のリチウム回収装置に使用される温度調節手段は、少なくともリチウムイオン抽出液の温度を調節する温度調節手段A及び前記リチウム選択透過膜の温度を調節する温度調節手段Bから選ばれる温度調節手段である。本実施形態のリチウム回収装置は、温度調節手段Aを単独で、温度調節手段Bを単独で、また温度調節手段A及びBの両方を有していてもよく、温度調節手段Bを有していることが好ましく、度調節手段A及びBの両方を有していることがより好ましい。
まず、温度調節手段Aから説明する。
【0017】
(温度調節手段A)
温度調節手段Aは、少なくともリチウムイオン抽出液の温度を調節できる手段であれば特に限定されない。また、温度調節手段Aは、リチウムイオン抽出液の温度とともに、回収液の温度も調節できることが好ましい。リチウムイオン抽出液の温度だけでなく、回収液の温度も調節することで、結果としてリチウムイオン抽出液の温度をより高精度で調節することができ、リチウム選択透過膜を流れるリチウムイオンの量が増加し、リチウムイオン抽出液からより高効率でリチウムイオンを回収することができる。
【0018】
本実施形態において、温度調節手段Aは、より高効率でリチウムイオンを回収する観点から、リチウムイオン抽出液の温度を30℃以上100℃以下の範囲内に調節する機能を有することが好ましく、40℃以上95℃以下がより好ましく、50℃以上90℃以下が更に好ましい。
本明細書において、リチウムイオン抽出液の温度について、数値範囲の上限及び下限の温度には、±2.0℃未満まで含まれるものとする。また、後述する回収液の温度及びリチウム選択透過膜の温度についても同様である。
【0019】
リチウムイオン抽出液の温度を前記の範囲内に調節すると、リチウム選択透過膜を流れるリチウムイオンの量が増加し、リチウムイオン抽出液から効率的にリチウムイオンを回収することができる。このことについて、本発明を限定するものではないが、以下の理由によるものと予測される。リチウムイオン抽出液の温度を調節しない場合、リチウム選択透過膜の表面に対するリチウムイオンの衝突頻度は低いままとなり、リチウム選択透過膜を流れるリチウムイオンの量は増加せず、リチウムイオン抽出液からのリチウム回収率が低下する可能性がある。
一方、リチウムイオン抽出液の温度を調節することにより、リチウムイオン抽出液と接しているリチウム選択透過膜の表面に対するリチウムイオンの衝突頻度は高くなり、またリチウム抽出液中の水和しているリチウムイオンの水和イオンの乖離が起こり易くなるため、リチウム選択透過膜の表面におけるリチウムイオンの濃度が高くなる可能性がある。これにより、リチウム選択透過膜の表面近傍にリチウムイオンの濃度勾配が大きくなる。そして、リチウム選択透過膜の結晶中のリチウムイオンの濃度が上昇するとともに粒界中のリチウムイオン濃度も上昇する。このようなリチウム選択透過膜の結晶中におけるリチウムイオンの濃度の上昇及び粒界中におけるリチウムイオン濃度の上昇の相乗効果により、伝導度がより高いリチウムイオンの拡散が起こると考えられる。その結果、リチウムイオン抽出液の代わりにリチウム選択透過膜を温度調節した場合に比べて、リチウム選択透過膜を流れるリチウムイオンの量を非常に大きく増加させることができると考えられる。
【0020】
温度調節手段Aは、少なくとも貯留槽、抽出液配管、及び処理槽が収容された空間内の温度を調節し得るものであることが好ましい。すなわち、少なくとも貯留槽、抽出液配管及び処理槽は閉じられた同一空間内に配置されていることが好ましい。空間中の空気を介することにより、少なくとも貯留槽、抽出液配管及び処理槽の温度を一度に、かつ安定的に調節することができる。そして、少なくとも貯留槽、抽出液配管及び処理槽を通してリチウムイオン抽出液の温度を調節することができる。したがって、リチウムイオン抽出液の温度をより効率的に、安定的に、かつ確実に調節することができる。
【0021】
本実施形態のリチウム回収装置は、既述のように、更に回収液を貯留する回収液槽、及び処理槽と回収液槽との間に設けられた回収液配管を具備することが好ましい。そして、温度調節手段Aは、回収液の温度も調節できることが好ましく、少なくとも回収液槽及び回収液配管が収容された空間内の温度を調節し得ることが好ましい。すなわち、少なくとも回収液槽及び回収液配管は、閉じられた同一空間内に配置されていることが好ましい。空間中の空気を介することにより、少なくとも回収液槽及び回収液配管の温度を一度に、かつ安定的に調節することができる。そして、少なくとも回収液槽及び回収液配管を通じて回収液の温度を調節することができるので、回収液の温度をより効率的に、安定的に、かつ確実に調節することができる。その結果、リチウムイオン抽出液及び回収液の温度を調節することにより、リチウム選択透過膜の温度も調節することができる。これにより、リチウムイオン抽出液からリチウムイオンをさらに効率的に回収することができる。
また、これと同様の観点から、温度調節手段Aは、貯留槽、抽出液配管、処理槽、更に回収液槽及び回収液配管が収納された空間内の温度を調節できることが好ましい。
温度調整を行わない部分では、温度低下を防ぐための保温する手段を講じることが好ましい。
【0022】
前記空間内の温度を調節する場合、温度調節手段Aは、空調装置であることが好ましい。空調装置を採用すると、空間内の温度を均一に保ち、リチウムイオン抽出液の温度を調節しやすく、リチウム選択透過膜を流れるリチウムイオンの量が増加し、リチウムイオン抽出液から高効率でリチウムイオンを回収することができる。
【0023】
温度調節手段Aは、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方に接して設けることができる。これにより、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方の温度を直接的に調節することができるので、リチウムイオン抽出液の温度をより高い精度で調節することができる。例えば、温度調節手段Aが熱交換器である場合、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方に熱交換器を密着させることにより、温度調節手段Aを、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方に接して設けることができる。熱交換器のタイプについては特に制限はなく、使用態様に応じて適宜選択すればよく、例えば電気、熱媒体等によるジャケットタイプ、ヒータータイプ等の熱交換器を採用でき、例えば抽出液配管にはジャケットタイプの熱交換器を、また貯留槽にはヒータータイプの熱交換器を用いるとよい。
【0024】
温度調節手段Aは、回収液槽及び回収液配管の少なくとも一方に接して設けることができる。これにより、回収液の温度をさらに高い精度で調節することができる。そして、回収液及びリチウムイオン抽出液の両方によってリチウム選択透過膜の温度を高い精度で調節することができるので、リチウムイオン抽出液からリチウムイオンを更に効率的に回収することができる。例えば、温度調節手段Aが熱交換器である場合、回収液槽及び回収液配管の少なくとも一方に熱交換器を密着させることにより、温度調節手段Aを、回収液槽及び回収液配管少なくとも一方に接して設けることができる。回収液槽及び回収液配管に設けられる熱交換器としては、前記の抽出液槽及び抽出液配管に設けられ得るものとして記載した熱交換器を用いることができる。
【0025】
温度調節手段Aが、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方に接して設けられるようにする場合、また回収液槽及び回収液配管少なくとも一方に接して設けられるようにする場合、温度調節手段Aは熱交換器であることが好ましい。これにより、様々な熱媒体を利用して貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方の温度を、また回収液槽及び回収液配管少なくとも一方の温度を、直接的に調節することができ、リチウムイオン抽出液、回収液の温度をより高い精度で調節することができる。例えば、ボイラーや他のプラントの排熱を利用して加熱された温水を用いて熱交換器を介してリチウムイオン抽出液の温度を調節してもよい。
【0026】
温度調節手段Aは、リチウムイオン抽出液及び回収液をより直接的に調節し、リチウムイオンを更に効率的に回収するため、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方に接して設けるとともに、回収液槽及び回収液配管の少なくとも一方に接して設けることができる。
また、温度調節手段Aは、リチウムイオンをより効率的に回収する観点から、より直接的に温度を調節し得る、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方、回収液相及び回収液配管の少なくとも一方に接して設けることが好ましく、抽出液配管については少なくとも貯留槽から処理槽への配管に設けることが好ましく、回収液配管については少なくとも処理槽から回収液槽への配管に設けることが好ましく、また貯留槽及び抽出液配管に設けることが好ましく、回収液相及び回収液配管に設けることが好ましい。これと同様の観点から、前記の貯留槽、抽出液配管及び処理槽等が収納される空間内の温度を調節するものと、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方等に接して設けるものとを併用することができる。例えば、貯留槽、抽出液配管、処理槽、更に回収液槽及び回収液配管が収納される空間内の温度を空調装置により調節しつつ、貯留槽及び抽出液配管の少なくとも一方、回収液槽及び回収液配管少なくとも一方に熱交換器を接して設けて、リチウムイオン抽出液及び回収液の温度を調節することができる。
【0027】
(温度調節手段B)
本実施形態のリチウム回収装置は、温度調節手段として前記の温度調節手段A及びリチウム選択透過膜の温度を調節する温度調節手段Bから選ばれる温度調節手段を有する。温度調節手段としては、中でもリチウム選択透過膜の温度を調節する温度調節手段Bを有することが好ましい。リチウム選択透過膜の温度を直接的に調節することで、リチウムイオンがリチウム選択透過膜を流れやすくなるため、より効率的にリチウムイオンを回収することができるからである。
【0028】
本実施形態において、温度調節手段Bは、より高効率でリチウムイオンを回収する観点から、リチウム選択透過膜の温度を30℃以上100℃以下の範囲内に調節する機能を有することが好ましく、40℃以上95℃以下がより好ましく、50℃以上90℃以下が更に好ましい。すなわち、前記の温度調節手段Aにより調節するリチウムイオン抽出液の温度の好ましい範囲と同じである。
【0029】
温度調節手段Bとしては、リチウム選択透過膜の温度を調節できる手段であれば特に限定されず、例えば前記温度調節手段Aとして用いられ得るものとして説明した熱交換器から適宜選択して用いればよい。中でも、リチウム選択透過膜への設置のしやすさを考慮すると、電気によるジャケットタイプ、ヒータータイプ等の熱交換器が好ましく、リチウム選択透過膜に接するようにして設置するとよい。また、その形状については特に制限はなく、リチウム選択透過膜の形状との関係に応じて適宜採用すればよく、例えば棒状、プレート型等のものを採用すればよい。
【0030】
温度調節手段Bを採用することで、リチウム選択透過膜だけでなく、リチウム選択透過膜に接するリチウムイオン抽出液及び回収液の温度も上昇する。他方、温度調節手段Aを採用することで、リチウムイオン抽出液だけでなく、リチウム選択透過膜の温度も上昇する。よって、温度調節手段A及びBのいずれか一方を採用することで、本来の温度調節の対象ではない対象の温度を調節し得るため、優れたリチウムイオンの効率的な回収効果は得られる。特に効率的にリチウムイオンを回収する観点から、温度調節手段A及びBを併用して採用することが好ましい。
【0031】
(貯留槽及び処理槽)
貯留槽は、第一貯留槽と第二貯留槽を備えるものとすることができる。これにより、より大量のリチウムイオン抽出液からリチウムイオンを効率的に回収することができる。それに伴い、回収液も大量になる可能性があるので、回収液槽が、第一回収液槽と第二回収液槽を備えるようにすることができる。第一貯留槽、第二貯留槽、第一回収液槽及び第二回収液槽等、複数の貯留槽、回収液槽を有する態様については、後述する図3の説明にて詳説する。
また、リチウムイオン抽出液の処理量に応じて、その態様は適宜選択すればよく、処理量によっては3以上の貯留槽、あるいは回収液槽を備えるようにしてもよい。
【0032】
本実施形態のリチウム回収装置は、貯留槽と、処理槽との間に設けられる抽出液配管として、少なくとも貯留槽から処理槽にリチウムイオン抽出液を供給し得る抽出液配管を備えていればよいが、貯留槽と、処理槽との間で、リチウムイオン抽出液を循環させる循環手段を更に備えることができる。これにより、リチウムイオン抽出液に対するリチウムイオンの回収率をさらに向上させることができる。すなわち、貯留槽と処理槽との間に設けられた抽出液配管は、貯留槽から処理槽に供給するための配管と、処理槽から貯留槽に戻すための配管と、を備えることができる。
また、リチウムイオン抽出液を円滑に循環させるため、必要に応じて抽出液配管中にポンプを設けることができる。
【0033】
また、回収液配管が回収液槽と、処理槽との間に設けられた場合、回収液配管として少なくとも処理槽から回収液槽に回収液を回収し得る回収液配管を備えていればよいが、リチウム回収装置の運転の多様性の観点から、回収液槽と、処理槽との間で、回収液を循環させる循環手段を更に備えることができる。すなわち、回収液槽と処理槽との間に設けられた回収液配管は、処理槽から回収液槽に回収するための配管と、回収液槽から処理槽に戻すための配管と、を備えることができる。
また、回収液を円滑に循環させるため、必要に応じて回収液配管中にポンプを設けることができる。
【0034】
本実施形態のリチウム回収装置は、リチウムイオン抽出液のリチウムイオン濃度を高める濃縮手段をさらに備えることができる。これにより、リチウムイオン抽出液からリチウムイオンをさらに効率的に回収することができる。例えば、抽出液中の水の蒸発等の手段により、リチウムイオン抽出液のリチウムイオン濃度を高めることができる。
【0035】
(pHコントロール手段)
本実施形態におけるリチウム回収装置はpHコントロール手段を具備することができる。本実施形態におけるリチウム回収装置に使用される、リチウムイオン抽出液のpHを調節するpHコントロール手段は、リチウムイオン抽出液のpHを調節することができる手段であれば特に限定されない。リチウムイオン抽出液のpHコントロール手段は、pHを12以上14以下の範囲内に調節する機能を有することが好ましく、アルカリ性水溶液をリチウムイオン抽出液に添加する機能を有することがより好ましい。これにより、硫黄を含有する、例えば硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材から抽出した溶液であっても効率的にリチウムイオンを回収することができる。また、上述の温度調節手段と組み合わせることにより、リチウムイオン抽出液からリチウムイオンをさらに効率的に回収することができる。本明細書において、pHは水溶液の水素イオン指数を測定することができるpH測定器により測定された数値とし、pHコントロール手段においてはpH測定器を用いればよい。また、本明細書において、pH12以上14以下について、pHの12には11.5以上12.5未満の値、pHの14には13.5以上14.5未満の値が含まれるものとし、実質的には11.5以上14.5未満までの範囲であることを意味する。
【0036】
硫黄を含有する、例えば硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材から抽出した溶液であっても効率的にリチウムイオンを回収することができることについて、本発明を限定するものではないが、以下の理由によるものと予測される。リチウムイオン抽出液のpHを調節しない場合、リチウムイオンの移動に伴い、徐々に調整液のアルカリ性に寄与するOH(水酸化物イオン)が減少し、それに伴いリチウム回収の効率も低下していく。これは、OH(水酸化物イオン)の不足により、リチウム選択透過膜の表面のリチウムイオン伝導サイトがH(プロトン)と置換し、リチウムイオンの透過を妨げるためであると考えられる。また、リチウムイオン抽出液の硫酸イオン、リン酸イオン等とOHとの反応もリチウム回収の低下の原因と考えられる。さらに、硫黄系固体電解質をアルカリ性水溶液で溶解した場合、PSO 3-のようなリン硫黄複合酸化物イオンが生成し、このリン硫黄複合酸化物イオンは、徐々に加水分解されることで最終的にリン酸イオンと硫酸イオンとに分解する。この硫酸イオンは、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン等を経由して生成される。このため、リチウムイオン抽出液にはチオ硫酸イオンが多量に存在しており、リチウム選択透過膜表面でのリチウム交換の際にチオ硫酸イオンが分解され微粒子のコロイド状硫黄が発生し、このリチウム選択透過膜表面上の硫黄の存在により、リチウム回収率が低下している可能性がある。
一方、リチウムイオン抽出液のpHを調節することにより、OH(水酸化物イオン)の不足を解消し、また、微粒子のコロイド状硫黄の発生を抑制できる。これにより、効率的にリチウムイオンを回収することができると考えられる。
【0037】
リチウムイオン抽出液のpHを調節するために使用されるアルカリ性水溶液のアルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム(II)、水酸化タリウム(I)、グアニジン等が好ましく挙げられる。これらのアルカリ成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、リチウムイオン抽出液のpHを速やかに調整できるという観点から、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0038】
pHコントロール手段におけるリチウムイオン抽出液のpHの調節は、リチウムを回収する前の段階で行ってもよく、リチウムの回収中に行ってもよく、本発明の目的を達成するために支障がないかぎり、リチウム回収のどの段階でも行ってもよい。リチウム選択透過膜の性能等を維持する観点から、リチウムの回収中にリチウムイオン抽出液のpHを調節することが好ましく、リチウム回収中にリチウムイオン抽出液のpHが前記範囲、すなわち12以上14以下の範囲内に少なくとも一時的にあるように調節することが好ましく、特に、リチウム回収の開始から終了まで前記範囲内となるように調節することが好ましい。
pHを調節する前のリチウムイオン抽出液のpHが例えば前記のpH12以上14以下の範囲内にある場合は、リチウムイオン抽出液のpHを調節しなくてもよく、pHを調節する前のリチウムイオン抽出液のpHが例えば前記のpH12以上14以下の範囲の近傍にある場合、リチウムイオン抽出液を水等で希釈することによってリチウムイオン抽出液のpHを調節してもよい。また、強アルカリ性水溶液を用いて硫化物系固体電解質を溶解した場合には、リチウムイオン抽出液に、強アルカリ性水溶液を添加してpHを調節する必要はない。
【0039】
pHコントロール手段により、前記海水等の環境水、及び硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材といった広範な液体から抽出したリチウムイオン抽出液に対応することができ、そのpHの調節を所望に応じて行うことができる。リチウムイオンを効率的に回収できるという観点から、pHコントロール手段によって調整されるリチウムイオン抽出液のpHの範囲は、好ましくは前記の範囲、すなわち12以上14以下の範囲である。
【0040】
リチウムイオン抽出液からより効率的にリチウムを回収する観点から、リチウムイオン抽出液は、酸化剤により酸化されたものであってもよい。酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過マンガン酸、次亜塩素酸、二クロム酸、フッ素、ヒドロキシラジカル、オゾン及び塩素等が好ましく挙げられる。リチウムイオン抽出液からより効率的にリチウムを回収できるという観点から、好ましい酸化剤は過酸化水素である。
【0041】
図1~4について)
次に、本実施形態におけるリチウム回収装置について、図1~4を用いて説明する。
図1~4は、本実施形態におけるリチウム回収装置1の具体的な構成の好ましい一態様を説明するための構成図である。リチウム回収装置1においては、リチウムを選択的に透過させるリチウム選択透過膜10が用いられ、平板状のリチウム選択透過膜10の両主面には、メッシュ状の第1電極11、第2電極12がそれぞれ形成される。この構造が処理槽8中に設けられ、リチウムイオン(Li)50を含む水溶液であるリチウムイオン抽出液100と、リチウムが回収される先となる水溶液である回収液200とは、処理槽8内でこのリチウム選択透過膜10によって仕切られている。リチウムイオン抽出液100には、リチウムイオン50以外の1価正イオン(ここではナトリウムイオン(Na)51とする)もリチウムイオン50と同時に含まれる。
【0042】
図1及び2では、リチウム回収装置1は、リチウムイオン抽出液の貯留槽71と、貯留槽71と処理槽8との間に設けられた抽出液配管74及び75と、リチウムイオン抽出液100の温度を調節する温度調節手段85とを具備する態様が示されている。温度調節手段85は、リチウムイオン抽出液の温度を調節する手段であり、温度調節手段Aに該当する。
図1では、温度調節手段85が、貯留槽71、抽出液配管74及び75、処理槽8、回収液槽72、並びに回収液配管76及び77が収納される空間内の温度を調節する、空調装置85である態様が示されている。空調装置85は、室内機85A、室外機85B、及び室内機85Aと室外機85Bとの間で循環している熱媒体85Cを備えてもよい。室内機85Aは、リチウム回収装置内の温度を調節するために用いる熱交換器851Aを備える。一方、室外機85Bは、熱媒体85C及び外気の間で熱交換を行う熱交換器851B及び熱媒体を圧縮するための圧縮機852Bを備える。
【0043】
図1では、空調装置85は、貯留槽71、抽出液配管74及び75、処理槽8、回収液槽72、並びに回収液配管76及び77が収納される空間内の温度を調節できるようなものが示されているが、既述のように、少なくとも貯留槽71、抽出液配管74及び75、並びに処理槽8が収容された空間内の温度を調節できるようにしてもよいし、少なくとも回収液槽72、並びに回収液配管76及び77が収容される空間内の温度を調節できるようにしてもよい。
【0044】
また図2では、温度調節手段85が、熱交換器であり、当該熱交換器が貯留槽71、抽出液配管75、回収液槽72及び回収液配管76に接して設けられていることが記載されている。図2では、貯留槽71、抽出液配管75、回収液槽72及び回収液配管77に、各々熱交換器855、853、856及び854が接して設けられているが、本実施形態においては、貯留槽71又は抽出液配管75のいずれかに接して設けられていてもよいし、回収液槽72又は回収液配管77のいずれかに接して設けられていてもよいし、抽出液配管74又は75のいずれかに、抽出液配管74及び64に、回収液配管76又は77のいずれかに、回収液配管76及び77に接して設けられていてもよい。より効率的に温度を調節する観点から、配管については、処理槽8に供給される配管の方、すなわち抽出液配管75、回収液配管77に熱交換器が設けられていることが好ましい。なお、他の好ましい態様については既述の通りである。
【0045】
図1及び2では、リチウム回収装置1が、処理槽8と貯留槽71との間の循環手段、及び処理槽73と回収液槽72との間の循環手段を備えている、すなわち抽出液配管74及び75、並びにポンプ81及び82を用いてリチウムイオン抽出液100が循環され、回収液配管76及び77並びにポンプ83及び84、を用いて回収液200が循環される態様が示されている。これにより、処理槽73、リチウム選択透過膜10等を大型化することなく、大量のリチウムイオン抽出液100の処理を行うことができる。貯留槽71、抽出液配管74及び75、回収液槽72、回収液配管76及び77は、任意の形態で設けることができる。
【0046】
図3は、図1において、二つの貯留槽7及び回収液槽8を有する態様が示されており、具体的には、リチウムイオン抽出液の貯留槽71が、抽出液配管74及び75に対応して各々第一貯留槽71A及び第二貯留槽71Bを有しており、回収液槽72が、回収液配管76及び77に対応して各々第一回収液槽72A、第二回収液槽72Bを有している。このような態様を採用することで、貯留槽71から処理槽8に供給するリチウムイオン抽出液と処理槽8から貯留槽71に戻すリチウムイオン抽出液とを混合させることがなく、また処理槽8から回収液槽72に戻す回収液と回収液槽72から処理槽8に供給する回収液とを混合させることがなくなる。そのため、処理槽8におけるリチウムイオン抽出液100と、回収液200との濃度勾配をより大きくすることができるので、より効率的にリチウムイオンを回収することが可能となり、リチウム選択透過膜10等の大型化に対応することができ、他方、大型化をすることなく大量のリチウム抽出液100の処理も可能となる。
【0047】
また、例えば図3に示される態様を採用し、リチウムイオン抽出液100を第二貯留槽71Bを経由して処理槽8に連続的又は断続的に供給し、かつ純水を第二回収液槽72Bを経由して処理槽8に連続的又は断続的に供給することで、前記濃度勾配をより大きくすることができるため、リチウムイオン抽出液及び回収液を循環させることなく、ワンパスで流通系のようにしてリチウムイオンを回収することも可能である。
【0048】
リチウムイオンの回収処理の際に、リチウムイオン抽出液100をポンプ81及び82を用いて循環させる場合、処理槽8(リチウム選択透過膜10等)を大型化する必要なく、大容量のリチウムイオン抽出液100の処理を行うことができる。この場合、リチウムイオンを回収する側である回収液200の総量も多くすることが必要であり、大容量の回収液槽72が用いられることが好ましい。このため、回収液200も、回収液槽72と処理槽8との間を、ポンプ83、84を用いて循環させることが好ましい。回収液200の総量は少ない方がリチウム濃度を高めることができ、総量が多い方が回収されるリチウムイオンの総量を高めることができる。例えば、回収液200の総量はリチウムイオン抽出液100の総量の半分程度とすることができる。
【0049】
また、図3には、温度調節手段Aである空調装置85(室内機85A、室外機85B、及び熱媒体85C)に加えて、温度調節手段Bとしてヒータ86が設けられている。このように、リチウム回収装置には、温度調節手段Aとともに、温度調節手段Bが設けられていてもよい。温度調整手段Bはリチウム選択透過膜に隣接して設けてもよく、接して設けられてもよい。電極や液の流れを阻害しない位置にリチウム選択透過膜と対面するように面状や棒状の熱媒体による温度調整装置も用いることができる。
ヒータ86を設ける場合、図3に示されるように、リチウム選択透過膜の側面に接するように設けることが好ましい。図3では、棒状のヒータ86はプレート型のリチウム選択透過膜の手前の側面に接するように設けられていることが示されており、奥の側面に設けられていることは視認できないが、奥の側面にも接するように設けられていることが好ましい。
【0050】
図4に示されるリチウム回収装置は、貯留槽71、回収液槽72及び処理槽8が、各々収納室に収納されるように設けられており、外気の混入を抑制すると同時に、各槽内の温度の調整がしやすくなる。
貯留槽71、回収液槽72及び処理槽8を収納する収納室内には、各々熱交換器857~859を設けることができ、これらの熱交換器により、各槽内の温度をより正確に調整することが可能となる。なお、熱交換器は、図2に示されるように、各槽内に設けられていてもよい。
【0051】
図4においては、貯留槽71、回収液槽72及び処理槽8の各々の槽は、これらの槽を密閉するための密閉用の蓋で密閉されている。このように、密閉用の蓋で密閉することにより、各槽内の温度をさらに正確に調整しやすくなる。各槽内の温度をより正確に調整することにより、リチウムイオンの回収率は向上する。
【0052】
各槽を密閉用の蓋で密閉した場合は、当該各槽内に充満する可能性があるガスを排気する機構(図4中の圧力調整弁781~784)が設けられていてもよい。とりわけ、処理槽8では、電極上で塩素ガス、水素ガス等が発生する可能性があるため、排気する機構を設けておくことは、発生したガスが電極表面につくことを防ぐ点では回収効率の観点から、また圧力制御は安全性の観点から有効である。ガスを排気する機構としては、各槽内で発生するガスを排気し得るものであれば、その形式は特に制限はなく、排気口のような形式でもよく、また図4に示されるように圧力調整弁を用いてもよい。各槽の密閉を確保することで各槽内の温度をより正確に調整し、また発生したガスが電極表面に付着することを防ぎ、リチウム電池材料室イオンの回収率を向上させる観点から、圧力調整弁を用いることが好ましい。圧力調整弁を採用する場合、各槽の内圧は、単に各槽の耐圧を考慮し、一定圧力以下に保持するように調整してもよいし、また発生したガスが電極表面に付着することを防ぐために、一定範囲内に保持するように調整してもよく、リチウムイオンの回収率を向上させる観点から、一定範囲内に保持するように調整することが好ましい。
圧力調整弁の形式も特に制限はなく、例えば逆止弁型のもの等を採用すればよい。また、図4では、圧力調整弁の排気は収納室内に行われるように示されているが、圧力調整弁からの排気は、収納室外にするようにしてもよいし、収納室に別途の排気する機構(圧力調整弁、排気口等)を設けてもよい。なお、図1及び3において、貯留槽71、回収液槽72及び処理槽8は空間内に収納されているが、当該空間内のガスを排気する機構が設けられていてもよい。
【0053】
(第1電極及び第2電極)
第1電極11、第2電極12の構造、材質については、WO2015/020121号に記載されたものと同じである。また、図1の構造において、WO2015/020121号に記載されるように、メッシュ状の第1電極11、第2電極12と、リチウム選択透過膜10との間に、カーボンフェルトシート等で構成された集電体を介在させてもよい。接合層を用いてリチウム選択透過膜10を大面積化できることも同じである。
【0054】
この際、第1電極11、第2電極12に外部から電圧を印加せず、逆にこれらから電力を取り出す電池としてこのリチウム回収装置1を用いることができる(電池モード))。この場合には、リチウムイオン50をリチウムイオン抽出液100から回収液200に移動させる(リチウムイオン50をイオン電流として流す)ことができると同時に、第1電極11は負側、第2電極12は正側となるような電圧が発生する。一方、外部から第1電極11、第2電極12に電圧を印加することによって、前記の場合よりもリチウムイオン50のイオン電流を大きくすることができる(電気透析モード)。この場合には電力を要するものの、特にリチウム(リチウムイオン50)の回収液200への回収効率を高めることができる。
【0055】
(リチウム選択透過膜)
リチウム選択透過膜10は、特に高いイオン伝導率をもつ超リチウムイオン伝導体(イオン伝導体))で構成されたリチウム選択透過膜本体10Aと、そのリチウムイオン抽出液100側(第1電極11側)に薄層として形成されたリチウム吸着層10Bで構成されることが好ましい。
【0056】
リチウム選択透過膜本体10Aとして、超リチウムイオン伝導体を用いると、電極間に流れるリチウムイオンのイオン電流を大きくすることによって、リチウムの回収効率を高めることができる。ここで、水溶液中に含まれるリチウムイオンは、周りに水分子を配位したリチウム水和イオンとして存在する。よって、イオン電流を更に高めるためには、リチウム選択透過膜の表面(リチウム選択透過膜とリチウムイオン抽出液との間の界面)にて水分子を除去しやすい状況を実現することが有効である。
このため、リチウム選択透過膜の表面には、リチウムイオン抽出液中のリチウムイオン(水和物を除く)を吸着するリチウム吸着層が形成されていることが好ましい。すなわち、リチウム選択透過膜は、表面リチウム吸着処理されたものであることが好ましい。リチウム吸着層としては、後述するように、リチウム選択透過膜を構成する材料の表面を改質することによって形成されるものが好ましく挙げられる。
【0057】
リチウム選択透過膜本体10Aを構成する材料としては、具体的にはチタン酸リチウムランタン:(Li,La)TiO(ここで、x=3a-2b、y=2/3-a、z=3-b、0<a≦1/6、0≦b≦0.06、x>0)(以下、LLTO)を用いることができ、更に具体的にはLi0.29La0.57TiO(a≒0.1、b≒0)を用いることができる。これらの材料は、例えば、この材料で構成された粒子を焼結助剤等と混合して高温(1000℃以上)で焼結した焼結体として得ることができる。この場合には、リチウム選択透過膜10の表面は、LLTOで構成された微細粒子が結合(焼結)された多孔質として構成することもできるため、リチウム選択透過膜本体10Aの表面の実効的な面積を高くすることができる。
【0058】
リチウム選択透過膜本体10Aを構成する材料として用いることができる超リチウムイオン伝導体としては、前記のチタン酸リチウムランタンの他に、例えば、Li置換型NASICON(Na Super Ionic Conductor)型結晶であるLi1+x+yAl(Ti,Ge)2-xSi3-y12(ここで、0≦x≦0.6、0≦y≦0.6)等も挙げられる。
【0059】
超リチウムイオン伝導体は、その構成元素の一つにリチウムを含み、結晶外のリチウムイオンが結晶中のリチウムサイト間を移動することによって、イオン伝導性が発現する。リチウムイオン50はリチウム選択透過膜本体10A内を流れるが、ナトリウムイオン51はリチウム選択透過膜本体10A内を流れることができない。この際、結晶内を伝導するのはリチウムイオン(Li)50であり、リチウムイオン50と共にリチウムイオン抽出液100中に存在するリチウムの水和物イオンはリチウムサイトには入れないため、結晶中を伝導しない。この点については、WO2015/020121号に記載のリチウム選択透過膜と同じである。
【0060】
ここで、リチウム吸着層10Bによって特にリチウムイオン50のみを多くリチウム選択透過膜本体10Aの表面に吸着させれば、吸着時にリチウム水和イオンの水分子が除去され、リチウムイオンのみになるため、リチウム選択透過膜本体10Aにおけるリチウムイオン抽出液100側(一方の主面側)から回収液200側(他方の主面側)へのリチウムイオン50の伝導効率(リチウム選択透過膜本体10A中を流れるイオン電流)を大きくすることができる。
【0061】
正極、負極は、それぞれ図1におけるリチウム選択透過膜の右面(一方の主面)、左面(他方の主面)に接合される。この構成によって、リチウム選択透過膜の右面、左面は、それぞれ一定の正電位、負電位に保たれる。正極、負極の材料としては、リチウムイオン抽出液や回収液中において電気化学反応を生じない金属材料をそれぞれ適宜用いることができる。このような金属材料としては、例えば、SUS、Ti、Ti-Ir合金等を用いることができる。
【0062】
リチウム選択透過膜として用いられる前記の材料は固体であるが、結晶中を自由電子に近い形でリチウムイオンが流れることによって、導電性を示すことが知られている。このため、図1の構成において、正極を正電位、負極を負電位とした場合には、正極側のリチウムイオン抽出液中のリチウムイオン(正イオン)のうち、リチウム選択透過膜の右面に到達したものが、リチウム選択透過膜の右面から左面に向かってイオン伝導によって流れる。リチウム選択透過膜の左面に到達したリチウムイオンは、回収液中に回収される。このため、所定時間経過後には、リチウムイオン抽出液中のリチウムイオン濃度は低下し、回収液中のリチウムイオン濃度が増大する。
【0063】
リチウム吸着層10Bは、このリチウム選択透過膜本体10Aに対して化学処理を行うことによってリチウム選択透過膜本体10Aの表面に薄層として形成される。具体的には、前記のリチウム選択透過膜本体10A(LLTO)の一方の主面に対して酸処理、例えばこの面を塩酸や硝酸に5日間曝すことによって、形成される。この処理によって、LLTOにおける構成元素のうち特に酸化されやすいリチウムが酸の中の水素で置換されたH0.29La0.57TiOに近い組成の物質層(HLTO)が形成されるものと推定される。ここで、表面の薄層(HLTO)の形成は、WO2017/131051号におけるX線回折結果より、リチウム選択透過膜本体10A(LLTO)とは異なるピークを有するものが存在していることから裏付けられるものである。
【0064】
HLTOにおけるHサイトは、本来はリチウムが入るサイトであったためにHは特にリチウムイオンに置換されやすく、かつ他のイオン(ナトリウムイオン51等)には置換されにくい。このため、HLTOはリチウム吸着層10Bとして機能する。また、HLTOは酸との反応によって生じるため、リチウム選択透過膜本体10Aの最表面にのみ形成される。
【0065】
本実施形態のリチウム回収装置で用いられるリチウム選択透過膜は、焼結密度として、90%以上105%以下であることが好ましい。焼結密度が上記範囲内であると、
リチウム選択透過膜の熱伝導率が向上することで、均熱性が高まるため、リチウム選択透過膜の全面においてリチウムイオンが流れやすくなる。その結果、リチウムの回収効率が向上する。これと同様の理由から、焼結密度は、より好ましくは91%以上、更に好ましくは93%以上であり、上限としてより好ましくは100%以下、更に好ましくは98%以下、より更に好ましくは95%以下である。
【0066】
本明細書において、リチウム選択透過膜の焼結密度は、以下の方法により算出した理論密度に対する嵩密度の割合、すなわち以下の数式により算出される。
焼結密度(%)=嵩密度/理論密度×100
【0067】
ここで、嵩密度は、リチウム選択透過膜の重さと寸法を測定し、その体積と重さから算出される値(g/cm)である。また、理論密度は、リチウム選択透過膜を構成する材料に応じて決定し得る密度であり、具体的には、リチウム選択透過膜を構成する材料の単位格子当たりの分子数をZ、想定分子量をM(g/mol)、単位格子の体積V(Å3)を用いて以下の式により算出される数値である。
理論密度(g/cm)=1.66×m×z/v
【0068】
例えば、リチウム選択透過膜を構成する材料として、上記のチタン酸リチウムランタン:(Li,La)TiO(ここで、x=3a-2b、y=2/3-a、z=3-b、0<a≦1/6、0≦b≦0.06、x>0)(以下、LLTO)を用いる場合、LLTOの単位格子当たりの分子数zは2、想定分子量M(177g/mol)、粉末X線回折(XRD)より測定した結晶の単位格子の体積v(116Å)より、lltoの理論密度は5.07(g/cm)と算出される。
【0069】
(リチウムイオン抽出液の調製)
本実施形態において、リチウムイオン抽出液は、通常知られる一般的な電気透析装置を用いて調製することができる。電気透析装置においては、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)等の1価の正イオンは陽イオン交換膜を透過して負極(処理液)側に移動し、その他の多価の正イオンは陽イオン交換膜を透過しにくく、負イオンは陽イオン交換膜を透過しない。このため、回収の対象となるリチウムイオン(Li)は原材料液から処理液中に移動する。また、負極においては、水の電気分解によってOHイオンが生成する。このため、電気透析装置を用いて、原材料液中のリチウムイオンを処理液中に移動させることができると同時に、処理液をアルカリ性とすることができる。ただし、この電気透析処理においては、リチウムイオンとともに他の1価の正イオンであるナトリウムイオン(Na)等(非リチウム1価正イオン)も同時に処理液中に移動する。このため、電気透析処理後の処理液を図1におけるリチウムイオン抽出液として用いることにより、リチウムイオンを選択して回収液中に回収することができる。
【0070】
すなわち、リチウムイオン抽出液が非アルカリ性である場合、通常知られる一般的な電気透析装置を用いてリチウムイオンを含むアルカリ性の水溶液(処理液)を生成し、これをリチウムイオン抽出液としてリチウム回収装置1で用いることによって、回収液中に高効率でリチウム(リチウムイオン)を得ることができる。
【0071】
(回収液からのリチウムの抽出)
高濃度にリチウムイオン50を含む回収液200からリチウムを抽出する方法について説明する。WO2015/020121号に記載の通り、リチウムの用途(リチウムイオン電池等)を考慮すると、リチウムは炭酸リチウム(LiCO)の粉末として抽出することが好ましい。このため、WO2015/020121号においては、回収液200に塩酸(HCl)を添加して回収を行い、その後に炭酸ナトリウム(NaCO)水溶液を添加することによってリチウムを炭酸リチウム(LiCO)として抽出することが記載されている。本実施形態においては、このような方法により炭酸リチウム(LiCO)として抽出することができるが、より安価に炭酸リチウム(LiCO)として抽出する観点から、例えば、次の方法により抽出することが好ましい。
【0072】
前記のリチウム回収装置1を用いると、回収液200中におけるリチウムイオン50の濃度を特に高めることができる。このため、初期状態における回収液200を純水とし、リチウム回収後の回収液200に炭酸ガス(CO)を含む気体を流す(例えばバブリングする)ことによって、COを回収液200中のリチウムイオン50と結合させ、炭酸リチウム(LiCO)を生成し、抽出することができる。この処理によって、回収液200は白濁し、炭酸リチウム(LiCO)をその沈殿物として抽出することができる。こうした手法は、回収液200中のリチウムイオン50の濃度を特に高めることができる前記のリチウム回収装置1を用いる場合に特に有効である。COは、副次的にCOを生成する各種設備(火力発電所等)から安価又は無償で得ることができるため、炭酸リチウム(LiCO)を特に安価に得ることができる。また、回収液200として塩酸等を添加しない純水を用いることができるため、安価かつ安全に炭酸リチウムを得ることができる。
【0073】
〔リチウムの回収方法〕
次に、本実施形態のリチウム回収方法について説明する。なお、本実施形態のリチウム回収方法は本発明のリチウム回収方法のあくまで一実施形態であり、本発明は本実施形態のリチウム回収方法に限定されるものではない。
【0074】
本実施形態のリチウム回収方法は、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から、リチウム選択透過膜を用い、かつ前記リチウムイオン抽出液の温度及び前記リチウム選択透過膜の温度の少なくとも一方の温度を30℃以上100℃以下に調節し、水溶液である回収液にリチウムイオンを移動させて前記回収液にリチウムを回収することを含む、というものである。
【0075】
ここで、リチウムイオン抽出液の温度、リチウム選択透過膜の温度は、これらの少なくとも一方の温度が、30℃以上100℃以下となるように調節することを要し、これらの少なくとも一方の温度は少なくとも一時的に30℃以上100℃以下の範囲内にあるように調節すればよく、リチウムの回収をより効率的に行う観点から、これらの少なくとも一方の温度は、リチウム回収の開始から終了まで、30℃以上100℃以下の範囲内となるように調節することが好ましい。また、より効率的にリチウムの回収を行う観点から、リチウム選択透過膜の温度を調節することが好ましく、リチウムイオン抽出液及びリチウム選択透過膜の両方の温度を調節することがより好ましい。
【0076】
また、リチウムイオン抽出液の温度、リチウム選択透過膜の温度は、40℃以上95℃以下となるように調節することが好ましく、50℃以上90℃以下となるように調節することがより好ましく、60℃以上85℃以下となるように調節することが更に好ましく、75℃以上85℃以下となるように調節することがより更に好ましい。
【0077】
本実施形態のリチウム回収方法は、回収液の温度を30℃以上100℃以下に調節してもよい。ここで、回収液の温度は、該回収液の温度が、30℃以上100℃以下となるように調節し、該回収液の温度は少なくとも一時的に30℃以上100℃以下の範囲内にあるように調節すればよく、リチウムの回収をより効率的に行う観点から、回収液の温度は、リチウム回収の開始から終了まで、30℃以上100℃以下の範囲内となるように調節することが好ましい。また、回収液の温度の調節は、前記温度調節手段におけるリチウムイオン抽出液の温度の調節(温度調節手段A)として説明した内容と同じである。
また、回収液の温度は、40℃以上95℃以下となるように調節することがより好ましく、50℃以上90℃以下となるように調節することが更に好ましい。
【0078】
リチウム回収方法におけるpHの調節の方法等について、pHの調節はリチウム回収前に行ってもよいし、リチウム回収中に行ってもよいこと等を含め、前記pHコントロール手段におけるリチウムイオン抽出液のpHの調節として説明した内容と同じである。
本実施形態のリチウム回収方法は、例えば、上述の本実施形態のリチウム回収装置を用いて行うことができる。
【0079】
他の実施形態のリチウム回収方法としては、前記の本実施形態のリチウム回収装置を用いて、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液から回収液中にリチウムを回収する、という形態が挙げられる。本実施形態のリチウム回収方法は、前記の本実施形態のリチウム回収装置を用いることで、実施しやすくなる。
【0080】
これらの実施形態のリチウム回収方法におけるリチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液、リチウム選択透過膜、回収液等については、上述の本実施形態のリチウム回収装置で説明したので、これらの説明は省略する。なお、本実施形態において使用されるリチウムイオン抽出液としては、リチウムイオンを含む抽出液であれば効率的にリチウムイオンを回収するという本発明の効果は得られるので、例えば、海水、塩湖かん水、鉱業廃水、地熱水又はこれらのいずれかを組み合わせたものを、蒸発等の手段により濃縮した濃縮水を用いてもよいこと、また、これらの中から単独で、又は複数種を組み合わせたものを用いることができることも、上述の本実施形態のリチウム回収装置で説明したことと同じである。
【0081】
リチウムイオン抽出液からリチウムをより効率的に回収するという観点から、リチウムイオン抽出液は、酸化剤により酸化されたものであってもよい。すなわち、本実施形態のリチウム回収方法は、リチウムを回収することの前に、リチウムイオン抽出液に酸化剤を添加して、リチウムイオン抽出液を酸化させる酸化処理を行うこと、を含むことが好ましい。なお、酸化処理を行うことにおいて用いる酸化剤については、上述の本実施形態のリチウム回収装置で説明したので、酸化剤の説明は省略する。
【実施例0082】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0083】
(1)硫化リチウム(LiS)の製造
撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)336.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、撹拌翼を300rpmで回転させながら、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウム(LiS)を得た。
【0084】
(2)硫化リチウムの精製
前記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP-硫化リチウムスラリー) 中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥し、硫化リチウムを精製した。
【0085】
(3)固体電解質の製造
前記(2)で得られた硫化リチウム(LiS)と五硫化二リン(P、アルドリッチ製)を出発原料に用いた。これらを75:25(モル比)に調製した混合物を約1gと粒径10mmΦのアルミナ製ボール10個とを45mLのアルミナ製容器に入れ、遊星型ボールミル(「p-7(型番)」、フリッチュ社製)にて、窒素中、室温(25℃)にて、回転速度を370rpmとし、20時間メカニカルミリング処理することで、白黄色の粉末である非晶質の硫化物系固体電解質を得た。
この粉末(非晶質の硫化物系固体電解質)を、窒素中にて常温(25℃)~550℃までの温度範囲で焼成処理を行い、結晶性の硫化物系固体電解質を作製した。なお、焼成処理と同時に示差熱分析を行った。
このときの昇温及び降温速度は、10℃/分とし、550℃まで昇温した後、室温まで冷却し、結晶性の硫化物系固体電解質を製造した。
【0086】
(4)リチウム選択透過膜の製造
構成材料をチタン酸リチウムランタン(Li0.29La0.57TiO)とするリチウム選択透過膜本体を作製し、該本体の一方の主面を60℃の塩酸に5日間曝すことで、リチウム選択透過膜本体(LLTO)の一方の主面にリチウム吸着層(HLTO)が形成された、リチウム選択透過膜を得た。得られたリチウム選択透過膜を、以下実施例で使用するリチウム回収装置に用いた。
また、得られたリチウム選択透過膜の上記方法により測定した嵩密度は4.76g/cmであり、理論密度は5.07g/cm(上記の方法により算出したLLTOの理論密度である。)であることから、焼結密度は94%であった。
【0087】
〔参考例1〕
前記製造例で製造した結晶性の硫化物系固体電解質100グラムを、1.0モル/リットルの水酸化ナトリウム溶液に溶解し、全量を2リットルになるように調整し、リチウムイオン抽出液とした。ICP発光分析の結果、リチウムイオン抽出液100の各元素濃度は、リチウム0.57質量%、ナトリウム2.2質量%、リン0.86質量%、硫黄3.8質量%であった。
前記リチウムイオン抽出液25mLに過酸化水素(30%水溶液)を10mL加えて硫黄分を全量硫酸イオンに変換した後、0.22モル/リットルの水酸化ナトリウム溶液を用いて全量を250mLとし、リチウムイオン抽出液を10倍希釈した後、希釈液200mLをリチウム回収装置への供与液とした。供与液のpHは13.5であった。また、アルカリ性に寄与するOH濃度は0.1モル/リットルであった。
図1のリチウム回収装置に、供与液と回収液の純水を、それぞれ入れて、5Vの電圧印加したときの、第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定した。なお、空調装置85は使用せず、供与液の温度は23℃であった。
【0088】
電圧を印加して240時間後に電流値は0となり、その時点のリチウム回収率は60質量%であった。これにより、本装置を用いてリチウムイオン抽出液からリチウムイオンを回収できることが分かった。なお、リチウム回収率は、リチウム回収前の供与液中のリチウム元素の量に対する、リチウム回収後の回収液のリチウム元素の量の割合を意味する。
【0089】
前記の供与液(抽出液)の温度と回収効率(イオン電流)、リチウム回収量との関係について、水酸化リチウム標準液を用いて次のように評価した。
【0090】
〔実施例1〕
3.0Mの水酸化リチウム水溶液200mL(pH14.6)を抽出液とした。空調装置85を用いて内部の温度を30℃に調節した図1の回収装置に、前記参考例1と同様に供与液と回収液の純水をそれぞれ入れて、供与液の温度が30℃になった後、5Vの電圧印加したときの、第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定した。最大電流値は、0.132Aであった。
【0091】
〔実施例2〕
実施例1において、空調装置85を用いて内部の温度を40℃に調節し、供与液の温度が40℃になった後、5Vの電圧印加した以外は、実施例1と同様にして第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定した。最大電流値は、0.238Aであった。
【0092】
〔実施例3〕
実施例1において、空調装置85を用いて内部の温度を50℃に調節し、供与液の温度が50℃になった後、5Vの電圧印加した以外は、実施例1と同様にして第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定した。最大電流値は、0.343Aであった。
【0093】
〔実施例4〕
実施例1において、空調装置85を用いて内部の温度を60℃に調節し、供与液の温度が60℃になった後、5Vの電圧印加した以外は、実施例1と同様にして第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定した。最大電流値は、0.624Aであった。
【0094】
〔実施例5〕
1.0Mの水酸化リチウム水溶液200mL(pH14.0)を抽出液とした。図4の回収装置に、参考例1と同様に供与液と回収液の純水を、それぞれの槽に入れ、熱交換器857~859を用いて内部の温度を65℃に調整し、5Vの電圧印加したときの、第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定してリチウム回収率を算出した。なお、液温度上昇により内圧上昇が起こるため、その内圧が上がり過ぎないように、処理槽、回収槽、貯留槽の各槽の圧力調整弁(逆止弁型)781~784により内圧を制御した。また、回収液中の炭酸リチウムの濃度は0.1質量%以下であった。
【0095】
〔実施例6〕
実施例5において、熱交換器857~859を用いて内部の温度を80℃に調整した以外は、実施例5と同様にして第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定してリチウム回収率を算出した。また、回収液中の炭酸リチウムの濃度は0.1質量%以下であった。
【0096】
〔実施例7〕
実施例6において、発生したガスが電極に付着を防ぐ程度の圧力となるように逆止弁型の圧力調整弁で調整した以外は実施例6と同様にして、第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定してリチウム回収率を算出した。また、回収液中の炭酸リチウムの濃度は0.1質量%以下であった。
【0097】
〔比較例1〕
実施例1において、空調装置85を用いて内部の温度を23℃に調節し、供与液の温度が23℃になった後、5Vの電圧印加した以外は、実施例1と同様にして第1電極及び第2電極の間を流れる電流値を測定し、リチウム回収量を測定し、リチウム回収率を算出した。最大電流値は、0.083Aであった。
【0098】
図5は、実施例1、2及び比較例1における電流値の経時変化を示すグラフである。
図5に示されるように、実施例1(T=30℃)、2(T=40℃)では、比較例1(T=23℃)に比べて電流値の初期の傾きが大きく、実施例1、2の最大電流値は、各々約1.5倍、約3倍も大きかった。また、最大電流値に至るまでの時間についても、実施例1、2は比較例に比べて各々1/2以下、1/3以下まで短縮した。なお、固体電解質のリチウムイオン伝導度は、通常、23℃から30℃、40℃に温度を上昇させても1.5倍、3倍までは大きくならない。そのことを考えると、比較例1に対する実施例1及び2の電流値の増大は、驚くべき結果であった。
【0099】
図6は、実施例1、2及び比較例1のリチウム回収量の経時変化を示すグラフである。
図6に示されるように、実施例1(T=30℃)、2(T=40℃)では、比較例1(T=23℃)に比べて回収速度が速くなっていることが確認された。温度を23℃から40℃にあげた際のリチウム回収速度は理論値として1.44倍程度(東邦チタニウム株式会社HP内(https://www.toho-titanium.co.jp/products/llto.html)、「LLTO成形体」、「リチウムイオン伝導性」中の表を参考に算出した。)と見込まれるところ、約3倍と飛躍的に向上しており、理論値を超える顕著な向上効果が確認された。
【0100】
また実施例3(T=50℃)では、リチウム回収速度の理論値として3.1倍程度と見込まれるところ、実測値としては4.3倍となり、実施例4(T=60℃)では、リチウム回収速度の理論値として4.7倍程度と見込まれるところ、実測値としては7.7倍となり、いずれも理論値を超える顕著な向上効果が確認された。
【0101】
図7は実施例5(T=65℃)のリチウム回収率及び電流の経時変化を示すグラフであり、図8は実施例6及び7(T=80℃)のリチウム回収率及び電流の経時変化を示すグラフである。
実施例5~7は、図4で示される装置を用い、温度を65℃、80℃にあげた例である。実施例6及び7では、いずれも1日以内にリチウム回収率は100%近くまで達しているが、比較例1ではリチウム回収率が約90%に達するまでに10日間程度かかっており、極めて効率的にリチウムが回収されていることが分かる。また、実施例7は、図4において、電極で発生したガスにより槽内を陽圧にしているが、発生したガスが電極に付着を防ぐ程度の圧力となるように圧力調整弁で調整した例である。図8に示されるように、約0.5日でリチウム回収率は100%近くまで達しており、同じ温度に調整した実施例6に比べて半分程度の時間でリチウムをほとんど回収していることが分かる。このことから、各槽(各液)の圧力を精密に調整することにより、リチウム回収効率は向上することが分かる。
【0102】
〔実施例8〕
実施例1で用いた図1の回収装置に、更に温度調節手段Bとして、棒状の電気ヒータをプレート型のリチウム選択透過膜に接するように設けた。また、リチウム選択透過膜の温度は、リチウム選択透過膜に接するように設けた熱電対により測定した。温度調節手段B及び熱電対を設けた回収装置を用い、リチウム選択透過膜の温度を30℃となるように設定し、実施例1と同様にしてリチウムを回収した。
最大電流値は、0.132Aであり、リチウムイオン抽出液の温度を30℃と実施例8のリチウム選択透過膜の温度と同じ温度に設定した実施例1と同じ結果となった。また、他の結果(図5及び6に示される実施例の結果)についても、実施例1と同様の結果が得られた。
【0103】
〔実施例9~14〕
実施例8において、リチウム選択透過膜の温度を、温度調節手段bを用いて実施例2~7におけるリチウムイオン抽出液と同じ温度(40℃、50℃、60℃、65℃、80℃及び80℃)とした以外は、実施例2~7と同様にして、リチウムを回収した。
実施例9~14の結果は、各々実施例2~7の結果と同等であった。
【符号の説明】
【0104】
1.リチウム回収装置
8.処理槽
10.リチウム選択透過膜
10A.リチウム選択透過膜本体
10B.リチウム吸着層
11.第1電極
12.第2電極
50.リチウムイオン
51.ナトリウムイオン
71.貯留槽
72.回収液槽
74,75.抽出液配管
76,77.回収液配管
781~784.圧力調整弁
81~84.ポンプ
85.温度調節手段A(空調装置)
85A.室内機
85B.室外機
85C.熱媒体
86.温度調節手段B(ヒータ)
100.リチウムイオン抽出液
200.回収液
851A,851B.熱交換器
852B.圧縮器
853~859.熱交換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8