(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022075619
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01D 15/02 20060101AFI20220511BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20220511BHJP
C22B 3/20 20060101ALI20220511BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C01D15/02 ZAB
C22B26/12
C22B3/20
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180294
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020186094
(32)【優先日】2020-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】町田 雅志
(72)【発明者】
【氏名】宇都野 太
(72)【発明者】
【氏名】星野 毅
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA19
4K001DB16
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】より低エネルギーで効率的に高純度の水酸化リチウムを製造する方法を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からLi選択透過膜を用いてLiイオンのみを回収液に回収し、前記回収液から水酸化リチウムを製造する方法であって、前記回収液の温度を50℃以上に調節しながら回収すること、及び前記回収液から水酸化リチウムを分離すること、を含む水酸化リチウムの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からLi選択透過膜を用いてLiイオンのみを回収液に回収し、前記回収液から水酸化リチウムを製造する方法であって、
前記回収液の温度を50℃以上に調節しながら回収すること、及び
前記回収液から水酸化リチウムを分離すること、
を含む水酸化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記温度が、80℃以上100℃以下である請求項1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記分離が、晶析で行われる請求項1又は2に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記晶析が、冷却晶析である請求項3に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記冷却晶析が、前記晶析に供する回収液に不活性ガスを吹き込んで陽圧を保持しながら行われる、請求項4に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記冷却晶析が、前記晶析に供する回収液の温度を40℃以下に調節しながら行われる請求項4又は5に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記晶析が、蒸発晶析である請求項3に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記蒸発晶析で生じた純水を濾液又は前記回収液に加えることを含む請求項7に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項9】
更に、前記晶析で生じた濾液を前記回収液に加えることを含む請求項3~8のいずれか1項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項10】
前記濾液を加熱する、請求項9に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項11】
前記加熱が、前記晶析における排熱又は余剰熱を利用する、請求項10に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項12】
前記濾液を前記回収液に加えることにおいて、不純物除去を行わない請求項9~11のいずれか1項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項13】
前記Li選択透過膜が、Liを含む酸化物又は酸窒化物を含有する請求項1~12のいずれか1項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項14】
リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からLiイオンのみを回収するLi選択透過膜を備えるLiイオン回収槽、
前記Liイオンを回収する回収液を貯留する回収液貯留槽、
前記回収液を50℃以上に調節する温度調節手段、及び
前記回収液から水酸化リチウムを分離する分離装置、
を備える水酸化リチウム製造装置。
【請求項15】
前記分離装置が、晶析装置である請求項14に記載の水酸化リチウム製造装置。
【請求項16】
前記晶析装置で生じた濾液を前記回収液に加える、濾液回収手段を有する請求項15に記載の水酸化リチウム製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化リチウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
既述のような用途に用いられる電池として、リチウム二次電池等が使用されており、近年では炭酸ガス排出規制への対応のために開発されているハイブリッドカー及び電気自動車への使用も検討されている。そのため、これまで以上にリチウム源を確保することが急務となっており、その一環としてリチウム二次電池のリサイクルによるリチウムの回収技術が開発されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
リチウム二次電池等に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。硫化物固体電解質はイオン伝導度が高いため、電池の高出力化を図る上で有用である。硫化物固体電解質の製造には原料として硫化リチウムが汎用されており、硫化リチウムの原料となる水酸化リチウムの需要が高まっている。水酸化リチウムの製造方法としては、炭酸リチウム水溶液ないしは懸濁液を電解し、イオン交換膜を介して水酸化リチウム水溶液を生成させる方法が存在する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-81953号公報
【特許文献2】特開2009-270188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、リチウムイオン伝導体を用いて、リチウムイオンを含む原液からリチウムイオンを回収するものであるが、リチウムの需要の高まりに伴い、リチウム回収の効率の向上がこれまで以上に求められるようになっている。また、特許文献2に記載の技術は、水酸化リチウムの原料が炭酸リチウムに限定されており、他のリチウムを含む水溶液等を原料として水酸化リチウムを得るには、更なる改良が必要である。また、特許文献2に記載の技術等により水酸化リチウムを得る場合、加熱濃縮等の脱水工程を要することからエネルギー消費量が多く、より安価にリチウムを得るには、かかるエネルギーの低減が必要である。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、より低エネルギーで効率的に高純度の水酸化リチウムを製造する方法及び水酸化リチウム製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
【0009】
1.リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からLi選択透過膜を用いてLiイオンのみを回収液に回収し、前記回収液から水酸化リチウムを製造する方法であって、
前記回収液の温度を50℃以上に調節しながら回収すること、及び
前記回収液から水酸化リチウムを分離すること、
を含む水酸化リチウムの製造方法。
2.前記温度が、80℃以上100℃以下である上記1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
3.前記分離が、晶析で行われる上記1又は2に記載の水酸化リチウムの製造方法。
4.前記晶析が、冷却晶析である上記3に記載の水酸化リチウムの製造方法。
5.前記冷却晶析が、前記晶析に供する回収液に不活性ガスを吹き込んで陽圧を保持しながら行われる上記4に記載の水酸化リチウムの製造方法。
6.前記冷却晶析が、前記晶析に供する回収液の温度を40℃以下に調節しながら行われる上記4又は5に記載の水酸化リチウムの製造方法。
7.前記晶析が、蒸発晶析である上記3に記載の水酸化リチウムの製造方法。
8.前記蒸発晶析で生じた純水を濾液又は前記回収液に加えることを含む上記7に記載の水酸化リチウムの製造方法。
9.更に、前記晶析で生じた濾液を前記回収液に加えることを含む上記3~8のいずれか1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
10.前記濾液を加熱する、上記9に記載の水酸化リチウムの製造方法。
11.前記加熱が、前記晶析における排熱又は余剰熱を利用する、上記10に記載の水酸化リチウムの製造方法。
12.前記濾液を前記回収液に加えることにおいて、不純物除去を行わない上記9~11のいずれか1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
13.前記Li選択透過膜が、Liを含む酸化物又は酸窒化物を含有する上記1~12のいずれか1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
14.リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からLiイオンのみを回収するLi選択透過膜を備えるLiイオン回収槽、
前記Liイオンを回収する回収液を貯留する回収液貯留槽、
前記回収液を50℃以上に調節する温度調節手段、及び
前記回収液から水酸化リチウムを分離する分離装置、
を備える水酸化リチウム製造装置。
15.前記分離装置が、晶析装置である上記14に記載の水酸化リチウム製造装置。
16.前記晶析装置で生じた濾液を前記回収液に加える、濾液回収手段を有する上記15に記載の水酸化リチウム製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より低エネルギーで効率的に高純度の水酸化リチウムを製造する方法及び水酸化リチウム製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の水酸化リチウムの製造方法を行い得る水酸化リチウム製造装置の一態様を示すフロー図である。
【
図2】本実施形態の水酸化リチウムの製造方法を行い得る水酸化リチウム製造装置の一態様を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」と称する。)の水酸化リチウムの製造方法及び水酸化リチウム製造装置について説明する。なお、本発明の一実施形態の水酸化リチウムの製造方法及び水酸化リチウム製造装置は、あくまで本発明の水酸化リチウムの製造方法及び水酸化リチウム製造装置の一実施形態であり、本発明は本発明の一実施形態の水酸化リチウムの製造方法及び水酸化リチウム製造装置に限定されるものではない。また、本明細書においては、リチウムとはリチウム又はリチウムイオンの両方を意味するものとし、技術的に矛盾が生じない限り、適宜解釈されるものとする。
【0013】
[水酸化リチウムの製造方法]
本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は、Liイオン水溶液を含む原液、中でもリチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からLi選択透過膜を用いてLiイオンのみを回収液に回収し、前記回収液から水酸化リチウムを製造する方法であって、前記回収液の温度を50℃以上に調節しながら回収すること、及び前記回収液から水酸化リチウムを分離すること、を含むことを特徴とするものである。本実施形態の製造方法においては、回収液を50℃以上という特定の温度条件で調節することにより、回収液のLiイオン溶解度を高めることができるため、Liイオンを大量に回収することができる。また、加温された回収液を晶析させることにより、エネルギー消費量を抑えながら水酸化リチウムを製造することが可能となる。また、Li選択透過膜を採用することで、原液の種類を選ぶ必要がなく、Liイオン水溶液を含む原液であれば特に制限なく、広範な原液に対応することが可能となるが、本実施形態ではリチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液を採用する。かくして、本実施形態の製造方法によれば、より低エネルギーで効率的に高純度の水酸化リチウムを得ることが可能となる。
【0014】
〔Liイオンのみを回収液に回収〕
本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は、Li水溶液を含む原液となるリチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液(当該抽出液を、単に「原液」と称することがある。)からLi選択透過膜を用いてLiイオンのみを回収液に回収する。ここで、「Liイオンのみ」とは、実質的にLiイオン以外の他のイオンは含まないことを意味し、当該他のイオンの含有量は0.5質量%以下であることを意味する。
【0015】
(原液)
Liイオン水溶液を含む原液としては、Liイオンを含むものであれば特に制限なく採用することができ、例えば、海水、塩湖かん水、鉱業廃水、地熱水又はこれらのいずれかを組み合わせたものを、蒸発等の手段により濃縮した濃縮水が挙げられる。
また、原液としては、上記の原液、すなわちリチウム二次電池の処理部材から抽出したLiイオン抽出液も挙げられる。Liイオン抽出液としては、処理部材から抽出したものであれば特に制限はないが、例えば硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材から抽出したもの、すなわち硫化物系固体電解質を含むLiイオン抽出液が挙げられる。本実施形態においては、上記の海水等、またLiイオン抽出液のなかから単独で、又は複数種を組み合わせて用いることが可能である。
【0016】
上記硫化物系固体電解質について、本実施形態では、少なくともリチウム元素及び硫黄元素を含む固体電解質を意味し、代表的には、Li2S-P2S5等のリチウム元素、硫黄元素及びリン元素を含むものをはじめとし、更にハロゲン元素等を含む、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI等が例示される。
【0017】
Liイオン抽出液について、硫化物系固体電解質を含有したリチウム二次電池の処理部材から抽出したLiイオン抽出液としては、代表的には、リチウム二次電池に使用されていた硫化物系固体電解質をアルカリ性水溶液で溶解することによって得られる硫化物系固体電解質の水溶液が挙げられる。
【0018】
硫化物系固体電解質を溶解するためのアルカリ性水溶液のアルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム(II)、水酸化タリウム(I)、グアニジン等が好ましく挙げられる。これらのアルカリ成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。硫化物系固体電解質の溶解のしやすさという観点から、アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムがより好ましい。
【0019】
原液として用いられる上記のLiイオン抽出液は、通常知られる一般的な電気透析装置を用いて調製することができる。電気透析装置においては、Liイオン(Li+)、Naイオン(Na+)等の1価の正イオンは陽イオン交換膜を透過して陰極(処理液)側に移動し、その他の多価の正イオンは陽イオン交換膜を透過しにくく、負イオンは陽イオン交換膜を透過しない。このため、回収の対象となるLiイオン(Li+)は原材料液から処理液中に移動する。また、陰極においては、水の電気分解によってOH-イオンが生成する。このため、電気透析装置を用いて、原材料液中のLiイオンを処理液中に移動させることができると同時に、処理液をアルカリ性とすることができる。ただし、この電気透析処理においては、Liイオンとともに他の1価の正イオンであるNaイオン(Na+)等(非Li1価正イオン)も同時に処理液中に移動する。このため、電気透析処理後の処理液を原液として用いることにより、Liイオンを選択して回収液中に回収することができる。
【0020】
すなわち、Liイオン抽出液が非アルカリ性である場合、通常知られる一般的な電気透析装置を用いてLiイオンを含むアルカリ性の水溶液(処理液)を生成し、これを原液として用いることによって、回収液中に高効率でLi(Liイオン)を得ることができる。
【0021】
(回収液)
本実施形態で用いられる回収液は、Liイオンを溶解できるものであれば特に限定されず、最終的に得るリチウムの形態により適宜選択することができる。例えば、回収液として好ましく用いられるのは、蒸留水、イオン交換水等の純水である。
本実施形態の製造方法において、回収液は純水、イオン交換水等の水として供給され、原液からLiイオンを移動させてLiイオンを回収することでLiイオンを含有する回収液(以下、単に「Liイオン含有回収液」と称することがある。)となり、Liイオン含有回収液から水酸化リチウムを晶析した後、Liイオンを実質的に含まない回収液となる。晶析して生じたLiイオンを実質的に含まない回収液は、濾液とも称する。濾液は、晶析によりLiイオン含有回収液からLiイオンを晶析により除去したものであり、Liイオンを実質的に含まない回収液といえるものである。
【0022】
(回収液の温度の調節)
本実施形態では、原液から回収液にLiイオンのみを回収するにあたり、回収液の温度を50℃以上に調節することを要する。回収液の温度を50℃未満とすると、高効率でLiイオンを回収液に回収することができず、また回収液からの水酸化リチウムの晶析の効率も低下する。
回収液の温度を50℃以上に調節しながらLiイオンを回収すると、高効率でLiイオンを回収できるようになる、すなわち50℃以上に調節すると、回収液のリチウムイオン溶解度が高まり、その高まった分だけ原液からリチウムイオンが供給されるためリチウムイオンを大量に回収することができる。また、加温された回収液を晶析させることにより、エネルギー消費量を抑えながら水酸化リチウムを製造することが可能となる。
【0023】
本実施形態において、Liイオンを回収することにおいて調節する回収液の温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、上限として好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下である。なお、本明細書における回収液の温度は、調節する温度の設定値を意味し、実際の回収液等の温度は当該設定値を中心に上下にぶれる場合があるため、現実の回収液の温度として±2.0℃未満まで含まれるものとする。また、後述する原液の温度についても同様である。
【0024】
本実施形態において、原液をpHコントロールしてもよい。pHコントロールすることにより、効率的にLiを回収することができる。この場合、pHを12以上14以下の範囲内に調節することが好ましい。なお、pHを12以上14以下とするのは調節目標であり、本実施形態においては、pH12以上14以下について、原液のpHとしては、pHの12には11.5以上12.5未満の値、pHの14には13.5以上14.5未満の値が含まれるものとし、実質的には11.5以上14.5未満までの範囲であることを意味する。
【0025】
本実施形態において原液のpHコントロールをする場合、その手段については特に制限はないが、例えば原液にアルカリ性水溶液を添加する方法により行えばよい。また、原液のpHコントロールは回収液にLiイオンを回収する際に行ってもよい、すなわち原液のpHコントロールをしながら回収液にLiイオンを回収してもよいし、また回収液にLiイオンを回収する前に、事前に行ってもよい。
【0026】
原液のpHを調節するために使用されるアルカリ性水溶液のアルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム(II)、水酸化タリウム(I)、グアニジン等が好ましく挙げられる。これらのアルカリ成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、リチウムイオン抽出液のpHを速やかに調整できるという観点から、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0027】
また、原液は、回収液と同様に温度を調節してもよい、具体的には加熱してもよい。これにより、回収液の温度を50℃以上に調節しやすくなり、高効率でLiイオンを回収できるようになる。原液の温度を調節する場合、その調節温度は、上記回収液の温度の調節範囲内とすればよい。
【0028】
(Li選択透過膜)
Li選択透過膜は、原液中のLiイオンを回収液に移動させる機能を有する膜であり、通常原液と回収液とを仕切るようにして設けられる。
Li選択透過膜は、特に高いイオン伝導率を有する超Liイオン伝導体(イオン伝導体)で構成されたLi選択透過膜本体と、その原液側に薄層として形成されたLi吸着層で構成されることが好ましい。
Li選択透過膜本体として、超Liイオン伝導体を用いると、電極間に流れるLiイオンのイオン電流を大きくすることによって、Liの回収効率を高めることができる。ここで、水溶液中に含まれるLiイオンは、周りに水分子を配位したLi水和イオンとして存在する。よって、イオン電流を更に高めるためには、Li選択透過膜の表面(Li選択透過膜と原液との間の界面)にて水分子を除去しやすい状況を実現することが有効である。
このため、Li選択透過膜の表面には、Liイオン抽出液中のLiイオン(水和物を除く)を吸着するLi吸着層が形成されていることが好ましい。すなわち、Li選択透過膜は、表面Li吸着処理されたものであることが好ましい。Li吸着層としては、後述するように、Li選択透過膜を構成する材料の表面を改質することによって形成されるものが好ましく挙げられる。
【0029】
Li選択透過膜本体を構成する材料としては、例えば以下のLiを含む酸化物、酸窒化物等が好ましく挙げられる。すなわち、Li選択透過膜は、好ましくは以下のLiを含む酸化物、酸窒化物等を含有する。
Liを含む酸化物としては、例えばチタン酸リチウムランタン:(Lix,Lay)TiOz(ここで、x=3a-2b、y=2/3-a、z=3-b、0<a≦1/6、0≦b≦0.06、x>0)(以下、「LLTO」とも称する。)、ジルコン酸リチウムランタン:Li7La3Zr2O12(以下、「LLZO」とも称する。)、ニオブ酸リチウムランタン:Li5La3Nb2O12、タンタル酸リチウムランタン:Li5La3Ta2O12等が挙げられ、LLTOとしては更に具体的にはLi0.29La0.57TiO3(a≒0.1、b≒0)を用いることができる。
【0030】
これらの材料は、例えば、この材料で構成された粒子を焼結助剤等と混合して高温(1000℃以上)で焼結した焼結体として得ることができる。この場合には、Li選択透過膜の表面は、LLTOで構成された微細粒子が結合(焼結)された多孔質として構成することもできるため、Li選択透過膜本体の表面の実効的な面積を高くすることができる。LLTOに限らず、他のLiを含む酸化物、また後述する酸窒化物についても同様である。
【0031】
Li選択透過膜本体を構成する材料として用いることができる超Liイオン伝導体としては、Liを含む酸化物として、上記のLLTO、LLZO等の他に、例えば、Li置換型NASICON(Na Super Ionic Conductor)型結晶であるLi1+x+yAlx(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12(ここで、0≦x≦0.6、0≦y≦0.6)(Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2-GeO2系、以下「LASiPTiGeO」とも称する。)等も挙げられる。
【0032】
また、Liを含む酸窒化物としては、リン酸リチウムオキシナイト(Li3PON、以下「LiPON」とも称する。)、LLTOの窒化物(LLTON)、LLZOの窒化物(LLZON)、LASiPTiGeOの窒化物(LASiPTiGeON)等が好ましく挙げられる。
【0033】
上記のLiを含む酸化物、酸窒化物等の超Liイオン伝導体は、その構成元素の一つにLiを含み、結晶外のLiイオンが結晶中のLiサイト間を移動することによって、イオン伝導性が発現する。LiイオンはLi選択透過膜本体を流れるが、ナトリウムイオンはLi選択透過膜内を流れることができない。この際、結晶内を伝導するのはLiイオン(Li+)であり、Liイオンとともに原液中に存在するLiの水和物イオンはLiサイトには入れないため、結晶中を伝導しない。この点については、WO2015/020121号に記載のLi選択透過膜と同じである。
【0034】
ここで、Li吸着層によって特にLiイオンのみを多くLi選択透過膜本体の表面に吸着させれば、吸着時にLi水和イオンの水分子が除去され、Liイオンのみになるため、Li選択透過膜本体における原液側(一方の主面側)から回収液側(他方の主面側)へのLiイオンの伝導効率(Li選択透過膜本体を流れるイオン電流)を大きくすることができる。
【0035】
Li選択透過膜は、陽極、陰極が接合されていることが好ましく、Li選択透過膜の原液側(一方の主面)に陽極が、回収液側(他方の主面)に陰極が接合されることが好ましい。この構成によって、Li選択透過膜の原液側の一方の主面、回収液側の他方の主面は、それぞれ一定の正電位、負電位に保たれる。
陽極、陰極の材料としては、原液、回収液中において電気化学反応を生じない金属材料をそれぞれ適宜用いることができる。このような金属材料としては、例えば、SUS、Ti、Ti-Ir合金等を用いることができる。
【0036】
Li選択透過膜として用いられる上記の材料は固体であるが、結晶中を自由電子に近い形でLiイオンが流れることによって、導電性を示すことが知られている。このため、陽極を正電位、陰極を負電位とした場合には、陽極側の原液中のLiイオン(正イオン)のうち、Li選択透過膜の陰極側に到達したものが、Li選択透過膜の陽極側(原液)から陰極側(回収液)に向かってイオン伝導によって流れる。Li選択透過膜の陰極側に到達したLiイオンは、回収液中に回収される。このため、所定時間経過後には、原液中のLiイオン濃度は低下し、回収液中のLiイオン濃度が増大する。
【0037】
Li吸着層は、このLi選択透過膜本体に対して化学処理を行うことによってLi選択透過膜本体の表面に薄層として形成される。具体的には、上記のLi選択透過膜本体(例えば、LLTO)の一方の主面に対して酸処理、例えばこの面を塩酸や硝酸に5日間曝すことによって、形成される。この処理によって、Li選択透過膜本体(例えば、LLTO)における構成元素のうち特に酸化されやすいLiが酸の中の水素で置換されたH0.29La0.57TiO3に近い組成の物質層(HLTO)が形成されるものと推定される。ここで、表面の薄層(HLTO)の形成は、WO2017/131051号におけるX線回折結果より、Li選択透過膜本体(例えばLLTO)とは異なるピークを有するものが存在していることから裏付けられるものである。
【0038】
HLTOにおけるHサイトは、本来はLiが入るサイトであったためにHは特にLiイオンに置換されやすく、かつ他のイオン(ナトリウムイオン等)には置換されにくい。このため、HLTOはLi吸着層として機能する。また、HLTOは酸との反応によって生じるため、Li選択透過膜本体の最表面にのみ形成される。
【0039】
〔水酸化リチウムを分離すること〕
本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は、回収液から水酸化リチウムを製造する方法として、回収液から水酸化リチウムを分離することを含む。具体的には、本実施形態の製造方法では、上記の回収液にLiイオンのみを回収することの後、原液からLiイオンのみを回収して得られるLiイオンを含有する回収液(Liイオン含有回収液)から水酸化リチウムを分離する。これにより、加熱濃縮等の脱水工程を要することなく水酸化リチウムが得られるため、脱水工程等にかかるエネルギー消費量を低減することができ、より効率的にリチウム源を得ることが可能となる。
分離の方法としては、Liイオン含有回収液から水酸化リチウムが得られれば特に制限はなく、例えば冷却晶析、蒸発晶析等の晶析による方法が好ましく挙げられる。
【0040】
(冷却晶析)
冷却晶析は、晶析の前段階で回収液を加温することで、回収液中のLiイオン含有量を増加させ、かつ温度差をかせぐことにより、より効率的にLiイオンを回収することができる。冷却晶析の場合、その具体的方法については通常の冷却晶析の手法により行っていれば特に制限はなく、例えばLiイオン含有回収液に、不活性ガスを吹き込んで陽圧を保持しながら行うことが好ましい。不活性ガスの吹込みにより、炭酸リチウムの生成(以下、単に「炭酸化」と称することがある。)を抑制することができ、冷却晶析による水酸化リチウムの生成がより促進するため、より効率的に高純度の水酸化リチウムを製造できる。
【0041】
晶析の前段階で回収液を加温する場合、加温温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であり、上限としては80℃以下である。加温温度が上記範囲内であると、より効率的に冷却晶析を行うことができる。
【0042】
陽圧の圧力については特に制限はなく、通常ゲージ圧として0.1~30kPa程度としておけばよく、より効率的に冷凍晶析を行う観点から好ましくは0.5~10kPaである。
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等を用いればよい。陽圧下で冷却晶析が行われるよう、陽圧は不活性ガスの供給と排気とを調整して行えばよい。炭酸化を抑制する観点から、一酸化炭素、二酸化炭素、また炭化水素の濃度が10ppm以下であれば、酸素を含むガスであってもよい。より純度が高い水酸化リチウムを得るためには1ppm以下が好ましく、0.1ppmがより好ましい。
【0043】
冷却晶析の場合、より効率的に冷却晶析を行う観点から、40℃以下に調節しながら行うことが好ましい。これと同様の観点から、晶析の温度は好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下である。下限については特に制限はないが、0℃超としておけばよく、好ましくは3℃以上である。
【0044】
本実施形態の製造方法において、晶析として冷却晶析を採用する場合、必要に応じてLiイオン含有回収液を冷却することを含んでもよい。冷却することを含むことで、Liイオン含有回収液の温度を積極的に上記の好ましい温度に調節することができるため、より効率的に冷却晶析を行うことが可能となる。よって、より効率的に晶析を行う観点から、Liイオン含有回収液を冷却すること、に次いで晶析することを行うことが好ましい。
Liイオン含有回収液を冷却する方式としては、空冷方式、水冷方式のいずれを採用してもよく、採用する方式に応じた冷却器を用いればよい。
【0045】
(蒸発晶析)
蒸発晶析では、晶析の前段階で回収液が加温されているため、蒸発に要するエネルギーを抑えることができる。蒸発晶析の場合、その具体的方法については通常の蒸発晶析の手法により行っていれば特に制限はなく、例えば温度を好ましくは80℃以上100℃以下に調節しながら行うことが好ましい。より効率的に蒸発晶析を行う観点から、調節温度は、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上である。
【0046】
より効率的に蒸発晶析を行う観点から、蒸発晶析は減圧雰囲気下で行われることが好ましい。減圧とすることにより、系内で発生した水蒸気を排出することができ、これを濾液又は回収液に加えて回収することができる。
【0047】
減圧する場合、その圧力については特に制限はなく、通常真空圧として0.05~10kPa程度としておけばよく、より効率的に蒸発晶析を行う観点から好ましくは0.1~5kPa、より好ましくは0.2~1kPaである。
また、蒸発晶析は、不活性ガスを供給しながら行ってもよく、この場合の不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等を用いればよい。炭酸化を抑制する観点から、一酸化炭素、二酸化炭素、また炭化水素の濃度が10ppm以下であれば、酸素を含むガスであってもよい。より純度が高い水酸化リチウムを得るためには1ppm以下が好ましく、0.1ppmがより好ましい。
【0048】
〔濾液を回収液に加えること〕
本実施形態の製造方法は、上記晶析により生じた濾液を、回収液に加えることを含むことができる。回収液からリチウムイオンを水酸化リチウム無水物や水酸化リチウム水和物として回収するため、回収液の水を補充するために加えるものである。濾液を回収液に加えて再利用することにより、濾液中のリチウム排出量、及び濾液そのものの排出量を低減させることができることは大きな利点となる。また、回収液として供給する新たな純水の使用量を低減することができるため、より効率的に水酸化リチウムを製造することができる。なお、濾液を加える回収液は、原液からLiイオンを移動させるために用いられる回収液であり、Liイオン含有回収液ではない。
本実施形態においては、さらに、冷却晶析の排熱、蒸発晶析で生じる余剰熱を回収液の加熱に利用し得る熱交換器を設けることができる。これにより、熱効率をより高めることができる。
【0049】
上記のように、蒸発晶析の場合、蒸発晶析で生じた純水は、濾液又は回収液に加えて再利用しやすく、新たな純水の使用量を低減することができる。更に、新たに純水を供給する場合に比べて、当該新たな純水より高い温度の濾液を再利用できる場合があるため、熱エネルギーの点でもより効率的に水酸化リチウムを製造することが可能となる。
また、冷却晶析の場合も濾液が生じる。当該濾液はLiイオン含有回収液から水酸化リチウムを晶析させたものであるため、Liイオンが除去された、Liイオンを実質的に含まない回収液といえるが、回収液に含まれるLiイオンが含まれる場合がある。よって、この場合は、濾液は純水とはいえないものとなり得るが、回収液に加えて再利用することは可能であり、新たな純水の使用量を低減することができるので、より効率的に水酸化リチウムを製造することが可能となる。このように、晶析として冷却晶析、蒸発晶析のいずれを採用した場合であっても、晶析で生じた濾液を回収液に加えることで、再利用することが可能である。一般的に、晶析により排出される濾液には晶析の対象となる液中に含まれる不純物がそのまま残存するものである。しかし、本実施形態の製造方法において、晶析の対象となる回収液は、Li選択透過膜を経て回収されるLiイオンのみを含むものである。そのため、晶析により排出される濾液はLiイオンのみを含有し、他の不純物を含有しないものとなる。よって、本実施形態における濾液の再利用は、Li選択透過膜を用いるからこそなし得ることであるといえる。
【0050】
濾液を回収液に加える場合、当該濾液を必要に応じて加熱してもよい。本実施形態の製造方法において、回収液の温度は50℃以上に調節されているが、濾液を加熱して回収液に加えることで、回収液の温度を上昇させることができ、原液から回収液へのLiイオンの移動を促進させ、回収液にLiイオンを回収しやすくなるため、より効率的に水酸化リチウムを製造することができる。濾液を加熱する場合、好ましくは回収液の温度が50℃以上となる温度であり、より好ましい温度等は上記の回収液のより好ましい調節温度等となる温度である。また、濾液の加熱には、上記回収液の加熱に用い得る熱源である、冷却晶析の排熱、蒸発晶析で生じる余剰熱を用いることが可能である。
【0051】
また、濾液を回収液に加えることにおいて、上記のように濾液中にLiイオンが含まれる場合があるものの、Liイオン以外の不純物は、選択透過膜により除かれているため、別途の不純物除去を行わなくても濾液の再利用が可能である。
【0052】
晶析して得られる水酸化リチウムは、通常一水和物(LiOH・H2O)である。本実施形態の製造方法においては固液分離等により水酸化リチウムを濾液と分離して、得られた水酸化リチウムは、用途に応じてそのまま使用することができ、またさらに脱水して使用することもできる。
水酸化リチウムの一水和物を脱水する場合、例えば加熱、減圧等の通常行われる乾燥により行えばよい。
【0053】
[水酸化リチウム製造装置]
本実施形態の水酸化リチウム製造装置は、リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からLiイオンのみを回収するLi選択透過膜を備えるLiイオン回収槽、前記Liイオンを回収する回収液を貯留する回収液貯留槽、前記回収液を50℃以上に調節する温度調節手段、及び前記回収液から水酸化リチウムを分離する分離装置、を備える、というものである。また、本実施形態の水酸化リチウム製造装置は、前記分離装置が晶析装置であることが好ましく、また前記晶析装置で生じた濾液を前記回収液に加える、濾液回収手段を有することが好ましい。
上記の本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は、本実施形態の水酸化リチウム製造装置により容易に実施することができる。
【0054】
図1及び2は、本実施形態の水酸化リチウムの製造方法を行い得る、本実施形態の水酸化リチウム製造装置の典型的な好ましい一態様を示すフロー図であり、回収液から水酸化リチウムを分離する分離装置として晶析装置を採用し、晶析として冷却晶析を採用する場合が
図1のフロー図であり、
図2は蒸発晶析を採用する場合のフロー図である。また、これらの
図1及び2に示される水酸化リチウムの製造方法は、晶析装置で生じた濾液を前記回収液に加える、濾液回収手段を有している。
【0055】
図1に示される水酸化リチウム製造装置は、Liイオン回収槽10、回収液を貯留する回収液貯留槽11、Liイオン回収槽10でLiイオンを回収した回収液(Liイオン含有回収液B
2)から水酸化リチウムを分離する分離装置である、当該回収液を晶析する晶析装置12、熱交換器13a、13b及び13c、並びに乾燥装置14を有しており、Liイオン回収槽10は原液Aを貯蔵する原液槽10a、回収液B
1を貯蔵する回収液槽10b及びLi選択透過膜10cを備えている。また、Li選択透過膜10cは、一方の主面側(原液A側)に第一電極10d(陽極)、他方の主面側(回収液B側)に第二電極10e(陰極)を備えており、回収液貯留槽11は回収液を50℃以上に調節し得る温度調節手段11aを備えている。
【0056】
また、
図2に示される水酸化リチウム製造装置は、
図1に示される製造装置と同様にLiイオン回収槽10、回収液を貯留する貯留槽11、Liイオン含有回収液B
2から水酸化リチウムを分離する分離装置である、当該回収液を晶析する晶析装置12、熱交換器13a、13b及び13c、並びに乾燥装置14を有しており、Liイオン回収槽10は原液Aを貯蔵する原液槽10a、回収液Bを貯蔵する回収液槽10b及びLi選択透過膜10cを備えている。Li選択透過膜10cは、一方の主面側(原液A側)に第一電極10d(陽極)、他方の主面側(回収液B側)に第二電極10e(陰極)を備え、回収液貯留槽11は回収液を50℃以上に調節し得る温度調節手段11aを備えているが、分離装置となる晶析装置12から排出される濾液Cの回収ラインが設けられている点で相違する。なお、
図1及び
図2のLiイオン回収槽10では、水の電気分解により原液槽10a、回収液槽10bでそれぞれ酸素、水素が生じ得るため、これらを排気または回収できる配管等を備えることが好ましい。
【0057】
Liイオン回収槽10において、原液Aに含まれるLiイオンは、Li選択透過膜10cを用いて原液Aから回収液B
1に移動させて回収液B
1に回収され、回収液B
1は、回収液貯留槽11を経由して、Liイオン含有回収液B
2として晶析装置12に供給される。
図1及び
図2の製造装置では、Liイオン含有回収液B
2を所定の温度まで加温する熱交換器13aが設けられる。熱交換器13aには、
図1に示されるように媒体を用いたシェルチューブ式熱交換器の他、電気、熱媒体等によるジャケットタイプ、ヒータータイプ等の熱交換器を採用できる。その熱源としては、冷却晶析の排熱、蒸発晶析で生じる余剰熱等を用いることが可能である。また、後述する熱交換器13b及び13cも同様である。
【0058】
図1の製造装置では、分離装置である晶析装置12において晶析した水酸化リチウムと晶析により生じた濾液は、固液分離等により分離され、水酸化リチウムは更に乾燥装置14にて乾燥して、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)が製品として抜き出される。
【0059】
濾液Cは必要に応じて新たに供給される純水とともに熱交換器13bで必要に応じて加熱した後、実質的にLiイオンを含まない回収液B0として回収液貯留槽11を経由して、必要に応じて熱交換器13cで加熱した後、Liイオン回収槽10の回収液槽10bに供給される。なお、回収液B0が実質的にLiイオンを含まないとは、濾液Cを含まなければ純水等の水が回収液B0となるため全く含まないものであり、また、濾液Cを含む場合、濾液CにはLiイオンが含まれる可能性はあるものの、回収液槽10bに貯蔵される回収液B1、晶析装置12に供給されるLiイオン含有回収液B2とから水酸化リチウムを晶析してLiイオンを除去したものであるため、これらの回収液B1及びB2と比べてLiイオンの含有量は少ないこと、を含む意味である。
【0060】
本実施形態の製造装置は、既述のように、晶析装置で生じた濾液を前記回収液に加える、濾液回収手段15を有することが好ましい。
図1及び2に示される製造装置も濾液回収手段15を有しており、具体的には晶析装置12における晶析により生じた濾液Cを、回収液に加える、分離装置である晶析装置12から回収液貯留槽11までのラインが該当する。濾液回収手段15は、
図1及び2に示されるように、温度調節手段に該当する熱交換器13b、純水を回収液に供給するためのラインを備えるものであってもよい。また、
図1及び2には示されていないが、濾液回収手段15は、必要に応じて濾液を圧送するためのポンプ、また流量計等の計器を備えていてもよい。
【0061】
また、
図2の製造装置では、蒸発晶析が採用されるため晶析装置12から蒸気を減圧等により排出し、冷却した蒸留水を濾液Cとして回収するとともに、
図1の製造装置と同様に晶析した水酸化リチウムと液状の濾液が生じるため、液状の濾液も濾液Cとして回収される。このように、濾液回収手段15は、
図1に示されるように純水を回収液に供給するためのラインの他、上記冷却した蒸留水を回収液に供給するためのラインを備えていてもよい。
【0062】
Liイオン回収槽10は、一つの槽においてLi選択透過膜10cにより仕切られて原液槽10a及び回収液槽10bの槽に分かれた形態であってもよいし、原液槽10a及び回収液槽10bの二つの槽がLi選択透過膜10cを介して連結した形態であってもよい。
【0063】
図1の製造装置において、温度を50℃に調節するのは、回収液槽10bにおける回収液の温度となる。回収液槽10bにおける回収液B
1を50℃に調節するためには、回収液B
0を回収液槽10bに供給する前に熱交換器13b及び13cの少なくとも一方を用いてもよいし、また回収液貯留槽11に設けられる温度調節手段11aを用いてもよい。例えば、製造装置が温度調節手段11aを有しない場合は、熱交換器13b及び13cの少なくとも一方の出口における回収液B
0の温度を50℃より高めとなるように加熱して、回収液槽10bにおける回収液の温度を50℃に調節すればよい。また、温度調節手段11aを有し、使用する場合は、熱交換器13bの出口における回収液B
0の温度は50℃まで加熱しなくてもよい。回収液貯留槽11における温度調節手段11aに相当する温度調節手段が回収液槽10bに設けられてもよい。
【0064】
より確実かつ安定的に回収液を50℃に調節する観点から、
図1に示されるように熱交換器13bとともに温度調節手段11aを備えることが好ましい。
また、熱交換器13cについては、回収液B
0の加熱に加えて、例えば回収液B
1に含まれるLiイオンの濃度が一定濃度まで上昇するまで、回収液槽10bと回収液貯留槽11との間で回収液を循環させるようなバッチ式の運転を行う場合に、回収液槽10bにおける回収液の温度を50℃に調節する際に、設けておくと有用である。
【0065】
上記のように原液の温度を調節することも可能であり、これに対応した温度加熱手段を有してもよい(図示なし)。この場合、回収液と同様に、原液貯留槽及び熱交換器を設けて、原液槽10aと当該貯留槽とを循環させながら熱交換器で加熱することができる。また、原液貯留槽に熱交換器を設けて加熱してもよいし、原液槽10aに熱交換器を設けてもよい。
また、上記の晶析装置12から回収液貯留槽11までの濾液のライン、また純水及び蒸留水を供給するラインといった回収液に供給するラインには、保温のためにインシュレーションが、また保温又は加熱のために電気、熱媒体等によるジャケットタイプ、ヒータータイプ等の熱交換器が設けられていてもよい。
【0066】
製造装置は、回収液貯留槽11を備えていることが好ましい。
回収液貯留槽11を備えることにより、上記のような回収液B1に含まれるLiイオンの濃度が一定濃度まで上昇するまで、回収液槽10bと回収液貯留槽11との間で回収液を循環させるようなバッチ式の運転を行いやすくなり、また製造装置の立上げ時の回収液の循環及び加熱を行う、濾液を回収液として回収液槽に供給する際に一度貯留するといった多様な運転が可能となる。また、熱交換器13c、温度調節手段11aとの組合せにより、上記バッチ式の運転、製造装置の立上げ時の循環の際の回収液の加熱を行いやすく、より確実かつ安定的に回収液を50℃に調節することが可能となる。
【0067】
温度調節手段11aは回収液の温度を調節できる手段であれば特に限定されず、例えば熱交換器であってもよいし、回収液貯留槽11を全体的に加熱する空調装置のような形態であってもよい。熱交換器を採用する場合、その形式については特に制限はなく、使用態様に応じて適宜選択すればよく、上記の熱交換器13a~cと同様に、例えば媒体を用いたシェルチューブ式熱交換器、電気、熱媒体等によるジャケットタイプ、ヒータータイプ等の熱交換器を採用できる。なお、加熱する場合、その熱源としては、冷却晶析の排熱、蒸発晶析で生じる余剰熱等を用いることが可能である。
【0068】
晶析装置12は、Liイオン回収槽10においてLiイオンを回収した回収液(Liイオン含有回収液)から水酸化リチウムを晶析させるために設けられる装置である。晶析は、例えば上記の回収液B1に含まれるLiイオンの濃度が一定濃度まで上昇するまで、回収液槽10bと回収液貯留槽11との間で回収液を循環させるようなバッチ式の運転の場合は、一定濃度まで上昇した後、その一部又は全部の回収液B1を、Liイオン含有回収液B2として抜き出し、晶析装置12に送液して行えばよい。
【0069】
晶析装置12は、上記のように、晶析としては冷却晶析、蒸発晶析等が採用されるため、晶析の形態に応じて適した装置を採用すればよく、市販の晶析装置を用いてもよい。
晶析において固形分の析出を加速するために水酸化リチウム化合物の種結晶を添加してもよく、晶析装置12には、種結晶を添加する装置が備えられてもよい。また、晶析装置12には、必要に応じて固液分離機器等の、晶析した水酸化リチウムと濾液とを分離する装置が備えられていてもよい。
【0070】
晶析として冷却晶析が採用される場合、
図1の製造装置のように、陽圧の保持を不活性ガスの供給及び排気により行うための、不活性ガスの供給ライン、晶析装置12内の圧力に応じて排気する圧力制御弁及び排気ラインが設けられていてもよい。
また、晶析として蒸発晶析が採用される場合、
図2の製造装置のように、蒸発晶析を採用する場合は装置内で発生した濾液を水蒸気として排出するための減圧装置が備えられていてもよく、また水蒸気となって排出された濾液を冷却して液状の濾液、すなわち蒸留水とする冷却装置が備えられていてもよい。
【0071】
乾燥装置14は、晶析装置12において晶析した水酸化リチウムと濾液とを固液分離等により分離した後、分離しきれなかった水分を含む水酸化リチウムを乾燥して水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)、又は水酸化リチウム無水物とする装置である。
乾燥装置14に用いられる乾燥機としては、所望させる乾燥の具合、規模等に応じて適宜選択すればよく、例えばホットプレート等の加熱器、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機、また、通常1~80kPa程度の減圧雰囲気下で、50~140℃程度で加熱し、かつ撹拌しながら乾燥し得るヘンシェルミキサー、FMミキサーとして市販されているものを用いることもできる。
【0072】
〔硫化リチウムの製造方法〕
本実施形態の水酸化リチウムの製造方法は、以下の硫化リチウムの製造方法、すなわち、上記の本実施形態の水酸化リチウムの製造方法における回収液に硫化水素を供給すること、又は前記水酸化リチウムの製造方法により得られる水酸化リチウムに硫化水素を供給すること、を含む硫化リチウムの製造方法に適用し得る。
【0073】
硫化水素を供給する方法としては特に制限はなく、回収液に供給する場合は、当該回収液に硫化水素ガスを吹き込んで供給すればよく、水酸化リチウムと硫化水素との反応により硫化リチウムと水が生成するが、生成した水は適宜除去し、最終的に水分が実質的に除去されたところで硫化水素の吹込みを止めることで硫化リチウムが得られる。
回収液に供給する場合、上記の水酸化リチウム製造装置の晶析装置に硫化水素ガスを供給し、すなわちLiイオン含有回収液に硫化水素ガスを吹き込んで反応させてもよいし、またLiイオン含有回収液を別途の反応容器に供給し、閉鎖系(バッチ式)、流通系のいずれかの形式で、当該反応容器に硫化水素ガスを吹き込んで反応させてもよい。
【0074】
また、水酸化リチウムに硫化水素を供給する場合は、例えば反応容器に水酸化リチウムと硫化水素ガスとを投入し、撹拌等をしながら反応させることで、硫化リチウムが得られる。この場合、水酸化リチウムは水和物であってもよいし、無水物であってもよく、効率を考慮すると水和物のまま硫化水素と反応させることが好ましい。
【0075】
水酸化リチウムと硫化水素との反応温度は、通常120℃以上300℃以下で行えばよく、140℃以上230℃以下が好ましく、150℃以上220℃以下がより好ましく、160℃以上210℃以下が更に好ましい。反応温度が上記範囲内であると、反応が促進し、残留する水酸化リチウム量が低減された高純度の硫化リチウムが得られやすくなる。
また、1時間以上60時間以下が好ましく、2時間以上30時間以下が好ましく、6時間以上20時間以下が好ましい。本明細書において、反応時間は、硫化水素を水酸化リチウムに接触させて反応させる時間、より具体的には、硫化水素を供給開始した時から供給停止した時までの時間を意味する。
【0076】
このようにして得られた硫化リチウムは、必要に応じて精製することができる。精製方法は特に制限なく、常法に従い行えばよい。
【実施例0077】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0078】
(水酸化リチウム製造装置)
Li選択透過膜により原液槽及び回収液槽に分けられたLiイオン回収槽、回収液貯留槽、分離装置として冷却晶析し得る晶析装置、及び温度調節手段として熱交換器(熱交換器13b)を、
図2に示される製造装置の順に有する装置を用いた。
【0079】
分離装置となる晶析装置としては、撹拌翼及び温度計を備えるセパラブルフラスコを恒温槽内に備えた装置を用いた。なお、セパラブルフラスコは、窒素(不活性ガス)の供給と排気とを調整し、陽圧下で晶析を行えるように、窒素供給手段を有している。また晶析装置は、濾紙を備えた濾過部分、及びアスピレータへの接続部分を上部に備えるフラスコが、グローブバッグ(必要に応じてその内部を窒素で置換可能である。)に収められた装置を固液分離機器として有している。
【0080】
(Li選択透過膜の作製)
Li選択透過膜は、以下のようにして作製したものを用いた。
構成材料をチタン酸リチウムランタン(Li0.29La0.57TiO3)とするリチウム選択透過膜本体を作製し、該本体の一方の主面を60℃の塩酸に5日間曝すことで、リチウム選択透過膜本体(LLTO)の一方の主面にリチウム吸着層(HLTO)が形成された、リチウム選択透過膜を得た。
【0081】
(水酸化リチウムの収量及び純度の測定)
上記水酸化リチウム製造装置の固液分離機器で濾過して得られた固体(「ケーク」とも称する。)をシャーレに移し、真空乾燥機(「乾燥装置」に該当する。)内で、40℃で2時間の乾燥を行い、乾燥ケークを得た。乾燥ケークを秤量し、各実施例及び比較例における水酸化リチウム一水和物の収量とし、また中和滴定法により純度を測定した。
【0082】
実施例1
リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液として、模擬的に3.0Mの水酸化リチウム水溶液2L(pH14.6)(水酸化リチウムの含有量:126g(水酸化リチウム一水和物として))を用いた。上記製造装置の原液槽に上記抽出液を入れ、また3.0Mの水酸化リチウム水溶液200mLを回収液槽に入れ、回収液槽には窒素を供給した。次いで、回収液槽内の回収液の温度を電気ヒータで80℃に調節しながら、Li選択透過膜の両面より、5Vの電圧印加をして、回収液にLiイオンを回収した。
20時間電圧印加後のLiイオンを回収した回収液の一部(7.5mL分)を、大気に触れないようにしながら晶析装置のセパラブルフラスコ内に入れて、窒素をセパラブルフラスコに供給しながら、恒温槽の温度を25℃としてセパラブルフラスコ内の回収液を25℃に保ち、晶析温度を25℃とする冷却晶析を行った。なお、回収液中の水酸化リチウム濃度は、水酸化リチウム一水和物として6.0Mであった。
次いで、セパラブルフラスコ内の、上記冷却晶析により析出した水酸化リチウムを含む液体を、大気に触れないように窒素で満たしたグローブバッグ内で、その中に収められた固液分離機器の濾紙を備えた濾過部分に入れて、アスピレータにより減圧しながら濾過を行い、水酸化リチウム一水和物を得た。得られた水酸化リチウム一水和物の上記方法により測定した収量は1.89gであり、その純度は99.7%となった。
なお、本実施例1は、晶析(セパラブルフラスコでの晶析及び固液分離機器における濾過)を不活性ガスの存在下で行っているため、これを晶析環境として「不活性」の雰囲気下で水酸化リチウムを製造したこととする。また、他の実施例及び比較例でも「不活性」とする場合は、晶析を不活性ガスの存在下で行っていることを意味する。
【0083】
実施例2
実施例1において、20時間電圧印加後のLiイオンを回収した回収液の一部(7.5mL分)を、実施例1と同様に冷却晶析し、当該一部の全量を、固液分離機器を用いて濾過を行った後、得られた濾液と純水を加えた液(合計:7.5mL)を回収液貯留槽に戻し、回収液槽内の回収液の温度を電気ヒータで80℃に調節しながら、5Vの電圧印加を1.5時間行った。Liイオンを回収した回収液の一部(7.5mL分)を、実施例1と同様に冷却晶析し、固液分離機器を用いて濾過を行い、水酸化リチウムを得た。得られた水酸化リチウムの収量は1.92gであり、その純度は99.6%となった。
【0084】
比較例1
実施例1において、回収液の温度を80℃から45℃とした以外は、実施例1と同様にして、水酸化リチウムを得た。
【0085】
比較例2
実施例1において、回収液の温度を80℃から45℃とし、かつ晶析装置におけるセパラブルフラスコへの窒素の供給を行わずに、大気下にて晶析の操作を行った以外は、実施例1と同様にして、水酸化リチウムを得た。
【0086】
【0087】
上記実施例の結果から、本実施形態の水酸化リチウムの製造方法によれば、加熱濃縮等の脱水工程が不要であることから、より低エネルギーで水酸化リチウムを製造できることが確認された。また、高い収量で、高純度の水酸化リチウムを製造できることも確認された。
他方、回収液温度を45℃とした比較例1及び2では、収量が極めて少ないことが確認された。また、晶析環境を大気とした比較例2では、純度が低下しており、より高い純度の水酸化リチウムを得るには、晶析環境を不活性とすることが好ましいことも確認された。