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特開2022-76023ヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法、および2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076023
(43)【公開日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法、および2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/358 20060101AFI20220511BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20220511BHJP
   C07C 17/354 20060101ALI20220511BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
C07C17/358
C07C21/18
C07C17/354
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022052007
(22)【出願日】2022-03-28
(62)【分割の表示】P 2020195457の分割
【原出願日】2016-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2015130833
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 優
(72)【発明者】
【氏名】岡本 秀一
(57)【要約】
【課題】HCFO-1224ydまたはHCFO-1223xdのE体を異性化させて、そのZ体を製造する工業的に有利かつ効率的な方法の提供。
【解決手段】特定のHCFO(E体)が異性化される条件下で、原料組成物に含まれる前記HCFO(E体)を異性化反応させて、HCFO(Z体)を製造するHCFOの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料組成物に含まれる下記式(1)で表される化合物を、100℃以上250℃以下の温度で金属触媒と接触させることで異性化反応させて、下記式(2)で表される化合物を製造するものであり、
前記金属触媒が、酸化アルミニウムおよび酸化クロムからなる群から選ばれる1種以上の物質を含むことを特徴とするヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【化1】


【化2】


(前記式(1)および式(2)中、Xはフッ素原子である。)
【請求項2】
前記金属触媒は、酸化クロムを含み、
式(1)で表される化合物と前記金属触媒との接触温度は150℃以上200℃以下である、請求項1に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記金属触媒は、酸化アルミニウムを含み、
式(1)で表される化合物と前記金属触媒との接触温度は100℃以上250℃以下である、請求項1に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項4】
前記原料組成物中に前記式(2)で表される化合物が含まれ、前記原料組成物中の前記式(1)で表される化合物と前記原料組成物中の前記式(2)で表される化合物とのモル比(前記原料組成物中の前記式(1)で表される化合物のモル数/前記原料組成物中の前記式(2)で表される化合物のモル数)が5/95以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物を気相で異性化反応させる、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記金属触媒は、活性化処理された金属触媒である、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物と前記金属触媒との接触時間は0.1秒以上1000秒以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項8】
前記原料組成物は前記式(1)で表される化合物として少なくとも(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含み、前記(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが異性化される条件下で前記(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを異性化反応させて、前記(2)で表される化合物として(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを製造する、請求項1~7のいずれか1項に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項9】
前記原料組成物は前記式(2)で表される化合物として少なくとも(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む、請求項8に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法により(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程と、前記工程で得られた前記(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを水素により還元して2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程とを有することを特徴とする2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法、および2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224yd(Z))および(Z)-1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223xd(Z))は、硬質ポリウレタンフォームの発泡剤、溶剤、洗浄剤、冷媒、作動流体、噴射剤、フッ素樹脂の原料等として有用である。
【0003】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記し、必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、分子内に二重結合を有し、E体とZ体が存在する化合物については、E体とZ体をそれぞれ化合物の略称の末尾に(E)、(Z)と表記して示す。なお、化合物名の略称の末尾に(E)、(Z)の表記がないものは、E体および/またはZ体を示す。
【0004】
HCFO-1224ydの製造方法として、特許文献1には、1,2-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロパン(HCFC-234ba)を気相状態で、カーボンに担持された塩化カリウム触媒に接触させることで脱塩化水素反応させ、HCFO-1224ydを得る方法が記載されている。また、特許文献2には、1-クロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-235cb)を水酸化カリウム等の塩基を用いて脱フッ化水素反応させ、HCFO-1224ydを得る方法が記載されている。特許文献2には、触媒の存在下、得られたHCFO-1224ydを水素で還元することで、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を得ることも記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214ya)およびHCFO-1224yfの少なくとも一方を含む原料化合物ガスと水素を、カーボンに担持させたパラジウム触媒の存在下で反応させて、HFO-1234yfを得る方法が記載されている。特許文献3には、CFO-1214yaが水素還元されて、HCFO-1224ydが生成することも記載されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法ではHCFO-1224ydが、通常、E体とZ体の混合物として得られ、一方の幾何異性体のみを利用する場合には不都合である。そのため、工業的に有利かつ効率的な方法で、HCFO-1224yd(E)とHCFO-1224yd(Z)のうちいずれか一方を選択的に製造する方法が求められている。
【0007】
また、HCFO-1223xdについても同様に、E体とZ体のうちいずれか一方を選択的に製造する工業的に有利かつ効率的な方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0215037号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/035130号
【特許文献3】国際公開第2011/162338号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、HCFO-1224ydまたはHCFO-1223xdのE体を異性化させて、そのZ体を製造する工業的に有利かつ効率的な方法を提供することを目的とする。また、本発明は、副生物の生成を抑制してHFO-1234yfを効率よく製造することのできるHFO-1234yfの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のヒドロクロロフルオロオレフィンの製造方法は、下記式(1)で表される化合物が異性化される条件下で、原料組成物に含まれる下記式(1)で表される化合物を異性化反応させて、下記式(2)で表される化合物を製造することを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】


(前記式(1)および式(2)中、Xはフッ素原子または塩素原子であり、前記式(1)および式(2)におけるXは同一である。)
【0013】
本発明の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの製造方法は、上記ヒドロフルオロオレフィンの製造方法により(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程と、前記工程で得られた前記(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを水素により還元して2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のHCFOの製造方法によれば、工業的に有利かつ効率的な方法でHCFO-1224ydまたはHCFO-1223xdのE体を異性化して、そのZ体を製造することができる。また、本発明のHFO-1234yfの製造方法によれば、副生物の生成を抑制してHFO-1234yfを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
(HCFOの製造方法)
本発明のヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)の製造方法は、下記式(3)で示すように、下記式(1)で表される化合物(以下「HCFO(1)」という。)が異性化される条件下で、HCFO(1)を含有する原料組成物(以下、原料組成物ともいう。)に含まれるHCFO(1)を異性化反応させて、下記式(2)(以下「HCFO(2)」という。)で表される化合物を製造する。HCFO(1)は、上記HCFOのE体であり、HCFO(2)はZ体である。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
上記式(1)および式(2)中、Xはフッ素原子または塩素原子であり、上記式(1)および式(2)におけるXは同一である。
【0021】
上記式(3)で示す異性化反応(以下単に「異性化反応」ともいう。)において出発物質として用いるHCFO(1)の有するXは、フッ素(F)原子または塩素(Cl)原子である。HCFO(1)は、XがF原子である場合には、HCFO-1224yd(E)であり、XがCl原子である場合には、HCFO-1223xd(E)である。これら、HCFO-1224yd(E)およびHCFO-1223xd(E)は、いずれも公知の方法で製造可能である。
【0022】
また、原料組成物は、HCFO(1)のみから構成されてもよく、HCFO(1)とHCFO(1)以外の化合物から構成されてもよい。原料組成物中に含まれるHCFO(1)以外の化合物としては、HCFO(1)のZ体であるHCFO(2)が挙げられる。その他、HCFO(1)以外の化合物は、HCFO(1)の製造原料、HCFO(1)を製造する際にHCFO(1)以外に生成する副生物等の不純物であってもよい。なお、上記不純物を含有する原料組成物を用いて異性化反応させた場合、不純物から生成する副生物は、蒸留等の既知の手段により除去することが可能である。
【0023】
出発物質として用いるHCFO(1)の製造方法として、具体的に、HCFO(1)においてXがF原子であるHCFO-1224yd(E)は、CFO-1214yaと水素の混合ガスを、活性炭に担持させたパラジウム等の触媒層に供給して、CFO-1214yaを水素還元することにより製造することができる。この方法に用いられるCFO-1214yaは公知の方法で製造可能である。
【0024】
なお、上記方法では、通常、HCFO-1224ydはZ体およびE体の混合物として得られる。本発明のHCFOの製造方法では、上記したように、HCFO-1224ydのZ体およびE体の混合物をそのまま原料組成物として用いてもよいし、Z体およびE体を蒸留等公知の方法で分離して所望の混合比に調製して原料組成物として用いてもよい。さらに、HCFO-1224yd(E)は、これに製造原料であるCFO-1214yaや、製造工程で副生する、1-クロロ-1,2,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HCFC-226ca)、1-クロロ-1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(HCFC-226cb)、1-クロロ-2,2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1224xe)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-254eb)、(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(E))、(Z)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze(Z))、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214ya)、1,3-ジクロロ-1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214yb)、1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFO-1214xb)、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロパン(HCFC-244eb)、2,2-ジクロロ-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225aa)、1,2-ジクロロ-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ba)、1,2-ジクロロ-1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225bb)、1,1-ジクロロ-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225ca)、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)、1,1-ジクロロ-1,2,2,3,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cc)、HCFO-1223xd(E)、HCFO-1223xd(Z)、目的物であるHCFO-1224yd(Z)等が不純物として混合された原料組成物として、異性化反応させてもよい。
【0025】
HCFO(1)においてXがCl原子であるHCFO-1223xd(E)は、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-233da)を、相間移動触媒の存在下で水酸化カリウム等の塩基と反応させる方法等によって得られる。
【0026】
上記方法では、通常、HCFO-1223xdはZ体およびE体の混合物として得られる。本発明のHCFOの製造方法においては、このHCFO-1223xdのZ体およびE体の混合物をそのまま原料組成物として用いてもよいし、Z体およびE体を蒸留等の公知の方法で分離して所望の混合比に調製して原料組成物として用いてもよい。さらに、HCFO-1223xd(E)は、これに製造原料であるHCFC-233da等や、製造工程で副生する1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロピン、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(E))、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd(Z))、1,1-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1223za)、目的物であるHCFO-1223xd(Z)、HCFO-1224yd(Z)、HCFO-1224yd(E)等が不純物として混合された原料組成物として、異性化反応させてもよい。
【0027】
(異性化の条件)
ここで、上記式(3)に示されるHCFO(1)のHCFO(2)への異性化反応が行われる条件では、通常、HCFO(2)のHCFO(1)への異性化反応が同時に行われる。すなわち、HCFO(1)およびHCFO(2)間の異性化反応は平衡反応である。本発明のHCFOの製造方法は、該異性化の平衡反応において、HCFO(1)がHCFO(2)に異性化される条件(以下「異性化条件(1)」ともいう。)で異性化反応を行うものである。
【0028】
なお、異性化の平衡状態において、HCFO(1)とHCFO(2)は所定の比率で存在する。この異性化の平衡状態におけるHCFO(1)(E体)およびHCFO(2)(Z体)の平衡比は、150℃、大気圧において、HCFO(1)/HCFO(2)で示されるモル比で、1.5/98.5以上4/96以下であることを発明者らは確認した。
【0029】
本発明のHCFOの製造方法は、HCFO(1)を異性化条件(1)に供することで、上記異性化反応の反応速度を上げ、HCFO(1)を迅速にHCFO(2)に異性化させることで、HCFO(2)を効率よく製造するものである。
【0030】
また、HCFO(1)とHCFO(2)を含む原料組成物が異性化の平衡反応に供される場合、原料組成物中のHCFO(1)とHCFO(2)の比(以下「HCFO(1)とHCFO(2)の比」を「HCFO(1)/HCFO(2)」という。)が、異性化の平衡状態におけるHCFO(1)/HCFO(2)(以下、異性化の平衡状態におけるHCFO(1)/HCFO(2)を「平衡比」という。)よりも大きいとき、異性化条件(1)が満たされるため、HCFO(1)を異性化させてHCFO(2)に変換することができる。
【0031】
また、原料組成物中のHCFO(1)/HCFO(2)を調節することで、例えば上記好ましい平衡比の範囲内で、HCFO(1)からHCFO(2)への変換率を向上させることができる。HCFO(1)からHCFO(2)への変換率を向上させる点から、原料組成物中のHCFO(1)/HCFO(2)は、モル比で、5/95以上であることが好ましく、30/70以上であることがより好ましい。原料組成物としてHCFO(1)およびHCFO(2)のうちHCFO(1)のみを用いることがさらに好ましい。
【0032】
なお、HCFO(1)/HCFO(2)の小さい原料組成物は、HCFO(1)/HCFO(2)が大きい場合に比べて、HCFO(1)からHCFO(2)への見かけ上の変換率は小さくなるが、例えば、後述するように、上記異性化反応と、異性化反応で得られるHCFO(1)およびHCFO(2)の蒸留分離、蒸留分離により得られるHCFO(1)の再異性化を繰り返すことで、工業的に有利かつ効率的な方法でHCFO(1)からHCFO(2)を得ることができる。
【0033】
また、異性化条件を調節することにより、上記式(3)に示す異性化反応の逆反応を生起させて、HCFO(2)をHCFO(1)に変換することも可能である。この場合、HCFO(2)がHCFO(1)に異性化される条件(以下「異性化条件(2)」ともいう。)で異性化反応を行う。
【0034】
異性化条件(2)としては、例えば、異性化の平衡反応に供される原料組成物中のHCFO(1)/HCFO(2)が、異性化の平衡状態における平衡比よりも小さい場合が挙げられる。HCFO(2)からHCFO(1)への変換率を向上させる点から、原料組成物中のHCFO(1)/HCFO(2)は、モル比で、5/95未満であることが好ましく、1.5/98.5未満であることがより好ましい。原料組成物としてHCFO(2)のみを用いることがさらに好ましい。HCFO(2)を異性化反応させてHCFO(1)を得る場合にも、上記同様、HCFO(2)からHCFO(1)への異性化反応と、異性化反応で得られるHCFO(1)およびHCFO(2)の蒸留分離、蒸留分離により得られるHCFO(2)の再異性化を繰り返すことで、工業的に有利かつ効率的な方法でHCFO(2)からHCFO(1)を得ることができる。
【0035】
上記異性化の平衡を形成させる方法として具体的には、反応器内でHCFO(1)と金属触媒を接触させる方法、反応器内でHCFO(1)とラジカル発生剤を接触させる方法、HCFO(1)を加熱する方法等を用いることができる。これらの方法によれば異性化の平衡を速やかに形成させることができるため、上記方法は、HCFO(1)を異性化させてHCFO(2)を製造する工業的な方法として適している。
【0036】
(反応器)
HCFO(1)を異性化反応させる反応器としては、後述する反応器内の温度および圧力に耐えるものであれば、特に限定されず、例えば、円筒状の縦型反応器を用いることができる。反応器の材質としては、ガラス、鉄、ニッケル、鉄またはニッケルを主成分とする合金等が用いられる。また、反応器は、反応器内を加熱する電気ヒータ等を備えていてもよい。
【0037】
(異性化反応)
上記式(3)で示す異性化反応は、バッチ式、連続流通式のどちらの方法でも可能である。本発明のHCFOの製造方法は、製造効率の点で連続式の方法であるのが好ましい。
【0038】
本発明のHCFOの製造方法における異性化反応は、通常HCFO(1)を含む原料組成物が気相の状態で行われる。原料組成物は、予熱して反応器に導入することが好ましい。この際の原料組成物の予熱温度は、原料組成物を気化させ、反応性を向上させる点から、20℃以上300℃以下であることが好ましく、50℃以上250℃以下であることがより好ましい。以下、本発明のHCFOの製造方法を、原料組成物が気相の状態で、連続式で異性化反応を行わせる場合の反応条件について説明するが、これに限定されない。
【0039】
異性化反応を原料組成物が気相の状態で行う場合、副反応の抑制、出発物質の反応器への供給のしやすさ、流量の調整などの点から、原料組成物とともに、希釈ガスを反応器に供給することが好ましい。また、上記式(3)で示す異性化反応を後述する金属触媒の存在下で行う場合、希釈ガスを用いることで金属触媒の耐久性を向上させるという利点もある。
【0040】
希釈ガスとしては、窒素、二酸化炭素ガス、希ガス(ヘリウムなど)、上記異性化反応において不活性な有機化合物等が挙げられる。不活性な有機化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の飽和炭化水素や、トリフルオロメタン(CHF、HFC-23)、ジフルオロメタン(CH、HFC-32)、ペンタフルオロエタン(CF-CHF、HFC-125)、テトラフルオロエタン(CF-CFH、HFC-134a)、トリフルオロエタン(CF-CH、HFC-143a)、ジフルオロエタン(CFH-CH、HFC-152a)、テトラフルオロプロパン(CF-CFH-CH、HFC-254eb)等のフルオロ炭化水素が挙げられる。希釈ガスの量は、特に制限されないが、具体的には、反応器に供給されるHCFO(1)に対して、好ましくは1モル%以上10000モル%以下、より好ましくは10モル%以上1000モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上500モル%以下である。
【0041】
原料組成物と希釈ガスは、反応性を向上させる点から、上記した好ましい温度に予熱してから反応器に導入することが好ましい。原料組成物と希釈ガスは、それぞれ上記温度に予熱してから混合し、その後反応器に供給してもよいし、混合してから上記温度に予熱し、その後反応器に供給してもよい。
【0042】
(金属触媒との接触による異性化)
HCFO(1)を金属触媒と接触させることでHCFO(1)を異性化反応させる場合、異性化反応は、反応器内でHCFO(1)と金属触媒を接触させて行うことができる。具体的に、例えば、反応器内に金属触媒を収容し、反応部を形成して、この反応部にHCFO(1)を通流させることで行う。この場合、金属触媒は、固定床型または流動床型のいずれの形式で収容されていてもよい。また、固定床型である場合には、水平固定床型または垂直固定床型のいずれであってもよいが、異性化反応によって多成分から構成される混合ガスが生じた際に、比重差により場所によって各成分の濃度分布が生じることを防ぎやすいことから、垂直固定床型であることが好ましい。
【0043】
上記式(3)で示す異性化反応に用いられる金属触媒は、上記式(3)で示す異性化反応に対して触媒作用を有する。金属触媒としては、例えば、金属単体、金属酸化物、金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質が挙げられる。金属触媒は、1種の物質を単独で用いてもよく、2種以上の物質を併用してもよい。
【0044】
これらの中でも、HCFO(1)を効率よくHCFO(2)に異性化できることから、金属触媒は金属酸化物または金属ハロゲン化物であることが好ましい。
【0045】
金属触媒を構成する金属としては、遷移金属元素、周期表の第12族金属元素、第13族金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられる。中でも、金属触媒を構成する金属は、周期表の第4族金属元素、第6族金属元素、第8族金属元素、第9族金属元素、第10族金属元素、第11族金属元素、第12族金属元素、第13族金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が好ましく、第4族金属元素、第6族金属元素、第8族金属元素、第10族金属元素、第11族金属元素、第12族金属元素、第13族金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素がより好ましい。
【0046】
金属触媒を構成する金属としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、クロム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、プラチナ、銅、亜鉛、アルミニウムが好ましく、ジルコニウム、クロム、鉄、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、アルミニウムがより好ましい。金属触媒が金属単体である場合、金属単体は、上記した金属の1種であってもよく、2種以上の金属の合金であってもよい。金属触媒が金属酸化物である場合、金属酸化物は、上記した金属の1種の酸化物であってもよく、2種以上の金属の複合酸化物であってもよい。金属触媒が金属ハロゲン化物である場合、金属ハロゲン化物は、上記した金属の1種のハロゲン化物であってもよく、2種以上の金属の複合ハロゲン化物であってもよい。
【0047】
金属触媒としては、具体的に、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、酸化クロム(クロミア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化亜鉛、フッ化鉄、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化クロム、塩化クロムなどが挙げられる。これらの金属触媒の中でも、入手が容易でHCFO(1)を効率よくHCFO(2)に異性化できる点で、酸化アルミニウム(アルミナ)および酸化クロム(クロミア)からなる群から選ばれる1種以上の物質が好ましい。
【0048】
また、金属触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、例えば、アルミナ担体、ジルコニア担体、シリカ担体、シリカアルミナ担体、活性炭に代表されるカーボン担体、硫酸バリウム担体、炭酸カルシウム担体などが挙げられる。活性炭としては、例えば、木材、木炭、果実ガラ、ヤシガラ、泥炭、亜炭、石炭などの原料から調製した活性炭などが挙げられる。
【0049】
また、金属触媒は、反応性向上の観点から、あらかじめ活性化処理されていることが好ましい。活性化処理の方法としては、加熱下または非加熱下で金属触媒を活性化処理剤と接触させる方法が挙げられる。活性化処理剤としては、例えば、フッ化水素、塩化水素、含フッ素炭化水素などを用いることができる。活性化処理剤としては1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、活性化処理剤としては、含フッ素炭化水素を用いることが好ましい。活性化処理剤として用いる含フッ素炭化水素としては、例えば、トリクロロフルオロメタン(CFC-11)、ジクロロジフルオロメタン(CFC-12)、クロロトリフルオロメタン(CFC-13)、ジクロロフルオロメタン(HCFC-21)、クロロジフルオロメタン(HCFC-22)、トリフルオロメタン(HFC-23)、テトラフルオロエチレン(FO-1114)等が好適である。また、原料であるHCFO-1224yd(E)またはHCFO-1224yd(Z)を活性化処理剤に用いることもできる。
【0050】
また、金属触媒に対しては、このような反応前の活性化処理の他に、再活性化処理を行うことができる。すなわち、異性化反応において、金属触媒の活性が落ち、目的物であるHCFO(2)への変換率が低下したとき(異性化の平衡が形成されにくくなったとき)には、金属触媒を再活性化処理することが好ましい。これにより、金属触媒の活性を再生させて金属触媒を再利用することができる。再活性化処理の方法としては、使用前の活性化処理と同様に、加熱下または非加熱下で金属触媒を再活性化処理のための処理剤(再活性化処理剤)と接触させる方法が挙げられる。再活性化処理剤としては、酸素、フッ化水素、塩化水素、含塩素または含フッ素炭化水素等を用いることができる。含塩素または含フッ素炭化水素としては、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン(HCC-30)、クロロメタン、塩化ビニル、CFC-11、CFC-12、CFC-13、CFC-21、HCFC-22、HFC-23、FO-1114、HCFO-1224yd(E/Z)等を挙げることができる。また、再活性化処理において、副反応の抑制および金属触媒の耐久性向上等の点から、再活性化処理剤を希釈するために窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0051】
金属触媒は、反応器に収容される前に活性化処理が行われていてもよいが、操作が簡便で作業効率が良いため、反応器に収容した状態で活性化処理を行うことが好ましい。そのため、金属触媒を収容した反応器に活性化処理剤を導入して活性化処理を行うことが好ましい。活性化処理剤は、常温のまま反応器に導入してもよいが、反応性を向上させる観点から、反応器に導入する際に加熱等により温度調節を行うことが好ましい。
【0052】
また、活性化処理の効率を高めるために、反応器内を加熱した状態で活性化処理をすることが好ましい。その場合、反応器内の温度は50℃以上400℃以下に加熱することが好ましい。
【0053】
このようにして、反応器に導入したHCFO(1)は、反応器内で金属触媒と接触される。このとき、反応圧力については、例えば、反応時間の短縮等の目的で加圧を必要とする場合には、1.0MPa以下の加圧条件、反応器内の内圧で常圧以上1.0MPa以下の圧力条件とすることが可能であるが、工業的な実施のしやすさの点から、常圧、もしくは0.2MPa以下の微加圧で反応を行うことが好ましい。
【0054】
HCFO(1)と金属触媒の接触温度(反応温度)は、反応器内の温度として0℃以上500℃以下であり、50℃以上500℃以下が好ましく、50℃以上350℃以下がより好ましく、100℃以上250℃以下がさらに好ましく、150℃以上250℃以下が最も好ましい。反応温度が低すぎると、上記異性化の平衡を形成し難いため、HCFO(1)のHCFO(2)への変換率が低下する。一方、反応温度が高すぎると、HCFO(1)が分解する等により副生物が生成してHCFO(2)への変換率が低下する。また、反応器内でのHCFO(1)と金属触媒の接触時間(反応時間)は、0.1秒以上1000秒以下が好ましく、1秒以上100秒以下がより好ましい。なお、接触時間は、HCFO(1)の反応器内での滞留時間に相当し、HCFO(1)の反応器への供給量(流量)を調節することで制御できる。
【0055】
(ラジカル発生剤との接触による異性化)
HCFO(1)とラジカル発生剤を接触させる方法としては、HCFO(1)と熱または光によって活性化させたラジカル発生剤とを反応器内で接触させる方法が挙げられる。
【0056】
HCFO(1)と活性化させたラジカル発生剤を反応器内で接触させる方法としては、ラジカル発生剤を予め活性化してから反応器へ供給する方法、ラジカル発生剤とHCFO(1)との混合物を反応器に導入して、反応器内でラジカル発生剤を活性化する方法が挙げられる。いずれの方法でも、HCFO(1)とラジカル発生剤の反応器への供給はいずれが先であってもよく、あるいは同時であってもよい。すなわち、HCFO(1)とラジカル発生剤のいずれか一方の供給の際に、反応器内に他方が供給されていない場合でも、先に供給されたHCFO(1)またはラジカル発生剤の滞留中に、後から供給される成分が供給され、さらに、ラジカル発生剤が適宜活性化されて、最終的に、HCFO(1)と活性化されたラジカル発生剤とが反応器内で所定の時間接触すればよい。ただし、HCFO(1)と活性化されたラジカル発生剤を効率的に接触させるためには、HCFO(1)とラジカル発生剤を混合した混合物を反応器へ供給し、反応器内でラジカル活性剤を活性化させることが好ましい。
【0057】
また、ラジカル発生剤は、熱または光のいずれか一方で活性化させてもよく、両者を併用して活性化させてもよいが、工業的には、熱のみで活性化させることが好ましく、加熱した反応器にHCFO(1)とラジカル発生剤の混合物を供給し、反応器内で当該混合物に熱エネルギーを付与して、熱によりラジカル発生剤を活性化させる方法が簡便で好ましい。
【0058】
ラジカル発生剤は、熱または光によって活性化されてラジカルを発生するものである。ラジカルは、不対電子を有する原子、分子、あるいはイオン等の化学種であり、化学種の電荷がプラスのラジカルカチオン、電荷がマイナスのラジカルアニオン、電荷が中性のラジカル、ビラジカル、カルベン等を含む。ラジカルとして、具体的には、フッ素ラジカル、塩素ラジカル、臭素ラジカル、ヨウ素ラジカル、酸素ラジカル、水素ラジカル、ヒドロキシラジカル、ニトロキシラジカル、窒素ラジカル、アルキルラジカル、ジフルオロカルベンまたは炭素ラジカル等が挙げられる。
【0059】
上記したようなラジカルを発生させるラジカル発生剤としては、熱や光等の外部エネルギーの付与によって、ラジカルを発生するものであれば特に限定されない。ラジカル発生剤として、具体的には、反応系内に容易にラジカルを発生させるものが好ましく、例えば、塩素、臭素等のハロゲンガス、またはハロゲン化炭化水素等、空気、酸素、オゾン、過酸化水素等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン類や、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン類中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をフッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子で置換したハロゲン化炭化水素であって、当該ハロゲン化炭化水素はフッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子の少なくとも1つの原子を含むものである。なお、ラジカル発生剤となるハロゲン化炭化水素として、本発明のHCFOの製造方法における出発物質または目的物質となる化合物、すなわち、HCFO-1224ydおよびHCFO-1223xdは含まれない。また、フッ素原子数が4以上の化合物はラジカル解裂が起こりにくい場合があり、その場合は、温度等、ラジカル発生条件の最適化を適宜行うことが好ましい。ラジカル発生剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
ハロゲン化炭化水素の具体例としては、CHCl、CHCl、CHCl、CCl、CHCHCl、CHCCl、CHClCHCl、CH=CCl、CHCl=CCl、CCl=CCl、CHClCHCl、CClCHCl、CHCHCHCl、CHCHClCH、CHCHClCHCl、CHBr、CHBr、CHBr、CBr、CHCHBr、CHCBr、CHBrCHBr、CH=CBr、CHBr=CBr、CBr=CBr、CHBrCHBr、CBrCHBr、CHCHCHBr、CHCHBrCH、CHCHBrCHBr、CHI、CH、CHI、CHCHI、CHCI、CHICHI、CH=CI、CHI=CI、CI=CI、CHICHI、CICHI、CHCHCHI、CHCHICH、CHCHICHI、CFHCl、CFI、CF、CFBr、CFBr等が挙げられる。
【0061】
ラジカル発生剤として、上記したなかでは、安価で入手のし易さから、酸素、空気および塩素が好ましい。塩素はラジカルを発生させやすい点でラジカル発生剤としては好適であるが、非常に腐食性が高い。また、ラジカル発生剤として塩素を用いた場合、異性化反応終了後の生成物を、還元剤の添加された塩基性水溶液等で洗浄し、塩素を除去する必要がある。また、ラジカル発生剤として、ハロゲンや、ハロゲン化炭化水素を用いると、微量のハロゲン化物、すなわち、HCFO(1)およびHCFO(2)のハロゲン化物が副生物として生成し、目的物(HCFO(2))の精製が困難な場合がある。
【0062】
これに対して、空気および酸素は生成物との分離が容易であるという利点がある。そのため、ラジカル発生剤として、空気または酸素を使用することがより好ましい。
【0063】
反応器に供給されるラジカル発生剤の量は、微量であることが好ましい。ラジカルの生成が連鎖するためである。また、過剰のラジカル発生剤の添加は、副資材の無駄となるだけでなく、反応後の目的物質あるいは出発物質と、ラジカル発生剤との分離工程の負荷を生じる。目的物質および出発物質との分離が容易な、酸素または空気の場合であっても、例えば空気の添加量が多くなると凝集工程や蒸留工程の能力が低下する。また、ラジカル発生剤として塩素を過剰に添加すると、上記したように、HCFO(1)およびHCFO(2)の二重結合に塩素が付加した化合物(塩素付加体)が生成する。この塩素付加体は、地球温暖化、オゾン層破壊物質であるヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)であるため、塩素付加体の副生は少ない方が好ましい。
【0064】
上記した点から、HCFO(1)とラジカル発生剤の量は、ラジカル発生剤/HCFO(1)で示されるモル比で、0.0001/99.9999以上10/90以下であることが好ましく、0.0001/99.9999以上0.1/99.95以下であることがより好ましい。また、HCFO(1)とラジカル発生剤の量は、HCFO(1)が気相の状態で反応を行わせる本実施形態において、ラジカル発生剤が気体で供給される場合には、ラジカル発生剤/HCFO(1)で示される体積比が上記モル比同様の範囲であればよい。なお、上記異性化反応を連続式の方法で行う本実施形態では、HCFO(1)とラジカル発生剤の供給量は、単位時間当たりの供給量で示すものとする。
【0065】
上記異性化反応において、ラジカル発生剤を熱により活性化させる場合、反応圧力は、金属触媒を用いる場合と同様、常圧もしくは0.2MPa以下の微加圧で反応を行うことが好ましい。また、反応温度が低すぎると、ラジカル発生剤の活性化が不充分となるため、HCFO(1)のHCFO(2)への変換率が低下する。一方、反応温度が高すぎると、HCFO(1)が分解する等により副生物が生成してHCFO(2)への変換率が低下する。そのため、反応温度(HCFO(1)とラジカル発生剤の接触温度)は、100℃以上800℃以下が好ましく、200℃以上600℃以下がより好ましい。反応器内でのHCFO(1)とラジカル発生剤の接触時間(反応時間)は、0.01秒以上1000秒以下が好ましく、0.05秒以上100秒以下がより好ましい。なお、接触時間は、HCFO(1)とラジカル発生剤の反応器内での滞留時間に相当し、HCFO(1)とラジカル発生剤の反応器への供給量(流量)を調節することで制御できる。
【0066】
また、ラジカル発生剤を光によって活性化させる場合、ラジカル発生剤に対して光を照射すればよい。照射する光として具体的には、波長200nm以上400nm以下の光を含む紫外線や可視光線などが挙げられる。上記式(3)で示す異性化反応において、このような光照射を行うことが可能な光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を挙げることができる。
【0067】
光照射の方法としては、反応時間を通じて反応系に存在するラジカル活性剤を十分に活性化させ得る方法であれば特に制限されないが、例えば、HCFO(1)とラジカル活性剤を予め混合して反応器に供給する場合、少なくとも上記異性化反応に必要な波長の光を透過し、反応系に存在する成分(HCFO(1)、HCFO(2)およびラジカル発生剤等)に不活性で、耐食性の材料で構成されたジャケットを装着した光源を当該成分のガス中に挿入し、成分内部から成分に対して光を照射する等の方法が挙げられる。また、光源が熱を発生する場合には、反応温度によっては、上記ジャケットは冷却手段を有するジャケットであることが好ましい。
【0068】
(加熱による異性化)
上記異性化反応を、HCFO(1)を加熱する方法によって行う場合、上記異性化反応は、反応器内でHCFO(1)を加熱して行うことができる。具体的に、例えば、電気炉等の加熱炉により加熱された反応器内に、HCFO(1)を供給して行うことができる。この際の反応圧力は、金属触媒を用いる場合と同様、常圧もしくは0.2MPa以下の微加圧で反応を行うことが好ましい。反応温度が低すぎると、上記異性化の平衡を形成し難いため、HCFO(1)のHCFO(2)への変換率が低下する。一方、反応温度が高すぎると、HCFO(1)が分解する等により副生物が生成してHCFO(2)への変換率が低下する。そのため、加熱温度(反応温度)は、400℃以上1000℃以下が好ましく、500℃以上900℃以下がより好ましい。反応器内でのHCFO(1)の滞留時間(反応時間)は、0.001秒以上1000秒以下が好ましく、0.01秒以上100秒以下がより好ましい。反応温度を上記した好ましい範囲内で高くする、または反応時間を上記した好ましい範囲内で長くすることで、HCFO(2)への変換率を向上させることができる。
【0069】
(出口ガス)
本発明のHCFOの製造方法においては、目的物質であるHCFO(2)を、上記反応器の出口ガスとして得ることができる。出口ガス中には、原料組成物に含まれる不純物等から生成したり、HCFO(1)が分解等したりして生成した副生物が含有されることがある。出口ガス中のこれらの副生物は、蒸留等の既知の手段で望まれる程度に除去することができる。
【0070】
また、上記異性化反応では、上述したように、異性化される条件において異性化の平衡状態が形成されるため、反応条件(異性化条件)を好適なものに調整したとしても、出口ガス中には、目的物質であるHCFO(2)に加えて、出発物質であるHCFO(1)が含まれる。
【0071】
出口ガス中のHCFO(1)およびHCFO(2)は、例えば、HCFO(1)がHCFO-1224yd(E)である場合、HCFO(1)(E体)の沸点が17℃、HCFO(2)(Z体)の沸点が15℃であるように、沸点に差があるため、通常の蒸留方法によって分離することが可能である。したがって、上記で得られる出口ガスを、必要に応じて酸洗浄、アルカリ洗浄、合成ゼオライトなどの吸着剤による脱水、副生物の除去を行い、蒸留することで、高純度のHCFO(2)およびHCFO(1)をそれぞれ得ることができる。具体的には、上記で洗浄等を行った、HCFO(1)とHCFO(2)を含む出口ガスを、蒸留塔に供給して蒸留し、塔頂からHCFO(2)を主成分とする留出物を、塔底からHCFO(1)を含む缶出物をそれぞれ得ることができる。
【0072】
このように、蒸留によって得られた留出物および缶出物のうち、缶出物については、HCFO(1)が高純度化され、HCFO(1)/HCFO(2)が平衡比よりも大きくなる。このため、缶出物をさらに、原料組成物として本発明のHCFOの製造方法における異性化される条件に供することで、缶出物中のHCFO(1)をHCFO(2)へ変換させることが可能である。
【0073】
また、蒸留により得られる留出物中のHCFO(1)/HCFO(2)が平衡比よりも小さい場合、留出物を原料組成物として、本発明のHCFOの製造方法における異性化される条件に供することで、留出物中のHCFO(2)をHCFO(1)へ変換させることが可能である。このように、異性化反応と、異性化反応で得られるHCFO(1)およびHCFO(2)の蒸留分離、蒸留分離により得られるHCFO(1)の再異性化を繰り返すことで、効率的にHCFO(2)からHCFO(1)を得ることができる。
【0074】
なお、HCFO(2)からHCFO(1)を得る場合には、上記HCFO(1)からHCFO(2)を得る方法、具体的には、金属触媒を用いる方法、ラジカル発生剤を用いる方法、加熱による方法において、原料組成物におけるHCFO(1)/HCFO(2)、反応温度、反応時間等の条件を、異性化条件(2)となるように、調整すればよい。特に、上記したように原料組成物におけるHCFO(1)/HCFO(2)を、異性化の平衡反応における平衡比よりも小さくすることで、HCFO(2)をHCFO(1)に変換することができる。
【0075】
以上、本発明のHCFOの製造方法によれば、工業的に有利かつ効率的な方法でHCFO(1)(E体)を異性化して、HCFO(2)(Z体)を製造することができる。また、原料組成物中のHCFO(1)/HCFO(2)を平衡比よりも小さくすれば、工業的に有利かつ効率的な方法でHCFO(2)(Z体)を異性化して、HCFO(1)(E体)を製造することができる。
【0076】
(熱サイクル用作動媒体)
本発明の熱サイクル用作動媒体は、上記HCFOの製造方法によって、上記式(1)においてXがF原子であるHCFO-1224yd(E)を異性化して得られたHCFO-1224yd(Z)を含有する。熱サイクル用作動媒体の100質量%に対するHCFO-1224yd(Z)の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上100質量%以下がより好ましく、40質量%以上100質量%以下が一層好ましく、60質量%以上100質量%以下がさらに好ましく、90質量%以上100質量%以下が最も好ましい。
【0077】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、HCFO-1224yd(Z)にさらに、通常熱サイクル用作動媒体が含有するHCFO-1224yd(Z)以外の任意成分を含有していてもよい。任意成分としては、HFC-32、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、HFC-125、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等のヒドロフルオロカーボン(HFC);HFO-1234yf、1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132)、2-フルオロプロペン(HFO-1261yf)、1,1,2-トリフルオロプロペン(HFO-1243yc)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz)等のヒドロフルオロオレフィン(HFO);1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレン(HCFO-1122)、1,2-ジクロロフルオロエチレン(HCFO-1121)、1-クロロ-2-フルオロエチレン(HCFO-1131)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、1-クロロ-3,3,3-テトラフルオロプロペン(HCFO-1233zd)、HCFO-1224yd(E)等のHCFO-1224yd(Z)以外のHCFO;二酸化炭素、炭化水素等が挙げられる。
【0078】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等の安定剤に加えて、さらに、ナフテン系冷凍機油、パラフィン系冷凍機油等の鉱油系冷凍機油や、エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油、ポリグリコール系冷凍機油、炭化水素系冷凍機油等の合成油系冷凍機油などの冷凍機油と混合されて、熱サイクルシステム用組成物として熱サイクルシステムに適用することができる。
【0079】
本発明の熱サイクル用作動媒体が適用される熱サイクルシステムとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルシステムが特に制限なく用いられる。熱サイクルシステム、例えば、冷凍サイクルにおいては、気体の作動媒体を圧縮機で圧縮し、凝縮器で冷却して圧力の高い液体をつくり、膨張弁で圧力を下げ、蒸発器で低温気化させて気化熱で熱を奪う機構を有する。
【0080】
熱サイクルシステムとしては、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等を特に限定せず採用することができる。本発明の熱サイクル用作動媒体の適用される熱サイクルシステムとしては、上記空調機器の一種である、遠心式冷凍機であることが好ましい。遠心式冷凍機としては、低圧型、高圧型のうち、低圧型の遠心式冷凍機であることが好ましい。なお、低圧型とは、例えば、高圧ガス保安法の適用を受けない作動媒体、すなわち、「常用の温度において、圧力0.2MPa以上となる液化ガスで現にその圧力が0.2MPa以上であるもの、または圧力が0.2MPa以上となる場合の温度が35℃以下である液化ガス」に該当しない作動媒体を用いた遠心式冷凍機をいう。
【0081】
HCFO-1224yd(Z)は、分子内に炭素-炭素二重結合を有するため地球温暖化係数が低い。また、分子内に燃焼性を抑えるハロゲンの割合が多い。そのため、本発明の熱サイクル用作動媒体によれば、燃焼性が抑えられ、地球温暖化への影響が少なく、優れたサイクル性能を得られる熱サイクル用作動媒体とすることができる。特に、熱サイクル用作動媒体の充填量が多い遠心式冷凍機に適用することで、地球温暖化への影響が少なく、安全性が高く、優れたサイクル性能を得られる熱サイクルシステムを得ることができる。
【0082】
(HFO-1234yfの製造方法)
本発明のHFO-1234yfの製造方法は、上記HCFOの製造方法によって、上記式(1)のXがF原子であるHCFO-1224yd(E)を異性化してHCFO-1224yd(Z)を得る工程と、HCFO-1224yd(Z)を得る工程で得られたHCFO-1224yd(Z)を水素と反応させて還元することでHFO-1234yfを得る工程とを有する。この水素還元反応において、HCFO-1224yd(Z)と水素は、下記式(4)に示す反応により、HFO-1234yfを生成する。
【0083】
CFCF=CHCl + H → CFCF=CH+ HCl
・・・(4)
【0084】
本発明のHFO-1234yfの製造方法において、HCFO-1224yd(Z)の水素還元反応は、活性炭に担持されたパラジウム触媒の存在下、気相によって行うことが好ましい。上記水素還元反応は、例えば、ガラス、鉄、ニッケル、またはこれらを主成分とする合金等の材質で形成された反応器内に、活性炭に担持されたパラジウム触媒を充填して触媒層を形成し、当該触媒層に、HCFO-1224yd(Z)と水素を供給して行うことができる。
【0085】
パラジウム触媒としてはパラジウム単体のみならず、パラジウム合金であってもよい。また、パラジウム触媒は、パラジウムと他の金属との混合物やパラジウムと他の金属とを担体に別々に担持させた複合触媒であってもよい。パラジウム触媒がパラジウム合金の場合、パラジウム触媒としては、パラジウム/白金合金触媒やパラジウム/ロジウム合金触媒などが挙げられる。
【0086】
活性炭としては、木材、木炭、果実殻、ヤシ殻、泥炭、亜炭、石炭等を原料として調製したものが挙げられ、鉱物質原料よりも植物原料から得られたものが好ましく、ヤシ殻活性炭が特に好ましい。活性炭の形状としては、長さ2mm以上5mm以下程度の成形炭、4メッシュ以上50メッシュ以下程度の破砕炭、粒状炭等が挙げられる。なかでも、4メッシュ以上20メッシュ以下の破砕炭、または成形炭が好ましい。
【0087】
触媒層におけるパラジウム担持活性炭の充填密度は、0.5g/cm以上1g/cm以下が好ましく、0.6g/cm以上0.8g/cm以下がより好ましい。触媒層に導入するHCFO-1224yd(Z)と水素の割合は、HCFO-1224yd(Z)中の塩素原子のモル数と水素のモル数との比(H/Cl)で0.7以下が好ましい。H/Clは、HFC-254ebの副生を低減する点で、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。また、H/Clは、HFO-1234yfの収率の点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【0088】
触媒層の温度は、気相反応である場合、反応性の点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が特に好ましい。反応圧力は、取り扱い性の点から、常圧が好ましい。
【0089】
本発明のHFO-1234yfの製造方法によれば、副生物の生成を抑制してHFO-1234yfを効率よく製造することができる。
【実施例0090】
次に、実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1~20、例24~25は実施例、例21~23は参考例である。
【0091】
(触媒調製例1)
電気炉を備えた内径23.4mm、高さ400mmのステンレス鋼(SUS316)製のチューブ型反応器に、クロムマグネシウム複合酸化物触媒(Cr:98質量%、MgO:2質量%、AG-23、堺化学)を81.5mL充填し、窒素(N)ガスを流しながら200℃まで昇温した。反応器の出口から水の流出が見られなくなるまで温度を維持し触媒を乾燥した。触媒の乾燥終了後、Nガスと共にHCFC-22を反応器に通流させ、充填した触媒の活性化によるホットスポットが反応器の出口端に達した所で反応器温度を250℃に上げ、その状態を8時間保ち、触媒の活性化処理を行い、触媒1を得た。
【0092】
(触媒調製例2)
反応器に、クロムマグネシウム複合酸化物触媒の代わりにアルミナ触媒(N612N、日揮触媒化成)を充填した以外は触媒調製例1と同様に調製を行い、触媒2を得た。
【0093】
(触媒調製例3)
反応器に、クロムマグネシウム複合酸化物触媒の代わりにフッ化アルミニウム触媒(試薬鹿特級、関東化学)を充填した以外は触媒調製例1と同様に調製を行い、触媒3を得た。
【0094】
(触媒調製例4)
反応器に、クロムマグネシウム複合酸化物触媒の代わりにジルコニウム亜鉛複合酸化物触媒(ZrO:95質量%、ZnO:5質量%、エヌイーケムキャット)を充填した以外は触媒調製例1と同様に調製を行い、触媒4を得た。
【0095】
(触媒調製例5)
反応器に、クロムマグネシウム複合酸化物触媒の代わりに、カーボンに0.5%パラジウムを担持した触媒(触媒の全体量に対するパラジウムの割合が0.5質量%、エヌイーケムキャット社製、0.5%Pd/C)を充填した以外は触媒調製例1と同様に調製を行い、触媒5を得た。
【0096】
(触媒調製例6)
25質量%塩化鉄(II)水溶液を調製し、円柱状の活性炭(日本エンバイロケミカルズ、現大阪ガスケミカル社製、粒状白鷺G2X)200mLを浸漬させ、3時間保持した。濾過した活性炭を減圧下、90℃で乾燥させて、塩化鉄(II)担持活性炭を得た。電気炉を備えた内径23.4mm、高さ400mmのステンレス鋼(SUS316)製のチューブ型反応器に、上記で得られた塩化鉄(II)担持活性炭を81.5mL充填し、Nガスを流しながら200℃まで昇温した。反応器の出口から水の流出が見られなくなるまで温度を維持し触媒を乾燥した。触媒の乾燥終了後、Nガスと共にHCFC-22を反応器に通流させ、充填した触媒の活性化によるホットスポットが反応器の出口端に達した所で反応器温度を250℃に上げ、その状態を8時間保ち、触媒の活性化処理を行い、触媒6を得た。
【0097】
(触媒調製例7)
25質量%塩化鉄(II)水溶液に代えて、17質量%塩化ニッケル(II)水溶液を用いた以外は、触媒調製例6と同様に調製を行い、触媒7を得た。
【0098】
(触媒調製例8)
25質量%塩化鉄(II)水溶液に代えて、25質量%塩化銅(II)水溶液を用いた以外は、触媒調製例6と同様に調製を行い、触媒8を得た。
【0099】
(合成例1:HCFO-1224ydの製造)
特許文献3に記載の方法と同様の方法でHCFO-1224ydを製造した。ステンレス鋼(SUS316)製のチューブ型反応器内に、活性炭にパラジウムを担持させたパラジウム担持活性炭を充填して、触媒層を形成した。その後、反応器を、加熱炉によって80℃に保持した状態で、反応器内に、水素(H)/CFO-1214yaモル比=1/1になる割合で混合したCFO-1214yaと水素の混合ガスを供給した。この際、CFO-1214yaと水素の混合ガスの触媒層における滞留時間が25秒になるように上記混合ガスを反応器内に供給した。
【0100】
上記反応器から得られた出口ガスを濃度10質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液に通流させて酸性成分を除去した後、合成ゼオライト(モレキュラーシーブス4A)を充填した脱水塔に通流させて脱水した。脱水後の出口ガスを、ドライアイスで冷却されたシリンダー内に捕捉した。この捕捉された出口ガスを試料として、理論段数約30段の蒸留塔の塔底に供給し、運転圧力0.02MPa(ゲージ圧)で、バッチ蒸留による蒸留を行い、蒸留塔の塔頂からHCFO-1224yd(Z)を79.1%、HCFO-1224yd(E)を19.3%含む留出液(以下、本留出液を「原料組成物A」という。)を得た。
【0101】
(例1)
内径23.4mm、高さ400mmのステンレス鋼(SUS316)製のチューブ型反応器(以下、反応器ともいう。)に触媒1の81.5mLを充填した。原料組成物Aを27.9NmL/min、希釈ガスとして窒素ガス(N)を55.7NmL/minの割合で混合して、加熱炉によって50℃に予熱した。その後、予熱した原料組成物Aと窒素ガスの混合ガスを、加熱炉によって50℃に保持した反応器に、ほぼ大気圧下で通流させた。反応器からの出口ガスを捕集し、GC(ガスクロマトグラフィー)によって分析したところ、出口ガスの組成は、GCによる面積百分率(GC area%)でHCFO-1224yd(Z)が88.2(GC area%)で、HCFO-1224yd(E)が11.1%(GC area%)であった。また、反応時間(原料組成物Aの反応器内の滞留時間)は49.5秒であった。
【0102】
(例2~7)
反応器内の温度(反応温度ともいう。)、窒素ガスの流量(窒素流量ともいう。)、原料組成物Aの流量(原料流量ともいう。)を、表1の条件に変更した以外は例1と同様の操作を行った。反応器の出口ガスを捕集し、GCによって分析した。GC分析結果を表1に示す。
【0103】
(例8~12)
金属触媒を触媒2に変更し、反応温度、窒素流量、原料流量を表1の条件に変更した以外は例1と同様の操作を行った。反応器の出口ガスを捕集し、GCによって分析した。GC分析結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
(例13~18)
例1と同様のチューブ型反応器に、表2に示す通り、触媒3~8をそれぞれ81.5mL充填した。原料組成物Aを19.0NmL/min、窒素ガス(N)を38.1NmL/minの割合で混合して50℃に予熱した。反応器を加熱炉によって200℃に保持した状態で、予熱された原料組成物Aと窒素の混合ガスを反応器にほぼ大気圧下で流通させた。反応器を流通した直後の出口ガスを、濃度10質量%の水酸化カリウム(KOH)水溶液に通流させて酸性成分を除去した(酸洗浄)後、合成ゼオライト(モレキュラーシーブス4A)を充填した脱水塔に通流させて脱水し、脱水後の出口ガスをドライアイスで冷却したシリンダー中に捕集した。捕集した出口ガスを分取し、その組成をGCによって分析した。GC分析結果を表2に示す。
【0106】
【表2】

【0107】
表1、2に示されるように、HCFO-1224yd(E)を、非常に高い収率(変換率)でHCFO-1224yd(Z)に変換することができることがわかる。
【0108】
(合成例2:HCFO-1223xdの合成)
国際公開第2014/046250号に記載の方法と同様の方法で、HCFO-1223xdを製造した。具体的には、加熱した水酸化カリウム水溶液中にHCFC-233daを滴下して反応させた。反応後の反応液を水相と油相に分離することで、油相として、HCFO-1223xd(Z)を90.3%、HCFO-1223xd(E)を5.7%含む反応粗液の7194gを得た。得られた反応粗液を蒸留精製し、HCFO-1223xd(Z)を17.1%、HCFO-1223xd(E)を79.6%含む缶出液(以下、本缶出液を「原料組成物B」ともいう。)を54g、およびHCFO-1223xd(Z)を99.8%、HCFO-1223xd(E)を0.2%含む留出液(以下、本留出液を「原料組成物C」ともいう。)を3597g得た。
【0109】
(例19、20)
例1において、原料組成物Aに代えて原料組成物Bを用い、反応温度、窒素流量、原料流量を、表3に示すように変更した以外は例1と同様の操作を行った。例1と同様に反応器の出口ガスを捕集し、捕集された出口ガスの組成をGCによって分析した。GC分析結果を表3に示す。
【0110】
【表3】


表3に示されるように、HCFO-1223xd(E)を非常に高い収率(変換率)でHCFO-1223xd(Z)に変換することができることがわかる。
【0111】
(例21~23)
例1において、原料組成物Aに代えて原料組成物Cを用い、反応温度、窒素流量、原料流量、それぞれ表4に示すように変更した以外は例1と同様の操作を行った。例1と同様に反応器の出口ガスを捕集し、捕集された出口ガスの組成をGCによって分析した。GC分析結果を表4に示す。
【0112】
【表4】

【0113】
表4に示されるように、原料組成物中のHCFO-1223xd(E)/HCFO-1223xd(Z)を平衡比よりも小さくすることで、HCFO-1223xd(Z)をHCFO-1223xd(E)に変換することができることがわかる。
【0114】
(例24)
例1と同様のチューブ型反応器(内径23.4mm、高さ400mmのSUS316製のチューブ型反応器)を用い、加熱炉の温度を400℃に設定して反応器を加熱した。原料組成物Aを442.6NmL/min、ラジカル発生剤として、塩素を5.2NmL/minの割合(原料組成物A中のHCFO-1224yd(E)/塩素モル比=85.1/1)で混合して200℃に予熱し、その後、上記温度に加熱された反応器に供給し、ほぼ大気圧下で流通させた。反応器を流通した直後の出口ガスを、濃度10質量%のKOH水溶液に通流させて酸性成分を除去した(酸洗浄)後、合成ゼオライト(モレキュラーシーブス4A)を充填した脱水塔に通流させて脱水し、脱水後の出口ガスをドライアイスで冷却したシリンダー中に捕捉した。捕捉した出口ガスを分取し、その組成をGCによって分析した。GC分析結果を表5に示す。
【0115】
(例25)
例24において、ラジカル発生剤の種類を塩素から空気に代えた(原料組成物A中のHCFO-1224yd(E)/空気(体積比)=85.1/1)以外は例24と同様の操作を行った。シリンダー中に捕捉した出口ガスを分取し、その組成をGCによって分析した。GC分析結果を表5に示す。
【0116】
【表5】

【0117】
表5に示されるように、HCFO-1224yd(E)を非常に高い収率(変換率)でHCFO-1224yd(Z)に変換することができることがわかる。