(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076396
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】固体電解質及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20220512BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220512BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220512BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20220512BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0525
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186803
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】織田 明博
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】本田 大貴
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM16
5H029DJ17
5H029HJ01
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050FA19
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】イオン伝導性及び充放電特性に優れる固体電解質を提供する。
【解決手段】リチウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド及び窒素原子を含有する窒素含有ポリマーを含む固体電解質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド及び窒素原子を含有する窒素含有ポリマーを含む固体電解質。
【請求項2】
前記窒素含有ポリマーは、ニトリル基を有する構成単位を含む請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対する前記窒素含有ポリマーの質量比率は、0.10~0.50である請求項1又は請求項2に記載の固体電解質。
【請求項4】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の固体電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質が黒鉛を含む請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質が層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含む請求項4又は請求項5に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、軽量で高エネルギー密度の二次電池であり、その特性を活かして、ノートパソコン、携帯電話等のポータブル機器の電源に使用されている。
近年では、リチウムイオン二次電池は、ポータブル機器等の民生用途にとどまらず、車載用途、太陽光発電、風力発電等といった自然エネルギー向け大規模蓄電システム用途などとしても展開されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の電解質としては、有機溶媒にリチウム塩を溶解した電解液が一般的に用いられている。また、有機溶媒は揮発しやすいため、有機溶媒の代わりに不揮発性のイオン液体を用い、イオン液体にリチウム塩を溶解した電解質をリチウムイオン二次電池に用いる場合がある。
ここでイオン液体とは、カチオンとアニオンから構成され、比較的低温、例えば25℃程度にて液体状態となる塩をいう。
【0004】
例えば、特許文献1には、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、イオン液体である常温溶融塩、及びリチウム塩を含有する非水電解質とを備える非水電解質二次電池が開示されており、常温溶融塩としてエチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、リチウムイオン電池の高エネルギー密度化、安全性等の観点から、無機材料を用いた無機固体電解質、ポリマー、電解質溶媒等を用いたゲル固体電解質等の固体電解質の開発が活発化している。ゲル固体電解質に用いられるポリマーとしてはポリエーテル系のポリマーが検討されている。その理由は、ポリエーテル鎖中の酸素原子にリチウムイオンが配位し伝導することで、高いリチウムイオン伝導性が得られると考えられるためである。そこで、例えば、特許文献1のように電解質溶媒にエチルメチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のイオン液体を用いる場合、ポリエーテル系のポリマー及びイオン液体を用いたゲル固体電解質とすることが想定される。
【0007】
特にアニオンにビス(フルオロスルホニル)イミドを含有するイオン液体を用いたリチウムイオン電池では、リチウムイオンにビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンが弱配位していることで、電池性能が向上する。例えば高いリチウムイオン伝導性のみならず、電極反応においてリチウムイオンの反応活性と頻度が上がることによって高い入出力特性を示すことなどが知られている。
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討により、ポリエーテル系のポリマー及びアニオンにビス(フルオロスルホニル)イミドを含有するイオン液体を用いたゲル固体電解質では、充放電特性が低下してしまうという問題があることが分かった。
【0009】
本開示の一形態は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性及び充放電特性に優れる固体電解質及びこの固体電解質を備えるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> リチウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド及び窒素原子を含有する窒素含有ポリマーを含む固体電解質。
<2> 前記窒素含有ポリマーは、ニトリル基を有する構成単位を含む<1>に記載の固体電解質。
<3> 前記1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対する前記窒素含有ポリマーの質量比率は、0.10~0.50である<1>又は<2>に記載の固体電解質。
<4> 正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池。
<5> 前記負極活物質が黒鉛を含む<4>に記載のリチウムイオン二次電池。
<6> 前記正極活物質が層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物を含む<4>又は<5>に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一形態によれば、イオン伝導性及び充放電特性に優れる固体電解質及びこの固体電解質を備えるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。また、本開示中の技術的思想の範囲内において、当業者による様々な変更及び修正が可能である。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において、正極合剤又は負極合剤の「固形分」とは、正極合剤のスラリー又は負極合剤のスラリーから有機溶媒等の揮発性成分を除いた残りの成分を意味する。
【0013】
<固体電解質>
本開示の固体電解質は、リチウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド及び窒素原子を含有する窒素含有ポリマーを含む固体電解質である。
【0014】
本開示の固体電解質は、窒素原子を含有する窒素含有ポリマーを含むため、ポリマーとしてポリエーテル系のポリマーのみを含む固体電解質と比較してリチウムイオン伝導性、入出力特性等の充放電特性等に優れる。この理由としては、以下のように推測される。まず、ポリマーとしてポリエーテル系のポリマーのみを含む固体電解質では、ポリマー中の酸素原子にリチウムイオンが強く相互作用してしまうことが理由でリチウムイオン伝導性が低下すると考えられる。一方、本開示の固体電解質では、窒素原子を含有する窒素含有ポリマーを含むため、ポリマー中の原子とリチウムイオンが強く相互作用することが抑制される。その結果、リチウムイオン輸率の低下が抑制されること、リチウムイオンに対してビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンが配位すること等によりリチウムイオン伝導性、入出力特性等の充放電特性に優れると考えられる。
【0015】
(リチウム塩)
本開示の固体電解質は、リチウム塩を含む。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、LiClO4、LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF2CF3)2等が挙げられる。中でも負極と固体電解質との界面に良好なSEI(Solid Electrolyte Interphase)を形成する観点から、LiFSIが好ましい。リチウム塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
固体電解質のリチウム塩濃度は、例えば、電気伝導度の観点から、0.5mol/kg~2.5mol/kgであることが好ましく、0.8mol/kg~2.0mol/kgであることがより好ましく、1.0mol/kg~1.8mol/kgであること
リチウム塩濃度とは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウム塩1kg当たりのリチウム塩のモル量を意味する。
【0017】
(窒素含有ポリマー)
本開示の固体電解質は、窒素原子を含有する窒素含有ポリマーを含む。窒素含有ポリマーとしては、ポリマーを構成する直鎖及び側鎖の少なくとも一方に窒素原子を少なくとも一つ含む構成単位を含むことが好ましい。
【0018】
窒素含有ポリマーは、窒素原子を含有する官能基を有する構成単位を含むことが好ましい。窒素原子を含有する官能基としては、ニトリル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ニトロソ基等が挙げられ、中でも、ニトリル基及びアミノ基が好ましく、リチウムイオン伝導性の観点から、ニトリル基がより好ましい。
【0019】
窒素含有ポリマーに含まれる構成単位全体に対する窒素原子を含有する官能基(好ましくはニトリル基)を有する構成単位の割合は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%~100モル%であることが好ましく、90モル%~100モル%であることがさらに好ましい。
【0020】
窒素含有ポリマーは、ニトリル基を有する構成単位を含むことが好ましい。窒素含有ポリマーに含まれる構成単位全体に対するニトリル基を有する構成単位の割合は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%~100モル%であることが好ましく、90モル%~100モル%であることがさらに好ましい。
【0021】
窒素含有ポリマーの分子中には、酸素原子が含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。窒素含有ポリマーの分子中に酸素原子が含まれる場合、リチウムイオンとの相互作用を抑制する観点から、酸素原子が非共有電子対を含まないことが好ましい。
また、窒素原子を含有する窒素含有ポリマーは、エーテル結合を有さないことが好ましい。
【0022】
窒素含有ポリマーがニトリル基を有する構成単位を含む場合、ニトリル基を有する構成単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリル系ニトリル基含有単量体由来の構成単位、α-シアノアクリレート、ジシアノビニリデン等のシアン系ニトリル基含有単量体由来の構成単位、フマロニトリル等のフマル系ニトリル基含有単量体由来の構成単位などが挙げられる。中でも、リチウムイオン伝導性の観点から、ポリアクリロニトリル及びポリメタクリロニトリルが好ましい。
【0023】
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対する窒素含有ポリマーの質量比率(窒素含有ポリマー/1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド)は、0.10~0.50であることが好ましい。固体電解質のイオン伝導性の観点から、0.10~0.40であることがより好ましく、また製膜性の観点から、0.15~0.40であることがより好ましい。
【0024】
窒素含有ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されず、例えば、1万~100万であってもよく、5万~50万であってもよく、10万~30万であってもよい。
本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、下記の装置及び測定条件により、標準ポリスチレンの検量線を使用して換算することによって決定した値である。検量線の作成にあたっては、標準ポリスチレンとして5サンプルセット(PStQuick MP-H、PStQuick B[東ソー株式会社製、商品名])を用いた。
装置:高速GPC装置 HLC-8320GPC(検出器:示差屈折計)(東ソー株式会社製、商品名)
使用溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
カラム:カラムTSKGEL SuperMultipore HZ-H(東ソー株式会社製、商品名)
カラムサイズ:カラム長15cm、カラム内径4.6mm
測定温度:40℃
流量:0.35mL/分
試料濃度:10mg/THF5mL
注入量:20μL
【0025】
(固体電解質の製造方法)
本開示の固体電解質を製造する方法は特に限定されない。
例えば、リチウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、窒素含有ポリマー、及びN,N-ジメチルホルムアミド等の溶媒を混合して前駆体溶液を調製し、調製した前駆体溶液を乾燥させて溶媒を蒸発させることで固体電解質を製造してもよい。前駆体溶液を調製する際、予めリチウム塩及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドを混合して、リチウム塩を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに溶解させた溶液を準備し、この溶液を窒素含有ポリマー及び溶媒と混合してもよい。
【0026】
また以下の方法により、本開示の固体電解質を製造してもよい。まず、窒素含有ポリマー、及びN,N-ジメチルホルムアミド等の溶媒を混合して前駆体溶液を調製し、調製した前駆体溶液をガラス板等の支持体に付与した後、前駆体溶液が付与された支持体を純水に浸すことで前駆体溶液をゲル化させてポリマーゲルを得る。そして、リチウム塩を1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに溶解させた溶液にポリマーゲルを浸漬させることによって固体電解質を製造してもよい。
【0027】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、本開示の固体電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池である。本開示のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオン輸率の低下が抑制されることでリチウムイオン伝導性に優れる固体電解質を備え、さらに、ハイレート時の入力特性及び出力特性にも優れる。
【0028】
本開示のリチウムイオン二次電池にて用いる正極及び負極の好ましい構成について以下に説明する。
【0029】
(正極)
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極を備える。正極活物質を含む正極としては、リチウムイオン二次電池に適用可能な正極であれば特に限定されない。例えば、正極は、正極集電体及びその表面に配置され、かつ正極活物質を含む正極合剤層を有する構成であってもよい。
【0030】
正極活物質としては、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(以下、「NMC」とも称する。)を含むことが好ましい。NMCは、高容量であり、且つ安全性にも優れる傾向にある。
NMCの含有率は、電池の高容量化の観点から、正極合剤層全量に対して65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
NMCとしては、以下の組成式(化1)で表されるものを用いることが好ましい。
Li(1+δ)MnxNiyCo(1-x-y-z)MzO2・・・(化1)
組成式(化1)において、(1+δ)はLi(リチウム)の組成比を、xはMn(マンガン)の組成比を、yはNi(ニッケル)の組成比を、(1-x-y-z)はCo(コバルト)の組成比を、各々示す。zは、元素Mの組成比を示す。O(酸素)の組成比は2である。
元素Mは、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Al(アルミニウム)、Si(シリコン)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)及びSn(錫)からなる群より選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
また、-0.15<δ<0.15、0.1<x≦0.5、0.6<x+y+z<1.0、0≦z≦0.1である。
【0032】
また、正極活物質としては、NMC以外のものを用いてもよい。
NMC以外の正極活物質としては、この分野で常用されるものを使用でき、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物(sp-Mn)、NMC及びsp-Mn以外のリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リチウム塩、カルコゲン化合物、二酸化マンガン等が挙げられる。
正極活物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
次に、正極合剤層及び正極集電体について詳細に説明する。正極合剤層は、正極活物質、結着剤等を含有し、正極集電体上に配置される。正極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。正極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を乾式で混合してシート状にし、これを正極集電体に圧着する(乾式法)ことで正極合剤層を形成することができる。また、正極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて正極合剤のスラリーとし、これを正極集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで正極合剤層を形成することができる。
正極活物質としては、前述したように、層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(NMC)が用いられることが好ましい。正極活物質は、粉状(粒状)で用いられ、混合される。
NMC等の正極活物質の粒子としては、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、柱状等の形状を有するものを用いることができる。
NMC等の正極活物質の粒子の平均粒子径(d50)(一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には二次粒子の平均粒子径(d50))は、タップ密度(充填性)、電極の形成の際における他の材料との混合性の観点から、1μm~30μmであることが好ましく、3μm~25μmであることがより好ましく、5μm~15μmであることがさらに好ましい。正極活物質の粒子の平均粒子径(d50)は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置(SALD-3000、株式会社島津製作所)を用いて体積基準の粒度分布を測定し、d50(メジアン径)として求められる体積平均粒子径である。
【0034】
NMC等の正極活物質の粒子の77Kでの窒素吸着測定より求められる比表面積(以下、単に「比表面積」とも称する。)の範囲は、0.2m2/g~4.0m2/gであることが好ましく、0.3m2/g~2.5m2/gであることがより好ましく、0.4m2/g~1.5m2/gであることがさらに好ましい。
正極活物質の粒子の比表面積が0.2m2/g以上であれば、優れた電池性能が得られる傾向にある。また、正極活物質の粒子の比表面積が4.0m2/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤、導電剤等の他の材料との混合性が良好になる傾向にある。比表面積は、JIS Z 8830:2013に準じて窒素吸着能から測定することができる。比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分がガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行うことが好ましい。
前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。窒素吸着を多点法で測定し、BET法により比表面積を算出する。
【0035】
正極用の導電剤としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト);アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などが挙げられる。なお、正極用の導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極合剤層の質量に対する導電剤の含有率は、0.01質量%~50質量%であることが好ましく、0.1質量%~30質量%であることがより好ましく、1質量%~15質量%であることがさらに好ましい。導電剤の含有率が0.01質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電剤の含有率が50質量%以下であれば、電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0036】
正極用の結着剤としては、特に限定されず、湿式法により正極合剤層を形成する場合には、分散溶媒に対する溶解性又は分散性が良好な材料が選択される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、セルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等のゴム状高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ素化ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、正極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極の安定性の観点から、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体等のフッ素系高分子を用いることが好ましい。
正極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%~60質量%であることが好ましく、1質量%~40質量%であることがより好ましく、3質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、正極活物質を充分に結着でき、充分な正極合剤層の機械的強度が得られ、サイクル特性等の電池性能が向上する傾向にある。結着剤の含有率が60質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0037】
湿式法又は乾式法を用いて正極集電体上に形成された正極合剤層は、正極活物質の充填密度を向上させるため、ハンドプレス又はローラープレスにより圧密化することが好ましい。
圧密化した正極合剤層の密度は、入出力特性及び安全性のさらなる向上の観点から、2.0g/cm3~3.5g/cm3の範囲であることが好ましく、2.3g/cm3~3.2g/cm3の範囲であることがより好ましく、2.5g/cm3~3.0g/cm3の範囲であることがさらに好ましい。
また、正極合剤層を形成する際の正極合剤のスラリーの正極集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、正極合剤の固形分として、30g/m2~250g/m2であることが好ましく、40g/m2~230g/m2であることがより好ましく、40g/m2~200g/m2であることがさらに好ましい。
【0038】
正極集電体の材質としては特に制限はなく、中でも金属材料が好ましく、アルミニウムがより好ましい。正極集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。金属材料については、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられ、中でも、金属薄膜を用いることが好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成してもよい。
正極集電体の平均厚さは特に限定されるものではなく、正極集電体として必要な強度及び良好な可とう性が得られる観点から、1μm~1mmであることが好ましく、3μm~100μmであることがより好ましく、5μm~100μmであることがさらに好ましい。
【0039】
(負極)
本開示のリチウムイオン二次電池は、負極活物質を含む負極を備える。負極活物質を含む負極としては、リチウムイオン二次電池に適用可能な負極であれば特に限定されない。例えば、負極は、負極集電体及びその表面に配置され、かつ負極活物質を含む負極合剤層を有する構成であってもよい。
【0040】
負極活物質としては、(1)金属リチウム、(2)シリコン、スズ等を含む金属材料、(3)黒鉛、低結晶性炭素、メゾフェーズカーボン等の炭素材料などが挙げられる。炭素材料を用いる場合は、充放電容量を大きくしやすいことから、黒鉛が好ましい。黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維等が挙げられ、黒鉛の形状としては、鱗片状、球状、塊状等が挙げられる。
負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
炭素材料、好ましくは黒鉛の平均粒子径は、2μm~30μmであることが好ましく、2.5μm~25μmであることがより好ましく、3μm~20μmであることがさらに好ましく、5μm~20μmであることが特に好ましい。平均粒子径が30μm以下であると、放電容量及び放電特性が向上する傾向にある。平均粒子径が2μm以上であると、初回充放電効率が向上する傾向にある。
なお、平均粒子径(d50)は、前述の正極活物質の場合と同様にして測定することができる。
【0042】
炭素材料、好ましくは黒鉛の比表面積の範囲は、0.5m2/g~10m2/gであることが好ましく、0.8m2/g~8m2/gであることがより好ましく、1m2/g~7m2/gであることがさらに好ましく、1.5m2/g~6m2/gであることが特に好ましい。
比表面積が0.5m2/g以上であると、優れた電池性能が得られる傾向にある。また、比表面積が10m2/g以下であると、タップ密度が上がりやすく、結着剤、導電剤等のほかの材料との混合性が良好になる傾向にある。
比表面積は、前述の正極活物質の場合と同様にして測定することができる。
【0043】
炭素材料、好ましくは黒鉛の含有率は、電池の高容量化の観点から、負極合剤層全量に対して80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
次に、負極合剤層及び負極集電体について詳細に説明する。負極合剤層は、負極活物質、結着剤等を含有し、負極集電体上に配置される。負極合剤層の形成方法に制限はなく、例えば、次のように形成される。負極活物質、結着剤及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等の他の材料を分散溶媒に溶解又は分散させて負極合剤のスラリーとし、これを負極集電体に塗布し、乾燥する(湿式法)ことで負極合剤層を形成することができる。
【0045】
負極用の導電剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素などを用いることができる。負極用の導電剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このように、負極合剤に導電剤を添加することにより、電極の抵抗を低減する等の効果が得られる傾向にある。
【0046】
負極合剤層の質量に対する導電剤の含有率は、導電性の向上及び初期不可逆容量の低減の観点から、1質量%~45質量%であることが好ましく、2質量%~42質量%であることがより好ましく、3質量%~40質量%であることがさらに好ましい。導電剤の含有率が1質量%以上であると充分な導電性を得やすい傾向にある。導電剤の含有率が45質量%以下であると電池容量の低下を抑制することができる傾向にある。
【0047】
負極用の結着剤としては、非水電解液又は電極の形成の際に用いる分散溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限はない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などが挙げられる。なお、負極用の結着剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、SBR、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子等を用いることが好ましい。
【0048】
負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~15質量%であることがより好ましく、0.6質量%~10質量%であることがさらに好ましい。
結着剤の含有率が0.1質量%以上であると、負極活物質を充分に結着でき、充分な負極合剤層の機械的強度が得られる傾向にある。結着剤の含有率が20質量%以下であると、充分な電池容量及び導電性が得られる傾向にある。
【0049】
なお、結着剤として、ポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分として用いる場合の負極合剤層の質量に対する結着剤の含有率は、1質量%~15質量%であることが好ましく、2質量%~10質量%であることがより好ましく、3質量%~8質量%であることがさらに好ましい。
【0050】
増粘剤は、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限はなく、具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩が挙げられる。増粘剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
負極合剤層の質量に対する増粘剤の含有率は、入出力特性及び電池容量の観点から、0.1質量%~5質量%であることが好ましく、0.5質量%~3質量%であることがより好ましく、0.6質量%~2質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
スラリーを形成するための分散溶媒としては、負極活物質、結着剤、及び必要に応じて用いられる導電剤、増粘剤等を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に制限はなく、水系溶媒又は有機系溶媒のどちらを用いてもよい。水系溶媒の例としては、水、アルコール、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。有機系溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤を用いることが好ましい。
【0053】
負極合剤層の密度は、0.7g/cm3~2g/cm3であることが好ましく、0.8g/cm3~1.9g/cm3であることがより好ましく、0.9g/cm3~1.8g/cm3であることがさらに好ましい。
負極合剤層の密度が0.7g/cm3以上であると、負極活物質間の導電性が向上し電池抵抗の増加を抑制することができ、単位容積あたりの容量を向上できる傾向にある。負極合剤層の密度が2g/cm3以下であると、初期不可逆容量の増加及び負極集電体と負極活物質との界面付近への非水電解液の浸透性の低下による放電特性の劣化を招くおそれが少なくなる傾向にある。
また、負極合剤層を形成する際の負極合剤のスラリーの負極集電体への片面塗布量は、エネルギー密度及び入出力特性の観点から、負極合剤の固形分として、30g/m2~150g/m2であることが好ましく、40g/m2~140g/m2であることがより好ましく、45g/m2~130g/m2であることがさらに好ましい。
【0054】
負極集電体の材質としては特に制限はなく、具体例としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。中でも、加工のし易さとコストの観点から銅が好ましい。
【0055】
負極集電体の形状としては特に制限はなく、種々の形状に加工された材料を用いることができる。具体例としては、金属箔、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル等が挙げられる。中でも、金属箔が好ましく、銅箔がより好ましい。銅箔には、圧延法により形成された圧延銅箔と、電解法により形成された電解銅箔とがあり、どちらも負極集電体として好適である。
負極集電体の平均厚さは特に限定されるものではない。例えば、5μm~50μmであることが好ましく、8μm~40μmであることがより好ましく、9μm~30μmであることがさらに好ましい。
なお、負極集電体の平均厚さが25μm未満の場合、純銅よりも強銅合金(リン青銅、チタン銅、コルソン合金、Cu-Cr-Zr合金等)を用いることでその強度を向上させることができる。
【0056】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置された本開示の固体電解質と、を電池容器に収容する工程を有する。
【0057】
本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、正極、負極及び固体電解質を電池容器に収容した後に、電池容器を熱処理する工程をさらに含んでいてもよい。正極及び負極の表面に被膜を形成することができ、これにより、その後の充放電による固体電解質中の成分の分解、活物質の劣化等が抑制される傾向にある。
【0058】
電池容器を熱処理する条件としては、電解質中の成分が熱分解して正極及び負極の表面に被膜が形成される条件であればよい。
例えば、熱処理の温度としては、35℃~100℃であってもよく、40℃~80℃であってもよく、45℃~60℃であってもよい。熱処理の温度が35℃以上であることにより、固体電解質中の成分の熱分解による被膜が形成しやすい傾向にあり、熱処理の温度が100℃以下であることにより、過剰な熱分解反応を抑制できる傾向にある。
なお、熱処理の温度とは、電池容器を熱処理するときの雰囲気の温度を指す。
【0059】
また、熱処理の時間としては、2時間~24時間であってもよく、3時間~18時間であってもよく、5時間~12時間であってもよく、6時間~8時間であってもよい。熱処理の時間が2時間以上であることにより、固体電解質中の成分の熱分解による被膜が形成しやすい傾向にあり、熱処理の時間が24時間以下であることにより、放電負荷特性に優れる傾向にある。
【0060】
また、熱処理の雰囲気としては、熱処理の際に大気、水分等が侵入しないことが好ましく、例えば、減圧雰囲気又は不活性ガス雰囲気が好ましい。また電池容器を封止した後に熱処理を行うことが好ましい。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
以下のようにして固体電解質及び正極を作製し、それぞれを用いて評価用セルを作製した。
【0063】
<固体電解質の作製>
イオン液体電解液をPAN(ポリアクリロニトリル)の膜中に担持させたゲルポリマー電解質である固体電解質を以下のようにして作製した。まず、PAN(ポリアクリロニトリル、シグマアルドリッチ社、Mw(重量平均分子量)=150000)、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド、キシダ化学株式会社)及びLiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)/EMI-FSI(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド)を質量比で1:20:3となるように混合し、80℃、1000rpm(回/分)の条件で一晩撹拌することで前駆体溶液を得た。なお、前述のLiFSI/EMI-FSIは、リチウム塩であるLiFSIをイオン液体であるEMI-FSIに1.2mol/kgの濃度となるように溶解させることで準備した。
【0064】
次に、ガラス製のペトリ皿に得られた前駆体溶液を流し入れ、室温で24時間、60℃で24時間、80℃で24時間の条件に順次変更してペトリ皿中の前駆体溶液を乾燥させた。その後、真空オーブンを用いて、ペトリ皿中の前駆体溶液を80℃、24時間の条件で減圧乾燥させることで前駆体溶液に含まれるDMFを蒸発させてゲルポリマー膜を得た。得られたゲルポリマー膜を直径16mmのサイズに打ち抜き、さらに真空オーブンを用いて打ち抜いたゲルポリマー膜を80℃、24時間の条件で減圧乾燥させることでゲルポリマー電解質を作製した。なお、ゲルポリマー電解質の厚さが150μm~160μmになるようにペトリ皿に前駆体溶液を流し入れる量を調整した。
【0065】
<正極の作製>
層状型リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(正極活物質)90質量部、アセチレンブラック(導電剤)5質量部、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量部、を加えて混合し正極合剤を調製した。正極合剤を溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドンに分散し、スラリー状としたものを厚さ20μmのアルミニウム箔上に、溶媒の乾燥後の塗工量が40g/m2になるように塗工して100℃で1時間乾燥し、正極合剤層を形成した。乾燥後、プレスすることにより、正極合剤層の密度を3.0g/cm3に調整した。なお、正極合剤層の密度は、式:正極合剤層の密度=(正極の質量-正極集電体[アルミニウム箔]の質量)/(正極合剤層の厚さ×正極合剤層の面積)から算出した。これを直径15mmに打ち抜き、正極とした。
【0066】
<評価用セルの作製>
正極、実施例1で作製したゲルポリマー電解質、リチウム金属及び3極式HSセル(宝泉株式会社)を用いて評価用セルを作製した。リチウム金属及びゲルポリマー電解質を重ねた積層物を3極式HSセル内に配置し、その後、ゲルポリマー電解質と対向するように正極を重ねてセル内に配置した。
評価用セルは、露点-80℃以下で、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で作製した。
【0067】
<イオン伝導度の測定>
実施例1にて得られた固体電解質を円盤状に成型した測定用試料(厚さ160μm)を用い、SUS/固体電解質/SUSを備える密閉式セル中において交流インピーダンス法により、周波数200kHz~10mHz及び交流振幅10mVの条件でイオン伝導度を測定した。イオン伝導度σTの算出式は以下の通りである。
イオン伝導度σT=(1/Rb)×(L×A)
式中、Rbはバルク抵抗、Lは固体電解質の厚さ、Aは固体電解質の面積を表す。
結果を表1に示す。
【0068】
<リチウムイオン輸率及びリチウムイオン伝導度の算出>
実施例1にて得られた固体電解質について、文献(James Evans, Colin A. Vincent, PeteR G. BRuce,PolymeR, Volume 28, Issue 13, DecembeR 1987, Pages 2324-2328 )記載の方法に基づいてリチウムイオン輸率を求めた。リチウムイオン輸率tLi
+の算出式は以下の通りである。
【0069】
【0070】
リチウムイオン輸率tLi
+の算出式中、I0は初期電流(mA)、ISは定常電流(mA)、ΔVは電圧(mV)、R0はクロノアンペロメトリー前の固体電解質とリチウム電極の界面抵抗(Ω)、RSはクロノアンペロメトリー後の固体電解質とリチウム電極の界面抵抗(Ω)を表す。
さらに、リチウムイオン輸率と前述のイオン伝導度とを乗じてリチウムイオン伝導度を算出した。
結果を表1に示す。
【0071】
<入出力特性の評価>
実施例1にて作製した評価用セルについて、充放電装置を用いて、以下の(1)~(4)の順番で充放電を行った。
(1)初回サイクルは電流値0.1Cで、終止電圧4.3Vまで充電し、その後、定電圧で電流値が設定電流値の1/10になるまで充電する定電流定電圧(CCCV)充電を行った。その後、電流値0.1Cで、終止電圧3.0Vまで定電流(CC)放電を行った。なお、Cとは「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。このサイクルを合計5回行った。
(2)電流値0.2Cで、終止電圧4.3Vまで充電し、その後、定電圧で電流値が設定電流値の1/10になるまでCCCV充電を行った。その後、電流値0.2Cで、終止電圧3.0VまでCC放電を行った。このサイクルを合計5回行った。
(3)電流値0.5Cで、終止電圧4.3Vまで充電し、その後、定電圧で電流値が設定電流値の1/10になるまでCCCV充電を行った。その後、電流値0.5Cで、終止電圧3.0VまでCC放電を行った。このサイクルを合計5回行った。
(4)電流値1.0Cで、終止電圧4.3Vまで充電し、その後、定電圧で電流値が設定電流値の1/10になるまでCCCV充電を行った。その後、電流値1.0Cで、終止電圧3.0VまでCC放電を行った。このサイクルを合計5回行った。
上記(1)~(4)の充放電の結果から、下記式を用いて出力特性(%)及び入力特性(%)を算出した。出力特性及び入力特性は、その値が大きいほど電池として優れているといえる。
出力特性(%)=[(1)~(4)で得られた合計20サイクル目の放電容量/(1)の5サイクル目の放電容量]×100
入力特性(%)=[(1)~(4)で得られた合計20サイクル目の充電容量/(1)の5サイクル目の充電容量]×100
【0072】
[実施例2]
ゲルポリマー電解質である固体電解質を以下のようにして作製した。PAN(ポリアクリロニトリル、シグマアルドリッチ社、Mw=150000)及びDMF(N,N-ジメチルホルムアミド、キシダ化学株式会社)を質量比が1:10となるように混合したものを室温、1000rpmの条件で30分撹拌し、前駆体溶液を得た。
【0073】
得られた前駆体溶液をガラス板上に厚さ150μmとなるように塗布した。次いで、このガラス板を純水に浸すことで前駆体溶液をゲル化させ、ゲル化物を直径16mmのサイズに打ち抜き、PAN単体ゲルを得た。さらに、リチウム塩であるLiFSIをイオン液体であるEMI-FSIに1.2mol/kgの濃度となるように溶解させることでLiFSI/EMI-FSIを準備した。LiFSI/EMI-FSIにPAN単体ゲルを浸漬させ、0.30Pa以下の減圧下で2日間、PAN単体ゲルにLiFSI/EMI-FSIを含浸させることでゲルポリマー電解質を作製した。
【0074】
[比較例1]
イオン液体電解液をポリエーテル系ポリマーの膜中に担持させたゲルポリマー電解質である固体電解質を以下のようにして作製した。まず、PEM(ポリエチレングリコールジアクリレート、シグマアルドリッチ社、Mw(重量平均分子量)=500)、PED(ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート、シグマアルドリッチ社、Mw(重量平均分子量)=550)、アセトニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社)、LiFSI/EMI-FSI及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を質量比で15:5:5:60:1で混合し、前駆体溶液を得た。なお、前述のLiFSI/EMI-FSIは、リチウム塩であるLiFSIをイオン液体であるEMI-FSIに1.2mol/kgの濃度となるように溶解させることで準備した。
【0075】
この前駆体溶液をPETフィルム上に、ゲルポリマー電解質の厚さが150μm~160μmになるように塗布し、80℃で16時間加熱することで、ゲルポリマー膜を得た。得られたゲルポリマー膜を直径16mmのサイズに打ち抜くことでゲルポリマー電解質を作製した。
【0076】
実施例1と同様にして評価用セルを作製し、実施例1と同様にしてゲルポリマー電解質及び評価用セルを評価した。結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
実施例1の固体電解質は、比較例1の固体電解質と比較してリチウムイオン伝導度に優れていた。
さらに実施例1にて作製した評価用セルは、比較例1にて作製した評価用セルと比較して入出力特性に優れていた。