(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076489
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】スペックルノイズ低減光学系
(51)【国際特許分類】
G02B 27/48 20060101AFI20220513BHJP
G02B 5/02 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
G02B27/48
G02B5/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019059029
(22)【出願日】2019-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森 弘充
(72)【発明者】
【氏名】川村 友人
(72)【発明者】
【氏名】高岩 寿行
(72)【発明者】
【氏名】檜山 駿
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042BA02
2H042BA11
2H042BA13
2H042BA20
(57)【要約】
【課題】低コストで小型かつ静かなスペックルノイズ低減光学系を提供する。
【解決手段】
本発明の好ましい一側面は、レーザ光を出射する光源と、粒子が少なくとも一部に充填された、レーザ光に対して透明なインテグレータと、レーザ光をインテグレータに対して、ゼロより大きい速度で相対的に振動させる振動部と、を備え、レーザ光はインテグレータの内部を進行し、インテグレータから射出するレーザ光のスペックルノイズを低減することを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出射する光源と、
粒子が少なくとも一部に充填された、前記レーザ光に対して透明なインテグレータと、
前記レーザ光を前記インテグレータに対して、ゼロより大きい速度で相対的に振動させる振動部と、を備え、
前記レーザ光は前記インテグレータの内部を進行し、
前記インテグレータから射出するレーザ光のスペックルノイズを低減することを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項2】
請求項1記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記インテグレータは直方体または円柱であることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項3】
請求項1記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記振動部は、前記光源、前記インテグレータ、および前記光源と前記インテグレータの間の光路中のレーザ光の少なくとも一つを振動させることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項4】
請求項3記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記振動部は、前記インテグレータの前記レーザ光の出射側よりも前記レーザ光の入射側に近い位置に配備されたことを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記振動部は、少なくとも前記レーザ光が前記粒子と衝突した際に1度以上の角度変化が発生するような振動幅を与えることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記振動部は20Hzより低い周波数で振動させることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記インテグレータは、前記レーザ光の進行方向の長さが5mm以下であることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記粒子は透明粒子であり、該透明粒子と前記インテグレータとは屈折率差が0.025以上あることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記粒子の直径は1μmないし5μmの範囲であることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記インテグレータは、
前記レーザ光が入射する入射面と、
前記レーザ光が出射する出射面とを備え、
前記入射面と出射面は1mm角以下としたことを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記インテグレータに充填された粒子密度は、体積密度換算で0.1%ないし5%の範囲であることを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記インテグレータの前記レーザ光の進行する方向の側面は、
漏れ出た前記レーザ光を前記インテグレータにリサイクルする反射面を配備したことを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記光源は、少なくとも波長の異なる複数のレーザ光を出射することを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項14】
請求項13記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記複数のレーザ光の出射点を異ならせたことを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載のスペックルノイズ低減光学系であって、
前記粒子の前記インテグレータ内の密度を、前記レーザ光の進行方向に異ならせたことを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光のスペックルノイズを低減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スペックルノイズを低減する手法として、多角形ロッドを用いた手法が特許文献1、ミー散乱を用いた手法が特許文献2で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-64789号公報
【特許文献2】国際公開WO2012/100645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テレビやプロジェクタなどの表示装置では、色再現範囲を拡大するためスペクトル幅の狭いレーザ光が用いられている。しかしながらレーザ光はコヒーレント光であることと、画面表面の光学的粗さに起因して、人の眼にはスペックルノイズが観察される。スペックルノイズは画像の品質に深刻な影響を与えるため、スペックルノイズを低減する方法が色々と提案されている。人が認識可能な50msec以下の時間範囲で空間的にスペックルノイズのパターンを多重することでスペックルノイズを低減する手法が一般的である。
【0005】
例えば特許文献1では、多角形ロッド内面でレーザ光の反射角度が回転により変化することを利用して空間的にスペックルノイズのパターンを多重する手法が記載されている。
【0006】
また特許文献2では、ミー散乱を起こす光反射室と光源を摂動することで空間的にスペックルノイズのパターンを多重する手法が記載されている。
【0007】
特許文献1のように透明な多角形ロッドを用いると、入射したレーザ光が多角形ロッドと平行な場合、内面反射することなく多角形ロッドから出射するため、スペックルノイズのパターンの多重化ができず、スペックルノイズが残留する。また、例えば多角形内部に入射したレーザ光が1度の場合、多角形ロッドの幅1mm、屈折率を1.5として計算すると、約58mmの長さが必要になり、小型化にも課題がある。また時間50msec以下で空間的にスペックルノイズのパターンを10回多重するためには、200Hz(1/50msec×10回)で回転させる必要がある。200Hzは人間の可聴域(20Hzから20kHz)の範囲であり、防音対策も必要となる。
【0008】
特許文献2では、ミー散乱を用いる点や摂動させる具体的な記述が無い。光反射室を鏡面にするには、硝子であれば必要な面を研磨する必要があり安価に実現できない。また樹脂で射出成形する場合、側面は取り出し時にひっかき傷が残留するため、鏡面化するには複雑な仕掛けが必要になり、一度に多数個取りするような安価な成形ができない等コスト面の課題もある。また摂動に用いるカンチレバー、マイクロバネ等では1次元でのランダム変調は可能であるが、1次元のランダム変調は、サイン波に近似できレーザ光の動きが停止する時間が発生する。この停止時間を考慮して50msec以下で空間的にスペックルノイズのパターンを10回多重するためには、やはり200Hz(1/50msec×10回)の変調が必要になり、特許文献1同様に防音対策も必要となる。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を鑑み、低コストで小型かつ静かなスペックルノイズ低減光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい一側面は、レーザ光を出射する光源と、粒子が少なくとも一部に充填された、レーザ光に対して透明なインテグレータと、レーザ光をインテグレータに対して、ゼロより大きい速度で相対的に振動させる振動部と、を備え、レーザ光はインテグレータの内部を進行し、インテグレータから射出するレーザ光のスペックルノイズを低減することを特徴とする、スペックルノイズ低減光学系である。
【発明の効果】
【0011】
低コストで小型かつ静かなスペックルノイズ低減光学系を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のスペックルノイズ低減光学系の斜視図。
【
図2】実施例1のインテグレータの機能を示した概略図。
【
図3】実施例1のレーザ光と粒子の偏芯量とレーザ光の偏角を計算したグラフ。
【
図4】実施例1の粒子密度と平均自由行程を計算したグラフ。
【
図5】実施例1の平均自由行程と効率を計算したグラフ。
【
図6】実施例1のインテグレータの振動の軌跡を示した概略図。
【
図7】実施例2のスペックルノイズ低減光学系の斜視図。
【
図8】実施例3のスペックルノイズ低減光学系の斜視図。
【
図9】実施例4のスペックルノイズ低減光学系の斜視図。
【
図10】実施例4のスペックルノイズ低減光学系のシステムブロック図。
【
図11】実施例5のスペックルノイズ低減光学系の斜視図。
【
図12】実施例6のスペックルノイズ低減光学系を示した斜視図。
【
図13】実施例6のスペックルノイズを計測した実測結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に示す実施例に基づいて本発明を実施するための形態を説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【0014】
以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0015】
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0016】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0017】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0018】
以下の実施例で説明されるスペックルノイズ低減光学系の一例では、レーザ光を出射する光源と、少なくとも粒子が充填された透明ロッドであるインテグレータと、そのインテグレータまたは光源を常にゼロより大きい速度で微小に振動させる振動部とを備え、レーザ光はインテグレータ内部を進行し、少なくとも粒子とレーザ光が複数回衝突することでスペックルノイズを低減する。
【実施例0019】
本発明における実施例1について図を用い説明する。
図1はスペックルノイズ低減光学系100を図示した概略図である。スペックルノイズ低減光学系100は、光源1、インテグレータ2、振動部4,5から構成されている。
【0020】
光源1はレーザ光を出射する光源であり、所定のスペクトル幅の波長のレーザ光をz方向に出射する。光源1としては、既存のレーザダイオード等の光源を使用できる。インテグレータ2は、レーザ光に対して透明な多角柱たとえば四角柱体であり、内部には粒子3が所定の密度で分散されている。粒子3はレーザ光を散乱させる散乱粒子である。
【0021】
振動部4、5はインテグレータ2を振動させる機能を有している。振動部4はx軸方向を振動させ、振動部5はy軸方向を振動させる機能がある。また振動部4、5の振動周期の位相を異ならせることで、常にインテグレータ2の動く速度がゼロとならないように設定される。振動部4、振動部5としては、既存の圧電式リニア振動アクチュエータ等を使用できる。
【0022】
光源1から出射したレーザ光はインテグレータ2に図中左側から入射し、内部を進行して図中右側から出射する。以降入射する面を入射面、出射する面を出射面、それ以外の面を側面と記す。インテグレータ2の内部を進行するレーザ光は所定の頻度で粒子3と衝突して散乱される。また、振動部4、5でインテグレータ2は動作しているため、出射するレーザ光の一本の光線に着目すると、着目した一本の光線は50msec以下の時間で常に異なる角度で出射している。このため、スペックルノイズによるパターンを多重化することができる。
【0023】
入射面と出射面は、表面荒さを大きくしても問題ない。入射面と出射面が荒れていることによって表面散乱による効果により、スペックルノイズを低減する機能として利用しても良い。
【0024】
本実施例のインテグレータは、四角柱体を媒質1で構成し、該媒質1とは異なる屈折率を有し、伝搬する光を散乱せしめる粒子(媒質2)が充填された構造であれば特に限定はない。以下に説明する材料及び製造方法を用いることによって容易に得ることができる。
【0025】
<媒質1>
まず、媒質1の材質として、光を伝搬する観点から透明性の高い材料が選択される。本実施例ではアクリル系の光硬化樹脂を使用するが、透明度の高い材料であれば特に限定はなく、例えば、エポキシ系の熱硬化性の樹脂やアクリルやポリカーボネイト等の熱可塑性樹脂や、ガラス等を使用してもよい。
【0026】
光硬化性樹脂を用いると固形の媒質2を使用する際に該媒質2との混合が容易である観点、また硬化後に冷却や乾燥等の工程を必要としないため作業効率が向上する観点、所定の形状のインテグレータを得られやすい観点、からより好ましい。また、アクリル系の材料を使用すると透過率が高く、光の利用効率を高めることが可能となるため、より好ましい。
【0027】
<媒質2>
媒質2は、媒質1中に、媒質1と異なる屈折率の粒子を混合させることによって効率良く得ることができる。媒質2の材質として、本実施例では、架橋ポリスチレン微粒子を使用するが、透明度の高い材料であれば、その他の材質のプラスチック粒子やガラス粒子等、他の材料を使用してもよい。
【0028】
ただし、光を散乱させるためには屈折率差があることが重要であるため、媒質1と媒質2との間で屈折率差は0.025以上あることが望ましい。0.0025以上0.15以下であると、媒質1と媒質2の比重を近接させやすくなり媒質2を媒質1に混合させるのが容易である観点、及び、効率の低下を抑えたうえで、散乱の効果も得られやすいという観点、からより好ましい。ここで、媒質1と媒質2の屈折率を比較したときに、どちらの屈折率が大きくてもよい。なお、本実施例における屈折率差とは、媒質1又は媒質2のうち、高屈折率である媒質1又は媒質2の屈折率と、低屈折率である媒質2又は媒質1の屈折率の差分から算出される値とする。
【0029】
<粒径>
媒質2の粒径は、1μm以上、5μm以下であることが望ましい。これは、前述のように、粒径が小さいと光が散乱しすぎて光の取り出し効率が低下してしまい、粒径が大きいと光が散乱しにくいためである。また、粒径は略均一である方が望ましいが、90%以上の粒子が上記粒径範囲内に含まれていれば効果は得られるため問題ない。
【0030】
<製造方法>
媒質1と媒質2を一体化する工法としては、例えば液状の媒質1を用意し、次いで媒質1と媒質2を混合させ、それを所定の形状に光硬化させて製作する方法があるが、熱プレス、射出成形、削りだし等、他の工法でも製作可能である。中でも液状の媒質1を用いると、媒質2を容易に混合させることができるため、より好ましく、媒質1に媒質2を混合させた状態も液状であると、所定の形状に加工しやすいためさらに好ましい。
【0031】
製品形状作成時には、製品の高さの板を製作後に外周を切断して製品サイズにしてもよいし、製品サイズの空間を持つ型を製作して、型に樹脂を流し込んで硬化させて製作してもよい。
【0032】
<表面粗さ>
本実施例のインテグレータの表面粗さ(Ra;算術平均粗さ)は、側面の長さ方向では小さくすることが望ましい。これは光が側面にあたったときに側面の長さ方向で面が荒れていると、臨界角を超えて光が側面から抜けてしまうためである。長さ方向に垂直な方向では、光の伝搬に悪影響のない範囲で面が荒れていてもよい。また光入射面や光出射面については、光の拡散が高まる効果が見込めるため、光の出射に悪影響のない範囲で面が荒れていてもよい。
【0033】
以上の観点から側面の光軸方向の表面粗さは0μm超~2.0μmであると良く、0μm超~1.0μmであるとより良く、0μm超~0.5μmであるとさらに良い。光入射面及び光出射面の表面粗さは、上記側面の表面粗さ以上であって、0.01μm~10μmであると良く、0.5μm~5μmであるとより良く、0.5μm~3μmであるとさらに良い。尚、側面の光軸に対して垂直方向の表面粗さは0μm超であって、上限は上述した光入射面及び光出射面の表面粗さで列挙した値以下であると良い。
【0034】
側面の光軸(
図1中左から右方向)に対して垂直方向の表面粗さは上述の範囲内で小さい方が好ましいが、加工効率の観点から任意に選択して構わない。具体的には、例えば切削加工によって側面を形成する場合、切削方向の表面粗さと、切削方向と略垂直方向の表面粗さは、前者の切削方向の表面粗さの方が小さくなる傾向にあり、加工効率の向上のために切削速度等を変化させると、特に、切削方向と略垂直方向の表面粗さが荒くなる。この場合、切削方向を光軸方向とすることによって、作業効率を維持しつつ、光の伝搬効率を保持させることが可能となる。また、成形等を利用する場合であって、かつ成形鋳型側に切削痕等の表面粗さの方向性を有する場合、該表面粗さは、インテグレータに転写される。この場合も同様に、光軸方向を表面粗さの小さい方向とすることによって、良好な光の伝搬効率を保持させることが可能となる。
【0035】
また、媒質2に固形の粒子を用いる場合、媒質2からなる散乱粒子が側面から突出することによる凸部や、散乱粒子が側面から脱落した跡による凹部からなる凹凸が表面荒さに寄与する程度に存在すると、上述したように側面からの光の漏れが発生する一因となる。以上のことから、さらに側面の表面粗さ(Ra)は、媒質2として導入する散乱粒子の平均粒径の1/2以下であると良い。これは、インテグレータの側面から散乱粒子を突出させない状態又は、側面から突出する散乱粒子を切断し、平滑化しておくことによって実現できる。
【0036】
図2は、インテグレータ2の機能を示した図である。入射したレーザ光は粒子3により散乱する。そのレーザ光と粒子の衝突は平均自由行程δLの頻度で発生する。側面に進行するレーザ光は屈折率の差で全反射して、インテグレータ2内部に閉じ込められる。臨界角を超えたレーザ光が側面に進行すると、インテグレータ2の外部に漏れロスとなる。
【0037】
スペックルノイズ低減光学系100では、スペックルノイズのパターンを平均化するため、3個の指標が重要である。1個目は、出射するレーザ光が粒子散乱でどれだけ曲げられるかを示す指標の偏角(Δθ)である。2個目は、粒子散乱を引き起こす頻度を示す指標の平均自由行程(δL)である。3個目は入射するレーザ光がどれだけ出射できるかを示す効率(Iout/Iin)である。
【0038】
図3は粒子とレーザ光の偏芯量(横軸)と、粒子とレーザ光が衝突した後に曲げられる角度(縦軸)を幾何計算したグラフである。左右のグラフは縦軸のスケールを変えた同じグラフである。媒質1と媒質2の屈折率差(ΔN)は0.01、0.025、0.05、0.1の4例を示す。また粒子は直径2μm、レーザ光の波長は550nmとして計算した。
【0039】
偏芯量が大きくなると出射する角度も大きくなり、屈折率差が大きいと出射する角度が大きくなる。平均的な人間の瞳径が7mmであり、その端から端に光が動いたならば十分異なる状態と認識できる角度とする。人間と画像の距離を一般的な条件として500mmに設定すると、角度は約0.8度であり、少なくとも1度以上の角度があれば人が別のパターンと認識すると考えて良い。
【0040】
図3のグラフからは、屈折率差が0.01のとき偏芯量が0.5μm(直径の25%)でも1度に満たず十分な角度を与えることが出来ない。屈折率差が0.025もあると、偏芯量が0.5μmで1.6度と十分な角度を与えられる。ここで、偏芯量0.5μmは振動幅の半値を示しており、振動の振幅1.0μmに相当する。この振幅は粒子径Φ2μmの50%に相当する。振動量を大きくすると、さらに大きな角度を与えられるが、振動量を小さくして、後段の光学系への影響を小さくすることを目的に0.5μm以下の振動を想定している。なお、偏芯量0.3μmで1度の偏角を与えるには、屈折率差が約0.025以上必要である。
【0041】
図4は、インテグレータ2内の粒子3の密度(横軸)と平均自由行程(縦軸)を計算した例である。屈折率差は
図3同様に4例を示している。粒子の密度が大きくなると平均自由行程は小さくなる。また屈折率差が大きいほど平均自由行程が小さいことがわかる。
【0042】
装置の小型化の観点から、インテグレータの長さは5mm以下にすることを想定すると、平均自由行程は少なくとも1回以上の衝突を起こすため、5mm以下が必要である。粒子で光が散乱されると、効率が落ちる要因になる。後述するが、散乱回数は10回以下が望ましく、平均自由行程は0.5mm~5mmの間が良いといえる。
【0043】
図5は、平均自由行程(横軸)と効率(縦軸)をシミュレーションした結果である。ここでは、粒子直径2μm、屈折率差0.05、レーザ光の波長550nm、レーザ光の出射ファーフィールドパターン(FFP)を15度、光源とインテグレータの間隔を0.5mm、インテグレータ2の入射面と出射面のサイズを1×1mm、長さ5mmとした。平均自由行程は粒子密度を変えたことで実現している。なお、ここでは、フレネル損失は考慮していない。
【0044】
図5に示すとおり、平均自由行程が小さくなるほど効率が低下する。90%以上の効率を確保したい場合、平均自由行程は0.5mm以上とすることが望ましい。
【0045】
図6は、振動部4、5でインテグレータ2を振動させたときの軌道を図示したものである。振動部4、5の位相を90度ずらして振動させると
図6(a)のように円軌道にできる。また位相は45度ないし90度でずらすことで
図6(b)のように楕円軌道になっても良い。
図6(c)のように位相を同期させて軌道を直線にすると、端で動きが停止するためスペックルノイズパターンが発生する。ここでx軸とy軸の振幅をそれぞれ1μmとすると粒子3の直径2μmの50%で振動させることができる。
【0046】
可聴周波数下限の20Hzよりゆっくりとした振動でスペックルノイズパターンを低減するには、認識不能な50msec以下で少なくとも10回平均化すると良い。すなわち50msec以下の時間内に、レーザ光に10回以上1度以上の偏角を与えれば良いという意味である。言い換えると5msec以下の間隔で、少なくとも1回1度以上の偏角を与えれば良いという意味である。
【0047】
20Hz(1周期50msec)で1μmの振幅で変化させると、5msecで0.1umの振幅変化が発生する。振幅の半値が0.05μmである。
【0048】
図3から分かるように偏芯量0.05μmでは、屈折率差を大きくしても1回の散乱で1度以上の偏角を与えることができない。
【0049】
平均自由行程が0.5μmで、インテグレータ2の長さが5mmとすると10回衝突が起こるため、10回の衝突で1度以上の偏角が得られれば良い。言い換えると1回当たり0.1度の偏角が得られればよい。
【0050】
図3から分かるように屈折率差0.025の時、0.1度の偏角が十分得られるといえる。
【0051】
以上のように20Hzよりゆっくりとした1μmの振動であっても、粒子直径2μmで屈折率差0.025以上持たせ、インテグレータの長さを5mmとしたとき平均自由行程を0.5mmとすることで、スペックルノイズのパターンを10回平均化することができ、効率90%以上達成できる。スペックルノイズ低減光学系100は人の可聴域外の振動で効率良くスペックルを低減できるといえる。
【0052】
なお、平均自由行程0.5mmとなる粒子密度は、屈折率差が0.025のとき、1E7pcs/mm3、0.05のとき2E6pcs/mm3、0.1のとき、8E5pcs/mm3である。インテグレータの透明樹脂と粒子の体積密度に置き換えると1E7pcs/mm3のとき4.19%、2E6pcs/mm3のとき0.84%、8E5pcs/mm3のとき0.34%である。
【0053】
なお粒子径は小さくしても1μm以上とすることが望ましい。小さくなると製造難度が高くなるため、粒子が高価になるためである。また粒子径を大きくすると、偏芯量に伴う出射角度が小さくなるため、5μm以下とするのが望ましい。
【0054】
また、振動部4、5は位相を変えて楕円軌道とすることで、常にインテグレータ2を動作させ続けられる。このため、ゆっくり動作させるときの一時停止した場合に問題となるスペックルノイズの残留を無くせる。
【0055】
なお、多角柱を回転させると、出射面の多角柱の頂点部からレーザ光が出射しない時間が発生する。スペックルノイズ低減光学系100では、インテグレータ2の中心を楕円運動させるため、レーザ光が出射しないエリアを無視できるほど小さくでき、効率が良い効果も得られる。
【0056】
なお、振動部は、レーザ光とインテグレータ2を相対的に振動させればよい。よって、振動部は、光源1、インテグレータ2、および光源とインテグレータの間の光路に挿入された光学素子の少なくとも一つにより、レーザ光とインテグレータの少なくとも一つを振動させればよい。光学素子として、例えば既存の音響光学素子が使用できる。
【0057】
光源1を振動させる場合は耐久性に、光路に光学素子を挿入してレーザ光を振動させる場合はコストに配慮が必要である。インテグレータ2を振動させる場合、全体を振動させる必要はなく、例えば
図1に示すように光源1に近い部分(インテグレータのレーザ光の出射面より入射面に近い位置)を振動させることで、効率よくレーザ光とインテグレータの変位が可能となる。
多角柱を回転させるとき、出射面の多角柱の頂点部からレーザ光が出射しない時間が発生する問題に対し。円柱のインテグレータ10はレーザ光が出射しない時間がほぼ発生しないため、効率が良いといえる。振動部11は、小型モータと歯車、またはベルトなどで簡易に実現できるといえる。