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特開2022-76633ベンゼン系芳香族化合物の製造方法及びセルロース等の分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076633
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】ベンゼン系芳香族化合物の製造方法及びセルロース等の分解方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/247 20060101AFI20220513BHJP
   C07C 15/04 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 15/06 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 15/073 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 15/02 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 39/04 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 39/06 20060101ALI20220513BHJP
   C07C 37/50 20060101ALI20220513BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220513BHJP
【FI】
C07C1/247
C07C15/04
C07C15/06
C07C15/073
C07C15/02
C07C39/04
C07C39/06
C07C37/50
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187105
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】山口 有朋
(72)【発明者】
【氏名】三村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 清行
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敦司
(72)【発明者】
【氏名】真崎 仁詩
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC26
4H006AC42
4H006BA23
4H006BA24
4H006BA25
4H006BA26
4H006BA55
4H006BC10
4H006BE60
4H006FC52
4H006FE13
4H039CE20
(57)【要約】
【課題】セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖から、低温条件下、一つの工程でベンゼン系芳香族化合物を製造することを目的とする。
【解決手段】セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖からなる群より選択される少なくとも一種を含む原料を、触媒の存在下、250~450℃の水で処理して、ベンゼン系芳香族化合物を得る工程を備え、上記触媒は、パラジウム、白金、ロジウム、及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む、ベンゼン系芳香族化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖からなる群より選択される少なくとも一種を含む原料を、触媒の存在下、250~450℃の水で処理して、ベンゼン系芳香族化合物を得る工程を備え、
前記触媒は、パラジウム、白金、ロジウム、及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む、ベンゼン系芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の担体と、該担体に担持された前記金属とを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料中のセルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖の合計量が、前記原料の全質量に対して80質量%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記原料が、セルロース及びヘミセルロースからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記セルロース及び前記ヘミセルロースがバイオマスに由来する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖を、触媒の存在下、250~450℃の水で処理する工程を備え、
前記触媒は、パラジウム、白金、ロジウム、及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンゼン系芳香族化合物の製造方法及びセルロース等の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環型社会構築のために、バイオマス由来の燃料及び化学品原料の製造が求められている。バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンが互いに強固に結合したリグノセルロースを主成分とする。リグニンは、芳香族化合物がランダムに重合した高分子であり、リグニンの芳香族化合物間の結合を切ることにより、モノマー状の芳香族化合物が得られる。一方、セルロース及びヘミセルロースは糖(グルコース等)の重合体であり、糖化、発酵等の化学変換により、ヒドロキシメチルフルフラール、エタノール等の化学品原料又は燃料に変換できることが知られている。
【0003】
セルロース又はヘミセルロースからエチレン、プロピレン等の汎用高分子原料を製造することは比較的容易であるが、セルロース又はヘミセルロースからベンゼン環を有する芳香族化合物を製造することは難度が高く、その報告例は少ない。非特許文献1には、ゼオライトに担持された白金(Pt-HZSM-5等)を触媒として、熱分解法によりベンゼン系芳香族化合物が得られたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Wang et al., Industrial & Engineering Chemistry Research, 2019,58, 22193-22201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載された方法は、高温(500℃)での処理が必要であった。高温での処理には高いエネルギーが必要となり、また、かかる条件下では、通常利用価値の低いチャーが副生する。本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖から、低温条件下(より具体的には450℃以下)、一つの工程でベンゼン系芳香族化合物を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の触媒及び水を用いることにより、450℃以下の低温でもベンゼン系芳香族化合物が得られることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の一側面に係るベンゼン系芳香族化合物の製造方法は、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖からなる群より選択される少なくとも一種を含む原料を、触媒の存在下、250~450℃の水で処理して、ベンゼン系芳香族化合物を得る工程を備え、上記触媒は、パラジウム、白金、ロジウム、及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む。
【0008】
上記触媒は、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の担体と、該担体に担持された上記金属とを含んでよい。
【0009】
上記原料中のセルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖の合計量は、上記原料の全質量に対して80質量%以上であってよい。
【0010】
上記原料は、セルロース及びヘミセルロースからなる群より選択される少なくとも一種であってよい。
【0011】
上記セルロース及び上記ヘミセルロースは、バイオマスに由来してよい。
【0012】
本発明の別の側面に係る、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖の分解方法は、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖を、触媒の存在下、250~450℃の水で処理する工程を備え、上記触媒は、パラジウム、白金、ロジウム、及びルテニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖から、低温条件下、一つの工程でベンゼン系芳香族化合物を製造することができる。また、本発明によれば、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖を、低温条件下で分解することができる。本発明ではベンゼン系芳香族化合物の製造を低温で行うことができるため、非特許文献1に記載された方法よりも必要となるエネルギーが少ない。また、本発明ではベンゼン系芳香族化合物の製造に水を用いるため、触媒の金属表面上への炭素の析出を抑制することができ、よって、非特許文献1に記載された方法と比較して触媒が失活しにくい。さらに、非特許文献1に記載された方法では、副生成物として不要なチャーが生成するのに対し、本発明では、ベンゼン系芳香族化合物の製造に水及び触媒を用いることにより、チャーの生成を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】セルロースを、各種担持金属触媒の存在下又は非存在下、(A)250℃又は(B)300℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
図2】セルロースを、(A)Pt/C又は(B)Pd/Cの存在下、200~400℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
図3】セルロースを、(A)Rh/Cの存在下、200~400℃の水で処理したとき、又は(B)Ru/Cの存在下、200~350℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
図4】キシランを、各種担持金属触媒の存在下又は非存在下、250℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
図5】キシランを、(A)Pt/C又は(B)Pd/Cの存在下、250~400℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
図6】キシランを、(A)Rh/Cの存在下、250~400℃の水で処理したとき、又は(B)Ru/Cの存在下、250~350℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
図7】グルコースを、(A)Pt/C又は(B)Pd/Cの存在下、250~400℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
図8】キシロースを、(A)Pt/C又は(B)Pd/Cの存在下、250~400℃の水で処理したときの、ベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一側面にかかるベンゼン系芳香族化合物の製造方法は、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖からなる群より選択される少なくとも一種を含む原料を、触媒の存在下、250~450℃の水で処理する工程を備える。本工程により、原料中のセルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖が、ベンゼン系芳香族化合物に変換される。本明細書において、ベンゼン系芳香族化合物とは、1つ以上のベンゼン環を有する芳香族化合物を意味する。ベンゼン系芳香族化合物の例は、ベンゼン、フェノール、トルエン、クレゾール、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、インデン、ナフタレン、2-メチルナフタレン、ジベンジル、4-エチルフェノール、3-エチルフェノール、3-プロピルフェノール、及び4-プロピルフェノールを含む。
【0016】
ヘミセルロースは特に限定されず、例えば、キシラン、マンナン、グルカン、グルコマンナン、キシログルカン、ガラクトマンナン、又はグルクロノキシランであってよい。
【0017】
セルロース又はヘミセルロースを構成する糖は、単糖、オリゴ糖、又は多糖のいずれであってもよい。セルロース又はヘミセルロースを構成する糖の例は、グルコース、キシロース、ガラクトース、マンノース、アラビノース、及びフコースを含む。
【0018】
セルロース及びヘミセルロースは、バイオマスに由来してよい。バイオマスに由来するセルロース及びヘミセルロースとは、それぞれバイオマス(より具体的には、バイオマスを構成するリグノセルロース)から分離されたセルロース及びヘミセルロースを意味する。バイオマスは、木質系バイオマスであっても、草本系バイオマスであってもよい。バイオマスの例は、スギ、ヒノキ、松、ナラ、ブナ、ケヤキ、ユーカリ、サトウキビ、トウモロコシ、アブラナ、バガス、ヤシ殻、及び稲を含む。
【0019】
上記原料中のセルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖の合計量は、原料の全質量に対して80質量%以上であり、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってもよい。原料は、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖からなる群より選択される少なくとも一種からなってもよい。原料中に、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖以外の成分が20質量%以上含まれる場合、該成分がベンゼン系芳香族化合物の生成を阻害する恐れがある。原料は、ボールミル等の粉砕機により粉状に粉砕されていてもよく、粉状に粉砕されていなくてもよい。
【0020】
触媒は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、及びルテニウム(Ru)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含む。ベンゼン系芳香族化合物の収率を向上させる観点から、触媒に含まれる金属は、好ましくは、パラジウム、白金、又はロジウムであり、より好ましくはパラジウム又は白金である。触媒は、これらの金属が担体に担持された担持金属触媒であってよい。担体は、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよく、好ましくは活性炭、カーボンブラック又はグラファイトであり、より好ましくは活性炭である。担持金属触媒の例は、活性炭担持Pt触媒(Pt/C触媒)、活性炭担持Pd触媒(Pd/C触媒)、活性炭担持Rh触媒(Rh/C触媒)、活性炭担持Ru触媒(Ru/C触媒)、カーボンブラック担持Pt触媒、及びカーボンブラック担持Pd触媒を含む。触媒が担持金属触媒である場合、担持された金属の量は特に限定されず、例えば、担持金属触媒の全質量に対して、0.1~30質量%であってよい。分解反応を促進する観点から、担持金属触媒の全質量に対する金属の量は、0.5質量%以上であることが好ましい。高価な金属の使用量を削減する観点から、担持金属触媒の全質量に対する金属の量は、10質量%以下であることが好ましい。
【0021】
触媒の量は、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖の分解反応が進行する限り限定されず、例えば、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖の合計100質量部に対して、金属の量が0.01~30質量部となる量の触媒を用いることができる。分解反応を促進する観点から、金属の量が0.1質量部以上となる量の触媒を用いることが好ましい。高価な金属の使用量を削減する観点から、金属の量が10質量部以下となる量の触媒を用いることが好ましい。
【0022】
水の量は、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖の分解反応が進行する限り限定されず、例えば、セルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖の合計100質量部に対して、30~30000質量部であってよい。ベンゼン系芳香族化合物の収率を向上させる観点から、水の量は300質量部以上であることが好ましい。加熱に必要なエネルギーを低減する観点から、水の量は3000質量部以下であることが好ましい。
【0023】
水の温度は250~450℃である。水の温度が250℃以上であると、水の温度が250℃未満である場合と比較して、ベンゼン系芳香族化合物の収率が向上する。水の温度が450℃を超えると、圧力が高くなり、かつ反応器の腐食が進みやすくなるため、安全性の観点から肉厚な壁面を有する反応器が必要となり、コストがかかる。一方、水の温度が450℃以下であると、安全性を向上させることができ、かつ反応器の製造コストを抑えることができる。水の温度は、例えば、300℃以上、350℃以上、又は400℃以上であってよく、400℃以下、350℃以下、又は300℃以下であってよい。水は亜臨界水又は超臨界水であってもよい。
【0024】
原料を水で処理する上記工程における圧力条件は特に限定されず、例えば、3.9~100MPaであってよい。安全性を向上させる観点及び反応器の製造コストを抑える観点から、圧力は、40MPa以下であることが好ましい。
【0025】
原料を水で処理する時間は、原料の量等の各種条件によって適宜決定することができ、例えば、1分~10時間であってよい。反応を十分に進行させる観点から、水で処理する時間は10分以上であることが好ましい。効率的に処理をする観点から、水で処理する時間は5時間以下であることが好ましい。
【0026】
原料を水で処理する上記行程は、例えば、上述の温度(250~450℃)を有する反応器中で、上記原料、触媒、及び水を反応させることにより行うことができる。原料を水で処理する上記行程は、バッチ式で行っても、流通式で行ってもよい。バッチ式の場合、水の温度が所望の反応温度に達するまで水を加熱してもよい。
【0027】
上記側面に係るベンゼン系芳香族化合物の製造方法によれば、原料中のセルロース、ヘミセルロース、及びこれらを構成する糖が分解して、ベンゼン系芳香族化合物が生成する。すなわち、本発明の別の側面は、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖を、触媒の存在下、250~450℃の水で処理する工程を備える、セルロース、ヘミセルロース、又はこれらを構成する糖の分解方法も提供する。セルロース、ヘミセルロース、これらを構成する糖、触媒、各成分の量、水の温度、圧力、及び反応時間等の詳細は、上述のとおりである。なお、本側面に係る分解方法では、ベンゼン系芳香族化合物以外の分解物が生成してもよい。
【実施例0028】
以下において、「%」は「質量%」を意味する。また、図の凡例中における「その他」とは、フェノール、クレゾール、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びプロピルベンゼン以外の、ベンゼン系単環芳香族化合物を指す。
【0029】
<試験例1.セルロースの分解>
6cmのバッチ式反応管内に0.2gのセルロース(メルク社製)、0.15gの担持金属触媒、及び3cmの水を入れ、アルゴンガスで反応管内の空気を置換した。担持金属触媒としては、5%Pt/C、5%Pd/C、5%Rh/C、又は5%Ru/C(すべて富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いた。200℃(1.56MPa)、250℃(3.97MPa)、300℃(8.59MPa)、350℃(16.5MPa)、又は400℃(37MPa)で1時間反応を行い、生成したガス及び液体生成物を、それぞれ熱伝導度検出器を備えるガスクロマトグラフ(GC-TCD)及び水素炎イオン化検出器を備えるガスクロマトグラフ(GC-FID)で分析した。収率は、原料(すなわち、本試験例ではセルロース)に含まれる炭素を基準として計算した。比較のため、触媒を用いずに、250℃(3.97MPa)及び300℃(8.59MPa)で同様の実験を行った。また、さらなる比較のため、5%Pt/Cを触媒として、水を用いずに同様の実験を行った。以上の実験の結果を図1~3に示す。
【0030】
図1において、(A)は250℃での反応におけるベンゼン系芳香族化合物の収率を示し、(B)は300℃での反応におけるベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。図1に示されるように、Pt/C、Pd/C、Rh/C、又はRu/Cを用いた場合は、ベンゼン系芳香族化合物を得ることができた。触媒を用いなかった場合も、僅かにベンゼン系芳香族化合物が生成したが、上記触媒を用いた場合と比べると収率は格段に低かった。また、水なしで反応を行った場合は、ベンゼン系芳香族化合物が全く生成しなかった(図示せず)。
【0031】
図2において、(A)はPt/Cを用いた反応における収率を示し、(B)はPd/Cを用いた反応における収率を示す。図3において、(A)はRh/Cを用いた反応における収率を示し、(B)はRu/Cを用いた反応における収率を示す。全体的な傾向として、温度上昇とともにベンゼン系芳香族化合物の収率が向上した。ただし、触媒としてPt/Cを用いた反応では、250℃の低温でも高い収率が得られた。また、Pt/Cを用いた反応では、生成したベンゼン系芳香族化合物に占めるベンゼンの割合が高かった。
【0032】
また、触媒を用いなかった場合及び水なしで反応を行った場合は、チャーが生成したのに対し、触媒を用いて水中で反応を行った場合は、いずれの温度でもチャーが生成しなかった。
【0033】
<試験例2.キシランの分解>
セルロースのかわりにキシラン(東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は試験例1と同様にして反応を行い、ベンゼン系芳香族化合物の収率を求めた。結果を図4~6に示す。
【0034】
図4は、250℃での反応におけるベンゼン系芳香族化合物の収率を示す。図4に示されるように、Pt/C、Pd/C、Rh/C、又はRu/Cを用いた場合は、ベンゼン系芳香族化合物を得ることができた。触媒を用いなかった場合も、僅かにベンゼン系芳香族化合物が生成したが、上記触媒を用いた場合と比べると収率は低かった。
【0035】
図5において、(A)はPt/Cを用いた反応における収率を示し、(B)はPd/Cを用いた反応における収率を示す。図6において、(A)はRh/Cを用いた反応における収率を示し(B)はRu/Cを用いた反応における収率を示す。全体的な傾向として、温度上昇とともにベンゼン系芳香族化合物の収率が向上した。全体的には、収率は、セルロースを原料とした試験例1よりも低かった。
【0036】
また、触媒を用いなかった場合はチャーが生成したのに対し、触媒を用いた場合は、いずれの温度でもチャーが生成しなかった。
【0037】
<試験例3.グルコースの分解>
セルロースのかわりにD(+)-グルコース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は試験例1と同様にして反応を行い、ベンゼン系芳香族化合物の収率を求めた。担持金属触媒としては5%Pt/C又は5%Pd/Cを用いた。結果を図7に示す。図7の(A)はPt/Cを用いた反応における収率を示し、図7の(B)はPd/Cを用いた反応における収率を示す。触媒としてPt/Cを用いた反応では、250℃の低温でも高い収率が得られ、また、生成したベンゼン系芳香族化合物に占めるベンゼンの割合が高かった。チャーの生成は確認されなかった。
【0038】
<試験例4.キシロースの分解>
セルロースのかわりにD(+)-キシロース(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いたこと以外は試験例1と同様にして反応を行い、ベンゼン系芳香族化合物の収率を求めた。担持金属触媒としては5%Pt/C又は5%Pd/Cを用いた。結果を図8に示す。図8の(A)はPt/Cを用いた反応における収率を示し、図8の(B)はPd/Cを用いた反応における収率を示す。触媒としてPt/Cを用いた反応では、収率は、キシランを原料とした試験例2よりも高く、グルコースを原料とした試験例3よりも低くかった。チャーの生成は確認されなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8