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特開2022-76641導電性部品用ポリプロピレン系樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法
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  • 特開-導電性部品用ポリプロピレン系樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076641
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】導電性部品用ポリプロピレン系樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20220513BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20220513BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20220513BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220513BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20220513BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L23/12
C08L23/16
C08K3/04
C08K7/06
C08L21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187116
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】内海 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC06X
4J002AC08X
4J002BB01W
4J002BB12W
4J002BB15W
4J002BB15X
4J002BB16X
4J002BB17W
4J002BC04X
4J002BC05X
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD116
4J002GQ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた導電性を有しつつ、かつ、引張強度および耐衝撃強度に優れた導電性部品を提供することが可能で、流動性にも優れるポリオレフィン系樹脂組成物、該導電性部品、およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂と、カーボンナノ構造体2と、熱可塑性エラストマー1とを配合してなり、ポリオレフィン樹脂が43~89質量%であり、カーボンナノ構造体が1~7質量%であり、熱可塑性エラストマーが10~50質量%である導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物、それを成形してなる導電性部品、およびそれらの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合してなる導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物であって、
ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、ポリオレフィン樹脂(a)が43~89質量%であり、カーボンナノ構造体(b)が1~7質量%であり、熱可塑性エラストマー(c)が10~50質量%であることを特徴とする導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリオレフィン樹脂(a)として結晶性ポリプロピレンを含む、請求項1記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記結晶性ポリプロピレンが、(α)結晶性プロピレン重合体部分と、(β)エチレン-プロピレン共重合体部分を含むエチレン-プロピレンブロック共重合体からなる、請求項2記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(α)結晶性ポリプロピレン重合体部分が、ホモポリプロピレンのアイソタクチック分率が96%以上である結晶性ポリプロピレンである、請求項2又は3記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂(a)が連続相を形成し、前記連続相中に熱可塑性エラストマー(c)が分散相を形成し、さらに、該連続相はポリプロピレン樹脂の結晶部分と非晶部分とを有し、さらに、カーボンナノ構造体(b)がポリオレフィン樹脂の非晶部分及び前記熱可塑性エラストマー中に存在するモルフォロジーを有する、請求項2~4記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
カーボンナノ構造体(b)が、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバである請求項1~5の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
自動車外装用である、請求項1~6の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項8】
静電塗装用である、請求項1~7の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項10】
ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合して溶融混練する工程を有することを特徴とする導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合して溶融混練する工程が、ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)とを配合して溶融混練する工程、続いて、得られた溶融混練物を熱可塑性エラストマー(c)と配合して溶融混練する工程である、請求項10記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、ポリオレフィン樹脂(a)が43~89質量%であり、カーボンナノ構造体(b)が1~7質量%であり、熱可塑性エラストマー(c)が10~50質量%である、請求項10又は11記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
ポリオレフィン樹脂(a)として結晶性ポリプロピレンを含む、請求項10~12の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
前記結晶性ポリプロピレンが、(α)結晶性プロピレン重合体部分と、(β)エチレン-プロピレン共重合体部分を含むエチレン-プロピレンブロック共重合体からなる、請求項13記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
前記(α)結晶性ポリプロピレン重合体部分が、ホモポリプロピレンのアイソタクチック分率が96%以上である結晶性ポリプロピレンである、請求項13又は14記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項16】
カーボンナノ構造体(c)が、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバである請求項10~15の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項17】
自動車外装用である、請求項10~16の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項18】
静電塗装用である、請求項10~17の何れか一項記載の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法。
【請求項19】
請求項10~18の何れか一項記載の製造方法により得られた導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物を溶融成形する工程を有する成形品の製造方法。
【請求項20】
請求項9記載の成形品に、静電塗装する工程を有する、静電塗装された導電性部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性部品用ポリプロピレン系樹脂組成物、成形品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内外装部品をはじめとして、その素材に軽量であることや、加工のしやすさによるデザインの自由度からポリプロピレン系樹脂組成物およびその成形品が多く用いられている。また、該ポリプロピレン樹脂組成物およびその成形品に導電性を付与して、導電性部品として種々の用途に用いられている。例えば、耐久性や美感向上のために上塗り塗装を静電塗装によって行う方法が実用化されている。
【0003】
従来、熱可塑性樹脂組成物は、それ自体の極性が低く、塗装を施しても塗膜強度が弱いため、プライマーを熱可塑性樹脂組成物の表面に上塗り塗装する必要があり、そして、さらにその上に塗装を施していた。この塗装方法の代表的な工程としては、例えば、プライマー塗装、加熱硬化、上塗り塗料塗装及び加熱硬化の工程を行う方法、又はプライマー塗装、加熱硬化、上塗りベース塗料を塗装、必要により加熱硬化,上塗りクリヤ塗料の塗装及び加熱硬化の工程を行う方法等が知られている。これらの工程において、上塗り塗料は、通常、静電塗装によって塗装されており、平滑性や鮮映性等の仕上がり外観が優れるといった特徴を有している。
【0004】
近年、生産性向上や省エネルギー、環境対応の観点から、この塗装工程において、前記プライマー塗装レスが望まれている。そのためには、無極性であるポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物に極性を持たせる必要がある。
【0005】
たとえば、ポリオレフィン系樹脂、エチレン-α-オレフィン系エラストマー及び特定の導電性繊維を含む導電性樹脂組成物および導電性成形品が知られている(特許文献1参照)。この樹脂組成物中の導電性繊維は、配合量が3~7質量部と少量であるにもかかわらず、特定繊維長および径を有していることにより樹脂流動方向又はその垂直方向に対して10°~90°の配向角度を有して分散することができるため、繊維同士が接触しやすくなり導電性能が良好となることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-215643号公報
【特許文献2】特開2005-220147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、導電性を有しつつ、かつ、さらに機械強度、特に、引張強度および耐衝撃強度とに優れる導電性成形品が望まれており、さらにそのような導電性成形品を提供可能で、かつ、成形時の成形性向上に寄与する高流動性の導電性樹脂組成物が望まれている。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、優れた導電性を有しつつ、かつ、さらに優れた機械強度、特に、引張強度および耐衝撃強度に優れた導電性部品、当該導電性部品を提供することが可能で、流動性にも優れるポリオレフィン系樹脂組成物およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリオレフィン系樹脂及び熱可塑性系エラストマーを含む樹脂組成物にカーボンナノ構造体を添加することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明はポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合してなる導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物であって、
ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、ポリオレフィン樹脂(a)が43~89質量%であり、カーボンナノ構造体(b)が1~7質量%であり、熱可塑性エラストマー(c)が10~50質量%であることを特徴とする導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、前記導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【0012】
また、本発明は、ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合して溶融混練する工程を有することを特徴とする導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合して溶融混練する工程を有することを特徴とする導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)とを配合して溶融混練する工程、得られた溶融混練物を熱可塑性エラストマー(c)と配合して溶融混練する工程を有することを特徴とする導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、前記の製造方法により得られた導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物を溶融成形する工程を有する成形品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた導電性を有しつつ、かつ、さらに優れた機械強度、特に、引張強度および耐衝撃強度に優れた導電性部品、当該導電性部品を提供することが可能で、流動性にも優れるポリオレフィン系樹脂組成物およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1で得られた樹脂組成物のモルフォロジーを表すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物は、
ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合してなる導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物であって、
ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、ポリオレフィン樹脂(a)が43~89質量%であり、カーボンナノ構造体(b)が1~7質量%であり、熱可塑性エラストマー(c)が10~50質量%であることを特徴とする。
【0019】
本発明で用いるポリオレフィン樹脂(a)としては、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンブロック共重合体等のプロピレンと他のオレフィンとのブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体等のプロピレンと他のオレフィンとのランダム共重合体、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が挙げられ、このうち、プロピレン-エチレンブロック共重合体が好ましいものとして挙げられる。
【0020】
本発明で用いるポリオレフィン樹脂は結晶性を有するものを含むものであることが好ましい。さらに、結晶性を有するポリオレフィン樹脂としては、例えば、実質的に(α)結晶性プロピレン重合体部分と、(β)エチレン-プロピレン共重合体部分を含むエチレン-プロピレンブロック共重合体からなるものであるが、その他に(γ)結晶性エチレンホモ重合体部分を少量含有するものでもよい。
【0021】
(α)結晶性プロピレン重合体部分としては、例えば、プロピレンのホモ重合体または少量(5モル%以下程度)のコモノマー成分を含むプロピレン共重合体があげられる。該コモノマー成分としては、ブテン-1、オクテン-1等の他のα-オレフィンがあげられる。(α)部分は、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)が96%以上であることが好ましく、より好ましくは98%以上である。IPFが高いと組成物全体の一方向への配向度が高くなり表面硬度に優れ、耐傷付性が向上する傾向がある。
【0022】
ここで、アイソタクチックペンタッド分率(IPF)とは、Macromolecules,6,925(1973年)記載の方法、すなわち13C-NMRを使用する方法で測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック分率である。換言すれば、アイソタクチックペンタッド分率は、プロピレンモノマー単位が4個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、ピークの帰属に関しては、Macromolecules,8,687(1975年)に記載の方法に基づいて行った。具体的には13C-NMRスペクトルのメチル炭素領域の全吸収ピーク中のmmmmピークの強度分率としてアイソタクチックペンタッド単位を測定した。
【0023】
(β)エチレン-プロピレン共重合体部分は、結晶性の低いエチレン-プロピレンランダム共重合体の部分である。このエチレン-プロピレン共重合体部分のエチレン含有量はエチレン-プロピレン共重合体100質量部に対してモノマー換算で25~80質量部であり、プロピレン含有量が残部であることが好ましく、また、前記エチレン-プロピレン共重合体部分は、モノマー換算で前記エチレン含有量およびプロピレン含有量の合計100質量部に対して少量(5質量部以下程度)の第3成分、例えばブテン-1、オクテン-1等のα-オレフィン等をさらに含有していてもよい。
【0024】
前述したような各部分を含有するエチレン-プロピレンブロック共重合体の(α)結晶性プロピレン重合体部分と、(β)エチレン-プロピレン共重合体部分の含有量は、(α)+(β)の合計を100質量%として、(α)結晶性プロピレン重合体部分が90~99質量%である。一方、(β)エチレン-プロピレン共重合体部分は1~10質量%である。(α)結晶性プロピレン重合体部分が多いと表面硬度、HDTが向上し、製品に傷が付きにくく、好ましい。
【0025】
なお、前記エチレン-プロピレン共重合体部分は、前記のエチレン含有量等を満たすオレフィン系エラストマー、例えばエチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-ブテン共重合体ゴム等で代用してもよい。この場合、前記の配合割合で混合した組成物のMFRが1~100g/10分となるように結晶性プロピレンホモ重合体を適宜配合すればよい。
【0026】
前記エチレン-プロピレンブロック共重合体が、さらに(γ)結晶性エチレンホモ重合体部分を含有する場合、その含有量は、前記(α)+(β)の合計100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下の範囲である。
【0027】
このようなエチレン-プロピレンブロック共重合体は、例えば慣用のプロピレン重合法の一段以上の工程で(α)結晶性プロピレン重合体部分(プロピレンホモ重合体または少量のコモノマー成分を含んだもの)を重合した後、引き続き一段以上の工程で(β)エチレン-プロピレン共重合体部分を、さらに必要に応じて引き続き一段以上の工程で(γ)結晶性エチレンホモ重合体部分を重合する多段重合によって得ることができ、気相法、スラリー法などの方法でも製造できる。
【0028】
本発明に用いるポリオレフィン樹脂(a)のメルトフローレート(230℃、荷重2.16kg、以下MFRという)は特に限定されないが、樹脂組成物の流動性が向上し、その結果、成形性、特に射出成形性が向上し、表面状態が良好で、耐傷付性にも優れるものとなる観点から、1g/10分以上であることが好ましく、さらに10g/10分以上であることがより好ましく、そして、機械的強度が向上する観点から、100g/10分以下であることが好ましく、90g/10分以下であることがより好ましい。
【0029】
本発明で用いることができるカーボンナノ構造体(b)としては、公知のものを用いることができるが、具体的には、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンマイクロコイル、カーボンナノウォール、ナノグラファイト、ナノグラフェンなどの異方性カーボンナノ構造体やフラーレンが好ましく、カーボンナノファイバーおよび/またはカーボンナノチューブがより好ましいものとして挙げられる。
【0030】
本発明においてカーボンナノ構造体としてカーボンナノチューブおよび/またはカーボンナノファイバーを使用する場合、これらは単層、多層(2層以上)のいずれのものも用いることができ、用途に応じて使い分けたり、併用したりすることができる。
【0031】
また、このようなカーボンナノ構造体の形状としては、1本の幹状でも多数のカーボンナノ構造体が枝のように外方に成長している樹枝状であってもよいが、電気伝導性に優れるだけでなく、機械強度、特に引張強度や耐衝撃強度に優れる観点から、1本の幹状であることが好ましい。また、前記カーボンナノ構造体には炭素以外の原子、分子などが含まれていてもよく、必要に応じて金属や他のナノ構造体を内包させてもよい。
【0032】
本発明において、カーボンナノ構造体の平均直径としては特に制限はないが、500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましく、150nm以下が特に好ましく、100nm以下が最も好ましい。下限値は特に限定されないが、0.4nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましく、1nm以上であればさらに好ましい。
【0033】
また、前記カーボンナノ構造体のアスペクト比としては特に制限はないが、カーボンナノ複合体を樹脂と混合して樹脂組成物として使用する際に少量の添加で電気伝導性に優れるだけでなく、機械強度、特に引張強度や耐衝撃強度が向上する観点から、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましくは、40以上が特に好ましく、80以上が最も好ましい。
【0034】
本発明に用いることができる熱可塑性エラストマー(c)としては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、シリコーン系エラストマー、アクリレート系エラストマー、ウレタン系エラストマー等を挙げることができる。これらの熱可塑性エラストマーの中でも、ポリオレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマーが好ましく、オレフィン系エラストマー、特に、エチレン-α-オレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。
【0035】
オレフィン系エラストマーとして、より具体的には、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン-1共重合体エラストマー(EBM)、エチレン・オクテン-1共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・ブテン-1共重合体エラストマー、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体エラストマー(EPDM)、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体エラストマー等のエチレン-α-オレフィン系エラストマー、軟質ポリプロピレン、軟質ポリプロピレン系共重合体等が挙げられる。
【0036】
また、スチレン系エラストマーも採用できる。例えば、スチレン・ブタジエン共重合体エラストマー、スチレン・イソプレン共重合体エラストマー、スチレン・ブタジエン・イソプレン共重合体エラストマー、又はこれら共重合体の完全あるいは部分水添してなるスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体エラストマー(SEPS)等を採用できる。
【0037】
スチレン系エラストマーは、水添系にあっては、塗装密着性能と耐機械強度、特に引張強度や耐衝撃強度が向上を良好に保つため、水添率90%以上であることが好ましく、特に、98%以上が好ましい。
【0038】
また、エラストマー中に占めるスチレン含有量は、塗装密着性能と機械強度、特に引張強度や耐衝撃強度が向上を良好に保つため、5~60質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%である。ここで、スチレン系エラストマーのメルトインデックス(MI)〔JIS K7210に準拠し、200℃、荷重5kgで測定〕は、0.1~120g/10分が好ましく、より好ましくは、8~100g/10分である。
【0039】
ポリオレフィン樹脂(a)の配合量は、ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、電気伝導性に優れつつ、かつ、機械強度、特に引張強度や耐衝撃強度を向上させる観点から、好ましくは43質量%以上、より好ましくは56質量%以上であり、そして好ましくは89質量%以下、より好ましくは76質量%以下の範囲である。
【0040】
また、カーボンナノ構造体(b)の配合量は、ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、機械強度、特に引張強度や耐衝撃強度を向上させつつ、かつ、電気伝導性に優れる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、そして好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下の範囲である。
【0041】
さらに、熱可塑性エラストマー(c)の配合量は、ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、電気伝導性に優れつつ、かつ、機械強度、特に引張強度や耐衝撃強度を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下の範囲である。
【0042】
本発明の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物は、本発明の効果を損ねない範囲において、用途に応じて各種の添加剤、例えば、分散剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤、リン酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤)、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶化促進剤(増核剤)、発泡剤、架橋剤、抗菌剤等の改質用添加剤、顔料、染料等の着色剤、酸化チタン、ベンガラ、アゾ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン等、公知の添加剤を任意成分として配合することができる。
【0043】
これらの添加剤を配合する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上から300質量部以下の範囲で、これら添加剤の種類と量を調整することにより、目的とする機能を自由に調整することができる。
【0044】
本発明の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法(以下、製造方法1とも称する)は、ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを必須成分として配合して溶融混練する工程を有する。より具体的には、上記した各必須成分と、必要に応じて任意成分とを、必要に応じてV型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどの混合機により予備混合したのち、単軸押出型混練機、オープンロールミキサー、加圧型ニーダー、バンバリーミキサー、二軸押出型混練機等、既知の混合機を用い、樹脂設定温度をポリオレフィン樹脂(a)の融点以上にして溶融混練する。このなかでも二軸押出型混練機は混練性、生産性の点で好ましい。溶融混練後、常法に従ってペレット等に加工することができる。
【0045】
さらに、本発明の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は、前記製造方法1における、必須成分を配合する工程が、例えば、ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)とを配合して溶融混練する工程、得られた溶融混練物を熱可塑性エラストマー(c)と配合して溶融混練する工程を有するものであってもよい(以下、製造方法2とも称する)。
【0046】
より具体的には、上記したポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)の各必須成分と、必要に応じて任意成分とを、必要に応じてV型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどの混合機により予備混合したのち、単軸押出型混練機、オープンロールミキサー、加圧型ニーダー、バンバリーミキサー、二軸押出型混練機等、既知の混合機を用い、樹脂設定温度をポリオレフィン樹脂(a)の融点以上にして溶融混練する。このなかでも二軸押出型混練機は混練性、生産性の点で好ましい。溶融混練後、常法に従ってペレット等に加工することができる。続いて、得られた溶融混練物(一旦、ペレット等に加工したものであってもよい)を熱可塑性エラストマー(c)と配合して、ポリオレフィン樹脂(a)と熱可塑性エラストマー(c)のいずれか高い方の融点以上で、溶融混練する。
【0047】
上記製造方法1、2のいずれの場合にも、(室温まで冷却して固相状態にある)樹脂組成物およびその成形品は、ポリオレフィン樹脂(a)が連続相を形成し、前記連続相中に熱可塑性エラストマー(c)が分散相を形成し、カーボンナノ構造体(b)が連続相および分散相中に存在するモルフォロジーを有することになるため、導電性、機械的強度、流動性に優れるものとなる。
【0048】
さらに上記製造方法2の場合には、前記モルフォロジーが、ポリオレフィン樹脂(a)が連続相を形成し、前記連続相中に熱可塑性エラストマー(c)が分散相を形成し、カーボンナノ構造体(b)が連続相により多く存在する傾向となるため、カーボンナノ構造体(b)の配合割合がより少なくとも、導電性が向上することとなり、相対的にポリオレフィン樹脂(a)及び熱可塑性エラストマー(c)の配合割合がより多くなるため、機械的強度、流動性に優れるものとなる。
【0049】
さらに、ポリオレフィン樹脂(a)として結晶性を有するポリオレフィン樹脂を含むものを用いると、前記モルフォロジーの連続相を形成するポリプロピレン樹脂の結晶部分が成長する一方で、該連続相に存在するカーボンナノ構造体(b)が、ポリオレフィン樹脂(a)の非晶部分に偏在することとなる。すなわち、ポリオレフィン樹脂(a)が連続相を形成し、前記連続相中に熱可塑性エラストマー(c)が分散相を形成し、さらに、該連続相はポリプロピレン樹脂の結晶部分と非晶部分とを有し、さらに、カーボンナノ構造体(b)がポリオレフィン樹脂の非晶部分及び前記熱可塑性エラストマー中に存在するモルフォロジーを有するものとなる(図1参照)。このため、上記製造方法1、2のいずれの場合であっても(製造方法2の場合には特に)、カーボンナノ構造体の配合割合がより少ない状態であっても優れた導電性を発現でき、相対的にポリオレフィン樹脂(a)及び熱可塑性エラストマー(c)の配合割合が増えるため、成形性と強度特性に優れるものとなる。さらに、ポリオレフィン樹脂(a)が、前記(α)結晶性プロピレン重合体部分と、(β)エチレン-プロピレン共重合体部分とを含むエチレン-プロピレンブロック共重合体であって、かつ、(α)部分のIPFが96%以上であるものを用いた場合においては、機械強度により優れ、かつ、表面硬度により優れ、耐傷付性もより向上するため好ましい。
【0050】
上記のとおり、溶融混練して得られた導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物は、続いて、直接、または常法に従ってペレット等に一旦加工したものを、成形機に供し、少なくとも連続相の樹脂が溶融する温度以上に設定した成形機内で混練して、押出成形、射出成形、カレンダー成形、中空成形、真空成形、圧空成形等などの公知の各種成形法にて溶融成形する工程を有する製造方法によって、成形品を製造することができる。
【0051】
本発明の導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物を成形してなる成形品は、導電性成分の配合が少量であるにもかかわらず、優れた導電性を有することから、自動車用、半導体用途、精密電子部品用途などに用いられる各種の導電性部品として有用である。特に、静電塗装を行うのに必用な導電性を有するため、従来のような導電性プライマー処理をせずに、直接、成形品に静電塗装する工程を有する方法によって、静電塗装された導電性部品を製造することができ、静電塗装用途に有用である。
【0052】
また、導電性成分の配合に伴う樹脂組成物の機械物性の低下及び着色や、成形性の低下に伴う表面外観の悪化等を抑制することができる。
【0053】
従って、良好な静電塗装性及び機械物性を有する材料であるため、自動車用途に有用であり、特に、その外装材(バンパー、ドアサイドモール、フェンダー等)に好適に使用できる。また、帯電防止が望まれる用途、例えば、半導体部品の運搬や貯蔵のための部材や、センサー類など精密電子部品の運搬や貯蔵のための部材、静電気除去のための部材に好適に使用できる。
【実施例0054】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
エチレンプロピレン共重合体(株式会社プライムポリマー製「J-762HP」)95.7質量部およびカーボンナノ構造体(Nanocyl社製「NC7000」)4.3質量部を配合して、乾式混合した後、二軸ベント式押出機(TEM-26SX、シリンダ温度200℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量10kg/hr)内で溶融混練し、ストランド状に押出した上でペレタイズしてペレット(1)を得た。
【0056】
次に、得られたペレット(1)70質量部およびエチレン-α-オレフィン共重合体(株式会社プライムポリマー製「ネオゼックス2540R」)30質量部を配合して、乾式混合した後、二軸ベント式押出機(TEM-26SX、シリンダ温度200℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量10kg/hr)内で溶融混練し、ストランド状に押出した上でペレタイズしてペレット(2)を得た。
【0057】
得られたペレット(2)を射出成形機(シリンダ温度200℃、金型温度40℃)を用いて溶融成形し、D2試験片(1)とTYPE-A1試験片(1)を作製した。作製した試験片を用いて、以下の測定を行った。
【0058】
(比較例1)
エチレンプロピレン共重合体(株式会社プライムポリマー製「J-762HP」)55質量部、エチレン-α-オレフィン共重合体(株式会社プライムポリマー製「ネオゼックス2540R」)25質量部およびカーボンブラック(Birla社製「Conductex 7067」)20質量部を配合して、乾式混合した後、二軸ベント式押出機(TEM-26SX、シリンダ温度220℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量10kg/hr)内で溶融混練し、ストランド状に押出した上でペレタイズしてペレット(c1)を得た。
【0059】
次に、得られたペレット(c1)を射出成形機(シリンダ温度230℃、金型温度50℃)を用いて溶融成形し、D2試験片(c1)とTYPE-A1試験片(c1)を作製した。作製した試験片を用いて、以下の測定を行った。
【0060】
(測定例1) 流動性(MFR)
得られたペレットをISO1133-1に準拠した方法(230℃ 2.16kg)で測定を行った。
(測定例2) 比重
得られた成形品をISO-1183に準拠した方法で測定を行った。
(測定例3) 体積抵抗率(Ω・cm)
体積抵抗率(Ω・cm)は、株式会社ADC製の超高抵抗計「R8340A」を用いて23℃、55%RH環境下で測定した。実施例1及び比較例1で作製したD2試験片を、二重リング電極に一定荷重で挟み、印加電圧500Vにて測定した。なお該測定サンプルは23℃、55%RH環境下で24時間放置してから測定した。
【0061】
(測定例4、5) 強度特性
引張試験
ISO 527-1に準拠した測定法により引張り破断伸びを測定した。
シャルピー衝撃試験
ISO 179-1に準拠した測定法によりシャルピー衝撃強度(ノッチあり)を測定した。
【0062】
【表1】

【符号の説明】
【0063】
A モデル図
1 分散相(熱可塑性エラストマー)
2 カーボンナノ構造体
3 連続相(PP)中の結晶部分
4 連続相(PP)中の非晶部分
図1