(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076642
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】水性塗料、及び該水性塗料が塗装された物品
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220513BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220513BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187118
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】三上 明音
(72)【発明者】
【氏名】向井 隆
(72)【発明者】
【氏名】大水 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】河中 俊介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸介
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG051
4J038CG151
4J038DB001
4J038DD001
4J038DG001
4J038HA166
4J038KA04
4J038MA08
4J038MA09
4J038MA10
4J038NA05
4J038PA06
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】自動車、鉄道車両、船舶、機械、家具、缶、建築構造物等の金属製品;自動車部品、家電製品等のプラスチック製品;家具、建築材料等の木工製品;建築材料、ガラス等の無機素材製品などの各種塗料用途に用いることができ、安全性が高く、各種基材に優れた抗ウイルス性を付与可能な水性塗料、水性塗料、及び該水性塗料が塗装された物品を提供することである。
【解決手段】可視光応答型光触媒(A)、樹脂(R)、及び水性媒体(W)を含有することを特徴とする水性塗料を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光応答型光触媒(A)、樹脂(R)、及び水性媒体(W)を含有することを特徴とする水性塗料。
【請求項2】
前記可視光応答型光触媒(A)が、酸化チタン(a)に金属化合物が担持されたものである請求項1記載の水性塗料。
【請求項3】
前記酸化チタン(a)が、ルチル型酸化チタン(a1)を含むものである請求項2記載の水性塗料。
【請求項4】
前記金属化合物が、2価銅化合物である請求項2又は3記載の水性塗料。
【請求項5】
前記樹脂(R)が、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選ばれる1以上の樹脂を含有する請求項1~4いずれか1項記載の水性塗料。
【請求項6】
2液硬化型である請求項1~5いずれか1項記載の水性塗料。
【請求項7】
請求項6記載の水性塗料が塗装された物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料、及び該水性塗料が塗装された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水性塗料は各種物品の表面保護、美観及び機能の向上に用いられてきたが、近年では衛生的機能、例えば、抗菌性、抗ウイルス性といった機能も所望され、特に新型インフルエンザ、SARS(重症急性呼吸器症候群)、ノロウイルスウイルス等の感染対策として抗ウイルス性(ウイルス不活化性)を有する塗膜が得られる水性塗料が求められている。
【0003】
塗膜に抗菌性、抗ウイルス性を付与可能な塗料としては、4級アンモニウム塩を含有する塗料が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらの塗料は安全性が低く、4級アンモニウム塩を含有しない材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、安全性が高く、各種基材に優れた抗ウイルス性を付与可能な水性塗料、及び該水性塗料が塗装された物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、特定の光触媒、樹脂、及び水性媒体を含有する水性塗料を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出し、発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、可視光応答型光触媒(A)、樹脂(R)、及び水性媒体(W)を含有することを特徴とする水性塗料に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性塗料は、抗ウイルス性に優れる塗膜を形成できることから、自動車、鉄道車両、船舶、機械、家具、缶、建築構造物等の金属製品;自動車部品、家電製品等のプラスチック製品;家具、建築材料等の木工製品;建築材料、ガラス等の無機素材製品などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水性塗料は、可視光応答型光触媒(A)、樹脂(R)、及び水性媒体(W)を含有するものである。
【0010】
前記可視光応答型光触媒(A)としては、例えば、酸化チタン(a)を含む組成物が挙げられ、より一層優れた抗ウイルス性が得られる点から、酸化チタン(a)に金属化合物が担持されたものが好ましく挙げられる。
【0011】
前記酸化チタン(a)としては、例えば、ルチル型酸化チタン(a1)、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン等を用いることができる。これらの酸化チタンは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、優れた可視光領域での光触媒活性を有する点から、ルチル型酸化チタン(a1)を含むことが好ましい。
【0012】
前記前記ルチル型酸化チタン(a1)の含有率(ルチル化率)としては、より一層優れた明所及び暗所における抗ウイルス性、明所における有機化合物分解性、及び、可視光応答性が得られる点から、15モル%以上であることが好ましく、50モル%以上あることがより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
【0013】
前記酸化チタン(a)の製造方法としては、一般的に、液相法と気相法とが知られている。前記液相法とは、イルメナイト鉱などの原料鉱石を溶解した液から得られる硫酸チタニルを、加水分解又は中和して酸化チタンを得る方法である。また、気相法とは、ルチル鉱などの原料鉱石を塩素化して得られる四塩化チタンと、酸素との気相反応により酸化チタンを得る方法である。なお、両方法により製造された酸化チタンを区別する方法としては、その不純物を分析することが挙げられる。前記液相法により製造された酸化チタンは、その生成物にイルメナイト鉱石中の不純物に由来するジルコニウム、ニオブなどが含まれている。これに対し、気相法では四塩化チタンを精製して、不純物を取り除く工程を有するため、酸化チタン中には、これらの不純物はほとんど含まれない。
【0014】
前記気相法により製造された酸化チタンは、均一な粒子径を生成可能な利点があるものの、2次凝集体は生成しにくいため、見かけの比表面積が高くなることにより反応工程時における混合液の粘度が高くなると考えられる。これに対し、液相法により製造された酸化チタン(a)は、焼成工程において緩やかな2次凝集体を生成することが考えられ、1次粒子に起因する比表面積(BET値)に対して、凝集力は少なく混合液の粘度を抑制することが可能である。以上の理由より、前記酸化チタン(a)としては、水性塗料の生産性をより一層向上できる点から、液相法により製造された酸化チタンが好ましい。
【0015】
前記酸化チタン(a)のBET比表面積としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、1~200m2/gの範囲が好ましく、3~100m2/gの範囲がより好ましく、4~70m2/gの範囲がより好ましく、8~50m2/gの範囲が更に好ましく、抗ウイルス剤の生産性をより一層高めることができる点から、7.5~9.5m2/gの範囲であることが好ましい。なお、前記ルチル型酸化チタン(a1)のBET比表面積の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0016】
前記酸化チタン(a)の1次粒子径としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、0.01~0.5μmの範囲が好ましく、0.06~0.35μmの範囲がより好ましい。なお、前記酸化チタン(a)の1次粒子径の測定方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で測定した値を示す。具体的には、個々の酸化チタンの1次粒子の短軸径と長軸径を計測し、平均をその1次粒子の粒子径とし、次に100個以上の酸化チタン粒子について、それぞれの粒子の体積(重量)を、求めた粒子径の立方体と近似して求め、体積平均粒径を平均1次粒子径とした。
【0017】
また、前記可視光応答型光触媒としては、可視光領域における光触媒活性を一層向上し、実用的な室内光の下で、汚れ成分を分解できる適度な活性を発現しやすい点から、酸化チタン(a)に金属化合物が担持されたものを用いることが好ましい。
【0018】
前記金属化合物としては、例えば、銅化合物、鉄化合物、タングステン化合物等を用いることができる。これらの中でも、より一層優れた抗菌性、及び、抗ウイルス性が得られる点から、銅化合物が好ましく、2価銅化合物がより好ましい。前記酸化チタン(a)への金属化合物の担持方法としては、公知の手法を用いることができる。
【0019】
次に、最も好ましい態様である、酸化チタン(a)に2価銅化合物を担持する方法について説明する。
【0020】
前記酸化チタン(a)に2価銅化合物を担持する方法としては、例えば、ルチル型酸化チタン(a1)を含む酸化チタン(a)、2価銅化合物原料(b)、水(c)、及び、アルカリ性物質(d)の混合工程(i)を有する方法が挙げられる。
【0021】
前記混合工程(i)における前記酸化チタン(a)の濃度としては、3~40質量%の範囲が好ましい。なお、本発明においては、液相法により製造された酸化チタン(a)を用いた場合には、酸化チタン(a)の濃度を高めても取扱いの良好な混合工程を行うことができ、具体的には、前記酸化チタン(a)の濃度が、25質量%を超えて40質量%以下の範囲でも良好に混合工程を行うことができる。
【0022】
前記2価銅化合物原料(b)としては、例えば、2価銅無機化合物、2価銅有機化合物等を用いることができる。
【0023】
前記2価銅無機化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、沃素酸銅、過塩素酸銅、シュウ酸銅、四ホウ酸銅、硫酸アンモニウム銅、アミド硫酸銅、塩化アンモニウム銅、ピロリン酸銅、炭酸銅等の2価銅の無機酸塩;塩化銅、フッ化銅、臭化銅等の2価銅のハロゲン化物;酸化銅、硫化銅、アズライト、マラカイト、アジ化銅などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記2価銅有機化合物としては、例えば、蟻酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ミスチン酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、乳酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、イソフタル酸銅、テレフタル酸銅、サリチル酸銅、メリト酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、グルタル酸銅、アジピン酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、グリセリン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、イソ吉草酸銅、β-レゾルシル酸銅、ジアセト酢酸銅、ホルミルコハク酸銅、サリチルアミン酸銅、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅、セバシン酸銅、ナフテン酸銅、オキシン銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、フタロシアニン銅、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅メトキシド、ジメチルジチオカルバミン酸銅等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記2価銅化合物原料(b)としては、前記したものの中でも、下記一般式(1)で示されるものを用いることが好ましい。
CuX2 (1)
(式(1)において、Xは、ハロゲン原子、CH3COO、NO3、又は、(SO4)1/2を示す。)
【0026】
前記式(1)におけるXとしては、ハロゲン原子であることがより好ましく、塩素原子が更に好ましい。
【0027】
前記混合工程(i)における前記2価銅化合物原料(b)の使用量としては、前記酸化チタン(a)100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが好ましく、0.1~15質量部の範囲がより好ましく、0.3~10質量部の範囲が更に好ましい。
【0028】
前記水(c)は、混合工程(i)における溶媒であり、水単独が好ましいが、必要に応じてその他の溶媒を含んでいてもよい。前記その他の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記アルカリ性物質(d)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、トリメチルアミン、アンモニア、塩基性界面活性剤等を用いることができ、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0030】
前記アルカリ性物質(d)は、反応を制御しやすい点から、溶液として添加するのが好ましく、添加するアルカリ溶液の濃度としては、0.1~5mol/Lの範囲であることが好ましく、0.3~4mol/Lの範囲がより好ましく、0.5~3mol/Lの範囲が更に好ましい。
【0031】
前記混合工程(i)は、前記酸化チタン(a)、2価銅化合物原料(b)、水(c)、及び、アルカリ性物質(d)を混合すればよく、例えば、まず水(c)に酸化チタン(a)を混合するとともに必要に応じて撹拌し、次いで、2価銅化合物原料(b)を混合し、撹拌し、その後、アルカリ性物質(d)を添加して撹拌する方法が挙げられる。この混合工程(i)により、前記2価銅化合物原料(b)由来の2価銅化合物が前記酸化チタン(a)に担持することとなる。
【0032】
前記混合工程(i)における全体の撹拌時間としては、例えば、5~120分間が挙げられ、好ましくは10~60分間である。混合工程(i)時における温度としては、例えば、室温~70℃の範囲が挙げられる。
【0033】
酸化チタン(a)への2価銅化合物の担持が良好である点から、前記酸化チタン(a)、2価銅化合物原料(b)、及び、水(c)を混合・撹拌し、その後アルカリ性物質(d)を混合・撹拌した後の混合物のpHとしては、好ましくは8~11の範囲であり、より好ましくは9.0~10.5の範囲である。
【0034】
前記混合工程(i)が終了した後には、混合液を固形分として分離することができる。前記分離を行う方法としては、例えば、濾過、沈降分離、遠心分離、蒸発乾燥等が挙げられるが、濾過が好ましい。分離した固形分は、その後必要に応じて、水洗、解砕、分級等を行ってもよい。
【0035】
前記固形分を得た後には、前記酸化チタン(a)上に担持された前記2価銅化合物原料(b)由来の2価銅化合物を、より強固に結合することができる点から、固形分を熱処理することが好ましい。熱処理温度としては、好ましくは150~600℃の範囲であり、より好ましくは250~450℃の範囲である。また、熱処理時間は、好ましくは1~10時間であり、より好ましくは、2~5時間である。
【0036】
以上の方法によって、酸化チタン(a)に2価銅化合物が担持した酸化チタンを含有する酸化チタン組成物が得られる。前記酸化チタン(a)に担持された2価銅化合物の担持量としては、酸化チタン(a)100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが、抗ウイルス性を含む光触媒活性の点から好ましい。前記2価銅化合物の担持量は、前記混合工程(i)における前記2価銅化合物原料(b)の使用量によって調整することができる。
【0037】
前記樹脂(R)は、一般的に塗料用樹脂として使用されるものであれば特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0038】
前記樹脂(R)は、前記水性媒体(W)への溶解性や分散性がより向上することから、親水性基を有することが好ましい。
【0039】
前記親水性基としては、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等が挙げられる。
【0040】
また、前記樹脂(R)中に架橋性官能基を導入することで、本発明の水性塗料を2液型塗料として使用することができる。
【0041】
前記水性媒体(W)としては、例えば、水、親水性有機溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。前記親水性有機溶剤としては水と分離することなく混和する水混和性有機溶剤が好ましく、これらの中でも水に対する溶解度(水100gに溶解する有機溶剤のグラム数)が25℃において3g以上の有機溶剤が好ましい。これら水混和性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。これら水混和性有機溶剤は、それぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0042】
本発明の水性塗料中の可視光応答型光触媒(A)の含有量は、抗ウイルス性及び貯蔵安定性がより優れることから、1~20質量%が好ましい。
【0043】
本発明の水性塗料中の前記樹脂(R)の含有量は、抗ウイルス性及び貯蔵安定性がより優れることから、25~50質量%が好ましい。
【0044】
本発明の水性塗料中の水性媒体(W)の含有量は、抗ウイルス性及び貯蔵安定性がより優れることから、40~70質量%が好ましい。
【0045】
また、本発明の水性塗料の固形分中の可視光応答型光触媒(A)の含有量は、抗ウイルス性及びその他の塗膜物性のバランスがより優れることから、5~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0046】
本発明の水性塗料は、前記可視光応答型光触媒(A)、前記樹脂(R)、及び、前記水性媒体(W)を含有するものであるが、前記可視光応答型光触媒(A)及び前記樹脂(R)が前記水性媒体(W)に溶解または分散したものであることが好ましい。
【0047】
また、本発明の水性塗料には、必要に応じて、無機顔料、有機顔料、体質顔料、ワックス、界面活性剤、安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、顔料分散剤、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の各種の添加剤等を使用することができる。
【0048】
本発明の水性塗料の調製方法としては、例えば、前記樹脂(R)が前記水性媒体(W)中に分散した水性樹脂組成物に、前記可視光応答型光触媒(A)、及び顔料等を添加し、サンドミルやディスパー等の混合機を用いて調製することができる。必要に応じて、さらに硬化剤を混合することで、2液型塗料を調製することができる。
【0049】
本発明の水性塗料の塗装方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、コンマコーター、ナイフコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、キスコーター、シャワーコーター、ホイーラーコーター、スピンコーター、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー、アプリケーター、バーコーター、刷毛等の方法が挙げられる。
【0050】
本発明の水性塗料は、各種物品の表面に、抗ウイルス性に優れる硬化塗膜を付与することができる。
【0051】
本発明の水性塗料は、被塗装物となる物品に、直接塗装してもよいし、被塗装物に適合したプライマー塗材を塗装してから、本発明の水性塗料を塗装してもよい。また、本発明の水性塗料を塗装後、さらにトップコートを塗り重ねてもよい。
【0052】
被塗装物となる物品の材質としては、鋼板、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の各種金属及びこれらの合金;ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、PC-ABSのポリマーアロイ、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ガラス繊維、炭素繊維等のフィラーを入れた繊維強化プラスチック(FRP)等のプラスチック基材;ガラスなどが挙げられる。
【0053】
本発明の水性塗料の塗膜を有する物品としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶、機械、家具、缶、建築構造物等の金属製品;自動車部品、家電製品等のプラスチック製品;家具、建築材料等の木工製品;建築材料、ガラス等の無機素材製品などが挙げられる。
【実施例0054】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0055】
(調製例1:可視光応答型光触媒(A-1)の調製)
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:液相法(硫酸法)
c)物性値
・BET比表面積:9.0m2/g
・ルチル化率:95.4%
・1次粒子径:0.18μm
【0056】
(2)製造工程
a)混合工程(反応工程)
前記酸化チタン600質量部、塩化銅(ii)二水和物8質量部、水900質量部をステンレス容器中に混合した。次いで、混合物を撹拌機(特殊機化工業株式会社製「ロボミクス」)で撹拌し、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を混合液のpHが10になるまで滴下した。
b)脱水工程
定性濾紙(5C)により減圧濾過をおこない、混合液から固形分を分離し、更にイオン交換水で洗浄を実施した。次いで、洗浄後の固形物を120℃で12時間乾燥し、水分を除去した。乾燥後、ミル(イワタニ産業株式会社製「ミルサー」)で粉状の酸化チタン組成物を得た。
c)熱処理工程
精密恒温器(ヤマト科学株式会社製「DH650」)を用いて酸素存在下で450℃、3時間熱処理し、2価銅化合物が担持された酸化チタンを含有する可視光応答型光触媒(A-1)を得た。
【0057】
(実施例1:水性塗料(1)の製造)
水性アクリル樹脂(DIC株式会社製「バーノックWD-551」、水酸基含有)100質量部に対して、上記で得た可視光応答型光触媒(A-1)11.2質量部、酸化チタン顔料(ケマーズ製「Ti-Pure R-706」)33.7質量部、イオン交換水19.9質量部を添加してサンドミルで30分間混錬し、顔料分散体を得た。得られた顔料分散体に硬化剤として、ポリイソシアネート樹脂(DIC株式会社製「バーノックDNW-5500」)29.3質量部を加え、ディスパーで5分間攪拌し、水性塗料(1)を得た。
【0058】
(実施例2~5:水性塗料(2)~(5)の製造)
使用した原料を表1のものに変更した以外は実施例1と同様にして、水性塗料(2)~(5)を得た。
【0059】
(比較例1~5:水性塗料(R1)~(R5)の製造)
使用した原料を表1のものに変更した以外は実施例1と同様にして、水性塗料(R1 )~(R5)を得た。
【0060】
[評価用塗膜の作製]
クロメート処理アルミ板に、上記で得た水性塗料を、それぞれスプレーにて膜厚が15μmになるように塗装し、23℃で7日間乾燥を行い、評価用塗膜の形成された試験板を得た。
【0061】
[抗ウイルス性の評価]
実施例及び比較例で得られた評価用塗膜の形成された試験板に対し、抗ファージウイルス試験(JIS R1756:2020を参照)を実施した。
【0062】
1)光照射条件は、白色蛍光灯の光をN113フィルターによって紫外線をカットし、照度500ルクスとした。
2)実施例及び比較例で得られた5cm×5cmの試験板に濃度既知の100μLのQβファージ溶液を垂らした後、4cm×4cmの密着フィルムをかぶせ、評価用のサンプルとした。
3)8時間光照射したサンプルを、SCDLP液で回収し、適度に希釈したものを大腸菌と感染させ、寒天培地に塗布し、培養後のコロニー数をカウントすることで評価した。抗ウイルス性はQβファージの不活化度から下記の基準により評価した。
◎:不活化度が-3以下
〇:不活化度が-3より大きく-2以下
×:不活化度が-2より大きい
【0063】
上記で得た水性塗料(1)~(5)及び(R1)~(R5)の組成及び評価結果を表1及び2に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
表中の各原料は以下のものである。
「バーノックWD-551」:DIC株式会社製、水性アクリル樹脂(水酸基価:100mgKOH/g、樹脂分:44質量%、水性媒体:水、ジエチレングリコールジメチルエーテル)
「バーノックWE-306」:DIC株式会社製、水性アクリル樹脂(水酸基価:100mgKOH/g、樹脂分:45質量%、水性媒体:水)
「ウォーターゾール CD-520P」:DIC株式会社製、水性ポリエステル樹脂(樹脂分:39質量%、水性媒体:水、エチレングリコールモノプロピルエーテル)
「ウォーターゾール EFD-5580」:DIC株式会社製、水性エポキシエステル樹脂(樹脂分:40質量%、水性媒体:水、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル)
「ハイドラン AP-20」:DIC株式会社製、水性ウレタン樹脂(樹脂分:30質量%、水性媒体:水)
「バーノックDNW-5500」:DIC株式会社製、水分散性ポリイソシアネート樹脂(イソシアネート基含有量(NCO%):13.5質量% 樹脂分:80質量%、溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)
「DICNATE 3111TL」:DIC株式会社製、コバルト系金属石鹸
【0067】
本発明の水性樹脂組成物である実施例1~5から得られる塗膜は、抗ウイルス性に優れることが確認された。
【0068】
一方、比較例1~5は、本発明の必須成分である可視光応答型光触媒(A)を含有しない例であるが、得られる塗膜は、抗ウイルス性に劣ることが確認された。