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特開2022-76645コーティング樹脂組成物、及びコーティング層
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076645
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】コーティング樹脂組成物、及びコーティング層
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220513BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220513BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187121
(22)【出願日】2020-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】永浜 定
(72)【発明者】
【氏名】金川 善典
(72)【発明者】
【氏名】河中 俊介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸介
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DG121
4J038DG261
4J038HA166
4J038NA05
4J038PA06
4J038PB06
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、抗ウイルス性を付与することが可能なコーティング樹脂組成物、及び抗ウイルス性を付与されたコーティング層を提供することである。
【解決手段】本発明のコーティング樹脂組成物は、親水性樹脂(A)、可視光応答型光触媒(B)、及び、水性媒体(C)を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性樹脂(A)、可視光応答型光触媒(B)、及び、水性媒体(C)を含むものであるコーティング樹脂組成物。
【請求項2】
前記可視光応答型光触媒(B)が、酸化チタン(b1)に金属化合物が担持されたものである請求項1記載のコーティング樹脂組成物。
【請求項3】
前記酸化チタン(b1)が、ルチル型酸化チタン(b1-1)を含むものである請求項2記載のコーティング樹脂組成物。
【請求項4】
前記金属化合物が、2価の銅化合物である請求項2又は3記載のコーティング樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~5のいずれか1項記載のコーティング樹脂組成物から形成されるコーティング層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング樹脂組成物、及びコーティング層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウィルスをはじめとした各種ウイルスや菌などが蔓延し、社会全体における抗菌・抗ウイルスを付加した製品需要が高まっている。これらの製品としては特に多数の人の手が触れる場所や、使用頻度が高い物品への要望が高いが、従来の設備や物品を全て抗菌・抗ウイルス作用を付与されたものに変更するのは手間やコストがかかるため、簡便な方法でこれらの特性を付与可能とする製品が求められている。
【0003】
従来用いられている抗菌・抗ウイルス剤としては、各種アルコール剤、第4級アンモニウム塩化合物、銀系化合物、銅系化合物等があるが、これらは皮膚への刺激性や、経時変化による抗菌・抗ウイルス性の低減など市場の要求特性を十分に満たすことが出来ていなかった。
【0004】
これに対し、酸化チタンを用いる光触媒は人体への刺激が少なく、また長期にわたり抗菌・抗ウイルス性能が維持されるため、実用化への期待が高まっている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-166705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、抗ウイルス性を付与することが可能なコーティング樹脂組成物、及び抗ウイルス性を付与されたコーティング層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、可視光応答型光触媒を含有することで抗ウイルス性を付与することが可能なコーティング樹脂組成物、及び前記コーティング樹脂組成物を用いることで抗ウイルス性を付与されたコーティング層を提供する。本発明は、以下の発明を含む。
【0008】
[1]親水性樹脂(A)、可視光応答型光触媒(B)、及び、水性媒体(C)を含むものであるコーティング樹脂組成物。
[2]前記可視光応答型光触媒(B)が、酸化チタン(b1)に金属化合物が担持されたものである[1]記載のコーティング樹脂組成物。
[3]前記酸化チタン(b1)が、ルチル型酸化チタン(b1-1)を含むものである請求項2記載のコーティング樹脂組成物。
[4]前記金属化合物が、2価の銅化合物である[2]又は[3]記載のコーティング樹脂組成物。
[5][1]~[4]のいずれか1つに記載のコーティング樹脂組成物から形成されるコーティング層。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コーティング樹脂組成物、及びコーティング層に抗ウイルス性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコーティング樹脂組成物は、親水性樹脂(A)、可視光応答型光触媒(B)、及び、水性媒体(C)を含む。
【0011】
前記親水性樹脂(A)としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、ウレタン樹脂が好ましい。
【0012】
前記ウレタン樹脂としては、例えば、ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)と、必要に応じて用いる鎖伸長剤(a3)の反応物が挙げられる。
【0013】
前記ポリオール(a1)としては、水分散安定性の観点から、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、及びポリカーボネートポリオールからなる1種以上のポリマーポリオール(a1-1)と、親水性基を有するポリオール(a1-2)とを含むことが好ましい。
【0014】
前記ポリマーポリオール(a1-1)の数平均分子量は、好ましくは500以上3,000以下である。本発明において、数平均分子量、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC)により、ポリスチレンを標準試料として測定した換算値を表す。
【0015】
前記ポリエーテルポリオールとしては、活性水素原子を2個以上有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、アルキレンオキシドを付加重合させたもの;環状エーテルを開環重合させたもの等が挙げられる。
【0016】
前記開始剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-プロパンジオ-ル、1,3-プロパンジオ-ル、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の直鎖状ジオール;ネオペンチルグリコール等の分岐鎖状ジオール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ピロガロール等のトリオール;ソルビトール、蔗糖、アコニット糖等のポリオール;アコニット酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸等のトリカルボン酸;リン酸;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリアミン;トリイソプロパノールアミン;ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸等のフェノール酸;1,2,3-プロパントリチオールなどが挙げられる。
【0017】
前記アルキレンオキシドとしては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。前記環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0018】
前記ポリエーテルポリオールとしては、前記開始剤にテトラヒドロフランを付加重合(開環重合)させたポリオキシテトラメチレングリコールを使用することが好ましい。
【0019】
前記ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、基材密着性をより一層向上することができることから、500以上3,000以下であることが好ましい。
【0020】
ポリエーテルポリオールを含む場合、前記ポリオール(a1)中、ポリエーテルポリオールの含有率は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0021】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、低分子量ポリオール(例えば、分子量50以上500以下のポリオール)とポリカルボン酸とをエステル化反応して得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン等の環状エステル化合物を開環重合反応して得られるポリエステルポリオール;これらの共重合ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
【0022】
前記低分子量ポリオールとしては、分子量が50以上500未満程度のポリオールを用いることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール等の炭素原子数2以上6以下の脂肪族ポリオール;1,4-シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式構造含有ポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物及びそれらのアルキレンオキシド付加物等の芳香族構造含有ポリオールなどが挙げられる。
【0023】
前記ポリカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;並びに前記脂肪族ポリカルボン酸及び芳香族ポリカルボン酸の無水物又はエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0024】
前記ポリエステルポリオールの数平均分子量は、基材密着性をより一層向上することができることから、500以上3,000以下であることが好ましい。
【0025】
ポリエステルポリオールを含む場合、前記ポリオール(a1)中、ポリエステルポリオールの含有率は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0026】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、炭酸エステルとポリオールとの反応物;ホスゲンとビスフェノールA等との反応物などが挙げられる。
【0027】
前記炭酸エステルとしては、例えば、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0028】
前記炭酸エステルと反応しうるポリオールとしては、例えば、上記低分子量ポリオールとして例示したポリオール;ポリエーテルポリオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)、ポリエステルポリオール(ポリヘキサメチレンアジペート等)等の高分子量ポリオール(重量平均分子量500以上5,000以下)などが挙げられる。
【0029】
前記ポリカーボネートポリオールの数平均分子量は、基材密着性をより一層向上することができることから、数平均分子量500~3,000であることが好ましい。
【0030】
前記ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリイソブテンポリオール、水素添加(水添)ポリブタジエンポリオール、水素添加(水添)ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。
【0031】
オレフィンポリオールを含む場合、前記ポリオール(a1)中、オレフィンポリオールの含有率は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0032】
前記ポリオール(a1)中、ポリマーポリオール(a1-1)の合計の含有率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくボは80質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0033】
また、前記親水性基を有するポリオール(a1-2)における親水性基としては、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等が挙げられ、前記親水性基を有するポリオール(a1-2)としては、例えば、前記したポリオール(a1-1)以外の、アニオン性基を有するポリオール、カチオン性基を有するポリオール、及び、ノニオン性基を有するポリオールを使用することができる。これらの中でも、アニオン性基を有するポリオールまたはカチオン性基を有するポリオールを使用することが好ましく、カチオン性基を有するポリオールを使用することがより好ましい。
【0034】
前記アニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられ、前記アニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、カルボキシ基を有するポリオールや、スルホン酸基を有するポリオール、リン酸基を有するポリオール等が挙げられる。
【0035】
前記カルボキシ基を有するポリオールとしては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のヒドロキシ酸;及び前記カルボキシ基を有するポリオールと前記ポリカルボン酸との反応物などが挙げられる。前記ヒドロキシ酸としては、2,2-ジメチロールプロピオン酸が好ましい。また、前記カルボキシル基を有するポリオールと各種ポリカルボン酸とを反応させて得られるカルボキシル基を有するポリエステルポリオールも使用することもできる。
【0036】
前記スルホン酸基を有するポリオールとしては、例えば、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、5-[4-スルホフェノキシ]イソフタル酸等のジカルボン酸またそれらの塩と、前記芳香族構造を有するポリエステルポリオールの製造に使用可能なものとして例示した低分子量ポリオールとを反応させて得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
【0037】
前記アニオン性基は、それらの一部または全部が塩基性化合物等によって中和されていることが、良好な水分散性を発現するうえで好ましい。
【0038】
前記アニオン性基を中和する際に使用可能な塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の沸点が200℃以上の有機アミンや、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を含む金属水酸化物などが挙げられる。コーティング樹脂組成物の水分散安定性を向上させる観点から、前記塩基性化合物とアニオン性基とのモル比(塩基性基/アニオン性基)は、好ましくは0.5以上3.0以下、より好ましくは0.8以上2.0以下である。
【0039】
また、前記カチオン性基としては、3級アミノ基等が挙げられ、前記カチオン性基を有するポリオールとしては、例えば、3級アミノ基を有するポリオール等が挙げられる。具体的には、N-メチル-ジエタノールアミン、1分子中にエポキシを2個有する化合物と2級アミンとを反応させて得られるポリオール等が挙げられる。
【0040】
前記カチオン性基は、その一部または全部が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グルタル酸、酒石酸、アジピン酸等の酸性化合物で中和されていることが好ましい。
【0041】
また、前記カチオン性基としての3級アミノ基は、その一部または全部が4級化されていることが好ましい。前記4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、メチルクロライド、エチルクロライド等が挙げられる。これらの中でもジメチル硫酸を使用することが好ましい。
【0042】
また、前記ノニオン性基としては、ポリオキシエチレン構造を有する基が挙げられ、前記ノニオン性基を有するポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレン構造を有するポリオール等が挙げられる。
【0043】
前記親水性基を有するポリオール(a1-2)の含有率は、ポリオール(a1)中、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0044】
前記ポリオール(a1)としては、前記したポリオールの他に、必要に応じてその他のポリオールを使用することができる。
【0045】
前記その他のポリオールとしては、低分子量ポリオール(例えば、分子量500以下のジオール、トリオール等)が挙げられ、例えば、メチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール等のアルキレングリコール化合物;グリセリン等のトリオール化合物;水素添加ビスフェノールA等の脂環式ポリオール;サッカロース等の糖類;ソルビトール等の糖アルコール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ヒドロキノン等のフェノール性水酸基含有化合物などが挙げられる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
前記ポリイソシアネート(a2)としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,2-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ジイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、黄変し難いことから、脂肪族または脂環式ジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0047】
前記ポリイソシアネート(a2)に含まれるイソシアネート基と、前記ポリオール(a1)に含まれるヒドロキシ基とのモル比[NCO/OH]は、好ましくは0.9以上であり、好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
【0048】
また、前記ウレタン樹脂を製造する際には、種々の機械的特性や熱特性等の物性、具体的には、塗膜の高硬度化や強靭性の付与を目的として、必要に応じて鎖伸長剤(a3)を使用してもよい。
【0049】
前記鎖伸長剤(a3)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば、エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,3-ブタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン(イソホロンジアミン)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、2,5-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ヒドラジン、o-トリレンジアミン、m-トリレンジアミン、p-トリレンジアミン等のジアミン化合物;ジエチレントリアミン等のトリアミン化合物、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のアミノ基を4個以上有するポリアミン化合物;などが挙げられ、前記低分子量ポリオール(例えば、分子量500以下のポリオール)を用いてもよい。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。本発明の水性樹脂組成物の保存安定性が低下しない範囲内で用いることもできる。
【0050】
前記ウレタン樹脂が、アニオン性基を有する場合、該ウレタン樹脂の酸価は、水分散安定性がより向上することから、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは2mgKOH/g以上、さらに好ましくは5mgKOH/g以上、いっそう好ましくは10mgKOH/g以上であり、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは45mgKOH/g以下、いっそう好ましくは30mgKOH/g以下である。本発明でいう酸価は、前記ウレタン樹脂の製造に使用したカルボキシ基やスルホン酸基を有するポリオール等の酸基含有化合物の使用量に基づいて、前記ウレタン樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数として算出した理論値である。
【0051】
また、前記ウレタン樹脂が、カチオン性基を有する場合、該ウレタン樹脂のアミン価は、好ましくは2mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上であり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下である。本発明で言うアミン価は、前記ウレタン樹脂の製造に使用した3級アミノ基を有するポリオール等の3級アミノ基含有化合物の使用量に基づいて、ウレタン樹脂1gを中和するのに必要な塩化水素のモル数(mmol)及び水酸化カリウムの式量(56.1g/mol)の積として算出した理論値である。
【0052】
前記ポリオール(a1)と前記ポリイソシアネート(a2)と必要に応じて用いる鎖伸長剤(a3)とを、無溶剤下又は有機溶剤の存在下で反応させることにより、前記ウレタン樹脂を製造することができる。前記反応は、通常50~150℃の温度範囲で行うことができる。
【0053】
前記ウレタン樹脂を製造する際に使用可能な有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール化合物;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル化合物;N-メチル-2-ピロリドン等のラクタム化合物などが挙げられる。なお、これらの有機溶剤は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0054】
前記ウレタン樹脂の水分散体は、前記ウレタン樹脂の製造後、反応液と水とを混合し、必要に応じて脱溶剤することによって得られる。
【0055】
前記ウレタン樹脂の含有率は、前記水性樹脂組成物の不揮発分中、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0056】
前記水性樹脂組成物の前記ウレタン樹脂の含有率は、分散安定性を保持できることから、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは60質量%が以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0057】
前記可視光応答型光触媒(B)は優れた抗ウイルス性を得る上で必須の成分であり、例えば、酸化チタン(b1)を含む組成物が挙げられ、より一層優れた抗ウイルス性が得られる点から、酸化チタン(b1)に金属化合物が担持されたものが好ましく挙げられる。
【0058】
前記酸化チタン(b1)としては、例えば、ルチル型酸化チタン(b1-1)、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン等を用いることができる。これらの酸化チタンは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、優れた可視光領域での光触媒活性を有する点から、ルチル型酸化チタン(b1-1)を含むことが好ましい。
【0059】
前記ルチル型酸化チタン(b1-1)の含有率(ルチル化率)としては、より一層優れた明所及び暗所における抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、酸化チタン(b1)全体に対して15モル%以上であることが好ましく、50モル%以上あることがより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
【0060】
前記酸化チタン(b1)の製造方法としては、一般的に、液相法と気相法とが知られている。前記液相法とは、イルメナイト鉱などの原料鉱石を溶解した液から得られる硫酸チタニルを、加水分解又は中和して酸化チタンを得る方法である。また、気相法とは、ルチル鉱などの原料鉱石を塩素化して得られる四塩化チタンと、酸素との気相反応により酸化チタンを得る方法である。なお、両方法により製造された酸化チタンを区別する方法としては、その不純物を分析することが挙げられる。前記液相法により製造された酸化チタンは、その生成物にイルメナイト鉱石中の不純物に由来するジルコニウム、ニオブなどが含まれている。これに対し、気相法では四塩化チタンを精製して、不純物を取り除く工程を有するため、酸化チタン中には、これらの不純物はほとんど含まれない。
【0061】
前記気相法により製造された酸化チタンは、均一な粒子径を生成可能な利点があるものの、2次凝集体は生成しにくいため、見かけの比表面積が高くなることにより反応工程時における混合液の粘度が高くなると考えられる。これに対し、液相法により製造された酸化チタン(b1)は、焼成工程において緩やかな2次凝集体を生成することが考えられ、1次粒子に起因する比表面積(BET値)に対して、凝集力は少なく混合液の粘度を抑制することが可能である。以上の理由より、前記酸化チタン(b1)としては、可視光応答型光触媒の生産性をより一層向上できる点から、液相法により製造された酸化チタンが好ましい。
【0062】
前記酸化チタン(b1)のBET比表面積としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、1~200m/gの範囲が好ましく、3~100m/gの範囲がより好ましく、4~70m/gの範囲がより好ましく、8~50m/gの範囲が更に好ましく、抗ウイルス剤の生産性をより一層高めることができる点から、7.5~9.5m/gの範囲であることが好ましい。なお、酸化チタン(b1)のBET比表面積の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0063】
前記酸化チタン(b1)の1次粒子径としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、0.01~0.5μmの範囲が好ましく、0.06~0.35μmの範囲がより好ましい。なお、前記酸化チタン(b1)の1次粒子径の測定方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で測定した値を示す。具体的には、個々の酸化チタンの1次粒子の短軸径と長軸径を計測し、平均をその1次粒子の粒子径とし、次に100個以上の酸化チタン粒子について、それぞれの粒子の体積(重量)を、求めた粒子径の立方体と近似して求め、体積平均粒径を平均1次粒子径とした。
【0064】
また、前記可視光応答型光触媒としては、可視光領域における光触媒活性を一層向上し、実用的な室内光の下で、適度な活性を発現しやすい点から、酸化チタン(b1)に金属化合物が担持されたものを用いることが好ましい。
【0065】
前記金属化合物としては、例えば、銅化合物、鉄化合物、タングステン化合物等を用いることができる。これらの中でも、より一層優れた抗菌性、及び、抗ウイルス性が得られる点から、銅化合物が好ましく、2価銅化合物がより好ましい。前記酸化チタン(b1)への金属化合物の担持方法としては、公知の手法を用いることができる。
【0066】
次に、最も好ましい態様である、酸化チタン(b1)に2価銅化合物を担持する方法について説明する。
【0067】
前記酸化チタン(b1)に2価銅化合物を担持する方法としては、例えば、ルチル型酸化チタン(b1-1)を含む酸化チタン(b1)、2価銅化合物原料(b2)、水(b3)、及び、アルカリ性物質(b4)の混合工程(i)を有する方法が挙げられる。
【0068】
前記混合工程(i)における前記酸化チタン(b1)の濃度としては、3~40質量%の範囲が好ましい。なお、本発明においては、液相法により製造された酸化チタン(b1)を用いた場合には、酸化チタン(b1)の濃度を高めても取扱いの良好な混合工程を行うことができ、具体的には、前記酸化チタン(b1)の濃度が、25質量%を超えて40質量%以下の範囲でも良好に混合工程を行うことができる。
【0069】
前記2価銅化合物原料(b2)としては、例えば、2価銅無機化合物、2価銅有機化合物等を用いることができる。
【0070】
前記2価銅無機化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、沃素酸銅、過塩素酸銅、シュウ酸銅、四ホウ酸銅、硫酸アンモニウム銅、アミド硫酸銅、塩化アンモニウム銅、ピロリン酸銅、炭酸銅等の2価銅の無機酸塩;塩化銅、フッ化銅、臭化銅等の2価銅のハロゲン化物;酸化銅、硫化銅、アズライト、マラカイト、アジ化銅などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0071】
前記2価銅有機化合物としては、例えば、蟻酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ミスチン酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、乳酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、イソフタル酸銅、テレフタル酸銅、サリチル酸銅、メリト酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、グルタル酸銅、アジピン酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、グリセリン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、イソ吉草酸銅、β-レゾルシル酸銅、ジアセト酢酸銅、ホルミルコハク酸銅、サリチルアミン酸銅、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅、セバシン酸銅、ナフテン酸銅、オキシン銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、フタロシアニン銅、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅メトキシド、ジメチルジチオカルバミン酸銅等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記2価銅化合物原料(b2)としては、前記したものの中でも、下記一般式(1)で示されるものを用いることが好ましい。
CuX (1)
(式(1)において、Xは、ハロゲン原子、CHCOO、NO、又は、(SO1/2を示す。)
【0073】
前記式(1)におけるXとしては、ハロゲン原子であることがより好ましく、塩素原子が更に好ましい。
【0074】
前記混合工程(i)における前記2価銅化合物原料(b2)の使用量としては、前記酸化チタン(b1)100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが好ましく、0.1~15質量部の範囲がより好ましく、0.3~10質量部の範囲が更に好ましい。
【0075】
前記水(b3)は、混合工程(i)における溶媒であり、水単独が好ましいが、必要に応じてその他の溶媒を含んでいてもよい。前記その他の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0076】
前記アルカリ性物質(b4)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、トリメチルアミン、アンモニア、塩基性界面活性剤等を用いることができ、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0077】
前記アルカリ性物質(b4)は、反応を制御しやすい点から、溶液として添加するのが好ましく、添加するアルカリ溶液の濃度としては、0.1~5mol/Lの範囲であることが好ましく、0.3~4mol/Lの範囲がより好ましく、0.5~3mol/Lの範囲が更に好ましい。
【0078】
前記混合工程(i)は、前記酸化チタン(b1)、2価銅化合物原料(b2)、水(b3)、及び、アルカリ性物質(b4)を混合すればよく、例えば、まず水(b3)に酸化チタン(b1)を混合するとともに必要に応じて撹拌し、次いで、2価銅化合物原料(b2)を混合し、撹拌し、その後、アルカリ性物質(b4)を添加して撹拌する方法が挙げられる。この混合工程(i)により、前記2価銅化合物原料(b2)由来の2価銅化合物が前記酸化チタン(b1)に担持することとなる。
【0079】
前記混合工程(i)における全体の撹拌時間としては、例えば、5~120分間が挙げられ、好ましくは10~60分間である。混合工程(i)時における温度としては、例えば、室温~70℃の範囲が挙げられる。
【0080】
酸化チタン(b1)への2価銅化合物の担持が良好である点から、前記酸化チタン(b1)、2価銅化合物原料(b2)、及び、水(b3)を混合・撹拌し、その後アルカリ性物質(b4)を混合・撹拌した後の混合物のpHとしては、好ましくは8~11の範囲であり、より好ましくは9.0~10.5の範囲である。
【0081】
前記混合工程(i)が終了した後には、混合液を固形分として分離することができる。前記分離を行う方法としては、例えば、濾過、沈降分離、遠心分離、蒸発乾燥等が挙げられるが、濾過が好ましい。分離した固形分は、その後必要に応じて、水洗、解砕、分級等を行ってもよい。
【0082】
前記固形分を得た後には、前記酸化チタン(b1)上に担持された前記2価銅化合物原料(b2)由来の2価銅化合物を、より強固に結合することができる点から、固形分を熱処理することが好ましい。熱処理温度としては、好ましくは150~600℃の範囲であり、より好ましくは250~450℃の範囲である。また、熱処理時間は、好ましくは1~10時間であり、より好ましくは、2~5時間である。
【0083】
以上の方法によって、酸化チタン(b1)に2価銅化合物が担持した酸化チタンを含有する酸化チタン組成物が得られる。前記酸化チタン(b1)に担持された2価銅化合物の担持量としては、酸化チタン(b1)100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが、抗ウイルス性を含む光触媒活性の点から好ましい。前記2価銅化合物の担持量は、前記混合工程(i)における前記2価銅化合物原料(b2)の使用量によって調整することができる。
【0084】
コーティング樹脂組成物における可視光応答型光触媒の含有量は、コーティング樹脂組成物の樹脂固形分を100質量部とするとき、下限は通常0.3質量部以上、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、上限は通常100質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは33質量部以下である。これらの上限値と下限値はいずれの組み合わせでもよい。コーティング樹脂組成物における可視光応答型光触媒の含有量は、コーティング樹脂組成物の樹脂固形分を100質量部とするとき、通常0.3質量部以上100質量部以下、好ましくは2質量部以上50質量部以下、より好ましくは3質量部以上33質量部以下である。
【0085】
前記水性媒体(C)としては、水、水と混和しうる有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和しうる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル等のグリコールエーテル溶剤;N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド溶剤などが挙げられる。これらの水と混和する有機溶剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0086】
また、前記水性媒体(C)としては、安全性や環境に対する負荷低減を考慮すると、水のみ、又は、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみがより好ましい。
【0087】
前記水性媒体(C)の含有率は、前記水性樹脂組成物全量中、好ましくは30~80質量%であり、より好ましくは50~70質量%である。
【0088】
前記コーティング樹脂組成物は、前記水性樹脂(A)、可視光応答型光触媒(B)、及び、水性媒体(C)以外に、必要に応じて、架橋剤、可塑剤、帯電防止剤、ワックス、界面活性剤、光安定剤、流動調整剤、染料、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光触媒性化合物、無機顔料、有機顔料、体質顔料等のその他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0089】
前記架橋剤としては、例えば、アミノ樹脂、アジリジン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物等が挙げられる。
【0090】
また、前記界面活性剤を使用することで、本発明のウレタン樹脂組成物の配合安定性をより一層向上できる。界面活性剤を使用する場合は、得られる塗膜の基材密着性を維持できることから、前記水性樹脂(A)100質量部に対して、20質量部以下の範囲で使用することが好ましく、できるだけ使用しないことが好ましい。
【0091】
前記その他の添加剤の含有率は、前記水性樹脂組成物の不揮発分中、例えば30質量%以下、例えば20質量%以下であり、下限は0質量%であり、0.1質量%以上であってもよい。
【0092】
前記コーティング樹脂組成物の基材としては、例えば、金属、各種プラスチックやそのフィルム、ガラス、紙、木材等が挙げられる。
【0093】
前記金属基材としては、例えば、自動車、家電、建材等の用途に使用される亜鉛めっき鋼板やアルミニウム-亜鉛めっき鋼板、アルミ板、アルミ合金板、電磁鋼板、銅板、ステンレス鋼板等が挙げられる。
【0094】
前記プラスチック基材としては、一般に、携帯電話、家電製品、自動車内外装材、OA機器等のプラスチック成型品に採用されている素材として、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ABS/PC樹脂、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA樹脂)、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられ、プラスチックフィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等を使用することができる。
【0095】
前記コーティング剤は、例えば、アルミフィン;外壁、屋根等の建築部材;ガードレール、防音壁、排水溝等の土木部材;家電製品;産業機械;自動車外装材;ゴーグル;防曇フィルムシート、防曇ガラス等の防曇材;鏡;医療器具等の各種物品の表面塗装などに好適に用いることができる。これらの前記コーティング剤の塗膜を有する物品も、本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例0096】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0097】
[調製例1]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:液相法(硫酸法)
c)物性値
・BET比表面積:9.0m/g
・ルチル化率:95.4%
・1次粒子径:0.18μm
【0098】
[酸化チタン(a)のBET比表面積の測定方法]
株式会社マウンテック製全自動BET比表面積測定装置「MacSORB HM model-1208」を使用して、比表面積測定(BET1点法)による測定を行った。
【0099】
[酸化チタン(a)のルチル化率の測定方法]
島津製作所株式会社製X線回折装置「XRD-6100」を使用して、ルチル型結晶に対応するピーク高さ割合を酸化チタン全体の結晶(ルチル型、ブルッカイト型、アナターゼ型)に対応するピーク高さから算出した。
【0100】
[酸化チタン(a)の1次粒子径の測定方法]
透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で測定した。具体的には、個々の酸化チタンの1次粒子の短軸径と長軸径を計測し、平均をその1次粒子の粒子径とし、次に100個以上の酸化チタン粒子について、それぞれの粒子の体積(重量)を、求めた粒子径の立方体と近似して求め、体積平均粒径を平均1次粒子径とした。
【0101】
(2)製造工程
a)混合工程(反応工程)
前記酸化チタン600質量部、塩化銅(II)二水和物8質量部、水900質量部をステンレス容器中に混合した。次いで、混合物を撹拌機(特殊機化工業株式会社製「ロボミクス」)で撹拌し、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を混合液のpHが10になるまで滴下した。
【0102】
b)脱水工程
定性濾紙(5C)により減圧濾過をおこない、混合液から固形分を分離し、更にイオン交換水で洗浄を実施した。次いで、洗浄後の固形物を120℃で12時間乾燥し、水分を除去した。乾燥後、コーヒーミル(イワタニ産業株式会社製「ミルサー」)で粉状の酸化チタン組成物を得た。
【0103】
c)熱処理工程
精密恒温器(ヤマト科学株式会社製「DH650」)を用いて酸素存在下で450℃、3時間熱処理し、酸化銅(II)が担持された酸化チタンを含有する可視光応答型光触媒としての酸化チタン組成物(抗ウイルス剤1)を得た。
【0104】
[調製例2]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:気相法
c)物性値
・BET比表面積:13m/g
・ルチル化率:95.6%
・1次粒子径:0.15μm
【0105】
調製例1において、酸化チタンの種類を前記酸化チタンに変更し、水の使用量を900質量部から4,000質量部に変更した以外は、調製例1と同様にして、可視光応答型光触媒としての酸化チタン組成物(抗ウイルス剤2)を得た。
【0106】
[酸化チタン(a)への2価銅化合物の担持量の測定方法]
調製例で得られた酸化チタン組成物を、フッ酸溶液で全溶解し、抽出液をICP発光分光分析装置により分析して、酸化チタン(a)に対する2価銅化合物の担持量(2価銅化合物の担持量(質量部)/酸化チタン(a)(質量部))を定量した。調製例1、2で得られた抗ウイルス剤(光触媒)における酸化銅(II)の担持量は、酸化チタン100質量部に対して0.5質量部であった。
【0107】
(合成例1:水性樹脂1の合成方法)
3.0リットルのフラスコに1,6-ヘキサンジオール(分子量118)155.4質量部、ネオペンチルグリコール(分子量104)を137.0質量部、アジピン酸(分子量146)を423.9質量部添加し、120℃でそれらを溶融した。次いで、撹拌しながら3時間~4時間かけて220℃へ昇温し5時間保持した後、150℃まで冷却した後2,2’-ジメチロールプロピオン酸(分子量134)を88.2質量部添加し、150℃で撹拌しながら5時間~10時間保持した後、メチルエチルケトン300.0質量部添加することによって、不揮発分70.0質量%のカルボキシル基を有するポリエステルポリオール(a1-1A)(酸価52.9mgKOH/g、水酸基価62.3mgKOH/g)のメチルエチルケトン溶液を調製した。次に、温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、上記カルボキシル基を有するポリエステルポリオール(a1-1A)のメチルエチルケトン溶液198.3質量部、上記ポリエステルポリオール(a1-2A)159.8質量部、1,6-ヘキサンジオール19.1質量部及びトリレンジイソシアネート74.7質量部を、メチルエチルケトン151.8質量部の存在下で3時間反応させた。
【0108】
反応物の規定のNCO%に達した時点で反応を終了し、ポリウレタン(A-1)の有機溶剤溶液を得た。次いで、前記ポリウレタン(A-1)の有機溶剤溶液を、トリエチルアミン17.2質量、水652.6質量部、ピペラジン7.7質量部を加え、攪拌することによりポリウレタン(A-1)の水分散体を得た。次いで、前記ポリウレタン(A-1)の水分散体をエージング及び脱溶剤することによって、不揮発分40質量%のポリウレタン組成物(I-1)(ポリウレタン(A-1)のウレア結合量445mmol/kg)を得た。なお、ウレア結合量は、ピペラジンの使用量に基づいて算出した。
【0109】
(合成例2:水性樹脂2の合成方法)
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、ポリプロピレングリコール-ジグリシジルエーテル(エポキシ当量201g/当量。)590質量部を仕込んだ後、フラスコ内を窒素置換した。次いで、前記フラスコ内の温度が70℃になるまでオイルバスを用いて加熱した後、滴下装置を使用してジ-n-ブチルアミン380質量部を30分間で滴下し、滴下終了後、90℃で10時間反応させた。反応終了後、赤外分光光度計(FT/IR-460Plus、日本分光株式会社製)を用いて、反応生成物のエポキシ基に起因する842cm-1付近の吸収ピークが消失していることを確認し、3級アミノ基含有ポリオール(アミン当量339g/当量、水酸基当量339g/当量。)を調製した。
【0110】
温度計、撹拌装置、還流冷却管及び滴下装置を備えた4ツ口フラスコに、「ニッポラン980R」〔日本ポリウレタン工業株式会社製、1,6-ヘキサンジオールとジメチルカーボネートとを反応させて得られるポリカーボネートポリオール、水酸基当量986g/当量〕を705質量部、ネオペンチルグリコ-ルと1,4-ブタンジオールとテレフタル酸とアジピン酸とを反応させて得られるポリエステル(水酸基当量951g/当量)を352質量部加え、減圧度0.095MPaにて120~130℃で脱水を行った。脱水後、70℃に冷却し、酢酸エチル666質量部を加え、50℃まで冷却しながら十分に撹拌混合した。撹拌混合後、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(4,4-H-MDI)280質量部とオクチル酸第一錫0.3質量部とを加え、70℃で2時間反応させた。反応終了後、前記3級アミノ基含有ポリオールを84質量部添加し、4時間反応させた後、55℃に冷却し、「アミノシランA1100」〔日本ユニカー株式会社製、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン〕47質量部を添加して、1時間反応させることにより、末端イソシアネ-ト基を有するウレタンプレポリマー溶液を調製した。次いで、前記ウレタンプレポリマー溶液にヒドラジン水和物15質量部を加え、鎖伸長反応を1時間行った。次いで、酢酸エチルを1954質量部、酢酸を16質量部添加して、55℃で1時間保持した後、40℃に冷却し、イオン交換水3300質量部を添加することにより、水分散体を調製した。この水分散体を減圧蒸留することにより、不揮発分が35質量%で、pHが4.1である、カチオン性ポリウレタン樹脂水分散体(I)を調製した。なお、pHはPHメーター(株式会社堀場製作所製、M-12)を用い、25℃の環境下で測定した値である。
【0111】
(実施例1~4、比較例1~4)
合成例1、2で得られた水性樹脂1、2 100質量部と、調製例1、2で得られた光触媒1、2又は酸化チタン(ケマーズ製「Ti-Pure R-706」)を表1に示す通りに配合し、高速ディスパーにて2000rpmで徐々に添加した後、30分攪拌して、抗ウイルス性コーティング剤1~4、比較コーティング剤1~4を得た。
【0112】
〔抗ウイルス性能評価〕
実施例、比較例で得られた得られたコーティング剤(1g/m2)をコロナ処理PET(東レ株式会社製ルミラー(50μm厚))に、乾燥重量10g/m2となるように塗布して、80℃で2分間乾燥させ、試料を作製した。次いで、得られた試料について、抗ファージウイルス試験(JIS R1756:2020)を実施した。
1)光照射条件は、白色蛍光灯の光をN113フィルターによって紫外線をカットし、照度500ルクスとした。
2)実施例及び比較例で得られた試料を50mm×50mmに切り取り、コーティング面上に濃度既知の100μLのQβファージ溶液を垂らした後、4cm×4cmの密着フィルムをかぶせ、評価用のサンプルとした。
3)8時間光照射したサンプルを、SCDLP液で回収し、適度に希釈したものを大腸菌と感染させ、寒天培地に塗布し、培養後のコロニー数をカウントすることで評価した。抗ウイルス性はQβファージの不活化度から下記の基準により評価した。
〇:不活化度が-2以下
×:不活化度が-2より大きい
【0113】
結果を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
実施例1~4は、本発明の実施例であり、抗ウイルス性を付与することが可能であった。一方、比較例1~4は、可視光応答型光触媒を含まない例であり、抗ウイルス性が不良であった。