(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076882
(43)【公開日】2022-05-20
(54)【発明の名称】粒子状材料及びその製造方法、その利用
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20220513BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20220513BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220513BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220513BHJP
B01J 23/70 20060101ALI20220513BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/90 X
H01M4/90 B
H01M4/88 K
H01M12/08 K
B01J23/70 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187522
(22)【出願日】2020-11-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】幅▲ざき▼ 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】北野 翔
(72)【発明者】
【氏名】青木 芳尚
【テーマコード(参考)】
4G048
4G169
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE07
4G169AA02
4G169AA05
4G169AA08
4G169AA11
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5H018AA10
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB03
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5H018HH01
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5H018HH08
5H032AA01
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5H032AS02
5H032AS03
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5H032EE02
5H032EE15
5H032HH01
5H032HH04
5H032HH06
(57)【要約】
【課題】結晶構造の異なる酸水酸化物とスピネル型酸化物がナノサイズ領域で複合された材料を提供すること、さらにはこの材料を用いた空気極用触媒、金属空気二次電池空気極及び金属空気二次電池を提供すること。
【解決手段】粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊と粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料。Co、Ni及びFeを含む層状複水酸化物及びCo、Ni及びFeを含む金属水酸化物を含む前駆体を焼成して上記粒子状材料を得る、粒子状材料の製造方法。上記粒子状材料を含む空気極用触媒及び金属空気二次電池空気極。上記粒子状材料を含む空気極と、負極活物質を含有する負極と、前記空気極及び負極の間に介在する電解質とを有する金属空気二次電池。
【選択図】
図13-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊と粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料。
【請求項2】
前記金属酸水酸化物粒子塊及び前記スピネル型金属酸化物粒子塊の少なくとも一部はそれぞれ粒子状材料の表面に存在する、請求項1に記載の粒子状材料。
【請求項3】
前記粒子状材料は、Co原子を60~95モル%、Ni原子を1~25モル%及びFe原子を1~20モル%含有し、かつ、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上である、但し、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする、請求項1または2に記載の材料
【請求項4】
前記粒子状材料のCo原子含有量は70~90モル%、Ni原子含有量は4~25モル%及びFe原子含有量は2~14モル%である、請求項3に記載の粒子状材料。
【請求項5】
前記金属酸水酸化物粒子塊は、Co原子を60~95モル%、Ni原子を1~25モル%及びFe原子を1~20モル%含有し、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上であり、
前記スピネル型金属酸化物粒子塊は、Co原子を60~95モル%、Ni原子を1~25モル%及びFe原子を1~20モル%含有し、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上である、但し、いずれの場合も、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の粒子状材料。
【請求項6】
前記金属酸水酸化物粒子塊の粒子径は1~20nmの範囲であり、前記スピネル型金属酸化物粒子塊の粒子径は1~20nmの範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載の粒子状材料。
【請求項7】
少なくとも一部の粒子状材料の粒子径は、0.01~50μmの範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載の粒子状材料。
【請求項8】
Co、Ni及びFeを含む層状複水酸化物及びCo、Ni及びFeを含む金属水酸化物を含む前駆体を焼成して粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊と粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料を得る、粒子状材料の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体は、Co2+を70~98モル%、Ni2+を1~20モル%及びFe3+を1~10モル%含む水溶液にアルカリを添加して製造する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
焼成は、110~190℃の範囲の温度で行う、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粒子状材料を含む空気極用触媒。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粒子状材料を含む金属空気二次電池空気極。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粒子状材料を含む空気極と、負極活物質を含有する負極と、前記空気極及び負極の間に介在する電解質とを有する金属空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状材料及びその製造方法、その利用に関する。詳細には、本発明は、金属酸水酸化物粒子塊とスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料及びその製造方法、その空気極用触媒等への利用に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛空気二次電池は、現在実用化されているリチウムイオン電池の5倍以上の理論容量を示し、次世代の二次電池として注目されている。亜鉛空気二次電池の実用化のためには様々な課題が山積している。特に空気極における酸素生成反応(OER)、酸素還元反応(ORR)の大きな過電圧が効率を著しく低下させることから、両反応に高い活性を示すバイファンクショナルな空気極触媒の開発が求められている。しかし、現在までに、両反応に高い活性を示す単一の触媒材料は報告されていない。唯一、CoMn2O4とMnOOHを組み合わせたOERとORRの両方に活性を有する触媒の例が知られている(非特許文献1)。
【0003】
金属の価格や産出量の観点から第4周期の遷移金属から成る触媒が注目されており、OER触媒として金属酸水酸化物が高い活性を示すことが報告されている(例えば、特許文献1及び非特許文献2)。ORR触媒としてスピネル型の結晶構造を有する金属酸化物が高い活性を示すことが報告されている(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chem.Commun.,2018,54,4005
【非特許文献2】Angew.chem.Int.Ed.2018,57,2672-2676
【非特許文献3】Adv.Mater.2014,26,2408-2412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、バイファンクショナル空気触媒としては、これらの触媒を単純に混合するだけでは両反応に対して同時に高い活性を得ることは達成できておらず、高性能な空気極触媒を開発するためには、ナノサイズ領域で複合された触媒材料を合成する必要がある。しかしながら、結晶構造の異なる酸水酸化物とスピネル型酸化物がナノサイズ領域で複合された材料の開発方法は未だ確立されていない。
【0007】
そこで本発明の目的は、結晶構造の異なる酸水酸化物とスピネル型酸化物がナノサイズ領域で複合された材料を提供すること、さらにはこの材料を用いた空気極用触媒、金属空気二次電池空気極及び金属空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の通りである。
[1]
粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊と粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料。
[2]
前記金属酸水酸化物粒子塊及び前記スピネル型金属酸化物粒子塊の少なくとも一部はそれぞれ粒子状材料の表面に存在する、[1]に記載の粒子状材料。
[3]
前記粒子状材料は、Co原子を60~95モル%、Ni原子を1~25モル%及びFe原子を1~20モル%含有し、かつ、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上である、但し、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする、[1]または[2]に記載の材料
[4]
前記粒子状材料のCo原子含有量は70~90モル%、Ni原子含有量は4~25モル%及びFe原子含有量は2~14モル%である、[3]に記載の粒子状材料。
[5]
前記金属酸水酸化物粒子塊は、Co原子を60~95モル%、Ni原子を1~25モル%及びFe原子を1~20モル%含有し、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上であり、
前記スピネル型金属酸化物粒子塊は、Co原子を60~95モル%、Ni原子を1~25モル%及びFe原子を1~20モル%含有し、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上である、但し、いずれの場合も、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする、[1]~[4]のいずれか1項に記載の粒子状材料。
[6]
前記金属酸水酸化物粒子塊の粒子径は1~20nmの範囲であり、前記スピネル型金属酸化物粒子塊の粒子径は1~20nmの範囲である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の粒子状材料。
[7]
少なくとも一部の粒子状材料の粒子径は、0.01~50μmの範囲である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の粒子状材料。
[8]
Co、Ni及びFeを含む層状複水酸化物及びCo、Ni及びFeを含む金属水酸化物を含む前駆体を焼成して粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊と粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料を得る、粒子状材料の製造方法。
[9]
前記前駆体は、Co2+を70~98モル%、Ni2+を1~20モル%及びFe3+を1~10モル%含む水溶液にアルカリを添加して製造する、[8]に記載の製造方法。
[10]
焼成は、110~190℃の範囲の温度で行う、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]
[1]~[7]のいずれか1項に記載の粒子状材料を含む空気極用触媒。
[12]
[1]~[7]のいずれか1項に記載の粒子状材料を含む金属空気二次電池空気極。
[13]
[1]~[7]のいずれか1項に記載の粒子状材料を含む空気極と、負極活物質を含有する負極と、前記空気極及び負極の間に介在する電解質とを有する金属空気二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、結晶構造の異なる酸水酸化物とスピネル型酸化物がナノサイズ領域で複合された材料を提供することができ、この材料はOERとORRの両方の活性が高い触媒となり得る。さらにこの材料を用いた空気極用触媒、金属空気二次電池空気極及び金属空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1(Co73Ni13Fe14試料)における前駆体および100、150、200℃焼成触媒のXRDパターンを示す。
【
図2】実施例1(Co73Ni13Fe14試料)における前駆体および各温度で焼成した試料の(a)ORR、(b)OER活性評価を示す。
【
図3】実施例2(Co80Ni6Fe14試料)における前駆体および100、150℃焼成触媒のXRDパターンを示す。
【
図4】実施例2(Co80Ni6Fe14試料)における前駆体および各温度で焼成した試料の(a)ORR、(b)OER活性評価を示す。
【
図5】実施例3(Co84Ni12Fe4試料)における前駆体および150℃焼成触媒のXRDパターンを示す。
【
図6】実施例3(Co84Ni12Fe4試料)における前駆体および150℃で焼成した試料の(a)ORR、(b)OER活性評価を示す。
【
図7】参考例1(Co72Ni6Fe22試料)における前駆体と100、150℃焼成触媒のXRDパターンを示す。
【
図8】参考例1(Co72Ni6Fe22試料)における前駆体および各温度で焼成した試料の(a)ORR、(b)OER活性評価を示す。
【
図9】参考例2(Co65Ni20Fe15試料)における前駆体および150℃焼成触媒のXRDパターンを示す。
【
図10】参考例2(Co65Ni20Fe15試料)における前駆体および150℃で焼成した試料の(a)ORR、(b)OER活性評価を示す。
【
図11】参考例3(Co50Ni36Fe14試料)における前駆体と100、150℃焼成触媒のXRDパターンを示す。
【
図12】参考例3(Co50Ni36Fe14試料)における前駆体および各温度で焼成した試料の(a)ORR、(b)OER活性評価を示す。
【
図13-1】実施例1において150℃焼成したCo73Ni13Fe14試料のTEM像(a)低倍像、(b)赤部分の高倍像を示す。
【
図13-2】実施例1において150℃焼成したCo73Ni13Fe14試料のTEM-EDX分析の結果を示す。
【
図14-1】実施例2において、150℃焼成したCo80Ni6Fe14試料のSTEM像(a)低倍像、(b)赤部分の高倍像を示す。
【
図14-2】実施例1において150℃焼成したCo80Ni6Fe14試料のSTEM-EDX分析の結果を示す。
【
図15】CFCOおよび150℃焼成Co73Ni13Fe14試料(実施例1)を用いた時の空気極耐久試験結果を示す。
【
図16】本発明の金属空気二次電池の一構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[粒子状材料]
本発明は、粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊と粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料に関する。
【0012】
金属酸水酸化物は、MOOH(M:3価の金属)の組成式で示される化合物であり、Mで表される3価の金属は、2以上の3価金属で構成されることができる。たとえばM、M’及びM’’の3種類の金属を含む場合は、MxM’yM’’(1-x-y)OOHとの組成になる。式中のx、y及びzは、M、M’、及びM’’の個数を表し、1以下の数値である。例えば、M、M’及びM’’のCo、Ni及びFeであり、それぞれの個数が0.6、0.3及び0.1の場合、Co0.6Ni0.3Fe0.1OOHと表記される。金属酸水酸化物は、アニオンの組成比が若干ずれても構造は維持できる。例えば、CoO(OH)0.99などの組成比も可能である。即ち、MO(OH)pで表示すると、pは1未満または1超であっても酸水酸化物の結晶構造を維持していればよい。本発明における金属酸水酸化物は、金属としてCo、Ni及びFeを含む酸水酸化物であり、β-CoOOH型結晶構造と同一の結晶構造を有する。金属酸水酸化物であるか否かの同定は、XRDデータにおいてβ-CoOOH型結晶と対比することで行うことができる。本発明の粒子状材料を金属空気二次電池空気極の触媒として使用する際に、金属酸水酸化物は主にOER活性を提示する。
【0013】
スピネル型金属酸化物は、AB2O4(A:2価の金属、B:3価の金属)の組成式で示され、A及びBは共に2種類以上の金属が共存できる。AとBには2種類以上の金属が共存できるため、例えば、(Ni0.1Co0.9)(Fe0.4Co1.6)O4などの組成のスピネル型金属酸化物となり得る。ただし、元素の比率が若干ずれてもスピネル構造は維持できるため、例えば、NiCo2O3.99などの組成比のスピネル酸化物の報告もある。本発明におけるスピネル型金属酸化物は、金属としてCo、Ni及びFeを含む酸化物であり、結晶構造としてスピネル型構造を有する。スピネル型金属酸化物であるか否かの同定は、XRDデータにおいてCo3O4結晶と対比することで行うことができる。
【0014】
本発明の粒子状材料は、粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊と粒子径が1~100nmの範囲にあるCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む。金属酸水酸化物粒子塊とスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含むことは、TEM像を観察することで判断することができる。本発明の粒子状材料は、上記金属酸水酸化物粒子塊とスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含むことで、OERとORRの両方の活性が高い触媒を得ることができる。金属酸水酸化物粒子塊は、粒子径が1~100nmの範囲であり、好ましくは1~50nmの範囲、より好ましくは1~20nmの範囲である。スピネル型金属酸化物粒子塊は、粒子径が1~100nmの範囲であり、好ましくは1~50nmの範囲、より好ましくは1~20nmの範囲である。本発明の粒子状材料を金属空気二次電池空気極の触媒として使用する際に、スピネル型金属酸化物は主にORR活性を提示する。
【0015】
本発明の粒子状材料は、好ましくは金属酸水酸化物粒子塊及び前記スピネル型金属酸化物粒子塊の少なくとも一部はそれぞれ粒子状材料の表面に存在する。金属酸水酸化物粒子塊及びスピネル型金属酸化物粒子塊の少なくとも一部がそれぞれ粒子状材料の表面に存在することは、TEM像を観察することで判断することができる。OER活性は主に金属酸水酸化物粒子塊において生じ、ORR活性は主にスピネル型金属酸化物粒子塊において生じていると考えられることから、両者の少なくとも一部がそれぞれ粒子状材料の表面に存在することで、OERとORRの両方の活性が高い触媒を得ることができる。
【0016】
本発明の粒子状材料は、Co原子、Ni原子及びFe原子を含み、Co原子、Ni原子及びFe原子の含有量がそれぞれ、例えば、60~95モル%、1~25モル%、1~20モル%であり、かつNi原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上であることが適当である。但し、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする。粒子状材料がこの含有量を有することで、OERとORRの両方の活性が高い触媒を得ることができる。粒子状材料のCo原子、Ni原子及びFe原子の含有量は、OERとORRの両方の活性がより高い触媒であるという観点から、Co原子、Ni原子及びFe原子がそれぞれ70~95モル%、4~25モル%、2~20モル%であることが好ましく、70~85モル%、5~15モル%、3~15モル%であることがより好ましい。また、Ni原子及びFe原子の合計含有量は、好ましくは10~35モル%、より好ましくは15~30モル%の範囲である。本発明の粒子状材料には、Co、Ni及びFe以外の金属原子が、不純物として不可避的に含有されても良い。あるいは、本発明の粒子状材料には、Co、Ni及びFe以外の金属原子、例えば、Si、Na、Mg、Ca、Zn、Al、Pb、Cu、Mn等の原子を、本発明の効果を損なわれない範囲において添加してもよい。但し、Co、Ni及びFe以外の金属原子を含む場合であっても、粒子状材料におけるCo原子、Ni原子及びFe原子の含有量(モル%表示)は、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする。
【0017】
金属酸水酸化物粒子塊及びスピネル型金属酸化物粒子塊におけるCo原子、Ni原子及びFe原子の含有量は、粒子状材料のCo原子、Ni原子及びFe原子の含有量(モル%表示)とほぼ同様である。金属酸水酸化物粒子塊のCo原子、Ni原子及びFe原子の含有量は、それぞれ、例えば、60~95モル%、1~25モル%、1~20モル%であり、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上である。スピネル型金属酸化物粒子塊は、Co原子、Ni原子及びFe原子の含有量は、例えば、それぞれ60~95モル%、1~25モル%、1~20モル%の範囲であり、Ni原子及びFe原子の合計含有量が5モル%以上であることが適当である。金属酸水酸化物粒子塊及びスピネル型金属酸化物粒子塊のいずれか、または両方が、Co、Ni及びFe以外の金属原子、例えば、Si、Na、Mg、Ca、Zn、Al、Pb、Cu、Mn等の原子を、不可避的な不純物として、あるいは本発明の効果を損なわれない範囲において添加物として含んでもよい。この場合も、粒子状材料の場合と同様に、Co原子、Ni原子及びFe原子の含有量(モル%表示)は、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする。
【0018】
本発明の粒子状材料は、少なくとも一部の粒子状材料の粒子径が、例えば、0.01~50μmの範囲であることができ、好ましくは0.01~20μmの範囲、より好ましくは0.01~10μmの範囲である。但し、粒子状材料の粒子径は、粉砕や分級をすることで適宜調整することができる。
【0019】
本発明の粒子状材料の一例のTEM像及びSTEM像を
図13-1及び
図14-1に示す。
図13-1に示すTEM像は、実施例1で調製した150℃焼成したCo73Ni13Fe14試料のTEM像である。
図14-1に示すSTEM像は、実施例2で調製した150℃焼成したCo80Ni6Fe14試料のSTEM像である。これらの像から分かるように、本発明の粒子状材料は、スピネル型金属酸化物粒子塊と酸水酸化物粒子塊と1つの粒子に含むことが分かる。これらの粒子のTEM-EDX分析及びSTEM-EDX分析は、
図13-2及び
図14-2に示すように、スピネル型金属酸化物は、金属としてCo、Ni及びFeを含み、金属酸水酸化物も金属としてCo、Ni及びFeを含むことを示した。
【0020】
さらに、
図13-1、
図14-1に示すTEM像またはSTEM像からスピネル型酸化物粒子塊と酸水酸化物粒子塊とは、少なくとも一部の領域で、それぞれ粒子状材料の表面に存在することが分かる。
【0021】
[粒子状材料の製造方法]
本発明は、Co、Ni及びFeを含む層状複水酸化物及びCo、Ni及びFeを含む金属水酸化物を含む前駆体を焼成してCo、Ni及びFeを含む金属酸水酸化物粒子塊とCo、Ni及びFeを含むスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料を得る、粒子状材料の製造方法を包含する。本発明の粒子状材料は、この方法で製造することができる。
【0022】
本発明の製造方法において用いる前駆体は、Co、Ni及びFeを含む層状複水酸化物及びCo、Ni及びFeを含む金属水酸化物を含む。
【0023】
金属水酸化物は、M(OH)2(M:2価の金属)の組成式で示され、Mは複数の2価金属で構成されることができる。Co、Ni及びFeを含む金属水酸化物は、金属としてCo、Ni及びFeを含むので、CoxNiyFe(1-x-y)(OH)2という組成になり、x、y及びzは、前駆体調製に用いる原料中のCo、Ni及びFeの比によって変化する。アニオンの組成比が若干ずれても構造は維持できる。金属水酸化物は、六方晶系の水酸化カドミウム型構造(ヨウ化カドミウム構造)またはブルーサイト型結晶構造で特定できる。
【0024】
層状複水酸化物は、[M1-xM’x(OH)2][Ax/n・yH2O]の組成式で示される不定比化合物である。Mは1価または2価の金属であり、M’は3価または4価の金属である。MとM’には2種類以上の金属が共存できる。Co、Ni及びFeを含む層状複水酸化物は、x=0.2の場合、[Co0.6Ni0.2Co0.1Fe0.1(OH)2][(CO3)0.2・0.5H2O]と表記される。MとM’の価数の組み合わせは、M-M’=1-3、2-3、2-4価があるが、ほとんどの場合はM-M’=2-3である。Aは、1価または2価のアニオンである。一般的にx=0.2-0.33、nはアニオンの価数である。M1-xM’x(OH)2の組成で構成されるシート層の層間にアニオンAと水分子が挿入された層状構造を有する。
【0025】
前記前駆体は、例えば、Co2+を70~98モル%、Ni2+を1~20モル%及びFe3+を1~10モル%含む水溶液にアルカリを添加して製造することができる。この組成の金属イオンを含有する水溶液にアルカリを添加することで、Co、Ni及びFeを含む層状複水酸化物及びCo、Ni及びFeを含む金属水酸化物の両方を含む前駆体が沈殿する。Co、Ni及びFeの原料は、これらの金属の塩であることができ、例えば、硝酸塩、酢酸塩、クエン酸塩等であることができる。アルカリは、特に制限はないが、例えば、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水などであることができ、アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウムを用いることができる。沈殿は常法により固液分離して、得られた固体は適宜洗浄及び乾燥することができる。洗浄は水洗及びアルコール(例えば、エタノール)で洗浄して、原料やアルカリを除去した後に乾燥することが好ましい。
【0026】
前駆体は、層状複水酸化物及び金属水酸化物の両方を含むことで、後述する焼成によって、層状複水酸化物はスピネル型金属酸化となり、金属水酸化物は、金属酸水酸化物になる。前述のように、Co2+を70~98モル%、Ni2+を1~20モル%及びFe3+を1~10モル%含む水溶液にアルカリを添加して製造することで、層状複水酸化物及び金属水酸化物の両方が適量含まれた前駆体が得られる。水溶液のCo2+、Ni2+及びFe3+組成比は、層状複水酸化物及び金属水酸化物の両方が適量含まれるように適宜調整することができる。この方法で製造される前駆体は、例えば、Co原子、Ni原子及びFe原子の含有量がそれぞれ60~95モル%、1~25モル%、1~20モル%の範囲である。前駆体におけるCo原子、Ni原子及びFe原子の含有量(モル%表示)は、Co原子、Ni原子及びFe原子の合計を100モル%とする。
【0027】
前駆体の焼成は、金属酸水酸化物粒子塊とスピネル型金属酸化物粒子塊を1粒子中に含む粒子状材料を得るという観点から、前駆体におけるCo、Ni及びFeの比率にもよるが、例えば、110~190℃の範囲の温度で行うことが適当である。前駆体の焼成は、好ましくは120~180℃の範囲、より好ましくは130~170℃の範囲である。前駆体の焼成時間は、焼成により得られる粒子状材料が金属酸水酸化物粒子塊とスピネル型金属酸化物粒子塊を含むものになる条件であれば特に制限はなく、温度によっても変化するが、例えば、1時間~24時間であることができる。焼成の雰囲気は、酸素含有雰囲気であればよく、操作が容易であるという観点からは大気中で実施することが適当である。焼成によって得られた粒子状材料はそのまま、又は適宜粉砕及び分級などして触媒として用いることができる。
【0028】
<電極用触媒>
本発明は、本発明の粒子状材料を含む空気極用触媒を包含する。
【0029】
本発明の粒子状材料を含む空気極用触媒及び水電解陽極用触媒は、表面積が例えば、1~100m2/gの範囲であることができ、好ましくは、10~100m2/gの範囲である。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0030】
本発明の粒子状材料は、空気極用として極めて有用であり、光水分解による水素製造や、次世代型高容量二次電池として期待されている金属空気二次電池の空気極として極めて有望である。
【0031】
本発明の粒子状材料は、ORRに対する触媒活性にも優れる。ORR反応は下記の反応式で表される。
O2+4H++4e-→2H2O(中性から酸性)
O2+2H2O+4e-→4OH-(塩基性)
本発明の粒子状材料はOER活性及びORR活性の両者が優れたものであり、二次電池における空気極として、極めて有用である。
【0032】
<空気極>
空気極は、正極として機能する。空気極は、通常、多孔質構造を有し、酸素反応触媒の他、導電性材料を含む。また、空気極は、必要に応じて、バインダー等を含んでいてもよい。空気極は、本発明の粒子状材料以外のOER触媒又はORR触媒、その両者を含むこともできる。二次電池における空気極には、充電時の機能としてOER触媒活性と、放電時の機能としてORR触媒活性を有することを要する。本発明の触媒はOERとORRの両方の触媒であるので、単独で空気極の触媒とすることができる。空気極における充電及び放電時の化学式を以下に示す。
【0033】
【0034】
空気極における本発明の触媒の含有量は、特に限定されないが、空気極の酸素反応性能及び酸素還元性能を高める観点から、例えば、1~90質量%であることが好ましく、特に10~80質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましい。
【0035】
本発明の粒子状材料以外のOER触媒としては、特に制限はない。OER触媒は、例えば、WO2015/115592に記載のブラウンミラーライト型遷移金属酸化物であることができる。但し、これらに限定される意図ではない。
【0036】
本発明の粒子状材料以外のORR触媒の例としては、特に制限はないが、例えば、PtまたはPt系材料(例えば、PtCo、PtCoCr、Pt-W2C、Pt-RuOxなど)、Pd系材料(例えば、PdTi、PdCr、PdCo、PdCoAuなど)、金属酸化物(例えば、ZrO2-x、TiOx、TaNxOy、IrMOxなど)、錯体系(Co-ポルフィリン錯体)、その他(PtMoRuSeOx、RuSeなど)を挙げることができる。さらに、Suntivichらが高活性と報告しているLaNiO3(Nat.Chem.3,546(2011))、Liらが報告しているCoO/N-doped CNT(Nat.Commun.4,1805(2013))なども例示できる。但し、これらに限定される意図ではない。また、各触媒の性能や性質を考慮して複数の触媒を組み合わせて用いることもできる。さらに上記触媒には、助触媒(例えば、TiOx、RuO2、SnO2など)を組み合わせて用いる事もできる。追加のORR触媒を併用する場合の含有量は、ORR触媒の種類や触媒活性等を考慮して適宜決定することができ、例えば、1~90質量%であることができる。但し、この数値範囲に限定される意図ではない。
【0037】
導電性材料としては、特に限定されず、導電助剤として一般的に使用可能なものであればよいが、好適なものとして導電性カーボンが挙げられる。具体的には、メソポーラスカーボン、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー等が挙げられる。導電性材料としては、さらに、WO2019/039538に記載の炭素六角網面のプレートレット構造を有し、ファイバーの側面に露出した炭素六角網面のエッジの少なくとも一部が、近接する炭素六角網面のエッジとの間でのループ構造を有するpCNF(ループエッジ-pCNF(lpe-pCNF))を含む酸素発生電極用導電助剤を用いることもできる。空気極において多くの反応場を提供することから、比表面積が大きい導電性カーボンが好ましい。具体的には、比表面積が1~3000m2/g、特に500~1500m2/gである導電性カーボンが好ましい。空気極の触媒は、導電性材料に担持させてもよい。
【0038】
空気極における導電性材料の含有量は、特に限定されないが、放電容量を高める観点から、例えば、10~99質量%であることが好ましく、特に20~80質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがより好ましい。
【0039】
空気極にバインダーを含有させることで、触媒や導電性材料を固定化し、電池のサイクル特性を向上させることができる。バインダーとしては特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びその共重合体、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。空気極におけるバインダーの含有量は、特に限定されないが、カーボン(導電性材料)と触媒との結着力の観点から、例えば、1~40質量%であることが好ましく、特に5~35質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0040】
空気極は、例えば、上記した空気極構成材料を適当な溶媒に分散させて調製したスラリーを基材上に塗布、乾燥することで形成することができる。溶媒としては、特に限定されず、例えば、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。空気極構成材料と溶媒との混合は、通常、3時間以上、好ましくは4時間行うことが好ましい。混合方法は特に限定されず、一般的な方法を採用することができる。
【0041】
スラリーを塗布する基材は、特に限定されず、ガラス板、テフロン(登録商標)板等が挙げられる。これら基材は、スラリーの乾燥後、得られた空気極から剥離される。或いは、空気極の集電体や、固体電解質層を、上記基材として扱うこともできる。この場合、基材は剥離せずに、金属空気二次電池の構成部材としてそのまま利用する。
【0042】
スラリーの塗布方法、乾燥方法は、特に限定されず、一般的な方法を採用することができる。例えば、スプレー法、ドクターブレード法、グラビア印刷法等の塗布方法、加熱乾燥、減圧乾燥等の乾燥方法を採用することができる。
【0043】
空気極の厚さは、特に限定されず、金属空気二次電池の用途等に応じて適宜設定すればよいが、通常、5~100μm、10~80μm、特に20~70μmであることが好ましい。
【0044】
空気極には、通常、空気極の集電を行う空気極集電体が接続される。空気極集電体の材料、形状は特に限定されない。空気極集電体の材料としては、例えば、ステンレス、アルミニウム、鉄、ニッケル、チタン、炭素(カーボン)等が挙げられる。また、空気極集電体の形状としては、箔状、板状、メッシュ(グリッド状)、繊維状等が挙げられ、中でもメッシュ状等の多孔質形状であることが好ましい。多孔質形状の集電体は、空気極への酸素供給効率に優れているからである。
【0045】
<金属空気二次電池>
本発明の金属空気二次電池は、上記本発明の粒子状材料を含む触媒を含有する空気極と、負極活物質を含有する負極と、空気極と負極との間に介在する電解質と、を有する。本発明の金属空気二次電池の空気極には、本発明の粒子状材料を含む触媒が含有され、この触媒は優れたOER触媒及びORR触媒特性を示す。従って、この触媒を用いた空気極を用いることで、充電に必要な過電圧を低減し、放電時における電池の起電力を向上させ、高い効率を達成することができるので、本発明の金属空気二次電池は、充放電電圧に優れたものとなる。
【0046】
また、空気極は前記のようにOER触媒活性を有する触媒又はORR触媒活性を有する触媒を共存させることもできる。
【0047】
以下、本発明の金属空気二次電池の一構成例について説明する。尚、本発明の金属空気二次電池は、以下の構成に限定されるものではない。
図16は、本発明の金属空気二次電池の一形態例を示す断面図である。金属空気二次電池1は、酸素を活物質とする正極である空気極2、負極活物質を含有する負極3、空気極2及び負極3の間でイオン伝導を担う電解質4、空気極2の集電を行う空気極集電体5、及び負極3の集電を行う負極集電体6からなり、これらが図示しない電池ケースに収容されている。空気極2には、該空気極2の集電を行う空気極集電体5が電気的に接続され、空気極集電体5は、空気極2への酸素供給が可能な多孔質構造を有している。負極3には、該負極3の集電を行う負極集電体6が電気的に接続され、空気極集電体5及び負極集電体6の端部のうち一方は、電池ケースから突出している。それぞれ、正極端子(図示せず)、負極端子(図示せず)として機能する。
【0048】
(負極)
負極は、負極活物質を含有する。負極活物質としては、一般的な空気電池の負極活物質を用いることができ、特に限定されるものではない。負極活物質は、通常、金属イオンを吸蔵・放出することができるものである。具体的な負極活物質としては、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Al、及びFe等の金属、これら金属の合金、酸化物及び窒化物、並びに炭素材料等が挙げられる。
【0049】
中でも、亜鉛-空気二次電池は安全面において優れており、次世代の二次電池として期待されている。尚、高電圧高出力という観点からはリチウム-空気二次電池及びマグネシウム空気二次電池が有望である。
亜鉛-空気二次電池の例を以下に説明すると、反応式は以下の通りである。
【化2】
【0050】
本発明の亜鉛-空気二次電池において、負極としては、亜鉛イオンを吸蔵・放出可能な材料を用いる。このような負極としては、金属亜鉛のほかに、亜鉛合金を用いることもできる。亜鉛合金としては、例えば、アルミニウム、インジウム、マグネシウム、スズ、チタン、銅、から選択される一種または二種以上の元素を含有する亜鉛合金を挙げることができる。
【0051】
リチウム-空気二次電池の負極活物質としては、例えば金属リチウム;リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等のリチウム合金;スズ酸化物、ケイ素酸化物、リチウムチタン酸化物、ニオブ酸化物、タングステン酸化物等の金属酸化物;スズ硫化物、チタン硫化物等の金属硫化物;リチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等の金属窒化物;並びにグラファイト等の炭素材料等を挙げることができ、中でも金属リチウムが好ましい。
【0052】
さらに、マグネシウム-空気二次電池の負極活物質としては、マグネシウムイオンを吸蔵・放出可能な材料を用いる。このような負極としては、金属マグネシウムのほかに、マグネシウムアルミニウム、マグネシウムシリコン、マグネシウムガリウムなどのマグネシウム合金などを用いることができる。
【0053】
箔状や板状の金属や合金等を負極活物質として用いる場合には、該箔状や板状の負極活物質を負極そのものとして使用することができる。
【0054】
負極は、少なくとも負極活物質を含有してればよいが、必要に応じて、負極活物質を固定化する結着材を含有していてもよい。結着材の種類、使用量等については、上述した空気極と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0055】
負極には、通常、負極の集電を行う負極集電体が接続される。負極集電体の材料、形状は特に限定されない。負極集電体の材料としては、例えば、ステンレス、銅、ニッケル等が挙げられる。また、負極集電体の形状としては、箔状、板状、メッシュ(グリッド状)等が挙げられる。
【0056】
(電解質)
電解質は、空気極と負極との間に配置される。電解質を介して、負極と空気極との間の金属イオン伝導が行われる。電解質の形態は、特に限定されるものではなく、液体電解質、ゲル電解質、固体電解質等を挙げることができる。
【0057】
電解液は、負極が亜鉛又はその合金の場合を例に挙げれば、酸化亜鉛を含む水酸化カリウム水溶液や水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液を用いてもよいし、塩化亜鉛や過塩素酸亜鉛を含む水溶液を用いてもよいし、過塩素酸亜鉛を含む非水系溶媒や亜鉛ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを含む非水系溶媒を用いてもよい。また、負極がマグネシウム又はその合金の場合を例に挙げれば、過塩素酸マグネシウムやマグネシウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドを含む非水系溶媒を用いてもよい。ここで、非水系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)など従来の二次電池やキャパシタに使われる有機溶媒が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。あるいは、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(am)などのイオン性液体を用いることもできる。
【0058】
本発明の二次電池において、電解液は、デンドライト生成防止剤を含むことが好ましい。デンドライト生成防止剤は、充電時に負極表面に吸着して結晶面間のエネルギー差を小さくし、優先配向を防ぐことによりデンドライトの発生を抑制すると考えられる。デンドライト生成防止剤については特に限定はないが、例えば、ポリアルキレンイミン類、ポリアリルアミン類及び非対称ジアルキルスルフォン類からなる群より選ばれた少なくとも1種のものであることができる(例えば、特開2009-93983号公報参照)。また、デンドライト生成防止剤の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば常温常圧で電解液に飽和する量だけ用いてもよいし、溶媒として用いてもよい。
【0059】
リチウム-空気二次電池の場合、リチウムイオン伝導性を有する液体電解質は、通常、リチウム塩及び非水溶媒を含有する非水電解液である。上記リチウム塩としては、例えばLiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6等の無機リチウム塩;並びにLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiC(CF3SO2)3等の有機リチウム塩等を挙げることができる。
【0060】
上記非水溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2-ジメトキシメタン、1,3-ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン及びこれらの混合物等を挙げることができる。非水溶媒としては、イオン液体を用いることもできる。
【0061】
非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、特に限定されないが、例えば0.1mol/L~3mol/Lの範囲内であることが好ましく、好ましくは1mol/Lである。尚、本発明においては、非水電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いてもよい。
【0062】
リチウムイオン伝導性を有するゲル電解質は、例えば、上記非水電解液にポリマーを添加してゲル化することで得ることができる。具体的には、上記非水電解液に、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、Arkema社製商品名Kynarなど)ポリアクリロニトリル(PAN)またはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のポリマーを添加することにより、ゲル化を行うことができる。
【0063】
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質としては、特に限定されず、リチウム金属空気二次電池で使用可能な一般的な固体電解質を用いることができる。例えば、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等の酸化物固体電解質;Li2S-P2S5化合物、Li2S-SiS2化合物、Li2S-GeS2化合物等硫化物固体電解質;を挙げることができる。
【0064】
電解質の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであるが、例えば10μm~5000μmの範囲内であることが好ましい。
【0065】
(付属構成)
本発明の金属空気二次電池において、空気極と負極との間には、これら電極間の電気的絶縁を確実に行うために、セパレータが配置されることが好ましい。セパレータは、空気極と負極との間の電気的絶縁が確保可能であると共に、空気極と負極との間に電解質が介在することが可能な構造を有していれば特に限定されない。
【0066】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ガラスセラミックス等の多孔膜;及び樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。中でも、ガラスセラミックス製のセパレータが好ましい。
【0067】
また、金属空気二次電池を収納する電池ケースとしては、一般的な金属空気二次電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースの形状としては、上述した空気極、負極、及び電解質を保持することができれば特に限定されるものではないが、具体的にはコイン型、平板型、円筒型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0068】
本発明の金属空気二次電池は、空気極に活物質である酸素が供給されることにより、放電が可能となる。酸素供給源としては、空気の他、酸素ガス等が挙げられ、好ましくは酸素ガスである。供給する空気又は酸素ガスの圧力は特に限定されず、適宜設定すればよい。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0070】
(1)粒子状材料の合成
鉄族金属(Fe、Co、Ni)の硝酸塩を表1に示す所定のモル比で溶解させた水溶液150ml(金属の合計濃度が0.1M)に1M水酸化カリウム水溶液15mlを添加し、前駆体を合成した。前駆体をO2雰囲気下、100、150、200℃で12時間焼成することにより触媒を合成した。
【0071】
(2)電気化学測定
得られた粉末試料をアセチレンブラック(AB)及びNafionと、試料:AB:Nafion=5:1:1の重量比になるようにエタノール中に分散させ、グラッシーカーボン(GC)電極に酸化物触媒量が10mgcm-2になるよう塗布した。電気化学測定は、VersaStat4(AMETEC社製)、回転リングディスク電極装置(PineReaserch社製)を用い、参照電極をHg/HgO電極、対極をPt線として、4M KOH水溶液中において行った。
【0072】
東海カーボン製カーボンブラック粉末(TB300)とPTFE分散液をカーボン:PTFE=70:30の比率で混錬し、ロールプレス機で厚み0.3 mm程度のシート状に圧延した。得られたシートをφ12mmの円状に切り抜き、窒素雰囲気下335℃で熱処理することでガス拡散層を作製した。触媒試料をカーボン導電助剤(TB3800またはカーボンナノチップ)及びNafionと、試料:カーボン:Nafion=3:1:1の重量比になるように超純水:イソプロパノール=1:1の溶媒に分散させ、触媒層として酸化物触媒量が10mgcm-2になるようにガス拡散層に塗布した。触媒層を塗布したガス拡散層をニッケルメッシュと共に130℃、0.7tでホットプレスし、空気極を作製した。空気極をPFA製のセルに設置し、4M KOH水溶液を電解質として、40℃で空気極評価を行った。
【0073】
(3)原料及び生成物中の元素比
合成した触媒試料の合成時における仕込比と得られた試料(150℃焼成物)をSEM-EDX(Sigma-500、Carl Zeiss社)で元素分析し、各金属原子の含有量を表1に示す。いずれの試料においても、Fe,Niの含有比率は仕込比率よりも大きい値を示した。以後、試料(焼成物)名に関しては、各元素の比の数値(x,y,z)を用いてCoxNiyFezと表記する。
【0074】
【0075】
実施例1
Co73Ni13Fe14試料における前駆体と100℃、150℃または200℃焼成触媒のXRDパターンを
図1に示す。前駆体は、LDH(層状複水酸化物)と水酸化物に由来するピークを示したことから、これらの結晶構造を有する粒子の複合体であることがわかった。前駆体を100℃で焼成した触媒は、水酸化物のピークが消失し、LDHと酸水酸化物のピークを示した。150℃で焼成した触媒は、LDHのピークが消失し、酸水酸化物とスピネル型酸化物のピークを示した。200℃で焼成した触媒においては、酸水酸化物のピークが消失し、スピネル型酸化物のピークのみを示した。
【0076】
Co73Ni13Fe14試料における前駆体および各温度で焼成した試料のORR、OER活性評価の結果を
図2に示す。前駆体は、CFCOと同程度のORR活性と、CFCOよりも高いOER活性を示した。CFCOはWO2015/115592の実施例1で調製したCa
2FeCoO
5である。また、100℃焼成触媒は、前駆体と同程度の活性を示した。前駆体および100℃試料の結晶構造であるLDH、水酸化物、酸水酸化物は、ORR活性は低いが、高いOER活性を示す材料として知られており、本試料においても同様に低いORR活性と高いOER活性を示したものと考えられる。150℃焼成試料は、100℃焼成試料よりもORR活性が向上し、CFCOよりも高いORR活性を示した。また、100℃焼成試料よりもOER活性は低下し、CFCOと同程度のOER活性を示した。200℃試料は、150℃焼成試料よりもORR活性が向上し、OER活性は著しく低下した。150℃以上の焼成試料で見られたスピネル型酸化物は、一般的にORRに高活性な材料として知られているが、OER活性は、LDH、水酸化物、酸水酸化物よりも低い。本試料において、100℃焼成試料で見られたLDH、酸水酸化物が、150℃で部分的にスピネル型酸化物に変化したことでORR活性が向上し、OER活性が低下したと考えられる。200℃においては、試料全体がスピネル構造に変化したため、ORR活性は向上したものの、OER活性は著しく低下したと考えられる。以上より、バイファンクショナル触媒として最適な温度は、例えば、125-175℃程度と考えられる。
【0077】
実施例2
Co80Ni6Fe14試料における前駆体と100℃または150℃焼成触媒のXRDパターンを
図3に示す。Co80Ni6Fe14試料は、Co73Ni13Fe14試料と同様の結晶構造の変化を示した、すなわち、前駆体は、LDHと水酸化物のピーク、100℃で焼成した触媒は、水酸化物のピークが消失してLDHと酸水酸化物のピークを示し、150℃で焼成した触媒は、LDHのピークが消失して酸水酸化物とスピネル型酸化物のピークを示した。
【0078】
Co80Ni6Fe14試料における前駆体および各温度で焼成した試料のORR、OER活性評価の結果を
図4に示す。Co80Ni6Fe14試料はCo73Ni13Fe14試料と同様の傾向を示した。前駆体と100℃焼成試料においては、CFCOと同程度のORR、OER活性を示した。150℃試料においては、ORR活性が向上し、OER活性の低下がみられた。
【0079】
実施例3
Co84Ni12Fe4試料における前駆体と150℃焼成触媒のXRDパターンを
図5に示す。Co84Ni12Fe4試料は、Co73Ni13Fe14試料の場合と類似した結晶構造の変化を示した、すなわち、前駆体は、LDHと水酸化物のピーク、150℃で焼成した触媒は、酸水酸化物とスピネル型酸化物のピークを示した。
【0080】
Co84Ni12Fe4試料における前駆体および各温度で焼成した試料のORR、OER活性評価の結果を
図6に示す。前駆体試料においては、CFCOと同程度のORR活性を示し、OERにおいてはCFCOよりも低い活性を示した。150℃試料においては、ORR活性が向上し、OERにおいてはほぼ同程度の活性を示した。
【0081】
参考例1
Co72Ni6Fe22試料における前駆体と100℃または150℃焼成触媒のXRDパターンを
図7に示す。前駆体はLDHと水酸化物のピークを示した。100℃焼成試料においては、水酸化物のピークが消失し、酸水酸化物とスピネル型酸化物に由来するピークを示した。150℃焼成試料においては、LDHと酸水酸化物のピークが消失し、スピネル型酸化物のピークのみを示した。
【0082】
Co72Ni6Fe22試料における前駆体および各温度で焼成した試料のORR、OER活性評価の結果を
図8に示す。前駆体、100℃焼成試料においては、CFCOと同様の低いORR活性とCFCOよりも高いOER活性を示した。150℃試料においては、若干のORR活性の向上が見られたが、150℃焼成Co73Ni13Fe14試料、150℃焼成Co80Ni6Fe14試料より低いORR活性を示した。150℃試料のOER活性は、前駆体、100℃焼成試料の活性よりも低くCFCOと同程度のOER活性を示した。
【0083】
150℃焼成Co72Ni6Fe22試料はスピネル構造のみを示すことから、高いORR活性を示すことが予想されるが、実際には低いORR活性を示した。また、上記の4つの組成の150℃焼成触媒におけるORR活性を比較するとFeの含有率が高い試料ほど低いORR活性を示した。このことから、Fe比が大きいほどスピネル型酸化物のORR活性は低下すると考えられる。一方で、Fe比率が大きいほどOER活性が高いことがわかった。
【0084】
参考例2
Co65Ni20Fe15試料における前駆体と150℃焼成触媒のXRDパターンを
図9に示す。Co65Ni20Fe15試料は、前駆体はLDHのみのピークを示し、150℃で焼成した触媒は、スピネル型酸化物のみのピークを示した。
【0085】
Co65Ni20Fe15試料における前駆体および各温度で焼成した試料のORR、OER活性評価の結果を
図10に示す。前駆体試料は、CFCOと同程度のORR、OER活性を示した。150℃試料においては、若干のORR活性の向上が見られたが、150℃焼成Co73Ni13Fe14試料、150℃焼成Co80Ni6Fe14試料、150℃焼成Co84Ni12Fe4試料より低いORR活性を示した。OERにおいては、前駆体よりも低い活性を示した。
【0086】
参考例3
Co50Ni36Fe14試料における前駆体と100℃または150℃焼成触媒のXRDパターンを
図11に示す。Co50Ni36Fe14試料は、前駆体および焼成試料共にLDHのピークのみを示した。
【0087】
Co50Ni36Fe14試料における前駆体および各温度で焼成した試料のORR、OER活性評価の結果を
図12に示す。Co65Ni5Fe10試料においては、前駆体、焼成試料共にほぼ同様の活性を示し、CFCOと同程度の低いORR活性と、CFCOよりも高いOER活性を示した。LDHはOERに高い活性を示す材料であり、焼成処理後も結晶構造が同じであったことから、ほぼ同様の活性を示したと考えられる。
【0088】
[TEM像]
実施例1において、150℃焼成したCo73Ni13Fe14試料のTEM像を
図13-1に示す。TEMは、JEM-2000FX(日本電子株式会社)である。試料は、粒径10nm程度の一次粒子が凝集した粒径数百nmの二次粒子の状態であることがわかった。高倍率TEM観察による一次粒子(金属酸水酸化物粒子塊及びスピネル型金属酸化物粒子塊)の格子間隔より結晶構造を同定したところ、二次粒子である粒子状材料はスピネル酸化物の一次粒子であるスピネル型金属酸化物粒子塊と酸水酸化物の一次粒子である金属酸水酸化物粒子塊が高度に分散した状態で複合化された状態であることがわかった。スピネル型酸化物粒子塊の平均粒径は5.1nm、酸水酸化物粒子塊の平均粒径は4.9nmであった。また、TEM-EDX分析より、スピネル型酸化物における金属含有量はCo原子60-85モル%、Ni原子7-20モル%、Fe原子3-18モル%であり、酸水酸化物における金属含有量はCo原子64-85モル%、Ni原子8-24モル%、Fe原子5-20モル%であることがわかり、いずれのナノ粒子も3種類全ての金属元素を含み、同程度の比率の分布があることがわかった。TEM-EDX分析の結果を
図13-2に示す。
【0089】
[STEM像]
実施例2において、150℃焼成したCo80Ni6Fe14試料のSTEM像を
図14-1に示す。STEMは、JEM-ARM200F(日本電子株式会社)である。試料は、実施例1と同様に、粒径10nm程度の一次粒子が凝集した粒径数百nmの粒子塊であることがわかった。高倍率STEM観察による一次粒子の格子間隔より結晶構造を同定したところ、粒子塊はスピネル型酸化物と酸水酸化物の一次粒子で高分散に複合された状態であることがわかった。スピネル酸化物粒子塊の平均粒径は6.3nm、酸水酸化物粒子塊の平均粒径は5.9nmであることがわかった。また、STEM-EDX分析より、スピネル型酸化物における金属含有量はCo:71-87モル%、Ni:4-13モル%、Fe:6-20モル%であり、酸水酸化物における金属含有量はCo:69-90モル%、Ni:5-16モル%、Fe:6-18モル%であることがわかり、いずれのナノ粒子も3種類全ての金属元素を含み、同程度の比率の分布があることがわかった。STEM-EDX分析の結果を
図14-2に示す。
【0090】
[組成比とORR、OER活性の関係]
実施例1~3及び参考例1~3で合成した試料の組成比とORR活性及びOER活性の傾向を検討すると、Ni原子およびFe原子の含有比(モル%表示)が大きいほどOER活性が高いことが分かった。一方で、ORR活性においては、スピネル型酸化物の結晶構造を有している時は、Ni原子含有比が大きく、Fe含有比が小さいほどORR活性が高いことがわかった。合成した試料の組成比と結晶構造の相関を検討すると、Ni原子含有量が25モル%超の場合、前駆体では水酸化物が生成せずにLDHのみが生成し、焼成後においては酸水酸化物が生成せずにスピネル型酸化物のみが生成するかLDHの結晶構造のまま変化しないことがわかった。以上の結果から、Co原子含有量が60~95、Ni原子含有量が1~25モル%、Fe含有量が1~20モル%の範囲において焼成処理により酸水酸化物とスピネル型酸化物が共存するバイファンクショナル触媒が得られることが分かった。特に、150℃焼成したCo73Ni13Fe14試料が、実施例で得られた資料の中では、バイファンクショナル触媒として最も高い活性を示すことがわかった。
【0091】
[空気極耐久試験結果]
150℃焼成したCo73Ni13Fe14試料(実施例1)をガス拡散電極に適用し、空気極としてサイクル耐久試験を行った。20mAcm
-2の定電流条件において1サイクルにつきOERとORRをそれぞれ1時間行った時の、サイクル数の経過に伴う電極電位を
図15に示す。試験中、ほぼ一定の安定したOER活性を示し、ORR活性はサイクル数の増加に伴い徐々に向上した。全体の過電圧はサイクル数の増加に伴い減少した。150℃焼成したCo73Ni13Fe14試料は良好なバイファンクショナル性能を示し、空気極触媒として450サイクル(1.5か月)という高い耐久性を示すことが明らかとなった。