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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077096
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】飛沫拡散防止カバー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 19/015 20060101AFI20220516BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
A41D19/015 140
A41D19/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020187750
(22)【出願日】2020-11-11
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】520441785
【氏名又は名称】株式会社エイチアールイー
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀江 欣二
(72)【発明者】
【氏名】石川 淳三
(72)【発明者】
【氏名】加賀美 栄利
(72)【発明者】
【氏名】青木 滋実
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 昇
【テーマコード(参考)】
3B033
【Fターム(参考)】
3B033AA10
3B033AC01
3B033BA04
(57)【要約】
【課題】低コストで、かつ、様々な姿勢の人に対して使用可能であるとともに、飛沫の拡散を防止可能な飛沫拡散防止カバーを提供する。
【解決手段】透光性を有する柔軟な樹脂材が予め筒状に成形されたシート材によって筒状カバー本体2を構成する。筒状カバー本体2には、医療従事者Yの手を挿入可能な第1筒部3及び第2筒部4が設けられている。第1筒部3及び第2筒部4は、筒状カバー本体2と共に一体成形されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の口または鼻から飛散される飛沫の拡散を防止する飛沫拡散防止カバーにおいて、
透光性を有する柔軟な樹脂材が予め筒状に成形されたシート材からなり、前記筒の軸方向一端部に少なくとも人の顔を入れるための開口部を有する筒状カバー本体と、
前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部における幅方向一側に設けられ、前記筒状カバー本体内に通じる筒状をなし、医療従事者の一方の手を挿入可能な第1筒部と、
前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部における幅方向他側に設けられ、前記筒状カバー本体内に通じる筒状をなし、医療従事者の他方の手を挿入可能な第2筒部とを備え、
前記第1筒部及び前記第2筒部は、前記筒状カバー本体の幅方向に間隔をあけて設けられ、前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部から前記軸方向に沿う方向へ突出した状態で前記筒状カバー本体と共に一体成形されていることを特徴とする飛沫拡散防止カバー。
【請求項2】
請求項1に記載の飛沫拡散防止カバーにおいて、
前記筒状カバー本体における前記第1筒部と前記第2筒部との間には、医療従事者の首に掛けることが可能な首掛け部が記筒状カバー本体と共に一体成形されていることを特徴とする飛沫拡散防止カバー。
【請求項3】
請求項1または2に記載の飛沫拡散防止カバーにおいて、
前記第1筒部の先端部及び前記第2筒部の先端部には、医療従事者の手の指を挿入可能な指挿入口が形成されていることを特徴とする飛沫拡散防止カバー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の飛沫拡散防止カバーにおいて、
前記第1筒部及び前記第2筒部の相対向する側の端部、並びに前記第1筒部と前記第2筒部との間の前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部は、前記シート材が厚み方向に重なった状態で溶着されていることを特徴とする飛沫拡散防止カバー。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の飛沫拡散防止カバーにおいて、
前記第1筒部及び前記第2筒部の先端部には手袋が一体成形されていることを特徴とする飛沫拡散防止カバー。
【請求項6】
人の口または鼻から飛散される飛沫の拡散を防止する飛沫拡散防止カバーの製造方法において、
透光性を有する柔軟な樹脂材が予め筒状に成形されたシート材を裁断することにより、前記筒の軸方向一端部に少なくとも人の顔を入れるための開口部を有する筒状カバー本体と、前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部における幅方向一側に設けられ、前記筒状カバー本体内に通じる筒状をなし、医療従事者の一方の手を挿入可能な第1筒部と、前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部における幅方向他側に設けられ、前記筒状カバー本体内に通じる筒状をなし、医療従事者の他方の手を挿入可能な第2筒部とを形成する裁断工程を備え、
前記裁断工程では、前記第1筒部及び前記第2筒部を、前記筒状カバー本体の幅方向に間隔をあけるとともに、前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部から前記軸方向に沿う方向へ突出した状態で前記筒状カバー本体と共に一体で得ることを特徴とする飛沫拡散防止カバーの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の飛沫拡散防止カバーの製造方法において、
前記裁断工程の後、前記第1筒部及び前記第2筒部の相対向する側の端部、並びに前記第1筒部と前記第2筒部との間の前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部を、前記シート材が厚み方向に重なった状態で溶着する溶着工程をさらに備えていることを特徴とする飛沫拡散防止カバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人から飛散した飛沫が広範囲に拡散するのを防止する飛沫拡散防止カバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス等の感染症は、ウイルスを保有している患者からの飛沫によって他者に感染することが知られている。しかし、医療従事者等は感染症にかかっている患者と対面して接する必要があるとともに、ウイルスを保有しているが症状が出ていない潜在的な患者とも同様に接する場合が多くあり、感染のリスクが比較的高い。
【0003】
そこで、対面での診察等の際に用いることが可能な飛沫防御用具として、例えば特許文献1に開示されているものが知られている。特許文献1の飛沫防御用具は、全体が透明なドーム型であって、頂部が吊り下げ金具によって保持され、下に開口部が形成されている。使用時には、飛沫防御用具を吊り下げた状態で下の開口部から頭及び肩を入れることにより、頭及び肩を飛沫防御用具によって覆うことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3228120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の飛沫防御用具は、下に向かって拡大した形状のドーム型であるとともに、下の全体が開口しているので、飛沫防御用具によって頭部が覆われていたとしても、顔と飛沫防御用具の内面との間には空間ができており、その空間が下の開口部にまで達して外部と連通しているので、例えばくしゃみや咳をした時に飛散した飛沫が下の開口部から外部へ放出されるおそれがある。
【0006】
また、特許文献1の飛沫防御用具は、吊り下げて使用することが前提となっているので、対象となる人の姿勢としては、座った姿勢か、立った姿勢に限定される。
【0007】
さらに、特許文献1のような飛沫防御用具は、感染拡大を防止するためにも使い捨てが望ましいが、使い捨てとする場合にはコストが問題となる。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低コストで、かつ、様々な姿勢の人に対して使用可能であるとともに、飛沫の拡散を防止可能な飛沫拡散防止カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示は、人の口または鼻から飛散される飛沫の拡散を防止する飛沫拡散防止カバーを前提とすることができる。そして、飛沫拡散防止カバーは、透光性を有する柔軟な樹脂材が予め筒状に成形されたシート材からなり、前記筒の軸方向一端部に少なくとも人の顔を入れるための開口部を有する筒状カバー本体と、前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部における幅方向一側に設けられ、前記筒状カバー本体内に通じる筒状をなし、医療従事者の一方の手を挿入可能な第1筒部と、前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部における幅方向他側に設けられ、前記筒状カバー本体内に通じる筒状をなし、医療従事者の他方の手を挿入可能な第2筒部とを備えている。前記第1筒部及び前記第2筒部は、前記筒状カバー本体の幅方向に間隔をあけて設けられ、前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部から前記軸方向に沿う方向へ突出した状態で前記筒状カバー本体と共に一体成形されている。
【0010】
この構成によれば、筒状カバー本体の開口部から人の頭を入れると、筒状カバー本体が柔軟な樹脂材で構成されているので、開口部を閉じるように変形させることができ、これにより、口や鼻から飛散した飛沫が開口部から外部へ拡散されにくくなる。また、筒状カバー本体によって覆われている患者の顔に対して医療従事者が何らかの処置を行う際、一方の手を第1筒部に、他方の手を第2筒部に挿入することで、両手を筒状カバー本体内まで入れることができる。これにより、筒状カバー本体内で患者に各種処置を行うことが可能になる。この処置の際には飛沫が飛散することがあるが、処置は全て筒状カバー本体内で行われているので外部への拡散が抑制される。これは人が寝ていても、座っていても、立っていても同様である。
【0011】
筒状カバー本体、第1筒部及び第2筒部は、予め筒状に成形されたシート材を用いて一体成形されている。すなわち、予め筒状に成形されたシート材を軸方向の寸法が所定寸法となるように切断するだけで、一端部に開口部を形成できる。また、筒状カバー本体の材料となるシート材が予め筒状であることから、筒状カバー本体の周囲に溶着等を施さなくても気密性の高い筒状構造が得られる。さらに、第1筒部及び第2筒部が筒状カバー本体から軸方向に突出した状態で筒状カバー本体と共に一体成形されているので、製造時には、シート材を、第1筒部、第2筒部及び筒状カバー本体を有する形状に切り抜けばよく、第1筒部、第2筒部及び筒状カバー本体を別々に用意して溶着等する必要がない。よって、飛沫拡散防止カバーの製造コストの低減化を図ることができる。
【0012】
また、前記第1筒部と前記第2筒部とは、前記筒状カバー本体の幅方向に間隔をあけて設けられており、前記筒状カバー本体における前記第1筒部と前記第2筒部との間には、医療従事者の首に掛けることが可能な首掛け部が記筒状カバー本体と共に一体成形されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、医療従事者が首掛け部を首に掛けることで、筒状カバー本体の一部を患者の顔から挙げて顔と筒状カバー本体内面との間に空間を確保できる。これにより、医療従事者が患者の口や鼻に対して各種処置を容易に行うことができる。
【0014】
また、前記第1筒部の先端部及び前記第2筒部の先端部には、医療従事者の手の指を挿入可能な指挿入口が形成されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、医療従事者が第1筒部に腕を入れた状態で指を指挿入孔に挿入することで、第1筒部の先端が腕の上の方へ上がってくるのを防止することができ、第1筒部によって腕を手首付近まで覆っておくことができる。第2筒部も同様である。
【0016】
また、前記第1筒部及び前記第2筒部側の相対向する側の端部、並びに前記第1筒部と前記第2筒部との間の前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部は、前記シート材が厚み方向に重なった状態で溶着されていてもよい。
【0017】
すなわち、予め筒状に成形されたシート材を切断することによって第1筒部の外形状を得た場合、第1筒部及び第2筒部の相対向する側の端部、並びに前記第1筒部と前記第2筒部との間の前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部は、シート材が厚み方向に重なっただけとなっており、開放されてしまう。これに対し、本構成によれば、シート材が厚み方向に重なった部分の端部を溶着によって封止することで、当該部分の機密性を得ることができる。
【0018】
また、第1筒部及び第2筒部の先端部に、医療従事者の手を入れる手袋が一体成形されていてもよい。これにより、感染防止効果がより一層高まる。
【0019】
また、前記飛沫拡散防止カバーの製造方法において、透光性を有する柔軟な樹脂材が予め筒状に成形されたシート材を裁断することにより、前記筒状カバー本体と、前記第1筒部と、前記第2筒部とを形成する裁断工程を備えていることを特徴とすることができる。裁断工程の後、前記第1筒部及び前記第2筒部の相対向する側の端部、並びに前記第1筒部と前記第2筒部との間の前記筒状カバー本体の前記軸方向他端部を、前記シート材が厚み方向に重なった状態で溶着する溶着工程をさらに備えていてもよい。
【0020】
また、本発明の第1筒部及び第2筒部の先端部の形状は、医療従事者がゴム手袋等を装着することで、繊細な医療業務の遂行とウイルス暴露からの防御との両方が可能になっている。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、予め筒状に成形されたシート材を用いて筒状カバー本体、第1筒部及び第2筒部を一体成形したので、飛沫拡散防止カバーの製造コストを低減化できる。また、筒状カバーが柔軟な樹脂材からなるものなので、開口部から顔を入れた後に、開口部を閉じることができる。よって、様々な姿勢の人に対して適用して飛沫の拡散を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る飛沫拡散防止カバーの平面図である。
図2】飛沫拡散防止カバーの第1筒部の先端部近傍の拡大斜視図である。
図3】飛沫拡散防止カバーの使用状態を示す図である。
図4A】長尺状の筒状シートの平面図である。
図4B】所定寸法に切断した筒状シートの斜視図である。
図5】裁断後の筒状シートの平面図である。
図6】医療従事者が飛沫拡散防止カバーを着けた状態を示す正面図である。
図7】飛沫拡散防止カバーによって覆われた患者を処置する状況を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る飛沫拡散防止カバー1の平面図である。飛沫拡散防止カバー1は、人の口または鼻から飛散される飛沫の拡散を防止するためのものであり、全体が透光性を有する柔軟な樹脂材で構成されている。飛沫拡散防止カバー1は、例えば新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス等の感染症に感染した患者、感染が疑われる者に対して使用することができるが、そのようなウイルスに感染していない者に対して検査や医療的な処理を施す際に使用することもでき、対象者は特に限定されるものではない。
【0025】
飛沫拡散防止カバー1は、筒状カバー本体2と、第1筒部3と、第2筒部4と、首掛け部5とを備えている。筒状カバー本体2は、詳細は後述するが予め筒状に成形されたシート材からなる部分である。筒状カバー本体2は、筒状に成形されたシート材からなる部分なので、前記筒の軸方向を定義することができる。また、平面視で、筒状カバー本体2の軸方向と直交する方向を筒状カバー本体2の幅方向と定義することができ、筒状カバー本体2の幅方向は左右方向と呼ぶこともできる。尚、この実施形態では、図1に示すように、前記軸方向を上下方向として軸方向一側を「下側」、軸方向他側を「上側」というものとし、また、幅方向一側を「左側」、幅方向他側を「右側」というものとするが、これは説明の便宜を図るために定義するだけであり、実際の使用状態や製造時の向きを限定するものではない。
【0026】
筒状カバー本体2の上下方向(軸方向)の寸法Aは、例えば50cm以上120cm以下の範囲で任意に設定することができる。また、筒状カバー本体2の左右方向(幅方向)の寸法Bは、例えば50cm以上120cm以下の範囲で任意に設定することができる。
【0027】
筒状カバー本体2の下端部には、開口部2aが形成されている。この開口部2aは、少なくとも人の顔を入れるためのものであり、一般的な成人男性の顔を入れることが可能な径を有していればよい。開口部2aの大きさは、顔、頭、両肩及び胸部までを入れることが可能な大きさにするのが好ましい。この実施形態では、開口部2aが筒状カバー本体2の下端部の全体に開口している。
【0028】
第1筒部3は、筒状カバー本体2の上端部における左側に設けられている。第1筒部3は、筒状カバー本体2内に通じる筒状をなしており、医療従事者の一方の手を挿入可能な径を有している。第1筒部3の径は、例えば15cm以上30cm以下の範囲で任意に設定することができる。この実施形態では、第1筒部3の基端部(付け根)から先端部に近づくほど第1筒部3の径が小さくなるように形成されている。また、第1筒部3の基端部から先端部までの長さ寸法Cは、50cm以上100cm以下の範囲で任意に設定することができる。飛沫拡散防止カバー1の上下方向の寸法は、寸法Aと寸法Cとを合わせた寸法である。
【0029】
図2にも示すように、第1筒部3の先端部には、医療従事者の手を入れることができる手挿入口3aが開口している。手挿入口3aの周囲は、第1筒部3の先端部を環状の空間部ができるように折り返すとともに当該空間部に輪状のゴム3bを収納して折り返し部の端縁を第1筒部3に溶着している。ゴム3bの径は、一般的な成人男性の手首の径よりも小さく設定されており、ゴム3bを手挿入口3aの周囲に取り付けることで、手挿入口3aの径を一般的な成人男性の手首の径よりも小さくすることができ、これにより、手挿入口3aの周縁部を手首に密着させることができる。手を手挿入口3aに入れたり、手挿入口3aから出したりする際には、ゴム3bを伸ばすことによって、手挿入口3aの径を一時的に拡大させることができるので、手の出し入れは容易に行える。尚、ゴム3bは省略してもよい。
【0030】
第1筒部3の先端部近傍、即ち手挿入口3aの近傍には、医療従事者の手の指を挿入可能な指挿入口3cが形成されている。指挿入口3cは、例えば円形に形成することができるが、円形以外の形状であってもよい。指挿入口3cの径は、例えば10mm以上30mm以下の範囲で任意に設定することができる。指挿入口3cは、第1筒部3の周方向に互いに間隔をあけて配置されている。この実施形態では、2つの指挿入口3cを形成しているが、これに限らず、指挿入口3cの数は4つであってもよい。複数の指挿入口3cを形成する場合、形状や大きさを互いに変えてもよい。2つの指挿入口3cがある場合、親指と小指を挿入することができる。
【0031】
第2筒部4は、筒状カバー本体2の上端部における右側に設けられ、筒状カバー本体2内に通じる筒状をなし、医療従事者の他方の手を挿入可能な部分である。この実施形態では、第2筒部4は、第1筒部3と左右対称な形状である。第2筒部4も、第1筒部3と同様にゴム4bと指挿入口4cとを有している。第1筒部3と第2筒部4の長さや径は同じであるが、互いに異なっていてもよい。
【0032】
なお、図1において、第1筒部3に形成した指挿入口3cを1つしか示していないが、この第1筒部3は2枚のシートが重なった状態で指挿入口3cが裁断時に開口されているため、該第1筒部3を筒状に広げた状態では指挿入口3cは2つ形成されることとなる。このことは、第2筒部4の指挿入口4cについても同様である。
【0033】
第1筒部3及び第2筒部4は、筒状カバー本体2の上端部から突出した状態で筒状カバー本体2と共に一体成形されている。すなわち、第1筒部3は、筒状カバー本体2の上端部における左側から上方へ向けて突出する一方、第2筒部4は、筒状カバー本体2の上端部における右側から上方へ向けて突出している。そして、第1筒部3と第2筒部4とは、筒状カバー本体2の左右方向に間隔をあけて設けられている。
【0034】
首掛け部5は、医療従事者の首に掛けることが可能な輪状をなしており、筒状カバー本体2の上端部に設けられている。具体的には、筒状カバー本体2の上端部において第1筒部3と第2筒部4との間に、上記首掛け部5が位置している。首掛け部5は、筒状カバー本体2と一体成形されており、筒状カバー本体2の上端部から上方へ突出した形状となっている。首掛け部5の内径は、一般的な成人男性の頭部を通過させることができる程度の大きさに設定されており、例えば左右方向の最大寸法が20cm~30cm程度、上下方向の最大寸法が15cm~20cm程度である。また、首掛け部5は、後述するように飛沫拡散防止カバー1を使用して患者に対する各種の処置が終了した後、当該飛沫拡散防止カバー1の筒状カバー本体2を下方へ引っ張って医療従事者から取り外す際、切断可能な(引きちぎれる)ように、その幅を設定、あるいはノッチ等を形成する。
【0035】
図1における符号30で示す直線は左側溶着部であり、符号40で示す直線は右側溶着部である。また、図1における符号50で示す直線は中間溶着部であり、符号51で示す直線は上側溶着部である。詳細は後述するが、製造時には、樹脂製筒状シートを平面状態に畳んで2枚重ねにして該筒状シートを裁断機(図示せず)によって切断することにより厚み方向に重なった2枚の樹脂製シートを裁断して図1に示すような形状を得るのであるが、裁断によって生じた開放端において2枚の樹脂製シートを溶着することによって左側溶着部30、右側溶着部40及び中間溶着部50を形成する。左側溶着部30は、第1筒部3の右端部に沿って上下方向に延びており、この左側溶着部30によって第1筒部3の右端部に位置する2枚の樹脂製シートを接合し、第1筒部3を得ることができる。また、右側溶着部40は、第2筒部4の左端部に沿って上下方向に延びており、この右側溶着部40によって第2筒部4の左端部に位置する2枚の樹脂製シートを接合し、第2筒部4を得ることができる。また、中間溶着部50は、左側溶着部30の下端部から右側溶着部40の下端部まで延びている。この中間溶着部50によって筒状カバー本体2の上端部、即ち首掛け部5の付け根の部分に位置する2枚の樹脂製シートを接合し、筒状カバー本体2を袋状にすることができる。さらに、上側溶着部51は、首掛け部5の上部を構成している2枚の樹脂製シートを接合してまとめるためのものである。
【0036】
(飛沫拡散防止カバーの製造方法)
次に、飛沫拡散防止カバー1の製造方法について説明する。図4Aに示すように、長尺状の筒状シートSを用意する。筒状シートSは、例えば数十m以上の長さを有しており、ロール状に巻かれて保管されている。図4Aの上下方向が筒状シートSの長手方向であり、図4Aの左右方向が筒状シートSの幅方向である。筒状シートSの幅方向の寸法は、飛沫拡散防止カバー1の幅方向の寸法、即ち筒状カバー本体2の幅方向の寸法と同じである。一方、筒状シートSの長手方向の寸法は、飛沫拡散防止カバー1の上下方向の寸法よりも大幅に長く設定されている。
【0037】
筒状シートSを用意した後、所定の長さに裁断機で切断する。所定の長さは、飛沫拡散防止カバー1の上下方向の寸法のことであり、図1に示す寸法Aと寸法Cとを合わせた寸法である。このように切断した部材を素材シート100と呼ぶ。図4Bに示すように、素材シート100は、筒状シートSを切断しただけのものなので両端が開口した筒状をなしている。筒状カバー本体2の開口部2aは、筒状シートSを切断した時にできるので、開口部2aを後工程で形成する必要はない。第1筒部3及び第2筒部4の先端の開口、すなわち、手挿入口3a及び手挿入口4aも同様に筒状シートSを切断した時にできる。
【0038】
素材シート100を複数枚重ねた後、裁断機によって所定形状に裁断する。すなわち、図5に示すように、素材シート100における上下方向中央部よりも上側領域の左右方向中間部分101を除去するとともに、首掛け部5となる領域の内側部分102を除去する。素材シート100の中間部分101を除去することで、素材シート100は、第1筒部3と第2筒部4、及び首掛け部5を備えた略凹状の形状となる。また、素材シート100の内側部分102を除去することで、輪状の首掛け部5が形成される。つまり、素材シート100が飛沫拡散防止カバー1の外形状となるように、中間部分101及び内側部分102を除去する。中間部分101及び内側部分102は、別工程で除去してもよいが、一工程で除去することが好ましい。
【0039】
第1筒部3と第2筒部4が筒状カバー本体2から上方へ突出する形状となるように裁断することで、第1筒部3と第2筒部4を筒状カバー本体2に一体成形することができ、溶着箇所を減らすことができる。また、第1筒部3と第2筒部4の間の部分である中間部分101を除去することで第1筒部3と第2筒部4を形成することができるので、材料ロスも少なくなる。さらに、第1筒部3と第2筒部4の間に首掛け部5が位置しているので、除去すべき材料がより一層少なくなる。
【0040】
また、裁断時には、素材シート100の左端部及び右端部を裁断しない。これにより、素材シート100の筒型形状を利用して筒状カバー本体2を得ることができるので、筒状カバー本体2を得るにあたり、左右両端部の溶着は不要である。よって、筒状カバー本体2の周囲に溶着等を施さなくても気密性の高い筒状構造が得られる。また、第1筒部3の左端部及び第2筒部4の右端部も溶着は不要である。
【0041】
図5に示すように素材シート100から中間部分101及び内側部分102を除去すると、第1筒部3の右端部に位置する2枚の樹脂製シートが非接合状態となって開放されるとともに、第2筒部4の左端部に位置する2枚の樹脂製シートも同様に開放される。さらに、筒状カバー本体2の上端部に位置する2枚の樹脂製シートも同様に開放される。以上が裁断工程である。尚、第1筒部3の指挿入口3c及び第2筒部4の指挿入口4c(図1に示す)は、裁断工程時に形成することができる。
【0042】
裁断工程の後、溶着工程を行う。溶着工程では、従来周知の溶着機を用意する。溶着機としては、例えば卓上型シーラーやスタンド型シーラー等を挙げることができる。これらシーラーは、樹脂を溶融温度以上に加熱するためのヒータ、被溶着物を押さえて溶融させるための加熱部、加熱部を上下方向に移動させる可動部等を備えている。
【0043】
素材シート100をシーラーの押さえ部によって厚み方向に挟むことによって2枚の樹脂製シートを溶融させた後、素材シート100をシーラーの押さえ部から離して冷却することで、2枚の樹脂製シートの溶着が可能になる。溶着条件等は、素材シート100の素材や厚みに応じて任意に設定することができる。尚、この実施形態では、素材シート100がポリスチレンであり、厚みは0.02~0.10mm程度である。
【0044】
素材シート100は透光性を阻害しない程度に着色されている。素材シート100の色としては、例えば青色、赤色等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、任意の色に着色することができる。素材シート100が透光性を有していることで、飛沫拡散防止カバー1によって覆われた患者を医療従事者が外部から視認可能となる。
【0045】
素材シート100を着色しておくことで、溶着時あるいは溶着後の検査時に、2枚の樹脂製シートがきちんと重なっているか否かを容易に判別できる。すなわち、仮に、素材シート100が無色透明であると、2枚を重ねたとしても色の濃さに殆ど差が無く、1枚であるのか、2枚であるのか判別しづらいが、素材シート100が着色されていることで、2枚が重なっていれば1枚の場合に比べて色が濃く見える。この色の濃さを利用し、色が濃ければ2枚の樹脂製シートがきちんと重なっていると判別する一方、色が薄ければ2枚の樹脂製シートが重なっていないと判別できる。よって、不良品の検査精度が向上する。尚、素材シート100は無色透明であってもよい。
【0046】
溶着工程を行うことで、図1に示すように、左側溶着部30、右側溶着部40、中間溶着部50及び上側溶着部51が形成されるので、第1筒部3及び第2筒部4が筒状になるとともに、筒状カバー本体2が袋状になり、さらに、首掛け部5の上部を構成している2枚の樹脂製シートを重合して一体にまとめることができる。
【0047】
(飛沫拡散防止カバーの使用方法)
次に、飛沫拡散防止カバー1の使用方法について説明する。飛沫拡散防止カバー1は、製造会社から図3に示すように、第1筒部3及び第2筒部4が裏返しされて筒状カバー本体2内へ押し込まれた状態で医療施設へ納品される。この納品状態では第1筒部3及び第2筒部4が筒状カバー本体2内に収容された状態になっている。このとき、首掛け部5は筒状カバー本体2の外部に位置している。
【0048】
このような状態の飛沫拡散防止カバー1の首掛け部5に、図6に示すように、医療従事者Yの頭を通し、首掛け部5を医療従事者Yの首に掛ける。これにより、飛沫拡散防止カバー1を首に吊った状態にすることができる。その後、医療従事者Yの右手(右腕)を第1筒部3に挿入するとともに左手(左腕)を第2筒部4に挿入する。次に、両手を使って右手の指を指挿入口3cに、左手の指を指挿入口4cにそれぞれ挿入する。これにより、第1筒部3及び第2筒部の先端部が腕の上の方へ上がってくるのを抑制することができる。そして、左右の手は第1筒部3及び第2筒部4から出しており、筒状カバー本体2内で自由に動かすことが可能である。また、医療従事者Yは、手袋300を装着しておく。この手袋300は、例えば第1筒部3及び第2筒部4の先端部に一体成形しておいてもよい。これにより、手袋300と第1筒部3との間、手袋300と第2筒部4との間からのウイルスの侵入を抑制することができる。
【0049】
また、図7に示すように、使用時には飛沫拡散防止カバー1の筒状カバー本体2の開口部2aから患者200の顔を当該筒状カバー本体2内に入れる。この状態で、医療従事者Yは左右の手を筒状カバー本体2内で動かし、患者200に対して各種処置を施すことができる。患者200に対する処置としては、例えばPCR検査用の検査具を鼻腔や口腔へ入れて検体を採取する処置、気管チューブやファイバースコープを利用した処置等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、鼻や口を介して行われる各種処置であってもよい。
【0050】
処置の際、患者200の口及び鼻を筒状カバー本体2で覆うことができるので、患者200が咳やくしゃみ、嘔吐等をしたとしても、その時に飛散される飛沫は筒状カバー本体2内に留まる。これにより、患者200の口または鼻から飛散される飛沫の拡散が防止される。
【0051】
また、処置の際、首掛け部5を医療従事者Yの首に掛けているので、筒状カバー本体2の上側を吊った状態にしておくことができ、医療従事者Yの手を動かすための空間を筒状カバー本体2内に形成できる。また、医療従事者Yとは別に補助者が患者200に処置を行う場合には、筒状カバー本体2の開口部2aから手を差し入れて各種処置を行うことができる。また、例えば医療機器や器具は、筒状カバー本体2の開口部2aから入れることができるとともに、取り出すこともできる。よって、医療機器や器具を出し入れするための専用の開口部は不要である。
【0052】
処置が終わると、医療従事者Yは、まず両手をカバー本体2の内部にある状態のままでカバー本体2を下方に強く引っ張り、首掛け部5に手を触れることなくこれを切断する。これは感染防御具使用の際に最も危険とされる脱衣時の感染を未然に防ぐために有効な手段である。そして、医療従事者Yは両手を第1筒部3及び第2筒部4から抜く。このとき、第1筒部3及び第2筒部4が図1に示すような形状、即ち、筒状カバー本体2から上へ延びる形状となるようにしながら、両手を抜く。これにより、飛沫が付着したおそれのある面を第1筒部3及び第2筒部4のそれぞれの内側にすることができる。
【0053】
その後、例えば患者200から抜管した器具等を筒状カバー本体2で包むようにしながら筒状カバー本体2を第1筒部3及び第2筒部4と共に丸めて廃棄ボックスに捨てる。これにより、器具を安全に廃棄処理できる。
【0054】
尚、処置の際、患者200の頭や首、両肩、胸を筒状カバー本体2内に入れてもよい。また、患者200の姿勢は、寝た姿勢であってもよいし、座った姿勢であってもよい。また、患者200は、例えば新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス等の感染症の発症した患者や、ウイルスを保有しているが症状が出ていない潜在的な患者等である。また、飛沫拡散防止カバー1は、患者200以外にも健常者に対して各種検査や処置を施す際に使用することもできる。
【0055】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、筒状カバー本体2の開口部2aから人の頭や顔を入れると、筒状カバー本体2が柔軟な樹脂材で構成されているので、開口部2aを閉じるように変形させることができ、これにより、口や鼻から飛散した飛沫が開口部2aから外部へ拡散されにくくなる。また、筒状カバー本体2によって覆われている患者200の顔に対して医療従事者Yが何らかの処置を行う際、手を第1筒部3及び第2筒部4に挿入して筒状カバー本体2内で患者200に各種処置を行うことができる。この処置の際には飛沫が飛散することがあるが、処置は全て筒状カバー本体2内で行われているので外部への拡散が抑制される。また、コストを抑えつつ、様々な大きさの手を持つ医療従事者Yの業務の質を落とさないようにすることができる。
【0056】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明に係る飛沫拡散防止カバーは、例えば各種医療処置を行う際に患者に対して使用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 飛沫拡散防止カバー
2 筒状カバー本体
2a 開口部
3 第1筒部
3c 指挿入孔
4 第2筒部
4c 指挿入孔
5 首掛け部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7