(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077278
(43)【公開日】2022-05-23
(54)【発明の名称】濃度制御システム、濃度制御方法、及び、濃度制御システム用プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 21/00 20060101AFI20220516BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220516BHJP
【FI】
G05D21/00 A
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188058
(22)【出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】瀧尻 興太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼宗 央二郎
【テーマコード(参考)】
5F004
5H309
【Fターム(参考)】
5F004AA16
5F004BC03
5F004CA02
5F004CB01
5F004DA01
5F004DA25
5H309AA02
5H309BB01
5H309BB05
5H309CC05
5H309CC06
5H309DD04
5H309DD08
5H309EE03
5H309FF01
5H309GG03
5H309JJ06
5H309KK04
(57)【要約】
【課題】チャンバ内におけるガスの実際の分圧について時間遅れが小さく、かつ、正確な推定値が得られ、従来よりも応答性や精度のよい分圧制御を実現できる濃度制御システムを提供する。
【解決手段】チャンバCN内にガスを供給する供給流路SL上に設けられ、当該供給流路SLを流れるガスの流量を入力された設定流量となるように制御する流量制御装置1と、前記チャンバ内におけるガスの分圧を測定する分圧測定装置2と、前記チャンバCN内のガスの状態を推定するモデル31を具備し、当該モデル31が前記チャンバに流入するガスの流入流量と、前記分圧測定装置2の測定分圧とが入力されて、前記チャンバCN内におけるガスの推定分圧を出力するように構成されたオブザーバ3と、設定分圧と、前記オブザーバ3が出力する前記チャンバCN内におけるガスの推定分圧とに基づいて、前記流量制御装置1に設定流量を設定する制御器4と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内にガスを供給する供給流路上に設けられ、当該供給流路を流れるガスの流量を入力された設定流量となるように制御する流量制御装置と、
前記チャンバ内におけるガスの分圧を測定する分圧測定装置と、
前記チャンバ内のガスの状態を推定するモデルを具備し、当該モデルが前記チャンバに流入するガスの流入流量と、前記分圧測定装置の測定分圧とが入力されて、前記チャンバ内におけるガスの推定分圧を出力するように構成されたオブザーバと、
設定分圧と、前記オブザーバが出力する前記チャンバ内におけるガスの推定分圧とに基づいて、前記流量制御装置に設定流量を設定する制御器と、を備えた濃度制御システム。
【請求項2】
前記モデルが、前記チャンバ内のガスを排気する排気流路のコンダクタンスをモデル化しており、
前記コンダクタンスが一定値に設定されている請求項1記載の濃度制御システム。
【請求項3】
前記排気流路上に開度が制御可能に構成された排気バルブが設けられており、前記排気バルブが所定開度で固定されている請求項2記載の濃度制御システム。
【請求項4】
推定分圧が、
実際の分圧を推定した第1推定分圧と、
前記分圧測定装置の測定分圧を推定した第2推定分圧と、からなる列ベクトルであり、
前記オブザーバが、h1、h2を要素とする行ベクトルであるオブザーバゲインHをさらに具備し、
前記h2が前記コンダクタンスと同じ値に設定されている請求項2又は3記載の濃度制御システム。
【請求項5】
前記分圧測定装置が、NDIRであり、
前記モデルが、実際の分圧に対する前記NDIRが出力する測定分圧の遅れを1次遅れとしてモデル化したものである請求項1乃至4いずれかに記載の濃度制御システム。
【請求項6】
推定分圧が、
実際の分圧を推定した第1推定分圧と、
前記分圧測定装置の測定分圧を推定した第2推定分圧と、からなる列ベクトルであり、
前記制御器が、前記設定分圧と前記第1推定分圧との偏差が積分されるように構成された請求項1乃至5いずれかに記載の濃度制御システム。
【請求項7】
チャンバ内にガスを供給する供給流路上に設けられ、当該供給流路を流れるガスの流量を入力された設定流量となるように制御する流量制御装置と、前記チャンバ内におけるガスの分圧を測定する分圧測定装置と、を備えた濃度制御システムを用いた濃度制御方法であって、
前記チャンバ内のガスの状態を推定するモデルに、前記チャンバに流入するガスの流入流量と、前記分圧測定装置の測定分圧を入力し、前記チャンバ内におけるガスの推定分圧を推定し、
設定分圧と、前記オブザーバが出力する前記チャンバ内におけるガスの推定分圧とに基づいて、前記流量制御装置に設定流量を設定することを含む濃度制御方法。
【請求項8】
チャンバ内にガスを供給する供給流路上に設けられ、当該供給流路を流れるガスの流量を入力された設定流量となるように制御する流量制御装置と、前記チャンバ内におけるガスの分圧を測定する分圧測定装置と、を備えた濃度制御システムに用いられるプログラムであって、
前記チャンバ内のガスの状態を推定するモデルを具備し、当該モデルが前記チャンバに流入するガスの流入流量と、前記分圧測定装置の測定分圧とが入力されて、前記チャンバ内におけるガスの推定分圧を出力するように構成されたオブザーバと、
設定分圧と、前記オブザーバが出力する前記チャンバ内におけるガスの推定分圧とに基づいて、前記流量制御装置に設定流量を設定する制御器と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする濃度制御システム用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャンバ内におけるガスの分圧を制御するために用いられる濃度制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスでは、プロセスチャンバに対して例えば原料ガスとキャリアガスが混合された混合ガスが所定濃度で供給される。プロセスチャンバに接続されている複数の分岐路を有する供給流路には各ガスの流量を制御する流量制御装置であるマスフローコントローラが設けられており、各ガスの流量は所定濃度となるように制御される。
【0003】
より具体的には、混合ガス中の原料ガスの濃度、すなわち、原料ガスの分圧は、特許文献1に示されるように例えばプロセスチャンバよりも上流側となる供給流路上に設けられたNDIR(Non Dispersive Infrared)等の吸光分析装置によって測定される。吸光分析装置で測定された原料ガスの分圧がフィードバックされて、測定分圧と目標となる設定分圧との偏差に基づき、各ガスの流量制御装置に設定される設定流量が適宜変更される。
【0004】
ところで、前述したような濃度制御システムではチャンバに入る前のガスの分圧が測定されているため、流路中におけるガスの吸着等が生じると測定される分圧とチャンバ内の実際の分圧にはずれが生じてしまう。したがって、供給流路で分圧を測定すると、チャンバ内におけるガスの実際の分圧が設定分圧で保たれているかどうかは保証できない。このような問題を解決するためにNDIRをチャンバに設けて、チャンバ内におけるガスの濃度を直接測定して、より厳密に分圧を制御することが考えられる。
【0005】
しかしながら、NDIRは実際の分圧に対して大きな遅れが発生してしまうとともに、ノイズが大きい。このため、NDIRでチャンバ内を直接測定したとしても、実際の分圧の変化を高速でかつ正確に得ることはできない。したがって、前述したような濃度制御システムを構築したとしても、十分な応答速度と精度で分圧制御を実現することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2010/113576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、チャンバ内におけるガスの実際の分圧について時間遅れが小さく、かつ、正確な推定値が得られ、従来よりも応答性や精度のよい分圧制御を実現できる濃度制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る濃度制御システムは、チャンバ内にガスを供給する供給流路上に設けられ、当該供給流路を流れるガスの流量を入力された設定流量となるように制御する流量制御装置と、前記チャンバ内におけるガスの分圧を測定する分圧測定装置と、前記チャンバ内のガスの状態を推定するモデルを具備し、当該モデルが前記チャンバに流入するガスの流入流量と、前記分圧測定装置の測定分圧とが入力されて、前記チャンバ内におけるガスの推定分圧を出力するように構成されたオブザーバと、設定分圧と、前記オブザーバが出力する前記チャンバ内におけるガスの推定分圧とに基づいて、前記流量制御装置に設定流量を設定する制御器と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる濃度制御方法は、チャンバ内にガスを供給する供給流路上に設けられ、当該供給流路を流れるガスの流量を入力された設定流量となるように制御する流量制御装置と、前記チャンバ内におけるガスの分圧を測定する分圧測定装置と、を備えた濃度制御システムを用いた濃度制御方法であって、前記チャンバ内のガスの状態を推定するモデルに、前記チャンバに流入するガスの流入流量と、前記分圧測定装置の測定分圧を入力し、前記チャンバ内におけるガスの推定分圧を推定し、設定分圧と、前記オブザーバが出力する前記チャンバ内におけるガスの推定分圧とに基づいて、前記流量制御装置に設定流量を設定することを特徴とする。
【0010】
このような濃度制御システムによれば、前記モデルに基づいて前記オブザーバが前記チャンバ内におけるガスの推定分圧を出力するので、前記分圧測定装置の出力する測定分圧と比較して、前記チャンバ内における実際の分圧に対する遅れが小さく、ノイズの小さい値を得ることができる。また、前記オブザーバには前記チャンバに流入するガスの流入流量だけでなく、前記分圧測定装置の測定分圧が入力されるので、推定分圧における初期状態のずれや分圧のオフセット等についても補正されて、正しい値が得られる。また、前記制御器が前記オブザーバの推定分圧に基づいて前記流量制御装置に設定流量を設定するので、測定分圧を用いた場合よりも応答性の良い濃度制御を実現できる。
【0011】
簡単な数式に基づいて、前記モデルが前記チャンバ内の状態をより正確に反映できるようにするには、前記モデルが、前記チャンバ内のガスを排気する排気流路のコンダクタンスをモデル化しており、前記コンダクタンスが一定値に設定されていればよい。
【0012】
前記コンダクタンスを一定値としても前記オブザーバのモデル化精度を高くできるようにするには、前記排気流路上に開度が制御可能に構成された排気バルブが設けられており、前記排気バルブが所定開度で固定されていればよい。
【0013】
例えば外乱により前記チャンバ内における実際のガスの分圧に定常オフセットが生じたとしても推定分圧にその値が反映されるようにするには、推定分圧が、実際の分圧を推定した第1推定分圧と、前記分圧測定装置の測定分圧を推定した第2推定分圧と、からなる列ベクトルであり、前記オブザーバが、h1、h2を要素とする行ベクトルであるオブザーバゲインHをさらに具備し、前記h2が前記コンダクタンスと同じ値に設定されていればよい。このようなものであれば、前記コンダクタンスは制御対象の極となるため、極配置によって第1推定分圧に定常オフセットがそのまま反映される。
【0014】
前記分圧測定装置が、NDIRであり、前記モデルが、実際の分圧に対する前記NDIRが出力する測定分圧の遅れを1次遅れとしてモデル化したものであれば、実際には観測できないチャンバ内の実際の分圧に近い値で分圧制御を行うことができるようになる。
【0015】
前記分圧測定装置の出力する測定分圧と設定分圧の偏差が積分されるようにするのと比較して、より応答性を高めた制御を実現できるようにするには、推定分圧が、実際の分圧を推定した第1推定分圧と、前記分圧測定装置の測定分圧を推定した第2推定分圧と、からなる列ベクトルであり、前記制御器が、前記設定分圧と前記第1推定分圧との偏差が積分されるように構成されたものであればよい。このようなものであれば、観測できないチャンバ内におけるガスの実際の分圧の変化を時間遅れなしでフィードバックできるので、測定分圧をフィードバックした場合よりも応答性を高めることができる。
【0016】
既存の濃度制御システムにおいて例えばプログラムを更新することによって本発明に係る濃度制御システムとほぼ同等の効果を発揮できるようにするには、チャンバ内にガスを供給する供給流路上に設けられ、当該供給流路を流れるガスの流量を入力された設定流量となるように制御する流量制御装置と、前記チャンバ内におけるガスの分圧を測定する分圧測定装置と、を備えた濃度制御システムに用いられるプログラムであって、前記チャンバ内のガスの状態を推定するモデルを具備し、当該モデルが前記チャンバに流入するガスの流入流量と、前記分圧測定装置の測定分圧とが入力されて、前記チャンバ内におけるガスの推定分圧を出力するように構成されたオブザーバと、設定分圧と、前記オブザーバが出力する前記チャンバ内におけるガスの推定分圧とに基づいて、前記流量制御装置に設定流量を設定する制御器と、としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする濃度制御システム用プログラムを用いれば良い。
【0017】
なお、濃度制御システム用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明に係る濃度制御システムによれば、前記チャンバ内におけるガスの分圧を前記オブザーバが前記モデルに基づいて推定分圧として推定するので、前記分圧測定装置の出力する測定分圧と比較してノイズと時間遅れの小さい値を得ることができる。したがって、前記チャンバ内の実際の濃度変化を即時反映した制御が可能となり、従来よりも制御の応答性や精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る濃度制御システムを示す模式図。
【
図2】同実施形態における濃度制御システムのオブザーバを用いた状態フィードバックを示す模式図。
【
図3】同実施形態における濃度制御システムのオブザーバを用いた状態フィードバックのブロック線図。
【
図4】同実施形態における排気バルブにおけるチャンバ圧力ごとのコンダクタンスの変化を示すグラフ。
【
図5】同実施形態におけるオブザーバの詳細について示すブロック線図及び出力のグラフ。
【
図6】同実施形態におけるオブザーバによるチャンバ内におけるガスの分圧の推定例。
【
図7】同実施形態におけるオブザーバ制御における極の設計例。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る濃度制御システム100について各図を参照しながら説明する。本実施形態の濃度制御システム100は、半導体製造プロセスにおいて例えば基板に対してプラズマ処理が行われるプロセスチャンバ内のガスの分圧を制御する。
図1に示すようにチャンバCNには、当該チャンバCN内に各種ガスを供給する供給流路SLと、チャンバCN内のガスを外部に排出する排気流路ELとが、それぞれ接続されている。
【0021】
供給流路SLは、各種ガス源にそれぞれ上流側が接続された複数の並列な分岐流路DL1、DL2と、各分岐流路DL1、DL2が合流して1つの流路となるとともにチャンバCNに接続された合流後流路CLとからなる。本実施形態では第1分岐流路DL1は希釈ガスであるN2の供給源と接続されており、第2分岐流路DL2はプロセスガスであるCF4の供給源と接続されている。なお、供給流路SLに流されるガスの種類は一例であって、その他のガス種であっても構わない。
【0022】
排気流路ELは、上流側がチャンバCNに接続されており、下流側が真空ポンプVPに接続されている。この排気流路EL上には当該排気流路ELのコンダクタンスを制御する排気バルブEVが設けられている。排気バルブEVの開度は0%から100%の間に任意の値に制御可能に構成されている。
【0023】
本実施形態の濃度制御システム100は、
図1に示すように第1分岐流路DL1上、第2分岐流路DL2上にそれぞれ設けられた2つの流量制御装置1と、チャンバCNに設けられて当該チャンバCN内におけるCF
4ガスの分圧を測定する分圧測定装置2と、チャンバCNに設けられて当該チャンバCN内の全圧を測定する圧力センサと、各流量制御装置1や排気バルブEVの制御、各種演算を実行する制御演算装置COMと、を備えている。しかして、この濃度制御システム100は、制御演算装置COMの演算機能により実現されるオブザーバ3によって、本来観測できないチャンバCN内のCF
4ガスの実際の分圧を推定し、推定された分圧とユーザによって設定される設定分圧に基づいて、各流量制御装置1の設定流量を変更するように構成されている。
【0024】
各部について詳述する。
【0025】
流量制御装置1は、いわゆるマスフローコントローラであって、流量制御に必要とされる機器である流量センサ、バルブ、制御ボードが1つにパッケージ化されたものである。流量センサで測定される測定流量と、外部から設定された設定流量との偏差が小さくなるように制御ボードはバルブの開度を制御する。すなわち、流量制御装置1単体で1つの流量フィードバックループが形成されている。本実施形態では制御演算装置COMが出力する設定流量を受け付けて、その設定流量で各分岐流路DL1、DL2を流れるガスの流量が保たれるように動作する。第1分岐流路DL1に設けられた第1流量制御装置11は、N2ガスの流量を制御するように構成されており、第2分岐流路DL2に設けられた第2流量制御装置12はCF4ガスの流量を制御するように構成されている。流量センサについては熱式流量センサ、圧力式流量センサ、バルブについてはピエゾバルブやソレノイドバルブといった等様々なものを用いることができる。また、バルブの代わりに可変オリフフィスを用いて流量制御装置1を構成してもよい。
【0026】
分圧測定装置2は、いわゆるNDIR(Non Dispersive Infrared)であって、吸光度に基づき、チャンバCN内におけるCF4ガスの分圧を測定する。分圧測定装置2はチャンバCN内に赤外光を射出する光源と、チャンバCN内を通過した赤外光を検出する光検出器と、光検出器の出力に基づいてチャンバCN内におけるCF4ガスの吸光度と、圧力センサで得られるチャンバCN内の全圧からチャンバCN内におけるCF4ガスの分圧を算出する分圧算出器(図示しない)と、を備えたものである。なお、分圧算出器は例えば制御演算装置COMの演算機能を利用して構成されるが、専用の演算ボードによりその機能が実現されてもよい。また、分圧算出器のCF4ガスの分圧を算出するアルゴリズムについては既存のものを用いることができる。以降の説明では分圧測定装置2での測定値として出力するCF4ガスの分圧のことはオブザーバ3が出力する推定値と区別できるように測定分圧とも呼称する。分圧測定装置2の出力する測定分圧は、チャンバCN内における実際のCF4ガスの実際の分圧に対して、所定量の時間遅れととともに例えば電気的なノイズが重畳したものである。言い換えると、チャンバCN内におけるCF4ガスの実際の分圧は分圧測定装置2では直接観測できない。
【0027】
制御演算装置COMは、
図2に示すように制御対象であるチャンバCN内でのCF
4の分圧の状態をモデル31に基づいてシミュレートし、推定分圧として出力するオブザーバ3としての機能と、ユーザにより設定される設定分圧とオブザーバ3から出力される推定分圧に基づいて流量制御装置1を制御する制御器4として機能を発揮する。具体的には制御演算装置COMは、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力手段を備えたものである。メモリに格納されている濃度制御システム100用プログラムが実行されて、各種機器が協業することにより前述したオブザーバ3と制御器4としての機能が実現される。
【0028】
オブザーバ3は、
図2におけるPlantのチャンバCN内におけるCF
4ガスの分圧に関する物理特性をシミュレートし、チャンバCN内におけるCF
4ガスの推定した分圧を出力するように構成されている。具体的にはオブザーバ3は
図3のブロック線図に示すように制御対象である
図2におけるPlantの状態方程式と同じ状態方程式で表されるモデル31と、オブザーバゲイン32と、を具備している。以降の説明ではオブザーバ3が出力する推定された分圧は推定分圧とも呼称する。
【0029】
モデル31には、
図3に示すようにチャンバCN内に流入するCF
4ガスの流入流量と、分圧測定装置2の測定分圧が入力される。ここで、CF
4ガスの流入流量は第2流量制御装置12に入力されている設定流量が用いられる。なお、第2流量制御装置12の流量センサが実測している流量が流入流量として使用されてもよい。モデル31は入力に応じて、推定分圧として、チャンバCN内におけるCF
4ガスの実際の分圧を推定した第1推定分圧と、分圧測定装置2の測定分圧を推定した第2推定分圧を出力する。
【0030】
モデル31の状態方程式の詳細について説明する。なお、物理モデルとしては
図1に示したものに基づいている。
【0031】
チャンバCNの全圧Pは、チャンバCNに供給流路SLから流入する流量Qtotalと、チャンバCNから排気流路ELを介して流出する流量Qvaccumと、チャンバCNの容積Vに対する気体の状態方程式から以下のように記述できる。
P=1/V∫(Qtotal―Qvaccum)dt・・・(A)
また、排気バルブEVのコンダクタンスを一定値Cvとすると
Qvaccum=Cv*P・・・(B)
【0032】
ところで、
図4のグラフに示すように排気バルブEVのコンダクタンスは、排気バルブEVの開度が20%~60%の領域のようにチャンバCN内の全圧Pの影響を大きく受ける遷移領域と、開度が15%以下であってどのような全圧Pでもほぼ一定値のコンダクタンスとなるコンダクタンス一定領域がある。この濃度制御システム100では制御演算装置COMは、排気バルブEVの開度を例えば15%以下のコンダクタンス一定領域で保ち、コンダクタンスが全圧Pの影響をほぼ受けず、一定値としてモデル化できるように条件を整えている。
【0033】
また、(A)式をラプラス変換して、(B)式を代入すると
V*P*s=Qtotal―Cv*P・・・(C)
(C)式を式変形して、
P=Qtotal/(V*s+Cv)・・・(D)
また、チャンバCNに流入するN2ガスの流量をQN2、チャンバCNに流入するCF4ガスの流量をQCF4とすると、
Qtotal=QN2+QCF4・・・(E)
(D)式と(E)式からチャンバCN内におけるCF4ガスの分圧の伝達関数は、
PCF4(s)=QCF4/(V*s+Cv)・・・(F)
【0034】
さらに分圧測定装置2であるNDIRの測定分圧Con
CF4(s)には実際の分圧P
CF4(s)に対して時定数Tの1次遅れがあるので、
Con
CF4(s)=P
CF4(s)/(T*s+1)・・・(G)
(F)式と(G)式に基づいて
図3においてA、B、Cを用いて表されるチャンバCN内の分圧に関する状態方程式は数1に示すようになる。
【0035】
【数1】
したがって状態方程式を定める行列A、B、Cは、数2に示すようになる。
【0036】
【0037】
図5に示すように制御対象とオブザーバ3は同じ物理モデルとなるように共通の行列A,B,Cでオブザーバ3のモデル31は状態方程式で表現される。以降では分圧測定装置2が測定する分圧はCon
CF4として、オブザーバ3が出力する第1推定分圧はP^
CF4、第2推定分圧をCon^
CF4として記載する。
【0038】
図4のグラフに示すように分圧測定装置2から出力される測定分圧Con
CF4には時間遅れと電気的ノイズが発生するが、オブザーバ3の推定する推定分圧には電気的ノイズは重畳しない。また、第1推定分圧は観測できないチャンバCN内における実際のCF
4ガスの分圧を推定しているので、時間遅れについても解消された値が出力される。
【0039】
次にオブザーバゲインh=[h1;h2]について説明する。オブザーバゲイン32は、測定分圧と第2推定分圧との偏差が掛けられる値であり、モデル31にフィードバックされる。オブザーバゲイン32は極配置により設計される。
図3における制御対象の実出力定常オフセットCon offsetが第1推定分圧P^
CF4の出力にも反映されるようにオブザーバゲイン32のh2が設定される。具体的には排気バルブEVのコンダクタンスCvが制御対象の極となるため、h2を極であるCvに設定している。例えばCv=2の場合において、h1=50とした場合の推定分圧のシミュレーション結果を
図6に示す。制御対象の実出力定常オフセットがあったとしてもオブザーバ3の第1推定分圧がオフセットを反映できていることが分かる。なお、h1についてはゼロよりも大きい値でできる限り大きい値が設定される。
【0040】
最後に制御器4の構成について説明する。
【0041】
図3のブロック線図に示すように本実施形態では制御器4は、ユーザにより設定される設定分圧と分圧測定装置2の測定分圧との偏差を積分演算するのではなく、設定分圧と第1推定分圧P^
CF4の偏差を積分演算するように構成されている。すなわち、第1推定分圧が設定分圧に追従するようにフィードバックがかかることになる。極[f1;f2;-g]については状態空間表現からの極配置により所望の応答が得られるように設計される。具体的にV=10、Cv=1、T=0.5の場合のオブザーバ制御は以下の数3のような状態方程式として記述できる。
【0042】
【0043】
数3に基づいて極配置による制御を設計した例を
図7に示す。[f1;f2;-g]=[-100 ; -20 ; -2]としてチャンバCN内のCF
4ガスの分圧に関するオブザーバ制御を行った場合と、従来のように出力に逆微分を入れてフィルタリングをした場合の応答波形のシミュレーション結果を比較する。オブザーバ制御とした場合には、ノイズ影響をなくすとともに、分圧の応答を高速化できていることが分かる。また、外乱が生じたとしてもその影響が発生しないようにロバスト性も実現できている。
【0044】
このように本実施形態の濃度制御システム100は、オブザーバ3によって観測できないチャンバCN内におけるCF4ガスの推定分圧を得て、その推定分圧が設定分圧に追従するようにオブザーバ制御を行っているので、応答を高速でかつ外乱オフセットの偏差も補償し、ノイズも低減できる。したがって、従来よりもチャンバCN内におけるガスの分圧を所望の値で時間遅れなく正確に制御することができる。
【0045】
その他の実施形態について説明する。
【0046】
前記実施形態ではCF4ガスの分圧が状態フィードバックされるように制御系が構成されていたが、例えばN2ガスの分圧についても状態フィードバックされるように制御系を構成してもよい。
【0047】
排気バルブの開度を固定せずに、コンダクタンスを全圧及び開度の関数として定義してオブザーバのモデルを構築してもよい。
【0048】
分圧測定装置の測定分圧と観測できない実際の分圧との間の関係をモデル化する場合には前記実施形態のように1次遅れでモデル化するものに限らない。例えば2次遅れ等様々なモデル化を行っても良い。
【0049】
供給流路については分岐流路が2つに限られるものではなく、3つ以上の分岐流路を備えているものであってもよい。この場合、オブザーバのモデルについても各分岐流路から供給されるガスの流量からチャンバ内での分圧を対応してモデル化すればよい。
【0050】
分圧測定装置の測定原理については吸光度に限られるものではなく、超音波式の濃度センサのように他の測定原理に基づくものであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
100 :濃度制御システム
1 :流量制御装置
2 :分圧測定装置
3 :オブザーバ
4 :制御器
11 :第1流量制御装置
12 :第2流量制御装置
31 :モデル
32 :オブザーバゲイン
CN :チャンバ
COM :制御演算装置
EL :排気流路
EV :排気バルブ
DL1 :第1分岐流路
DL2 :第2分岐流路
VP :真空ポンプ