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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077681
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】光発電素子及び光発電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/036 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
H01L31/04 346
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188623
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 玲
(72)【発明者】
【氏名】阿部 貴美
(72)【発明者】
【氏名】長田 洋
(72)【発明者】
【氏名】柏葉 安兵衛
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA07
5F151CB14
5F151CB24
5F151DA03
5F151DA07
5F151FA06
(57)【要約】
【課題】キャリアの再結合が低減され、光電変換効率の高いペロブスカイト半導体を用いた光発電素子を提供する。
【解決手段】第1電極2と、光吸収層8として、p形ペロブスカイト層4と、n形ペロブスカイト層5と、第2電極7と、がこの順に積層され、p形ペロブスカイト層4及びn形ペロブスカイト層5はそれぞれ構成元素が同じでかつ無機材料で構成される、光発電素子100。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
光吸収層として、p形ペロブスカイト層と、n形ペロブスカイト層と、
第2電極と、
がこの順に積層され、
前記p形ペロブスカイト層及び前記n形ペロブスカイト層は、それぞれ構成元素が同じでかつ無機材料で構成される、
光発電素子。
【請求項2】
前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層はホモ接合される、
請求項1に記載の光発電素子。
【請求項3】
前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層のpn接合領域はグレーデッドバンドギャップ構造である、
請求項1に記載の光発電素子。
【請求項4】
前記第1電極と前記p形ペロブスカイト層の間に正孔輸送層を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の光発電素子。
【請求項5】
前記第2電極と前記n形ペロブスカイト層の間に電子輸送層を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の光発電素子。
【請求項6】
前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層は、Cs-Sn-X(X:ハロゲン元素)系ペロブスカイトからなる、
請求項1~5のいずれか1項に記載の光発電素子。
【請求項7】
前記p形ペロブスカイト層はCsSnXからなり、
前記n形ペロブスカイト層はCsSnXからなる、
請求項6に記載の光発電素子。
【請求項8】
前記正孔輸送層はCuOからなり、
前記正孔輸送層と前記p形ペロブスカイト層の間に障壁層を有する、
請求項4に記載の光発電素子。
【請求項9】
前記障壁層はNiOからなる、
請求項8に記載の光発電素子。
【請求項10】
前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層の接合面にメソ・マイクロ構造が形成されている、
請求項1~9のいずれか1項に記載の光発電素子。
【請求項11】
基板上に第1電極及び第2電極のいずれか一方を形成する工程と、
第1のM-X系材料層と第1のR-X系材料層をそれぞれ少なくとも一層以上形成する工程と、
熱処理により、前記第1のM-X系材料層と前記第1のR-X系材料層をp形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層のいずれか一方に変成させる工程と、
前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層のいずれか一方の上に、第2のM-X系材料層と第2のR-X系材料層をそれぞれ少なくとも一層以上形成する工程と、
熱処理により、前記第2のM-X系材料層と前記第2のR-X系材料層をp形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層のいずれか他方に変成させる工程と、
前記第1電極及び第2電極のいずれか他方を形成する工程と、
を有する光発電素子の製造方法。
ここで、M、R及びXは、組成式がRMX3で示されるペロブスカイトの単位格子における、体心位置にある元素、頂点位置にある元素、及び面心位置にある元素をそれぞれ示す。
【請求項12】
前記第1電極を形成する工程と前記p形ペロブスカイト層を形成する工程の間に、正孔輸送層を形成する工程を有する、
請求項11に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2電極を形成する工程と前記n形ペロブスカイト層を形成する工程の間に、電子輸送層を形成する工程を有する、
請求項11又は12に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項14】
前記MはSnであり、前記RはCsであり、前記Xはハロゲン元素である、
請求項11~13のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項15】
前記正孔輸送層と前記p形ペロブスカイト層の間に障壁層を形成する工程を有する、
請求項12に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項16】
前記障壁層は、NiOからなる層である、
請求項15に記載の光発電素子の製造方法。
【請求項17】
前記第1のM-X系材料層と第1のR-X系材料層は、メソスケール又はマイクロスケールの凹凸を有する層の上に形成されるか、または、前記第2のM-X系材料層と第2のR-X系材料層は、メソスケール又はマイクロスケールの凹凸を有する前記p形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層のいずれか一方の上に形成される、
請求項11~16のいずれか1項に記載の光発電素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光発電素子及び光発電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2009年にハロゲン化鉛系ペロブスカイトを光吸収層に用いた太陽電池が報告されて以降、ペロブスカイト半導体を用いた太陽電池に対し、そのエネルギー効率の向上や製造コスト低減等の開発がなされている。
【0003】
特許文献1には、ペロブスカイトとして、各種の有機カチオン-金属カチオン-ハロゲン化物アニオンを用いるとともに、多孔性材料層を備える光起電力素子が記載されている。同文献には、光起電力素子に用いる正孔輸送層及び電子輸送層に使用可能な各種材料も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6263186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ペロブスカイト層と正孔輸送層及び電子輸送層を形成する材料は異なるため、両者の界面はヘテロ接合となる。そのため、ペロブスカイト層と正孔輸送層及び電子輸送層との接合面には欠陥準位が形成され、キャリアの再結合が生じるため、ペロブスカイトを用いた光発電素子における変換効率の低下の原因となる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、キャリアの再結合が低減され、光電変換効率の高い、ペロブスカイト半導体を用いた光発電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1電極と、光吸収層として、p形ペロブスカイト層と、n形ペロブスカイト層と、第2電極と、がこの順に積層され、前記p形ペロブスカイト層及び前記n形ペロブスカイト層はそれぞれ構成元素が同じでかつ無機材料で構成される、光発電素子。
【0008】
(2)(1)において、前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層はホモ接合される、光発電素子。
【0009】
(3)(1)において、前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層のpn接合領域はグレーデッドバンドギャップ構造である、光発電素子。
【0010】
(4)(1)~(3)のいずれかにおいて、前記第1電極と前記p形ペロブスカイト層の間に正孔輸送層を有する、光発電素子。
【0011】
(5)(1)~(4)のいずれかにおいて、前記第2電極と前記n形ペロブスカイト層の間に電子輸送層を有する、光発電素子。
【0012】
(6)(1)~(5)のいずれかにおいて、前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層は、Cs-Sn-X(X:ハロゲン元素)系ペロブスカイトからなる、光発電素子。
【0013】
(7)(6)において、前記p形ペロブスカイト層はCsSnXからなり、前記n形ペロブスカイト層はCsSnXからなる、光発電素子。
【0014】
(8)(4)において、前記正孔輸送層はCuOからなり、前記正孔輸送層と前記p形ペロブスカイト層の間に障壁層を有する、光発電素子。
【0015】
(9)(8)において、前記障壁層はNiOからなる、光発電素子。
【0016】
(10)(1)~(9)のいずれかにおいて、前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層の接合面にメソ・マイクロ構造が形成されている、光発電素子。
【0017】
(11)基板上に第1電極及び第2電極のいずれか一方を形成する工程と、第1のM-X系材料層と第1のR-X系材料層をそれぞれ少なくとも一層以上形成する工程と、熱処理により、前記第1のM-X系材料層と前記第1のR-X系材料層をp形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層のいずれか一方に変成させる工程と、前記p形ペロブスカイト層と前記n形ペロブスカイト層のいずれか一方の上に、第2のM-X系材料層と第2のR-X系材料層をそれぞれ少なくとも一層以上形成する工程と、熱処理により、前記第2のM-X系材料層と前記第2のR-X系材料層をp形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層のいずれか他方に変成させる工程と、前記第1電極及び第2電極のいずれか他方を形成する工程と、を有する光発電素子の製造方法。ここで、M、R及びXは、組成式がRMXで示されるペロブスカイトの単位格子における、体心位置にある元素、頂点位置にある元素、及び面心位置にある元素をそれぞれ示す。
【0018】
(12)(11)において、前記第1電極を形成する工程と前記p形ペロブスカイト層を形成する工程の間に、正孔輸送層を形成する工程を有する、光発電素子の製造方法。
【0019】
(13)(11)又は(12)において、前記第2電極を形成する工程と前記n形ペロブスカイト層を形成する工程の間に、電子輸送層を形成する工程を有する、光発電素子の製造方法。
【0020】
(14)(11)~(13)のいずれかにおいて、前記MはSnであり、前記RはCsであり、前記Xはハロゲン元素である、光発電素子の製造方法。
【0021】
(15)(12)において、前記正孔輸送層と前記p形ペロブスカイト層の間に障壁層を形成する工程を有する、光発電素子の製造方法。
【0022】
(16)(15)において、前記障壁層は、NiOからなる層である、光発電素子の製造方法。
【0023】
(17)(11)~(16)のいずれかにおいて、前記第1のM-X系材料層と第1のR-X系材料層は、メソスケール又はマイクロスケールの凹凸を有する層の上に形成されるか、または、前記第2のM-X系材料層と第2のR-X系材料層は、メソスケール又はマイクロスケールの凹凸を有する前記p形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層のいずれか一方の上に形成される、光発電素子の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る光発電素子の層構造を示す断面模式図である。
図2】pn接合がホモ接合である場合の図1の矢印方向について示したエネルギーバンド図である。
図3】ペロブスカイトの結晶構造における単位格子を示す模式図である。
図4】p形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層がヘテロ接合されている参考例におけるエネルギーバンド図である。
図5】pn接合がグレーデッドバンドギャップ構造である場合のエネルギーバンド図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る光発電素子の製造方法を説明する図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る光発電素子の層構造を示す断面模式図である。
図8図7の矢印方向について示したエネルギーバンド図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る光発電素子の製造方法を説明する図である。
図10】本発明の第3の実施形態に係る光発電素子の層構造を示す断面模式図である。
図11図10に示した断面におけるp形ペロブスカイト層とn形ペロブスカイト層の接合面の付近を示す拡大模式図である。
図12】本発明の第4の実施形態に係る光発電素子の層構造を示す断面模式図である。
図13】本発明の第5の実施形態に係る光発電素子の層構造を示す断面模式図である。
図14】本発明の第5の実施形態に係る光発電素子の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る光発電素子及び、光発電素子の製造方法の好適な実施形態を、図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光発電素子100の層構造を示す断面模式図である。光発電素子100は、基板1上に、第1電極2、正孔輸送層3、p形ペロブスカイト層4、n形ペロブスカイト層5、電子輸送層6及び第2電極7がこの順に積層された構造となっている。
【0027】
なお、本実施形態では、基板1の近傍にp形半導体層を形成し、n形半導体層をその上部に形成する構成としたが、これを逆順にして、基板1の近傍にn形半導体層を形成し、p形半導体層をその上部に形成する構成としても差し支えない。すなわち、基板1から順に、第2電極7、電子輸送層6、n形ペロブスカイト層5、p形ペロブスカイト層4、正孔輸送層3及び第1電極2をこの順に積層してもよい。以降本明細書では、図1に示した基板1の近傍にp形半導体層を形成し、n形半導体層をその上部に形成する構成を例示して説明するが、これを逆順とした場合にも同様の説明が当てはまるのであり、逆順としたものについても同時に本明細書による開示の対象である。
【0028】
基板1は、一般的に光発電素子100の支持基板となる材料であれば特に限定はなく、どのようなものを採用しても差し支えない。図1ではガラスやセラミックス、シリコンや酸化ケイ素など、絶縁性の基板を想定しているが、金属製の基板であってもよく、また、プラスチックなど柔軟な材料による可撓性のある基板を用いてもよい。
【0029】
第1電極2は、いわゆるp形電極であることが望ましく、その上部に形成される正孔輸送層3との接触ができる限りオーミックとなる材料を選択するとよい。本実施形態では、第1電極2としてニッケル-金(Ni/Au)合金を用いている。正孔輸送層3は、p形ペロブスカイト層4中の正孔を第1電極1へと効率よく輸送させるため設けられるp形半導体層であり、本実施形態では、亜酸化銅(CuO)を用いている。
【0030】
p形ペロブスカイト層4及びn形ペロブスカイト層5は、併せて光吸収層8を構成しており、この光吸収層8に照射され吸収された光により発生する電子-正孔対をそれぞれ、第1電極1に正孔を、第2電極7に電子を輸送することにより起電力を得る。p形ペロブスカイト層4及びn形ペロブスカイト層5の詳細については後述する。
【0031】
電子輸送層6は、n形ペロブスカイト層5中の電子を第2電極7へと効率よく輸送させるため設けられるn形半導体であり、本実施形態では、酸化亜鉛(ZnO)を用いている。さらに、第2電極7は、いわゆるn形電極であることが望ましく、その下部に形成される電子輸送層6との接触ができる限りオーミックとなる材料を選択するとよい。本実施形態では、第2電極7として、チタン-金(Ti/Au)合金を用いている。なお、第2電極7は、その上部から照射される光を遮る面積が小さくなるよう、その平面形状を例えば櫛歯状、格子状など、一般的に光発電素子100の上部電極として用いられる適宜の形状に成型するとよい。
【0032】
図2は、図1の矢印方向について示したエネルギーバンド図である。なお、本図では、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5間のpn接合がホモ接合であるものとして示した図である。図中Eはフェルミ準位、Eは伝導帯下端、Eは価電子帯上端のエネルギー準位を示し、図の下側に示した矢印は、図1に示した矢印に対応している。すなわち、図2では左から電子輸送層6、n形ペロブスカイト層5、p形ペロブスカイト層4、正孔輸送層3の順にエネルギーバンドが図示されている。また、電子輸送層6とn形ペロブスカイト層5の接合位置及び、正孔輸送層3とp形ペロブスカイト層4の接合位置に複数の太線で示されているのは、欠陥準位9である。また、模式的に、電子を黒丸で、正孔を白丸でその移動方向と合わせて示している。
【0033】
本実施形態に係る光発電素子100では、光吸収層8において光を吸収することにより発生した電子-正孔対は、光吸収層自体がp形半導体であるp形ペロブスカイト層4とn形半導体であるn形ペロブスカイト層5によるpn接合を有しているため、それにより生じる内蔵電界により、電子は電子輸送層6側に、正孔は正孔輸送層3の側へと移動し分離される。その結果、n形ペロブスカイト層5には、伝導帯に電子は多数存在するが、価電子帯に正孔は少ない状態となる。同様に、p形ペロブスカイト層4には、価電子帯に正孔は多数存在するが、伝導帯に電子はほとんど存在しない状態となる。
【0034】
その結果、欠陥準位9が存在する位置では、欠陥準位9を介した再結合が起こりにくくなる。すなわち、電子輸送層6とn形ペロブスカイト層5の接合位置における欠陥準位9近辺では、電子に比べ、正孔は少なく、再結合は起こりにくくなる。同様に、正孔輸送層3とp形ペロブスカイト層4の接合位置における欠陥準位9近辺では、正孔に比べ、電子は少なく、再結合はやはり起こりにくくなる。
【0035】
従って、本実施形態に係る光発電素子100では、再結合ロスによる発電効率の低下を大幅に抑えることができ、光電変換の効率を高めることができる。
【0036】
なお、欠陥準位9に起因する再結合ロスは、電子輸送層6とn形ペロブスカイト層5の接合位置及び、正孔輸送層3とp形ペロブスカイト層4の接合位置の2か所だけでなく、光吸収層8の内部、特に本実施形態に係る光発電素子100のように、光吸収層8が異なる材料を積層した構造を持つ場合には、当該異なる材料の接合位置においても生じる恐れがある。
【0037】
しかしながら、本実施形態に係る光発電素子100では、光吸収層8の内部における再結合ロスはほとんど生じないか、生じたとしても極めて小さい。なぜならば、光吸収層8を構成するp形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5は、それぞれ同じ構成元素でかつ無機材料であるため、結晶構造が違ったとしても、組成を徐々に変えることが可能で、その内部における格子欠陥は少なく、欠陥準位もまた少ないからである。特に、ホモ接合である場合には、より格子欠陥を少なくすることができる。
【0038】
ここで、図3は、ペロブスカイトの結晶構造における単位格子を示す模式図である。ペロブスカイトは図3に示すM、R、Xの3種の元素からなる結晶であり、単位格子における体心位置に通常は金属である元素Mを、頂点位置に元素Rを、そして面心位置に元素Xを有する組成式RMXであらわされる結晶性化合物である。
【0039】
そして、ある種の無機材料をその構成元素とするペロブスカイトは、その元素の構成比を変えることで、p形半導体としての性質を示すものとn形半導体としての性質を示すものとを作り分けることができる。そのような、互いに構成元素が等しく、半導体としての性質が異なるペロブスカイトをp形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5として使用することで格子欠陥の少ないpn接合を形成することができる。
【0040】
元素Mは、鉛(Pb)や錫(Sn)のような金属元素であり、元素Rはセシウム(Cs)やバリウム(Ba)のようなアルカリ金属またはアルカリ土類元素、元素Xはヨウ素(I)や臭素(Br)のようなハロゲン元素や酸素(O)のような16族元素等を用いることができる。
【0041】
ここで、上述したペロブスカイトの条件、すなわち、構成元素比を変えることにより、p形半導体としての性質とn形半導体としての性質の両方を示すものとして、Cs-Sn-X系ペロブスカイトを好適に用いることができる。すなわち、この例では、元素Mは錫、元素Rはセシウムであり、元素Xはハロゲン元素である。元素Xの具体例は、ヨウ素又は臭素である。
【0042】
この例では、p形ペロブスカイト層4を構成するペロブスカイトの組成はCsSnXからなり、n形ペロブスカイト層4を構成するペロブスカイトの組成はCsSnXからなるものとすることができる。
【0043】
p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5がそれぞれ同じ構成元素でかつ無機材料であることの技術的意味を、参考例である図4を用いて説明する。図4は、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5がヘテロ接合されている参考例におけるエネルギーバンド図である。このような状況は、例えば、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5を構成するペロブスカイトの構成元素が異なる等の理由により、互いの格子定数やバンドギャップなどが異なっている場合に生じる。
【0044】
この時、同図に示すように、格子定数が異なることにより、接合位置において、ヘテロ接合に起因する欠陥準位9が不可避的に生じる。さらにペロブスカイトの互いの異なる構成元素が不純物となることにより、接合位置において、ヘテロ接合に起因する欠陥準位9がさらに増大する。また、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5のバンドギャップや電子親和力などがそれぞれ異なることにより、pn接合界面において伝導帯や価電子帯にスパイクやノッチが発生する。そのため、光吸収層8にて光を吸収して発生した電子-正孔対は、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5の接合面を通過する際に、このノッチに落ち込んで溜まり、欠陥準位9を介して相当部分が再結合してしまうために、光電変換効率を十分に向上させることは困難であると予想される。
【0045】
本実施形態に係る光発電素子100のように、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5がそれぞれ同じ構成元素でかつ無機材料とすることにより、その接合位置において、欠陥順位9の発生を少なく抑えるとともに、伝導帯や価電子帯にスパイクやノッチが生じにくくすることができると考えられる。p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5の接合面における接合の様式やエネルギーバンドの具体的形状は、p形及びn形ペロブスカイトとして用いる材料の選択や、製造方法により異なることが予想されるが、両者のpn接合がホモ接合である場合には、すでに図2で示したようなエネルギーバンド図が得られ、両者のpn接合がグレーデッドバンドギャップ構造である場合には図5に示したようなエネルギーバンド図が得られると考えられ、いずれの場合であっても、pn接合面における欠陥順位9を介した再結合ロスを低下させ、光電変換効率を有意に向上させることができると考えられる。
【0046】
図6は、本実施形態に係る光発電素子100の製造方法を説明する図である。
【0047】
まず、工程(a)にて、基板1上に第1電極2(この例でNi/Au層)及び正孔輸送層3(この例ではCuO層)をこの順に積層する。Ni/Au層は例えば蒸着により、また、CuO層は例えば、銅(Cu)を第1電極2上に蒸着した後、加熱酸化させることによりCuO層を得る。
【0048】
続いて、工程(b)により、第1のM-X系材料層10と、第1のR-X系材料層11をそれぞれ少なくとも1層以上形成する。図6の(b)では各1層ずつとして示されているが、複数層であってもよい。また、ここでM-X系材料とは、組成式RMXであらわされるペロブスカイトの元素M及び元素Xからなる材料を示しており、本例では、元素MとしてSnを、ハロゲンである元素XとしてIを用いるから、M-X系材料はSnIである。同様に、R-X系材料とは、組成式RMXであらわされるペロブスカイトの元素R及び元素Xからなる材料を示しており、本例では、元素RとしてCsを、ハロゲンである元素XとしてIを用いるから、R-X系材料はCsIである。
【0049】
このとき、第1のM-X系材料層10の総厚みと、第1のR-X系材料層11の総厚みは、第1のM-X系材料層10と第1のR-X系材料層11に含まれる総元素の構成比が、得ようとしているp形ペロブスカイトの元素の構成比に等しくなるように調整する。こうすることにより、続く工程(c)において、例えば熱処理を行い、第1のM-X系材料層10と第1のR-X系材料層11をp形ペロブスカイト層4へと変成させることができる。
【0050】
続けて、工程(d)により、第2のM-X系材料層12と、第2のR-X系材料層13をそれぞれ少なくとも1層以上形成する。図5の(d)では各1層ずつとして示されているが、複数層であってもよい点は先の場合と同様である。また、先の場合と同様、ここでM-X系材料はSnIであり、R-X系材料はCsIである。
【0051】
このとき、第2のM-X系材料層12の総厚みと、第2のR-X系材料層13の総厚みは、第2のM-X系材料層12と第2のR-X系材料層13に含まれる総元素の構成比が、得ようとしているn形ペロブスカイトの元素の構成比に等しくなるように調整する。こうすることにより、続く工程(e)において、例えば熱処理を行い、第2のM-X系材料層12と第2のR-X系材料層13をn形ペロブスカイト層5へと変成させることができる。
【0052】
なお、以上のように、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5の成層にあたって加熱処理を行うことにより、各層の原子の拡散と結晶化が進んでp形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5が形成され、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5とがより適切に接合される。p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5とを接合する手法は加熱処理を含む方法に限られないが、加熱処理を含む接合方法を用いることによりグレーデッドバンドギャップ構造が得られ、接合における欠陥準位の発生や、エネルギーバンドにおけるスパイクやノッチの発生を抑え、光電変換効率の高い光発電素子100が得られると考えられる。
【0053】
最後に、工程(f)において、電子輸送層6(この例ではZnO層)及び第2電極(この例ではTi/Au層)をこの順に積層することにより、光発電素子100を得る。光発電素子100は、必要に応じて、保護膜の付加、切断、配線など素子として利用可能な形に後加工がなされてよい。
【0054】
なお、以上の本実施形態に係る光発電素子100の製造方法は、p形ペロブスカイト層4を基板1のより近くに配置した場合の工程順を説明したものである。これに替え、n形ペロブスカイト層5を基板1のより近くに配置した場合には、上記した製造方法において、成膜順を、第2電極7、電子輸送層6、n形ペロブスカイト層5、p形ペロブスカイト層4、正孔輸送層3及び第1電極2の順となるようにするとよい。
【0055】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る光発電素子200の層構造を示す断面模式図である。光発電素子200では、先の実施形態に係る光発電素子100に対し、正孔輸送層3とp形ペロブスカイト層4との間に障壁層14が設けられている点が相違している。その他の点について実質的な違いはないため、同一の構成には同符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0056】
図8を用いて、障壁層14の技術的意味を説明する。図8は、図7の矢印方向について示したエネルギーバンド図である。同図より明らかなように、障壁層14は、伝導帯下端Eのエネルギー準位が高い材料により形成する。このような障壁層14をp形ペロブスカイト層4に隣接して設けることにより、p形ペロブスカイト層4中で発生した電子-正孔対のうち、電子が拡散により運動量を得て、正孔輸送層3に向かって移動するものが生じたとしても、障壁層14の高い伝導帯下端Eのエネルギー準位が障壁となり、正孔輸送層3に流入することがほとんどできない。そのため、電子が正孔輸送層3に流入して正孔と再結合することによる再結合ロスを低減することができる。
【0057】
同時に、障壁層14の価電子帯上端Eのエネルギー準位は、p形ペロブスカイト層4あるいは正孔輸送層3の価電子帯上端Eのエネルギー準位とほとんど変わりがなく、正孔の移動を阻害しない。これにより、光発電素子200の光電変換効率をさらに高めることができる。
【0058】
なお、このような障壁層14の材料の具体例としては、p形ペロブスカイト層が上述したCsSnXからなり、若しくは正孔輸送層がCuO層である場合には、酸化ニッケル(NiO)が好適である。
【0059】
図9は、第2の実施形態に係る光発電素子200の製造方法を説明する図である。
【0060】
まず、工程(a)にて、基板1上に第1電極2(この例でNi/Au層)及び正孔輸送層3(この例ではCuO層)をこの順に積層する。この工程は、先の第1の実施形態に係る光発電素子100について示した、図6の工程(a)と同様である。
【0061】
続いて、工程(b)にて、障壁層14(この例ではNiO層)を積層する。NiO層は例えば、Ni層を蒸着したのち、加熱酸化させることにより得られる。
【0062】
さらに、工程(c)にて、p形ペロブスカイト層4を積層する。この工程は、先の第1の実施形態に係る光発電素子100について示した、図6の工程(b)及び(c)と同様である。
【0063】
また、工程(d)にて、n形ペロブスカイト層5を積層する。この工程は、先の第1の実施形態に係る光発電素子100について示した、図6の工程(d)及び(e)と同様である。
【0064】
最後に、工程(e)にて、電子輸送層6(この例ではZnO層)及び第2電極7(この例ではTi/Au層)をこの順に積層し、光発電素子200を得る。この工程は、先の第1の実施形態に係る光発電素子100について示した、図6の工程(f)と同様である。
【0065】
図10は、本発明の第3の実施形態に係る光発電素子300の層構造を示す断面模式図である。光発電素子300では、各層の選択及び積層順については第1の実施形態に係る光発電素子100と同様であるが、p形ペロブスカイト層4とn型ペロブスカイト層5の接合面にメソ・マイクロ構造15が形成されている点が相違している。なお、本実施形態では、メソ・マイクロ構造15はp形ペロブスカイト層4の第1電極2側の界面、すなわち、p形ペロブスカイト層4と正孔輸送層3との界面にも設けられている。その他の点について実質的な違いはないため、同一の構成には同符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0066】
メソ・マイクロ構造15は、メゾスコピック領域又はマイクロ領域に属する機械的構造を指しており、ここではおおよそ50nm~2μmスケールの規模の凹凸構造を意味している。この凹凸は、規則的なものであっても不規則なものであってもよい。図10に示したメソ・マイクロ構造15は矩形波状の形状として図示しているが、これは模式的に示したものにすぎず、メソ・マイクロ構造15の具体的な形状を特定するものではない。
【0067】
図10に示したメソ・マイクロ構造15を設けるためには、まず、正孔輸送層3の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設け、その上にp形ペロブスカイト層4を積層する。その結果、p形ペロブスカイト層4の正孔輸送層3との界面となる接合面の形状は正孔輸送層3の表面形状と一致するから、所望のメソ・マイクロ構造15が得られる。これに伴い、p形ペロブスカイト層4の反対側の表面にも凹凸形状が反映されるから、さらにその上にn形ペロブスカイト層5を積層すると、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5の接合面にも、メソ・マイクロ構造15が形成される。
【0068】
なお、さらにその上側の層である電子輸送層6及び第2電極7の形状も、層を重ねるごとにその影響の程度は若干緩和されるものの、正孔輸送層3の表面に設けた凹凸形状が反映され、模式的に図10に示したような層形状となると考えられる。なお、n形ペロブスカイト層5より上側の層は、その界面が凹凸を有する必要は必ずしもなく、平坦となっていても差し支えない。
【0069】
このようなメソ・マイクロ構造15を設けると、図10より明らかなように、p形ペロブスカイト層4と正孔輸送層3との接合面及びp形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5の接合面の面積が増加する。このような構造により、光発電素子300の再結合ロスを低減でき、光電変換効率を向上させることができると考えられる。
【0070】
この理由はp形ペロブスカイト層4と正孔輸送層3との接合面における事象とp形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5のpn接合領域における事象それぞれについて考えられる。
【0071】
まず、p形ペロブスカイト層4と正孔輸送層3との接合面においては、光吸収層8中の任意の位置で光を吸収して発生する電子-正孔対の特に正孔について、p形ペロブスカイト層4と正孔輸送層3との接合面が三次元的な形状を持ち、またその面積が増大しているため、発生した正孔の正孔輸送層3への移動が容易になる。そのため、生成される正孔の光吸収層8中の平均滞留時間が短くなり、同じく光吸収層8中に生成される電子と再結合を生じる確率が低下すると考えられる。
【0072】
また、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5のpn接合領域においても同様の理由により、光吸収層8中の任意の位置で光を吸収して発生する電子-正孔対の電子と正孔がそれぞれp形ペロブスカイト層4及びn形ペロブスカイト層5へと容易に移動し、両者が空乏層により隔てられるため、再結合確率が低下し、光発電素子300の光電変換効率を有意に向上させることができると考えられる。
【0073】
図11は、図10に示した断面におけるp形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5の接合面16の付近を示す拡大模式図である。接合面16は、メソ・マイクロ構造15が設けられているため、図11に模式的に示したような立体的な形状となっている。そして、接合面16はpn接合面であるから、接合面16を挟んで、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5側にそれぞれ、所定の厚さの空乏層17が生じている。図11では、空乏層17を実線、p形ペロブスカイト層4を二点鎖線、n形ペロブスカイト層5を一点鎖線によるハッチングで示した。
【0074】
この時、図中Aで示したように、空乏層17中で電子-正孔対が発生した場合、内蔵電界によって電子はn形ペロブスカイト層5に、正孔はp形ペロブスカイト層4へと速やかに移動し、両者は空乏層17で隔てられるから、この電子-正孔対が再結合を生じる確率は低い。
【0075】
また、図中Bで示したように、n形ペロブスカイト層5中で電子-正孔対が発生した場合には、接合面16がメソ・マイクロ構造15を有しており、その面積が大きくまた光吸収層8中で立体的な形状となっているため、正孔は容易にp形ペロブスカイト層4へと移動し、やはり電子と正孔は空乏層17で隔てられることになる。同様に、図中Cで示したように、p形ペロブスカイト層4中で電子-正孔対が発生した場合には、電子は容易にn形ペロブスカイト層5へと移動し、やはり電子と正孔は空乏層17で隔てられる。
【0076】
以上のように、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5の接合面16においてメソ・マイクロ構造15を設けることによっても、光吸収層8における再結合確率を低下させ、光発電素子300の光電変換効率を有意に向上させることができると考えられる。
【0077】
なお、本実施形態において、メソ・マイクロ構造15を作成する方法として、正孔輸送層3の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を作成したのは、本実施形態に係る光発電素子300が、p形ペロブスカイト層4が基板1により近い位置に配置される積層順となっているからである。この逆順、すなわち、n形ペロブスカイト層5が基板1により近い位置に配置される積層順となっている場合には、電子輸送層6の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を作成するとよい。
【0078】
なお、メソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設ける方法は、正孔輸送層3の成膜方法として表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸が形成されるような手法、例えば大気圧プラズマCVDによる多結晶成膜のような、ポリリシックな成膜方法を採用したり、正孔輸送層3の成膜後に、その表面に化学的、物理的方法によりメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を形成する方法を用いたりすることができる。化学的方法としては例えばエッチングを、物理的方法としてはレーザ照射やサンドブラストのような方法を採用してよい。
【0079】
また、メソスケール又はマイクロスケールの凹凸は、必ずしも正孔輸送層3に直接設けなくともよく、その下層である、第1電極2の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設けることにより、間接的に正孔輸送層3の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を形成してもよい。第1電極2の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設ける方法は、正孔輸送層3の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設ける方法と同様、種々の方法を採用してよい。
【0080】
従って、本実施形態において説明したようなメソ・マイクロ構造15を有する光発電素子300を作成するには、第1の実施形態について示した図6を援用して説明すると、第1のM-X系材料層10と、第1のR-X系材料層11を、あらかじめメソスケール又はマイクロスケールの凹凸をその表面に有するものとして作成しておいた正孔輸送層3の上に形成するとよい。
【0081】
さらには、メソ・マイクロ構造15を第1電極2や正孔輸送層3(あるいは第2電極7や電子輸送層6)ではなく、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5との接合面に直接設けてもよい。図12は、本発明の第4の実施形態に係る光発電素子400の層構造を示す断面模式図である。
【0082】
本実施形態に係る光発電素子400では、p形ペロブスカイト層4とn形ペロブスカイト層5との接合面にはメソ・マイクロ構造15が形成されているが、その下側の層、すなわち、p形ペロブスカイト層4と正孔輸送層3の接合面にはメソ・マイクロ構造15は形成されていない。
【0083】
このような構造の光発電素子400においても、先の実施形態について図11を示して説明したように、光吸収層8において発生した電子と正孔は速やかに空乏層17により隔てられ、その再結合確率が低下する。したがって、光発電素子400の光電変換効率を有意に向上させることができると考えられる。
【0084】
光発電素子400の作成は、第1の実施形態について示した図6を援用して説明すると、第2のM-X系材料層12と、第2のR-X系材料層13を、あらかじめメソスケール又はマイクロスケールの凹凸をその表面に有するものとして作成しておいたp形ペロブスカイト層4の上に形成するとよい。p形ペロブスカイト層4の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設ける方法は、上述した正孔輸送層3の表面にメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設ける方法と同様、種々の方法を採用してよい。また、熱処理によりp形ペロブスカイト層4を得る前の第1のM-X系材料層10と第1のR-X系材料層11にあらかじめ適宜の方法によりメソスケール又はマイクロスケールの凹凸を設けておき、これを熱処理することにより、メソスケール又はマイクロスケールの凹凸をその表面に有するp形ペロブスカイト層4を得るようにしてもよい。
【0085】
図13は、本発明の第5の実施形態に係る光発電素子500の層構造を示す断面模式図である。光発電素子500では、第1の実施形態に係る光発電素子100における、正孔輸送層3と電子輸送層6が設けられておらず、p形ペロブスカイト層4と第1電極2及び、n形ペロブスカイト層5と第2電極7とが直接接合されている点が相違している。その他の点について実質的な違いはないため、同一の構成には同符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0086】
本実施形態では、p形ペロブスカイト層4と第1電極2間及び、n形ペロブスカイト層5と第2電極間の材料の選択により、正孔輸送層3と電子輸送層6を不要としてこれを省略している。すなわち、p形ペロブスカイト層4と第1電極2間を直接接触しても正孔の移動に支障がない場合には、正孔輸送層3を省略することができる。また同様に、n形ペロブスカイト層5と第2電極6間を直接接触しても電子の移動に支障がない場合には、電子輸送層3を省略することができる。
【0087】
なお、図13に示した例では、正孔輸送層3と電子輸送層6の両方を省略しているが、これは各層の材料の選択に依存するので、いずれか片方のみ、例えば正孔輸送層3を省略する一方、電子輸送層6は形成するようにしても、その逆としても差し支えない。
【0088】
図14は、第5の実施形態に係る光発電素子500の製造方法を説明する図である。
【0089】
まず、工程(a)にて、基板1上に第1電極2(この例でNi/Au層)を積層する。
【0090】
続いて、工程(b)にて、p形ペロブスカイト層4を積層する。この工程は、先の第1の実施形態に係る光発電素子100について示した、図6の工程(b)及び(c)と同様である。
【0091】
また、工程(c)にて、n形ペロブスカイト層5を積層する。この工程は、先の第1の実施形態に係る光発電素子100について示した、図6の工程(d)及び(e)と同様である。
【0092】
最後に、工程(d)にて、第2電極7(この例ではTi/Au層)をこの順に積層し、光発電素子500を得る。
【0093】
なお、以上説明した本発明に係る光発電素子の各実施形態は、当業者が、これらを適宜組み合わせてもよい。例えば、第2、第5の実施形態において、第3の実施形態や第4の実施形態にて示したようにメソ・マイクロ構造15を設けるようにしてもよい。あるいは、第2乃至第4の実施形態において、第5の実施形態にて示したように、正孔輸送層3と電子輸送層6のいずれか又は両方を省略するようにするなどしてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 基板、2 第1電極、3 正孔輸送層、4 p形ペロブスカイト層、5 n形ペロブスカイト層、6 電子輸送層、7 第2電極、8 光吸収層、9 欠陥準位、10 第1のM-X系材料層、11 第1のR-X系材料層、12 第2のM-X系材料層、13 第2のR-X系材料層、14 障壁層、15 メソ・マイクロ構造、16 接合面、17 空乏層、100,200,300,400,500 光発電素子。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14