(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022077733
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】安定同位体濃縮装置
(51)【国際特許分類】
B01D 59/04 20060101AFI20220517BHJP
【FI】
B01D59/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020188709
(22)【出願日】2020-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 勇斗
(72)【発明者】
【氏名】神邊 貴史
(57)【要約】
【課題】エネルギー効率が高く、設備コストを低減できる安定同位体濃縮装置を提供する。
【解決手段】複数の蒸留塔がカスケード接続された蒸留塔群を備え、蒸留塔群は、1以上の棚段塔からなる棚段塔群と、1以上の充填塔からなる充填塔群を有し、棚段塔群の二次側に充填塔群が位置する、安定同位体濃縮装置100である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留によって安定同位体を濃縮する安定同位体濃縮装置であって、
複数の蒸留塔がカスケード接続された蒸留塔群を備え、
前記蒸留塔群は、
1以上の棚段塔からなる棚段塔群と、
1以上の充填塔からなる充填塔群と、を有し、
前記棚段塔群の二次側に前記充填塔群が位置する、安定同位体濃縮装置。
【請求項2】
前記充填塔群は、前記充填塔のすべてが不規則充填塔である、請求項1に記載の安定同位体濃縮装置。
【請求項3】
前記充填塔群は、1以上の規則充填塔と1以上の不規則充填塔とを有し、
1以上の規則充填塔の二次側に、1以上の不規則充填塔が位置する、請求項1に記載の安定同位体濃縮装置。
【請求項4】
前記充填塔群は、1以上の規則充填塔と1以上の不規則充填塔とを有し、
1以上の不規則充填塔の二次側に、1以上の規則充填塔が位置する、請求項1に記載の安定同位体濃縮装置。
【請求項5】
前記蒸留塔群のうち、
原料が供給される蒸留塔は棚段塔である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の安定同位体濃縮装置。
【請求項6】
前記不規則充填塔は、
並列に接続される前記不規則充填塔の本数が20本以下である、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の安定同位体濃縮装置。
【請求項7】
前記不規則充填塔の塔径が200mm以下である、請求項2乃至6のいずれか一項に記載の安定同位体濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定同位体濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に極僅かしか存在しない安定同位体を分離する方法として、熱拡散分離、遠心分離、レーザ分離、化学交換分離、蒸留分離などの分離方法が知られている。これらの分離方法の中でも、蒸留分離は軽元素の大量生産に向いているため、たとえば工業的な酸素の安定同位体分離方法として、水の蒸留分離や酸素の蒸留分離が採用されている。
【0003】
蒸留による安定同位体の分離方法の特徴として、分離係数が極めて1に近いため、高濃度の安定同位体を得るためには、数千程度の理論段数が必要となる点が挙げられる。しかしながら、蒸留塔の高さには制限があることから、蒸留塔を複数に分割し、分割したこれらの複数の蒸留塔を直列に接続(以下、「カスケード接続」ともいう)することが必要となる。
【0004】
蒸留塔には、主に棚段が設けられた蒸留塔(以下、「棚段塔」という)と充填物が充填された蒸留塔(以下、「充填塔」という)がある。さらに、充填塔には、規則充填物を充填した規則充填塔と、不規則充填物を充填した不規則充填塔との2種類がある。
これまで、安定同位体濃縮装置では、蒸留塔の高さを抑えるために不規則充填塔が多く採用されている。特許文献1では、不規則充填塔を用いた一酸化窒素蒸留による酸素同位体の濃縮が実施されている。
不規則充填塔は、充填物の比表面積の大きさから高い分離性能を有する。特に50mm以下の小さな塔径の不規則充填塔において、H.E.T.P.(理論段相当高さ)が数十mm程度となる(非特許文献1)。ここで、H.E.T.P.とは充填物の蒸留性能を示す指標であり、H.E.T.P.の値が小さいほど分離性に優れる。
【0005】
蒸留塔を用いた安定同位体の濃縮において、安定同位体の製品量を増やす場合、蒸留塔の塔径を大きくする必要がある。
しかし、不規則充填塔では、大きな塔径の塔に対して小粒径の充填物を充填した場合、圧力損失が非常に大きくなり、また、気液の流動に偏りが生じやすくなる。そのため、一般に、不規則充填塔の塔径と充填物の一粒子あたりの粒径の比には制限がある。これにより、不規則充填塔の塔径が大きくなるほど充填物の比表面積は減少し、H.E.T.P.が大きくなる。非特許文献2には、各種不規則充填物のH.E.T.P.のデータが記載されており、塔径が50mmの場合ではH.E.T.P.は15~60mmであり、塔径が108mmの場合ではH.E.T.P.は100mm前後であり、塔径が208mmの場合ではH.E.T.P.は100mm以上(具体的には、150mm~200mm程度)となっている。
【0006】
一方で、H.E.T.P.を維持したまま塔径を大きくする方法として、1本の蒸留塔を複数に分割して並列に接続する方法がある(非特許文献3)。しかし、上記方法のデメリットとして、コンデンサまたはリボイラのいずれかを並列に接続した蒸留塔の本数分だけ設置する必要がある点が挙げられる。そのため、コンデンサまたはリボイラの数の増加によって、設備コストと運転管理の煩雑さが増大するという課題があった。
【0007】
上記の理由により、並列に接続できる蒸留塔の本数には限りがある。そのため、現実的には、H.E.T.Pが大きくなるとしても1塔あたりの塔径を大きくするような装置設計を行う必要がある。
したがって、不規則充填塔を用いた安定同位体濃縮装置では、生産量を大きくする場合、1塔当たりの塔径が大きくなり、さらに必要な蒸留塔の本数も増えるため、エネルギー効率が悪くなるという課題があった。
【0008】
また、不規則充填塔は、充填物の比表面積が大きいためにホールドアップ量が大きいという特徴がある。蒸留による安定同位体の分離では装置の起動開始から製品採取開始までの時間である起動運転時間が長いことが知られており、その起動運転時間に影響するパラメータがホールドアップ量である。そのため、不規則充填塔を使用した場合では起動運転時間が長期化するためにランニングコストが高くなってしまうという課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】B.M. Andreev, E.P. Magomedbekov, A.A. Raitman, M.B. Pozenkevich, Yu.A. Sakharovsky and A.V. Khoroshilov, “Separation of istopes of biogenic elements in two-phase systems”, 2007
【非特許文献2】トウトクエンジ株式会社、TOWER PACKINGs カタログ、No3
【非特許文献3】B.B.McInteer, “Separation Scinence and Technology”,第15版,(3),1980年,p491-508
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、エネルギー効率が高く、設備コストを低減できる安定同位体濃縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 蒸留によって安定同位体を濃縮する安定同位体濃縮装置であって、
複数の蒸留塔がカスケード接続された蒸留塔群を備え、
前記蒸留塔群は、
1以上の棚段塔からなる棚段塔群と、
1以上の充填塔からなる充填塔群と、を有し、
前記棚段塔群の二次側に前記充填塔群が位置する、安定同位体濃縮装置。
[2] 前記充填塔群は、前記充填塔のすべてが不規則充填塔である、[1]に記載の安定同位体濃縮装置。
[3] 前記充填塔群は、1以上の規則充填塔と1以上の不規則充填塔とを有し、
1以上の規則充填塔の二次側に、1以上の不規則充填塔が位置する、[1]に記載の安定同位体濃縮装置。
[4] 前記充填塔群は、1以上の規則充填塔と1以上の不規則充填塔とを有し、
1以上の不規則充填塔の二次側に、1以上の規則充填塔が位置する、[1]に記載の安定同位体濃縮装置。
[5] 前記蒸留塔群のうち、
原料が供給される蒸留塔は棚段塔である、[1]乃至[4]のいずれかに記載の安定同位体濃縮装置。
[6] 前記不規則充填塔は、
並列に接続される前記不規則充填塔の本数が20本以下である、[2]乃至[5]のいずれかに記載の安定同位体濃縮装置。
[7] 前記不規則充填塔の塔径が200mm以下である、[2]乃至[6]のいずれかに記載の安定同位体濃縮装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の安定同位体濃縮装置は、エネルギー効率が高く、設備コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
【
図2】実施例1で用いた酸素安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
【
図3】比較例1で用いた酸素安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
【
図4】実施例2で用いた酸素安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
【
図5】実施例3で用いた酸素安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、添付の図面を参照し、実施形態を示して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
<安定同位体濃縮装置>
図1は、本発明の実施形態に係る安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、複数の蒸留塔がカスケード接続された蒸留塔群と、複数のコンデンサ21と、複数のリボイラ22と、原料フィードライン30と、製品ライン31と、を備える。
【0017】
以下、蒸留塔群の上流側末端からn番目の蒸留塔を第nの蒸留塔という。
第1の蒸留塔1~第nの蒸留塔nは、塔番号の順で、カスケード接続されている。
第1の蒸留塔1~第nの蒸留塔nは、冷却された安定同位体を低温で蒸留することで、塔頂側に沸点の低い安定同位体を濃縮し、塔底側に沸点の高い安定同位体を濃縮するようになっている。
第1の蒸留塔1~第nの蒸留塔nのうち、原料が供給される第1の蒸留塔1が最も塔径が大きく、末端に向かって徐々に塔径が小さくなっている。
【0018】
第1の蒸留塔1~第j-1の蒸留塔j-1はそれぞれ棚段塔となっており、第jの蒸留塔j~第nの蒸留塔nはそれぞれ充填塔となっている。
充填塔群については、3パターンの構成が考えられ、すべて不規則充填塔、または規則充填塔の二次側に不規則充填塔、または不規則充填塔の二次側に規則充填塔、というものがある。
なお、
図1では、第1の蒸留塔1~第nの蒸留塔nのうち、棚段塔であり、原料である安定同位体が供給される塔である第1の蒸留塔1、棚段塔から充填塔に切り替わる最初の塔である第jの蒸留塔j、及び製品を採取する塔である第nの蒸留塔nのみを図示している。
また、作図の都合上、並列に接続した不規則充填塔についても1本の蒸留塔および1基ずつのコンデンサ、リボイラとして図示している。
【0019】
背景技術で説明したように、不規則充填塔の場合、塔径が大きいとH.E.T.P.が大きくなる。
一方、空気分離装置などで使用される棚段塔の場合、一般的に段間隔は100mm程度である。
そのため、不規則充填塔でH.E.T.P.が100mmを超えるような場合においては、棚段塔を採用することで蒸留塔の高さを抑えられ、その結果蒸留数を削減できるためエネルギー効率を高めることができる。具体的には、不規則充填塔の塔径が200mmを超えるような場合においては、棚段塔を採用することが好ましい。さらに、不規則充填塔の塔径が100mm以下であることが、より好ましい。
【0020】
不規則充填塔の場合、ホールドアップ量は大きい。また、棚段塔も各段に液層が存在するため、ホールドアップ量が大きい。
これに対して、規則充填塔は、一般的にホールドアップ量が小さく、起動運転時間を短縮できる。また、起動運転時間は蒸留塔群全体に濃度分布が形成されるまでの時間を意味し、天然存在比からの濃縮度が大きい「製品を採取する塔」に近いほどホールドアップ量の大小が起動運転時間に与える影響は大きくなる。
空気分離装置などで多く採用されている規則充填物としては、スルザーケムテック社製の「メラパック」等が挙げられ、そのH.E.T.P.は比表面積の大きなタイプで150mm~250mm程度である。
蒸留による安定同位体濃縮装置では、上流側に位置する原料を供給する塔から、下流側に位置する製品を採取する塔に向かって塔径が小さくなっており、必要なエネルギーの大半は上流側の蒸留塔が占める。
したがって、製品を採取する塔に近い塔では、規則充填塔を採用することで蒸留塔数は増えるものの、起動運転時間を大きく短縮でき、一方で増加する蒸留塔の塔径が小さいためエネルギー効率の低下は小さくできる。
【0021】
そこで、本実施形態の安定同位体濃縮装置100では、カスケード接続された蒸留塔群のうち、少なくとも原料を供給する塔に棚段塔を採用し、棚段塔以外の塔で充填物を充填した充填塔を採用する。
【0022】
充填塔群については、エネルギー効率や起動運転時間の設計条件応じて、以下の3つの構成が挙げられる。
(1)すべての蒸留塔が、不規則充填塔である。
(2)1以上の規則充填塔と1以上の不規則充填塔とを有し、1以上の規則充填塔の二次側に、1以上の不規則充填塔が位置する。
(3)1以上の規則充填塔と1以上の不規則充填塔とを有し、1以上の不規則充填塔の二次側に、1以上の規則充填塔が位置する。
【0023】
棚段塔の段間隔は100mm程度であることが望ましく、不規則充填物のH.E.T.P.よりも広い段間隔であることは適さない。
【0024】
具体的には、上述したように、第1の蒸留塔1~第j-1の蒸留塔j-1は棚段塔となっており、第jの蒸留塔j~第nの蒸留塔nは充填塔となっている。すなわち、本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、1以上の棚段塔からなる棚段塔群(第1の蒸留塔1~第j-1の蒸留塔j-1)と、1以上の充填塔からなる充填塔群(第jの蒸留塔j~第nの蒸留塔n)とを有する。
なお、棚段塔群の二次側に充填塔群が位置し、充填塔群は設計条件に応じて上述した3つの構成の場合がある。
また、棚段塔群は、原料を供給する第1の蒸留塔1を含み、充填塔群は、製品を採取(導出)する第nの蒸留塔nを含む。
【0025】
なお、原料を供給する塔は必ずしも第1の蒸留塔1である必要はなく、原料を供給する塔の前段に回収部となる蒸留塔が位置してもよい。また、製品を採取する塔についても必ずしも最終塔(第nの蒸留塔n)である必要はなく、蒸留塔群の中間にあってもよい。
【0026】
本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、不規則充填塔を並列に接続することで、H.E.T.P.を維持したまま相当する塔径を大きくすることができる。
並列に接続した不規則充填塔では、コンデンサまたはリボイラのいずれか一方は並列に接続した塔の本数分だけ設置し、他方は1基だけ設置し共通機器としてもよい。
設備コストを低減し、安定した装置運転ができる点から、並列に接続される不規則充填塔の本数は、20本以下であることが望ましく、10本未満であることがより好適である。
【0027】
コンデンサ21は、各蒸留塔(第1の蒸留塔1~第nの蒸留塔n)に対して、それぞれ1つ以上設けられている。コンデンサ21は、各蒸留塔の塔頂部の異なる位置に両端が接続された循環ライン32に設けられている。コンデンサ21は、蒸留塔内を上昇した気体を熱交換することで液化させ、再び蒸留塔内を下降させる機能を有する。
【0028】
リボイラ22は、各蒸留塔に対して、それぞれ1つ以上設けられている。リボイラ22は、各蒸留塔の塔底部の異なる位置に両端が接続された循環ライン33に設けられている。リボイラ22は、蒸留塔内を下降した液体を熱交換することで気化させ、再び蒸留塔内を上昇させる機能を有する。
【0029】
原料フィードライン30は、一端が第1の蒸留塔1の中間部に接続されている。原料フィードライン30は、安定同位体を第1の蒸留塔1の中間部に供給するための経路である。原料供給ライン30には、バルブが設けられている。
蒸留塔の中間部とは、蒸留塔の塔頂部および塔底部以外の位置を示す。
原料供給ライン30から供給される安定同位体の純度は、99.999%以上の高純度であることが望ましい。
【0030】
最終塔を除き、安定同位体の重成分の濃度が高められた各蒸留塔における塔底の蒸気の一部は、経路34によりバルブ23を経由して、次塔の塔頂に供給される。流れの推進力は、ある蒸留塔の塔底とその次塔の塔頂の圧力差である。次塔の塔頂に供給された蒸気は、その塔内の上昇蒸気とともにコンデンサ21で液化され、その塔の塔頂に還流される。
【0031】
また、第1の蒸留塔1を除き、安定同位体の軽成分の濃度が高められた各蒸留塔における塔頂付近の還流液の一部は、経路35によりバルブ24を経由して、前塔の塔底に供給される。流れの推進力は還流液の液頭圧である。前塔の塔底に供給された還流液は、その塔内の還流液とともにリボイラ22で気化され、その塔の塔底に還流される。
【0032】
製品ライン31は、濃縮された安定同位体成分を製品として第nの蒸留塔nから導出するための経路である。製品ライン31は、一端が第nの蒸留塔nの塔底部寄りの部分に接続されている。製品は、高濃度(例えば99%以上)に濃縮された安定同位体成分である。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の安定同位体濃縮装置100によれば、1以上の棚段塔からなる棚段塔群と、1以上の充填塔からなる充填塔群を有し、棚段塔群の二次側に充填塔群が位置する。これにより、本実施形態の安定同位体濃縮装置100はエネルギー効率が高く、設備コストを低減できる。
さらに、本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、エネルギー効率と起動運転時間のバランスに優れる。
【0034】
また、本実施形態の安定同位体濃縮装置100では、不規則充填塔の塔径が200mm以下であり、不規則充填塔の塔径が200mmを超える場合においては棚段塔を採用する。その結果、蒸留塔の高さを抑えられるため、エネルギー効率がさらに高くなる。
【0035】
なお、本発明では、不規則充填塔の塔径が100~200mm程度の場合、不規則充填塔の代わりに棚段塔、もしくは規則充填塔を採用してもよい。棚段塔を採用した場合、本実施形態の安定同位体濃縮装置100と同様に蒸留塔の高さを抑えられるため、エネルギー効率が高くなる。
一方で棚段塔は、不規則充填物の粒径が大きい(充填物の比表面積が小さい)場合の不規則充填塔と比較すると、より大きいホールドアップ量となる。この場合、起動運転時間が延びる。
【0036】
不規則充填塔の塔径が200mm程度の場合、H.E.T.P.は比表面積の大きなタイプの規則充填塔と同等程度となる。規則充填塔を採用した場合、エネルギー効率は同程度であるが、起動運転時間を短縮できる。
また、不規則充填塔の塔径が100mm未満の場合、製品を採取する塔を含む製品を採取する塔の近傍の塔であれば規則充填塔を採用してもよい。製品を採取する塔の近傍の塔は、塔径が小さく、運転に必要なエネルギーが全体のエネルギーに対して占める割合が小さい。そのため、エネルギー効率の低下が小さく、起動運転時間を大きく短縮できる。
【0037】
さらに、本実施形態の安定同位体濃縮装置100では、並列に接続される不規則充填塔の本数が20本以下であるため、設備コストをさらに低減できる。
【0038】
以上、実施形態を示して本発明の安定同位体濃縮装置を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【実施例0039】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
(実施例1)
実施例1では、
図2に示す安定同位体濃縮装置200を用いて、
18Oの濃縮を行った。
安定同位体濃縮200は、基本的な構成は安定同位体濃縮100と同様である。蒸留塔群は12本の蒸留塔で構成し、第1の蒸留塔1は棚段塔、第2の蒸留塔2~第12の蒸留塔12は不規則充填塔とした。コンデンサ21の寒冷源には液化窒素を用い、液化窒素供給ライン38より各コンデンサ21に液化窒素を供給した。リボイラ22の熱源にはガス窒素を用い、ガス窒素供給ライン39より各リボイラ22にガス窒素を供給した。また、安定同位体濃縮装置200には、同位体スクランブラ20を設けた。同位体濃縮ガス抜出ライン36は、一端を第9の蒸留塔9の中間部分に接続し、他端を同位体スクランブラ20に接続し、酸素の一部または全部を抜出し、同位体スクランブラ20に供給するようにした。同位体スクランブラ20にて同位体交換反応がされた酸素は、同位体濃縮ガス返送ライン37より第9の蒸留塔9の中間部分に返送した。
【0041】
供給する原料高純度酸素の組成は表1に示す通りであった。
第1の蒸留塔1の段間隔は100mmであった。
第2の蒸留塔2~第6の蒸留塔6では、蒸留塔1本あたりの塔径は100~200mmの範囲であった。
第7の蒸留塔7~第12の蒸留塔12では、蒸留塔1本あたりの塔径は100mm以下であった。
第2の蒸留塔2~第8の蒸留塔8では、不規則充填塔を並列に接続した。第2の蒸留塔2~第8の蒸留塔8では、それぞれの蒸留塔において、コンデンサは並列に接続した蒸留塔の本数分だけ設け、リボイラは共通機器として1基ずつとした。
並列に接続した蒸留塔の本数は、いずれの蒸留塔においても20本以下であった。
【0042】
【0043】
装置の安定時における、第12の蒸留塔12の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は、表2に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は815kWであった。また、装置の起動運転時間は約270日であった。
【0044】
【0045】
(比較例1)
比較例1では、
図3に示す安定同位体濃縮装置300を用いて、
18Oの濃縮を行った。
安定同位体濃縮装置300は、蒸留塔の本数が13本であり、第1の蒸留塔1が不規則充填物を充填した充填塔であること以外は安定同位体濃縮装置200とほぼ同様である。同位体スクランブラ20は、第10の蒸留塔10の中間部に接続した。
【0046】
供給する原料高純度酸素の組成は表1に示す通りであった。
第1の蒸留塔1では、蒸留塔1本あたりの塔径は200mm以上であった。
第2の蒸留塔2~第13の蒸留塔13では、蒸留塔1本あたりの塔径は200mm以下であった。
第1の蒸留塔1~第9の蒸留塔9では、不規則充填塔を並列に接続した。第1の蒸留塔1~第9の蒸留塔9では、それぞれの蒸留塔において、コンデンサは並列に接続した蒸留塔の本数分だけ設け、リボイラは共通機器として1基ずつとした。
並列に接続した蒸留塔の本数は、いずれの蒸留塔においても20本以下であった。
【0047】
装置の安定時における、第13の蒸留塔13の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は、表3に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は1570kWであった。また、装置の起動運転時間は約270日であった。
【0048】
【0049】
上記の結果より、実施例1では、比較例1に比べて必要な熱交換量を約5割削減でき、必要な蒸留塔の数を1塔削減できた。また、実施例1では、第1の蒸留塔1のコンデンサを1基のみとすることができた。
したがって、本発明の安定同位体濃縮装置は、エネルギー効率が高く、設備コストを低減できることがわかった。
【0050】
なお、実施例1では、第2の蒸留塔2~第6の蒸留塔6の一部を規則充填塔としてもよい。その場合、実施例1と同程度の総熱交換量となり、第2の蒸留塔2~第6の蒸留塔6のコンデンサの数を1基のみとすることができる。また、ホールドアップ量が小さくなるため、起動運転時間の短縮が見込まれる。
【0051】
(実施例2)
実施例2では、
図4に示す安定同位体濃縮装置400を用いて、
18Oの濃縮を行った。
安定同位体濃縮装置400は、蒸留塔の本数が10本であり、第1の蒸留塔1~第3の蒸留塔3は棚段塔、第4の蒸留塔4~第10の蒸留塔10は不規則充填塔とした。安定同位体濃縮装置400は、蒸留塔の総塔数、棚段塔の本数構成、充填塔の本数構成が異なること以外は安定同位体濃縮装置200とほぼ同様である。同位体スクランブラ20は、第7の蒸留塔7の中間部に接続した。
【0052】
供給する原料高純度酸素の組成は表1に示す通りであった。
第1の蒸留塔1~第3の蒸留塔3の段間隔は100mmであった。
第4の蒸留塔4~第10の蒸留塔10では、蒸留塔1本あたりの塔径は100mm以下であった。
第4の蒸留塔4~第6の蒸留塔6では、不規則充填を並列に接続した。第4の蒸留塔4~第6の蒸留塔6では、それぞれの蒸留塔において、コンデンサは並列に接続した蒸留塔の本数分だけ設け、リボイラは共通機器として1基ずつとした。
並列に接続した蒸留塔の本数は、いずれの蒸留塔においても10本以下であった。
【0053】
装置の安定時における、第10の蒸留塔10の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は、表4に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は640kWであった。
【0054】
【0055】
上記の結果より、棚段塔の本数を増加させるとエネルギー効率がさらに高くなり、蒸留塔の数およびコンデンサの基数も減るため設備コストも低減できることが分かった。
一方で、実施例2において、第4の蒸留塔4を不規則充填塔から棚段塔に変更する場合、必要な蒸留塔の長さが長くなり、蒸留塔の本数を増やす必要がある。そのため、不規則充填塔から棚段塔に変更するメリットがなくなる。
【0056】
(実施例3)
実施例3では、
図5に示す安定同位体濃縮装置500を用いて、
18Oの濃縮を行った。
安定同位体濃縮装置500は、蒸留塔の本数が13本であり、第1の蒸留塔1は棚段塔、第2の蒸留塔2~第11の蒸留塔11は不規則充填塔、第12の蒸留塔12~第13の蒸留塔13は規則充填塔とした。安定同位体濃縮装置500は、蒸留塔の総塔数、棚段塔の本数構成、充填塔の本数構成が異なること以外は安定同位体濃縮装置200とほぼ同様である。同位体スクランブラ20は、第9の蒸留塔9の中間部に接続した。
【0057】
供給する原料高純度酸素の組成は、表1に示す通りであった。
第1の蒸留塔1の段間隔は100mmであった。
第2の蒸留塔2~第11の蒸留塔11では、蒸留塔1本あたりの塔径は200mm以下であった。
第12の蒸留塔12~第13の蒸留塔13では、蒸留塔のH.E.T.P.は200mmであった。
第2の蒸留塔2~第8の蒸留塔8では、不規則充填を並列に接続した。第2の蒸留塔2~第8の蒸留塔8では、それぞれの蒸留塔において、コンデンサは並列に接続した蒸留塔の本数分だけ設け、リボイラは共通機器として1基ずつとした。
並列に接続した蒸留塔の本数は、いずれの蒸留塔においても20本以下であった。
【0058】
装置の安定時における、第13の蒸留塔13の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は、表5に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は、817kWであった。また、装置の起動運転時間は、約250日であった。
【0059】
【0060】
上記の結果より、実施例3では、製品を採取する塔の近傍を規則充填塔とすることで、実施例1と比べてほぼ同程度の熱交換量で、起動運転時間を約20日間削減できた。
したがって、本発明の安定同位体濃縮装置は、エネルギー効率と起動運転時間とのバランスに優れた態様とすることも可能であることがわかった。
【0061】
上記の結果は酸素に限らず他の安定同位体にも適用できる。例えば、炭素や水素、窒素の安定同位体濃縮においても、本発明を適用することでエネルギー効率が高く設備コストを低減した装置とすることができる。
本発明は、複数の蒸留塔をカスケード接続した蒸留塔群を備える蒸留装置であって、自然界には極僅かしか存在しない安定同位体原子を濃縮する安定同位体濃縮装置に適用可能である。