(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078351
(43)【公開日】2022-05-24
(54)【発明の名称】無アルカリガラス基板、積層基板、およびガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20220517BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20220517BHJP
C03B 25/00 20060101ALI20220517BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
C03B25/00
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044118
(22)【出願日】2022-03-18
(62)【分割の表示】P 2018519539の分割
【原出願日】2017-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2016104652
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016154685
(32)【優先日】2016-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 周平
(72)【発明者】
【氏名】小野 和孝
(57)【要約】
【課題】本発明は、研削レートが高く、且つシリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程において前記シリコン基板に発生する残留歪が小さい無アルカリガラス基板を提供する。
【解決手段】本発明は、酸化物基準のモル百分率表示でSiO2を66%以下、Al2O3を11.5%以上、B2O3を8.0%以上、MgOを3.6%以上、SrOを1%以上含有し、ZrO2、Y2O3、La2O3、TiO2およびSnO2の合量が0~0.5%であり、且つ100℃~200℃での平均熱膨張係数α100/200が3.10ppm/℃~3.70ppm/℃、ヤング率が76.0GPa以下、密度が2.42g/cm3以上である無アルカリガラス基板に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル百分率表示でSiO2を66%以下、Al2O3を11.5%以上、B2O3を8.0%以上、MgOを3.6%以上、SrOを1%以上含有し、
ZrO2、Y2O3、La2O3、TiO2およびSnO2の合量が0~0.5%であり、且つ100℃~200℃での平均熱膨張係数α100/200が3.10ppm/℃~3.70ppm/℃、ヤング率が76.0GPa以下、密度が2.42g/cm3以上である無アルカリガラス基板。
【請求項2】
酸化物基準のモル百分率表示で、下記の組成である請求項1に記載の無アルカリガラス基板。
SiO2 :50%~66%、
Al2O3 :11.5%~16%、
B2O3 :8.0%~16%、
MgO :3.6%~10%、
CaO :0%~10%、
SrO :1%~10%、
BaO :0%~10%、
ZnO :0%~10%、
ZrO2、Y2O3、La2O3、TiO2およびSnO2の合量が0~0.5%
【請求項3】
酸化物基準のモル百分率表示で、MgOおよびCaOの合計含有量が3.6%以上である請求項1または2に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項4】
200℃~300℃の平均熱膨張係数α200/300を50℃~100℃の平均熱膨張係数α50/100で除した値α200/300/α50/100が、1.15~1.35である請求項1~3のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項5】
200℃~300℃の平均熱膨張係数α200/300を50℃~100℃の平均熱膨張係数α50/100で除した値α200/300/α50/100が、1.15以上1.20未満である請求項1~3のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項6】
200℃~300℃の平均熱膨張係数α200/300から50℃~100℃の平均熱膨張係数α50/100を減じた値α200/300-α50/100が、0.30~1.20である請求項1~5のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項7】
ガラス転移点が680℃以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項8】
摩耗度が55以上である請求項1~7のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項9】
ビッカース硬度が600以下である請求項1~8のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項10】
半導体製造プロセス用支持基板およびカバーガラスの少なくとも一方に用いられる請求項1~9のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項11】
少なくとも一方の主表面の面積が0.03m2以上である請求項1~10のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項12】
厚さが1.0mm以下である請求項1~11のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項13】
ガラス基板に含まれる0.5μm以上1mm以下の欠点の密度が、1個/cm2以下である請求項1~12のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項14】
下記式(1)で表される値が3.10~3.70である請求項1~13のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
式(1):
0.0181×(SiO2の含有量)+0.0004×(Al2O3の含有量)+0.0387×(B2O3の含有量)+0.0913×(MgOの含有量)+0.1621×(CaOの含有量)+0.1900×(SrOの含有量)+0.2180×(BaOの含有量)+0.0424×(ZnOの含有量)+0.0391×(12.3+log1060-log10η)[式(1)において、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの含有量は、得られたガラスに含有される酸化物基準のモル百分率表示で表した含有量、ηは仮想粘度(単位:d・Pa・s)である。]
【請求項15】
下記式(2)で表される値が2.42以上である請求項1~14のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
式(2):
0.0218×(SiO2の含有量)+0.0302×(Al2O3の含有量)+0.0181×(B2O3の含有量)+0.0330×(MgOの含有量)+0.0351×(CaOの含有量)+0.0488×(SrOの含有量)+0.0634×(BaOの含有量)+0.0419×(ZnOの含有量)[式(2)において、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの含有量は、得られたガラスに含有される酸化物基準のモル百分率表示で表した含有量である。]
【請求項16】
下記式(3)で表される値が76.0以下である請求項1~15のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
式(3):
0.677×(SiO2の含有量)+1.598×(Al2O3の含有量)-0.220×(B2O3の含有量)+1.466×(MgOの含有量)+1.135×(CaOの含有量)+0.667×(SrOの含有量)+0.298×(BaOの含有量)+1.027×(ZnOの含有量)[式(3)において、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの含有量は、得られたガラスに含有される酸化物基準のモル百分率表示で表した含有量である。]
【請求項17】
下記式(4)で表される値が1.15~1.35である請求項1~16のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
式(4):
0.0111×(SiO2の含有量)+0.0250×(Al2O3の含有量)+0.0078×(B2O3の含有量)+0.0144×(MgOの含有量)+0.0053×(CaOの含有量)+0.0052×(SrOの含有量)+0.0013×(BaOの含有量)+0.0121×(ZnOの含有量)-0.0041×(12.3+log1060-log10η)
【請求項18】
下記式(5)で表される値が0.30~1.20である請求項1~17のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
式(5):
0.0368×(Al2O3の含有量)-0.0054×(B2O3の含有量)+0.0244×(MgOの含有量)+0.0143×(CaOの含有量)+0.0182×(SrOの含有量)+0.0097×(BaOの含有量)+0.097×(ZnOの含有量)-0.0032×(12.3+log1060-log10η)[式(5)において、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの含有量は、得られたガラスに含有される酸化物基準のモル百分率表示で表した含有量である。]
【請求項19】
酸化物基準のモル百分率表示でSiO2を66%以下、Al2O3を11.5%以上、B2O3を8.0%以上、MgOを3.6%以上、SrOを1%以上含有し、
ZrO2、Y2O3、La2O3、TiO2およびSnO2の合量が0~0.5%であり、
摩耗度が55以上であり、半導体製造プロセス用支持基板およびカバーガラスの少なくとも一方に用いられる無アルカリガラス基板。
【請求項20】
HF重量減少量が0.07(mg/cm2)/分以上0.20(mg/cm2)/分以下である、請求項1~19のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか1項に記載の無アルカリガラス基板と、シリコン基板とが積層された積層基板。
【請求項22】
ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程と、
前記溶融ガラスから泡を除く清澄工程と、
前記溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程と、
前記ガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程と、を含み、
得られるガラス基板の組成が酸化物基準のモル百分率表示でSiO2を66%以下、Al2O3を11.5%以上、B2O3を8.0%以上、MgOを3.6%以上、SrOを1%以上含有し、
ZrO2、Y2O3、La2O3、TiO2およびSnO2の合量が0~0.5%であり、
前記得られるガラス基板の組成と、前記徐冷工程における前記ガラスリボンの粘度が1013d・Pa・sとなる温度から1014.5d・Pa・sとなる温度になるまでの平均冷却速度R(単位:℃/分)とが、次の条件(1)~条件(3)を満たす無アルカリガラス基板の製造方法。
条件(1):
0.0181×(SiO2の含有量)+0.0004×(Al2O3の含有量)+0.0387×(B2O3の含有量)+0.0913×(MgOの含有量)+0.1621×(CaOの含有量)+0.1900×(SrOの含有量)+0.2180×(BaOの含有量)+0.0424×(ZnOの含有量)+0.0391×log10Rが3.10~3.70
条件(2):
0.0218×(SiO2の含有量)+0.0302×(Al2O3の含有量)+0.0181×(B2O3の含有量)+0.0330×(MgOの含有量)+0.0351×(CaOの含有量)+0.0488×(SrOの含有量)+0.0634×(BaOの含有量)+0.0419×(ZnOの含有量)が2.42以上
条件(3):
0.677×(SiO2の含有量)+1.598×(Al2O3の含有量)-0.220×(B2O3の含有量)+1.466×(MgOの含有量)+1.135×(CaOの含有量)+0.667×(SrOの含有量)+0.298×(BaOの含有量)+1.027×(ZnOの含有量)が76.0以下[条件(1)~(3)において、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの含有量は、得られたガラスに含有される酸化物基準のモル百分率表示で表した含有量である。]
【請求項23】
前記得られるガラス基板の組成が下記条件(4)および条件(5)をさらに満たす請求項22に記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
条件(4):
0.0111×(SiO2の含有量)+0.0250×(Al2O3の含有量)+0.0078×(B2O3の含有量)+0.0144×(MgOの含有量)+0.0053×(CaOの含有量)+0.0052×(SrOの含有量)+0.0013×(BaOの含有量)+0.0121×(ZnOの含有量)-0.0041×log10Rが1.15~1.35
条件(5):
0.0368×(Al2O3の含有量)-0.0054×(B2O3の含有量)+0.0244×(MgOの含有量)+0.0143×(CaOの含有量)+0.0182×(SrOの含有量)+0.0097×(BaOの含有量)+0.097×(ZnOの含有量)-0.0032×log10Rが0.30~1.20[条件(4)および(5)において、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの含有量は、得られたガラスに含有される酸化物基準のモル百分率表示で表した含有量である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無アルカリガラス基板、積層基板、およびガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チップサイズパッケージ(CSP)等のイメージセンサは、シリコン基板上にガラス基板を貼り付けて保護する方式が知られている。例えば、特許文献1には、熱膨張による伸び率をガラスと接合されるシリコン基板の熱膨張による伸び率に近づけたシリコン台座用ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体組立工程では、ウェハ状態のシリコン基板とガラス基板とをそれぞれ切断した後に、シリコン基板とガラス基板とを貼り合わせて、ダイボンディング、ワイヤーボンディング、およびモールディングなどの一連の組立工程を行っている。近年、ウェハ状態でシリコン基板とガラス基板とを貼り合わせて組立工程を行った後に切断するウェハレベルパッケージ技術による組立も提案されている。
【0005】
シリコン基板とガラス基板とを貼り合せるために、板厚偏差(TTV)の小さい、平坦性の高いガラス基板が求められている。しかし、現状のガラス成形技術では、所望の板厚偏差や平坦性を得ることが難しいことから、成形されたガラス基板を研削して板厚偏差や平坦性を改善する必要がある。
【0006】
イメージセンサに用いられるガラス基板は、フロート法等により製造した素板をウェハ状態に外形加工した後、ウェハ表層部の歪みを除去してウェハの外形寸法を規格内に調整するための研削加工(ラッピング)工程と、ウェハ表層部のマイクロクラックの除去や表面粗さの低減をする研磨加工(ポリッシング)工程等により加工する。板厚偏差が小さく、平坦性の高いガラス基板を生産性良く得るためには、ラッピング工程における高い研削レートが求められる。
【0007】
また、シリコン基板とガラス基板とを貼り合わせるには、熱処理工程を必要とする。熱処理工程では、例えば、200℃~400℃の温度でシリコン基板とガラス基板を貼り合わせた積層基板を、室温まで降温させる。このとき、シリコン基板とガラス基板の熱膨張係数に差があると、熱膨張量の違いによりシリコン基板に大きな残留歪(残留変形)が発生する原因となる。
【0008】
さらに、ウェハレベルパッケージ技術では、ウェハ状態でシリコン基板とガラス基板を貼り合わせるため、従来では問題にならなかったような熱膨張係数の差でも、シリコン基板に残留歪が発生しやすい。
【0009】
特許文献1には、ガラスの熱膨張による伸び率α1と、ガラスと接合されるシリコン基材の熱膨張による伸び率α2との比率α1/α2が0.8~1.2の範囲の値であることを特徴とするシリコン台座用ガラスが提案されている。しかし、特許文献1で開示されている実施例のガラスでは、シリコン基板との熱膨張係数の一致性は不十分であり、ウェハレベルパッケージ技術ではシリコン基板に残留歪が発生しやすい。
【0010】
そこで、本発明は、研削レートが高く、且つシリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程においてシリコン基板に発生する残留歪が小さいガラス基板およびガラス基板の製造方法を提供する。または、本発明は、当該ガラス基板を用いた積層基板を提供する。または、本発明は、半導体製造プロセス用支持基板およびカバーガラスの少なくとも一方に用いられるガラス基板であって、研削レートが高く加工性に優れたガラス基板、積層基板、またはガラス基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ガラスの組成並びに熱膨張係数、ヤング率および密度といった特性を特定範囲とすることにより、研削レートが高く、且つシリコン基板との熱膨張係数がマッチングしているガラス基板が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明のガラス基板は、酸化物基準のモル百分率表示でAl2O3を11.0%以上、B2O3を8.0%以上、SrOを1%以上含有し、且つ100℃~200℃での平均熱膨張係数α100/200が3.10ppm/℃~3.70ppm/℃、ヤング率が76.0GPa以下、密度が2.42g/cm3以上である無アルカリガラス基板であることを特徴とする。
本発明のガラス基板は、摩耗度が55以上であり、半導体製造プロセス用支持基板およびカバーガラスの少なくとも一方に用いられる無アルカリガラス基板であることを特徴とする。
【0013】
本発明の積層基板は、前記の無アルカリガラス基板と、シリコン基板とが積層されたことを特徴とする。
【0014】
本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、
ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程と、
前記溶融ガラスから泡を除く清澄工程と、
前記溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程と、
前記ガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程と、を含み、
得られるガラス基板の組成が酸化物基準のモル百分率表示でAl2O3を11.0%以上、B2O3を8.0%以上、SrOを1%以上含有し、
前記得られるガラス基板の組成と、前記徐冷工程における前記ガラスリボンの粘度が1013d・Pa・sとなる温度から1014.5d・Pa・sとなる温度になるまでの平均冷却速度R(単位:℃/分)とが、次の条件(1)~条件(3)を満たすことを特徴とする。
条件(1):
0.0181×(SiO2の含有量)+0.0004×(Al2O3の含有量)+0.0387×(B2O3の含有量)+0.0913×(MgOの含有量)+0.1621×(CaOの含有量)+0.1900×(SrOの含有量)+0.2180×(BaOの含有量)+0.0424×(ZnOの含有量)+0.0391×log10Rが3.10~3.70
条件(2):
0.0218×(SiO2の含有量)+0.0302×(Al2O3の含有量)+0.0181×(B2O3の含有量)+0.0330×(MgOの含有量)+0.0351×(CaOの含有量)+0.0488×(SrOの含有量)+0.0634×(BaOの含有量)+0.0419×(ZnOの含有量)が2.42以上
条件(3):
0.677×(SiO2の含有量)+1.598×(Al2O3の含有量)-0.220×(B2O3の含有量)+1.466×(MgOの含有量)+1.135×(CaOの含有量)+0.667×(SrOの含有量)+0.298×(BaOの含有量)+1.027×(ZnOの含有量)が76.0以下[条件(1)~(3)において、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの含有量は、得られたガラスに含有される酸化物基準のモル百分率表示で表した含有量である。]
【発明の効果】
【0015】
本発明は、研削レートが高く加工性に優れており、且つシリコン基板との熱膨張係数がマッチングしているガラス基板、積層基板、またはガラス基板の製造方法を提供することができる。または、本発明は、半導体製造プロセス用支持基板およびカバーガラスの少なくとも一方に用いられるガラス基板であって、研削レートが高く加工性に優れたガラス基板、積層基板、またはガラス基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(A)および
図1(B)は、シリコン基板と貼り合わせる本発明の一実施形態に係るガラス基板を表し、
図1(A)は貼り合わせ前の断面図、
図1(B)は貼り合わせ後の断面図である。
【
図2】
図2は、式(1)で求められた値とα
100/200の値との誤差をグラフ化した図を示す。
【
図3】
図3は、式(2)で求められた値と密度との誤差をグラフ化した図を示す。
【
図4】
図4は、式(3)で求められた値とヤング率との誤差をグラフ化した図を示す。
【
図5】
図5は、式(4)で求められた値とα
200/300/α
50/100の値との誤差をグラフ化した図を示す。
【
図6】
図6は、式(5)で求められた値とα
200/300-α
50/100の値との誤差をグラフ化した図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0018】
なお、本明細書において、特に明記しない限りは、ガラス基板およびその製造方法における各成分の含有量は酸化物基準のモル百分率で表す。
【0019】
また、本明細書において、特段の定めがない限り、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0020】
図1(A)および
図1(B)は、シリコン基板と貼り合わせる本発明の一実施形態に係るガラス基板を表す。
図1(A)に表される本発明により得られるガラス基板G1は、シリコン基板10と、樹脂20を間に挟み、例えば、200℃~400℃の温度で貼り合わされ、
図1(B)に表される積層基板30が得られる。シリコン基板10として、例えば、ウェハ(例えば、シリコンウェハなどシリコンを成分として含むウェハ)が用いられる。樹脂20は、200℃~400℃の温度に耐えられるものであれば何でもよい。
【0021】
本発明のガラス基板は、無アルカリガラス基板である。無アルカリガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が0%~0.1%が好ましい。アルカリ金属酸化物の含有量は、0.05%以下がより好ましく、0.02%以下がさらに好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。アルカリ金属酸化物の含有量が0.1%以下であれば、シリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程において、アルカリイオンがシリコン基板に拡散しにくい。
【0022】
ここで、アルカリ金属酸化物を実質的に含まないとは、アルカリ金属酸化物を全く含まないこと、またはアルカリ金属酸化物を製造上不可避的に混入した不純物として含んでいてもよいことを意味する。アルカリ金属酸化物としては、例えば、Li2O、Na2OおよびK2Oなどが挙げられる。
【0023】
本発明のガラス基板は、酸化物基準のモル百分率表示でAl2O3を11.0%以上、B2O3を8.0%以上、SrOを1%以上含有する。また、本発明のガラス基板は、下記の組成であることが好ましい。
SiO2 :50%~75%、
Al2O3 :11.0%~16%、
B2O3 :8.0%~16%、
MgO :0%~10%、
CaO :0%~10%、
SrO :1%~10%、
BaO :0%~10%、
ZnO :0%~10%
【0024】
SiO2はガラスの骨格を形成する成分である。SiO2の含有量は、50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、58%以上がさらに好ましく、60%以上が特に好ましい。SiO2の含有量が50%以上であれば、耐熱性、化学的耐久性および耐候性が良好となる。またSiO2の含有量は、75%以下が好ましく、72%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましく、66%以下が特に好ましい。SiO2の含有量が75%以下であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、密度が大きくなる。
【0025】
Al2O3の含有量は、11.0%以上であり、11.5%以上が好ましく、12%以上がより好ましい。Al2O3の含有量が11.0%以上であれば、シリコン基板との熱膨張係数の差が小さくなり、耐候性、耐熱性および化学的耐久性が良好となる。また、Al2O3の含有量は16%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、14%以下がさらに好ましく、13%以下が特に好ましい。Al2O3の含有量が16%以下であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、失透しにくくなり、ヤング率を低下することができる。
【0026】
B2O3の含有量は7.5%以上が好ましく、8.0%以上であることがより好ましく、9%以上であることがさらに好ましい。B2O3の含有量が7.5%以上、好ましくは8.0%以上であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、失透しにくくなり、研削性を担保できる。また、B2O3の含有量は16%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、13%以下がさらに好ましく、12%以下が特に好ましい。B2O3の含有量が16%以下であれば、ガラス転移温度を高くすることができ、密度を大きくすることができる。
【0027】
MgOは必須成分ではないが、含有することによりシリコン基板との熱膨張係数の差が小さくなり、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、耐候性が向上する。MgOを含有する場合、MgOの含有量は1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。また、MgOの含有量は、10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましい。MgOの含有量が10%以下であれば、失透しにくくなり、ヤング率を低下することができる。
【0028】
CaOは必須成分ではないが、含有することによりガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、耐候性が向上する。CaOを含有する場合、CaOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。また、CaOの含有量は10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましい。CaOの含有量が10%以下であれば、失透しにくくなり、ヤング率を低下することができる。
【0029】
SrOの含有量は1%以上であり、1.5%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。SrOの含有量を1%以上とすることによりガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、耐候性が向上し、密度を大きくすることができる。また、SrOの含有量は10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。SrOの含有量が10%以下であれば、失透しにくくなる。
【0030】
BaOは必須成分ではないが、含有することによりガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、耐候性が向上し、密度を大きくすることができる。BaOを含有する場合、BaOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。BaOの含有量は、10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましい。BaOの含有量が10%以下であれば、失透しにくくなる。
【0031】
ZnOは必須成分ではないが、含有することにより溶解性を向上しつつ、熱膨張係数を調整することができる。ZnOを含有する場合、ZnOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。ZnOの含有量は、10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましい。ZnOの含有量を10%以下とすることにより、ガラスの失透温度を低下させることができる。
【0032】
本発明のガラス基板は、MgOおよびCaOの合計含有量が、1%以上であることが好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。MgOおよびCaOの合計含有量が1%以上であれば、ガラス基板とシリコン基板との熱膨張係数を合わせやすい。また、MgOおよびCaOの合計含有量は、15%以下であることが好ましく、13%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。MgOおよびCaOの合計含有量が15%以下であれば、ヤング率を低下させ、密度を大きくすることができる。
【0033】
本発明のガラス基板は、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量が7%以上であることが好ましく、9%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計含有量が7%以上であることにより、ガラス基板とシリコン基板との平均熱膨張係数を合わせやすく、且つ密度を大きくすることができる。
【0034】
本発明のガラス基板は、イメージセンサのカバーガラスとして用いる場合は可視光を吸収しにくい方が好ましい。そのためには、酸化物基準の質量百万分率表示で、Fe2O3の含有量が、200ppm以下が好ましく、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましく、50ppm以下が特に好ましい。
【0035】
本発明のガラス基板は、熱伝導率を高くし、溶融性を良好とするためには、酸化物基準の質量百万分率表示で、Fe2O3を、200ppmを超えて1000ppm以下含有することが好ましい。Fe2O3の含有量が200ppmを超えていれば、ガラス基板の熱伝導率を高くし、溶融性を良好とすることができる。Fe2O3の含有量が1000ppm以下であれば、可視光の吸収が強くなり過ぎない。Fe2O3の含有量は300ppm以上がより好ましく、400ppm以上がさらに好ましく、500ppm以上が特に好ましい。Fe2O3の含有量は800ppm以下がより好ましく、700ppm以下がさらに好ましく、600ppm以下が特に好ましい。
【0036】
本発明のガラス基板は、清澄剤として、例えば、SnO2、SO3、ClおよびFなどを含有させてもよい。
【0037】
本発明のガラス基板は、耐候性、溶解性、失透性、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、紫外線透過または赤外線透過等の改善のために、例えば、Li2O、WO3、Nb2O5、V2O5、Bi2O3、MoO3、P2O5、Ga2O3、I2O5、In2O5およびGe2O5等を含有させてもよい。
【0038】
本発明のガラス基板は、ガラスの化学的耐久性向上のため、ガラス中にZrO2、Y2O3、La2O3、TiO2およびSnO2を合量で好ましくは2%以下含有させてもよく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下で含有させてもよい。
【0039】
本発明のガラス基板は、環境負荷を考慮すると、As2O3およびSb2O3を実質的に含有しないことが好ましい。
【0040】
本発明のガラス基板は、100℃~200℃での平均熱膨張係数α100/200が3.10ppm/℃以上であり、3.20ppm/℃以上が好ましく、3.25ppm/℃以上がより好ましく、3.30ppm/℃以上が特に好ましい。また、α100/200は3.70ppm/℃以下であり、3.60ppm/℃以下が好ましく、3.55ppm/℃以下がより好ましく、3.50ppm/℃以下が特に好ましい。α100/200が前記範囲であれば、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。
【0041】
ここで、100℃~200℃の平均熱膨張係数α100/200とは、JIS R3102(1995年)で規定されている方法で測定した、熱膨張係数を測定する温度範囲が100℃~200℃である平均熱膨張係数である。
【0042】
本発明のガラス基板は、ヤング率が、76.0GPa以下であり、75.5GPa以下が好ましく、75.0GPa以下がより好ましく、74.0GPa以下が特に好ましい。また、下限は特に限定されないが、典型的には、60GPa以上である。65GPa以上であっても良く、70GPa以上であってもよい。ヤング率が76.0GPa以下であれば、ガラス基板の靱性を低下させることにより、研削レートおよび研磨レートを上昇させることができる。また、シリコン基板や周辺部材等との接触による破損を抑制することができる。ヤング率が60GPa以上であれば、ガラス基板を搬送する際の自重たわみを低減することができる。
【0043】
本発明のガラス基板は、密度が2.42g/cm3以上であり、2.43g/cm3以上が好ましく、2.44g/cm3以上がより好ましく、2.45g/cm3以上がさらに好ましい。また、2.55g/cm3以下が好ましく、2.54g/cm3以下がより好ましく、2.53g/cm3以下がさらに好ましい。密度が前記範囲であれば、ガラス基板の脆性を増加させ、研削レートおよび研磨レートを上昇させることができる。
【0044】
本発明のガラス基板は、200℃~300℃の平均熱膨張係数α200/300を50℃~100℃の平均熱膨張係数α50/100で除した値α200/300/α50/100が、1.15以上であることが好ましく、1.16以上であることがより好ましく、1.17以上であることがさらに好ましく、1.18以上であることが特に好ましい。
【0045】
また、α200/300/α50/100は1.35以下であることが好ましく、1.30以下であることがより好ましく、1.28以下であることがさらに好ましく、1.20未満であることが特に好ましい。α200/300/α50/100は1.15以上1.20未満であってもよく、1.16以上1.20未満であってもよく、1.18以上1.20未満であってもよい。
【0046】
α200/300/α50/100が前記範囲であれば、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。特に、室温から300℃までの広い温度域において、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。ここで、200℃~300℃の平均熱膨張係数α200/300とは、JIS R3102(1995年)で規定されている方法で測定した、熱膨張係数を測定する温度範囲が200℃~300℃である平均熱膨張係数である。
【0047】
本発明のガラス基板は、200℃~300℃の平均熱膨張係数α200/300から50℃~100℃の平均熱膨張係数α50/100を減じた値α200/300-α50/100が、0.30以上であることが好ましく、0.35以上がより好ましく、0.40以上がさらに好ましい。また、α200/300-α50/100が1.20以下であることが好ましく、1.00以下がより好ましく、0.90以下がさらに好ましい。α200/300-α50/100が前記範囲であれば、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。特に、室温から300℃までの広い温度域において、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。
【0048】
本発明のガラス基板は、200℃~300℃での平均熱膨張係数α200/300が3.45ppm/℃~3.95ppm/℃が好ましい。α200/300は3.50ppm/℃以上がより好ましく、3.55ppm/℃以上がさらに好ましく、3.60ppm/℃以上が特に好ましく、3.62ppm/℃以上が最も好ましい。またα200/300は3.85ppm/℃以下がより好ましく、3.75ppm/℃以下がさらに好ましく、3.73ppm/℃以下が特に好ましく、3.71ppm/℃以下が最も好ましい。
【0049】
本発明のガラス基板は、50℃~100℃での平均熱膨張係数α50/100が、2.70ppm/℃~3.20ppm/℃が好ましい。α50/100は2.80ppm/℃以上がより好ましく、2.90ppm/℃以上がさらに好ましく、2.91ppm/℃以上が特に好ましく、2.92ppm/℃以上が最も好ましい。また、α50/100は、3.15ppm/℃以下がより好ましく、3.10ppm/℃以下がさらに好ましく、3.05ppm/℃以下が特に好ましく、3.01ppm/℃以下が最も好ましい。
【0050】
本発明のガラス基板は、ガラス転移点(Tgとも記す)が680℃以上であることが好ましく、685℃以上がより好ましく、690℃以上がさらに好ましい。Tgが680℃以上であれば、熱処理工程でガラス基板の寸法変化を少なく抑えることができる。また、Tgは800℃以下であることが好ましく、790℃以下がより好ましく、780℃以下が最も好ましい。Tgが800℃以下であれば、成形装置の温度を低くすることができ、成形装置の寿命を延ばすことができる。
【0051】
本発明のガラス基板は、粘度が102d・Pa・sとなる温度(T2とも記す)が、1700℃以下が好ましく、1680℃以下がより好ましく、1660℃以下がさらに好ましい。T2が1700℃以下であれば、ガラス溶解時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。なお、他の物性確保の容易性を考慮すると、T2は1580℃以上であることが好ましい。
【0052】
本発明のガラス基板は、粘度が104d・Pa・sとなる温度(T4とも記す)が、1350℃以下が好ましく、1330℃以下がより好ましく、1310℃以下がさらに好ましい。T4が1350℃以下であれば、ガラスの成形が容易となる。また、T4は1200℃以上が好ましく、1250℃以上がより好ましく、1270℃以上がさらに好ましい。T4が1200℃以上であれば、成形する際の温度域でガラスが失透しにくくなり、生産性が向上する。
【0053】
本発明のガラス基板は、失透温度が、1350℃以下が好ましく、1330℃以下がより好ましく、1310℃以下がさらに好ましい。ガラスの失透温度とは、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラスの表面及び内部に結晶が析出する最高温度と結晶が析出しない最低温度との平均値である。
【0054】
本発明のガラス基板は、失透粘性(ηTL)が、103.8d・Pa・s以上が好ましく、103.9d・Pa・s以上がより好ましく、104.0d・Pa・s以上がさらに好ましい。失透粘性が103.8d・Pa・s以上であれば、安定して成形をすることができる。
【0055】
本発明のガラス基板は、シリコン基板と貼り合わせた後、そのままデバイスの一部として組み込まれる場合がある。例えば、ガラス基板は、カバーガラスとしてデバイスの中に組み込まれる。このような場合、デバイスを小型化するために、ガラス基板をスリミングすることが好ましい。そのため、本発明の一実施形態のガラス基板は、スリミングレートが高い方が好ましい。ガラス基板のスリミングレートの指標として、HF重量減少量を用いることができる。
【0056】
ここで、HF重量減少量とは、ガラス基板を25℃、5質量%フッ酸水溶液に浸漬した際の、単位面積および単位時間当たりの減少量[(mg/cm2)/分]である。本発明のガラス基板は、フッ酸水溶液(HF)に対する重量減少量(以下、HF重量減少量とも記す)が0.07(mg/cm2)/分以上が好ましく、0.09(mg/cm2)/分以上がより好ましく、0.11(mg/cm2)/分以上がさらに好ましい。また、0.20(mg/cm2)/分以下が好ましく、0.18(mg/cm2)/分以下がより好ましく、0.16(mg/cm2)/分以下がさらに好ましい。
【0057】
HF重量減少量が0.07(mg/cm2)/分以上であれば、スリミング工程の生産性が良好になり好ましい。HF重量減少量が0.20(mg/cm2)/分以下であれば、スリミング工程でガラス基板に生じうる、エッチング深さが不均一となってガラス基板表面の平滑性が損なわれるなどの不良を防止できるため好ましい。
【0058】
また、本発明のガラス基板は、プロジェクション用途のディスプレイデバイス、例えばLCOS(Liquid Crystal On Silicon)のカバーガラスとして適用できる。このような場合に、ガラス基板の光弾性定数が高いと、デバイスのパッケージング工程やデバイス使用時に発生する応力によってガラス基板が複屈折性を有する。その結果、デバイスに入射した光に色変化が生じ、色ムラなどの画質不良が生じる場合がある。
【0059】
このような画質不良を防ぐため、本発明のガラス基板は、光弾性定数が31.0nm/(MPa・cm)以下が好ましく、30.5nm/(MPa・cm)以下がより好ましく、30.0nm/(MPa・cm)以下がさらに好ましく、29.5nm/(MPa・cm)以下が特に好ましい。
【0060】
本発明のガラス基板は、ビッカース硬度が600以下であることが好ましく、590以下であることがより好ましく、580以下であることがさらに好ましい。ビッカース硬度が600以下であることにより、研削レートを向上できる。また、ビッカース硬度は450以上であることが好ましく、460以上であることがより好ましく、470以上であることがさらに好ましい。ビッカース硬度が450以上であることにより、ガラス基板の傷つきやすさを低減できる。
【0061】
本発明のガラス基板は、摩耗度が55以上であることが好ましく、56以上がより好ましく、57以上がさらに好ましい。摩耗度が55以上であると、ガラス基板の研削レートを上昇させることができる。また、摩耗度は100以下が好ましく、95以下がよりこのましく、90以下がさらに好ましい。摩耗度が100以下であると、シリコン基板や周辺部材等との接触による破損を抑制することができる。
【0062】
本発明のガラス基板は、厚さが、1.0mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.7mm以下がさらに好ましく、0.5mm以下が特に好ましい。厚さが1.0mm以下であれば、イメージセンサを小型にすることができる。
【0063】
また、厚さは、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、シリコン基板や周辺部材等との接触による破損を抑制することができる。また、ガラス基板の自重たわみを抑えることができる。
【0064】
本発明のガラス基板は、少なくとも一方の主表面の面積が、0.03m2以上が好ましく、0.04m2以上がより好ましく、0.05m2以上がさらに好ましい。面積が0.03m2以上であれば、大面積のシリコン基板を用いることができ、一枚の積層基板から多数のイメージセンサを製造することができる。
【0065】
本発明のガラス基板は、ガラス基板に含まれる欠点の密度が1個/cm2以下が好ましい。ガラス基板に含まれる欠点とは、ガラス基板の表面や内部に存在する泡、キズ、白金等の金属異物、および未溶融原料などであり、大きさが1mm以下、0.5μm以上のものを指す。欠点が1mmより大きければ、目視で容易に判別でき、欠点を有する基板の除外は容易である。欠点が0.5μmより小さければ、欠点が十分に小さいため、イメージセンサやLCOSのカバーガラスとして適用した場合でも素子の特性に影響を及ぼす恐れが少ない。
【0066】
従来の半導体組立工程では、ガラス基板を切断した後に組立工程を行っていたため、ガラス基板に欠点があった場合、組立工程の初期で欠点がある基板を除外できる。一方でウェハレベルパッケージでは、組立工程の最後に積層基板の個片化を行うため、ガラス基板に欠点があった場合、欠点があるガラス基板を除外できるのは組立工程の最後となる。このようにウェハレベルパッケージでは、ガラス基板の欠点の密度が増加した場合のコスト増加が大きくなるため、高品質の欠点管理が求められる。欠点の密度は0.1個/cm2以下がより好ましく、0.01個/cm2以下がさらに好ましい。
【0067】
本発明のガラス基板の形状は、特に限定されず、例えば、円形、楕円形および矩形が挙げられる。貼り合わせるシリコン基板の形に合わせるために、ガラス基板の端にノッチがあってもよいし、ガラス基板が円形の場合、ガラス基板の外周の一部が直線であってもよい。
【0068】
本発明の一実施形態のガラス基板は、仮想粘度が、1011.0d・Pa・s~1014.1d・Pa・sが好ましい。ガラス基板の仮想粘度を1011.0d・Pa・s~1014.1d・Pa・sとするためには、ガラス基板の成形後の冷却速度を、1℃/分~1200℃/分相当とする必要がある。仮想粘度が1011.0d・Pa・s~1014.1d・Pa・sであれば、ガラス基板の平均熱膨張係数をシリコン基板の平均熱膨張係数に近くなり、シリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程で、シリコン基板に発生する残留歪が小さい。ガラス基板の仮想粘度は1012.1d・Pa・s~1013.1d・Pa・s(冷却速度10℃/分~100℃/分相当)が好ましい。
【0069】
ガラスの仮想粘度(η)は下記式[G.W.Scherer,Relaxation in Glass and Composites,Wiley,New York(1986),p.159]にて算出することができる。
【0070】
log10η=12.3-log10|q|
【0071】
ここで、ηの単位はd・Pa・s、qは想定冷却速度で単位は℃/sである。
【0072】
想定冷却速度qは、次の方法によりガラス基板から求められる。厚さ1mm以下の一枚のガラス基板から複数のガラス板小片を切り出す。たとえばガラス板小片として1センチメートル角の小片を切り出す。切り出した複数のガラス板小片を、それぞれ、様々な冷却速度Vにて熱処理、冷却し、それぞれのガラス板個片の物性値を測定する。冷却開始温度は冷却速度の影響を受けない十分高い温度が好ましい。典型的にはTg+50℃~+150℃程度が好ましい。
【0073】
測定を実施する物性値は、特に制限はないが、密度や、密度と密接な関係にある物性値(例えば屈折率)などが好ましい。x軸に冷却速度(log10V)をとって、y軸にそれぞれの熱処理を施したガラス板個片の物性値をとり検量線Aを作成する。熱処理を実施していないガラス板個片の物性値から、作成した検量線Aにより、そのガラス基板の想定冷却速度qが求められる。
【0074】
本発明のガラス基板は、下記式(1)で表される値が3.10以上であることが好ましく、3.20以上がより好ましく、3.25以上であることがさらに好ましく、3.30以上であることが特に好ましい。また下記式(1)で表される値が3.70以下であることが好ましく、3.60以下であることがより好ましく、3.55以下であることがさらに好ましく、3.50以下であることが特に好ましい。式(1)で表される値が前記範囲であることにより、α100/200が望ましい値となり、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。
【0075】
式(1):
0.0181×(SiO2の含有量)+0.0004×(Al2O3の含有量)+0.0387×(B2O3の含有量)+0.0913×(MgOの含有量)+0.1621×(CaOの含有量)+0.1900×(SrOの含有量)+0.2180×(BaOの含有量)+0.0424×(ZnOの含有量)+0.0391×(12.3+log1060-log10η)
【0076】
本発明のガラス基板は、下記式(2)で表される値が2.42以上であることが好ましく、2.43以上がより好ましく、2.44以上がさらに好ましく、2.45以上が特に好ましい。また、下記式(2)で表される値が2.55以下であることが好ましく、2.54以下がより好ましく、2.53以下がさらに好ましい。
【0077】
下記式(2)で表される値が前記範囲であることにより、プロセスマージンは確保しつつ、ガラス基板の密度や脆性が望ましい値となり、研削レートおよび研磨レートを上昇させることができる。
【0078】
式(2):
0.0218×(SiO2の含有量)+0.0302×(Al2O3の含有量)+0.0181×(B2O3の含有量)+0.0330×(MgOの含有量)+0.0351×(CaOの含有量)+0.0488×(SrOの含有量)+0.0634×(BaOの含有量)+0.0419×(ZnOの含有量)
【0079】
本発明のガラス板は、下記式(3)で表される値が76.0以下であることが好ましく、75.5以下がより好ましく、75.0以下がさらに好ましく、74.0以下が特に好ましい。下記式(3)で表される値が76.0以下であることにより、プロセスマージンは確保しつつ、ガラス基板の靱性を低下させることにより、研削レートおよび研磨レートを上昇させることができる。また、シリコン基板や周辺部材等との接触による破損を抑制することができる。
【0080】
式(3):
0.677×(SiO2の含有量)+1.598×(Al2O3の含有量)-0.220×(B2O3の含有量)+1.466×(MgOの含有量)+1.135×(CaOの含有量)+0.667×(SrOの含有量)+0.298×(BaOの含有量)+1.027×(ZnOの含有量)
【0081】
本発明のガラス基板は、下記式(4)で表される値が1.15以上であることが好ましく、1.16以上がより好ましく、1.17以上がさらに好ましく、1.18以上であることが特に好ましい。また下記式(4)で表される値が1.35以下であることが好ましく、1.30以下であることがより好ましく、1.28以下であることがさらに好ましく、1.20未満であることが特に好ましい。
【0082】
下記式(4)で表される値は1.15以上1.20未満であってもよく、1.16以上1.20未満であってもよく、1.18以上1.20未満であってもよい。下記式(4)で表される値が前記範囲であることにより、α200/300/α50/100が望ましい値となり、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。
【0083】
式(4):
0.0111×(SiO2の含有量)+0.0250×(Al2O3の含有量)+0.0078×(B2O3の含有量)+0.0144×(MgOの含有量)+0.0053×(CaOの含有量)+0.0052×(SrOの含有量)+0.0013×(BaOの含有量)+0.0121×(ZnOの含有量)-0.0041×(12.3+log1060-log10η)
【0084】
本発明のガラス基板は、下記式(5)で表される値が0.30以上であることが好ましく、0.35以上がより好ましく、0.40以上がさらに好ましい。また下記式(4)で表される値が1.20以下であることが好ましく、1.00以下であることがより好ましく、0.90以下であることがさらに好ましい。下記式(4)で表される値が前記範囲であることにより、α200/300-α50/100が望ましい値となり、シリコン基板との熱膨張係数の差を低減できる。
【0085】
式(5):
0.0368×(Al2O3の含有量)-0.0054×(B2O3の含有量)+0.0244×(MgOの含有量)+0.0143×(CaOの含有量)+0.0182×(SrOの含有量)+0.0097×(BaOの含有量)+0.097×(ZnOの含有量)-0.0032×(12.3+log1060-log10η)
【0086】
本発明のガラス基板は上記式(1)で表される値が3.10~3.70であり、上記式(2)で表される値が2.42以上であり、上記式(3)で表される値が76.0以下であることが好ましく、さらに上記式(4)で表される値が1.15~1.35であり、上記式(5)で表される値が0.30~1.20であることがより好ましい。
【0087】
また、本発明の一実施形態のガラス基板のα線放出量は、0.5C/cm2・h以下が好ましく、0.3C/cm2・h以下がより好ましく、0.1C/cm2・h以下が特に好ましく、0.05C/cm2・h以下が最も好ましい。なお、単位のCはカウント数の意味である。
【0088】
例えば、本発明の一実施形態のガラス基板をイメージセンサなどの素子のカバーガラスに適用する。この場合、ガラス基板から発生するα線がイメージセンサなどの素子に入射すると、α線のエネルギーによって正孔-電子対が誘起され、これが原因となって瞬間的に画像に輝点や白点が生じるソフトエラーが起こるおそれがある。そこで、α線放出量の少ないガラス基板を用いることで、このような不具合を防止しやすくなる。なお、ガラス基板の原料として、放射性同位元素の含有量が少なく、α線放出量の少ない高純度原料を使用すれば、α線放出量を低減することができる。また、ガラスの溶融・清澄工程において、放射性同位元素がガラス製造設備の炉材などから溶融ガラス中に混入しないようにすれば、α線放出量を効果的に低減することができる。また、「α線放出量」は、ガスフロー比例計数管測定装置等で測定することができる。
【0089】
本発明の積層基板は、上記したガラス基板と、シリコン基板とが積層されて形成される。シリコン基板とガラス基板との熱膨張係数の差が小さいため、シリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程で、シリコン基板に発生する残留歪が小さい。また、積層基板は、例えば樹脂を間に挟んで、ガラス基板とシリコン基板を貼り合わせることで得られる。
【0090】
このとき、樹脂の厚さや樹脂の熱膨張係数、貼り合わせ時の熱処理温度などが積層基板全体の反りに影響し得る。本発明の積層基板は、上述したような本発明の一実施形態のガラス基板のように熱膨張係数をコントロールすることで積層基板全体の反りを低減できるため、樹脂の厚さや樹脂の熱膨張係数、貼り合わせ時の熱処理温度などのプロセスマージンを広げることができる。本発明の積層基板には、上述した本発明のガラス基板を適用できる。
【0091】
次に、本発明のガラス基板の製造方法について説明する。本発明のガラス基板を製造する場合、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程、溶融ガラスから泡を除く清澄工程、溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程、およびガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程を経る。
【0092】
溶解工程は、得られるガラス板の組成となるように原料を調製し、原料を溶解炉に連続的に投入し、好ましくは1450℃~1650℃程度に加熱して溶融ガラスを得る。
【0093】
原料には酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、塩化物などのハロゲン化物なども使用できる。溶解や清澄工程で溶融ガラスが白金と接触する工程がある場合、微小な白金粒子が溶融ガラス中に溶出し、得られるガラス板中に異物として混入してしまう場合があるが、硝酸塩原料の使用はこの白金異物の溶出を防止する効果がある。
【0094】
硝酸塩としては、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムなどを使用できる。硝酸ストロンチウムを使用することがより好ましい。原料粒度も溶け残りが生じない程度の数百ミクロンの大きな粒径の原料から、原料搬送時の飛散が生じない、二次粒子として凝集しない程度の数ミクロン程度の小さな粒径の原料まで適宜使用できる。造粒体の使用も可能である。原料の飛散を防ぐために原料含水量も適宜調整可能である。β-OH、Feの酸化還元度またはレドックス[Fe2+/(Fe2++Fe3+)]などの溶解条件も適宜調整、使用できる。
【0095】
次に、清澄工程は、上記溶解工程で得られた溶融ガラスから泡を除く工程である。清澄工程としては、減圧による脱泡法を適用してもよい。また、本発明におけるガラス基板は、清澄剤としてSO3やSnO2を用いることができる。SO3源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の硫酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の硫酸塩がより好ましく、中でも、CaSO4・2H2O、SrSO4およびBaSO4が、泡を大きくする作用が著しく、特に好ましい。
【0096】
減圧による脱泡法における清澄剤としてはClまたはFなどのハロゲンを使用するのが好ましい。Cl源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の塩化物が好ましく、アルカリ土類金属の塩化物がより好ましく、中でも、SrCl2・6H2O、およびBaCl2・2H2Oが、泡を大きくする作用が著しく、かつ潮解性が小さいため、特に好ましい。F源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれた少なくとも1種の元素のフッ化物が好ましく、アルカリ土類金属のフッ化物がより好ましく、中でも、CaF2がガラス原料の溶解性を大きくする作用が著しく、より好ましい。
【0097】
次に、成形工程は、上記清澄工程で泡を除いた溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る工程である。成形工程としては、溶融ガラスを溶融金属上に流して板状にしてガラスリボンを得るフロート法が適用される。
【0098】
次に、徐冷工程は、上記成形工程で得られたガラスリボンを室温状態まで徐冷する工程である。徐冷工程としては、ガラスリボンを、粘度が1013d・Pa・sとなる温度から1014.5d・Pa・sとなる温度になるまでの平均冷却速度がRとなるように室温状態まで徐冷する。徐冷したガラスリボンを切断後、ガラス基板を得る。
【0099】
本発明のガラス基板の製造方法では、得られる無アルカリガラス基板の組成が酸化物基準のモル百分率表示でAl2O3を11.0%以上、B2O3を8.0%以上、SrOを1%以上であり、得られるガラス基板の組成と、徐冷工程におけるガラスリボンの粘度が1013d・Pa・sとなる温度から1014.5d・Pa・sとなる温度になるまでの平均冷却速度R(単位:℃/分)とが、次の条件(1)~条件(3)を満たす。条件(1)~条件(3)を満たすことで、研削・研磨レートを向上し、且つ熱処理工程でシリコン基板に発生する残留歪を小さくすることができるガラス基板を製造することができる。
【0100】
条件(1):
0.0181×(SiO2の含有量)+0.0004×(Al2O3の含有量)+0.0387×(B2O3の含有量)+0.0913×(MgOの含有量)+0.1621×(CaOの含有量)+0.1900×(SrOの含有量)+0.2180×(BaOの含有量)+0.0424×(ZnOの含有量)+0.0391×log10Rが3.10~3.70
【0101】
条件(2):
0.0218×(SiO2の含有量)+0.0302×(Al2O3の含有量)+0.0181×(B2O3の含有量)+0.0330×(MgOの含有量)+0.0351×(CaOの含有量)+0.0488×(SrOの含有量)+0.0634×(BaOの含有量)+0.0419×(ZnOの含有量)が2.42以上
【0102】
条件(3):
0.677×(SiO2の含有量)+1.598×(Al2O3の含有量)-0.220×(B2O3の含有量)+1.466×(MgOの含有量)+1.135×(CaOの含有量)+0.667×(SrOの含有量)+0.298×(BaOの含有量)+1.027×(ZnOの含有量)が76.0以下
【0103】
また、本発明のガラス基板の製造方法では、得られるガラス基板の組成がさらに下記条件(4)を満たすことが好ましい。条件(4)、条件(5)を満たすことで、熱処理工程でシリコン基板に発生する残留歪を低減することができる。
【0104】
条件(4)
0.0111×(SiO2の含有量)+0.0250×(Al2O3の含有量)+0.0078×(B2O3の含有量)+0.0144×(MgOの含有量)+0.0053×(CaOの含有量)+0.0052×(SrOの含有量)+0.0013×(BaOの含有量)+0.0121×(ZnOの含有量)-0.0041×log10Rが1.15~1.35
【0105】
条件(5):
0.0368×(Al2O3の含有量)-0.0054×(B2O3の含有量)+0.0244×(MgOの含有量)+0.0143×(CaOの含有量)+0.0182×(SrOの含有量)+0.0097×(BaOの含有量)+0.097×(ZnOの含有量)-0.0032×log10Rが0.30~1.20
【0106】
上記条件(1)で表される値は、3.20以上がより好ましく、3.25以上がさらに好ましく、3.30以上が特に好ましい。また上記条件(1)で表される値は3.70以下が好ましく、3.60以下がより好ましく、3.55以下がさらに好ましく、3.50以下が特に好ましい。条件(1)で表される値が前記範囲であることにより、シリコン基板との熱膨張係数の差が小さいガラス基板を製造できる。
【0107】
上記条件(2)で表される値は、2.43以上がより好ましく、2.44以上がさらに好ましく、2.45以上が特に好ましい。また、上記条件(2)で表される値は、2.55以下が好ましく、2.54以下がより好ましく、2.53以下がさらに好ましい。条件(2)で表される値が前記範囲であることにより、脆性が比較的高く、研削性・研磨性が良いガラス基板を製造できる。
【0108】
上記条件(3)で表される値は、75.5以下がより好ましく、75.0以下がさらに好ましく、74.0以下が特に好ましい。上記条件(3)で表される値が前記範囲であることにより、76.0以下であることにより、プロセスマージンは確保しつつ、靱性が比較的低く、研削性・研磨性が良いガラス基板を製造できる。
【0109】
上記条件(4)で表される値は、1.16以上がより好ましく1.17以上がさらに好ましく、1.18以上であることが特に好ましい。また、上記条件(4)で表される値は、1.30以下が好ましく、1.28以下がさらに好ましく、1.20未満であることが特に好ましい。条件(4)で表される値は1.15以上1.20未満であってもよく、1.16以上1.20未満であってもよく、1.18以上1.20未満であってもよい。上記条件(4)で表される値が前期範囲であることにより、シリコン基板との熱膨張係数の差が小さいガラス基板を製造できる。
【0110】
上記条件(5)で表される値は、0.35以上がより好ましく、0.40以上がさらに好ましい。また上記条件(4)で表される値は、1.20以下が好ましく、1.00以下がより好ましく、0.90以下がさらに好ましい。上記条件(4)で表される値が前記範囲であることにより、シリコン基板との熱膨張係数の差が小さいガラス基板を製造できる。
【0111】
本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は本発明に含まれる。
【0112】
例えば、本発明のガラス基板を製造する場合、成形工程で、フュージョン法やプレス成形法などを適用して溶融ガラスを板状にしてもよい。
【0113】
また、本発明のガラス基板を製造する場合、白金坩堝を用いてもよい。白金坩堝を用いた場合、溶解工程は、得られるガラス基板の組成となるように原料を調製し、原料を入れた白金坩堝を電気炉に投入し、好ましくは1450℃~1650℃程度に加熱する。白金スターラーを挿入し1時間~3時間撹拌し溶融ガラスを得る。
【0114】
成形工程は、溶融ガラスを例えばカーボン板状に流し出し板状にする。徐冷工程は、板状のガラスを室温状態まで徐冷し、切断後、ガラス基板を得る。また、切断して得られたガラス基板を、例えばTg+50℃程度となるように加熱した後、室温状態まで所定の冷却速度で徐冷してもよい。このようにすることで、仮想粘度ηを調節することができる。
【実施例0115】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0116】
表1~6に示すガラス組成(目標組成)となるように、珪砂等の各種のガラス原料を調合した。調合した該目標組成の原料100%に対し、酸化物基準の質量百分率表示で、硫酸塩をSO3換算で0.1%~1%、Fを0.16%、Clを1%添加した。原料を白金坩堝に入れ、電気炉中にて1550℃~1650℃の温度で3時間加熱して溶融し、溶融ガラスとした。溶融にあたっては、白金坩堝に白金スターラーを挿入して1時間攪拌し、ガラスの均質化を行った。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形後、板状のガラスをTg+50℃程度の温度の電気炉に入れ、冷却速度R(℃/分)で電気炉を降温させ、ガラスが室温になるまで冷却した。
【0117】
得られたガラスについて、仮想粘度log10η(単位:dPa・sec)、下記式(1)~(5)から求められる値、平均熱膨張係数(単位:ppm/℃)、密度(単位:g/cm3)、ヤング率(単位:GPa)、ビッカース硬度、摩耗度、ガラス転移点Tg(単位:℃)、T2(単位:℃)、T4(単位:℃)、失透温度(単位:℃)、失透粘性log10ηTL(単位:dPa・sec)、HF重量減少量[単位:(mg/cm2)/分]、光弾性定数[単位:nm/(MPa・cm)]を評価した。結果を表1~6に示す。
式(1):
0.0181×(SiO2の含有量)+0.0004×(Al2O3の含有量)+0.0387×(B2O3の含有量)+0.0913×(MgOの含有量)+0.1621×(CaOの含有量)+0.1900×(SrOの含有量)+0.2180×(BaOの含有量)+0.0424×(ZnOの含有量)+0.0391×(12.3+log1060-log10η)
式(2):
0.0218×(SiO2の含有量)+0.0302×(Al2O3の含有量)+0.0181×(B2O3の含有量)+0.0330×(MgOの含有量)+0.0351×(CaOの含有量)+0.0488×(SrOの含有量)+0.0634×(BaOの含有量)+0.0419×(ZnOの含有量)
式(3):
0.677×(SiO2の含有量)+1.598×(Al2O3の含有量)-0.220×(B2O3の含有量)+1.466×(MgOの含有量)+1.135×(CaOの含有量)+0.667×(SrOの含有量)+0.298×(BaOの含有量)+1.027×(ZnOの含有量)
式(4):
0.0111×(SiO2の含有量)+0.0250×(Al2O3の含有量)+0.0078×(B2O3の含有量)+0.0144×(MgOの含有量)+0.0053×(CaOの含有量)+0.0052×(SrOの含有量)+0.0013×(BaOの含有量)+0.0121×(ZnOの含有量)-0.0041×(12.3+log1060-log10η)
式(5):
0.0368×(Al2O3の含有量)-0.0054×(B2O3の含有量)+0.0244×(MgOの含有量)+0.0143×(CaOの含有量)+0.0182×(SrOの含有量)+0.0097×(BaOの含有量)+0.097×(ZnOの含有量)-0.0032×(12.3+log1060-log10η)である。
【0118】
なお、表中のかっこ書きした値は、計算により求めたものである。ガラス中のFe2O3残存量は酸化物基準の質量百万分率表示で50ppm~200ppm、SO3残存量は酸化物基準の質量百万分率表示で10ppm~100ppmであった。以下に各物性の測定方法を示す。
(仮想粘度)
上述した式[G.W.Scherer,Relaxation in Glass and Composites,Wiley,New York(1986),p.159]を用いて算出した。
【0119】
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定した。α50/100は測定温度範囲が50℃~100℃、α100/200は100℃~200℃、およびα200/300は200℃~300℃である。
【0120】
(シリコン基板の平均熱膨張係数)
表7にシリコン基板(信越化学工業製)の平均熱膨張係数を示す。シリコン基板のαSi50/100は2.94ppm/℃、αSi100/200は3.37ppm/℃、αSi200/300は3.69ppm/℃、αSi200/300/αSi50/100は1.25、αSi200/300-αSi50/100は0.75ppm/℃であった。シリコン基板の平均熱膨張係数は、典型的には表7に示す値である。
【0121】
(密度)
泡を含まない約20gのガラス塊を、アルキメデス法によって測定した。
【0122】
(ヤング率)
厚さ0.5mm~10mmのガラスについて、超音波パルス法により測定した。
【0123】
(ビッカース硬度)
ビッカース硬度の測定は、JIS-Z-2244(2009)(ISO6507-1、ISO6507-4、ASTM-E-384)に規定する試験法に準拠し、SHIMADZU製のビッカース硬度計(MICRO HARDNESS TESTERHMV-2)を用い、常温、常湿環境下(この場合、室温25℃、湿度60%RHに維持した)で測定した。1サンプル当たり10箇所で測定し、その平均を当該試作例のビッカース硬度とした。また、ビッカース圧子の圧入荷重を0.98N、15秒間の圧入とした。
【0124】
(摩耗度)
研削レートに対する指標として、日本光学硝子工業会規格J10-1994「光学ガラスの磨耗度の測定方法」に記載の測定方法を用いて、摩耗度を測定した。
【0125】
(ガラス転移点Tg)
JIS R3103-3(2001年)に規定されている方法に従い、TMAを用いて測定した。
【0126】
(T2)
回転粘度計を用いて粘度を測定し、102d・Pa・sとなるときの温度T2(℃)を測定した。
【0127】
(T4)
回転粘度計を用いて粘度を測定し、104d・Pa・sとなるときの温度T4(℃)を測定した。
【0128】
(失透温度)
失透温度は、粉砕されたガラス粒子を白金製皿に入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラスの表面または内部に結晶が析出する最高温度とガラスの表面または内部に結晶が析出しない最低温度との平均値とした。
【0129】
(失透粘性)
ガラスの失透粘性(ガラスの失透温度におけるガラス粘度)は、回転粘度計を用いて、高温(1000℃~1600℃)における溶融ガラスのガラス粘度を測定した結果から、フルチャーの式の係数を求め、該係数を用いたフルチャーの式により求めた。
【0130】
(HF重量減少量)
HF重量減少量は、次の様にして測定した。上述のようにして得られたガラス板を切断し、両面を鏡面研磨して、40mm四方、厚さ1mmのガラスサンプルを得た。ガラスサンプルを洗浄後、乾燥させ、重量を測定した。次いで、ガラスサンプルを、25℃に保持した5質量%フッ酸水溶液に20分間浸漬し、洗浄後、乾燥させ、重量を測定した。浸漬前から浸漬後の重量減少量を算出した。浸漬中に薬液を撹拌するとエッチング速度が変動するため、撹拌は実施しなかった。サンプル寸法から表面積を算出し、重量減少量を表面積で割ったのち、さらに浸漬時間で割ることで、単位面積および単位時間当たりの重量減少量(HF重量減少量)を求めた。
【0131】
(光弾性定数)
円板圧縮法(「円板圧縮法による化学強化用ガラスの光弾性定数の測定」、横田良助、窯業協会誌、87[10]、1979年、p.519-522)により測定した。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
例1~19および22~29は実施例、例20および21は参考例、例30~71は比較例である。例1~29の無アルカリガラス基板は、100℃~200℃での平均熱膨張係数α100/200が3.10ppm/℃~3.70ppm/℃であるため、シリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程において、シリコン基板に発生する残留歪が小さくなりやすい。また、ヤング率が76GPa以下であり、密度が2.42g/cm3以上であるため、ガラスを研削する際のレートが上がりやすい。
【0142】
例30~71のガラス基板は、α100/200、ヤング率、密度のいずれか一以上の範囲が本願発明の一実施形態のガラス基板に関する範囲を逸脱する。または、例34のガラス基板は、α200/300/α50/100の範囲が本願発明の一実施形態のガラス基板に関する好ましい範囲を逸脱する。または、例30~54および56~71のガラス基板は、得られるガラス基板の組成、(1)~(4)のいずれか一以上の範囲が本願発明の一実施形態のガラス基板に関する好ましい範囲を逸脱する。そのため、シリコン基板とガラス基板を貼り合わせる熱処理工程において、シリコン基板に発生する残留歪が大きくなりやすい。また、ガラス基板を研削する工程において、研削レートが小さくなりやすい。
【0143】
表8には、例9、10、40の摩耗度の値を示す。また表9には、例1、14、18、26、29の摩耗度の値を示す。表8および表9に示すように、実施例である例1、9、10、14、18、26、29のガラス基板は摩耗度が高く、比較例である例40のガラス基板は摩耗度が低い。以上より、本願発明の一実施形態の無アルカリガラス基板は、研削レートを高くできることがわかった。
【0144】
また、
図2に、式(1)で求められた値とα
100/200の値との誤差をグラフ化した図を示す。
図3には、式(2)で求められた値と密度との誤差をグラフ化した図を示す。
図4には、式(3)で求められた値とヤング率との誤差をグラフ化した図を示す。
図5には、式(4)で求められた値とα
200/300/α
50/100の値との誤差をグラフ化した図を示す。
図6には、式(5)で求められた値とα
200/300-α
50/100の値との誤差をグラフ化した図を示す。
図2~
図6に示すように、式(1)~(5)で求められる値と実測値とは相関があることがわかった。
【0145】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2016年5月25日付けで出願された日本特許出願(特願2016-104652)および2016年8月5日付けで出願された日本特許出願(特願2016-154685)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
本発明に係るガラス基板は、シリコン基板との熱膨張係数の差が小さいため、シリコン基板と貼り合わせる熱処理工程やその後の熱処理工程において、熱膨張係数の差に起因する残留歪の発生を抑制することができる。そのため、ウェハレベルパッケージによる素子の小型化が有効なMEMS、CMOSまたはCIS等のイメージセンサ用のガラス基板として好適である。
また、プロジェクション用途のディスプレイデバイス用のカバーガラス、例えばLCOSのカバーガラスとして好適である。例えば、LCOSやイメージセンサでは、シリコン基板上に電子回路を形成した後、接着材として樹脂やガラスフリットを用いて、シリコン基板にカバーガラスが接着される。本発明に係るガラス基板はシリコン基板とカバーガラスの熱膨張係数の差が小さいので、デバイス製造時や使用時に温度が変化した際に接着界面に生じる応力が低減される。これにより、光弾性変形に起因する色ムラの低減や、長期信頼性の向上が期待できる。
さらに、本発明に係るガラス基板は、ガラスインターポーザ(GIP)の穴開け基板や、半導体バックグラインド用のサポートガラスとして好適である。また、本発明のガラス基板は、シリコン基板と貼り合わせて使うガラス基板用途であれば好適に使用できる。