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  • 特開-珪化バリウム系積層基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022007853
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】珪化バリウム系積層基板
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20220105BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20220105BHJP
   H01L 31/0256 20060101ALI20220105BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C23C14/06 P
C23C14/06 E
H01L21/363
H01L31/04 320
H01L31/04 420
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020142800
(22)【出願日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2020110714
(32)【優先日】2020-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】特許業務法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】召田 雅実
(72)【発明者】
【氏名】末益 崇
【テーマコード(参考)】
4K029
5F103
5F151
【Fターム(参考)】
4K029AA06
4K029AA09
4K029BA35
4K029BA52
4K029BA58
4K029BA60
4K029BB02
4K029BB08
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC16
4K029DC35
4K029DC39
4K029EA08
5F103AA04
5F103AA08
5F103BB22
5F103DD30
5F103GG02
5F103HH03
5F103HH04
5F103LL04
5F103NN01
5F151AA20
5F151CB11
5F151CB15
5F151CB29
5F151FA01
5F151GA02
5F151GA04
(57)【要約】
【課題】 安価な基板を使用し太陽電池吸収層に適する分光感度に優れた珪化バリウム系膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 珪化バリウム系膜及び導電層を基板上に有する珪化バリウム系積層基板であって、珪化バリウム系膜と基板の間に導電層が存在し、前記珪化バリウム系膜が、X線回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属する複数のピークを有する結晶相を含むことを特徴とする珪化バリウム系積層基板、及びその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪化バリウム系膜及び導電層を基板上に有する珪化バリウム系積層基板であって、
珪化バリウム系膜と基板の間に導電層が存在し、前記珪化バリウム系膜が、X線回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属する複数のピークを有する結晶相を含むことを特徴とする珪化バリウム系積層基板。
【請求項2】
前記導電層が非酸化物である請求項1に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項3】
前記導電層が窒化物である請求項1又は2に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項4】
前記導電層が窒化チタンである請求項1~3のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項5】
前記窒化チタンが、(200)及び(222)の結晶方位を含まない請求項1~4のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項6】
前記珪化バリウム系膜に含まれる結晶相が特定の方位の整数倍だけでなく、他方位のピークを3以上有する請求項1~5のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項7】
前記珪化バリウム系膜のX線回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属するピーククは、32度付近に検出されるピークの高さが、25度付近のピークの高さよりも小さい請求項1~6のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項8】
前記珪化バリウム系膜のラマンスペクトルにおいて、Aピークに対する503cm-1に帰属するピーク強度比が10%未満である請求項1~7のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項9】
前記珪化バリウム系膜はラマンスペクトルにおいてAピークに対する250cm-1に帰属するピーク強度比が10%未満である請求項1~8のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項10】
前記珪化バリウム系膜の表面に、キャップ層を有する請求項1~9のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項11】
前記キャップ層が、金属シリコン膜である請求項1~10のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項12】
前記基板が、シリコン基板、又はガラス系基板である請求項1~11のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板を用いる太陽電池素子。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の珪化バリウム系積層基板の製造方法であり、基板上に導電層を成膜し、次いで、該導電層上に珪化バリウム系膜を成膜する製造方法。
【請求項15】
基板上に導電層を成膜する方法及び該導電層上に珪化バリウム系膜を成膜する方法が、いずれもスパッタリングによる成膜する方法である請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記導電層が、窒化チタンであり、20℃以上200℃未満の温度におけるスパッタリングによる成膜する方法である請求項14又は15に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光感度に優れた珪化バリウム系積層基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを含有するワイドバンドギャップ半導体は、非常に特異的な特性を示すため、太陽電池材料や熱電変換材料等の環境・エネルギー分野で広く利用されている。
なかでも、バリウム(Ba)とシリコン(Si)からなる珪化バリウム系化合物は、BaSi組成でバンドギャップが1.3eVであり、Siの1.1eVよりも大きく、注目されている(非特許文献1)。さらにSrを添加することでバンドギャップを1.4eVまで大きく調整することが可能である(特許文献1)。
珪化バリウム系化合物の使用形態としては、膜として使用することが有効であり、特許文献2には、n型とn+型珪化バリウム膜を積層した太陽電池がその例として挙げられている。
【0003】
このような珪化バリウム系膜の製造方法としては、MBE法(分子線エピタキシー法)により、シリコン(111)基板上に成膜する方法が知られている。この成膜方法によれば、各元素の組成を制御した成膜が可能であるが、未だ性能において更なる改善が必要であり、また、大面積への均一成膜が困難であり、工業的な量産には課題がある。そのため、大面積への均一成膜や各元素の精密制御が可能であり、かつ成膜速度が速いスパッタリング法での成膜技術が要求されている。
【0004】
スパッタリング法に関して、本発明者らは、特許文献3に高密度で割れのない珪化バリウム多結晶体及びそれを用いたスパッタリングターゲットを開示しているが、珪化バリウム系膜に関する検討は少なく、非特許文献2に挙げられるものもあるが、更なる太陽電池などの特性向上に関する検討は進んでいない。
【0005】
また、太陽電池構造とするためには珪化バリウムの上下に電極が必要となるため、基板としてシリコンなどの導電性の基板を使用する必要性があった。
特許文献4では、水素を添加することにより分光特性が向上することが記載されているが、より高い分光特性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-294810号公報
【特許文献2】特開2008-66719号公報
【特許文献3】特開2012-214828号公報
【特許文献4】特開2020-37722号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics Vol.49 04DP05-01-04DP05-05(2010)
【非特許文献2】Applied Physics Express 11 071401(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、分光感度に優れた珪化バリウム系積層基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような背景に鑑み、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、分光感度に優れた珪化バリウム系積層基板及びその製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
(1)珪化バリウム系膜及び導電層を基板上に有する珪化バリウム系積層基板であって、
珪化バリウム系膜と基板の間に導電層が存在し、前記珪化バリウム系膜が、X線回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属する複数のピークを有する結晶相を含むことを特徴とする珪化バリウム系積層基板。
(2)前記導電層が非酸化物である前記(1)の珪化バリウム系積層基板。
(3)前記導電層が窒化物である前記(1)又は(2)の珪化バリウム系積層基板。
(4)前記導電層が窒化チタンである前記(1)~(3)のいずれかの珪化バリウム系積層基板。
(5)前記窒化チタンが、(200)及び(222)の結晶方位を含まない前記(1)~(4)のいずれかの珪化バリウム系積層基板。
【0011】
(6)前記珪化バリウム系膜に含まれる結晶相が特定の方位の整数倍だけでなく、他方のピークを3以上有する前記(1)~(5)のいずれかの珪化バリウム系積層基板。
(7)前記珪化バリウム系膜のX線回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属するピーククは、32度付近に検出されるピークの高さが、25度付近のピークの高さよりも小さい前記(1)~(6)の珪化バリウム系積層基板。
(8)前記珪化バリウム系膜のラマンスペクトルにおいて、Aピークに対する503cm-1に帰属するピーク強度比が10%未満である前記(1)~(7)のいずれかの珪化バリウム系積層基板。
(9)前記珪化バリウム系膜はラマンスペクトルにおいてAピークに対する250cm-1に帰属するピーク強度比が10%未満である前記(1)~(8)のいずれかの珪化バリウム系積層基板。
(10)前記珪化バリウム系膜の表面に、キャップ層を有する前記(1)~(9)のいずれかの珪化バリウム系積層基板。
【0012】
(11)前記キャップ層が、金属シリコン膜である前記(1)~(10)ののいずれかの珪化バリウム系積層基板。
(12)前記基板が、シリコン基板、又はガラス系基板である前記(1)~(11)のいずれかの珪化バリウム系積層基板。
(13)前記(1)~(12)のいずれかの珪化バリウム系積層基板を用いる太陽電池素子。
(14)前記(1)~(12)のいずれかの珪化バリウム系積層基板の製造方法であり、基板上に導電層を成膜し、次いで、該導電層上に珪化バリウム系膜を成膜する製造方法。
(15)基板上に導電層を成膜する方法及び該導電層上に珪化バリウム系膜を成膜する方法が、いずれもスパッタリングによる成膜する方法である前記(14)の製造方法。
(16)前記導電層が、窒化チタンであり、20℃以上200℃未満の温度におけるスパッタリングによる成膜する方法である前記(14)又は(15)の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、太陽電池の吸収層に適した分光感度に優れた珪化バリウム系積層基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1、2及び比較例1で用いた2元同時スパッタリング装置の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<珪化バリウム系積層基板>
本発明の珪化バリウム系積層基板は、珪化バリウム系膜と基板の間に導電層が存在し、前記珪化バリウム系膜が、X線回析試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属する複数のピークを有する結晶相を含むことを特徴とする。
珪化バリウム系積層基板とすることで、導電層の部分を利用し電気を取り出すことが可能となり、基板が絶縁性であっても太陽電池化することが可能となる。
【0016】
(導電層)
導電層は、珪化バリウムや、各種の基板との反応性が低い材料であり、酸素が珪化バリウムに拡散しないことが好ましいため、非酸化物が好ましい。該非酸化物としては、窒化タングステン、窒化タンタル、窒化チタン、窒化アルミニウムチタン等の窒化物、珪化カルシウム、珪化ルテニウム等の珪化物等が挙げられる。その中でも窒化物が好ましく、さらに好ましくは窒化タングステン、窒化タンタル、窒化チタン、窒化アルミニウムチタン等であり、特に好ましくは、窒化チタンである。
【0017】
さらに、導電層の材料は、後記するように、珪化バリウムの結晶膜を得るためには高温が必要であり、高温では、珪素原子が各種化合物と珪化物を作りやすいため、珪化物を作らない材料を選択する必要がある。
例えば、酸化物の導電層の場合、加熱成膜により酸素が拡散してしまう可能性がある。また、金属を導電膜とした場合、ほとんどの金属がシリコンと珪化物を形成するため、導電層として使用するのは困難である。
【0018】
導電層の膜厚は10nm~500nmであることが好ましく、さらに好ましくは20nm~300nmである。そうすることで、加熱時に基板からの元素拡散を抑制し、高い電気伝導性を示すことが可能である。
導電層が窒化チタンの場合、その結晶方位は(200)、(222)が含まないことが好ましい。これらの結晶方位が現れることで表面凹凸が増加し、基板部分の元素の拡散を抑制できなくなる。こうすることで、多様な基板を使用することが可能となる。
【0019】
(珪化バリウム系膜)
珪化バリウム系膜は、X線回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属するピークが複数確認できることが好ましい。このような結晶相を有する珪化バリウム系膜とすることにより、多結晶性を持つことから膜の耐久性が高く、膜特性に優れ、安定性の高い膜を得ることが可能となる。その結晶相は特定の方位の整数倍だけでなく、他方位のピークが3以上あることが好ましく、さらに好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。なお、下地として成膜される導電膜に帰属されるピークは除かれる。
【0020】
また、珪化バリウム系膜のX線回折試験において上記斜方晶系の結晶構造に帰属するピークは、32度付近に検出されるピークは小さいことが好ましい。そのピーク高さは25度付近のピークであるBaSiの(211)面、(103)面のピーク強度よりも低いことが好ましい。32度付近のピークは他の結晶相、特にBaSi46(カードNo01-070-3706)やBaSi25(カードNo01-070-4268)である可能性があり、これらの結晶相が析出する場合、分光特性が悪化する。
【0021】
X線回折試験において、斜方晶系の結晶構造に帰属される複数のピークで構成されていることは以下のように確認することができる。すなわち、斜方晶系の結晶構造に帰属されるピークとは、Cuを線源とするX線の2θ=20~80°の範囲内に検出される回折ピークが、JCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standards)カードのNo.01-071-2327に帰属されるピークパターンまたはそれに類似したピークパターン(シフトしたピークパターン)に指数付けできるものであることを指す。
【0022】
珪化バリウム系膜は多結晶膜であることが好ましい。多結晶膜とすることにより、単結晶と比較して膜の強度、膜内の分光特性の分布の低減などの膜特性の安定性が向上する。
珪化バリウム系膜はラマンスペクトルにおいて、Aピークに対する503cm-1に帰属するピーク強度比が10%未満であることが好ましく、更に好ましくは2%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。ラマンスペクトルにおいて、503cm-1のピークを示すということは、珪化バリウムが酸化されており珪酸バリウムなどが生成していることを表している。これは特に部分的に酸化が起きていると推測され、503cm-1のピークが存在することで分光感度に悪影響を与えている。この原因であるケイ酸化物層を低減することで結晶欠陥を低減し、分光特性を向上させることができる。
【0023】
また、珪化バリウム系膜はラマンスペクトルにおいてAピークに対する250cm-1に帰属するピーク強度比が10%未満であることが好ましく、更に好ましくは2%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。ラマンスペクトルにおいて、250cm-1のピークを示すということは、珪化バリウムBaSiではない結晶相が生成していると考えられ、分光特性に悪影響を与えている。
【0024】
珪化バリウム系膜は、そこに含まれる珪素とバリウムの原子量比Si/Baが1.8~2.1であることが好ましく、特に好ましくは1.9~2.0である。
【0025】
珪化バリウム系膜は、炭素含有量が1×1018atms/cm~1×1021atms/cm含んでいてもよい。好ましくは3×1018atms/cm~1×1020atms/cmであり、更に好ましくは5×1018atms/cm~5×1019atms/cmである。
この範囲に炭素を含有することで、珪化バリウム系膜の結晶欠陥から生じる分光特性を大きく改善することができる。多量に炭素を含有すると結晶欠陥以外の部分に干渉し、膜の結晶性を悪化させ、膜の分光特性が悪化する。また、炭素含有量が少ないことで膜中に存在する格子欠陥に起因する分光感度の低下が発生する。
【0026】
珪化バリウム系膜中の炭素含有量は、SIMS(二次イオン質量分析法)により測定を行うことで求めることができる。炭素含有量は、膜厚300nmにおいて、膜の基板側と反対側から100nm厚の表層を除いた、厚さ100nmの間の層中に存在する炭素量と定義する。表層は表面酸化や、凹凸の影響を受けるため膜本体の炭素量を表していると必ずしも言えないためである。
【0027】
さらに、珪化バリウム系膜は、酸素含有量が10atm%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5atm%以下であり、さらに好ましくは3atm%以下である。酸素を導入することで結晶欠陥の影響が低減するが、酸素が多く存在すると、膜中の酸素と水素が反応し、水分として珪化バリウム系膜中に存在することで珪化バリウムが珪酸化物に変化し、膜特性が悪化する。酸素含有量は、0.01atm%以上であることが好ましく、更に好ましくは0.1atm%以上である。上記範囲に酸素量を調整することで、結晶性を維持しつつ好ましいバンドギャップにすることが可能となる。
【0028】
珪化バリウム系膜中の酸素含有量の測定は、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)を使用して測定することができる。さらに精度が必要な場合はSIMSを用いて測定し、atm%に換算する。酸素含有量は、膜厚300nmにおいて、膜の表層50nm厚の層を除いた、50以上300nm以下の間の層中に存在する酸素量と定義する。
【0029】
珪化バリウム系膜は、水素含有量が1×1018atms/cm~1×1021atms/cmあることが好ましく、更に好ましくは3×1018atms/cm~1×1020atms/cm、特に好ましくは5×1018atms/cm~5×1019atms/cmである。
この範囲に水素を含有することで、珪化バリウム系膜の結晶欠陥から生じる分光特性を改善することができる。多量に水素を含有すると結晶欠陥以外の部分に干渉し、膜の結晶性を悪化させ、膜の分光特性が悪化する。また、水素含有量が少ないことで膜中に存在する格子欠陥に起因する分光感度の低下が発生する。
【0030】
珪化バリウム系膜中の水素含有量は、SIMS(二次イオン質量分析法)により測定を行うことで求めることができる。測定では、300nmの膜厚の場合、膜の基板側と反対側から100nm厚の表層を除いた、厚さ100nmの間の層中に存在する水素量を求める。なお、本発明の珪化バリウム系膜においては、炭素、水素及び酸素以外のマグネシム、カルシウム、ストロンチウム等の微量の不純物を含有しても良い。
【0031】
珪化バリウム系膜の膜厚は50nm~2000nmであることが好ましく、さらに好ましくは100nm~1000nmであり、特に好ましくは100nm~800nmである。
珪化バリウム系膜は、その必要特性に応じて他の元素を含有しても構わない。例えば、p型とするために、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)等の周期表13族の元素や、n型とするために、窒素(N)、リン(P)、アンチモン(Sb)等の周期表15族の元素を含有しても良い。
【0032】
(基板)
基板は、特に限定はなく、例えば、シリコン;アルカリフリーガラス、石英ガラス等のガラス系基板;ゲルマニウム;サファイア等が挙げられる。その中でも、安価に珪化バリウム系膜を高結晶に成長させることが可能となるシリコン、ガラス系基板が好ましく、特に好ましくは、大面積が可能となるアルカリフリーガラスである。
珪化バリウム系積層基板の表層はキャップ層が存在することが好ましい。表層をキャップすることで表面からの酸化の進行を抑制することが可能となる。
キャップ層として用いる層の材質は特に限定はなく、例えばシリコン(結晶性、非晶質)、等が挙げられる。その中でも、酸化を抑制するためには、金属シリコンなどの酸素を含まない層であることが好ましい。キャップ層の厚みは1nm~10nmであることが好ましく、さらに好ましくは1n~5nmである。
【0033】
<珪化バリウム系積層基板の製造方法>
本発明の珪化バリウム系積層基板は、例えば、基板に導電層を成膜し、次いでその導電層上に珪化バリウム系膜を成膜することにより製造することができる。
【0034】
(導電層の形成方法)
導電層の形成方法は、特に限定されないが、後に記述する珪化バリウム系膜に合わせて、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法、MBE(分子線エピタキシー)法、化学蒸着法などの様々な方法が選ばれる。なかでも、導電層は、MBE法、又はスパッタリング法により成膜された膜であることが好ましく、特にスパッタリング法により成膜される膜であることが好ましい。
【0035】
スパッタリング法としては、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等を適宜選択することができる。これらの中、大面積に均一に、かつ高速成膜可能な点でDCマグネトロンスパッタリング法、又はRFマグネトロンスパッタリング法がより好ましく、DCマグネトロンスパッタリング法であることが一層好ましい。
【0036】
スパッタリングにおけるターゲットは、各種窒化物ターゲット、金属ターゲットを用いることが好ましい。そうすることで他の元素の混入を抑制することが可能である。ただし、ターゲット表面の変質などを抑制するためには、窒化物ターゲットを使用することが好ましい。
【0037】
スパッタリング法としては、窒化物ターゲットを用い、アルゴン若しくはキセノンガスを使用したスパッタ、もしくは窒素ガスを含有させた反応性スパッタ、金属ターゲットを使用した反応性スパッタが好ましい。なかでも、窒化物ターゲットを用いた窒素ガスを含有させたスパッタリングが好ましい。そうすることで窒化物を安定的に成膜することが可能となる。
【0038】
スパッタリング法において、窒化チタンを成膜するにあたり、その成膜時の温度は20℃以上200℃未満であることが好ましく、より好ましくは20℃以上170℃以下、さらに好ましくは20℃以上160℃以下である。その範囲とすることで窒化チタン層の表面凹凸を抑制し、高品質な膜を成長することが可能となる。範囲外の場合、凹凸が増加、さらに他の結晶相が析出するために膜構造が不安定となり、珪化バリウム層の分光特性が悪化する。
【0039】
(珪化バリウム系膜の形成方法)
珪化バリウム系膜は、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法、MBE(分子線エピタキシー)法、化学蒸着法などの様々な方法で製造することできる。なかでも、MBE法、又はスパッタリング法により成膜された膜であることが好ましく、特にスパッタリング法により成膜される膜であることが好ましい。そして、スパッタリング法の中でも、ラマンスペクトルにおいて、Aピークに対するSiTOフォノンのピーク強度比が10%未満であり、スパッタリング法により成膜される膜であることが好ましい。
【0040】
スパッタリング法としては、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、ACスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等を適宜選択することができる。これらの中、大面積に均一に、かつ高速成膜可能な点でDCマグネトロンスパッタリング法、又はRFマグネトロンスパッタリング法がより好ましく、特に、RFマグネトロンスパッタリング法であることが一層好ましい。
【0041】
スパッタリング時の温度は特に限定されるものではなく、結晶性を向上させるためには400℃以上が好ましく、さらに好ましくは500℃~800℃、特に好ましくは580℃~650℃である。それ以上の温度では装置に用いる材質が高価となる。スパッタリング時の雰囲気ガスは、通常、不活性ガス、例えば、アルゴンガス、窒素ガスなどを用いる。
【0042】
珪化バリウム系膜中への炭素の導入は、珪化バリウム系膜の成膜時に行うことができる。炭素の導入方法については特に限定はなく、スパッタリングにおいて炭素を含むターゲットと珪化バリウムターゲットを併用することが好ましい。但し、不要な元素を避けるため、炭素を含むターゲットは、炭素、珪化炭素、炭化バリウム等の化合物のターゲットが好ましい。
【0043】
珪化バリウム系膜中への酸素の導入は、良好な珪化バリウム系膜の成膜時、若しくは成膜後に酸素を導入する。
水素の導入については特に限定はなく、より欠陥部分に作用させるためには活性水素を使用することが好ましく、RFプラズマガンによる活性水素の導入やスパッタリングガス中に水素を導入する方法などが挙げられる。RFプラズマガンを使用する場合、その照射時間によって、膜中水素量をコントロールすることが可能であり、照射時間として1分~60分が好ましく、さらに好ましくは5分~40分であり、特に好ましくは15分~30分である。その範囲とすることで好ましい量の活性水素を膜中に導入することが可能となる。
【0044】
また、成膜後に膜中に存在する水素を活性化することによっても同様の効果を及ぼすことができる。例えば、成膜後において珪化バリウム系膜をプラズマ中に晒しておくことで膜中の水素が活性化し、欠陥による分光特性低下を抑制することができる。
なお、珪化バリウム系膜に用いられるスパッタリングターゲットとしては、BaSi等の珪化バリウム系が好ましい。該珪化バリウム系のターゲットを用いて前記スパッタリング法により優れた特性を有する珪化バリウム系膜が得られる。
【0045】
珪化バリウム系のスパッタリングターゲットの製造方法は特に限定されるものではない。珪化バリウム系のスパッタリングターゲットを製造する際のスパッタリング法においては珪素-バリウム比について、珪化バリウムのスパッタリングターゲット上に珪素、若しくはバリウムを載せた状態で成膜することによっても珪素-バリウム比を変えることが可能となる。
【0046】
珪化バリウム層のスパッタリング成膜時のガス圧力によっても珪素-バリウム比を調整することが可能である。珪素-バリウム比は分光感度特性の良好なBaSi斜方晶の原子量比が1:2であるため、膜の組成についても1:2に近いことが好ましく、スパッタリングガス圧を上げることで珪素:バリウム比を1:2に近づけることが可能である。しかし、ガス圧を高くするだけでは結晶性が悪化すると共に成膜速度が低下する傾向がある。
【0047】
スパッタリング成膜時のガス圧(絶対圧)の好ましい範囲は0.1Pa~1.0Paであることが好ましく、さらに好ましくは0.3Pa~0.8Paである。そのガス圧力にすることで結晶性を向上させた珪化バリウム系膜を得ることが可能となる。
【0048】
本発明の珪化バリウム系膜は、キャップ層としてシリコン層を積層して珪化バリウム系積層膜とすることもできる。
さらに、例えば、太陽電池用吸収層を想定した場合、ドーパントを添加しない珪化バリウム系膜、n型珪化バリウム系膜、p型珪化バリウム系膜、キャップ層を少なくとも二つ以上含む層を成膜する。成膜方法の限定はなく、物理蒸着、化学蒸着など各種成膜方法を使用することが可能である。
【0049】
<珪化バリウム系積層基板>
本発明の珪化バリウム系積層基板は分光感度に優れることから、特に、太陽電池における光吸収素子や、熱電変換素子として好適である。また、該素子を用いることにより、光もしくは熱を電気エネルギーに効率的に変換できることから、電子機器に好適であり、特に太陽電池モジュールや熱電変換モジュールに好適である。
【0050】
分光感度は、A(λ)/W(λ)(A:出力電流、W:照射強度)で表され、太陽電池特性を示す指標となる。また、バイアス電圧をかけることで、その電圧における出力電流を把握することが可能となる。
本発明における評価として、下記の式で分光感度(規格化)を定義した。なお、式中、バイアス電圧(V)はバイアス電圧の絶対値を表す。
分光感度(規格化)=最大の分光感度(A/W)/バイアス電圧(V)
分光感度が高いほど、解放電圧以下の電圧値において、取り出し電流が高くなり、太陽電池変換効率が向上することが期待される。本発明の珪化バリウム系膜の分光感度は2.0以上にでき、更には3.0以上にでき、特には4.0以上にすることもできる。
【実施例0051】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、各特性の評価は、それぞれ、以下のようにして行った。
【0052】
(ラマンスペクトル503cm-1/Ag比)
ラマンスペクトルはラマン分光装置(JASCO社製、NRS-5100)を用いて、励起波長532nmの条件で測定を実施し、波長480cm-1付近のピークをAピークとし、503cm-1付近のピークをケイ酸バリウム化合物に由来するピークとして、それぞれのピーク強度の比を算出した。
ラマンスペクトル503cm-1/Ag比(%)=503cm-1付近ピーク強度/Aピーク強度
なお、2本のピークは分離した上で強度を算出した。
【0053】
(X線回折試験)
珪化バリウム系膜の結晶相は、X線回折試験で同定した。測定条件は以下の通りである。
・X線源 :CuKα
・パワー :40kV、40mA
・走査速度 :1°/分
得られた回折パターンを解析し、(1)斜方晶系の結晶構造に帰属するピークで構成されている相、及び(2)前記(1)以外の他の結晶相に分類し、これら(1)、(2)の結晶相のそれぞれにおいて同定された場合は「有」とし、同定されなかった場合は「無」とした。
【0054】
(分光感度)
珪化バリウム系膜の分光感度の測定は、表層側に直径1mm、厚さ80nmのITO電極を作製し、基板の裏面にAl電極を作製し、電極間に電圧を印加した上で、分光計器社製装置、SM-1700Aを用いて測定した。
【0055】
(実施例1、2)
スパッタリング装置として、図1にその模式図を記載する、2元同時スパッタリングが可能な装置(アルバック社製)を用いた。
導電層を形成するターゲット1として、窒化チタンのスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にて窒素並びにチタン(図1のスパッタ粒子)を飛び出るようにしてスパッタリング処理した。
その後、珪化バリウム系膜を形成するターゲット2として、珪化バリウムのスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にてスパッタリング成膜試験を実施した。バリウムのチップを珪化バリウムのスパッタリングターゲット上に載せ、アルゴンを衝突させて、珪化バリウムからは珪素元素とバリウム元素(図1のスパッタ粒子)が飛び出るようにし、また、チップのバリウムからはバリウム元素(図1のスパッタ粒子)が飛び出るようにした。
【0056】
基板としては、25mm角の厚み0.5mmのシリコン(111)基板を使用した。
シリコン基板上に、下記の「A:導電層(窒化チタン)のスパッタリング条件」にてスパッタリングして、厚み250nmの窒化チタンの導電層を成膜した。
次いで、該窒化チタン膜上に、下記の「B:珪化バリウム膜のスパッタリング条件」にてスパッタリングして、厚み290nmの珪化バリウム膜を成膜した。
更に、その珪化バリウム膜上にキャップ層として、非結晶シリコンを170℃でスパッタリング法により膜厚3nmになるように成膜した。
【0057】
A.導電層(窒化チタン)のスパッタリング条件
放電方式 :RFスパッタリング
成膜装置 :マグネトロンスパッタリング装置(2元同時成膜用)
ターゲット―基板間距離:200mm
成膜圧力(装置内ガス圧力):0.5Pa
導入ガス :アルゴン
ターゲット:窒化チタン
ターゲットサイズ :50mmφ(円板状)
放電パワー :100W(5.1W/cm
基板温度 :100℃(実施例1)、150℃(実施例2)
【0058】
B.珪化バリウム膜のスパッタリング条件
放電方式 :RFスパッタリング
成膜装置 :マグネトロンスパッタリング装置(2元同時成膜用)
ターゲット―基板間距離:200mm
成膜圧力(装置内ガス圧力):0.5~0.8Pa
導入ガス :アルゴン
基板温度 :600℃
膜厚 :290nm(実施例1)、240nm(実施例2)
ターゲット:珪化バリウム(BaSi
ターゲットサイズ:50mmφ(円板状)
バリウムチップサイズ :10mm×20mm(板状)
バリウムチップ数:2個(エロージョン部に設置)
放電パワー:20W(1W/cm
【0059】
C.キャップ層のスパッタリング条件
放電パワー:50W(1W/cm
基板温度:170℃
成膜圧力(装置内ガス圧力):0.7Pa
【0060】
上記実施例1、2により、表1に示されるようなラマンスペクトルを有する珪化バリウム層、及びX線回折試験において斜方晶帰属するピークが複数存在する結晶相を有する導電膜/珪化バリウム系膜の積層膜付き基板が得られた。
【0061】
(実施例3)
基板として、アルカリフリーガラス(コーニング社製イーグルXG)を使用した以外は実施例2と同様の条件でスパッタリングして珪化バリウム/窒化チタン積層膜を作製した。その結果、表1に示されるようなラマンスペクトル、及び結晶相を有し、分光感度が高く、高い光電変換能が期待される膜付き基板が得られた。
【0062】
(実施例4)
窒化チタンの成膜温度を室温(25℃)とした以外は実施例3と同様の条件でスパッタリングして珪化バリウム/窒化チタン積層膜を作製した。その結果、表1に示されるようなラマンスペクトル、及び結晶相を有し、分光感度が高く、高い光電変換能が期待される膜付き基板が得られた。
【0063】
(実施例5)
成膜温度を630℃とした以外は実施例4と同様の条件でスパッタリングして珪化バリウム/窒化チタン積層膜を作製した。その結果、表1に示されるようなラマンスペクトル、及び結晶相を有し、分光感度が高く、高い光電変換能が期待される膜付き基板が得られた。
【0064】
(比較例1、2)
導電層を形成せず、珪化バリウムのスパッタリングターゲット2を用い、かつ基板として、それぞれ、比較例1では実施例1と同じシリコン基板を使用し、比較例2では実施例3と同じアルカリフリーガラス基板を使用した他は、いずれも、実施例1、3と同じ条件にてスパッタリングによる成膜試験を実施した。
その結果、表1に示される、ラマンスペクトル強度比及び分光感度を有するものであり、かつ、導電層を有しないことから、分光感度に優れる膜は得られなかった。
【0065】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の珪化バリウム系積層基板は分光感度に優れることから、特に太陽電池モジュールや熱電変換モジュールに好適である。
【符号の説明】
【0067】
1: ターゲット1、 2:ターゲット2、 3:基板
4: スパッタ層 〇: アルゴン ●:スパッタ粒子
図1