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特開2022-78873ガス濃度演算方法およびガス濃度測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022078873
(43)【公開日】2022-05-25
(54)【発明の名称】ガス濃度演算方法およびガス濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20220518BHJP
【FI】
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189835
(22)【出願日】2020-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】小泉 佳彦
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059DD03
2G059EE01
2G059EE11
2G059FF08
2G059HH01
2G059KK01
2G059KK09
2G059KK10
2G059MM01
2G059MM14
2G059MM17
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、被測定ガスが導入される容器(セル)を用いることなくガス濃度測定が可能なガス濃度測定方法およびガス濃度測定装置を提供することである。
【解決手段】
測距センサと感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサとを有するデバイスを用いて、デバイスと光源体との間の空間に存在する所定のガス成分の濃度を演算するガス濃度演算方法であり、デバイスと光源体との距離を測距センサにより測定する測距工程と、すべての赤外線センサの視野全体を光源体が覆ったときに、赤外線センサの各々からの信号と、光源体とデバイスとの距離を示す測距センサからの信号とに基づいて、所定のガス成分の濃度を演算する濃度演算工程と、を備えることを特徴とする、ガス濃度演算方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距センサと感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサとを有するデバイスを用いて、前記デバイスと光源体との間の空間に存在する所定のガス成分の濃度を演算するガス濃度演算方法であり、
前記デバイスと前記光源体との距離を前記測距センサにより測定する測距工程と、
すべての前記赤外線センサの視野全体を前記光源体が覆ったときに、前記赤外線センサの各々からの信号と、前記光源体と前記デバイスとの距離を示す前記測距センサからの信号とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する濃度演算工程と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度演算方法。
【請求項2】
前記デバイスと前記光源体との距離が所定の範囲内にあるときを、前記光源体がすべての前記赤外線センサの視野全体を覆ったときとする、請求項1に記載のガス濃度演算方法。
【請求項3】
前記デバイスと前記光源体との距離が所定の範囲内にあるときに、前記濃度演算工程を実行する、請求項2に記載のガス濃度演算方法。
【請求項4】
前記光源体の温度を測定する温度測定工程を更に備え、
前記光源体の温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであるときを、前記光源体がすべての前記赤外線センサの視野全体を覆ったときとする、請求項1に記載のガス濃度演算方法。
【請求項5】
前記光源体の温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであり、かつ、前記デバイスと前記光源体との距離が所定の範囲内であるときを、前記光源体がすべての前記赤外線センサの視野全体を覆ったときとする、請求項4に記載のガス濃度演算方法。
【請求項6】
感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサを有するデバイスを用いて、前記デバイスと光源体との間の空間に存在する所定のガス成分の濃度を演算するガス濃度演算方法であり、
前記デバイスから所定の距離だけ離れた位置に前記光源体を配置する配置工程と、
すべての前記赤外線センサの視野全体を前記光源体が覆ったときに、前記赤外線センサの各々からの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する濃度演算工程と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度演算方法。
【請求項7】
前記配置工程が、前記光源体を前記デバイスから前記所定の距離だけ離れた位置に配置するように指示する指示工程を含む、請求項6に記載のガス濃度演算方法。
【請求項8】
前記配置工程が、前記光源体の所定箇所に前記デバイスを装着する装着工程である、請求項6に記載のガス濃度演算方法。
【請求項9】
前記デバイスがウェアラブルデバイスである、請求項8に記載のガス濃度演算方法。
【請求項10】
前記光源体の温度が30℃以上40℃以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のガス濃度演算方法。
【請求項11】
前記光源体が人体の一部である、請求項1~10のいずれか一項に記載のガス濃度演算方法。
【請求項12】
前記人体の一部が人間の手である、請求項11に記載のガス濃度演算方法。
【請求項13】
所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、
前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、
光源体までの距離を測定する測距センサと、
前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記測距センサからの信号とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度測定装置。
【請求項14】
所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、
前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、
光源体を所定の距離だけ離れた位置に配置するように指示する指示部と、
前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度測定装置。
【請求項15】
所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、
前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、
光源体が所定の距離だけ離れた位置に配置されることを検知する検知部と、
前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度測定装置。
【請求項16】
光学部材を更に備え、前記光源体からの赤外線は、前記光学部材を介して前記第1の赤外線センサと前記第2の赤外線センサとに入射する、請求項13~15のいずれか一項に記載のガス濃度測定装置。
【請求項17】
前記光学部材は、前記デバイスの外部から前記デバイスの内部に物質が侵入することを防ぐ、請求項16に記載のガス濃度測定装置。
【請求項18】
前記光源体の温度を測定可能である、請求項13~17のいずれか一項に記載のガス濃度測定装置。
【請求項19】
前記光源体の温度を、前記第1の赤外線センサと前記第2の赤外線センサの少なくとも一方で測定する、請求項18に記載のガス濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス濃度演算方法およびガス濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス濃度測定方法の一つに、非分散型赤外線吸収法を用いるものがある。非分散型赤外線吸収法を用いたガス濃度センサは、被測定ガスが特定の波長帯の赤外線を吸収する性質を利用するもので、被測定ガスによる赤外線の吸収量の大きさからその濃度が求められる。
従来知られているガス濃度測定装置は、被測定ガスが導入される容器(セル)を備え、セルの内部には、赤外線を放出する光源と、この光源から放出される赤外線を検出する赤外線センサが設けられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-73098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように、従来のガス濃度測定装置およびガス濃度測定方法では、被測定ガスが導入される容器(セル)を用いることが前提であるため、装置全体の大きさの制限によってその応用的な活用には限界があり、モバイル機器等に搭載するという着想そのものに至らないのが実情である。
【0005】
そこで、本発明は、被測定ガスが導入される容器(セル)を用いることなくガス濃度測定が可能なガス濃度演算方法およびガス濃度測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
測距センサと感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサとを有するデバイスを用いて、前記デバイスと光源体との間の空間に存在する所定のガス成分の濃度を演算するガス濃度演算方法であり、
前記デバイスと前記光源体との距離を前記測距センサにより測定する測距工程と、
すべての前記赤外線センサの視野全体を前記光源体が覆ったときに、前記赤外線センサの各々からの信号と、前記光源体と前記デバイスとの距離を示す前記測距センサからの信号とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する濃度演算工程と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度演算方法。
[2]
前記デバイスと前記光源体との距離が所定の範囲内にあるときを、前記光源体がすべての前記赤外線センサの視野全体を覆ったときとする、[1]に記載のガス濃度演算方法。
[3]
前記デバイスと前記光源体との距離が所定の範囲内にあるときに、前記濃度演算工程を実行する、[2]に記載のガス濃度演算方法。
[4]
前記光源体の温度を測定する温度測定工程を更に備え、
前記光源体の温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであるときを、前記光源体がすべての前記赤外線センサの視野全体を覆ったときとする、[1]に記載のガス濃度演算方法。
[5]
前記光源体の温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであり、かつ、前記デバイスと前記光源体との距離が所定の範囲内であるときを、前記光源体がすべての前記赤外線センサの視野全体を覆ったときとする、[4]に記載のガス濃度演算方法。
[6]
感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサを有するデバイスを用いて、前記デバイスと光源体との間の空間に存在する所定のガス成分の濃度を演算するガス濃度演算方法であり、
前記デバイスから所定の距離だけ離れた位置に前記光源体を配置する配置工程と、
すべての前記赤外線センサの視野全体を前記光源体が覆ったときに、前記赤外線センサの各々からの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する濃度演算工程と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度演算方法。
[7]
前記配置工程が、前記光源体を前記デバイスから前記所定の距離だけ離れた位置に配置するように指示する指示工程を含む、[6]に記載のガス濃度演算方法。
[8]
前記配置工程が、前記光源体の所定箇所に前記デバイスを装着する装着工程である、[6]に記載のガス濃度演算方法。
[9]
前記デバイスがウェアラブルデバイスである、[8]に記載のガス濃度演算方法。
[10]
前記光源体の温度が30℃以上40℃以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のガス濃度演算方法。
[11]
前記光源体が人体の一部である、[1]~[10]のいずれかに記載のガス濃度演算方法。
[12]
前記人体の一部が人間の手である、[11]に記載のガス濃度演算方法。
[13]
所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、
前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、
光源体までの距離を測定する測距センサと、
前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記測距センサからの信号とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度測定装置。
[14]
所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、
前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、
光源体を所定の距離だけ離れた位置に配置するように指示する指示部と、
前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度測定装置。
[15]
所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、
前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、
光源体が所定の距離だけ離れた位置に配置されることを検知する検知部と、
前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、
を備えることを特徴とする、ガス濃度測定装置。
[16]
光学部材を更に備え、前記光源体からの赤外線は、前記光学部材を介して前記第1の赤外線センサと前記第2の赤外線センサとに入射する、[13]~[15]のいずれかに記載のガス濃度測定装置。
[17]
前記光学部材は、前記デバイスの外部から前記デバイスの内部に物質が侵入することを防ぐ、[16]に記載のガス濃度測定装置。
[18]
前記光源体の温度を測定可能である、[13]~[17]のいずれかに記載のガス濃度測定装置。
[19]
前記光源体の温度を、前記第1の赤外線センサと前記第2の赤外線センサの少なくとも一方で測定する、[18]に記載のガス濃度測定装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被測定ガスが導入される容器(セル)を用いることなくガス濃度測定が可能なガス濃度演算方法およびガス濃度測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(a)は、第1の態様のガス濃度測定装置と光源体との位置関係を示す模式図であり、(b)は、ガス濃度測定装置の構成を示す、(a)の一部拡大図である。
図2】第2の態様のガス濃度測定装置の構成を示す模式図である。
図3】第3の態様のガス濃度測定装置の構成を示す模式図である。
図4】第3の態様のガス濃度測定装置をイヤホンに搭載し、人間の耳に装着した際の模式図である。
図5】光学部材を更に有する第1の態様のガス濃度測定装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
<ガス濃度演算方法>
本実施形態のガス濃度演算方法の第1の態様は、測距センサと感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサとを有するデバイスを用いて、前記デバイスと光源体との間の空間に存在する所定のガス成分の濃度を演算するガス濃度演算方法であり、前記デバイスと前記光源体との距離を前記測距センサにより測定する測距工程と、すべての前記赤外線センサの視野全体を前記光源体が覆ったときに、前記赤外線センサの各々からの信号と、前記光源体と前記デバイスとの距離を示す前記測距センサからの信号とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する濃度演算工程と、を備える。
すべての赤外線センサの視野全体を光源体が覆うと、光源体から発せられる赤外線の一部は光源体と赤外線センサとの間の空間に存在する検出対象のガスにより吸収され、残りは赤外線センサに到達する。このとき、例えば、第1の赤外線センサの感度波長帯域を検出対象のガスが吸収する波長帯域を含むものとし、第2の赤外線センサの感度波長帯域を検出対象のガスが吸収する波長帯域を含まないものとすることで、この2つの赤外線センサから出力される信号と、光源体からデバイスまでの距離を示す測距センサからの信号とに基づいて、光源体と赤外線センサとの間の空間に存在する測定対象のガスの濃度を導出することができる。
なお、本開示で、デバイスと光源体との距離とは、デバイスの表面上の1点から光源体の表面上の1点までの距離のうち、最短の直線距離とする。
【0011】
測距センサは、光源体からデバイスまでの距離を測定可能なものであれば特に制限されず、LiDARセンサ、RADARセンサ、超音波センサなどが挙げられる。中でも、測定精度と光学センシングという観点から、LiDARセンサであることが好ましい。
また、測距センサのデバイス上の配置位置は、特に限定されないが、光源体に対向する面の中心部に配置されていることが好ましい。
【0012】
赤外線センサとしては、入射した赤外線の強度に応じた信号を出力可能なものであれば特に制限されず、焦電センサ、サーモパイル、ボロメータ、量子型赤外線センサなどが挙げられる。中でも、測定精度の観点から、量子型赤外線センサであることが好ましい。
異なる感度波長帯域を有する赤外線センサの数は、検出対象のガスが吸収する波長帯域を含む感度波長帯域を有するものと、検出対象のガスが吸収する波長帯域を含まない感度波長帯域を有するものの少なくとも2つが必要であり、検出対象のガス種の数に応じて、検出対象のガスが吸収するそれぞれの波長帯域を含む感度波長帯域を有する赤外線センサの数を増やすことができる。
また、赤外線センサのデバイス上の配置位置は、特に限定されないが、少なくとも2つの赤外線センサが、光源体に対向する面上に、当該面の中心を通る短手方向の線に対して対称に配置されていることが好ましい。
【0013】
本開示で、赤外線センサの感度波長帯域とは、赤外線センサが感度を有する赤外線の波長帯域を意味する。感度波長帯域は、通常、赤外線センサに組み合わせる光学フィルタ等により調整することができる。バンドパスの光学フィルタによって、光学フィルタを透過する波長帯域(例えば、透過率がピークとなる波長から透過率がピークよりも5%下がる波長まで)と、それ以外の光学フィルタを透過しない波長帯域とに分けられる。赤外線センサ自体の感度波長帯域にも影響されるが、光学フィルタにより調整された赤外線センサの感度波長帯域は、その光学フィルタを透過する波長帯域と同等となる。
赤外線センサの感度波長帯域の具体例としては、例えば、二酸化炭素を検知する場合、第1の赤外線センサの感度波長帯域は、二酸化炭素が吸収する赤外線の波長帯域である4.3μm付近とする。一方、第2の赤外線センサの感度波長帯域は、二酸化炭素が吸収しない波長帯域であり、かつ他のガスも吸収しない波長帯域であることが望ましく、例えば、3.8μm付近とする。
【0014】
光源体は、赤外線を発するものであれば特に制限されないが、容易に所定範囲の温度の光源体を得ることができるという観点から、温度が30℃以上40℃以下のものであることが好ましく、人体のように、室温、即ち赤外線センサの温度に対して温度が高く、かつ35℃以上40℃以下の範囲で安定しているものが、測定精度の観点からより好ましい。
また、容易に赤外線センサの視野を覆うことができるという観点から、光源体は人体の一部であることが好ましく、比較的面積が大きく、可動性が高いことから、人間の手(手のひらまたは手の甲)であることがより好ましい。
【0015】
測定対象ガスは、赤外線を吸収することができるガスであれば特に制限されず、例えば、二酸化炭素やメタンなどが挙げられる。
【0016】
ガス濃度は、各赤外線センサのからの信号と測距センサからの信号とに基づいて、下記式(1)により演算することができる。
【数1】
(式中、Iは第1の赤外線センサの出力、Iは第2の赤外線センサの出力、cは求めたい検出対象ガスの濃度、dは光路長、sは吸光強度(検出対象ガスに特有の量子力学定数)である。)
【0017】
ここで、上述のように、本実施形態における光源体は、従来のガス濃度センサのように一定の距離に設置されるランプ等の照明ではなく、赤外線センサが設置されているデバイスの筐体の外側に配置される人体の一部等を好適に使用する。従来のガス濃度センサでは、被測定ガスが導入される容器(セル)の一端に設置される赤外線センサに対向して光源体が設置されるため、光源光路長dは一定である。しかしながら、本実施形態のように光源体が人体の一部等となると光路長dは可変となるため、光路長dは変数であり、式(1)においてガス濃度cを求めるために測定が必要となる。そこで、本実施形態のガス濃度演算方法では、光源体からデバイスまでの距離を測定する測距センサからの信号を用いて光路長dを求める。そのため、本実施形態のガス濃度演算方法によれば、被測定ガスが導入される容器(セル)を用いることなく、ガス濃度測定が可能である。
【0018】
光源体がすべての赤外線センサの視野全体を覆ったか否かを判定する方法は、特に制限されない。一例としては、光源体の大きさと赤外線センサの視野との関係に基づき、デバイスと光源体との距離が所定の範囲内にあるときを、光源体がすべての赤外線センサの視野全体を覆った状態であるときとすることが挙げられる。この場合、デバイスと光源体との距離のみで判定が可能であるため、撮像素子などの消費電力の大きい素子を用いることなく効率的にガス濃度演算が実現可能である。
低消費電力化および測定精度向上の観点からも、このようにデバイスと光源体との距離が所定の範囲内にあるときに、濃度演算工程を実行することが好ましい。
【0019】
また、光源体がすべての赤外線センサの視野全体を覆ったか否かを判定する方法の別の例としては、光源体の温度を測定する温度測定工程を更に備え、光源体の温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであるときを、光源体がすべての赤外線センサの視野全体を覆った状態であるときとすることが挙げられる。例えば、光源体が人体の一部(例えば、手)である場合、その温度は所定の範囲内(36℃前後)であることが一般的であるため、光源体の温度が所定の時間36℃前後である場合は、該光源体がすべての赤外線センサの視野全体を覆っていると定めることが可能である。
低消費電力化および測定精度向上の観点からも、このように光源体の温度が所定範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであるときに、濃度演算工程を実行することが好ましい。
なお、上記温度の所定範囲は、光源体の種類により適宜決定してよい。また、上記温度の所定の変動パターンとは、例えば、温度が室温相当から光源の温度相当に徐々に変化するのではなく、人間の動作に起因して比較的短時間で変化すること、人間の動作に起因する温度の揺らぎが生じること等が挙げられる。
【0020】
また、上述の例を併せて、デバイスと光源体との距離が所定範囲内にあり、光源体の温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであるときを、光源体がすべての赤外線センサの視野全体を覆った状態であるときとしてもよい。
前述と同様に、低消費電力化および測定精度向上の観点からも、このようにデバイスと光源体との距離が所定範囲内にあり、光源体の温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであるときに、濃度演算工程を実行することが好ましい。
【0021】
この第1の態様のガス濃度演算方法は、例えば、後述する本実施形態のガス濃度測定装置の第1の態様、即ち、所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、光源体までの距離を測定する測距センサと、前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記測距センサからの信号とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、を備えるガス濃度測定装置をデバイスとして用いることによって実現可能である。
【0022】
本実施形態のガス濃度演算方法の第2の態様は、感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサを有するデバイスを用いて、前記デバイスと光源体との間の空間に存在する所定のガス成分の濃度を演算するガス濃度演算方法であり、前記デバイスから所定の距離だけ離れた位置に前記光源体を配置する配置工程と、すべての前記赤外線センサの視野全体を前記光源体が覆ったときに前記赤外線センサの各々からの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する濃度演算工程と、を備える。
【0023】
第1の態様のガス濃度演算方法との違いは、測距工程がなく、光源体をデバイスから所定の距離だけ離れた位置に配置する配置工程を有することである。
デバイスから所定の距離だけ離れた位置に光源体を配置することにより、第1の態様のガス濃度演算方法で必要であった測距工程がなくても、上述の式(1)により同様にガス濃度の演算が可能である。
なお、赤外線センサとその感度波長帯域、光源体、所定のガス成分は、第1の態様のガス濃度演算方法と同様とすることができる。
【0024】
配置工程において光源体を配置する方法は、特に制限されないが、一例としては、光源体をデバイスから所定の距離だけ離れた位置に配置するように指示する指示工程による方法が挙げられる。具体的には、例えば、デバイスが発音機能を有していれば、音声により光源体の配置位置を指示してもよく、表示機能を有していれば、画像や文字等により光源体の配置位置を指示してもよい。
【0025】
この指示工程を備える第2の態様のガス濃度演算方法は、例えば、後述する本実施形態のガス濃度測定装置の第2の態様、即ち、所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、光源体を所定の距離だけ離れた位置に配置するように指示する指示部と、前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、を備えるガス濃度測定装置により実現可能である。
【0026】
配置工程において光源体を配置する方法の他の例としては、光源体の所定箇所にデバイスを装着する装着工程による方法が挙げられる。具体的には、例えば、デバイスが眼鏡やヘッドセット、HMD等のウェアラブルデバイスである場合、光源体からデバイスまでの距離が所定の距離となるように、光源体(人体の一部等)にデバイスを装着することが挙げられる。このとき、デバイスを、すべての赤外線センサの視野全体を光源体が覆うような位置(例えば、デバイスが眼鏡の場合、ブリッジやヒンジの周辺)に各赤外線センサを配置したものとしておくことで、光源体にデバイスを装着したときに、光源体がすべての赤外線センサの視野全体を覆った状態となり、濃度演算工程を実施することが可能になる。この方法によれば、光源体(例えば、人間)はデバイスからの細かい指示に従うことなく、デバイスを装着するという単純な動作のみで、ガス濃度測定を可能にする位置に赤外線センサを配置することが実現される。
【0027】
この装着工程を備える第2の態様のガス濃度演算方法は、例えば、後述する本実施形態のガス濃度測定装置の第3の態様、即ち、所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、光源体が所定の距離だけ離れた位置に配置されることを検知する検知部と、前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、を備えるガス濃度測定装置をデバイスとして用いることにより実現可能である。
【0028】
<ガス濃度測定装置>
本実施形態のガス濃度測定装置の第1の態様は、所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、光源体までの距離を測定する測距センサと、前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記測距センサからの信号とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、を備える。
【0029】
図1は、第1の態様のガス濃度測定装置の模式図である。図1(a)は、ガス濃度測定装置と光源体との位置関係を示した模式図であり、図1(b)は、図1(a)を拡大し、ガス濃度測定装置の構成を示した模式図である。
図1(a)は、光源体100が、ガス濃度測定装置10が有する感度波長帯域が異なる2つ以上の赤外線センサ(図1(a)では2つ)の視野全体を覆っている状態を示す。
図1(a)の状態にあるとき、図1(b)に示すように、感度波長帯域が異なる第1の赤外線センサ21と第2の赤外線センサ22とは、光源体100から発せられた赤外線を受光し、受光した赤外線に応じた信号S21、S22をそれぞれ演算処理部40に出力する。なお、第1の赤外線センサ21の感度波長帯域は検出対象のガスが吸収する波長帯域を含み、第2の赤外線センサ22の感度波長帯域は検出対象のガスが吸収する波長帯域を含まないものとする。
また、測距センサ30は、ガス濃度測定装置10から光源体100までの距離Dに応じた信号S30を演算処理部40に出力する。演算処理部40は、信号S21、S22、およびS30に基づいて、光源体100とガス濃度測定装置10との間の空間に存在する検出対象ガスの濃度を演算する。
【0030】
また、測定精度と消費電力低減の観点から、測距センサ30からの信号S30が所定の閾値よりも高い(光源体100とガス濃度測定装置10との距離Dが所定の閾値よりも小さい)ときを、光源体100がすべての赤外線センサの視野全体(図1(b)の場合、FOV1およびFOV2)を覆ったときとして、上記ガス成分の濃度演算を行うようにしてもよい。
【0031】
また、光源体100の温度を第1の赤外線センサ21および/もしくは第2の赤外線センサ22、または別の独立した温度センサで測定し、当該温度が所定の範囲内であり、かつ、所定の変動パターンであるときに上記ガス成分の濃度演算を行うようにしてもよい。
なお、上記温度の所定範囲は、光源体の種類により適宜決定してよい。また、上記温度の所定の変動パターンとは、例えば、温度が室温相当から光源の温度相当に徐々に変化するのではなく、人間の動作に起因して比較的短時間で変化すること、人間の動作に起因する温度の揺らぎが生じること等が挙げられる。
【0032】
第1の態様のガス濃度測定装置における測距センサ、赤外線センサとその感度波長帯域、所定のガス成分は、上述の第1の態様のガス濃度演算方法にて説明したものと同様とすることができる。
【0033】
光源体100は、赤外線を発するものであれば特に制限されないが、温度が一定であるものが好ましい。一例としては、温度が30℃以上40℃以下であるものが好ましく、人体のように、室温、即ち赤外線センサの温度に対して温度が高く、かつ35℃以上40℃以下の範囲で安定しているものが、測定精度の観点からより好ましい。これを実現する光源体100としては、赤外線センサの視野を覆う容易性から、人体の一部等が挙げられる。また、比較的面積が大きく、可動性が高いことから、人体の手のひらや手の甲を用いることが特に好適な場合がある。
【0034】
ガス濃度演算装置10の具体的な形態は、特に制限されないが、例えば、スマートフォン、タブレット、パソコン等の機器や、眼鏡やヘッドセット、HMD等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。
【0035】
本実施形態のガス濃度測定装置の第2の態様は、所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、光源体を所定の距離だけ離れた位置に配置するように指示する指示部と、前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、を備える。
【0036】
図2は、第2の態様のガス濃度演算装置の模式図である。第2の態様のガス濃度演算装置10は、第1の態様と比較して、測距センサ30の代わりに指示部50を有している点で異なる。
なお、赤外線センサとその感度波長帯域、光源体、所定のガス成分は、第1の態様のガス濃度測定装置と同様とすることができる。
【0037】
指示部50は、光源体100がガス濃度演算装置10から所定の距離だけ離れた位置に配置されるように指示する。換言するならば、光源体100が、第1の赤外線センサ21および第2の赤外線センサ22の視野全体を覆う位置に配置されるように指示する。指示の方法は、特に制限されず、画像や文字を表示することによる指示であってもよいし、音声や振動等による指示であってもよい。
【0038】
本実施形態のガス濃度測定装置の第3の態様は、所定のガス成分の吸収波長帯域の光に感度を有する第1の赤外線センサと、前記所定のガス成分の吸収波長帯域以外の光に感度を有する第2の赤外線センサと、光源体が所定の距離だけ離れた位置に配置されることを検知する検知部と、前記第1および第2の赤外線センサからの信号と、前記所定の距離とに基づいて、前記所定のガス成分の濃度を演算する演算処理部と、を備える。
【0039】
図3は、第3の態様のガス濃度測定装置の模式図である。第3の態様のガス濃度演算装置10は、第1の態様と比較して、測距センサ30の代わりに検知部60を有している点で異なる。
検知部60は、光源体100がガス濃度演算装置10から所定のだけ離れた位置に配置されたことを検知する。換言するならば、光源体100が、第1の赤外線センサ21および第2の赤外線センサ22の視野全体を覆う位置に配置されたことを検知する。検知部の具体例としては、接触センサ等が挙げられるが、この限りではない。
【0040】
図4は、第3の態様のガス濃度測定装置をイヤホンに搭載し、人間の耳に装着した際の模式図である。検知部60により、イヤホンが耳に装着され、耳の一部がガス濃度演算装置10から所定の距離だけ離れた位置に配置されたことを検知する。換言するならば、第1の赤外線センサ21および第2の赤外線センサ22が、その視野全体が耳の一部によって覆われるようになる位置に配置されたことを検知する。
【0041】
図5は、光学部材70を更に有する第1の態様のガス濃度測定装置の模式図である。同様に、上記第2および第3の態様のガス濃度測定装置においても、光学部材70を更に備えていてもよい。
【0042】
光学部材70を有する場合、光源体100からの赤外線は、光学部材70を介して第1の赤外線センサ21と第2の赤外線センサ22とに入射することが好ましい。これにより、第1の赤外線センサ21と第2の赤外線センサ22の感度波長帯域を、容易に異なるものとすることができる。
【0043】
また、光学部材70は、ガス濃度測定装置10の内部に外部からの物質(例えば、水や塵)が侵入するのを防止することができることが好ましい。また、測定精度に影響を及ぼし得る外部からの物質が赤外線センサや測距センサの表面に付着することを防止することもでき、付着しても容易に除去することが可能になる。
【0044】
また、本実施形態のガス濃度測定装置は、ガス濃度測定精度向上の観点から、光源体の温度を測定可能であることが好ましい。光源体の温度の測定方法は、特に制限されず、第1の赤外線センサと第2の赤外線センサの少なくとも一方により測定されてもよく、別の独立した温度センサを更に備え、これにより測定されてもよい。
【0045】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本開示の趣旨および範囲内で、多くの変更および置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 ガス濃度測定装置
21 第1の赤外線センサ
22 第2の赤外線センサ
30 測距センサ
40 演算処理部
50 指示部
60 検知部
70 光学部材
100 光源体
FOV1、FOV2 (赤外線センサの)視野
D 光源体からガス濃度測定装置までの距離
S21 第1の赤外線センサからの信号S22 第2の赤外線センサからの信号
S30 測距センサからの信号
図1
図2
図3
図4
図5