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特開2022-79030白金系スパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079030
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】白金系スパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220519BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20220519BHJP
   C22F 1/14 20060101ALI20220519BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C5/04
C22F1/14
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020189958
(22)【出願日】2020-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】藤野 晶仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】窪田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】麻田 敬雄
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BD01
4K029CA05
4K029DC02
4K029DC07
4K029DC08
(57)【要約】
【課題】白金又は白金合金からなる白金系スパッタリングターゲットに関し、経時的な面内均一性を維持することができる白金系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】白金又は白金合金からなる白金系スパッタリングターゲットに関する。本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、祖の厚さ方向断面の材料組織に特徴を有する。即ち、厚さ方向に沿った断面を厚さ方向に沿ってn等分(n=5~20)に区分し、両端を除いた(n-2)区分からなる領域を判定領域として設定し、前記判定領域について、区分毎の平均粒径を測定すると共に判定領域の全体の平均粒径を測定したとき、前記判定領域の全体の平均粒径が150μm以下であり、前記判定領域の各区分の平均粒径より算出される変動係数が15%以下となっている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金又は白金合金からなる白金系スパッタリングターゲットにおいて、
厚さ方向に沿った断面を厚さ方向に沿ってn等分(n=5~20)に区分し、両端を除いた(n-2)区分からなる領域を判定領域として設定し、前記判定領域について、区分毎の平均粒径を測定すると共に判定領域の全体の平均粒径を測定したとき、
前記判定領域の全体の平均粒径が150μm以下であり、
前記判定領域の各区分の平均粒径より算出される変動係数が15%以下であることを特徴とする白金系スパッタリングターゲット。
【請求項2】
判定領域の全体の平均粒径が40μm以下である請求項1記載の白金系スパッタリングターゲット。
【請求項3】
判定領域において、アスペクト比が3以上の結晶粒の粒子数基準での割合が20%以下であり、且つ、アスペクト比が5以上の結晶粒の粒子数基準での割合が9%以下である請求項1又は請求項2記載の白金系スパッタリングターゲット。
【請求項4】
純度99.99質量%以上の白金からなる請求項1~請求項3のいずれかに記載の白金系スパッタリングターゲット。
【請求項5】
添加元素として、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、コバルト、マンガン、ニッケル、タングステンのいずれかを1原子%以上30原子%以下含み、
白金と前記添加元素との合計の純度が99.9質量%以上の合金からなる請求項1~請求項3のいずれかに記載の白金系スパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれかに記載の白金系スパッタリングターゲットの製造方法であって、
熔解鋳造後の白金又は白金合金からなる鋳塊を少なくとも1回鍛造加工してインゴットを製造する鍛造加工工程と、前記インゴットを少なくとも1回圧延加工して圧延材を製造する圧延加工工程と、前記圧延材を熱処理する再結晶熱処理工程と、を含み、
前記鍛造加工工程の後で且つ前記圧延加工工程前に、前記インゴットを850℃以上950℃以下の温度で加熱する均質化熱処理を行い、
更に、前記再結晶熱処理工程における前記圧延材の加熱温度を600℃以上700℃以下とする白金系スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
均質化熱処理工程におけるインゴットの加熱時間を60分以上120分以下とする請求項6記載の白金系スパッタリングターゲットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金又は白金合金からなる白金系スパッタリングターゲットに関する。詳しくは、使用過程で形成される薄膜の膜厚の経時的変動が抑制されており、従来よりも長期に安定して面内均一性が良好な薄膜の形成を可能とする白金系スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
白金は化学的安定性が良好な導電性材料であり、FeRAM、DRAM等の半導体素子の薄膜電極として応用が検討されている。また、白金は非磁性材料であるが、強磁性材料と合金化もしくはナノメートルレベルで多層化することで垂直磁気異方性が発現することが知られている。この現象を利用して、白金又は白金合金からなる薄膜は、磁気記録媒体の磁気記録面の構成材料としても期待されている。そして、薄膜電極や磁気記録面等の形成に際しては、白金又は白金合金からなる白金系スパッタリングターゲット(以下、単にターゲットと称する場合がある)によるスパッタリング法が適用されている。
【0003】
スパッタリング法により薄膜電極や磁気記録面等を形成する場合、膜厚の面内分布に均一性が要求される。そのためスパッタリングターゲットに対しても、スパッタ面内でのスパッタ速度の均一性が必要となる。スパッタリングターゲットのスパッタ速度の均一性を確保する手段としては、ターゲット表面における結晶粒の微細化することが好適とされている。スパッタ速度は、結晶方位によって異なることから、理想としては結晶方位が揃ったスパッタリングターゲットの適用が好ましいが、現実的・工業的にはそのようなものを製造することは困難である。そこで、結晶粒を微細化することで、方位差によるスパッタ速度の差を緩和させて全体として安定したスパッタ速度を得ることができる。
【0004】
白金系スパッタリングターゲットにおいても、膜厚の面内均一性を確保するために結晶粒の微細化を図ることが知られている。例えば、特許文献1では、平均結晶粒径が50μm以下であり、ターゲット面の面内方向及びターゲットの厚さ方向の結晶粒径の公差が20%以下となっている白金スパッタリングターゲットが開示されている。この白金スパッタリングターゲットは、熔解鋳造後のインゴットに対して、所定温度範囲での1次鍛造加工及び2次鍛造加工を行った後に、所定温度範囲でのクロス圧延加工を行い、その後熱処理をすることで製造される。この製造工程においては、鍛造加工とクロス圧延によって歪みを導入し、その後の熱処理で再結晶による結晶粒微細化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6514646号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したスパッリングターゲットの膜厚の面内均一性は、継続的なものが要求される。通常、スパッリングターゲットは、繰り返し使用されるものであり、多数の基板への薄膜を供給する。使用初期で面内均一性が達成できても、使用時間の積算に従って面内均一性が崩れるようでは安定した製品の製造は不可能である。そして、この経時的な面内均一性の重要性は、近年より高くなっており、その基準も厳格なものとなっている。
【0007】
例えば、次世代の磁気記録媒体として開発が進んでいる磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)において、その記憶素子である磁気トンネル接合素子(MTJ素子)は白金薄膜を含め多数の薄膜で構成されている。この多層構造を有する記憶素子が予定された機能を発揮するためには、個々の薄膜が設計通りの膜厚を有することが不可欠となっている。記憶素子の製造に際しては、一つの基板に多層構造の薄膜を形成し、個々の素子に分割している。経時的な面内均一性を維持できないターゲットを使用すると、製造される記憶素子の膜厚にばらつきが生じる。膜厚のばらつきは、シート抵抗等の電気的特性のばらつき、すなわち、MTJ素子の面積抵抗積のばらつきに繋がることから規格外の素子が製造されることとなる。そのような規格外の素子は、製品歩留りの低下に繋がるばかりか、製品全体の信頼性に影響を及ぼす。そのため、従来以上に厳格な面内均一性が要求される。
【0008】
このような経時的な面内均一性についての厳格な基準が要求される状況において、上記した従来の白金スパッタリングターゲットは、その要求に十分に応えることは困難である。本発明者等の検討によれば、上記の白金系スパッタリングターゲットは、使用初期においては面内均一性が良好な薄膜を形成可能であるものの、使用途中で膜厚にばらつきが生じ要求基準を満たさないことが確認されている。
【0009】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、白金又は白金合金からなる白金系スパッタリングターゲットについて、経時的な面内均一性を維持することができ、上記のような厳格な基準をクリアすることを可能とする白金系スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を行った結果、スパッリングターゲットの消耗形態に着目した。スパッタリング法は、イオン化されたアルゴン粒子等のスパッタ粒子を加速してターゲットに衝突させ、その際の運動量交換によってスパッタされたターゲットの構成原子を基板に堆積させる薄膜形成法である。スパッタリング法には、スパッタ粒子の加速方式によっていくつかあるが、スパッタリングの進行によるターゲットの消耗は均等ではない。例えば、現在スパッタリング法の主流となっているマグネトロンスパッタリングでは、ターゲットに印加される表面磁場により電子が一定の軌道付近に集中し、ターゲットの中心付近での消耗が速くなる傾向がある。このような不均等な消耗の進行により、使用初期に平坦であったターゲットは継続して薄膜形成すると凹凸のある不均等な厚さを有するものとなる。そして、ターゲットの厚さが不均等となったとき、ターゲットの構成元素は、それぞれ厚さ(初期表面からの深さ)の異なる位置からスパッタリングにより生成されることとなる。
【0011】
もっとも、スパッタリンターゲットが上記のような不均等な摩耗形態をとるとしても、厚さ方向において結晶粒の状態が均一であれば、面内均一性への影響は少ないと考えられる。しかし、本発明者等の考察・検討によれば、従来のスパッタリンターゲットにおいては、厚さ方向における結晶粒の状態の均一性は十分なものではない。特に、スパッタリンターゲットの厚さ方向中心付近において、面内均一性にばらつきを生じさせる要因があると考察する。
【0012】
上記のような検討から、本発明者等は、従来の白金系スパッタリングターゲットの経時的面内均一性の低下の要因として、ターゲットの消耗形態に加えて厚さ方向における結晶粒の状態の均一性にあるものと考察した。この点、スパッタリングターゲットの厚さ方向の結晶粒の状態に関する検討例は、これまで全くなかったわけではない。例えば、上記した特許文献1でも、スパッリングターゲットの結晶粒径に関して厚さ方向における公差が規定されている。しかしながら、そのようなスパッタリンターゲットにおいても経時的な面内均一性低下が生じることがあるということは、従来技術における規定では対応できないことを示す。
【0013】
そこで、本発明者等は、長時間使用においても安定したスパッタリング特性を有するスパッタリングターゲットを見出すべく、従来とは異なる製造方法を検討した。その結果、厚さ方向の結晶粒径について厳密な状態にあるスパッリングターゲットを見出し本発明に想到した。
【0014】
即ち、本発明は、白金又は白金合金からなる白金系スパッタリングターゲットにおいて、厚さ方向に沿った断面を厚さ方向に沿ってn等分(n=5~20)に区分し、両端を除いた(n-2)区分からなる領域を判定領域として設定し、前記判定領域について、区分毎の平均粒径を測定すると共に判定領域の全体の平均粒径を測定したとき、前記判定領域の全体の平均粒径が150μm以下であり、前記判定領域の各区分の平均粒径より算出される変動係数が15%以下であることを特徴とする白金系スパッタリングターゲットである。
【0015】
上記のとおり、本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、厚さ方向断面における材料組織を規定するものである。具体的には、厚さ方向断面内における所定領域を面内均一性の判定のための判定領域と設定し、その全体の平均粒径を規定する。これに加えて、断面を複数に区分し、区分毎の平均粒径を測定し、それらから求められる変動係数を厳密に制限することを特徴とする。以下、本発明の各構成について説明する。
【0016】
尚、本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、白金(純白金)又は白金合金で構成される。白金合金としては、添加元素として、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Ru(ルテニウム)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)、W(タングステン)のいずれかを含む白金合金が適用される。白金合金は、前記添加元素を0.1原子%以上30原子%以下含む合金が適用される。
【0017】
また、本発明において厚さ方向とは、スパッタ面に対して略直交する方向である。スパッタ面とは、不活性ガスイオンが主として衝突し、ターゲットを構成する原子を放出する面である。また、断面とは、厚さ方向に対する任意の切断面である。そして、圧延加工工程を経たターゲットにおいて、断面とは圧延方向に対して平行となる圧延断面(RD)と、圧延方向に対して垂直となる圧延垂直断面(TD)がある。但し、本発明においては、圧延方向に対する平行及び圧延方向に対する垂直とは±20°の公差を含むこととする。
【0018】
更に、上記の圧延方向とは、最終の圧延加工工程における圧延方向である。後述のとおり、本発明に係る白金ターゲットは、鍛造後に行う圧延加工工程にクロス圧延を採用することがある。クロス圧延は、素材の長さ方向(長手方向)への圧延加工に加えて、幅方向(垂直方向)にも圧延を行う方法である。よって、例えば、最終圧延の圧延方向が長さ方向であれば、長さ方向に対して平行となる断面を圧延断面(RD)とし、長さ方向に対して垂直となる圧延垂直断面(TD)となる。そして、本発明では、圧延断面及び圧延垂直断面の双方において、上述の全体の平均粒径と、各判定領域における変動係数の基準のいずれも満たしていることを要する。
【0019】
(A)本発明に係る白金系スパッタリングターゲットの構成
(i)判定領域
本発明では、ターゲットの断面を厚さ方向に沿ってn等分(n=5~20)に区分し、両端を除いた(n-2)個の区分を判定領域とし、この領域における平均粒径値と変動係数を規定する。そして、それらの値に基づきターゲットの経時的な面内均一性を判定する。区分数に関して5以上20以下とするのは、5未満の区分数では個々の区分が広範となり過ぎて統計的な信頼性に乏しくなる。この場合、判定領域の各区分の平均粒径の変動係数が本発明の条件を具備していたとしても、粒径のばらつきが抑制されている状態とは言い難くなる。そのため、経時的な面内均一性を維持し得るターゲットとならない可能性がある。また、20を超えた数で区分しても、各区分の面積が小さくなり過ぎ各区分に含まれる結晶粒の数が少なくなり、統計的な信頼性が低くなる。そこで、区分数nを5以上20以下とする。
【0020】
統計的な信頼性確保のための区分数nの設定の指標としては、1の区分に結晶粒が150~200個程度含まれるようにすることが好ましい。具体的には、後述のとおり本発明のターゲットの断面における全体の平均粒径は150μm以下(好ましくは40μm以下)であるので、平均粒径とターゲットの板厚から区分数を設定することが好ましい。
【0021】
そして、本発明において判定領域から両端の区分を除外するのは、ターゲットの表面側(スパッタ面側)の端部の区分は、スパッタリング工程の初期で使用される領域であり、経時的な面内均一性を考慮する場合には不要な部分だからである。一方、裏面側の端部の区分に関しては、この領域まで使用されることはないことから判定領域から除外した。また、通常、スパッタリングターゲットは裏面にバッキングプレートを接合して使用されることから、裏面付近の区分についての考慮は不要である。
【0022】
(ii)判定領域全体の平均粒径
本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、前記判定領域における平均粒径をターゲットの全体の平均粒径とし、その値を150μm以下とする。スパッリングターゲットについて、安定したスパッタリング特性を発揮させるための結晶粒の微細化の有用性は、本発明者等も認めるところである。本発明のスパッリングターゲットは、平均粒径150μm以下の微細な結晶粒で構成される。この平均粒径は、40μm以下であることが好ましい。
【0023】
ターゲット断面の結晶粒の判定(結晶粒界の判定)、結晶粒径と平均粒径の測定・算出に関しては、特に制限はない。例えば、ターゲットを任意断面で切断して適宜にエッチングを行って組織観察を行い、観察領域内の全ての結晶粒について粒径を測定し、それらの平均値を求めても良い。また、観察領域内の複数の結晶粒を任意に抽出し、それらの粒径を測定して平均値を求めても良い。これらの粒径測定においては、粒径の計算方法として長径と短径との平均値を採用することができる。更に、平均粒径の測定方法としては、線分法も知られている。線分法では組織観察結果(写真)に対して、任意に複数の線分を描く。そして、線分と粒界とが交差する点(交点)の数と線の長さとから当該線分における平均粒径として算出し、これをそれぞれの線分について行い全体の平均値を結晶粒径とする。線分法は、比較的簡易に平均粒径を求めることのできる方法である。
【0024】
また、平均粒径は、ターゲットの断面を切断した後、適宜の分析手段と画像処理を使用することでも測定することができる。好適な分析手段として、電子線後方散乱回折法(EBSD)がある。EBSDは、結晶粒の方位解析に関する情報を迅速に得ることができる分析法である。そして、適宜の画像解析ソフトウエアで処理することで、粒界の識別から粒径値の計測と平均粒径の算出が可能である。
【0025】
上記のとおり、ターゲットの平均粒径の測定については、従来からいくつか知られており特に制限はない。但し、断面全体の平均粒径及び各判定領域の平均粒径の測定に際しては、測定方法を統一して実施することが好ましい。
【0026】
尚、本発明では、白金系スパッタリングターゲットの表面(スパッタ面)の面方向における平均粒径は特に規定されない。但し、後述のとおり、本発明ではターゲットの製造工程において、再結晶による結晶粒微細化が材料全体に及ぶような処理を施す。そのため、ターゲット表面についても結晶粒が微細化された材料組織が観られる。よって、ターゲット表面における平均粒径も、150μm以下、好ましくは40μm以下となっていることが好ましい。
【0027】
また、本発明では、ターゲットを厚さ方向にn等分した後、両端の区分を判定領域から除外するため、これらの区分に含まれる結晶粒の平均粒径は考慮されない。但し、両端の区分を含めて、ターゲットの厚さ全体における平均粒径が150μm以下、好ましくは40μm以下となっていても当然に良い。
【0028】
(iii)判定領域の平均粒径の変動係数
本発明では、判定領域内の各区分における平均粒径に基づき、判定領域に含まれる各区分の平均粒径の変動係数(CV)を求める。変動係数は、判定領域内の区分毎に平均粒径を測定し、それらの標準偏差を算出し、当該標準偏差を判定領域の全体の平均粒径で除した係数である。
【0029】
各区分の平均粒径、変動係数の測定の具体的手順としては、白金系スパッタリングターゲット断面をn等分し、両端を除いた(n-2)区分からなる判定領域を設定し、各区分における平均粒径を観察・測定する。そして、各区分の平均粒径の分散(不偏分散)の平方根である標準偏差は、下記のとおり算出される。各区分の平均粒径の変動係数は、この標準偏差を全体の平均粒径で除することで算出される。
【0030】
【数1】
(n:区分数、s:各区分の平均粒径の標準偏差、X:判定領域全体の平均粒径、X:各区分の平均粒径)
【0031】
【数2】
(n:区分数、CV:各区分の変動係数、s:各区分の平均粒径の標準偏差、X:判定領域全体の平均粒径)
【0032】
本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、厚さ方向断面の判定領域に含まれる(n-2)個の区分の平均粒径から算出される変動係数が15%以下であることを要する。変動係数が15%を超える場合、経時的な面内均一性を確保する上で好ましくない結晶粒を含むこととなり、本願発明の課題を解決し得ない。この変動係数の基準については、10%以下とすることが好ましく、7%以下とするのがより好ましい。
【0033】
以上のとおり、本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、厚さ方向断面の結晶粒の平均粒径について厳密な規定が定められており、これによりターゲット使用過程における経時的な面内均一性を確保する。ところで、本発明者等の検討によれば、ターゲットが経時的に安定したスパッタリング特性を発揮するためには、結晶粒径の微細化と平均粒径の変動係数を規定すると共に、結晶粒の形状についても規定することが好ましい。
【0034】
即ち、本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、上記した判定領域において、アスペクト比が3以上の結晶粒の粒子数基準での割合が20%以下であり、且つ、アスペクト比が5以上の結晶粒の粒子数基準での割合が9%以下であることが好ましい。本発明におけるアスペクト比は、各々の結晶粒について、最大径と最小径との比(最大径/最小径)として算出される。よって、本発明の基準によれば、アスペクト比は1以上と算出され、その値が大きい程、扁平形状の結晶粒となる。本発明においては、成膜時の経時的面内均一性の維持のため、断面組織における結晶粒の形状についても均等であるものが好ましい。特に、アスペクト比が3以上及び5以上の扁平な結晶粒の割合は低い方が好ましい。そのため、上記のような条件が好ましい。尚、この結晶粒のアスペクト比は、アスペクト比が3以上の結晶粒の粒子数基準での割合については、18%以下がより好ましく、7%以下が更に好ましい。また、アスペクト比が5以上の結晶粒の粒子数基準での割合については、3%以下がより好ましく、1%以下が更に好ましい。
【0035】
結晶粒のアスペクト比の測定については、平均粒径測定の際と同様に、断面組織を観察し、観察写真・画像から結晶粒の各寸法測定を行えば良い。また、画像処理及びソフトウエアも使用可能である。尚、粒子数基準での割合とは、観察領域の範囲内においてアスペクト比の測定対象とする結晶粒の粒子数に基づく割合である。アスペクト比の測定対象とする結晶粒は、観察領域内の結晶粒から複数を任意に抽出しても良く、観察領域内の全ての結晶粒を測定対象としても良い。
【0036】
(iv)その他の構成(純度、相対密度)
本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、電極膜・磁性膜としての品質を確保するため、高純度の白金又は白金合金からなるものが好ましい。具体的には、純白金からなる白金スパッタリングターゲットは、白金純度が、99.99質量%以上であるものが好ましい。また、上記した白金合金からなる白金合金スパッタリングターゲットは、白金と添加元素であるPd、Rh、Ir、Ru、Co、Mn、Ni、Wのいずれかとの合計の純度が99.9質量%以上であるものが好ましい。白金又は白金合金の純度の上限については、100質量%が好ましいが、不可避不純物を考慮すると、99.999質量%以下とするのが現実的である。
【0037】
純白金からなる白金スパッタリングターゲットの不可避不純物は、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Al、As、B、Bi、Ca、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Sb、Si、Sn、Ti、Zn、W等の元素の他、O(酸素)、N(窒素)、C(炭素)、S(硫黄)等のガス成分が挙げられる。また、白金合金からなる白金合金スパッタリングターゲットにおいても、前記ガス成分と前記元素群の元素であって白金合金の添加元素以外の元素が不可避不純物となり得る。これらの不可避不純物の含有量は、合計で100ppm以下となることが好ましい。
【0038】
更に、後述のとおり、本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、熔解鋳造法により製造される材料である。白金系スパッタリングターゲットとしては、いわゆる粉末冶金法により製造される、白金粉末又は白金合金粉末の焼結体で構成されるものも知られているが、本発明はこの焼結ターゲットとは区別される。具体的には、本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、同組成の白金又は白金合金の理論上の密度を基準としたときの相対密度が99.5%以上となる。
【0039】
本発明に係る白金系スパッタリングターゲットについての形状・寸法は、特に制限はない。形状に関しては、円形、矩形の板形状のものが一般的であるが、特にこれらに限定されない。寸法についても、平面寸法(直径、長辺、短辺)及び厚さに制限はない。
【0040】
(B)本発明に係る白金系スパッタリングターゲットの製造方法
次に、本発明に係る白金系スパッタリングターゲットの製造方法について説明する。本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、基本的には従来のターゲットと同様の製造工程にて製造される。従来の白金系スパッタリングターゲットの製造工程としては、熔解鋳造で鋳塊を製造し、これを鍛造加工してインゴットを製造し、更に、圧延加工して製品寸法に近い圧延材を製造した後、前記圧延材を熱処理することが知られている。最後の熱処理工程は、再結晶を生じさせるための工程であり、それまでの加工履歴によって導入された転位等の格子欠陥を駆動力として結晶粒を微細化させて材料組織を調整する工程である。
【0041】
本発明に係る白金系スパッタリングターゲットの製造工程も、上記した熔解鋳造工程、鍛造加工工程、圧延加工工程、再結晶熱処理工程を具備する。但し、本発明においては、厚さ方向の断面の材料組織において、従来よりも厳密な平均粒径の分布の調整を要し、好ましくは結晶粒の形状(アスペクト比)の好適化も図っている。
【0042】
本発明者等の検討によれば、従来の製造方法では、本発明で規定される材料組織を形成することは困難である。特に、板厚中心付近の領域での平均粒径の変動係数を具備させることや、結晶粒のアスペクト比を好適にすることは困難である。この要因としては、従来工程における熔解鋳造後の鍛造加工工程では、鋳塊の中心部まで鋳造組織を完全に破壊できない点があると考察する。中心部に鋳造組織がわずかでも残存した状態にあるインゴットは、その圧延加工による転位導入も不十分なものとなる。そのような状態で再結晶熱処理をしても厚さ方向で均質な材料組織を得ることが困難とある。
【0043】
そこで、本発明者等は、熱処理の際の再結晶の均一な進行、特に厚さ方向での均一性を確保するために、インゴットの中心部の鋳造組織が残存しないように鍛造加工を施すと共に、圧延加工前にインゴットを加熱して、インゴットの材料組織を全体的に均質にした後に熱処理を行うこととした。
【0044】
この均質化熱処理を含む本発明に係る方法は、熔解鋳造後の白金又は白金合金からなる鋳塊を少なくとも1回鍛造加工してインゴットを製造する鍛造加工工程と、前記インゴットを少なくとも1回圧延加工して圧延材を製造する圧延加工工程と、前記圧延材を熱処理する再結晶熱処理工程と、を含み、前記鍛造加工工程の後で且つ前記圧延加工工程前に、前記インゴットを850℃以上950℃以下の温度で加熱する均質化熱処理を行い、更に、前記再結晶熱処理工程における前記圧延材の加熱温度を600℃以上700℃以下とする白金系スパッタリングターゲットの製造方法である。以下、この製造方法の各工程について説明する。
【0045】
(i)熔解鋳造工程
熔解鋳造工程は、原料となる白金金属、添加元素金属を熔解して鋳型に鋳込み冷却して白金又は白金合金からなる鋳塊を得る工程である。この工程に関しては従来技術と特段の差異はない。原料金属は、製造目的の製品純度に合わせて高純度のものを使用する。原料金属の熔解は、高周波熔解炉、電気熔解炉、プラズマ溶解炉で加熱し、好ましくは不活性ガス雰囲気中、真空雰囲気中で行なう。鋳型は、製品形状を考慮して角形状又は丸板形状の鋳型が使用される。熔解金属を鋳込んだ後の冷却は、炉冷又は空冷の緩やかな冷却速度で良い。尚、熔解鋳造後の白金又は白金合金からなる鋳塊については、寸法調整や端部に存在するおそれのある不均質部分の除去を目的として切断、切削を行っても良い。また、ここで製造される鋳塊の形状に制限はなく、直方体形状、立方体形状、円柱形状いずれでも良い。
【0046】
(ii)鍛造加工工程
鍛造加工は、白金又は白金合金からなる鋳塊を圧縮・打撃することで、後述の圧延加工工程での加工を施しやすい形状・寸法のインゴットに加工する工程である。そして、鍛造加工工程には、鋳塊の鋳造組織を破壊するという重要な目的もある。鍛造加工工程は、基本的には従来技術における加工方法が適用される。鍛造加工における加工温度は、鋳塊の成形加工・鍛錬のための変形を可能となるような温度を適用すればよい。本発明においては、後述の均質化熱処理工程があることから、鍛造加工工程で材料組織を変容させるための温度条件は不要である。鍛造加工工程における加工温度は、800℃~1300℃と設定できる。また、この工程における鍛造加工は少なくとも1回行われ、必要に応じて間欠的に複数回行うことができる。
【0047】
尚、本発明では、鍛造加工工程の目的として、鋳塊の鋳造組織の破壊を重視している。特に、鋳塊の中心部の鋳造組織の破壊を重視している。この目的のため、本発明の鍛造加工工程では、鋳塊を十分に鍛造しつつ成形を行うことが好ましい。具体的な指標としては、鋳塊の最大寸法を示す方向の寸法が、50%以下の寸法となるまで鍛造することが好ましい。例えば、直方体の鋳塊を鍛造加工する場合、鋳塊の最大辺が50%以下となるまで鍛造することが好ましい。この加工寸法の指標は、鍛造加工工程の終了段階(次工程である均質化熱処理を行う段階)において適用される。鍛造加工工程が1回の鍛造加工で完了させる場合には、当該加工の終了段階における寸法で判定される。複数回の鍛造加工を行う場合には、最終の鍛造加工の終了段階における寸法で判定される。尚、この鍛造加工による鋳塊の最大辺の下限値としては、30%以上とするのが好ましい。鍛造加工では、できるだけ加工を行って鋳造組織を破壊すべきである。但し、鍛造加工で鋳塊の温度が低くなりすぎることも好ましくないので、鋳塊の最大辺の下限値は40%以上としても良い。鋳塊の最大辺が40%以上50%以下となるまで鍛造加工すれば、鍛造加工の目的である鋳造組織の破壊は可能である。また、以上説明した鍛造加工工程によって得られた白金又は白金合金からなるインゴットは、必要に応じて切削、面削加工しても良い。
【0048】
(iii)均質化熱処理工程
上述のとおり、本発明においては、鍛造加工工程後のインゴットについて、その後の圧延加工工程の前に熱処理を行うことを特徴とする。従来の白金系スパッタリングターゲットの製造工程では、圧延加工の前に後述する高温での熱処理を行うことはない。これは、白金が他の貴金属等に対して比較的軟らかく加工性が良いことから、圧延加工に際してはさほど高温とする必要がないからである。但し、従来の製造工程における温度管理では、インゴットに鋳造組織が残存したままであり、この状態で圧延と再結晶熱処理を行っても厚さ方向において十分な再結晶は生じず、平均結晶粒径の分布を厳密に調整することはできない。
【0049】
本発明の製造方法では、再結晶熱処理による効果がターゲット全体に及ぶよう、圧延加工工程前のインゴットを高温で熱処置して、一旦、鋳造組織や歪のない均質化された材料にする。これにより、その後の圧延加工工程で導入された転位等の格子欠陥に基づく再結晶を均質に生じさせて、厚さ方向の平均粒径の分布を好適にすることができる。
【0050】
均質化熱処理は、インゴットを850℃以上900℃以下の温度で加熱するものである。850℃未満では、上記した均質化された材料が得難くなる。また、950℃を超えると材料中の歪は十分に解放されるが、結晶粒が粗大化するため最終的な製品特性に影響があると考えられる。また、均質化熱処理の加熱時間は、60分以上120分以下とすることが好ましい。処理時間については、処理温度やインゴットの板厚等によって制御されるが、均質化を完全にするためには少なくとも60分以上の加熱が必要である。一方、過度に長時間の熱処理を行っても、均質化の効果に差異は生じないので、製造効率を考慮して120分以下とする。
【0051】
(iv)圧延加工工程
圧延加工工程は、鍛造後の白金又は白金合金からなるインゴットを、製品となる最終寸法を得るのに必要となる寸法・形状の白金板材に加工するための加工工程である。そして、これに加えて、均質化されたインゴットに対して、結晶粒微細化のための再結晶の駆動力となる転移等の格子欠陥を導入するための工程である。よって圧延加工工程も重要な工程ではあるが、圧延加工工程自体は従来の白金系スパッタリングターゲットで行われる加工と同様の条件が適用できる。圧延加工工程は冷間圧延によるものが通常であり、被圧延材の温度は、20℃~200℃で加工される。圧延加工工程は少なくとも1回行われ、必要に応じて繰り返し行うことができる。圧延方向については、一方向圧延によっても良いが、クロス圧延を適用することが好ましい。圧延加工工程では、巾出し圧延、中間圧延、仕上げ圧延、平坦化圧延等のそれぞれの目的に応じた各種の圧延がなされる。これらの圧延加工工程では、それぞれの圧延加工にとって適切な圧延方向・加工率が設定される。そして、鍛造加工工程後のインゴットに対する圧延加工工程の加工率は、90%以上95%以下とするのが好ましい。例えば、最後の圧延加工後の板厚が、鍛造加工工程後のインゴットの厚さに対して10%以下5%以上とするのが好ましい。このように90%以上の加工率を設定するのは、加工歪を多数導入することで、その後の再結晶による結晶粒微細化を促進するためである。
【0052】
(v)再結晶熱処理工程
上記圧延加工工程により格子欠陥が導入された圧延材を熱処理することで再結晶による結晶粒の微細化が生じる。特に本発明では、上述した均質加熱処理を行った後に圧延加工工程が行われており、材料全体で均一に格子欠陥が導入されている。そして、再結晶熱処理により厚さ方向で均質な結晶微細化が生じ、平均粒径のばらつきの少ない結晶粒が生成される。また、厚さ方向における結晶粒のアスペクト比も好適となる。
【0053】
再結晶熱処理工程の熱処理条件は、加熱温度を600℃以上700℃以下とする。600℃未満では十分な再結晶は生じ難い。一方、700℃を超える温度で熱処理すると結晶粒の粗大化が生じ、全体の平均結晶粒径が本発明の範囲を外れるおそれがある。また、判定領域における平均結晶粒径の変動係数も上昇するおそれがある。
【0054】
再結晶熱処理の加熱時間は、60分以上120分以下とするのが好ましい。本発明では、ターゲットの厚さ方向で十分な再結晶を発現させることが必要である。特に、板厚中央付近まで再結晶を生じさせて平均結晶粒径の適正化やアスペクト比の最適化を図るためには、十分な加熱が必要である。そのため、処理時間の下限値を60分とした。一方、120分を超えて熱処理しても効果は薄く、部分的な粗大化が生じるおそれもある。
【0055】
(vi)任意的な加工工程
以上の再結晶熱処理工程により本発明で規定する材料組織を有する白金系スパッタリングターゲットを製造することができる。但し、後加工工程として平坦化加工、面削加工、切断等を行っても良い。
【発明の効果】
【0056】
以上のとおり本発明に係る白金系スパッタリングターゲットは、厚さ方向断面における結晶粒の平均粒径について、従来以上に厳密な規定を設けたことで経時的な面内均一性を有するものとなる。本発明によれば、使用初期の面内均一性を維持することができ、長時間に亘って安定して一定の膜厚の白金薄膜又は白金合金薄膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本実施形態の製造工程における、均質化熱処理前(鍛造加工工程後)及び均質化熱処理後の白金インゴットの結晶組織を示す写真。
図2】各実施例・比較例におけるサンプルの採取位置を説明する図。
図3】実施例1の白金スパッタリングターゲットの材料組織(EBSD)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、白金系スパッタリングターゲットとして、純白金からなる白金スパッタリングターゲットを製造した。上記の製造工程を参照して、各種条件で白金スパッタリングターゲットを製造し、厚さ方向断面の材料組織観察と結晶粒の平均粒径、変動係数を測定した。更に、スパッタリング装置で白金薄膜を製造し、薄膜の面内均一性を評価した。
【0059】
実施例1
[熔解鋳造工程・鍛造加工工程]
純度99.99%の白金を高周波プラズマ溶解炉で熔解し、銅製の鋳型に鋳込み白金鋳塊(寸法:30mm(厚さ)×75mm(巾)×205mm(長さ))を製造し、端部を切断して30mm(厚さ)×75mm(巾)×173mm(長さ))の白金鋳塊を得た。この白金鋳塊を1300℃に30分間加熱した後、60mm(厚さ)×78mm(巾)×82mm(長さ)となるように複数回連続して鍛造した。以上の鍛造加工工程により、白金鋳塊の最も長い辺(173mm)を47%(82mm)となるまで加工したこととなる。その後、表面を面削加工して、55mm(厚さ)×78mm(巾)×82mm(長さ)に成型し白金インゴットを製造した。
【0060】
[均質化熱処理工程]
そして、鍛造加工工程後の白金インゴットを均質加熱処理した。均質加熱処理工程は、大気中にて電気炉で白金インゴットを900℃で60分間加熱した。加熱後、炉冷して圧延加工工程に供するための白金インゴットとした。ここで、均質化熱処理による材料組織の変化を説明するため、均質化熱処理前後の白金インゴットの材料組織写真を図1に示す。この材料組織観察は、各ターゲットの側面をエッチングした後に金属顕微鏡で観察して得たものである。図1からわかるように、均質化熱処理後の白金インゴットの材料組織は、鍛造加工工程後の材料組織から大きく変化する。均質化熱処理によって、白金インゴットの結晶組織は、均質化されることが確認できる。
【0061】
[圧延加工工程]
圧延加工工程では、白金インゴットを幅及び長さ方向で圧延し、製品となるターゲットを切り出せる寸法にまで圧延加工した。まず、巾出し圧延にて16.4mm(厚さ)×270mm(巾)×85mm(長さ)とした。その後、中間圧延にて6.77mm(厚さ)×273mm(巾)×197mm(長さ)とした後、仕上げ圧延で3.1mm(厚さ)×273mm(巾)×427mm(長さ)とした。各圧延加工では、被加工材を20℃にした後に加工を行った。尚、この圧延加工工程により、厚さ55mmの白金インゴットから厚さ3.1mmの圧延材が製造されたので、圧延加工工程における加工率は約94%となる。圧延加工工程後の白金板材は、ローラーで平坦化した後、切断して再結晶熱処理工程のための圧延材とした。
【0062】
[再結晶熱処理工程]
再結晶熱処理工程では、上記圧延加工工程後に切断された白金の圧延材を650℃で60分間加熱した。その後、再度ローラーで平坦化した。その後、白金スパッタリングターゲットを製造した。
【0063】
実施例2
この実施例では、熔解鋳造工程の鋳型を大きくして実施例1よりも大きい白金鋳塊を製造しつつ、実施例1と同じ寸法になるまで鍛造加工して白金インゴットを製造した。つまり、この実施例2では、実施例1よりも更に十分な鍛造加工を行って白金スパッタリングターゲットを製造した。この実施例の鍛造加工工程では、白金鋳塊の最も長い辺が30%になるまで加工した。そして、鍛造加工工程後の均質化熱処理、圧延加工処理、再結晶熱処理は実施例1と同様とした。
【0064】
実施例3
この実施例では、鍛造加工工程において間欠的に2段階の鍛造を行っている。実施例1と同じ白金鋳塊を製造し、白金鋳塊を1300℃に30分間加熱し、37mm(厚さ)×78mm(巾)×82mm(長さ)となるまで鍛造した後に一旦加工を中断した。その後、鋳塊を再度1300℃に30分間加熱し、60mm(厚さ)×78mm(巾)×82mm(長さ)となるまで鍛造した。その後の均質化熱処理、圧延加工処理、再結晶熱処理は実施例1と同様とした。
【0065】
比較例1:上記実施例に対する比較例として、鍛造加工工程後の均質化熱処理を行わず、圧延加工工程及び再結晶熱処理を行ってターゲットを製造した。均質化熱処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様である。
【0066】
比較例2:実施例1に対して、再結晶熱処理工程の加熱温度を高温とした。実施例1と同様にして白金インゴットを製造して均質化熱処理を行い、圧延加工を行った後、900℃で60分間加熱して再結晶熱処理を行い、白金スパッタリングターゲットを製造した。
【0067】
比較例3:この比較例では、再結晶熱処理工程を行わずに白金スパッタリングターゲットのサンプルを製造した。実施例1と同様にして熔解鋳造工程、鍛造加工工程、均質化熱処理工程、及び圧延加工工程を経た白金板材を熱処理することなく白金スパッタリングターゲットを製造した。
【0068】
以上の実施例1~3及び比較例1~3の白金スパッタリングターゲットの製造条件について纏めたものを表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
本実施形態では、まず、各実施例・比較例の白金スパッタリングターゲットについて、厚さ方向断面の材料組織を観察しつつ、厚さ方向断面の平均結晶粒径を測定した。この検討では、図2のとおり、切断後の白金板材を再結晶熱処理し白金スパッタリングターゲットを切り出す際、ターゲット近傍から2つのサンプルを切り出して評価した。各サンプルは、ターゲットの長さ方向の中心付近の部分及び側面付近の部分から2つ(No.1とNo.3)を切り出した。各サンプルにおいて、圧延断面(RD)と圧延垂直断面(TD)を設定してサンプル毎にそれぞれの面を測定できるように切断し樹脂埋めした(サンプルの寸法:5mm×10mm))。樹脂埋めしたサンプルについて、手動研磨と振動研磨を行った後にイオンミリングで前処理を行った。
【0071】
そして、各サンプルにおいてEBSDに圧延断面(RD)、圧延垂直断面(TD)の分析を行った。EBSDで得られた各面のプロファイルに基づき結晶粒の粒径等の測定を行った。このとき、EBSDの結果で隣接する結晶粒との角度差が6°以上である場合を粒界であると判定し、観察領域内について全ての結晶粒を判別した。そして、判別した結晶粒を楕円フィットさせることで、観察領域内の各結晶粒の粒径やアスペクト比を計測した。以上の解析には、画像処理ソフトウエア(オックスフォード・インストゥルンメンツ製 HKL CHANNEL5)を使用した。
【0072】
各サンプルの厚さ方向断面(圧延断面(RD)、圧延垂直断面(TD))に対する判定領域の設定は、各断面を10等分に区分し、両端を除いた8区分を判定領域と設定した。そして、各区分の平均粒径及び判定領域全体の平均粒径を測定した。更に、各区分の平均粒径の標準偏差を算出して判定領域における変動係数を算出した。
【0073】
尚、各実施例、比較例の白金ターゲットについては、表面の結晶粒径の測定も行っている。更に、各白金ターゲットの厚さ方向断面における硬度測定も行っている。硬度測定は、ビッカース硬度計(加重:0.1kgf)で測定し、複数の測定点の平均値を求めた。
【0074】
以上の各サンプルの厚さ方向断面の判定領域における全体の平均粒径、変動係数、アスペクト比3及び5以上の結晶粒の割合の測定結果を表2に示す。また、EBSDにより解析されたターゲットの厚さ方向断面の材料組織の例示として、実施例1のサンプルNo.1の圧延断面の材料組織を図3に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2より、各実施例のターゲットにおいては、厚さ方向断面の判定領域における全体の平均粒径が150μm以下である。そして、判定領域における平均粒径の変動係数は15%以下となっている。これは圧延断面(RD)、圧延垂直断面(TD)の何れでも基準をクリアしている。そして、2つのサンプル(No.1、No.3)で同様である。また、この結果は、熔解鋳造工程による白金鋳塊の寸法や鍛造加工工程における鍛造加工の回数に依らないことが確認される。
【0077】
一方、比較例1の均質化熱処理行わずに製造されたターゲットにおいては、No.3のサンプルにおいて平均粒径の変動係数は15%を超えていた。比較例1と実施例1との製造工程における相違点は、均質化熱処理の有無にあることから、均質化熱処理によって厚さ方向の結晶粒の均一性が向上することが確認された。また、比較例2の再結晶熱処理の温度を高温にしたとき、厚さ方向で全体的に平均粒径が粗大化している。そして、変動係数も圧延断面又は圧延垂直断面のいずれかで規定外となっていた。尚、比較例3に関しては、EBSDによる分析・解析の際に結晶粒界を認識することができなかった。比較例3は、最終の再結晶熱処理を行わなかったための圧延組織で構成されているためと考えられる。
【0078】
尚、各白金スパッタリングターゲットの厚さ方向断面における結晶粒のアスペクト比に関する測定結果をみると、比較例1、2でも良好な数値であった。むしろ、実施例1~3の方が、アスペクト比3以上の結晶粒の割合が高くなっているようである。このことから、本発明の均質化熱処理を特徴とする製造工程によって製造される白金スパッタリングターゲットでは、アスペクト比が高い結晶粒が形成される傾向があると考察される。その要因については定かではない。そのため、本発明における厚さ方向断面の平均粒径に関する規定(判定領域における変動係数15%以下)をクリアする場合においては、アスペクト比に対する配慮を行うことが好ましいことがあると推定される。もっとも、後述する成膜試験の結果を考慮すると、本願の各実施例のように、アスペクト比3以上の結晶粒の割合を20%以下(更に好ましくは18%以下)とし、アスペクト比5以上の結晶粒の割合を3%以下(更に好ましくは1%以下)とすることで、膜厚の面内均一性は確保できるといえる。
【0079】
次に、実施例1~3及び比較例2、3の白金スパッタリングターゲットによる成膜特性、特に経時的な面内均一性に関する評価を行った。この評価試験は、各ターゲット及び基板(12インチのシリコンウエハー)をマグネトロン型スパッタリング装置にセットし、装置内を真空排気した後、不活性ガスを投入した。スパッタリングはスパッタレートの大小に応じて2条件(条件1(小スパッタ電力)、条件2(大スパッタ電力)で行った。
【0080】
成膜によるターゲットの摩耗深さは、スパッタレートをモニターしつつ推定する。ターゲットの使用初期(摩耗深さ約0.2mm)、使用中期(摩耗深さ約0.8mm)、使用後期(摩耗深さ約1.5mm)の各段階で成膜を行った。そして、各段階で成膜されたウエハの白金薄膜に対して、ウエハ上の30~50点程度を均等にサンプリングして、各点の膜厚とシート抵抗値を測定した。膜厚測定は蛍光X線分析法で行った。シート抵抗の測定は4端子測定法で行った。これらの値から平均値と標準偏差を算出し、ばらつきの指標として標準偏差を平均値で除した値を用いた。この評価結果を表3に示す。尚、本実施形態の評価においては、膜厚及びシート抵抗の双方のばらつきが3.0%以下である場合を合格と判定し、この基準に対して明らかに改善が見られない場合は、成膜試験を中断している。
【0081】
【表3】
【0082】
表3から、実施例1~実施例3の白金スパッタリングターゲットでは、使用初期から使用後期に亘って安定して面内均一性が良好な成膜が可能であることが分かる。
【0083】
これに対して、厚さ断面において平均粒径の変動係数が規定外となる各比較例では、使用初期から膜厚の面内均一性が劣っており、使用中期となっても変わらなかった。具体的に検討するに、圧延加工工程後の再結晶熱処理工程を経ることなく製造された比較例3のターゲットは、結晶粒界を認識できる状態になく、面内均一性が最も劣るものであった。また、再結晶熱処理工程の加熱温度を高温とした比較例2のターゲットは、結晶粒の平均粒径が大きく、面内均一性の基準をクリアできなかった。更に、均質化熱処理を経ることなく製造された比較例1のターゲットは、比較例2、3よりは面内均一性は良好であるが、使用後期において大きく低下しているため、面内均一性の経時的変化を抑制できるものではなかった。
【0084】
以上の成膜評価から、成膜工程における面内均一性を良好とする上でターゲットの厚さ断面における材料組織の制御が重要であることが確認された。そして、そのためには白金系スパッタリングターゲットの製造工程において、均質化熱処理の適用と共に、再結晶熱処理工程における適切な温度設定が必要であることが確認できた。
【0085】
尚、上記の白金スパッタリングターゲットに加えて、白金に添加元素として、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、コバルト、マンガン、ニッケル、タングステンのいずれかの元素を1原子%以上30原子%以下の組成範囲で添加した白金合金からなるスパッタリングターゲットも有用である。これらの白金合金の添加元素濃度は、固溶限の組成範囲にあるため合金化は比較的容易である。また、これらの添加元素のいずれかを1原子%以上30原子%以下の組成範囲で添加しても、白金合金は白金ターゲットと加工性が類似しているので、本発明に係る製造方法が適用可能である。上記の通り、本発明に係る製造方法は、スパッタリングターゲットに対して良好な面内均一性及び面内均一性の経時的変化の抑制についての有効性を付与するものである。この製造方法による白金合金スパッタリングターゲットも面内均一性及びその経時的変化の抑制に有効性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る白金系スパッタリングターゲットによれば、成膜工程において安定して良好な面内均一性を有する白金薄膜又は白金合金薄膜を製造できる。これは、厚さ方向断面における結晶粒の平均粒径に対して厳密な規定を設けたことによる。本発明は、高品質の白金薄膜又は白金合金薄膜が要求される半導体素子の薄膜電極や磁気記録媒体の記録膜等に有用である。
図1
図2
図3