(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079090
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】根粒菌の共生促進剤及び共生促進方法
(51)【国際特許分類】
A01N 37/38 20060101AFI20220519BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220519BHJP
A01N 63/20 20200101ALI20220519BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20220519BHJP
A01H 3/04 20060101ALN20220519BHJP
【FI】
A01N37/38
A01P21/00
A01N63/20
A01G7/06 A
A01H3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190053
(22)【出願日】2020-11-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】阿部 円佳
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 泰代
(72)【発明者】
【氏名】武田 直也
(72)【発明者】
【氏名】赤松 明
(72)【発明者】
【氏名】永野 惇
【テーマコード(参考)】
2B022
2B030
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA01
2B030AD07
2B030AD08
2B030CG05
4H011AB03
4H011BB06
4H011BB21
(57)【要約】
【課題】根粒形成を促進する。
【解決手段】ケイ皮酸又はヒドロキシケイ皮酸を有効成分として含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式にて示されるケイ皮酸類化合物を含有する共生促進剤。
(上記式においてR1、R2及びR3は、同一であっても、異なっていてもよく:上記式においてR1、R2及びR3は、独立して、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである(Xは、炭素数1~5のアルキル基)。)
【請求項2】
上記ケイ皮酸類化合物は、上記式においてR1、R2及びR3のうち少なくとも1つが水酸基であるヒドロキシケイ皮酸類化合物であることを特徴とする請求項1記載の共生促進剤。
【請求項3】
上記ケイ皮酸類化合物は、ケイ皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の共生促進剤。
【請求項4】
下記式にて示されるケイ皮酸類化合物を植物の根に作用させる共生促進方法。
(上記式においてR1、R2及びR3は、同一であっても、異なっていてもよく:上記式においてR1、R2及びR3は、独立して、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである(Xは、炭素数1~5のアルキル基)。)
【請求項5】
上記ケイ皮酸類化合物は、上記式においてR1、R2及びR3のうち少なくとも1つが水酸基であるヒドロキシケイ皮酸類化合物であることを特徴とする請求項4記載の共生促進方法。
【請求項6】
上記ケイ皮酸類化合物は、ケイ皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項4記載の共生促進方法。
【請求項7】
下記式にて示されるケイ皮酸類化合物を植物の根に作用させる、植物の製造方法。
(上記式においてR1、R2及びR3は、同一であっても、異なっていてもよく:上記式においてR1、R2及びR3は、独立して、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである(Xは、炭素数1~5のアルキル基)。)
【請求項8】
上記ケイ皮酸類化合物は、上記式においてR1、R2及びR3のうち少なくとも1つが水酸基であるヒドロキシケイ皮酸類化合物であることを特徴とする請求項7記載の植物の製造方法。
【請求項9】
上記ケイ皮酸類化合物は、ケイ皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項7記載の植物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の根に共生する根粒菌による植物への共生を促進する共生促進剤及び共生促進方法、並びに植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マメ科植物の多くは、根に粒状の根粒を形成し、そのなかに根粒菌(細菌)が共生することで空気中の窒素を固定して養分としている。なお、根粒菌が共生する植物はマメ科植物以外にも、ハンノキ、アキグミ、ナツグミ、ヤマモモ、ヤチヤナギ、ドクウツギ等の植物が知られている。すなわち、土壌細菌の一種である根粒菌は、植物の根に侵入して根粒を形成し、植物から炭水化物を得る一方、空気中の窒素を固定することにより窒素化合物を植物に与える。したがって、根粒菌が共生する植物に対しては、根粒菌の共生を促進する、すなわち根粒の形成を促進することで、当該植物の成長を促進することができる。
【0003】
特許文献1には、イノシン、グアノシン、ウリジン、イノシン酸、グアニル酸、ウリジル酸、ヒポキサンチン、グアニン及びウラシルといった核酸塩基が植物の根粒の形成を促進することが開示されている。特許文献1は、これら核酸塩基を土壌又は植物に施用することで、マメ科植物の根粒形成を促進し、マメ科植物の生育が向上し、窒素肥料の使用量を低減できると開示している。
【0004】
また、非特許文献1には、チアミン生合成遺伝子であるTHI1遺伝子及びTHIC遺伝子の発現が根粒菌の接種によって増強されたこと、thi1変異体では根粒が小さくなってしまったことが示されており、チアミン生合成遺伝子によるチアミン生合成が根粒形成を促進することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Plant Physiology, November 2016, Vol. 172, pp. 2033-2043
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に開示された核酸塩基や非特許文献1に開示されたチアミンが根粒形成を促進するとしても、根粒形成過程のメカニズムは不明であり、如何なる物質が根粒形成を促進するか全く不明であった。
【0008】
そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、根粒形成を促進することができる共生促進剤及び共生促進方法並びに植物の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、ヒドロキシケイ皮酸類が根粒形成を促進することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下を包含する。
(1)下記式にて示されるケイ皮酸類化合物を含有する共生促進剤。
(上記式においてR1、R2及びR3は、同一であっても、異なっていてもよく:上記式においてR1、R2及びR3は、独立して、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである(Xは、炭素数1~5のアルキル基)。)
(2)上記ケイ皮酸類化合物は、上記式においてR1、R2及びR3のうち少なくとも1つが水酸基であるヒドロキシケイ皮酸類化合物であることを特徴とする(1)記載の共生促進剤。
(3)上記ケイ皮酸類化合物は、ケイ皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(1)記載の共生促進剤。
(4)下記式にて示されるケイ皮酸類化合物を植物の根に作用させる共生促進方法。
(上記式においてR1、R2及びR3は、同一であっても、異なっていてもよく:上記式においてR1、R2及びR3は、独立して、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである(Xは、炭素数1~5のアルキル基)。)
(5)上記ケイ皮酸類化合物は、上記式においてR1、R2及びR3のうち少なくとも1つが水酸基であるヒドロキシケイ皮酸類化合物であることを特徴とする(4)記載の共生促進方法。
(6)上記ケイ皮酸類化合物は、ケイ皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(4)記載の共生促進方法。
(7)下記式にて示されるケイ皮酸類化合物を植物の根に作用させる、植物の製造方法。
(上記式においてR1、R2及びR3は、同一であっても、異なっていてもよく:上記式においてR1、R2及びR3は、独立して、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである(Xは、炭素数1~5のアルキル基)。)
(8)上記ケイ皮酸類化合物は、上記式においてR1、R2及びR3のうち少なくとも1つが水酸基であるヒドロキシケイ皮酸類化合物であることを特徴とする(7)記載の植物の製造方法。
(9)上記ケイ皮酸類化合物は、ケイ皮酸、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(7)記載の植物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る共生促進剤及び共生促進方法は、根粒菌の根粒形成を促進することができる。また、本発明に係る植物の栽培方法は、ケイ皮酸類化合物により根粒形成を促進するため、植物生育促進効果が十分に発揮され、生育促進した植物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コーヒー酸による根粒形成促進効果(根粒数、感染糸数)を測定した結果を示す特性図である。
【
図2】フェルラ酸による根粒形成促進効果(根粒数、感染糸数)を測定した結果を示す特性図である。
【
図3】シナピン酸による根粒形成促進効果(根粒数、感染糸数)を測定した結果を示す特性図である。
【
図4】ダイズに対してフェルラ酸(添加後1週間生育)によるバイオマス増産効果(地上部長、地下部長、葉数)根粒形成促進効果(根粒数)を測定した結果を示す特性図である。
【
図5】ダイズに対してフェルラ酸(添加後2週間生育)によるバイオマス増産効果(地上部長、地下部長、葉数)根粒形成促進効果(根粒数)を測定した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
<共生促進剤>
本発明に係る共生促進剤(以下、単に「共生促進剤」と称す)は、下記式にて示されるケイ皮酸類化合物を有効成分として含有する。
(上記式において、R1、R2及びR3は、同一であっても、異なっていてもよく、上記式において、R1、R2及びR3は、独立して、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである(Xは、炭素数1~5のアルキル基)。)
【0015】
上記式で示されるケイ皮酸類化合物は、R1、R2及びR3の全てが水素原子(H)であるケイ皮酸と、R1、R2及びR3のうち少なくとも1つが水酸基(OH)であるヒドロキシケイ皮酸類とを包含する。ここで、ヒドロキシケイ皮酸は、C6-C3骨格を有するポリフェノールである。上記式で示されるヒドロキシケイ皮酸は、芳香環に対して、2つの炭素原子を介して1つのカルボキシ基が結合している基本構造を有している。
【0016】
上記式で示されるヒドロキシケイ皮酸は、芳香環に結合しているカルボキシ基を基準として、メタ位とパラ位に3つの置換基R1、R2、R3を有している。ヒドロキシケイ皮酸が有している3つの置換基R1、R2、R3のうち、少なくとも1つは、水酸基(OH基、フェノール性水酸基)である。ヒドロキシケイ皮酸が有している3つの置換基R1、R2、R3は、それぞれ独立に、同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
上記式において3つの置換基R1、R2及びR3は、水酸基(OH基)、水素原子(H)、アルコキシ基(OX)、プレニル基のいずれかである。上記式において、アルコキシ基(OX)中、Xは、炭素数1~5のアルキル基を示す。炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル、3-ペンチル、tert-ペンチル等を挙げることができる。
【0018】
上記式において置換基R2は、フェノール性水酸基(OH基)であることが好ましい。ヒドロキシケイ皮酸が有している置換基R2がフェノール性水酸基(OH基)であると、このフェノール性水酸基(OH基)が1つの芳香環に2つの炭素原子を介して結合しているカルボキシ基と共役系となり、電子的に安定となる。
【0019】
ここで、上記式で示されるヒドロキシケイ皮酸類は、ヒドロキシケイ皮酸塩を包含する意味である。ヒドロキシケイ皮酸塩としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α-ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。有機アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。有機アミン付加塩としては、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペリジン塩等が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、グリシン塩、フェニルアラニン塩、リジン塩、アスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩が挙げられる。
【0020】
より具体的に、上記式で示されるヒドロキシケイ皮酸類は、例えば、ケイ皮酸、フェルラ酸、シナピン酸、p-クマル酸、コーヒー酸、イソフェルラ酸及びアルテピリンCを挙げることができる。特に、上記式で示されるヒドロキシケイ皮酸としては、p-クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。さらに、上記式で示されるヒドロキシケイ皮酸としては、フェルラ酸、シナピン酸及びコーヒー酸からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0021】
共生促進剤の有効成分として使用するヒドロキシケイ皮酸は、上記式で示されるヒドロキシケイ皮酸類の一種類とすることができるが、複数種類のヒドロキシケイ皮酸を有効成分としても良い。具体的に、共生促進剤に含まれるヒドロキシケイ皮酸は、フェルラ酸とシナピン酸とを混合した酸、フェルラ酸とコーヒー酸とを混合した酸、シナピン酸とコーヒー酸とを混合した酸、フェルラ酸とシナピン酸とコーヒー酸とを混合した酸であってもよい。これらの混合した酸において、それぞれのヒドロキシケイ皮酸の組成比は、適宜調整することができる。
【0022】
ここで、フェルラ酸(3-メトキシ-4-ヒドロキシケイ皮酸)は、以下の構造式を有し、上記式におけるR1がメトキシ基(OCH
3)であり、R2がフェノール性水酸基(OH基)であり、R3が水素原子(H)である。
【0023】
また、シナピン酸は、下記の構造式を有し、上記式におけるR1がメトキシ基(OCH
3)であり、R2がフェノール性水酸基(OH基)であり、R3がメトキシ基(OCH
3)である。
【0024】
さらに、コーヒー酸は、下記の構造式を有し、上記式におけるR1がフェノール性水酸基(OH基)であり、R2がフェノール性水酸基(OH基)であり、R3が水素原子(H)である。
【0025】
なお、p-クマル酸は、具体的な構造式は示さないが、上記式におけるR1が水素原子(H基)であり、R2がフェノール性水酸基(OH基)であり、R3が水素原子(H)である。
【0026】
共生促進剤において、上述したケイ皮酸及びヒドロキシケイ皮酸を含むケイ皮酸類化合物の濃度に関しては、特に限定さないが、例えば1μM~1mMとすることができ、10μM~500μMとすることが好ましく、10μM~300μMとすることが好ましく、10μM~100μMとすることが好ましい。
【0027】
<根粒菌>
根粒を形成する根粒菌としては、植物と共生して根粒を形成することができ、本発明の根粒形成促進剤により根粒の形成が促進されるものであれば制限されない。根粒菌としては、例えば、リゾビウム(Rhizobium)、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)、シノリゾビム(Sinorhizobium)、メゾリゾビウム(Mesorhizobium)属等に属する細菌が挙げられる。より具体的には、Rhizobium leguminosarum、Rhizobium tropici、Sinorhizobium meliloti、Sinorhizobium fredii、Bradyrhizobium japonicum、Bradyrhizobium elkani、Mesorhizobium loti、Mesorhizobium huakuii等が挙げられる。
【0028】
<植物の栽培方法>
上述した共生促進剤を使用することで、栽培対象の植物に対して根粒菌による根粒形成を促進することができ、その結果、当該植物のバイオマスを増産することができる。ここで、「共生促進剤を使用する」とは、上述した共生促進剤を土壌に供給し、当該土壌に含まれる根粒菌に対して共生促進剤を作用させる形態、上述した共生促進剤とともに根粒菌を土壌に供給する形態を含む意味である。
【0029】
これら如何なる形態であっても、上述した共生促進剤が植物の根に作用し、根粒の形成が促進されることとなる。これにより、栽培対象の植物のバイオマスを増産することができる。栽培対象の植物としては、根粒菌が共生できる植物であれば何ら限定されない。このような植物は、単子葉植物でも双子葉植物でもよく、食用でも非食用でもよい。このような植物の具体例としては、マメ科植物が挙げられる。マメ科植物としては、大豆、小豆、ソラマメ、エンドウ、落花生、ササゲ、ルーピン、クローバー、アルファルファ等が挙げられる。
【0030】
共生促進剤を土壌に供給する方法としては、特に限定されないが、例えば、土への散布、混ぜ込み、埋め込み、薬液注入、薬液潅水などの方法により行うことができる。土に供給する際には、植物を栽培する土の一部に行ってもよく、全面に行ってもよい。共生促進剤又は微生物資材を施用する場所の具体例としては、例えば、植穴又はその付近、作条又はその付近、株間、培土全面、土壌全面、育苗箱、育苗トレイ、育苗ポット、苗床などが挙げられる。
【0031】
共生促進剤は、播種又は植物の植え付け前に予め土に施用しておいてもよく、播種又は植物の植え付け後の土に施用してもよい。施用時期は、例えば、播種前、播種時、播種後から出芽前までの期間、出芽期、育種期、苗の移植時、挿し木又は挿し芽時、定植後の生育期間(開花前、開花中、開花後、出穂直前又は出穂期など)、果実の着色開始期などが挙げられる。その際、土に対して1回のみ施用してもよく、複数回施用してもよい。施用量をできるだけ少なくしつつ、植物の生育促進効果を十分に得る観点から、植物の初期の生育段階(具体的には、出芽から開花又は出穂の前までの期間)又はそれよりも以前に施用することが好ましく、育苗段階又はそれよりも以前に施用することがより好ましい。
【実施例0032】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕
本実施例では、コーヒー酸による根粒形成促進効果を検証した。
まず、コーヒー酸(Caffeic Acid、CAS RN:331-39-5 C0002,東京化成工業株式会社)をエタノールで溶解し、100mMのストック液を作製した。次に、ポットにバーミキュライト約300mlを加え、全体を水で湿らせた後、オートクレーブで滅菌した。播種後3~4日目のミヤコグサ(Lotus japonicus)をポットに移植し、DsRED遺伝子を持つ根粒菌(OD600=0.1ml、1ml)とコーヒー酸(終濃度10μM又は100μM)を加えたB&D液体培地(Broughton and Dilworth, 1971)50mlを添加した。
【0034】
根粒菌を接種した植物体は、インキュベーター(26℃、16hr light/8hr dark)内で生育させた。1週間及び2週間後、植物体を土から掘り起こし、蛍光実体顕微鏡下で感染糸数、根粒数を計測した。
【0035】
測定結果を
図1に示した。
図1においてグラフ中のエラーバーは標準誤差を表し、アスタリスク(*)は非添加(コントロール)と比較して有意差(Dunnett法、p<0.05、n=10)をもつデータを示している。
図1に示すようにコーヒー酸の添加により、1週間後から感染糸の有意な増加が見られ、2週間後には根粒数が増加する傾向が観察できた。
【0036】
本実施例の結果より、ケイ皮酸類化合物であるコーヒー酸には、根粒菌に根粒形成促進効果があることが判った。そして、コーヒー酸を根粒形成促進剤として利用することで、根粒を形成する植物のバイオマス増産効果を期待することができる。
【0037】
〔実施例2〕
本実施例では、フェルラ酸による根粒形成促進効果を検証した。本実施例では、コーヒー酸に代えてフェルラ酸(trans-Ferulic Acid、CAS RN:537-98-4 H0267,東京化成工業株式会社)を使用した以外は実施例1と同様にして感染糸数、根粒数を計測した。測定結果を
図2に示した。
図2に示すようにフェルラ酸の添加により、2週間後から感染糸及び根粒数の有意な増加が見られた。
【0038】
本実施例の結果より、ケイ皮酸類化合物であるフェルラ酸には、根粒菌に根粒形成促進効果があることが判った。そして、フェルラ酸を根粒形成促進剤として利用することで、根粒を形成する植物のバイオマス増産効果を期待することができる。
【0039】
〔実施例3〕
本実施例では、シナピン酸による根粒形成促進効果を検証した。本実施例では、コーヒー酸に代えてシナピン酸(3,5-Dimethoxy-4-hydroxycinnamic Acid [Matrix for MALDI-TOF/MS]、CAS RN:530-59-6 D2932,東京化成工業株式会社)を使用した以外は実施例1と同様にして感染糸数、根粒数を計測した。測定結果を
図3に示した。
図3に示すようにシナピン酸の添加により、1週間後から根粒数の有意な増加が見られ、2週間後から感染糸数の有意な増加が見られた。
【0040】
本実施例の結果より、ケイ皮酸類化合物であるシナピン酸には、根粒菌に根粒形成促進効果があることが判った。そして、シナピン酸を根粒形成促進剤として利用することで、根粒を形成する植物のバイオマス増産効果を期待することができる。
【0041】
〔実施例4〕
本実施例では、フェルラ酸を用いてダイズに対するバイオマス増産効果を検証した。
本実施例では、先ず、ダイズ(Glycine max cv. Enrei)種子を湿らせたキムワイプ上で3~4日おいて発芽させ、その後バーミキュライト(1.1L程度)を入れたポットに移植し、3日ほど植物用インキュベーター(28℃、16hr light/8hr dark)で生育させた。次に、根粒菌(Bradyrhizobium japonicum, OD600=0.1、1ml)をB&D培地50ml中に加えたものを非添加区とし、根粒菌を含むB&D培地50mlにフェルラ酸(終濃度100μM)を加えたものを添加区として、ダイズの各個体に接種した。そして、インキュベーター内で1週間、2週間生育させたダイズをポットから掘り起こし、生育(地上部長、地下部長、葉数)と根粒数を計測した。
【0042】
1週間生育したダイズについて測定した結果を
図4に示し、2週間生育したダイズについて測定した結果を
図5に示した。
図4及び5におけるグラフ中のエラーバーは標準誤差を表し、アスタリスク(**)は非添加区(コントロール)と比較して有意差(Dunnett法、p<0.01、n=8)をもつデータを示している。
【0043】
図4に示したように、フェルラ酸を添加して1週間生育したダイズでは根粒数が有意に増加することが判った。また、
図5に示したように、フェルラ酸を添加して2週間生育したダイズでは、根粒数に加えて地上部の長さが有意に増大することが判った。この結果から、ケイ皮酸類化合物であるフェルラ酸には、ダイズに対しても根粒形成促進効果があり、且つ、バイオマス増産効果があることが判った。