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  • 特開-遷移金属化合物の電子状態の分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079435
(43)【公開日】2022-05-26
(54)【発明の名称】遷移金属化合物の電子状態の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2273 20180101AFI20220519BHJP
【FI】
G01N23/2273
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021184664
(22)【出願日】2021-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2020190372
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 奈織美
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 佳世
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA08
2G001CA03
2G001FA02
2G001FA08
2G001JA01
2G001KA13
2G001MA04
2G001RA01
2G001RA03
(57)【要約】
【課題】遷移金属化合物の電子状態の分析方法を提供すること。
【解決手段】試料について、X線光電子分光法により光電子スペクトルを測定するスペクトル測定工程を有し、
前記試料は遷移金属化合物であり、
前記スペクトル測定工程において、前記試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量が7.13×10Photons/(μm・sec)以上1.78×10Photons/(μm・sec)以下である遷移金属化合物の電子状態の分析方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料について、X線光電子分光法により光電子スペクトルを測定するスペクトル測定工程を有し、
前記試料は遷移金属化合物であり、
前記スペクトル測定工程において、前記試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量が7.13×10Photons/(μm・sec)以上1.78×10Photons/(μm・sec)以下である遷移金属化合物の電子状態の分析方法。
【請求項2】
前記試料の表面に貴金属の膜を成膜した補正用試料の光電子スペクトルを測定する補正用スペクトル測定工程と、
前記補正用スペクトル測定工程で得られた前記補正用試料の光電子スペクトルを用いて、前記スペクトル測定工程で得られた前記試料の光電子スペクトルを補正する補正工程とを有する請求項1に記載の遷移金属化合物の電子状態の分析方法。
【請求項3】
前記スペクトル測定工程において、前記光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップを0.025eV以上0.09eV以下とする請求項1または請求項2に記載の遷移金属化合物の電子状態の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属化合物の電子状態の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年様々な材料開発が進められているが、より適切な材料設計を行う観点から、材料の電子状態の分析が求められる場合がある。
【0003】
材料の電子状態を分析する方法として、例えば特許文献1等に開示されているように、X線光電子分光法が従来から用いられている。
【0004】
X線光電子分光法は、試料に対してX線を照射し、光電効果により放出される電子(光電子)の分光スペクトルを取得することで、試料の最表面の定性分析、半定量分析、化学状態分析を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-146416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
材料の電子状態を反映した光電子スペクトルを測定する際、S/N比を高め、微小なピークも正確に測定するためには、照射するX線強度を高くすることが考えられる。しかしながら、例えば試料が遷移金属化合物の場合、X線強度を高くすると、試料が変色等して状態が変化するため、正確に測定できない恐れがあった。
【0007】
そこで、本発明の一側面では、遷移金属化合物の電子状態の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面では、試料について、X線光電子分光法により光電子スペクトルを測定するスペクトル測定工程を有し、
前記試料は遷移金属化合物であり、
前記スペクトル測定工程において、前記試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量が7.13×10Photons/(μm・sec)以上1.78×10Photons/(μm・sec)以下である遷移金属化合物の電子状態の分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面では、遷移金属化合物の電子状態の分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1~実施例4で得られた光電子スペクトルである。
図2図2は、実施例1~実施例4で得られた光電子スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[遷移金属化合物の電子状態の分析方法]
本実施形態の遷移金属化合物の電子状態の分析方法は以下の工程を有することができる。
【0012】
試料についてX線光電子分光法により光電子スペクトルを測定するスペクトル測定工程。
【0013】
上記スペクトル測定工程において、試料は遷移金属化合物であり、試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量が7.13×10Photons/(μm・sec)以上1.78×10Photons/(μm・sec)以下にできる。
【0014】
以下、本実施形態の遷移金属化合物の電子状態の分析方法について、工程ごとに説明を行う。
(1)スペクトル測定工程
(測定試料について)
スペクトル測定工程では、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により、試料の光電子スペクトルを測定できる。
【0015】
試料としては、従来の分析方法では正確な光電子スペクトルを測定することが困難であった、遷移金属化合物であることが好ましく、遷移金属酸化物であることがより好ましい。なお、遷移金属化合物は、複数の遷移金属を含んでいてもよく、遷移金属以外の元素も合わせて含んでいても良い。
【0016】
測定に供する試料の調製方法は特に限定されず、通常のXPSの測定の際と同様の手順、方法で調製できる。
(測定条件について)
既述のように、光電子スペクトルを測定する際、S/N比を高め、微小なピークも正確に測定するためには、照射するX線強度を高くすることが考えられる。しかしながら、例えば試料が遷移金属化合物の場合、X線強度を高くすると、試料が変色等して状態が変化するため、正確に測定できない恐れがある。そこで、本実施形態の遷移金属化合物の電子状態の分析方法のスペクトル測定工程では、試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量を所定の範囲内とすることで、試料へのダメージを抑制しつつ、得られる光電子スペクトルのS/N比を高めることができる。
【0017】
スペクトル測定工程では、試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量を7.13×10Photons/(μm・sec)以上1.78×10Photons/(μm・sec)以下とすることが好ましく、1.11×10Photons/(μm・sec)以上7.93×10Photons/(μm・sec)以下とすることがより好ましい。
【0018】
スペクトル測定工程における試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量を7.13×10Photons/(μm・sec)以上とすることで、得られる光電子スペクトルのS/N比を高め、高精度で測定を行える。また、スペクトル測定工程における試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量を1.78×10Photons/(μm・sec)以下とすることで、X線の照射による試料のダメージを抑制し、分析途中での試料の変化を抑制できる。
【0019】
試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量は、X線出力すなわちX線源に印加する電力およびX線源から出射するX線の径(X線径)を調整することで、所望の値にできる。
【0020】
用いるX線源の特性等に応じてX線径は選択できるが、例えば100μmφ以上500μmφ以下であることが好ましく、150μmφ以上400μmφ以下であることがより好ましい。
【0021】
スペクトル測定工程で、試料上の測定する領域の形状やサイズは特に限定されないが、測定領域は、例えば300μm角以上1000μm角以下であることが好ましく、400μm角以上700μm角以下とすることがより好ましい。
【0022】
測定領域の面積を300μm角以上とすることで、光電子スペクトルをより高精度に測定を行うことができる。また、測定領域の面積を1000μm角以下とすることで、測定に要する時間を抑制できる。
【0023】
スペクトル測定工程において測定する光電子スペクトルから、例えば価電子帯から伝導帯にかけての電子状態の解析を行うこともできる。係る電子状態の解析を特に高精度で行い、光電子スペクトルのピーク形状や、ピークトップの位置等を正確に測定、解析する観点から、光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップを所定の範囲とすることが好ましい。
【0024】
例えば、スペクトル測定工程において、光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップを0.025eV以上0.09eV以下とすることが好ましく、0.025eV以上0.05eV以下とすることがより好ましい。
【0025】
光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップを0.09eV以下とすることで、得られる光電子スペクトルのピーク形状やピークトップの位置等を特に正確に測定できる。また、光電子スペクトルを測定する際のエネルギーステップを0.025eV以上とすることで、測定に要する時間を抑制できる。
【0026】
なお、例えば30eV以下の低結合エネルギーの領域を測定する際に、上記エネルギーステップとし、30eVよりも結合エネルギーが大きい領域を測定する場合には、エネルギーステップを上記範囲よりも大きくすることもできる。低結合エネルギーの領域において、エネルギーステップを上記範囲とすることで、価電子帯から伝導帯にかけての電子状態の解析を高精度で行うことが可能になる。そして、30eVよりも結合エネルギーが大きい領域を測定する際のエネルギーステップを上記範囲よりも大きくする、例えば0.1eV以上とすることで、測定に要する時間を抑制できる。ただし、測定精度を過度に下げないため、30eVよりも結合エネルギーが大きい領域を測定する際のエネルギーステップは0.2eV以下とすることが好ましい。
【0027】
スペクトル測定工程において、光電子スペクトルを測定する際のパスエナジーは特に限定されないが、例えば15eV以上50eV以下であることが好ましく、20eV以上40eV以下であることがより好ましい。パスエナジーはアナライザー内部の偏向電極間に印加する電場の大きさを意味する。
【0028】
パスエナジーを15eV以上とすることで、測定感度を高めることができる。また、パスエナジーを50eV以下とすることで、光電子スペクトルを測定する際の分解能を高めることができる。
【0029】
本実施形態の遷移金属化合物の電子状態の分析方法は、上記スペクトル測定工程以外に、さらに任意の工程を有することもできる。例えば以下に説明する補正用スペクトル測定工程と、補正工程とを有することができる。
(2)補正用スペクトル測定工程、補正工程
本実施形態の遷移金属化合物の電子状態の分析方法はさらに以下の工程を有することもできる。
【0030】
試料の表面に貴金属の膜を成膜した補正用試料の光電子スペクトルを測定する補正用スペクトル測定工程。
【0031】
補正用スペクトル測定工程で得られた補正用試料の光電子スペクトルを用いて、スペクトル測定工程で得られた前記試料の光電子スペクトルを補正する補正工程。
(補正用スペクトル測定工程)
補正用スペクトル測定工程では、まずスペクトル測定工程で調製したものと同じ条件で調製した試料の表面に貴金属の膜を成膜した補正用試料を調製できる。
【0032】
補正用試料は、貴金属の膜が、試料(測定試料)の表面を完全に覆わないように成膜時間等の成膜条件を選択することが好ましい。すなわち、貴金属の膜の間から試料の表面の少なくとも一部が露出するように成膜条件を選択することが好ましい。成膜方法は特に限定されず、蒸着等により成膜できる。貴金属の膜に用いる貴金属の種類は特に限定されないが、化学的に安定な材料であることが好ましく、例えばAu(金)や、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)等から選択された1種類以上が挙げられる。なお、貴金属は単体の金属であってもよく、合金であっても良い。
【0033】
そして、補正用試料を用いる点以外は、既述のスペクトル測定工程と同じ条件で補正用試料の光電子スペクトルを測定できる。補正用試料について光電子スペクトルを測定することで、貴金属と、試料とのスペクトルを含む光電子スペクトルを得られる。
(補正工程)
補正工程では補正用スペクトル測定工程で得られた補正用試料の光電子スペクトルを用いて、スペクトル測定工程で得られた試料の光電子スペクトルを補正できる。
【0034】
具体的には、補正用試料の光電子スペクトルに含まれる貴金属についての光電子スペクトルのピークの結合エネルギーと、該貴金属について文献等で報告されているピークの結合エネルギーとの差分を求める。そして、係る差分に応じて、スペクトル測定工程で得られた試料の光電子スペクトルの結合エネルギーを補正できる。上記差分を求める際に用いる貴金属についての光電子スペクトルのピークは特に限定されないが、例えば該貴金属についての最大強度のピークを用いることが好ましい。
【0035】
上述のようにスペクトル測定工程で得られた試料の光電子スペクトルの結合エネルギーを補正することで、特に正確な光電子スペクトルを測定できる。
【実施例0036】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)試料の調製
炭酸セシウム(CsCO)と三酸化タングステン(WO)をモル比でCsCO:WO=2:11の比率となるように秤量、混合、混練して得られた混練物をカーボンボートに入れた。そして、大気中、管状炉で、850℃で20時間を2回加熱し、ごく薄く緑がかった白色粉末である粉末Aを得た。なお、加熱する際、850℃で20時間加熱後に、一度取り出して粉砕・混合した後同じ条件で再加熱した。
【0037】
得られた粉末AのX線粉末回折パターンは、僅かにCs1136が混じったが、ほぼCs1135単相(ICDD 00-51-1891)と同定された。すなわち、遷移金属化合物であるセシウムタングステン酸化物が得られていることを確認できた。なお、以下の実施例2~実施例4においても、遷移金属化合物であるセシウムタングステン酸化物が得られていることを確認できた。
(2)電子状態の分析
以下の手順により、得られた粉末Aの電子状態の分析、具体的には光電子スペクトルの測定を行った。
【0038】
試料である粉末Aについて、X線光電子分光法により光電子スペクトルを測定した(スペクトル測定工程)。
【0039】
光電子スペクトルは、表1に示した条件に従って測定した。すなわち、X線源として単色化AlKα線を用い、X線径を200μmφとし、X線出力を50Wとした。試料に照射するX線の単位面積当たりの光子量は4.46×10Photons/(μm・sec)であった。
【0040】
また、測定領域を500μm×500μm、すなわち500μm角とした。エネルギーステップを、結合エネルギーが30eV以下の領域では0.025eV、30eVより大きい領域では0.1eVとした。パスエナジーは、23.5eVとした。
【0041】
次いで、試料である粉末Aについて、表面にAu(金)の蒸着膜を成膜した補正用試料を調製し、該補正用試料の光電子スペクトルを測定した(補正用スペクトル測定工程)。なお、測定試料として補正用試料を用いた点以外は、スペクトル測定工程の場合と同様の条件で、光電子スペクトルを測定した。
【0042】
そして、補正用スペクトル測定工程で得られた補正用試料の光電子スペクトルを用いて、スペクトル測定工程で得られた試料の光電子スペクトルを補正した(補正工程)。
【0043】
具体的には、まず補正用試料の光電子スペクトルに含まれるAuについての光電子スペクトルの最大強度のピークの結合エネルギーと、Auについて文献で報告されているピークのうち、上記最大強度のピークの結合エネルギーとの差分を求めた。そして、該差分により、スペクトル測定工程で得られた光電子スペクトルの補正を行った。
【0044】
補正後に得られた光電子スペクトルを図1図2にスペクトル11として示す。図1は、結合エネルギーが15eV以下の領域の光電子スペクトルを示している。図1(B)は、図1(A)の一部拡大図になる。
【0045】
図2は結合エネルギーが32eV以上42eV以下の領域のW4fの光電子スペクトルである。
[実施例2]
(1)試料の調製
実施例1で得た粉末AであるCs1135粉末を、カーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリアーとした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、15分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Bを取り出した。取り出した粉末Bの色調は青色だった。
(2)電子状態の分析
本実施例で作製した粉末Bを測定試料とした点以外は実施例1と同様にして光電子スペクトルの測定を行った。測定結果を図1図2中のスペクトル12として示す。
[実施例3]
(1)試料の調製
実施例1で得た粉末AであるCs1135粉末を、カーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリアーとした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、30分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Cを取り出した。取り出した粉末Cの色調は濃青色だった。
(2)電子状態の分析
本実施例で作製した粉末Cを測定試料とした点以外は実施例1と同様にして光電子スペクトルの測定を行った。測定結果を図1図2中のスペクトル13として示す。
[実施例4]
(1)試料の調製
実施例1で得た粉末AであるCs1135粉末を、カーボンボートに薄く平らに敷き詰めて、管状炉内に配置し、Arガス気流中で室温から800℃まで加熱した。800℃で温度を保持しながら、Arガスをキャリアーとした1%Hガスを混合させた気流に切り替え、60分間還元した後、Hガスを停止し、Arガス気流のみで100℃まで徐冷し、その後Arガス気流を止めて室温まで徐冷し、粉末Dを取り出した。取り出した粉末Dの色調は濃青色だった。
(2)電子状態の分析
本実施例で作製した粉末Dを測定試料とした点以外は実施例1と同様にして光電子スペクトルの測定を行った。測定結果を図1図2中のスペクトル14として示す。なお、図2において、スペクトル14にはピーク分離結果も併せて例示した。図中W6+ 7/2、W6+ 5/2はW4fの6価の成分を示し、W5+ 7/2、W5+ 5/2はW4fの5価の成分を示す。添え字の7/2および5/2は4f電子軌道のスピン-軌道相互作用による分裂を示すものであり、方位量子数とスピン量子数から求められる全角運動量量子数に相当する。
【0046】
【表1】
(考察)
図1に示すように、価電子帯(V.B.)と伝導帯(C.B.)の下部、さらにその間のバンドギャップが明瞭に観測できた。また、0~2eVにかけて、図1(A)中に矢印Aで示したW-5dに由来する微小なピークを観測できることも確認できた。図1(B)は価電子帯のE近傍の拡大図であり、同様にW-5dに由来する微小なピークを明瞭に観測できていることを確認できる。
【0047】
図2に示した光電子スペクトルはW4fスペクトルであり、Cs1135でほぼ二山のピークを示すことが分かる。そして、スペクトル11からスペクトル14へと還元時間が長くなるほど、低結合エネルギー側のショルダーが増加することが明瞭に示された光電子スペクトルを得ることができた。
【0048】
なお、実施例1~実施例4で、XPSの測定を終了後、試料の状態を確認したところ、変色等は見られず、X線の照射によるダメージを抑制しつつ、高精度に光電子スペクトルを測定できることを確認できた。
図1
図2