(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079924
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】マスターバッチ、芳香族ポリエステル樹脂組成物、成形体およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20220520BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20220520BHJP
C08K 7/16 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C08J3/22 CFD
C08L67/02
C08K7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190800
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】山岡 悠太
(72)【発明者】
【氏名】木村 敏樹
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA47
4F070AB24
4F070AC22
4F070AC23
4F070AE09
4F070FA03
4F070FB03
4F070FB06
4F070FC06
4J002CF071
4J002DE076
4J002DE096
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE266
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ026
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002FA086
4J002GF00
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】少なくともPBT樹脂を含む芳香族ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムであって、フィルム欠点の発生を抑えつつ、かつ、該樹脂組成物からフィルムを製膜する際のフィルター昇圧を抑え、さらに、樹脂劣化の進行を抑制し、安定な製膜を可能とする、芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルムの製造方法、該樹脂組成物を提供可能な、マスターバッチおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】固有粘度0.9以上から1.5以下のポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、平均粒子径0.5~10μmの微粒子を1質量部以上から5質量部未満の範囲で含有するマスターバッチ及びその製造方法を提供する。さらに該マスターバッチを用いるフィルム用芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルムの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度0.9以上から1.5以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(a)100質量部に対し、平均粒子径0.5~10μmの微粒子(b)を1質量部以上から5質量部未満の範囲で含有することを特徴とするマスターバッチ。
【請求項2】
固有粘度0.9以上から1.5以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(a)100質量部に対し、平均粒子径0.5~10μmの微粒子(b)を1質量部以上から5質量部未満の範囲で配合して溶融混錬する工程を有することを特徴とするマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
フィルム用に専ら用いる芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
請求項1に記載のマスターバッチに対して、芳香族ポリエステル(c)を配合して溶融混錬する工程を有する芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法で得られた芳香族ポリエステル樹脂組成物を、溶融成形する工程を有するフィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のマスターバッチに対して、芳香族ポリエステル樹脂(c)を配合して溶融混錬する工程と、溶融成形する工程とを有するフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」とも称する)を含有するマスターバッチ、芳香族ポリエステルを含有する樹脂組成物、成形体およびそれらの製造方法に関する。さらに詳細には、フィルム用芳香族ポリエステル樹脂組成物の製造方法、それに用いるマスターバッチおよびその製造方法、さらに当該フィルム用芳香族ポリエステル樹脂組成物を用いるフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PBT樹脂は、成形加工の容易さ、機械的物性、耐熱性、耐薬品性など各種特性に優れていることから、各種用途に広く用いられており、近年では、ガスバリア性等を活かし、フィルムやシート用途にも展開が始まっている。
【0003】
しかし、当該フィルムは滑り性が低く、ロール状に巻きあげた際にフィルム同士が密着してしまい、フィルムを引き出すことが困難になることや、無理やり引き出すと傷やしわを形成する問題があった。
【0004】
このため、微粒子を添加し、フィルム表面に凹凸を形成させ、フィルムの滑り性を高める手法がとられている(引用文献1参照)。しかし微粒子を用いることで、特に当該微粒子が高濃度となるマスターバッチ中で分散不良が起こる傾向が高くなり、それに起因して、フィルム欠点の発生や製膜時のフィルター昇圧を起こすだけでなく、さらに、樹脂劣化が進行し、安定な製膜が困難となる傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、少なくともPBT樹脂を含む芳香族ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムであって、フィルム欠点の発生を抑えつつ、かつ、該樹脂組成物からフィルムを製膜する際のフィルター昇圧を抑え、さらに、樹脂劣化の進行を抑制し、安定な製膜を可能とする、芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルムの製造方法、そして、そのようなフィルム用芳香族ポリエステル樹脂組成物を提供可能な、マスターバッチおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、マスターバッチ中の微粒子の割合を適正なものとすることで、それを用いて製造されたフィルム欠点となる粒子凝集が解消されるとともに、製膜性悪化を引き起こす樹脂劣化が抑制されることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
〔1〕固有粘度0.9以上から1.5以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(a)100質量部に対し、平均粒子径0.5~10μmの微粒子(b)を1質量部以上から5質量部未満の範囲で含有することを特徴とするマスターバッチ(1)に関する。
【0009】
〔2〕また本発明は、固有粘度0.9以上から1.5以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(a)100質量部に対し、平均粒子径0.5~10μmの微粒子(b)を1質量部以上から5質量部未満の範囲で配合して溶融混錬する工程を有することを特徴とするマスターバッチの製造方法に関する。
【0010】
〔3〕さらに本発明は、フィルム用に専ら用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
〔1〕に記載のマスターバッチに対して、芳香族ポリエステルポリブチレンテレフタレート樹脂(c)を配合して溶融混錬する工程を有する芳香族ポリエステルポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法に関する。
【0011】
〔4〕さらに本発明は、〔3〕に記載の製造方法で得られた芳香族ポリエステルポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、溶融成形する工程を有するフィルムの製造方法に関する。
【0012】
〔5〕さらに本発明は、〔1〕に記載のマスターバッチに対して、芳香族ポリエステルポリブチレンテレフタレート樹脂(c)を配合して溶融混錬する工程と、溶融成形する工程とを有するフィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、少なくともPBT樹脂を含む芳香族ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムであって、フィルム欠点の発生を抑えつつ、かつ、該樹脂組成物からフィルムを製膜する際のフィルター昇圧を抑え、さらに、樹脂劣化の進行を抑制し、安定な製膜を可能とする、芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルムの製造方法、そして、そのようなフィルム用芳香族ポリエステル樹脂組成物を提供可能な、マスターバッチおよびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0015】
<マスターバッチ>
本実施形態のマスターバッチは、固有粘度0.9以上から1.5以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(a)100質量部に対し、平均粒子径0.5~10μmの微粒子(b)を1質量部以上から5質量部未満の範囲で含有することを特徴とする。
そして本実施形態のマスターバッチの製造方法は、固有粘度0.9以上から1.5以下のポリブチレンテレフタレート樹脂(a)100質量部に対し、平均粒子径0.5~10μmの微粒子(b)を1質量部以上から5質量部未満の範囲で配合して溶融混錬する工程を有することを特徴とする。
【0016】
[PBT樹脂(a)]
本発明に用いるPBT樹脂(a)は、フィルム欠点となる粒子凝集が解消され、フィルム作製時の製膜性悪化を引き起こす樹脂劣化の抑制ができることから、0.9以上、好ましくは1.0上であり、そして、1.5以下、好ましくは1.4以下の範囲である固有粘度を有する。
【0017】
本発明に用いるPBT樹脂は、テレフタル酸単位及び1,4 -ブタンジオール(以下、BGと略記することもある。)単位がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸単位の50モル% 以上がテレフタル酸単位から成り、ジオール成分の50モル%以上がBG単位から成る高分子である。
【0018】
ここで、全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、全ジオール単位中のBG単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上である。
【0019】
本発明において、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分には特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、又は、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料として、ポリマー骨格に導入できる。
【0020】
本発明において、BG以外のジオール成分には特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることができる。
【0021】
[微粒子(b)]
本発明で用いる微粒子(b)は、その平均粒子径が0.5μm以上であり、滑り性の点から好ましくは1.0μm以上の範囲であり、そして、10μm以下であり、透明性の点から8.0μm以下の範囲である。
本発明に用いる微粒子としては、特に制限されないが、例えばワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、塩化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどの無機微粒子が挙げられ、これらは中空であってもよい。これらのうちの一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、フィルムの滑り性を付与しつつ、かつ、より透明性に優れる観点から、シリカ、アルミナシリケートが好ましいものとして挙げられる。
【0022】
また、本発明に用いる微粒子は、その表面が疎水性ないし親水性であってよいが、最終的に得られるフィルムの透明性がさらに優れたものとなるため、親水性であることがより好ましい。本発明に用いる微粒子表面の疎水性ないし親水性は、必要に応じて公知の疎水性処理ないし親水性処理を施せばよく、該微粒子自体が所望する疎水性ないし親水性を呈しているのであれば、処理をすることなく用いることができる。
【0023】
なお、本発明に用いる微粒子表面の疎水性ないし親水性の程度は、例えば、DBA吸着量により表すことができ、疎水性の場合にはDBA吸着量が300meq/kg未満の範囲であることが好ましく、一方、親水性の場合には、該DBA吸着量が400meq/kg以上の範囲であることが好ましい。ただし、DBA吸着量は、実施例の方法により測定することができる。
【0024】
本発明において好適に使用できる微粒子としては、例えば、富士シリシア化学株式会社製シリカ(二酸化ケイ素)微粒子「SYLOPHOBIC」シリーズが疎水性の表面を有する微粒子として挙げられ、一方、富士シリシア化学株式会社製二酸化ケイ素「SYLYSIA」シリーズや、株式会社日本触媒製シリカ微粒子「SEAHOSTAR」シリーズ、水澤化学工業株式会社製アルミナシリケート(アルミノケイ酸塩)微粒子「SILTON」シリーズなどが親水性の表面を有する微粒子として挙げられる。
【0025】
上記マスターバッチ中のPBT樹脂(a)と、前記微粒子(b)との割合は、前記PBT樹脂(a)100質量部に対して、粒子凝集が解消されるとともに、製膜性悪化の観点から、前記微粒子(b)が5質量部未満、好ましくは4.5質量部以下、より好ましくは4質量部以下の範囲であり、下限値は限定されないが、マスターバッチとしての効率性の観点から1質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上がさらに好ましい。
【0026】
[その他の成分]
マスターバッチは、その機能の主旨を逸脱しない範囲において、必須成分である上記PBT樹脂(a)及び上記微粒子(b)以外に、任意成分としてその他の成分が含まれてもよい。その他の成分としては、具体的には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、滑剤、難燃剤、充填材等が挙げられる。その他の成分を任意成分として用いる場合、その配合割合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、前記PBT樹脂(a)100質量部に対して、50質量部以下の範囲で用いることが好ましく、さらに25質量部以下の範囲で用いることがより好ましい。これら成分の種類と量を調整することにより、目的とする機能を自由に調整することができる。
【0027】
<マスターバッチの製造方法>
本発明のマスターバッチの製造方法は、上記PBT樹脂(a)と、上記微粒子(b)とを配合して溶融混錬する工程(以下、「工程(1)」と称することがある)とを有する。
【0028】
先ず、前記PBT樹脂(a)及び前記微粒子(b)の必須成分と、必要に応じて任意の原料成分である前記その他の成分とをバルク状、ペレット状、チップ状などの様々な形態で所定の配合割合となるよう配合し、次いで、必要に応じて予備混合した後に、溶融混練機に投入して、該PBT樹脂(a)の融点以上に加熱して、溶融混練する。溶融混練物の形態は本発明の効果を損ねなければ特に限定されず、溶融状態のまま、直接、後述する希釈用樹脂をさらに加えて本発明の熱可塑性樹脂組成物ないし成形体とすることもできるが、一旦、ストランド状に押出した後に切断してペレット状、チップ状などの顆粒状とすることが好ましい。
【0029】
前記工程(1)において、予備混合は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、リボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンターなどを用いるドライブレンドを挙げることができる。また、溶融混練機としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの加熱機構が備えられた溶融混練機を挙げることができる。なお、前記工程の溶融混練機は、装置内に好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下の範囲の目開きを有するフィルターを装填していてもよい。
【0030】
このようにして得られた本発明のマスターバッチの固有粘度は特に限定されないが、好ましくは0.6以上であり、そして好ましくは0.9以下である。
【0031】
<芳香族ポリエステル樹脂組成物およびその成形体(フィルム)>
本発明の芳香族ポリエステル樹脂組成物および成形体(フィルム)の製造方法は、前記マスターバッチと、希釈用樹脂としての芳香族ポリエステル樹脂(c)とを配合して溶融混錬する工程(以下、「工程(2)」と称することがある。)を有する。芳香族ポリエステル樹脂組成物または成形体は、上記マスターバッチと、芳香族ポリエステル樹脂(c)とを配合させたものの硬化物(加熱により軟化流動した状態が冷却により固化したもの)である。芳香族ポリエステル樹脂組成物は、特に制限されないが、例えばマスターバッチからフィルムを得る際の中間成形体であり、ペレット状や粉末状等の所定形態を有する材料を意味する。
【0032】
[芳香族ポリエステル樹脂(c)]
本発明で使用する芳香族ポリエステル樹脂(c)はマスターバッチに対して希釈用樹脂として用いるものである。本発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂(c)としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキサンジメチルフタレート(PCN)、ポリトリメチレンナフタレート(PTN)、非晶性ポリエステル樹脂(PETG、PCTG)、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート等が挙げられる。また、これらのポリエステル樹脂のうちから選択される1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これらのうち、芳香族ポリエステル樹脂(c)としては、上記で挙げたPBT樹脂(a)と同じものが使用可能である。当該PBT樹脂(c)として、上記で挙げたPBT樹脂(a)と同じものを使用する場合、マスターバッチに含まれるPBT樹脂(a)と同種であってもよいし、異種のものであってもよいが、相溶性の観点から同種の樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
前記マスターバッチと芳香族ポリエステル樹脂(c)との配合割合は、芳香族ポリエステル樹脂組成物またはフィルム中のマスターバッチ及び芳香族ポリエステル樹脂(c)の合計の質量を100質量%としたときの、前記微粒子(b)の含有割合が、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下の範囲となるよう、適宜調整すればよい。
[その他の成分]
芳香族ポリエステル樹脂組成物またはフィルムは、その機能の主旨を逸脱しない範囲において、必須成分であるマスターバッチ及び芳香族ポリエステル樹脂(c)以外に、任意成分としてその他の成分が含まれてもよい。
その他の成分としては、具体的には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、滑剤、難燃剤、充填材等が挙げられる。
【0035】
<芳香族ポリエステル樹脂組成物およびフィルムの製造方法>
本実施形態に係る芳香族ポリエステル樹脂組成物またはフィルムの製造方法は、上記製造方法によって得られたマスターバッチ及び芳香族ポリエステル樹脂(c)の必須成分と、必要に応じて任意成分であるその他の成分とをバルク状、ペレット状、チップ状などの様々な形態で所定の配合割合となるよう配合し、次いで、必要に応じて予備混合した後に、溶融混練機に投入して、該PBT樹脂(a)または芳香族ポリエステル樹脂(c)のいずれか高い方の融点以上に加熱して、溶融混練する。これにより、直接、溶融成形して上記フィルムを得ることができるが、一旦、ペレット状または粉末状の芳香族ポリエステル樹脂組成物を得る工程を経てから、得られたペレット状または粉末状の芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融成形する工程を経て目的とするフィルムを得ることもできる。このようにマスターバッチを経由してフィルムを得ることで、フィルム中で微粒子をより安定的に均一分散することができ、微粒子による所望の機能、特性をフィルムに十分に付与することができる。また、上記マスターバッチを経てフィルムを成形することで、芳香族ポリエステル樹脂の加水分解が大幅に抑制され、成形性(加工性)、機械特性及び外観品質を向上することができる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物をフィルムとする場合には、溶融混練後、溶融樹脂をスリット状の孔から吐出させる(押出す)ことによりフィルム状ないしシート状にすることができる。フィルム状ないしシート状の熱可塑性樹脂成形体(フィルム)は、更にプレス成形法又は真空成形法によって成形してもよいし、ベース層上に形成されて多層フィルムを構成してもよい。
なお、本発明においてフィルムとは、フィルム状ないしシート状の熱可塑性樹脂成形体を指し、さらには、フィルムやシートなどの板状のものを厳密に区別することなく総称として表現するものである。本発明においてフィルムの厚みは、その用途に応じて異なり、任意の厚さとすることができるが、通常、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは0.5μm以上から、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下、最も好ましくは70μm以下までの範囲である。
【実施例0037】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。実施例中、特段の記載がない限り、「部」は質量%を示し、表中の数値の単位は質量部である。
【0038】
(測定例) 固有粘度
PBT樹脂の固有粘度は、オクトクロロフェノール溶液を使用してPBT樹脂を溶解し、温度23℃にて測定した値である。
【0039】
(測定例) DBA吸着量
乾燥試料250mgを精秤し、これに50mlのN/500-ジ-n-ブチルアミン溶液(石油べンジン溶媒)を加え、20℃で約2時間放置する。この上澄液25mlにクロロホルム5ml、指示薬(クリスタルバイオレツト)を2~3滴を加え、紫色が青色に変るまでN/100-過塩素酸溶液(無水酢酸溶媒)で滴定し、この時の滴定値をAmlとする。 別にブランクを行ないBmlとし、次式によってDBA吸着量を算出した。
【0040】
【数1】
(ただし、fは N/100-過塩素酸溶液の力価)
【0041】
(測定例)樹脂劣化(固有粘度の保持率)
固有粘度の保持率を算出し、樹脂劣化状態を評価した。保持率が100%に近いほど、樹脂劣化を抑制し、良好であることを表す。
【0042】
【0043】
(測定例)マスターバッチ(MB)の濾過圧上昇
目開き20μmのフィルターを設置した単軸押出機にマスターバッチ1kgを通過させたときの差圧(ろ過圧上昇)を測定し、粒子の凝集性について以下の基準で評価付けを行った。なお、差圧が大きいほど凝集粒子の存在量が多いことを表す。
◎・・・0.5MPa未満
〇・・・0.5MPa以上2MPa未満
△・・・2MPa以上5MPa未満
×・・・5MPa以上
【0044】
(測定例)フィルム中の凝集粒子
作製したフィルムを光学顕微鏡で観察し、100cm2あたりに存在する15μm以上の凝集粒子の存在量を下記基準で評価した。
◎・・・5個未満
〇・・・5個以上10個未満
△・・・10個以上20個未満
×・・・20個以上
【0045】
(測定例)製膜性
製膜時の安定性について、下記基準で評価した。
〇・・・吐出物の状態は安定しており、問題なく製膜終了
△・・・吐出物の粘度低下、脈動現象、吐出幅の変動、発泡などが多少みられたが製膜終了
×・・・吐出物の粘度低下、脈動現象、吐出幅の変動、発泡などにより安定なフィルムが確保できず
【0046】
実施例1~4、比較例1~3 (マスターバッチの製造)
表1に記載した配合比率で PBT樹脂と、微粒子を配合し、ドライブレンドした後、続いて、30mmφの二軸押出機 (設定温度260℃)で溶融混練し、得られた組成物をペレット化し、マスターバッチを得た。
【0047】
【0048】
【0049】
表中の数値は質量基準、各成分は以下のものを用いた。
PBT-1;ポリプラスチックス社製PBT樹脂「DURANEX 600FP」(固有粘度1.0dl/g)
PBT-2;ポリプラスチックス社製PBT樹脂「DURANEX 800FP」(固有粘度1.4dl/g)
FP-1; シリカ微粒子(富士シリシア化学株式会社製『SYLYSIA(登録商標) 550』、平均粒子径3.9μm、DBA吸着量800meq/kg)
FP-2 アルミノケイ酸塩微粒子(水澤化学工業株式会社製『SILTON(登録商標) JC-50』、平均粒子径4.9μm)
FP-3; シリカ微粒子(富士シリシア化学株式会社製『SYLOPHOBIC(登録商標) 505』、平均粒子径3.9μm、DBA吸着量175meq/kg)
【0050】
実施例5~8、比較例4~6 (フィルムの製造)
フィルム中の微粒子濃度が0.3wt%となるように、PBT樹脂(ポリプラスチックス社製「DURANEX 300FP』、極限粘度0.7)と、マスターバッチ(MB(1)~(4)、MB(c1)~(c2))を所定量混合し、120℃で12時間乾燥した。ついで100mm幅のTダイを接続した押出機を用いて、製膜温度260℃で製膜を行い、厚さ30μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて各測定を行い表3、4に記載した。
【0051】
【0052】
【0053】
実施例1~4で製造されたマスターバッチを経由して得られた実施例5~8のフィルムは、マスターバッチ中の微粒子の濃度が最適なことにより、フィルム欠点となる粒子凝集が解消され、フィルム作成時の製膜性悪化を引き起こす樹脂劣化が抑制されることがわかった。
一方、比較例1~3で製造されたマスターバッチを経由して得られた比較例4~6のフィルムは、当該マスターバッチ中の粒子凝集を解消できず、フィルム欠点の発生や製膜時のフィルター昇圧を起こし、また、樹脂劣化の進行により、フィルム作成時、製膜が低下することが明らかとなった。