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特開2022-79945成形品の製造方法ならびに成形品のガス焼け低減方法
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  • 特開-成形品の製造方法ならびに成形品のガス焼け低減方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022079945
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】成形品の製造方法ならびに成形品のガス焼け低減方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20220520BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20220520BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
B29C45/76
B29C45/00
B29C33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190831
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】丁 声而
【テーマコード(参考)】
4F202
4F206
【Fターム(参考)】
4F202AA34A
4F202AM32
4F202AP13
4F202AR06
4F202AR20
4F202CA11
4F202CB01
4F202CP10
4F206AA34A
4F206AM23
4F206AM32
4F206AP13
4F206AR064
4F206AR20
4F206JA07
4F206JL09
4F206JM04
4F206JN11
4F206JP01
4F206JP12
4F206JP13
4F206JQ81
(57)【要約】      (修正有)
【課題】射出成形時に発生しうる樹脂組成物成形品のガス焼けを防止して、品質の向上した成形品を効率的に製造する方法の提供。
【解決手段】キャビティとガスベント54とを備える金型50を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品の製造方法であって、該射出成形時に、該ガスベント部にて捕集されるガスの総量をc;該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa;該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb;(ここで、a、bおよびcの単位は、μg/熱可塑性樹脂組成物1gである。)としたときに、特定の計算式にて表されるガス焼け発生リスクdの値を、35以下にすることを特徴とする、前記製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティとガスベントとを備える金型を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品の製造方法であって、
該射出成形時に、該ガスベント部にて捕集されるガスの総量をc;
該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa;
該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb;
(ここで、a、bおよびcの単位は、μg/熱可塑性樹脂組成物1gである。)としたときに、以下の式1:
【数1】
にて表されるガス焼け発生リスクdの値を、35以下にすることを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
該熱可塑性樹脂組成物が、ポリフェニレンサルファイドを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
キャビティとガスベントとを備える金型を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品のガス焼けを低減する方法であって、
該射出成形時に、該ガスベント部にて捕集されるガスの総量をc;
該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa;
該ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb;
(ここで、a、bおよびcの単位は、μg/熱可塑性樹脂組成物1gである。)としたときに、以下の式1:
【数2】
にて表されるガス焼け発生リスクdの値を、35以下にすることを特徴とする、前記方法。
【請求項4】
該熱可塑性樹脂組成物が、ポリフェニレンサルファイドを含む、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の成形品の製造方法ならびに成形品のガス焼けの低減方法に関する。特に本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物成形品の製造方法ならびにポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を成形する際に生じうる成形品のガス焼けを効果的に低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形は、安価で生産性の高い製造方法として熱可塑性樹脂に広く採用されている。熱可塑性樹脂の射出成形では、まずペレットと呼ばれる粒状の樹脂をスクリュを回転させ計量することによりシリンダに充填し、シリンダに設置されたヒーターによりペレットを溶融する。溶融した樹脂はスクリュにより押し出され、金型内のキャビティに高速で射出充填し、冷却することで成形品を得る。射出成形においては、通常、樹脂を劣化させないようにするために、加工温度は、当該樹脂組成物のベースとなる樹脂の融点(または流動可能温度)から熱分解温度までの範囲内に設定されている。しかしながら、種々の要因によって成形機内で熱可塑性樹脂組成物中の樹脂や添加物が分解することがある。樹脂や添加物の分解は、樹脂自体の劣化による物性低下の問題を引き起こすだけではない。分解ガスおよび樹脂組成物の計量時に樹脂組成物中に巻き込んだ空気が、射出時にうまく金型から排出されずに閉塞空間で圧縮され、高温になり、樹脂組成物が焦げてしまうガス焼けを引き起こしうる。このような成形品のガス焼けは、成形品の外観の悪化や加工性の低下等の種々の問題を生じさせる。分解ガスおよび樹脂組成物に巻き込まれた空気の量が多くなるほどガス焼けが発生しやすくなるため、金型からガスを排出するためのガスベントを広げるたり、深くしたりして、ガスを効率的に金型から排出させるほか、金型へ樹脂組成物を注入するゲートの位置を変更する等の方策が採られている。また、ガスベントの詰まりを生じうる金型付着物(モールドデポジット、特許文献1参照)により、ガスの排出が妨げられる場合があったため、モールドデポジットの発生が少ない樹脂組成物材料を使用することも試行されてきたが、成形品のガス焼けを効果的に防ぐことができなかった。一方、発生したガスの量や発生のタイミング、ならびに成分を分析することにより、射出成形品の劣化を防ぐ試みもなされていた(特許文献2)。しかしながら、このように分析を行っても、成形品のガス焼けの完全防止につなげるのは難しかった。
【0003】
一方、熱可塑性樹脂の中でもエンジニアリングプラスチックと呼ばれるものは、強度ならびに耐熱性に優れており、特に耐久性が必要となる製品に用いられている。エンジニアリングプラスチックは融点やガラス転移温度が高いため加工温度が高く、充填材などに含まれる水分や、充填材自体の酸性またはアルカリ性によりポリマーの分解が起きることがある。また、エンジニアリングプラスチック自体の耐熱性は優れていても、熱可塑性樹脂中に添加された滑剤や紫外線吸収剤、可塑剤、難燃材といった添加物は、エンジニアリングプラスチックほど耐熱性が高くない場合が多いため、これが分解し、成形中にガスを発生することもある。また、エンジニアリングプラスチックは強度が高いことから薄肉の成形品用途に使用されることも多い。薄肉成形品の射出成形時には、樹脂が固化する前に金型に充填させるために、射出速度が高速になることが多い上、主鎖中に芳香環を持つエンジニアリングプラスチックについては、断熱圧縮が起こって高温となり、炭化が生じやすい。
【0004】
エンジニアリングプラスチックの中でもポリフェニレンサルファイド(以下「PPS」ともいう。)樹脂に代表されるポリアリーレンサルファイド(以下「PAS」ともいう。)樹脂は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、および難燃性を有している。エステル基を主鎖にもたないため、水分等による分解は起きにくく、臭素やリンなどを含む難燃剤を添加する必要がない優れた樹脂である。このため、PAS樹脂は、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、および化学機器部品材料等に広く使用されており、特に、高い環境温度下で使用される部品の材料として使用されている。PAS樹脂は、強度や剛性を上げるため無機フィラーが配合されることが多いため靭性が不足する場合があり、エラストマーやエラストマーの安定化のため各種添加剤と共に混合して樹脂組成物として使用される。具体的には、PAS樹脂とともに、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとを主成分とするオレフィン系共重合体を含む樹脂組成物や、PAS樹脂とともに、エチレンと炭素数5以上のα-オレフィンとのオレフィン系共重合体を含む樹脂組成物等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-22736号公報
【特許文献2】特開2019-181890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、射出成形時に発生しうる熱可塑性樹脂組成物成形品のガス焼けを防止して、品質の向上した成形品を効率的に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的のために、本発明者らは、射出成形時に発生しうるガスの分析等を鋭意行ったところ、ガスの発生量を抑制したり、モールドデポジットの発生しにくい熱可塑性樹脂組成物を使用したりしても、成形品のガス焼けを完全には防止できないことを見出した。そこで、本発明の一の形態は、キャビティとガスベントとを備える金型を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品の製造方法に係る。本製造方法において、射出成形時に、ガスベント部にて捕集されるガスの総量をc;
ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa;
ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb;
(ここで、a、bおよびcの単位は、μg/熱可塑性樹脂組成物1gである。)としたときに、以下の式1:
【数1】
にて表されるガス焼け発生リスクdの値を、35以下にすることを特徴とする。
【0008】
本発明の二の形態は、キャビティとガスベントとを備える金型を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品のガス焼けを低減する方法に係る。本方法において、射出成形時に、該ガスベント部にて捕集されるガスの総量をc;
ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa;
ガスベント部にて捕集されるガスのうち、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb;
(ここで、a、bおよびcの単位は、μg/熱可塑性樹脂組成物1gである。)としたときに、以下の式1:
【数2】
にて表されるガス焼け発生リスクdの値を、35以下にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、射出成形における熱可塑性樹脂組成物の成形品のガス焼けを効果的に防止することにより、外観に優れた成形品を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態で使用可能な射出成形機の構成の例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を詳細に説明する。一の実施形態は、キャビティとガスベントとを備える金型を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品の製造方法である。実施形態で成形する熱可塑性樹脂組成物は、加熱により軟化して成形可能になり、成形後に冷却することで固化する性質を有する熱可塑性樹脂を含む混合物である。熱可塑性樹脂として、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル系ポリマー、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン、アラミド等のポリアミド樹脂、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン-スチレン、ポリアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン等のジエン系エラストマー、ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、または熱可塑性ポリイミドを用いることができる。熱可塑性樹脂は、上記のポリマーの置換基を化学的に修飾したものを用いてもよく、また上記のポリマーを1種以上混合して用いることもできる。本実施形態は、ポリアリーレンサルファイド、特にポリフェニレンサルファイドを含む樹脂組成物を成形する際に特に有用である。熱可塑性樹脂組成物は、添加剤として、充填剤、滑剤、核剤、透明化剤、可塑剤、紫外線防止剤、顔料、染料、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤等を含むことができ、これらの添加剤の1つ以上と、熱可塑性樹脂とを混練して熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。なお、本明細書中で、熱可塑性樹脂を単に「樹脂」、熱可塑性樹脂組成物を「樹脂組成物」と称することがある。
【0012】
実施形態において、射出成形とは、溶融した熱可塑性樹脂を金型に送り込み、これを冷却することにより成形する、樹脂組成物の成形法の一つである。本実施形態における射出成形について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態で使用可能な射出成形機の概略的な構成の例を示す図である。本実施形態の製造方法は、図1の射出成形機40および金型50に対応するように構成されている。
【0013】
本実施形態で使用することができる射出成形機40は、インラインスクリュ式であって、略水平方向に延びたシリンダ41、シリンダ41に内蔵されたスクリュ46、およびスクリュ46を回転駆動等する図示しない駆動機構を有している。シリンダ41には、ホッパ42、バンドヒータ47、ガスベントノズル43およびノズル44が設けられている。ガスベントノズル43には、シリンダ41が延びた方向に複数のドーナツ状の円板48が積層され、ガスを通して排出するための間隙が形成されている。
【0014】
金型50は、内部にキャビティ53を有する固定された第1金型51、および第1金型51に対応する可動の第2金型52を有している。第1金型51には、キャビティ53の温度、圧力等を測定するセンサ55が設けられている。なお、本明細書でいうキャビティ53は、金型50のゲートからスプルー、ランナーを経由して成形品本体部(狭義のキャビティ)までを含む領域全体を意味する。第2金型52には、キャビティ53からガスを排出する金型ガスベント54が設けられている。金型ガスベント54は、多孔質の材料または細孔から形成されている。
【0015】
射出成形機40において、ホッパ42に貯えられたペレット状の熱可塑性樹脂組成物100は、自重により落下してホッパ42の直下にあるシリンダ41に供給される。シリンダ41は、バンドヒータ47によって所定温度に加熱されている。シリンダ41に供給された熱可塑性樹脂組成物100は、回転するスクリュ46によって搬送されながら、バンドヒータ47による加熱およびスクリュ46の回転による剪断発熱によって溶融されつつスクリュ46によって混練され、さらにスクリュ46の前進によってノズル44から射出されて金型50に注入される。金型50に注入された熱可塑性樹脂組成物100は、金型50のキャビティ53に充填され、固化された後で金型50から成形品として取り出される。
【0016】
射出成形機40から射出されて金型50に注入される。実施形態において、金型50の温度は80℃以上のT℃に設定して射出成形を行うことができる。金型50のキャビティ53に充填された熱可塑性樹脂組成物100は、ゲート部やキャビティの薄肉部を通過する際の剪断発熱によってガスを発生する場合がある。このガスは、金型50に形成された金型ガスベント54を介してキャビティ53から排出される。金型ガスベント54から排出された金型排出ガスは、金型ガスベント54から第3真空ポンプ33に至る第3排気路23を通って排気される。また、金型から排出されたガスを捕集するための金型排出ガス捕集管13は、金型ガスベント54に接続され、射出成形中に金型50内で発生したガスを捕集することができる。また図示していないが、金型排出ガス捕集管13から開出されたガスを定性的および/または定量的に分析する分析装置を有していてもよい。なお金型ガスベント54から排出されるガスの成分によっては、金型ガスベント54および第3排気路23から金型排出ガス捕集管13にかけて固形状の付着物101が発生しうる。
【0017】
実施形態において、上記の金型ガスベント54を介してキャビティ53から排出されるガスを捕集することができ、その総量を、c[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]とする。ここでガスベント部にて捕集されるガスの総量cの単位は、キャビティ53に1ショットで射出される熱可塑性樹脂組成物1gあたりのガス量をμg(マイクログラム)で表したものである。金型ガスベント54を介して捕集されるガスの分析は、上記特許文献2等に記載された方法により適宜行うことができる。金型ガスベント部で捕集されるガスを分析した結果、ガスベント部で捕集されるガスの総量cのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]とする。ここで、aおよびbの単位は、上記のcと同様であり、Tは金型温度を摂氏で表した値である。(T-20)℃以上(T+20)℃未満の沸点を有するガスは、上記のbにもaにも含まれることになる。したがって、a+bの値は、cと等しいか、あるいはcよりも大きくなる。ガスベント部にて捕集されるガスの総量cのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量aならびに(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量bは、たとえば、ガスベント部にて捕集されるガスを定性的および/または定量的に分析する分析装置、たとえばガスクロマトグラフィ(GC)を利用して測定することができる。
【0018】
実施形態において、上記のa、b、cは、以下の式1:
【数3】
にて表されるガス焼け発生リスクdの値が35以下を満たすようになっていることが好ましい。成形品のガス焼けの原因として、キャビティの構造的に閉塞空間が生じる部分を除けば、ガスベントの詰まりが主要因である。ベントの詰まりは熱可塑性樹脂組成物由来のガスが金型ガスベントに付着することによって発生する。ガス成分のうち、特に金型温度より高い沸点を持つ高沸点成分が金型に触れると冷却され、高沸点成分が金型に付着するため、高沸点成分が発生しやすい熱可塑性樹脂組成物はガス焼けを生じやすい材料ということになる。金型温度よりも低い沸点を持つ低沸点成分では、金型に触れ冷却されても金型には付着せず、低沸点成分が発生しやすい熱可塑性樹脂組成物はガス発生量が同じでも、ガス焼けを生じにくい。また、高沸点成分の発生量が同じ熱可塑性樹脂組成物でも、低沸点成分の発生量が異なる熱可塑性樹脂組成物を比較すると、低沸点成分の発生量が多い熱可塑性樹脂組成物の方がガス焼けを生じにくい。これは低沸点成分により高沸点成分が金型に触れる確率が低減するためである。一方、金型温度は、射出成形時の充填-冷却工程において上昇低下を繰り返しており、一定ではない。そこで、説明変数として、金型温度T+20℃未満の低沸点成分の量aと、金型温度T-20℃以上の高沸点成分の量bと、ガスベント部にて捕集されるガスの総量cとを目的変数としてガス焼け発生リスクdを設定した。ガス焼け発生リスクdを算出する上記の式1は、本発明者らが、各種熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形を多数行い、発生したガスの量を都度分析し、これらの結果を回帰分析して導き出したものである。ガス焼け発生リスクdの値は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形する際に、成形品のガス焼けの発生を低減するための目安とすることができる。ガス焼け発生リスクdの値を35以下とするように、熱可塑性樹脂組成物の配合を検討し、a、bおよびcの値を調整することができる。たとえば、高融点のポリマーや分子量分布の狭いポリマーの採用、オリゴマーの含有量の少ないポリマーの採用、組成物の特性を損なわない範囲で高融点のアロイ材やエラストマーなどを添加およびその際の添加量の調整、芳香族成分を含む添加剤の低減、酸化防止剤の添加、滑剤、可塑剤などの低沸点成分発生量の調整、成形温度に応じた発泡剤の選択およびその際の添加量調整が挙げられる。また、ガスの発生量を抑制するために使用する成形機や金型の鋼材としては、腐蝕による分解を抑制できるクロム、チタン、バナジウム、銅を含有する鋼材が好ましい。金型の表面処理に、DLC、TiN、TiCN、CrN、セラミックなどでコーティングすることにより金型表面のせん断発熱による分解を抑制できる。成形条件としては、熱可塑性樹脂組成物の熱劣化を抑えるため、シリンダ温度の低減、射出速度の低減、計量時の空気の巻きこみ防止のため背圧とスクリュ回転数を調整することなどが挙げられる。ガス焼け発生リスクdの値を35以下とするよう調整することにより、ガス焼けのない成形品を歩留まりよく製造することが可能となる。
【0019】
つづいて、二の実施形態を説明する。二の実施形態は、キャビティとガスベントとを備える金型を用いて、80℃以上の金型温度T℃で熱可塑性樹脂組成物を射出成形することを含む、成形品のガス焼けを低減する方法である。本実施形態で成形する熱可塑性樹脂組成物は、一の実施形態と同様、加熱により軟化して成形可能になり、成形後に冷却することで固化する性質を有する熱可塑性樹脂を含む混合物である。熱可塑性樹脂として、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル系ポリマー、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン、アラミド等のポリアミド樹脂、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン-スチレン、ポリアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン等のジエン系エラストマー、ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、または熱可塑性ポリイミドを用いることができる。熱可塑性樹脂は、上記のポリマーの置換基を化学的に修飾したものを用いてもよく、また、上記のポリマーを1種以上混合して用いることもできる。本実施形態においても、ポリアリーレンサルファイド、特にポリフェニレンサルファイドを含む樹脂組成物を成形する際に特に有用である。熱可塑性樹脂組成物は、添加剤として、充填剤、滑剤、核剤、透明化剤、可塑剤、紫外線防止剤、顔料、染料、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤等を含むことができ、これらの添加剤の1つ以上と、熱可塑性樹脂とを混練して熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
二の実施形態は、溶融した熱可塑性樹脂を金型に送り込み、これを冷却することにより成形する、射出成形に適用することができる。射出成形は、上述したように、たとえば図1に示された射出成形機やその変形を用いて行うことができる。本実施形態において、図1の金型ガスベント54を介してキャビティ53から排出されるガスを捕集することができ、その総量を、c[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]とする。ここでガスベント部にて捕集されるガスの総量cの単位は、キャビティ53に1ショットで射出される熱可塑性樹脂組成物1gあたりのガス量をμg(マイクログラム)で表したものである。金型ガスベント54を介して捕集されるガスの分析は、上記特許文献2等に記載された方法により適宜行うことができる。金型ガスベント部で捕集されるガスを分析した結果、ガスベント部で捕集されるガスの総量cのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量をa[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]、(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量をb[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]とする。ここで、aおよびbの単位は、上記のcと同様であり、Tは金型温度を摂氏で表した値である。(T-20)℃以上(T+20)℃未満の沸点を有するガスは、上記のbにもaにも含まれることになる。したがって、a+bの値は、cと等しいか、あるいはcよりも大きくなる。ガスベント部にて捕集されるガスの総量cのうち、(T+20)℃未満の沸点を有するガスの量aならびに(T-20)℃以上の沸点を有するガスの量bは、たとえば、ガスベント部にて捕集されるガスを定性的および/または定量的に分析する分析装置、たとえばガスクロマトグラフィー(GC)を利用して測定することができる。
【0021】
実施形態において、上記のa、b、cは、以下の式1:
【数4】
にて表されるガス焼け発生リスクdの値が35以下を満たすようになっていることが好ましい。一の実施形態でも説明したが、ガス焼け発生リスクdを算出する式1は、本発明者らが、各種熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形を多数行い、発生したガスの量を都度分析し、これらの結果を回帰分析して導き出したものである。ガス焼け発生リスクdの値は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形する際に、成形品のガス焼けの発生を低減するための目安とすることができる。ガス焼け発生リスクdの値を35以下とするように、熱可塑性樹脂組成物の配合を検討し、a、b、cの値を調整することができる。ガス焼け発生リスクdの値の調整は、上記の一の実施形態で述べたのと同様に行うことができる。ガス焼け発生リスクdの値を35以下とするよう調整することにより、射出成形中のガス焼けを防ぎ、射出成形工程を効率良く行うことが可能となる。
【実施例0022】
[熱可塑性樹脂組成物の製造]
以下の成分を、2軸押出機TEX-30d(株式会社日本製鋼所)により310℃で溶融混練して、ペレット状のポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂組成物を得た。各PPS樹脂組成物の組成は、表1に示した。
<PPS樹脂組成物に用いた各成分>
PPS樹脂:株式会社クレハ フォートロンKPS
ガラス繊維:オーウェンスコーニングジャパン合同会社 チョップドストランドCS 03 JA FT636
アミノシラン:信越化学工業株式会社 γ-アミノトリエトキシシラン
滑剤:コグニスジャパン株式会社 ペンタエリスリトールステアリン酸エステル
炭酸カルシウム:東洋ファインケイカル製 ホワイトンP-30
酸化亜鉛ウィスカー:松下アムテック株式会社 パナテトラWZ-0531P
窒化硼素:水島合金鉄株式会社 窒化硼素
EGMA:住友化学株式会社 ボンドファースト7L(エチレン-グリシジルメタクリレートコポリマー、グリシジルメタクリレート含量3%)
EGMA:住友化学株式会社 ボンドファースト7M(エチレン-グリシジルメタクリレートコポリマー、グリシジルメタクリレート含量6%)
EGMA-gBA/MMA:日油株式会社 モディパーA4300(エチレン-グリシジルメタクリレートコポリマーにアクリル酸ブチル-メタクリル酸メチルコポリマーをグラフト重合させたもの)
エチレン-オクテン共重合体:ダウケミカル日本株式会社 Engage8440
【0023】
[射出成形およびガス分析]
熱可塑性樹脂組成物を、図1に示したような射出成形機(FANUC株式会社)を用いて連続で射出成形を行い、成形片を得た(条件:シリンダ温度320℃、金型温度140℃、射出速度13cm/秒)。射出成形機を所定時間稼働させ、熱可塑性樹脂組成物を金型部分から発生するガスを、排出ガス捕集管を用いて真空捕集した。発生したガスの量をガスクロマトグラフィ(GC、使用カラム:アジレント・テクノロジー株式会社DB5-MS、昇温速度10℃/分)により分析した。GCチャートのリテンションタイムが16分未満の成分を低沸点成分とし、GCチャートのピーク面積から低沸点成分の量を算出した。一方リテンションタイムが12分以上の成分を高沸点成分とし、高沸点成分の量を算出した。最後に、所定時間内に金型部分から捕集されたガスの量を所定時間内に射出成形された成形片の合計重量で除してc[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]を求め、低沸点成分の量を所定時間内に射出成形された成形片の合計重量で除してa[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]を求め、さらに高沸点成分の量を所定時間内に射出成形された成形片の合計重量で除してb[μg/熱可塑性樹脂組成物1g]を求めた。
【0024】
[ガス焼け発生評価]
上記の条件にて連続で射出成形を行い、得られた成形片にガス焼けが発生し始めたショット数を計測した。ガス焼け発生ショット数が大きいことは、射出成形の回数を経てもなかなかガス焼けが発生しないことを意味し、一方、ガス焼け発生ショット数が小さいことは、連続射出成形の早い段階でガス焼けが発生し始めることを意味する。
【表1】
【0025】
表1より、ガス焼け発生リスクdの値が35以下になるようにした実施例1~3は、射出成形において、ガス焼け発生までのショット数が多い。一方、ガス焼け発生リスクdの値が35を超える比較例1~5は、ガス焼け発生までのショット数が少ない。比較例1~5は、熱可塑性樹脂組成物の成分としてエラストマー成分を含有している。特許文献2にも記載したように、熱可塑性樹脂組成物中に含有されたエラストマー成分の種類により射出成形中に発生するガスの種類が変わるため、金型内部等に付着するモールドデポジットの種類や量も変わる。エラストマー成分の種類と配合量とを工夫することにより、ガス焼け発生リスクdの値を低下させることができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、射出成形機および金型を用いて熱可塑性樹脂組成物を成形する際に、モールドデポジットを生じやすいガスの発生を防止して、ガス焼けのない外観に優れた樹脂成形品を歩留まりよく製造するための目安を提供することができる。
【符号の説明】
【0027】
11 ホッパ排出ガス捕集管
12 ノズル排出ガス捕集管
13 金型排出ガス捕集管
15 ホッパ排出ガス捕集部
16 シリンダ排出ガス捕集部
40 射出成形機
41 シリンダ
42 ホッパ
43 ガスベントノズル
44 ノズル
46 スクリュ
50 金型
54 金型ガスベント
100 熱可塑性樹脂組成物
101 付着物
図1