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  • 特開-膜厚モニタ 図1
  • 特開-膜厚モニタ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080029
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】膜厚モニタ
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/52 20060101AFI20220520BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220520BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220520BHJP
   H03H 9/19 20060101ALI20220520BHJP
【FI】
C23C14/52
H05B33/14 A
H05B33/10
H03H9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190966
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿充
(72)【発明者】
【氏名】小関 智光
(72)【発明者】
【氏名】我妻 美千留
(72)【発明者】
【氏名】市橋 素子
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
5J108
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG05
3K107GG32
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA03
4K029HA01
4K029KA01
5J108AA09
5J108BB02
(57)【要約】
【課題】成膜レートが比較的遅い場合でも、外乱の影響を受けずに薄膜の膜厚を高精度で連続してモニタすることができる膜厚モニタFMを提供する。
【解決手段】水晶振動子5の表側励振電極52と裏側励振電極53の間に電圧を印加して水晶振動子を励振させる励振手段62と、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量から膜厚を検出する検出手段63,64を備え、表側励振電極は、第1電極部52aと第2電極部52bを有し、第1電極部への成膜材料の付着を許容しないが、真空チャンバ1に存する部品から放射される熱線の第1電極部への透過を許容する第1カバー体7を備え、第1電極部と裏側励振電極の間に電圧を印加して検出した共振周波数の変化量を第1変化量、第2電極部と裏側励振電極の間に電圧を印加して検出した共振周波数の変化量を第2変化量とし、検出手段は、第1変化量と第2変化量の差を基に膜厚をモニタする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空成膜装置の真空チャンバ内に設置されて、真空雰囲気での成膜中に成膜材料を含む薄膜の膜厚をモニタするための膜厚モニタにおいて、
水晶基板の表裏両面に励振電極が形成される水晶振動子と、表側励振電極と裏側励振電極との間に所定周波数の交流電圧を印加してその電位差により水晶振動子を励振させる励振手段と、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量から膜厚を検出する検出手段とを備え、
表側励振電極は、互いに隔離された第1電極部と第2電極部とを有し、
第1電極部への成膜材料の付着を許容しないが、真空チャンバに存する部品から放射される熱線の第1電極部への透過を許容する第1カバー体を更に備え、
第1電極部と裏側励振電極との間に電圧を印加して検出した共振周波数の変化量を第1変化量、第2電極部と裏側励振電極との間に電圧を印加して検出した共振周波数の変化量を第2変化量とし、検出手段は、第1変化量と第2変化量の差を基に膜厚をモニタするように構成されることを特徴とする膜厚モニタ。
【請求項2】
前記表側励振電極から前記第1カバー体に向かう方向を上として、この第1カバー体の上面を覆う第2カバー体を更に備え、第2カバー体に、第1カバー体越しに第1電極部と第2電極部を臨む開口が形成され、第2カバー体に対して第1カバー体を相対移動させる移動手段を設けたことを特徴とする請求項1の膜厚モニタ。
【請求項3】
前記表側励振電極と前記裏側励振電極との間に印加する前記交流電圧の周波数が4MHz~100MHzの範囲に設定されることを特徴とする請求項1または請求項2項に記載の膜厚モニタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空成膜装置の真空チャンバ内に設置されて、真空雰囲気での成膜中に成膜材料を含む薄膜の膜厚をモニタするための膜厚モニタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の膜厚モニタとして、水晶振動子を利用したものが広く利用されている。このものは、水晶基板の表裏両面に励振電極が形成される水晶振動子と、表側励振電極と裏側励振電極との間に所定周波数の交流電圧を印加してその電位差により水晶振動子を励振させる励振手段と、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量から膜厚を検出する検出手段とを備える。真空チャンバ内での成膜中には、成膜材料を水晶振動子にも付着させ、検出手段により水晶振動子の共振周波数の変化から水晶振動子表面の膜厚を算出してこの膜厚を基板上の膜厚に換算することで、薄膜の膜厚を連続してモニタすることができる。なお、周波数は、一般に、4~6MHzの範囲に設定される。
【0003】
ここで、真空チャンバ内で実施される真空成膜処理によっては、例えば、基板や成膜材料を加熱するヒータなどの真空チャンバに存する部品から放射される熱線(真空チャンバ内に発生させたプラズマからのものも含む)によって水晶振動子が加熱されることがある。このように水晶振動子が加熱されると、共振周波数が成膜材料の付着によって変化したのか、または、水晶振動子が加熱されることに伴って変化したのかが区別できず、外乱の影響を受けて正確に薄膜の膜厚をモニタできない。なお、このような外乱の影響に伴う周波数の変化は、例えば、膜厚モニタ本体の周辺環境温度の変化やケーブルの距離の変化などに伴う静電容量の変化によって起こる場合がある。
【0004】
そこで、蒸着源を備える真空チャンバ内にて真空蒸着法により成膜する場合の膜厚モニタとして、真空チャンバ内に2個の水晶振動子を別々に配置したものが特許文献1で知られている。このものでは、蒸着源を主たる熱放射源とし、一方の水晶振動子を蒸着源から飛散する成膜材料が付着すると共に蒸着源からの熱線の照射を受けるように配置し、他方の水晶振動子を蒸着源からの熱線の照射のみを受けるように配置し、両水晶振動子の共振周波数の変化量の差分により膜厚をモニタしている。このとき、真空チャンバ内に例えば二枚の反射板を配置して、他方の水晶振動子を蒸着源からの熱線の照射のみを受けるようにしている。然し、水晶振動子の水晶基板には、その製造方法から、厚みやカット角のばらつきに起因した個体差が存在し、しかも、各水晶基板の取付状態によっても温度特性がずれる場合がある。このように各水晶基板の間で温度特性がずれていると、正確に薄膜の膜厚をモニタできない場合がある。
【0005】
また、真空蒸着法により所定の薄膜を成膜するのに際して、0.01Å/s以下、場合によっては、0.001Å/s程度の非常に遅い成膜レートで成膜することがある。このような場合、水晶振動子表面への単位時間当たりの成膜材料の付着量が微量であり、共振周波数の変化も極めて小さくなる。このため、上記従来例のように2個の水晶振動子を別々に配置していると、成膜中には蒸着源以外からも熱が放射されることから、放射される熱線が各水晶振動子に等しく入射されない場合があり、これでは、結局、薄膜の膜厚を高精度で連続してモニタすることができないという問題を招来する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-117397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、成膜レートが比較的遅い場合でも、外乱の影響を受けずに薄膜の膜厚を高精度で連続してモニタすることができる膜厚モニタを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、真空成膜装置の真空チャンバ内に設置されて、真空雰囲気での成膜中に成膜材料を含む薄膜の膜厚をモニタするための本発明の膜厚モニタは、水晶基板の表裏両面に励振電極が形成される水晶振動子と、表側励振電極と裏側励振電極との間に所定周波数の交流電圧を印加してその電位差により水晶振動子を励振させる励振手段と、水晶振動子の重量変化に伴う共振周波数の変化量から膜厚を検出する検出手段とを備え、表側励振電極は、互いに隔離された第1電極部と第2電極部とを有し、第1電極部への成膜材料の付着を許容しないが、真空チャンバに存する部品から放射される熱線の第1電極部への透過を許容する第1カバー体を更に備え、第1電極部と裏側励振電極との間に電圧を印加して検出した共振周波数の変化量を第1変化量、第2電極部と裏側励振電極との間に電圧を印加して検出した共振周波数の変化量を第2変化量とし、検出手段は、第1変化量と第2変化量の差を基に膜厚をモニタするように構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、表側励振電極に成膜源から飛散する成膜材料が直接付着する真空成膜装置の真空チャンバ内の所定位置に水晶振動子を予め配置しておく。そして、真空雰囲気で成膜処理中には、励振手段により表側励振電極と裏側励振電極との間に電圧を印加してその電位差により水晶振動子を励振させる。ここで、真空チャンバに存する部品から放射される熱線によって水晶振動子が加熱されると、成膜材料の付着によって共振周波数が変化したのか、または、水晶振動子の加熱に伴って共振周波数が変化したのかの判別ができず、特に、成膜レートが比較的遅いことで成膜材料の水晶振動子への単位時間当たりの付着量が微量である場合、精度よく膜厚をモニタできない虞がある。そこで、本発明においては、単一の水晶基板に形成される表側励振電極を互いに隔離された第1電極部と第2電極部とに分け、表側励振電極側の面を覆うように第1カバー体を配置したため、熱線が水晶振動子に照射されたときに水晶振動子全体が同等の温度に加熱される(即ち、第1電極部と第2電極部とが等しく加熱される)。これにより、例えば、第1電極部または第2電極部と裏側励振電極との間に交互に電圧を印加し、第1変化量と第2変化量の差から成膜材料の付着量を検出すれば、成膜レートが比較的遅い場合でも、上記従来例のような温度特性のずれや外乱の影響を受けずに、即ち、熱線照射による影響を確実に除去した状態で薄膜の膜厚を高精度で連続してモニタすることが可能になる。
【0010】
ところで、真空雰囲気での成膜中、第1カバー体表面にも成膜材料が付着、堆積して成膜材料を含む薄膜が形成される。このとき、薄膜の膜種によっては熱線の透過率が低下する場合があり、これでは、薄膜の膜厚を高精度でモニタできない虞がある。そこで、本発明においては、前記表側励振電極から前記第1カバー体に向かう方向を上として、この第1カバー体の上面を覆う第2カバー体を更に備え、第2カバー体に、第1カバー体越しに第1電極部と第2電極部を臨む開口が形成され、第2カバー体に対して第1カバー体を相対移動させる移動手段を設けた構成を採用することができる。これにより、第1カバー体表面に形成される薄膜により熱線の透過率が低下した場合には、第2カバー体に対して第1カバー体を相対移動させ、薄膜が形成されていない第1カバー体の表面を露出させることで、常時、薄膜の膜厚を高精度で連続してモニタすることが可能になる。
【0011】
なお、本発明においては、前記表側励振電極と前記裏側励振電極との間に印加する前記交流電圧の周波数が4MHz~100MHzの範囲に設定されることが好ましい。これにより、0.01Å/s以下の比較的遅い成膜レートで成膜するような場合でも、水晶振動子の共振周波数の変化から感度よく薄膜の膜厚を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の真空蒸着装置を模式的に示す断面図。
図2】(a)は、本実施形態の検出装置の水晶振動子を示す平面図、(b)は、(a)のIIb-IIb線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、真空成膜装置をガラス基板(以下、「基板Sw」という)の一方の面に所定の薄膜を蒸着する真空蒸着装置Vmとし、この真空蒸着装置Vmに本発明の膜厚モニタを適用した場合を例にその実施形態を説明する。以下において、上、下といった方向を示す用語は、真空蒸着装置Vmの設置姿勢である図1を基準にする。
【0014】
図1を参照して、Vmは、本実施形態の真空蒸着装置である。真空蒸着装置Vmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力に真空排気して真空雰囲気を形成することができる。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で搬送することができる。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。
【0015】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと後述の蒸着源4との間には、板状のマスクプレート3が設けられている。マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送される。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて蒸着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに成膜(蒸着)される。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、基板Swに対向させて処理ユニットとしての蒸着源4が設けられている。
【0016】
蒸着源4は、成膜材料41を収容する坩堝42を有する。成膜材料41は、基板Swに成膜しようとする薄膜に応じて適宜選択され、金属や有機材料が用いられる。坩堝42は、鉛直方向上面を開口した有底筒状の輪郭を有し、モリブデン、チタン、ステンレスやカーボンなどの熱伝導が良く、高融点の材料から形成され、上面の開口から例えば粉末状の成膜材料41が充填できるようになっている。坩堝42の周囲には、シースヒータやランプヒータ等の公知のものからなる加熱手段43が設けられている。そして、真空雰囲気中の真空チャンバ1内で加熱手段43により坩堝42に収容された成膜材料41を加熱すると、昇華または蒸発した成膜材料41が坩堝42の上面開口から所定の余弦則に従い放出され、基板Swの下面にマスクプレート3の開口31越しに付着、堆積して成膜材料を含む所定の薄膜が成膜される。
【0017】
真空蒸着装置Vmは、コンピューター、メモリやシーケンサ等を備える制御ユニットCuを備え、制御ユニットCuは、例えば加熱手段43や真空ポンプの作動を統括制御するようになっている。制御ユニットCuはまた、タッチパネルディスプレイDpを備え、タッチパネルディスプレイDpを介して、例えば加熱手段43の加熱温度を設定し、または、設定値や真空チャンバ1内の圧力を表示することができる。そして、成膜中、成膜材料を含む薄膜の膜厚をモニタするために真空チャンバ1内には、本実施形態の膜厚モニタFMが設けられている。
【0018】
図2(a)及び(b)も参照して、膜厚モニタFMは、水晶振動子5と水晶振動子5の制御コントローラ6とで構成されている。水晶振動子5は、Φ5mm~14mmの外径を持つ水晶基板51を備え、その表裏両面には表側励振電極52と裏側励振電極53とが夫々形成されている。水晶基板51は、基板Swへの成膜は阻害しないが、表側励振電極52を形成した表面に、坩堝42の上面開口からみて所定の余弦則に従って放出された成膜材料が直接付着する真空チャンバ1内の位置に配置される。表側励振電極52及び裏側励振電極53としては、Au、Ag、PtやAlといった金属が利用され、真空蒸着法、スパッタリング法やメッキ法などの公知の方法で形成されている。
【0019】
表側励振電極52は、互いに隔離された第1電極部52aと第2電極部52bとに分けて形成され、これに対応させて、裏側励振電極53もまた、互いに隔離された第1電極部53aと第2電極部53bとに分けて形成されている。この場合、第1電極部53aと第2電極部53bの一部が、配線接続を考慮して水晶基板51の裏面に達するように形成されている。水晶基板51を真空チャンバ1内に設置した状態で水晶基板51の表面側(前方)には、水晶基板51の中心と同心に且つ上下方向の隙間を存して、円形の輪郭を持つ第1カバー体7が設けられ、水晶基板51の表面側をその全面に亘って覆う。第1カバー体7は、坩堝42や加熱手段(ヒータ)43等の真空チャンバ1に存する部品から放射される熱線の透過を許容する材料、例えば石英製である。第1カバー体7の所定位置には、表側励振電極52の第2電極部52bが臨む半円状の輪郭を持つ開口7aが形成されている。
【0020】
また、第1カバー体7の側面にはその全周に亘ってねじ山71が形成され、ねじ山71には、モータMoの回転軸Msに設けた歯車Dgが螺合している。そして、モータMoにより歯車Dgを回転駆動して第1カバー体7を中心回りに所定の回転角ずつ回転することができる。本実施形態では、モータMoや歯車Dgといった部品が、後述の第2カバー体8に対して第1カバー体7を相対移動させる移動手段を構成する。
【0021】
第1カバー体7の表面側(前方)には、第1カバー体7の中心と同心に且つ上下方向の隙間を存して、円形の輪郭を持つ第2カバー体8が設けられ、第1カバー体7の表面側をその全面に亘って覆うようにしている。第2カバー体8には、第1電極部52aと第2電極部52bの部分を臨む単一のスリット開口81が形成されている。これにより、第1電極部52aへの成膜材料の付着を許容しないが、真空チャンバ1に存する部品から放射される熱線の第1電極部52aへの透過を許容する一方、第2電極部52bへの成膜材料の付着と熱線への透過を許容する。
【0022】
制御コントローラ6は、筐体61を備え、筐体61内には、配線62a,62bを介して接続されて、表側励振電極52の第1電極部52aと裏側励振電極53の第1電極部53aとの間、及び、表側励振電極52の第2電極部52bと裏側励振電極53の第2電極部53bとの間に交互に所定周波数の交流電圧を印加してその電位差により水晶振動子5を励振させる励振手段としての励振回路62と、共振周波数を計測する周波数検出計63と、励振回路62の作動を制御すると共に、周波数検出計63で測定した共振周波数からその変化量を算出する制御部64とが設けられている。また、例えば、0.01Å/s以下の比較的遅い成膜レートで成膜するような場合でも、感度良く成膜レートをモニタできるように、励振回路62から表側励振電極52と裏側励振電極53との間に印加する交流電圧の周波数は、4~100MHzの範囲、より好ましくは27MHzに設定される。
【0023】
制御部64は、表側励振電極52の第1電極部52aと裏側励振電極53の第1電極部53aとの間に所定電圧を印加し、周波数検出計63で計測した共振周波数からその変化量を算出し、このときの変化量を第1変化量、表側励振電極52の第2電極部52bと裏側励振電極53の第2電極部53bとの間に所定電圧を印加し、周波数検出計63で計測した共振周波数からその変化量を算出し、このときの変化量を第2変化量とし、第1変化量と第2変化量の差を算出する。この場合、周波数検出計63と制御部64とは本実施形態の検出手段の構成要素となる。なお、励振回路62、周波数検出計63や制御部64としては公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0024】
制御コントローラ6の制御部64は、通信回線を介して真空蒸着装置Vmの制御ユニットCuに接続され、制御部64で算出された第1変化量と第2変化量の差が制御ユニットCuに出力される。そして、制御ユニットCuは、算出された第1変化量と第2変化量の差から水晶振動子5表面の膜厚を算出してこの膜厚を基板Sw上の膜厚に換算することで、薄膜の膜厚を連続してモニタすることができる。この場合、膜厚は、タッチパネルディスプレイDpに表示することができる。また、制御ユニットCuは、例えば、成膜積算時間を基準に、所定時間経過する度にモータMoにより歯車Dgを回転駆動して第1カバー体7を中心回りに所定の回転角ずつ回転させる。なお、水晶振動子マイクロバランス(Quartz crystal microbalance:QCM)を用いた膜厚モニタではLu、Lewisらによって導かれた式1を使用して膜厚が算出される。
【式1】
【0025】
上記式1において、ρは膜の密度、tは膜の厚さ、ρは水晶基板の密度、tは水晶基板の厚さ、Zは音響インピーダンス比、fは未成膜時の水晶基板の周波数及び、fは成膜後の水晶板の周波数である。
【0026】
以上の実施形態によれば、蒸着源4などの真空チャンバ1に存する部品から熱線が照射されたとき、第1電極部52aと第2電極部52bを含む水晶振動子5全体が同等の温度に加熱される(即ち、第1電極部52aと第2電極部52bとが等しく加熱される)。これにより、成膜レートが比較的遅い場合でも、上記従来例のような温度特性のずれや外乱の影響を受けずに、即ち、熱線照射による影響を確実に除去した状態(言い換えると、質量変化以外の変化をすべて差し引いた状態)で薄膜の膜厚を高精度で連続してモニタすることが可能になる。しかも、真空雰囲気での成膜中、第1カバー体7表面にも成膜材料が付着、堆積して成膜材料を含む薄膜が形成されたときには、第2カバー体8に対して第1カバー体7を相対移動させれば薄膜が形成されていない第1カバー体7の表面を露出させることができ、常時、薄膜の膜厚を高精度で連続してモニタすることが可能になる。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、真空処理装置として蒸着源4を備える真空蒸着装置Vmを例に説明したが、これに限定されるものではなく、スパッタリング法やイオンプレーティング法などで成膜する場合にも本発明の膜厚モニタFMは広く適用することができる。また、上記実施形態では、表側励振電極52に加えて裏側励振電極53も、第1電極部53aと第2電極部53bに分けて形成されるものを例に説明したが、電位差により水晶振動子5を励振できるものであれば、これに限定されるものではなく、単一のものとしてもよい。また、上記実施形態では、単一の水晶基板51に、表側励振電極52としての第1電極部52aと第2電極部52bとを一個ずつ設けたものを例に説明したが、第1電極部52aと第2電極部52bとを夫々複数個設けることもできる。
【0028】
また、上記実施形態では、第1カバー体7の側面にねじ山71を形成し、歯車Dgを介してモータMoにより回転駆動することで第2カバー体8に対して第1カバー体7を相対移動させるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、ラックピニオンやエアシリンダなど他の駆動手段を利用することができ、また、第1カバー体7に対して第2カバー体8を相対移動させるようにしてもよい。更に、上記実施形態では、第2カバー体8として単一のスリット開口81を形成したものを例に説明したが、第1電極部52aと第2電極部52bとが等しく加熱されるようにできるものであれば、これに限定されるものではなく、例えば、第2カバー体8に複数の開口を設けることもできる。
【0029】
更に、上記実施形態では、膜厚モニタFMとして、単一の水晶振動子5を真空チャンバ1内に配置するものを例に説明したが、ホルダ上に複数枚の水晶振動子5を設け、成膜される薄膜の膜厚が増加するのに従い、測定される共振周波数が所定範囲を超えて変化したときに、ホルダを回転させて次の水晶振動子5で更に膜厚をモニタできるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0030】
Dg…歯車(移動手段の構成要素)、FM…膜厚モニタ、Mo…モータ(移動手段の構成要素)、Vm…真空蒸着装置(真空成膜装置)、1…真空チャンバ、5…水晶振動子、51…水晶基板、52…表側励振電極、52a…第1電極部、52b…第2電極部、53…裏側励振電極、62…励振回路(励振手段)、63…周波数検出計(検出手段の構成要素)、64…制御部(検出手段の構成要素)、7…第1カバー体、8…第2カバー体、81…第2カバー体8の開口。
図1
図2