(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080043
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】支援システム及び支援方法
(51)【国際特許分類】
B01F 23/23 20220101AFI20220520BHJP
B01F 27/86 20220101ALI20220520BHJP
【FI】
B01F3/04 A
B01F7/16 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020190987
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀幸
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB07
4G035AB11
4G035AE19
4G078AA01
4G078BA05
4G078BA09
4G078CA08
4G078DA01
4G078EA10
4G078EA20
(57)【要約】
【課題】液体と気体とを混合するために用いる気液混合装置において、補助攪拌具を追加する場合の設置位置の決定を支援するシステム及び方法を提供する。
【解決手段】本発明の支援システムは、攪拌槽と、攪拌機と、バッフル板と、ガス供給管とを有する気液混合装置において、攪拌機に追加する補助攪拌具の設置位置決定を支援するものであり、攪拌槽の形状に関する第1情報と、攪拌機の種類と形状に関する第2情報と、攪拌槽内に供給する液体の種類及び供給量、攪拌槽内に供給する気体の種類及び供給量、並びに攪拌機に供給する動力を少なくとも含む参照情報とを取得する取得部と、第1情報、第2情報及び参照情報から補助攪拌具の設置位置を算出し、その設置位置候補を設定する設定部と、設置位置候補における気体と液体との混合率を気体及び液体の種類から流体解析を行って算出し、その設置位置における混合率を設置位置と共に出力する出力部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌槽と、気体及び液体を攪拌するための攪拌機と、該攪拌槽の内部に設けられたバッフル板と、該攪拌機より下方に配置されるガス供給管とを有する気液混合装置における、該攪拌機に追加する補助攪拌具の設置位置決定を支援する支援システムであって、
前記攪拌槽の形状に関する第1情報と、前記攪拌機の種類と形状に関する第2情報と、該攪拌槽内に供給する前記液体の種類及び供給量、該攪拌槽内に供給する前記気体の種類及び供給量、並びに該攪拌機に供給する動力を少なくとも含む参照情報とを取得する取得部と、
前記第1情報、前記第2情報及び前記参照情報から前記補助攪拌具の前記設置位置を算出し、該補助攪拌具の設置位置候補を設定する設定部と、
前記設置位置候補における前記気体と前記液体との混合率を該気体の種類及び該液体の種類から流体解析を行うことによって算出し、前記補助攪拌具の前記設置位置における該混合率を該設置位置と共に出力する出力部とを備える
支援システム。
【請求項2】
前記攪拌機は、攪拌軸と攪拌翼とを備え、
前記第2情報は前記攪拌翼の形状に関する第3情報を含み、
前記設定部は前記第3情報と前記参照情報とを用いて前記設置位置の範囲を算出し、
前記出力部は前記範囲と混合率とを共に出力する
請求項1に記載の支援システム。
【請求項3】
前記補助攪拌具の前記設置位置の変更指示をユーザから受けつける受付部を更に備え、
前記設定部は前記変更指示に基づいた混合率を算出する
請求項2に記載の支援システム。
【請求項4】
前記混合率を、該混合率に対応する複数の設置位置候補の情報と共にユーザが選択可能なように提示する提示部をさらに備える
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の支援システム。
【請求項5】
攪拌槽と、気体及び液体を攪拌するための攪拌機と、該攪拌槽の内部に設けられたバッフル板と、該攪拌機より下方に配置されるガス供給管とを有する気液混合装置における、該攪拌機に追加する補助攪拌具の設置位置決定を支援する支援方法であって、
前記攪拌槽の形状に関する第1情報と、前記攪拌機の種類と形状に関する第2情報と、該攪拌槽内に供給する前記液体の種類及び供給量、該攪拌槽内に供給する前記気体の種類及び供給量、並びに該攪拌機に供給する動力を少なくとも含む参照情報とを取得し、
前記第1情報、前記第2情報、及び前記参照情報から前記補助攪拌具の前記設置位置を算出し、該補助攪拌具の設置位置候補を設定し、
前記設置位置候補における前記気体と前記液体との混合率を該気体の種類及び該液体の種類から流体解析を行うことによって算出し、前記補助攪拌具の前記設置位置における該混合率を該設置位置と共に出力する
支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支援システム及び支援方法に関する。より詳しくは、気体と液体とを混合するために用いる気液混合装置において、補助攪拌具を追加する場合の設置位置の決定を支援する支援システム及び支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント等における化学反応のために、攪拌翼を用いて攪拌槽内の液状物の攪拌混合を行う混合装置が広く用いられている。このような混合装置においては、気体と液体との混合効率を高めるために、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、攪拌槽の中心に攪拌軸を垂下し、その攪拌軸の下端に攪拌翼を設けるとともに、攪拌翼の外方側近傍に配置されるように攪拌槽底部に固定した羽根を設けた混合装置が提案されている。特許文献1の混合装置によれば、攪拌槽の内壁面近傍で下方から上方への流れが生じ、この流れが中心部及びその近傍に集まって、中心部及びその近傍では上方から下方への流れが生じ、その底部において底部に固定した羽根により旋回流が半径方向への吐出流へと変換され、混合効率を高められることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、気液混合装置では、通常、攪拌槽の下部から気体を供給する。このとき、攪拌動力が弱い場合等に、気泡が攪拌槽の上部に至るまでに合一が進みすぎる場合があった。また、気泡が十分に拡散しない場合があった。このように、攪拌動力が弱い場合等には、攪拌槽全体として混合が十分でないことがあった。このため、気液混合装置の設計者や利用者等は、攪拌翼の変更等を検討するが、既存の施設に追加する場合の設置が難しい場合があった。
【0006】
本開示は、液体と気体とを混合するために用いる気液混合装置において、補助攪拌具を追加する場合の設置位置の決定を支援する支援システム及び支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
攪拌槽の内部にバッフルを設ける場合において、攪拌槽内の液状物の下部に発生する攪拌流が、攪拌槽内の液状物の上部に発生する循環流と相互に逆向きの回転方向を持って流れる場合がある。それらの流れの境界(以下、「循環流境界」ということもある。)において生じる攪拌槽の内壁から攪拌軸(攪拌槽中心)に向けた流れ(以下、「循環流境界流れ」ということもある。)が、攪拌槽の上部の循環流に属する液状物と下部の攪拌流に属する液状物との間で混合を阻害する場合がある。循環流境界における流れによる混合の阻害は、攪拌軸から攪拌槽の内壁に向けて延在する延在部を含む補助攪拌具によって抑制できる。補助攪拌具は、攪拌槽の形状や、攪拌機の種類及び形状、攪拌槽内に供給する液体及び気体の種類や供給量、動力等の条件により、その設置位置によって混合効果が異なることを見出した。具体的に、本開示は、以下のものを提供する。
【0008】
(1)攪拌槽と、気体及び液体を攪拌するための攪拌機と、該攪拌槽の内部に設けられたバッフル板と、該攪拌機より下方に配置されるガス供給管とを有する気液混合装置における、該攪拌機に追加する補助攪拌具の設置位置決定を支援する支援システムであって、
前記攪拌槽の形状に関する第1情報と、前記攪拌機の種類と形状に関する第2情報と、該攪拌槽内に供給する前記液体の種類及び供給量、該攪拌槽内に供給する前記気体の種類及び供給量、並びに該攪拌機に供給する動力を少なくとも含む参照情報とを取得する取得部と、
前記第1情報、前記第2情報、及び前記参照情報から前記補助攪拌具の前記設置位置を算出し、該補助攪拌具の設置位置候補を設定する設定部と、
前記設置位置候補における前記気体と前記液体との混合率を該気体の種類及び該液体の種類から流体解析を行うことによって算出し、前記補助攪拌具の前記設置位置における該混合率を該設置位置と共に出力する出力部とを備える、
支援システム。
【0009】
(2)前記攪拌機は、攪拌軸と攪拌翼とを備え、
前記第2情報は前記攪拌翼の形状に関する第3情報を含み、
前記設定部は前記第3情報と前記参照情報とを用いて前記設置位置の範囲を算出し、
前記出力部は前記範囲と混合率とを共に出力する、
(1)に記載の支援システム。
【0010】
(3)前記補助攪拌具の前記設置位置の変更指示をユーザから受けつける受付部を更に備え、
前記設定部は前記変更指示に基づいた混合率を算出する、
(2)に記載の支援システム。
【0011】
(4)前記混合率を、該混合率に対応する複数の設置位置候補の情報と共にユーザが選択可能なように提示する提示部をさらに備える、
(1)乃至(3)のいずれかに記載の支援システム。
【0012】
(5)攪拌槽と、気体及び液体を攪拌するための攪拌機と、該攪拌槽の内部に設けられたバッフル板と、該攪拌機より下方に配置されるガス供給管とを有する気液混合装置における、該攪拌機に追加する補助攪拌具の設置位置決定を支援する支援方法であって、
前記攪拌槽の形状に関する第1情報と、前記攪拌機の種類と形状に関する第2情報と、該攪拌槽内に供給する前記液体の種類及び供給量、該攪拌槽内に供給する前記気体の種類及び供給量、並びに該攪拌機に供給する動力を少なくとも含む参照情報とを取得し、
前記第1情報、前記第2情報、及び前記参照情報から前記補助攪拌具の前記設置位置を算出し、該補助攪拌具の設置位置候補を設定し、
前記設置位置候補における前記気体と前記液体との混合率を該気体の種類及び該液体の種類から流体解析を行うことによって算出し、前記補助攪拌具の前記設置位置における該混合率を該設置位置と共に出力する、
支援方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、気体と液体とを混合するために用いる気液混合装置において、補助攪拌具を追加する場合の設置位置の決定を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】設計の対象となる気液混合装置の横断面模式図。
【
図2】本実施形態に係る支援システムの一例を示す構成図。
【
図3】本実施形態に係る支援システムで行われる処理の流れの一例を示す図。
【
図6】本実施形態に係る支援システムの出力結果の例。
【
図7】気液混合装置内で気体と液体とを攪拌した際に生じる流れを示す模式図。
【
図8】本実施形態に係る補助攪拌具の取り付け器具の模式図。
【
図9】本実施形態に係る補助攪拌具の模式図、(a)上面模式図、(b)側面模式図。
【
図10】補助攪拌具の候補一覧の提示画面の一例を示す図。
【
図11】循環流境界の算出方法について説明するための気液混合装置1の縦断面模式図。
【
図12】本実施形態の変形例の処理の流れの一例を示す図。
【
図13】本実施形態のハードウェア構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、各図面において同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0016】
本実施形態において、固体、液体、気体(ガス)、とは、物質の三態そのものをいう。液状物は、(純粋な)液体、ガス(ガス供給管から導入されたガスも含む)を含む液体、溶液及びスラリーを含む場合がある。
【0017】
≪支援システム及び支援方法≫
〔気液混合装置の概要〕
まず、本実施形態に係る支援システム及び支援方法の設計対象である気液混合装置の概要について説明する。この気液混合装置は、攪拌槽と、攪拌機と、バッフル板と、ガス供給管とを備える。攪拌槽に液体または液状物を収容し、ガスを供給して気液混合を行うものである。ここで、攪拌槽内の液状物の下部に発生する攪拌流が、攪拌槽内の液状物の上部に発生する循環流と相互に逆向きの回転方向を持って流れる場合がある。それらの境界(以下、「循環流境界」ということもある。)において生じる攪拌槽の内壁から攪拌軸(攪拌槽中心)に向けた流れ(以下、「循環流境界流れ」ということもある。)は攪拌槽の上部の循環流に属する液状物と下部の攪拌流に属する液状物との間で混合を阻害する。そこで、循環流境界における流れによる混合の阻害を抑制するために、攪拌軸から攪拌槽の内壁に向けて延在する延在部を含む補助攪拌具を設ける。
【0018】
一方で、既存の気液混合装置に追加で補助攪拌具を付けることは、支柱や治具等を含め既に設置されているものを避けて設ける必要がある。したがって、必ずしも最適な場所に設置できるとは限らない。本実施形態に係る支援システム及び支援方法では、気液混合の混合率を参考に、ユーザが所望の位置に選択することが可能なように、補助攪拌具の設置位置の決定を支援することができる。
【0019】
図1は、本実施形態に係る支援システムの設計対象である、気液混合装置の縦断面模式図である。
図1に示すとおり、気液混合装置1は、攪拌槽11と、攪拌機12と、バッフル板13(13a、13b)と、ガス供給管14と、補助攪拌具15を備えるものである。攪拌槽11には液状物Lが収容されている。攪拌機12は、攪拌軸121と、攪拌軸121に設けられる攪拌翼122とを有する。補助攪拌具15は、攪拌軸121上に設置され且つ攪拌軸121から攪拌槽11の内壁に向けて延在する延在部151を含む。
【0020】
このような気液混合装置1は液状物Lにガスを供給して、ガス中の成分を溶質、液状物L中の成分を溶媒とする溶液を得るために用いることができる。また、化学反応に用いる薬液を含む液状物Lにガスを供給して薬液とガス中の成分との間で生じる反応生成物を得るために用いることもできる。このように、気液混合装置1は、ガスと液状物Lを混合することを目的とする用途であれば、あらゆる用途に用いることができる。なお、気液混合装置1は、必要に応じて、攪拌槽11内に薬剤や溶媒等を供給するための供給機構を設けてもよい。
【0021】
〔支援システムの構成及び支援システムを用いた支援方法〕
次に、本実施形態に係る支援システムの構成及び支援システムを用いた支援方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る支援システム20の一例を示す構成図である。
図2に示すように、支援システム20は、必要に応じてユーザから補助攪拌具15の設置位置の変更指示を受け付けるための受付部22と、出力結果をユーザが選択可能なように提示する提示部23と、制御部21とからなる。制御部21には、攪拌槽11の形状に関する第1情報、攪拌機12の種類と形状に関する第2情報、攪拌槽11に供給される液体の種類及び供給量、気体の種類と供給量並びに攪拌機12に供給する動力を少なくとも含む参照情報を取得する取得部24と、第1情報、第2情報及び参照情報から補助攪拌具の設置位置を算出し、補助攪拌具の設置位置候補を設定する設定部25、設置位置候補における気体と液体との混合率を流体解析に基づいて算出し、補助攪拌具の設置位置における混合率を設置位置と共に出力する出力部26を備える。なお、攪拌槽11及び攪拌機12についての「形状」とは、形及びサイズ(寸法)を少なくとも含む。
【0022】
図3は本実施形態に係る支援システム20で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0023】
まず、取得部24は、攪拌槽11の形状に関する第1情報、攪拌機12の種類、形状に関する第2情報、攪拌槽11に供給される液体の種類と供給量、気体の種類と供給量及び攪拌機12に供給する動力を少なくとも含む参照情報を取得する(ステップ1001)。攪拌槽11及び攪拌機12の形状、材質等は予め用意されている記憶部等から取得する。同様に攪拌混合する液体と気体についてもその種類や物性値等を別途用意された記憶部から取得する。攪拌槽11へ供給する液体の供給量及び気体の量、攪拌機12の攪拌動力については、予め所定値を設定していてもよいし、受付部22からユーザの所望の値の入力を受け付けてもよい。
【0024】
次に、設定部25は、第1情報、第2情報及び参照情報から補助攪拌具15の設置位置を算出し、補助攪拌具15の設置位置候補を設定する(ステップ1002)。攪拌槽11における好ましい補助攪拌具15の設置位置の算出方法については後述するが、補助攪拌具15の設置位置は、攪拌槽11内の液状物(液体と気体との混合)の体積、攪拌槽11の径、攪拌翼122の径から算出することが可能である。
【0025】
また、補助攪拌具15を設置して気体と液体の混合率の向上に効果のあると考えられる補助攪拌具15の設置位置の範囲は、攪拌機12の回転数と攪拌翼122の形状(長さ)で算出することができる。したがって、取得部24では攪拌翼122の形状に関する第3情報を更に取得した上で、設定部25では第3情報と参照情報とを用いて設置位置の範囲を算出することが好ましい。
【0026】
次に、出力部26は、補助攪拌具15を設置する位置における、気体と液体との混合率に関して、流体解析を用いて算出する(ステップ1003)。流体解析とは、対象となる気体と液体との運動をナビエ・ストークスの式等を用いて、数値解析する方法をいう。具体的には、対象となる攪拌槽11の内部形状を離散化したモデルデータを作成する。例えば、攪拌槽11の内部を格子状に分割し、分割した小領域ごとに共通の関数で流体の入出力を算出する。この計算を繰り返し行うことによって対象となるモデル内での流体の動きを近似させる。結果として、各格子における液体と気体との割合、即ち混合率が算出できる。出力部26はこのように混合率を算出し、補助攪拌具15の設置位置と共に出力する(ステップ1005)。
【0027】
なお、上述したようにして攪拌翼122の形状に関する第3情報を用いる場合には、出力部26は、設定位置の範囲に対応する混合率を、設定位置の範囲と共に出力してもよい。補助攪拌具15を設置して効果があると考えられる範囲、即ち、適正な設置位置の範囲が、追加したい補助攪拌具15の攪拌翼122の設置幅よりも大きい場合、補助攪拌具15の設置位置候補は複数存在し得る。例えば、
図4に示したように、補助攪拌具15の設置位置(S
s;(I))と適正な設置範囲の端部2か所((II)、(III))の位置を設置位置候補として設定する。出力部26は設定された設置位置候補が複数ある場合(ステップ1004)、設置位置候補毎に流体解析を行い、設置位置と混合率とを出力する。
【0028】
補助攪拌具15の設置位置は、例えば、ユーザから使用したい補助攪拌具15の形状とサイズについての情報を受け付けておき、複数の設置位置候補からユーザが選択可能なようにしてもよい。例えば
図5のように、補助攪拌具15の最適な設置位置と、選択可能な設置候補を提示部23が提示する。また、例えば
図6のように提示した設置位置をユーザが選択することによって、設置位置で気体と液体との混合率を算出し、設置位置と共に出力してもよい。
【0029】
適切な補助攪拌具15をユーザが決めていない初期の段階など、支援システム20の初期設定として、例えば断面5cm角の棒状の治具を予め設定しておいて利用してもよい。初期設定の場合を例示することによって、ユーザは補助攪拌具15の形状の変更がしやすくなる。支援システム20はそのような形状の変更指示を受け付けて、再計算してもよい。
【0030】
〔補助攪拌具の設置の意義〕
以下では、
図7を用いて、循環流境界Bの形成メカニズムと補助攪拌具15の意義を説明する。
図7は、攪拌槽に液状物(液体と固体の混合物)を収容し、これを攪拌した際に生じる液状物の流れを示す模式図である。
【0031】
攪拌槽11の内部には、攪拌槽11内の液状物Lの攪拌と、液状物Lへのガスの供給と、攪拌槽11内に設けられたバッフル板13とによって、液状物Lの上部に循環流Cが、下部に攪拌流Sが発生する。そして、これらの流れによって、境界に内壁側から攪拌軸121への流れ(循環流境界流れ)が生じる。そして、この循環流境界流れによって、液状物の上部の循環流Cと下部の攪拌流Sとの間の混合が抑制され液体と液体の混合率が高いものとなりにくい。そこで、補助攪拌具15を設けて、液状物Lの上部の循環流Cと下部の攪拌流Sとの間の混合を促進する。
【0032】
まず、循環流境界Bが生成するメカニズムについて説明する。攪拌翼122が回転すると、攪拌槽11の下部に向かって液状物が吐出され、攪拌による流れが発生する。その攪拌による流れのうち攪拌軸121に平行な成分は、攪拌翼122から攪拌槽11の底面に向かう流れになる。また、攪拌軸121に垂直な成分は攪拌翼122から攪拌槽11の内壁に向かうが、この成分は攪拌翼122の回転方向の成分を持つ旋回流れである。
【0033】
攪拌による流れのうち攪拌槽11の底面に向かう主要な成分は、攪拌槽11の底面に衝突し、そのまま底面に沿って攪拌槽11の内壁に向かう流れとなる。そして、この流れが内壁に衝突すると、その後、内壁に沿って上方に向かう流れとなる。
【0034】
攪拌による流れのうち攪拌軸121に垂直な成分は、攪拌槽11の内壁に衝突した後、内壁に沿って攪拌羽根の回転方向に旋回する流れとなる。しかしながら、バッフル板13が設置されていることにより、バッフル板13と衝突して流れの方向が変わり、攪拌軸121に垂直な成分と合流し、上方に向かう上昇流となる。
【0035】
また、攪拌槽11内の液状物Lは、攪拌機12による攪拌によって攪拌槽11内を循環している。攪拌による流れのうち攪拌槽11の内壁に沿って上昇流となり、循環流境界Bに沿う流れとなり最終的に攪拌翼122の上部に到達する。この流れはそこから再度、攪拌槽11内を攪拌軸121方向に向かう流れとなって攪拌槽11の下部に向かって吐出される。攪拌槽11内の液状物Lが絶えず以上のことを繰り返して、循環する攪拌流Sを形成する。
【0036】
一方、ガス供給管14から供給されたガスは、攪拌槽11内の液状物L中で気泡となる。気泡には、周囲の液状物Lとの密度差によって浮力が生じる。ここで、攪拌による流れは、攪拌翼122からガス供給管14、ガス供給管14から攪拌槽11の底面、内壁、循環流境界B、循環流境界Bの攪拌軸121の近傍と進むにつれて流速が遅くなり、流れ中の気泡を分裂させる力(いわゆる剪断応力)も小さくなる。このようにして遅くなった攪拌による流れの中では、気泡同士が合一し、次第に気泡径が大きくなってゆく。気泡に生ずる浮力は、気泡の径の3乗に比例する。また、気泡と流れとの間に生ずる抗力は、気泡の径の2乗に比例する。したがって、気泡がある程度大きくなると、浮力が、攪拌槽11内の下降流の間に作用する抗力よりも強くなり、下降流を離れて気泡が浮上するようになる。下降流を離れて浮上する気泡が発生することによって、気泡に働く液の抗力の反作用が生じ、その気泡の周囲の流れは上昇流となる。したがって、攪拌軸121付近において、攪拌槽11の特定の高さを境界として、それよりも上部は上昇流、それよりも下部は下降流となる。このようにして、攪拌流Sの上部に攪拌軸121の近傍に生じる上昇流を含む攪拌流Sとは逆回転の循環流Cが形成される。この逆回転の循環流Cは、攪拌槽11の内壁近傍を経て、攪拌軸121へ流れる流れが攪拌流Sの上部の流れと接した状態となる。この浮力による循環流Cと攪拌流Sの接した部分に循環流境界Bが形成され、攪拌槽11から攪拌軸121に向けた循環流境界流れが生じる。そして、このような循環流境界流れは、攪拌槽11内の上部の循環流Cに属する液状物と、下部の攪拌流Sに属する液状物との間で混合を阻害する場合がある。
【0037】
そこで、攪拌軸121から攪拌槽11の内壁に向けて延在する延在部151を含む補助攪拌具15を設けて、攪拌軸121の回転にしたがい、攪拌翼122とともに回転させることにより、循環流境界流れを、この補助攪拌具15及びこの補助攪拌具15が生成する流れに衝突させて循環流境界流れとは異なる流れを作る。これにより、攪拌槽11内の液状物Lの上部と下部との間の混合を促進することができる。
【0038】
〔気液混合装置の具体的構成の一例〕
次に、気液混合装置1について、より詳細に説明する(
図1参照)。
【0039】
(攪拌槽)
攪拌槽11は、筒状の槽(容器)である。攪拌槽11は、少なくとも一方の端部(底面)が閉じており、その内部に液状物Lを収容可能である。一方で、他方の端部(上面)は、開いていても、閉じていてもよい。
【0040】
攪拌槽11の形状としては、上述したとおり特に限定されないが、流れによる滞留を防止する観点から、その底面形状は円形又は全ての角が90°以上である多角形のものを用いることが好ましい。
【0041】
上面(閉じている場合)及び底面としては、それぞれが平面となるものに限定されず、垂直方向に切断した縦断面図において上面や底面に曲率を有する部分を含むものや、上面や底面と内壁との間に曲率を有する部分を含むものを用いることができる。
【0042】
上述したとおり、液状物Lとしては、特に限定されず、溶液状の液を用いることも、溶媒に固形分が分散されたスラリー状の液を用いることもできる。薬液等としては、化学反応に寄与するもの、更には薬液の成分調整剤や化学反応に寄与しない微量の分散剤や界面活性剤なども含むこともできる。また、薬液等を含む液には溶剤や希釈液等の液も含むことができる。この内部で化学反応が生じる場合、その種類についても特に限定されない。
【0043】
(攪拌機)
攪拌機12は、攪拌槽11の上部より垂下した攪拌軸121と、その攪拌軸121に対して垂直に設けられた攪拌翼122と、攪拌軸121から攪拌槽11の内壁に向けて延在する延在部151を含む補助攪拌具15とを有するものである。攪拌機12は、例えばモーターを有し、このモーターの回転が攪拌軸121に伝達されて攪拌する、攪拌軸121が回転軸として回転することで、攪拌槽11に収容された液状物Lを攪拌して攪拌流を生じさせ、この攪拌流によってガス供給管14から供給されるガスと混合するものである。
【0044】
攪拌翼122としては、軸流を発生させ得るものであれば特に限定されず、具体的に、プロペラ翼や、パドル翼を用いることができる。また、攪拌翼122としては、軸ブレを防止するために、2枚以上の攪拌羽根から構成されるものを用いることが好ましい。例えば攪拌翼122としてプロペラ翼を用いる場合、羽根の数は3枚以上であってよい。また、攪拌翼122としてパドル翼を用いる場合、羽根の数は2枚以上であってよい。いずれの場合も、羽根の数は、例えば16枚以下であることが好ましいが、17枚以上であってもよい。
【0045】
また、攪拌軸121は、攪拌槽11の横断面図において、その中心が攪拌槽11の断面の中心と一致するように配置することが好ましい。
【0046】
(バッフル板)
バッフル板13(13a、13b)は、攪拌槽11内に配置されるものである。バッフル板13は、例えば攪拌槽11を上面視した場合に、その幅方向を、攪拌槽11の内壁側から攪拌槽11の中心に向けて、起立して配置されるものである。攪拌機12によって発生した液状物Lの流れは、主として水平方向に旋回する流れであるが、バッフル板13を用いることにより、垂直(上下)方向の流れをより強いものとすることができる。しかしながら、この垂直(上下)方向の流れが弱い場合、攪拌槽11の下部に発生する攪拌流が上部まで到達せずに、攪拌槽11の上部に発生する循環流と相互に逆向きの回転方向を持って流れる。この下部の攪拌流Sと、上部の循環流Cの境界(循環流境界)では、双方の流れはいずれも攪拌槽11から攪拌軸121へ向けて流れて強め合う。このようにして、循環流境界に発生した攪拌槽11から攪拌軸121への方向の強い流れ(循環流境界流れ)が、攪拌槽11の上部と下部の間の混合を阻害する。
【0047】
ここでバッフル板13の高さとは、攪拌槽11の長手方向における距離をいう。また、バッフル板13の幅とは、攪拌槽の内槽から中心軸へ向かう方向におけるバッフル(邪魔板)の幅をいい、攪拌槽11を上面視した場合のバッフル板13の面の水平方向の長さである。
【0048】
バッフル板13の高さとしては、特に限定されないが、攪拌槽11の底面から液面までの距離である、液状物Lの液高さより高いものを用いることが好ましい。なお、バッフル板13は底面に接して配置しなくてもよい。
【0049】
バッフル板13としては、1つ又は複数を用いることができる。攪拌槽11内の攪拌効率をさらに高める観点から、バッフル板13を複数用いることが好ましい。バッフル板13を複数用いる場合、攪拌槽11内の攪拌効率をより一層高める観点から、攪拌槽11を上面視した場合において、均等間隔に配置することが好ましい。
【0050】
なお、バッフル板13は、攪拌槽11の内壁や底部に必ずしも接触している必要はなく、攪拌槽11の内壁や底部から離間していてもよい。
【0051】
(補助攪拌具)
補助攪拌具15は、攪拌軸121上に配置され且つ攪拌軸121から攪拌槽11の内壁に向けて延在する延在部151を含むものである。補助攪拌具15は、少なくとも攪拌軸121の攪拌翼122よりも上方の部分に延在部151が配置される。
【0052】
ガス供給管14のガス供給口より供給された気泡は、攪拌により攪拌槽11内の液状物Lの流れに乗って、最終的に、攪拌軸121近傍で気泡の合一が進む。成長した気泡が持つ浮力が、攪拌槽11内で下降する流れ(近傍範囲に生じる有効流れ)によって生じる抗力よりも大きい場合に、攪拌槽11内には内壁側から攪拌槽11の中心軸側への流れが安定的に発生する。この循環流境界流れは、せん断力をほぼ有しないため、この流れを境界として、液状物Lの上部と下部との間では混合がほぼ行われない(
図7参照)。
【0053】
そこで、補助攪拌具15を設けて、攪拌軸121の回転にしたがって攪拌翼122とともに回転させる。これにより、循環流境界流れを、この補助攪拌具15及び補助攪拌具15の延在部151が回転することによって生ずる流れに衝突させ、その部分で混合しつつ、かつ循環流境界流れとは異なる上下方向の流れとする。上方向の流れは槽上部の循環流Cと混合し、下方向の流れは槽下部の攪拌流Sと混合する。したがって、攪拌槽11内の液状物Lの上部と下部との間の混合を促進することができる。
【0054】
補助攪拌具15としては、攪拌槽11、攪拌軸121、攪拌翼122等の形状や大きさ、補助攪拌具15を設置するときの回転動力の増加等を考慮して適宜設計することができる。
【0055】
補助攪拌具15の質量としては、特に限定されないが、初期の攪拌動力を上げずに攪拌効率を高める観点から、攪拌軸121と攪拌翼122の合計質量の1/2以下であることが好ましい。ただし、攪拌軸121が回り始めれば大きな攪拌動力を要しないので、補助攪拌具15の質量は、攪拌軸121と攪拌翼122の合計質量の1/2超であってよい。
【0056】
図8は、補助攪拌具の取り付け器具の模式図である。
図8に示すように、補助攪拌具15としては、例えば攪拌軸121の周囲の少なくとも一部を覆う取り付け器具152において、外方側の面から延在するように延在部151を形成することができる。攪拌軸と延在部が一体をなして形成してもよい。
【0057】
補助攪拌具15の形状としては、攪拌軸121を中心とする円盤状以外のもので、特に限定されず、棒状、板状等や、棒状の部位を組み合わせたもの等のあらゆる形状のものであってよい。攪拌槽11内の液状物Lの上部の循環流Cと下部の攪拌流Sとをより効率的に混合する観点から、補助攪拌具15の攪拌軸121を回転軸として形成される回転体の体積を小さくすることが好ましい。例えば、矩形板状の補助攪拌具15の幅方向を、攪拌槽11の上下方向に一致させて配置するよりも、矩形枠状(例えば「ロ」の字型)の補助攪拌具15の幅方向を、攪拌槽11の上下方向に一致させて配置する方が、回転体の体積が少なくなり好ましい。これにより、補助器具に必要な動力が少なくなる。ただし、棒状の補助攪拌具15を攪拌軸121に対して垂直に交差した状態で用いた場合、混合の効果が得られる範囲は攪拌槽11の上下方向に狭いものとなる。
【0058】
補助攪拌具15の数としては、1以上であれば特に限定されない。また、補助攪拌具15の大きさとしては特に限定されない。
【0059】
図9は、本実施形態に係る補助攪拌具の一例の模式図であり、(a)は上面模式図、(b)側面模式図である。なお、補助攪拌具15の「上面」、「側面」は、補助攪拌具15の設置状態において、攪拌槽11の「上面」、「側面」と一致する。
【0060】
図9に示す補助攪拌具15aは、取り付け器具152aから延在して一直線上に配置された2つの延在部151aを有するものであり、側面図(
図9(b))に示すとおり、2つの延在部151aは一の水平面に配置されている。
【0061】
ここで、
図10に、補助攪拌具15の候補一覧の提示画面の例を示す。例えば、予め補助攪拌具15の候補をデータベース(DB)に格納しておき、ユーザの要求に応じて、
図10に示すような候補の一覧を画面(候補一覧提示画面50)に提示し、ユーザの選択によって補助攪拌具15を設定してもよい。また、補助攪拌具15の形状だけを参照し、攪拌槽11等のサイズに合わせて、補助攪拌具15の大きさや長さを入力するように促してもよい。なお、
図10は、上述のように補助攪拌具15の候補一覧の提示画面を示すものであるが、補助攪拌具15の他の形状例も示しており、説明の便宜上、
図9に示す補助攪拌具15aと同様に、他の形状の補助攪拌具15の符号を「15b」~「15g」とし、それぞれの、延在部151の符号を「151b」~「151g」とし、取り付け器具152の符号を「152b」~「152g」として示している。
【0062】
(ガス供給管)
ガス供給管14は、攪拌翼122より下方に配置され、ガス供給口からガスを供給するものである。ガス供給管14は、少なくとも攪拌槽11の内部にガス供給口を有するものである。
【0063】
ガス供給管14のガス供給口より供給されたガスは、液中で気泡となり、それにより浮力が生ずる。循環流境界流れを安定した位置に定常的に存在させるためには、ガス供給管14近傍では気泡に生ずる浮力を小さい状態に保つこと、及び攪拌機12による攪拌による循環流れに乗せることが好ましい。気泡径が小さいほど浮力は小さくなるが、そのためには気泡をガス供給管14近傍で攪拌流に乗せることが好ましい。そのため、ガス供給管14の位置としては、攪拌翼122の下方に配置することが好ましい。
【0064】
また、ガス供給管14は、単数又は複数の配管等のガス供給口を備えてよい。液状物Lに供給されたガスを気泡として効率良く分散させ、循環流境界流れを高さ方向に偏りが少ないように発生させるために、ガス供給管14としては、リング型スパージャーを用いることが好ましい。なお、ガス供給管14は、攪拌軸121を中心にガスを供給できればその形状は問わない。
【0065】
ガス供給量としては、特に限定されないが体積基準で、液状物Lの量に対して、毎秒1/100000以上1/100以下であることが好ましく、1/50000以上1/200以下であることがより好ましく、1/20000以上1/500以下であることがさらに好ましい。
【0066】
ガスの種類としては、特に限定されず、例えば空気、窒素、酸素等のガスを、液状物L中で所望する化学反応に応じて用いることができる。なお、液状物L中で薬液等を含む液とガスとの間でのみ反応する、直接的な薬剤として機能するガスの他に、液状物L中での化学反応に影響を与える形で反応に寄与する、反応助剤として機能するガスを含むこともできる。例えば、液状物L中での化学反応において、液状物L中の溶存酸素がこの化学反応に影響する場合、ガス供給管14より窒素を供給して溶存酸素量を低下させることで、その影響を低減させる場合における窒素がこれに相当する。
【0067】
(薬液等添加部)
気液混合装置1は、その用途に応じて、薬液等添加部を備えてもよい。薬液等添加部は薬液等を、攪拌槽11の液状物L中に添加するものである。
【0068】
薬液は、液状の溶液やスラリー等、又は固形物を含んだ液など、所望する化学反応に応じたものを含有させたものを使用することができる。また、薬液の成分調整剤や化学反応に寄与しない微量の分散剤や界面活性剤なども含むこともできる。
【0069】
〔補助攪拌具の最適位置及び適正設置範囲の算出〕
ここで、補助攪拌具を攪拌機に追加で設置する場合に適正な位置(最適位置)及び適正設置範囲は例えば以下の方法によって算出できる。最適位置及び適正設置範囲は、攪拌槽11内に供給する液状物Lの種類及び供給量、ガス供給管14より攪拌槽内に供給するガスの種類及び供給量、並びに攪拌動力から算出される。設置位置は、補助攪拌具15の鉛直方向(攪拌槽11の高さ方向)の位置である。最適位置としては、例えば循環流境界が挙げられる。循環流境界の位置(攪拌槽11の底部からの高さ)の算出方法について、以下、
図11を用いて詳細に説明する。
図11は、循環流境界の算出方法について説明するための気液混合装置の縦断面模式図である。なお、「最適」及び「適正」は、計算上の「最適」及び「適正」を意味する。
【0070】
まず、攪拌槽11の内壁側の循環流境界高さをS
sとし、攪拌軸121側の循環流境界の高さをS
eとする。なお、循環流境界の高さは、攪拌槽11の底部からの距離とする。攪拌槽11の内壁側の循環流境界の高さS
s及び攪拌軸121側の循環流境界の高さS
eの差をyとすると、攪拌軸121側の循環流境界の高さS
eは、
【数1】
と表すことができる。
【0071】
ここで、発明者の実験により、攪拌軸からの距離r
3における流速vを
【数2】
で表すと仮定し、反応槽内の代表流速をV
2とした場合に、
【数3】
と表すことができることが分かった。式(3)を用いた場合、高さS
eは攪拌槽11の代表長Lの10%以内の誤差で推定可能である。
【0072】
なお、V
2は攪拌翼122からの吐出流量V
sと液状物の体積から算出ができ、吐出流量V
sは、d(攪拌槽11の径)とr
2(攪拌翼122の直径)に比例するため、
【数4】
で表すことができる。
【0073】
また、循環流境界流れは、攪拌槽11の底部から内壁に沿って生じた上昇する流れと、攪拌槽11の上部(液面)から内壁に沿って生じた下降する流れが合流する流れと捉えることも可能である。
【0074】
仮に、攪拌槽11の底面近傍での液状物の代表速度V
btmと液面での液状物の代表速度V
topとを流速計で測定できる場合、攪拌槽11内の液状物Lの高さ(液面の高さ)hと、攪拌槽11の底面から攪拌翼122の最上部までの高さimp
topとして、S
sを以下のように求めてもよい。
【数5】
【0075】
また、攪拌翼122の回転半径をr
2、攪拌翼122の回転数をωとすると、攪拌翼122から吐出される液状物Lの平均速度v
1は、攪拌翼122から吐出される吐出流量Vsを吐出面積πr
2
2で除した値(V
s/πr
2
2)である。一方、吐出流量Vsは、攪拌翼122の直径を2r
2としたとき、V
s∝ω×(2r
2)
3と表される。攪拌翼122が有する攪拌羽根の幅Hと枚数nを考慮し、吐出方向を下方のみとすると、
【数6】
として、式(4)又は(5)に代入し、V
2を算出する。
【0076】
また、適正設置範囲は、最適位置を含む範囲であり、補助攪拌具15を設置することにより攪拌槽11の上部と下部との間で混合する効果が得られる範囲をいう。適正設置範囲としては、例えば、攪拌翼122において、攪拌軸121から最端部までの水平方向の長さをr
j(cm)、回転速度ω(rpm)とした場合、補助攪拌具15の攪拌軸121の方向における設置高さの範囲は、循環流境界から上下それぞれ、
【数7】
以内の距離に配置することが好ましい。
【0077】
また、気泡を分裂させ、気泡の径を小さくする(小径にする)効果を十分得るには、補助攪拌具15端部の移動速度が、循環流境界の流れの流速よりも大きいことが好ましい。
【0078】
なお、一操業中(例えば、逐次反応の運転開始から停止までの間や、一つのバッチ反応中)に、攪拌羽根の回転数を変動させる、ガスの供給量を変動させる等、操業条件を変更する場合において、その条件変更による影響で、最適位置及び/又は適正設置範囲の高さが変化する場合を考慮してもよい。
【0079】
また、循環流境界の変動が起こりやすく、その変動がある程度の幅をもって変化するような条件で操業する場合であっても、補助攪拌具15を複数設けて一部の近傍範囲に配置することにより生ずる有効流れのみが循環流境界に接触するように配置(適正設置範囲)しても十分な混合効果が得られる。
【0080】
〔混合率の算出〕
以上のようにして決定した設置位置候補が複数存在する場合、それぞれの設置位置候補における気液混合率を、液状物Lの種類及び供給量、ガスの種類及び供給量、並びに攪拌翼122の動力から算出する。
【0081】
混合率は、液状物Lの種類及び供給量、ガスの種類及び供給量、並びに攪拌翼122の動力から算出するものであれば特に限定されない。混合率の算出には、攪拌槽11中は乱流状態であるため、これを正確に計算するDNS方式(ナビエ・ストークス方程式による直接数値計算)や、乱流方程式を用いることができる。乱流方程式としては、通常、攪拌槽の流れの計算に用いられる2方程式モデルから7方程式モデルのいずれのモデルも好適に用いることができる。
【0082】
≪変形例≫
設置位置の決定を支援する支援システムは、ユーザの指示に基づいて、指定された補助攪拌具の設置位置において、更に攪拌機12に用いる攪拌動力の変更をした場合に(ステップ2003)、混合率の算出を行って出力してもよい(ステップ2004)。
【0083】
図12は本実施形態の変形例に係る支援システム20で行われる処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0084】
まず、取得部24及び設定部25の処理の流れ(ステップ2001及びステップ2002)は上述した実施形態の支援システムの処理の流れ(ステップ1001及びステップ1002)と同じである。ここでは、ユーザの指示による設置位置の変更の他に、変更する場合を例示する。例えば、設置位置を変更し、更に攪拌動力を変更するなどといった場合である。
【0085】
例えば、システムが提示する最適位置に補助攪拌具15を設置することができずに、やむを得ず最適位置と異なる位置に設置する場合に、現状の条件で変更可能なものとして攪拌動力を変更することを想定する。
【0086】
出力部26は、ユーザの指示(ステップ2005)に基づいて、攪拌動力を上げた場合の気体と液体との混合率に関して、流体解析を用いて算出する(ステップ2006)。出力部26は混合率を算出し、補助攪拌具15の設置位置と共にユーザに提示する。
【0087】
最適位置及び適正設置範囲の算出及び結果の表示については、上述した実施形態における支援システムと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0088】
≪支援システムのハードウェア構成≫
次に、本実施形態の支援システム20のハードウェア構成について説明する。
図13は、本実施形態の支援システム20のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【0089】
本実施形態の支援システム20は、提示部80、通信I/F部81、CPU(Central Processing Unit)82、ROM(Read Only Memory)83、RAM(Random Access Memory)84及びHDD85等がバス86により相互に接続されており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。CPU82は、支援システム20の全体の処理を制御する演算装置である。RAM84は、CPU82による各種処理に必要なデータを記憶する。ROM83は、CPU82による各種処理を実現するプログラム等を記憶する。HDD85は、上述した各記憶部に格納されるデータを記憶する。通信I/F部81は、外部装置や外部端末に通信回線等を介して接続し、接続した外部装置や外部端末との間でデータを送受信するためのインタフェースである。提示部80は、上述した提示部23に相当する。例えば、表示装置と位置入力装置が組み合わさったタッチパネル式でもよいし、出力情報を表示部に提示させ、受付部22で別途ユーザの所望の選択位置を受け付けるようにしてもよい。
【0090】
本実施形態の支援システム20で実行される上記各種処理を実行するためのプログラムを、ROM83等に予め組み込んで提供されてもよい。
【0091】
本実施形態の支援システム20で実行される上記各種処理を実行するためのプログラムは、制御部21を介して、上述した各部(取得部24、設定部25、出力部26)を含むモジュール構成となっている。実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記ROM83等の記憶媒体から各プログラムを読み出して実行することにより上記各部が主記憶装置上にロードされ、取得部24、設定部25、出力部26が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0092】
なお、HDD85に格納されている各種情報、すなわち記憶部に格納されている各種情報は、外部装置(例えばサーバ)に格納してもよい。この場合には、その外部装置とCPU82とを、ネットワーク等を介して接続した構成とすればよい。
【0093】
なお、上記には、本開示のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1 気液混合装置
11 攪拌槽
12 攪拌機
121 攪拌軸
122 攪拌翼
13、13a、13b バッフル板
14 ガス供給管
15、15a、15b 補助攪拌具
151、151a、151b 延在部
151a、151b 取り付け器具
20 支援システム
21 制御部 22 受付部
23、80 提示部
24 取得部
25 設定部
26 出力部
50 補助攪拌具の候補一覧提示画面
81 通信I/F部
82 CPU
83 ROM
84 RAM
85 HDD
86 バス
L 液状物
S 攪拌流
C 循環流
B 循環流境界