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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080092
(43)【公開日】2022-05-27
(54)【発明の名称】イソインドリノン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/46 20060101AFI20220520BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20220520BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220520BHJP
【FI】
C07D209/46
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020191067
(22)【出願日】2020-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 元規
(72)【発明者】
【氏名】林 祐希
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優輔
【テーマコード(参考)】
4C204
4G169
4H039
【Fターム(参考)】
4C204BB04
4C204CB04
4C204DB30
4C204EB03
4C204FB01
4C204GB02
4C204GB11
4C204GB13
4C204GB19
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BE11B
4G169BE20A
4G169BE20B
4G169CB07
4G169CB25
4G169DA02
4H039CA42
4H039CH40
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生産効率の高いイソインドリノン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤の存在下、(1)で表されるアミド誘導体と、N-ホルミルサッカリンと、を接触させて、(2)の誘導体を得る。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、及び塩基の存在下、
下記式(1)で表されるアミド誘導体と、N-ホルミルサッカリンと、を接触させて、
下記式(2)で表されるイソインドリノン誘導体を得ることを含む、イソインドリノン誘導体の製造方法:
【化1】
式(1)において、
は、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基であり、
lは0~5の整数であり、
lが2以上の場合には、Rは同一の基であっても、異なる基であってもよく、さらに、R同士が結合して環を形成してよく、
は、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基であり、
mは0~4の整数であり、
mが2以上の場合には、Rは同一の基であっても、異なる基であってもよく、さらに、R同士が結合して環を形成してよく、
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基であり、
【化2】
式(2)において、
、R、R、及びlは、前記式(1)で表されるものと同義である。
【請求項2】
1モルの前記式(1)で表されるアミド誘導体に対する酸素の量が、0.1モル以上20モル以下となるように、前記酸素ガスの量を反応系内に供給する請求項1に記載のイソインドリノン誘導体の製造方法。
【請求項3】
1モルの前記式(1)で表されるアミド誘導体に対する前記コバルト触媒の量は、0.3モル以上1モル以下である請求項1又は2に記載のイソインドリノン誘導体の製造方法。
【請求項4】
カルボン酸、又はカルボン酸塩の存在下、前記式(1)で表されるアミド誘導体と前記N-ホルミルサッカリンとを接触させる請求項1~3のいずれか一項に記載のイソインドリノン誘導体の製造方法。
【請求項5】
1,4-ジオキサン、エタノール、t-ブチルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール、t-ブチルメチルエーテル、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、及びN,N-ジメチルイミダゾリジン-オンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒中で、前記式(1)で表されるアミド誘導体と前記N-ホルミルサッカリンとを接触させる請求項1~4のいずれか一項に記載のイソインドリノン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記塩基は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ピリジン、ルチジン、ジエチルアニリン、及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1~5のいずれか一項に記載のイソインドリノン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソインドリノン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソインドリノン誘導体は、種々の医薬品の製造中間体として用いられる有用な化合物である。その製造方法として、コバルト触媒、カルボン酸及び炭酸銀存在下、ベンジルアミン化合物から導いたベンジルピコリンアミド化合物と、アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)とを接触させる方法が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Advanced Synthesis and Catalysis 359、2017、3707-3712
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、生産効率の高いイソインドリノン誘導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態によると、イソインドリノン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、及び塩基の存在下、下記式(1)で表されるアミド誘導体と、N-ホルミルサッカリンと、を接触させて、下記式(2)で表されるイソインドリノン誘導体を得ることを含む。
【0006】
【化1】
【0007】
式(1)において、Rは、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基である。lは0~5の整数である。lが2以上の場合には、Rは同一の基であっても、異なる基であってもよく、さらに、R同士が結合して環を形成してよい。Rは、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基である。mは0~4の整数である。mが2以上の場合には、Rは同一の基であっても、異なる基であってもよく、さらに、R同士が結合して環を形成してよい。R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基である。
【0008】
【化2】
【0009】
式(2)において、R、R、R、及びlは、式(1)で表されるものと同義である。
【発明の効果】
【0010】
実施形態に係るイソインドリノン誘導体の製造方法によれば、イソインドリノン誘導体を高い生産効率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る製造方法は、コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、及び塩基の存在下、上記式(1)で表されるアミド誘導体(以下、「アミド誘導体」とも称する。)と、N-ホルミルサッカリンと、を接触させて、上記式(2)で表されるイソインドリノン誘導体(以下、「イソインドリノン誘導体」とも称する。)を得ることを含む。
【0012】
コバルト触媒を用いた反応においては、例えば、1価のコバルトイオン(Co)又は2価のコバルトイオン(Co2+)が、3価のコバルトイオン(Co3+)に酸化されることにより、C-H活性化反応を促進する。そこで、コバルト触媒を用いた反応では、1価又は2価のコバルトイオンの酸化を促進するために、酸化剤が配合されることがある。
【0013】
非特許文献1に記載のように、イソインドリノン誘導体の製造工程においては、この酸化剤として、炭酸銀(AgCO)が用いられてきた。しかしながら、炭酸銀は、強毒性であり、その取扱いには注意を要する。また、炭酸銀は、比較的高価な試薬である。したがって、炭酸銀を用いる方法では、イソインドリノン誘導体を安全に大量生産することは困難であった。
【0014】
このような問題に対して、本発明者らが鋭意研究した結果、イソインドリノン誘導体の製造工程において、酸素ガスを含む酸化剤を用いることで、炭酸銀を用いた場合とほぼ同等の収率を実現し得ることを見出した。酸素を含むガスは、反応により生成される不純物の量を低減することができ、かつ、環境への影響が小さい物質である。また、酸素含むガスのみを用いてイソインドリン誘導体を製造できる。さらに、酸素を含むガスのみを酸化剤として使用した場合、後処理工程等が容易になることから、酸素を含むガスのみを酸化剤として使用することは、高純度であることが要求されるイソインドリン誘導体の製造方法に適している。さらにまた、条件を検討すれば、酸素を含むガスのみを酸化剤として使用した場合であっても、炭酸銀を用いた場合と同等の収率を実現できる。
【0015】
したがって、実施形態に係る製造方法によると、イソインドリノン誘導体の生産効率を高め、ひいては、大量生産を実現し得る。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
<アミド誘導体>
アミド誘導体は、実施形態に係る製造方法における基質である。アミド誘導体は、下記式(1)で表わされる化合物である。
【0018】
【化3】
【0019】
式(1)において、Rは、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基である。
【0020】
において、アルキル基及びアルコキシ基の主鎖の炭素数は、1以上6以下であることが好ましい。アラルキル基の主鎖の炭素数は、7以上13であることが好ましい。アルコキシカルボニル基及びアルキルカルボニルオキシ基の主鎖の炭素数は、1以上12以下であることが好ましい。芳香環基を構成する元素数は、6以上12以下であることが好ましい。また、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、及び芳香環基に含まれ得る置換基は、メチル基、メトキシ基、ニトロ基、アミノ基、及びハロゲン基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。Rは、ハロゲン基であることが好ましく、ブロモ基であることがより好ましい。
【0021】
lは0~5の整数である。lが2以上の場合には、Rは同一の基であっても、異なる基であってもよく、さらに、R同士が結合して環を形成してよい。lは、0又は1であることが好ましい。
【0022】
は、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基である。
【0023】
において、アルキル基及びアルコキシ基の主鎖の炭素数は、1以上6以下であることが好ましい。アラルキル基の主鎖の炭素数は、7以上13であることが好ましい。アルコキシカルボニル基及びアルキルカルボニルオキシ基の主鎖の炭素数は、1以上12以下であることが好ましい。芳香環基を構成する元素数は、6以上12以下であることが好ましい。また、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、及び芳香環基に含まれ得る置換基は、メチル基、メトキシ基、ニトロ基、アミノ基、及びハロゲン基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
mは0~4の整数である。mが2以上の場合には、Rは同一の基であっても、異なる基であってもよく、さらに、R同士が結合して環を形成してよい。mは0又は1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0025】
、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ニトリル基、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアラルキル基、置換若しくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアルキルカルボニルオキシ基、又はヘテロ原子を含んでもよい置換若しくは非置換の芳香環基である。
【0026】
、R及びRにおいて、アルキル基及びアルコキシ基の主鎖の炭素数は、1以上6以下であることが好ましい。アラルキル基の主鎖の炭素数は、7以上13であることが好ましい。アルコキシカルボニル基及びアルキルカルボニルオキシ基の主鎖の炭素数は、1以上12以下であることが好ましい。芳香環基を構成する元素数は、6以上12以下であることが好ましい。また、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、及び芳香環基に含まれ得る置換基は、メチル基、メトキシ基、ニトロ基、アミノ基、及びハロゲン基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。R及びRの少なくとも一方は、アルキル基又は水素原子であることが好ましく、メチル基又は水素原子であることがより好ましい。Rは、水素原子であることが好ましい。
【0027】
アミド誘導体としては、合成したものを用いてもよく、市販のものを用いてもよい。
【0028】
上記式(1)で表わされるアミド誘導体としては、下記化学式で表わされる化合物を好ましいものとして挙げられる。
【0029】
【化4】
【0030】
上記アミド誘導体(1A~1D)は、非特許文献1記載の方法により製造できる。特に、アミド誘導体として上記式(1A)で表される(R)-N-(1-(4-ブロモフェニル)エチル)ピコリンアミドを用いると、下記式(2A)で表される(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンをイソインドリノン誘導体として得ることができる。(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンは、医薬品の製造中間体として特に有用である。
【0031】
【化5】
【0032】
<N-ホルミルサッカリン>
N-ホルミルサッカリンは、実施形態に係る製造方法において、アミド誘導体と反応する一酸化炭素(CO)及びエステルラジカルを生成する一酸化炭素源化合物(以下、「CO源化合物」とも称する。)として機能する。
【0033】
N-ホルミルサッカリンは、下記式(3)で表される。
【0034】
【化6】
【0035】
CO源化合物として、N-ホルミルサッカリンを用いると、実施形態に係る製造方法の安全性がより高まる。すなわち、N-ホルミルサッカリンは、例えば、他のCO源化合物の候補となり得るアゾ誘導体と比較して、より安価かつ低毒性で安全性が高い物質である。また、N-ホルミルサッカリンとアミド誘導体との反応は、アゾ誘導体とアミド誘導体との反応と比較して穏やかであり、発生するガスの量が少ない傾向にある。
【0036】
N-ホルミルサッカリンの使用量は、特に制限されるものではない。アミド誘導体1モルに対して、1~10モル使用することが好ましく、1~8モル使用することがより好ましく、1~5モル使用することが特に好ましい。
【0037】
<コバルト触媒>
アミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの接触は、コバルト触媒の存在下で行われる。コバルト触媒は、アミド誘導体に配位し、アミド誘導体と、N-ホルミルサッカリンから生成した一酸化炭素及びエステルラジカルとの反応を促進する。
【0038】
コバルト触媒としては、コバルトの酢酸塩を用いることが好ましい。コバルトの酢酸塩としては、Co(OAc)・4HOで表される酢酸コバルト・4水和物を用いることが好ましい。なお、コバルト触媒は、コバルトアセチルアセトナート、塩化コバルト、酸化コバルトでもよい。
【0039】
コバルト触媒の使用量は、特に制限されるものではない。アミド誘導体1モルに対して、0.05~3モル使用することが好ましく、0.1~2モル使用することがより好ましく、0.3~1モル使用することが特に好ましい。
【0040】
<酸化剤>
実施形態に係る製造方法においては、酸化剤として、酸素を含むガス(以下、「酸素ガス」とも称する。)を用いる。酸素ガスは、酸素を含む気体であれば特に制限されるものではない。具体的には、酸素ガスは、酸素濃度が1~100体積%の気体であればよく、好ましくは、20~100体積%の気体であればよい。また、酸素ガスを含む酸化剤として、例えば、空気(21体積%の酸素を含むガス)を用いてよい。1gのアミド誘導体に対する酸素を含むガスの量は、1mL~10000mLであればよく、好ましくは、10mL~1000mLであればよい。
【0041】
酸素ガスは、反応系内における酸素の量が、1モルのアミド誘導体に対して、0.1モル以上20モル以下となるように、酸素ガスの量を反応系内に供給することが好ましい。具体的には、耐圧容器内(反応系内)において、酸素の量が前記範囲を満足するような、酸素ガスを含む雰囲気下とすればよい。例えば、耐圧容器の全体積における雰囲気ガスが占める体積を確認し、その雰囲気ガスに含まれる酸素の量が前記範囲となるように調整することができる。酸素を含むガスは、反応系内の雰囲気ガスとして存在させることができる。そのため、耐圧容器内で圧縮した空気雰囲気下として、酸素の量を調整することもできる。また、反応に有機溶媒を使用する場合には、有機溶媒中に供給することもできる。酸素を含むガスのみを使用する場合も、酸素の量が上記範囲を満足することが好ましい。
【0042】
また、1モルのコバルト触媒に対する酸素の量は、0.01モル以上50モル以下であることが好ましく、0.1モル以上20モル以下であることがより好ましく、0.5モル以上15モル以下であることが更に好ましい。酸素を含むガスのみを使用する場合も、酸素の量が上記範囲を満足することが好ましい。
【0043】
酸化剤として、酸素ガスと、例えば、過炭酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム五水和物、炭酸銀等の他の酸化剤と、を併用して使用することもできる。ただし、酸素ガスと他の酸化剤とを併用して使用する場合には、他の酸化剤由来の不純物を除去する必要が生じる。本実施の形態のように酸素ガスを含む酸化剤を用いた場合には、他の酸化剤(過炭酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム五水和物、又は炭酸銀等の酸化剤)由来の不純物の生成を低減させることができ、後処理工程等が容易となるとともに、医薬品中間体として望まれる高純度のイソインドリン誘導体を製造し易くなる。
【0044】
なお、酸素ガスは、より高純度のイソインドリン誘導体を容易に製造するという目的を達成するために使用するものであり、他の酸化剤が僅かにでも含まれる場合を排除するものではく、当該目的を達成できるものである限り、「酸素ガスの存在下」には、酸素ガスのみが存在する場合に加えて、他の酸化剤を含む場合も含めてよい。ただし、他の酸化剤が含まれる場合は、その量は、0に近ければ近いほどよく、具体的には、1モルのアミド誘導体に対する他の酸化剤(過炭酸ナトリウム、炭酸銀、又は次亜塩素酸ナトリウム五水和物等の酸化剤等)の量は、好ましくは、0モル以上1モル未満であり、より好ましくは、0モル以上0.1モル以下であり、さらに好ましくは0モル以上0.01モル以下であり、0モルとすることが最適である。すなわち、後処理工程等を容易とし、かつ、より高純度のイソインドリン誘導体を得るという目的を達成するためには、酸素を含むガスのみを酸化剤として使用することが最適である。
【0045】
<塩基>
アミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの接触は、コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤に加えて、塩基存在下において実施される。反応系内に塩基が存在すると、N-ホルミルサッカリンからCOが発生しやすくなるため、反応をより促進させる。
【0046】
塩基としては、有機塩基及び無機塩基の何れを用いてもよい。有機塩基としては、アミン類を用いることが好ましい。アミン類の例には、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、ルチジン、ジエチルアニリン、及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7が含まれる。アミン類としては、アルキルアミン類を用いることが好ましい。アルキルアミン類の例には、トリエチルアミン、及びジイソプロピルエチルアミンが含まれる。無機塩基としては、アルカリ金属塩を用いることが好ましい。アルカリ金属塩の例には、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸水素カリウムが含まれる。塩基は、単一の種類のものを用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0047】
塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、ピリジン、ルチジン、ジエチルアニリン、及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。塩基としては、トリエチルアミン、及びジイソプロピルエチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0048】
1モルのアミド誘導体に対する塩基の量は、0.1モル以上100モル以下であることが好ましく、5モル以上50モル以下であることがより好ましく、10モル以上40モル以下であることが更に好ましい。
【0049】
1モルのN-ホルミルサッカリンに対する塩基の量は、0.1モル以上20モル以下であることが好ましく、0.5モル以上15モル以下であることがより好ましく、1モル以上10モル以下であることが更に好ましい。
【0050】
<カルボン酸、カルボン酸塩>
アミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの接触は、コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、及び塩基に加えて、カルボン酸、又はカルボン酸塩の存在下において実施されることが好ましい。カルボン酸、又はカルボン酸塩は、コバルト触媒の配位子となり、基質の脱水素反応を促進させる。なお、カルボン酸、又はカルボン酸塩は、それぞれ単独で使用することもできるし、併用して使用することもできる。
【0051】
カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、ピバル酸、アダマンタンカルボン酸、及びメシチレンカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。カルボン酸としては、ピバル酸を用いることが好ましい。
【0052】
カルボン酸塩としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、ピバル酸塩、アダマンタンカルボン酸塩、及びメシチレンカルボン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩を用いる。この塩は、特に制限されるものではないが、アルカリ金属からなる塩とすることが好ましい。その中でも、特に、ピバル酸塩を使用することが好ましく、具体的には、ピバル酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0053】
1モルのアミド誘導体に対するカルボン酸、又はカルボン酸塩の量は、1モル以上10モル以下であることが好ましく、1モル以上8モル以下であることがより好ましく、1モル以上5モル以下であることが更に好ましい。
【0054】
1モルのコバルト触媒に対するカルボン酸、又はカルボン酸塩の量は、0.1モル以上20モル以下であることが好ましく、1モル以上10モル以下であることがより好ましく、2モル以上6モル以下であることが更に好ましい。
【0055】
<有機溶媒>
コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、塩基、及び、任意成分であるカルボン酸又はカルボン酸塩存在下のアミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの接触は、有機溶媒中で実施されることが好ましい。
【0056】
有機溶媒としては、エタノール、t-ブチルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール等のアルコール類;1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル等のエ-テル類;クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類等;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF),N,N-ジメチルアセトアミド(DMA),N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルイミダゾリジン-オン(DMI)等のアミド類等を挙げることができる。これら有機溶媒は、単独で、又はこれらの混合溶媒として用いることができる。
【0057】
好ましくは、1,4-ジオキサン、t-ブチルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール、又はこれらの混合溶媒である。1,4-ジオキサンは、一酸化炭素の溶解力に優れるため、特に好ましい。また、t-ブチルアルコールは、上述したコバルト触媒や酸化剤等の反応剤を適度に溶解させる点、アミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの反応を促進させる極性を有している点、及び水素結合を通してアミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの反応を活性化する点等で優れるため、特に好ましい。
【0058】
有機溶媒の使用量は、特に制限されるものではない。1gのアミド誘導体に対して、有機溶媒を0.5~200mL使用することが好ましく、0.5~100mL使用することがより好ましく、1~100mL使用することがより好ましく、1~50mL使用することがより好ましく、1~10mL使用することがより好ましい。なお、反応溶媒として混合溶媒を使用する場合には、混合溶媒の全量が前記範囲を満足すれば良い。
【0059】
<イソインドリノン誘導体の製造法>
実施形態に係る製造方法においては、コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、塩基、及び任意成分の存在下、アミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとを接触させ、これらを反応させてイソインドリノン誘導体を得る。
【0060】
各成分を混合する方法は、特に制限されるものではない。例えば、撹拌機構を備えた反応容器内に、各成分を投入して混合する。各成分を反応容器内に投入する手順は、特に制限されない。有機溶媒中にアミド誘導体及びN-ホルミルサッカリンを溶解させた後、この溶解液にコバルト触媒、塩基及び任意成分を添加してもよい。
【0061】
反応容器は、密閉可能な耐圧容器であることが好ましい。これは、コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、塩基、及び任意成分の存在下でのアミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの反応においては、多量のガスが発生する可能性があるためである。
【0062】
なお、上記の反応は、反応容器を密閉した状態、すなわち密閉系で行うことが好ましい。N-ホルミルサッカリンより発生する一酸化炭素を反応に寄与させるためである。上記の反応を開放系で行う場合、或いは、反応中に密閉状態を解除した場合には、反応系外に流出した一酸化炭素を補充するために、N-ホルミルサッカリンを更に添加してもよい。N-ホルミルサッカリンの追加量は、反応の進行に応じて適宜定める。
【0063】
上記の反応は、高温下で実施されることが好ましい。反応温度は、10℃~200℃が好ましく、40℃~180℃であることが好ましく、80℃~170℃であることが特に好ましい。当該温度範囲で反応を実施することで、高収率かつ短時間で反応を進行させ得る。
【0064】
反応時間はイソインドリノン誘導体への転化率を確認し、反応を完結した際の時間に適宜決定すればよいが、通常、0.1時間以上48時間以下であればよく、好ましくは0.3時間以上36時間以下であり、特に好ましくは0.5時間以上24時間以下である。
【0065】
反応雰囲気は、特に制限されない。不活性ガス雰囲気下であってもよく、空気雰囲気下であってもよい。空気雰囲気下とした場合には、この空気を反応系内に存在させることを、酸素を含むガスを反応系内に供給することと同等と見なすことができる。空気雰囲気下における酸素の量を求める場合は、この空気(約21体積%の酸素を含むガス)を、酸化剤としての酸素を含むガスとして取扱い、空気中の酸素の量を求めればよい。あるいは、反応容器(耐圧容器)中に、別途、酸素を供給してもよい。
【0066】
反応終了後は、以下の方法でイソインドリノン誘導体を精製することが好ましい。先ず、反応液についてセライト濾過を行い、濾液を得る。反応液が高温である場合、室温まで冷却してからセライト濾過に供してもよい。セライト濾過後のろ紙をメタノールで洗浄し、洗浄後のメタノールを濾液に加えてもよい。このセライト濾過後の処理液は、イソインドリノン誘導体の他に、アミド誘導体及び副生成物を含み得る。副生成物は、例えば、芳香族ケトン類を含む。次に、得られた濾液を減圧乾燥し溶媒を除去して、残留物を得る。この残留物を溶媒に溶解させ、得られた溶液をシリカゲルクロマトグラフィーに供する。溶媒としては、例えば、n-ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を用いる。シリカゲルクロマトグラフィー後の溶液を減圧乾燥し溶媒を除去して、固形物を得る。この固形物は、イソインドリノン誘導体の他に、アミド誘導体を含み得る。
【0067】
上記セライト濾過後の処理液及び固形物において、イソインドリノン誘導体が占める割合は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により確認できる。
【0068】
イソインドリノン誘導体が合成されていることは、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析、赤外(IR)分光分析、及び融点測定により確認できる。
【0069】
<マイクロ波>
コバルト触媒、酸素ガスを含む酸化剤、塩基、及び任意成分の存在下、アミド誘導体とN-ホルミルサッカリンとの接触は、マイクロ波照射下で行われてもよい。マイクロ波照射を実施することにより、極めて短時間でイソインドリノン誘導体を製造できる。一般的には、マイクロ波照射により反応が加速される原理は、マイクロ波の照射によって形成された電場において、電界の変化に対して分子の双極子が追従して向きを変えることで激しい運動が起こり、結果として、分子同士の摩擦によって発熱するためであると考えられている。本発明の製造方法においては、マイクロ波照射により、反応基質である上記式(1)で表されるアミド誘導体、及び、上記式(2)で表わされるCO源化合物が直接活性化されることにより、上記式(3)で表わされるイソインドリノン誘導体を極めて短時間且つ高収率で製造できるものと推測される。
【0070】
また、従来の加熱方式が、外部の熱源からの熱の移動に依存するのに対し、マイクロ波の照射によると、被加熱物自身が発熱する。そのため、マイクロ波照射による加熱は、従来の加熱方式と比べて急速かつ均一な加熱が可能であり、温度制御が容易である。
【0071】
マイクロ波を照射するタイミングについては特に制限されないが、操作性の観点、及び反応の制御の観点から、各成分を混合し、所定の反応温度とした後、照射することが好ましい。また、本発明の製造方法は、マイクロ波の照射によって反応が促進される。従って、マイクロ波の照射時間は後述する反応時間を勘案して適宜設定すれば良い。
【0072】
マイクロ波照射機構を備えた反応装置は、マルチモード式とシングルモード式とに大別される。いずれの装置も本発明の製造方法に用いることができる。マルチモード式は電子レンジと同じ形式のものであり、箱型の装置内にサンプルを置き、マイクロ波を散布する方法である。一方、シングルモード式は導波管の中心部にサンプルを置く方法である。マイクロ波照射の制御が容易である点から、シングルモード式の反応装置を用いることが好ましい。また、反応容器については、反応中に一酸化炭素が生成するため、ホウケイ酸ガラスや石英ガラスなど、耐圧に優れた材質の反応容器を用いることが好ましい。
【0073】
マイクロ波の種類は特に制限されるものではなく、ミリ波、センチ波、極超短波等を用いることができる。用いるマイクロ波は、周辺の環境(周辺装置から発せられるマイクロ波との干渉)の点等を勘案して適宜決定すれば良い。また、マイクロ波の周波数も特に制限されるものではなく、300MHz~300GHzであることが好ましく、500MHz~50GHzであることがより好ましい。
【0074】
マイクロ波の照射強度は、特に制限はされず、用いる装置の性能等を勘案して適宜決定すれば良い。通常、1~300Wの範囲内であれば十分であり、1~20Wの範囲であることが好ましい。
【実施例0075】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、具体例であって、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0076】
<製造例1>
(アミド誘導体の合成)
以下の方法で、上記式(1A)で表される(R)-N-(1-(4-ブロモフェニル)エチル)ピコリンアミドを合成した。
【0077】
先ず、2.0g(10.0mmol)の(R)-(+)-1―(4―ブロモフェニル)エチルアミンと、1.48g(12.0mmol)のピコリン酸と、1.84g(12.0mmol)の1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物と、30mLのN,N-ジメチルホルムアミドとを混合し、室温にて撹拌した。撹拌後の溶液に、2.3g(12.0mmol)の1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩、及び、1.55g(12.0mmol)のN,N-ジイソプロピルエチルアミンを、この順で加え5時間撹拌して混合物を得た。
【0078】
この混合物に、30mLの水を加えて反応を終了させた。水を加えた混合物に、n-ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を加え、10分間攪拌した。混合溶媒における体積比は、n-ヘキサン:酢酸エチル=4:1であった。混合溶媒を加えた混合物に、400mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた後、無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥させた。無水硫酸マグネシウムを加えた後の混合物を、減圧下で乾燥して溶媒を除去して、結晶を得た。結晶の量は2.97gであり、収率は97%であった。
【0079】
結晶のNMR分光分析結果は下記のとおりであった。
H-NMR(400MHz,CDCl
δ:1.60(d,J=7.3Hz,3H)
5.26(m,1H)
7.28(m,2H)
7.45(m,3H)
7.85(dt,J=1.4Hz,7.8Hz,1H)
8.18(d,J=7.8Hz,1H)
8.30(br,1H)
8.55(d,J=4.6Hz,1H)。
【0080】
<実施例1>
(イソインドリノン誘導体の合成)
以下の方法で、上記式(2A)で表される(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンを合成した。
【0081】
<実施例1>
空気雰囲気下、耐圧容器(容量:30mL)に、製造例1の方法で製造した(R)-N-(1-(4-ブロモフェニル)エチル)ピコリンアミド(250mg,0.819mmol)、N-ホルミルサッカリン(346mg,1.64mmol)、酢酸コバルト(II)四水和物(153mg,0.614mmol)、t-ブチルアルコール(8mL)、ピバル酸(167.3mg,1.64mmol)を入れ、最後にトリエチルアミン(228μL,1.64mmol)を添加し、耐圧容器を密閉した。この時、耐圧容器の容量と仕込んだ各成分の量とから空気が占める割合を求め、それに含まれる酸素量を求めたところ、酸素は0.180mmolであった。次に、この耐圧容器を100℃まで昇温させ、反応液を2時間攪拌した。反応液をHPLCで分析したところ、アッセイ収率25.2%であった。結果を表4に示す。
【0082】
<実施例2>
実施例1において、カルボン酸としてのピバル酸の代わりに、カルボン酸塩としてのピバル酸ナトリウム(203mg,1.64mmol)を用いたこと以外は、実施例1に記載したのと同様の方法で反応液を得た。すなわち、空気雰囲気下(酸素:0.180mmol)、耐圧管にピコリンアミド(250mg,0.819mmol)、N-ホルミルサッカリン(346mg,1.64mmol)、酢酸コバルト(II)四水和物(153mg,0.614mmol)、ピバル酸ナトリウム(203mg,1.64mmol)、t-ブチルアルコール(8mL)を入れ、最後にトリエチルアミン(228μL,1.64mmol)を添加し、耐圧容器を100℃まで昇温させ、反応液を2時間攪拌した。反応液をHPLCで分析したところ、アッセイ収率35.5%であった。
【0083】
<実施例3>
実施例1において、空気に代えて圧縮空気を用いたこと以外は、実施例1に記載したのと同様の方法で反応液を得た。すなわち、耐圧容器(容量:40mL)に、製造例1の方法で製造した(R)-N-(1-(4-ブロモフェニル)エチル)ピコリンアミド(125mg,0.410mmol)、N-ホルミルサッカリン(173mg,0.819mmol)、酢酸コバルト(II)四水和物(76.5mg,0.307mmol)、t-ブチルアルコール(4mL)、ピバル酸(83.7mg,0.819mmol)を入れ、最後にトリエチルアミン(114μL,0.819mmol)を添加した。反応容器を密閉した後、容器内に圧縮空気(0.26MPa,酸素:0.768mmol)を入れ、反応容器を100℃まで昇温させた後2時間攪拌した。反応液をHPLCで分析したところ、アッセイ収率は35.1%であった。
【0084】
<参考例1>
製造例1の方法で製造した、150.0mg(0.492mmol、1.0equiv.)の(R)-N-(1-(4-ブロモフェニル)エチル)ピコリンアミドと、61.2mg(0.246mmol、50mol%)の酢酸コバルト(II)四水和物と、251.4mg(0.983mmol、2.0equiv.)の炭酸銀と、100.4mg(0.983mmol、2.0equiv.)のピバル酸と、171.2mg(0.983mmol、2.0equiv.)のアゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)と、2.5mLの2,2,2-トリフルオロエタノールとを、空気雰囲気下で耐圧容器に加え、耐圧容器を密閉した。
【0085】
密閉した耐圧容器の内容物を、マイクロ波装置を用いて120℃にまで加熱し、マイクロ波を照射しながら、その反応温度で2時間にわたって撹拌した。攪拌後の内容物を、室温まで冷却したのち、セライト濾過に供して、濾液を得た。セライト濾過後のろ紙をメタノールで洗浄し、洗浄後のメタノールを濾液に加えて、セライト濾過後の処理液を得た。
【0086】
このセライト濾過後の処理液を、減圧乾燥して溶媒を除去し、残留物を得た。この残留物を溶媒に溶解させ、得られた溶液をシリカゲルクロマトグラフィーに供した。溶媒としては、n-ヘキサンと酢酸エチルとが1:1の体積比で混合された混合溶媒を用いた。シリカゲルクロマトグラフィー後の溶液を減圧乾燥し溶媒を除去して、固形物を得た。固形物に含まれるイソインドリノン誘導体の量は、収率は36.3%であった。
【0087】
<マイクロ波の照射条件>
参考例1、および下記の比較例1において、マイクロ波の照射には、以下の仕様の反応装置を用いた。
装置:Anton Paar製 Monowave450
マイクロ波出力:850W。
マグネトロン周波数:2455MHz。
バイアル:G30広口 ホウケイ酸ガラス30mL、G30 ホウケイ酸ガラス30mL、G10 ホウケイ酸ガラス10mL、G4 ホウケイ酸ガラス4mL
圧力:0~30bar。
攪拌子:PTFEコ-ティング
キャップ:スナップキャップ、PTFEディスク。
セプラム:PTFEセプタム、シリコンセプタム。
マイクロ波の照射条件は下記のとおりとした。
マイクロ波出力:1-20W。
圧力:10-25bar。
【0088】
<比較例1>
酸化剤として404mg(2.458mmol、5.0equiv.)の次亜塩素酸ナトリウム5水和物(NaOCl・5HO)を用いたこと以外は、参考例1に記載したのと同様の方法で固形物を得た。
【0089】
<機器分析>
実施例1~3、参考例1及び比較例1で得られた(R)-6-ブロモ-3-メチルイソインドリン-1-オンについて得られた分析結果は以下のとおりであった。
【0090】
H-NMR(400MHz,CDCl)δ:1.49(d,J=6.4Hz,3H)、4.66(q,J=6.4Hz,1H)、6.40(br,1H)、7.31(d,J=8.2Hz,1H)、7.70(dd,J=1.8Hz、8.2Hz,1H)、7.98(d,J=1.8Hz,1H)
IR(KBr)cm-1:3243、2969、1653、1431、1262、1219、1112、821、598
融点:163~167℃。
【0091】
<HPLC分析>
実施例1~3、参考例1、及び比較例1で得られたイソインドリノン誘導体、基質、及び副生成物の存在割合を、HPLCを用いて測定した。HPLCの測定条件は下記のとおりとした。
【0092】
装置: ACQUITY UPLC(登録商標) H-CLASS PLUS (Waters)
検出器:紫外可視吸光光度計(検出波長:254nm)
カラム:X-Bridge C18, 5μm, 4.6×150mm Column
カラム温度:40℃
サンプル温度:室温
サンプル注入量:5μL
送液時間:40分
移動相の送液は、下記表1に記載の通りとした。なお、移動相Aとしては、0.1%のギ酸水溶液を用い、移動相Bとしては、0.1%ギ酸含有アセトニトリルを用いた。
【0093】
【表1】
【0094】
また、各対象成分の保持時間は下記表2の通りとした。
【0095】
【表2】
【0096】
実施例1~3に係る製造方法及びHPLC測定結果を下記表3にまとめる。表3に示すように、本発明の反応系おいては、酸化剤として、酸素ガスを含む酸化剤のみ(空気のみ)を使用した場合であっても、目的物であるイソインドリン誘導体を得ることができた。これにより、不純物の除去が容易となり、純度の高いイソインドリン誘導体が得られた。中でも、カルボン酸の種類、および酸素ガスの量を調整した実施例2及び3においては、反応液中に含まれる目的物の量を示すアッセイ収率と目的物を固体として単離した収率との間に微差はあるものの、酸化剤として炭酸銀を用い、マイクロ波照射した参考例1とほぼ同等の収率であった。
【0097】
【表3】