(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080787
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】アルツハイマー病様症状緩和剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20220523BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220523BHJP
A23L 33/13 20160101ALI20220523BHJP
A23K 20/153 20160101ALI20220523BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P25/28
A23L33/13
A23K20/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192083
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】新井 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝太
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 純
(72)【発明者】
【氏名】表 和範
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
2B150AA06
2B150AB10
2B150DC23
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD44
4B018ME14
4C086AA01
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4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA16
(57)【要約】
【課題】安全に摂取することができ、アルツハイマー病様症状を緩和させる作用を有する素材を提供する。
【解決手段】アルツハイマー病様症状緩和剤は、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド、その薬理学的に許容される塩、及びそれらの溶媒和物から選ばれる1種を有効成分とする。健康補助食品は、前記症状緩和剤を含有し、アルツハイマー病様症状を緩和するために摂取される。飼料は、前記症状緩和剤を含有し、アルツハイマー病様症状を緩和させるために摂取される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド、その薬理学的に許容される塩、及びそれらの溶媒和物から選ばれる1種を有効成分とすることを特徴とする、アルツハイマー病様症状緩和剤。
【請求項2】
経口投与される、請求項1に記載の症状緩和剤。
【請求項3】
脳内におけるアミロイドβ蓄積に起因する空間認識力障害の予防又は治療に用いられる、請求項1又は2に記載の症状緩和剤。
【請求項4】
脳内におけるアミロイドβ蓄積に起因する学習能力障害又は記憶能力障害の予防に用いられる、請求項1又は2に記載の症状緩和剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の症状緩和剤を含有し、アルツハイマー病様症状を緩和するために摂取される、健康補助食品。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の症状緩和剤を含有し、アルツハイマー病様症状を緩和させるために摂取される、飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全に摂取することができ、アルツハイマー病の症状を緩和することができる素材、及び当該素材を有効成分とするアルツハイマー病様症状緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は認知機能が少しずつ衰えていく疾患で、高齢者における認知症の中で最も患者数が多い。全世界で問題となっており、世界の患者数では2015年は4,680万人と推定されているが、2030年までに7,470万まで増加するといわれている。アルツハイマー病は、アミロイドβタンパク質やタウタンパク質等が脳内に蓄積することが原因とされており、これらの蓄積により神経細胞が死滅して、脳が委縮することで認知機能障害が生じる。
【0003】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、「β-NMN」と称することがある。)は、補酵素NAD+の生合成中間代謝産物である。近年、β-NMNは、老化マウスにおけるインスリン分泌能の改善効果、高脂肪食や老化によってひき起こされる2型糖尿病のマウスモデルにおいてインスリン感受性や分泌を劇的に改善する効果を有すること(例えば、特許文献1参照)、サーカディアンリズムの制御に関与していること(例えば、特許文献2参照)、老化した筋肉のミトコンドリア機能を顕著に高める効果を有すること等が報告されている。さらに、β-NMNの投与により、肥満、血中脂質濃度の上昇、インシュリン感受性の低下、記憶力低下、及び黄斑変性症等の眼機能劣化といった加齢に伴う各種疾患の症状の改善や予防に有用であることも報告されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、β-NMNの投与は、生体中のNAD+量を高め、サーチュイン遺伝子を活性化することより、生体の加齢に伴う身体機能の低下を抑制及び遅延させ、抗老化の効果が期待されている(例えば、特許文献4参照)。最近、NMNをヒトに経口投与する臨床試験が行われ、安全性に問題がないことも確認されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
β-NMNをアルツハイマー病モデル動物に投与する研究は以前からされており、β-NMNにより認知機能の改善が報告されている(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照)。ただし非特許文献2では皮下投与、非特許文献3では腹腔内投与により、β-NMNをモデル動物に与えている。どちらの投与法も非経口投与であり、「実験動物の被験物質の投与(投与経路、投与容量)及び採血に関する手引き」には、投与容量、投与前後の処方の安定性、pH、粘度、浸透圧、緩衝能、処方の無菌性や生体適合性を考慮する必要があると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7737158号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/123510号明細書
【特許文献3】国際公開第2014/146044号
【特許文献4】国際公開第2017/200050号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Irie J et al., “Effect of oral administration of nicotinamide mononucleotide on clinical parameters and nicotinamide metabolite levels in healthy Japanese men.”, Endocr J, Vol. 67, No. 2, pp. 153-160, 2020.
【非特許文献2】Long AN et al., “Effect of nicotinamide mononucleotide on brain mitochondrial respiratory deficits in an Alzheimer’s disease-relevant murine model.”, BMC Neurol, Vol. 15, No. 19, 2015.
【非特許文献3】Wang X et al., “Nicotinamide mononucleotide protects against β-amyloid oligomer-induced cognitive impairment and neuronal death.”, Brain Res, Vol. 1643, pp. 1-9, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全に摂取することができ、アルツハイマー病様症状を緩和させる作用を有する素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、β-NMNがアルツハイマー病様症状を緩和させる作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のアルツハイマー病様症状緩和剤、健康補助食品、及び飼料を提供するものである。
[1] β-NMN、その薬理学的に許容される塩、及びそれらの溶媒和物から選ばれる1種を有効成分とすることを特徴とする、アルツハイマー病様症状緩和剤。
[2] 経口投与される、前記[1]の症状緩和剤。
[3] 脳内におけるアミロイドβ蓄積に起因する空間認識力障害の予防又は治療に用いられる、前記[1]又は[2]の症状緩和剤。
[4] 脳内におけるアミロイドβ蓄積に起因する学習能力障害又は記憶能力障害の予防に用いられる、前記[1]又は[2]の症状緩和剤。
[5] [1]~[4]のいずれかの症状緩和剤を含有し、アルツハイマー病様症状を緩和するために摂取される、健康補助食品。
[6] [1]~[4]のいずれかの症状緩和剤を含有し、アルツハイマー病様症状を緩和させるために摂取される、飼料。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るアルツハイマー病様症状緩和剤は、元々生体内に存在するβ-NMNを有効成分とし、アルツハイマー病様認知機能障害を緩和させることができる。このため、本発明に係るアルツハイマー病様症状緩和剤は、副作用を起こすことなく安全に摂取することができ、脳内のアミロイドβの蓄積により引き起こされる疾患の予防や緩和に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1において、1週間前からβ-NMN 0.2mM含有培地で毎日培地交換した群とβ-NMNを含まない培地で毎日交換した群の各SH-SY5Y細胞におけるアミロイドβ42(Aβ42)に対する毒性について、ルシフェラーゼアッセイにより、細胞生存率を評価し、生存率(%)で示したグラフである。
【
図2】実施例2において、β-NMNを1週間前から投与した群(protective effect group)とAβ投与後にβ-NMNを投与した群(therapy effect group)と偽手術群(Sham operation group)と水のみを投与した群(Vehicle group)の各マウスについて、Y迷路における行動試験により、自発的交替行動率をもとに空間認識力を評価し、自発的交替行動率(%)を示したグラフである。
【
図3】実施例2において、β-NMNを1週間前から投与した群(protective effect group)とAβ投与後にβ-NMNを投与した群(therapy effect group)と偽手術群(Sham operation group)と水のみを投与した群(Vehicle group)の各マウスについて、受動回避試験により、反応潜時をもとに学習及び記憶能力を評価し、反応潜時(sec)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアルツハイマー病様症状緩和剤(以下、「本発明に係る症状緩和剤」ということがある。)は、NMN(化学式:C11H15N2O8P)を有効成分とし、アルツハイマー病様認知機能障害を予防又は緩和させるという効果を有する。このため、本発明に係る症状緩和剤は、アルツハイマー病により引き起こされる症状に対する予防又は治療のための経口用組成物又は外用組成物の有効成分として好適である。なお、ここでいうアルツハイマー病様認知機能障害とは、例えば、記憶障害、見当識障害、判断力障害(実行機能障害)、高次機能障害(失語、失認、失行)等が挙げられる。後述する実施例に示すように、NMNは、アミロイドβ蓄積に起因する認知機能障害、特に空間認識力障害を改善することができる。また、NMNは、神経細胞におけるアミロイドβによる毒性を予防して細胞死を抑制できるため、アルツハイマー病様症状の予防剤としても有効である。具体的には、アミロイドβ蓄積前にNMNを摂取することにより、アミロイドβの蓄積による認知機能障害、具体的には、空間認識力や学習及び記憶能力への障害が予防できる。このように、本発明に係る症状緩和剤は、特に、脳内へのアミロイドβ蓄積に起因する空間認識力障害の予防又は治療剤、脳内へのアミロイドβ蓄積に起因する学習能力障害の予防剤、脳内へのアミロイドβ蓄積に起因する記憶能力障害の予防剤として有用である。さらに、本発明に係る症状緩和剤は、アミロイドβによる神経細胞死の抑制剤としても有用である。
【0013】
NMNには、光学異性体としてα、βの2種類が存在するが、本発明に係る症状緩和剤の有効成分となるNMNは、β-NMN(CAS番号:1094-61-7)である。β-NMNの構造を下記に示す。
【0014】
【0015】
有効成分とするβ-NMNとしては、いずれの方法で調製されたものであってもよい。例えば、化学合成法、酵素法、発酵法等により、人工的に合成したβ-NMNを精製したものを、有効成分として用いることができる。また、β-NMNは広く生体に存在する成分であるため、動物、植物、微生物等の天然原料から抽出・精製することによって得られたβ-NMNを有効成分として用いることもできる。また、市販されている精製されたβ-NMNを使用してもよい。
【0016】
β-NMNを合成する化学合成法としては、例えば、NAMとL-リボーステトラアセテートとを反応させ、得られたニコチンアミドモノヌクレオシドをリン酸化することによりβ-NMNを製造できる。また、酵素法としては、例えば、NAMと5’-ホスホリボシル-1’-ピロリン酸(PRPP)から、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)によりβ-NMNを製造できる。発酵法としては、例えば、NAMPTを発現している微生物の代謝系を利用して、NAMからβ-NMNを製造できる。
【0017】
本発明に係る症状緩和剤の有効成分としては、β-NMNの薬理学的に許容される塩であってもよい。β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、無機酸塩であってもよく、アミンのような塩基性部位を有する有機酸塩であってもよい。このような酸塩を構成する酸としては、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、アルカリ塩であってもよく、カルボン酸のような酸性部位を有する有機塩であってもよい。このような酸塩を構成する塩基としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であって、水素化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、アンモニア、トリメチルアンモニア、トリエチルアンモニア、エチレンジアミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、プロカイン、ジエタノールアミン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基から誘導されるものが挙げられる。
【0018】
本発明に係る症状緩和剤の有効成分としては、遊離のβ-NMNの溶媒和物、又はβ-NMNの薬理学的に許容される塩の溶媒和物であってもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る症状緩和剤は、β-NMNに加えてその他の有効成分を含有していてもよい。当該他の有効成分としては、β-NMNによるアルツハイマー病様症状の緩和効果を損なわないものであれば特に限定されるものではない。当該他の有効成分としては、例えば、β-NMN以外の公知のアルツハイマー病様症状の緩和効果を有する機能性素材等が挙げられる。公知のアルツハイマー病様症状の緩和効果を有する機能性素材としては、例えば、イチョウ、オメガ3脂肪酸(魚油)、ビタミンB及びE、朝鮮ニンジン、ブドウ種子エキス、クルクミン等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る症状緩和剤は、有効成分のみからなるものであってもよく、その他の成分を含むものであってもよい。例えば、本発明に係る症状緩和剤は、有効成分を医薬用無毒担体と組み合わせて、製剤上の常套手段により様々な剤型に製剤化することができる。本発明に係る症状緩和剤の剤型のうち、経口投与剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤;溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤;凍結乾燥製剤等が挙げられる。非経口投与剤としては、注射剤のほか、坐剤、噴霧剤、経皮吸収剤等が挙げられる。
【0021】
製剤化に使用する医薬用無毒担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、果糖、還元麦芽糖等の糖類;デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、デキストリン、β-シクロデキストリン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の炭水化物;マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール;脂肪酸グリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエステル類;ポリエチレングリコール、エチレングリコール、アミノ酸、アルブミン、カゼイン、二酸化珪素、水、生理食塩水等が挙げられる。また、本発明に係る症状緩和剤の製剤化においては、製剤上の必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、矯味矯臭剤、着色剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。
【0022】
本発明に係る症状緩和剤は、ヒトやヒト以外の動物に投与されることが好ましい。ヒト以外の動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等の哺乳動物が挙げられる。本発明に係る症状緩和剤としては、ヒト、家畜、実験動物、ペットに投与又は摂取されるものであることが好ましく、ヒトに投与又は摂取されるものであることがさらに好ましい。
【0023】
本発明に係る症状緩和剤の投与量又は摂取量は、投与される動物の生物種、年齢(月齢)、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択及び決定される。例えば、成人1人あたりの1日量を、β-NMN量として、0.1mg~10g、好ましくは0.5mg~7g、より好ましくは10mg~5g、さらに好ましくは100mg~2gを、1回又は数回に分けて投与することができる。
【0024】
β-NMNは、生体構成成分であり、かつ食品中にも含まれている成分であることから、安全性が高いと考えられる。そこで、本発明に係る症状緩和剤は、アルツハイマー病様症状を緩和するために摂取される、健康補助食品の有効成分として用いることができる。健康補助食品は、健康状態の維持又は改善を目的として栄養を補助するための飲食品であり、特定保健用食品、栄養機能食品、及び健康食品も含む。本発明に係る症状緩和剤は、安全性が高く、長期間の継続的摂取に適していることから、当該症状緩和剤を含む健康補助食品は、優れたアルツハイマー病の予防及び改善作用が期待される。
【0025】
また、本発明に係る症状緩和剤は、アルツハイマー病様症状を緩和するために動物に摂取させる飼料の有効成分として用いることができる。当該飼料を家畜、ペット、実験動物等に与えることにより、摂取させた動物の脳内のアミロイドβの蓄積による毒性が予防されて、神経細胞の細胞死が抑制される結果、アルツハイマー病の予防や病態の改善が期待できる。
【0026】
本発明に係る健康補助食品及び飼料は、β-NMN等に適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、粉末状、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成することによって製造できる。本発明に係る健康補助食品は、そのまま食用に供してもよく、種々の食品や飲料に混合させた状態で食用に供してもよい。例えば、粉末状の健康補助食品を、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲料に溶解又は分散させた状態で摂取させることができる。本発明に係る飼料も、そのまま動物に摂取させてもよく、他の固形飼料や飲料水に混合させた状態で動物に摂取させてもよい。
【0027】
本発明に係る健康補助食品及び飼料は、その他の食品素材や種々の添加剤を含有することができる。食品素材としては、ビタミン類、糖質、蛋白質、脂質、食物繊維、果汁等が挙げられる。具体的には、例えば、ビタミンB1誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンB13、ビオチン、パントテン酸、ニコチン酸、葉酸等のビタミンB群;ビタミンE、ビタミンD又はその誘導体、ビタミンK1、ビタミンK2、βカロチン等の脂溶性ビタミン;カルシウム、カリウム、鉄、亜鉛等のミネラル;酵母、L-カルニチン、クレアチン、α-リポ酸、グルタチオン、グルクロン酸、タウリン、コラーゲン、大豆イソフラボン、レシチン、ペプチド、アミノ酸、γ-アミノ酪酸、ジアシルグリセロール、DHA、EPA、カプサイシン、コンドロイチン硫酸、アガリクス茸エキス、ニンジンエキス、ニンニクエキス、青汁、レシチン、ローヤルゼリー、プロポリス、オクタコサノール、フラバンジェノール、ピクノジェノール、マカ、キトサン、ガルシニアエキス、コンドロイチン、グルコサミン等が挙げられる。添加剤としては、甘味料、有機酸等の酸味料、安定剤、香料、着色料等が挙げられる。
【実施例0028】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
[マウス]
以降の実験で用いたSlc:ddY マウスは、全実験期間中を通して、SPF環境下で飼育した。全実験期間中、固型飼料(MF、オリエンタル酵母工業株式会社)と飲料水は、自由摂取させた。
【0030】
[経口投与]
経口投与は、β-NMN(オリエンタル酵母工業社製)を注射用水(大塚製薬工場社製)に溶解させた溶液を、ラット用ディスポーザブル経口ゾンデ(有限会社フチガミ器械)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて強制的に投与した。
【0031】
[Aβ脳室内注入アルツハイマー病モデルマウスの作製]
ペントバルビタールナトリウム(東京化成工業株式会社)40mg/kgを腹腔内投与(投与液量:10mL/kg)し、麻酔した。麻酔後、頭皮にレボブピバカイン塩酸塩(ポプスカイン(登録商標)0.25%注、丸石製薬株式会社)を皮下投与(0.1mL)した。動物の頭頂部の毛を刈り、頭部を脳定位固定装置に固定した。頭頂部をイソジンで消毒後に切開して、頭蓋骨を露出させ、頭蓋骨上の結合組織を綿棒で取り除いた後、ブロワーで乾燥させてbregmaの位置を見やすくした。歯科用ドリルを用いてbregmaより側方1mm(右側)、後方0.2mmの頭蓋骨にステンレス製パイプ刺入用の穴を開けた。外径0.5mmのシリコンチューブ及びマイクロシリンジに接続されたステンレス製パイプを骨表面から2.5mmの深さまで垂直に刺入する。脳室内にアミロイドβ溶液3μL(6nmol/3μL)をマイクロシリンジポンプで3分間かけて注入した(偽手術群は注射用水を3μL注入)。注入後は、ステンレス製パイプを挿入したまま3分間静置し、ステンレス製パイプをゆっくりと抜去した。頭蓋穴を非吸収性骨髄止血剤(ネストップ(登録商標)、アルフレッサファーマ株式会社)で塞ぎ、頭皮を縫合した。動物を脳定位固定装置から外し、飼育ケージに戻した。なお、ステンレス製パイプ及びシリコンチューブは滅菌済みのものを使用した。
【0032】
[Y迷路試験(自発的交替行動試験)]
試験には、1本のアームの長さが39.5cm、床の幅が4.5cm、壁の高さが12cmで、3アームがそれぞれ120度に分岐しているプラスチック製のY字型迷路(有限会社ユニコム)を用いた。
測定前に、装置の床面の照度が10~40lxになるように調節した。測定は、投与約1時間(+10分)後に行った。動物をY字型迷路のいずれかのアームに置き、8分間迷路内を自由に探索させた。動物が測定時間内に移動したアームの番号(A~C)を記録し、アームに移動した回数を数え、総エントリー数とした。次に、この中で連続して異なる3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とした。さらに以下の式を用いて自発的交替行動率を算出した。
【0033】
自発的交替行動率(%)=[自発的交替行動数/(総エントリー数-2)]×100
【0034】
[受託回避試験]
試験には、中央のギロチンドアに仕切られた明室(W:100mm×D:100mm×H:300mm)と床のグリッドから電気刺激を与える暗室(W:240mm×D:245mm×H:300mm)を備えたstep through型受動的回避反応装置(明暗箱:自社製、SHOCK SCRAMBLER:有限会社ユニコム)を用いた。
測定は、投与約1時間(+10分)後に行った。動物を明室に入れて10秒後にギロチンドアを静かに開け、動物が暗室に入るまでの時間(反応潜時)を測定した。
獲得試行(投与10日)は、動物が暗室に入ると同時にギロチンドアを閉め電気刺激(0.2mA、2秒間、スクランブル方式)を与え、電気刺激負荷時の動物の鳴き声の有無を確認した。反応潜時の測定は最長300秒までとした。
保持試行(投与11日)は、動物が暗室に入るか、明室で300秒経過したら終了とした。
【0035】
[実施例1]
SH-SY5Y細胞は、Aβ42を添加する1週間前から、0.2mM NMN含有培地で培養した。その間、培地交換は毎日行った。アッセイする前日にNMNを含まない培地に交換し、1×10/wellで細胞を播種した。次の日に、各ウェルに濃度が異なるAβ42をそれぞれ添加し、2日後にルシフェラーゼアッセイによって細胞死を測定した。測定結果は
図1に示す。NMNを事前に添加した細胞群では、NMNを添加していない群よりも、細胞死が抑制された。この結果から、Aβの投与前にNMNを投与することは、Aβによる毒性を予防する効果があることが示唆された。
【0036】
[実施例2]
アルツハイマー病モデルマウスは、β-NMNをAβ投与の1週間前から投与した群(protective effect group)と、Aβ投与後にβ-NMNを投与した群(therapy effect group)と、偽手術群(Sham operation group)と、水のみを投与した媒体対照群(Vehicle group)の4群に分け、各10匹ずつとした(表1)。protective effect groupは、β-NMNを16日間投与した。therapy effect groupは、投与1~7日(Aβ投与前)は媒体(注射用水)を投与し、投与8~16日(Aβ投与後)はβ-NMNを投与した。
【0037】
【0038】
(Y迷路試験の測定結果)
被験物質の投与開始日を投与1日とし、投与8日にアミロイドβを注入した。その後、投与14日にY迷路試験を行った。測定結果は
図1に示す。β-NMNを投与したprotective effect groupとtherapy effect groupの両群で自発的交替行動率が改善する傾向が見られた。この結果から、β-NMNには、Aβによる空間認識力障害を予防する効果と、Aβによる空間認識力障害を治療する効果の両方があることが示唆された。
【0039】
(受動回避試験の測定結果)
被験物質の投与開始日を投与1日とし、投与8日にアミロイドβを注入した。その後、投与15~16日に受動回避試験を行った。測定結果は
図2に示す。therapy effect groupでは反応潜時は改善しなかったが、β-NMNを事前に投与したprotective effect groupでは改善する傾向が見られた。これらの結果から、β-NMNを事前に摂取しておくことにより、アミロイドβによる学習及び記憶能力に対する障害を予防できる可能が示唆された。