IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081047
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】湿式成膜物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/44 20060101AFI20220524BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20220524BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20220524BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20220524BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20220524BHJP
   D06N 3/14 20060101ALN20220524BHJP
【FI】
C08G18/44
C08G18/76
C08G18/48
C08G18/40 009
C08L75/04
D06N3/14 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192339
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
【テーマコード(参考)】
4F055
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA03
4F055AA27
4F055BA12
4F055BA13
4F055CA05
4F055DA08
4F055EA01
4F055EA21
4F055EA30
4F055FA18
4F055FA20
4F055GA02
4J002CK031
4J002CK041
4J002CK051
4J002GF00
4J002GK02
4J034BA07
4J034BA08
4J034CA02
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA14
4J034CA15
4J034CA16
4J034CA17
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB05
4J034CB07
4J034CB08
4J034CC03
4J034CC08
4J034CC23
4J034CC26
4J034CC34
4J034CC45
4J034CC52
4J034CC61
4J034CC62
4J034CC65
4J034CC67
4J034CD04
4J034CE03
4J034DF01
4J034DF02
4J034DG03
4J034DG08
4J034DP19
4J034GA06
4J034HA01
4J034HA06
4J034HA07
4J034HB12
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC45
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC54
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034LA21
4J034LA36
4J034QA02
4J034QA05
4J034QB14
4J034QB19
4J034QC08
4J034RA09
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、バイオマス原料を用い、湿式成膜性に優れるポリウレタン樹脂組成物を提供することである。
【解決手段】本発明は、ポリオール(A)、及び、ポリイソシアネート(B)を原料とするポリウレタン樹脂(X)と有機溶剤(Y)とを含有するポリウレタン樹脂組成物の湿式成膜物であって、前記ポリオール(A)が、バイオマス由来のデカンジオ-ルを原料とするポリカーボネートポリオール(A-1)を含有し、前記ポリイソシアネート(B)が、芳香族ポリイソシアネートを含有することを特徴とする湿式成膜物を提供することである。前記ポリカーボネートポリオール(A-1)は、更にブタンジオールを原料とするものが好ましい。前記ポリオール(A)は、更にポリエーテルポリオール(A-2)を含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(A)、及び、ポリイソシアネート(B)を原料とするポリウレタン樹脂(X)と有機溶剤(Y)とを含有するポリウレタン樹脂組成物の湿式成膜物であって、
前記ポリオール(A)が、バイオマス由来のデカンジオ-ルを原料とするポリカーボネートポリオール(A-1)を含有し、
前記ポリイソシアネート(B)が、芳香族ポリイソシアネートを含有することを特徴とする湿式成膜物。
【請求項2】
前記ポリカーボネートポリオール(A-1)が、更にブタンジオールを原料とするものである請求項1記載の湿式成膜物。
【請求項3】
前記ポリオール(A)が、更にポリエーテルポリオール(A-2)を含有するものである請求項1又は2記載の湿式成膜物。
【請求項4】
前記ポリエーテルポリオール(A-2)が、ポリエチレングリコールである請求項3記載の湿式成膜物。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、250~1,500の範囲である請求項4記載の湿式成膜物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂組成物の湿式成膜物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、柔軟かつ強靭との特性を有し、優れた風合いを兼ね備えることから、人工皮革・合成皮革等の製造に広く利用されている。特に、人工皮革・合成皮革に利用される場合には、風合いやボリューム感を付与するために、ウレタン樹脂による中間層を形成する場合が多い。
【0003】
前記中間層に用いられるウレタン樹脂は、ウレタン樹脂への溶解性に優れるN,N-ジメチルホルムアミドによる樹脂溶液の形態をとるのが一般的であり、このウレタン樹脂溶液を、基材に塗布し、水中に浸漬することで、樹脂溶液と水との置換作用により、多孔質化された中間層が形成される(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
一方、地球温暖化や石油資源枯渇の問題を背景に、植物などのバイオマス原料を用いた環境負荷低減型の材料に対する需要が世界的に高まっている。バイオマス原料の使用により、石油などの化石資源使用量を削減できる点で、持続可能な社会形成に貢献することができる。しかしながら、バイオマス原料を使用した湿式成膜物は未だ開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-53764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、バイオマス原料を用い、湿式成膜性に優れるポリウレタン樹脂組成物の湿式成膜物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリオール(A)、及び、ポリイソシアネート(B)を原料とするポリウレタン樹脂(X)と有機溶剤(Y)とを含有するポリウレタン樹脂組成物の湿式成膜物であって、前記ポリオール(A)が、バイオマス由来のデカンジオ-ルを原料とするポリカーボネートポリオール(A-1)を含有し、前記ポリイソシアネート(B)が、芳香族ポリイソシアネートを含有することを特徴とする湿式成膜物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の湿式成膜物は、バイオマス原料を原料としたポリウレタン樹脂組成物用いるものであり、環境に優しい材料である。また、前記ポリウレタン樹脂組成物は、湿式成膜性に優れるものである。
【0009】
よって、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、合成皮革、衣料、支持パッド、研磨パッド等の製造に使用される材料として好適に使用することができ、合成皮革の材料として特に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の湿式成膜物は、ポリウレタン樹脂組成物の湿式成膜物であり、前記ポリウレタン樹脂組成物は、特定のポリオール(A)、及び、特定のポリイソシアネート(B)を原料とするポリウレタン樹脂(X)と有機溶剤(Y)とを含有するものである。
【0011】
前記ポリオール(A)は、優れた湿式成膜性を得る上で、バイオマス由来のデカンジオ-ルを原料とするポリカーボネートポリオール(A-1)を用いることが必須である。
【0012】
前記ポリオール(A)中における前記ポリカーボネートポリオール(A-1)の含有量としては、より一層優れた湿式成膜性が得られる点から、30~99.5質量%の範囲が好ましく、50~90質量%の範囲がより好ましい。
【0013】
前記バイオマス由来のデカンジオールを原料とするポリカーボネートポリオール(A-1)としては、例えば、バイオマス由来のデカンジオールを含むグリコール化合物と、炭酸エステル及び/又はホスゲンとの反応物を用いることができ、具体的には、特開2018-127758号公報等に記載されたものを用いることができる。
【0014】
前記デカンジオールとしては、より一層優れた湿式成膜性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、1,10-デカンジオールが好ましい。
【0015】
前記デカンジオール以外に用いることができるグリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ε-カプロラクトン、ネオペンチルグリコール等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた湿式成膜性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、ブタンジオールを用いることが好ましく、1,4-ブタンジオールがより好ましい。
【0016】
前記バイオマス由来のデカンジオールと、前記ブタンジオールとを併用する場合には、その合計使用量としては、前記グリコール化合物中50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上が更に好ましい。
【0017】
また、前記バイオマス由来のデカンジオール(C10)と、ブタンジオール(C4)とを併用する場合には、そのモル比[(C4)/(C10)]としては、より一層優れた湿式成膜性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、50/50~98/2の範囲であることが好ましく、75/25~95/5の範囲がより好ましい。
【0018】
前記炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記ポリカーボネートジオール(A-1)の数平均分子量としては、より一層優れた湿式成膜性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、500~100,000の範囲が好ましく、700~10,000の範囲がより好ましく、1,500~4,000の範囲が更に好ましい。なお、前記ポリカーボネートジオール(A-1)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0020】
前記好ましいポリカーボネートポリオール(A-1)としては、例えば、三菱化学株式会社製「ベネビオールNL-3010DB」等を市販品として入手することができる。
【0021】
前記ポリオール(A)として、前記ポリカーボネートポリオール(A-1)以外にもその他のポリオールを併用することができる。前記その他のポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、前記ポリカーボネートポリオール(A-1)以外のポリカーボネートポリオールなどを用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
前記その他のポリオールの数平均分子量としては、より一層優れた機械的強度、湿式成膜性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、200~100,000の範囲が好ましく、300~10,000の範囲がより好ましい。なお、前記その他のポリオールの数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0023】
前記その他のポリオールとしては、親水性に優れ、より一層優れた湿式成膜性が得られる点から、ポリエーテルポリオールを用いることが好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましい。
【0024】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量としては、より一層優れた湿式成膜性が得られる点から、250~1,500の範囲が好ましく、300~1,000の範囲がより好ましい。なお、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0025】
前記ポリカーボネートポリオール(A-1)と前記ポリエーテルポリオール(A-2)との質量比[(A-1)/(A-2)]としては、より一層優れた湿式成膜性、耐摩耗性、耐オレイン酸性、及び、低温屈曲性が得られる点から、50/50~99.5/0.5の範囲が好ましく、80/20~99/1の範囲が好ましい。
【0026】
前記ポリオール(A)には必要に応じて、分子量が50~450の範囲の鎖伸長剤(a)を併用してもよい。
【0027】
前記鎖伸長剤(a)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の水酸基を有する鎖伸長剤;エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、アミノエチルエタノールアミン、ヒドラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミノ基を有する鎖伸長剤を用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、皮膜の継時的な変色を抑制しやすい点、より一層優れた耐摩耗性、耐オレイン酸性、及び低温屈曲性を向上できる点から、水酸基を有する鎖伸長剤が好ましく、エチレングリコール、及び/又は1,4-ブタンジオールがより好ましい。
【0028】
前記鎖伸長剤(a)を用いる場合の使用量としては、より一層優れた耐摩耗性、耐オレイン酸性、及び低温屈曲性を向上できる点から、ポリウレタン樹脂(X)を構成する原料の合計質量中1~50質量%の範囲が好ましく、2~30質量%の範囲がより好ましい。
【0029】
ポリイソシアネート(B)としては、優れた湿式成膜性を得る上で、芳香族ポリイソシアネートを用いることが必須である。前記芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-及び1,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-2,6-フェニレンジイソシアネート、1-メチル-3,5-フェニレンジイソシアネート、1-エチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1-イソプロピル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、1,3-ジメチル-4,6-フェニレンジイソシアネート、1,4-ジメチル-2,5-フェニレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジイソプロピルベンゼンジイソシアネート、1-メチル-3,5-ジエチルベンゼンジイソシアネート、3-メチル-1,5-ジエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、1,3,5-トリエチルベンゼン-2,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、1-メチル-ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、ナフタレン-2,6-ジイソシアネート、ナフタレン-2,7-ジイソシアネート、1,1-ジナフチル-2,2’-ジイソシアネート、ビフェニル-2,4’-ジイソシアネート、ビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、3-3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4-ジイソシアネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた湿式成膜性、機械的強度が得られる点から、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0030】
前記ポリイソシアネート(B)中における前記芳香族ポリイソシアネートの含有量としては、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0031】
前記ポリイソシアネート(B)には、必要に応じて、その他のポリイソシアネートを併用してもよい。前記その他のポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3-シクロペンチレンジイソシアネート、1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記ポリイソシアネート(B)の使用量としては、より一層優れた湿式成膜性、機械的強度、及び、反応性が得られる点から、ポリウレタン樹脂(X)を構成する原料の合計質量中10~60質量%の範囲が好ましく、15~45質量%の範囲がより好ましい。
【0033】
前記ポリウレタン樹脂(X)の製造方法としては、例えば、前記ポリオール(A)、及び、前記ポリイソシアネート(B)を一括で仕込み、反応させる方法が挙げられ、反応は、例えば、30~100℃の温度で、3~10時間行うことが好ましい。また、前記反応は、後述する有機溶剤(Y)中で行ってもよい。
【0034】
以上の方法により得られるポリウレタン樹脂(X)の数平均分子量としては、耐摩耗性、耐オレイン酸性、低温屈曲性、皮膜の機械的強度及び柔軟性をより一層向上できる点から、5,000~1,000、000の範囲であることが好ましく、10,000~500,000の範囲がより好ましい。なお、前記ポリウレタン樹脂(X)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0035】
前記ポリウレタン樹脂(X)の含有量としては、ポリウレタン樹脂組成物中10~90質量%の範囲が好ましく、15~80質量%の範囲がより好ましい。
【0036】
前記有機溶剤(B)としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソブチル、酢酸第2ブチル等のエステル溶剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール溶剤などを用いることができる。これらの有機溶剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記有機溶剤(B)の含有量としては、作業性及び粘度の点から、ポリウレタン樹脂組成物中20~90質量%の範囲が好ましい。
【0038】
前記ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂(X)及び前記有機溶剤(Y)を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
【0039】
前記その他の成分としては、例えば、顔料、難燃剤、可塑剤、軟化剤、安定剤、ワックス、消泡剤、分散剤、浸透剤、界面活性剤、フィラー、防黴剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐候安定剤、蛍光増白剤、老化防止剤、増粘剤等を用いることができる。これらの成分は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0040】
次に、前記ポリウレタン樹脂組成物を湿式成膜法により湿式成膜物(多孔体)を製造する方法について説明する。
【0041】
前記湿式成膜法とは、前記ポリウレタン樹脂組成物を、基材表面に塗布または含浸し、次いで、該塗布面または含浸面に水や水蒸気等を接触させることによって前記ポリウレタン樹脂(A)を凝固させ多孔体を製造する方法である。
【0042】
前記ポリウレタン樹脂組成物を塗布する基材としては、例えば、不織布、織布、編み物からなる基材;樹脂フィルム等を用いることができる。前記基材を構成するものとしては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維等の化学繊維;綿、麻、絹、羊毛、これらの混紡繊維などを用いることができる。
【0043】
前記基材の表面には、必要に応じて制電加工、離型処理加工、撥水加工、吸水加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮断加工等の処理が施されていてもよい。
【0044】
前記基材表面に前記ポリウレタン樹脂組成物を塗布または含浸する方法としては、例えば、グラビアコーター法、ナイフコーター法、パイプコーター法、コンマコーター法が挙げられる。その際、ポリウレタン樹脂組成物の粘度を調整し塗工作業性を向上するため、必要に応じて、有機溶剤(B)の使用量を調節して良い。
【0045】
前記方法により塗布または含浸された前記ポリウレタン樹脂組成物からなる塗膜の膜厚としては、0.5~5mmの範囲であることが好ましく、0.5~3mmの範囲がより好ましい。
【0046】
前記ポリウレタン樹脂組成物が塗布または含浸され形成した塗布面に水または水蒸気を接触させる方法としては、例えば、前記ポリウレタン樹脂組成物からなる塗布層や含浸層の設けられた基材を水浴中に浸漬する方法;前記塗布面上にスプレー等を用いて水を噴霧する方法などが挙げられる。前記浸漬は、5~60℃の水浴中に、2~20分程度行うことが好ましい。
【0047】
前記方法によって得られた湿式成膜物は、常温の水や温水を用いてその表面を洗浄して有機溶剤(B)を抽出除去し、次いで乾燥することが好ましい。前記洗浄は5~60℃の水で20~120分程度行なうことが好ましく、洗浄に用いる水は1回以上入れ替えるか、あるいは、流水で連続して入れ替えるのが好ましい。前記乾燥は、80~120℃に調整した乾燥機等を用い、10~60分程度行うことが好ましい。
【実施例0048】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0049】
[実施例1]
<ポリウレタン樹脂組成物(1)の調製>
温度計、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中に、1,4-ブタンジオール及びバイオマス由来の1,10-デカンジオールを原料とするポリカーボネートジオール(モル比[(C4)/(C10)]=90/10、数平均分子量;2,000、以下、「バイオPC(1)」と略記する。)280質量部、ポリエチレングリコール(数平均分子量;600、以下「PEG(1)」と略記する。)20質量部、エチレングリコール14質量部、N,N-ジメチルホルムアミド(以下「DMF」と略記する。)930質量部を加え、十分に攪拌した。攪拌後、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下「MDI」と略記する。)100質量部を加え、80℃で3時間反応させ、固形分30質量%のポリウレタン樹脂組成物(バイオ比率;17%)を得た。
【0050】
<湿式成膜物の作製>
得られたポリウレタン樹脂組成物を、DMF60質量部で希釈した配合液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に1mmのクリアランスで塗工し、次いで25℃の水中に10分間浸漬、40℃の温水で1時間洗浄、100℃乾燥機で30分間乾燥させ、湿式成膜物を得た。
【0051】
[実施例2]
バイオPC(1)の使用量を280質量部から240質量部に、PEG(1)の使用量を20質量部から60質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂組成物を得、湿式成膜物を得た。
【0052】
[実施例3]
バイオPC(1)の種類を、1,4-ブタンジオール及びバイオマス由来の1,10-デカンジオールを原料とするポリカーボネートジオール(モル比[(C4)/(C10)]=80/20、数平均分子量;2,000、以下、「バイオPC(2)」と略記する。)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂組成物を得、湿式成膜物を得た。
【0053】
[実施例4]
バイオPC(2)の使用量を280質量部から240質量部に、PEG(1)の使用量を20質量部から60質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂組成物を得、湿式成膜物を得た。
【0054】
[実施例5]
PEG(1)の種類を、ポリエチレングリコール(数平均分子量;400、以下「PEG(2)」)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂組成物を得、湿式成膜物を得た。
【0055】
[比較例1]
MDIの種類を、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下「HDI」と略記する。)に変更した以外は実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂組成物を得、湿式成膜物の作製を試みた。
【0056】
[数平均分子量の測定方法]
実施例及び比較例で用いたポリオール等の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した値を示す。
【0057】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0058】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F-550」
【0059】
[湿式成膜性の評価方法]
実施例、及び、比較例で得られた湿式成膜物を、日立ハイテクテクノロジー株式会社製走査型電子顕微鏡「SU3500」(倍率500倍)を使用して観察し、多孔体を形成しているか確認した。多孔体が確認できたものは「〇」、確認できなかったものは「×」と評価した。
「〇」;均一な形状の多孔を確認した。
「△」;不均一な多孔が確認された。
「×」;多孔を確認できなかった。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
本発明の湿式成膜物である実施例1~5は、湿式成膜性に優れることが分かった。
【0063】
一方、比較例1は、芳香族ポリイソシアネートに代え、脂肪族ポリイソシアネートを用いた態様であるが、湿式成膜性が不良であった。