(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081055
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】汚染物質の分解除去方法及び分解除去装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/07 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
A61L2/07 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192351
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】594162412
【氏名又は名称】株式会社平山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】陶山 哲志
(72)【発明者】
【氏名】川原崎 守
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆久
(72)【発明者】
【氏名】吉永 千佳士
【テーマコード(参考)】
4C058
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB05
4C058CC09
4C058DD04
4C058DD06
4C058DD14
4C058EE01
4C058EE13
4C058EE16
4C058JJ26
(57)【要約】
【課題】容器の内圧にかかわらず、短時間かつ低コストで、汚染を周辺環境に漏らすことなく汚染物質を分解除去する。
【解決手段】汚染物質の分解除去方法は、小型密閉容器の内部に、処理対象である汚染物質を含んだ廃棄物及び希釈用の液体を、酸素を含む気体又は空気とともに密閉する密閉工程S1と、密閉工程S1後に、小型密閉容器を高温高圧処理装置の処理室内に配置して高温保持する処理工程S2,S3と、処理工程S2,S3後に、処理室内の温度を下げる冷却工程S4と、を備える。処理工程S3及び冷却工程S4では、処理室内の圧力を高めて小型密閉容器を外側から加圧する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型密閉容器の内部に、処理対象である汚染物質を含んだ廃棄物及び希釈用の液体を、酸素を含む気体又は空気とともに密閉する密閉工程と、
前記密閉工程後に、前記小型密閉容器を高温高圧処理装置の処理室内に配置して高温保持する処理工程と、
前記処理工程後に、前記処理室内の温度を下げる冷却工程と、を備え、
前記処理工程及び前記冷却工程では、前記処理室内の圧力を高めて前記小型密閉容器を外側から加圧する
ことを特徴とする、汚染物質の分解除去方法。
【請求項2】
前記小型密閉容器は、内容積が0.5リットル以上かつ2.0リットル以下のレトルトパウチである
ことを特徴とする、請求項1記載の分解除去方法。
【請求項3】
前記汚染物質は核酸である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の分解除去方法。
【請求項4】
前記汚染物質は核酸染色試薬である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の分解除去方法。
【請求項5】
前記汚染物質は、実験に使用した後に熱失活処理することが望まれる有害物質、又は、感染性の生物試料である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の分解除去方法。
【請求項6】
前記高温高圧処理装置には、前記処理室内を加熱するヒーターと、前記処理室内の圧力を維持し又は高めるコンプレッサーと、前記圧力を前記処理室内から逃がすリーク弁とが設けられており、
前記処理工程では、前記高温保持する際の前記処理室内の温度及び圧力を検出し、当該温度及び圧力に応じて前記ヒーター及び前記コンプレッサー並びに前記リーク弁の各作動状態を制御し、
前記冷却工程では、前記コンプレッサーの作動状態を制御して、前記処理室内の温度と前記小型密閉容器内の温度との差及び前記処理室内と前記小型密閉容器内の気体組成の違いに由来する熱膨張率の差から生じる前記小型密閉容器の膨張を抑制する
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の分解除去方法。
【請求項7】
前記小型密閉容器は、外から内部が透けて見えるものである
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の分解除去方法。
【請求項8】
前記高温高圧処理装置には、前記処理室内を冷却する冷却装置が設けられており、
前記冷却工程では、前記冷却装置により前記処理室内の温度を強制的に低下させる
ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の分解除去方法。
【請求項9】
処理対象である汚染物質を含んだ廃棄物及び希釈用の液体を、酸素を含む気体又は空気とともに密閉するためのレトルトパウチと、
密閉された前記レトルトパウチが配置される処理室を備えた高温高圧処理装置と、
前記処理室内の圧力を維持し又は高めるコンプレッサーと、
前記処理室内の圧力を逃がすリーク弁と、
前記処理室内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記処理室内の温度を検出する温度検出手段と、
前記圧力検出手段及び前記温度検出手段によってそれぞれ検出された前記圧力及び前記温度に基づき、前記ヒーター及び前記コンプレッサー並びに前記リーク弁の各作動状態を制御することで前記処理室内に配置された前記レトルトパウチを外側から加圧した状態で高温保持するとともに前記加圧した状態で冷却する制御装置と、を備える
ことを特徴とする、汚染物質の分解除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性廃棄物に含まれる汚染物質や生物試料の廃棄物に含まれる汚染物質を、汚染を周辺環境に漏らすことなく分解除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感染性廃棄物や生物試料の廃棄物は、これら廃棄物に含まれる汚染物質を適正に処理してからでなければ廃棄することができない。また、この処理の際に、実験室等の周辺環境に汚染が漏れてしまっては、正確な定量や診断ができなくなってしまう。このような課題に対し、特許文献1には、周辺環境に汚染を拡散することなく、高速にDNAを分解除去する方法が開示されている。この方法では、DNA断片を含む水溶液を空気(または酸素を含む気体)と共に容器に密閉し、オートクレーブ内で高温保持している。あるいは、DNA断片の付着した廃棄物等を非密閉容器に水及び空気等と共に入れ、この非密閉容器を処理装置内に配置し、密閉した処理装置を高温保持している。いずれの方法によっても、汚染を漏らさずに高効率にDNAを分解除去可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の方法は、本発明の一部の発明者を含む発明者らによって提案された技術であるが、この方法では、密閉した容器をオートクレーブ内に配置し高温保持する際に、密閉容器の内圧が高まってしまうことが自明であった。一方、この内圧の上昇への対策と適正な処理条件の実現には繊細な装置のコントロールが必要になった。また、密閉容器を使用せず、処理装置全体を密閉型にして高温保持する場合にも装置内の温度分布を均一に保つことは容易ではなく、当該方法を実施するための装置に関しては高コスト化が避けられなかった。また、本年、世界的に流行している新型コロナウィルス感染症の診断にPCR法(PCR検査)が用いられているが、検査数の増加に伴って、検査後のDNA断片を短い処理時間で処理したいというニーズが高まっている。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み案出されたもので、容器の内圧にかかわらず、短時間かつ低コストで、汚染を周辺環境に漏らすことなく汚染物質を分解除去できる方法及び装置を提供することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する汚染物質の分解除去方法は、小型密閉容器の内部に、処理対象である汚染物質を含んだ廃棄物及び希釈用の液体を、酸素を含む気体又は空気とともに密閉する密閉工程と、前記密閉工程後に、前記小型密閉容器を高温高圧処理装置の処理室内に配置して高温保持する処理工程と、前記処理工程後に、前記処理室内の温度を下げる冷却工程と、を備える。前記処理工程及び前記冷却工程では、前記処理室内の圧力を高めて前記小型密閉容器を外側から加圧する。
【0007】
(2)前記小型密閉容器は、内容積が0.5リットル以上かつ2.0リットル以下のレトルトパウチであることが好ましい。
(3)前記分解除去方法は、前記汚染物質としての核酸を分解除去する場合にも好適に用いることができる。
(4)また、前記分解除去方法は、前記汚染物質としての核酸染色試薬を分解除去する場合にも好適に用いることができる。
(5)あるいは、前記分解除去方法は、前記汚染物質として、実験に使用した後に熱失活処理することが望まれる有害物質、又は、感染性の生物試料を分解除去する場合にも好適に用いることができる。
【0008】
(6)前記高温高圧処理装置には、前記処理室内を加熱するヒーターと、前記処理室内の圧力を維持し又は高めるコンプレッサーと、前記圧力を前記処理室内から逃がすリーク弁とが設けられていることが好ましい。この場合、前記処理工程では、前記高温保持する際の前記処理室内の温度及び圧力を検出し、当該温度及び圧力に応じて前記ヒーター及び前記コンプレッサー並びに前記リーク弁の各作動状態を制御し、前記冷却工程では、前記コンプレッサーの作動状態を制御して、前記処理室内の温度と前記小型密閉容器内の温度との差及び前記処理室内と前記小型密閉容器内の気体組成の違いに由来する熱膨張率の差から生じる前記小型密閉容器の膨張を抑制することが好ましい。
(7)前記小型密閉容器は、外から内部が透けて見えるものであることが好ましい。
(8)前記高温高圧処理装置には、前記処理室内を冷却する冷却装置が設けられていることが好ましい。この場合、前記冷却工程では、前記冷却装置により前記処理室内の温度を強制的に低下させることが好ましい。
【0009】
(9)ここで開示する汚染物質の分解除去装置は、処理対象である汚染物質を含んだ廃棄物及び希釈用の液体を、酸素を含む気体又は空気とともに密閉するためのレトルトパウチと、密閉された前記レトルトパウチが配置される処理室を備えた高温高圧処理装置と、前記処理室内の圧力を維持し又は高めるコンプレッサーと、前記処理室内の圧力を逃がすリーク弁と、前記処理室内の圧力を検出する圧力検出手段と、前記処理室内の温度を検出する温度検出手段と、前記圧力検出手段及び前記温度検出手段によってそれぞれ検出された前記圧力及び前記温度に基づき、前記ヒーター及び前記コンプレッサー並びに前記リーク弁の各作動状態を制御することで前記処理室内に配置された前記レトルトパウチを外側から加圧した状態で高温保持するとともに前記加圧した状態で冷却する制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
開示の分解除去装置及び分解除去方法によれば、容器の内圧にかかわらず、短時間かつ低コストで、汚染を周辺環境に漏らすことなく汚染物質を分解除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る汚染物質の分解除去装置を例示する模式図である。
【
図2】
図1の分解除去装置で実施される分解除去方法の手順を説明するフローチャートである。
【
図3】
図2に示す分解除去方法の処理工程での温度と圧力との関係を例示するグラフである。
【
図4】
図2に示す分解除去方法の処理工程において、処理温度ごとに処理時間がどのように変化するかを実験した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、実施形態としての汚染物質の分解除去装置及び分解除去方法について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。実施形態の構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
[1.装置構成]
本実施形態の分解除去装置及び分解除去方法は、感染性廃棄物に含まれる汚染物質や生物試料の廃棄物に含まれる汚染物質を分解して除去する方法及び装置であり、汚染物質を封じ込めることで漏洩を回避しながら感染性の除去,生物試料の不活化,汚染物質の無害化を行う装置及び方法ともいえる。本実施形態では、汚染物質としてDNA(デオキシリボ核酸)を例示するが、汚染物質はこれに限られず、RNA(リボ核酸)であってもよいし、核酸以外の化学物質(例えば、酵素や当該条件で熱変性,熱分解される化合物)であってもよい。
【0014】
また、本実施形態の分解除去方法及び装置は、汚染物質としての核酸染色試薬を分解除去する場合も好適に用いることができる。核酸染色試薬とは核酸を染色するための試薬であり、例えばインターカレーター、マイナーグルーブバインダー、蛍光プローブ等が挙げられる。
【0015】
あるいは、本実施形態の分解除去方法及び装置は、汚染物質として、核酸以外にも、実験に使用した後に熱失活処理することが望まれる有害物質、又は、感染性の生物試料を分解除去する場合も好適に用いることができる。有害物質とは人体や生態系に害を及ぼす物質であり、例えば熱失活するたんぱく性毒素(エンテロトキシン、ベロ毒素、リシン毒素、ホスホリパーゼ、異常型プリオン等)、熱失活するアルカロイド(アコニチン等)等が挙げられる。なお、微生物そのものは有害物質(毒素)ではないが、微生物が生産した毒素を、生産した微生物とまとめて処理してもよい。また、感染性の生物試料とは感染性が有る生物試料であり、不活化されていないウィルスや不活化されていない病原性の微生物が含まれる。感染性の生物試料としては、例えばコロナウィルス、インフルエンザウィルス等を含む可能性がある臨床サンプルや環境サンプル、大腸菌O157を含む可能性がある臨床サンプルや環境サンプル、病原菌の有無が明らかでない組織片や血液等が挙げられる。
【0016】
図1は、本実施形態に係る分解除去装置を例示する模式図である。本分解除去装置は、処理対象である汚染物質を含んだ廃棄物(感染性廃棄物や生物試料の廃棄物)及び希釈用の液体を、酸素を含む気体又は空気とともに密閉するための小型密閉容器10と、この小型密閉容器10が配置される処理室2を備えた高温高圧処理装置1と、を備える。小型密閉容器10は、内容積が0.5リットル以上かつ2.0リットル以下(「0.5~2.0L」とも表現する)のレトルトパウチであることが好ましく、より好ましくは、外から内部が透けて見える透明色のレトルトパウチが用いられる。
【0017】
本実施形態では、小型密閉容器10としてレトルトパウチが使用される場合を例示する。以下、「レトルトパウチ10」と表現する。レトルトパウチ10は、少なくとも後述する処理温度の空間に配置されても内容物が漏洩しない(元の基本形状を維持できる)高い耐熱性を持ち(すなわち、処理温度よりも高い耐熱温度を持ち)、且つ、外からレトルトパウチ10越しに内容物の位置等を動かすことができる柔軟性を持つ素材(例えば樹脂やアルミ)で形成された袋である。レトルトパウチ10の開口部には、レトルトパウチ10を密閉するためのシール機能を持った部分(シール部)が設けられる。シール部の構成は特に限られず、レトルトパウチ10の内部の気体や液体が外部へ漏出せず、密閉空間を形成するものであればよい。本実施形態のレトルトパウチ10は内部が透けて見える透明色であり、外から内容物を視認可能となっている。
【0018】
本実施形態では、高温高圧処理装置1としてオートクレーブが使用される場合を例示する。以下、「オートクレーブ1」と表現する。オートクレーブ1は、例えば120℃以上の高温の蒸気を利用して高圧下で滅菌処理を行う高圧蒸気滅菌器であり、処理室2の内部(以下「処理室2内」という)の空気を脱気する脱気式であってもよいし、処理室2内の空気を脱気しない非脱気式であってもよい。
【0019】
本実施形態で使用されるオートクレーブ1は、市販されている「120℃、2気圧」を達成可能なオートクレーブではなく、少なくとも120℃よりも高い温度を実現可能な(より好ましくは2気圧よりも高い圧力も実現可能な)高性能のオートクレーブである。オートクレーブ1の処理室2内(例えば処理室2の底部付近)には、処理室2内に注水された水を加熱することで蒸気を生成するヒーター3が配置される。ヒーター3の作動状態(ON/OFF)は、後述する制御装置6によって制御される。
【0020】
本分解除去装置は、レトルトパウチ10及びオートクレーブ1に加え、オートクレーブ1の処理室2内の圧力を高めるコンプレッサー4と、処理室2内の圧力を逃がすリーク弁5と、圧力センサー8と、温度センサー9と、制御装置6とを備える。さらに、本実施形態の分解除去装置は、処理室2内を積極的に冷却し、強制的に処理室2内の温度を低下させる冷却装置7を備える。以下、これらの要素を順に説明する。
【0021】
コンプレッサー4は、処理室2内に空気を送り込むことで処理室2の内圧を維持し又は高める加圧ポンプである。一方、リーク弁5は、処理室2内の圧力を逃がして低下させるためのバルブ(例えば電磁弁)である。これらのコンプレッサー4及びリーク弁5の作動状態は、制御装置6によって制御される。圧力センサー8は、処理室2内の圧力を検出する圧力検出手段であり、温度センサー9は、処理室2内の温度を検出する温度検出手段である。これらのセンサー8,9で検出された情報は、制御装置6に伝達される。冷却装置7は、汚染物質の分解除去の完了後に処理室2内を冷却する装置であり、例えば、冷却ファンや冷却シャワーが挙げられる。冷却装置7の作動状態は、制御装置6によって制御される。
【0022】
制御装置6は、マイクロプロセッサやROM,RAM等の記憶部を有する制御基盤や電子制御装置であって、汚染物質の分解除去処理に関する制御を行うものである。制御装置6の入力ポートには、上記の圧力センサー8及び温度センサー9が接続される。制御装置6の具体的な制御対象としては、ヒーター3,コンプレッサー4,冷却装置7の各作動状態,リーク弁5の開閉状態が挙げられる。本実施形態の制御装置6は、圧力センサー8及び温度センサー9によってそれぞれ検出された圧力及び温度に基づき、ヒーター3,コンプレッサー4及びリーク弁5の各作動状態を制御することで処理室2内に配置されたレトルトパウチ10を外側から加圧した状態で高温保持するとともに加圧した状態で冷却する。
【0023】
[2.分解除去方法]
図2は、本実施形態に係る汚染物質の分解除去方法の手順を説明するフローチャートである。本分解除去方法は、密閉工程,処理工程,冷却工程の3工程からなり、この順に実施する。密閉工程及び処理工程の前半は作業者(人)の手によって実施され、処理工程の後半及び冷却工程は制御装置6によって実施される。つまり、処理工程の後半及び冷却工程が上記の「分解除去処理に関する制御」に相当する。なお、密閉工程及び処理工程の前半を作業者の手で実施する代わりに、ロボット等を使用して全自動化してもよい。この場合、全ての工程が「分解除去処理に関する制御」に相当する。反対に、処理工程の後半及び冷却工程を制御装置6で実施する代わりに、作業者の手で実施してもよい。
【0024】
密閉工程では、レトルトパウチ10の内部に、処理対象である汚染物質を含んだ廃棄物及び希釈用の液体を、酸素を含む気体又は空気とともに密閉する(ステップS1)。希釈用の液体としては、水,処理液のpHを調整するための酸やアルカリ溶液やこれらを含んだ水溶液などが挙げられる。
【0025】
例えば、廃棄物がPCR検査で用いられたDNA断片の場合、DNA断片を含む溶液が封入された試験容器12(例えばPCRチューブや384穴トレイ等)を開封することなくレトルトパウチ10に入れ、このレトルトパウチ10に希釈用の液体を入れ、空気を含んだ状態でレトルトパウチ10を密閉する。この場合、すなわち試験容器12を開封せずにレトルトパウチ10に入れる場合は、試験容器12を開封するための治具(図示略)も一緒にレトルトパウチ10に入れ、レトルトパウチ10を密閉後に、レトルトパウチ10の外から、レトルトパウチ10内の治具を操作して(治具を使って)試験容器12を開放する。なお、試験容器12を開封してからレトルトパウチ10に入れてもよく、この場合は治具を入れる必要はない。
【0026】
次の処理工程では、まず、密閉状態のレトルトパウチ10をオートクレーブ1の処理室2内に配置する(ステップS2)。このとき、例えば
図1に示すように、かご11に複数のレトルトパウチ10を配置して、かご11を処理室2内に配置してもよい。なお、この時点ではレトルトパウチ10内の試験容器12は開封されている。そして、オートクレーブ1の蓋を閉じ、処理室2内の温度及び圧力を制御しながら処理室2内を高温保持して汚染物質を処理する(ステップS3)。ステップS3では、高温保持する際の処理室2内の温度及び圧力を各センサー8,9で検出し、検出された温度及び圧力に応じてヒーター3及びコンプレッサー4並びにリーク弁5の各作動状態を制御する。
【0027】
ここで、処理工程の際の温度と圧力との関係を
図3に例示する。
図3の横軸は時間の経過を示しており、左から右にいくほど工程が進んでいる。まず、ヒーター3がオフからオンにされて加熱が開始されると、処理室2内の温度(図中太実線)が上昇し始め、これに伴ってレトルトパウチ10内の温度(図中太破線、以下「パウチ温度」という)も上昇し始める。レトルトパウチ10の内部には空気が含まれているため、温度上昇に伴ってレトルトパウチ10内の圧力(以下「パウチ内圧」という)も高くなる。処理室2内の圧力は飽和蒸気と残留空気とによって上昇し、飽和蒸気圧以上の圧力となってレトルトパウチ10を外側から加圧する。これにより、パウチ内圧の上昇に対して処理室2内の圧力が確保され、レトルトパウチ10の膨張による破裂が防止される。なお、処理室2の内圧は必要に応じてコンプレッサー4及びリーク弁5により調整される。
【0028】
具体的には、本実施形態の分解除去方法では、レトルトパウチ10を高温保持する際にはヒーター3及びコンプレッサー4並びにリーク弁5によって処理室2内の圧力が飽和蒸気圧以上に維持される。そして、処理時間の終了後(分解除去の完了後)に冷却装置7を制御して、処理室2内の温度を下げながら、コンプレッサー4の作用状態を制御して処理室2内の圧力(図中細実線)をパウチ内圧よりも高い状態に維持し、レトルトパウチ10を外側から加圧した状態で、処理室2内の温度とパウチ温度とを低下させる。これにより、密閉状態のレトルトパウチ10を破裂させることなく高温保持と高温からの冷却とが可能となる。コンプレッサー4で加圧する値(圧力値,コンプレッサー出力)は、パウチ温度が高いほど大きくなる。これは、パウチ温度が高いほどレトルトパウチ10内の飽和蒸気圧が高くなるからである。
【0029】
処理工程では、処理室2内の温度及びパウチ温度が処理温度(例えば120℃~135℃の間の所定温度)に達し、処理温度に対応する処理時間(例えば0.5時間~3時間)が経過するまでその処理温度を保持する。
図4は、処理温度ごとに処理時間がどのように変化するのかを実験した結果を示すグラフである。詳細は後述の実施例に記載するが、ここのグラフは、処理温度として、115℃,120℃,125℃,130℃の四段階で実験した結果を示す。
図4から明らかなように、処理温度が120℃の場合は3時間の処理時間が必要であったが、処理温度が125℃では処理時間が90分であり、処理温度が130℃では処理時間が1時間あれば分解除去が完了することが分かった。この結果から、処理温度を、130℃よりも高い温度(例えば135℃)まで高めることができれば、処理時間はさらに短時間で済むと予測できる。
【0030】
処理温度が高いほどパウチ温度も高くなるため、パウチ内圧も増大するが、これに対しては、処理室2内の圧力を高めることでレトルトパウチ10の破裂を防止可能である。なお、反対に、処理室2内の圧力が高まり過ぎた場合にはリーク弁5を開弁させて脱気する。処理時間が経過したら、ヒーター3をオフにして加熱を終了する。なお、前述したとおり、処理温度が高いほど処理時間は短くなる。
【0031】
処理工程後の冷却工程では、冷却装置7により処理室2内の温度を強制的に低下させる。ここで、ヒーター3をオフにすると、処理室2内の温度及びパウチ温度がいずれも低下するが、パウチ温度の方が処理室2内の温度よりも小さな傾きで低下する。このため、冷却工程の直前に、コンプレッサー4を作動させ、コンプレッサー4の作動状態を制御することで処理室2内の圧力を維持しながら、処理室2内の温度とパウチ温度とをともに低下させる。これにより、処理室2内の温度とパウチ温度との差、及び、処理室2内とレトルトパウチ10内の気体組成の違いに由来する熱膨張率の差から生じる、レトルトパウチ10の膨張を抑制し破裂を防止する。すなわち、冷却工程では、圧力を制御してレトルトパウチ10を外側から加圧しつつ冷却装置7を作動させて早期に処理室2内の温度を下げる。なお、パウチ温度が十分低下し、破裂のおそれがなくなったタイミングでコンプレッサー4を停止させる。
【0032】
[3.作用,効果]
(1)上述した分解除去方法及び装置によれば、処理工程及び冷却工程において処理室2内の圧力を高めてレトルトパウチ10の外側から加圧するため、小型密閉容器としてのレトルトパウチ10の破裂を防止できる。このため、パウチ内圧が高まっても、レトルトパウチ10を破裂させずに高温保持できるとともに高温からの冷却も可能となる。また、処理温度を高めることによりパウチ内圧が高まっても、レトルトパウチ10の破裂を防止できるため、処理時間の短縮を図ることができる。さらに、処理工程及び冷却工程において、処理室2内の圧力を高めてレトルトパウチ10を外側から加圧するだけで良いため、装置内の温度分布を均一に保つ必要もないため、低コストを実現できる。したがって、パウチ内圧にかかわらず、短時間かつ低コストで、汚染物質の分解除去を行うことができる。
【0033】
また、レトルトパウチ10の内部で廃棄物を処理するため、汚染を周辺環境に漏らすことなく汚染物質を封じ込めた状態で分解除去できる。さらに、小型密閉容器がレトルトパウチ10である場合、レトルトパウチ10は気密性が高いことに加え、柔軟性があるため、レトルトパウチ10内に廃棄物を封入した試験容器12ごと入れて密閉した後でも、レトルトパウチ10の外から、内部の試験容器12(例えばPCRチューブの蓋やトレイのカバー)を開放することができる。これによっても、外部に汚染物質を漏らすことがなく、周辺環境を保全できる。また、内容積が0.5リットル以上かつ2.0リットル以下という小型のレトルトパウチ10を使用することで、効率よく複数個のレトルトパウチ10を一度に処理でき、また、レトルトパウチ10の内部を簡単に、分解に最適な条件にすることができる。さらに、レトルトパウチ10は汎用性が高く、安価で、取り扱いが容易であり、レトルトパウチ10ごと廃棄することができるため、一連の分解除去工程にかかるコスト低減、及び、操作性の向上を図ることができる。
【0034】
(2)上述した分解除去方法及び装置を、汚染物質としての核酸(DNA,RNA),核酸染色試薬,実験に使用した後に熱失活処理することが望まれる有害物質、又は、感染性の生物試料を分解除去するために使用することで、汚染を漏らさずに分解除去を達成できる。
(3)上述したオートクレーブ1には、ヒーター3,コンプレッサー4及びリーク弁5が設けられており、いずれの工程においてもレトルトパウチ10の破裂を確実に防ぎつつ、適切な処理時間で汚染物質の分解除去を達成できる。
【0035】
(4)また、レトルトパウチ10が透明であれば、レトルトパウチ10の内部を外から視認できるため、廃棄物を収容した密閉状態の試験容器12(PCRチューブやトレイ)を、レトルトパウチ10の外から操作してレトルトパウチ10内で開放することができる。これにより、汚染物質がレトルトパウチ10の外に暴露することを回避できるため、より高い汚染防止効果が得られる。
【0036】
(5)上述した分解除去方法及び装置によれば、冷却装置7によって強制的に処理室2内の温度を低下させる冷却工程が実施されるため、処理室2内の温度を早急に低下させることができ、一連の分解除去時間を短縮することができる。
【0037】
[4.その他]
上述した分解除去装置は一例であり、分解除去方法も一例である。例えば、冷却装置7は必須では無く省略してもよい。この場合、処理工程後の冷却工程では、加圧とともに自然に処理室2内の温度を低下させればよい。また、高温高圧処理装置はオートクレーブ1に限られず、例えば、オーブン又は電熱器にコンプレッサーを追加することでも上述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、小型密閉容器もレトルトパウチ10に限られず、内圧上昇に伴って膨張し得る弾性素材で形成された小型の密閉容器であれば適用可能である。また、レトルトパウチ10を用いる場合であっても、そのレトルトパウチ10の種類や色は特に限られず、半透明や色付きのレトルトパウチを使用してもよい。なお、上記の分解除去方法及び装置は、核酸を分解除去する以外にも、感染性廃棄物や生物試料の廃棄物に含まれる汚染物質を分解して除去する際に適用可能である。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
1.レトルトパウチ(カウパック社製ESCF-TN0900型・巾160mm×高さ240mm×底マチ40.5mm)に300mLの水道水を入れ、レトルトパウチのヘッドスペースに200mL程度空気を残したまま、ハッコー社製FV802-01型卓上ヒートシーラーで開口部を溶着した。また、レトルトパウチの状態確認の為、レトルトパウチに450mL、600mLの水道水をそれぞれ入れ、ヘッドスペースに空気を残したまま、同様に開口部を溶着した。
2.密閉した上記3種類のレトルトパウチを高温高圧処理装置試作機の処理室内に設置し、処理温度が125℃,処理時間が1時間の条件で運転したところ、全てのレトルトパウチは、加熱,処理,冷却のいずれにおいて安定的に保たれた。
【0040】
(比較例1)
上記の実施例1と同様のレトルトパウチに300mLの水道水を入れ、上記と同様に、レトルトパウチのヘッドスペースに空気を残したまま開口部を溶着した。
通常のオートクレーブを使用して、密閉した上記のレトルトパウチを複数個、処理室内に設置し、通常の脱気をして、処理温度が121℃,処理時間が20分の条件でコンプレッサーによる加圧を行わずに、加熱,処理,冷却まで終了すると、全てのレトルトパウチは内側から破裂した。
【0041】
(比較例2)
上記の実施例1と同様のレトルトパウチに150mL、300mL、600mLの水道水を入れ、上記と同様に、レトルトパウチのヘッドスペースに空気を残したまま開口部を溶着した。
通常のレトルト殺菌器を使用して、密閉した上記3種類のレトルトパウチを処理室内に設置し、121℃,殺菌時間20分の条件で、処理室内の脱気を伴いかつ加熱,処理時にコンプレッサーを作動しないで運転したところ、600mLのレトルトパウチは内側から破裂したため、比率として33%のレトルトパウチが内側から破裂した。
【0042】
(実施例2)
上記と同様のレトルトパウチに300mLミリQ水を入れ、先願特許(特許文献1)と同じモデルPCR廃棄物の溶液を加えて先願特許と同一の方法によりDNAの分解能力の評価を行ったところ、
図4の結果を得た。モデルPCR廃棄物を段階希釈したサンプルを参照して、処理前のサンプルのCt値が8、分解して鋳型活性が約7桁減少したサンプルのCt値が35であることを確認した。DNAの鋳型活性を7桁減少させるのに要する処理時間は、処理温度が120℃の場合は3時間、処理温度が125℃では90分、処理温度が130℃では1時間であることが分かった。
本発明によれば、汚染を漏らさずに、核酸や核酸以外の化学物質(酵素や当該条件で熱変性,熱分解される化合物)を分解除去することが可能であり、医療や実験廃棄物等の処理に有効である。