(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081093
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】組成物、架橋物
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20220524BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C08L27/18
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192412
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 剛
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD151
4J002DJ016
4J002EK000
4J002EU190
4J002FD016
4J002FD140
4J002FD150
(57)【要約】
【課題】低温特性、強度及び伸びに優れる架橋物が得られる組成物;低温特性、強度及び伸びに優れる架橋物の提供。
【解決手段】含フッ素共重合体とシリカとを含む組成物であり、含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、下式1で表される化合物に基づく単位とを有し、含フッ素共重合体は、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する、組成物;前記組成物の架橋物。
CF2=CFO(Rf1O)nRf2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素共重合体とシリカとを含む組成物であり、
前記含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、下式1で表される化合物に基づく単位とを有し、
前記含フッ素共重合体は、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する、組成物。
CF2=CFO(Rf1O)nRf2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【請求項2】
前記含フッ素共重合体の前記テトラフルオロエチレンに基づく単位の割合が、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して35~65モル%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記含フッ素共重合体の前記プロピレンに基づく単位の割合が、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して20~50モル%である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記含フッ素共重合体の前記式1で表される化合物に基づく単位の割合が、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して2~15モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記含フッ素共重合体が、2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体に基づく単位をさらに有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記含フッ素共重合体におけるヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が、前記含フッ素共重合体の質量に対して0.01~5質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記シリカが疎水性シリカである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記シリカの割合が、前記含フッ素共重合体の100質量部に対して1~50質量部である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物の架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムに架橋剤、架橋助剤等を配合した組成物を架橋した架橋物は、耐熱性、耐薬品性、耐油性、耐候性等に優れるため、汎用ゴムを適用できない過酷な環境下での用途に適している。フッ素ゴムとしては、例えば、テトラフルオロエチレンに基づく単位とプロピレンに基づく単位とを有する共重合体(FEPM)が知られている。
【0003】
フッ素ゴムを低温下で使用するために、フッ素ゴムの低温におけるゴム物性(以下、低温特性とも記す。)を改良することが提案されている。特許文献1では、低温特性及び架橋性が改良されたFEPMとして、下記の含フッ素共重合体が提案されている。
テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、下式1で表される化合物に基づく単位とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する、含フッ素共重合体。
CF2=CFO(Rf1O)nRf2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、フッ素ゴムを含む組成物の架橋物には、優れた低温特性に加えて、強度及び伸びにさらなる改善が求められる。
本発明は、低温特性、強度及び伸びに優れる架橋物が得られる組成物;低温特性、強度及び伸びに優れる架橋物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 含フッ素共重合体とシリカとを含む組成物であり、前記含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレンに基づく単位と、プロピレンに基づく単位と、下式1で表される化合物に基づく単位とを有し、前記含フッ素共重合体は、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する、組成物。
CF2=CFO(Rf1O)nRf2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
[2] 前記含フッ素共重合体の前記テトラフルオロエチレンに基づく単位の割合が、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して35~65モル%である、[1]の組成物。
[3] 前記含フッ素共重合体の前記プロピレンに基づく単位の割合が、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して20~50モル%である、[1]又は[2]の組成物。
[4] 前記含フッ素共重合体の前記式1で表される化合物に基づく単位の割合が、前記テトラフルオロエチレンに基づく単位、前記プロピレンに基づく単位及び前記式1で表される化合物に基づく単位の合計モル数に対して2~15モル%である、[1]~[3]のいずれかの組成物。
[5] 前記含フッ素共重合体が、2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体に基づく単位をさらに有する、[1]~[4]のいずれかの組成物。
[6] 前記含フッ素共重合体におけるヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が、前記含フッ素共重合体の質量に対して0.01~5質量%である、[1]~[5]のいずれかの組成物。
[7] 前記シリカが疎水性シリカである、[1]~[6]のいずれかの組成物。
[8] 前記シリカの割合が、前記含フッ素共重合体の100質量部に対して1~50質量部である、[1]~[7]のいずれかの組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかの組成物の架橋物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物によれば、低温特性、強度及び伸びに優れる架橋物が得られる。
本発明の架橋物は、低温特性、強度及び伸びに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
式1で表される化合物を「化合物1」と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
「単量体」とは、重合性不飽和結合を有する化合物を意味する。重合性不飽和結合としては、炭素原子間の二重結合、三重結合等が例示される。
「単量体に基づく単位」とは、単量体1分子が重合することで直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換することで得られる原子団との総称である。単量体に基づく単位を「単量体単位」とも記す。
「分子鎖の末端」とは、主鎖の末端及び分岐鎖の末端の両方を含む概念である。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素-炭素原子間に1個存在する酸素原子である。
「ガラス転移温度」は、JIS K 6240:2011(対応国際規格ISO 22768:2006)に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)で求めた中間点ガラス転移温度である。
「貯蔵せん断弾性率G’」は、ASTM D5289及びD6204にしたがい、温度100℃、振幅0.5°、振動数50回/分で測定した値である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0009】
本発明の組成物は、含フッ素共重合体とシリカとを含む。本発明の組成物は、架橋剤、架橋助剤をさらに含んでもよい。また、本発明の組成物は、発明の効果を損なわない範囲内であれば、含フッ素共重合体、シリカ、架橋剤及び架橋助剤以外のその他の添加剤をさらに含んでもよい。
【0010】
(含フッ素共重合体)
含フッ素共重合体は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)と、プロピレンに基づく単位(以下、「P単位」とも記す。)と、化合物1に基づく単位(以下、「化合物1単位」とも記す。)とを有し、かつヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する。
含フッ素共重合体は化合物1単位を有するため、低温特性が優れる。
CF2=CFO(Rf1O)nRf2 ・・・式1
ただし、Rf1は、炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Rf2は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、nは、1~4の整数であり、nが2~4の場合、複数存在するRf1は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0011】
Rf1のペルフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。Rf2のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
Rf2の炭素数は、1~3の整数が好ましい。nは、1~3の整数が好ましい。
Rf1の炭素数、Rf2の炭素数及びnが前記数値範囲内であると、含フッ素共重合体の生産性が向上し、含フッ素共重合体が低温特性に優れる。
【0012】
化合物1としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
CF2=CFOCF2CF2OCF2OCF2OCF3(以下、「C7-PEVE」とも記す。)、
CF2=CFOCF2CF2OCF2CF2OCF2CF3(以下、「EEAVE」とも記す。)、
CF2=CFOCF2CF2OCF2CF2OCF2CF2OCF2CF3、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF3(以下、「PHVE」とも記す。)、
CF2=CFOCF2CF2OCF3、
CF2=CFOCF2CF2CF2OCF3、
CF2=CFOCF2CF2OCF2CF3、
CF2=CFOCF2OCF3、
CF2=CFOCF2OCF2CF3、
CF2=CFOCF2OCF2CF2OCF3、
CF2=CFO(CF2CF(CF3)O)2CF2CF2CF3、
CF2=CFOCF2OCF2OCF3。
【0013】
化合物1としては、含フッ素共重合体の生産性が向上し、含フッ素共重合体が低温特性に優れる点から、C7-PEVE、EEAVE、PHVEが好ましい。
化合物1は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物1は、対応するアルコールを原料として、国際公開第00/56694号に記載の方法で製造できる。
【0014】
含フッ素共重合体は、TFE、プロピレン及び化合物1以外の単量体(以下、「他の単量体」とも記す。)に基づく単位をさらに有してもよい。
他の単量体としては、例えば、2個以上の重合性不飽和結合を有する単量体(以下、「DV」とも記す。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」とも記す。)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロピレン、ペルフルオロシクロブテン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、(ペルフルオロアルキル)エチレン(CH2=CHCF3、CH2=CHCF2CF3、CH2=CHCF2CF2CF3、CH2=CHCF2CF2CF2CF3、CH2=CHCF2CF2CF2CF2CF3等)、α-オレフィン(エチレン、イソブチレン、ペンテン等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル等)、臭素原子及びヨウ素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ニトリル基を有する単量体(CF2=CFO(CF2)5CN、ペルフルオロ(8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテン)等)が挙げられる。
【0015】
臭素原子及びヨウ素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体としては、化合物2、化合物3が好ましい。
CR1R2=CR3R4 ・・・式2
CR1R2-R5-CR3R4 ・・・式3
ただし、化合物2及び化合物3は、1つ以上の臭素原子又はヨウ素原子を有する。
R1、R2、R3はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
R4は、アルキル基、エーテル性酸素を有するアルキル基、フルオロアルキル基、又はエーテル性酸素を有するフルオロアルキル基である。R4は、臭素原子又はヨウ素原子を有してもよい。R4は、直鎖状でもよく、分岐状であってもよい。
R5は、1つ以上の重合性不飽和結合を有する基である。重合性不飽和結合は、アルキル基、エーテル性酸素を有するアルキル基、フルオロアルキル基、エーテル性酸素を有するフルオロアルキル基と結合していてもよい。R5は、臭素原子又はヨウ素原子を有してもよい。R5は、直鎖状でもよく、分岐状であってもよい。
【0016】
化合物2、化合物3として、例えば、下記の化合物が挙げられる。
ヨードエチレン、4-ヨード-3,3,4,4-テトラフルオロ-1-ブテン、2-ヨード-1,1,2,2-テトラフルオロ-1-ビニロキシエタン、2-ヨードエチルビニルエーテル、アリルヨージド、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヨード-1-(ペルフルオロビニロキシ)プロパン、3,3,4,5,5,5-ヘキサフルオロ-4-ヨードペンテン、ヨードトリフルオロエチレン、2-ヨードペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、CF2=CFOCF(CF3)CF2OCF2CF2CH2I、CF2=CFOCF2CF2CH2I、CH2=CHCF2CF2I。
ブロモトリフルオロエチレン、4-ブロモ-3,3,4,4-テトラフルオロブテン-1(以下、「BTFB」とも記す。)、臭化ビニル,1-ブロモ-2,2-ジフルオロエチレン、ペルフルオロアリルブロミド、4-ブロモ-1,1,2-トリフルオロブテン-1、4-ブロモ-1,1,3,3,4,4-ヘキサフルオロブテン、4-ブロモ-3-クロロ-1,1,3,4,4-ペンタフルオロブテン、6-ブロモ-5,5,6,6-テトラフルオロヘキセン、4-ブロモペルフルオロブテン-1、3,3-ジフルオロアリルブロミド、2-ブロモ-ペルフルオロエチルペルフルオロビニルエーテル、CF2=CFOCF2CF2CF2OCF2CF2Br、CF2BrCF2O-CF=CF2、CH3OCF=CFBr、CF3CH2OCF=CFBr。
3-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1。
化合物2としては、BTFBが好ましい。
【0017】
他の単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
他の単量体としては、DV、PAVEが好ましく、DVがより好ましい。
含フッ素共重合体がDVに基づく単位(以下、「DV」単位とも記す。)を有すると、含フッ素共重合体の架橋性、架橋物の機械特性(引張り強度、引張り伸び、圧縮永久歪、等)がさらに優れる。
【0018】
DVにおける重合性不飽和結合としては、炭素-炭素原子間の二重結合、三重結合等が挙げられ、二重結合が好ましい。DVにおける重合性不飽和結合の数は、2~6個が好ましく、2又は3個がより好ましく、2個がさらに好ましい。
DVとしては、化合物4、化合物5及び化合物6からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
CR6R7=CR8-R9-CR10=CR11R12 ・・・式4
CR13R14=CR15-OC(O)-R16-C(O)O-CR17=CR18R19 ・・・式5
CR20R21=CR22-C(O)O-CH=CH2 ・・・式6
【0019】
R6、R7、R8、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R17、R18、R19及びR22はそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又はメチル基である。
R9及びR16はそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキレン基、エーテル性酸素原子を有する炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~10のフルオロアルキレン基、又はエーテル性酸素原子を有する炭素数1~10のフルオロアルキレン基である。
R20及びR21はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又はエーテル性酸素原子を有する炭素数1~10のアルキル基である。
【0020】
化合物4としては、炭素数1~10のアルキレン基又はフルオロアルキレン基の両末端の各々に、エーテル性酸素原子を介在して又は介さずに、ビニル基、アリル基及びブテニル基から独立して選ばれる基が結合した化合物が挙げられる。エーテル性酸素原子が介在する場合の例として、ジビニルエーテル、アリルビニルエーテル、ブテニルビニルエーテル、フルオロ(ジビニルエーテル)、フルオロ(アリルビニルエーテル)、フルオロ(ブテニルビニルエーテル)が挙げられる。
【0021】
化合物4は、含フッ素共重合体の架橋性、架橋物の耐熱性を高める点から、R6、R7、R8、R10、R11及びR12がそれぞれ独立にフッ素原子又は水素原子であることが好ましく、R6、R7、R8、R10、R11及びR12のすべてがフッ素原子であることがより好ましい。
R9のアルキレン基又はフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。R9の炭素数は、2~8が好ましく、3~7がより好ましく、3~6がさらに好ましく、3~5が特に好ましい。R9におけるエーテル性酸素原子の数は、0~3個が好ましく、1又は2個がより好ましい。R9がこれらの好ましい形態であると、架橋物の機械特性がさらに優れる。
R9としては、架橋物の耐熱性、着色抑制の点から、フルオロアルキレン基が好ましく、ペルフルオロアルキレン基がより好ましい。
【0022】
化合物4としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
CH2=CHO(CH2)4OCH=CH2、
CF2=CFO(CF2)3OCF=CF2(以下、「DVE-3」とも記す。)、
CF2=CFO(CF2)4OCF=CF2(以下、「DVE-4」とも記す。)、
CH2=CH(CF2)6CH=CH2。
【0023】
化合物5としては、例えば、ジビニルエステル、アリルビニルエステル、ブテニルビニルエステルが挙げられる。
化合物5は、R13、R14、R15、R17、R18及びR19が水素原子であることが好ましい。
R16としては、R9と同様の基が挙げられる。R16の炭素数の好ましい範囲もR9と同様である。R16におけるエーテル性酸素原子の数は、0又は1個が好ましく、0個がより好ましい。
化合物5としては、例えば、アジピン酸ジビニルが挙げられる。
【0024】
化合物6は、R21及びR22が水素原子であることが好ましい。
化合物6としては、例えば、クロトン酸ビニル、メタクリル酸ビニルが挙げられ、クロトン酸ビニルが好ましい。
DVとしては、架橋物の機械特性を維持しつつ、含フッ素共重合体の架橋性がさらに優れる点から、DVE-3、DVE-4が好ましい。
DVは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
PAVEとしては、例えば、化合物7が挙げられる。
CF2=CFORf3 ・・・式7
ただし、Rf3は炭素原子数1~10のペルフルオロアルキル基である。
Rf3のペルフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。Rf3の炭素数は、1~8が好ましく、1~6がより好ましく、1~5がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
化合物7としては、例えば、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)が挙げられる。
PAVEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
TFE単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して35~65モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましく、45~55モル%がさらに好ましい。
P単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して20~50モル%が好ましく、30~47モル%がより好ましく、40~45モル%がさらに好ましい。
TFE単位及びP単位の割合が前記数値範囲内であると、含フッ素共重合体の機械特性、耐熱性、耐薬品性(耐アルカリ性等)、耐油性及び耐候性がさらに優れる。
【0027】
化合物1単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して2~15モル%が好ましく、3~13モル%がより好ましく、5~12モル%がさらに好ましい。
化合物1単位の割合が前記範囲の下限値以上であると、含フッ素共重合体の低温特性がさらに優れる。化合物1単位の割合が前記範囲の上限値以下であると、機械特性及び生産性が優れる。
【0028】
TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数は、含フッ素共重合体を構成する全単位に対して、50~100モル%が好ましく、60~100モル%がより好ましく、70~100モル%がさらに好ましい。
含フッ素共重合体がDV単位を有する場合、DV単位の割合は、TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対して、0.1~1.0モル%が好ましく、0.15~0.8モル%がより好ましく、0.2~0.6モル%がさらに好ましい。DV単位の割合が前記範囲の下限値以上であると、含フッ素共重合体が架橋性に優れ、架橋物の機械特性がさらに優れる。DV単位の割合が前記範囲の上限値以下であると、架橋物の優れた物性を維持しつつ、高温下で折り曲げ等の応力が加えられた場合の割れが抑えられる。
【0029】
含フッ素共重合体はヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する。そのため、含フッ素共重合体は架橋性に優れる。ヨウ素原子又は臭素原子は、含フッ素共重合体の分子鎖の末端に結合していることが好ましい。
ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合は、含フッ素共重合体の質量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.03~2質量%がより好ましく、0.05~1質量%がさらに好ましい。ヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が前記数値範囲内であると、含フッ素共重合体の架橋性及び機械特性がさらに優れる。
【0030】
含フッ素共重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」とも記す。)は、含フッ素共重合体の低温特性の目安となる。含フッ素共重合体のTgは、-3℃以下が好ましく、-5℃以下がより好ましく、-10℃以下がさらに好ましい。含フッ素共重合体のTgが前記範囲の上限値以下であると、含フッ素共重合体の低温特性がさらに優れる。含フッ素共重合体のTgは低ければ低いほどよく、下限値は特に限定されない。ただし、加工性及び機械特性の点から、含フッ素共重合体のTgは-50℃以上が好ましい。
【0031】
TFE単位、P単位及び化合物1単位の合計モル数に対する化合物1単位の割合(X1モル%)と、含フッ素共重合体のTg(Y1℃)とが、Y1/X1≦-0.8を満足することが好ましく、Y1/X1≦-1.0を満足することがより好ましく、Y1/X1≦-1.5を満足することがさらに好ましい。
通常のFEPM(TFEとプロピレンとの共重合体、TFE単位:プロピレン単位=56:44)のTgがほぼ0℃であることから、Y1/X1≦-0.8を満足するということは、通常のFEPMに化合物1単位を1モル%導入すれば、得られる含フッ素共重合体のTgが通常のFEPMに比べ0.8℃以上低下することを意味する。すなわち、化合物1が、1モル%の導入で含フッ素共重合体のTgを0.8℃以上低下させるような効果的な化合物であることを意味する。このような化合物1としては、C7PEVE、EEAVE、PHVEが挙げられる。
【0032】
含フッ素共重合体の貯蔵せん断弾性率G’は、10~800kPaが好ましく、50~600kPaがより好ましく、80~500kPaがさらに好ましい。貯蔵せん断弾性率G’が大きい方が、重合体の分子量が大きく、分子鎖の絡み合いの密度も高いことを示す。含フッ素共重合体の貯蔵せん断弾性率G’が前記数値範囲内であると、加工性、機械特性(引張強さ等)がさらに優れる。
【0033】
(含フッ素共重合体の製造方法)
本発明の含フッ素共重合体は、例えば、単量体成分を重合するに際し、重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる方法で製造できる。単量体成分は、TFEとプロピレンと化合物1とを含む。
【0034】
単量体成分を重合するに際し、重合系内に、ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を存在させる方法によれば、含フッ素共重合体にヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を導入できる。
【0035】
ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体としては、含フッ素共重合体の説明において例示したものと同様のものが挙げられる。
【0036】
ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤としては、例えば、化合物8、化合物9、化合物10が挙げられる。
Rf4I2 ・・・式8
Rf5IBr ・・・式9
Rf6Br2 ・・・式10
ただし、Rf4、Rf5及びRf6は、炭素数1~16のフルオロアルキレン基又は芳香環を有する骨格である。
Rf4、Rf5及びRf6のフルオロアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。Rf4、Rf5及びRf6としては、ペルフルオロアルキレン基が好ましい。
化合物8としては、例えば、1,2-ジヨードペルフルオロエタン、1,3-ジヨードペルフルオロプロパン、1,4-ジヨードペルフルオロブタン(以下、「C4DI」とも記す。)、1,5-ジヨードペルフルオロペンタン、1,6-ジヨードペルフルオロヘキサン、1,8-ジヨードペルフルオロクタン、2-ヨードペルフルオロプロパン、1,3-ジヨード-2-クロロペルフルオロプロパン、1,5-ジヨード-2,4-ジクロロペルフルオロペンタン、1,12-ジヨードペルフルオロドデカン、1,16-ジヨードペルフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨード-n-プロパン、ベンゼンの(2-ヨードエチル)置換体が挙げられ、C4DIが好ましい。
化合物9としては、例えば、1-ヨード-4-ブロモペルフルオロブタン、1-ヨード-6-ブロモペルフルオロヘキサン、1-ヨード-8-ブロモペルフルオロクタン、1-ブロモ-2-ヨードペルフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードペルフルオロプロパン、2-ブロモ-3-ヨードペルフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1、2-ブロモ-4-ヨードペルフルオロブテン-1、ベンゼンのモノヨードモノブロモ置換体、ジヨードモノブロモ置換体が挙げられる。
化合物10としては、例えば、CF2Br2、BrCF2CF2Br、CF3CFBrCF2Br、CFClBr2、BrCF2CFClBr、CFBrClCFClBr、BrCF2CF2CF2Br、BrCF2CFBrOCF3、ベンゼンの(2-ブロモエチル)置換体が挙げられる。
【0037】
ヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する単量体、ならびにヨウ素原子及び臭素原子のいずれか一方又は両方を有する連鎖移動剤の合計の量は、含フッ素共重合体の質量に対するヨウ素原子及び臭素原子の合計の割合が上述した範囲内となるように適宜調整する。
【0038】
含フッ素共重合体の製造方法では、ラジカル重合開始剤の存在下で重合を開始することが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、水溶性開始剤、レドックス系開始剤が好ましい。
水溶性開始剤としては、例えば、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等)、有機系開始剤(ジコハク酸過酸化物、アゾビスイソブチルアミジン二塩酸塩等)が挙げられる。
【0039】
レドックス系開始剤としては、例えば、還元剤と上述した過硫酸塩との組み合わせが挙げられる。
還元剤としては、例えば、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸塩が挙げられる。
レドックス系開始剤は、還元剤及び過硫酸塩に加えて第三成分として、少量の鉄、第一鉄塩等の鉄塩、硫酸銀等の銀塩を含むことが好ましい。第三成分としては、水溶性鉄塩(硫酸第一鉄等)が好ましい。
レドックス系開始剤に加えて、キレート剤を用いることも好ましい。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩が挙げられる。
ラジカル重合開始剤の量は、単量体成分の100質量部に対して、0.0001~3質量部が好ましく、0.001~1質量部がより好ましい。
【0040】
重合方法としては、例えば、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられ、分子量及び共重合組成を調整しやすく、生産性に優れる点から、乳化剤の存在下、水性媒体中で単量体成分を重合する乳化重合法が好ましい。
【0041】
水性媒体としては、水、水溶性有機溶媒を含む水が好ましく、水溶性有機溶媒を含む水がより好ましい。
水溶性有機溶媒としては、例えば、tert-ブチルアルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールが挙げられる。
【0042】
水性媒体のpHは、7~14が好ましく、7~11がより好ましく、7.5~11がさらに好ましく、8~10.5が特に好ましい。
pHの調整には、pH緩衝剤を用いることが好ましい。pH緩衝剤としては、リン酸塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等)、炭酸塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等)が挙げられる。
【0043】
乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤が挙げられ、ラテックスの機械的及び化学的安定性がさらに優れる点から、アニオン性乳化剤又はカチオン性乳化剤が好ましく、アニオン性乳化剤がより好ましい。
アニオン性乳化剤としては、例えば、炭化水素系乳化剤(ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、含フッ素アルカン酸塩(ペルフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロヘキサン酸アンモニウム等)、含フッ素エーテルカルボン酸化合物が挙げられる。
乳化剤としては、フッ素原子を有する乳化剤が好ましく、含フッ素アルカン酸塩、含フッ素エーテルカルボン酸化合物がより好ましく、含フッ素エーテルカルボン酸化合物がさらに好ましい。
【0044】
含フッ素エーテルカルボン酸化合物としては、例えば、化合物11が挙げられる。
Rf6ORf7COOA ・・・式11
ただし、Rf6は、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基であり、Rf7は、フルオロアルキレン基、又はエーテル性酸素原子を有するフルオロアルキレン基であり、Aは、水素原子、アルカリ金属に分類される原子又はNH4である。Rf7は炭素数1~3のペルフルオロアルキル基の分岐鎖を有してもよい。Rf7の炭素数は、1~12が好ましく、1~8がより好ましい。
【0045】
含フッ素エーテルカルボン酸化合物としては、化合物12が好ましい。
F(CF2)pO(CF(X1)CF2O)qCF(X1)COOA ・・・式12
ただし、X1は、フッ素原子又は炭素数1~3のペルフルオロアルキル基であり、Aは、水素原子、アルカリ金属に分類される原子又はNH4であり、pは1~10の整数であり、qは0~3の整数である。
【0046】
化合物11又は化合物12としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
C3F7OCF2C(O)ONH4、
C4F9OCF2C(O)ONH4、
C5F11OCF2C(O)ONH4、
CF3OCF2CF2OCF2C(O)ONH4、
C2F5OCF2CF2OCF2C(O)ONH4、
C2F5OCF(CF3)C(O)ONH4、
C3F7OCF(CF3)C(O)ONH4、
C4F9OCF(CF3)C(O)ONH4、
CF3OCF(CF3)CF2OCF(CF3)C(O)ONH4、
C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)C(O)ONH4、
CF3O(CF2)3OCFHCF2C(O)ONH4、
CF3O(CF2)3OCF2C(O)ONH4、
CF3O(CF2)3O(CF2)2C(O)ONH4、
C2F5O(CF2)2O(CF2)2C(O)ONH4、
CF3O(CF2)3OCF(CF3)C(O)ONH4、
C2F5O(CF2)2OCF(CF3)C(O)ONH4、
CF3OCF2OCF2OCF2C(O)ONH4。
乳化剤の量は、水性媒体の100質量部に対して、0.01~15質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.1~3質量部がさらに好ましい。
【0047】
乳化重合法で含フッ素共重合体を含むラテックスが得られる。含フッ素共重合体は、凝集させてラテックスから分離できる。
凝集方法としては、例えば、金属塩を添加して塩析する方法、塩酸等の無機酸を添加する方法、機械的剪断による方法、凍結又は解凍による方法が挙げられる。
【0048】
重合温度は、10~70℃が好ましく、12~60℃がより好ましく、15~50℃がさらに好ましい。重合温度が前記範囲の下限値以上であると、重合性が高く、重合速度の点で生産性に優れる。重合温度が前記範囲の上限値以下であると、含フッ素共重合体にヨウ素原子、臭素原子が充分に導入され、含フッ素共重合体の架橋性がさらに優れる。また、含フッ素共重合体の分子量が充分に上がり、貯蔵せん断弾性率G’が充分に高くなり、含フッ素共重合体の加工性がさらに優れる。
【0049】
重合圧力は、3.0MPa[gauge]以下が好ましく、0.3~2.8MPa[gauge]がより好ましく、0.5~2.5MPa[gauge]がさらに好ましい。重合圧力が前記範囲の下限値以上であると、含フッ素共重合体の分子量が充分に上がり、貯蔵せん断弾性率G’が充分に高くなり、含フッ素共重合体の加工性がさらに優れる。重合圧力が前記範囲の上限値以下であると、含フッ素共重合体に化合物1が充分に導入され、含フッ素共重合体の低温特性がさらに優れる。
【0050】
重合速度は、1~500g/L・時間が好ましく、2~300g/L・時間がより好ましく、3~200g/L・時間がさらに好ましい。重合速度が前記範囲の下限値以上であると、実用的な生産性に優れる。重合速度が前記範囲の上限値以下であると、含フッ素共重合体の分子量が低下しにくく、架橋性がさらに優れる。
重合時間は、0.5~50時間が好ましく、1~30時間がより好ましく、2~20時間がさらに好ましい。
【0051】
(シリカ)
シリカは、二酸化ケイ素の粒子である。本発明の組成物はシリカを含むため、組成物を架橋した架橋物が強度、伸びに優れる。
シリカの粒子の形状は特に限定されない。通常、シリカの一次粒子は球状であるが、一次粒子の形状は球状に限定されない。シリカは、複数の一次粒子が凝集した二次粒子でもよい。
【0052】
シリカとしては、架橋物の強度、伸びの点で、疎水性シリカが好ましい。疎水性シリカは、未処理のシリカを表面処理剤で疎水化処理したものである。
【0053】
疎水化処理される前の未処理のシリカとして、一般に、その製造方法により湿式シリカ、乾式シリカ、フュームドシリカがある。シリカの製造方法は特に限定されないが、組成物に乾式シリカが含まれると、成形加工時にボイド不良の不具合が生じにくいため、乾式シリカが好ましい。この点から、疎水性シリカとしては、乾式シリカを疎水化処理したものが好ましい。
【0054】
疎水化処理の表面処理剤としては、架橋物の伸びの点で、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイルが好ましく、ヘキサメチルジシラザンがより好ましい。
これらの表面処理剤を用いて疎水化処理した疎水性シリカを含む組成物によれば、伸び及び強度にさらに優れる架橋物が得られる。加えて、組成物が流動性に優れ、組成物の成形加工性も優れる。
【0055】
疎水性シリカの見かけ比重は、40~250g/Lが好ましく、100~200g/Lがより好ましい。疎水性シリカの見かけ比重が前記数値範囲内であると、組成物の流動性が優れ、架橋物の伸び、硬度がさらに優れる。
疎水性シリカの比表面積は15~410m2/gが好ましく、20~300m2/gがより好ましく、25~210m2/gが特に好ましい。疎水性シリカの比表面積が前記数値範囲内であると、組成物中の分散性に優れる。
疎水性シリカの平均一次粒子径は5~50nmが好ましく、6~45nmがより好ましく、7~40nmが特に好ましい。疎水性シリカの平均一次粒子径が前記数値範囲内であると、組成物中の分散性に優れる。
【0056】
疎水性シリカは市販品を用いてもよい。例えば、日本アエロジル社製のアエロジルシリーズを用いることができる。例えば、アエロジルR8200、アエロジルRX200、アエロジルNX90S、アエロジルR202、アエロジルR972、アエロジルR9200、アエロジル200が挙げられる。
【0057】
シリカの割合は、含フッ素共重合体の100質量部に対して1~50質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましく、8~30質量部がさらに好ましい。
シリカの割合が前記下限値以上であると、架橋物の硬度がさらに優れる。シリカの割合が前記上限値以下であると、架橋物が伸びにさらに優れる。
【0058】
(架橋剤)
架橋剤としては、例えば、有機過酸化物が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、ジアルキルペルオキシド(ジtert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α,α-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン-3等)、1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルペルオキシマレイン酸、tert-ブチルペルオキシソプロピルカーボネートが挙げられる。有機過酸化物としては、ジアルキルペルオキシドが好ましい。
有機過酸化物の配合量は、含フッ素共重合体の100質量部に対して、0.3~10質量部が好ましく、0.3~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。有機過酸化物の配合量が前記数値範囲内であると、架橋速度が適切な値となり、架橋物の引張強さと伸びとのバランスに優れる。
【0059】
(架橋助剤)
架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタクリルイソシアヌレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアリルトリメリテート、m-フェニレンジアミンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラアリルテレフタールアミド、ビニル基含有シロキサンオリゴマー(ポリメチルビニルシロキサン、ポリメチルフェニルビニルシロキサン等)が挙げられる。架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタクリルイソシアヌレートが好ましく、トリアリルイソシアヌレートがより好ましい。
架橋助剤の配合量は、含フッ素共重合体の100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。架橋助剤の量が前記数値範囲内であると、架橋速度が適切な値となり、架橋物の引張強さと伸びとのバランスに優れる。
【0060】
組成物に金属酸化物を配合してもよい。金属酸化物としては、2価金属の酸化物が好ましい。2価金属の酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉛が好ましい。
金属酸化物の配合量は、含フッ素共重合体の100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。組成物に金属酸化物を配合すれば含フッ素共重合体の架橋性がさらに向上する。
【0061】
その他の添加剤としては、例えば、充填材、受酸剤、安定剤、着色剤、酸化防止剤、加工助剤、滑剤、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤、顔料、補強剤、加硫促進剤が挙げられる。
その他の添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
充填材として、例えば、カーボンブラック、亜鉛華、塩基性炭酸マグネシウム、活性炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、タルク、雲母粉末、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、アスベスト、グラファイト、ワラストナイト、二硫化モリブデン、炭素繊維、アラミド繊維、各種ウィスカー、ガラス繊維が挙げられる。
加工助剤として、例えば、ステアリン酸ソーダ、ステアリン酸アミド等の脂肪酸誘導体、天然ワックス、合成ワックスが挙げられる。
受酸剤として、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイトが挙げられる。
【0063】
組成物には、目的に応じて、含フッ素共重合体以外の他の高分子材料を配合してもよい。他の高分子材料としては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン、TFE単位とエチレン単位(以下、「E単位」とも記す。)とからなる2元系共重合体、TFE単位とPAVE単位とからなる共重合体、TFE単位とHFP単位とからなる共重合体等)、含フッ素エラストマー(VdF単位とHFP単位とを有する共重合体、TFE単位とP単位とを有し、化合物1単位を有しない共重合体、TFE単位とHFP単位とVdF単位とを有する共重合体、TFE単位とPAVE単位とを有し、化合物1単位を有しない共重合体等)、炭化水素系エラストマー(E単位とP単位と非共役ジエン単位とを有する共重合体等)が挙げられる。組成物にフッ素樹脂を配合すると、成形性及び機械特性がさらに向上する。組成物に炭化水素系エラストマーを配合すると、架橋性がさらに向上する。
【0064】
本発明の組成物は、架橋剤、架橋助剤、その他の添加剤等を混合し、混練して調製される。混練には、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押し出し機等の混練装置が用いられる。
【0065】
(作用機序)
以上説明した本発明の組成物にあっては、特定の含フッ素共重合体を含むため、架橋物が低温特性に優れる。加えて、本発明の組成物はシリカを含むため、架橋物とした際の強度及び伸びがよくなる。
【0066】
(架橋物)
本発明の組成物は、架橋して架橋物として用いることができる。本発明の組成物の架橋物は、低温特性、強度及び伸びに優れる。
【0067】
組成物は、加熱プレス等の方法で成形と同時に架橋してもよく、あらかじめ成形した後に架橋してもよい。
成形方法としては、例えば、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法、カレンダー成形法、ディッピング、コーティングが挙げられる。
架橋条件は、成形方法、架橋物の形状を考慮して、加熱プレス架橋、スチーム架橋、熱風架橋、被鉛架橋等の種々の条件が採用される。架橋温度は、例えば100~400℃である。架橋時間は、例えば数秒~24時間である。
架橋物の機械特性及び圧縮永久歪の向上ならびにその他の特性の安定化を目的として、二次架橋を施してもよい。二次架橋の架橋温度は、例えば100~300℃である。二次架橋の架橋時間は、例えば30分~48時間である。
【0068】
成形した組成物を放射線照射で架橋してもよい。照射する放射線としては、例えば、電子線、紫外線が挙げられる。電子線照射における照射量は、0.1~30Mradが好ましく、1~20Mradがより好ましい。
【実施例0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。例1、3~7は実施例であり、例2は比較例である。
【0070】
<評価方法>
(架橋物の硬さ)
JIS K 6253-3:2012に準じ、タイプAデュロメーターで、23℃における架橋物の硬さを測定し、測定値を以下の基準に基づいて評価した。
A:硬さが70以上である。
B:硬さが60以上70未満である。
C:硬さが60未満である。
【0071】
(架橋物の引張り強度)
JIS K 6251:2010に準じ、23℃で引張り試験を行い、破断時の引張り強度(MPa)を測定し、測定値を以下の基準に基づいて評価した。
A:破断時の引張り強度が10MPa以上である。
B:破断時の引張り強度が7MPa以上10MPa未満である。
C:破断時の引張り強度が7MPa未満である。
【0072】
(架橋物の引張り伸び)
JIS K 6251:2010に準じ、23℃で引張り試験を行い、破断時の引張り伸び(%)を測定し、測定値を以下の基準に基づいて評価した。
A:破断時の引張り伸びが150%以上である。
B:破断時の引張り伸びが120%以上150%未満である。
C:破断時の引張り伸びが120%未満である。
【0073】
(架橋物の圧縮永久歪)
組成物を170℃で10分間の熱プレスによって一次架橋させた後、200℃のオーブン内で4時間加熱して2次架橋させて、厚さ12.5mmの板状の架橋物を得た。この板状の架橋物を用い、JIS K6262に準じて200℃で70時間の圧縮永久歪試験を行い、架橋物の圧縮永久歪(%)を以下の基準に基づいて評価した。
A:架橋物の圧縮永久歪が60%未満である。
B:架橋物の圧縮永久歪が60%以上70%未満である。
C:架橋物の圧縮永久歪が70%以上である。
【0074】
(TR10)
TRテスター(安田精機製作所社製、No.145-L)を用い、JIS K 6261:2006(対応国際規格ISO 2921:1982)に記載の低温弾性回復試験(TR試験)に準じて、伸長した状態で低温(-73℃~-70℃)で凍結された試験片が温度上昇に伴い弾性を回復して収縮率が10%に達するときの温度TR10を求め、以下の基準に基づいて評価した。
A:TR10が-12℃未満である。
B:TR10が-12℃以上-7℃未満である。
C:TR10が-7℃以上である。
【0075】
<原料>
含フッ素共重合体1:TFE単位とP単位とEEAVE単位とを有する共重合体(国際公開第2020/067492号に記載の例5の含フッ素共重合体。TFE単位/P単位/EEAVE単位の割合(モル数)=56モル%/37モル%/7モル%、EEAVE単位の割合=31質量%、ヨウ素原子の割合=0.4質量%、ガラス転移温度=-14℃、貯蔵せん断弾性率G’=147kPa)
シリカ1:疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、製品名:アエロジルR8200、比表面積200m2/g)
シリカ2:疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、製品名:アエロジルR972、比表面積130m2/g)
シリカ3:疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、製品名:アエロジルR202、比表面積150m2/g)
架橋剤:1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン40質量%と炭酸カルシウム60質量%の混合物(化薬アクゾ株式会社製、製品名:パーカドックス14)
架橋助剤:トリアリルイソシアヌレート(三菱ケミカル株式会社製、製品名:TAIC)
充填材:カーボンブラック:CANCARB社製、製品名:MT-カーボン
加工助剤:ステアリン酸ナトリウム(日油株式会社製、製品名:ノンサール SN-1)
【0076】
<例1、2>
表1に記載の組成となるように各成分をオープンロールで10分間混練して組成物を調製した。ここで架橋物の硬さが同程度となるように、例1、2ではMT-カーボンの配合量をそれぞれ調整した。次いで、得られた組成物中の含フッ素共重合体を以下の架橋条件にて架橋した。
一次架橋:170℃に加熱した金型にセットし、熱プレス機を用いて170℃で10分間保持した。
二次架橋:空気雰囲気下、オーブンで200℃(オーブン温度)、4時間に保持した。
得られた架橋物について、硬さ、引張り強度、引張り伸び、圧縮永久歪、TR10を測定し、各測定値を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
ここで、例1の架橋物の硬さは80であり、引張り強度は11.5MPaであり、引張り伸びは162%であり、圧縮永久歪は56%であり、TR10は-13℃であった。対して、例2の架橋物の硬さは79であり、引張り強度は10.4MPaであり、引張り伸びは112%であり、圧縮永久歪は54%であり、TR10は-14℃であった。
【0078】
<例3~7>
表1に記載の組成となるようにした以外は、例1、2と同様にして、組成物を調製し、次いで架橋物を得た。得られた架橋物について、硬さ、引張り強度、引張り伸び、圧縮永久歪、TR10を測定し、各測定値を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
例1、3~7では、低温特性、引張り強度及び引張り伸びに優れる架橋物が得られた。
例1、2では架橋物の硬さがいずれも同程度となるように充填材を用いた。このように硬さが同程度の条件下において、シリカを用いた例1の組成物を架橋した架橋物は、例2の組成物を架橋した架橋物より引張り強度及び引張り伸びに優れる結果であった。また、TR10も同程度の結果であることから、例1の架橋物は、例2と同様に低温特性に優れていた。