(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081251
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】前駆体、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20220524BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220524BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192685
(22)【出願日】2020-11-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】山林 奨
(72)【発明者】
【氏名】高森 健二
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA08
5H050AA10
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050BA18
5H050CA08
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB05
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050HA02
5H050HA06
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】放電容量が高く、且つ高温保存時に劣化しにくい電池を製造できる前駆体及びリチウム二次電池用正極活物質の提供。
【解決手段】リチウム二次電池用正極活物質の前駆体であって、下記式(1)より算出される値αが2.3m/ng以下である、前駆体。(式(1)中、Aは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。Vは、液体窒素温度で測定された前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
α=A2/(4πV)÷1000 ・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用正極活物質の前駆体であって、
少なくともNiを含み、下記式(1)より算出される値αが2.3m/ng以下である、前駆体。
α=A2/(4πV)÷1000 ・・・(1)
(式(1)中、Aは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Vは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【請求項2】
下記式(2)より算出される値βが2.8m/ng以下である、請求項1に記載の前駆体。
β=B2/(4πX)÷1000 ・・・(2)
(式(2)中、Bは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Xは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【請求項3】
BET比表面積が1.0m2/g以上25m2/g以下である、請求項1又は2に記載の前駆体。
【請求項4】
タップ密度が0.8g/cm3以上2.7g/cm3以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の前駆体。
【請求項5】
少なくともNiを含み、下記式(3)より算出される値γが4.0m/μg以上40.0m/μg以下である、リチウム二次電池用正極活物質。
γ=C2/(4πY) ・・・(3)
(式(3)中、Cは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Yは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【請求項6】
下記式(4)より算出される値δが10m/μg以上50m/μg以下である、請求項5に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
δ=E2/(4πZ) ・・・(4)
(式(4)中、Eは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Zは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【請求項7】
下記組成式(I)で表される請求項5又は6に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lia(Ni1-x-yCoxMy)1-a]O2…(I)
(ただし、式(I)において、MはFe、Cu、Mg、Mn、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦a≦0.30、0≦x≦0.45、及び0≦y≦0.45を満たす。)
【請求項8】
BET比表面積が0.3m2/g以上4.0m2/g以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
タップ密度が1.0g/cm3以上2.8g/cm3以下である請求項5~8のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項10】
請求項5~9のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前駆体、リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池用の正極活物質の製造方法としては、例えば、リチウム化合物と、リチウム以外の元素を含む前駆体とを混合して焼成する方法がある。リチウム以外の元素としては、例えば、ニッケル、コバルト、マンガンが挙げられる。
【0003】
リチウム二次電池の電池特性を向上させるため、例えば、特許文献1は、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体となるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の細孔に着目した技術を開示している。具体的には、特許文献1には窒素吸着法により測定される平均メソ細孔半径が4.00~6.00nmであり、細孔容積が0.010~0.020ml/gである、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物が記載されている。
また特許文献2には、正極活物質層の細孔曲路率が50以上120以下である、リチウムイオン二次電池が記載されている。特許文献2に記載のリチウムイオン二次電池は、低温(例えば-20℃)環境下における二次電池の抵抗の上昇を十分に抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6583359号公報
【特許文献2】国際公開第2020/026914号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今後急速な普及が見込まれるリチウム二次電池には、放電容量が高く、且つ高温で保存した時に劣化しにくいことが求められる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、放電容量が高く、且つ高温保存時に劣化しにくいリチウム二次電池を提供でき、正極活物質の原料となる前駆体を提供することを課題とする。さらに、これを用いたリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の[1]~[11]を包含する。
[1]リチウム二次電池用正極活物質の前駆体であって、少なくともNiを含み、下記式(1)より算出される値αが2.3m/ng以下である、前駆体。
α=A2/(4πV)÷1000 ・・・(1)
(式(1)中、Aは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Vは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
[2]下記式(2)より算出される値βが2.8m/ng以下である、[1]に記載の前駆体。
β=B2/(4πX)÷1000 ・・・(2)
(式(2)中、Bは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Xは、液体窒素温度で測定された前記前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
[3]BET比表面積が1.0m2/g以上25m2/g以下である、[1]又は[2]に記載の前駆体。
[4]タップ密度が0.8g/cm3以上2.7g/cm3以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の前駆体。
[5]少なくともNiを含み、下記式(3)より算出される値γが4.0m/μg以上40.0m/μg以下である、リチウム二次電池用正極活物質。
γ=C2/(4πY) ・・・(3)
(式(3)中、Cは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Yは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
[6]下記式(4)より算出される値δが10m/μg以上50m/μg以下である、[5]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
δ=E2/(4πZ) ・・・(4)
(式(4)中、Eは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Zは、液体窒素温度で測定された前記リチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
[7]下記組成式(I)で表される[5]又は[6]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Lia(Ni1-x-yCoxMy)1-a]O2 ・・・(I)
(ただし、式(I)において、MはFe、Cu、Mg、Mn、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦a≦0.30、0≦x≦0.45、及び0≦y≦0.45を満たす。)
[8]BET比表面積が0.3m2/g以上4.0m2/g以下である、[5]~[7]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[9]タップ密度が1.0g/cm3以上2.8g/cm3以下である[5]~[8]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質。
[10][5]~[9]のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
[11][10]に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放電容量が高く、且つ高温保存時に劣化しにくいリチウム二次電池を提供でき、正極活物質の原料となる前駆体を提供することができる。さらに、これを用いたリチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図1B】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、全固体リチウム二次電池が備える積層体を示す模式図である。
【
図3】
図3は、全固体リチウム二次電池の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、放電容量の高さと高温保存時の劣化度合いは、以下の方法により評価する。
<高温保存試験>
リチウム二次電池を用いて、試験温度25℃において電流設定値0.2CAとし、それぞれ定電流定電圧充電と定電流放電を行う。充電最大電圧は4.3V、放電最小電圧は2.5Vとする。放電容量を測定し、得られた値を「保存前放電容量」とする。保存前放電容量が180mAh/g以上であると、「放電容量が高い」と評価する。
【0010】
次に、保存前放電容量を測定後のリチウム二次電池を再度4.3Vまで電流設定値0.2CAで定電流定電圧充電する。充電状態のリチウム二次電池を60℃環境下で7日間保存した後、試験温度25℃において電流設定値0.2CAで定電流放電することで放電容量を測定する。この放電容量を「保存後放電容量」とする。保存前放電容量及び保存後放電容量から、高温保存前後の保存容量維持率を算出する。保存容量維持率が85%以上であると、「高温保存時に劣化しにくい」と評価する。
【0011】
<前駆体>
本実施形態はリチウム二次電池用正極活物質の前駆体である。前駆体は少なくともNiを含む。
前駆体は、リチウム二次電池用正極活物質の原料となる。以下、「前駆体」と記載する場合には、本実施形態の前駆体を意味する。
以下、本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を「正極活物質」と記載する場合がある。
以下、複数の実施形態や数値範囲では、好ましい例や条件を共有してもよい。
【0012】
本明細書において、Niとは、ニッケル金属ではなく、ニッケル原子を指し、Co、Mn、及びLi等も同様に、それぞれコバルト原子、マンガン原子、及びリチウム原子等を指す。
【0013】
本実施形態の一つの態様において、前駆体は一次粒子と一次粒子の凝集体である二次粒子とから構成される。
本実施形態の一つの態様において、前駆体は粉末である。
本実施形態の一つの態様において、前駆体は少なくともNiを含む。
【0014】
前駆体は、下記式(1)より算出される値αが2.3m/ng以下である。
α=A2/(4πV)÷1000 ・・・(1)
(式(1)中、Aは、液体窒素温度で測定された前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Vは、液体窒素温度で測定された前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径が2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【0015】
式(1)中、A及びVは、以下の測定により求める。
まず、真空加熱処理装置を用いて、温度50℃で8時間、前駆体を真空脱気する。
真空加熱処理装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-vacIIが使用できる。
【0016】
真空脱気をした後、窒素吸着等温線装置及び窒素脱離等温線測定装置を用いて、前駆体の液体窒素温度(77K)における窒素脱離等温線と窒素吸着等温線を測定する。
窒素吸着等温線装置及び窒素脱離等温線測定装置としては、例えばマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-miniが使用できる。
【0017】
得られた窒素脱離等温線を、BJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)により解析する。BJH法は、円筒形の細孔をモデルとして、細孔直径分布を計算する方法である。
【0018】
窒素脱離等温線をBJH法により解析することにより、細孔を円筒形と仮定したときの各細孔直径に対する細孔容積と細孔比表面積を得ることができる。
例えば、直径をD(cm)、高さ(つまり細孔の長さ)をh(cm)とする円筒形の細孔において、細孔容積L(cm3/g)は、L=D2πh/4となる。細孔比表面積S(cm2/g)は、S=Dπhとなる。また、円筒形の直径Dは、4L/Sとなる。ここで、「細孔比表面積」とは、単位質量あたりの円筒形の細孔の側面のみの表面積を意味する。
これらの式から、円筒形の高さ(つまり細孔の長さ)hは、細孔容積L(cm3/g)と、細孔比表面積S(cm2/g)とから、下記式(H)により算出できる。
h=S2/4πL ・・・(H)
【0019】
上記式(H)と同様の方法により、細孔を円筒形と仮定したときの、細孔直径2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)であるAと、細孔直径2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)であるVとから上記式(1)により算出される値αは、単位質量当たりの細孔の長さ(m/ng)を意味する。
【0020】
αは2.3m/ng以下であり、2.0m/ng以下が好ましく、1.8m/ng以下がより好ましい。
αが上記上限値以下であると、細孔を円筒形と仮定したときのモデルにおいて、単純な細孔経路を有することを意味する。
【0021】
αが上記上限値以下である前駆体、すなわち単位質量当たりの細孔の長さが相対的に短い前駆体は、単純な細孔経路を有すると推察できる。単純な細孔経路とは、粒子内部に複雑に分岐した細孔経路を有さない細孔経路を意味する。αが上記上限値以下である前駆体を原料とする正極活物質は、前駆体と同じ単純な細孔経路が維持されやすい。
【0022】
このような正極活物質は、細孔内部で電解液が分解してガスが発生しても、細孔が目詰まりしにくいと考えられる。このため、電解液の分解反応が想定される、60℃以上の高温条件下で保存した場合にもリチウムイオン伝導性を維持しやすい正極活物質となる。
よって、αが上記上限値以下である前駆体を原料とする正極活物質を用いたリチウム二次電池は、放電容量が高く、且つ高温保存時に劣化しにくいと考えられる。
【0023】
αの下限値は例えば、0.1m/ng以上、0.2m/ng以上、0.3m/ng以上が挙げられる。
αの上記上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、αは、0.1m/ng以上2.3m/ng以下、0.2m/ng以上2.0m/ng以下、0.3m/ng以上1.8m/ng以下が挙げられる。
【0024】
αが上記下限値以上の前駆体は粒子の内部に適度な細孔経路を有していると考えられる。このような前駆体を原料とする正極活物質は、粒子の内部に適度に細孔経路を有していると考えられる。このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなると考えられる。その理由は、細孔経路を有さない正極活物質に比べて、細孔経路を有する正極活物質の方が正極活物質の粒子の中でのリチウムイオンの拡散距離が短くなるためである。
【0025】
Aは、5m2/g以上55m2/g以下が好ましく、10m2/g以上50m2/g以下がより好ましい。
【0026】
Vは、0.010cm3/g以上0.11cm3/g以下が好ましく、0.015cm3/g以上0.10cm3/g以下がより好ましい。
【0027】
前駆体は、下記式(2)より算出される値βが2.8m/ng以下である。
β=B2/(4πX)÷1000 ・・・(2)
(式(2)中、Bは、液体窒素温度で測定された前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径2.6nm以上50nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Xは、液体窒素温度で測定された前駆体の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径2.6nm以上50nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【0028】
B及びXの測定方法は、式(1)におけるA及びVの測定方法と同様である。
βは2.8m/ng以下であり、2.7m/ng以下が好ましく、2.5m/ng以下がより好ましい。
【0029】
βが上記上限値以下である前駆体は、細孔直径が2.6nm以上50nm以下の細孔(以下、メソ細孔と称することがある)が単純な細孔経路を有すると推察できる。この前駆体を原料とする正極活物質は、前記メソ細孔が単純な細孔経路を有すると考えられる。メソ細孔はガス等によってより目詰まりしやすい。
【0030】
βが上記上限値以下である前駆体を原料とする正極活物質は、メソ細孔の細孔経路が単純であるために、目詰まりしにくい。このため、正極活物質のリチウムイオン伝導性がより維持されやすくなる。
よって、前駆体を原料とする正極活物質を用いたリチウム二次電池は、高温で保存した場合に、より劣化しにくくなる。
【0031】
βの下限値は例えば、0.1m/ng以上、0.2m/ng以上、0.3m/ng以上が挙げられる。
βの上記上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、βは、0.1m/ng以上2.8m/ng以下、0.2m/ng以上2.7m/ng以下、0.3m/ng以上2.5m/ng以下が挙げられる。
【0032】
βが上記下限値以上の前駆体は粒子の内部に適度に細孔経路を有していると考えられる。このような前駆体を原料とする正極活物質は、粒子の内部に適度な細孔経路を有すると考えられる。このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなると考えられる。その理由は、細孔経路を有さない正極活物質よりも、細孔経路を有する正極活物質の方が、正極活物質の粒子の中のリチウムイオンの拡散距離が短くなるためと考えられる。
【0033】
Bは、5m2/g以上58m2/g以下が好ましく、5m2/g以上50m2/g以下がより好ましく、10m2/g以上45m2/g以下がさらに好ましい。
【0034】
Xは、0.01cm3/g以上0.09cm3/g以下が好ましく、0.02cm3/g以上0.08cm3/g以下がより好ましい。
【0035】
前駆体の細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積は、0.010cm3/g以上0.08cm3/g以下が好ましく、0.010cm3/g以上0.075cm3/g以下がより好ましく、0.011cm3/g以上0.070cm3/g以下がさらに好ましい。
【0036】
細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積が上記範囲内である前駆体を原料とする正極活物質は、細孔内部に電解質が入り込みやすい。このため、リチウムイオンの拡散経路を短くなり、リチウム二次電池の放電容量が高くなると考えられる。
【0037】
前駆体の細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔比表面積は、0.80m2/g以上10m2/g以下が好ましく、0.80m2/g以上9.0m2/g以下がより好ましく、0.90m2/g以上8.0m2/g以下がさらに好ましい。
【0038】
細孔直径が10nm以上200nm以下の累計細孔比表面積が上記範囲内である前駆体を原料とする正極活物質は粒子の表面積が小さい。粒子の表面積が小さい正極活物質は、電解液と反応しうる面積が小さい。このため、高温で保存した場合に劣化しにくいと考えられる。また、累計細孔比表面積が上記範囲内である前駆体は、リチウム原料と反応しやすい。このため、リチウム二次電池の放電容量を高くできる正極活物質が得られやすい。
【0039】
前駆体の細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積及び累積細孔比表面積の測定方法は、式(1)におけるA及びVの測定方法と同様である。
【0040】
前駆体のBET比表面積は、1.0m2/g以上25m2/g以下が好ましく、1.0m2/g以上23m2/g以下がより好ましく、2.0m2/g以上22m2/g以下がさらに好ましく、3.0m2/g以上21m2/g以下が特に好ましい。
【0041】
BET比表面積が上記範囲内である前駆体を原料とする正極活物質は、粒子の表面積が小さい。粒子の表面積が小さい正極活物質は、電解液と反応しうる面積が小さい。このため、高温で保存した場合に劣化しにくいと考えられる。また、BET比表面積が上記範囲内である前駆体は、リチウム化合物と反応しやすい。このため、リチウム二次電池の放電容量が高い正極活物質が得られやすい。
【0042】
前駆体のBET比表面積は、BET比表面積測定装置により測定できる。具体的には、例えば、前駆体の粉末1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いて測定すればよい(単位:m2/g)。
【0043】
前駆体のタップ密度は、0.8g/cm3以上2.7g/cm3以下が好ましく、0.9g/cm3以上2.7g/cm3以下がより好ましく、1.0g/cm3以上2.6g/cm3以下がさらに好ましく、1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下が特に好ましい。
【0044】
タップ密度が上記下限値以上である前駆体を原料とする正極活物質は、密度が高いため、リチウム二次電池のエネルギー密度を高くすることができる。また、タップ密度が上記上限値以上である前駆体は、粒子内部が適度に細孔を有していると考えられる。このような前駆体を原料とする正極活物質は、粒子内部に適度な細孔を有しやすい。このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなると考えられる。その理由は、細孔を有さない正極活物質に比べて、細孔を有する正極活物質の方が、正極活物質の粒子の中のリチウムイオンの拡散距離が短くなると考えられる。
【0045】
前駆体のタップ密度は、JIS R 1628-1997に記載の方法で求めた値を用いればよい。
【0046】
・組成式(A)
前駆体は、少なくともNiを含み、下記組成式(A)で表されることが好ましい。下記組成式(A)で表される前駆体は、酸化物又は水酸化物であり、水酸化物であることがより好ましい。
Ni1-x-yCoxMyOz(OH)2-b ・・・組成式(A)
(組成式(A)中、0≦x≦0.45、0≦y≦0.45、0≦z≦3、-0.5≦b≦2であり、MはFe、Cu、Mg、Mn、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
【0047】
・・x
xは、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、0.02以上がさらに好ましく、0.05以上が特に好ましい。
またxは、0.44以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましく、0.30以下が特に好ましい。
xの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0≦x≦0.40、0.01≦x≦0.44、0.02≦x≦0.30、0.03≦x≦0.40、0.05≦x≦0.35が挙げられる。
【0048】
・・y
yは、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましい。
またyは、0.44以下が好ましく、0.42以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましく、0.35以下が特に好ましい。
yの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせとしては、0.01≦y≦0.44が好ましく、0.02≦y≦0.42がより好ましく、0.03≦y≦0.40がさらに好ましく、0.1≦y≦0.35が特に好ましい。
【0049】
・・z
zは、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上が特に好ましい。
またzは、2.9以下が好ましく、2.8以下がより好ましく、2.7以下がさらに好ましい。
zの上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
組み合わせの例としては、0.1≦z≦2.9が好ましく、0.2≦z≦2.8がより好ましく、0.3≦z≦2.7が特に好ましい。
【0050】
・・b
bは、-0.45以上が好ましく、-0.4以上がより好ましく、-0.35以上がさらに好ましい。
またbは、1.8以下が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.4以下がさらに好ましい。
bの上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、-0.45≦b≦1.8が好ましく、-0.4≦b≦1.6がより好ましく、-0.35≦b≦1.4が特に好ましい。
【0051】
・・x+y
x+yは、0.05以上0.70以下が好ましく、0.10以上0.50以下がより好ましい。
【0052】
・・M
組成式(A)中、Mは、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、Mn、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Zr、Al、及びMnからなる群より選ばれる1種以上の元素がより好ましい。
【0053】
前駆体の組成分析は、前駆体の粉末を塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置を用いて測定できる。
ICP発光分光分析装置としては、例えば、株式会社パーキンエルマー製、Optima7300が使用できる。
【0054】
<リチウム二次電池用正極活物質>
本実施形態の正極活物質は、上述した前駆体を、リチウム化合物と混合して焼成することにより得られる。
【0055】
本実施形態の一つの態様において、正極活物質は一次粒子と一次粒子の凝集体である二次粒子と、から構成される。
本実施形態の一つの態様において、正極活物質は粉末である。
【0056】
正極活物質は、下記式(3)より算出される値γが4.0m/μg以上40.0m/μg以下である。
γ=C2/(4πY) ・・・(3)
(式(3)中、Cは、液体窒素温度で測定されたリチウム二次電池用正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径2.6nm以上200nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Yは、液体窒素温度で測定された正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径2.6nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【0057】
C及びYは、以下の測定により求める。
まず、真空加熱処理装置を用いて、温度150℃で8時間、正極活物質を真空脱気する。
真空加熱処理装置としては、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-vacIIが使用できる。
真空脱気後、式(1)におけるA及びVの測定方法と同様の操作を実施してC及びYを測定する。
【0058】
γは4.0m/μg以上40.0m/μg以下であり、5.0m/μg以上30.0m/μg以下が好ましく、6.0m/μg以上25.0m/μg以下がより好ましい。
γが上記上限値以下であると、細孔を円筒形と仮定したときのモデルにおいて、正極活物質が単純な細孔経路を有することを意味する。
【0059】
γが上記上限値以下である正極活物質、すなわち単位質量当たりの細孔の長さが相対的に短い正極活物質は、単純な細孔形状を有すると推察できる。このような正極活物質は、細孔内部で電解液が分解してガスが発生した場合に、細孔が目詰まりしにくい。このため、電解液の分解反応が想定される、60℃以上の高温条件で保存した場合にも正極活物質がリチウムイオン伝導性を維持しやすい。
【0060】
よって、γが上記上限値以下である正極活物質を用いたリチウム二次電池は、放電容量が高く、且つ高温保存時に劣化しにくいと考えられる。
【0061】
一方、γが上記下限値以上である正極活物質は、粒子の内部に適度な細孔経路を有しやすい。このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなると考えられる。その理由は、細孔経路を有さない正極活物質よりも、細孔経路を有する正極活物質の方が正極活物質の粒子の中のリチウムイオンの拡散距離が短くなるためと考えられる。
【0062】
Cは、0.3m2/g以上5.0m2/g以下が好ましく、0.4m2/g以上4.5m2/g以下がより好ましい。
【0063】
Yは、0.002cm3/g以上0.050cm3/g以下が好ましく、0.005cm3/g以上0.040cm3/g以下がより好ましい。
【0064】
正極活物質は、下記式(4)より算出される値δが10m/μg以上50m/μg以下である。
δ=E2/(4πZ) ・・・(4)
(式(4)中、Eは、液体窒素温度で測定された正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔比表面積のうち、細孔直径2.6nm以上50nm以下の累積細孔比表面積(m2/g)である。
Zは、液体窒素温度で測定された正極活物質の窒素脱離等温線をBJH法で解析して得られる細孔容積のうち、細孔直径2.6nm以上50nm以下の累積細孔容積(cm3/g)である。)
【0065】
E及びZの測定方法は、式(3)におけるC及びYの測定方法と同様である。
【0066】
δは10m/μg以上50m/μg以下であり、11m/μg以上45m/μg以下が好ましい。
【0067】
Eは、0.3m2/g以上3.0m2/g以下が好ましく、0.4m2/g以上2.5m2/g以下がより好ましい。
【0068】
Zは、0.0010cm3/g以上0.010cm3/g以下が好ましく、0.0020cm3/g以上0.0090cm3/g以下がより好ましい。
【0069】
正極活物質が有するメソ細孔は、目詰まりしやすい。δが上記上限値以下である正極活物質は、メソ細孔が単純な細孔経路を有すると推察できる。このような正極活物質は、メソ細孔の中において電解液が分解してガスが発生しても、細孔が目詰まりしにくいと考えられる。このため、電解液の分解反応が想定される、60℃以上の高温条件で保存した場合にも正極活物質がリチウムイオン伝導性を維持しやすい。よって、正極活物質を用いたリチウム二次電池は、高温保存時に劣化しにくいと考えられる。
【0070】
一方、δが上記下限値以上である正極活物質は、粒子の内部に適度な細孔経路を有しやすい。このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなると考えられる。その理由は、細孔経路を有さない正極活物質よりも、細孔経路を有する正極活物質の方が、正極活物質の粒子の中のリチウムイオンの拡散距離が短くなるためと考えられる。
【0071】
正極活物質の細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積は、0.002cm3/g以上0.050cm3/g以下が好ましく、0.003cm3/g以上0.030cm3/g以下がより好ましく、0.004cm3/g以上0.020cm3/g以下がさらに好ましく、0.005cm3/g以上0.010cm3/g未満が特に好ましい。
【0072】
細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積が上記範囲内である正極活物質は、細孔内部に電解質が入り込みやすい。このため、リチウムイオンの拡散経路を短くなり、リチウム二次電池の放電容量が高くなると考えられる。
【0073】
正極活物質の細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔比表面積は、0.20m2/g以上2.5m2/g以下が好ましく、0.25m2/g以上2.0m2/g以下が好ましく、0.3m2/g以上1.5m2/g以下がより好ましい。
【0074】
細孔直径が10nm以上200nm以下の累計細孔比表面積が上記範囲内である正極活物質は粒子の表面積が小さい。粒子の表面積が小さい正極活物質は、電解液と反応しうる面積が小さい。このため、高温で保存した場合に劣化しにくいと考えられる。また、累計細孔比表面積が上記範囲内である前駆体は、リチウム原料と反応しやすい。このため、リチウム二次電池の放電容量を高くできる正極活物質が得られやすい。
【0075】
正極活物質の細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積及び累積細孔比表面積の測定方法は、式(3)におけるC及びYの測定方法と同様である。
【0076】
正極活物質のBET比表面積は、0.3m2/g以上4.0m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積の下限値としては、0.4m2/g以上がより好ましく、0.5m2/g以上がさらに好ましく、0.6m2/g以上が特に好ましい。またBET比表面積の上限値としては、3.5m2/g以下がより好ましく、3.0m2/g以下がさらに好ましく、2.8m2/g以下が特に好ましい。
【0077】
上記上限値と上記下限値は、任意に組み合わせることができる。組み合わせの例として、BET比表面積が、0.3m2/g以上3.5m2/g以下、0.5m2/g以上3.0m2/g以下、0.6m2/g以上2.8m2/g以下が挙げられる。
【0078】
BET比表面積が上記上限値以下である正極活物質は表面積が小さく、電解液と反応しにくい。このため、このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は、高温保存時に劣化しにくい。
また、BET比表面積が上記下限値以上である正極活物質はリチウムイオンとの反応面積が大きい。このため、このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は、放電容量が高くなると考えられる。
【0079】
正極活物質のBET比表面積は、BET比表面積測定装置により測定できる。具体的には、例えば、正極活物質の粉末1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いて測定すればよい(単位:m2/g)。
【0080】
正極活物質のタップ密度は、1.0g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。タップ密度の下限値としては、1.1g/cm3以上がより好ましく、1.2g/cm3以上がさらに好ましい。また、タップ密度の上限値としては、2.5g/cm3以下がより好ましく、2.3g/cm3以下がさらに好ましい。
上記上限値と上記下限値は任意に組み合わせることができる。組み合わせの例として、タップ密度が、1.1g/cm3以上2.8g/cm3以下、1.2g/cm3以上2.5g/cm3以下、1.2g/cm3以下2.3g/cm3以下が挙げられる。
【0081】
タップ密度が上記下限値以上である正極活物質を用いた正極は、密度が高く、リチウム二次電池のエネルギー密度を高くすることができる。また、タップ密度が上記上限値以下である正極活物質の粒子は、適度に細孔を有し、かつ適度に緻密であると考えられる。このような正極活物質を用いたリチウム二次電池は放電容量が高くなると考えられる。その理由は、細孔を有さない正極活物質よりも、細孔を有する正極活物質の方が、正極活物質の粒子の中のリチウムイオンの拡散距離が短くなるためと考えられる。
【0082】
タップ密度は、JIS R 1628-1997に記載の方法で求められる。
【0083】
正極活物質は、少なくともNiを含み、下記組成式(I)で表されるものが好ましい。
Li[Lia(Ni1-x-yCoxMy)1-a]O2…(I)
(ただし、MはFe、Cu、Mg、Mn、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、-0.10≦a≦0.30、0≦x≦0.45、及び0≦y≦0.45を満たす。)
【0084】
(a)
サイクル特性がよいリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるaは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、前記組成式(I)におけるaは0.25以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
【0085】
なお、本明細書において「サイクル特性がよい」とは、充放電の繰り返しにより、電池容量の低下量が低い特性を意味し、初期容量に対する再測定時の容量比が低下しにくいことを意味する。
【0086】
aの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(I)において、aは、-0.10以上0.25以下であってもよく、-0.10以上0.10以下であってもよい。
【0087】
aは、0を超え0.30以下であってもよく、0を超え0.25以下であってもよく、0を超え0.10以下であってもよい。
【0088】
aは、0.01以上0.30以下であってもよく、0.01以上0.25以下であってもよく、0.01以上0.10以下であってもよい。
【0089】
aは、0.02以上0.3以下であってもよく、0.02以上0.25以下であってもよく、0.02以上0.10以下であってもよい。
【0090】
本実施形態においては、0<a≦0.30であることが好ましい。
【0091】
(x)
組成式(I)におけるxは、0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましい。また、前記組成式(I)におけるxは0.44以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることが特に好ましい。
【0092】
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(I)において、xは、0以上0.35以下であってもよく、0以上0.44以下であってもよく、0以上0.30以下であってもよい。
【0093】
xは、0以上0.40以下であってもよく、0以上0.35以下であってもよく、0以上0.44以下であってもよく、0以上0.30以下であってもよい。
【0094】
xは、0.005以上0.40以下であってもよく、0.005以上0.35以下であってもよく、0.005以上0.44以下であってもよく、0.005以上0.30以下であってもよい。
【0095】
xは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよく、0.01以上0.44以下であってもよく、0.01以上0.30以下であってもよい。
【0096】
xは、0.05以上0.40以下であってもよく、0.05以上0.35以下であってもよく、0.05以上0.44以下であってもよく、0.05以上0.30以下であってもよい。
【0097】
本実施形態においては、組成式(I)において、0<a≦0.10であり、0≦x≦0.40であることがより好ましい。
【0098】
(y)
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.03以上であることがさらに好ましく、0.1以上であることが特に好ましい。また、前記組成式(I)におけるyは0.44以下であることが好ましく、0.42以下であることがより好ましく、0.40以下であることがさらに好ましく、0.35以下であることが特に好ましい。
【0099】
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記組成式(I)において、zは、0以上0.44以下であってもよく、0以上0.42以下であってもよく、0以上0.35以下であってもよい。
【0100】
yは、0.01以上0.40以下であってもよく、0.01以上0.44以下であってもよく、0.01以上0.42以下であってもよく、0.01以上0.35以下であってもよい。
【0101】
yは、0.02以上0.40以下であってもよく、0.02以上0.44以下であってもよく、0.02以上0.42以下であってもよく、0.02以上0.35以下であってもよい。
【0102】
yは、0.10以上0.40以下であってもよく、0.10以上0.44以下であってもよく、0.1以上0.42以下であってもよく、0.1以上0.35以下であってもよい。
【0103】
(M)
前記組成式(I)におけるMはFe、Cu、Mg、Mn、Al、W、B、Mo、Zn、Sn、Zr、Ga、La、Ti、Nb及びVからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
【0104】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(I)におけるMは、Mn、Mg、Al、W、B、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることが好ましく、Mn、Al、Zrからなる群より選択される1種以上の元素であることがより好ましい。
【0105】
上述したx、y、z、wについて好ましい組み合わせの一例は、xが0.02以上0.3以下であり、yが0.05以上0.30以下であり、zが0.02以上0.35以下であり、wが0以上0.07以下である。
【0106】
本実施形態において、正極活物質の組成分析は、正極活物質を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行うことができる。
【0107】
(結晶構造)
正極活物質の結晶構造は、層状である。正極活物質の結晶構造は、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0108】
六方晶型の結晶構造は、P3、P31、P32、R3、P-3、R-3、P312、P321、P3112、P3121、P3212、P3221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P61、P65、P62、P64、P63、P-6、P6/m、P63/m、P622、P6122、P6522、P6222、P6422、P6322、P6mm、P6cc、P63cm、P63mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P63/mcm及びP63/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0109】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P21、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P21/m、C2/m、P2/c、P21/c及びC2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0110】
これらのうち、放電容量が高いリチウムイオン二次電池を得るため、結晶構造は、空間群R-3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0111】
<前駆体の製造方法>
前駆体を製造する方法について説明する。
前駆体は、半連続法(セミバッチ法)により製造する。
具体的には、まず前駆体の粒子の核を生成させ、一旦すべての原料液の送液を停止し、その後、核を成長させる。
つまり、従来の連続晶析法のように同じ反応槽内において核生成工程と核成長工程を同時に進行させる方法とは異なる。
【0112】
前駆体は、Ni、Co、及びAlを含む金属複合水酸化物や、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物が挙げられる。
【0113】
Ni、Co、及びMnを含む前駆体を製造する場合の金属原料液としては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液が挙げられる。
【0114】
Ni、Co、及びAlを含む前駆体を製造する場合の金属原料液としては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、アルミニウム塩溶液が挙げられる。
【0115】
以下、前駆体として、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物の製造例を説明する。Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物をニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物と称することがある。
【0116】
[核生成工程]
金属原料混合液及び錯化剤を反応させ、Ni1-x-yCoxMny(OH)2(0<x≦0.45、0<y≦0.45)で表される金属複合水酸化物の核を生成する。金属原料混合液は、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の混合液である。
【0117】
金属原料混合液、錯化剤及びアルカリ性水溶液を、撹拌機を備えた反応槽にそれぞれ連続的に同時に供給する。これにより、核が生成する。
【0118】
半連続法に際しては、金属原料混合液及び錯化剤を含む混合液のpH値を調整するため、混合液のpHがアルカリ性から中性になる前に、混合液にアルカリ性水溶液を添加する。アルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用できる。
【0119】
なお、本明細書におけるpHの値は、混合液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。混合液のpHは、反応槽からサンプリングした混合液の温度が、40℃になったときに測定する。
【0120】
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも低い場合には、混合液を加熱して40℃になったときにpHを測定する。
サンプリングした混合液の温度が40℃よりも高い場合には、混合液を冷却して40℃になったときにpHを測定する。
【0121】
反応に際しては、反応槽の温度を、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
【0122】
また、核生成工程においては、反応槽内のpH値を、例えばpH10以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御する。
【0123】
核生成工程において反応槽内の物質は、撹拌して混合する。
攪拌回転数の一例をあげると、下記の反応装置例において、攪拌回転数は1500rpmを超えることが好ましく、1600rpm以上がより好ましく、1700rpm以上がさらに好ましい。このような攪拌条件で攪拌することにより、供給した各原料液が均一に混合されやすい。
【0124】
・反応装置例
反応槽の液量:7L。
攪拌翼の羽根径:50mm。
攪拌翼の位置:反応槽の底から3cm以上4cm以下。
【0125】
反応槽が備える撹拌翼は、高い剪断力を発揮できれば限定されない。本実施形態においては、ディスクタービン翼を用いることが好ましい。
【0126】
核生成工程においては、反応槽内の錯化剤の濃度を、例えば5.0g/L以上15.0g/L以下、好ましくは12.0g/L以上15.0g/L以下の範囲内に制御する。
【0127】
核生成時の反応槽内の錯化剤の濃度を上記の範囲内と高濃度にすると、得られる前駆体の前記α、β、BET比表面積及びタップ密度は小さくなる傾向にある。また、前駆体を原料とする正極活物質の前記γ、δ、BET比表面積及びタップ密度は、同様に小さくなる傾向にある。
【0128】
核生成工程においては、例えば7Lの反応槽に対し原料液を10mL/minの送液速度で、好ましくは0.5時間以上3時間以下、より好ましくは1時間以上2.5時間以下の範囲内の送液時間に調整することができる。
【0129】
核生成工程の送液時間を上記範囲内とすることで、核発生量を適切な量に調整することができる。これにより、後の核成長工程において、緻密な粒子を成長させることができる。
【0130】
核生成工程の開始から、約2時間が経過した後、すべての原料液の送液を一旦停止する。
【0131】
[核成長工程]
送液停止後、核生成工程を実施した反応槽と同一の反応槽に金属原料混合液、錯化剤及びアルカリ性水溶液をそれぞれ連続的に同時に供給する。これにより核が成長する。
【0132】
核成長工程における反応槽内の錯化剤の濃度は12.0g/L以上15.0g/L以下であることが好ましい。
核成長工程においては、例えばpH9以上12以下、好ましくはpH9以上11.5以下の範囲内で制御する。
【0133】
核成長工程において、反応槽内の物質は核生成工程と同一の攪拌条件で攪拌して混合することが好ましい。
【0134】
反応槽は、生成した核を分離するために、オーバーフローさせるタイプの反応槽を用いる。生成した核は、反応槽からオーバーフローされ、オーバーフロー菅に連結された沈降槽で沈降濃縮する。濃縮された核は反応槽に還流され、反応槽において再度、核を成長させる。
【0135】
核生成工程および核成長工程におけるは反応槽内の酸素濃度は、10%以下であることが好ましい。酸素濃度を10%以下にする手段としては、窒素などの不活性ガスを反応槽内に通気させることが挙げられる。
【0136】
核生成工程及び核成長工程において、反応槽内の物質を上記の攪拌条件で攪拌することにより、緻密な核発生と、緻密な核成長が進行しやすい。その結果、製造される前駆体の表面に形成される細孔は、構造が乱れにくい。このため、前記式(1)により算出されるα、式(2)により算出されるβを、本実施形態の範囲内に制御できる。
【0137】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0138】
上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、及び酢酸コバルトのうちの何れか1種又は2種以上を使用することができる。
【0139】
上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、及び酢酸マンガンのうちの何れか1種又は2種以上を使用できる。
【0140】
なお、Ni、Co、及びAlを含む前駆体を製造する場合には、アルミニウム塩溶液の溶質であるアルミニウム塩としては、例えば硫酸アルミニウムやアルミン酸ソーダ等が使用できる。
【0141】
以上の金属塩は、上記Ni1-x-yCoxMny(OH)2の組成比に対応する割合で用いる。すなわち、各金属塩は、ニッケル塩溶液の溶質におけるニッケル、コバルト塩溶液の溶質におけるCo、マンガン塩溶液の溶質におけるMnの原子比が、Ni1-x-yCoxMny(OH)2の組成比に対応して1-x-y:x:yとなる量を用いる。
【0142】
また、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液の溶媒は、水であることが好ましい。
【0143】
錯化剤は、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン、及びマンガンイオンと錯体を形成可能な化合物である。錯化剤は、例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0144】
アンモニウムイオン供給体としては、例えば水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等のアンモニウム塩が使用できる。
【0145】
上述の工程により、金属複合水酸化物含有スラリーとして、ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を含むスラリーが得られる。
【0146】
[脱水工程]
以上の反応後、得られた金属複合水酸化物含有スラリーを洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物としての前駆体が得られる。
【0147】
前駆体を単離する際には、金属複合水酸化物含有スラリーを遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法が好ましい。
【0148】
脱水により得られた前駆体は、水またはアルカリが含まれる洗浄液で洗浄することが好ましい。本実施形態においては、アルカリが含まれる洗浄液で洗浄することが好ましく、水酸化ナトリウム溶液で洗浄することがより好ましい。
【0149】
[乾燥工程]
上記脱水工程によって得られた前駆体は、大気雰囲気下105℃以上200℃以下の条件で1時間以上20時間以下、乾燥させる。
【0150】
なお、上記の例では、前駆体として金属複合水酸化物を製造しているが、金属複合酸化物を調製してもよい。金属複合酸化物は、金属複合水酸化物を加熱することで得られる。
【0151】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
正極活物質の製造方法は、前記前駆体の製造方法によって得られた前駆体と、リチウム化合物と混合し、混合物を得る混合工程と、得られた混合物を焼成する焼成工程を有する。
【0152】
[混合工程]
本工程では、前駆体と、リチウム化合物とを混合し、混合物を得る。
【0153】
・リチウム化合物
リチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウムのうち何れか一つ、又は、二つ以上を混合して使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又は両方が好ましい。
【0154】
前駆体と、リチウム化合物との混合方法について説明する。
前駆体と、リチウム化合物とを、最終目的物の組成比を勘案して混合する。例えば、ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物を用いる場合、リチウム化合物と当該金属複合水酸化物は、LiNi1-x-yCoxMnzO2の組成比に対応する割合で用いられる。また、リチウムが過剰(含有モル比が1超)な正極活物質を製造する場合には、リチウム化合物に含まれるLiと、金属複合水酸化物に含まれる金属元素とのモル比が1を超える比率となる割合で混合する。
【0155】
[焼成工程]
前駆体とリチウム化合物との混合物を焼成することによって、正極活物質が得られる。
【0156】
本実施形態の前駆体を原料として用いることにより、式(3)により算出される値γ、式(4)により算出される値δを、本実施形態の範囲内に制御できる。
なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等を用いてもよい。
【0157】
焼成工程は、1回のみの焼成であってもよく、複数回の焼成段階を有していてもよい。
複数回の焼成段階を有する場合、最も高い温度で焼成する工程を本焼成と記載する。本焼成の前には、本焼成よりも低い温度で焼成する仮焼成を行ってもよい。
【0158】
本焼成の焼成温度(最高保持温度)は、正極活物質の粒子の成長を促進させる観点から、600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましく、800℃以上が特に好ましい。また、前駆体の細孔長さ等を維持しやすくする観点から、1200℃以下が好ましく、1100℃以下がより好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
【0159】
本焼成の最高保持温度の上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
組み合わせの例としては、600℃以上1200℃以下、700℃以上1100℃以下、800℃以上1000℃以下が挙げられる。
【0160】
仮焼成の焼成温度は、本焼成の焼成温度よりも低ければよく、例えば350℃以上600℃未満の範囲が挙げられる。
【0161】
焼成における保持温度は、用いる遷移金属元素の種類、沈殿剤、不活性溶融剤の種類、量に応じて適宜調整すればよい。
【0162】
焼成工程後、適宜粉砕および篩別され、正極活物質が得られる。
【0163】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、上述の方法によって製造されるリチウム二次電池用正極活物質を、リチウム二次電池の正極活物質として用いたリチウム二次電池用正極(以下、正極と称する。)、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0164】
正極活物質は、前記本実施形態の正極活物質からなることが好ましい。本発明の効果を損なわない範囲で本実施形態の正極活物質とは異なる正極活物質を含有していてもよい。
【0165】
リチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0166】
図1A、
図1Bは、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0167】
まず、
図1Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することで、電極群4とする。
【0168】
次いで、
図1Bに示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0169】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0170】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0171】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0172】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0173】
(導電材)
正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。
【0174】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。
【0175】
(バインダー)
正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の樹脂を挙げることができる。
【0176】
(正極集電体)
正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。
【0177】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着する方法が挙げられる。
【0178】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒が挙げられる。
【0179】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0180】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
リチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0181】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0182】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0183】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;Li4Ti5O12、LiVO2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物を挙げることができる。
【0184】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
負極活物質として使用可能な材料として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の材料を用いてもよい。
【0185】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0186】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0187】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称することがある)、スチレンブタジエンゴム(以下、SBRと称することがある)ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0188】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。
【0189】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0190】
(セパレータ)
リチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。また、JP-A-2000-030686やUS20090111025A1に記載のセパレータを用いてもよい。
【0191】
(電解液)
リチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0192】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiBF4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。
【0193】
また電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類を用いることができる。
【0194】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。
【0195】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。
電解液に含まれる電解質および有機溶媒として、WO2019/098384A1またはUS2020/0274158A1に記載の電解質および有機溶媒を用いてもよい。
【0196】
以上のような構成の正極活物質は、上述した前駆体を用いて製造されるため、放電容量が高く、高温保存時に劣化しにくいリチウム二次電池を製造できる。
【0197】
また、以上のような構成の正極は、上述した構成の正極活物質を有するため、放電容量が高く、高温保存時に劣化しにくいリチウム二次電池を製造できる。
【0198】
<全固体リチウム二次電池>
次いで、全固体リチウム二次電池の構成を説明しながら、前駆体を用いて製造される正極活物質を、全固体リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、及びこの正極を有する全固体リチウム二次電池について説明する。
【0199】
図2、3は、全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。
図2は、全固体リチウム二次電池が備える積層体を示す模式図である。
図3は、全固体リチウム二次電池の全体構成を示す模式図である。
【0200】
全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側に正極活物質と負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。
各部材を構成する材料については、後述する。
【0201】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。
【0202】
積層体100において、正極110と負極120とは、互いに短絡しないように固体電解質層130を挟持している。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間に、従来の液系リチウムイオン二次電池で用いられるようなセパレータを有し、正極110と負極120との短絡を防止していてもよい。
【0203】
全固体リチウム二次電池1000は、積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーターや、外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0204】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0205】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(又はシート型)、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0206】
全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を1つ有することとして図示しているが、これに限らない。全固体リチウムイオン二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0207】
以下、各構成について順に説明する。
【0208】
(正極)
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。
【0209】
正極活物質層111は、上述した本発明の一態様である正極活物質及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含むこととしてもよい。
【0210】
(固体電解質)
正極活物質層111に含まれる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、公知の全固体電池に用いられる固体電解質を採用することができる。このような固体電解質としては、無機電解質、有機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質を挙げることができる。有機電解質としては、ポリマー系固体電解質を挙げることができる。各電解質としては、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2012/0251871A1、US2018/0159169A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0211】
(酸化物系固体電解質)
酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物などが挙げられる。各酸化物の具体例は、WO2020/208872A1、US2016/0233510A1、US2020/0259213A1に記載の化合物が挙げられ、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0212】
ペロブスカイト型酸化物としては、LiaLa1-aTiO3(0<a<1)などのLi-La-Ti系酸化物、LibLa1-bTaO3(0<b<1)などのLi-La-Ta系酸化物、LicLa1-cNbO3(0<c<1)などのLi-La-Nb系酸化物などが挙げられる。
【0213】
NASICON型酸化物としては、Li1+dAldTi2-d(PO4)3(0≦d≦1)などが挙げられる。NASICON型酸化物は、LimM1
nM2
oPpOqで表される酸化物である。
式中、M1は、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M2は、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、m、n、o、p及びqは、任意の正数である。
【0214】
LISICON型酸化物としては、Li4M3O4-Li3M4O4で表される酸化物などが挙げられる。
式中、M3は、Si、Ge、及びTiからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
式中、M4は、P、As及びVからなる群から選ばれる1種以上の元素である。
【0215】
ガーネット型酸化物としては、Li7La3Zr2O12(LLZ)などのLi-La-Zr系酸化物などが挙げられる。
【0216】
酸化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。
【0217】
(硫化物系固体電解質)
硫化物系固体電解質としては、Li2S-P2S5系化合物、Li2S-SiS2系化合物、Li2S-GeS2系化合物、Li2S-B2S3系化合物、Li2S-P2S3系化合物、LiI-Si2S-P2S5系化合物、LiI-Li2S-P2O5系化合物、LiI-Li3PO4-P2S5系化合物、Li10GeP2S12などを挙げることができる。
【0218】
なお、本明細書において、硫化物系固体電解質を指す「系化合物」という表現は、「系化合物」の前に記載した「Li2S」「P2S5」などの原料を主として含む固体電解質の総称として用いる。例えば、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5とを含み、さらに他の原料を含む固体電解質が含まれる。Li2S-P2S5系化合物に含まれるLi2Sの割合は、例えばLi2S-P2S5系化合物全体に対して50~90質量%である。Li2S-P2S5系化合物に含まれるP2S5の割合は、例えばLi2S-P2S5系化合物全体に対して10~50質量%である。また、Li2S-P2S5系化合物に含まれる他の原料の割合は、例えばLi2S-P2S5系化合物全体に対して0~30質量%である。また、Li2S-P2S5系化合物には、Li2SとP2S5との混合比を異ならせた固体電解質も含まれる。
【0219】
Li2S-P2S5系化合物としては、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-ZmSn(m、nは正の数。Zは、Ge、Zn又はGa)などを挙げることができる。
【0220】
Li2S-SiS2系化合物としては、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li2SO4、Li2S-SiS2-LixMOy(x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga又はIn)などを挙げることができる。
【0221】
Li2S-GeS2系化合物としては、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-P2S5などを挙げることができる。
【0222】
硫化物系固体電解質は、結晶性材料であってもよく、非晶質(アモルファス)材料であってもよい。
【0223】
(水素化物系固体電解質)
水素化物系固体電解質材料としては、LiBH4、LiBH4-3KI、LiBH4-PI2、LiBH4-P2S5、LiBH4-LiNH2、3LiBH4-LiI、LiNH2、Li2AlH6、Li(NH2)2I、Li2NH、LiGd(BH4)3Cl、Li2(BH4)(NH2)、Li3(NH2)I、Li4(BH4)(NH2)3などを挙げることができる。
【0224】
ポリマー系固体電解質として、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖及びポリオキシアルキレン鎖からなる群から選ばれる1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を挙げることができる。
【0225】
固体電解質は、発明の効果を損なわない範囲において、2種以上を併用することができる。
【0226】
(導電材及びバインダー)
正極活物質層111が有してもよい導電材としては、上述の(導電材)で説明した材料を用いることができる。また、正極合剤中の導電材の割合についても同様に上述の(導電材)で説明した割合を適用することができる。また、正極が有するバインダーとしては、上述の(バインダー)で説明した材料を用いることができる。
【0227】
(正極集電体)
正極110が有する正極集電体112としては、上述の(正極集電体)で説明した材料を用いることができる。
【0228】
正極集電体112に正極活物質層111を担持させる方法としては、正極集電体112上で正極活物質層111を加圧成型する方法が挙げられる。加圧成型には、冷間プレスや熱間プレスを用いることができる。
【0229】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材、バインダーの混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0230】
また、有機溶媒を用いて正極活物質、固体電解質、導電材の混合物をペースト化して正極合剤とし、得られる正極合剤を正極集電体112の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、焼結することで、正極集電体112に正極活物質層111を担持させてもよい。
【0231】
正極合剤に用いることができる有機溶媒としては、上述の(正極集電体)で説明した正極合剤をペースト化する場合に用いることができる有機溶媒と同じものを用いることができる。
【0232】
正極合剤を正極集電体112へ塗布する方法としては、上述の(正極集電体)で説明した方法が挙げられる。
【0233】
以上に挙げられた方法により、正極110を製造することができる。
【0234】
(負極)
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質、導電材を含むこととしてもよい。負極活物質、負極集電体、固体電解質、導電材、バインダーは、上述したものを用いることができる。
【0235】
(固体電解質層)
固体電解質層130は、上述の固体電解質を有している。
【0236】
固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、無機物の固体電解質をスパッタリング法により堆積させることで形成することができる。
【0237】
また、固体電解質層130は、上述の正極110が有する正極活物質層111の表面に、固体電解質を含むペースト状の合剤を塗布し、乾燥させることで形成することができる。乾燥後、プレス成型し、さらに冷間等方圧加圧法(CIP)により加圧して固体電解質層130を形成してもよい。
【0238】
以上のような構成のリチウム二次電池によれば、上述した構成の正極活物質を有するため、放電容量が高く、高温保存時に劣化しにくいリチウム二次電池を製造できる。
【実施例0239】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0240】
<組成分析>
後述の方法で製造される前駆体及び正極活物質の組成分析は、得られた前駆体又は正極活物質の粉末をそれぞれ塩酸に溶解させた後、ICP発光分光分析装置(株式会社パーキンエルマー製、Optima7300)を用いて行った。
【0241】
<窒素吸着等温線測定及び窒素脱離等温線測定>
まず、後述の方法で製造される前駆体又は正極活物質を真空加熱処理装置(マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-vacII)を用いて、前駆体は80℃で8時間、正極活物質は150℃で8時間真空脱気した。
【0242】
その後、上記真空加熱処理装置を用いて、前駆体又は正極活物質の液体窒素温度(77K)における窒素脱離等温線と窒素吸着等温線を測定した。具体的には、上記真空加熱処理装置を用い、真空下の開始状態から窒素を徐々に投入し、吸着による窒素の圧力変化から定容法によって窒素の吸着量を算出した。これにより、液体窒素温度における0気圧から1気圧までの窒素の吸着等温線が得られた。大気圧まで到達後、窒素を徐々に減らしていき、1気圧から0気圧までの脱離等温線が得られた。
【0243】
窒素吸着等温線における前駆体又は正極活物質の単位重量あたりの窒素吸着量は、標準状態(STP;Standard Temperature and Pressure)の気体窒素の体積で表されるように算出した。
脱離等温線における前駆体又は正極活物質の単位重量あたりの窒素脱離量は、標準状態(STP;Standard Temperature and Pressure)の気体窒素の体積で表されるように算出した。
得られた窒素脱離等温線をBJH法により解析することにより、細孔を円筒形と仮定したときの各細孔直径に対する累積細孔容積と累積細孔比表面積を得た。
【0244】
≪式(1)≫
後述の方法により製造される前駆体について、下記式(1)より算出される値αを算出した。
α=A2/(4πV)÷1000 ・・・(1)
式(1)中、A及びVは、上述の方法により算出した。
【0245】
≪式(2)≫
後述の方法により製造される前駆体について、下記式(2)より算出される値βを算出した。
β=B2/(4πX)÷1000 ・・・(2)
式(2)中、B及びXは、上述の方法により算出した。
【0246】
≪式(3)≫
後述の方法により製造される正極活物質について、下記式(3)より算出される値γを算出した。
γ=C2/(4πY) ・・・(3)
式(3)中、C及びYは、上述の方法により算出した。
【0247】
≪式(4)≫
後述の方法により製造される正極活物質について、下記式(4)より算出される値δを算出した。
δ=E2/(4πZ) ・・・(4)
式(4)中、E及びZは、上述の方法により算出した。
【0248】
<BET比表面積の測定>
前駆体又は正極活物質の粉末1gをそれぞれ窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いて測定した(単位:m2/g)。
【0249】
<タップ密度の測定>
タップ密度は、JIS R 1628-1997に記載の方法で求めた値を用いた。
【0250】
<正極の作製>
正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となる割合で加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0251】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、正極を得た。この正極の電極面積は1.65cm2とした。
【0252】
<負極の作製>
次に、負極活物質として人造黒鉛(日立化成株式会社製MAGD)と、バインダーとしてCMC(第一工業薬製株式会社製)とSBR(日本エイアンドエル株式会社製)とを、負極活物質:CMC:SBR=98:1:1(質量比)の組成となる割合で加えて混練することにより、ペースト状の負極合剤を調製した。負極合剤の調製時には、溶媒としてイオン交換水を用いた。
【0253】
得られた負極合剤を、集電体となる厚さ12μmのCu箔に塗布して60℃で8時間真空乾燥を行い、負極を得た。この負極の電極面積は1.77cm2とした。
【0254】
<リチウム二次電池の作製>
<正極の作製>で作製した正極を、アルミ箔面を下に向けてアルミラミネートフィルムに置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルム(厚み27μm))を置いた。次に、積層フィルムセパレータの上側に<負極の作製>で作製した負極を銅箔面を上にして置き、その上にアルミラミネートフィルムを置いた。さらに、電解液の注入部分を残してヒートシールした。その後、露点温度マイナス50℃以下の乾燥雰囲気のドライベンチ内に移し、真空注液機を用いて、電解液を1mL注入した。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの16:10:74(体積比)混合液にビニレンカーボネートを1体積%加え、そこにLiPF6を1.3mol/lとなる割合で溶解したものを用いた。
最後に、電解液注液部分をヒートシールし、ラミネートセルを作製した。
【0255】
<高温保存試験>
<リチウム二次電池の作製>で得られたラミネートセルを用いて、上述の方法に従って、高温保存試験を行い、保存前放電容量および保存後放電容量を測定し、これらの値から保存容量維持率を求めた。
【0256】
(実施例1)
[核発成工程]
攪拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内と、オーバーフローパイプに連結された濃縮槽、および濃縮槽から反応槽へ循環を行う機構を有する装置を用い、反応槽に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃に保持した。
【0257】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、Niと、Coと、Mnとの原子比が0.58:0.20:0.22となる割合で混合して、金属原料混合液を調製した。
【0258】
次に、反応槽内に、反応槽の容積1Lに対して、錯化剤として46.6gの硫酸アンモニウム結晶を投入し、反応槽内の錯化剤の濃度を12g/Lに調整した。攪拌下、金属原料混合液を10mL/min、錯化剤として硫酸アンモニウム水溶液を0.5mL/minの送液速度で連続的に添加した。
【0259】
反応槽内の溶液7Lに対し、反応槽の底から4cmの位置に、羽根径50mmのディスクタービン翼を攪拌翼として設置し、攪拌速度1800rpmで攪拌しながら反応槽内の溶液のpHが11.7(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。
【0260】
核発生工程開始から2時間経過した後、すべての送液を停止した。
【0261】
[核成長工程]
続いて、核生成工程を行った反応槽に、金属原料混合液を8mL/min、硫酸アンモニウム水溶液を1.2mL/minの送液速度で連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.0(測定温度:40℃)になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下した。核成長工程開始から15.5時間経過した後、すべての送液を停止し晶析反応を終了した。
【0262】
得られたニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物含有スラリーを洗浄して脱水した後、105℃で20時間乾燥および篩別し、ニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物である前駆体を得た。得られた前駆体に対して、各種測定と組成分析を行った。これらの結果を表1に示す。
【0263】
(実施例2)
核発生工程の反応槽内の錯化剤の濃度を5g/Lに変更したこと、核発生工程の反応槽内のpHを12.3(測定温度:40℃)に変更したこと以外は実施例1と同様にニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物である前駆体を製造した。
【0264】
(実施例3)
金属原料混合液をNi:Co:Al=88:9:3となる割合で供給したこと、核発生工程の反応槽内の錯化剤の濃度を9g/Lに変更したこと、核発生工程の反応槽内のpHを12.0(測定温度:40℃)としたこと以外は実施例1と同様にニッケルコバルトアルミニウム金属複合水酸化物である前駆体を製造した。
【0265】
(比較例1)
羽根型攪拌機の攪拌翼を羽根径50mmの傾斜パドル翼に変更したこと、攪拌速度を1500rpmに変更したこと、核発生工程における反応槽内の錯化剤の濃度を5g/Lに変更したこと、核発生工程の反応槽内のpHを12.8(測定温度:40℃)としたこと、核発生工程の送液時間を4時間としたこと以外は実施例1と同様にニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物である前駆体を製造した。
【0266】
(比較例2)
羽根型攪拌機の攪拌翼を羽根径50mmの傾斜パドル翼に変更したこと、攪拌速度を1500rpmに変更したこと、核発生工程における反応槽内の錯化剤の濃度を1g/Lに変更したこと、核発生工程の反応槽内のpHを12.8(測定温度:40℃)としたこと以外は実施例1と同様にニッケルコバルトマンガン金属複合水酸化物である前駆体を製造した。
【0267】
下記表1に、実施例1~3、比較例1~2の前駆体の組成、攪拌速度、錯化剤濃度、α、A、V、β、B、X、細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)及び累積細孔比表面積(m2/g)、BET比表面積、及びタップ密度を記載する。表1中、「N/C/M/A」とあるのは、「Ni/Co/Mn/Al」を意味する。
【0268】
【0269】
(実施例4)
実施例1の前駆体と、水酸化リチウム粉末とを、前駆体中のNi、Co、及びMnに対する水酸化リチウム粉末中のLiのモル比が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.03となる割合で秤量して混合し、混合物を得た。
その後、得られた混合物を、酸素雰囲気下、650℃で5時間焼成し、石臼式粉砕機により粉砕し、さらに酸素雰囲気化840℃で5時間焼成した。再度、石臼型粉砕機により粉砕することにより正極活物質を得た。組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.06、x=0.19、y=0.21、M=Mnであった。
【0270】
(実施例5)
実施例2の前駆体を使用したこと以外は実施例4と同様に正極活物質を得た。組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.05、x=0.20、y=0.22、M=Mnであった。
【0271】
(実施例6)
実施例3の前駆体と水酸化リチウム粉末とを、前駆体中のNi、Co、及びAlに対する水酸化リチウム粉末中のLiのモル比が、Li/(Ni+Co+Al)=1.03となる割合で秤量して混合したこと、2回目の焼成温度を770℃としたこと以外は実施例4と同様に正極活物質を得た。組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.06、x=0.09、y=0.03、M=Alであった。
【0272】
(比較例3)
比較例1の前駆体を使用し、2回目の焼成温度を1000℃としたこと以外は実施例4と同様に極活物質を得た。組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.06、x=0.20、y=0.22、M=Mnであった。
【0273】
(比較例4)
比較例2の前駆体を使用したこと以外は実施例4と同様に正極活物質を得た。組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、a=0.06、x=0.20、y=0.22、M=Mnであった。
【0274】
実施例4~6、及び比較例3~4の正極活物質のγ、C、Y、δ、E、Z、細孔直径が10nm以上200nm以下の累積細孔容積(cm3/g)及び累積細孔比表面積(m2/g)、BET比表面積、タップ密度、保存前放電容量、保存後放電容量、及び保存容量維持率を表2に記載する。
【0275】
【0276】
上記結果に示した通り、本実施形態の前駆体を用いて製造した正極活物質を使用したリチウム二次電池は、保存前放電容量が180mAh/g以上、高温条件での保存容量維持率が85%以上であり、放電容量が高く、且つ高温保存時に劣化しにくいことが確認できた。
1…セパレータ、2…正極、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、100…積層体、110…正極、111…正極活物質層、112…正極集電体、113…外部端子、120…負極、121…負極電解質層、122…負極集電体、123…外部端子、130…固体電解質層、200…外装体、200a…開口部、1000…全固体リチウム二次電池