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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081400
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】赤外線吸収粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20220524BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C01G41/00 A
C09K3/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140529
(22)【出願日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2020192450
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野下 昭也
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】波長800nm以上900nm以下の光線透過率が高く、かつ優れた耐候性を有する赤外線吸収粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】原料粉末を、少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理する第1熱処理工程と、
第1熱処理工程で熱処理を行った原料粉末を、還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理する第2熱処理工程とを有し、
原料粉末は、タングステン酸またはタングステン酸混合物とM元素含有化合物との混合粉、およびタングステン酸またはタングステン酸混合物とM元素含有溶液との混合溶液の乾燥粉から選択された1種類以上であり、
M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素等から選択される1種類以上の元素である赤外線吸収粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合タングステン酸化物粒子を含有する赤外線吸収粒子の製造方法であって、
原料粉末を、少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程で熱処理を行った前記原料粉末を、還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理する第2熱処理工程と、を有し、
前記原料粉末は、タングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有化合物との混合粉、およびタングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有溶液との混合溶液の乾燥粉から選択された1種類以上であり、
前記タングステン酸混合物は、タングステン酸(HWO)と酸化タングステンとの混合物であり、
前記M元素含有化合物は、M元素の酸化物、M元素の水酸化物、およびM元素の炭酸塩から選択された1種類以上であり、
前記M元素含有溶液は、M元素の金属塩の水溶液、M元素の金属酸化物のコロイド溶液、およびM元素のアルコキシ溶液のうちから選択される1種類以上であり、
前記M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Mg、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素であり、
前記複合タングステン酸化物粒子は、一般式M(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.7≦z/y)で表記される赤外線吸収粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1ガスは、空気ガス、酸素ガス、水蒸気のうちから選択される1種類以上のガスと、不活性ガスとの混合ガスである請求項1に記載の赤外線吸収粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や電球などの外部光源から熱成分を除去・減少する方法として、従来、ガラス表面に赤外線を反射する材料からなる被膜を形成して熱線反射ガラスとすることが行われていた。そして、その材料にはFeO、CoO、CrO、TiOなどの金属酸化物や、Ag、Au、Cu、Ni、Alなどの金属材料が選択されてきた。
【0003】
ところが、これら金属酸化物や金属材料には、熱効果に大きく寄与する赤外線以外に可視光領域の光も同時に反射もしくは吸収する性質があるため、当該熱線反射ガラスの可視光透過率が低下してしまう問題があった。特に、建材、乗り物、電話ボックスなどに用いられる基材においては可視光領域で高い透過率が必要とされることから、上記金属酸化物などの材料を利用する場合には、その膜厚を非常に薄くしなければならなかった。このため、スプレー焼付けやCVD法、あるいはスパッタ法や真空蒸着法などの物理成膜法を用いて、膜厚10nmレベルの薄膜として成膜して用いる方法が採られている。
【0004】
しかし、これらの成膜方法は大がかりな装置や真空設備を必要とし、生産性や大面積化に難点があり、膜の製造コストが高くなる欠点がある。また、上述の金属酸化物や金属材料等の材料を用いて日射遮蔽特性を高くしようとすると、可視光領域の反射率も同時に高くなってしまう傾向があり、鏡のようなギラギラした外観を与えて、美観を損ねてしまう欠点もあった。さらに、上述の金属酸化物や金属材料等の材料で成膜された膜は、電気抵抗値が比較的低くなるため電波に対する反射が高くなる。このため、上述の金属酸化物や金属材料等の材料で成膜された膜を窓材等に用いると、例えば携帯電話やテレビ、ラジオなどの電波を反射し、室内でこれらの電波が受信不能になる場合や、周辺地域に電波障害を引き起こす場合がある等の問題点もあった。
【0005】
このような問題点を改善するためには、物理特性として可視光領域の光の反射率が低く、赤外線領域の光の反射率が高く、かつ膜の表面抵抗値が概ね10Ω/□以上に制御可能な膜が必要であると考えられる。
【0006】
また、可視光透過率が高く、しかも優れた日射遮蔽機能をもつ材料として、アンチモン錫酸化物(以下、ATOと略す)や、インジウム錫酸化物(以下、ITOと略す)が知られている。これらの材料は、可視光反射率が比較的低いためギラギラした外観を与えることはない。しかし、プラズマ周波数が近赤外線領域にあるために、可視光領域により近い近赤外線領域の光について反射・吸収効果が未だ十分でない。さらに、これらの材料は、単位重量当たりの日射遮蔽力が低いため、高遮蔽機能を得るには使用量が多くなってコストが割高となるという問題を有していた。
【0007】
さらに、日射遮蔽機能を有する赤外線遮蔽膜材料として、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウムをわずかに還元した膜が挙げられる。これらの膜はいわゆるエレクトロクロミック材料として用いられる材料であるが、充分に酸化された状態では透明であり、電気化学的な方法で還元すると長波長の可視光領域から近赤外線領域にかけて吸収を生じるようになる。
【0008】
特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、該第1層上に第2層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、該第2層上に第3層として第2の誘電体膜を設けてなることを特徴とする熱線遮断ガラスが提案されている。
【0009】
特許文献2では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として亜鉛、セリウム、チタン及びカドミニウムから成る群から選ばれた少なくとも1種を成分とする紫外線遮断性能を有する酸化物、これらの複合酸化物又はこれらの酸化物に微量の金属元素を添加した複合酸化物を含有する第1の透明誘電体膜を設け、前記第1層上に第2層として第2の透明誘電体膜を設け、該第2層上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、前記第3層上に第4層として第3の透明誘電体膜を設けてなることを特徴とする紫外線熱線遮断ガラスが提案されている。
【0010】
特許文献3では、透明な基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けてなることを特徴とする熱線遮断ガラスが提案されている。
【0011】
特許文献1~特許文献3においては、複合酸化タングステン膜が、スパッタ法により成膜できることが記載されている。
【0012】
特許文献4では、基体上に酸化タングステン膜を成膜する方法において、タングステンからなるターゲットを用いて、二酸化炭素を含む雰囲気中でスパッタリングすることを特徴とする酸化タングステン膜の成膜方法が提案されている。係る成膜方法によれば、高い遮熱性を有し、面内における光学特性が均一な酸化タングステン膜を安定して生産できる旨開示されている。
【0013】
例えば、特許文献1~特許文献4に記載されているように、従来、タングステン化合物を含む赤外線遮蔽層の製造方法としては、スパッタリング法が用いられてきた。しかし、このような物理成膜法では、大がかりな装置や真空設備を必要とし、生産性の観点から課題があり、大面積化を行うことは技術的には可能であっても膜の製造コストが高くなるという課題もあった。
【0014】
そこで出願人は、特許文献5において、可視光領域の光は透過し、赤外線領域の光は吸収する一般式Wで表記されるタングステン酸化物微粒子や、一般式Mで表記される複合タングステン酸化物微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体、赤外線遮蔽体、及び赤外線遮蔽材料微粒子の製造方法、並びに赤外線遮蔽材料微粒子を開示した。
【0015】
また、本出願人は、特許文献6において、可視光領域の光は透過し、赤外線領域の光は吸収する一般式Wで表記されるタングステン酸化物微粒子や一般式Mで表記される複合タングステン酸化物微粒子である日射遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子の製造方法、および日射遮蔽体形成用タングステン酸化物微粒子を開示した。
【0016】
特許文献5と特許文献6に開示したように、物理成膜法のような大がかりな装置や真空設備を必要とせず、生産性も高く、低コストで生産できる。また、日射遮蔽体としての観点からは、赤外線遮蔽性能を落とすことなく、より可視光領域での光透過性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平8-12378号公報
【特許文献2】特開平8-59301号公報
【特許文献3】特開平8-283044号公報
【特許文献4】特開平10-183334号公報
【特許文献5】特許第4096205号公報
【特許文献6】特許第4626284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献5と特許文献6に開示した一般式Wで表記されるタングステン酸化物微粒子や一般式Mで表記される複合タングステン酸化物微粒子を含む光学部材(フィルム、樹脂シ-ト等)は、オービスやレインセンサーなどに用いられる波長800nm以上900nm以下の光を吸収するという課題があった。
【0019】
また、赤外線吸収粒子は窓材等として用いられることから、例えば赤外線吸収粒子分散体として用いた場合の耐候性に優れていることも求められるようになっている。
【0020】
そこで、本発明の一側面では、波長800nm以上900nm以下の光線透過率が高く、かつ優れた耐候性を有する赤外線吸収粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一側面では、複合タングステン酸化物粒子を含有する赤外線吸収粒子の製造方法であって、
原料粉末を、少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程で熱処理を行った前記原料粉末を、還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理する第2熱処理工程と、を有し、
前記原料粉末は、タングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有化合物との混合粉、およびタングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有溶液との混合溶液の乾燥粉から選択された1種類以上であり、
前記タングステン酸混合物は、タングステン酸(HWO)と酸化タングステンとの混合物であり、
前記M元素含有化合物は、M元素の酸化物、M元素の水酸化物、およびM元素の炭酸塩から選択された1種類以上であり、
前記M元素含有溶液は、M元素の金属塩の水溶液、M元素の金属酸化物のコロイド溶液、およびM元素のアルコキシ溶液のうちから選択される1種類以上であり、
前記M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Mg、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素であり、
前記複合タングステン酸化物粒子は、一般式M(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.7≦z/y)で表記される赤外線吸収粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面では、波長800nm以上900nm以下の光線透過率が高く、かつ優れた耐候性を有する赤外線吸収粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[赤外線吸収粒子の製造方法]
本発明の発明者は、波長800nm以上900nm以下の光線透過率が高く、かつ優れた耐候性を有する赤外線吸収粒子の製造方法について検討を行った。より具体的には、赤外線吸収粒子を分散媒等に分散させた赤外線吸収粒子分散液や、赤外線吸収粒子分散体とした場合に、波長800nm以上900nm以下の光線透過率が高く、かつ優れた耐候性を有する赤外線吸収粒子の製造方法について検討を行った。なお、ここでいう耐候性とは、例えば赤外線吸収粒子分散体とし、高温や、高湿度の環境に置いた場合の日射遮蔽特性の低下が抑制できていることを意味する。その結果、所定の原料に対して、少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理する第1熱処理工程と、還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理する第2熱処理工程とを実施することで、波長800nm以上900nm以下の光線透過率が高く、かつ耐候性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
このため、本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法は、複合タングステン酸化物粒子を含有する赤外線吸収粒子の製造方法であって、以下の工程を有することができる。
【0025】
原料粉末を、少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理する第1熱処理工程。
前記第1熱処理工程で熱処理を行った原料粉末を、還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理する第2熱処理工程。
【0026】
本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法により得られた赤外線吸収粒子や、該赤外線吸収粒子を用いて製造した赤外線吸収粒子分散液により、高コストの物理成膜法を用いずに簡便な塗布法または練り込み法により、赤外線吸収膜や、赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収透明基材、赤外線吸収合わせ透明基材を形成できる。当該赤外線吸収膜や、赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収透明基材、赤外線吸収合わせ透明基材は、既述の課題である波長800nm以上900nm以下における光線透過率を高くし、かつ優れた耐候性を有することができた。本実施形態の赤外線吸収粒子の製造方法の各工程を以下に順に説明する。
(1)第1熱処理工程
第1熱処理工程では、原料粉末を少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理できる。
【0027】
ここでは熱処理に供する原料粉末について説明した後、熱処理条件について詳述する。
(1-1)原料粉末
ここで、原料粉末とは、タングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有化合物との混合粉、およびタングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有溶液との混合溶液の乾燥粉から選択された1種類以上である。
【0028】
上記タングステン酸混合物は、タングステン酸(HWO)と酸化タングステンとの混合物である。
【0029】
上記混合粉と、乾燥粉について説明する。
(混合粉)
原料粉末としては上述のように混合粉を用いることができる。混合粉は、例えばタングステン酸とM元素含有化合物との混合粉や、タングステン酸混合物とM元素含有化合物との混合粉を用いることができる。
【0030】
ここで、原料粉末に用いるタングステン酸(HWO)は、焼成によって酸化物となるものであれば、特に限定されない。また、タングステン酸混合物に用いる酸化タングステンは、W、WO、WOのいずれを用いてもよい。
【0031】
また、タングステン酸またはタングステン酸混合物と混合し、M元素を添加するために用いるM元素含有化合物は、酸化物、水酸化物、および炭酸塩から選択された1種類以上であることが好ましい。このため、M元素含有化合物は、M元素の酸化物、M元素の水酸化物、およびM元素の炭酸塩から選択された1種類以上であることが好ましい。
【0032】
なお、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Mg、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素であることが好ましい。
【0033】
タングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有化合物との混合は、市販の擂潰機、ニーダー、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等で行えばよい(混合工程)。
(乾燥粉)
また、原料粉末としては、タングステン酸(HWO)またはタングステン酸混合物と、M元素含有溶液との混合溶液の乾燥粉を用いることができる。
【0034】
タングステン酸、およびタングステン酸混合物については混合粉で説明したため、ここでは説明を省略する。
【0035】
M元素含有溶液は、M元素の金属塩の水溶液、M元素の金属酸化物のコロイド溶液、およびM元素のアルコキシ溶液のうちから選択される1種類以上であることが好ましい。
【0036】
M元素の金属塩の水溶液に用いる金属塩の種類は特に限定されず、例えば硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩等が挙げられる。
【0037】
また、乾燥粉を調製する際の乾燥温度や時間は、特に限定されるものでない。
【0038】
原料粉末は、タングステンと、M元素とを目的組成に応じた割合で含有することが好ましい。原料粉末は例えば、原料粉末が含有するM元素(M)と、タングステン(W)とを、モル比でM/Wが0.001以上1以下となるように含有することが好ましく、0.1以上0.5以下となるように含有することがより好ましく、0.18以上0.39以下となるように含有することがより好ましい。
(1-2)熱処理条件
(第1ガス)
第1熱処理工程では、原料粉末を少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理できる。
【0039】
ここで、第1ガスが含有する酸素源(酸素源となるガス)は特に限定されないが、例えば空気ガス、酸素ガス、水蒸気のうちから選択される1種類以上のガスを用いることができる。
【0040】
第1ガスとしては、例えば上記酸素源と、不活性ガスとの混合ガスを好適に用いることができる。このため、第1ガスは、空気ガス、酸素ガス、水蒸気のうちから選択される1種類以上のガスと、不活性ガスとの混合ガスとすることができる。酸素源と混合する不活性ガスは、特に限定されず、窒素、アルゴン、ヘリウム等から選択された1種類以上のガスを用いることができる。
【0041】
第1ガス中の酸素濃度は熱処理温度や熱処理する物量に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。
【0042】
上述のように第1ガス中の酸素濃度は特に限定されず、複合タングステン酸化物粒子表面のみが酸化されれば、所望の特性が得られる。なお、第1ガス中の酸素濃度は、第1ガス中の酸素源の含有割合を調整することで制御できる。
(第1熱処理温度)
第1熱処理工程における熱処理温度である第1熱処理温度は、熱処理する物量に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。第1熱処理温度は、例えば400℃以上850℃以下であることが好ましい。
(熱処理時間)
第1熱処理工程における熱処理時間は、熱処理温度、雰囲気および熱処理する物量に応じて適宜選択すればよいが、例えば既述の第1熱処理温度で保持する時間は5分間以上10時間以下が好ましい。
【0043】
第1熱処理工程において熱処理を行うことで、複合タングステン酸化物の生成と、複合タングステン酸化物の酸化処理を行える。
【0044】
第1熱処理温度を400℃以上とすることで、複合タングステン酸化物の生成と、複合タングステン酸化物の表面の酸化処理を十分に進めることができる。ただし、第1熱処理温度が過度に高いと、複合タングステン酸化物の酸化の程度が進行し、赤外線吸収特性に貢献しない不純物等の混入を生じる場合があるため、第1熱処理温度は850℃以下であることが好ましい。
(2)第2熱処理工程
第2熱処理工程では、第1熱処理工程で熱処理を行った原料粉末を、還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理できる。
(2-1)熱処理条件
(第2ガス)
上述のように、第2熱処理工程では、原料粉末を還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理できる。第2ガスの雰囲気下で熱処理することで酸素空孔を生成できる。ここで、酸素空孔を生成するのは、波長が800nm以上900nm以下の光線透過率を適切な範囲とし、かつ、優れた耐候性と、所望とする赤外線吸収性能を維持するためである。
【0045】
第2熱処理工程における熱処理雰囲気を形成する第2ガスは、上述のように還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有できる。第2ガスは特に、不活性ガス単独のガス、または還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスであることが好ましい。
【0046】
第2ガスとして、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスを用いた場合、混合ガス中の還元性ガスの濃度は熱処理温度や熱処理する物量に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、第2ガスとして混合ガスを用いる場合、すなわち第2ガスが還元性ガスを含む場合、第2ガス中の還元性ガスの濃度、すなわち含有割合は、20体積%以下であることが好ましく、10体積%以下であることがより好ましく、7体積%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
これは、第2ガス中の還元性ガスの濃度、すなわち含有割合を20体積%以下とすることで、急速な還元による赤外線遮蔽機能を有しないWOやWの生成を回避できるからである。
【0048】
第2ガスとして混合ガスを用いる場合、第2ガス中の還元性ガスの濃度、すなわち含有割合の下限値は特に限定されないが、第2ガス中の還元性ガスの含有割合は、2体積%を超えていることが好ましい。これは、第2ガス中の還元性ガスの含有割合が2体積%を超えている場合、より確実に酸素空孔を生成できるからである。
【0049】
還元性ガスとしては、水素やアルコール等を用いることができる。
【0050】
また、不活性ガスとしては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等から選択された1種類以上を用いることができる。
(第2熱処理温度)
第2熱処理工程における熱処理温度である第2熱処理温度は、雰囲気や熱処理する物量に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。第2ガスが不活性ガス単独の場合、結晶性や着色力の観点から第2熱処理温度は400℃以上1200℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましく、500℃以上900℃以下がさらに好ましい。
【0051】
第2熱処理温度を400℃以上とすることで、酸素空孔を十分に生成できる。ただし、第2熱処理温度が過度に高いと、Wメタルなどの赤外線吸収特性に貢献しない不純物等の混入を生じる場合があるため、第2熱処理温度は1200℃以下であることが好ましい。第2ガスが還元性ガスを含む場合においても、第2熱処理温度は特に限定されないが、例えば第2ガスが不活性ガス単独の場合と同じ上記温度範囲を好適な範囲とすることもできる。必要であれば、上記熱処理後、不活性ガスの雰囲気下、既述の第1熱処理温度、例えば400℃以上850℃以下でさらに熱処理を行うこともできる。
(熱処理時間)
第2熱処理工程における熱処理時間は、熱処理温度、雰囲気および熱処理する物量に応じて適宜選択すればよいが、例えば既述の第2熱処理温度で保持する時間は5分間以上10時間以下が好ましい。
【0052】
第2熱処理工程は、一定の雰囲気内で、上記第2熱処理温度まで一定速度で昇温、保持した後、降温する、1ステップで実施してもよいが、熱処理途中で雰囲気や保持する温度を変化させる複数ステップとしてもよい。
[赤外線吸収粒子]
上記赤外線吸収粒子の製造方法により得られた赤外線吸収粒子は複合タングステン酸化物粒子を含有する。既述の赤外線吸収粒子の製造方法により得られた赤外線吸収粒子は複合タングステン酸化物粒子のみから構成することもできるが、この場合でも製造工程で混入する不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0053】
そして、上記複合タングステン酸化物粒子は、一般式Mで表記される。なお、上記一般式中のMは既述のM元素であり、Wはタングステン、Oは酸素を意味する。そして、x、y、zは、0.001≦x/y≦1、2.7≦z/yを充足することが好ましい。
【0054】
上記一般式Mで表される複合タングステン酸化物の粒子は、x/yの値が0.001以上1以下が好ましく、より好ましくは0.1以上0.5以下であり、更に好ましくは0.18以上0.39以下である。x/yの値が0.18以上0.39以下であれば六方結晶単相が得やすく、特に高い赤外線吸収機能を発現する。理論的には、x/yの値が0.33となることでM元素が、複合タングステン酸化物の結晶構造内に含まれる六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0055】
また、z/yの値は、2.7≦z/yであることが好ましい。z/yの値が2.7以上であれば、優れた赤外線吸収特性を維持したまま波長800nm以上900nm以下における光線透過率が高く、かつ、優れた耐候性を有する赤外線吸収粒子が得られる。
【0056】
既述の赤外線吸収粒子の製造方法は、原料粉末を、少なくとも酸素源を含有する第1ガスの雰囲気下で熱処理する第1熱処理工程と、還元性ガスおよび不活性ガスから選択された1種類以上を含有する第2ガスの雰囲気下で熱処理する第2熱処理工程と、を有している。これに対して、係る第1熱処理工程を実施しない場合、すなわち第2熱処理工程のみを実施した場合、当該z/yは2.7未満となり、波長800nm以上900nm以下における光線透過率が高くならない恐れがある。
【0057】
既述の赤外線吸収粒子に係る複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、当該複合タングステン酸化物粒子や、その分散液を用いて製造される赤外線吸収膜や赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収透明基材、赤外線吸収合わせ透明基材の使用目的によって適宜選定でき、特に限定されない。係る複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、1nm以上800nm以下であることが好ましい。また、透明性を重視したとき、複合タングステン酸化物粒子の粒子径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下である。粒子径が大きいと幾何学散乱もしくはミー散乱によって、波長380nm~780nmの可視光領域の光が散乱され、赤外線吸収材の外観が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られ難くなるからである。粒子径が200nm以下になると、上記散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。さらに、粒子径が100nm以下になると散乱光は非常に少なくなり好ましい。上記のように、粒子径が800nm以下であれば本実施形態に係る複合タングステン酸化物粒子による優れた赤外線吸収特性を発揮でき、また、粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造が容易だからである。
[赤外線吸収粒子分散体形成用分散液]
本実施形態の赤外線吸収材料粒子分散体形成用分散液(以下、単に「分散液」とも記載する)は、既述の赤外線吸収粒子を分散媒と混合し、分散媒に分散したものである。
【0058】
係る分散媒は特に限定されるものでなく、例えば赤外線吸収粒子分散体を形成する際の塗布・練り込み条件や、塗布・練り込み環境、さらに分散液に無機バインダーや樹脂バインダーを含有させる場合は、当該バインダーに合わせて選択できる。
【0059】
分散媒としては例えば、水や、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル,エチルエーテル,プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、イソブチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン類、トルエンなどの芳香族炭化水素類といった各種の有機溶媒が使用可能である。分散媒には必要に応じて酸やアルカリを添加でき、分散媒のpH調整を行ってもよい。さらに、分散液中における赤外線吸収粒子の分散安定性を一層向上させるためには、各種の界面活性剤、カップリング剤などの添加も勿論可能である。
【0060】
分散液の特徴は、複合タングステン酸化物粒子を分散媒中に分散したときの複合タングステン酸化物粒子の分散状態を測定することで確認することができる。例えば、既述の複合タングステン酸化物粒子が、分散媒中において粒子および粒子の凝集状態として存在する状態の液からサンプリングし、市販されている種々の粒度分布計で測定することで確認できる。粒度分布計としては、例えば、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製DLS-8000を用いて測定することができる。
【0061】
複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径は、光学特性の観点から400nm以下まで十分細かく、かつ均一に分散していることが好ましい。複合タングステン酸化物粒子の分散粒子径が400nm以下であれば、赤外線吸収膜や成形体(板、シート)が、単調に透過率の減少した灰色系になることを回避できるからである。また、複合タングステン酸化物粒子が凝集して粗大粒子となり、当該粗大粒子が多数存在すると、当該粗大粒子が光散乱源となって赤外線吸収膜や成形体にしたときに曇り(ヘイズ)が大きくなり、可視光透過率が減少する原因となる場合がある。このため、凝集による粗大粒子の生成を回避することが好ましい。
【0062】
複合タングステン酸化物粒子の分散媒への分散方法は、複合タングステン酸化物粒子を分散液中へ均一に分散する方法であれば特に限定されず、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザーなどが挙げられる。これらの器材を用いた分散処理条件によって、複合タングステン酸化物粒子の分散媒中への分散と同時に複合タングステン酸化物粒子同士の衝突等による微粒子化も進行し、複合タングステン酸化物粒子をより微粒子化して分散させることができる。すなわち、複合タングステン酸化物粒子の分散液への分散処理を行う際に、複合タングステン酸化物粒子の粉砕・分散処理することができる。
[赤外線吸収粒子分散体]
次に、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体について説明する。
【0063】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、既述の赤外線吸収粒子と、バインダーとを含むことができる。
【0064】
本実施形態の赤外線吸収粒子分散体が含有できる各成分について以下に説明する。
(固体状の媒体)
まず、バインダーである固体状の媒体について説明する。
【0065】
固体状の媒体としては、赤外線吸収粒子を分散させた状態で固化することができれば特に限定されない。例えば、金属アルコキシドを加水分解等によって得られる無機バインダーや樹脂等の有機バインダーが挙げられる。特に、固体状の媒体は熱可塑性樹脂またはUV硬化性樹脂を含むことが好ましい。なお、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体において、製造過程で液状であっても最終的に固体となるものであれば、固体状の媒体とすることができる。
【0066】
固体状の媒体が熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性樹脂としては特に限定されるものではなく、要求される透過率や強度等に応じて任意に選択することができる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール樹脂の樹脂群から選択される1種類の樹脂、または前記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂の混合物、または、前記樹脂群から選択される2種類以上の樹脂共重合体のいずれかを好ましく用いることができる。
【0067】
一方、固体状の媒体がUV硬化性樹脂を含む場合、UV硬化性樹脂としては特に限定されるものではなく、例えばアクリル系UV硬化性樹脂を好適に用いることができる。
【0068】
赤外線吸収粒子分散体中に分散して含まれる赤外線吸収粒子の含有量については特に限定されるものではなく、用途等に応じて任意に選択することができる。赤外線吸収粒子分散体中の赤外線吸収粒子の含有量は例えば、0.001質量%以上80.0質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上70.0質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
これは、赤外線吸収粒子分散体中の赤外線吸収粒子の含有量が0.001質量%以上あれば、赤外線吸収粒子分散体が必要な赤外線吸収効果を得る為に、当該分散体の厚さを特に厚くする必要がなく、使用できる用途が限定されず、搬送も容易だからである。
【0070】
また、赤外線吸収粒子の含有量が80.0質量%以下であれば、赤外線吸収粒子分散体において熱可塑性樹脂やUV硬化性樹脂等の固体状の媒体の割合が担保でき、赤外線吸収粒子分散体の強度が保てるためである。
【0071】
また、赤外線吸収粒子分散体が赤外線吸収効果を得る観点から、赤外線吸収粒子分散体に含まれる単位投影面積あたり赤外線吸収粒子の含有量は、0.04g/m以上10.0g/m以下であることが好ましい。なお、「単位投影面積あたりの含有量」とは、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体において、光が通過する単位面積(m)あたり、その厚み方向に含有されている赤外線吸収粒子の重量(g)を意味する。
【0072】
赤外線吸収粒子分散体は、用途に応じて任意の形状に成型することができる。赤外線吸収粒子分散体は例えばシート形状、ボード形状またはフィルム形状を有することができ、様々な用途に適用できる。
【0073】
ここで、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体の製造方法を説明する。
【0074】
赤外線吸収粒子分散体は、例えば上述の固体状の媒体であるバインダーと、既述の赤外線吸収粒子とを混合し、所望の形状に成形した後、硬化させることで製造できる。
【0075】
また、赤外線吸収粒子分散体は、例えば既述の赤外線吸収分散液を用いて製造することもできる。この場合、最初に以下に説明する赤外線吸収粒子分散粉、可塑剤分散液や、マスターバッチを製造し、次いで、当該赤外線吸収粒子分散粉等を用いて赤外線吸収粒子分散体を製造できる。以下に具体的に説明する。
【0076】
まず、既述の赤外線吸収粒子分散液と、熱可塑性樹脂あるいは可塑剤とを混合する混合工程を実施できる。
【0077】
次いで、赤外線吸収粒子分散液由来の分散媒成分を除去する乾燥工程を実施できる。分散媒成分を除去することで、熱可塑性樹脂、および赤外線吸収粒子分散液由来の分散剤から選択された1種類以上の中に赤外線吸収粒子が高濃度に分散した分散体である赤外線吸収粒子分散粉(以下、単に「分散粉」と記載することがある)や、可塑剤中に赤外線吸収粒子が高濃度に分散した分散液(以下、単に「可塑剤分散液」と記載することがある)が得られる。
【0078】
赤外線吸収粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物から分散媒成分を除去する方法としては特に限定されるものではないが、例えば赤外線吸収粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物を減圧乾燥する方法を用いることが好ましい。具体的には、赤外線吸収粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物を攪拌しながら減圧乾燥し、分散粉もしくは可塑剤分散液と分散媒成分とを分離する。当該減圧乾燥に用いる装置としては、真空攪拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であれば良く、特に限定されない。また、乾燥工程の減圧の際の圧力値は特に限定されるものではなく任意に選択することができる。
【0079】
分散媒成分を除去する際に減圧乾燥法を用いることで、赤外線吸収粒子分散液と熱可塑性樹脂等との混合物からの分散媒の除去効率を向上させることができる。また、減圧乾燥法を用いた場合、赤外線吸収粒子分散粉や可塑剤分散液が長時間高温に曝されることがないので、分散粉中や可塑剤分散液中に分散している赤外線吸収粒子の凝集が起こらず好ましい。さらに赤外線吸収粒子分散粉や可塑剤分散液の生産性も上がり、蒸発した分散媒を回収することも容易で、環境的配慮からも好ましい。
【0080】
また、上述のように赤外線吸収粒子分散体を製造する際にマスターバッチを用いることもできる。
【0081】
マスターバッチは例えば、赤外線吸収粒子分散液や赤外線吸収粒子分散粉を樹脂中に分散させ、当該樹脂をペレット化することで製造できる。
【0082】
マスターバッチの他の製造方法として、まず赤外線吸収粒子分散液や赤外線吸収粒子分散粉と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレット、および必要に応じて他の添加剤を均一に混合する。そして当該混合物を、ベント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、一般的な溶融押出されたストランドをカットする方法によりペレット状に加工することによっても、製造することができる。この場合、その形状としては円柱状や角柱状のものを挙げることができる。また、溶融押出物を直接カットするいわゆるホットカット法を採ることも可能である。この場合には球状に近い形状をとることが一般的である。
【0083】
以上の手順により、赤外線吸収粒子分散粉、可塑剤分散液、マスターバッチを製造することができる。
【0084】
そして、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、赤外線吸収粒子分散粉、可塑剤分散液、またはマスターバッチを固体状の媒体中へ均一に混合し、所望の形状に成形することで、製造できる。この際、固体状の媒体としては既述のように無機バインダーや、樹脂等の有機バインダーを用いることができる。バインダーとしては特に熱可塑性樹脂や、UV硬化性樹脂を好ましく用いることができる。特に好適に用いることができる熱可塑性樹脂、及びUV硬化性樹脂については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0085】
固体状の媒体として熱可塑性樹脂を用いる場合、赤外線吸収粒子分散粉、可塑剤分散液またはマスターバッチと、熱可塑性樹脂と、所望に応じて可塑剤その他添加剤とをまず混練することができる。そして、当該混練物を、押出成形法、射出成形法、カレンダーロール法、押出法、キャスティング法、インフレーション法等の各種成形方法により、例えば、平面状や曲面状に成形されたシート状の赤外線吸収粒子分散体を製造することができる。
【0086】
なお、固体状の媒体として、熱可塑性樹脂を用いた赤外線吸収粒子分散体を例えば透明基材等の間に配置する中間層として用いる場合等で、当該赤外線吸収粒子分散体に含まれる熱可塑性樹脂が柔軟性や透明基材等との密着性を十分に有しない場合、赤外線吸収粒子分散体を製造する際に可塑剤を添加できる。具体的には例えば、熱可塑性樹脂がポリビニルアセタール樹脂である場合は、さらに可塑剤を添加することが好ましい。
【0087】
添加する可塑剤としては特に限定されるものではなく、用いる熱可塑性樹脂に対して可塑剤として機能できる物質であれば用いることができる。例えば熱可塑性樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を用いる場合、可塑剤としては、一価アルコールと有機酸エステルとの化合物である可塑剤、多価アルコール有機酸エステル化合物等のエステル系の可塑剤、有機リン酸系可塑剤等のリン酸系の可塑剤等を好ましく用いることができる。
【0088】
可塑剤は、室温で液状であることが好ましいことから、多価アルコールと脂肪酸から合成されたエステル化合物であることが好ましい。
【0089】
そして、既述のように本実施形態の赤外線吸収粒子分散体は、任意の形状を有することができ、例えば、シート形状、ボード形状またはフィルム形状を有することができる。
[赤外線吸収合わせ透明基材]
次に、本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材の一構成例について説明する。
【0090】
本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材は、複数枚の透明基材と、本実施形態の赤外線吸収粒子分散体とを有することができる。そして、赤外線吸収粒子分散体が、複数枚の透明基材の間に配置された構造を有することができる。
【0091】
本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材は、中間層である赤外線吸収粒子分散体をその両側から透明基材を用いて挟み合わせた構造を有することができる。
【0092】
透明基材としては、特に限定されるものではなく可視光透過率等を考慮して任意に選択することができる。例えば、透明基材としては板ガラス、板状のプラスチック、ボード状のプラスチック、フィルム状のプラスチック等から選択された1種類以上を用いることができる。なお、透明基材は可視光領域において透明であることが好ましい。
【0093】
プラスチック製の透明基材を用いる場合、プラスチックの材質は、特に限定されるものではなく用途に応じて選択可能であり、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等を用いることができる。
【0094】
なお、本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材には、2枚以上の透明基材を用いることができるが、2枚以上の透明基材を用いる場合、構成する透明基材として例えば、異なる材料からなる透明基材を組み合わせて使用することもできる。また、構成する透明基材の厚さは同一である必要はなく、厚さの異なる透明基材を組み合わせて用いることもできる。
【0095】
本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材は、既述の赤外線吸収粒子分散体を中間層として用いることができる。赤外線吸収粒子分散体については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0096】
本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材に用いる赤外線吸収粒子分散体としては特に限定されるものではないが、シート形状、ボード形状またはフィルム形状に成形されたものを好ましく用いることができる。
【0097】
そして、本実施形態の赤外線吸収合わせ透明基材は、シート形状等に成形された赤外線吸収粒子分散体を挟み込んで存在させた対向する複数枚の透明基材を、貼り合わせて一体化することによって製造できる。
[赤外線吸収透明基材]
上述した赤外線吸収粒子分散液を用いて、フィルム基板またはガラス基板から選択される透明基板上へ、赤外線吸収粒子を含有するコーティング層を形成することで、赤外線吸収透明基材である赤外線吸収フィルムまたは赤外線吸収ガラスを製造できる。
【0098】
前述した赤外線吸収粒子分散液を、プラスチックまたはモノマーと混合して塗布液を作製し、公知の方法で透明基材上にコーティング膜を形成することで、赤外線吸収透明基材を作製できる。
【0099】
例えば、赤外線吸収フィルムは以下のように作製することができる。
【0100】
上述した赤外線吸収粒子分散液に硬化後に固体状の媒体になる媒体樹脂を添加し、塗布液を得る。この塗布液をフィルム基板表面にコーティングした後、液状の媒体を蒸発させ所定の方法で樹脂を硬化させれば、当該赤外線吸収粒子が媒体中に分散したコーティング膜の形成が可能となる。
【0101】
上記コーティング膜の媒体樹脂として、例えば、UV硬化性樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑性樹脂等から目的に応じて選定可能である。媒体樹脂としては、具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。
【0102】
これらの樹脂は、単独使用であっても混合使用であっても良い。もっとも、当該コーティング層用の媒体のなかでも、生産性や装置コストなどの観点から、媒体樹脂としてUV硬化性樹脂バインダーを用いることが特に好ましい。
【0103】
また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加熱等により加水分解・縮重合させることで、酸化物膜からなるコーティング層を形成することが可能である。
【0104】
なお、上述したフィルム基板の材料としては、ポリエステル、PET(ポリエチレンテレフタレート)、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等から、各種目的に応じて選択し、使用可能である。もっとも、赤外線吸収フィルムのフィルム基板は、ポリエステルフィルムであることが好ましく、PETフィルムであることがより好ましい。
【0105】
また、フィルム基板の表面は、コーティング層接着の容易さを実現するため、表面処理がなされていることが好ましい。また、ガラス基板もしくはフィルム基板とコーティング層との接着性を向上させるために、ガラス基板上もしくはフィルム基板上に中間層を形成し、中間層上にコーティング層を形成することも好ましい構成である。中間層の構成は特に限定されるものではなく、例えばポリマフィルム、金属層、無機層(例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物層)、有機/無機複合層等により構成することができる。
【0106】
フィルム基板上またはガラス基板上へコーティング層を設ける方法は、当該基板表面へ赤外線吸収粒子分散液が均一に塗布できる方法であればよく、特に限定されない。例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等を挙げることができる。
【0107】
例えばUV硬化性樹脂を用いたバーコート法によれば、適度なレベリング性を持つよう液濃度及び添加剤を適宜調整した塗布液を、コーティング膜の厚み、および赤外線吸収粒子の含有量を合目的に満たすことのできるバー番号のワイヤーバーを用いてフィルム基板またはガラス基板上に塗膜を形成することができる。そして塗布液中に含まれる有機溶媒を乾燥により除去したのち紫外線を照射し硬化させることで、フィルム基板またはガラス基板上にコーティング層を形成することができる。このとき、塗膜の乾燥条件としては、各成分、溶媒の種類や使用割合によっても異なるが、通常では60℃以上140℃以下の温度で20秒間以上10分間以下程度である。紫外線の照射には特に制限はなく、例えば超高圧水銀灯などのUV露光機を好適に用いることができる。
【0108】
その他、コーティング層の形成の前工程または後工程において、基板とコーティング層の密着性、コーティング時の塗膜の平滑性、有機溶媒の乾燥性などを調整することもできる。前工程としては、例えば基板の表面処理工程、プリベーク(基板の前加熱)工程などがあり、後工程としては、ポストベーク(基板の後加熱)工程などが挙げられ、任意に選択できる。プリベーク工程やポストベーク工程における加熱温度は80℃以上200℃以下、加熱時間は30秒間以上240秒間以下であることが好ましい。
【0109】
フィルム基板上またはガラス基板上におけるコーティング層の厚みは、特に限定されないが、実用上は10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。これはコーティング層の厚みが10μm以下であれば、十分な鉛筆硬度を発揮して耐擦過性を有することに加えて、コーティング層における溶媒の揮散およびバインダーの硬化の際に、フィルム基板の反り発生等の工程異常発生を回避出来るからである。
【0110】
コーティング層に含まれる前記赤外線吸収粒子の含有量は、特に限定されないが、フィルム/ガラス/コーティング層の投影面積あたりの含有量は、0.1g/m以上10.0g/m以下であることが好ましい。これは、含有量が0.1g/m以上であれば赤外線吸収粒子を含有しない場合と比較して有意に赤外線吸収特性を発揮でき、含有量が10.0g/m以下であれば赤外線吸収フィルム/ガラス/コーティング層が可視光の透過性を十分に保つからである。
【0111】
また、本実施形態の赤外線吸収透明基材である赤外線吸収フィルムや赤外線吸収ガラスへさらに紫外線吸収機能を付与させるため、無機系の酸化チタンや酸化亜鉛、酸化セリウムなどの粒子、有機系のベンゾフェノンやベンゾトリアゾールなどの少なくとも1種以上を添加してもよい。
【0112】
ここまで説明した赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収合わせ透明基材、赤外線吸収透明基材の波長800nm以上900nm以下の光線透過率は30%以上が好ましく、より好ましくは35%以上である。また、可視光透過率は、70%以上が好ましい。日射透過率は、65%以下が好ましく、より好ましくは60%以下である。
【0113】
じりじり感を効果的に抑制する観点からは、波長1550nmの光線透過率は、好ましくは25%以下である。ヘイズ値は、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。
【0114】
ここまで説明した赤外線吸収粒子分散体、赤外線吸収合わせ透明基材、赤外線吸収透明基材は、用途は特に限定されない。例えば、赤外線吸収粒子分散体等は、車両、ビル、事務所、一般住宅などの窓材や、電話ボックス、ショーウィンドー、照明用ランプ、透明ケースなどに使用される単板ガラス、合わせガラス、プラスチックス、繊維、その他の赤外線吸収機能を必要とする広汎な分野に用いることができる。
【実施例0115】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
以下の実施例および比較例における光学特性は、分光光度計(日立製作所株式会社製 U-4100)を用いて測定し、可視光透過率と日射透過率は、JIS R 3106(2019)に従って算出した。
[実施例1]
(赤外線吸収粒子の製造)
タングステン酸(HWO)と炭酸セシウム(CsCO)の各粉末を、Cs/W(モル比)=0.29/1.00相当となる割合で秤量したのち、メノウ乳鉢で十分混合して原料粉末である混合粉とした。なお、表1、表2には、上記Cs/Wの比をもとにした仕込み組成を示している。
【0117】
当該原料粉末を、Nガスをキャリアーとした1体積%圧縮空気供給下で820℃の温度で0.5時間の焼成を行った(第1熱処理工程)。すなわち、酸素源である空気を1体積%と、残部が不活性ガスである窒素ガスとからなる第1ガスの雰囲気下で熱処理を行った。なお、第1ガス中の酸素の含有割合は0.21体積%になる。
【0118】
次いで、Nガスをキャリアーとした5体積%Hガス供給下で加熱し、570℃の温度で1時間の焼成を行い、更に、Nガス雰囲気下で820℃、0.5時間の焼成を行った(第2熱処理工程)。すなわち、還元性ガスである水素を5体積%と、残部が不活性ガスである窒素ガスとからなる第2ガスの雰囲気下で熱処理を行った。
【0119】
以上の工程により、六方晶を有するセシウムタングステンブロンズを含む複合タングステン酸化物粒子(以下「粉末A1」と略称する。)を得た。赤外線吸収粒子である、得られた複合タングステン酸化物粒子について化学分析を行うことで求めた組成の実測値はCs0.28WO2.71であった。なお、組成の化学分析は、Csについては原子吸光分析(AAS)により、W(タングステン)についてはICP発光分光分析(1CP-OES)により行った。また、Oについては軽元素分析装置(LECO社製、型式ON-836)を用いて実施した。以下の他の実験例も同様である。
(赤外線吸収粒子分散体形成用分散液の製造)
粉末A1を20質量%、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤。以下、「分散剤a」と略称する)を8質量%、液状の媒体、すなわち分散媒であるMIBKを72質量%秤量した。これらを、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、4時間粉砕・分散処理し、赤外線吸収粒子分散体形成用分散液である複合タングステン酸化物粒子分散液を得た。
【0120】
実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子分散液を、希釈液であるMIBKを使って可視光透過率が80%となるように希釈した。そして、分光光度計の測定用ガラスセル(ジーエルサイエンス株式会社製、型番:S-10-SQ-1、材質:合成石英、光路長:1mm)にて透過光プロファイルを測定した。なお、当該測定前に、希釈液であるMIBKを当該ガラスセルに満たした状態で透過光プロファイルのベースラインを測定した。
【0121】
当該ベースラインの測定により、分光光度計用ガラスセル表面の光反射や、溶媒の光吸収による寄与をキャンセルすることができ、複合タングステン酸化物粒子による光吸収のみが透過光プロファイルに反映されることになる。
【0122】
得られた透過光プロファイルから、実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子分散液の可視光透過率、日射透過率、波長800nm以上900nm以下の光の透過率(表1では「800~900nm透過率」と記載している)、波長1200nm以上1500nm以下の光の透過率(表1では「1200~1500nm透過率」と記載している)を算出した。当該評価結果を表1に示す。
(赤外線吸収透明基材の製造)
得られた分散液100質量%に対し、ハードコート用紫外線硬化性樹脂である東亜合成製アロニックスUV-3701(以下、UV-3701と記載する。)を50質量%混合して複合タングステン酸化物粒子塗布液とした。そして、この塗布液を3mm青板ガラス(帝人製HPE-50)上へバーコーターを用いて塗布し塗布膜を形成した。なお、以下の他の実施例・比較例においても同様のガラスを用いた。
【0123】
塗布膜を設けたガラスを、70℃で60秒間乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させることで、複合タングステン酸化物粒子を含有したコーティング膜が設けられた赤外線吸収ガラスを作製した。なお、赤外線吸収ガラスは赤外線吸収透明基材の一例である。
【0124】
この赤外線吸収ガラスの光学特性を評価し、透過光プロファイルから得られた評価結果を表2に示す。具体的には可視光透過率、日射透過率、波長800nm以上900nm以下の光の透過率(表2では「800~900nm透過率」と記載している)、波長1200nm以上1500nm以下の光の透過率(表2では「1200~1500nm透過率」と記載している)を示す。
【0125】
当該赤外線吸収透明基材を大気雰囲気下120℃、125時間曝露し、日射透過率を測定した(耐熱性試験)。その結果、日射透過率は49.52%であり、日射透過率の変化割合は0.16%と耐熱性に優れていた。
【0126】
また、当該赤外線吸収透明基材を大気雰囲気下85℃、90%RHで94時間曝露し、日射透過率を測定した(耐湿熱性試験)。その結果、日射透過率は48.80%であり日射透過率の変化割合は0.56%と耐湿熱性に優れていた。以上の結果から、本実施例の赤外線吸収粒子は耐候性に優れることを確認できた。上記耐熱性、耐湿熱性の評価結果を表3に示す。
[実施例2]
赤外線吸収粒子を製造する際の熱処理、粉砕条件を以下のように変更した点以外は、実施例1と同様にして赤外線吸収粒子を製造した。
【0127】
具体的には、Nガスをキャリアーとした1体積%圧縮空気供給下で原料粉末を加熱し、820℃の温度で0.5時間の焼成を行った(第1熱処理工程)。
【0128】
次いで、Nガスをキャリアーとした5体積%Hガス供給下で加熱し、570℃の温度で1時間の焼成を行った。さらに、Nガス雰囲気下で820℃の温度で0.5時間の焼成を行った(第2熱処理工程)。また、分散液を調製する際、粉砕・分散時間を8時間とした。
【0129】
以上の点以外は実施例1と同様の操作をして、赤外線吸収粒子、赤外線吸収粒子分散液(赤外線吸収粒子分散体形成用分散液)、赤外線吸収透明基材(赤外線吸収ガラス)を得た。評価結果を表1、表2に示す。
【0130】
また、得られた分散液へ、さらに分散剤aを添加し、分散剤aと赤外線吸収粒子との質量比が[分散剤a/赤外線吸収粒子]=3となるように調整した。次に、スプレードライヤーを用いて、調製した分散液からメチルイソブチルケトンを除去し、赤外線吸収粒子分散粉(以下「分散粉」と記載する場合がある。)を得た。
【0131】
熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂に対して、製造される赤外線吸収シート(1.0mm厚)の可視光透過率が80%となるように、上記分散粉を添加し、赤外線吸収シートの製造用組成物を調製した。
【0132】
この赤外線吸収シートの製造用組成物を、二軸押出機を用いて280℃で混練し、Tダイより押出して、カレンダーロール法により1.0mm厚のシート材とし、赤外線吸収シートを得た。なお、赤外線吸収シートは赤外線吸収粒子分散体の一例である。
【0133】
得られた赤外線吸収シートを、100mm×100mm×約2mm厚のグリーンガラス基材2枚の間に挟み込み、80℃に加熱して仮接着した後、140℃、14kg/cmのオートクレーブにより本接着を行い、赤外線吸収合わせ透明基材を作製した。
【0134】
下記評価方法で係る赤外線吸収合わせ透明基材を評価した。
(耐熱性評価)
上記赤外線吸収合わせ透明基材を、大気中120℃で125時間保持した。赤外線吸収合わせ透明基材における曝露前後の日射透過率の変化量であるΔ日射透過率は0.58%と、1.0%以下であり、耐熱性に優れていた。
(耐湿熱性評価)
85℃、湿度90%の雰囲気に94時間保持した。赤外線吸収合わせ透明基材における曝露前後の日射透過率の変化量であるΔ日射透過率は1.02%と、1.5%以下であり、耐湿熱性に優れていた。
【0135】
評価結果を表4に示す。
【0136】
[比較例1]
赤外線吸収粒子を製造する際の熱処理条件を以下のように変更した点以外は、実施例1と同様にして赤外線吸収粒子を製造した。
【0137】
具体的には第2熱処理工程として、Nガスをキャリアーとした3体積%Hガス供給下で加熱し570℃の温度で1時間の還元処理で焼成した。ただし、熱処理は第2熱処理工程のみとし、第1熱処理工程は実施しなかった。すなわち、実施例1と同じ原料粉末を第1熱処理工程に供することなく、上記条件の第2熱処理工程に供して、赤外線吸収粒子を調製した。以下の比較例2、3も同様である。赤外線吸収粒子である、得られた複合タングステン酸化物粒子について化学分析を行うことで求めた組成の実測値はCs0.29WO2.66であった。
【0138】
また、赤外線吸収粒子分散体形成用分散液を製造する際に、上記第2熱処理工程後に得られた赤外線吸収粒子を用い、粉砕・分散処理の時間を11時間とした以外は実施例1と同様の操作をして、比較例1に係る分散液、赤外線吸収ガラスを得た。得られた分散液、赤外線吸収ガラスについて実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1、表2、表3に示す。
【0139】
[比較例2]
赤外線吸収粒子を製造する際の熱処理条件を以下のように変更した点以外は、実施例1と同様にして赤外線吸収粒子を製造した。
【0140】
具体的には第2熱処理工程として、Nガスをキャリアーとした3体積%Hガス供給下で加熱し570℃の温度で1時間の還元処理を行った。また、第2熱処理工程後Nガス雰囲気下で820℃、1時間焼成し、赤外線吸収粒子を得た。ただし、第1熱処理工程は実施しなかった。赤外線吸収粒子である、得られた複合タングステン酸化物粒子について化学分析を行うことで求めた組成の実測値はCs0.29WO2.65であった。
【0141】
また、赤外線吸収粒子分散体形成用分散液を製造する際に、上記熱処理後に得られた赤外線吸収粒子を用い、粉砕・分散処理の時間を12時間とした以外は実施例1と同様の操作をして、比較例2に係る分散液、赤外線吸収ガラスを得た。得られた分散液、赤外線吸収ガラスについて実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1、表2、表3に示す。
【0142】
[比較例3]
タングステン酸(HWO)と炭酸セシウム(CsCO)の各粉末を、Cs/W(モル比)=0.33/1.00相当となる割合で秤量したのち、メノウ乳鉢で十分混合して原料粉末である混合粉とした。
【0143】
当該原料粉末を、Nガスをキャリアーとした5体積%Hガス供給下で加熱し、570℃の温度で1時間の還元処理を行った(第2熱処理工程)。第2熱処理工程後、Nガス雰囲気下で820℃、1時間焼成し、赤外線吸収粒子を得た。
【0144】
ただし、第1熱処理工程は実施しなかった。赤外線吸収粒子である、得られた複合タングステン酸化物粒子について化学分析を行うことで求めた組成の実測値はCs0.33WO2.66であった。
【0145】
また、赤外線吸収粒子分散体形成用分散液を製造する際に、上記熱処理後に得られた赤外線吸収粒子を用い、粉砕・分散処理の時間を20時間とした以外は実施例1と同様の操作をして、比較例3に係る分散液、赤外線吸収ガラスを得た。得られた分散液、赤外線吸収ガラスについて実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1、表2、表3に示す。
【0146】
[比較例4]
赤外線吸収粒子を製造する際の熱処理条件を以下のように変更した点以外は、実施例1と同様にして赤外線吸収粒子を製造した。
【0147】
具体的には実施例1と同様に第1熱処理工程として、Nガスをキャリアーとした1体積%圧縮空気供給下で加熱し820℃の温度で0.5時間の焼成を行った(第1熱処理工程)。
【0148】
ただし、熱処理は第1熱処理工程のみとし、第2熱処理工程は実施しなかった。赤外線吸収粒子である、得られた複合タングステン酸化物粒子について化学分析を行うことで求めた組成の実測値はCs0.29WO2.96であった。
【0149】
また、赤外線吸収粒子分散体形成用分散液を製造する際に、上記第1熱処理工程後に得られた赤外線吸収粒子を用い、粉砕・分散処理の時間を2時間とした以外は実施例1と同様の操作をして、比較例4に係る分散液、赤外線吸収ガラスを得た。得られた分散液、赤外線吸収ガラスについて実施例1と同様に評価を行った。評価結果を表1、表2、表3に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
【表2】
【0152】
【表3】
【0153】
【表4】
表1、表2に示した評価結果から明らかなように、実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子を含む分散液、および当該分散液を用いた赤外線吸収透明基材は、可視光透過率が70%以上、日射透過率が65%以下、波長800nm以上900nm以下の光の透過率の平均値が30%以上、かつ波長1200nm以上1500nm以下の光の透過率の平均値が25%以下であり、表3に示すように耐候性に優れていた。
【0154】
また、実施例2に係る複合タングステン酸化物粒子を含む分散液、および当該分散液を用いた赤外線吸収透明基材についても実施例1と同様の光学特性を有することを確認できた。さらに、実施例2に係る複合タングステン酸化物粒子を用いた赤外線吸収合わせ透明基材についても、表4に示すように耐候性に優れていることを確認できた。
【0155】
一方、比較例1から比較例3に係る複合タングステン酸化物粒子を含む複合タングステン酸化物粒子分散液を用いた赤外線吸収透明基材は、実施例1と同様に、可視光透過率が70%以上、日射透過率が65%以下、波長1200nm以上1500nm以下の光の透過率の平均値が25%以下であった。しかしながら、比較例1~比較例3では、赤外線通信波長である波長800nm以上900nm以下の光の透過率の平均値は分散液、および赤外線吸収透明基材について30%未満であり、耐熱性試験や、耐湿熱性試験を実施した際の日射透過率の変化が2%以上と大きく、耐候性が優れていなかった。
【0156】
また、比較例4では日射透過率が65%を大きく超えていることを確認できた。