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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081510
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】HbA1cデヒドロゲナーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/32 20060101AFI20220524BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220524BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20220524BHJP
   C12M 1/40 20060101ALI20220524BHJP
   G01N 33/72 20060101ALI20220524BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20220524BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C12Q1/32
C12N15/09 Z ZNA
C12Q1/00 C
C12M1/40 B
G01N33/72 A
C12Q1/00 B
C12N15/53
C12N9/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025320
(22)【出願日】2022-02-22
(62)【分割の表示】P 2018513229の分割
【原出願日】2017-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2016086592
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一柳 敦
(72)【発明者】
【氏名】鉞 陽介
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヘモグロビンA1cデヒドロゲナーゼを用いたヘモグロビンA1cの測定方法、該ヘモグロビンA1cデヒドロゲナーゼ、該測定方法に使用する試薬キットおよびセンサーを提供する。
【解決手段】ヘモグロビンA1cに直接作用するヘモグロビンA1cデヒドロゲナーゼによって生じる過酸化水素ではない還元型電子メディエーターもしくは消費される酸素ではない酸化型電子メディエーターを測定することを含む試料中のヘモグロビンA1cの測定方法、該方法に使用するヘモグロビンA1cデヒドロゲナーゼであって、コニオカエタ属等由来のアマドリアーゼの特定の位置で1又は複数のアミノ酸残基を置換することにより得られる該ヘモグロビンA1cデヒドロゲナーゼ、および、該測定方法に使用する試薬キットおよびセンサー。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にヘモグロビンA1cに直接作用するHbA1cデヒドロゲナーゼを作用させ、その作用によって生じる過酸化水素ではない還元型電子メディエーターもしくは消費される酸素ではない酸化型電子メディエーターを測定することを含む、試料中のヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項2】
測定がHbA1cデヒドロゲナーゼ、HbA1cデヒドロゲナーゼを含む酵素電極、又は該酵素電極を作用電極として有する酵素センサー、及び酸素ではない電子メディエーターを用いる電気化学的測定であるか、或いは、HbA1cデヒドロゲナーゼ、発色基質、及び、酸素ではない電子メディエーターを用いる吸光度測定である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
改変前のヘモグロビンA1cに直接作用するアマドリアーゼと比較して、オキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)が低減されたHbA1cに直接作用するデヒドロゲナーゼであって、
(i) アマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1記載のアミノ酸配列とアライメントしたときに、配列番号1に示すアミノ酸配列における280位、269位、54位、241位及び267位からなる群より選択される位置に対応する位置の1以上のアミノ酸が置換されており、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(ii) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列における280位、269位、54位、241位及び267位に対応する位置以外の位置における1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなり、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(iii) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、当該アマドリアーゼの全長アミノ酸配列が配列番号1、配列番号3-14のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有し、かつ、配列番号1の相同性領域におけるアミノ酸配列と当該アマドリアーゼの対応する相同性領域におけるアミノ酸配列とが90%以上の配列同一性を有し、ここで配列番号1の相同性領域は配列番号1の第10位~32位、36~41位、49~52位、54~58位、63~65位、73~75位、84~86位、88~90位、120~122位、145~150位、156~162位、164~170位、180~182位、202~205位、207~211位、214~224位、227~230位、236~241位、243~248位、258~261位、266~268位、270~273位、275~287位、295~297位、306~308位、310~316位、324~329位、332~334位、341~344位、346~355位、357~363位、370~383位、385~387位、389~394位、405~410位及び423~431位のアミノ酸配列からなるものであり、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(iv) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、当該アマドリアーゼの全長アミノ酸配列が配列番号1、配列番号3-14のいずれかのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有し、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、或いは
(v) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、配列番号1の保存領域におけるアミノ酸配列と当該アマドリアーゼの由来する天然アマドリアーゼの対応する保存領域におけるアミノ酸配列とが90%以上の配列同一性を有し、ここで配列番号1の保存領域は配列番号1の第11、12、13、15、17、18、20、22、23、24、25、27、29、31、36、37、41、46、47、50、51、52、54、56、57、58、75、79、82、84、85、93、95、149、158、159、162、165、166、177、180、202、208、218、220、221、222、224、228、233、239、243、246、250、255、258、260、266、267、270、272、277、278、280、281、282、284、285、286、318、321、326、329、334、339、346、347、348、351、352、354、358、359、362、363、370、373、376、382、385、386、389、406、407、409、418、425及び427位からなるものであり、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項4】
配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、セリン、トレオニン及びアスパラギンからなる群より選択される極性アミノ酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群より選択される荷電アミノ酸、又はメチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン、トリプトファン、バリン又はアラニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における54位に対応する位置のアミノ酸が、アスパラギン、アラニン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン又はバリンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、リシン、グルタミン酸、アスパラギン、アルギニン、アスパラギン酸又はヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン、トリプトファン、バリン又はアラニンに置換されている、
請求項3に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項5】
配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、セリン、ヒスチジン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン又はメチオニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン又はトリプトファンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における54位に対応する位置のアミノ酸が、アスパラギン又はアラニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、グルタミン酸又はリシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン又はトリプトファンに置換されている、
請求項4に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項6】
配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、セリン、ヒスチジン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン又はメチオニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における54位に対応する位置のアミノ酸が、アスパラギン又はアラニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、グルタミン酸又はリシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
請求項5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項7】
配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、又はセリンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
請求項5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項8】
配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン又はヒスチジンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、
請求項5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項9】
配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、
請求項5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項10】
オキシダーゼ活性が改変前のアマドリアーゼ(100%)と比較して60%未満に低減されている、又は、オキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)が改変前のアマドリアーゼ(100%)と比較して40%未満に低減されている、請求項3~9のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項11】
前記アマドリアーゼが、コニオカエタ(Coniochaeta)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、ピレノケータ(Pyrenochaeta)属、アルスリニウム(Arthrinium)属、カーブラリア(Curvularia)属、ネオコスモスポラ(Neocosmospora)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、フェオスフェリア(Phaeosphaeria)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、エメリセラ(Emericella)属、ウロクラディウム(Ulocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フザリウム(Fusarium)属、アカエトミエラ(Achaetomiella)属、アカエトミウム(Achaetomium)属、シエラビア(Thielavia)属、カエトミウム(Chaetomium)属、ゲラシノスポラ(Gelasinospora)属、ミクロアスカス(Microascus)属、レプトスフェリア(Leptosphaeria)属、オフィオボラス(Ophiobolus)属、プレオスポラ(Pleospora)属、コニオケチジウム(Coniochaetidium)属、ピチア(Pichia)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、又はアルスロバクター(Arthrobacter)属由来である、請求項3~10のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項12】
配列番号1、配列番号3-14、又は16-26のいずれかに示すアミノ酸配列を有し、請求項3~9のいずれかに規定したアミノ酸置換を有する、請求項3~11のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
【請求項13】
さらに、HbA1cデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を、配列番号1記載のアミノ酸配列とアライメントしたときに、配列番号1に示すアミノ酸配列における以下からなる群より選択される位置に対応する位置にアミノ酸置換又は欠失を1以上有し、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有する、請求項3~12のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(A)62位、63位、102位、106位、110位、113位、355位、419位、68位、356位、64位、及び/又は99位への置換、
(B)262位、257位、249位、253位、337位、340位、232位、129位、132位、133位、44位、256位、231位及び/又は81位への置換、並びに
(C)カルボキシル末端の435位、436位及び437位の3アミノ酸残基の欠失。
【請求項14】
さらに、HbA1cデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を、配列番号1記載のアミノ酸配列とアライメントしたときに、配列番号1に示すアミノ酸配列における以下からなる群より選択される位置に対応する位置のアミノ酸の1以上が、以下からなる群より選択されるアミノ酸に置換されており又は欠失しており、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有する、請求項13に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(A)62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸の、アラニン、アスパラギン又はアスパラギン酸への置換、
63位のロイシンに対応する位置のアミノ酸の、ヒスチジン又はアラニンへの置換、
102位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸の、リジンへの置換
106位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸の、アラニン、リジン、又はアルギニンへの置換、
110位のグルタミンに対応する位置のアミノ酸のロイシン又はチロシンへの置換、
113位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のリジン又はアルギニンへの置換、
355位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換、
419位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、
68位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のアスパラギンへの置換、
356位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のトレオニンへの置換、
64位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のグリシン、セリン、メチオニン、ロイシン、トレオニン、バリン、又はイソロイシンへの置換、
99位のヒスチジンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換、
(B)262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、
257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステイン、セリン、トレオニンへの置換、
249位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
337位のグルタミンに対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、
232位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
129位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
132位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンへの置換、
44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、
256位のグリシンに対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
231位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
81位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、並びに(C)435位のプロリン、436位のリジン及び437位のロイシンに対応する位置のカルボキシル末端3アミノ酸の欠失。
【請求項15】
請求項3~14のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼを含むHbA1c測定試薬キット。
【請求項16】
請求項3~14のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼを含む酵素電極。
【請求項17】
請求項16に記載の酵素電極を作用電極として有する酵素センサー。
【請求項18】
HbA1cデヒドロゲナーゼが請求項3~14のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼである、請求項1又は2に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HbA1cに作用する、デヒドロゲナーゼ活性が向上したアマドリアーゼ、オキシダーゼ活性が低減されたアマドリアーゼ、デヒドロゲナーゼ活性が向上しオキシダーゼ活性が低減されたアマドリアーゼ、その遺伝子および組換え体DNAならびに該アマドリアーゼの製造法に関する。また本発明は、糖尿病の診断用酵素として、センサーとして、また、糖尿病マーカーの測定キットに有利に利用され得るHbA1cに作用するデヒドロゲナーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
糖化タンパク質は、グルコースなどのアルドース(アルデヒド基を潜在的に有する単糖およびその誘導体)のアルデヒド基と、タンパク質のアミノ基が非酵素的に共有結合を形成し、アマドリ転移することにより生成したものである。タンパク質のアミノ基としてはアミノ末端のαアミノ基、タンパク質中のリジン残基側鎖のεアミノ基が挙げられる。生体内で生じる糖化タンパク質としては血液中のヘモグロビンが糖化された糖化ヘモグロビン、アルブミンが糖化された糖化アルブミンなどが知られている。
【0003】
これら生体内で生じる糖化タンパク質の中でも、糖尿病の臨床診断分野において、糖尿病患者の診断や症状管理のための重要な血糖コントロールマーカーとして、糖化ヘモグロビン(HbA1c)が注目されている。血液中のHbA1c濃度は過去の一定期間の平均血糖値を反映しており、その測定値は糖尿病の症状の診断や管理において重要な指標となっている。
【0004】
このHbA1cを迅速かつ簡便に測定する方法として、アマドリアーゼを用いる酵素的方法、すなわち、HbA1cをプロテアーゼ等で分解し、そのβ鎖アミノ末端より遊離させたα-フルクトシルバリルヒスチジン(以降「αFVH」と表す。)もしくはα-フルクトシルバリン(以降「αFV」と表す。)を定量する方法が提案されている(例えば、特許文献1~7参照。)。
【0005】
さらに、アマドリアーゼを用いたHbA1cの測定方法としては、HbA1cをGlu-Cプロテアーゼを用いて消化し、糖化されたβ鎖アミノ末端のバリンを含む6アミノ酸からなるα-フルクトシルヘキサペプチド(α-フルクトシルバリルヒスチジルロイシルスレオニルプロリルグルタミン酸、以降αF6Pと表す)を遊離させたのちに、遊離したαF6Pを定量する方法がある(例えば、特許文献16、17、18、19参照。)。この方法は、IFCC(International Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine)により定められたHbA1c測定法(非特許文献10参照)に則った、酵素によるHbA1cの測定方法である。
【0006】
しかしながら、プロテアーゼやペプチダーゼは、アマドリアーゼ、ペルオキシダーゼ、及び他のタンパク質試薬にも作用しうる。そこで本発明者らはプロテアーゼを必要とせずHbA1cに直接作用するアマドリアーゼを開発した(特許文献20)。また類似の報告例がある(特許文献21)。これらのアマドリアーゼは糖化基質を酸化する際に、電子を酸素分子に伝達する。
【0007】
アマドリアーゼは、酸素の存在下で、イミノ2酢酸もしくはその誘導体(「アマドリ化合物」ともいう)を酸化して、グリオキシル酸またはα-ケトアルデヒド、アミノ酸またはペプチドおよび過酸化水素を生成する反応を触媒する。
【0008】
アマドリアーゼは、細菌、酵母、真菌から見出されているが、特にHbA1cの測定に有用である、αFVHおよび/またはαFVに対する酵素活性を有するアマドリアーゼとしては、例えば、コニオカエタ(Coniochaeta)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、ピレノケータ(Pyrenochaeta)属、アルスリニウム(Arthrinium)属、カーブラリア(Curvularia)属、ネオコスモスポラ(Neocosmospora)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、フェオスフェリア(Phaeosphaeria)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、エメリセラ(Emericella)属、ウロクラディウム(Ulocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フザリウム(Fusarium)属、アカエトミエラ(Achaetomiella)属、アカエトミウム(Achaetomium)属、シエラビア(Thielavia)属、カエトミウム(Chaetomium)属、ゲラシノスポラ(Gelasinospora)属、ミクロアスカス(Microascus)属、レプトスフェリア(Leptosphaeria)属、オフィオボラス(Ophiobolus)属、プレオスポラ(Pleospora)属、コニオケチジウム(Coniochaetidium)属、ピチア(Pichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属由来のアマドリアーゼが報告されている(例えば、特許文献1、6~15、非特許文献1~11参照。)。なお、上記報告例の中で、アマドリアーゼは、文献によってはケトアミンオキシダーゼやフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ等の表現で記載されている場合もある。
【0009】
アマドリアーゼはペルオキシダーゼと共役させ、発色基質を利用することにより、試料中の糖化基質の測定に利用することができる。従来のアマドリアーゼは糖化基質を酸化する際に、酸素分子に電子を伝達することができる。この活性をオキシダーゼ活性という。一方で、従来のアマドリアーゼは糖化基質を酸化する際に、酸素分子とは異なる電子アクセプター(電子メディエーター)に電子を伝達することもできる。この活性をデヒドロゲナーゼ活性という。酵素のオキシダーゼ活性を低減しデヒドロゲナーゼ活性を増大させると、糖化基質を酸化する際に、電子アクセプター(電子メディエーター)に優先的に電子を伝達することができる。そのため、試料中の酸素の影響を受けることなく糖化基質に由来する電子の測定を行うことができる。
【0010】
公知の文献中にアマドリアーゼのデヒドロゲナーゼ活性の向上に関する開示がみられる:例えば、Phaeosphaeria nodorum由来フルクトシルアミノ酸オキシダーゼの56位のアスパラギンをアラニンに置換することにより、デヒドロゲナーゼ活性におけるαFVに対するVmax/Kが2.3倍向上することが示されている(特許文献16参照)。しかしながら、開示されている変異体はオキシダーゼ活性におけるαFVに対するVmax/Kも野生型と比較して1.2倍向上しているため、酸素の影響を依然として受けてしまうと考えられる。また開示されている変異体はαFVを基質とするが、HbA1cそのものには直接作用しないと考えられる。
【0011】
特許文献22は、アマドリアーゼの熱安定性を向上させる変異を報告しており、Coniochaeta属由来アマドリアーゼの267位のPheがTyrに改変された熱安定性向上変異体(F267Y)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2004/104203号
【特許文献2】国際公開第2005/49857号
【特許文献3】特開2001-95598号公報
【特許文献4】特公平05-33997号公報
【特許文献5】特開平11-127895号公報
【特許文献6】国際公開第97/13872号
【特許文献7】特開2011-229526号公報
【特許文献8】特開2003-235585号公報
【特許文献9】特開2004-275013号公報
【特許文献10】特開2004-275063号公報
【特許文献11】特開2010-35469号公報
【特許文献12】特開2010-57474号公報
【特許文献13】国際公開第2010/41715号
【特許文献14】国際公開第2010/41419号
【特許文献15】国際公開第2011/15325号
【特許文献16】国際公開第2011/015325号
【特許文献17】国際公開第2008/108385号
【特許文献18】国際公開第2015/005258号
【特許文献19】国際公開第2013/162035号
【特許文献20】国際公開第2015/060429号
【特許文献21】国際公開第2015/005257号
【特許文献22】国際公開第2013/100006号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun. 311, 104-11, 2003
【非特許文献2】Biotechnol. Bioeng. 106, 358-66, 2010
【非特許文献3】J. Biosci. Bioeng. 102, 241-3, 2006
【非特許文献4】Eur. J. Biochem. 242, 499-505, 1996
【非特許文献5】Arch.Microbiol.178,344-50,2002
【非特許文献6】Mar.Biotechnol.6,625-32,2004
【非特許文献7】Biosci. Biotechnol. Biochem.59, 487-91,1995
【非特許文献8】Appl. Microbiol. Biotechnol. 74, 813-819, 2007
【非特許文献9】Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 1256-61, 2002
【非特許文献10】Biosci. Biotechnol. Biochem. 66, 2323-29, 2002
【非特許文献11】Biotechnol. Letters 27, 27-32,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、HbA1cに作用する、オキシダーゼ活性が低下し、デヒドロゲナーゼ活性が増大したアマドリアーゼを提供することを目的とする。また本発明は、HbA1cに作用する、活性が溶存酸素レベルの影響をほとんど受けないアマドリアーゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
酵素のオキシダーゼ活性の低下およびデヒドロゲナーゼ活性を付与するための情報はほとんど開示されていない現状の中で、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼに対して、特定のアミノ酸残基の置換を導入することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
[1] 試料にヘモグロビンA1cに直接作用するHbA1cデヒドロゲナーゼを作用させ、その作用によって生じる過酸化水素ではない還元型電子メディエーターもしくは消費される酸素ではない酸化型電子メディエーターを測定することを含む、試料中のヘモグロビンA1cの測定方法。
[2] 測定がHbA1cデヒドロゲナーゼ、HbA1cデヒドロゲナーゼを含む酵素電極、又は該酵素電極を作用電極として有する酵素センサー、及び酸素ではない電子メディエーターを用いる電気化学的測定であるか、或いは、HbA1cデヒドロゲナーゼ、発色基質、及び、酸素ではない電子メディエーターを用いる吸光度測定である、1に記載の測定方法。
[3] 改変前のヘモグロビンA1cに直接作用する(親)アマドリアーゼと比較して、オキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)が低減されたHbA1cに直接作用するデヒドロゲナーゼであって、
(i) アマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1記載のアミノ酸配列とアライメントしたときに、配列番号1に示すアミノ酸配列における280位、269位、54位、241位及び267位からなる群より選択される位置に対応する位置の1以上のアミノ酸が置換されており、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(ii) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列における280位、269位、54位、241位及び267位に対応する位置以外の位置における1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなり、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(iii) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、当該アマドリアーゼの全長アミノ酸配列が配列番号1、配列番号3-14のいずれかのアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有し、かつ、配列番号1の相同性領域におけるアミノ酸配列と当該アマドリアーゼの対応する相同性領域におけるアミノ酸配列とが90%以上の配列同一性を有し、ここで配列番号1の相同性領域は配列番号1の第10位~32位、36~41位、49~52位、54~58位、63~65位、73~75位、84~86位、88~90位、120~122位、145~150位、156~162位、164~170位、180~182位、202~205位、207~211位、214~224位、227~230位、236~241位、243~248位、258~261位、266~268位、270~273位、275~287位、295~297位、306~308位、310~316位、324~329位、332~334位、341~344位、346~355位、357~363位、370~383位、385~387位、389~394位、405~410位及び423~431位のアミノ酸配列からなるものであり、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(iv) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、当該アマドリアーゼの全長アミノ酸配列が配列番号1、配列番号3-14のいずれかのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有し、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ、或いは
(v) 前記(i)のHbA1cデヒドロゲナーゼにおいて、配列番号1の保存領域におけるアミノ酸配列と当該アマドリアーゼの由来する天然アマドリアーゼの対応する保存領域におけるアミノ酸配列とが90%以上の配列同一性を有し、ここで配列番号1の保存領域は配列番号1の第11、12、13、15、17、18、20、22、23、24、25、27、29、31、36、37、41、46、47、50、51、52、54、56、57、58、75、79、82、84、85、93、95、149、158、159、162、165、166、177、180、202、208、218、220、221、222、224、228、233、239、243、246、250、255、258、260、266、267、270、272、277、278、280、281、282、284、285、286、318、321、326、329、334、339、346、347、348、351、352、354、358、359、362、363、370、373、376、382、385、386、389、406、407、409、418、425及び427位からなるものであり、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有するHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[4] 配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、セリン、トレオニン及びアスパラギンからなる群より選択される極性アミノ酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群より選択される荷電アミノ酸、又はメチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン、トリプトファン、バリン又はアラニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における54位に対応する位置のアミノ酸が、アスパラギン、アラニン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン又はバリンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、リシン、グルタミン酸、アスパラギン、アルギニン、アスパラギン酸又はヒスチジンからなる群より選択されるアミノ酸に置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン、トリプトファン、バリン又はアラニンに置換されている、
3に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[5] 配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、セリン、ヒスチジン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン又はメチオニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン又はトリプトファンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における54位に対応する位置のアミノ酸が、アスパラギン又はアラニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、グルタミン酸又はリシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン、チロシン、イソロイシン又はトリプトファンに置換されている、
4に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[6] 配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、セリン、ヒスチジン、トレオニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン又はメチオニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における54位に対応する位置のアミノ酸が、アスパラギン又はアラニンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、グルタミン酸又はリシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[7] 配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン、又はセリンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における241位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン、ロイシン又はチロシンに置換されている、
5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[8] 配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミン又はヒスチジンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、
5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[9] 配列番号1に示すアミノ酸配列における280位に対応する位置のアミノ酸が、グルタミンに置換されている、
配列番号1に示すアミノ酸配列における269位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、或いは
配列番号1に示すアミノ酸配列における267位に対応する位置のアミノ酸が、メチオニン又はロイシンに置換されている、
5に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[10] オキシダーゼ活性が改変前のアマドリアーゼ(100%)と比較して60%未満に低減されている、又は、オキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)が改変前のアマドリアーゼ(100%)と比較して40%未満に低減されている、3~9のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[11] 前記アマドリアーゼが、コニオカエタ(Coniochaeta)属、ユーペニシリウム(Eupenicillium)属、ピレノケータ(Pyrenochaeta)属、アルスリニウム(Arthrinium)属、カーブラリア(Curvularia)属、ネオコスモスポラ(Neocosmospora)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、フェオスフェリア(Phaeosphaeria)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、エメリセラ(Emericella)属、ウロクラディウム(Ulocladium)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フザリウム(Fusarium)属、アカエトミエラ(Achaetomiella)属、アカエトミウム(Achaetomium)属、シエラビア(Thielavia)属、カエトミウム(Chaetomium)属、ゲラシノスポラ(Gelasinospora)属、ミクロアスカス(Microascus)属、レプトスフェリア(Leptosphaeria)属、オフィオボラス(Ophiobolus)属、プレオスポラ(Pleospora)属、コニオケチジウム(Coniochaetidium)属、ピチア(Pichia)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、又はアルスロバクター(Arthrobacter)属由来である、3~10のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[12] 配列番号1、配列番号3-14、又は16-26のいずれかに示すアミノ酸配列を有し、3~9のいずれかに規定したアミノ酸置換を有する、3~11のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ。
[13] さらに、HbA1cデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を、配列番号1記載のアミノ酸配列とアライメントしたときに、配列番号1に示すアミノ酸配列における以下からなる群より選択される位置に対応する位置にアミノ酸置換又は欠失を1以上有し、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有する、3~12のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(A)62位、63位、102位、106位、110位、113位、355位、419位、68位、356位、64位、及び/又は99位への置換、
(B)262位、257位、249位、253位、337位、340位、232位、129位、132位、133位、44位、256位、231位及び/又は81位への置換、並びに
(C)カルボキシル末端の435位、436位及び437位の3アミノ酸残基の欠失。
[14] さらに、HbA1cデヒドロゲナーゼのアミノ酸配列を、配列番号1記載のアミノ酸配列とアライメントしたときに、配列番号1に示すアミノ酸配列における以下からなる群より選択される位置に対応する位置のアミノ酸の1以上が、以下からなる群より選択されるアミノ酸に置換されており又は欠失しており、ヘモグロビンA1cに直接作用し、かつデヒドロゲナーゼ活性を有する、13に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼ、
(A)62位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸の、アラニン、アスパラギン又はアスパラギン酸への置換、
63位のロイシンに対応する位置のアミノ酸の、ヒスチジン又はアラニンへの置換、
102位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸の、リジンへの置換
106位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸の、アラニン、リジン、又はアルギニンへの置換、
110位のグルタミンに対応する位置のアミノ酸のロイシン又はチロシンへの置換、
113位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のリジン又はアルギニンへの置換、
355位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換、
419位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のリジンへの置換、
68位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のアスパラギンへの置換、
356位のアラニンに対応する位置のアミノ酸のトレオニンへの置換、
64位のアルギニンに対応する位置のアミノ酸のグリシン、セリン、メチオニン、ロイシン、トレオニン、バリン、又はイソロイシンへの置換、
99位のヒスチジンに対応する位置のアミノ酸のセリンへの置換、
(B)262位のアスパラギンに対応する位置のアミノ酸のヒスチジンへの置換、
257位のバリンに対応する位置のアミノ酸のシステイン、セリン、トレオニンへの置換、
249位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
253位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
337位のグルタミンに対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
340位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、
232位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
129位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
132位のアスパラギン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
133位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンへの置換、
44位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のプロリンへの置換、
256位のグリシンに対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
231位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、
81位のグルタミン酸に対応する位置のアミノ酸のリジン、アルギニンへの置換、並びに(C)435位のプロリン、436位のリジン及び437位のロイシンに対応する位置のカルボキシル末端3アミノ酸の欠失。
[15] 3~14のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼを含むHbA1c測定試薬キット。
[16] 3~14のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼを含む酵素電極。
[17] 16に記載の酵素電極を作用電極として有する酵素センサー。
[18] HbA1cデヒドロゲナーゼが3~14のいずれか1項に記載のHbA1cデヒドロゲナーゼである、1又は2に記載の測定方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-086592号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プロテアーゼ等を処方することなくHbA1cを測定することができ、酸素の影響を受けにくく、さらに高感度測定が可能な糖尿病の診断用酵素として、また、糖尿病マーカー測定用センサーに用いることができる優れたアマドリアーゼ、およびそれをコードする遺伝子等を提供することができる。このアマドリアーゼを用いると、プロテアーゼ等を処方することなく、酸素存在下でもより正確に糖化ヘモグロビンの測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1-1】各種公知のアマドリアーゼのアミノ酸配列における同一性及び類似アミノ酸を例示する図である。Co、Et、Py、Ar、Cc、Nv、Cn、Pn、An、En、Ul及びPjをアライメントした。
図1-2】図1-2は、図1-1の続きである。
図1-3】図1-3は、図1-2の続きである。
図1-4】図1-4は、図1-3の続きである。
図1-5】図1-5は、図1-4の続きである。
図2-1】各種公知のアマドリアーゼのアミノ酸配列における同一性及び類似アミノ酸を例示する図である。図1に示すアマドリアーゼに加え、Ao2、Af2、At、Fo、Ao1、Af1、Pi、Dhをアライメントした。
図2-2】図2-2は、図2-1の続きである。
図2-3】図2-3は、図2-2の続きである。
図2-4】図2-4は、図2-3の続きである。
図2-5】図2-5は、図2-4の続きである。
図2-6】図2-6は、図2-5の続きである。
図2-7】図2-7は、図2-6の続きである。
図2-8】図2-8は、図2-7の続きである。
図2-9】図2-9は、図2-8の続きである。
図2-10】図2-10は、図2-9の続きである。
図3】アマドリアーゼのオキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性を示す。図3は酵素反応を説明するための模式図であって、酵素の基質特異性等の特性を限定するものではない。
図4】A1cDHを用いたHbA1c測定の結果を示す。
図5】種々のHbA1c濃度における電流応答値をプロットした結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアマドリアーゼは糖化タンパク質や糖化ペプチドを基質としうる。
【0020】
(糖化タンパク質、ヘモグロビンA1c)
本発明における糖化タンパク質とは、非酵素的に糖化されたタンパク質を指す。糖化タンパク質は生体内、外を問わず存在し、生体内に存在する例としては、血液中の糖化ヘモグロビン、糖化アルブミンなどがあり、糖化ヘモグロビンの中でもヘモグロビンのβ鎖アミノ末端のバリンが糖化された糖化ヘモグロビンを特にヘモグロビンA1c(HbA1c)と言う。生体外に存在する例としては、タンパク質やペプチドと糖が共存する液状調味料などの飲食品や輸液などがある。
【0021】
(糖化ペプチド、フルクトシルペプチド)
本発明における糖化ペプチドとは、糖化タンパク質由来の非酵素的に糖化されたペプチドを指し、ペプチドが直接非酵素的に糖化されたものや、プロテアーゼ等により糖化タンパク質が分解された結果生じたものや糖化タンパク質を構成する(ポリ)ペプチドが糖化されたものが含まれる。糖化ペプチドをフルクトシルペプチドと表記することもある。糖化タンパク質において、糖化を受けるペプチド側のアミノ基としては、アミノ末端のα-アミノ基、ペプチド内部のリジン残基側鎖のε-アミノ基などが挙げられるが、本発明における糖化ペプチドとは、より具体的には、α-糖化ペプチド(α-フルクトシルペプチド)である。α-糖化ペプチドは、N末端のα-アミノ酸が糖化された糖化タンパク質から何らかの手段、例えば、プロテアーゼによる限定分解などにより遊離させて形成される。例えば、対象の糖化タンパク質がヘモグロビンA1c(HbA1c)である場合、該当するα-糖化ペプチドは、N末端が糖化されているHbA1cのβ鎖から切り出される糖化されたペプチドを指す。146残基のアミノ酸により構成されているHbA1cのβ鎖もまたα-糖化ペプチドに該当する(αF146P)。
【0022】
ある実施形態において本発明のアマドリアーゼが作用する測定物質(基質)は、HbA1c、より具体的にはHbA1cのβ鎖である。別の実施形態において本発明のアマドリアーゼが作用する測定物質はHbA1cのβ鎖から切り出されるα-糖化ペプチド、例えばαFV~αF128P、αFV~αF64P、αFV~αF32P、αFV~αF16P、例えばαF6P(α-フルクトシルバリルヒスチジルロイシルスレオニルプロリルグルタミン酸)である。別の実施形態において本発明のアマドリアーゼが作用する測定物質はαFVH(α-フルクトシルバリルヒスチジン)又はαFV(α-フルクトシルバリン)である。
【0023】
(アマドリアーゼ)
アマドリアーゼは、ケトアミンオキシダーゼ、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ、フルクトシルペプチドオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ等とも称され、酸素の存在下で、イミノ2酢酸またはその誘導体(アマドリ化合物)を酸化して、グリオキシル酸またはα-ケトアルデヒド、アミノ酸またはペプチドおよび過酸化水素を生成する反応を触媒する酵素のことをいう。アマドリアーゼは、自然界に広く分布しており、微生物や、動物または植物起源の酵素を探索することにより、得ることができる。微生物においては、例えば、糸状菌、酵母または細菌等から得ることができる。
【0024】
(HbA1cオキシダーゼ)
種々のアマドリアーゼのうちHbA1cそのものを基質として認識し、HbA1cを直接酸化する活性を有するものを本明細書においてHbA1cオキシダーゼといい、これをA1cOXと記載することがある。HbA1cに直接作用するアマドリアーゼは、例えば国際公開第2015/060429号の記載に基づき取得することができる。またこれは国際公開第2015/005257号の記載に基づき取得することもできる。参照によりそれらの全内容を本明細書に組み入れる。HbA1cオキシダーゼは、このような公知文献に記載された一又は複数のアミノ酸置換を有しうる。また公知のHbA1cオキシダーゼにさらに基質特異性を改変する変異等が導入されてもよい。
【0025】
HbA1cに直接作用するアマドリアーゼが有しうるアミノ酸置換の例として、配列番号1のアミノ酸配列における以下の位置に対応する位置におけるアミノ酸置換が挙げられる。
(a)62位(アルギニン)
(b)63位(ロイシン)
(c)102位(グルタミン酸)
(d)106位(アスパラギン酸)
(e)110位(グルタミン)
(f)113位(アラニン)
(g)355位(アラニン)
(h)419位(アラニン)
(i)68位(アスパラギン酸)
(j)356位(アラニン)
(k)64位(アルギニン)
(l)99位(ヒスチジン)
この場合、好ましくは、(a)配列番号1の62位に対応する位置のアミノ酸は、アスパラギン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、セリン、メチオニン、スレオニン又はプロリンへと置換され得る。好ましくは(b)配列番号1の63位に対応する位置のアミノ酸は、ヒスチジン、アラニン又はグリシンへと置換され得る。好ましくは(c)配列番号1の102位に対応する位置のアミノ酸は、リジンへと置換され得る。好ましくは(d)配列番号1の106位に対応する位置のアミノ酸は、アラニン、リジン、又はアルギニンへと置換され得る。好ましくは(e)配列番号1の110位に対応する位置のアミノ酸はロイシン、チロシン、フェニルアラニン又はヒスチジンへと置換され得る。好ましくは(f)配列番号1の113位に対応する位置のアミノ酸はリジン又はアルギニンへと置換され得る。好ましくは(g)配列番号1の355位に対応する位置のアミノ酸はセリンへと置換され得る。場合により(h)配列番号1の419位に対応する位置のアミノ酸はリジンへと置換されていてもよい。場合により(i)配列番号1の68位に対応する位置のアミノ酸はアスパラギンへと置換されてもよい。場合により(j)配列番号1の356位に対応する位置のアミノ酸はスレオニンへと置換されてもよい。場合により(k)配列番号1の64位に対応する位置のアミノ酸はグリシン、セリン、メチオニン、ロイシン、トレオニン、バリン、又はイソロイシンへと置換され得る。場合により(l)配列番号1の99位に対応する位置のアミノ酸はセリンへと置換され得る。
【0026】
特定の実施形態においてHbA1cオキシダーゼは上記の変異とは別に、または上記の変異に加えて、以下の位置またはこれに対応する位置において1以上のアミノ酸置換を有し得る:
(l)配列番号1の67位、
(m)配列番号1の72位、
(n)配列番号1の76位、
(o)配列番号1の96位、
(p)配列番号1の109位、
(q)配列番号1の116位
場合により(l)配列番号1の67位に対応する位置のアミノ酸はヒスチジンでありうる。場合により(m)配列番号1の72位に対応する位置のアミノ酸はセリンでありうる。場合により(n)配列番号1の76位に対応する位置のアミノ酸はアラニンまたはフェニルアラニンでありうる。場合により(o)配列番号1の96位に対応する位置のアミノ酸はグルタミン酸でありうる。場合により(p)配列番号1の109位に対応する位置のアミノ酸はアルギニンまたはリジンでありうる。場合により(q)配列番号1の116位に対応する位置のアミノ酸はアルギニンでありうる。
【0027】
これらの位置(62位/63位/102位/106位/110位/113位/355位/419位/68位/356位/64位/99位、並びに67位/72位/76位/96位/109位/116位)の変異は、アマドリアーゼの基質特異性を改変する変異の例である。ただしこれは例示であり、基質特異性を改変する変異はこれに限らない。ある実施形態において、本発明のアマドリアーゼは、一又は複数の基質特異性を改変する変異を有する。
【0028】
(本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼ)
ある実施形態において、本発明はHbA1cデヒドロゲナーゼを提供する。HbA1cデヒドロゲナーゼは、アマドリアーゼに本発明の変異を導入することにより作製しうる。ある実施形態において、HbA1cデヒドロゲナーゼはHbA1cオキシダーゼ(A1cOX)に基づき取得することができる。HbA1cオキシダーゼとしては上記のものが例示されるがこれに限られず、HbA1cを基質として認識しHbA1cを直接酸化するものであればどのようなものでもよい。別の実施形態ではアマドリアーゼに本発明の変異を導入してデヒドロゲナーゼ活性の向上したアマドリアーゼを作製し、次いでこれに基質特異性を改変する変異を導入してHbA1cに直接作用する、HbA1cデヒドロゲナーゼを作製しうる。
【0029】
本明細書においてHbA1cデヒドロゲナーゼとは、本発明の変異を導入する前の(親)アマドリアーゼと比較して、変異導入後のアマドリアーゼの、デヒドロゲナーゼ活性が向上した、オキシダーゼ活性が低減された、デヒドロゲナーゼ活性が向上しなおかつオキシダーゼ活性が低減された、又はオキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)が低減された、HbA1cに作用するアマドリアーゼをいう。これは本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼがオキシダーゼ活性を有することを排除するものではない。また、HbA1cを基質として全く認識しない、すなわちHbA1cに全く作用しないアマドリアーゼは本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼに含まれない。
【0030】
ある実施形態において、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ(配列番号1)に基づき作製されたHbA1cデヒドロゲナーゼである。ある実施形態において、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ(配列番号3)、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号4)、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号5)、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号6)、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号7)、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号8)、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ(配列番号9)、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号10)、Emericella nidulans由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ(配列番号11)、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号12)、Penicillium janthinellum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号13)、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo2(配列番号19)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf2(配列番号20)、Aspergillus terreus由来のアマドリアーゼAt(配列番号21)、Fusarium oxysporum由来のアマドリアーゼFo(配列番号22)、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo1(配列番号23)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf1(配列番号24)、Pichia sp.由来のアマドリアーゼPi(配列番号25)、Debaryomyces hansenii由来のアマドリアーゼDh(配列番号26)又はそれらの均等物に基づき作製されたHbA1cデヒドロゲナーゼである。
【0031】
このようなHbA1cデヒドロゲナーゼの例としては、配列番号1、配列番号3-14又は配列番号16-26のいずれかと高い配列同一性(例えば、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、例えば99%以上)を有するアミノ酸配列を有するアマドリアーゼおよび配列番号1、配列番号3-14又は配列番号16-26のいずれかにおいて、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を有するアマドリアーゼを挙げることができる。
【0032】
なお、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは例えば、Eupenicillium属、Pyrenochaeta属、Arthrinium属、Curvularia属、Neocosmospora属、Cryptococcus属、Phaeosphaeria属、Aspergillus属、Emericella属、Ulocladium属、Penicillium属、Fusarium属、Achaetomiella属、Achaetomium属、Thielavia属、Chaetomium属、Gelasinospora属、Microascus属、Leptosphaeria属、Ophiobolus属、Pleospora属、Coniochaetidium属、Pichia属、Corynebacterium属、Agrobacterium属、Arthrobacter属、Debaryomyces属などの生物種に由来するアマドリアーゼに基づき作製されたものでもよい。これらの中でもHbA1cに作用し、デヒドロゲナーゼ活性を有し、アミノ酸配列が上記のように配列番号1、配列番号3-14又は配列番号16-26と高い配列同一性を有するものが好ましい。
【0033】
HbA1cデヒドロゲナーゼは、HbA1cオキシダーゼのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸残基を置換する、または付加する、または欠失させることによって得ることができる。
【0034】
(デヒドロゲナーゼ活性の向上/オキシダーゼ活性の低減をもたらす置換)
デヒドロゲナーゼ活性の向上及び/又はオキシダーゼ活性の低減をもたらすアミノ酸の置換として、配列番号1のアミノ酸配列における以下の位置に対応する位置のアミノ酸置換が挙げられる。これらを本発明のデヒドロゲナーゼ活性を向上させる変異、本発明のオキシダーゼ活性を低減させる変異、本発明のデヒドロゲナーゼ活性を向上させ及び/又はオキシダーゼ活性を低減させる変異、或いは単に本発明の変異又は本発明の置換ということがある。
【0035】
(1)280位に対応する位置の置換、例えば、グルタミン、セリン、トレオニン及びアスパラギンからなる群より選択される極性アミノ酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン及びヒスチジンからなる群より選択される荷電アミノ酸、又はメチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンからなる群より選択されるアミノ酸への置換。
(2)267位に対応する位置の置換、例えばチロシン、ロイシン、メチオニン、トリプトファン、イソロイシン、バリン、システイン又はアラニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸残基への置換。
(3)269位に対応する位置の置換、例えばチロシン、ロイシン、メチオニン、トリプトファン、イソロイシン、バリン、システイン又はアラニンからなる群より選択される疎水性アミノ酸残基への置換。
(4)54位に対応する位置の置換、例えばアスパラギン、アラニン、グルタミン、ヒスチジン、グリシン又はバリンへの置換。
(5)241位に対応する位置の置換、例えばグルタミン、リシン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン又はヒスチジンへの置換。
【0036】
本明細書では便宜上、グルタミン、セリン、トレオニン及びアスパラギンを極性アミノ酸ということがある。またアスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、及びヒスチジンを荷電アミノ酸ということがある。またアラニン、システイン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンを疎水性アミノ酸ということがある。またメチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリンを嵩高いアミノ酸ということがある。
【0037】
本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、上記アミノ酸置換を少なくとも1つ有していればよく、複数のアミノ酸置換を有していてもよい。例えば、上記アミノ酸置換の1、2、3、4、又は5を有している。
【0038】
その中でも、以下のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸の置換を有しているデヒドロゲナーゼ活性が向上し、かつ、オキシダーゼ活性が低減した変異体が好ましい。
【0039】
(1)280位に対応する位置の置換、例えば、グルタミン、セリン、ヒスチジン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、メチオニン、リシン、アルギニン、又はアスパラギンへの置換。
(2)267位に対応する位置の置換、例えばチロシン、ロイシン又はメチオニンへの置換。
(3)269位に対応する位置の置換、例えばチロシン、ロイシン又はメチオニンへの置換。
(4)54位に対応する位置の置換、例えばアスパラギン、アラニンへの置換。
(5)241位に対応する位置の置換、例えばグルタミン、リシン、又はグルタミン酸への置換。
【0040】
本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、配列番号1に示すアミノ酸配列における位置に対応する位置において、上記のデヒドロゲナーゼ活性の向上及び/又はオキシダーゼ活性の低減をもたらすアミノ酸の置換を有し得る。さらに、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、それらの置換アミノ酸以外の位置で、さらに1又は数個(例えば1~30個、1~20個、1~15個、例えば1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個、特に好ましくは1個)のアミノ酸が欠失、挿入、付加および/または置換されていてもよい。さらに本発明は、上記のデヒドロゲナーゼ活性の向上及び/又はオキシダーゼ活性の低減をもたらすアミノ酸の置換、基質特異性等、デヒドロゲナーゼ活性向上以外の性質を向上させるアミノ酸の置換を有し、前記置換したアミノ酸を除いた部分のアミノ酸配列について、配列番号1、配列番号3-14又は配列番号16-26のアミノ酸配列と比較して30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、例えば99%以上のアミノ酸配列同一性を有し、HbA1cに直接作用し、デヒドロゲナーゼ活性が改変されたアマドリアーゼ変異体を包含する。
【0041】
なお、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するアマドリアーゼは、国際公開2007/125779号においてpKK223-3-CFP-T7と称する組換え体プラスミド(寄託番号:FERM BP-10593)を保持する大腸菌が生産するConiochaeta属由来のアマドリアーゼ(CFP-T7)であり、先に出願人が見出した熱安定性の優れた改変型アマドリアーゼである。このCFP-T7は、天然型のConiochaeta属由来のアマドリアーゼに対し、272位、302位および388位に人為的な変異を順次導入することにより獲得した3重変異体である。
【0042】
また国際公開第2015/060429号に開示されているCFP-T7-H35はCFP-T7にR62D、L63H、E102K、D106K、Q110L、A113K、A355Sのアミノ酸置換を導入したものである。CFP-T7-H37(配列番号14)はCFP-T7-H35に変異D68N/A356Tを導入したものである。
【0043】
上記のアミノ酸置換において、アミノ酸の位置は配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置を表しているが、他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列においては、配列番号1に示されるアミノ酸配列における位置に対応する位置のアミノ酸が置換されている。「対応する位置」の意味については後述する。
【0044】
(さらなる置換)
(アマドリアーゼの界面活性剤耐性を向上させるアミノ酸置換について)
本発明者らは、アマドリアーゼのアミノ酸残基を置換することによりその界面活性剤耐性を向上させることができること報告した。例えば国際公開第2015/020200号明細書を参照のこと。参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。
【0045】
アマドリアーゼの界面活性剤耐性を向上させるアミノ酸置換として、配列番号1に示すアミノ酸配列における以下の位置に対応する位置におけるアミノ酸置換が挙げられる。 (i)262位、
(ii)257位、
(iii)249位
(iv)253位、
(v)337位、
(vi)340位、
(vii)232位、
(viii)129位、
(ix)132位、
(x)133位、
(xi)44位、
(xii)256位、
(xiii)231位、及び
(xiv)81位
場合により262位に対応する位置のアミノ酸はヒスチジンへと置換されてもよい。場合により257位に対応する位置のアミノ酸はシステイン、セリン、トレオニンへと置換されてもよい。場合により249位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により253位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により337位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により340位に対応する位置のアミノ酸はプロリンへと置換されてもよい。場合により232位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により129位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により132位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により133位に対応する位置のアミノ酸はアラニン、メチオニン、リジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により44位に対応する位置のアミノ酸はプロリンへと置換されてもよい。場合により256位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により231位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。場合により81位に対応する位置のアミノ酸はリジン、アルギニンへと置換されてもよい。
【0046】
本明細書ではこれらの位置(44位/133位/253位/257位/262位/337位/340位並びに249位/232位/129位/132位/256位/231位/81位)の変異を、アマドリアーゼの界面活性剤耐性を向上させる変異と呼ぶことがある。ある実施形態において、本発明のアマドリアーゼは、さらに界面活性剤耐性を向上させる変異を有し得る。
【0047】
(アマドリアーゼの熱安定性を向上させるアミノ酸欠失について)
本発明者らは以前に、アマドリアーゼのカルボキシル末端から、3アミノ酸残基を欠失させることにより、その熱安定性を向上させうることを報告した(国際公開第2013/100006号明細書を参照のこと。参照によりその全内容を本明細書に組み入れる)。ある実施形態において、本発明のアマドリアーゼは上記の置換に加え、さらにカルボキシル末端からの3アミノ酸残基を欠失していてもよい。本明細書においてカルボキシル末端からの3アミノ酸残基の欠失を、熱安定性を向上させる欠失と呼ぶことがある。
【0048】
(アマドリアーゼをコードする遺伝子の取得)
これらのアマドリアーゼをコードする本発明の遺伝子(以下、単に「アマドリアーゼ遺伝子」ともいう。)を得るには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法が用いられる。例えば、アマドリアーゼ生産能を有する微生物菌体や種々の細胞から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNAまたはmRNAを抽出することができる。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNAまたはcDNAを用いて、染色体DNAまたはcDNAのライブラリーを作製することができる。
【0049】
次いで、上記アマドリアーゼのアミノ酸配列に基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNAまたはcDNAのライブラリーからアマドリアーゼ遺伝子を選抜する方法、あるいは、上記アミノ酸配列に基づき、適当なプライマーDNAを作製して、5’RACE法や3’RACE法などの適当なポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)により、アマドリアーゼをコードする目的の遺伝子断片を含むDNAを増幅させ、これらのDNA断片を連結させて、目的のアマドリアーゼ遺伝子の全長を含むDNAを得ることができる。
【0050】
このようにして得られたアマドリアーゼをコードする遺伝子の好ましい一例として、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ遺伝子(特開2003-235585号公報)の例などが挙げられる。
【0051】
これらのアマドリアーゼ遺伝子は、常法通り各種ベクターに連結されていることが、取扱い上好ましい。例えば、Coniochaeta sp. NISL 9330株由来のアマドリアーゼ遺伝子をコードするDNAがpKK223-3 Vector(GEヘルスケア社製)に挿入された組換え体プラスミドpKK223-3-CFP(特開2003-235585号公報)が挙げられる。
【0052】
(ベクター)
本発明において用いることのできるベクターとしては、上記プラスミドに限定されることなくそれ以外の、例えば、バクテリオファージ、コスミド等の当業者に公知の任意のベクターを用いることができる。具体的には、例えば、pBluescriptII SK+(STRATAGENE社製)等が好ましい。
【0053】
(アマドリアーゼ遺伝子の変異処理)
アマドリアーゼ遺伝子の変異処理は、企図する変異形態に応じた、公知の任意の方法で行うことができる。すなわち、アマドリアーゼ遺伝子あるいは当該遺伝子の組み込まれた組換え体DNAと変異原となる薬剤とを接触・作用させる方法;紫外線照射法;遺伝子工学的手法;またはタンパク質工学的手法を駆使する方法等を広く用いることができる。
【0054】
上記変異処理に用いられる変異原となる薬剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン、蟻酸または5-ブロモウラシル等を挙げることができる。
【0055】
上記接触・作用の諸条件は、用いる薬剤の種類等に応じた条件をとることが可能であり、現実に所望の変異をアマドリアーゼ遺伝子において惹起することができる限り特に限定されない。通常、好ましくは0.5~12Mの上記薬剤濃度において、20~80℃の反応温度下で10分間以上、好ましくは10~180分間接触・作用させることで、所望の変異を惹起可能である。紫外線照射を行う場合においても、上記の通り常法に従い行うことができる(現代化学、p24~30、1989年6月号)。
【0056】
タンパク質工学的手法を駆使する方法としては、一般的に、Site-Specific Mutagenesisとして知られる手法を用いることができる。例えば、Kramer法(Nucleic Acids Res.,12,9441(1984):Methods Enzymol., 154, 350 (1987): Gene,37,73(1985))、Eckstein法(Nucleic Acids Res.,13,8749(1985):Nucleic Acids Res.,13,8765(1985):Nucleic Acids Res,14,9679(1986))、Kunkel法(Proc. Natl. Acid. Sci. U.S.A.,82,488(1985):Methods Enzymol.,154,367(1987))等が挙げられる。DNA中の塩基配列を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Mutagenesis Kit;Clonetech社,EXOIII/Mung Bean Deletion Kit; Stratagene製, Quick Change Site Directed Mutagenesis Kit; Stratagene製など)の利用が挙げられる。
【0057】
また、一般的なPCR法(ポリメラーゼチェインリアクション、Polymerase Chain Reaction)として知られる手法を用いることもできる(Technique, 1, 11 (1989))。なお、上記遺伝子改変法の他に、有機合成法または酵素合成法により、直接所望の改変アマドリアーゼ遺伝子を合成することもできる。
【0058】
上記方法により得られるアマドリアーゼ遺伝子のDNA塩基配列の決定もしくは確認を行う場合には、例えば、マルチキャピラリーDNA解析システムCEQ2000(ベックマン・コールター社製)またはApplied Biosystems 3130xl ジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific製)等を用いることにより行うことができる。
【0059】
(形質転換・形質導入)
上述の如くして得られたアマドリアーゼ遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、または原核細胞もしくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、各々のベクターに対応する宿主を常法により、形質転換または形質導入をすることができる。例えば、得られた組換え体DNAを用いて、任意の宿主、例えば、エッシェリシア属に属する微生物、具体例としては大腸菌K-12株、好ましくは大腸菌JM109株、大腸菌DH5α株(ともにタカラバイオ社製)や大腸菌B株、好ましくは大腸菌BL21株(ニッポンジーン社製)等を形質転換またはそれらに形質導入してそれぞれの菌株を得ることができる。
【0060】
(アミノ酸配列の同一性又は類似性)
アミノ酸配列の同一性又は類似性は、GENETYX Ver.11(ゼネティックス社製)のマキシマムマッチングやサーチホモロジー等のプログラムまたはDNASIS Pro(日立ソリューションズ社製)のマキシマムマッチングやマルチプルアライメント等のプログラムにより計算することができる。アミノ酸配列同一性を計算するために、2以上のアマドリアーゼをアライメントしたときに、該2以上のアマドリアーゼにおいて同一であるアミノ酸の位置を調べることができる。こうした情報を基に、アミノ酸配列中の同一領域を決定できる。
【0061】
また、2以上のアマドリアーゼにおいて類似であるアミノ酸の位置を調べることもできる。例えばCLUSTALWを用いて複数のアミノ酸配列をアライメントすることができ、この場合、アルゴリズムとしてBlosum62を使用し、複数のアミノ酸配列をアライメントしたときに類似と判断されるアミノ酸を類似アミノ酸と呼ぶことがある。本発明の変異体において、アミノ酸置換はこのような類似アミノ酸の間の置換によるものであり得る。こうしたアライメントにより、複数のアミノ酸配列について、アミノ酸配列が同一である領域及び類似アミノ酸によって占められる位置を調べることができる。こうした情報を基に、アミノ酸配列中の相同性領域や保存領域を決定できる。
【0062】
本明細書において「相同性領域」とは、2以上のアマドリアーゼをアライメントしたときに、ある基準となるアマドリアーゼと比較対象のアマドリアーゼの対応する位置におけるアミノ酸が同一であるか又は類似アミノ酸からなる領域であって、連続する3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上又は10以上のアミノ酸からなる領域をいう。例えば、図1では全長アミノ酸配列の配列同一性が74%以上であるアマドリアーゼをアライメントした。このうち、配列番号1で示されるConiochaeta sp.アマドリアーゼを基準として第10位~32位は同一又は類似アミノ酸からなり、よって相同性領域に該当する。同様に、配列番号1で示されるConiochaeta sp.アマドリアーゼを基準として36~41位、49~52位、54~58位、63~65位、73~75位、84~86位、88~90位、120~122位、145~150位、156~162位、164~170位、180~182位、202~205位、207~211位、214~224位、227~230位、236~241位、243~248位、258~261位、266~268位、270~273位、275~287位、295~297位、306~308位、310~316位、324~329位、332~334位、341~344位、346~355位、357~363位、370~383位、385~387位、389~394位、405~410位及び423~431位は相同性領域に該当しうる。
【0063】
好ましくは、アマドリアーゼの相同性領域は、配列番号1で示されるConiochaeta sp.アマドリアーゼを基準として、第11位~32位、36~41位、50~52位、54~58位、84~86位、88~90位、145~150位、157~168位、202~205位、207~212位、215~225位、236~248位、258~261位、266~268位、270~273位、275~287位、347~354位、357~363位、370~383位、385~387位、及び405~410位のアミノ酸配列からなる領域である。
【0064】
さらに好ましくは、アマドリアーゼの相同性領域は、配列番号1で示されるConiochaeta sp.アマドリアーゼを基準として第11~18位、20~32位、50~52位、54~58位、266~268位、270~273位、277~286位、及び370~383位のアミノ酸配列からなる領域である。
【0065】
本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、配列番号1、配列番号3-14又は配列番号16-26に示されるアミノ酸配列を有するアマドリアーゼとアライメントしたときに30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、例えば60%以上、65%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、例えば99%以上の全長アミノ酸配列同一性を有し、HbA1cに直接作用し、デヒドロゲナーゼ活性を有する。さらに、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼの相同性領域におけるアミノ酸配列は、配列番号1における相同性領域のアミノ酸配列と70%以上、75%以上、例えば80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、例えば99%以上の配列同一性を有する。
【0066】
本明細書において「保存領域」とは、2以上のアマドリアーゼをアライメントしたときに、ある基準となるアマドリアーゼと比較対象のアマドリアーゼの対応する位置におけるアミノ酸が同一であるか又は類似アミノ酸からなる領域をいう。例えば、図2では全長アミノ酸配列の配列同一性が30%以上であるアマドリアーゼをアライメントした。このうち、配列番号1で示されるConiochaeta sp.アマドリアーゼを基準として第11、12、13、15、17、18、20、22、23、24、25、27、29、31、36、37、41、46、47、50、51、52、54、56、57、58、75、79、82、84、85、93、95、149、158、159、162、165、166、177、180、202、208、218、220、221、222、224、228、233、239、243、246、250、255、258、260、266、267、270、272、277、278、280、281、282、284、285、286、318、321、326、329、334、339、346、347、348、351、352、354、358、359、362、363、370、373、376、382、385、386、389、406、407、409、418、425、及び427位は同一又は類似アミノ酸からなり、よって保存領域に該当する。同様に、配列番号1で示されるConiochaeta sp.アマドリアーゼを基準として第15、17、18、20、22、23、24、25、27、29、31、41、46、47、51、52、54、56、57、79、82、93、149、158、159、162、177、180、202、208、221、222、233、243、250、258、266、267、270、278、280、282、284、285、318、334、347、348、351、362、363、373、376、386、407、409及び418位は同一アミノ酸からなり、よって保存領域に該当する。
【0067】
ただし上記の相同性領域及び保存領域は、あくまで天然のアマドリアーゼのアミノ酸配列同士の比較についての領域であり、天然のアマドリアーゼに基づき種々の変異を導入した改変アマドリアーゼについてはこれらの相同性領域又は保存領域中の各々対応するアミノ酸は置換されていてもよく、改変後は必ずしも同一又は類似アミノ酸でなくともよい。
【0068】
例えば、ある実施形態では、天然のアマドリアーゼから出発して、変異を導入して改変アマドリアーゼ(例えばHbA1cオキシダーゼ)を取得することができる。次いで改変アマドリアーゼに本発明の変異を導入してHbA1cデヒドロゲナーゼとすることができる。このとき、保存領域の配列同一性の比較は、配列番号1のアミノ酸配列と改変アマドリアーゼとではなく、配列番号1のアミノ酸配列と改変アマドリアーゼの由来する天然アマドリアーゼのアミノ酸配列とで行うものとする。
【0069】
したがって本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼの由来する天然のアマドリアーゼの保存領域のアミノ酸配列と、配列番号1の保存領域のアミノ酸配列との配列同一性は、70%以上、75%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、例えば99%以上であってもよく、例えばある実施形態では100%である。さらに、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、配列番号1、配列番号3-14又は配列番号16-26に示されるアミノ酸配列を有するアマドリアーゼとアライメントしたときに30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、例えば60%以上、65%以上、70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、例えば99%以上の全長アミノ酸配列同一性を有し、HbA1cに直接作用し、デヒドロゲナーゼ活性を有する。
【0070】
(対応する位置の特定)
本明細書において、ある位置に「対応する位置」とは、特に断らない限り、配列番号1に示すConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における特定の位置に対応する他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置をいう。本明細書において対応する位置を相当する位置ということがある。また特定の位置に「対応する位置のアミノ酸」を対応アミノ酸ということがある。
【0071】
あるアミノ酸配列中の特定の位置に対する他のアミノ酸配列中の「対応する位置」を特定する方法としては、例えばリップマン-パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各アマドリアーゼのアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の同一性を与えることにより行うことができる。アマドリアーゼのアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中に存在する挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各アマドリアーゼ配列における配列中の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象となるアマドリアーゼの特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。
【0072】
図1及び図2に種々の公知の生物種由来のアマドリアーゼの配列を例示する。配列番号1で示されるアミノ酸配列を最上段に示す。図1に示される各種配列は、いずれも配列番号1の配列と70%以上の同一性を有し、公知のアルゴリズムを用いて整列させた。図2に示される各種配列は、いずれも配列番号1の配列と30%以上の同一性を有し、公知のアルゴリズムを用いて整列させた。図1及び図2からConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列の特定の位置に対応する他の生物種由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列における位置を知ることができる。また対応する位置を知ることができるとともに、当該対応位置における対応アミノ酸を知ることができる。図1には、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ(配列番号1)、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ(配列番号3)、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号4)、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号5)、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号6)、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ(配列番号7)、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号8)、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ(配列番号9)、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号10)、Emericella nidulans由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ(配列番号11)、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号12)およびPenicillium janthinellum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(配列番号13)のアミノ酸配列を示してある。図2には、Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ(配列番号1)等図1に記載のものに加え、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo2(別称FaoAo2、配列番号19)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf2(別称AmadoriaseII、配列番号20)、Aspergillus terreus由来のアマドリアーゼAt(別称FAOD-A、配列番号21)、Fusarium oxysporum由来のアマドリアーゼFo(配列番号22)、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo1(別称FaoAo 1、配列番号23)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf1(別称AmadoriaseI、配列番号24)、Pichia sp.由来のアマドリアーゼPi(配列番号25)、Debaryomyces hansenii由来のアマドリアーゼDh(配列番号26)のアミノ酸配列を示してある。
【0073】
(特定の位置に対応する位置のアミノ酸)
本発明において、「配列番号1のアミノ酸配列の280位に対応する位置のアミノ酸」とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1に示されるConiochaeta属由来のアマドリアーゼのアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1のアマドリアーゼの280位に対応する位置におけるアミノ酸を意味する。これは、上記の「対応する位置」を特定する方法でアミノ酸配列を整列させた図1又は図2より特定することができる。以下の、配列番号1に示すアミノ酸配列の267位、269位、54位及び241位に対応する位置のアミノ酸についてもそれぞれ同様である。
【0074】
すなわち「配列番号1のアミノ酸配列の280位に対応する位置」のアミノ酸は、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼでは280位のシステイン、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは278位のシステイン、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼでは280位のシステイン、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼでは278位のシステイン、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼでは280位のシステイン、Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは280位のシステイン、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは276位のシステイン、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは280位のシステイン、Emericella nidulans由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼでは280位のシステイン、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは278位のシステイン、Penicillium janthinellum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼでは280位のシステインである。
【0075】
配列番号1及び3~13の各配列における、配列番号1のアミノ酸配列の280位、267位、269位、54位、及び241位に対応するそれぞれの位置は次の表のとおりである。
【表1】
【0076】
例えば表中、配列番号1の267位に対応する位置のアミノ酸は、Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ(配列番号3)では267位のフェニルアラニンである。他の位置についても同様に表から読み取ることができる。
【0077】
さらに、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo2(配列番号19)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf2(配列番号20)、Aspergillus terreus由来のアマドリアーゼAt(配列番号21)、Fusarium oxysporum由来のアマドリアーゼFo(配列番号22)、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo1(配列番号23)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf1(配列番号24)、Pichia sp.由来のアマドリアーゼPi(配列番号25)、及びDebaryomyces hansenii由来のアマドリアーゼDh(配列番号26)の各配列における、配列番号1のアミノ酸配列の280位、267位、269位、54位、及び241位に対応するそれぞれの位置は次の表のとおりである。
【0078】
【表2】
【0079】
例えば表中、配列番号1の280位に対応する位置のアミノ酸は、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo2(配列番号19)では276位のシステインである。
【0080】
(基質特異性改変変異の対応位置)
本明細書において、「配列番号1のアミノ酸配列の62位に対応する位置」のアミノ酸とは、確定したアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1の62位に対応する位置のアミノ酸を意味する。これは、上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1又は図2より特定することができる。以下の、配列番号1に示すアミノ酸配列の63位、102位、106位、110位、113位、355位、419位、68位、356位、64位及び99位、さらには下記の262位、257位、249位、253位、337位、340位、232位、129位、132位、133位、44位、256位、231位、及び81位に対応する位置のアミノ酸についてもそれぞれ同様である。
【0081】
配列番号1及び3~13の各配列における、配列番号1のアミノ酸配列の62位、63位、102位、106位、110位、113位、355位、419位、68位、356位、64位及び99位に対応するそれぞれの位置は次の表のとおりである。
【表3】
【0082】
さらに、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo2(配列番号19)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf2(配列番号20)、Aspergillus terreus由来のアマドリアーゼAt(配列番号21)、Fusarium oxysporum由来のアマドリアーゼFo(配列番号22)、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo1(配列番号23)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf1(配列番号24)、Pichia sp.由来のアマドリアーゼPi(配列番号25)、及びDebaryomyces hansenii由来のアマドリアーゼDh(配列番号26)の各配列における、配列番号1のアミノ酸配列の62位、63位、102位、106位、110位、113位、355位、419位、68位、356位、64位及び99位に対応するそれぞれの位置は次の表のとおりである。表中、Dhについては配列番号1の68位に対応する位置は存在しない。そのためDhについてはアミノ酸を置換する位置として、配列番号1の68位に対応する位置が選択されることはない。対応する位置が定義されない他の位置についても同様である。
【0083】
【表4】
【0084】
(界面活性剤耐性向上変異の対応位置)
【0085】
配列番号1及び3~13の各配列における、配列番号1のアミノ酸配列の44位、133位、253位、257位、262位、337位、340位、249位、232位、129位、132位、256位、231位、及び81位に対応するそれぞれの位置は次の表のとおりである。
【表5】
【0086】
さらに、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo2(配列番号19)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf2(配列番号20)、Aspergillus terreus由来のアマドリアーゼAt(配列番号21)、Fusarium oxysporum由来のアマドリアーゼFo(配列番号22)、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo1(配列番号23)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf1(配列番号24)、Pichia sp.由来のアマドリアーゼPi(配列番号25)、及びDebaryomyces hansenii由来のアマドリアーゼDh(配列番号26)の各配列における、配列番号1のアミノ酸配列の44位、133位、253位、257位、262位、337位、340位、249位、232位、129位、132位、256位、231位、及び81位に対応するそれぞれの位置は次の表のとおりである。
【0087】
【表6】
【0088】
(熱安定性向上欠失の対応位置)
本明細書において「配列番号1のアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する位置」とは、対象となるアマドリアーゼのアミノ酸配列を、配列番号1のアミノ酸配列と比較した場合に、配列番号1記載のアミノ酸配列のカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する3アミノ酸残基の位置を意味する。Coniochaeta属由来のアマドリアーゼにおける、この位置の3残基の配列は、435位のプロリン、436位のリジン及び437位のロイシンからなり、これらに対応する位置のアミノ酸配列も、上記の方法でアミノ酸配列を整列させた図1又は図2より特定することができる。
【0089】
なお、真核生物においては、タンパク質をペルオキシソームへ輸送するためのシグナル配列であり、カルボキシル末端の3アミノ酸から構成されるモチーフである「ペルオキシソーム移行シグナル(Peroxisome Targeting Signal1;PTS1)配列」が知られている。よく知られた公知のPTS1モチーフとしては、(プロリン/セリン/アラニン/システイン)-(リジン/ヒスチジン/アルギニン/アスパラギン)-(ロイシン/メチオニン)配列からなるモチーフがある(例えばFEBS J., 272, 2362 (2005)、Plant Cell Physiol., 38, 759 (1997)、Eur. J. Cell Biol., 71, 248 (1996)参照)。この知見に基づけば、「配列番号1のアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する位置」の領域が、アマドリアーゼにおけるいわゆるPTS1モチーフに相当する。したがって、ある一側面においては、「配列番号1のアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する位置」は「PTS1モチーフに相当する位置」と解釈することもできる。
【0090】
すなわちEupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が435位のアラニン、436位のヒスチジン及び437位のロイシンからなり、Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が438位のアラニン、439位のリジン及び440位のロイシンからなり、Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が450位のヒスチジン、451位のリジン及び452位のロイシンからなり、Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が438位のセリン、439位のリジン及び440位のロイシンからなり、Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が435位のアラニン、436位のアスパラギン及び437位のロイシンからなり、Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が436位のアラニン、437位のリジン及び438位のメチオニンからなり、Emericella nidulans由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が436位のアラニン、437位のリジン及び438位のメチオニンからなり、Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が439位のアラニン、440位のリジン及び441位のロイシンからなり、Penicillium janthinellum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼではカルボキシル末端の3アミノ酸が435位のアラニン、436位のリジン及び437位のロイシンからなる。
【0091】
なお、ある実施形態において、「配列番号1のアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する位置」、すなわち、「PTS1モチーフに相当する位置」は、生来よりC末端側の1残基(ロイシン/メチオニン)が欠失していてもよい。例えば、Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼにおいては、「配列番号1のアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する位置」、すなわち、「PTS1モチーフに相当する位置」は、440位のセリン、441位のアルギニンからなる。Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼについては、配列番号1記載のアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する位置は存在しないものとする。
【0092】
さらに、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo2(配列番号19)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf2(配列番号20)、Aspergillus terreus由来のアマドリアーゼAt(配列番号21)、Fusarium oxysporum由来のアマドリアーゼFo(配列番号22)、Aspergillus oryzae由来のアマドリアーゼAo1(配列番号23)、Aspergillus fumigatus由来のアマドリアーゼAf1(配列番号24)、Pichia sp.由来のアマドリアーゼPi(配列番号25)、及びDebaryomyces hansenii由来のアマドリアーゼDh(配列番号26)の各配列における、「配列番号1のアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基に対応する位置」、すなわち、「PTS1モチーフに相当する位置」は次の表のとおりである。Piについては424、425、426位を欠失させるときにさらに427位も欠失させてよい(カルボキシ末端4アミノ酸欠失)。このようなPiについてのカルボキシ末端4アミノ酸欠失も便宜上、配列番号1を基準としたアマドリアーゼのカルボキシル末端からの3アミノ酸残基欠失に含めるものとする。なお配列番号1を基準としたときの対応する位置が定義されない位置は、アミノ酸欠失を行う位置として選択されない。
【0093】
【表7】
【0094】
(本発明のアマドリアーゼの生産)
上記のようにして得られたアマドリアーゼの生産能を有する菌株を用いて、当該アマドリアーゼを生産するには、この菌株を通常の固体培養法で培養してもよいが、可能な限り液体培養法を採用して培養するのが好ましい。
【0095】
また、上記菌株を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーまたは大豆もしくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄または硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、さらに必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
【0096】
なお、培地の初発pHは、pH7~9に調整するのが適当である。
また、培養は任意の条件を用いることができるが、例えば、20~42℃の培養温度、好ましくは30℃前後の培養温度で4~24時間、さらに好ましくは30℃前後の培養温度で8~16時間、通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養等により実施することができる。
【0097】
培養終了後、該培養物よりアマドリアーゼを採取するには、通常の酵素採取手段を用いて得ることができる。例えば、常法により菌体を、超音波破壊処理、磨砕処理等するか、またはリゾチーム等の溶菌酵素を用いて本酵素を抽出するか、またはトルエン等の存在下で振盪もしくは放置して溶菌を行わせ、本酵素を菌体外に排出させることができる。そして、この溶液を濾過、遠心分離等して固形部分を除去し、必要によりストレプトマイシン硫酸塩、プロタミン硫酸塩または硫酸マンガン等により核酸を除去したのち、これに硫安、アルコール、アセトン等を添加して分画し、沈澱物を採取し、アマドリアーゼの粗酵素を得る。
【0098】
上記アマドリアーゼの粗酵素よりさらにアマドリアーゼ精製酵素標品を得るには、例えば、セファデックス、スーパーデックス若しくはウルトロゲル等を用いるゲル濾過法;イオン交換体を用いる吸着溶出法;ポリアクリルアミドゲル等を用いる電気泳動法;ヒドロキシアパタイトを用いる吸着溶出法;蔗糖密度勾配遠心法等の沈降法;アフィニティクロマトグラフィー法;分子ふるい膜若しくは中空糸膜等を用いる分画法等を適宜選択し、またはこれらを組み合わせて実施することにより、精製されたアマドリアーゼ酵素標品を得ることができる。このようにして、所望のデヒドロゲナーゼ活性が向上したアマドリアーゼを得ることができる。
【0099】
本発明のキットに含まれるアマドリアーゼは、Eupenicillium属、Pyrenochaeta属、Arthrinium属、Curvularia属、Neocosmospora属、Cryptococcus属、Phaeosphaeria属、Aspergillus属、Emericella属、Ulocladium属、Penicillium属、Fusarium属、Achaetomiella属、Achaetomium属、Thielavia属、Chaetomium属、Gelasinospora属、Microascus属、Leptosphaeria属、Ophiobolus属、Pleospora属、Coniochaetidium属、Pichia属、Corynebacterium属、Agrobacterium属、Arthrobacter属などに由来する天然のアマドリアーゼ又はそれらの変異体であり得る。こうした変異体は、配列番号1に示すアミノ酸配列の280位のシステイン、267位のフェニルアラニン、269位のフェニルアラニン、54位のアスパラギン酸、241位のチロシンよりなる群から選択される位置のアミノ酸に対応する位置で1またはそれ以上のアミノ酸置換を有する。当業者であれば、例えば後述する試験法等により、あるアマドリアーゼ又はその変異体が本発明のキットに使用可能か、すなわち所望のデヒドロゲナーゼ活性を有するか容易に調べることができる。
【0100】
(本発明のアマドリアーゼにおけるデヒドロゲナーゼ活性の向上)
本発明のアマドリアーゼは、遺伝子改変等により、そのアミノ酸配列に変異を生じた結果、改変前のものと比較してオキシダーゼ活性が低下し、かつ/又はデヒドロゲナーゼ活性が向上している。具体的には、改変前のものと比較して、「デヒドロゲナーゼ活性」に対する「オキシダーゼ活性」の割合が低減していることを特徴とする。オキシダーゼ活性とは、基質を酸化する際、酸素分子に電子を受け渡す活性をいう。デヒドロゲナーゼ活性とは、基質を酸化する際、ヒドリド(H-)を電子アクセプターに受け渡す活性をいう。
【0101】
センサーを用いた糖化ヘモグロビンの測定において、酸素の影響を低減するには、オキシダーゼ活性が低いことが望まれる。一方で、基質との反応性の観点からは、デヒドロゲナーゼ活性が高いことが好ましい。この両者を考慮すると、電子メディエーターを使用する糖化ヘモグロビン測定では、アマドリアーゼのオキシダーゼ活性(OX)とデヒドロゲナーゼ活性(DH)の比OX/DHが低いことが好ましく、また、アマドリアーゼのオキシダーゼ活性(OX)が低く、かつ、デヒドロゲナーゼ活性(DH)が高いことが好ましい。そこで本明細書では便宜上、アマドリアーゼの特性を、オキシダーゼ活性に対するデヒドロゲナーゼ活性の割合を示すDH/OX、又はデヒドロゲナーゼ活性に対するオキシダーゼ活性の割合OX/DHを用いて表現することがある。ある実施形態において本発明の改変アマドリアーゼは、改変前のものと比較してデヒドロゲナーゼ活性が増大している。ある実施形態において本発明の改変アマドリアーゼは、改変前のものと比較してオキシダーゼ活性が低減されている。ある実施形態において本発明の改変アマドリアーゼは、改変前のものと比較してデヒドロゲナーゼ活性とオキシダーゼ活性の比OX/DH比が低い(DH/OX比が高い)。ある実施形態において本発明の改変アマドリアーゼは、改変前のものと比較してデヒドロゲナーゼ活性が増大しているのみならず、さらにオキシダーゼ活性が低減されている。具体的には、本発明の改変アマドリアーゼにおける、オキシダーゼ活性に対するデヒドロゲナーゼ活性の割合を示すDH/OXは、改変前(1.0倍)に対して1.3倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、400倍以上、例えば450倍以上増大していることが好ましい。また、本発明の改変アマドリアーゼにおける、デヒドロゲナーゼ活性に対するオキシダーゼ活性の割合を示すOX/DHは改変前(100%)と比較して、90%未満、80%未満、75%未満、50%未満、40%未満、31%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、4.5%未満、4%未満、3.6%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、例えば0.2%未満に低減していることが好ましい。
【0102】
デヒドロゲナーゼ活性に対するオキシダーゼ活性の割合は、公知のアマドリアーゼの測定法を用いて、任意の条件下で測定し、改変前のものと比較することができる。例えば、pH7.0において、1mMのある糖化基質、例えばαFVを添加して測定したオキシダーゼ活性を、1mMの該糖化基質、例えばαFVを添加して測定したデヒドロゲナーゼ活性で割った比率として求めることにより、デヒドロゲナーゼ活性に対するオキシダーゼ活性の割合を算出し、これを改変前のものと改変後のもので比較することができる。基質はHbA1cやαF6Pでもよい。
【0103】
(ハイスループットスクリーニング)
アマドリアーゼは、機能性アマドリアーゼ変異体、例えばさらなるHbA1cデヒドロゲナーゼを取得するためにハイスループットスクリーニングに供することができる。例えば変異導入したアマドリアーゼ遺伝子を有する形質転換又は形質導入株のライブラリーを作製し、これをマイクロタイタープレートに基づくハイスループットスクリーニングに供してもよく、または液滴型マイクロ流体に基づく超ハイスループットスクリーニングに供してもよい。例としてはバリアントをコードする変異遺伝子のコンビナトリアルライブラリーを構築し、次いでファージディスプレイ(例えばChem. Rev. 105 (11): 4056-72, 2005)、イーストディスプレイ(例えばComb Chem High Throughput Screen. 2008;11(2): 127-34)、バクテリアルディスプレイ(例えばCurr Opin Struct Biol 17: 474-80, 2007)等を用いて、変異アマドリアーゼの大きな集団をスクリーニングする方法が挙げられる。またAgresti et al, "Ultrahigh-throughput screening in drop-based microfluidics for directed evolution" Proceedings of the National Academy of Sciences 107 (9): 4004-4009 (Mar, 2010)を参照のこと。アマドリアーゼバリアントのスクリーニングに使用しうる超ハイスループットスクリーニング手法についての同文献の記載を参照により本明細書に組み入れる。例えばエラープローンPCR法によりライブラリーを構築することができる。また飽和突然変異誘発を用いて、本明細書に記載の位置又はそれに対応する位置を標的として変異導入しライブラリーを構築してもよい。ライブラリーを用いて電気コンピテントEBY-100細胞等の適当な細胞を形質転換し、約10の7乗の変異体を取得しうる。該ライブラリーで形質転換した酵母細胞を次いでセルソーティングに供しうる。標準ソフトリトグラフィー法を用いて作製したポリジメトキシルシロキサン(PDMS)マイクロ流体デバイスを用いてもよい。フローフォーカスデバイスを用いて単分散の液滴を形成することができる。個別の変異体を含有する形成された液滴を適当なソーティングデバイスに供しうる。細胞を選別する際にはデヒドロゲナーゼ活性の有無を利用しうる。変異導入と選別は複数回反復してもよい。
【0104】
なお本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼを作製するに当たり、変異を導入する順番は特に限定されない。まず出発アマドリアーゼに本発明のデヒドロゲナーゼ活性向上変異を導入し、次いで得られたデヒドロゲナーゼ活性を有するアマドリアーゼについて、基質特異性を改変する変異等を導入し、且つ/又はスクリーニングを適宜行い、これをHbA1cに作用するデヒドロゲナーゼとすることもできる。
【0105】
(アマドリアーゼ活性の測定方法)
アマドリアーゼの活性は、オキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性があり、これらは種々の方法により測定できる。以下に、アマドリアーゼ活性の測定方法を例示する。
【0106】
酵素の特性を評価するために、基質としてHbA1c、αF6P、フルクトシルバリン(FV)等の糖化アミノ酸、及びフルクトシルバリルヒスチジン(FVH)等の糖化ペプチドを基質とすることもできる。FVやFVHは、阪上らの方法に基づき合成、精製することができる(特開2001-95598号参照)。αF6Pは合成基質を使用しうる。
【0107】
(αF6Pを基質としたオキシダーゼ活性の測定方法)
以下、αF6Pを基質として用いるオキシダーゼ活性測定を記載する。ある実施形態において、酵素力価は、αF6Pを基質としたときの、1分間に1μmolの過酸化水素を生成する酵素量を1Uと定義することができる。なお、これは酵素の特性評価や測定方法上の便宜であって、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼがαF6Pのみを基質とすることを意味するものではない。デヒドロゲナーゼ活性測定法についても同様である。
【0108】
試薬の調製
(試薬1):5U/ml パーオキシダーゼ、0.49mM 4-アミノアンチピリンを含む0.1M リン酸緩衝液 pH6.5
5kUのパーオキシダーゼ(キッコーマン社製)、100mgの4-アミノアンチピリン(和光純薬工業社製)を0.1Mのリン酸カリウム緩衝液(pH6.5)に溶解し、1000mlに定容する。
(試薬2):15mM TOOS溶液
500mgのTOOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジンナトリウム、同仁化学研究所製)をイオン交換水に溶解し、100mlに定容する。
(試薬3):基質溶液(30mM; 終濃度1mM)
αF6P(ペプチド研究所製) 257.1mgをイオン交換水に溶解し、10mlに定容する。
【0109】
測定法
675μlの試薬1、25μlの試薬2、および25μlの酵素液を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、試薬3を25μl加えて良く混ぜた後、分光光度計(U-3010、日立ハイテクノロジーズ社製)により、555nmにおける吸光度の経時変化を観測し、555nmにおける吸光度の1分間あたりの変化量(ΔAs)を測定する。なお、対照液は、25μlの試薬3の代わりに25μlのイオン交換水を加える以外は前記と同様にして、555nmにおける吸光度の1分間あたりの変化量(ΔA0)を測定する。オキシダーゼ活性(U/ml)は下記の式に従って算出する。
オキシダーゼ活性(U/ml)={(ΔAs-ΔA0)×0.75×df}÷(39.2×0.5×0.025)
ΔAs:反応液の1分間あたりの吸光度変化
ΔA0:対照液の1分間あたりの吸光度変化
39.2:反応により生成されるキノイミン色素のミリモル吸光係数(mM-1・cm-1)
0.5:1 molの過酸化水素による生成されるキノイミン色素のmol数
df:希釈係数。
【0110】
(αF6Pを基質としたデヒドロゲナーゼ活性の測定方法)
以下、αF6Pを基質として用いるデヒドロゲナーゼ活性測定法を記載する。ある実施形態において、酵素力価は、αF6Pを基質としたときの、1分間に1μmolのホルマザン色素を生成する酵素量を1Uと定義することができる。
【0111】
試薬の調製
(試薬4):0.25M リン酸緩衝液(pH6.5)
(試薬5):10mM WST-3溶液
690mgのWST-3(2-(4-Iodophenyl)-3-(2,4-dinitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium, monosodium salt、同仁化学研究所製)をイオン交換水に溶解し、100mLに定容する。
(試薬6):5.4mM mPMS溶液
180mgのmPMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate、同仁化学研究所製)をイオン交換水に溶解し、100mlに定容する。
【0112】
測定法
270μlの試薬4、150μlの試薬5,25μlの試薬6、255μlのイオン交換水、および25μlの酵素液を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、試薬3を25μl加えてよく混ぜた後、分光光度計(U-3010、日立ハイテクノロジーズ社製)により、433nmにおける吸光度を測定する。なお対照液は、25μlの酵素液の代わりに25μlのイオン交換水を加える以外は前記と同様に調製する。デヒドロゲナーゼ活性(U/ml)は下記の式に従って算出する。
デヒドロゲナーゼ活性(U/ml)= {(ΔAs-ΔA0)×0.75×df}÷(31×0.025)
ΔAs:反応液の1分間あたりの吸光度変化
ΔA0:対照液の1分間あたりの吸光度変化
31:反応により生成されるWST-3のホルマザン色素のミリモル吸光係数(mM-1・cm-1)
df:希釈係数。
【0113】
(HbA1cを基質としたデヒドロゲナーゼ活性測定方法)
以下、HbA1cを基質として用いるデヒドロゲナーゼ活性測定法を記載する。ある実施形態において、酵素力価は、HbA1cを基質としたときの、1分間に1μmolのホルマザン色素を生成する酵素量を1Uと定義することができる。
【0114】
試薬の調製
(試薬7):1.84mg/ml HbA1c溶液
(試薬8):10% n-ドデシル-β-D-マルトシド
(試薬9):185mM リン酸緩衝液 pH6.0
(試薬5):10mM WST-3溶液
【0115】
測定法
まず、540μlの試薬7と60μlの試薬8を混合して、98℃で5分間加熱して、HbA1c試料前処理液を調製する。続いて、305μlの試薬9に125μlの試薬5、62.5μlの酵素液、および7.5μlのイオン交換水を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、HbA1c試料前処理液を125μl加えて撹拌した後、分光光度計により433nmにおける吸光度を測定する。対照実験は、62.5μlの酵素液の代わりに、62.5μlのHbA1cに作用しないアマドリアーゼを添加して実施する。デヒドロゲナーゼ活性(U/ml)は下記の式に従って算出する。
デヒドロゲナーゼ活性(U/ml)={(ΔAs-ΔA0)×0.625×df}÷(31×0.0625)
ΔAs:反応液の1分間あたりの吸光度変化
ΔA0:対照液の1分間あたりの吸光度変化
31:反応により生成されるWST-3のホルマザン色素のミリモル吸光係数(mM-1・cm-1)
df:希釈係数。
【0116】
(測定試薬キット、センサー、測定方法)
ある実施形態において、本発明は、HbA1cデヒドロゲナーゼを含む、HbA1c測定キット及びHbA1c測定装置を提供する。このキット又は装置は、場合により電子メディエーターを含んでもよい。ある実施形態において、本発明はHbA1cデヒドロゲナーゼを用いるHbA1cの測定方法を提供する。
【0117】
ある実施形態において、本発明は、HbA1cデヒドロゲナーゼを含む固定した酵素電極を提供する。ある実施形態において、HbA1cデヒドロゲナーゼは酵素電極に塗布、吸着、又は固定化されていてもよい。別の実施形態では、電子メディエーターも電極に塗布、吸着、又は固定化してよい。電極としては炭素電極、白金、金、銀、ニッケル、パラジウムなどの金属電極などを用いることができる。炭素電極の場合、材料としてパイロリティック・グラファイトカーボン(PG)、グラッシーカーボン(GC)、カーボンペースト、プラスチックフォームドカーボン(PFC)などが挙げられる。測定システムは二電極系であっても三電極系であってもよく、例えば作用電極上に酵素を固定することができる。参照電極としては、標準水素電極、可逆水素電極、銀-塩化銀電極(Ag/AgCl)、パラジウム・水素電極、飽和カロメル電極等が挙げられ、安定性や再現性の観点から、Ag/AgClを用いることが好ましい。
【0118】
酵素は、架橋、透析膜による被覆、高分子マトリックスへの封入、光架橋性ポリマーの使用、電気伝導性ポリマーの使用、酸化/還元ポリマーの使用等により電極に固定することができる。また酵素を電子メディエーターと共にポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、これらの手法を組合せてもよい。
【0119】
本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、ポテンショスタットやガルバノスタットなどを用いることにより、種々の電気化学的な測定手法に適用することができる。電気化学的測定法としては、アンペロメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリーなどの様々な手法が挙げられる。例えばアンペロメトリー法により、還元されたメディエーターが印加電圧によって酸化される際に生じる電流値を測定することで、試料中の糖化基質の濃度を算出することができる。印加電圧はメディエーターや装置の設定にもよるが、例えば-1000~+1000mV(v.s. Ag/AgCl)などとすることができる。
【0120】
HbA1cの濃度の測定は、例えば以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、HbA1cを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のHbA1c溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のHbA1c濃度を計算することができる。
【0121】
さらに、測定に必要な溶液量を低減するために、印刷電極を用いることもできる。この場合、電極は絶縁基板上に形成されてなることが好ましい。具体的には、フォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術により、電極を基板上に形成されることが望ましい。また、絶縁基板の素材としては、シリコン、ガラス、セラミック、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられるが、各種の溶媒や薬品に対する耐性の強いものを用いるのがより好ましい。
【0122】
ある実施形態において、本発明は、該酵素電極を含むセンサーを提供する。
別の実施形態では、本発明の酵素電極を利用し、試料中のアマドリ化合物の濃度を、酵素反応により生じる電流を測定することにより決定することができる。一例として、酵素電極を作用電極とし、これを対電極及び参照電極と共に使用する。対電極は例えば白金電極とすることができ、参照電極は例えばAg/AgCl電極とすることができる。温度を一定に保ち、電極をメディエーターを含む緩衝液中に挿入する。作用電極に電圧を印加し、試料を添加後、電流の変化を測定する。
【0123】
本発明の測定方法、キット、装置及びセンサーに用いるメディエーター(人工電子メディエーター、人工電子アクセプター、電子メディエーターともいう)は、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼから電子を受け取ることができるものであれば特に限定されない。メディエーターとしてはキノン類、フェナジン類、ビオロゲン類、シトクロム類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、例えばフェリシアン化カリウム、フェレドキシン類、フェロセン、オスミウム錯体およびその誘導体等などが挙げられ、フェナジン化合物としては例えばPMS、メトキシPMSが挙げられるがこれに限定されない。本願明細書では、特に断らない限り、電子メディエーターという用語には酸素、過酸化水素は含まれないものとする。
【0124】
ある実施形態において本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、改変前の酵素と比較してデヒドロゲナーゼ活性が向上している。ある実施形態におて本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは改変前の酵素と比較してオキシダーゼ活性が低減されている。ある実施形態において、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは改変前の酵素と比較してオキシダーゼ活性/デヒドロゲナーゼ活性比(OX/DH比)が低下している。またある実施形態において、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは改変前の酵素と比較してデヒドロゲナーゼ活性が向上し、かつオキシダーゼ活性が低減されている。このような本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼが触媒する酵素反応は、酸素の影響を受けない、ほとんど受けない又は受けにくい。本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、従来のアマドリアーゼと同じ用途に使用することができる。また、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは、試料中のHbA1c等の糖化基質濃度の測定に使用することができ、これは例えば糖尿病の診断に役立てることができる。また、本発明のアマドリアーゼは酵素電極として使用することができる。これは種々の電気化学的測定に用いることができる。また、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは酵素センサーとして使用することができる。また、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼは糖尿病マーカーの測定キットに利用することができる。ある実施形態において本発明は、試料にヘモグロビンA1cに直接作用するHbA1cデヒドロゲナーゼを作用させ、その作用によって生じる過酸化水素ではない還元型電子メディエーターもしくは消費される酸素ではない酸化型電子メディエーターを測定することを含む、試料中のヘモグロビンA1cの測定方法を提供する。測定系は溶液系であっても乾燥系であってもよい。また測定は酵素、酵素電極若しくは酵素センサー酵素電極を用いる電気化学的測定であってもよく、又は発色基質を用いる吸光度測定であってもよい。ただしこれは例示であり、本発明のHbA1cデヒドロゲナーゼの用途はこれに限られない。
【0125】
(実施例)
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【0126】
[実施例1]
(デヒドロゲナーゼ活性向上型変異について)
(1)組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7-H38 DNAの調製
配列番号14はConiochaeta sp.由来フルクトシルペプチドオキシダーゼを、フルクトシルヘキサペプチドに作用するように改変した酵素(CFP-T7-H37)のアミノ酸配列である。CFP-T7-H37遺伝子(配列番号15)を含む組換え体プラスミドを有する大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-T7-H37)株(国際公開2015/060429号参照)を、LB-amp培地[1%(W/V) バクトトリプトン、0.5%(W/V) ペプトン、0.5%(W/V) NaCl、50μg/ml Ampicilin]2.5mlに接種して、37℃で20時間振とう培養し、培養物を得た。
【0127】
この培養物を7,000rpmで、5分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。次いで、この菌体よりQIAGEN tip-100(キアゲン社製)を用いて組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7-H37を抽出して精製し、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7-H37のDNA2.5μgを得た。
【0128】
(2)組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7-H37 DNAの部位特異的改変操作
得られた組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7-H37 DNAを鋳型として、配列番号27、28の合成オリゴヌクレオチド、KOD-Plus-(東洋紡社製)を用い、以下の条件でPCR反応を行った。
【0129】
すなわち、10×KOD-Plus-緩衝液を5μl、dNTPが各2mMになるよう調製されたdNTPs混合溶液を5μl、25mMのMgSO溶液を2μl、鋳型となるpKK223-3-CFP-T7 DNAを50ng、上記合成オリゴヌクレオチドをそれぞれ15pmol、KOD-Plus-を1Unit加えて、滅菌水により全量を50μlとした。調製した反応液をサーマルサイクラー(エッペンドルフ社製)を用いて、94℃で2分間インキュベートし、続いて、「94℃、15秒」-「50℃、30秒」-「68℃、6分」のサイクルを30回繰り返した。
【0130】
反応液の一部を1.0%アガロースゲルで電気泳動し、約6,000bpのDNAが特異的に増幅されていることを確認した。こうして得られたDNAを制限酵素DpnI(NEW ENGLAND BIOLABS社製)で処理し、残存している鋳型DNAを切断した後、大腸菌JM109を形質転換し、LB-amp寒天培地に展開した。生育したコロニーをLB-amp培地に接種して振とう培養し、上記(1)と同様の方法でプラスミドDNAを単離した。該プラスミド中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列を、マルチキャピラリーDNA解析システムApplied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて決定し、その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換された改変型アマドリアーゼ(配列番号16)をコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H38)を得た。
【0131】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H38を鋳型として、配列番号29、30のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ110位のロイシンがチロシンに置換された改変型アマドリアーゼ(配列番号17)をコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H39)を得た。
【0132】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-T7-H39を鋳型として、配列番号31、32のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ110位のロイシンがチロシンに置換され、かつ99位のヒスチジンがセリンに置換された改変型アマドリアーゼ(配列番号18)をコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H40)を得た。
【0133】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H38を鋳型として、配列番号33、34のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ269位のフェニルアラニンがメチオニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H38-dh1)を得た。
【0134】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H38を鋳型として、配列番号35、33のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ280位の269位のフェニルアラニンがロイシンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H38-dh2)を得た。
【0135】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H38を鋳型として、配列番号36、37のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ280位のシステインがグルタミンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H38-dh3)を得た。
【0136】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H40を鋳型として、配列番号33、34のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ110位のロイシンがチロシンに置換され、かつ99位のヒスチジンがセリンに置換され、かつ269位のフェニルアラニンがメチオニンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H40-dh1)を得た。
【0137】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H40を鋳型として、配列番号35、33のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ110位のロイシンがチロシンに置換され、かつ99位のヒスチジンがセリンに置換され、かつ269位のフェニルアラニンがロイシンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H40-dh2)を得た。
【0138】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H40を鋳型として、配列番号36、37のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ110位のロイシンがチロシンに置換され、かつ99位のヒスチジンがセリンに置換され、かつ280位のシステインがグルタミンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H40-dh3)を得た。
【0139】
続いて、組換え体プラスミドpKK223-3-CFP-H40-dh3を鋳型として、配列番号33、34のオリゴヌクレオチド、およびKOD -Plus- を用い、上記と同一の条件でPCR反応、大腸菌JM109の形質転換および生育コロニーが保持するプラスミドDNA中のアマドリアーゼをコードするDNAの塩基配列決定を行った。その結果、配列番号14記載のアミノ酸配列の64位のアルギニンがグリシンに置換され、かつ110位のロイシンがチロシンに置換され、かつ99位のヒスチジンがセリンに置換され、かつ269位のフェニルアラニンがメチオニンに置換され、かつ280位のシステインがグルタミンに置換された改変型アマドリアーゼをコードする組換え体プラスミド(pKK223-3-CFP-H40-dh4)を得た。
【0140】
(3)各種改変型アマドリアーゼの生産
上記の手順により得られた上記組換え体プラスミドを保持するそれぞれの大腸菌JM109株を、0.1mMのIPTGを添加したLB-amp培地4mlにおいて、25℃で16時間培養した。その後、各菌体をpH7.5の10mMリン酸緩衝液で懸濁し、菌体を超音波破砕し、15,000rpmで10分間遠心分離し、各粗酵素液0.5mlを調製した。
【0141】
(4)各種改変型アマドリアーゼのオキシダーゼ活性およびデヒドロゲナーゼ活性評価
このようにして調製した各粗酵素液をサンプルとし、αF6Pを基質とし、下記のオキシダーゼ活性測定法およびデヒドロゲナーゼ活性測定法に従って、各種改変型アマドリアーゼのオキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の評価を行った。
【0142】
(αF6Pを基質としたオキシダーゼ活性の測定方法)
試薬の調製
(試薬1):5U/ml パーオキシダーゼ(キッコーマン製)、0.49mM 4-アミノアンチピリン(和光純薬工業製)を含む0.1M リン酸緩衝液 pH6.5
(試薬2):15mM TOOS(同仁化学研究所製)溶液
(試薬3):30mM αF6P(ペプチド研究所製)溶液(終濃度1mM)
【0143】
675μlの試薬1、25μlの試薬2、および25μlの酵素液を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、試薬3を25μl加えて良く混ぜた後、分光光度計(U-3010、日立ハイテクノロジーズ社製)により、555nmにおける吸光度の経時変化を観測し、555nmにおける吸光度の1分間あたりの変化量(ΔAs)を測定する。なお、対照液は、25μlの試薬3の代わりに25μlのイオン交換水を加える以外は前記と同様にして、555nmにおける吸光度の1分間あたりの変化量(ΔA0)を測定する。終濃度1mMのαF6Pを基質としたときの、1分間に1μmolの過酸化水素を生成する酵素量(酵素活性)を1Uと定義する。オキシダーゼ活性(U/ml)は下記の式に従って算出する。
オキシダーゼ活性(U/ml)={(ΔAs-ΔA0)×0.75×df}÷(39.2×0.5×0.025)
ΔAs:反応液の1分間あたりの吸光度変化
ΔA0:対照液の1分間あたりの吸光度変化
39.2:反応により生成されるキノイミン色素のミリモル吸光係数(mM-1・cm-1)
0.5:1 molの過酸化水素による生成されるキノイミン色素のmol数
df:希釈係数。
【0144】
(αF6Pを基質としたデヒドロゲナーゼ活性の測定方法)
試薬の調製
(試薬3):30mM αF6P(ペプチド研究所製)溶液(終濃度1mM)
(試薬4):0.25M リン酸緩衝液(pH6.5)
(試薬5):10mM WST-3(同仁化学研究所製)溶液
(試薬6):5.4mM mPMS(同仁化学研究所製)溶液
【0145】
270μlの試薬4、150μlの試薬5,25μlの試薬6、255μlのイオン交換水、および25μlの酵素液を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、試薬3を25μl加えてよく混ぜた後、分光光度計(U-3010、日立ハイテクノロジーズ社製)により、433nmにおける吸光度を測定する。なお対照液は、25μlの酵素液の代わりに25μlのイオン交換水を加える以外は前記と同様に調製する。終濃度1mMのαF6Pを基質とした時の、1分間に1μmolのホルマザン色素を生成する酵素量を1Uと定義する。デヒドロゲナーゼ活性(U/ml)は下記の式に従って算出する。
デヒドロゲナーゼ活性(U/ml)={(ΔAs-ΔA0)×0.75×df}÷(31×0.025)
ΔAs:反応液の1分間あたりの吸光度変化
ΔA0:対照液の1分間あたりの吸光度変化
31:反応により生成されるWST-3のホルマザン色素のミリモル吸光係数(mM-1・cm-1)
df:希釈係数。
【0146】
結果を表8、表9に示す。表8において、CFP-H38は、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-H38)株由来のアマドリアーゼを示す。表9において、CFP-H40は、大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-H40)株由来のアマドリアーゼを示す。なお、本実施例では大腸菌JM109(pKK223-3-CFP-T7-H37)株由来のアマドリアーゼであるCFP-T7-H37を変異元酵素としたため、表中に記載の「アミノ酸変異」の記載には、CFP-T7-H37に既に導入済みの各種変異点は含めていない。表中、オキシダーゼ活性(%)とデヒドロゲナーゼ活性(%)は、元酵素CFP-T7-H38またはCFP-T7-H40のオキシダーゼ活性(U/mL)を100とした場合のパーセンテージで示す。また表中のOX/DH(%)は、元酵素CFP-T7-H38またはCFP-T7-H40のOX/DH比を100とした場合のパーセンテージを示す。
【0147】
【表8】
【0148】
【表9】
【0149】
表8に示す通り、CFP-H38を基準として、F269M、F269L、C280Qの各変異によりそれぞれの改変酵素のオキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)が低減された。
【0150】
表9に示す通り、CFP-H40を基準として、F269M、F269L、C280Qの各変異によりそれぞれの改変酵素のオキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)が低減された。またCFP-H40から作製したF269M/C280Q二重変異体について、オキシダーゼ活性とデヒドロゲナーゼ活性の比(OX/DH)がさらに低減された。
【0151】
[実施例2]
(CFP-H38-dh3の生産および精製)
大腸菌JM109(CFP-H38-dh3)株を、終濃度0.1mMとなるようにIPTGを添加したLB-amp培地200mlに植菌し、25℃で16時間培養した。得られた各培養菌体を10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した後、同緩衝液に菌体を懸濁して超音波破砕処理を行い、20,000×gで10分間遠心分離し、粗酵素液40mlを調製した。
【0152】
Q-sepharose FF(GEヘルスケア社製)を充てんしたカラムを10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化した後、調製したCFP-H38-dh3を含む各粗酵素液をアプライしてアマドリアーゼを陰イオン交換樹脂に結合させた。その後、30mMのNaCl濃度を含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で20カラム体積分送液し、夾雑タンパク質を溶出させた後、80mMのNaClを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)で樹脂に結合したタンパク質を溶出させ、アマドリアーゼ活性を示す画分を回収した。
【0153】
得られたそれぞれのアマドリアーゼ活性を示す画分を、Amicon Ultra Ultracel-30K(ミリポア社製)により濃縮し、HiLoad 26/60 Superdex200により精製した。樹脂の平衡化、溶出には150mMのNaClを含む10mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.5)を用いた。溶出した各フラクションの純度をSDS-PAGEにより評価し、夾雑タンパク質を含んでいないフラクションを回収し、CFP-H38-dh3の精製標品とした。
【0154】
[実施例3]
(CFP-H38-dh3の、HbA1cに対するデヒドロゲナーゼ活性の評価)
分光光度計U-3010(日立ハイテクノロジーズ製)を利用して、下記の通りCFP-H38-dh3のHbA1cに対するデヒドロゲナーゼ活性の評価を実施した。
(試薬7):1.84mg/ml HbA1c溶液(BBI solution製)
(試薬8):10% n-ドデシル-β-D-マルトシド(同仁化学研究所製)
(試薬9):185mM リン酸緩衝液 pH6.0
(試薬5):10mM WST-3溶液
(試薬10):8.8mg/ml(4.1U/ml) CFP-H38-dh3溶液
(Uは1mMのαF6Pを基質とした時のデヒドロゲナーゼ活性を示す。)
(試薬11):8.8mg/ml CFP-T7溶液
【0155】
まず、540μlの試薬7と60μlの試薬8を混合して、98℃で5分間加熱して、HbA1c試料前処理液を調製した。続いて、305μlの試薬9に125μlの試薬5、62.5μlの試薬10、および7.5μlのイオン交換水を混和し、37℃で5分間予備加温する。その後、HbA1c試料前処理液を125μl加えて撹拌した後、分光光度計により433nmにおける吸光度を測定する。対照実験は、62.5μlの試薬10の代わりに、62.5μlの試薬11を添加して実施した。CFP-T7はαF6PおよびHbA1cに対して反応性を示さないアマドリアーゼである(国際公開第2015/060429号参照)。
【0156】
結果を図4に示す。本発明のA1cDHを用いたところ、対照と比較して有意な吸光度上昇が確認された。すなわち、CFP-H38-dh3はHbA1cに対してデヒドロゲナーゼ活性を示すことが確認された。
【0157】
[実施例4]
(印刷電極によるHbA1cの定量)
まず、実施例3で調製したHbA1c試料前処理液を用いて、20mM リン酸緩衝液(pH6.5)、1M KCl、0.65% n-ドデシル-β-D-マルトシドを含むHbA1c溶液を調製した。HbA1c濃度は83、166、249、332μg/mlの4レベルとした。スクリーン印刷カーボン電極(DRP-110、DropSens製)上に、調製済みのHbA1c溶液10μlおよび500mMのRuCl(東京化成工業製)を4μl添加して混合した。スクリーン印刷カーボン電極を繋ぎケーブル(CAC、DropSens製)を介して、ALS電気化学アナライザー814D(BAS製)に接続した後、38.4mg/ml(17.8U/ml)のCFP-H38-dh3溶液6μlを電極上に添加し、+200mV(vs. Ag/AgCl)の電圧を印加して反応させ、60秒後の電流値を測定した。各HbA1c濃度における電流応答値をプロットした結果を図5に示す。
【0158】
図5に示されるとおり、CFP-H38-dh3を用いて、精度よくHbA1cを定量することができた。
【0159】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
配列の簡単な説明
配列番号1 Coniochaeta属由来のアマドリアーゼ(CFP-T7)
配列番号2 CFP-T7遺伝子配列
配列番号3 Eupenicillium terrenum由来のアマドリアーゼ
配列番号4 Pyrenochaeta sp.由来のケトアミンオキシダーゼ
配列番号5 Arthrinium sp.由来のケトアミンオキシダーゼ
配列番号6 Curvularia clavata由来のケトアミンオキシダーゼ
配列番号7 Neocosmospora vasinfecta由来のケトアミンオキシダーゼ
配列番号8 Cryptococcus neoformans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号9 Phaeosphaeria nodorum由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ
配列番号10 Aspergillus nidulans由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号11 Emericella nidulans由来のフルクトシルペプチドオキシダーゼ
配列番号12 Ulocladium sp.由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号13 Penicillium janthinellum由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ
配列番号14 CFP-T7-R62D/L63H/E102K/D106K/Q110L/A113K/A355S/D68N/A356T(CFP-T7-H37)のアミノ酸配列
配列番号15 CFP-T7-H37塩基配列
配列番号16 CFP-T7-H38 アミノ酸配列(CFP-T7-H37-R64G)
配列番号17 CFP-T7-H39 アミノ酸配列(CFP-T7-H37-R64G/L110Y)
配列番号18 CFP-T7-H40 アミノ酸配列(CFP-T7-H37-R64G/L110Y/H99S)
配列番号19 Ao2 (Aspergillus oryzae由来、別称FaoAo2)
配列番号20 Af2 (Aspergillus fumigatus由来、別称AmadoriaseII)
配列番号21 At (Aspergillus terreus由来、別称FAOD-A)
配列番号22 Fo (Fusarium oxysporum由来)
配列番号23 Ao1 (Aspergillus oryzae由来、別称FaoAo 1)
配列番号24 Af1 (Aspergillus fumigatus由来、別称AmadoriaseI)
配列番号25 Pi (Pichia sp.由来)
配列番号26 Dh (Debaryomyces hansenii由来)
配列番号27 プライマー配列(R64G導入用)
配列番号28 プライマー配列(R64G導入用)
配列番号29 プライマー配列(L110Y導入用)
配列番号30 プライマー配列(L110Y導入用)
配列番号31 プライマー配列(H99S導入用)
配列番号32 プライマー配列(H99S導入用)
配列番号33 プライマー配列(F269M導入用)
配列番号34 プライマー配列(F269M導入用)
配列番号35 プライマー配列(F269L導入用)
配列番号36 プライマー配列(C280Q導入用)
配列番号37 プライマー配列(C280Q導入用)
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図2-6】
図2-7】
図2-8】
図2-9】
図2-10】
図3
図4
図5
【配列表】
2022081510000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載された発明。