(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083016
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20220527BHJP
G02B 3/02 20060101ALI20220527BHJP
B29D 11/00 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
G02B3/02
B29D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194238
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】出口 健太
(72)【発明者】
【氏名】角田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】窪田 統
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA21
4F213AH74
(57)【要約】
【課題】レンズ有効部の寸法及び形状の不良を低減する、技術を提供する。
【解決手段】光学素子は、硬化性樹脂組成物の硬化物である樹脂レンズと、前記樹脂レンズを支持する基材と、を有する。前記樹脂レンズは、光軸を含むレンズ有効部と、前記レンズ有効部を取り囲むレンズ外縁部と、を含む。前記光軸と直交する方向における前記光軸からの距離をxとし、前記樹脂レンズの前記基材とは反対向きの表面の高さをf(x)とし、f(x)の1階微分値がゼロになるxであって前記レンズ有効部に最も近いxを基準点とする。前記基準点から±0.030mmの範囲において、f(x)の2階微分値のピーク値の絶対値が20以上20000以下である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂組成物の硬化物である樹脂レンズと、前記樹脂レンズを支持する基材と、を有する、光学素子であって、
前記樹脂レンズは、光軸を含むレンズ有効部と、前記レンズ有効部を取り囲むレンズ外縁部と、を含み、
前記光軸と直交する方向における前記光軸からの距離をxとし、前記樹脂レンズの前記基材とは反対向きの表面の高さをf(x)とし、f(x)の1階微分値がゼロになるxであって前記レンズ有効部に最も近いxを基準点とすると、前記基準点から±0.030mmの範囲において、f(x)の2階微分値のピーク値の絶対値が20以上20000以下である、光学素子。
【請求項2】
前記樹脂レンズは、凹レンズであり、
前記樹脂レンズの前記表面は、前記基準点から±0.030mmの範囲に凸状の部分を含む、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記凸状の部分は、局所的に窪んだ部分を含む、請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記樹脂レンズは、凸レンズであり、
前記樹脂レンズの前記表面は、前記基準点から±0.030mmの範囲に凹状の部分を含む、請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
前記凹状の部分は、局所的に突出した部分を含む、請求項4に記載の光学素子。
【請求項6】
前記基準点から±0.015mmの範囲において、f(x)の2階微分値のピーク値の絶対値が20以上20000以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記基準点から±0.010mmの範囲において、f(x)の2階微分値のピーク値の絶対値が20以上20000以下である、請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記基準点から±0.030mmの範囲において、f(x)の2階微分値のピーク値の絶対値が150以上20000以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記基準点から±0.030mmの範囲において、f(x)の2階微分値のピーク値の絶対値が430以上20000以下である、請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
前記樹脂レンズは、前記基材の上に複数設けられ、互いに離れて設けられる、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項11】
前記樹脂レンズは、アクリル基及び/又はメタクリル基を有する硬化性樹脂組成物の硬化物である、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の複製ツールは、複製材料から素子を複製する。複製材料は、ポリマー材料、つまりモノマーである。複製材料は、複製ツールと基板との間に挟まれた状態で硬化される。複製される素子は、レンズである。複製ツールは、複製面と、複製面上の複数のキャビティと、を備える。キャビティの各々が、1つの素子又は一群の素子の形状を定義する。複製ツールは、複製面上に、キャビティから突出した少なくとも1つの突起部分を更に備える。突起部分において、複製ツールと基板との間隔が最小となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂レンズは、硬化性樹脂組成物の硬化物であり、成形型を用いて成形される。樹脂レンズは、光軸を含むレンズ有効部と、レンズ有効部を取り囲むレンズ外縁部と、を含む。
【0005】
本開示の一態様は、レンズ有効部の寸法及び形状の不良を低減する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る光学素子は、硬化性樹脂組成物の硬化物である樹脂レンズと、前記樹脂レンズを支持する基材と、を有する。前記樹脂レンズは、光軸を含むレンズ有効部と、前記レンズ有効部を取り囲むレンズ外縁部と、を含む。前記光軸と直交する方向における前記光軸からの距離をxとし、前記樹脂レンズの前記基材とは反対向きの表面の高さをf(x)とし、f(x)の1階微分値がゼロになるxであって前記レンズ有効部に最も近いxを基準点とする。前記基準点から±0.030mmの範囲において、f(x)の2階微分値のピーク値の絶対値が20以上20000以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、レンズ外縁部からレンズ有効部への未硬化樹脂の流れ込みを抑制でき、レンズ有効部の寸法及び形状の不良を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る光学素子を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の光学素子の製造に用いるモールドを示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の硬化性樹脂組成物の硬化を示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図3のモールドと光学素子との離型を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図1の領域Vにおける未硬化樹脂の流動を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図1の領域Vにおける樹脂レンズの表面形状を示す図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る光学素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。また、明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態に係る光学素子1について説明する。光学素子1は、硬化性樹脂組成物の硬化物である樹脂レンズ2と、樹脂レンズ2を支持する基材3と、を含む。樹脂レンズ2は、本実施形態では基材3の上で成形されるが、後述するように基材3とは別の基材の上で成形された後で、基材3に接着されてもよい。
【0011】
基材3は、光学系で使用される光の波長帯の一部(例えば可視光(波長400nm~700nm))を透過すればよく、他の一部を反射するか吸収してもよい。つまり、基材3は、一部の波長帯の光を反射するか吸収する光学フィルタ機能を有してもよい。また、基材3は、プリズムの機能を有してもよい。
【0012】
基材3は、例えばガラス基材又は樹脂基材で構成される。ガラス基材又は樹脂基材は、赤外線、可視光、及び紫外線のいずれか1つ、又は2つ以上に対して反射機能又は吸収機能を有し、特定の波長帯の光を透過する構成としてもよい。基材3は、単一の基材の単層構造でもよいし、主基材(ガラス基材又は樹脂基材)に反射や吸収機能を付与する膜を積層し特定の波長帯の光を透過させる複数層構造でもよい。また、基材3は、反射機能や吸収機能の他に、防汚などの機能を付与する膜を積層してもよい。
【0013】
例えば、基材3は、ガラス基材又は樹脂基材の他に、更に樹脂膜又は無機膜を含んでもよい。樹脂膜は、例えば、色調補正フィルタ、シランカップリング剤等の下地膜、又は防汚膜等の機能を有する膜である。樹脂膜は、例えば、スクリーン印刷、蒸着、スプレーコート又はスピンコート法等で形成される。無機膜は、例えば光干渉膜(反射防止や波長選択フィルタ)としての機能を有する金属酸化物膜等である。無機膜は、例えば、スパッタリング法、蒸着、又はCVD法等で形成される。
【0014】
樹脂レンズ2は、基材3の成形面31に成形される。成形面31は、本実施形態では平坦面であるが、凹凸面であってもよく、凹部と凸部とを有してもよい。凹部と凸部を有する場合は、下記(1)~(3)の構成を含む。
【0015】
(1)成形面31において、凹部は、凸部を囲むように形成される。凸部の頂面に、硬化性樹脂組成物が塗布され、樹脂レンズ2が成形される。(2)成形面31において、凸部は、凹部を囲むように形成される。凹部の底面に、硬化性樹脂組成物が塗布され、樹脂レンズ2が形成される。(3)成形面31において、凹部が形成される。凹部の底面に、硬化性樹脂組成物が塗布され、樹脂レンズ2が形成される。
【0016】
凹凸面は、凹部又は凸部を形成することにより得られる。凹部の形成方法としては、例えば、エンドミル等による切削加工、エッチング加工、又はレーザ加工等が挙げられる。一方、凸部の形成方法としては、例えばフォトリソグラフィ法、リフトオフ法、又はインプリント法等が挙げられる。
【0017】
樹脂レンズ2は、光を集束、又は発散させる。樹脂レンズ2は、球面レンズでもよいし、非球面レンズでもよい。また、樹脂レンズ2は、本実施形態では凹レンズであるが、後述するように凸レンズでもよい。
【0018】
なお、基材3の成形面31は、本実施形態では平坦面であるが、曲面であってもよい。従って、樹脂レンズ2は、両凹レンズ、平凹レンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、及び凸メニスカスレンズのいずれでもよい。
【0019】
樹脂レンズ2は、硬化性樹脂組成物で成形される。硬化性樹脂組成物を、以下、単に「樹脂組成物」とも呼ぶ。樹脂組成物は、例えば、光硬化性である。光硬化性の樹脂組成物は、紫外線等の光の照射によって硬化する。その硬化物は、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、又はアクリル樹脂などである。
【0020】
ここで、本願に使用できる光硬化性の樹脂組成物についてさらに説明する。例えば、本願の光硬化性の樹脂組成物として、光重合性基を有する樹脂組成物が挙げられる。光重合性基には、ラジカル重合性の官能基(アクリル基やメタクリル基など)や、イオン重合性の官能基(例えばエポキシ基など)が挙げられる。本願の樹脂レンズは特に限定されるものではないが、ラジカル重合性の官能基を有する樹脂組成物を硬化して得ることが好ましい。ラジカル重合性の樹脂組成物は、イオン重合性の樹脂組成物よりも硬化速度が速く、生産性良く硬化物(樹脂レンズ2)を得ることができる。ラジカル重合性の樹脂組成物は、アクリル基及び/又はメタクリル基を有する。
【0021】
なお、樹脂組成物は、光硬化性のものには限定されず、熱硬化性のものなどであってもよい。熱硬化性の樹脂組成物は、加熱によって硬化する。その硬化物は、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、又はフェノール樹脂などである。
【0022】
光硬化性の樹脂組成物は、熱硬化性の樹脂組成物とは異なり、室温でも硬化できるので、基材3との熱膨張差による寸法精度の低下を抑制できる。そのため光硬化性の樹脂組成物は、熱硬化性の樹脂組成物に比べて、大面積の塗布が容易である。また、光硬化性の樹脂組成物は、熱硬化性の樹脂組成物とは異なり、温度変化を伴わないため、リードタイムが短くなり、生産性が向上する。
【0023】
一方、熱硬化性の樹脂組成物は、光硬化性の樹脂組成物に比べて、硬化後の耐熱性に優れており、硬化後の耐リフロー性に優れている。
【0024】
樹脂組成物は、本実施形態では成形型の表面に塗布されるが、基材3の表面に塗布されてもよい。樹脂組成物は、例えばディスペンサによって塗布される。ディスペンサは、樹脂組成物の塗布量を細かく調整できる。樹脂組成物の塗布量は、樹脂組成物の硬化時の収縮率と、硬化物である樹脂レンズ2の体積とに応じて設定される。なお、樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されず、例えばスクリーン印刷法などでもよい。
【0025】
樹脂組成物が光硬化性である場合、その硬化は紫外線等の光の照射によって行われる。光は、基材3を介して樹脂組成物に照射されてもよいし、成形型を介して樹脂組成物に照射されてもよく、基材3と成形型の両方を介して樹脂組成物に照射されてもよい。
【0026】
一方、樹脂組成物が熱硬化性である場合、その硬化は加熱によって行われる。ヒータは、基材3を介して樹脂組成物を加熱してもよいし、成形型を介して樹脂組成物を加熱してもよく、基材3と成形型の両方を介して樹脂組成物を加熱してもよい。
【0027】
樹脂レンズ2は、光軸OAを含むレンズ有効部21と、レンズ有効部21を取り囲むレンズ外縁部22とを有する。レンズ有効部21は、レンズを含む光学系の像面に位置するセンサーに到達する光の通る部分のことである。レンズ外縁部22は、レンズ有効部21を除く残りの部分のことである。レンズ有効部21とレンズ外縁部22の境界を、
図1に破線で示す。
【0028】
樹脂レンズ2は、例えばインプリント法で成形される。インプリント法では、基材3と成形型の間に樹脂組成物を挟み、成形型の凹凸パターンを樹脂組成物に転写し、樹脂組成物を硬化する。インプリント法を用いれば、同一の寸法及び形状を有する樹脂レンズ2を大量生産できる。
【0029】
次に、
図2~
図4を参照して、
図1に示す光学素子1の製造方法について説明する。光学素子1の製造には、成形型8が用いられる。成形型8は、樹脂レンズ2の形状を反転した形状のレンズ型81を有する。樹脂レンズ2毎に、レンズ型81が設けられる。
図2に示すように、複数のレンズ型81が、互いに離間して設けられる。各レンズ型81に、各レンズ型81からこぼれ落ちないように樹脂組成物2Aが塗布される。
【0030】
次に、
図3に示すように、樹脂組成物2Aが、成形型8と基材3とで挟持される。その結果、成形型8の凹凸パターンが樹脂組成物2Aに転写される。転写精度を向上すべく、成形型8と基材3をプレスしてもよい。そのプレス圧力(ゲージ圧)は、例えば0MPaよりも大きく10MPa以下であり、好ましくは0.1MPa~5MPaである。
【0031】
成形型8と基材3とが樹脂組成物を挟持した状態で、樹脂組成物2Aが硬化され、その硬化物である樹脂レンズ2と基材3とを含む光学素子1が得られる。樹脂組成物2Aが光硬化性である場合、例えば
図3に矢印で示すように紫外線が樹脂組成物2Aに照射される。紫外線は、成形型8を介して樹脂組成物2Aに照射されるが、基材3を介して照射されてもよい。
【0032】
紫外線の光源は、例えば、UV-LED、低圧水銀灯、高圧水銀灯、又は超高圧水銀灯である。紫外線の照射量は、例えば100mJ/cm2~30000mJ/cm2であり、く、好ましくは1000mJ/cm2~20000mJ/cm2がより好ましい。紫外線照射時の樹脂組成物2Aの温度は、例えば0℃~110℃であり、好ましくは10℃~80℃である。
【0033】
なお、樹脂組成物2Aが熱硬化性である場合、ヒータが成形型8又は基材3を介して樹脂組成物2Aを加熱し、樹脂組成物2Aが硬化される。なお、樹脂組成物2Aが光硬化性である場合も、その硬化反応を促進すべく、ヒータが成形型8又は基材3を介して樹脂組成物2Aを加熱してもよい。
【0034】
最後に、
図4に示すように、光学素子1と成形型8が離型される。その結果、複数の樹脂レンズ2が互いに離間して基材3の上に並ぶ光学素子1が得られる。光学素子1は、例えば、ウエハレベルレンズである。
【0035】
なお、本実施形態の樹脂レンズ2は、基材3の上で成形されるが、基材3とは別の基材の上で成形された後で、基材3に接着されてもよい。後者の場合、光学素子1は、樹脂レンズ2と基材3の間に接着層を有する。
【0036】
接着層は、例えば、透明光学粘着剤(OCA)、液体接着剤(OSA)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、又は熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。
【0037】
なお、射出成形用の金型の内部に基材3を設置し、樹脂レンズ2を成形してもよい。この射出成形を、インモールド成形とも呼ぶ。インモールド成形によって樹脂レンズ2と基材3とが一体化される場合、接着層は不要である。
【0038】
ところで、樹脂組成物2Aが特にラジカル重合性の樹脂組成物である場合、樹脂組成物2Aの硬化時に、酸素阻害が生じることがある。酸素阻害は、大気中の酸素ガスによって、樹脂組成物2Aの硬化が妨げられる現象である。各樹脂レンズ2の大気に接する部分、つまり、各樹脂レンズ2の成形型8と接しない側面にて、酸素阻害が生じて、未硬化樹脂が生じうる。
【0039】
同様に、樹脂組成物2Aがイオン重合性の樹脂組成物である場合、大気中の水分によって硬化性の悪化が起こり、各樹脂レンズ2の大気に接する部分、つまり、各樹脂レンズ2の成形型8と接しない側面に未硬化樹脂(後述の未硬化樹脂2B)が生じうる。
【0040】
樹脂組成物2Aの硬化後に、離型が行われる。離型の際に、光学素子1と成形型8の間に隙間が生じ、真空の空間が生じる。その結果、樹脂レンズ2の外縁と中心とで気圧差が生じ、その気圧差によって未硬化樹脂2Bが
図5に示すように流れ込むことがある。
【0041】
未硬化樹脂2Bは、各樹脂レンズ2の外縁から中心に向けて流れる。また、未硬化樹脂2Bは、樹脂レンズ2の成形型8に接触する表面23、つまり、樹脂レンズ2の基材3とは反対向きの表面23に沿って流れる。
【0042】
そこで、樹脂レンズ2の表面23は、
図5に示すように、レンズ外縁部22に凸状の部分24を含む。凸状の部分24は、レンズ有効部21よりも、基材3とは反対向きに突出している。そして、凸状の部分24が局所的に窪んだ部分24aを含むことで、樹脂レンズ2の表面23の傾きが急激に変化している。
【0043】
樹脂レンズ2の表面23の傾きが急激に変化する位置では、未硬化樹脂2Bが移動する際に生じる障壁が高い。従って、未硬化樹脂2Bが、凸状の部分24を乗り越えられず、レンズ外縁部22からレンズ有効部21に流れ込まない。その結果、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良を低減できる。
【0044】
一方、
図6に示すように、凸状の部分24において、樹脂レンズ2の表面23の傾きが緩やかに変化する場合、未硬化樹脂2Bが移動する際に生じる障壁が低い。従って、未硬化樹脂2Bが、凸状の部分24を乗り越え、レンズ外縁部22からレンズ有効部21に流れ込んでしまう。その結果、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良が発生してしまう。
【0045】
本実施形態によれば、
図5に示すように、凸状の部分24において、樹脂レンズ2の表面23の傾きが急激に変化するので、未硬化樹脂2Bが移動する際に生じる障壁が高く、未硬化樹脂2Bの流れが止まる。従って、レンズ外縁部22からレンズ有効部21への未硬化樹脂2Bの流れ込みを抑制でき、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良を低減できる。
【0046】
次に、
図7を参照して、凸状の部分24について具体的に説明する。光軸OAと直交する方向(
図7において左右方向)における光軸OAからの距離(単位:mm)をxとし、樹脂レンズ2の表面23の高さ(単位:mm)をf(x)とする。高さの基準面(高さがゼロになる面)は、例えば、基材3の成形面31である。なお、高さの基準面は、光軸OAに直交する平面であれば、特に限定されない。
【0047】
f(x)は、光軸OAと直交する方向に0.001mmピッチで計測する。その計測には、市販の三次元測定機が用いられる。具体的には、例えば、パナソニック社製の超高精度三次元測定機(商品名:UA3P)が用いられる。UA3Pは接触式であり、接触針の先端径(半径)は5μmのものを用いる。樹脂レンズ2の断面は
図1に示すように光軸OAを中心に線対称であるので、f(x)は光軸OAの片側で計測する。
【0048】
f(x)の1階微分値は、下記式(1)を用いて算出される。
【0049】
【数1】
上記式(1)において、x
mは、m(mは1以上の自然数)番目の計測点の、光軸OAからの距離を表す。f(x
m)の1階微分値f´(x
m)は、5つの計測点(x=x
m-2、x=x
m-1、x=x
m、x=x
m+1、x=x
m+2)で計測したxとf(x)の分布傾向を表す回帰直線の傾きである。
【0050】
f(x)の1階微分値がゼロになるxであって、レンズ有効部21に最も近いxを基準点P0とする。基準点P0はレンズ外縁部22に存在する。計測点がレンズ有効部21から遠ざかるようにxが大きくなる過程で、最初に1階微分値の正負が入れ替わる計測点が基準点P0である。2つの計測点の間で1階微分値の正負が入れ替わる場合、2つの計測点のうちレンズ有効部21から遠い方の計測点が基準点P0である。
【0051】
図7に示すように、基準点P0は、例えば凸状の部分24の頂上に存在する。凸状の部分24は、基準点P0から±0.030mmの範囲X
ZONEに存在する。ここで、「+」は光軸OAから遠ざかることを意味し、「-」は光軸OAに近づくことを意味する。
【0052】
凸状の部分24において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化がどの程度急激であるのかは、X
ZONEにおけるf(x)の2階微分値のピーク値(
図7では負の値)の絶対値で表される。f(x)の2階微分値は、下記式(2)を用いて算出される。
【0053】
【数2】
上記式(2)において、f(x
m)の2階微分値f´´(x
m)は、5つの計測点(x=x
m-2、x=x
m-1、x=x
m、x=x
m+1、x=x
m+2)で計測したxとf´(x)の分布傾向を表す回帰直線の傾きである。
【0054】
本実施形態によれば、XZONEにおいて、f(x)の2階微分値のピーク値f´´PEAKの絶対値|f´´PEAK|が20以上20000以下である。
【0055】
XZONEにおいて|f´´PEAK|が20以上であれば、凸状の部分24において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化が急激であり、凸状の部分24において未硬化樹脂2Bの流れが止まる。従って、レンズ外縁部22からレンズ有効部21への未硬化樹脂2Bの流れ込みを抑制でき、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良を低減できる。XZONEにおいて|f´´PEAK|は、好ましくは150以上であり、より好ましくは430以上である。XZONEにおいて|f´´PEAK|が大きいほど、凸状の部分24において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化が急激である。
【0056】
一方、XZONEにおいて|f´´PEAK|が20000以下であれば、凸状の部分24において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化が急激過ぎず、凸状の部分24において離型抵抗が小さい。従って、離型時に樹脂レンズ2の損傷を抑制でき、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良を低減できる。XZONEにおいて|f´´PEAK|は、好ましくは10000以下であり、より好ましくは5000以下であり、特に好ましくは1000以下である。
【0057】
|f´´PEAK|を算出するXZONEは、本実施形態では基準点P0から±0.030mmの範囲であるが、好ましくは基準点P0から±0.015mmの範囲であり、より好ましくは基準点P0から±0.010mmの範囲である。
【0058】
次に、
図8を参照して、凸状の部分24において樹脂レンズ2の表面23の傾きが緩やかに変化する場合について説明する。なお、
図8において、太い破線は、
図7に示す傾きが急激に変化する場合のf(x)を表す。
【0059】
図8に示すように、傾きが緩やかに変化する場合も、傾きが急激に変化する場合と同様に、計測点がレンズ有効部21から遠ざかるようにxが大きくなる過程で、最初に1階微分値の正負が入れ替わる基準点P0が存在する。
【0060】
但し、
図8に示すように、傾きが緩やかに変化し、未硬化樹脂2Bが凸状の部分24を乗り越える場合には、X
ZONEにおいてf´´(x)の波形にピークは認められず、|f´´
PEAK|が20未満になる。なお、X
ZONEにおいてf´´(x)の波形にピークは認められないが、微小な凹凸は認められてもよい。
【0061】
(第2実施形態)
次に、
図9等を参照して、第2実施形態に係る光学素子1について説明する。以下、上記第1実施形態との相違点について主に説明する。
【0062】
本実施形態の光学素子1も、上記第1実施形態の光学素子1と同様に、硬化性樹脂組成物の硬化物である樹脂レンズ2と、樹脂レンズ2を支持する基材3と、を含む。但し、本実施形態の樹脂レンズ2は、上記第1実施形態の樹脂レンズ2とは異なり、凸レンズである。凸レンズは、凹レンズと同様に、レンズ有効部21とレンズ外縁部22とを有する。レンズ有効部21とレンズ外縁部22の境界を、
図9に破線で示す。
【0063】
本実施形態の樹脂レンズ2も、上記第1実施形態の樹脂レンズ2と同様に、インプリント法などで成形される。それゆえ、樹脂組成物の硬化時に、大気中の酸素又は水分によって、硬化が阻害されることがある。硬化の阻害は、各樹脂レンズ2の大気に接する部分、つまり、各樹脂レンズ2の外縁にて生じる。
【0064】
樹脂組成物の硬化後に、離型が行われる。離型の際に、光学素子1と成形型の間に隙間が生じ、真空の空間が生じる。その結果、樹脂レンズ2の外縁と中心とで気圧差が生じ、その気圧差によって未硬化樹脂が各樹脂レンズ2の外縁から中心に向けて流れることがある。未硬化樹脂は、樹脂レンズ2の成形型に接触する表面23、つまり、樹脂レンズ2の基材3とは反対向きの表面23に沿って流れる。
【0065】
そこで、樹脂レンズ2の表面23は、
図9に示すように、レンズ外縁部22に凹状の部分25を含む。凹状の部分25は、レンズ有効部21よりも、基材3に近づくように窪んでいる。そして、凹状の部分25が局所的に突出した部分25aを含むことで、樹脂レンズ2の表面23の傾きが急激に変化している。
【0066】
樹脂レンズ2の表面23の傾きが急激に変化する位置では、未硬化樹脂が移動する際に生じる障壁が高い。従って、未硬化樹脂が、凹状の部分24を通過できず、レンズ外縁部22からレンズ有効部21に流れ込まない。その結果、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良を低減できる。
【0067】
次に、
図10を参照して、凹状の部分25について具体的に説明する。光軸OAと直交する方向(
図10において左右方向)における光軸OAからの距離(単位:mm)をxとし、樹脂レンズ2の表面23の高さ(単位:mm)をf(x)とする。高さの基準面(高さがゼロになる面)は、例えば、基材3の成形面31である。なお、高さの基準面は、光軸OAに直交する平面であれば、特に限定されない。
【0068】
f(x)は、光軸OAと直交する方向に0.001mmピッチで計測する。f(x)の1階微分値は、上記式(1)を用いて算出される。f(x)の1階微分値がゼロになるxであって、レンズ有効部21に最も近いxを基準点P0とする。
【0069】
図10に示すように、基準点P0は、例えば凹状の部分25の谷底に存在する。凹状の部分25は、基準点P0から±0.030mmの範囲X
ZONEに存在する。
【0070】
凹状の部分25において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化がどの程度急激であるのかは、X
ZONEにおけるf(x)の2階微分値のピーク値(
図10では正の値)の絶対値で表される。f(x)の2階微分値は、上記式(2)を用いて算出される。
【0071】
本実施形態によれば、XZONEにおいて、f(x)の2階微分値のピーク値f´´PEAKの絶対値|f´´PEAK|が20以上20000以下である。
【0072】
XZONEにおいて|f´´PEAK|が20以上であれば、凹状の部分25において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化が急激であり、凹状の部分25において未硬化樹脂の流れが止まる。従って、レンズ外縁部22からレンズ有効部21への未硬化樹脂の流れ込みを抑制でき、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良を低減できる。XZONEにおいて|f´´PEAK|は、好ましくは150以上であり、より好ましくは430以上である。XZONEにおいて|f´´PEAK|が大きいほど、凹状の部分25において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化が急激である。
【0073】
一方、XZONEにおいて|f´´PEAK|が20000以下であれば、凹状の部分25において樹脂レンズ2の表面23の傾きの変化が急激過ぎず、凹状の部分25において離型抵抗が小さい。従って、離型時に樹脂レンズ2の損傷を抑制でき、レンズ有効部21の寸法及び形状の不良を低減できる。XZONEにおいて|f´´PEAK|は、好ましくは10000以下であり、より好ましくは5000以下であり、特に好ましくは1000以下である。
【0074】
|f´´PEAK|を算出するxのXZONEは、本実施形態では基準点P0から±0.030mmの範囲であるが、好ましくは基準点P0から±0.015mmの範囲であり、より好ましくは基準点P0から±0.010mmの範囲である。
【0075】
次に、
図11を参照して、凹状の部分25において樹脂レンズ2の表面23の傾きが緩やかに変化する場合について説明する。なお、
図11において、太い破線は、
図10に示す傾きが急激に変化する場合のf(x)を表す。
【0076】
図11に示すように、傾きが緩やかに変化する場合も、傾きが急激に変する場合と同様に、計測点がレンズ有効部21から遠ざかるようにxが大きくなる過程で、最初に1階微分値の正負が入れ替わる基準点P0が存在する。
【0077】
但し、
図11に示すように、傾きが緩やかに変化し、未硬化樹脂が凹状の部分25を乗り越える場合には、X
ZONEにおいてf´´(x)の波形にピークは認められず、|f´´
PEAK|が20未満になる。なお、X
ZONEにおいてf´´(x)の波形にピークは認められないが、微小な凹凸は認められてもよい。
【実施例0078】
以下、実験データについて説明する。例1~例4では、インプリント法を用いて、成形型以外、同じ条件で光学素子を製造した。製造した光学素子は、いずれも、凹レンズのレンズ外縁部に凸状の部分を有するものであった。例1~例4では、凸状の部分に相当する部分以外、同じ寸法及び同じ形状を有する成形型を用いた。例1~例3が実施例であり、例4が比較例である。
【0079】
例1~例4で製造した光学素子は、基材と、凹レンズとを含むものであった。基材は、厚さ0.5mm、直径200の円盤状のソーダライムガラス基板であった。凹レンズの樹脂はアクリル樹脂であって、樹脂組成物は紫外線硬化性であった。紫外線の光源は、波長365nmのUV-LEDであった。紫外線の照射量は、3000mJ/cm2であった。各基材の上には、例1~例3は70個の凹レンズを同時に成形した。例4は、基材の上に、56個の凹レンズを同時に成形した。
【0080】
表1に実験結果を示す。
【0081】
【表1】
表1において、「〇」の数はレンズ外縁部からレンズ有効部への未硬化樹脂の流れ込みの跡が認められなかった凹レンズの数、つまり良品の数であり、「×」の数はレンズ外縁部からレンズ有効部への未硬化樹脂の流れ込みの跡が認められた凹レンズの数、つまり不良品の数である。「〇」の数と「×」の数の和は、例1~例3は70個、例4は56個である。例1~例3の場合は70個の|f´´
PEAK|の平均値、例4の場合は56個の|f´´
PEAK|の平均値が、表1に記載の「|f´´
PEAK|の平均値」である。|f´´
PEAK|を算出するxのX
ZONEは、基準点P0から±0.030mmの範囲であった。なお、基準点P0から±0.015mmの範囲で|f´´
PEAK|を算出しても、また基準点P0から±0.010mmの範囲で|f´´
PEAK|を算出しても、ほぼ表1に記載の数値と同じであった。
【0082】
表1から明らかなように、例1~例3で製造した光学素子は、いずれも、|f´´PEAK|が20以上であったので、良品の割合が大きかった。特に、例2~例3で製造した光学素子は、いずれも、|f´´PEAK|が150以上であったので、良品の割合が特に大きかった。一方、例4で製造した光学素子は、|f´´PEAK|が20未満であったので、良品の割合が不良品の割合と同程度であった。
【0083】
以上、本開示に係る光学素子について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。