(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083102
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】流体制御装置、流体制御方法、及び、流体制御装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20220527BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
F16K37/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194363
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】赤土 和也
【テーマコード(参考)】
3H065
5H307
【Fターム(参考)】
3H065AA01
3H065BA07
3H065CA07
5H307AA02
5H307BB01
5H307DD04
5H307EE02
5H307FF03
5H307FF06
5H307FF12
5H307JJ01
(57)【要約】
【課題】全閉状態から測定量が設定量となるように制御バルブを制御する際に印加される初期印加電圧をできるかぎり、開き始め電圧に近い値に設定でき、応答速度を高めながら大きなオーバーシュート等の発生は防ぐことができる流体制御装置を提供する。
【解決手段】バルブ制御器2が、制御バルブVを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、前記制御バルブVに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を電圧生成回路に入力する初期駆動電圧設定部22と、前記制御バルブの駆動履歴情報を記憶する駆動履歴記憶部21と、を具備し、前記初期駆動電圧設定部22が、前記駆動履歴情報に応じて前記初期駆動電圧の値を変更するように構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に設けられ、印加される電圧に応じて開度が変化する制御バルブと、
前記流路を流れる流体の流量又は圧力を測定する流体センサと、
入力された電圧指令に応じた電圧を前記制御バルブに出力する電圧生成回路と、
前記流体センサの測定する測定量と設定量との偏差が小さくなるように前記制御バルブを制御するバルブ制御器と、を備え、
前記バルブ制御器が、
前記制御バルブを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、前記制御バルブに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を前記電圧生成回路に入力する初期駆動電圧設定部と、
前記制御バルブの駆動履歴情報を記憶する駆動履歴記憶部と、を具備し、
前記初期駆動電圧設定部が、前記駆動履歴情報に応じて前記初期駆動電圧の値を変更するように構成された流体制御装置。
【請求項2】
前記制御バルブが、電圧が印加されていない状態で全閉状態となるノーマルクローズタイプのバルブであり、
前記駆動履歴情報が、前記制御バルブの開閉回数を含み、
前記初期駆動電圧設定部が、前記制御バルブの開閉回数に応じて前記初期駆動電圧を低下させるように構成された請求項1記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記制御バルブの開閉回数が所定値以上の場合には、前記初期駆動電圧設定部が、前記初期駆動電圧を予め定められた固定値に設定する請求項2記載の流体制御装置。
【請求項4】
前記初期駆動電圧が、前記制御バルブが全閉状態から開き始める電圧である開き始め電圧よりも低い値に設定された請求項2又は3記載の流体制御装置。
【請求項5】
前記制御バルブが、電圧が印加されていない状態で全開状態となるノーマルオープンタイプのバルブであり、
前記駆動履歴情報が、前記制御バルブの開閉回数を含み、
前記初期駆動電圧設定部が、前記制御バルブの開閉回数に応じて前記初期駆動電圧を上昇させるように構成された請求項1記載の流体制御装置。
【請求項6】
前記制御バルブが、切削加工又は絞り加工のいずれかで形成されたダイアフラムを具備するものであり、
前記初期駆動電圧設定部が、前記ダイアフラムの加工方法に応じて前記開閉回数に対する前記初期駆動電圧の変化量を異ならせる請求項2乃至5いずれかに記載の流体制御装置。
【請求項7】
前記バルブ制御器が、
前記設定量と前記測定量との偏差に基づいて、前記電圧生成回路に入力する電圧指令を算出するフィードバック制御部をさらに具備し、
前記初期駆動電圧が前記制御バルブに入力された後に前記フィードバック制御部で算出される電圧指令が前記電圧生成回路に入力されるように構成された請求項1乃至6いずれかに記載の流体制御装置。
【請求項8】
前記制御バルブが、前記制御バルブの使用環境温度に応じて出力可能な電圧の上限値が変更されるように構成された請求項1乃至7いずれかに記載の流体制御装置。
【請求項9】
前記バルブ制御器が、
前記制御バルブの使用環境温度に応じて前記初期駆動電圧を補正する温度補正部をさらに具備する請求項1乃至8いずれかに記載の流体制御装置。
【請求項10】
流路に設けられ、印加される電圧に応じて開度が変化する制御バルブと、前記流路を流れる流体の流量又は圧力を測定する流体センサと、前記流体センサの測定する測定量と、入力された電圧指令に応じた電圧を前記制御バルブに出力する電圧生成回路と、を備えた流体制御装置の制御方法であって、
設定量との偏差が小さくなるように前記制御バルブに電圧を出力して前記制御バルブを制御することと、
前記制御バルブを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、前記制御バルブに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を前記電圧生成回路に入力することを含み、
前記制御バルブの駆動履歴情報に応じて前記初期駆動電圧の値を変更する制御方法。
【請求項11】
流路に設けられ、印加される電圧に応じて開度が変化する制御バルブと、前記流路を流れる流体の流量又は圧力を測定する流体センサと、入力された電圧指令に応じた電圧を前記制御バルブに出力する電圧生成回路と、を備えた流体制御装置に用いられるプログラムであって、
前記流体センサの測定する測定量と、設定量との偏差が小さくなるように前記制御バルブを制御するバルブ制御器としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、
前記バルブ制御器が、
前記制御バルブを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、前記制御バルブに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を前記電圧生成回路に入力する初期駆動電圧設定部と、
前記制御バルブの駆動履歴情報を記憶する駆動履歴記憶部と、を具備し、
前記初期駆動電圧設定部が、前記駆動履歴情報に応じて前記初期駆動電圧の値を変更するように構成された流体制御装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造プロセスで用いられる各種ガスの流量や圧力等を所望の設定量に制御するために用いられる流体制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の流体制御装置は、流体が流れる流路上に設けられた流量センサと、制御バルブと、流量センサの測定流量が設定流量となるように制御バルブをフィードバック制御する流量制御器と、を備えている。
【0003】
また、制御バルブが全閉状態で流量がゼロの状態からゼロ以外の設定流量となるように制御バルブを別の開度へと制御し始める場合、最初から上記のようなフィードバック制御を行うと、測定流量が設定流量に収束するまでに時間がかかることがある。
【0004】
これは、ノーマルクローズタイプの制御バルブであれば、開き始め電圧を超えた電圧を制御バルブに印加しないかぎり、制御バルブの弁体が弁座から離れて開き始めないことに起因する。すなわち、全閉状態の制御バルブを最初から測定流量と設定流量の偏差に基づくフィードバック制御を行うと、最初の複数回の制御周期において設定される印加電圧では開き始め電圧を超えることができず、その分だけ開き始めるまでに時間が無駄になってしまう。
【0005】
そこで、特許文献1では、全閉状態から流量制御を開始する場合には、最初に設定される初期印加電圧の値を例えば開き始め電圧よりも大きい値に設定し、その後は流量フィードバック制御が開始されるように構成されている。
【0006】
ところで、初期印加電圧を開き始め電圧よりも大きな値に設定しておくと、今度は設定流量に対して測定流量が大きくオーバーシュートしてしまうことがある。このため、開き始め電圧に所定の安全率を乗じて、開き始め電圧よりも小さい電圧を初期印加電圧として、所定量以上のオーバーシュートが発生しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、初期印加電圧を開き始め電圧に近い値に設定すると、何らかの原因で開き始め電圧が変化し、その結果、最初は発生していなかったオーバーシュートが発生することがある。このような問題が生じないようにするには、安全率を高くすることが考えられるが、そうすると流量の立ち上がり等の応答速度は低下することになる。
【0009】
本発明は、上述したような問題を解決すべくなされたものであり、全閉状態から測定量が設定量となるように制御バルブを制御する際に印加される初期印加電圧をできるかぎり、開き始め電圧に近い値に設定でき、応答速度を高めながら大きなオーバーシュート等の発生は防ぐことができる流体制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本願発明者が鋭意検討を行った結果、開き始め電圧の変化は制御バルブにおける疲労によって生じていることが発見された。本発明は、このような発見に基づいてなされたものである。
【0011】
具体的には本発明に係る流体制御装置は、流路に設けられ、印加される電圧に応じて開度が変化する制御バルブと、前記流路を流れる流体の流量又は圧力を測定する流体センサと、入力された電圧指令に応じた電圧を前記制御バルブに出力する電圧生成回路と、前記流体センサの測定する測定量と設定量との偏差が小さくなるように前記制御バルブを制御するバルブ制御器と、を備え、前記バルブ制御器が、前記制御バルブを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、前記制御バルブに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を前記電圧生成回路に入力する初期駆動電圧設定部と、前記制御バルブの駆動履歴情報を記憶する駆動履歴記憶部と、を具備し、前記初期駆動電圧設定部が、前記駆動履歴情報に応じて前記初期駆動電圧の値を変更するように構成されたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る制御方法は、流路に設けられ、印加される電圧に応じて開度が変化する制御バルブと、前記流路を流れる流体の流量又は圧力を測定する流体センサと、前記流体センサの測定する測定量と、入力された電圧指令に応じた電圧を前記制御バルブに出力する電圧生成回路と、を備えた流体制御装置の制御方法であって、前記制御バルブを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、前記制御バルブに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を前記電圧生成回路に入力することと、設定量との偏差が小さくなるように前記制御バルブに電圧を出力して前記制御バルブを制御することと、を含み、前記制御バルブの駆動履歴情報に応じて初期駆動電圧の値を変更することを特徴とする。
【0013】
このようなものであれば、駆動履歴情報に基づいて前記制御バルブの疲労の程度を把握できる。したがって、疲労による開き始め電圧の変化に合わせて初期駆動電圧を変化させることができるので、従来のように安全率を高めに設定しなくてもよい。このため、設定量に対する測定量が一致するまでに必要となる時間を短くしつつ、極端なオーバーシュート等は生じないように理想的な応答性を実現できる。
【0014】
前記制御バルブの疲労の進行に応じて前記初期駆動電圧を変化させて、ほぼ同じ応答性を保ち続けられるようにするには、前記制御バルブが、電圧が印加されていない状態で全閉状態となるノーマルクローズタイプのバルブであり、前記駆動履歴情報が、前記制御バルブの開閉回数を含み、前記初期駆動電圧設定部が、前記制御バルブの開閉回数に応じて前記初期駆動電圧を低下させるように構成されたものであればよい。
【0015】
前記制御バルブが疲労限度に到達し、疲労による開き始め電圧の変化が生じなくなった後に、前記初期駆動電圧を変化させないようにして応答性を一定に保つことができるようにするには、前記制御バルブの開閉回数が所定値以上の場合には、前記初期駆動電圧設定部が、前記初期駆動電圧を予め定められた固定値に設定するものであればよい。
【0016】
例えば設定量が変更された場合に、大きなオーバーシュートが発生しないようにして、所望の制御性能が得られるようにするには、前記初期駆動電圧が、前記制御バルブが全閉状態から開き始める電圧である開き始め電圧よりも低い値に設定されたものであればよい。
【0017】
本発明に係る流体制御装置の別の態様としては、前記制御バルブが、電圧が印加されていない状態で全開状態となるノーマルオープンタイプのバルブであり、前記駆動履歴情報が、前記制御バルブの開閉回数を含み、前記初期駆動電圧設定部が、前記制御バルブの開閉回数に応じて前記初期駆動電圧を上昇又は低下させるように構成されたものが挙げられる。
【0018】
本発明者が検討したところ、疲労による開き始め電圧の変化に大きな影響を与える因子は、制御バルブ中に用いられるダイアフラムの加工方法であることが見いだされた。このようなダイアフラムの違いによる開き始め電圧の変化を反映して前記初期駆動電圧を適切な値に設定できるようにするには、前記制御バルブが、切削加工又は絞り加工のいずれかで形成されたダイアフラムを具備するものであり、前記初期駆動電圧設定部が、前記ダイアフラムの加工方法に応じて前記開閉回数に対する前記初期駆動電圧の変化量を異ならせるものであればよい。
【0019】
前記初期駆動電圧が前記電圧生成回路に入力された後から設定量と測定量に基づくフィードバック制御が開始されるようにするには、前記バルブ制御器が、前記設定量と前記測定量との偏差に基づいて、前記電圧生成回路に入力する電圧指令を算出するフィードバック制御部をさらに具備し、前記初期駆動電圧が前記制御バルブに入力された後に前記フィードバック制御部で算出される電圧指令が前記電圧生成回路に入力されるように構成されたものであればよい。
【0020】
前記制御バルブが、前記制御バルブの使用環境温度に応じて出力可能な電圧の上限値が変更されるように構成されたものであれば、前記制御バルブを構成する弁体等の部品に熱膨張が生じても例えば最大開度において実現される流量や圧力を同じ値に保つこと可能となる。
【0021】
本発明者が検討したところ、開き始め電圧は疲労の影響の他に使用環境温度の影響を受けていることも見いだされた。このような温度影響を前記初期駆動電圧に反映させてさらに応答性を向上させるには、前記バルブ制御器が、前記制御バルブの使用環境温度に応じて前記初期駆動電圧を補正する温度補正部をさらに具備するものであればよい。
【0022】
既存の流体制御装置において、例えばプログラムを更新することにより本発明に係る流体制御装置と同じ効果を享受できるようにするには、流路に設けられ、印加される電圧に応じて開度が変化する制御バルブと、前記流路を流れる流体の流量又は圧力を測定する流体センサと、入力された電圧指令に応じた電圧を前記制御バルブに出力する電圧生成回路と、を備えた流体制御装置に用いられるプログラムであって、前記流体センサの測定する測定量と、設定量との偏差が小さくなるように前記制御バルブを制御するバルブ制御器としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、前記バルブ制御器が、前記制御バルブを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、前記制御バルブに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を前記電圧生成回路に入力する初期駆動電圧設定部と、前記制御バルブの駆動履歴情報を記憶する駆動履歴記憶部と、を具備し、前記初期駆動電圧設定部が、前記駆動履歴情報に応じて前記初期駆動電圧の値を変更するように構成された流体制御装置用プログラムを用いれば良い。
【0023】
なお、プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されているものであってもよい。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明に係る流体制御装置であれば、制御バルブにおける疲労の影響による開き始め電圧の変化に応じて前記初期駆動電圧を適切な値に設定できる。したがって、設定量に測定量が追従するまでにかかる時間を短くしつつ、大きなオーバーシュート等が発生しない状態を保ち続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態における流量制御装置を示す模式図。
【
図2】第1実施形態の流量制御装置における制御バルブの構成を示す模式的断面図。
【
図3】第1実施形態の制御ボードにより実現される各部の機能ブロック図。
【
図4】第1実施形態の流量制御装置における開閉回数と開き始め電圧との関係を示すグラフ。
【
図5】絞り加工で形成されたダイアフラムを用いた制御バルブの構成を示す模式的断面図。
【
図6】絞り加工で形成されたダイアフラムを示す模式的斜視図。
【
図7】絞り加工で形成されたダイアフラムを用いた制御バルブにおける開閉回数と開き始め電圧との関係を示すグラフ。
【
図8】第1実施形態の流量制御装置における初期駆動電圧の変化と、流量制御特性を示すグラフ。
【
図9】本発明の第2実施形態の流量制御装置における機能ブロック図。
【
図10】本発明の第3実施形態の流量制御装置におけるバルブ特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の第1実施形態における流体制御装置100について
図1乃至
図8を参照しながら説明する。
【0027】
この流体制御装置100は、例えば半導体製造プロセスにおいてチャンバ内に供給される各種ガスの流量を制御するために用いられる流量制御装置である。具体的には流体制御装置100は、いわゆるマスフローコントローラであって、チャンバに接続されている配管に取り付けられる。
【0028】
この流体制御装置100は、
図1に示すように内部に流体が流れる流路Lが形成されたボディBと、流路L上に設けられた流体センサである熱式の流量センサFSと、流量センサFSの下流側に設けられた制御バルブVと、流量センサFSの測定量である測定流量が、ユーザによって設定される設定量である設定流量と一致するように制御バルブVを制御する制御ボードCBと、を備えている。
【0029】
流量センサFSは、
図1、
図3に示すように流体抵抗である分流素子DE、分流素子DEの上流側から分岐し、当該分流素子DEの下流側に合流するU字状の細管TT、細管TTの外表面に巻回された第1抵抗素子R1、第1抵抗素子R1の下流側において細管TTの外表面に巻回された第2抵抗素子R2と、流量算出器F1と、を備えている。流量算出器F1は、本実施形態では制御ボードCBの演算機能と温度制御回路(図しない)を用いて実現されている。温度制御回路は第1抵抗素子R1及び第2抵抗素子R2に対して、周囲環境温度よりも高い所定温度で保たれるようにそれぞれ電圧を印加する。流量算出器F1は、各抵抗素子R1、R2に印加される各電圧に基づいて、既存の流量算出式に基づいて流量を算出する。また、流量センサFSは熱式のものに限られず、圧力式や超音波式等様々な測定原理のものを用いることができる。圧力式の流量センサの場合、分流素子DEの代わりに設けられる流体抵抗は層流素子であってもよいし、オリフィスプレート等であってもよい。要するに圧力に基づいて流量を算出するために必要となる差圧を発生させる流体抵抗の上流側と下流側にそれぞれ圧力センサを設ければ良い。
【0030】
制御バルブVは、
図1、
図2に示すように、流路Lからから流れてきた流体が流れ出す開口V11が形成された弁座V1と、上方にある弁座V1に対して接離可能に設けられて弁座V1の開口を開閉する弁体V2と、弁体V2を弁体V2に対して接離動作させるピエゾアクチュエータV3と、弁体V2とピエゾアクチュエータV3との間に設けられるカップリング機構V4と、を備えている。
【0031】
弁体V2は下方にある板バネS1によって、弁座V1側へ付勢されており、ピエゾアクチュエータV3に電圧が印加されていない場合には弁体V2が弁座V1の開口を閉止するように構成されている。すなわち、この制御バルブVは、電圧が印加されていない状態で全閉状態となるノーマルクローズタイプのものとなる。また、弁体V2において弁座V1と接触する部分となる円環状領域には所定厚みの樹脂膜RFが形成されている。
【0032】
カップリング機構V4は、ピエゾアクチュエータV3と弁体V2の間を接続する概略円柱状のプランジャPLと、プランジャPLの長手方向中央部から半径方向外側に広がる薄膜状の部位であり、流路Lの内外を仕切るダイアフラムDと、ダイアフラムDの外周に形成され、当該ダイアフラムDよりも厚みが大きく、ボディに対して固定される環状の固定部Fと、を備えている。このカップリング機構V4は例えば金属のブロックを切削加工して形成される。すなわち、ダイアフラムDは金属の母材をエンドミル加工等の切削加工で薄膜状となるまで削りだすことによりが形成されている。
【0033】
ピエゾアクチュエータV3は、ピエゾ素子を積層して形成されたものであり、電圧が印加されることにより圧電効果によって印加電圧に応じた伸びが発生するように構成されている。なお、制御バルブVにおいて弁体V2を駆動するためのアクチュエータはピエゾアクチュエータV3に限られるものではなく、ソレノイド等の別の駆動原理に基づくアクチュエータを用いても構わない。
【0034】
制御ボードCBは、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力機器等を備えたいわゆるコンピュータであって、メモリに格納されている流体制御装置用プログラムが実行され、各種機器が協業することにより、
図3に示すように少なくとも電圧生成回路1、バルブ制御器2としての機能を発揮する。
【0035】
電圧生成回路1は、バルブ制御器2から入力された電圧指令に応じた電圧を制御バルブVに出力するように構成されている。より具体的には電圧生成回路1は、バルブ制御器2から出力される直流電圧を所定の倍率で増幅した直流電圧として出力するDC-DCコンバータである。
【0036】
バルブ制御器2は、流体センサの測定する測定量と設定量との偏差が小さくなるように制御バルブVを制御するものである。本実施形態ではバルブ制御器2は、流量センサFSの測定する測定流量と、ユーザの設定する設定流量との偏差に基づいて制御バルブVの流量フィードバック制御を行う。具体的にはバルブ制御器2は、測定流量と設定流量の偏差に基づく演算により電圧生成回路1に入力する電圧指令を決定する。また、例えば設定流量がゼロから所定値に立ち上がるような場合、すなわち、制御バルブVが全閉状態から別の開度に変更される場合には、バルブ制御器2は、まず初期駆動電圧を示す電圧指令を出力し、その後、流量フィードバックに基づく電圧指令を出力するように構成されている。初期駆動電圧は、制御バルブVにおいて発生している疲労に起因する、開き始め電圧の変化に応じた電圧が印加されるようにしている。
【0037】
具体的には、バルブ制御器2は
図3に示すように駆動履歴記憶部21、初期駆動電圧設定部22、フィードバック制御部23と、を具備している。
【0038】
駆動履歴記憶部21は、制御バルブVの駆動履歴情報を記憶するものである。駆動履歴情報は、例えば電圧生成回路1から制御バルブVに出力された電圧をモニタリングし、その電圧変化履歴に基づいて作成される。または、駆動履歴情報は電圧生成回路1に入力される電圧指令をモニタリングし、その指令値の変化履歴に基づいて作成されてもよい。本実施形態では、電圧生成回路1の出力する電圧変化から制御バルブVの開閉回数が駆動履歴情報として作成される。例えば出力される電圧が、制御バルブVが全閉状態となるゼロから所定値以上の電圧となり、再びゼロに戻ったことを判定することで1回開閉が行われたとカウントする。このようなカウント値が積算されることで開閉回数が駆動履歴情報として駆動履歴記憶部21に記憶される。
【0039】
初期駆動電圧設定部22は、制御バルブVを全閉状態から所定開度へ変化させる場合に、制御バルブVに印加される初期駆動電圧を設定する電圧指令を電圧生成回路1に入力する。初期駆動電圧の値については、前述した駆動履歴情報に基づいて設定される。本実施形態では制御バルブVの開閉回数に応じて初期駆動電圧が変更され、常に開き始め電圧よりも所定量だけ小さい電圧が初期駆動電圧となるように構成されている。
【0040】
具体的には、
図4のグラフに示すように制御バルブVの開閉回数が増加するにつれて所定値に達するまでは、開き始め電圧が初期値V0に対して低下していく。本実施形態では例えば3000万回以上の開閉回数になると疲労限度に到達して開き始め電圧は低下しなくなる。本実施形態では
図2、
図3の制御バルブVと同型のバルブにおいて実際に疲労試験を行って得られた
図4の駆動回数と開き始め電圧に関する変化特性データを初期電圧設定部は記憶している。なお、変化特性データはテーブル形式であってもよいし、近似曲線を示す数式データであってもよい。そして、初期電圧設定部は、駆動履歴情報に含まれる制御バルブVの開閉回数に対応する、開き始め電圧を変化特性データから取得し、開き始め電圧に所定の安全率を乗じた値を初期駆動電圧として設定する。
【0041】
開閉回数に対する開き始め電圧の変化特性データについて詳述すると、本発明者が鋭意検討を行ったところ、制御バルブVにおいて弾性変形が繰り返されるダイアフラムDの種類によって開き始め電圧の低下量が異なる事がわかった。すなわち、
図5、
図6に示すようにダイアフラムDが絞り加工で形成された制御バルブVの場合、
図7のグラフに示すように開閉回数が多くなっても本実施形態の切削加工で形成されたダイアフラムDを用いた制御バルブVと比較して、開き始め電圧の低下量が小さい。このため、初期駆動電圧設定部22は、使用される制御バルブVのダイアフラムDの加工方法ごとに異なる変化特性データを記憶することで、制御バルブVの特性に応じた初期駆動電圧を設定する。
【0042】
フィードバック制御部23は、初期駆動電圧設定部22が初期駆動電圧を設定する電圧指令を出力した後から、設定流量と測定流量の偏差に基づくフィードバック制御を開始する。すなわち、フィードバック制御部23は設定流量と測定流量の偏差に基づくPID演算を行い、PID演算結果に対応する電圧指令を電圧生成回路1に出力する。また、フィードバック制御部23は、制御バルブVが全閉状態から別の開度に変化する以外の場合の制御を司ることになる。
【0043】
このように構成された流体制御装置100による制御バルブVが全閉されている状態から流量制御が開始される場合の動作について
図8を参照しながら説明する。
【0044】
図8(a)は工場出荷時の流体制御装置100における全閉状態から最大流量で流体を流した場合のステップ応答を示すグラフである。
図8(a)に示すように、全閉状態から設定流量が立ち上がった場合には、まず初期駆動電圧設定部22によって工場出荷時の初期駆動電圧が出力されるように電圧指令が電圧生成回路1に入力される。この間は測定流量のフィードバックが行われないので、電圧生成回路1が制御バルブVに印加される電圧は短時間で初期駆動電圧まで立ち上がることになる。初期駆動電圧は工場出荷時における開き始め電圧よりも若干小さい値に設定されているので、初期駆動電圧に到達下地点ではまだ制御バルブVは開放されておらず、流路Lにも流体はまだ流れない。
【0045】
電圧生成回路1から出力される初期駆動電圧となった時点からフィードバック制御部23によるPID制御が開始され、これ以降、制御バルブVは設定流量と測定流量の偏差に基づき、フィードバック制御される。開き始め電圧に対して安全率を従来よりも小さく設定しているので、例えばフィードバック制御の開始が数100msec経過後には、制御バルブVが開放状態となり、測定流量が立ち上がり始める。このように初期駆動電圧を開き始め電圧に対して近い値に設定しているので、流量の立ち上がり速度を従来よりも速くすることができる。
【0046】
また、本実施形態では初期駆動電圧が制御バルブVに印加されても制御バルブVは開放されず、PID制御によって少し印加電圧が上昇した時点でバルブが開放されるので、測定流量が設定流量に対して大きくオーバーシュートすることなく、設定流量で安定させることができる。
【0047】
次に制御バルブVの開閉回数が所定回数を超えて、制御バルブVのダイアフラムDに疲労が進行した状態での流量制御について
図8(b)を参照しながら説明する。
【0048】
初期駆動電圧設定部22は、駆動履歴情報と変化特性データに基づいて工場出荷時における開き始め電圧に対して低下している疲労進行後における開き始め電圧を取得する。そして、初期駆動電圧設定部22は、疲労進行後における開き始め電圧に基づいて新たな疲労進行後における初期駆動電圧を設定する。
図8(b)に示すように低下した開き始め電圧にあわせて初期駆動電圧は下げられ、電圧の立ち上がりや測定流量の立ち上がりについては工場出荷時とほぼ同じ応答性を実現できる。なお、
図8(b)における初期駆動電圧の変化は工場出荷時から所定期間経過後を用いて説明しているので、疲労限度に到達するまでは逐次初期駆動電圧が変更される。また、疲労限度を超えた後、初期駆動電圧は一定値に固定される。
【0049】
このように第1実施形態における流体制御装置100であれば、制御バルブVの駆動履歴情報を保持しているので、制御バルブVにおける疲労の進行による開き始め電圧の変化にあわせて初期駆動電圧を変化させることができる。このため、制御バルブVの状態の変化によらず、開き始め電圧と初期駆動電圧との間の関係を一定に保つことができる。したがって、工場出荷時における流量制御の応答性についてはほぼ同じ状態を保ち続ける事が可能となる。具体的には、流量の立ち上がりに必要となる時間は所定時間内にしつつ、設定流量の終端値に対して大きなオーバーシュートは発生させないようにした制御性能を常に保ち付けることができる。
【0050】
このように全閉状態から流量が立ち上がるような場合の応答特性が制御バルブVの開閉回数によらずほぼ一定に保つことができるので、例えばALD(Atomic Layer Deposition)プロセスなどのように流量を高速で制御バルブVのオンオフを切り替えて流量をパルス制御する場合でも、長期間にわたって供給される流量の精度を保つことができる。
【0051】
次に本発明の第2実施形態における流体制御装置100について説明する。第1実施形態において説明した各部と対応する部分には同じ符号を付すこととする。
【0052】
第2実施形態の流体制御装置100は、制御バルブVの開閉回数だけでなく、流体制御装置100において測定される流体や周囲の温度である使用環境温度に基づいて、初期駆動電圧が変更される。例えば流体の温度が上昇すると、制御バルブVを構成する弁体V2や弁座V1における熱膨張等の影響によって、開きにくくなり、開き始め電圧が上昇することになる。第2実施形態のバルブ制御器2は、このような温度上昇による開き始め電圧の変化に対応した初期駆動電圧が設定されるように構成されている。
【0053】
具体的には、
図9に示すようにバルブ制御器2は、初期駆動電圧設定部22により設定される初期駆動電圧を使用環境温度に応じて補正する温度補正部24をさらに備えている。
【0054】
温度補正部24は、例えば初期駆動電圧設定部22から出力される電圧指令を使用環境温度に応じて補正し、補正された電圧指令を電圧生成回路1に入力する。本実施形態では使用環境温度が高くなるほど、開き始め電圧は高くなるので、使用環境温度が高くなるほど初期駆動電圧も高くなるように温度補正部24は補正を行う。
【0055】
このように第2実施形態の流体制御装置100によれば、制御バルブVの開閉回数による開き始め電圧の変化だけでなく、使用環境温度の変化による開き始め電圧の変化にも対応して初期駆動電圧を変化させることができる。したがって、流体制御装置100において温度変化があっても、全閉状態から制御バルブVの開度が変化する応答速度を一定に保つことができる。
【0056】
次に第3実施形態の流体制御装置100について説明する。第1実施形態において説明した各部に対応する部分には同じ符号を付すこととする。
【0057】
第3実施形態の流体制御装置100は、制御バルブVは、電圧が印加されていない状態において全開状態となるノーマルオープンタイプであるとともに、使用環境温度の変化により、全閉状態とするに必要な印加電圧が変化しても対応できるように構成したものである。具体的には本発明者が検討したところ、使用環境温度が高くなるほど、ノーマルオープンタイプの制御バルブVを全閉するのに必要となる電圧は大きくなることが見いだされた。このため、第3実施形態の流体制御装置100の電圧生成回路1は出力できる上限電圧を使用環境温度が高くなるほど大きくするように構成されている。
【0058】
このように構成された第3実施形態の流体制御装置100であれば、電圧生成回路1から出力される電圧の上限が温度に応じて変更されるので、
図10のグラフに示すように初期状態において全閉できていた電圧よりもさらに高い電圧が出力されて、ノーマルオープンタイプの制御バルブVを確実に全閉状態にして流量がゼロの状態を実現できる。
【0059】
その他の実施形態について説明する。
【0060】
前述した実施形態では制御対象は流体の流量であったが、本発明は流量の圧力を制御対象としてもよい。また、流体については気体、液体、又は、それらが混合されたものであっても構わない。
【0061】
前述した実施形態では、制御バルブにおける開き始め電圧の変化は制御バルブの開閉回数に基づいて推定していたが、これに限られない。例えば駆動履歴情報は、制御バルブの開閉回数ではなく、駆動時間を含むものであってもよい。そして、初期駆動電圧設定部は、駆動時間から開閉回数を推定し、間接的に開き始め電圧を推定するようにしてもよい。また、駆動履歴情報は開閉仮数、駆動時間等様々な制御バルブの駆動履歴に関する情報を含んでいてもよい。また、開閉回数のカウントの仕方については前述した実施形態に示したものに限られない。ユーザによる設定量でゼロからゼロ以外の値に設定された回数をカウントして開閉回数としてもよい。
【0062】
制御バルブがノーマルクローズタイプのものであっても、弁体、弁座、ダイアフラム等の構成の違いによっては、開閉回数に対する開き始め電圧の変化傾向は、前述した実施形態とは異なる可能性がある。したがって、初期駆動電圧は開き始め電圧の変化特性にあわせて適宜設定すれば良い。具体的には、開閉回数に対して開き始め電圧が大きくなる場合には、それに合わせて初期駆動電圧も大きくしていけば良い。
【0063】
また、本発明はノーマルクローズタイプの制御バルブだけでなく、ノーマルオープンタイプの制御バルブに適用してもよい。この場合も初期駆動電圧設定部が、駆動履歴情報に応じて初期駆動電圧の値を変更するように構成すればよい。
【0064】
実施形態では制御ボードにおいて、駆動履歴記憶部としての機能を実現するように構成されていたが、有線又は無線のネットワークで接続された制御ボードとは別体のコンピュータにおいてその機能が実現されるものであってもよい。すなわち、流体制御装置とは、すべての構成要素が1箇所に集まって構成されたものに限られず、演算機能等の一部が制御バルブや流体センサが設けられている場所とは離れた場所に設けられたコンピュータ等によって実現されるものも含む概念である。
【0065】
また、本発明の趣旨に反しない限りにおいて、様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士の組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0066】
100・・・流体制御装置
V ・・・制御バルブ
D ・・・ダイアフラム
1 ・・・電圧生成回路
2 ・・・バルブ制御器
21 ・・・駆動履歴記憶部
22 ・・・初期駆動電圧設定部
23 ・・・フィードバック制御部