(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084020
(43)【公開日】2022-06-06
(54)【発明の名称】無電解めっき下地膜形成用組成物
(51)【国際特許分類】
C23C 18/20 20060101AFI20220530BHJP
C23C 18/32 20060101ALI20220530BHJP
C23C 18/38 20060101ALI20220530BHJP
C23C 18/42 20060101ALI20220530BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C23C18/32
C23C18/38
C23C18/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191030
(22)【出願日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2020195411
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蜂屋 聡
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA02
4K022AA03
4K022AA04
4K022AA13
4K022AA15
4K022AA16
4K022AA17
4K022AA18
4K022AA20
4K022AA21
4K022AA23
4K022AA24
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA01
4K022BA03
4K022BA06
4K022BA08
4K022BA14
4K022BA18
4K022BA21
4K022CA06
4K022CA22
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】スクリーン印刷で薄い膜を形成でき、かつ、耐熱性及び密着性を有する下地膜を形成できる、無電解めっき下地膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】(A)導電性ポリマーと、(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂と、(C)ポリイソシアネート化合物と、(D)水酸基を有する増粘剤と、(E)溶剤と、を含み、不揮発性成分の含有量が5質量%以上、33質量%以下である無電解めっき下地膜形成用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性ポリマーと、
(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂と、
(C)ポリイソシアネート化合物と、
(D)水酸基を有する増粘剤と、
(E)溶剤と、を含み、
不揮発性成分の含有量が5質量%以上、33質量%以下である無電解めっき下地膜形成用組成物。
【請求項2】
前記無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する前記(A)成分の含有量が2~15質量%である請求項1に記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
【請求項3】
前記無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する前記(D)成分の含有量が1~10質量%である請求項1又は2に記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
【請求項4】
前記(D)成分がセルロース系化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
【請求項5】
前記(D)成分がエチルセルロースである、請求項1~4のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が置換又は無置換のポリアニリンである請求項1~5のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
【請求項7】
前記(A)成分が、置換又は無置換のポリアニリンがドーパントによってドープされたポリアニリン複合体である請求項1~6のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
【請求項8】
(A)導電性ポリマーと、
(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂と、
(C)ポリイソシアネート化合物と、
(D)水酸基を有する増粘剤と、を含む無電解めっき下地膜形成用組成物から得られる無電解めっき下地膜。
【請求項9】
前記無電解めっき下地膜形成用組成物が請求項1~7のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物である請求項8に記載の無電解めっき下地膜。
【請求項10】
無電解めっき下地膜であって、
(A)導電性ポリマーと、
(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂と、
(C)ポリイソシアネート化合物と、
(D)水酸基を有する増粘剤と、を含み、
前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分~前記(D)成分の合計に対して、1~50質量%である無電解めっき下地膜。
【請求項11】
基材と、
請求項8~10のいずれかに記載の無電解めっき下地膜と、
金属を含む無電解めっき層と、を含み、
前記無電解めっき層と前記無電解めっき下地膜が接しているめっき積層体。
【請求項12】
前記金属が銅である請求項11に記載のめっき積層体。
【請求項13】
前記基材が樹脂から構成される請求項11又は12に記載のめっき積層体。
【請求項14】
請求項1~7のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物を用いる無電解めっき下地膜の製造方法。
【請求項15】
(i)基材上に、請求項1~7のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物を用いて無電解めっき下地膜を形成する工程、及び
(ii)前記無電解めっき下地膜上に、金属を含む無電解めっき層を形成する工程を含む、めっき積層体の製造方法。
【請求項16】
前記工程(ii)において、前記無電解めっき下地膜にパラジウムを担持させ、その後、パラジウムを担持させた前記無電解めっき下地膜を無電解めっき液に接触させることにより前記無電解めっき層を形成する請求項15に記載のめっき積層体の製造方法。
【請求項17】
前記無電解めっき下地膜へのパラジウムの担持を、前記無電解めっき下地膜に塩化パラジウム溶液を接触させることにより行う請求項16に記載のめっき積層体の製造方法。
【請求項18】
前記無電解めっき液がCu、Ni、Au、Pd、Ag、Sn、Co及びPtからなる群から選択される1以上の金属を含む請求項16又は17に記載のめっき積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき下地膜形成用組成物、無電解めっき下地膜、めっき積層体、無電解めっき下地膜の製造方法、及びめっき積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、例えば車載レーダーや次世代携帯電話等を含む多岐にわたる分野において高周波電気信号の利用が活発になっており、高周波電気信号の伝送に適した特性(以下、高周波特性と称する。)を有する回路基板が求められている。
高周波用回路基板としては、例えば基材として誘電正接が低いものを用い、さらに基材と金属層との接触界面が平滑であると、伝送損失が抑制され、優れた高周波特性が得られることが知られている。
【0003】
高周波信号の伝送損失を低減可能な回路基板を提供する技術として、例えば特許文献1には、熱可塑性フィルムの表面に金属層を備えた金属張積層体を用いる技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1の技術では、熱可塑性フィルムと金属層との密着性を確保するために、これらの界面をある程度粗面化する必要があり、高周波信号の伝送損失を必ずしも十分に抑制できない。
そこで、特許文献2、3に開示されるように、基材上に無電解めっき用の下地膜を形成し、そこに無電解めっきを施すことで、基材及び金属層の平滑性を確保しつつ両者を密着する技術が知られている。
【0004】
しかしながら、特許文献2の技術は、パラジウム粒子を含む塗料組成物を基材上にパターン印刷して膜形成するため、膜の表面だけでなく膜の内部にもパラジウム粒子が存在することとなる。このため、膜の内部に存在するパラジウムにより伝送損失が増大しやすい。また、下地膜として十分な膜厚を確保するために、パラジウム粒子の使用量が増大し、その分コスト高となる問題もある。
また、特許文献3の技術では印刷方法により下地膜の膜厚が厚くなる場合があるため、基材の特性を生かせないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-158935号公報
【特許文献2】特開2016-222823号公報
【特許文献3】国際公開第2020/196112号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回路基板用の下地膜の形成に、スクリーン印刷が用いられる場合がある。スクリーン印刷で下地膜を形成すると、膜が厚くなる傾向があるため、誘電特性に優れた基材(例えば誘電正接が低い基材)を用いても、下地膜自体の誘電特性が影響してしまい、無電解めっき後に得られるめっき積層体において、必ずしも優れた高周波特性を得られないことがある。
【0007】
スクリーン印刷では、インキ組成物中の不揮発性成分の含有量を減らすことで、膜を薄くすることが可能である。この場合、組成物の粘度を塗膜印刷可能な範囲に維持するため、組成物に増粘剤を配合する手法が知られている。
しかしながら、増粘剤を配合すると下地膜を有するめっき積層体においては、めっき性が低下するという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、スクリーン印刷で薄い膜を形成でき、かつ、良好なめっき性を有する下地膜を形成できる、無電解めっき下地膜形成用組成物を提供することである。
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の増粘剤を使用することで、スクリーン印刷に適用しても膜厚を薄くでき、かつ、良好なめっき性を有する下地膜を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、以下の無電解めっき下地膜形成用組成物等が提供される。
1.(A)導電性ポリマーと、(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂と、(C)ポリイソシアネート化合物と、(D)水酸基を有する増粘剤と、(E)溶剤と、を含み、不揮発性成分の含有量が5質量%以上、33質量%以下である無電解めっき下地膜形成用組成物。
2.前記無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する前記(A)成分の含有量が2~15質量%である1に記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
3.前記無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する前記(D)成分の含有量が1~10質量%である1又は2に記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
4.前記(D)成分がセルロース系化合物である、1~3のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
5.前記(D)成分がエチルセルロースである、1~4のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
6.前記(A)成分が置換又は無置換のポリアニリンである1~5のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
7.前記(A)成分が、置換又は無置換のポリアニリンがドーパントによってドープされたポリアニリン複合体である1~6のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物。
8.(A)導電性ポリマーと、(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂と、(C)ポリイソシアネート化合物と、(D)水酸基を有する増粘剤と、を含む無電解めっき下地膜形成用組成物から得られる無電解めっき下地膜。
9.前記無電解めっき下地膜形成用組成物が1~7のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物である8に記載の無電解めっき下地膜。
10.無電解めっき下地膜であって、(A)導電性ポリマーと、(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂と、(C)ポリイソシアネート化合物と、(D)水酸基を有する増粘剤と、を含み、前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分~前記(D)成分の合計に対して、1~50質量%である無電解めっき下地膜。
11.基材と、8~10のいずれかに記載の無電解めっき下地膜と、金属を含む無電解めっき層と、を含み、前記無電解めっき層と前記無電解めっき下地膜が接しているめっき積層体。
12.前記金属が銅である11に記載のめっき積層体。
13.前記基材が樹脂から構成される11又は12に記載のめっき積層体。
14.1~7のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物を用いる無電解めっき下地膜の製造方法。
15.(i)基材上に、1~7のいずれかに記載の無電解めっき下地膜形成用組成物を用いて無電解めっき下地膜を形成する工程、及び(ii)前記無電解めっき下地膜上に、金属を含む無電解めっき層を形成する工程を含む、めっき積層体の製造方法。
16.前記工程(ii)において、前記無電解めっき下地膜にパラジウムを担持させ、その後、パラジウムを担持させた前記無電解めっき下地膜を無電解めっき液に接触させることにより前記無電解めっき層を形成する15に記載のめっき積層体の製造方法。
17.前記無電解めっき下地膜へのパラジウムの担持を、前記無電解めっき下地膜に塩化パラジウム溶液を接触させることにより行う16に記載のめっき積層体の製造方法。
18.前記無電解めっき液がCu、Ni、Au、Pd、Ag、Sn、Co及びPtからなる群から選択される1以上の金属を含む16又は17に記載のめっき積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スクリーン印刷で薄い膜を形成でき、かつ、良好なめっき性を有する下地膜を形成できる、無電解めっき下地膜形成用組成物が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のめっき積層体の一実施形態の層構成を示す概略図である。
【
図2】実施例1で得られた試験片の無電解めっき下地膜のパターンを光学顕微鏡で観察した観察画像である。
【
図3】比較例2で得られた試験片の無電解めっき下地膜のパターンを光学顕微鏡で観察した観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る無電解めっき下地膜形成用組成物、無電解めっき下地膜、めっき積層体、無電解めっき下地膜の製造方法、及びめっき積層体の製造方法について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。一の技術的事項に関して、「x以上」等の下限値が複数存在する場合、又は「y以下」等の上限値が複数存在する場合、当該上限値及び下限値から任意に選択して組み合わせることができるものとする。
【0014】
[無電解めっき下地膜形成用組成物]
本発明の一態様に係る無電解めっき下地膜形成用組成物は、下記(A)~(E)成分を含み、不揮発性成分の含有量が5質量%以上、33質量%以下である。
(A)導電性ポリマー
(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂
(C)ポリイソシアネート化合物
(D)水酸基を有する増粘剤
(E)溶剤
【0015】
無電解めっきとは、電気分解を行わず、還元剤を用いる自己触媒作用を有する金属のめっき方法であり、例えば無電解銅めっきの場合、溶液中の銅イオンを、ホルムアルデヒド等の還元剤を用いて還元して金属銅被膜を析出させ、析出した金属銅が自己触媒となってさらに銅イオンを金属化し、析出させる化学的プロセスである。本発明の組成物は無電解めっき層の下地膜の形成に用いる。
不揮発性成分とは、無電解めっき下地膜形成用組成物中の(E)溶剤以外の成分((A)~(D)成分及び後述する任意成分)を意味する。
【0016】
本態様の無電解めっき下地膜形成用組成物は、上記の組成を有することにより、基材上に十分に薄い(例えば、5μm以下)無電解めっき下地膜を形成できる。このため、当該無電解めっき下地膜は、めっき積層体において、基材の優れた誘電特性を妨げるといった影響を及ぼし難い。このため、当該無電解めっき下地膜を有するめっき積層体は、基材の誘電特性を生かした優れた誘電特性を発揮し得る。
また、本態様の無電解めっき下地膜形成用組成物は、良好な印刷性を有するため、得られるめっき積層体は、基材や金属層の表面平滑性を損なうことなく、これらを良好に密着できる。
さらに、水酸基を有する増粘剤を使用することにより、増粘剤の一部が他の樹脂成分と架橋反応しうる。これにより、得られる無電解めっき下地膜及び当該無電解めっき下地膜を有するめっき積層体は、耐熱性に優れる。
【0017】
以下、各成分について説明する。尚、「(X)成分」という場合、例えば市販の試薬を用いる場合であっても、当該試薬中の(X)成分に該当する化合物のみを指すものとし、当該試薬中の他の成分(溶剤等)は含まない。
【0018】
[(A)成分:導電性ポリマー]
導電性ポリマーとしては、置換又は無置換のポリアニリン、置換又は無置換のポリピロール、及び置換又は無置換のポリチオフェン等のπ共役ポリマーが挙げられる。具体的には、π共役ポリマーがドーパントによってドープされているπ共役ポリマー複合体が挙げられ、置換又は無置換のポリアニリンがドーパントによってドープされているポリアニリン複合体、置換又は無置換のポリピロールがドーパントによってドープされているポリピロール複合体、及び置換又は無置換のポリチオフェンがドーパントによってドープされているポリチオフェン複合体等が挙げられ、置換又は無置換のポリアニリンがドーパントによってドープされているポリアニリン複合体が好ましい。
【0019】
導電性ポリマーとして置換又は無置換のポリアニリンを用いる場合について以下説明する。
ポリアニリンの重量平均分子量(以下、分子量という)は、好ましくは20,000以上である。分子量は、好ましくは20,000~500,000であり、より好ましくは20,000~300,000であり、さらに好ましくは20,000~200,000である。重量平均分子量はポリアニリン複合体の分子量ではなく、ポリアニリンの分子量である。
【0020】
分子量分布は、好ましくは1.5以上10.0以下である。導電率の観点からは分子量分布は小さい方が好ましいが、溶剤への溶解性の観点では、分子量分布が広い方が好ましい場合もある。
分子量と分子量分布は、ゲルパーミェションクロマトグラフィ(GPC)によりポリスチレン換算で測定する。
【0021】
置換ポリアニリンの置換基としては、例えばメチル基、エチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分岐の炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;トリフルオロメチル基(-CF3基)等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
ポリアニリンは、汎用性及び経済性の観点から無置換のポリアニリンが好ましい。
【0022】
置換又は無置換のポリアニリンは、好ましくは塩素原子を含まない酸の存在下で重合して得られるポリアニリンである。塩素原子を含まない酸とは、例えば1族~16族及び18族に属する原子からなる酸である。具体的には、リン酸が挙げられる。塩素原子を含まない酸の存在下で重合して得られるポリアニリンとして、リン酸の存在下で重合して得られるポリアニリンが挙げられる。
塩素原子を含まない酸の存在下で得られたポリアニリンは、ポリアニリン複合体の塩素含有量をより低くすることができる。
【0023】
ポリアニリン複合体のドーパントとしては、例えばブレンステッド酸又はブレンステッド酸の塩から生じるブレンステッド酸イオンが挙げられ、好ましくは有機酸又は有機酸の塩から生じる有機酸イオンであり、さらに好ましくは下記式(I)で示される化合物(プロトン供与体)から生じる有機酸イオンである。
本発明において、ドーパントが特定の酸であると表現する場合、及びドーパントが特定の塩であると表現する場合があるが、いずれも特定の酸又は特定の塩から生じる特定の酸イオンが、上述したπ共役ポリマーにドープするものとする。
【0024】
M(XARn)m (I)
式(I)のMは、水素原子、有機遊離基又は無機遊離基である。
有機遊離基としては、例えば、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、アニリニウム基等が挙げられる。無機遊離基としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄等が挙げられる。
式(I)のXは、アニオン基であり、例えば-SO3
-基、-PO3
2-基、-PO2(OH)―基、-OPO3
2-基、-OPO2(OH)-基、-COO-基等が挙げられ、好ましくは-SO3
-基である。
【0025】
式(I)のAは、置換又は無置換の炭化水素基(炭素数は例えば1~20)である。
炭化水素基は、鎖状もしくは環状の飽和脂肪族炭化水素基、鎖状もしくは環状の不飽和脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基である。
鎖状の飽和脂肪族炭化水素基としては、直鎖もしくは分岐状のアルキル基(炭素数は例えば1~20)が挙げられる。環状の飽和脂肪族炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基(炭素数は例えば3~20)が挙げられる。環状の飽和脂肪族炭化水素基は、複数の環状の飽和脂肪族炭化水素基が縮合していてもよい。例えば、ノルボルニル基、アダマンチル基、縮合したアダマンチル基等が挙げられる。鎖状の不飽和脂肪族炭化水素(炭素数は例えば2~20)としては、直鎖又は分岐状のアルケニル基が挙げられる。環状の不飽和脂肪族炭化水素基(炭素数は例えば3~20)としては、環状アルケニル基が挙げられる。芳香族炭化水素基(炭素数は例えば6~20)としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0026】
Aが置換の炭化水素基である場合の置換基は、アルキル基(炭素数は例えば1~20)、シクロアルキル基(炭素数は例えば3~20)、ビニル基、アリル基、アリール基(炭素数は例えば6~20)、アルコキシ基(炭素数は例えば1~20)、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、シリル基又はエステル結合含有基である。
【0027】
式(I)のRは、Aと結合しており、-H、-R1、-OR1、-COR1、-COOR1、-(C=O)-(COR1)、又は-(C=O)-(COOR1)で表わされる置換基あり、R1は、置換基を含んでもよい炭化水素基、シリル基、アルキルシリル基、-(R2O)x-R3基、又は-(OSiR3
2)x-OR3基である。R2はアルキレン基、R3は炭化水素基であり、xは1以上の整数である。xが2以上の場合、複数のR2はそれぞれ同一でも異なってもよく、複数のR3はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0028】
R1の炭化水素基(炭素数は例えば1~20)としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、エイコサニル基等が挙げられる。炭化水素基は直鎖状であってもよく、また、分岐状であってもよい。
炭化水素基の置換基は、アルキル基(炭素数は例えば1~20)、シクロアルキル基(炭素数は例えば3~20)、ビニル基、アリル基、アリール基(炭素数は例えば6~20)、アルコキシ基(炭素数は例えば1~20)、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基又はエステル結合含有基である。R3の炭化水素基もR1と同様である。
【0029】
R2のアルキレン基(炭素数は例えば1~20)としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
式(I)のnは1以上の整数である。nが2以上の場合、複数のRはそれぞれ同一でも異なってもよい。
式(I)のmは、Mの価数/Xの価数である。
【0030】
式(I)で示される化合物としては、ジアルキルベンゼンスルフォン酸、ジアルキルナフタレンスルフォン酸、又はエステル結合を2以上含有する化合物が好ましい。
エステル結合を2以上含有する化合物は、スルホフタール酸エステル、又は下記式(II)で表される化合物がより好ましい。
【化1】
式(II)中、M及びXは、式(I)と同様である。Xは、-SO
3
-基が好ましい。
R
4、R
5及びR
6は、それぞれ独立に水素原子、炭化水素基又はR
9
3Si-基である。3つのR
9はそれぞれ独立に炭化水素基である。
R
4、R
5及びR
6が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1~24の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基(炭素数は例えば6~20)、アルキルアリール基(炭素数は例えば7~20)等が挙げられる。
R
9の炭化水素基としては、R
4、R
5及びR
6の場合と同様である。
【0031】
式(II)のR7及びR8は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R10O)q-R11基である。R10は炭化水素基又はシリレン基であり、R11は水素原子、炭化水素基又はR12
3Si-であり、qは1以上の整数である。3つのR12は、それぞれ独立に炭化水素基である。
【0032】
R7及びR8が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、炭素数1~24、好ましくは炭素数4以上の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、芳香環を含むアリール基(炭素数は例えば6~20)、アルキルアリール基(炭素数は例えば7~20)等が挙げられ、具体例としては、例えば、いずれも直鎖又は分岐状の、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられる。
【0033】
R7及びR8における、R10が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、例えば炭素数1~24の直鎖もしくは分岐状のアルキレン基、芳香環を含むアリーレン基(炭素数は例えば6~20)、アルキルアリーレン基(炭素数は例えば7~20)、又はアリールアルキレン基(炭素数は例えば7~20)である。また、R7及びR8における、R11及びR12が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R4、R5及びR6の場合と同様であり、qは、1~10であることが好ましい。
【0034】
R
7及びR
8が-(R
10O)
q-R
11基である場合の式(II)で表わされる化合物の具体例としては、下記式で表わされる2つの化合物である。
【化2】
(式中、Xは式(I)と同様である。)
【0035】
上記式(II)で表わされる化合物は、下記式(III)で示されるスルホコハク酸誘導体であることがさらに好ましい。
【化3】
式(III)中、Mは、式(I)と同様である。m’は、Mの価数である。
R
13及びR
14は、それぞれ独立に、炭化水素基又は-(R
15O)
r-R
16基である。R
15は炭化水素基又はシリレン基であり、R
16は水素原子、炭化水素基又はR
17
3Si-基であり、rは1以上の整数である。3つのR
17はそれぞれ独立に炭化水素基である。rが2以上の場合、複数のR
15はそれぞれ同一でも異なってもよい。
【0036】
R13及びR14が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、R7及びR8と同様である。
R13及びR14において、R15が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R10と同様である。また、R13及びR14において、R16及びR17が炭化水素基である場合の炭化水素基としては、上記R4、R5及びR6と同様である。
rは、1~10であることが好ましい。
【0037】
R13及びR14が-(R15O)r-R16基である場合の具体例としては、R7及びR8における-(R10O)q-R11と同様である。
R13及びR14の炭化水素基としては、R7及びR8と同様であり、ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、デシル基が好ましい。
【0038】
式(I)で示される化合物としては、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(エーロゾルOT)が好ましい。
例えば、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムは、ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸イオンとなっていてもよい。
【0039】
ポリアニリン複合体のドーパントが置換又は無置換のポリアニリンにドープしていることは、紫外・可視・近赤外分光法やX線光電子分光法によって確認することができ、当該ドーパントは、ポリアニリンにキャリアを発生させるに十分な酸性を有していれば、特に化学構造上の制限なく使用できる。
【0040】
ポリアニリンに対するドーパントのドープ率は、好ましくは0.35以上0.65以下であり、より好ましくは0.42以上0.60以下であり、さらに好ましくは0.43以上0.57以下であり、特に好ましくは0.44以上0.55以下である。
ドープ率は(ポリアニリンにドープしているドーパントのモル数)/(ポリアニリンのモノマーユニットのモル数)で定義される。例えば無置換ポリアニリンとドーパントを含むポリアニリン複合体のドープ率が0.5であることは、ポリアニリンのモノマーユニット分子2個に対し、ドーパントが1個ドープしていることを意味する。
【0041】
ドープ率は、ポリアニリン複合体中のドーパントとポリアニリンのモノマーユニットのモル数が測定できれば算出可能である。例えば、ドーパントが有機スルホン酸の場合、ドーパント由来の硫黄原子のモル数と、ポリアニリンのモノマーユニット由来の窒素原子のモル数を、有機元素分析法により定量し、これらの値の比を取ることでドープ率を算出できる。但し、ドープ率の算出方法は、当該手段に限定されない。
【0042】
ポリアニリン複合体は、さらにリンを含んでも含まなくてもよい。
ポリアニリン複合体がリンを含む場合、リンの含有量は例えば10質量ppm以上5000質量ppm以下である。
上記リンの含有量は、ICP発光分光分析法で測定することができる。
また、ポリアニリン複合体は、不純物として第12族元素(例えば亜鉛)を含まないことが好ましい。
【0043】
ポリアニリン複合体は、周知の製造方法で製造することができる。例えば、プロトン供与体、リン酸、及びプロトン供与体とは異なる乳化剤を含み、2つの液相を有する溶液中で、置換又は無置換のアニリンを化学酸化重合することにより製造できる。また、置換又は無置換のアニリン、プロトン供与体、リン酸、及びプロトン供与体とは異なる乳化剤を含み、2つの液相を有する溶液中に、酸化重合剤を加えることにより製造できる。
【0044】
ここで「2つの液相を有する溶液」とは、溶液中に相溶しない2つの液相が存在する状態を意味する。例えば、溶液中に「高極性溶媒の相」と「低極性溶媒の相」が存在する状態、を意味する。
また、「2つの液相を有する溶液」は、片方の液相が連続相であり、他方の液相が分散相である状態も含む。例えば「高極性溶媒の相」が連続相であり「低極性溶媒の相」が分散相である状態、及び「低極性溶媒の相」が連続相であり「高極性溶媒の相」が分散相である状態が含まれる。
上記ポリアニリン複合体の製造方法に用いる高極性溶媒としては、水が好ましく、低極性溶媒としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素が好ましい。
【0045】
上記プロトン供与体は、好ましくは上記式(I)で表される化合物である。
【0046】
上記乳化剤は、親水性部分がイオン性であるイオン性乳化剤、及び親水性部分が非イオン性である非イオン性乳化剤のどちらでも使用でき、また、1種又は2種以上の乳化剤を混合して使用してもよい。
【0047】
化学酸化重合に用いる酸化剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の過酸化物;二クロム酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、硫酸カリウム鉄(III)、三塩化鉄(III)、二酸化マンガン、ヨウ素酸、過マンガン酸カリウム又はパラトルエンスルホン酸鉄等が使用でき、好ましくは過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
これらは単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0048】
ポリピロールの分子量、分子量分布、置換ポリピロールの置換基は上記ポリアニリンの分子量、分子量分布、置換ポリアニリンの置換基と同様である。
【0049】
ポリピロール複合体のドーパントとしては、特に制限はなく、一般的にピロール若しくはピロール誘導体の重合体、又はピロール及びピロール誘導体の共重合体を含んでなる導電性ポリマーに好適に用いられるアクセプター性ドーパントを適宜使用できる。
代表的なものとしては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸等のスルホン酸類、過塩素酸、塩素、臭素等のハロゲン類、ルイス酸、プロトン酸等が挙げられる。これらは、酸形態であってよいし、塩形態にあることもできる。モノマーに対する溶解性の観点から好ましいものは、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、トリフルオロメタンスルホン酸テトラブチルアンモニウム、トリフルオロメタンスルホンイミドテトラブチルアンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等である。
【0050】
ドーパントを使用する場合のドーパントの使用量は、ピロール重合体単位ユニット当たりドーパント0.01~0.3分子となる量が好ましい。0.01分子未満では、十分な導電性パスを形成するに必要なドーパント量としては不十分であり、高い導電性を得ることが難しい。一方、0.3分子を超えて加えてもドープ率は向上しないから、0.3分子を超えるドーパントの添加は経済上好ましくない。ここでピロール重合体単位ユニットとは、ピロールモノマーが重合して得られるピロール重合体のモノマー1分子に対応する繰返し部分のことを指す。
【0051】
ポリチオフェンの分子量、分子量分布、置換ポリチオフェンの置換基は上記ポリアニリンの分子量、分子量分布、置換ポリアニリンの置換基と同様である。
置換ポリチオフェンとしては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が好ましい。
【0052】
ポリチオフェン複合体のドーパントとしては、アニオン系界面活性剤の有機酸イオン、無機酸イオン等が挙げられる。アニオン系界面活性剤の有機酸イオンとしては、スルホン酸系イオン、エステル化された硫酸イオン等が挙げられる。無機酸イオンとしては、硫酸イオン、ハロゲンイオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサシアノ鉄酸イオン、リン酸イオン、リンモリブデン酸イオン等が挙げられる。
【0053】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する(A)成分の含有量は、2質量%以上、4質量%以上、6質量%以上、8質量%以上、又は9質量%以上であり得、15質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下であり得る。
(A)成分の、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する含有量が2質量%以上であれば、この無電解めっき下地膜形成用組成物から、適度な膜厚を有する無電解めっき下地膜を形成でき、めっき層の形成性に優れる無電解めっき下地膜を得られる。
また、(A)成分の、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する含有量が15質量%以下であれば、組成物中における、(B)~(D)成分の含有量を十分に確保でき、十分な膜強度を有する無電解めっき下地膜を形成できる。
【0054】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物における(A)成分の含有量は、(A)~(D)成分の合計に対して、30質量%以上、35質量%以上、又は40質量%以上であり得、85質量%以下、80質量%以下、70質量%以下であり得る。
【0055】
[(B)成分:ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂]
ポリエステルポリオール樹脂は、通常、ポリオールと多価カルボン酸とを重合させることにより得られる。
ポリオールとしては、例えば、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、3-メチルペンタンジオール、2,4-ジエチルペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
多価カルボン酸としては、マロン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、コハク酸、グルタル酸、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸、シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。
【0056】
ポリエステルポリオール樹脂の重量平均分子量は、好ましくは2,000~50,000である。重量平均分子量はGPC法で測定する。
ポリエステルポリオール樹脂のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは5~90℃である。TgはDSC法(示差走査熱量測定法)で測定する。
ポリエステルポリオール樹脂の水酸基価は、好ましくは2~70mgKOH/gである。水酸基価は、1gのポリエステルポリオール樹脂と無水酢酸を反応させ、反応で生じた酢酸を中和するのに必要な水酸化カリウムの質量(mg)から算出する。
【0057】
ポリエーテルポリオール樹脂としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ1-メチルブチレングリコール等を使用できる。
また、上記ポリエーテルポリオールを合成するためのモノマーと、グリセリン,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトール,ソルビトール,トリエタノールアミン等の多価アルコールをゲル化しない範囲で共重合させたポリエーテルポリオールも使用できる。
【0058】
ポリエーテルポリオール樹脂の重量平均分子量は、好ましくは400~10,000である。
ポリエーテルポリオール樹脂の水酸基価は、好ましくは20~500mgKOH/gである。
ポリエーテルポリオール樹脂の重量平均分子量及び水酸基価の測定方法は、ポリエステルポリオール樹脂で説明したものと同じである。
【0059】
ポリエステルポリオール樹脂は、その特性を失わない範囲で、エステル結合に相当する部分の一部がエステル結合以外の他の種類の結合で置換されたものであってもよい。
また、ポリエーテルポリオール樹脂は、その特性を失わない範囲で、エーテル結合に相当する部分の一部が、エーテル結合以外の他の種類の結合で置換されたものであってもよい。
エステル結合以外の他の種類の結合、及びエーテル結合以外の他の種類の結合としては、例えばウレタン結合、アミド結合、ウレア結合、及びカーボネート結合等が挙げられる。
【0060】
ポリエステルポリオール樹脂において、その特性を失わない範囲でエステル結合に相当する部分の一部がエステル結合以外の他の種類の結合で置換された樹脂としては、例えば、ウレタン変性ポリエステルポリオール樹脂(ポリエステルウレタン樹脂)が挙げられる。
ウレタン変性ポリエステルポリオール樹脂(ポリエステルウレタン樹脂)としては、例えば、東洋紡株式会社製のUR-1700が挙げられる。
【0061】
ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂は、どちらか一方を単独で用いてもよいし、両方を併用してもよい。また、各樹脂について1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
(B)成分としては、ポリエステルポリオール樹脂を好適に用いることが出来る。
【0062】
ポリオール樹脂の中でも、例えば、ポリビニルアセタールを用いた場合、加熱により樹脂が分解することに起因して無電解めっき下地膜の耐熱性が低くなる場合があるが、上述したポリオール樹脂(ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂)は当該懸念がなく、耐熱性に優れた無電解めっき下地膜を製造することが可能となる。
【0063】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する(B)成分の含有量は、2質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であり得、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であり得る。
【0064】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物における(B)成分の含有量は、(A)~(D)成分の合計に対して、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、45質量%以上、又は50質量%以上であり得、65質量%以下、又は60質量%以下であり得る。
【0065】
[(C)成分:ポリイソシアネート化合物]
ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基(-NCO基)を2個以上有する化合物であり、ポリウレタンの原料となる場合もある。
本態様の無電解めっき下地膜形成用組成物において、(B)成分を(C)成分によって十分に架橋することによってめっき下地膜に優れた耐熱性を付与することができる。
【0066】
ポリイソシアネートは、例えば、R’(-NCO)оで表される化合物である。式中、R’は、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の脂肪族炭化水素(炭素数は例えば1~20)、又はベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素(炭素数は例えば6~20)であり、оは2以上の整数である。
【0067】
ポリイソシアネート化合物として、ブロックポリイソシアネートを使用することが好ましい。
通常、-NCO基は非常に反応性が高いため、その反応性を抑制しコントロールできるように、-NCO基をブロックしてブロックポリイソシアネートとする。ブロックポリイソシアネートは、系内の-NCO基のような反応性基をブロックすることで、反応を抑制し、加熱によりブロック基を脱離させ、反応を開始させる。
【0068】
ポリイソシアネート化合物として、具体的には、旭化成株式会社製のMF-K60BやMF-B60B、17B-60P、TPA-100、TKA-100、P301-75E、24A-100等のHDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系のものが挙げられる。また、DIC株式会社製のD-550、DB-980K、東ソー株式会社製のコロネートBI-301、コロネート2507、十条ケミカル株式会社製のJA-980等も挙げられる。
【0069】
ポリイソシアネート化合物の硬化温度は、80℃以上であることが好ましく、90~180℃であることがより好ましい。ポリイソシアネートの硬化温度が上記範囲であることにより、めっき下地膜の耐熱性を向上させることができる。
ブロックポリイソシアネートの場合、上記硬化温度はブロック基が脱離する温度である。
【0070】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する(C)成分の含有量は、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、又は1質量%以上であり得、7質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であり得る。
【0071】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物における(C)成分の含有量は、(B)成分の化学構造により変化するが、(A)~(D)成分の合計に対して、0.5質量%以上、又は1質量%以上であり得、30質量%以下、25質量%以下、又は20質量%以下であり得る。また、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、又は9質量%以上であり得、30質量%以下であり得る。
【0072】
また、無電解めっき下地膜形成用組成物が後述するウレタン樹脂を含有する場合、(A)成分、(C)成分及びウレタン樹脂の合計に対する(C)成分の割合は5質量%超、6質量%以上又は7質量%以上としてもよい。
【0073】
[(D)成分:増粘剤]
(D)成分としては、水酸基を有しかつ組成物に対して増粘効果を付与できるものであれば、特に限定なく用いることができる。
無電解めっき下地膜形成用組成物が(D)成分を含有することで、不揮発性成分の含有割合が33質量%以下と比較的低率であっても、塗膜印刷が可能な適度な粘性を得られる。
このため、本態様の無電解めっき下地膜形成用組成物は、不揮発性成分の含有量を上述した比較的低い範囲としつつ、良好な印刷性を維持できる。この結果、めっき層の形成性に優れ、また基材及びめっき層との密着性が高い無電解めっき下地膜を形成できる。
【0074】
また、(D)成分の水酸基が、前述した(C)成分(ポリイソシアネート化合物)のイソシアネート基(-NCO基)と反応し得る。
具体的には、(C)成分のイソシアネート基は、無電解めっき下地膜形成用組成物の塗膜において、(B)成分に含まれる水酸基と架橋反応して架橋構造を形成するとともに、(D)成分に含まれる水酸基とも架橋反応して架橋構造を形成する。このように、イソシアネート基(-NCO基)が、(B)成分及び(D)成分と架橋反応することで、無電解めっき下地膜の全体に、3次元架橋構造等の架橋構造が下地膜全体により高密度に形成され、優れた耐熱性を得られる。
これに対し、水酸基を有しない増粘剤を組成物中に含有させた場合、増粘剤はイソシアネート基との架橋反応に寄与することなく下地膜中に存在するため、熱により変形又は劣化が生じ易く、耐熱性に劣るものとなる。
【0075】
また、上述したように(D)成分が(C)成分のイソシアネート基と架橋反応し、組成物の粘度がより向上する。このため、増粘剤として、水酸基を有しない成分を用いた場合と比較すると、無電解めっき下地膜形成用組成物の不揮発成分の含有量が低くても、良好なめっき形成性を有する無電解めっき下地膜を形成し易い。
【0076】
(D)成分は、前述したように、水酸基を有しかつ組成物に対して増粘効果を付与できるものであればよいが、さらに、前述した(A)成分を溶解する溶剤に対して溶解性を有するものが好ましい。
このような(D)成分としては、例えば、セルロース系化合物、ポリエーテル系化合物、脂肪酸アミド系化合物、及びウレア基含有ポリマー系化合物を例示できる。これらの中でも、溶剤系インキ組成物に対する増粘効果に優れる点から、セルロース系化合物を好適に用いることができる。溶剤系インキ組成物としては、有機溶剤を主剤とするものが好適に挙げられる。
【0077】
なお、本明細書において、ポリエステルポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂、ウレア結合又はアミド結合でエステル結合が一部置換されたポリエステルポリオール樹脂、及び、ウレア結合又はアミド結合でエーテル結合が一部置換されたポリエーテルポリオール樹脂は、(D)成分には含めず、(B)成分に含めるものとする。
【0078】
セルロース系化合物としては、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピチルメチルセルロース、及び変性セルロースナノファイバー等を例示できる。これらの中でも、溶剤系インキ組成物に対する増粘効果の高さ、及び入手し易さの観点から、セルロースエーテルを好適に用いることができる。セルロースエーテルの中ではエチルセルロースを好適に用いることができる。
【0079】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する(D)成分の含有量は、1質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、又は2質量%以上であり得、10質量%以下、9質量%以下、7質量%以下、又は5質量%以下であり得る。
(D)成分の、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する含有量が1質量%以上であれば、無電解めっき下地膜形成用組成物に対して、印刷性を維持するのに十分な粘性を付与でき、十分な増粘効果を得られる。
また、(D)成分の、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する含有量が10質量%以下であれば、無電解めっき下地膜形成用組成物の粘度が過度に上昇するのを抑制でき、優れた印刷性を維持できる。
【0080】
無電解めっき下地膜形成用組成物における(D)成分の含有量は、(A)~(D)成分の合計に対して、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であり得、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であり得る。
【0081】
[(B)成分、(C)成分及び(D)成分の量的関係]
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、組成物中の不揮発性成分に対する(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計の割合が8~90質量%であると好ましく、10~90質量%であるとより好ましく、10~70質量%であるとさらに好ましく、20~60質量%であると特に好ましい。この範囲であると、めっき下地膜中において架橋構造が十分な割合を占め、かつ、導電性ポリマーがめっき層を形成するために必要な触媒を保持できるため耐熱性とめっき析出性の両者に優れる。
不揮発性成分とは、組成物中の配合成分が化学変化を起こさない範囲で組成物を加熱若しくは減圧した場合、又は組成物を加熱及び減圧した場合に揮発する成分(揮発性成分)を除いた後に組成物中に残る成分であり、通常、組成物中の溶剤以外の成分である。
【0082】
また、(B)成分中の水酸基及び(D)成分中の水酸基の合計量に対する(C)成分中のイソシアネート基のモル比(NCO/OH比)は、0.1~10.0であると好ましく、0.6~8.0であるとより好ましく、0.6~5.5であるとさらに好ましい。
NCO/OH比は下記式により計算できる。
NCO/OH比=X/Y
式中、Xはイソシアネート基を有する化合物単位質量当たりのイソシアネート基の数×配合質量である。Yは水酸基を有する化合物単位質量当たりの水酸基数×配合質量である。
【0083】
(C)成分としてブロックポリイソシアネート化合物を用いる場合、加熱によってイソシアネート基を再生し、無電解めっき下地膜組成物中の水酸基と反応して結合を形成する。1分子中に2個以上の重合性基を有する分子同士を反応させると重合体を形成し、イソシアネート基及び水酸基を合計で3個以上有する化合物同士を反応させると3次元架橋構造を形成する。
架橋反応を十分に進めるためには、組成物中のイソシアネート基の個数と水酸基の個数がほぼ等しいことが好ましい。しかしながら、(A)成分等の架橋反応に寄与しない成分を含む場合には、下地膜中でのイソシアネート基と水酸基の衝突確率が低下して十分に架橋反応が進まないことがある。
ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂と、ポリイソシアネート化合物を比較した場合、ポリイソシアネート化合物の方が、分子量が低く運動性の高いものが多い。従って、両者の衝突確率を高めるには、ポリイソシアネート化合物の割合を増やすことが好ましい。尚、イソシアネート基は、水等によって分解するとアミノ基を生じる。該アミノ基は、残留しているイソシアネート基と反応するので、ポリイソシアネート化合物の割合が多くても架橋反応を阻害することが少ない。
【0084】
[(E)成分:溶剤]
無電解めっき下地膜形成用組成物に用いる溶剤は、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、ジアセトンアルコール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチルカルビトール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、ソルベントナフサ、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸n-ブチル、n-ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、テトラリン、2-ブトキシ-2-エトキシエタノール、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、N-メチルピロリドン、芳香族溶剤(例えば、十条ケミカル株式会社製「#200遅乾溶剤」)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
(E)成分としては、γ-ブチロラクトン、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及び、芳香族溶剤である十条ケミカル株式会社製「#200遅乾溶剤」を好適に用いることが出来る。
【0085】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する(E)成分の含有量は、67質量%以上、70質量%以上、73質量%以上、75質量%以上、77質量%以上、又は80質量%以上であり得、95質量%以下、93質量%以下、90質量%以下、又は88質量%以下であり得る。
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物の全量に対する(E)成分の含有量は、68.6質量%、68.8質量%、70.3質量%、又は84.5質量%であり得る。
なお、(E)成分とは、例えば無電解めっき下地膜形成用組成物を作製する際に、粉末状の原料を溶解させるために用いる溶剤には限られない。
例えば、(A)成分を含有する(A)成分含有溶液、(B)成分を含有する(B)成分含有溶液、(C)成分を含有する(C)成分含有溶液、及び(D)成分を含有する(D)成分含有溶液とを混合して、無電解めっき下地膜形成用組成物を作製する場合、(A)成分含有溶液に含まれる溶剤、(B)成分含有溶液に含まれる溶剤、(C)成分含有溶液に含まれる溶剤、及び(D)成分含有溶液に含まれる溶剤は、全て、(E)成分に含まれるものとする。
【0086】
(不揮発性成分)
無電解めっき下地膜形成用組成物は、不揮発性成分の含有量が5質量%以上、33質量%以下である。即ち、組成物の全量に対して、(E)成分を67質量%以上、95質量%以下含む。上記範囲であれば、薄い無電解めっき下地膜を形成できる。
不揮発性成分の含有量は、例えば、30質量%以下、27質量%以下、25質量%以下、23質量%以下又は20質量%以下であり得る。
また、不揮発性成分の含有量は、例えば、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上又は12質量%以上であり得る。
【0087】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、例えば、(E)成分(溶剤)以外の90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上、又は100質量%が、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分からなってもよい。
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、例えば、溶剤以外の90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、99.9質量%以上、又は100質量%が、(A)成分、(B)成分、(C)成分(D)成分並びに後述する他の成分のうち1以上の成分(例えばウレタン樹脂)からなってもよい。
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、ポリビニルアセタール樹脂の含有量を例えば1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、又は含まない構成としてもよい。
【0088】
[ウレタン樹脂]
無電解めっき下地膜形成用組成物は、さらにウレタン樹脂を含んでもよい。ウレタン樹脂は、ウレタン結合を有する樹脂であり、例えば、ポリイソシアネートとポリオールを反応させて得られるもの等を用いることができる。
【0089】
なお、本明細書において、ウレタン結合を有するポリエステルポリオール樹脂は、「ウレタン樹脂」には含めず、(B)成分の「ポリエステルポリオール樹脂」に含めるものとする。また、ウレタン結合を有するポリエーテルポリオール樹脂は、「ウレタン樹脂」には含めず、(B)成分の「ポリエーテルポリオール樹脂」に含めるものとする。
【0090】
ポリイソシアネートとしては、少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されず公知のものを使用することができる。
具体的には、例えば、TDI(トリレンジイソシアネート)系、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)系、XDI(キシリレンジイソシアネート)系、NDI(ナフチレン1,5-ジイソシアネート)系、TMXDI(テトラメチレンキシリレンジイソシアネート)系等の芳香族系イソシアネート、IPDI(イソホロンジイソシアネート)系、H12MDI(水添MDI、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)系、H6XDI(水添XDI)系等の脂環族系イソシアネート、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系、DDI(ダイマー酸ジイソシアネート)系、NBDI(ノルボルネン・ジイソシアネート)系等の脂肪族系イソシアネート等がある。これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0091】
また、ポリオールとしては、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、3-メチルペンタンジオール、2,4-ジエチルペンタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、アクリル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリジメチルシロキサン-エチレンオキサイド付加物、ポリジメチルシロキサン-プロピレンオキサイド付加物、ひまし油等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0092】
ウレタン樹脂は柔らかく延伸性があるため、下地膜が架橋構造によって脆くなり過ぎることを抑制できる。
【0093】
ウレタン樹脂としては、具体的に、MAU1008、MAU4308HV、MAU5022、MAU9022等のMAUシリーズ(大日精化工業株式会社製)、ASPU360、ASPU112、ASPU116、ASPU121等のASPUシリーズ(DIC株式会社製)、ハイドランAP-20、AP-30F、AP-40F、WLS-213等のハイドランシリーズ(DIC株式会社製)、ユーコートUX-150、UX-200、UX-310、UWS-145等のユーコートシリーズ(三洋化成社製)、PTG-RSN(DICグラフィックス社製)等が挙げられる。
【0094】
MAUシリーズは、アミノ基やカルボキシル基等の極性基を導入でき、各種バインダーとの相溶性や接着性を向上することができる。反応性基を有することで、硬化後も柔軟な塗膜形成が可能である。
ASPUシリーズは、溶剤系であり、耐候性、摩耗性、屈曲性向上とともに、反応性基を有することで柔軟かつ強靭な膜を作製することができる。
ハイドランシリーズは、水系であり、種々の溶剤に溶解させて、ASPUシリーズと同等の性能を有することができる。
【0095】
ウレタン樹脂は、通常、下記式で表される構造を有する。
【化4】
式中、R及びXは、それぞれ独立にウレタン樹脂を合成する際のモノマーに由来する、置換もしくは無置換の2価の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の2価の脂肪族炭化水素基、又は1以上の置換もしくは無置換の2価の芳香族炭化水素基と1以上の置換もしくは無置換の2価の脂肪族炭化水素基とを任意の順で結合した2価の基である。
2価の芳香族炭化水素基としては、環形成炭素数6~50の芳香族炭化水素基等が挙げられる。具体的には、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
2価の脂肪族炭化水素基としては、炭素数6~50の直鎖状脂肪族炭化水素基、炭素数6~50の分岐状脂肪族炭化水素基等が挙げられる。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
1以上の2価の芳香族炭化水素基と1以上の2価の脂肪族炭化水素基とを任意の順で結合した2価の基としては、フェニレン基とメチレン基が結合した基、ナフチレン基とエチレン基が結合した基等が挙げられる。
置換基を有する場合の置換基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。
ウレタン樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0096】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物におけるウレタン樹脂の含有量は、(A)~(D)成分の合計100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、より好ましくは5~50質量部である。
【0097】
[エポキシ樹脂]
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、さらにエポキシ樹脂を含んでもよい。エポキシ樹脂は、架橋性化合物であり、樹脂内にあるエポキシ基により架橋反応させ、硬化させることができる。また、所定量のエポキシ樹脂は、優れた耐熱性及び密着性を無電解めっき下地膜に付与する。
【0098】
エポキシ樹脂はフェノール型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、及びナフタレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0099】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂として、例えば、DIC社製のHP4710やHP7200HH、HP7200H、HP7200等が挙げられる。また、ナフタレン型エポキシ樹脂として、例えば、DIC社製のHP4710等が挙げられる。
【0100】
エポキシ樹脂のガラス転移温度は、60~110℃であることが好ましく、70~105℃であることがより好ましく、75~100℃であることがさらに好ましい。
エポキシ樹脂を含有する無電解めっき下地膜形成用組成物を用いて下地膜を形成する場合において、エポキシ樹脂のガラス転移温度が上記範囲であることにより、下地膜の耐熱性及び耐熱衝撃性を向上させることができる。
上記のガラス転移温度を有するエポキシ樹脂をポリアニリン複合体等の導電性ポリマーと混合した組成物を基材に塗布してめっき下地膜を形成することで、無電解めっき後の耐熱試験及び熱衝撃試験において、基材及びめっき被膜に対して優れた密着性を示す。これは、上記ガラス転移温度を有するエポキシ樹脂を添加することで、塗膜強度及び密着強度が高くなるためと考えられる。
【0101】
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物におけるエポキシ樹脂の含有量は、(A)~(D)成分の合計100質量部に対して、0.2~30質量部が好ましく、より好ましくは0.5~15質量部、さらに好ましくは0.7~10質量部である。
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物はエポキシ樹脂の含有量を少ない構成としてもよく、例えば、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、又は含まない構成としてもよい。
【0102】
[フェノール性化合物]
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、導電性ポリマーとしてポリアニリン複合体を含む場合、さらに電気伝導率の改善効果を有するフェノール性化合物をポリアニリン複合体の一部として含んでいてもよい。
フェノール性化合物は、フェノール性水酸基を有する化合物であれば特に限定されない。フェノール性水酸基を有する化合物とは、フェノール性水酸基を1つ有する化合物、フェノール性水酸基を複数有する化合物、及びフェノール性水酸基を1つ又は複数有する繰り返し単位から構成されるポリマー化合物である。
当該フェノール性化合物としては公知のものを適宜使用することができる。
【0103】
[耐熱安定化剤]
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、導電性ポリマーとしてポリアニリン複合体を含む場合、さらに耐熱安定化剤を含んでいてもよい。
耐熱安定化剤とは、酸性物質又は酸性物質の塩であり、酸性物質は有機酸(有機化合物の酸)、無機酸(無機化合物の酸)のいずれでもよい。また、導電性ポリマー層は、複数の耐熱安定化剤を含んでいてもよい。
【0104】
[他の成分]
一実施形態において、無電解めっき下地膜形成用組成物は、さらに他の樹脂、無機材料、硬化剤、可塑剤、有機導電材料等の添加剤を含んでもよい。
【0105】
他の樹脂としては、例えば、バインダー基材、マトリックス基材等が挙げられる。
他の樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0106】
また上記樹脂の代わりに、また樹脂と共に、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂、又はこれら熱硬化性樹脂を形成し得る前駆体を含んでもよい。
【0107】
無機材料は、例えば、強度、表面硬度、寸法安定性その他の機械的物性の向上、又は導電性等の電気特性を向上する目的で添加される。
無機材料の具体例としては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、チタニア(二酸化チタン)、アルミナ(酸化アルミニウム)、Sn含有In2O3(ITO)、Zn含有In2O3、In2O3の共置換化合物(4価元素及び2価元素が3価のInに置換した酸化物)、Sb含有SnO2(ATO)、ZnO、Al含有ZnO(AZO)、Ga含有ZnO(GZO)等が挙げられる。
【0108】
硬化剤は、例えば、強度、表面硬度、寸法安定性その他の機械的物性の向上等の目的で添加される。硬化剤の具体例としては、例えば、フェノール樹脂等の熱硬化剤、アクリレート系モノマーと光重合性開始剤による光硬化剤が挙げられる。
【0109】
可塑剤は、例えば、引張強度や曲げ強度等の機械的特性の向上等の目的で添加される。
可塑剤の具体例としては、例えば、フタル酸エステル類やリン酸エステル類が挙げられる。
有機導電材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブのような炭素材料等が挙げられる。
【0110】
[無電解めっき下地膜]
本発明の一態様の無電解めっき下地膜(層)は、下記(A)~(D)成分を含む無電解めっき下地膜形成用組成物から形成することができる。
(A)導電性ポリマー
(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂
(C)ポリイソシアネート化合物
(D)水酸基を有する増粘剤
【0111】
前述した無電解めっき下地膜形成用組成物としては、本発明の一態様に係る無電解めっき下地膜形成用組成物を用いることができる。
一実施形態に係る無電解めっき下地膜(層)は、前述した無電解めっき下地膜形成用組成物から溶剤が除去されて、実質的に、溶剤を含まないものであってもよい。
【0112】
本発明の一態様の無電解めっき下地膜は、下記(A)~(D)成分を含み、(D)成分の含有量が、(A)成分~(D)成分の合計に対して、1~50質量%である。
(A)導電性ポリマー
(B)ポリエステルポリオール樹脂及びポリエーテルポリオール樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂
(C)ポリイソシアネート化合物
(D)水酸基を有する増粘剤
【0113】
本発明の各態様に係る無電解めっき下地膜は、無電解めっき層における基材側(無電解めっき下地膜側)の表面の平滑化にも寄与し、かつ該表面が平滑であっても、無電解めっき層と無電解めっき下地膜との間の密着性に優れる。そのため、無電解めっき下地膜上に形成される無電解めっき層(金属層)は、例えば回路基板における回路(配線)等として好適に用いられ、特に高周波信号を伝送する際においても減衰を防止できる。密着性に優れることによって、例えば、回路基板等を構成する基材が樹脂等によって構成され可撓性を有する場合に、該基材を屈曲させても、無電解めっき層の剥離が防止される。
【0114】
無電解めっき下地膜の膜厚は格別限定されないが、無電解めっき下地膜上に形成される無電解めっき層(金属層)を、例えば回路基板における回路(配線)等として用いる場合、無電解めっき下地膜の膜厚の上限は、例えば5μm以下であることが好ましく、4μm以下、3μm以下、2μm以下又は1μm以下であり得る。膜厚が5μm以下であることによって、無電解めっき下地膜の誘電特性が基材の誘電特性を妨げず、回路基板において、優れた高周波特性を得られる。尚、無電解めっき下地膜の膜厚の上限は、5μmには限られず、用途にもよるが、例えば200μm以下、150μm以下、100μm以下、50μm以下、20μm以下、又は10μm以下であってもよい。
無電解めっき下地膜の膜厚の下限は、例えば0.1μm以上、0.15μm以上、0.2μm以上、0.3μm以上、又は0.5μm以上である。膜厚が0.1μm以上であることによって、密着性がさらに向上し、また、無電解めっき下地膜に無電解めっき触媒(例えばPd金属)が均一に担持されやすくなることによって、無電解めっきが均一に施されやすくなる。
【0115】
[無電解めっき下地膜の製造方法]
本態様の無電解めっき下地膜の製造方法は、本態様の無電解めっき下地膜形成用組成物を用いる。本製造方法は、本態様の無電解めっき下地膜形成用組成物を用いていれば特に限定されないが、好ましい塗工方法として、スクリーン印刷法が挙げられる。
スクリーン印刷法等により塗工された塗膜から溶媒を除去する方法は、特に限定されず、乾燥等の通常の方法により行うことができる。
【0116】
[めっき積層体]
本態様のめっき積層体は、基材と、上述した無電解めっき下地膜と、金属を含む無電解めっき層と、を含み、無電解めっき層と無電解めっき下地膜が接している。
【0117】
図1は、本発明のめっき積層体の一実施形態の層構成を示す概略図である。
めっき積層体1は、基材10上に、無電解めっき下地膜20及び無電解めっき層30をこの順に積層して含む。
本発明のめっき積層体は、後述する本発明のめっき積層体の製造方法により製造できる。
【0118】
[基材]
基材は特に限定されず、金属、無機素材(セラミックス、ガラス等)、木材、又は樹脂であってもよい。また、金属を樹脂で完全に覆った基材や、無機系素材と樹脂との複合材(例えば、FRP、ガラスエポキシ複合材)等であってもよい。樹脂の種類としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、フェノール樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、液晶ポリマー樹脂、又はポリフェニレンサルファイド樹脂から構成されることが好ましい。
【0119】
無電解めっき下地膜は、樹脂基材のみならず、例えばセラミックス、ガラス、木材等のような耐水性を有する基材に対しても良好に密着し、無電解めっき時に、無電解めっき層の成長を安定化する。
【0120】
一実施形態において、基材の誘電正接は低い方が望ましく、0.015以下であり、好ましくは0.01以下、より好ましくは0.005以下である。これにより、めっき積層体を例えば高周波電気信号を伝送するための回路基板として用いる場合に、伝送損失を低減できる。誘電正接は、測定装置(キーサイト・テクノロジー社製ネットワークアナライザー「E8361A」)を用いて、測定周波数10GHz、温度25℃において、空洞共振器法(JIS R1641:2007)により測定される値である。
【0121】
[無電解めっき層(金属層)]
無電解めっき層の金属種としては、銅、ニッケル、金、パラジウム、銀、スズ、コバルト及び白金からなる群から選択される1以上の金属が挙げられる。これらの中でも、銅が好ましい。また、無電解めっき層には、これらの他にリン、ホウ素、鉄等の元素が含有されていてもよい。形成方法は後述する通りである。
【0122】
一実施形態において、無電解めっき層における無電解めっき下地膜側の表面の表面粗さRzJISは小さい方が望ましく、例えば、0.5μm以下、0.45μm以下、0.40μm以下、0.35μm以下、0.3μm以下、0.25μm以下、0.2μm以下、0.15μm以下、0.1μm以下、0.08μm以下、0.05μm以下、又は0.02μm以下であってもよい。めっき積層体を例えば高周波電気信号を伝送するための回路基板として用いる場合に、伝送損失を低減できる。かかる表面粗さRzJISの下限は格別限定されず、例えば、0.005μm以上、0.007μm以上、又は0.01μm以上であってもよい。表面粗さRzJISは、JIS B 0601(2001)に準拠して測定される十点平均粗さである。尚、無電解めっき層を無電解めっき下地膜上に無電解めっきによって形成する場合は、無電解めっきに供される前の無電解めっき下地膜の表面(後に無電解めっき層が形成される面)について測定した表面粗さRzJISを、無電解めっき層における無電解めっき下地膜側の表面の表面粗さRzJISとする。
【0123】
[めっき積層体の用途]
めっき積層体の用途は格別限定されず、例えば、回路基板、アンテナ、電磁波シールド等として用いることができる。また、一実施形態において、これら回路基板、アンテナ、電磁波シールドからなる群から選択される1以上を組み込んだ機器が提供される。
【0124】
[回路基板]
回路基板の用途において、金属層(無電解めっき層)は、電気信号を伝送する用途に用いられる。一実施形態に係る回路基板によれば、電気信号の周波数によらず、伝送損失を防止できる。また、一実施形態において、金属層は、周波数1GHz以上の高周波電気信号を伝送する用途に用いられる。高周波電気信号は、例えば、周波数が、3GHz以上、4GHz以上、5GHz以上、7GHz以上、10GHz以上、15GHz以上、20GHz以上、25GHz以上、30GHz以上、50GHz以上、80GHz以上、100GHz以上、又は110GHz以上であってもよい。かかる周波数の上限は格別限定されず、例えば、200GHz以下であってもよい。一実施形態に係る回路基板によれば、このような高周波電気信号を伝送する際においても、伝送損失を防止できる。回路基板の形態は格別限定されず、例えば、プリント配線板(PWB;printed wiring board)、プリント回路板(PCB;printed circuit board)、又はフレキシブルプリント回路板(FPC;flexible printed circuits)等であってもよい。
【0125】
[アンテナ]
アンテナの用途において、金属層(無電解めっき層)は、電波を送受信する用途に用いられる。また、一実施形態において、金属層は、高周波電波を送受信する用途に用いられる。高周波電波は、例えば、周波数が、3GHz以上、4GHz以上、5GHz以上、7GHz以上、10GHz以上、15GHz以上、20GHz以上、25GHz以上、30GHz以上、50GHz以上、80GHz以上、100GHz以上、又は110GHz以上であってもよい。かかる周波数の上限は格別限定されず、例えば、200GHz以下であってもよい。
【0126】
[電磁波シールド]
電磁波シールドの用途において、金属層(無電解めっき層)は、電磁波をシールドする用途に用いられる。
【0127】
[めっき積層体の製造方法]
本態様のめっき積層体の製造方法は、基材上に、本態様の無電解めっき下地膜形成用組成物を用いて無電解めっき下地膜を形成する工程、及び無電解めっき下地膜上に、金属を含む無電解めっき層を形成する工程を含む。
【0128】
無電解めっき下地膜の形成は、上述した無電解めっき下地膜の製造方法により行うことができる。
【0129】
尚、無電解めっき下地膜を形成する前に、基材の表面に、活性エネルギー線照射処理、コロナ処理、プラズマ処理、及びフレーム処理からなる群から選ばれる1以上の処理を施すことができる。
本明細書において、「活性エネルギー線」は、基材の表面を改質する活性を有するものであり、そのような改質によって基材と無電解めっき下地膜との密着性を向上できるものを用いることができる。密着性の向上を評価する方法には、実施例に記載の「めっき前の密着性」の評価方法を用いる。そのような活性エネルギー線として、例えば、紫外線、電子線、X線等が挙げられ、これらの中でも紫外線が好ましい。紫外線は格別限定されず、例えば、高圧水銀ランプ又はメタルハライドランプを光源とする紫外線を用いることができる。
【0130】
下地膜を形成した後、無電解めっき層を形成する前に脱脂工程を行うことが好ましい。
脱脂工程は、界面活性剤やアルコール等の溶剤で無電解めっき下地膜表面を脱脂洗浄して濡れ性を改善する。
界面活性剤は、アニオン性、カチオン性又は非イオン性のものを適宜使用でき、カチオン性界面活性剤が好ましい。カチオン性界面活性剤を用いる場合は、例えばイオン交換水等で1~3%に希釈して用いる。
【0131】
上記無電解めっき下地膜を形成後、好ましくは脱脂工程後、通常、下地膜上に無電解めっきの触媒作用を担うPd金属(触媒金属)を担持させるために、Pd化合物溶液を接触させると好ましい。
Pd化合物溶液を接触させると、ポリアニリン複合体等の導電性ポリマーはPdイオンを吸着し、その還元作用により、PdイオンがPd金属に還元される。尚、還元されたPd、即ち金属状態のPdでなければ、無電解めっきにおける触媒作用を発現しない。
上記単位面積当たりのPd付着量(Pdイオン及びPd金属を含む)は1.7μg/cm2以上であることが好ましく、2.5μg/cm2以上であることがさらに好ましい。
【0132】
Pd化合物としては、塩化パラジウムが好ましい。溶媒としては、塩酸が一般に用いられる。しかしながら、Pdがイオン状態で水溶液中に存在していればよく、塩酸水溶液に限定されない。Pd化合物溶液としては、例えば、0.02%塩化パラジウム-0.01%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
【0133】
Pd化合物溶液との接触温度は、通常20~50℃、好ましくは30~40℃であり、接触時間は、通常0.1~10分、好ましくは1~5分である。
【0134】
次に、金属を含む層(めっき層)を下地膜上に形成するために、上記で得られた基材を無電解めっき液に接触させる。下地膜と無電解めっき液が接触すると、担持させたPd金属が触媒として働き、下地膜上にめっき層が形成される。
【0135】
無電解めっき液に含まれる金属種としては、上述したように、銅、ニッケル、コバルト、パラジウム、銀、金、白金及びスズ等が挙げられる。また、これらの他にリン、ホウ素、鉄等の元素が含有されていてもよい。
【0136】
無電解めっき液との接触温度は、めっき浴種類や厚み等で異なるが、例えば低温浴であれば20~50℃程度、高温では50~90℃である。
また、無電解めっき液との接触時間もめっき浴種類や厚み等で異なるが、例えば1~120分である。無電解めっきのみでもよく、又は無電解めっきで金属薄膜を設けた後で電解めっきによりさらに同種又は異なる金属膜を設けることも可能である。
【実施例0137】
製造例1
[ポリアニリン複合体の製造]
「エーロゾルOT」(ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)(AOT)37.8g及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル構造を有する非イオン乳化剤である「ソルボンT-20」(東邦化学工業株式会社製)1.47gをトルエン600mLに溶解した溶液を、窒素気流下においた6Lのセパラブルフラスコに入れ、さらにこの溶液に、22.2gのアニリンを加えた。その後、1Mリン酸1800mLを溶液に添加し、トルエンと水の2つの液相を有する溶液の温度を5℃に冷却した。
【0138】
溶液内温が5℃に到達した時点で、毎分390回転で撹拌を行った。65.7gの過硫酸アンモニウムを1Mリン酸600mLに溶解した溶液を、滴下ロートを用いて2時間かけて滴下した。滴下開始から18時間、溶液内温を5℃に保ったまま反応を実施した。その後、反応温度を40℃まで上昇させ、1時間反応を継続した。その後、静置し、トルエン相を分離した。得られたトルエン相にトルエンを1500mL添加し、1Mリン酸500mLで1回、イオン交換水500mLで3回洗浄し、トルエン相を静置分離し、濃度調整のための濃縮を行い、ポリアニリン複合体トルエン溶液900gを得た。このポリアニリン複合体トルエン溶液のポリアニリン複合体濃度は5.7質量%であった。
また、このポリアニリン複合体のポリアニリンの重量平均分子量は87,000であり、分子量分布は1.8であった。
【0139】
製造例2
製造例1で得たポリアニリン複合体トルエン溶液を、60℃の湯浴で減圧乾燥し、乾固しポリアニリン複合体(粉末)を51.3g得た。
このポリアニリン複合体中のポリアニリン分子の重量平均分子量は72,000g/molであり、分子量分布は2.0であった。
【0140】
実施例1
[無電解めっき下地膜形成用組成物の調製]
ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル18.0g、γブチロラクトン12.0g、芳香族溶剤(十条ケミカル株式会社製「#200遅乾溶剤」)0.3gからなる混合溶剤(1)に密着向上添加剤(四国化成工業株式会社製「VD-3」)0.4gを加え懸濁させた後、製造例2で得られたポリアニリン複合体粉末5.0gを加え溶解させた。
そこに、ポリエステルポリオール樹脂溶液(十条ケミカル株式会社製「PL2メジウム」、水酸基価:3.5)5.0g(不揮発性成分含有割合:49質量%)、ブロックイソシアネート化合物溶液(十条ケミカル株式会社製「JA-980」、有効NCO%(wt%)=12.5%、硬化温度:150℃)0.43g(不揮発性成分含有割合:88質量%)、ポリエステルウレタン樹脂(ウレタン変性ポリエステルポリオール樹脂)溶液(東洋紡株式会社製「UR-1700」)2.0g(不揮発性成分含有割合:30質量%)、消泡剤(十条ケミカル株式会社製「XTY-180726」)0.1gを順次加え,十分に撹拌混合した。
さらにこの混合溶液に、増粘剤溶液(混合溶剤(1)と同率で各溶剤を混合した混合溶剤に、エチルセルロース(東京化成工業株式会社製)を10質量%の濃度で溶解させたもの)40.0gを加え、さらに混合撹拌して、組成物(無電解めっき下地膜形成用組成物)を得た。
組成物の調製に用いた各材料の配合量を表1に示し、組成物の各成分の組成等を表2に示す。
【0141】
[無電解めっき下地膜の製造]
調製した組成物をスクリーン印刷機(ニューロング精密工業株式会社製「DP-320」)、スクリーン版(250メッシュ、乳剤厚10μm、印刷パターン:正方形(30mm四方)及び直線(幅:0.15mm、0.5mm及び5mm、長さ:各100mm))を使用してポリイミド樹脂フィルム(東レ株式会社製「カプトン300H」)に印刷した。
塗膜を150℃で30分間乾燥して硬化させ、めっき下地膜(無電解めっき下地膜)とした。無電解めっき下地膜が印刷された部分を切り出して試験片とした。
【0142】
[無電解めっき下地膜の評価]
上記試験片(無電解めっき下地膜付き基材)について以下の評価を行った。評価結果を表3に示す。
(1)めっき下地膜の印刷性
上記試験片の無電解めっき下地膜のパターンを光学顕微鏡で観察し、めっき下地膜の状態(所望のパターンが印刷されているか否か)を観察し、以下のように判定した。
〇:所望のパターンを印刷できた。
△:印刷はできたがパターンが乱れていた。
×:印刷できなかった。
【0143】
実施例1で得られた試験片の無電解めっき下地膜のパターンを光学顕微鏡で観察した観察画像を
図2に示し、後述する比較例2で得られた試験片の無電解めっき下地膜のパターンを光学顕微鏡で観察した観察画像を
図3に示す。
【0144】
(2)めっき下地膜の膜厚
上記試験片の無電解めっき下地膜の膜厚を接触式膜厚計で測定した。
【0145】
(3)無電解めっき下地膜の密着性(めっき前密着性)
上記試験片から評価用試験片をさらに切り出し、評価用試験片の無電解めっき下地膜に対して密着性試験(クロスカット試験)を行った。
具体的には、JIS K5600-5-6(1999)に準じて、以下の(1)~(4)の手順でクロスカットを行った。
(1)無電解めっき下地膜の塗膜面に対してカッターナイフの刃先を垂直に当て、以下のようにしてカッターガイドを用いて切り込みを入れることで、塗膜面に格子パターンを形成した。
まず、6本の切込みを平行に入れた後、切込みを入れる方向を90°変えて、既に入れた6本の切込みと直行するように6本の切込みを入れて、格子パターンを形成した。
(2)粘着面を有するテープを約75mmの長さにカットし、カットしたテープの長辺と格子パターンの一辺とが平行となるように、塗膜面の格子パターン上にテープを置いた。
(3)テープを通してその下の塗膜が透けて見えるように、テープをしっかり指でこすって塗膜面に付着させた。
(4)テープ付着させて5分以内に、塗膜面に対して60°に近い角度でテープの端を引き上げ、0.5~1.0秒でテープを確実に引き剥がした。
前述したクロスカット試験を行った後の評価用試験片の無電解めっき下地膜について、剥離(基材とめっき下地膜の間での剥離及びめっき下地膜の破壊を含む。)の有無を目視で観察し、以下のように判定した。
○:剥離が観察されなかった。
×:剥離が観察された。
【0146】
[めっき積層体の製造]
(脱脂工程)
上記試験片を、界面活性剤(奥野製薬工業株式会社製「エースクリーン」)の5.0質量%水溶液中へ60℃で5分間浸漬した。その後、試験片の表面を流水で洗浄後、10質量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液に60℃で5分間浸漬した。さらに試験片の表面を流水で洗浄し脱脂処理を行った。
【0147】
(Pd担持工程)
脱脂処理後の試験片全体を、触媒化処理剤アクチベーター(塩酸酸性パラジウム化合物水溶液、奥野製薬工業株式会社製)の20倍希釈液中に30℃で5分間浸漬し、金属Pd担持処理を行った。
【0148】
(めっき層形成工程)
Pd担持処理後の試験片について、無電解銅めっき液(ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製「サーキュポジット4500」)を用いて52℃で30分間めっき処理を行い,めっき層を形成した後、流水洗浄及び温風乾燥(80℃)を行い、めっき積層体を得た。
【0149】
[めっき積層体の評価]
得られためっき積層体について以下の評価を行った。評価結果を表3に示す。
(1)めっき層の析出性(めっき性)
めっき積層体を光学顕微鏡で観察し、めっき層の状態(無電解めっき下地膜(印刷パターン部)上にめっき層が形成されたか、及び無電解めっき下地膜(印刷パターン部)上以外にめっき層が形成された部分がないか)を以下のように判定した。
〇:無電解めっき下地膜(印刷パターン部)の全面にめっき層が形成され、かつ下地膜(印刷パターン部)以外の部分にめっき層が形成されなかった。
△:無電解めっき下地膜(印刷パターン部)の一部にf、めっき層が形成されていない部分もしくは印刷不良部分があるか、又は無電解めっき下地膜(印刷パターン部)以外の部分にめっき層が形成された。
×:めっき層が形成されなかった。
【0150】
(2)めっき層の密着性(めっき後密着性)
めっき積層体の一部を切り出し、切り出した試験片のめっき層に対して、上述した「無電解めっき下地膜の密着性」で説明したのと同様の手順で、JIS K5600-5-6(1999)に準じて密着性試験(クロスカット試験)を行い、剥離(基材とめっき下地膜の間での剥離、めっき下地膜の破壊、及びめっき下地膜とめっき層の間での剥離)の有無を観察し、以下のように判定した。
○:剥離が観察されなかった。
×:剥離が観察された。
【0151】
(3)耐熱性
めっき積層体の一部を切り出し、切り出した試験片のめっき層(無電解めっき層)上に、電気めっきによりさらに、厚さ35μmの銅層(電気めっき層)を積層した。
次いで、JIS C 5012-1993に準じて、試験片の銅層(電気めっき層)の表面を、260℃のはんだ浴(白光株式会社製「FX301B」、はんだの種類:千住金属工業株式会社製「ECOソルダーM705」)に5秒間接触させるはんだフロート試験を行い、はんだ浴から離した後の試験片の変化の有無を目視にて観察し、以下のように判定した。
〇:銅層(電気めっき層)、めっき層(無電解めっき層)及び無電解めっき下地膜のいずれにおいても、剥離、ひび割れのいずれも観察されなかった。
×:銅層(電気めっき層)、めっき層(無電解めっき層)又は無電解めっき下地膜のいずれかに、剥離又はひび割れが観察された。
なお、銅層(電気めっき層)とめっき層(無電解めっき層)との複合層において、両層の境界を目視で判別できない場合(以下の説明において、一体化した複合層と称する。)には、以下のようにして判定した。即ち、一体化した複合層において剥離、ひび割れのいずれかが観察された場合には、銅層(電気めっき層)又はめっき層(無電解めっき層)のいずれかに剥離又はひび割れが観察されたものと判定し、一体化した複合層において剥離、ひび割れのいずれも観察されなかった場合には、銅層(電気めっき層)及びめっき層(無電解めっき層)のいずれにおいても剥離、ひび割れが観察されなかったものと判定した。
【0152】
実施例2~4、比較例1~4
無電解めっき下地膜形成用組成物の各材料の配合量を表1に記載のように変更した他は、実施例1と同様にして、表2に示す割合で各成分を含有する無電解めっき下地膜形成用組成物を調製した。この無電解めっき下地膜形成用組成物を用いて、無電解めっき下地膜及びめっき積層体を製造し、評価した。結果を表3に示す。
【0153】
【0154】
なお、表1において、丸括弧内の数値は、各成分に含まれる不揮発成分の量である。
また、表1において、「その他溶剤」の欄に示す数値は、(E)成分のうち、ポリアニリン複合体粉末を溶解させるのに用いた混合溶剤(1)の量だけを示したものであり、(E)成分のうち、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の各材料に含まれる溶剤の量は、表1の「その他溶剤」の欄の数値には含めていない。
【0155】
【0156】
表2中、「(A)成分」、「(B)成分」、「(C)成分」、及び「(D)成分」の各欄の数値は、それぞれ、無電解めっき下地膜形成用組成物の全質量に占める、各成分の不揮発成分の質量割合である。
また、表2中、「不揮発成分」の欄の数値は、無電解めっき下地膜形成用組成物の全質量に占める、無電解めっき下地膜形成用組成物に含まれる不揮発成分の全量(密度向上剤及び消泡剤を含む)の質量割合である。
また、表2中、「(A)/(A)~(D)」、「(B)/(A)~(D)」、「(C)/(A)~(D)」、「(D)/(A)~(D)」の各欄の数値は、それぞれ、(A)~(D)成分の不揮発成分の合計量に対する、(A)成分、(B)成分、(C)成分、又は(D)成分の各成分の不揮発成分の質量割合である。
【0157】