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特開2022-84400導電性ペースト及び積層セラミックコンデンサ
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  • 特開-導電性ペースト及び積層セラミックコンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084400
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】導電性ペースト及び積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20220531BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20220531BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196256
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸寿
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
5G301
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AH01
5E001AJ01
5E082AB03
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE27
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5G301DA03
5G301DA05
5G301DA06
5G301DA10
5G301DA11
5G301DA12
5G301DA33
5G301DA37
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DD03
5G301DE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い分散性を有し、かつ、経時粘度安定性に優れる導電性ペーストを提供する。
【解決手段】導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、有機溶剤および分散剤を含有する導電性ペーストにおいて、導電性粉末は、相対圧P/P=0.5における単位面積当たりのHO吸着量が、0.30mg/m以上0.70mg/m以下であり、分散剤が、10以上の比誘電率を有し、かつ、1)酸基を有する化合物、及び、2)アミン基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、有機溶剤および分散剤を含有する導電性ペーストにおいて、
前記導電性粉末は、相対圧P/P=0.5における単位面積当たりのHO吸着量が0.30mg/m以上0.70mg/m以下であり、
前記分散剤が、10以上の比誘電率を有し、かつ、1)酸基を有する化合物、及び、2)アミン基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物を含有する、
導電性ペースト。
【請求項2】
前記酸基を有する化合物が、カルボキシル基およびリン酸基の少なくとも一方を含む化合物である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、セルロース系樹脂及びブチラール系樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含有する、請求項1又は請求項2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記バインダー樹脂の含有量が、導電性ペースト100質量%に対して0.5質量%以上10質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記導電性粉末が、Ni、Cu、Ag、Pd、Au、Pt粉末、及びこれらの合金粉末からなる群より選ばれる1種以上の金属粉末を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記導電性粉末が、ニッケル粉末である、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記ニッケル粉末の表面組成において、NiOが20モル%以上90モル%以下である、請求項6に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記導電性粉末の含有量が、導電性ペースト100質量%に対して30質量%以上70質量%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記セラミック粉末が、チタン酸バリウム系およびジルコン酸ストロンチウム系からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
製造後25℃で30日間静置し、ブルックフィールド粘度計にて25℃、10rpmの条件にて測定した際の導電性ペーストの粘度の変化率が、製造8時間後の導電性ペーストの粘度に対して、±10%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、
前記内部電極層は、請求項1~10のいずれか一項に記載の導電性ペーストを用いて形成された、積層セラミックコンデンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペースト及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器などの電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサなどを含む電子部品についても小型化および高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とが交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層及び内部電極層を薄膜化することにより、小型化及び高容量化を図ることができる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、例えば、次のように製造される。まず、チタン酸バリウム(BaTiO)などの誘電体粉末、及び、バインダー樹脂を含有する誘電体グリーンシートの表面上に、内部電極用の導電性ペーストを所定の電極パターンで印刷(塗布)し、乾燥して、乾燥膜を形成する。次に、乾燥膜とグリーンシートとが交互に重なるように積層して積層体を得る。次に、この積層体を加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を切断し、酸化性雰囲気または不活性雰囲気中にて脱有機バインダー処理を行った後、焼成を行い、焼成チップを得る。次いで、焼成チップの両端部に外部電極用ペーストを塗布し、焼成後、外部電極表面にニッケルメッキなどを施して、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
内部電極層の形成に用いられる導電性ペーストは、例えば、導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂及び有機溶剤を含む。また、導電性ペーストは、導電性粉末などの分散性を向上させるために分散剤を含むことがある。
【0005】
近年の内部電極層の薄膜化に伴い、導電性ペーストに含まれる導電性粉末も小粒径化(微粉化)する傾向がある。導電性粉末の粒径が小さくなると、単位体積当たりの表面積が増大するので粒子表面の性質が支配的となる。特に導電性粉末を構成する粒子がサブミクロンレベルになると、粒子同士が分子間力や静電気力などの力により付着して粗大な凝集体を形成しやすくなる。このような凝集体が導電性粉末内に存在すると、積層セラミックコンデンサ製造時においてそれらが内部電極層表面に凸状部を形成し、場合によってはセラミック誘電体層を突き破って内部電極層間でショートを引き起こすおそれがある。
【0006】
導電性ペーストは、例えば、有機溶剤にバインダー樹脂を溶解させた有機ビヒクル中に、導電性粉末などの他の材料を含有させ、混練および分散することで作製される。従来の導電性ペーストの製造工程における混練手法としては、例えば、高速せん断ミキサや2軸以上のプラネタリーミキサなどの装置を使用し、有機ビヒクル中に、導電性粉末およびセラミック粉末などの無機粉末や、分散剤、有機溶剤などを混合(混練)する方法が用いられる。
【0007】
しかしながら、従来の混練手法では、導電性粉末の小粒径化に伴い、有機ビヒクルが十分に混ざらない、導電性粉末やセラミック粉末の表面が十分に濡れない等の状態となることがある。さらに、混錬後、3本ロールミルなどで分散処理を行う場合も、導電性粉末(金属微粉)の分散不良やフレーク等の問題が生じることがある。
【0008】
また、一般的な金属微粉の製造方法の一つである湿式製造法より生成された導電性粉末は、該湿式製造法が有する乾燥工程の段階において導電性粉末の凝集が促進されやすく、導電性粉末を有機ビヒクルに混錬する時点で既に多くの凝集体(2次粒子)を形成しており、上記問題が生じやすい。
【0009】
分散剤を含む導電性ペーストの製造工程において、導電性粉末およびセラミック粉末(以下、両者をまとめて「無機粉末」ともいう)の分散過程に着目した場合、無機粉末を構成する粒子がペースト中に分散する過程は、例えば、以下の工程に分けられる。
【0010】
(1)無機粉末を構成する粒子(2次粒子を含む)の表面が「濡れ」る工程
(2)2次粒子が解砕され、解砕後の粒子がペースト中に分散する工程
(3)解砕後の粒子の「再凝集」を抑制する工程
【0011】
上記(1)濡れる過程は、導電性粉末およびセラミック粉末を構成する粒子の表面に有機ビヒクル/有機溶剤が付着する工程であり、分散剤を含む導電性ペーストでは、この工程にて、2次粒子(凝集体)表面に分散剤が吸着すると同時に、2次粒子内部の空隙に存在する空気が分散剤を含有する有機溶剤により置換され、その2次粒子の内壁に分散剤が吸着する。
【0012】
また、(1)濡れる工程は、具体的には、例えば、上述のミキサなどの装置を使用した混練攪拌を行う工程であり、前処理工程とも呼ばれる。導電性粉末およびセラミック粉末の「濡れ」の程度は、次の分散工程での処理時間に影響する。
【0013】
上記(2)分散工程は、導電性ペースト中の導電性粉末およびセラミック粉末(無機粉末)の分散性に大きく影響する工程であり、具体的には、例えば、3本ロールなどの分散機により、無機粉末の2次粒子(凝集体)を解砕して、解砕された粒子(例:単独の1次粒子または少数の1次粒子が凝集した2次粒子)を、有機ビヒクル中に分散させる工程である。(2)分散工程後の粒子の分散性が悪い場合、導電性ペーストの各種特性のばらつきが大きくなったり、解砕が不十分な2次粒子に起因する粗大粒子により乾燥膜の表面の平滑性の悪化が生じたりする。
【0014】
上記(3)再凝集を抑制する工程は、解砕により新たに表れた粒子表面の新生面に分散剤が吸着することにより、解砕後の粒子の「再凝集」を抑制する工程である。上記(2)分散工程において、分散処理に適切な処理時間を設けないと、解砕後の粒子表面の新生面に分散剤が吸着されない部分が存在する場合があり、(3)再凝集の抑制工程において、解砕後の粒子が再凝集してしまい、導電性ペーストの分散安定性が低下する場合がある。なお、上記(2)分散工程と(3)再凝集の抑制工程は、同時に進行してもよい。
【0015】
導電性ペーストの分散安定性を向上させる手法として、例えば、特許文献1では、分散安定性に優れる導電性ペーストとして、誘電率が4~24の範囲内にある有機溶媒に、特定の金属微粒子を分散させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007-095510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、分散安定性はある程度向上できるものの、上記(2)分散工程において、形成された2次粒子の解砕性を向上させる効果は不十分で、解砕が不十分な2次粒子に起因する粗粒を内包してしまう場合があり、薄膜化の進む小型製品用に好適に用いることが困難である。
【0018】
上記問題点に鑑み、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、本発明者は、無機粉末を構成する粒子表面に対する「濡れ」を改善することにより、上記(2)分散工程において、2次粒子の解砕を容易に行うことができ、かつ、高い分散性が得られること、および、上記(3)再凝集を抑制する工程において、解砕した粒子表面の新生面に分散剤が吸着されやすくなり、粒子の「再凝集」を防止できるため、長期保存しても導電性ペーストの分散安定性を維持することができ、粘度安定性にも優れること、を見出した。
【0019】
本発明は、このような状況に鑑み、積層セラミック電子部品の小型化、薄型化のために微細化した導電性粉末やセラミック粉末を用いた導電性ペーストにおいて、高い分散性を有し、かつ粘度安定性に優れた導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、有機溶剤および分散剤を含有する導電性ペーストにおいて、導電性粉末は、相対圧P/P=0.5における単位面積当たりのHO吸着量が0.30mg/m以上0.70mg/m以下であり、分散剤が、10以上の比誘電率を有し、かつ、1)酸基を有する化合物、及び、2)アミン基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物を含有する、導電性ペーストが提供される。
【0021】
また、酸基を有する化合物が、カルボキシル基およびリン酸基の少なくとも一方を含む化合物であることが好ましい。また、バインダー樹脂が、セルロース系樹脂及びブチラール系樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。また、バインダー樹脂の含有量が、導電性ペースト100質量%に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。また、導電性粉末が、Ni、Cu、Ag、Pd、Au、Pt粉末、及びこれらの合金粉末からなる群より選ばれる1種以上の金属粉末を含有することが好ましい。また、導電性粉末が、ニッケル粉末であることが好ましい。また、ニッケル粉末の表面組成において、NiOが20モル%以上90モル%以下であることが好ましい。また、導電性粉末の含有量が、導電性ペースト100質量%に対して30質量%以上70質量%以下であることが好ましい。また、セラミック粉末が、チタン酸バリウム系およびジルコン酸ストロンチウム系からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、導電性ペーストは、製造後25℃で30日間静置し、ブルックフィールド粘度計にて25℃、10rpmの条件にて測定した際の導電性ペーストの粘度の変化率が、製造8時間後の導電性ペーストの粘度に対して、±10%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の第2の態様によれば、誘電体層と内部電極層とを積層した積層体を少なくとも有し、内部電極層は、上記の導電性ペーストを用いて形成された積層セラミックコンデンサが提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の導電性ペーストは、高い分散性を有し、かつ経時粘度安定性に優れる。よって、本発明の導電性ペーストは、例えば、薄膜化の進む電極等に好適に用いることができ、特に小型化の進む積層セラミック電子部品の電極用に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.導電性ペースト
本発明に係る導電性ペーストは、導電性粉末、セラミック粉末、バインダー樹脂、有機溶剤および分散剤を含有する。以下、本発明に係る導電性ペーストに含まれる各成分、及び、導電性ペーストの特性などについて、詳細に説明する。
【0026】
(1)導電性粉末
導電性粉末は、材質は特に限定されず、要求される特性に応じて、公知の金属粉末などを適宜選択して用いることができる。また、これらの導電性粉末は、単独または混合して用いてもよい。
【0027】
導電性粉末としては、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、金(Au)、白金(Pt)、及び、これらの合金からなる群より選ばれる1種以上の金属粉末を用いることができ、これらの中でも、導電性、耐食性、価格等の観点から総合的に判断すると、Ni、Cu、及び、これらの合金のうち1種以上の金属粉末が好ましく、その中でも、Niの金属粉末(ニッケル粉末)であることがより好ましい。また、ニッケル粉末は、脱バインダー処理の際、バインダー樹脂の部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度の硫黄(S)を含んでもよい。
【0028】
導電性粉末の製造方法は、特に限定されず、例えば、塩化物蒸気を水素ガス中で気相から直接析出させる方法、溶融金属からのアトマイズ法、水溶液を使った噴霧熱分解法、原料の金属塩を水溶液中で還元処理する湿式法等が適用できる。
【0029】
導電性粉末の平均粒径は、特に限定されず、使用対象の電子部品のサイズ等に応じて選定すればよい。導電性粉末の平均粒径は、例えば、薄膜化の進む積層セラミックコンデンサ用としては、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。平均粒径が5μmを超える場合、内部電極表面の凹凸が激しくなり、コンデンサの電気的特性を劣化させることがあり好ましくない。また、導電性粉末の平均粒径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上である。平均粒径が0.05μmより小さい場合、ハンドリングが極めて困難になり、自然発火等の危険性が生じやすい。
【0030】
なお、本明細書において、導電性粉末の平均粒径は、特に断らない限りBET法に基づく比表面積を用いて算出した粒径である。例えば、ニッケル粉末の平均粒径を求める算出式は以下の式(1)のとおりである。
【0031】
粒径=6/(S.A×ρ) ・・・(1)
ρ=8.9(g/cm):ニッケル粉末の真密度
S.A:ニッケル粉末の比表面積
【0032】
また、使用する導電性粉末表面の親水性・疎水性の強さによって、溶媒やビヒクルとの濡れ性が変化し、特に微細化の進む微粉の凝集体の解砕や分散性に大きく影響する。導電性粉末表面の親水性・疎水性の強さは、HO吸着量によって評価することができる。
【0033】
本実施形態に係る導電性ペーストにおいて、用いられる導電性粉末は、相対圧P/P=0.5における単位面積当たりのHO吸着量が0.30mg/m以上0.70mg/m以下であり、0.30mg/m以上0.60mg/m以下であってもよい。HO吸着量が0.30mg/m未満である場合、疎水性が強すぎて、粘度安定性が悪くなる場合がある。これは、比誘電率が高い(親水性が高い)分散剤が導電性粉末に吸着しないために生ずるためと考えられる。また、HO吸着量が0.70mg/mを超える場合、親水性が強くなり過ぎ、粘度安定性が悪くなる場合がある。これは、導電性粉末の比誘電率が高くなりすぎるため、導電性粉末に吸着した分散剤の疎水基が伸びないので、溶剤に馴染みにくくなるために生ずるためと考えられる。
【0034】
また、導電性粉末としてニッケル粉末を用いる場合、その表面組成において、NiOの割合が20モル%以上90モル%以下であることが好ましい。NiOの割合が上記範囲外である場合、導電性粉末の表面への分散剤の吸着状態が適正でなくなったり、導電性粉末とバインダー樹脂との反応が生じてしまったりする場合がある。導電性粉末表面へ分散剤が十分に吸着しない場合、有機溶媒や有機ビヒクルとの濡れ性が悪化し、導電性粉末の凝集体(2次粒子)の解砕や、解砕後の粒子(1次粒子等)の再凝集の抑制が不十分(すなわち、導電性粉末の分散が不十分)となり、導電性ペーストの粘度安定性が低下したり、乾燥膜の表面平滑性に劣ったりすることがある。
【0035】
また、導電性ペーストの粘度安定性や乾燥膜の表面平滑性をより向上させるという観点から、ニッケル粉末の表面組成におけるNiOの割合は、上記範囲内において、50モル%以上であってもよく、60モル%以上であってもよく、70モル%以上であってもよく、80モル%以上であってもよい。NiOの割合が上記範囲内において多いほど、後述する分散剤が少量であっても、高い分散性を有する導電性ペーストを得ることができる。
【0036】
なお、ニッケル粉末の表面組成におけるNiOの割合は、X線光電子分光法(XPS)を用いて、測定することができる。例えば、XPSを用いて、ニッケル粉末表面のNi2pスペクトルを解析して、Niピーク、Ni(OH)ピーク、および、NiOピークが検出された場合、これら3成分のピーク面積全量に対する、NiOピークの面積比から、NiOの割合(モル%)を測定することができる。
【0037】
また、導電性粉末の含有割合は、導電性ペースト全質量に対して、好ましくは30質量%以上70質量%以下である。導電性粉末の割合が30質量%を下回ると焼成後の電極厚みが著しく薄くなり抵抗値が上昇したり、電極膜の形成が不充分で導電性を失い、目的とする静電容量が得られなかったりする場合があるので好ましくない。70質量%を上回ると電極膜の薄層化が困難となるので好ましくない。ペースト全体に対する導電性粉末の割合は、40質量%以上60質量%以下とすることがより好ましい。
【0038】
(2)セラミック粉末
セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用ペーストである場合、適用する積層セラミックコンデンサの種類により適宜、公知のセラミック粉末を選択することができる。セラミック粉末は、例えば、チタン酸バリウム系、およびジルコン酸ストロンチウム系からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物粉末を含むことが好ましく、これらの中でも、チタン酸バリウム(BaTiO、以下、「BT」と称す場合がある)の粉末を含むことが好ましい。
【0039】
チタン酸バリウム系の酸化物粉末としては、例えば、チタン酸バリウム(BT)を主成分として含み、他の酸化物を副成分として含む粉末を用いることができる。副成分である他の酸化物としては、例えば、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、および希土類元素から選ばれる1種類以の酸化物が挙げられる。また、チタン酸バリウム系の酸化物粉末としては、チタン酸バリウム(BaTiO)のBa原子及び/又はTi原子を他原子、錫(Sn)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)などで置換したようなペロブスカイト型酸化物強誘電体の粉末を用いてもよい。
【0040】
セラミック粉末としては、チタン酸バリウム系、およびジルコン酸ストロンチウム系の酸化物粉末以外のその他の粉末を含んでもよく、例えば、積層セラミックデバイスのグリーンシートを形成するセラミック粉末である、酸化亜鉛(ZnO)、フェライト、チタン・ジルコン酸鉛(PZT)、酸化バリウム(BaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ビスマス(Bi)、希土類酸化物、酸化チタン(TiO)、酸化ネオジム(Nd)などのセラミック粉末を含有させることもできる。
【0041】
セラミック粉末の平均粒径は、使用対象の電子部品のサイズ等に応じて選定すればよいが、例えば、薄膜化の進む積層電子部品用としては、0.01μm以上0.5μm以下の範囲が好ましい。0.5μmを超えると塗布および乾燥後の膜表面の凹凸が激しくなり、また0.01μmより小さくなるとハンドリングが極めて困難になり、自然発火等の危険性も生じやすいため好ましくない。なお、セラミック粉末の平均粒径は、上記の導電性粉末の平均粒径の測定方法と同様、BET法に基づく比表面積を用いて算出した粒径である(例えば、チタン酸バリウムの場合は、ρ=6.1(g/cm)を用いて、上記式(1)から平均粒径が算出される)。
【0042】
セラミック粉末の含有量は、導電性ペースト全質量に対して、例えば、1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。
【0043】
(3)バインダー樹脂
バインダー樹脂は、導電性ペーストを印刷する際、適度な粘調性と粘着性を発揮し、印刷性を向上させるほか、乾燥特性などを向上させる効果も有する。
【0044】
バインダー樹脂としては、特に限定されず、要求される特性に応じて公知の材料を用いることができるが、例えば、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、及び、アクリル樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましく、セルロース系樹脂及びブチラール系樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含有することがより好ましい。
【0045】
セルロース系樹脂としては、アセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、及びニトロセルロース、部分エーテル化セルロース類などが挙げられる。また、ブチラール系樹脂としては、ポリビニルブチラールなどが挙げられる。
【0046】
中でも、溶剤への溶解性、燃焼分解性の観点などからエチルセルロースを含むことが好ましい。また、積層電子部品用に用いる場合、グリーンシートとの接着強度を向上させる観点からブチラール系樹脂を含む、又は、ブチラール系樹脂を単独で使用してもよい。バインダー樹脂は、1種類を用いてもよく、又は、2種類以上を用いてもよい。
【0047】
バインダー樹脂の含有量は、導電性ペースト全質量に対して、膜強度、脱バインダー性、印刷性、粘度の観点から、好ましくは0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0048】
バインダー樹脂の含有量が上記範囲より小さい場合、乾燥膜の強度が低下したり、積層時に導電性ペーストの電極パターン部と誘電体シートとの密着性が悪くなり剥がれやすくなったりすることがある。一方、バインダー樹脂の含有量が上記範囲を超える場合、バインダー樹脂の含有量が多くなり過ぎるため、脱バインダー性が悪化し、バインダー樹脂の一部が残留してしまったりすることがある。
【0049】
(4)有機溶剤
有機溶剤としては、特に限定されず、上記バインダー樹脂を溶解することができ、導電性粉末を分散させて、導電性ペーストとしての粘度が調整でき、適切な流動性、印刷性、乾燥特性などを付与することができる、公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、沸点が150℃から250℃程度の有機溶剤、テルペン系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、アルコール類など、各種公知の有機溶剤(非水溶性溶剤)を用いることができる。
【0050】
テルペン系溶剤としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテートが挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、デカン、トリデカンなどが挙げられる。アルコール類としては、例えば、デカノール、トリデカノールなどが挙げられる。上記以外の沸点が150℃から250℃程度の有機溶剤としては、例えば、イソボルニルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0051】
有機溶剤の含有量は、導電性ペースト全質量に対して、蒸発量、粘性、バインダー樹脂との相溶性、印刷性の観点から、30質量%以上70質量%以下が好ましく、40質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0052】
導電性ペーストの製造工程において、各材料を混合する順番は特に限定されないが、予め、有機溶剤の一部に、上記バインダー樹脂を溶解して、有機ビヒクルを作製した後、この有機ビヒクルと、他の材料及び残りの有機溶剤(粘度調整用)とを混合することが好ましい。有機ビヒクルに含有されるバインダー樹脂の配合量は、特に限定されないが、小型化の進む電子部品用に用いる導電性ペーストを適正な粘度とする観点から、有機ビヒクル全質量に対して、1質量%以上30質量%以下とするのが好ましく、5質量%以上20質量%以下とするのがより好ましい。
【0053】
(5)分散剤
分散剤の役割は、無機粉末(導電性粉末およびセラミック粉末)の表面に吸着し無機粉末同士の凝集を抑制したり、有機ビヒクルとの濡れ性を向上させて導電性ペースト内に分散させたりすることである。分散剤(界面活性剤)は一般に、カチオン系分散剤、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤および両性分散剤に分類される。
【0054】
無機粉末を分散させるための分散剤としては、アニオン系分散剤(例えば、カルボン酸系分散剤、リン酸系分散剤、リン酸塩系分散剤などの酸系分散剤)が好ましく用いられている。しかしながら、無機粉末の小粒径化に伴い、アニオン系分散剤を用いても、無機粉末が十分に分散しない場合もあった。
【0055】
そこで、本発明者が鋭意研究開発した結果、上述した特定の範囲のHO吸着量を有する導電性粉末と組み合わせて、比誘電率が10以上であり、かつ、酸基および/又はアミン基を有する化合物を含む、分散剤を使用することにより、分散性を向上できることを見出した。このような分散剤は、無機粉末表面への吸着力が大きく、無機粉末と有機ビヒクルとの濡れ性が向上するため(前記(1)「濡れ」る工程)、その表面改質作用により無機粉末の解砕を促進させ(前記(2)分散する工程)、かつ、再凝集を抑制すること(前記(3)「再凝集」を抑制する工程)により、分散性を上げるのに寄与すると考えられる。
【0056】
分散剤の比誘電率は、10以上であればよく、11以上であってもよく、12以上であってもよい。比誘電率が上記範囲を満たす分散剤を使用することにより、塗膜(乾燥膜)の平滑性や乾燥膜密度を向上させることができる。なお、本明細書で用いる分散剤の比誘電率は、20℃における比誘電率を示す。また、比誘電率は、液体試料用の電極セルに評価用試料(使用する分散剤)を入れて測定することができる。なお、分散剤の比誘電率の上限は特に限定されないが、例えば、15以下程度である。
【0057】
また、分散剤は、1)酸基を有する化合物、及び、2)アミン基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物を含有する。また、分散剤は、上記1)酸基を有する化合物、および2)アミン基を有する化合物の両方に該当する化合物、すなわち、3)酸基とアミン基を同一分子内に有する化合物であってもよく、1)酸基を有する化合物と、2)アミン基を有する化合物との両方の化合物を含む混合物であってもよい。
【0058】
酸基を有する化合物としては、カルボキシル基およびリン酸基の少なくとも一方を含む化合物が好ましい。また、アミン基を有する化合物とは、第1級アミン、第2級アミン、及び、第3級アミンを含む。
【0059】
また、分散剤は、アミン価が100以上の分散剤を含むことがより好ましい。アミン価が100以上の分散剤を用いる場合、導電性ペーストの分散性がより向上し、塗布後の乾燥膜表面の平滑性をより向上させることができる。
【0060】
また、分散剤は、酸基を有する化合物を含む場合、酸基を有する分散剤の酸価は、30以上300以下であってもよく、30以上200以下であってもよい。
【0061】
分散剤の含有量は、導電性ペースト全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上1.0質量%以下である。分散剤の含有量が0.1質量%未満であると、分散剤の含有量が少なすぎて、解砕、再凝集抑制の効果が得られないことがある。一方、分散剤の含有量が2.0質量%超であると、印刷性等のペースト特性が大幅に変わることがあり、望ましくない。
【0062】
(6)その他の添加成分
本発明の導電性ペーストには、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、必要に応じて消泡剤、可塑剤、増粘剤、キレート剤、上記分散剤以外の分散剤、チクソ剤などの公知の添加物を1種以上、添加してもよい。
【0063】
(7)導電性ペーストの製造方法、および特性
(製造方法)
本実施形態に係る導電性ペーストの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、導電性ペーストは、上記の各材料をミキサ、ボールミル、ニーダ、ロールミルなどの装置により混練、及び分散を行い、スラリー化することにより製造される。
【0064】
(粘度変化率)
本実施形態に係る導電性ペーストは、製造後25℃で30日間静置し、ブルックフィールド粘度計にて25℃、10rpmの条件にて測定した際の粘度(η30)の変化率が、製造8時間後の粘度(η)に対して、±10%以下であることが好ましい。導電性ペーストの粘度の変化率が上記範囲内である場合、導電性ペーストの分散性に優れる。
【0065】
なお、30日間静置後の導電性ペーストの粘度変化率は、以下の式(2)で求めることができる。
【0066】
粘度変化率(%)=(η30-η)/η×100・・・(2)
η30:30日後の10rpm粘度
η:製造8時間後の10rpm粘度(初期粘度)
【0067】
(光沢度)
本実施形態に係る導電性ペーストは、その乾燥膜の光沢度が10以上であることが好ましく、15以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。乾燥膜の光沢度が高いほど、乾燥膜の表面全体の乱反射が少なく、より平滑な表面が得られていることを示す。
【0068】
なお、評価用の乾燥膜は、例えば、導電性ペーストをPETフィルム上に5×10cmの面積で膜厚30μmとなるように印刷した後、120℃で40分間、空気中で乾燥させて得ることができる。
【0069】
2.積層セラミックコンデンサ
以下、本発明に係る積層セラミックコンデンサの実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面においては、適宜、模式的に表現することや、縮尺を変更して表現することがある。また、部材の位置や方向などを、適宜、図1などに示すXYZ直交座標系を参照して説明する。このXYZ直交座標系において、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向(上下方向)である。
【0070】
図1A及びBは、実施形態に係る電子部品の一例である、積層セラミックコンデンサ1を示す図である。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層12及び内部電極層11を交互に積層したセラミック積層体10と外部電極20とを備える。
【0071】
以下、上記導電性ペーストを使用した積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。まず、セラミックグリーンシート上に、導電性ペーストを印刷し、乾燥して、乾燥膜を形成する。この乾燥膜を上面に有する複数のセラミックグリーンシートを、圧着により積層させて積層体を得た後、積層体を焼成して一体化することにより、内部電極層11と誘電体層12とが交互に積層したセラミック積層体10を作製する。その後、セラミック積層体10の両端部に一対の外部電極を形成することにより積層セラミックコンデンサ1が製造される。以下に、より詳細に説明する。
【0072】
まず、未焼成のセラミックシートであるセラミックグリーンシートを用意する。このセラミックグリーンシートとしては、例えば、チタン酸バリウム等の所定のセラミックの原料粉末に、ポリビニルブチラール等の有機バインダーとターピネオール等の溶剤とを加えて得た誘電体層用ペーストを、PETフィルム等の支持フィルム上にシート状に塗布し、乾燥させて溶剤を除去したもの等が挙げられる。なお、セラミックグリーンシートからなる誘電体層の厚みは、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサの小型化の要請の観点から、0.05μm以上3μm以下が好ましい。
【0073】
次いで、このセラミックグリーンシートの片面に、グラビア印刷法を用いて、上述の導電性ペーストを印刷して塗布し、乾燥して、セラミックグリーンシートの片面に乾燥膜を形成したものを複数枚、用意する。なお、導電性ペーストから形成される乾燥膜の厚みは、内部電極層11の薄層化の要請の観点から、乾燥後1μm以下とすることが好ましい。
【0074】
次いで、支持フィルムから、セラミックグリーンシートを剥離するとともに、セラミックグリーンシートとその片面に形成された乾燥膜とが交互に配置されるように積層した後、加熱・加圧処理により積層体を得る。なお、積層体の両面に、導電性ペーストを塗布していない保護用のセラミックグリーンシートを更に配置する構成としても良い。
【0075】
次いで、積層体を所定サイズに切断してグリーンチップを形成した後、グリーンチップに対して脱バインダー処理を施し、還元雰囲気下において焼成することにより、積層セラミック焼成体(セラミック積層体10)を製造する。なお、脱バインダー処理における雰囲気は、大気またはNガス雰囲気にすることが好ましい。脱バインダー処理を行う際の温度は、例えば200℃以上400℃以下である。また、脱バインダー処理を行う際の、上記温度の保持時間を0.5時間以上24時間以下とすることが好ましい。また、焼成は、内部電極層に用いる金属の酸化を抑制するために還元雰囲気で行われ、また、積層体の焼成を行う際の温度は、例えば、1000℃以上1350℃以下であり、焼成を行う際の、温度の保持時間は、例えば、0.5時間以上8時間以下である。
【0076】
グリーンチップの焼成を行うことにより、セラミックグリーンシート中の有機バインダーが完全に除去されるとともに、セラミックの原料粉末が焼成されて、セラミック製の誘電体層12が形成される。また乾燥膜中の有機ビヒクルが除去されるとともに、ニッケル粉末またはニッケルを主成分とする合金粉末が焼結もしくは溶融、一体化されて、内部電極層11が形成され、誘電体層12と内部電極層11とが複数枚、交互に積層された積層セラミック焼成体が形成される。なお、酸素を誘電体層の内部に取り込んで信頼性を高めるとともに、内部電極の再酸化を抑制するとの観点から、焼成後の積層セラミック焼成体に対して、アニール処理を施してもよい。
【0077】
そして、作製した積層セラミック焼成体に対して、一対の外部電極20を設けることにより、積層セラミックコンデンサ1が製造される。例えば、外部電極20は、外部電極層21及びメッキ層22を備える。外部電極層21は、内部電極層11と電気的に接続する。なお、外部電極20の材料としては、例えば、銅やニッケル、またはこれらの合金が好適に使用できる。なお、電子部品は、積層セラミックコンデンサ以外の電子部品を用いることもできる。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例と比較例に基づき詳細に説明するが、本発明は実施例によって何ら限定されるものではない。
【0079】
[評価項目およびその方法]
(1)導電性ペーストの経時粘度変化率
導電性ペーストの経時粘度変化率は、下記の式(2)に示すように、まず、製造8時間後の導電性ペーストの粘度を初期粘度(η)として測定し、次いで、常温(25℃)で1日、10日および30日間静置した後の導電性ペーストの粘度(η)をそれぞれ測定した後、それぞれの日数静置した後の粘度の変化量を初期粘度(η)で割った百分率(%)で表される。30日後の粘度変化率だけでなく、1日後、10日後の粘度変化率を測定することにより、粘度変化の傾向も確認した。
【0080】
粘度変化率(%)=(η-η)/η×100 ・・・(2)
η:X日後の10rpm粘度
η:製造8時間後の10rpm粘度(初期粘度)
【0081】
なお、それぞれの導電性ペーストの粘度は、ブルックフィールド社製B型粘度計を用いて、25℃、10rpm(ずり速度=4sec-1)の条件で測定される。導電性ペーストの経時粘度変化率は少ないほど好ましい。
【0082】
(2)乾燥膜表面の平滑性(光沢度)
乾燥膜表面の平滑性の指標として、以下の方法で測定した値(光沢度)を評価した。
【0083】
まず、導電性ペーストをPETフィルム上に5×10cmの面積で膜厚30μmとなるように印刷した後、120℃で40分間、空気中で乾燥させ、乾燥膜(乾燥後の導電性ペースト)を得た。得られた乾燥膜の表面に対し、入射角60°の時の光沢度を、光沢度計(堀場製作所製グロスチェッカー;IG―320)を用いて測定した。光沢度が高いほど乱反射が少なく、より平滑な表面が得られていることを示す。
【0084】
(3)HO吸着量
評価用試料(導電性粉末)を25℃で8時間、真空脱気を行った後、高精度蒸気吸着量測定装置BELSORP-aqua3(マイクロトラック・ベル(株))を用いてHO吸着等温線を測定し、相対圧P/P=0.5の時のHO吸着量を求めた。また、窒素吸着法によるBET法を用いて、評価用試料の比表面積値を求めた。得られたHO吸着量を比表面積値で割ることにより、単位面積当たりのHO吸着量を算出した。
【0085】
(4)ニッケル粉末表面のNiOの割合
導電性粉末として使用したNi粉末の表面を、X線光電子分光法(XPS)で測定し、水酸化ニッケル(Ni(OH))、酸化ニッケル(NiO)に帰属されるニッケル、及び金属ニッケルのピークを検出し、それぞれの存在割合からNiOの割合(モル%)を算出した。
【0086】
(5)分散剤の比誘電率
使用する分散剤を液体試料用の電極セルに入れ、周波数:1MHz、電圧:1Vの条件下でLCRメータ(HP-4278A)を使って比誘電率を求めた。
【0087】
[実施例1]
導電性粉末として、ニッケル粉末(HO吸着量0.31mg/m、NiOの表面存在割合34モル%、粒径0.4μm)を47質量%、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(粒径0.05μm)を4.7質量%、有機ビヒクルを26.67質量%、分散剤を0.4質量%、残部の有機溶剤を21.23質量%、配合した。
【0088】
有機ビヒクルは、バインダー樹脂としてエチルセルロースを13質量%、有機溶剤としてターピネオールを87質量%配合し、60℃で加熱混合して作製したものを用いた。
【0089】
分散剤は、比誘電率が12.5、酸価58、アミン価110のアミン系分散剤(酸基を有する化合物とアミン基を有する化合物の混合物)を用いた。
【0090】
有機溶剤としては、ターピネオールを用いた。
【0091】
これらの材料を、25℃、相対湿度55%、の環境下、3本ロールミルで混錬および分散を行い、導電性ペーストを作製した。作製した導電性ペーストの初期粘度および所定の経時後の粘度を測定し、それぞれの経時における粘度変化率を算出した。また、作製した導電性ペーストを用いて作製した乾燥膜の光沢度を測定した。
【0092】
用いた各材料の種類や含有量などを表1に、表2に測定結果および算出結果を示す。
【0093】
[実施例2]
導電性粉末として、HO吸着量0.53mg/m、NiOの表面存在割合26%、粒径0.2μmのNi粉末を用い、分散剤の含有量を0.6mass%とし、有機溶剤をジヒドロターピニルアセテートとして残部含有量を21.03mass%とした以外は実施例1と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[実施例3]
導電性粉末として、HO吸着量0.42mg/m、NiOの表面存在割合45%、粒径0.08μmのNi粉末を用い、セラミック粉末として粒径0.02μmのBTを用い、分散剤の含有量を1.5mass%とし、有機溶剤の残部含有量を20.13mass%とした以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[実施例4]
分散剤として比誘電率が11.4、酸価129のカルボキシル基を有する酸系分散剤を用いた以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[実施例5]
導電性粉末として、HO吸着量0.53mg/m、NiOの表面存在割合45%、粒径0.08μmのNi粉末を用い、セラミック粉末として粒径0.02μmのBTを用い、分散剤の含有量を1.5mass%とし、有機溶剤の残部含有量を20.13mass%とした以外は実施例4と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[実施例6]
分散剤の含有量を1.5mass%とし、有機溶剤の残部含有量を20.13mass%とした以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[実施例7]
導電性粉末として、HO吸着量0.34mg/m、NiOの表面存在割合79%、粒径0.2μmのNi粉末を用いた以外は実施例6と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[実施例8]
導電性粉末として、HO吸着量0.38mg/m、NiOの表面存在割合89%、粒径0.2μmのNi粉末を用いた以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
【0094】
[比較例1]
分散剤として比誘電率が3.0、酸価53、アミン価48のアミン基を有するアミン系分散剤を用いた以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[比較例2]
分散剤として比誘電率が8.5、酸価60、アミン価60のアミン基を有するアミン系分散剤を用いた以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[比較例3]
導電性粉末として、HO吸着量0.29mg/m、NiOの表面存在割合49%、粒径0.2μmのNi粉末を用いた以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[比較例4]
導電性粉末として、HO吸着量0.29mg/m、NiOの表面存在割合49%、粒径0.2μmのNi粉末を用いた以外は実施例6と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
[比較例5]
導電性粉末として、HO吸着量0.71mg/m、NiOの表面存在割合42%、粒径0.2μmのNi粉末を用いた以外は実施例2と同様にして、導電性ペーストを作製した。用いた各材料の種類や含有量などを表1に示す。また、得られた導電性ペーストに関して、実施例1と同様に粘度変化率、および光沢度を求めた。その結果を表2に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
(評価結果)
比誘電率10以上の分散剤を含有した実施例の導電性ペーストは、比誘電率が10未満である比較例の導電性ペーストに比べ、乾燥膜表面の光沢度が高く、平滑性に優れていることがわかる。また、粘度変化率も小さいことから、分散剤の吸着による分散性の向上が長期間にわたって維持されていることがわかる。
【0098】
アミン価を有しない分散剤を使用した実施例4と実施例5は、他の実施例に比べると光沢度が若干低いが、比較例に比べると、十分に高い光沢度と小さな粘度変化率を示している。よって、乾燥膜表面全体の平滑性を向上させるという観点から、アミン価が100以上の分散剤を用いる方が好ましいことが分かる。
【0099】
一方、比誘電率10未満の分散剤を含有した比較例の導電性ペーストは、乾燥膜表面の光沢度が非常に低く、平滑性に劣ることが分かる。これは、分散剤が所定の特性を満たしていないため、粒子表面への濡れ性が悪く、分散剤が粒子表面へ十分に吸着されないため、粒子の解砕や再凝集の抑制が十分にできないため、導電性ペーストの分散性が悪く、材料の偏りが発生し、乾燥膜表面の平滑性が劣っていると考えられる。また、分散剤の吸着性が劣るため、分散安定性が悪く、各材料の凝集などが時間と共に増えてしまい、そのために粘度変化率が時間と共に大きくなっていると考えられる。
【0100】
また、単位面積当たりのHO吸着量が発明の範囲外である比較例3~5は、平滑性はある程度低いものの、いずれも導電性粉末の表面状態が適切でないため、ペースト化した際の分散安定性が悪く、導電性粉末同士の凝集などが時間とともに増加し、粘度変化率も時間と共に大きくなっていると考えられる。
【0101】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0102】
1 積層セラミックコンデンサ
10 セラミック積層体
11 内部電極層
12 誘電体層
20 外部電極
21 外部電極層
22 メッキ層

図1