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特開2022-84441混合物の製造装置および混合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022084441
(43)【公開日】2022-06-07
(54)【発明の名称】混合物の製造装置および混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20220531BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20220531BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220531BHJP
   H01M 4/38 20060101ALN20220531BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
B01J19/08 K
B82Y40/00
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020196326
(22)【出願日】2020-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】田中 康規
(72)【発明者】
【氏名】明石 恵太
(72)【発明者】
【氏名】古川 颯大
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 周
(72)【発明者】
【氏名】末安 志織
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭太郎
【テーマコード(参考)】
4G072
4G075
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB04
4G072BB05
4G072DD06
4G072GG03
4G072GG04
4G072HH01
4G072LL01
4G072LL03
4G072MM01
4G072RR07
4G072RR13
4G072RR25
4G072UU01
4G072UU02
4G075AA27
4G075AA63
4G075BB02
4G075BB03
4G075CA03
4G075CA48
4G075DA02
4G075EB43
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB11
5H050FA16
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA29
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】ナノサイズの微粒子とナノワイヤとの混合物を製造する混合物の製造装置および混合物の製造方法を提供する。
【解決手段】微粒子とナノワイヤの混合物の製造装置は、熱プラズマ炎に混合物用の原料を供給する原料供給部と、内部に熱プラズマ炎が発生され、原料供給部により供給される原料を熱プラズマ炎にて蒸発させて気相状態の混合体とするプラズマトーチと、プラズマトーチの内部に熱プラズマ炎を発生させるプラズマ発生部と、熱プラズマ炎に急冷ガスを供給する気体供給部とを有する。原料はシリコンである。プラズマ発生部は熱プラズマ炎として温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、低温状態とにさせ、原料供給部は変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに原料の供給量を多くし、気体供給部は変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに急冷ガスの供給量を多くする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置であって、
熱プラズマ炎に、混合物用の原料を供給する原料供給部と、
内部に前記熱プラズマ炎が発生され、前記原料供給部により供給される前記原料を前記熱プラズマ炎にて蒸発させて気相状態の混合体とするプラズマトーチと、
前記プラズマトーチの内部に前記熱プラズマ炎を発生させるプラズマ発生部と、
前記熱プラズマ炎に、急冷ガスを供給する気体供給部とを有し、
前記原料は、シリコンであり、
前記プラズマ発生部は、前記熱プラズマ炎として、温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、前記変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、前記高温状態よりも温度が低い低温状態とにさせ、
前記原料供給部は、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態のときに、前記原料の供給量を多くし、
前記気体供給部は、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態のときに、前記急冷ガスの供給量を多くする、混合物の製造装置。
【請求項2】
前記原料供給部は、前記原料を、粒子状に分散させた状態で、前記熱プラズマ炎中に供給する、請求項1に記載の混合物の製造装置。
【請求項3】
前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態になるタイミングと、前記急冷ガスを供給するタイミングとの差をδとし、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態から前記低温状態に切り換るタイミングをtとするとき、0<δ≦tである、請求項1または2に記載の混合物の製造装置。
【請求項4】
微粒子とナノワイヤとの混合物の製造方法であって、
熱プラズマ炎に、混合物用の原料を供給する第1の工程と、
前記原料を前記熱プラズマ炎で蒸発させ気相状態の混合体とし、前記熱プラズマ炎に急冷ガスを供給する第2の工程を有し、
原料は、シリコンであり、
前記第1の工程では、前記熱プラズマ炎の温度状態を時間変調させて変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、前記変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、前記高温状態よりも温度が低い低温状態とにし、前記原料を前記高温状態の前記変調誘導熱プラズマ炎に間歇的に供給し、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態のときに、前記原料の供給量を多くし、
前記第2の工程では、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態のときに、前記急冷ガスの供給量を多くする、混合物の製造方法。
【請求項5】
前記原料を供給する前記第1の工程では、前記原料を粒子状態に分散して供給する請求項4に記載の混合物の製造方法。
【請求項6】
前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態になるタイミングと、前記急冷ガスを供給するタイミングとの差をδとし、前記変調誘導熱プラズマ炎が前記高温状態から前記低温状態に切り換るタイミングをtとするとき、0<δ≦tである、請求項4または5に記載の混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置および混合物の製造方法に関し、特に、熱プラズマ炎の温度状態、原料供給、および熱プラズマ炎の冷却に用いる急冷ガスを時間変調させる、混合物の製造装置および混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シリコン微粒子、酸化物微粒子、窒化物微粒子、炭化物微粒子等の微粒子は、多岐の分野で用いられている。また、ナノワイヤは、半導体素子、センサ、太陽電池、リチウムイオン電池等の性能を向上させる材料として注目されている。上述の微粒子、およびナノワイヤは様々な用途に利用されている。
例えば、特許文献1には、シリコンを含む複数の独立粒子に、シリコンを含む複数のシリコンナノワイヤが配され、シリコンナノワイヤが相互に絡み合ったシリコンナノワイヤーネットワークを構成し、独立粒子およびシリコンナノワイヤーネットワークにリチウムを吸蔵させる電気化学素子の電極材料が記載されている。
シリコンナノワイヤーネットワークは、独立粒子と独立粒子を繋いで存在し、独立粒子の径0.5~10μm程度であり、シリコンナノワイヤの径は、10nm~500nm程度である。
また、特許文献1には、電気化学素子の電極材料を製造するための電極材料の製造方法として、不活性ガスを含むガスを用いて高周波電力の印加による熱プラズマを形成する工程と、シリコンを含む原料を熱プラズマ中に投入する工程と、熱プラズマ雰囲気を経た原料を支持体に送る工程を含むことが記載されている。
【0003】
特許文献2には、基板と、基板上に具備された第1++型多結晶シリコン層と、第1++型多結晶シリコン層から成長した第1型シリコンナノワイヤを含む第1型シリコンナノワイヤ層と、第1型シリコンナノワイヤ層が具備された基板上に具備された真性層と、真性層上に具備された第2型ドーピング層と、を含む太陽電池が記載されている。
また、特許文献2には、基板上に第1++型多結晶シリコン層を形成する第1++型多結晶シリコン層形成ステップと、第1++型多結晶シリコン層上に金属薄膜層を形成する金属薄膜層形成ステップと、金属薄膜層を金属ナノ粒子に形成する金属ナノ粒子形成ステップと、金属ナノ粒子をシードにして第1++型多結晶シリコン層から第1型シリコンナノワイヤを成長させる第1型シリコンナノワイヤ成長ステップと、を含むシリコンナノワイヤ形成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-269827号公報
【特許文献2】特開2010-192870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシリコンナノワイヤーネットワークは、独立粒子の径が0.5~10μm程度と大きい。シリコンは電荷をもつと膨張するため、シリコンナノワイヤと同居させ空間を持つことで、固体電極を形成したときに膨張時の体積を吸収できる。しかしながら、シリコン粒子の粒径が大きいと、シリコン粒子周辺に大きな空間が必要であり、クラックが抑えきれない。特許文献1のシリコンナノワイヤーネットワークを電極材料に用いた場合、十分な機能を発揮できない。また、特許文献1の電極材料の製造方法には、粒径が小さい独立粒子の製造方法が記載されていない。
特許文献2では、第1型シリコンナノワイヤ層が基板上に形成されたものであり、ナノ粒子について記載されていない。また、ナノ粒子の製造方法も記載されていない。
このように、ナノサイズの微粒子とナノワイヤとの混合物の製造方法が示されていないのが現状である。
【0006】
本発明の目的は、ナノサイズの微粒子とナノワイヤとの混合物を製造する混合物の製造装置および混合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の一態様は、微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置であって、熱プラズマ炎に、混合物用の原料を供給する原料供給部と、内部に熱プラズマ炎が発生され、原料供給部により供給される原料を熱プラズマ炎にて蒸発させて気相状態の混合体とするプラズマトーチと、プラズマトーチの内部に熱プラズマ炎を発生させるプラズマ発生部と、熱プラズマ炎に、急冷ガスを供給する気体供給部とを有し、原料は、シリコンであり、プラズマ発生部は、熱プラズマ炎として、温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態とにさせ、原料供給部は、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、原料の供給量を多くし、気体供給部は、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、急冷ガスの供給量を多くする、混合物の製造装置を提供するものである。
【0008】
原料供給部は、原料を、粒子状に分散させた状態で、熱プラズマ炎中に供給することが好ましい。
変調誘導熱プラズマ炎が高温状態になるタイミングと、急冷ガスを供給するタイミングとの差をδとし、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態から低温状態に切り換るタイミングをtとするとき、0<δ≦tであることが好ましい。
【0009】
本発明の他の態様は、微粒子とナノワイヤとの混合物の製造方法であって、熱プラズマ炎に、混合物用の原料を供給する第1の工程と、原料を熱プラズマ炎で蒸発させ気相状態の混合体とし、熱プラズマ炎に急冷ガスを供給する第2の工程を有し、原料は、シリコンであり、第1の工程では、熱プラズマ炎の温度状態を時間変調させて変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態とにし、原料を高温状態の変調誘導熱プラズマ炎に間歇的に供給し、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、原料の供給量を多くし、第2の工程では、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、急冷ガスの供給量を多くする、混合物の製造方法を提供するものである。
【0010】
原料を供給する第1の工程では、原料を粒子状態に分散して供給することが好ましい。
変調誘導熱プラズマ炎が高温状態になるタイミングと、急冷ガスを供給するタイミングとの差をδとし、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態から低温状態に切り換るタイミングをtとするとき、0<δ≦tであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微粒子とナノワイヤとの混合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置の一例を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態の微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置のプラズマトーチの一例を示す模式的部分断面図である。
図3】パルス変調時のコイル電流の時間変化を説明図するグラフである。
図4】(a)はコイル電流を変調するためのパルス制御信号を示すグラフであり、(b)は急冷ガスの供給タイミングを示すグラフであり、(c)は原料を供給するためのバルブの開閉タイミングを示すグラフであり、(d)は原料の供給を示すグラフである。
図5】実験例1のSEM像を示す模式図である。
図6】実験例2のSEM像を示す模式図である。
図7】実験例3のSEM像を示す模式図である。
図8】実験例4のSEM像を示す模式図である。
図9】実験例5のSEM像を示す模式図である。
図10】実験例6のSEM像を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の混合物の製造装置および混合物の製造方法を詳細に説明する。
なお、以下に説明する図は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
【0014】
(混合物の製造装置)
図1は本発明の実施形態の微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置の一例を示す模式図であり、図2は本発明の実施形態の微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置のプラズマトーチの一例を示す模式的部分断面図である。図3はパルス変調時のコイル電流の時間変化を説明図するグラフである。
図1に示す微粒子とナノワイヤとの混合物の製造装置10(以下、単に製造装置10という)は、微粒子とナノワイヤとの混合物用の原料に、シリコンを用いて、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物を製造するものである。混合物用の原料に、例えば、シリコンの粉末を用いる。
【0015】
[混合物]
ここで、微粒子とは、ナノサイズの微粒子であり、粒径が10~200nm程度の粒子である。微粒子の粒径は、好ましくは10~150nmである。微粒子の粒径は、SEMを用いて微粒子の10視野の画像を取得し、各視野画像における微粒子の粒径を測定して得られた10視野画像の微粒子の粒径の平均値である。
また、シリコンの微粒子は、シリコンで構成されたものである。なお、微粒子は、表面に炭素等の微粒子を構成するもの以外の物質が担持またはコーティングされていてもよい。
ナノワイヤとは、直径が20~50nm程度で、長さが直径の10倍以上のもののことである。ナノワイヤは長さが直径の10倍以上であれば、上限値は、特に限定されるものではなく、例えば、製造条件等の制約を受ける。また、シリコンのナノワイヤとは、シリコンで構成されたものである。なお、ナノワイヤは、上述の微粒子と同様に、表面に炭素等のナノワイヤを構成するもの以外の物質が担持またはコーティングされていてもよい。
混合物は、上述の微粒子と、ナノワイヤとを含む。
【0016】
図1に示す製造装置10は、原料供給部12と、プラズマトーチ14と、チャンバー16と、回収部18と、プラズマガス供給部20と、プラズマ発生部21と、気体供給部22と、制御部24とを有する。
原料供給部12はプラズマトーチ14に中空状の供給管13を介して接続されている。
また、原料供給部12とプラズマトーチ14との間の供給管13に、後述するように間歇供給部15が設けられている。原料供給部12は、プラズマトーチ14の上部に設けられた間歇供給部15のバルブ30cに接続されている。
プラズマトーチ14の下方にチャンバー16が設けられ、チャンバー16に回収部18が設けられている。プラズマ発生部21はプラズマトーチ14に接続されており、後述するようにプラズマ発生部21により、プラズマトーチ14の内部に熱プラズマ炎100が発生される。
【0017】
原料供給部12は、混合物用の原料をプラズマトーチ14の内部で発生する熱プラズマ炎100中に供給するためのものである。
原料供給部12は、混合物用の原料を熱プラズマ炎100中に供給することができれば、特に限定されるものではなく、混合物用の原料を粒子状に分散させた状態で熱プラズマ炎100中に供給するものと、混合物用の原料をスラリーにし、スラリーを液滴化した形態で熱プラズマ炎100中に供給するものとの2通りの方式を用いることができる。
例えば、混合物用の原料は、シリコンであり、例えば、シリコンの粉末が用いられる。シリコンの粉末は、熱プラズマ炎中で容易に蒸発するように、その平均粒子径が適宜設定される。シリコンの粉末の平均粒子径は、例えば、BET径換算で、100μm以下であり、好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0018】
例えば、混合物用の原料(以下、混合物用の原料のことを、単に原料ともいう。)に、シリコンの粉末を用いた場合、プラズマトーチ14内の熱プラズマ炎100中に、原料が供給される際には、原料が粒子状に分散されている必要がある。このため、例えば、原料は、キャリアガスに分散させて粒子状に供給される。この場合、例えば、原料供給部12は、粉末の原料を分散状態に維持しつつ、定量的にプラズマトーチ14内部の熱プラズマ炎100中に、原料を粒子状態で供給するものである。このような機能を有する原料供給部12としては、例えば、特許第3217415号公報、および特開2007-138287号公報に開示されている装置が利用可能である。
例えば、原料供給部12は、例えば、原料の粉末を貯蔵する貯蔵槽(図示せず)と、原料の粉末を定量搬送するスクリューフィーダ(図示せず)と、スクリューフィーダで搬送された原料の粉末が最終的に散布される前に、これを粒子の状態に分散させる分散部(図示せず)と、キャリアガス供給源(図示せず)とを有する。
キャリアガス供給源から押し出し圧力がかけられたキャリアガスとともに原料の粉末は供給管13を介してプラズマトーチ14内の熱プラズマ炎100中へ供給される。
原料供給部12は、原料の粉末の凝集を防止し、分散状態を維持したまま、原料の粉末を、粒子状に分散させた状態でプラズマトーチ14内に散布することができるものであれば、その構成は特に限定されるものではない。キャリアガスには、例えば、アルゴンガス(Arガス)、および窒素ガス等の不活性ガスが用いられる。
【0019】
原料の粉末をスラリーの形態で供給する原料供給部12は、例えば、特開2011-213524号公報に開示されているものを用いることができる。この場合、原料供給部12は、原料の粉末が水等の液体に分散されたスラリー(図示せず)を入れる容器(図示せず)と、容器中のスラリーを攪拌する攪拌機(図示せず)と、供給管13を介してスラリーに高圧をかけプラズマトーチ14内に供給するためのポンプ(図示せず)と、スラリーを液滴化させてプラズマトーチ14内へ供給するための噴霧ガスを供給する噴霧ガス供給源(図示せず)とを有する。噴霧ガス供給源は、キャリアガス供給源に相当するものである。噴霧ガスのことをキャリアガスともいう。
スラリーの形態で原料を供給する場合、原料の粉末を水等の液体に分散させてスラリーにする。なお、スラリー中の原料の粉末と水との混合比は、特に限定されるものではなく、例えば、質量比で5:5(50%:50%)である。
【0020】
原料の粉末をスラリーにして、スラリーを液滴化した形態で供給する原料供給部12を用いた場合、噴霧ガス供給源から押し出し圧力をかけられた噴霧ガスが、スラリーとともに供給管13を介してプラズマトーチ14内の熱プラズマ炎100中へ供給される。供給管13は、スラリーをプラズマトーチ内の熱プラズマ炎100中に噴霧し液滴化するための二流体ノズル機構を有しており、これにより、スラリーをプラズマトーチ14内の熱プラズマ炎100中に噴霧する。すなわち、スラリーを液滴化させることができる。噴霧ガスには、上述のキャリアガスと同様に、例えば、アルゴンガス(Arガス)、窒素ガス等の不活性ガスが用いられる。
このように、二流体ノズル機構は、スラリーに高圧をかけ、気体である噴霧ガス(キャリアガス)によりスラリーを噴霧することができ、スラリーを液滴化させるための一つの方法として用いられる。
なお、上述の二流体ノズル機構に限定されるものではなく、一流体ノズル機構を用いてもよい。さらに他の方法として、例えば、回転している円板上にスラリーを一定速度で落下させて遠心力により液滴化する(液滴を形成する)方法、スラリー表面に高い電圧を印加して液滴化する(液滴を発生させる)方法等が挙げられる。
【0021】
プラズマトーチ14は、内部に熱プラズマ炎100が発生されるものであり、原料供給部12により供給される原料を熱プラズマ炎100にて蒸発させて気相状態の混合体45とするものである。
図2に示すように、プラズマトーチ14は、石英管14aと、石英管14aの外面に設けられた、プラズマトーチ14の外側を取り巻く高周波発振用コイル14bとで構成されている。プラズマトーチ14の上部には、供給管13が挿入される供給口14cがその中央部に設けられており、プラズマガス供給口14dがその周辺部(同一円周上)に形成されている。
供給管13により、例えば、粉末状の原料と、アルゴンガスまたは水素ガス等のキャリアガスとがプラズマトーチ14内に供給される。
【0022】
プラズマガス供給口14dは、例えば、図示しない配管によりプラズマガス供給部20が接続されている。プラズマガス供給部20は、プラズマガス供給口14dを介してプラズマトーチ14内にプラズマガスを供給するものである。プラズマガスとしては、例えば、アルゴンガスおよび水素ガス等が単独または適宜組み合わせて用いられる。
【0023】
また、プラズマトーチ14の石英管14aの外側は、同心円状に形成された石英管14eで囲まれており、石英管14aと14eの間に冷却水14fを循環させて石英管14aを水冷し、プラズマトーチ14内で発生した熱プラズマ炎100により石英管14aが高温になりすぎるのを防止している。
【0024】
プラズマ発生部21は、高周波電源(図示せず)を有するものであり、高周波発振用コイル14bに高周波電流を印加する。高周波発振用コイル14bに高周波電流が印加されると、プラズマトーチ14の内部に熱プラズマ炎100が発生する。
プラズマ発生部21は、高周波変調誘導熱プラズマ発生部26を有する。
高周波変調誘導熱プラズマ発生部26により、プラズマトーチ14の内部に熱プラズマ炎100が発生されるとともに、熱プラズマ炎100の温度状態が時間変調されて、熱プラズマ炎100の温度状態が周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態になる。
熱プラズマ炎が所定時間間隔で周期的に高温状態と、この高温状態よりも温度が低い低温状態にされたもの、すなわち、熱プラズマ炎の温度状態が時間変調されたもののことを変調誘導熱プラズマ炎という。
【0025】
高周波変調誘導熱プラズマ発生部26は、熱プラズマ炎100を発生させるための高周波電流を高周波発振用コイル14b(図2参照)に供給するとともに、高周波発振用コイル14bへの高周波電流を所定時間間隔で振幅変調することができるものである。以下、熱プラズマ炎100を発生させるために高周波発振用コイル14bに供給する高周波電流を、コイル電流という。
高周波変調誘導熱プラズマ発生部26は、高周波インバータ電源28aと、インピーダンス整合回路28bと、パルス信号発生器28cと、FETゲート信号回路28dとを有する。
【0026】
高周波インバータ電源28aを構成するMOSFETインバータ電源は、電流の振幅を変調できる機能を有しており、コイル電流を振幅変調できる。
高周波インバータ電源28aは、例えば、整流回路と、MOSFETインバータ回路とを有する。高周波インバータ電源28aにおいて、整流回路は、例えば、入力電源として三相交流を用いるものであり、三相全波整流回路により交流-直流変換を行った後、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いたDC-DCコンバータにより、その出力電圧値を変化させる。
【0027】
MOSFETインバータ回路は、整流回路に接続されており、整流回路で得られた直流を交流に変換するものである。これにより、インバータ出力、すなわち、コイル電流が振幅変調(AM変調)される。
高周波インバータ電源28aは、出力側にインピーダンス整合回路28bが接続されている。このインピーダンス整合回路28bは、コンデンサ、共振コイルからなる直列共振回路により構成されており、プラズマ負荷を含めた負荷インピーダンスの共振周波数が高周波インバータ電源28aの駆動周波数領域内となるようにインピーダンスマッチングを行うものである。
【0028】
パルス信号発生器28cは、高周波変調誘導熱プラズマを維持するコイル電流の振幅に矩形波変調を加えるためのパルス制御信号を発生させるものである。
FETゲート信号回路28dは、パルス信号発生器28cで発生されたパルス制御信号に基づく変調信号を、高周波インバータ電源28aのMOSFETインバータ回路のMOSFETのゲートに供給するものである。これにより、パルス信号発生器28cによるパルス制御信号でコイル電流を振幅変調して振幅を相対的に大きくするか、または小さくして、例えば、図3に示す矩形波102のように、コイル電流をパルス変調することができる。コイル電流をパルス変調することにより、熱プラズマ炎100を、所定時間間隔で周期的に高温状態と、この高温状態よりも温度が低い低温状態にすることができる。高周波変調誘導熱プラズマ発生部26においては、高周波発振用コイル14bに、単に高周波電流を供給することにより、温度状態が変わらない熱プラズマ炎を発生させることもできる。なお、図3は縦軸が電流であり、横軸が時間である。
原料を間歇的に供給する場合、熱プラズマ炎100の高温状態に同期させて原料を供給して、原料を高温状態で完全に蒸発させて気相状態の混合体45(図2参照)とし、さらに熱プラズマ炎100の低温状態の時にも、原料を供給し、かつ急冷ガスを供給して気相状態の混合体45(図2参照)を急冷する。
【0029】
なお、図3に示す矩形波102において、コイル電流に対して電流振幅の高値(HCL)、低値(LCL)と定義し、時間変調の周期、すなわち、変調周期Tの中で、HCLをとる時間をオン時間tp1、LCLをとる時間をオフ時間tp2と定義する。さらに、一周期におけるオン時間tp1の割合(オン時間/(オン時間+オフ時間)×100(%))をデューティ比(DF)とする。また、コイルの電流振幅の比(LCL/HCL×100(%))を電流変調率(SCL)とする。
また、矩形波102において、オン時間tp1、オフ時間tp2、および変調周期T(1周期)は、いずれもミリ秒オーダーであることが好ましい。例えば、デューティ比(DF)が80%の場合、変調周期Tが15msでは、オン時間tp1が12msであり、オフ時間tp2が3msである。なお、変調周期Tは、変調誘導熱プラズマ炎の時間変調の周期である。
【0030】
さらには、パルス制御信号を用いて、コイル電流を振幅変調する際には、予め定められている波形、例えば、矩形波を用いて振幅変調することが好ましい。なお、コイル電流の振幅変調は、矩形波に限定されるものではなく、三角波、のこぎり波、逆のこぎり波、または正弦波等を含む曲線を含む繰り返し波からなる波形を用いることができる。
時間変調の際、熱プラズマ炎の高温状態と低温状態との変化、急冷ガスの供給および原料の供給とは、関数で表される時間変化が同じであることが好ましい。これにより、急冷ガスの供給、原料の供給、および熱プラズマ炎の温度状態のタイミングを合わせやすくなる。
また、プラズマトーチ14内における圧力雰囲気は、混合物の製造条件に応じて適宜決定されるものであり、例えば、大気圧以下である。ここで、大気圧以下の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、5Torr(666.5Pa)~750Torr(99.975kPa)とすることができる。
【0031】
図1に示すようにチャンバー16は、プラズマトーチ14に近い方から、上流チャンバー16aがプラズマトーチ14と同軸方向に取り付けられている。また、上流チャンバー16aと垂直に下流チャンバー16bを設け、さらに下流に、上述の混合物を捕集するための所望のフィルター18aを備える回収部18が設けられている。製造装置10において、混合物の回収場所は、例えば、フィルター18aである。
チャンバー16の上部に、気体供給部22が接続されている。
気体供給部22から供給される急冷ガスQg(図2参照)により、チャンバー16内で、微粒子(図示せず)とナノワイヤ(図示せず)との混合物(図示せず)が生成される。また、チャンバー16は冷却槽として機能するものである。
【0032】
回収部18は、フィルター18aを備えた回収室と、この回収室内下方に設けられた管を介して接続された真空ポンプ18bとを備えている。チャンバー16から送られた混合物は、上述の真空ポンプ18bで吸引されることにより、混合物が回収室内に引き込まれ、フィルター18aの表面で留まった状態にて、上述の混合物が回収される。すなわち、微粒子とナノワイヤとが回収される。
【0033】
気体供給部22は、チャンバー16内の熱プラズマ炎100に急冷ガスを供給するものである。急冷ガスは、混合体45(図2参照)に対する冷却ガスとして機能するものである。気体供給部22は、気体が貯留されるボンベ等の気体供給源(図示せず)と、気体供給源に接続されたレギュレータ(圧力調整器)と、ガス供給量を制御する調整弁(図示せず)とを有する。レギュレータと調整弁とはチューブで接続され、調整弁とチャンバー16とはチューブで接続されている。なお、急冷ガスを、後述のように複数の方向から供給する場合、調整弁とチャンバー16とを、複数のチューブを用いて接続する。
気体供給源は、急冷ガスの組成に応じたものが用いられ、気体の種類は1種類に限定されるものではなく、急冷ガスを混合ガスとする場合、気体供給源を複数用意し、複数の気体供給源を、それぞれチューブを用いてレギュレータに接続する。
急冷ガスは、混合体45(図2参照)を冷却する機能を発揮するものであれば、特に限定されるものではない。急冷ガスには、アルゴンガス(Arガス)と、メタンガス(CHガス)との混合ガスが用いられる。
また、急冷ガスには、例えば、原料と反応しない、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが用いられる。急冷ガスは、これ以外に、水素ガスを含有してもよい。また、急冷ガスは、原料と反応する反応性ガスを含有してよい。反応性ガスとしては、例えば、メタン、エタン,プロパン,ブタン,アセチレン,エチレン,プロピレン,ブテン等の炭素数4以下の各種の炭化水素ガス等が挙げられる。
【0034】
気体供給部22は、例えば、熱プラズマ炎100の尾部100b(図2参照)に向かって、例えば、横方向から、すなわち、水平に、急冷ガスQg(冷却ガス)を供給し、かつチャンバー16の内壁に沿って上方から下方に向かって、急冷ガス(冷却ガス)を供給する。
【0035】
気体供給部22からチャンバー16内に供給される急冷ガスにより、熱プラズマ炎100で気相状態にされた混合体45(図2参照)が急冷されて、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物が得られる。原料にシリコンを用い、急冷ガスにアルゴンガスと、メタンガスとの混合ガスを用いた場合、表面に炭素が担持またはコーティングされたシリコンの微粒子、および表面に炭素が担持またはコーティングされたシリコンのナノワイヤの混合物が得られる。
また、チャンバー16の内壁面に沿って、急冷ガスを供給することにより、微粒子の回収の過程において、微粒子のチャンバー16の内壁への付着が防止され、生成した、上述のシリコンの微粒子およびシリコンのナノワイヤの混合物の収率が向上する。
【0036】
気体供給部22は、上述のように熱プラズマ炎100に急冷ガスを供給するものであるが、急冷ガスの供給量は、一定ではなく、熱プラズマ炎100と同様に、矩形波状に時間変調して急冷ガスを供給する。これにより、気体供給部22は、熱プラズマ炎100が高温状態のときに、急冷ガスの供給量を多くすることができる。なお、急冷ガスの供給量の時間変化については後に説明する。
気体供給部22における急冷ガスの時間変調は、例えば、気体供給源からの供給量を一定にし、調整弁に、例えば、ボールバルブを用いて、供給量を時間変調する。
【0037】
気体供給部22の熱プラズマ炎100への急冷ガスの供給方法は、特に限定されるものではなく、1方向から急冷ガスを供給してもよい。また、熱プラズマ炎100の周囲を囲む、複数の方向から急冷ガスを供給してもよい。この場合、急冷ガスの供給口をチャンバー16の外周面に、周方向に沿って複数に、例えば、等間隔に設けるが、等間隔に限定されるものではない。
複数の方向から急冷ガスを供給する場合、供給タイミングは、例えば、複数の方向から同期して急冷ガスを供給する。
【0038】
原料供給部12は、上述のように、熱プラズマ炎100に原料を、予め定めた量を供給するものである。
原料供給部12は、原料の熱プラズマ炎100中への供給量を時間変調して、原料を熱プラズマ炎100中に供給する。
この場合、例えば、供給管13に間歇供給部15を設ける。間歇供給部15は、プラズマトーチ14内への原料の供給を間歇的に行うためのものである。間歇供給部15により、チャンバー16内に原料を時間変調して供給する。原料の供給量の変化は、特に限定されるものではなく、例えば、矩形波状である。
なお、急冷ガスの供給量の時間変調、および原料の供給量の時間変調は、上述のコイル電流の振幅変調と同様に、矩形波に限定されるものではなく、三角波、のこぎり波、逆のこぎり波、または正弦波等を含む曲線を含む繰り返し波からなる波形を用いることができる。
【0039】
間歇供給部15は、例えば、供給管13に接続されたソレノイドバルブ(電磁弁)を用いて、原料の供給量を時間変調する。制御部24により、ソレノイドバルブの開閉が制御される。ソレノイドバルブ以外に、ボールバルブを用いてもよい。この場合も、制御部24により、ボールバルブの開閉が制御される。
【0040】
また、間歇供給部15は、トリガ回路30aと、電磁コイル30bと、バルブ30cとを有する構成でもよい。
トリガ回路30aは、パルス信号発生器28cに接続されており、パルス信号発生器28cからパルス制御信号が入力されて、この入力されたパルス制御信号に同期してTTL(Transistor Transistor Logic)レベルの信号を発生するものである。
電磁コイル30bは、トリガ回路30aに接続されており、トリガ回路30aからのTTLレベルの信号に基づいてバルブ30cを開閉させるものである。
【0041】
バルブ30cは、原料供給部12から、例えば、キャリアガスとともに供給される混合物用の原料のプラズマトーチ14内部への進入を制御するものであり、上述のように、電磁コイル30bにより開閉が制御される。これにより、熱プラズマ炎100の時間変調に合わせて、原料の供給量を変えることができる。例えば、熱プラズマ炎100が高温状態のときに、すなわち、図3に示すオン時間(tp1)に原料の供給量を多くすることができる。
【0042】
上述のように、製造装置10は、熱プラズマ炎100、原料の供給、および急冷ガスを時間変調して供給することができる。
プラズマ発生部21は、熱プラズマ炎として、温度状態が時間変調された変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、変調誘導熱プラズマ炎を周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態とにする。原料供給部12は、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、原料の供給量を多くし、気体供給部22は、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、急冷ガスの供給量を多くする。これにより、シリコンの粉末から、上述のシリコンの微粒子およびシリコンのナノワイヤが製造できる。これについては、シリコンの粉末が熱プラズマ炎で蒸発した後に、核生成した粒子が、それぞれ異なる急冷プロセスをたどることにより、微粒子とナノワイヤが生成されると推測される。
製造装置10では、微粒子をナノサイズにできることにより、シリコンの微粒子とシリコンのナノワイヤが共存する混合物を、例えば、電極材料に用いた場合、微粒子が膨張してもクラックを抑えることができ、電極材料として十分な機能を発揮できる。
【0043】
次に、熱プラズマ炎の温度状態、急冷ガスの供給、および原料の供給のタイミングについて説明する。
図4(a)はコイル電流を変調するためのパルス制御信号を示すグラフであり、(b)は急冷ガスの供給タイミングを示すグラフであり、(c)は原料を供給するためのバルブの開閉タイミングを示すグラフであり、(d)は原料の供給を示すグラフである。
ナノワイヤを製造する際、急冷ガスの供給に関しては、図4(a)に示すパルス制御信号104がパルス信号発生器28cから気体供給部22に出力されて、このパルス制御信号104に同期して、図4(b)に示すタイミング信号106が生成される。タイミング信号106に基づいて、急冷ガスが供給される。
【0044】
また、原料の供給に関しては、本実施形態においては、図4(a)に示すパルス制御信号104がパルス信号発生器28cから出力されて、このパルス制御信号104に同期したTTLレベルの信号がトリガ回路30aで作成される。このTTLレベルの信号に基づいて、図4(c)に示すタイミング信号108で、バルブ30cが所定の時間間隔で開閉される。その結果、図4(d)に示す波形109で、例えば、原料粉末がプラズマトーチ14内に間歇的に供給され、熱プラズマ炎100に間歇的に、原料粉末が供給される。
【0045】
図4(a)に示すパルス制御信号104が図3に示す矩形波102に対応する。パルス制御信号104の信号値が高いときに、熱プラズマ炎100が高温状態であり、信号値が低いときに、熱プラズマ炎100が高温状態よりも温度が低い低温状態である。オン時間tp1が熱プラズマ炎100の高温状態であり、オフ時間tp2が低温状態である。変調誘導熱プラズマ炎が高温状態から低温状態に切り換るタイミングをtとする。すなわち、オン時間tp1からオフ時間tp2に切り換るタイミングがtである。
図4(b)に示すタイミング信号106の信号値が高いときに急冷ガスが供給され、信号値が低いときに急冷ガスが供給されない。タイミング信号106は、一周期Tにおいて、信号値が高いオン時間tg1と、信号値が低いオフ時間tg2とを有し、オン時間tg1に急冷ガスが供給される。
図4(c)に示すタイミング信号108の信号値が高いときに原料が供給され、信号値が低いときに原料が供給されない。タイミング信号108は、一周期Tにおいて、信号値が高いオン時間tg1と、信号値が低いオフ時間tf2とを有し、オン時間tf1に原料が供給される。
上述のようにして、TTLレベルの信号に基づいて、熱プラズマ炎の温度状態、急冷ガスの供給、および原料の供給のタイミングを高い精度で合わせることができる。
【0046】
なお、製造装置10では、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態になるタイミングと、急冷ガスを供給するタイミングとの差δ図4(b)参照)は、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態から低温状態に切り換るタイミングをtとするとき、0<δ≦tであることが好ましい。上述の差δが0<δ≦tであれば、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物の製造が容易になる。
なお、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態になるタイミングは、図4(a)では、時間がゼロのとき、またはオフ時間tp2直後である。
上述の差δは、図4(a)に示すパルス制御信号104の立ち上がりをt=0とするとき、t=0から、図4(b)に示すタイミング信号106が立ち上がるt=tまでの時間である。
変調誘導熱プラズマ炎の変調周期Tが15msであり、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態から低温状態に切り換るタイミングtが12msの場合、差δ図4(b)参照)は、0超12ms以下(0<δ≦12ms)であることが好ましい。上述の差δが0超12ms以下であれば、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物の製造が容易になる。
【0047】
また、図4(c)に示すδは、原料の供給のずれ量を表し、t=0から、タイミング信号108が立ち上がるt=tまでの時間である。例えば、変調周期Tが15msの場合、δは6msである。
製造装置10では、上述の差δを変える等、製造条件を調整することにより、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物を得ることができることに加え、混合物中におけるシリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの構成比を変えることもできる。
【0048】
なお、製造装置10では、上述のように熱プラズマ炎100の高温状態、および低温状態の温度状態のタイミングをフィードバック制御してもよい。また、バルブ30cの開閉タイミングを制御してもよい。この場合、トリガ回路30aで作成されるTTLレベルの信号、すなわち、電磁コイル30bへの入力信号の位相をずらすような信号を作成し、この信号をトリガ回路30aに供給する。これにより、原料の供給のタイミングを、熱プラズマ炎が高温状態、低温状態、または高温状態と低温状態にまたがる状態とすることができる。
上述のように、製造装置10では、熱プラズマ炎の温度、急冷ガスの時間変調、および原料の供給を時間変調することができる。時間変調のタイミングを調整することより、ナノワイヤを製造できる。熱プラズマ炎の温度状態の変化のタイミングと、急冷ガスの供給タイミングと、原料の供給タイミングとは制御部24で調整される。
【0049】
また、製造装置10では、熱プラズマ炎の温度を時間変調しているが、例えば、特許第5564370号公報に記載されているように分光分析を用いてもよい。この場合、変調誘導熱プラズマ炎について分光分析し、変調誘導熱プラズマ炎の放射光のうち、原料に由来する波長の光の強度に基づいて高周波変調誘導熱プラズマ発生部により変調誘導熱プラズマ炎の温度状態を時間変調させる。
【0050】
なお、本実施形態の製造装置10は、原料に、例えば、シリコンの粉末を用い、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物を製造することができる。この場合、シリコンの粉末をスラリー化しても、シリコンの微粒子とシリコンのナノワイヤとの混合物の製造を行うことができる。
【0051】
(混合物の製造方法)
次に、上述の製造装置10を用いた微粒子とナノワイヤとの混合物の製造方法について説明する。
まず、微粒子とナノワイヤとの混合物の原料の粉末として、例えば、平均粒子径が10μm以下のシリコンの粉末を原料供給部12に投入する。
プラズマガスに、例えば、アルゴンガスおよび水素ガスを用いて、高周波発振用コイル14b(図2参照)に高周波電圧を印加し、プラズマトーチ14内に熱プラズマ炎100を発生させる。
【0052】
次に、キャリアガスとして、例えば、アルゴンガスを用いてシリコンの粉末を気体搬送し、供給管13を介してプラズマトーチ14内の熱プラズマ炎100中に供給する(第1の工程)。
プラズマトーチ14内に熱プラズマ炎を発生させるが、このとき、温度状態が時間変調されて周期的に高温状態と、この高温状態よりも温度が低い低温状態とにして変調誘導熱プラズマ炎とする。
【0053】
第1の工程では、熱プラズマ炎の温度状態を時間変調させて変調誘導熱プラズマ炎を発生させ、変調誘導熱プラズマ炎(熱プラズマ炎)を周期的に高温状態と、高温状態よりも温度が低い低温状態とにし、原料を熱プラズマ炎に間歇的に供給する。原料の供給では、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、原料の供給量を多くする。
第1の工程において、供給されたシリコンの粉末は、熱プラズマ炎100中で蒸発して気相状態の混合体45(図2参照)となる。
次に、原料を熱プラズマ炎で蒸発させ気相状態の混合体とし、熱プラズマ炎に急冷ガスを供給する(第2の工程)。なお、急冷ガスとして、気体供給部22から熱プラズマ炎100の尾部100b(図2参照)に、例えば、アルゴンガスとメタンガスの混合ガスを供給する。
【0054】
第2の工程では、急冷ガスを熱プラズマ炎に対して、供給量を周期的に変えて供給する。第2の工程では、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態のときに、急冷ガスの供給量を多くする。これにより、混合体45(図2参照)を経て、上述のシリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物が生成される。これについては、シリコンの粉末が熱プラズマ炎で蒸発した後に、核生成した粒子が、それぞれ異なる急冷プロセスをたどることにより、微粒子とナノワイヤが生成されると推測される。
そして、チャンバー16内で得られたシリコンの微粒子とシリコンのナノワイヤとの混合物は、上述のように真空ポンプ18bによる回収部18からの負圧(吸引力)によって回収部18のフィルター18aに捕集される。
製造方法でも、微粒子をナノサイズにできることにより、シリコンの微粒子とシリコンのナノワイヤが共存する混合物を、例えば、電極材料に用いた場合、微粒子が膨張してもクラックを抑えることができ、電極材料として十分な機能を発揮できる。
【0055】
なお、製造方法でも、上述の製造装置と同様に、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態になるタイミングと、急冷ガスを供給するタイミングとの差δ図4(b)参照)は、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態から低温状態に切り換るタイミングをtとするとき、0<δ≦tであることが好ましい。上述の差δが0<δ≦tであれば、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物の製造が容易になる。
変調誘導熱プラズマ炎の変調周期Tが15msであり、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態から低温状態に切り換るタイミングtが12msの場合、差δは、0超12ms以下(0<δ≦12ms)であることが好ましい。上述の差δが0超12ms以下であれば、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物の製造が容易になる。
また、混合物の製造方法では、上述の差δを変える等、製造条件を調整することにより、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物を得ることができることに加え、混合物中におけるシリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの構成比を変えることもできる。
【0056】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の混合物の製造装置および混合物の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例0057】
以下、本発明の微粒子とナノワイヤとの混合物の製造方法ついて、より具体的に説明する。
本実施例においては、シリコンの微粒子と、シリコンのナノワイヤとの混合物の製造を試みた(実験例1~6)。微粒子とナノワイヤとの混合物の製造には、図1に示す製造装置10を用いた。以下に製造条件を示す。
【0058】
製造条件としては、プラズマへの平均入力を20kW一定として、プラズマガスとしてArガスとHガスとを用い、Arガスの流量を90L/分(標準状態換算)とし、Hガスの流量を1L/分(標準状態換算)とした。プラズマトーチ内圧力は300torr(≒40kPa)に固定した。
また、原料供給については、キャリアガスにArガスを用い、キャリアガスとともに、平均粒径が19.2μmのSi粉末を3g/分で供給した。キャリアガスの流量を4L/分(標準状態換算)とした。Si粉体の平均粒径は粒度分布計で測定した値である。
急冷ガスには、アルゴンガス(Arガス)と、メタンガス(CHガス)との混合ガスを用いた。急冷ガスとして、混合ガスの平均流量を25L/分(標準状態換算)とした。
【0059】
プラズマの変調について、電流変調率(SCL)は、コイルの電流振幅の比(LCL/HCL×100(%))で定義され、SCL=80%とした。また、デューティ比を80%とした。
また、原料の間歇供給については、オン時間を12ms、オフ時間を3msとし、1周期、15msとした。なお、変調信号とバルブ開閉信号との間の時間差である、ずれ量δ図4(b)参照)を6msとした。
また、気体供給部において、レギュレータと調整弁との間のチューブは、長さを1090cmとし、チューブ径を10mm(内径6.5mm)とした。調整弁とチャンバーとの間のチューブは、長さを110cmとし、チューブ径を6.35mm(内径4mm)とした。
【0060】
図5図10は、実験例1~実験例6のSEM像を示す模式図である。
図5図10に示すように実験例1~実験例6のいずれも微粒子111とナノワイヤ112との混合物110が製造された。また、実験例1~6の微粒子の平均粒径、微粒子のd50および微粒子の粒径の標準偏差を下記表1に示す。下記表1に示す実験例1~6の微粒子の平均粒径、および微粒子のd50は、上述の微粒子の粒径と同様にSEMを用いて微粒子の10視野の画像を取得し、各視野画像における微粒子の粒径を測定して得た。
実験例1は、変調誘導熱プラズマ炎が高温状態になるタイミングと、急冷ガスを供給するタイミングとの差δ図4(c)参照)が2.5msである。実験例2は、上述の差δが5.0msである。実験例3は、上述の差δが7.5msである。実験例4は、上述の差δが10.0msである。実験例5は、上述の差δが12.5msである。なお、実験例6の上述の差δが15.0msである。実験例6の差δが15.0msは、上述の差δが0msと同じである。
【0061】
【表1】
【0062】
実験例1~実験例6では、上述の差δが2.5~10.0msでは、平均粒径およびd50が小さくなっていた。標準偏差についても同様の傾向を示した。微粒子とナノワイヤとの混合物において、製造条件によって、得られる微粒子の粒径が変わった。
【符号の説明】
【0063】
10 混合物の製造装置(製造装置)
12 原料供給部
13 供給管
14 プラズマトーチ
14a 石英管
14b 高周波発振用コイル
14c 供給口
14d プラズマガス供給口
14e 石英管
14f 冷却水
15 間歇供給部
16 チャンバー
16a 上流チャンバー
16b 下流チャンバー
18 回収部
18a フィルター
18b 真空ポンプ
20 プラズマガス供給部
21 プラズマ発生部
22 気体供給部
24 制御部
26 高周波変調誘導熱プラズマ発生部
28a 高周波インバータ電源
28b インピーダンス整合回路
28c パルス信号発生器
28d FETゲート信号回路
30a トリガ回路
30b 電磁コイル
30c バルブ
45 混合体
100 熱プラズマ炎
100b 尾部
102 矩形波
104 パルス制御信号
106、108 タイミング信号
109 波形
110 混合物
111 微粒子
112 ナノワイヤ
Qg 急冷ガス
一周期
一周期
変調周期
f1、tg1、tp1 オン時間
f2、tg2、tp2 オフ時間
δf ずれ量
δg 差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10