(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085537
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】ボルト押し抜き用治具およびこれを用いたボルト押し抜き方法
(51)【国際特許分類】
B25B 27/16 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
B25B27/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197275
(22)【出願日】2020-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 宏明
【テーマコード(参考)】
3C031
【Fターム(参考)】
3C031EE01
3C031GG03
(57)【要約】
【課題】ワークのボルト孔に固着し、あるいは、食い込んだボルトを容易かつ安全に取り外すことを可能とするボルト押し抜き用治具およびボルト押し抜き方法を提供する。
【解決手段】
基部と、該基部から伸長する連結部と、該連結部の先端部に連結された抑え板部と、該抑え板部を貫通する第1のボルト孔と第2のボルト孔と、前記基部と前記第1のボルト孔との間に設けられたジャッキ設置空間とを備える、ボルト押し抜き用治具を用いる。押し抜き対象のボルトとこれに隣接するボルトからナットを外し、第1のボルト孔に前記押し抜き対象のボルトを、前記第2のボルト孔に前記隣接するボルトをそれぞれ貫通させ、該隣接するボルトに前記ナットを再度螺合して締め付けて、前記抑え板部を前記ワークに固定し、前記押し抜き対象のボルトの先端部と前記基部との間に、ジャッキを配置し、作動させて、前記押し抜き対象のボルトを前記ワークから押し抜く。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基面を備える基部と、
前記基部から前記基面に対して垂直に伸長する連結部と、
前記連結部の先端部に連結され、前記基面と対向する内側面を備えた抑え板部と、
前記基面と少なくとも一部が対向する位置に設けられ、前記抑え板部を貫通する第1のボルト孔と、
該第1のボルト孔から離間した位置に設けられ、前器抑え板部を貫通する第2のボルト孔と、
前記基面と前記連結部と前記内側面とに囲まれ、前記第1のボルト孔と整合する部分に設けられたジャッキ設置空間と、
を備える、ボルト押し抜き用治具。
【請求項2】
前記第2のボルト孔が、前記第1のボルト孔の両側に2つ設けられ、前記第1のボルト孔と該2つの第2のボルト孔が、所定の中心とする仮想円の同一円周上にそれぞれの孔の中心が存在するように、所定の間隔で配置されている、請求項1に記載の押し抜き用治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のボルト押し抜き用治具を用い、
(1)所定の間隔で複数のボルトとナットにより締結されているワークにおいて、押し抜き対象のボルトと、該押し抜き対象のボルトに隣接するボルトとについて、それぞれ螺着されているナットを外し、
(2)前記第1のボルト孔に前記押し抜き対象のボルトを貫通させ、かつ、前記第2のボルト孔に前記隣接するボルトを貫通させた状態で、前記抑え板部を前記ワーク上に載置し、
(3)前記隣接するボルトに前記ナットを再度螺合して締め付けることで、前記抑え板部を前記ワークに固定し、
(4)前記治具のジャッキ設置空間で、前記第1のボルト孔から突出する前記押し抜き対象のボルトの先端部と前記基部の前記基面との間に、ジャッキを配置し、
(5)前記ジャッキを、前記押し抜き対象のボルトの先端部と前記基面との間で、これらが離間する方向に作動させることで、前記押し抜き対象のボルトを前記ワークから押し抜く、
工程を備える、ボルト押し抜き方法。
【請求項4】
前記ワークが、軸継手であり、前記ボルトが、継手ボルトである、請求項3に記載のボルト押し抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト孔に固着したボルト、特に、軸継手のボルト孔に固着した継手ボルトを取り外すための治具および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機などの入力側の駆動軸と減速機やモータなどの出力側の被駆動軸を接続して、動力を伝達する機械要素部品として、さまざまな継手(カップリング)が使用されている。そのような継手の1つとして、たわみ軸継手があり、その1例がたとえば実開平4-95130号公報に開示されている。たわみ軸継手は、軸継手にたわみ性を持たせて、両軸間の芯ずれ(ミスアライメント)を許容し、両軸を回転可能に支持する軸受の偏摩耗や装置の振動などのミスアライメントに起因するトラブルを低減させる機能を有している。
【0003】
図3に、たわみ軸継手として一般的に用いられているフランジ形たわみ軸継手の一例を示す。たわみ軸継手1は、駆動軸側のフランジ2と被駆動側のフランジ3とを備える。フランジ2、3の周方向の複数箇所に設けられたボルト孔(図示せず)に複数の継手ボルト4が嵌合し、これらの継手ボルト4がフランジ2、3をたわみ軸継手1の軸方向に貫通している。一方のフランジ2のボルト孔に対しては、継手ボルト4は、ゴムなどのエラストマーからなるブッシュ(図示せず)を介して嵌合している。継手ボルト4のうち、フランジ2から突出し、継手ボルト4の頭部に隣接する部分には座金5が嵌合している。継手ボルト4のうち、他方のフランジ3から突出した部分には、ナット6が螺着されている。ナット6を締め付けることで、フランジ2、3が固定されることとなり、一方のフランジ2の動力が他方のフランジ3に伝達可能となる。フランジ2、3の相対的なトルク変動は、ブッシュにより吸収される。
【0004】
継手ボルトとして、たわみ軸継手が過大な動力を伝達する必要がある用途では、テーパー加工された継手ボルトが使用される場合がある。たわみ軸継手の接続に用いられる継手ボルトおよびブッシュは消耗品であるため、老朽化や破損によりその交換を行う必要がある。しかしながら、特にテーパー加工された継手ボルトを用いた場合に、長年の使用により、継手ボルトがフランジ2、3のボルト孔に固着し、さらには食い込んでしまって、その取り外しが困難な場合がある。
【0005】
従来、継手ボルトを交換する際には、継手ボルトからナットを取り外し、継手ボルトの先端をハンマーなどの打撃工具を使用して叩くことにより、継手ボルトをたわみ軸継手のフランジのボルト孔から抜き取っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ハンマーなどの打撃工具を用いた打撃での継手ボルトの抜き取り作業には、時間と労力を要するとともに、無理な力をかけて作業することになるため、誤った操作により作業者がケガをしてしまうリスクや、高所作業の場合に、打撃工具や継手ボルトを誤って高所から落下させてしまうなどといったリスクが生ずる。
【0008】
本発明は、上述のような問題点に鑑み、フランジのボルト孔に固着した継手ボルトを軸継手から、少ない時間と労力で、ケガや打撃工具あるいは継手ボルトの落下などのリスクを防ぎつつ、取り外すことを可能とするための治具および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のボルト押し抜き用治具は、基面を備える基部と、前記基部から前記基面に対して垂直に伸長する連結部と、前記連結部の先端部に連結され、前記基面と対向する内側面を備えた抑え板部と、前記基面と少なくとも一部が対向する位置に設けられ、前記抑え板部を貫通する第1のボルト孔と、該第1のボルト孔から離間した位置に設けられ、前器抑え板部を貫通する第2のボルト孔と、前記基面と前記連結部と前記内側面とに囲まれ、前記第1のボルト孔と整合する部分に設けられたジャッキ設置空間とを備える、ことを特徴とする。
【0010】
前記第2のボルト孔が、前記第1のボルト孔の両側に2つ設けられ、前記第1のボルト孔と該2つの第2のボルト孔が、所定の中心とする仮想円の同一円周上にそれぞれの孔の中心が存在するように、所定の間隔で配置されていることが好ましい。
【0011】
なお、前記第1のボルト孔と前記第2のボルト孔の間隔は、適用される継手ボルトのフランジの隣接し合う2つのボルト孔の間隔と同じとなるように、あるいは、近傍となるように設置される。
【0012】
本発明の一態様のボルト押し抜き方法は、本発明のボルト押し抜き用治具を用いる。本発明のボルト押し抜き方法は、
(1)所定の間隔で複数のボルトとナットにより締結されているワークにおいて、押し抜き対象のボルトと、該押し抜き対象のボルトに隣接するボルトとについて、それぞれ螺着されているナットを外し、
(2)前記第1のボルト孔に前記押し抜き対象のボルトを貫通させ、かつ、前記第2のボルト孔に前記隣接するボルトを貫通させた状態で、前記抑え板部を前記ワーク上に載置し、
(3)前記隣接するボルトに前記ナットを再度螺合して締め付けることで、前記抑え板部を前記ワークに固定し、
(4)前記治具のジャッキ設置空間で、前記第1のボルト孔から突出する前記押し抜き対象のボルトの先端部と前記基部の前記基面との間に、ジャッキを配置し、
(5)前記ジャッキを、前記押し抜き対象のボルトの先端部と前記基面との間で、これらが離間する方向に作動させることで、前記押し抜き対象のボルトを前記ワークから押し抜く、
工程を備えることを特徴とする。
【0013】
前記ワークが、軸継手であり、前記ボルトが、継手ボルトである場合に、本発明は好適に適用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様のボルト押し抜き用冶具およびこれを用いたボルトの打ち抜き方法を適用することにより、所定の間隔で複数のボルトとナットにより締結されているワークにおいて、該ワークに固着し、特に該ワークのボルト孔に食い込んでしまったボルトを、過度な力を必要とすることなく、適切に押し抜いて、前記ワークより取り外すことが可能となる。これにより、ワークからのボルトの取り外し作業の所要時間の短縮と作業の安全性の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一態様の一例に係るボルト押し抜き具の平面図であり、
図1(b)は、該ボルト押し抜き具の正面図であり、
図1(c)は、該ボルト押し抜き具の底面図である。
【
図2】
図2は、前記ボルト押し抜き具をワークに取り付けて、ジャッキ設置空間に、ジャッキを配置した状態を示す、概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の適用対象となるワークの一例である、フランジ形たわみ継手の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1および
図2を参照しつつ、本発明の一実施形態の一例に係る、ボルト押し抜き用治具およびこのボルト押し抜き用治具を用いたボルト押し抜き方法について、説明する。
【0017】
所定の間隔で複数のボルトとナットにより締結され、ボルトの軸方向に複数の部材が連結されている任意のワーク(被加工物)に対して、本発明を適用することが可能であるが、本発明は、特に2つのフランジの周方向に所定間隔で配置されたボルト孔に継手ボルトが貫通し、継手ボルトの先端に螺着されたナットを締め付けることにより前記2つのフランジが固定されている、フランジ形たわみ軸継手などの軸継手に対して好適に適用される。以下の説明では、ワークおよびボルトとして、フランジ形たわみ軸継手および継手ボルトを例にしているが、本発明はこれに限定されることはない。
【0018】
本発明の一態様のボルト押し抜き用治具7は、抑え板部8と、連結部9と、基部10とを備える。このうち、抑え板部8は、継手ボルト4を押し抜く際に、ワークであるたわみ軸継手1のフランジの外側面に、ナット6により抑えつけられる機能を有する。連結部9は、抑え板部8と基部10とをたわみ軸継手1の軸方向に連結固定するための部材である。基部10は、抑え板部8と対向し、使用時にジャッキ19の一部が当接する基面18を備える部材である。
【0019】
連結部9は、基部10から基面18および抑え板部8の内側面に対して垂直に伸長し、その基端部は基部10に、その先端部は抑え板部8にそれぞれ連結される。抑え板部8の内側面は、基部10の基面18と対向する。これらを構成する部材は、いずれもステンレスを含む鋼鉄、その他の十分な強度のある金属、その他の材料により形成される。少なくとも油圧ジャッキを含むジャッキなどにより、基部10の基面と抑え板部8の内側面とを押し広げようとする力により、変形や破損などが生じない強度を備える材料により、これらの部材は形成される必要がある。
【0020】
抑え板部8は、基部10の基面18と少なくとも一部が対向する位置に設けられ、抑え板部8を貫通する第1のボルト孔11と、第1のボルト孔11から離間した位置に設けられ、抑え板部8を貫通する第2のボルト孔12とを備える。第2のボルト孔12は、少なくとも1つ備えられればよいが、好ましくは、第1のボルト孔11の両側に第2のボルト孔12は2つ設けられる。
【0021】
図示の例では、第1のボルト孔11と2つの第2のボルト孔12とは、所定の中心とする仮想円の同一円周上に第1のボルト孔11の中心および第2のボルト孔12の中心が存在するように、所定の間隔で配置されている。
【0022】
基本的には、第1のボルト孔11と第2のボルト孔12の配置は、本例のボルト押し抜き用治具が適用されるワーク(被加工物)、本例ではたわみ軸継手のフランジに設けられたボルト孔(継手ボルト)の配置に応じて、適宜決定される。したがって、基本的には、本例のボルト押し抜き用治具は、適用するたわみ軸継手の大きさおよびボルト孔(継手ボルト)の配置に応じて、準備する必要がある。ただし、特定のたわみ軸継手の大きさおよびボルト孔の配置に完全に合致する必要はなく、第1のボルト孔11および第2のボルト孔12のそれぞれの孔の直径を適宜大きくしたり、それぞれの配置間隔を複数種類のたわみ軸継手におけるボルト孔の配置に近似させたりするなどの工夫により、数種類のたわみ軸継手の大きさおよびボルト孔の配置に対応させることも可能である。
【0023】
また、継手ボルトのボルト孔(継手ボルト)が周方向に配置される軸継手のようなワークのほか、所定の間隔で複数のボルト孔が、たとえば直線的に配置され、これらのボルト孔にテーパー加工がされたボルトなどが嵌合し、長期間の使用により固着してしまっているような場合にも、本例のボルト押し抜き用治具を用いたボルト押し抜き方法を適用することは可能である。
【0024】
本例のボルト押し抜き用治具7では、抑え板部8は、平面視で扇形形状をした所定厚さ(
図1(b)の上下方向の長さ)の板状部材により構成されている。ただし、矩形状あるいは半円状の板状部材など、2つあるいは3つのボルト孔を適切に配置できる任意の形状の板状部材を適用することが可能である。抑え板部8の長さ(
図1の左右方向の長さ)および幅(
図1(a)の上下方向の長さ)は、たわみ軸継手やその他のワークの大きさ、これらの隣接するボルト孔(嵌合するボルト)の間隔、第2のボルト孔12の数などに応じて、適切な大きさが設定される。少なくとも、油圧ジャッキで押圧したときに、屈曲などの変形を生じない、もしくは、第1のボルト孔11および第2のボルト孔12の周囲が破損しないように、適切な大きさおよび形状が設定される。抑え板部8の厚さは、適用される部材の材質に応じて、油圧ジャッキ19がその内側面を押圧した場合に、その力および脚部13を介して抑え板部8を曲げようとする力に対して耐えうる強度を有する厚さであるが、同時に、たわみ軸継手1などのフランジ面から突出するボルト4の先端部の長さよりも短い厚さである必要がある。よって、これらの観点から、抑え板部8の厚さは適切に規制される。
【0025】
第1のボルト孔11および第2のボルト孔12の大きさについては、適用されるワークのボルト4の先端部の外径(ネジ山の外接円の直径)よりも大きく、かつ、ナット6の外径よりも小さく、ナット6をボルト4に再度螺着して締結した場合に、抑え板部8が十分に固定されるように設定される。
【0026】
本例のボルト押し抜き用治具7は、基部10の基面と、連結部9の内側面と、抑え板部8の内側面とに囲まれた部分で、第1のボルト孔11と整合する部分に、ジャッキ設置空間Sが設けられる。したがって、本例のボルト押し抜き用治具7の連結部9は、基部10の伸長方向(
図1の左右方向)の両側部に設けられた、2つの脚部13により構成される。
【0027】
より具体的には、本例のボルト押し抜き用治具7では、基部10と連結部9は、略U字形フレーム14により構成され、この略U字形フレーム14は、矩形状の基部10と該基部の両端部から基面18から垂直方向に伸長する2つの脚部13とにより構成される。
【0028】
略U字形フレーム14は、全体として所定の厚さを有する矩形状の板状部材により構成され、その厚さおよび幅は、基部10に関しては、適用される部材の材質に応じて、油圧ジャッキ19が基面を押圧した場合に、その力に耐えうる強度を有する厚さ(
図1(b)の上下方向の長さ)および幅(
図1(c)の上下方向の長さ)が設定される。脚部13に関しては、油圧ジャッキ19が抑え板部8の内側面と基部10の基面18とを押し広げるように押圧した場合に、伸長方向に引っ張られる力に耐えうる強度を有する厚さ(
図1(b)の左右方向の長さ)および幅(
図1(c)の上下方向の長さ)である必要がある。なお、略U字形フレーム14は、使用時にたわみ軸継手1のフランジに固定される抑え板部8と異なり、使用時にも油圧ジャッキ19による力を単独で受けることから、同様の材質で構成される場合、その厚さを抑え板部8の厚さよりも大きくする、たとえば、抑え板部8の厚さにたわみ軸継手1のフランジの厚さの0.5倍以上1.0倍以下程度の厚さを加えた厚さ、あるいは、抑え板部8の厚さの1.2倍以上2.0倍以下程度とすることが好ましい。
【0029】
本例のボルト押し抜き用治具7は、さらに、基部10と脚部13とからなる略U字形フレームにより基本的に構成される基部10と連結部9の強度を補強するため、および、抑え板部8の強度を補強するための、桟部材15、側方支持部材16、並びに、後方支持部材17を備える。
【0030】
桟部材15は、略U字形フレーム14と同様に、略U字形の板状部材から構成され、基部10の背面に沿って横方向(
図1の左右方向)に伸長する横桟部材と、脚部13の背面に沿って縦方向(
図1(b)の上下方向)に伸長する縦桟部材とにより構成される。図示の例では、桟部材15のうちの横桟部材は、基部10の厚さと同程度の幅(
図1(b)の上下方向の長さ)を有し、かつ、基部10の両側から両端部が突出する程度の長さを有する。また、桟部材15のうちの縦桟部材は、脚部13と同じ長さを有し、かつ、脚部13の厚さよりも大きい幅(
図1(b)の左右方向の長さ)を有する。桟部材15は、略U字形フレーム14の背面に結合されている。桟部材15は、略U字形フレーム14の強度を補強するとともに、溶接部分を補強する機能を有する。この観点から、桟部材15の厚さ(
図1(c)の上下方向の長さ)は、略U字形フレーム14の厚さよりは小さく、抑え板部8の厚さと同様とすることができる。桟部材15の縦桟部材の上端部は、抑え板部8の長さ方向中間部の背面側端部の内側面に結合されている。
【0031】
側方支持部材16は、矩形状の板状部材から構成され、抑え板部8の長さ方向(
図1の左右方向)の両端部に、抑え板部8の内側面から垂直に伸長するように備えられている。また、後方支持部材17も、矩形状の板状部材から構成され、抑え板部8の長さ方向の両端近傍部のうちの背面側端部であって、桟部材15の両側部に、抑え板部8の内側面から垂直に伸長するように備えられている。側方支持部材16および後方支持部材17は、使用時に、抑え板部8が油圧ジャッキ19による力により屈曲などの変形を生じないように、その強度を補強する機能を有する。この観点から、これらの部材の幅(
図1(b)の上下方向の長さ)および厚さが適宜設定される。これらの部材の厚さは、上記機能を担保できる限り、桟部材15よりもさらに小さい厚さ(桟部材15の厚さの0.2倍~0.5倍程度の厚さ)とすることが、治具全体の重量増加を防止する観点から好ましい。
【0032】
本例のボルト押し抜き用治具7は、基本的な構成として、抑え板部8、連結部9、および、基部10を備えている限り、これらの具体的な構成については任意である。したがって、桟部材15、側方支持部材16、および、後方支持部材17については、抑え板部8、並びに、連結部9および基部10を構成する略U字形フレーム14の強度が十分に担保できる場合には、省略することが可能である。
【0033】
本例のボルト押し抜き用治具7を製造する手段についても任意である。ボルト押し抜き用治具7を鋳造などにより一体に成形する、それぞれの部材を個別に製造し、溶接により相互に結合する、一部または複数の部材についてプレスを用いた曲げ加工により形成するなどの、任意かつさまざまな加工手段により、本例のボルト押し抜き治具7を形成することが可能である。
【0034】
本発明の一態様の一例のボルト押し抜き方法は、上述した本発明の一態様の一例のボルト押し抜き用治具を用い、以下の工程を備える。なお、以下の説明では、
図1に示す構成のボルト押し抜き用治具を用いた例である。
【0035】
(1)所定の間隔で複数のボルトとナットにより締結されているワークにおいて、押し抜き対象のボルトと、該押し抜き対象のボルトに隣接するボルトとについて、それぞれ螺着されているナットを外す。
【0036】
図3のたわみ軸継手1においては、フランジ3側において継手ボルト4の先端に螺着されているナット6を外す。この場合、少なくとも押し抜き対象の継手ボルト4とその周方向に隣接する2つの継手ボルト4について、ナット6を取り外す。
【0037】
(2)第1のボルト孔に押し抜き対象のボルトを貫通させ、かつ、第2のボルト孔に隣接するボルトを貫通させた状態で、抑え板部をワーク上に載置する。
【0038】
図2に示すように、ボルト押し抜き用治具7の抑え板部8と基部10の上下方向を
図1(b)に示す状態から逆向きとして、たわみ軸継手1のフランジ3のフランジ面に対して、第1のボルト孔11に押し抜き対象の継手ボルト4の先端部を貫通させ、かつ、第2のボルト孔12に、2つの隣接する継手ボルト4の先端部を貫通させつつ、抑え板部8を当接させて載置する。この状態で、第1のボルト孔11および第2のボルト孔12からはそれぞれ継手ボルト4の先端部が上方に突出する。
【0039】
(3)隣接するボルトにナットを再度螺合して締め付けることで、抑え板部をワークに固定する。
【0040】
第1のボルト孔11および第2のボルト孔12から突出する継手ボルト4のうちの第2のボルト孔12から突出する継手ボルト4の先端に、一旦取り外したナット6を再度螺合する。さらにナット6を締め付けることにより、抑え板部8をたわみ継手1のフランジ3のフランジ面上に密着固定させる。
【0041】
(4)ボルト押し抜き用治具のジャッキ設置空間で、第1のボルト孔から突出する押し抜き対象のボルトの先端部と前記基部の前記基面との間に、ジャッキを配置する。
【0042】
ボルト押し抜き用治具7を、フランジ3上に載置した状態で、抑え板部8の内側面と、連結部9(U字形フレーム14)の脚部13と、基部10の基面18とにより取り囲まれたジャッキ設置空間Sには、抑え板部8の内側面から、押し抜き対象の継手ボルト4が内側に突出している。このジャッキ設置空間Sのうちの継手ボルト4の先端部(先端面)と基部10の基面18との間に、油圧ジャッキ19を挿入する。
【0043】
油圧ジャッキ19としては、パンタグラフジャッキ、シリンダ型ジャッキなどさまざまなタイプの公知の油圧ジャッキを適用することができる。油圧ジャッキの構造およびボルト押し抜き用治具7に対する相対的な大きさに応じて、ジャッキ全体をジャッキ設置空間S内に配置することもできるし、ジャッキのうちの可動部のみ、ないしは、本体とラムのうちの爪部のみを配置することもできる。なお、油圧ジャッキのほか、適用される軸継手その他のワークの大きさおよびこれに応じたボルト押し抜き用治具7の構造および大きさなどに応じて、油圧ジャッキのほか、ねじジャッキなどの機械式ジャッキ、あるいは、エアージャッキなどの空気作動式のジャッキも適用することは可能である。
【0044】
(5)ジャッキを、押し抜き対象のボルトの先端部(先端面)と基部の基面との間で、先端面と基面が離間する方向に作動させることで、押し抜き対象のボルトをワークから押し抜く。
【0045】
ボルト押し抜き用治具7の基部10の基面18と、押し抜き対象の継手ボルト4の先端部(先端面)との間で、油圧ジャッキ19を作動させて、基部10と継手ボルト4とで互いに離れる方向(
図2の上下方向)を向いた力を付与する。基部10は、連結部9および抑え板部8を介して、フランジ3に対して固定されているため、油圧ジャッキ19は、継手ボルト4を下方に押圧する作用を及ぼす。これにより、継手ボルト4がテーパー加工されたボルトからなる場合であって、継手ボルト4が、フランジ2およびフランジ3のボルト孔に固着あるいは食い込んでいる場合でも、容易にこの継手ボルト4を押し抜くことが可能となる。
【0046】
押し抜き対象のボルト4に対する押し抜き作業が完了後、隣接する継手ボルト4の先端部に螺着されていたナット6を取り外すことにより、ボルト押し抜き用治具7をフランジ3のフランジ面から離間させ、新たなボルトを新たなブッシュとともに、フランジ2、3のフランジ孔に装着し、ナット6を螺合して締め付けることにより、1つの継手ボルト4の交換作業が完了する。順次、すべての継手ボルト4に対して、同様の作業を繰り返すことにより、たわみ軸継手1に対する、継手ボルト4およびブッシュの交換(更新)作業を完了する。
【0047】
本発明のボルト押し抜き用治具7およびこれを用いたボルト押し抜き方法は、ワークがたわみ軸継手などの軸継手であり、ボルトがテーパー加工されたボルトからなる継手ボルトである場合に、好適に適用される。ただし、周方向に配置された複数のボルトとナットで締結されているフランジ形の配管継手や、直線方向に配置された連続する複数のボルトとナットで締結されている任意のワークに対して、テーパー加工されていない継手ボルトに対しても、広く本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 ワーク(たわみ軸継手)
2 駆動側フランジ
3 被駆動側フランジ
4 継手ボルト
5 座金
6 ナット
7 ボルト押し抜き用治具
8 抑え板部
9 連結部
10 基部
11 第1のボルト孔
12 第2のボルト孔
13 脚部
14 略U字形フレーム
15 桟部材
16 側方支持部材
17 後方支持部材
18 基面
19 油圧ジャッキ