(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022085754
(43)【公開日】2022-06-08
(54)【発明の名称】吸収液および分離回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20220601BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020197600
(22)【出願日】2020-11-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】東 正信
【テーマコード(参考)】
4D020
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BC01
4D020CB01
4D020CB25
4D020CB40
4D020DA03
4D020DB04
4D020DB06
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するために必要なエネルギー量が小さい吸収液等を提供する。
【解決手段】吸収液は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、10質量%以上の水と、5質量%以上の親水性有機溶媒と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、
第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、
10質量%以上の水と、
5質量%以上の親水性有機溶媒と、を含む、吸収液。
【請求項2】
前記親水性有機溶媒は、沸点が40℃以上100℃未満である、請求項1に記載の吸収液。
【請求項3】
前記親水性有機溶媒は、アルコール類、エーテル類、ケトン類およびニトリル類からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の吸収液。
【請求項4】
前記ガスの二酸化炭素の分圧が5kPa以上40kPa以下であり、
前記ガスの圧力が160kPa以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の吸収液。
【請求項5】
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、
吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて二酸化炭素を前記ガスから分離する分離工程と、
前記分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を回収する回収工程と、を含み、
前記吸収液は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、10質量%以上の水と、5質量%以上の親水性有機溶媒と、を含む、分離回収方法。
【請求項6】
前記回収工程において、二酸化炭素を吸収した吸収液を80℃以上120℃以下で加熱する、請求項5に記載の分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸収液および分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化を抑制するため、二酸化炭素の回収および貯留技術に対する注目が高まっている。中でも、火力発電所等から排出される二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法として、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つを含むアミン成分を含有する吸収液が精力的に研究されている。例えば、特許文献1には、第2級アミンおよび第3級アミンの混合水溶液を用いて、大気圧下の燃焼排ガス中の二酸化炭素を分離回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術では、二酸化炭素の吸収量が多く、吸収速度は高いものの、吸収した二酸化炭素を放散するときのエネルギー(以下、「放散エネルギー」と略記する場合がある)が高く、二酸化炭素を吸収液から分離する際に、吸収液を約130℃まで加熱する必要がある。そのため、二酸化炭素の分離回収に大量のエネルギーが必要になるという問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するために必要なエネルギー量が小さい吸収液等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る吸収液は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、10質量%以上の水と、5質量%以上の親水性有機溶媒と、を含む。
【0007】
前記構成によれば、本発明の一態様に係る吸収液は、アミン成分の溶媒として水と親水性有機溶媒とを含む。吸収液が親水性有機溶媒を含むため、二酸化炭素を吸収液から分離する際の加熱温度を低減することができる。したがって、二酸化炭素の分離に要するエネルギーである放散エネルギーを低減させることができる。
【0008】
さらに、親水性有機溶媒によっても二酸化炭素を吸収できるため、吸収液が親水性有機溶媒を含むことによって、吸収液による二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。また、吸収液が親水性有機溶媒を含むことにより、吸収液の表面張力を小さくできる。そのため、吸収液と二酸化炭素を含むガスとの気液接触の頻度が向上し、吸収液による二酸化炭素の吸収速度を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の一態様に係る吸収液は、前記親水性有機溶媒は、沸点が40℃以上100℃未満であってもよい。前記構成によれば、吸収液が水よりも沸点の低い親水性有機溶媒を含むことによって、吸収液から二酸化炭素を分離する際の加熱温度を低減することができる。そのため、放散エネルギーを低減させることができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る吸収液は、前記親水性有機溶媒は、アルコール類、エーテル類、ケトン類およびニトリル類からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0011】
また、本発明の一態様に係る吸収液は、前記ガスの二酸化炭素の分圧が5kPa以上40kPa以下であり、前記ガスの圧力が160kPa以下であってもよい。前記構成によれば、本発明の一態様に係る吸収液を、石炭火力発電ボイラーの二酸化炭素含有排ガス処理において使用することができる。また、親水性有機溶媒は圧力が高いほど、二酸化炭素の吸収量が増加するため、吸収液の二酸化炭素吸収量を増加させることができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る分離回収方法は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する方法であって、吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて二酸化炭素を前記ガスから分離する分離工程と、前記分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を回収する回収工程と、を含み、前記吸収液は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、10質量%以上の水と、5質量%以上の親水性有機溶媒と、を含む。
【0013】
前記構成によれば、本発明の一態様に係る分離回収方法は、アミン成分、水および親水性有機溶媒を含む吸収液を使用する。吸収液が親水性有機溶媒を含むことによって、回収工程における放散エネルギーを低減させることができる。さらに、親水性有機溶媒によっても二酸化炭素を吸収できるため、吸収液が親水性有機溶媒を含むことで、分離工程における二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る分離回収方法は、前記回収工程において、二酸化炭素を吸収した吸収液を80℃以上120℃以下で加熱してもよい。前記構成によれば、本発明の一態様に係る分離回収方法は、吸収液が5質量%以上の親水性有機溶媒を含むため、従来の回収工程の加熱温度より低い温度条件で、二酸化炭素を吸収液から放散させることができる。したがって、回収工程における放散エネルギーを低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するために必要なエネルギー量が小さい吸収液等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0017】
〔本発明の知見の概略的な説明〕
従来、二酸化炭素の分離回収技術として、アミン成分を含む吸収液による化学吸収法が知られている。前記化学吸収法は、ガス中の二酸化炭素を化学反応によって吸収液に吸収させ、その吸収液を加熱することにより二酸化炭素を放散させて、ガス中の二酸化炭素を回収することができる。
【0018】
ここで、化学吸収法で用いられる吸収液は、基本的に水を溶媒として用いている。水は比熱が高いため、二酸化炭素を吸収液から回収する場合、水を溶媒とした吸収液では加熱に要するエネルギーが大きくなってしまい、消費エネルギーの低減を図る上で大きな課題となっていた。
【0019】
そこで、本発明者らはアミン成分を含む吸収液の溶媒として、水および親水性有機溶媒をそれぞれ所定の範囲の含有量とすることで、二酸化炭素を吸収液から回収する際の加熱温度を低減できることを見出した。このような吸収液によれば、二酸化炭素の回収に要するエネルギーを低減させることができる。
【0020】
続いて、本実施形態の吸収液について説明する。
【0021】
〔吸収液〕
本発明の一実施形態に係る吸収液(以下、「本実施形態の吸収液」とする)は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収するための吸収液であって、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、10質量%以上の水と、5質量%以上の親水性有機溶媒と、を含む。
【0022】
(アミン成分)
本実施形態の吸収液は、アミン成分を含む。アミン成分は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含む。アミン成分に含まれるアミンは特に限定されず、あらゆる構造のアミンを用いてもよく、アミンの炭素数も特に限定されない。
【0023】
第1級アミンの例として、2-メチルピペリジン等の複素環を有する第1級アミン;モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、および、モノブタノールアミン等の第1級アルカノールアミン等が挙げられる。吸収液として用いる場合、二酸化炭素の吸収速度が速く、二酸化炭素の吸収量を大きくできる点で、第1級アミンはモノメタノールアミンが好ましい。第1級アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
第2級アミンの例として、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール、2-イソプロピルアミノエタノール、2-n-ブチルアミノエタノール等の第2級アルカノールアミン;ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、および、2-ピペリジノエタノール等の複素環を有する第2級アミン等が挙げられる。吸収液として用いる場合、二酸化炭素の吸収速度が速く、二酸化炭素の吸収量を大きくできる点で、第2級アミンは第2級アルカノールアミンが好ましく、2-イソプロピルアミノエタノールが特に好ましい。第2級アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
第3級アミンの例として、メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノプロパノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノメチルプロパノール、N-エチル-N-メチルエタノールアミン、3-(ジメチルアミノ)プロパノール、4-(ジメチルアミノ)ブタノール、4-(ジエチルアミノ)ブタノール、2-(2-ジエチルアミノエトキシ)エタノール、および、2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エタノール等の第3級アルカノールアミン;1-メチル-2-ピペリジンメタノール、1-エチル-3-ピペリジンメタノール、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン等の複素環を有する第3級アミン等が挙げられる。吸収液として用いる場合、二酸化炭素の放散時のエネルギーを小さくできる点で、第3級アミンは第3級アルカノールアミンが好ましく、特にメチルジエタノールアミンが好ましい。第3級アミンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
吸収液のアミン成分の濃度は特に限定されない。しかし、一般的にはアミン成分の濃度は高い方が、吸収液における単位液容量あたりの二酸化炭素の吸収量、吸収速度、脱離量および脱離速度が大きい。そのため、エネルギー消費の低減、プラント設備の小規模化および二酸化炭素の処理効率等の観点から考えると、本実施形態の吸収液のアミン成分の濃度は10質量%以上が好ましい。一方、吸収液のアミン成分の濃度が高すぎると、吸収液における単位液容量あたりの二酸化炭素の吸収量の低下、アミン成分の混合性の低下、粘度の上昇等の問題が生じ得る。そのため、本実施形態の吸収液のアミン成分の濃度は70質量%以下が好ましい。
【0027】
アミン成分における、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンのそれぞれの割合は特に限定されず、二酸化炭素の吸収量または吸収液から二酸化炭素を分離する際に要するエネルギーである放散エネルギー量等に応じて適宜決定してよい。第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンの中から1種類をアミン成分としてもよく、2種類または3種類のアミンを混合してアミン成分としてもよい。
【0028】
(水)
本実施形態の吸収液は、10質量%以上の水を含む。水の種類は特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、水道水および地下水等を用いればよい。吸収液の水の濃度は10質量%以上であれば特に限定されないが、吸収液のアミン成分の濃度およびアミン成分の種類によって、好ましい濃度を適宜選択してよい。
【0029】
アミン成分を含む吸収液が二酸化炭素を吸収する際に主に起こる反応例を以下の反応式(1)~(3)に示す。以下に示す反応式中のRはアルキル基を示している。
2RNH2+CO2→RNH3
++RNHCOO-・・・(1)
RNH2+CO2+H2O→RNH3
++HCO3
-・・・(2)
R3N+CO2+H2O→R3NH++HCO3
-・・・(3)
一般的にアミンの級数によって、アミン成分と二酸化炭素との反応の進み方は異なる。第1級アミンおよび第2級アミンでは前記反応式(1)のように、水を介さずにカルバメート(RNHCOO-)を生成する。または、第1級アミンおよび第2級アミンでは前記反応式(2)のように、水を介し重炭酸イオン(HCO3
-)を生成する。なお、前記反応式(1)および(2)は第1級アミンの場合の反応式を示している。一方、第3級アミンはカルバメートの生成に必要となるN原子上のプロトンが存在しないため、前記反応式(3)のように、水を介し重炭酸イオン(HCO3
-)を生成する。
【0030】
ここで、第1級アミンおよび第2級アミンでは、一般的に反応式(1)のカルバメートの生成反応が、反応式(2)の重炭酸イオンの生成反応よりも速く進むことが知られている。そのため、第1級アミンおよび第2級アミンにおいては、水を必要とする反応式(2)の反応が進みにくいと言える。一方、第3級アミンが二酸化炭素と反応する場合、反応式(3)に示すように水が必要である。このように、アミン成分に含まれるアミンの種類によって二酸化炭素を吸収する際に必要となる水の量が異なる。
【0031】
本実施形態の吸収液は、10質量%以上の水を含む。したがって、吸収液のアミン成分に第3級アミンが含まれている場合でも、アミン成分と二酸化炭素との反応が問題なく進行する。また、第1級アミンおよび第2級アミンにおいても、反応式(1)の反応を抑え、反応式(2)の反応が進むアミンが知られている。そのため、第3級アミン以外のアミンをアミン成分として含む吸収液でも、水が存在することで、アミン成分と二酸化炭素との反応が問題なく進行する。吸収液に含まれる水の濃度は、10質量%以上であれば、吸収液のアミン成分の濃度およびアミン成分の種類によって、適宜適当な濃度を決定してよい。また、吸収液には、アミン成分および親水性有機溶媒も含まれることから、吸収液に含まれる水の濃度は、例えば、85質量%以下であってよい。
【0032】
(親水性有機溶媒)
本実施形態の吸収液は、5質量%以上の親水性有機溶媒を含む。親水性有機溶媒の濃度は特に限定されず、吸収液のアミン成分の濃度および水の濃度を考慮して適宜決定してよい。本実施形態の吸収液は、親水性有機溶媒を含むことによって、二酸化炭素を吸収液から分離する際の加熱温度を低減することができる。したがって、吸収液から二酸化炭素を分離する際に要するエネルギーである放散エネルギーを低減させることができる。
【0033】
さらに、親水性有機溶媒はそれ自身が二酸化炭素を吸収できることが知られている。二酸化炭素は、水には溶解しにくく、アセトンおよびアルコール等の親水性有機溶媒には、水と比較して溶解しやすい。また、親水性有機溶媒への二酸化炭素の溶解度は、二酸化炭素分圧の上昇とともに増加する。そのため、二酸化炭素分圧の違いによる二酸化炭素の親水性有機溶媒への溶解度の差を利用して、親水性有機溶媒から二酸化炭素を分離する方法が知られている。
【0034】
吸収液が親水性有機溶媒を含むことによって、吸収液による二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。また、吸収液が親水性有機溶媒を含むことにより、吸収液の表面張力を小さくできる。そのため、吸収液と二酸化炭素を含むガスとの気液接触の頻度が向上し、吸収液による二酸化炭素の吸収速度を向上させることができる。
【0035】
上述のような、吸収液が親水性有機溶媒を含むことによる好ましい効果は、吸収液が、5質量%以上の親水性有機溶媒を含んでいることにより得られる。また、吸収液に含まれる親水性有機溶媒の濃度は、10質量%以上であってもよく、15質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、25質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよい。また、吸収液に含まれる親水性有機溶媒の濃度は、60質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、40質量%以下であってもよい。吸収液に含まれる親水性有機溶媒がこのような濃度であれば、吸収液は、親水性有機溶媒に加えて、二酸化炭素の吸収に必要な量のアミン成分および水を含むことができる。
【0036】
吸収液に用いる親水性有機溶媒の沸点は、特に限定されないが、40℃以上100℃未満が好ましい。一般的に二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させるときの温度は、例えば20℃以上40℃以下である。そのため、親水性有機溶媒の沸点が40℃未満である場合、吸収液と二酸化炭素とを反応させる際に親水性有機溶媒が気体となってしまい、吸収液が溶媒として機能しない場合がある。また、親水性有機溶媒の沸点が100℃未満であれば、親水性有機溶媒の沸点は水の沸点よりも低くなる。吸収液が水よりも沸点の低い親水性有機溶媒を含むことによって、吸収液から二酸化炭素を分離する際の加熱温度を低減することができる。そのため、放散エネルギーを低減させることができる。
【0037】
親水性有機溶媒としては特に限定されず、例えばアルコール類、エーテル類、ケトン類およびニトリル類等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールおよびターシャリーブチルアルコール等が挙げられる。エーテル類としては、ジメトキシエタンおよびテトラヒドロフラン等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン等が挙げられる。また、ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられる。親水性有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本実施形態の吸収液は、アミン成分、水および親水性有機溶媒以外の成分を、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。その他の成分としては、腐食防止剤、劣化防止剤、界面活性剤および消泡剤等を含んでいてもよい。これらその他の成分の濃度は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されない。
【0039】
本実施形態の吸収液は、水および親水性有機溶媒を含む溶媒にアミン成分を添加することによって調製することができる。アミン成分中のアミンは市販のものを使用してもよいし、公知の方法によって合成したものを使用してもよい。
【0040】
(二酸化炭素を含むガス)
二酸化炭素を含むガスとしては、例えば重油、天然ガスおよび石炭等の化石燃料を燃料とする火力発電所のボイラーにおいて発生する燃焼排ガス、発電所の燃焼排ガス、製鉄所の高炉から発生する排ガス等が挙げられる。二酸化炭素を含むガスには、二酸化炭素の他に、水蒸気、一酸化炭素、硫化水素、一酸化硫黄、二酸化硫黄および水素等のガスが含まれていてもよい。
【0041】
火力発電所のボイラー等において発生する燃焼排ガス中の二酸化炭素の分圧は5kPa以上40kPa以下である。また、当該燃焼排ガスの圧力は通常、160kPa以下である。なお、親水性有機溶媒は、接触するガスの圧力が高いほど、二酸化炭素の吸収量が増加することが知られている。そのため、本実施形態の吸収液は、接触するガスの圧力が高いほど、ガス中の二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。したがって、本実施形態の吸収液は、圧力が高い燃焼排ガス等から二酸化炭素を吸収する用途に好適である。
【0042】
〔二酸化炭素を分離回収する方法〕
本発明の一実施形態に係る分離回収方法(以下、「本実施形態の分離回収方法」とする)は、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収する分離回収方法であって、吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて二酸化炭素を前記ガスから分離する分離工程と、前記分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を回収する回収工程と、を含み、前記吸収液は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群より選択される少なくとも1つのアミンを含むアミン成分と、10質量%以上の水と、5質量%以上の親水性有機溶媒と、を含む。
【0043】
(分離工程)
分離工程において、二酸化炭素を含むガスと接触させる吸収液は、上述した〔吸収液〕の欄にて説明した本実施形態の吸収液である。吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させて、二酸化炭素が吸収液に吸収されることによって、二酸化炭素が当該ガスから分離する。
【0044】
吸収液を二酸化炭素と接触させる方法として、二酸化炭素を含むガスの吸収液中でのバブリング、二酸化炭素を含むガスの気流中への吸収液の噴霧またはスプレー、および、吸収液と二酸化炭素を含むガスとの気液向流接触、等が挙げられる。吸収液による二酸化炭素の吸収は、例えば、火力発電所のボイラーおよび発電所等に備えられる吸収塔で行うことができる。
【0045】
吸収液を、二酸化炭素を含むガスと接触させるときの吸収液の温度は、吸収液の組成等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃以上40℃以下であってよい。吸収液と二酸化炭素を含むガスとの接触は、大気圧下で行ってもよいし、加圧下で行ってもよい。
【0046】
(回収工程)
回収工程において、分離工程で得られた二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して、吸収液から二酸化炭素を回収する。本実施形態の分離回収方法は、親水性有機溶媒を含む吸収液を用いることによって、回収工程における放散エネルギーを低減させることができる。さらに、親水性有機溶媒によっても二酸化炭素を吸収できるため、吸収液が親水性有機溶媒を含むことで、分離工程における二酸化炭素の吸収量を増加させることができる。
【0047】
分離工程後の吸収液から二酸化炭素を回収する方法として、分離工程後の吸収液の加熱およびバブリング、ならびに、充填材等による二酸化炭素の吸収、等が挙げられる。分離工程後の吸収液からの二酸化炭素の回収は、例えば、火力発電所のボイラーおよび発電所等に備えられる放散塔(再生塔)で行うことができる。
【0048】
回収工程における、二酸化炭素を回収するときの吸収液の温度は、水を溶媒とする従来の吸収液の場合、溶媒を蒸発させるため130℃程度まで上昇させる必要があった。一方、本実施形態の分離回収方法では、回収工程での、二酸化炭素を回収するときの吸収液の温度は、130℃よりも低くてよく、例えば、80℃以上120℃以下であってよい。本実施形態の分離回収方法は、吸収液が親水性有機溶媒を含むため、従来の回収工程の加熱温度より低い温度条件で、二酸化炭素を吸収液から放散させることができる。したがって、回収工程における放散エネルギーを低減させることができる。
【0049】
(他の工程)
本実施形態の分離回収方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、上述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。他の工程の例として、回収工程で回収した二酸化炭素を貯蔵する貯蔵工程、等が挙げられる。
【0050】
回収した二酸化炭素は、化学品の原料および食品冷凍用の冷剤等として用いることができる。
【0051】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能である。
【実施例0052】
本発明の一実施例に係る吸収液および比較例に係る吸収液を用いて、それぞれ二酸化炭素の吸収量および拡散量を検討した。以下に、各実施例および比較例に係る吸収液の調整方法について説明する。なお、下記表1に、各実施例および比較例に係る吸収液の組成をまとめて示している。
【0053】
〔実施例1〕
30質量%のモノエタノールアミン、55質量%の水および15質量%のメタノールを混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0054】
〔実施例2〕
15質量%のモノエタノールアミン、70質量%の水および15質量%のメタノールを混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0055】
〔実施例3〕
30質量%の2-イソプロピルアミノエタノール、5質量%のピペラジン、50質量%の水および15質量%のメタノールを混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0056】
〔実施例4〕
30質量%のメチルジエタノールアミン、5質量%のピペラジン、45質量%の水および20質量%のメタノールを混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力1010kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0057】
〔実施例5〕
30質量%のモノエタノールアミン、55質量%の水および15質量%のエチレングリコールを混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0058】
〔比較例1〕
30質量%のモノエタノールアミンおよび70質量%の水を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0059】
〔比較例2〕
15質量%のモノエタノールアミンおよび85質量%の水を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0060】
〔比較例3〕
30質量%の2-イソプロピルアミノエタノール、5質量%のピペラジンおよび65質量%の水を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力101kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0061】
〔比較例4〕
30質量%のメチルジエタノールアミン、5質量%のピペラジンおよび65質量%の水を混合して混合液を調整した。次いで、15体積%の二酸化炭素および85体積%の窒素を含むガスを、圧力1010kPaで当該混合液に吹き込み、吸収液を得た。
【0062】
【0063】
〔吸収液によるCO2吸収量の測定〕
各実施例または比較例に係る吸収液100gを入れたガラス容器を恒温水槽に入れ、40℃になるように温度調整した。二酸化炭素が15体積%、窒素が85体積%となるように、それぞれ流量調整器を通して混合した模擬ガスを調整後、当該模擬ガスを、0.9リットル/分の流量で60分間、吸収液が入ったガラス容器に導いた。
【0064】
ガラス容器の入口および出口における二酸化炭素濃度を、島津製作所製全有機炭素計(TOC)で測定した。60分間に流した二酸化炭素量と、ガラス容器の入口および出口の二酸化炭素の濃度差から、吸収液による二酸化炭素の吸収量を見積もった。
【0065】
〔CO2吸収後の吸収液からのCO2放散量の測定〕
二酸化炭素を吸収後の吸収液が入ったガラス容器を入れた恒温槽温度を100℃に設定し、60分間での二酸化炭素の放散量を、キーエンス製気体流力計により測定し積算した。
【0066】
下記表2に、各実施例および比較例に係る吸収液による二酸化炭素の吸収量および放散量を示す。表2において、「CO2吸収量」は、40℃の吸収液における、吸収液1kg当たりの二酸化炭素の吸収量(g)である。また、「CO2放散量」は、100℃の吸収液における、吸収液1kg当たりの二酸化炭素の放散量(g)である。
【0067】
【0068】
表2に示すように、各実施例に係る吸収液はそれぞれ、同じアミン組成を有する各比較例に係る吸収液と比較して、100℃での二酸化炭素の放散量が大きかった。また、実施例5に示すように、本発明の一実施形態に係る親水性有機溶媒は、エチレングリコールのように、沸点が100℃より高くてもよいことが示された。