(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086599
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】滅菌装置および滅菌方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/20 20060101AFI20220602BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20220602BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220602BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20220602BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20220602BHJP
C01B 13/14 20060101ALI20220602BHJP
【FI】
A61L2/20
B01J37/16
B01J35/02 G
B01J23/30 M
B01J37/04 101
C01B13/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198700
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】和泉 亮
(72)【発明者】
【氏名】廣吉 慎吾
【テーマコード(参考)】
4C058
4G042
4G169
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB07
4C058JJ16
4C058JJ28
4C058JJ30
4G042AA00
4G042DA01
4G042DB15
4G042DC03
4G169AA03
4G169BA36A
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB05A
4G169BB11A
4G169BB15A
4G169BC56A
4G169BC59A
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169CB81
4G169CC31
4G169DA06
4G169EC22X
4G169FB04
4G169FB29
4G169FB43
(57)【要約】
【課題】簡素な構成でありながら、高密度の水酸化(OH)ラジカルが発生できることで、被処理物の滅菌を確実に実行できる滅菌装置を提供する。
【解決手段】滅菌装置1は、医療器具などの被滅菌物が配置される滅菌室Rが形成され、気密性を有する収容部2と、収容部2を減圧状態に維持する減圧部3と、収容部2に、水酸基を含むガスの一例である水蒸気を原料ガスとして、第1タンク41から噴射器46を介して散気するガス供給部4と、原料ガスが接触して接触分解させる触媒体とした電極により水酸化ラジカルを発生する接触分解部5とを備え、水酸化ラジカルを含むガスにより被滅菌物を滅菌する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被滅菌物が配置される収容部と、
前記収容部を減圧状態にする減圧部と、
前記収容部に、水酸基を含むガスを原料ガスとして散気するガス供給部と、
前記原料ガスが接触して接触分解させる触媒体により少なくとも水酸化ラジカルを発生する接触分解部とを備え、
前記水酸化ラジカルを含むガスにより前記被滅菌物を滅菌する滅菌装置。
【請求項2】
前記ガス供給部は、前記水酸基を含むガスに、前記触媒体を還元する還元ガスを混合した原料ガスを散気する請求項1記載の滅菌装置。
【請求項3】
前記ガス供給部からの原料ガスが供給され、前記接触分解部が設けられた水酸化ラジカル生成部を備え、前記水酸化ラジカル生成部は、前記収容部に配置され、発生した水酸化ラジカルを前記収容部に導入する請求項1または2記載の滅菌装置。
【請求項4】
前記触媒体は、通電により加熱される電極である請求項1から3のいずれかの項に記載の滅菌装置。
【請求項5】
前記触媒体は、熱伝導、熱伝達、熱放射のいずれかまたはその組み合わせにより加熱される請求項1から3のいずれかの項に記載の滅菌装置。
【請求項6】
前記触媒体は、タングステン,タンタル,モリブデンの何れか1つの材料、これら1つ以上の材料を含む合金、これらの材料の単体の酸化物、これらの材料の単体の窒化物、これらの材料の単体の炭化物、これらの材料から選択された2種類以上の材料からなる混晶または化合物、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の酸化物、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の窒化物、または、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の炭化物、の何れか1つにより形成された請求項1から5のいずれかの項に記載の滅菌装置。
【請求項7】
被滅菌物が配置される収容部を、減圧部により減圧状態に維持するステップと、
前記滅菌室に、水酸基を含むガスを原料ガスとして散気するステップと、
前記原料ガスが接触して接触分解させる接触分解部の触媒体により少なくとも水酸化ラジカルを発生させるステップとを含む滅菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化(OH)ラジカルにより被滅菌物を滅菌する滅菌装置および滅菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルスや細菌が付着した医療器具などを用いて診療を行うと感染症の原因となることがある。従って、医療器具などは滅菌して使用される。滅菌に関する技術として、特許文献1に記載されたものが知られている。
特許文献1に記載のプラズマ滅菌装置は、被処理物を収納する収納手段を低気圧維持手段により低気圧に維持し、この収納手段に酸素ガス供給手段から酸素ガスを供給し、この酸素ガスの酸素をプラズマ生成手段がプラズマ化して酸素ラジカルを生成する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4006491号公報
【非特許文献1】N.Yamamoto et al.,"Tungsten Gate Electrode and Interconnect for Mos VLSIs","Extended Abstracts of the 15th Conference on Solid State Device and Materials, Tokyo,1983",pp.217-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のプラズマ滅菌装置では、ラジカル以外にイオンも発生するため、プラズマによる被処理物へのダメージ等がないように配慮する必要がある。また、プラズマによるラジカルの発生は、高周波電源が必要となることから装置コストが高く、プラズマにより発生させるラジカル密度についても、更に高いものが求められる。
【0005】
滅菌するためのラジカル種として、酸素ラジカルの他、水酸化(OH)ラジカルがある。水酸化(OH)ラジカルは酸素系ラジカルの中で最も酸化力が高いことが知られている。そのため滅菌力も高いといえる。しかしながらその発生方法は常温常圧で液体である過酸化水素水を使用する方法が一般的であり、装置構造や運転方法が複雑である。酸素ラジカルについては気体の酸素を使用するため、扱い易い反面、滅菌効果が劣る。
【0006】
そこで本発明は、簡素な構成でありながら、高密度の水酸化(OH)ラジカルが発生できることで、被処理物の滅菌を確実に実行できる滅菌装置および滅菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の滅菌装置は、被滅菌物が配置される収容部と、前記収容部を減圧状態に維持する減圧部と、前記収容部に、水酸基を含むガスを原料ガスとして散気するガス供給部と、前記原料ガスが接触して接触分解させる触媒体により少なくとも水酸化ラジカルを発生する接触分解部とを備え、前記水酸化ラジカルを含むガスにより前記被滅菌物を滅菌することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の滅菌方法は、被滅菌物が配置される滅菌室を、減圧部により減圧状態に維持するステップと、前記滅菌室に、水酸基を含むガスを原料ガスとして散気するステップと、前記原料ガスが接触して接触分解させる接触分解部の触媒体により少なくとも水酸化ラジカルを発生させるステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明の滅菌装置および滅菌方法によれば、被滅菌物が配置され、減圧部により減圧状態に維持された収容部に、水酸基を含むガスを原料ガスとしてガス供給部が散気することで、接触分解部の触媒体に原料ガスが接触して接触分解させ、少なくとも水酸化ラジカルを発生させることができる。
従って、ガス供給部から原料ガスを供給し続けることで、水酸化ラジカルを連続的に発生させることができるため高密度化が可能であり、従来と比してより高く、確実な滅菌性能が得られ、更に原料ガスを接触分解させるだけなので装置として簡素な構成とすることができる。
【0010】
前記ガス供給部は、前記水酸基を含むガスに、前記触媒体を還元する還元ガスを混合した原料ガスを散気するものとすることができる。
ガス供給部が、触媒体を還元する還元ガスを供給することで、酸化した触媒体を還元することができるので、触媒体の酸化を防止することができる。
【0011】
前記ガス供給部からの原料ガスが供給され、前記接触分解部が設けられた水酸化ラジカル生成部を備え、前記水酸化ラジカル生成部は、前記収容部に配置され、発生した水酸化ラジカルを前記収容部に導入するものとすることができる。
【0012】
前記触媒体は、タングステン,タンタル,モリブデンの何れか1つの材料、これら1つ以上の材料を含む合金、これらの材料の単体の酸化物、これらの材料の単体の窒化物、これらの材料の単体の炭化物、これらの材料から選択された2種類以上の材料からなる混晶または化合物、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の酸化物、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の窒化物、または、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の炭化物、の何れか1つにより形成されたものとすることができる。その触媒体により、水酸基を含むガスを接触分解させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の滅菌装置および滅菌方法は、ガス供給部から原料ガスを供給し続けることで、水酸化ラジカルを連続的に発生させ高密度化が可能であり、原料ガスを接触分解させるだけなので、簡素な構成とすることができる。よって、本発明の滅菌装置は、簡素な構成でありながら、高密度の水酸化(OH)ラジカルが発生できることで、被処理物の滅菌を確実に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る滅菌装置を示す図である。
【
図2】
図1に示す滅菌装置の電極を説明するための図である。
【
図3】
図1に示す電極による接触分解を説明するための図である。
【
図4】非特許文献1のFig.5として記載されたグラフである。
【
図5】
図1に示す滅菌装置の水酸化ラジカル生成部をアタッチメント型とした一例の図である。
【
図6】
図1に示す滅菌装置の他の電極の一例の図である。
【
図7】鶏肉に接触させたステンレス片を滅菌室に配置した後、ステンレス片を培地に接触して培養した例を説明するための写真であり、(A)は単に低圧状態に維持した場合の培地の写真、(B)は原料ガスを流入させ、電極に通電した場合の培地の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る滅菌装置および滅菌方法を図面に基づいて説明する。
図1に示す滅菌装置1は、高密度の水酸化(OH)ラジカルを発生することにより、滅菌処理の対象物(被滅菌物)を短時間に滅菌することができる装置である。例えば、滅菌装置1は、医療施設に設置され、医療器具などを滅菌することができる。
【0016】
(滅菌装置の構成の説明)
滅菌装置1は、収容部2と、減圧部3、ガス供給部4と、接触分解部5と、電源部6とを備えている。
【0017】
収容部2は、気密性を有する容器であり、内部に被滅菌物が配置される滅菌室Rが形成されている。収容部2の内部には、被滅菌物(例えば、メスなどの医療器具や包装容器や加工食品等。)が配置される載置台7が設置されている。また、収容部2には、ガス供給部4からの原料ガスを散気する噴射器8が配置されている。
【0018】
噴射器8は、滅菌室Rに原料ガスを散気するものである。噴射器8は、例えば、中空円盤の一方の面に、後述する混合バルブ45からの配管が接続され、噴射面となる他方の面に、原料ガスを噴射するための微孔が多数形成されている。
【0019】
減圧部3は、収容部2内を、被滅菌物を配置した滅菌処理前の状態から所定の減圧下とするための機能を備えたものであり、減圧ポンプ等の各種機器を選択することができる。なお、より低い減圧状態が要求される場合等においては、一例として、後述の実施例に示すように、収容部2内を大気圧から減圧するロータリーポンプと、ロータリーポンプで減圧しきれなくなった状態から更に低圧状態を高めるターボ分子ポンプとの組み合わせとすることも可能である。また、収容部2内を減圧により負圧状態にすることができるのであれば減圧部3は排気ファンなどとすることも可能である。
【0020】
減圧部3の他の形態として、例えば、より短時間に、かつ滅菌処理の減圧状態をより効率的に生じさせるための機能を備えたものも用いることができ、一例として、減圧ポンプと共に、図示されない切替弁、または流量調整弁等の各種バルブ機構、及びこれらを制御する制御装置等により構成されるものでもよい。
従って、減圧部3については、装置に要求される仕様等、必要に応じて適宜設けることができ、特に必要なければ、減圧下とするためには、減圧ポンプのみ等、所定の減圧下とするための必要最小限の機器を設けることでもよい。
【0021】
ガス供給部4は、滅菌室Rに、第1ガスと第2ガスとによる原料ガスを散気する機能を備えたものである。ガス供給部4は、例えば、第1ガスが貯留された第1タンク41および第2ガスが貯留された第2タンク42と、第1流量調整部43と、第2流量調整部44と、混合バルブ45とを備えている。
【0022】
第1タンク41は、水酸基を含むガスの一例である水蒸気(H2O(G))が貯留されている。水酸基を含むガスは、水蒸気の他に、H2O2やCH3OH、C2H5OHとすることができる。第2タンク42は、還元ガスの一例である水素ガス(H2)が貯留されている。なお、上記のように使用されるガスについては、水酸化ラジカルの発生状況や処理条件等、各種条件に応じてその他のガスを含めて適宜設定することができる。第1流量調整部43と第2流量調整部44とは、配管を流れる流量を調整する。混合バルブ45は、第1流量調整部43と第2流量調整部44からの配管が接続され、ガスを混合する。
【0023】
接触分解部5は、水酸基を含む原料ガスが触媒体に接触することで接触分解させて原料ガスから少なくとも水酸化ラジカルを発生させる機能を有する。接触分解部5は、噴射器8の下方に位置している。
ここで、本実施の形態における接触分解部5を、
図2に基づいて説明する。
接触分解部5は、例えば、矩形状のフレーム51と、フレーム51の一方の辺と対辺である他方の辺との間を往復する、触媒体として機能する電線による電極52と、電極52をフレーム51に固定する取付部材53とを備えている。
【0024】
フレーム51は、例えば、一方の辺51aおよび他方の辺51bの長さL1が約32cmであり、一方の辺51aおよび他方の辺51bの間隔L2が約32cm等、四角形状とすることができる。
【0025】
電極52は、通電されることで加熱される一対の電極(第1電極52a,第2電極52b)が電線52Lから形成された加熱媒体である。
電線52Lは、例えば、一方の辺51aに取り付けられ、電源部6(
図1参照)が接続された一方の端子部材53tから、他方の辺51bに取り付けられた折り返し部材53rと、一方の辺51aに取り付けられた折り返し部材53rとの間を折り返して往復しながら、他方の辺51bに取り付けられ、電源部6に接続された他方の端子部材53tに接続されている。なお、電線52L同士の間隔L3のサイズは、例えば、約33mmとすることができる。
【0026】
触媒体である電線52Lは、原料ガスを接触分解することが可能な材料であり、融点が高い材料が使用できる。例えば、触媒体は、タングステン,タンタル,モリブデンの何れか1つの材料、これら1つ以上の材料を含む合金、これらの材料の単体の酸化物、これらの材料の単体の窒化物、これらの炭素以外の材料の単体の炭化物、これらの材料から選択された2種類以上の材料からなる混晶または化合物、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の酸化物、これらの材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の窒化物、または、これらの炭素以外の材料から選択された2種類以上からなる混晶または化合物の炭化物、の何れか1つにより形成されたものとすることができる。
【0027】
また、触媒体は、上記材料の他に、バナジウム,白金,トリウム,ジルコニウム,イリジウム,イットリウム,ハフニウム,パラジウム,シリコン,炭素などについても、単体、単体を含む合金、単体の酸化物、単体の窒化物、炭素以外の単体の炭化物、これらの中から2種類以上の材料による混晶または化合物、混晶または化合物の酸化物、混晶または化合物の窒化物、または、炭素以外の2種類以上による混晶または化合物の炭化物、とすることも可能である。
【0028】
本実施の形態では、電線52Lとして、タングステンを使用している。なお、タングステンによる電線52Lの太さは、例えば、直径0.5mmとすることができる。
【0029】
電源部6は、直流または交流が出力可能な電源とすることができる。例えば、
図2に示すタングステンによる電極52に通電して水蒸気を接触分解させる電源部6であれば、0Vから80Vまでの出力とすることができる。なお、電源部6は、電極52に流す電流が決定できれば、出力電圧が可変できず、所定の電圧を固定的に出力できる簡素なものとすることができる。
【0030】
(滅菌装置の動作および使用状態の説明)
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る滅菌装置1の動作および使用状態を図面に基づいて説明する。
図1に示す滅菌装置1内の滅菌室Rに設置された載置台7に、被滅菌物Mを配置する。そして、減圧部3等により滅菌室Rを減圧下とする。例えば、滅菌室Rの減圧状態は、10
-1Paと設定することができる。
【0031】
次に、原料ガスである水蒸気を第1タンク41から、水素ガスを第2タンク42から導出させ、第1流量調整部43と第2流量調整部44とにより原料ガスの流量を調整した後に、混合バルブ45にて混合して、噴射器8により滅菌室R内に散気する。
このとき、水素ガス(H2)で希釈された水蒸気(H20(g))を吹き付ける。
【0032】
そして、電源部6により接触分解部5の電極52に通電する。この通電により電極52が加熱される。
そうすることで、
図3に示すように水蒸気(H
2O)と水素ガス(H
2)とは、電線52Lに接触することで、熱エネルギーを得て、接触分解を起こし、水酸化ラジカルOH
*と水素ラジカルH
*とが生成され、載置された被滅菌物Mを滅菌処理に供することが可能となる。
【0033】
ここで、前記電極52の加熱温度の設定について非特許文献1に基づいて説明する。
【0034】
この非特許文献1には、ウェットハイドロ法(WH (Wet Hydrogen) heat treatment)と称されるシリコン集積回路プロセスに関し、ゲート酸化膜(SiO
2)が成膜され、タングステン(以下,Wと表記する。)によりゲート電極が形成されたp型シリコンウェハを基板したものに対して、適切な環境、例えば、O
2フリーのN
2、H
2または、H
2Oを含むH
2等で熱処理を行う点が示されている。また、H
2O、H
2を含む環境下において熱処理を行い、水酸化ラジカルを発生させ、Wが酸化することになしにWゲート電極周辺でシリコンを酸化させSiO
2膜を成長させることが可能である点が記載されている。添加される上記H
2Oの量は、非特許文献1におけるFig.5に示すグラフであり、
図4に示すグラフから熱力学的考察から決定することができ、例えば、シリコンは、平衡蒸気圧比PH
2O/PH
2の2つの曲線の間の領域でWを酸化せずに酸化できることが示されている。
【0035】
非特許文献1においては、SiO
2膜を形成する技術であるが発明者による本技術分野に係るこれまでの鋭意研究の結果より、酸化力の強い水酸化ラジカルを発生させる技術として利用可能であることは分かっている。また、本実施の形態に係る滅菌装置1では、上記のような、形成される酸化膜の質や形態とは無関係であり、滅菌作用を有する水酸化ラジカルが発生されればよいことから、温度条件を
図4に示すグラフの2つの曲線の間の領域設定することで可能となる。具体的には例えば、本実施の形態に係る滅菌装置1では、水蒸気に対する水素の分圧比の範囲を10
-8以上、10
0以下とし、触媒体である電極52(電線52L)の温度を摂氏600度から摂氏2200度の範囲に設定すると、水素ガスが接触分解して水素ラジカルが発生して電極52の酸化を抑止しつつ、水蒸気が電極52に接触することで接触分解して水酸化ラジカルを発生させることができる。
なお、上記温度条件として例えば、摂氏600度から2200度が好ましく、摂氏1000度から1600度がより好ましく、本実施の形態では摂氏1200度としている。
【0036】
また、
図4に示すグラフによれば、水蒸気に対する水素の分圧比の範囲を10
-8以上10
-4とすることで、触媒体の温度を摂氏0度まで低下させることができることがわかる。つまり、適宜、条件を設定すれば、触媒体に原料ガスを接触させるだけで、接触分解を起こさせることができる。
但し、触媒体の温度が低下すれば、水酸化ラジカルの生成量が低下する。その場合には、触媒体面積を増加させたり、原料ガスの供給圧力を上げたりするなどの工夫をする対策を図ることが肝要である。
【0037】
微生物は、その種により増殖活動のできる酸化還元電位の大きさが異なる。それらの種類は、酸素がないと生息できない偏性好気性微生物(全てのカビ、酢酸菌)、通性嫌気性菌(サルモネラ菌、大腸菌、酵母など)、微好気性菌(乳酸菌など)、酸素が存在すると生存できない偏性嫌気性微生物(ボツリヌス菌など)と分類できる。
一般にカビや細菌が生育できる環境はpH指数が2.0~9.0の範囲である。従って、ほとんどの微生物がこの範囲外のpH指数の環境では生息できない。以上のことから水酸化ラジカルにより微生物を急激に酸化させることによって、生育できない環境までpH指数を下げることで、対象の被滅菌物Mに付着した微生物を死滅させることができる。
【0038】
また、水素ガスにより水素ラジカルが発生するため、電線52Lに水素ラジカルが作用することで、酸化した電線52Lを還元する。従って、電線52Lが酸化することで、接触分解を阻害してしまうことを防止することができる。
【0039】
このように、
図1に示す滅菌装置1によれば、原料ガスを滅菌室Rに散気して、電極52にて接触分解させるだけなので、簡素な構成とすることができる。また、電極52を加熱しながら原料ガスを継続的に供給することで、連続的に水酸化ラジカルを発生させることができるため、滅菌室R内の水酸化ラジカルを高密度に発生させることができる。
よって、滅菌装置1は、簡素な構成でありながら、高密度の水酸化(OH)ラジカルが発生できることで、被処理物の滅菌を確実に実行できる。
【0040】
また、滅菌装置1は、プラズマを発生させないため、荷電粒子による被滅菌物Mへのダメージはない。また、電気的制約がなく、電極(加熱媒体)の大きさや原料ガスの流量を増やせば、一度に大容量の滅菌を行うことができる。
滅菌装置1は、滅菌室Rに被滅菌物Mを配置できれば、機器類に限らず食品や包装材等、被滅菌物Mの形態に関係なく滅菌効果を得ることができる。
滅菌装置1は、水酸化ラジカルの反応性の高さから、他の滅菌方法よりも高速に滅菌することができる。
【0041】
更に、滅菌装置1は、水酸化ラジカルが原料ガスによって被滅菌物Mまで到達するため、原料ガスが回り込んだり、入り込んだりすることができるので、機構部品が複雑な精密機器や注射針の針穴などの微小な空間などにも入り込み殺菌することができる。
【0042】
また、一般的に用いられている高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)では、加圧水蒸気により滅菌しているため、被滅菌物M周囲の雰囲気温度が120℃程度まで上昇する。しかし、滅菌装置1は、電極52が高温になるものの被滅菌物とは離間しており、被滅菌物の雰囲気は室温でも滅菌処理が可能である。そのため、滅菌装置1は、例えば、被滅菌物に樹脂製部材が使用されているときには、高温にしなくてもよいので、被滅菌物への負荷を軽減することができるので、高圧蒸気滅菌器より優位である。
【0043】
更に、本実施の形態に係る滅菌装置1では、触媒体として、電極52(電線52L)を通電により加熱した加熱触媒としているが、適正な温度に設定できれば、伝熱による加熱でもよい。
例えば、熱源からの熱伝導により、または熱伝達(対流)により、更に熱放射(輻射)により、触媒体を加熱することも可能である。
熱伝導では、熱源を触媒体に伝導体を介して接続することで触媒体を加熱することができる。また、熱伝達では、熱源を触媒体の下方に配置することで、加熱された原料ガスの対流により触媒体を加熱することができる。熱放射では、熱源を触媒体に近接させて配置することで、輻射により触媒体を加熱することができる。
熱源は、電熱ヒーターとすることができる。熱放射では、赤外線ヒーターとすることができる。
【0044】
滅菌装置1では、接触分解部5が被滅菌物Mの上方に位置しているが、原料ガスが充填された滅菌室R内であれば、被滅菌物Mはどこに配置されていてもよい。
但し、接触分解部5により生成された水酸化ラジカルが消滅する前に被滅菌物Mまで到達させることや、滅菌処理時間の短縮等、処理をより効率的に行うためには、接触分解部5と被滅菌物Mとは出来る限り接近した位置が好ましく、その際、接触分解部5からの熱が、熱伝導、熱伝達(対流)または熱放射(輻射)により、被滅菌物Mに対して悪影響を及ぼさない程度に両者を離間させることが必要である。
【0045】
上記の点を加味し、一例として、滅菌装置は、内部に接触分解部(電極)が設けられ、ガス供給部により原料ガスが供給される円筒状または角筒状のアタッチメント型のセルを水酸化ラジカル生成部として1台以上を、収容部に取り付ける構成とすることができる。
【0046】
例えば、
図5に示す滅菌装置1’は、被滅菌物が配置され、減圧部(図示せず)が設けられた収容部2’に、水酸化ラジカル生成部10が配置されている。
水酸化ラジカル生成部10は、円筒状の本体部11と、本体部11の上部の開口部を覆う蓋部12とを備えている。
【0047】
本体部11の下部には、原料ガスを排出する排出用配管101が形成されている。蓋部12には、電源部6に配線により接続された電極用端子102と、ガス供給部4からの原料ガスが流れる注入用配管103とが貫通している。電極用端子102には、例えば、接触分解部として機能するU字状の電極52が接続されている。
なお、
図5では、収容部2’に水酸化ラジカル生成部10が一台のみ配置されているが、複数台配置されていてもよい。
【0048】
このような形態では、アタッチメント型のセルを配置することにより、発生する水酸化ラジカルと被滅菌物Mとの離間位置の調整等を行うことができると共に、収容部2のサイズの最適化等により装置全体のコンパクト化も図ることが可能となる。また、上記セルを複数設けることにより、水酸化ラジカルの発生量も調整可能となる。
なお、上記のセルを配置する場合において、減圧部を当該セルに設ける形態を例示したが、滅菌処理を行う上での減圧条件に応じて、例えば、収容部2に設けることも、または、双方に設けることも適宜可能である。
【0049】
図2に示す電極52は電線52Lにより形成されていたが、電極52を電線52Lにより形成すること以外に、
図6に示すように、メッシュ状(格子状)の電極9とすることができる。
電極9を格子状に形成することで、原料ガスとの接触面積を増加させることができる。
また、電極は、1枚の金属板を打ち抜きに加工により形成したり、糸状のタングステンを編み込んだりすることで形成することができる。特に打ち抜き加工の場合、電極9の各格子を均等に形成することができるので、電流を偏り無く均等に流すことができ、均等に発熱させることができる。
【0050】
更に、電極は、ジグザグ状、コイル状、箔状、ロッド状とすることができる。電極をジグザク状、コイル状もしくは箔状とすることで、直線状の電線と同じ長さであれば、接触面積を増加させることができる。また、電極をロッド状とすることで、長さ当たりの抵抗値を抑えることができるので大電流を流すことができる。
【0051】
(実施例)
図1に示す滅菌装置1を用いて滅菌効果について実験した。
密閉となる滅菌室Rが形成された収容部2としてユニバーサルシステム社製UVE-840を用い、滅菌室Rに、
図2に示すフレーム51に、タングステンによる電極52を形成した接触分解部5を設置した。第1流量調整部43および第2流量調整部44として、KOFLOC社製3200SRを用いた。
減圧部3に用いた減圧ポンプとしては三菱電機社製SF-JRF(ローターポンプ)および大阪真空機器製作所TC353(ターボ分子ポンプ)を用いた。
【0052】
実験は、鶏肉に接触させたステンレス片を滅菌室Rに配置し、原料ガスを流入せず、電極52にも通電しない、単に減圧状態に維持した場合と、原料ガスを流入させ、電極52に通電した場合とで、ステンレス片の菌を培養して比較した。
【0053】
培養は、上記2つの場合により、各々処理されたステンレス片の処理面を培地に約30秒間ほど接触させ、寒天培地に植菌を行った後、定温乾燥器を用いて温度36°C、湿度90%の環境に3日間(72時間)置き、菌の増殖活動を調査した。
【0054】
その結果、単に低圧状態に維持した場合では、
図7(A)に示すように、コロニーが形成されていることが確認された。また、白い部分も確認できた。死滅した菌は白くなることから、この白い部分は好気性の菌で酸素が失われたために死滅したものだと考えられる。以上のことから、今回用いた試料は、嫌気性および通性嫌気性の菌が存在すると断定できる。
【0055】
原料ガスを流入させ、通電した場合では、
図7(B)に示すように、培養を行ってから72時間を経過してもコロニーが形成されることはなかった。その後、1週間観察を続けたが培地に変化が見られなかった。このことから水酸化ラジカルによる酸化還元反応により菌が死滅したと判断できる。
【0056】
本実施例では、滅菌の処理時間を約5分とした。例えば、従来の医療器具の洗浄には高温高圧の水圧洗浄が行われているが、この水圧洗浄と比較しても処理時間はかなり短縮できていると言える。従って、滅菌装置1では、高速かつ広範囲の業界における滅菌として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の滅菌装置は、医療用機器の滅菌、衛生材料の滅菌、食品関連における機械設備の部品の滅菌など、衛生管理が要求させる施設に適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1,1’ 滅菌装置
2,2’ 収容部
21 本体部
22 蓋部
3 減圧部
4 ガス供給部
41 第1タンク
42 第2タンク
43 第1流量調整部
44 第2流量調整部
45 混合バルブ
47 排出用配管
48 注入用配管
5 接触分解部
51 フレーム
51a 一方の辺
51b 他方の辺
52 電極
52a 第1電極
52b 第2電極
52L 電線
53 取付部材
53t 端子部材
53r 折り返し部材
6 電源部
61 電極用端子
7 載置台
8 噴射器
9 電極
10 水酸化ラジカル生成部
11 本体部
12 蓋部
R 滅菌室
L1 長さ
L2,L3 間隔
M 被滅菌物