(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022086694
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】フルオロシラン化合物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20220602BHJP
【FI】
C07F7/08 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020198848
(22)【出願日】2020-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】吉成 保彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】山田 薫平
【テーマコード(参考)】
4H049
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ54
4H049VR23
4H049VR31
4H049VS78
4H049VT12
4H049VT24
4H049VU31
4H049VV02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フルオロシラン化合物を製造する新規な方法を提供する。
【解決手段】例えば下記式(IV)で表されるフルオロシラン化合物を製造する方法であって、
下記式(III)で表される化合物と、フッ化アンチモン及びフッ化水素アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化剤と、溶媒とを含む反応液中で、化合物IIIとフッ素化剤とを反応させて、前記フルオロシラン化合物を得る工程を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオロシラン化合物を製造する方法であって、
【化1】
[式(1)中、R
1は置換基を有していてもよいアルキレン基を示し、R
2は置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Y
1及びY
2はそれぞれ独立にアルキル基を示す。]
下記式(A)で表される化合物Aと、フッ化アンチモン及びフッ化水素アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化剤と、溶媒とを含む反応液中で、前記化合物Aと前記フッ素化剤とを反応させて、前記フルオロシラン化合物を得る工程を含む、方法。
【化2】
[式(A)中、R
1、R
2、Y
1及びY
2は前記と同意義を示し、Lは脱離基を示す。]
【請求項2】
前記反応液を反応させる際に、前記化合物A及び前記溶媒に対して、前記フッ素化剤を複数回に分けて加える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フルオロシラン化合物を得る工程の前に、下記式(B)で表される化合物Bを酸化して、スルホニル基を形成することにより前記化合物Aを得る工程を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【化3】
[式(B)中、R
1、R
2、Y
1、Y
2及びLは前記と同意義を示す。]
【請求項4】
前記化合物Bを、酸存在下で過マンガン酸塩と反応させることによって、酸化する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物Aを得る工程の前に、下記式(C)で表される化合物Cと、下記式(D)で表される化合物Dの塩と、炭素数3以上のアルコールとを含む反応液中で、前記化合物Cと前記化合物Dを反応させて、前記化合物Bを得る工程を更に含む、請求項2又は3に記載の方法。
【化4】
[式(C)及び式(D)中、R
1、R
2、Y
1、Y
2及びLは前記と同意義を示し、Xはハロゲン原子又はカルボキシル基を示す。]
【請求項6】
前記化合物Aが、下記式(A-1)で表される化合物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【化5】
[式(A-1)中、R
1、R
2、Y
1及びY
2は前記と同意義を示し、複数存在するR
1、R
2、Y
1及びY
2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項7】
前記化合物Aが、1,3-ビス(3-メチルスルホニルプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオロシラン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Si-F結合を有するフルオロシラン化合物等の官能化シランは、電気化学デバイスに用いられる電解質組成物等としての利用が検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、フルオロシラン化合物を製造する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、下記式(1)で表されるフルオロシラン化合物を製造する方法であって、
【化1】
[式(1)中、R
1は置換基を有していてもよいアルキレン基を示し、R
2は置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Y
1及びY
2はそれぞれ独立にアルキル基を示す。]
下記式(A)で表される化合物Aと、フッ化アンチモン及びフッ化水素アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化剤と、溶媒とを含む反応液中で、化合物Aとフッ素化剤とを反応させて、フルオロシラン化合物を得る工程を含む、方法に関する。
【化2】
[式(A)中、R
1、R
2、Y
1及びY
2は前記と同意義を示し、Lは脱離基を示す。]
【0006】
化合物Aは、下記式(A-1)で表される化合物であってよい。
【化3】
[式(A-1)中、R
1、R
2、Y
1及びY
2は前記と同意義を示し、複数存在するR
1、R
2、Y
1及びY
2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0007】
化合物Aは、1,3-ビス(3-メチルスルホニルプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであってよい。
【0008】
反応液を反応させる際に、化合物A及び溶媒に対して、フッ素化剤を複数回に分けて加えてよい。
【0009】
フルオロシラン化合物を得る工程の前に、下記式(B)で表される化合物Bを酸化して、スルホニル基を形成することにより化合物Aを得る工程を更に含んでもよい。
【化4】
[式(B)中、R
1、R
2、Y
1、Y
2及びLは前記と同意義を示す。]
【0010】
化合物Aを得る工程において、化合物Bを、酸存在下で過マンガン酸塩と反応させることによって、酸化してもよい。
【0011】
化合物Aを得る工程の前に、下記式(C)で表される化合物Cと、下記式(D)で表される化合物Dの塩と、炭素数3以上のアルコールとを含む反応液中で、化合物Cと化合物Dを反応させて、化合物Bを得る工程を更に含んでもよい。
【化5】
[式(C)及び式(D)中、R
1、R
2、Y
1、Y
2及びLは前記と同意義を示し、Xはハロゲン原子又はカルボキシル基を示す。]
【発明の効果】
【0012】
本発明の一側面によれば、フルオロシラン化合物を製造する新規な方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0014】
本実施形態に係る方法は、下記式(1)で表されるフルオロシラン化合物を製造する方法であって、
【化6】
[式(1)中、R
1は置換基を有していてもよいアルキレン基を示し、R
2は置換基を有していてもよいアルキル基を示し、Y
1及びY
2はそれぞれ独立にアルキル基を示す。]
下記式(A)で表される化合物Aと、フッ化アンチモン及びフッ化水素アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化剤と、溶媒とを含む反応液中で化合物Aとフッ素化剤とを反応させて、フルオロシラン化合物を得る工程を含む。
【化7】
[式(A)中、R
1、R
2、Y
1及びY
2は前記と同意義を示し、Lは脱離基を示す。]
【0015】
R1におけるアルキレン基の炭素数は、例えば、1以上、又は2以上であってよく、10以下、又は5以下であってよい。R1はそれぞれ独立に炭素数2以上又は炭素数3以上のアルキレン基であることが好ましい。R1におけるアルキレン基は置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよい。R1におけるアルキレン基の置換基としては、例えば、エーテル基、アミド基、フェニル基、オキソ基(=O)が挙げられる。R1におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、ペンチル基が挙げられる。
【0016】
R2で表されるアルキル基の炭素数は、例えば、1以上であってよく、10以下、8以下、6以下、4以下、又は2以下であってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基(例えば、n-ペンチル基)、ヘキシル基(例えば、n-ヘキシル基)が挙げられる。
【0017】
R2で表されるアルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよい。アルキル基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。
【0018】
Y1及びY2で表されるアルキル基の炭素数は、1以上であってよく、3以下であってよい。Y1及びY2は、メチル基、エチル基、又はプロピル基であってよく、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0019】
Lで表される脱離基は、フッ素化剤との反応によって脱離可能な基である。脱離基としては、例えば、塩素原子、置換シリルオキシ基(-O-SiR3)、臭素原子、ヨウ素原子、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0020】
フルオロシラン化合物としては、例えば、3-メチルスルホニルプロピル-ジメチルフルオロシラン等が挙げられる。
【0021】
化合物Aは、下記式(A-1)で表される化合物であってよい。化合物Aが下記式(A-1)である場合、1分子の化合物Aから2分子の上記フルオロシラン化合物を得ることができる。
【化8】
【0022】
式(A-1)中、R1、R2、Y1及びY2は式(A)中のR1、R2、Y1及びY2で述べた基であってよい。複数存在するR1、R2、Y1及びY2はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
化合物Aは、例えば、1,3-ビス(3-メチルスルホニルプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、(3-メチルスルホニルプロピル)ペンタメチルジシロキサンが挙げられる。
【0024】
溶媒は、例えば、化合物A及び/又はフッ素化剤を溶解(相溶)し得る溶媒であってよい。溶媒としては、例えば、疎水性溶媒を用いることができる。溶媒は、高温条件での反応が可能となる観点から、例えば、大気圧下における沸点が、110℃以上である溶媒であってよい。
【0025】
溶媒(疎水性溶媒)としては、例えば、芳香族炭化水素溶媒、エステル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンが挙げられる。エステル溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチルが挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタンが挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
溶媒は、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン及びこれらの溶媒を少なくとも2種含む混合溶媒であってよい。
【0027】
化合物Aと、フッ素化剤と、溶媒とを含む反応液中で、化合物Aと、フッ素化剤とを反応させることによって、上記式(1)で表される化合物を得ることができる。反応条件(反応温度、反応時間等)は、例えば、原料となる化合物A、フッ素化剤及び溶媒の種類等に応じて、適宜設定することができる。反応液の温度は、例えば、70℃~130℃、又は90~120℃であってよい。反応温度を溶媒の沸点付近まで昇温し、還流させてもよい。反応液の温度は、段階的に、又は連続的に昇温してもよい。反応液の温度を上記温度に保持する時間(反応時間)は、例えば、10分間以上、又は1時間以上であってよく、例えば、12時間以下、10時間以下、又は8時間以下であってもよい。
【0028】
反応は、不活性ガス雰囲気下で実施されてもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0029】
反応液を反応させる際に、化合物A及び溶媒に対して、フッ素化剤を複数回に分けて加えてよい。この場合、より一層短時間で、目的とするフルオロシラン化合物を得ることができる。複数回に分けて加える場合、フッ素化剤を、等molずつ加えることが望ましい。フッ素化剤を加える間隔は、フッ素化剤が固まり始めたら入れる方がよい。具体的には、反応初期は1時間ごとに、反応後期になると間隔をあけて2~5時間ごとに入れることが好ましい。
【0030】
反応終了後、必要により後処理が行われてよい。例えば、未反応のフッ素化剤、出発原料、溶媒等を除去することによって、目的とするフルオロシラン化合物を得ることができる。未反応のフッ素化剤は例えば、ろ過によって除去することができる。溶媒等を含む油性成分は、エバポレーター等の減圧装置を利用する方法によって除去することができる。
【0031】
式(1)で表されるフルオロシラン化合物を得る反応の反応率は、例えば、95%~100%であってよい。反応率は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0032】
本実施形態に係る方法は、フルオロシラン化合物を得る工程の前に、下記式(B)で表される化合物Bを酸化して、スルホニル基を形成することにより化合物Aを得る工程を更に含んでいてよい。
【化9】
【0033】
式(B)中、R1、R2、Y1、Y2及びLは前記と同意義を示す。
【0034】
化合物Bは、例えば、下記式(B-1)で表される化合物であってよい。この場合、化合物Bの酸化反応によって、上記式(A-1)で表される化合物Aを得ることができる。
【化10】
【0035】
式(B-1)中のR1、R2、Y1及びY2は、式(A-1)で述べた基であってよい。
【0036】
化合物Bとしては、例えば、1,3-ビス(3-メチルチオプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、(3-メチルスルホニルプロピル)ペンタメチルジシロキサンが挙げられる。
【0037】
化合物Bの酸化反応は、酸化剤を用いて実施することができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸塩、過酸化水素、次亜塩素酸塩が挙げられる。
【0038】
化合物Aを得る工程では、化合物Bを、酸存在下で過マンガン酸塩を反応させることによって、酸化することが好ましい。この場合、より一層効率良く反応を進行させることができる。
【0039】
過マンガン酸塩としては、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸アンモニウム、過マンガン酸銀、過マンガン酸亜鉛、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム、過マンガン酸バリウムが挙げられる。過マンガン酸塩は、過マンガン酸カリウムであることが好ましい。
【0040】
酸としては、例えば、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸が挙げられる。
【0041】
化合物Aを得る工程では、例えば、化合物B、過マンガン酸塩、酸及び溶媒を含む反応液中で、化合物B及び過マンガン酸塩を反応させてよい。溶媒は、水であってもよく、有機溶媒であってもよい。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ペンチル、シクロヘキサン、ヘキサン、へプタンが挙げられる。
【0042】
反応液の総量における化合物Bの濃度は、例えば、0.001~10mol/L、又は0.01~1.0mol/Lであってよい。
【0043】
反応液の総量における酸の濃度は、例えば、0.001~10mol/Lであってよい。反応液のpHは、1~6の範囲であってよい。
【0044】
反応液の温度は、反応液中の溶媒等の成分の種類等に応じて適宜設定することができる。反応液の温度は、例えば、5~40℃、又は10~30℃であってよい。反応液の温度を上記温度に保持する時間(反応時間)は、例えば、10分間以上、又は1時間以上であってよく、例えば、12時間以下、10時間以下、又は8時間以下であってもよい。
【0045】
反応は、不活性ガス雰囲気下で実施されてもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0046】
反応終了後、必要により後処理が行われてよい。例えば、反応液が水を含む場合、反応液を分液処理することによって水を除去して、油層中の溶媒を揮発させることによって、スルホン化合物を得ることができる。本実施形態に係る方法によれば、分液操作以外に精製操作等を行うことなく、スルホン化合物を得ることができるため、高収率でスルホン化合物を得ることができる。
【0047】
反応終了後、必要により後処理が行われてよい。例えば、反応液が水を含む場合、反応液を分液処理することによって水を除去して、油層中の溶媒を揮発させることによって、化合物Aを得ることができる。
【0048】
スルホニル基を形成する反応の反応率は、例えば、95%~100%であってよい。反応率は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0049】
本実施形態に係る方法は、化合物Aを得る工程前に、化合物Bを得る工程を更に含んでいてよい。化合物Bを得る工程は、下記式(C)で表される化合物Cと、下記式(D)で表される化合物Dの塩と、炭素数3以上のアルコールとを含む反応液中で、化合物Cと化合物Dとを反応させて、化合物Bを得る工程であってよい。
【化11】
[式(C)及び式(D)中、R
1、R
2、Y
1、Y
2及びLは前記と同意義を示し、Xはハロゲン原子又はカルボキシル基を示す。]
【0050】
化合物Cと、チオール化合物の塩の反応機構は、例えば、以下のとおりであるが、これに限定されない。Xがハロゲン原子である場合、化合物Cはチオール化合物の塩と反応することによって、スルフィド結合が形成されると推察される。Xがカルボキシル基である場合、カルボキシル基のC=O結合にチオール基のSがアタックし結合を形成すると推察される。その際、カルボキシル基の一部-OHが脱離して、チオエステル結合が形成されると推察される。
【0051】
Xで表されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。Xは、例えば、塩素原子であってもよい。
【0052】
化合物Cは、下記式(C-1)で表される化合物であってよい。
【化12】
[式(C-1)中、R
1、Y
1及びY
2は、それぞれ式(A-1)中のR
1、Y
1及びY
2と同意義を示し、Xは、式(C)中のXと同意義を示す。]
【0053】
化合物Cとしては、例えば、1,3-ビス(3-クロロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、(3-クロロプロピル)ペンタメチルジシロキサンが挙げられる。
【0054】
化合物Dは、例えば、アルキルメルカプタンであってよい。化合物Dとしては、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n-プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、tert-ブチル、tertブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタンが挙げられる。
【0055】
化合物Dの塩は、例えば、アルカリ金属塩であってよい。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩が挙げられる。
【0056】
反応液中の化合物Cのモル数(c)に対する化合物Dのモル数(d)のモル比(d/c)は、0.5以上、1.0以上、1.5以上、2.0以上、又は2.5以上であってよく、例えば、10以下、5以下、又は3以下であってもよい。
【0057】
化合物Bを得る工程において、反応液は、溶媒を含む。反応液中の一部の成分は溶媒に溶解していなくてもよい。反応液は、溶媒として、炭素数3以上のアルコールを含む。炭素数3以上のアルコールは、1価アルコール又は多価アルコールであってよい。炭素数3以上のアルコールの炭素数は、例えば、3以上8以下、又は3以上6以下、又は3若しくは4であってよい。炭素数3以上のアルコールとしては、例えば、イソプロパノール(2-プロパノール)、イソブチルアルコール、ブタノール、ペンタノールが挙げられる。炭素数3以上のアルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
反応液は、炭素数3以上のアルコール以外の溶媒(他の溶媒)を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。炭素数3以上のアルコールの量は、溶媒の総量100体積部に対して、10体積部以上、又は20体積部以上であってよく、80体積部以下、又は60体積部以下であってよい。
【0059】
他の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール系溶媒(例えば、ポリエチレングリコール、1,2-ジメトキシエタン、エチレングリコールモノエチルエーテル)が挙げられる。
【0060】
反応液は、溶媒として、メタノールを含んでいてよい。反応液がメタノールを含む場合、炭素数3以上のアルコールの体積と、メタノールの体積との比(炭素数3以上のアルコール/メタノール)は、例えば、1/10~1/0.1であってよく、1/5~1/0.5であってよく、1/1.2~1/0.8であってもよい。
【0061】
反応液は、溶媒として、水を含んでいてよい。反応液が水を含む場合、水の体積と、水以外の溶媒の体積の比(水/水以外の溶媒)は、例えば、1/10~1/0.1であってよく、1/5~1/0.5であってよく、1/1.2~1/0.8であってもよい。
【0062】
反応液は、溶媒として、炭素数3以上のアルコール及び水を含んでいてよく、炭素数3以上のアルコール、水及びメタノールを含んでいてよい。反応液が炭素数3以上のアルコール、水及びメタノールを含む場合、水の体積と、炭素数3以上のアルコールの体積と、メタノールの体積との比(水/炭素数3以上のアルコール/メタノール)は、例えば、1/1/1~7/1/1であってよい。
【0063】
化合物Cと化合物Dの塩とを反応液中で反応させて、化合物Bが得られる。反応液は、化合物C、化合物Dの塩及び炭素数3以上のアルコールと、必要に応じてその他の成分とを混合することによって調製することができる。反応液は、化合物Dの塩に代えて、化合物Dを用いて、反応液中で化合物Dの塩を形成させることによって調製してもよい。
【0064】
反応液の総量における化合物Cの濃度は、例えば、0.001~10mol/L、又は0.01~1.0mol/Lであってよい。反応液の総量における化合物Dの濃度は、例えば、0.001~10mol/L、又は0.2~2.0mol/Lであってよい。
【0065】
反応液の温度は、反応液中の溶媒等の種類に応じて適宜設定することができる。反応液の温度は、例えば、50℃以上、60℃以上、又は70℃以上であってよく、100℃未満、90℃以下、又は80℃以下であってもよい。反応液の温度を上記温度に保持する時間(反応時間)は、例えば、10分間以上、1時間以上、5時間以上であってよく、例えば、12時間以下、10時間以下、又は8時間以下であってもよい。
【0066】
反応は、不活性ガス雰囲気下で実施されてもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0067】
反応終了後、必要により後処理が行われてよい。例えば、反応液が水を含む場合、反応液を分液処理することによって水を除去して、油層中の溶媒成分を揮発させることによって、化合物Bを得ることができる。本実施形態に係る方法によれば、後処理が容易になる傾向がある。例えば、化合物Bが1,3-ビス(3-メチルチオプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンである場合には、当該化合物と水とが分離しているため、分液操作によって簡便に分離することができる。
【0068】
化合物Cと化合物Dの塩との反応の反応率は、例えば、85%以上又は95%以上であってよい。目的とする化合物の収率は、例えば、90%以上又は95%以上であってよい。反応率及び収率は、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【実施例0069】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
試験例1:1,3-ビス(3-メチルチオプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BTDS)の合成
冷却管、温度計及び滴下ロートを接続した3つ口フラスコを反応容器とした。反応容器内は、N
2雰囲気にした。その後、反応容器内にスターラチップ、表1に示す溶媒、1,3-ビス(3-クロロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BCDS、下記式(I)で表される化合物)を投入し、70-80℃に加温し撹拌した。滴下ロート内にメチルメルカプタンナトリウム水溶液(後ほど記載)を加え、3秒に1滴のペースで反応容器内に滴下した。滴下後、反応容器内の反応液の温度を70-80℃に維持し、所定の時間反応させた。反応終了後の反応液から分液ロートにて水層を取り除き、油層をエバポレーションして、反応物として、1,3-ビス(3-メチルチオプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BTDS、下記式(II)で表される化合物)を得た。
【化13】
【化14】
【0071】
得られたBTDSの1H NMRの測定結果を以下に示す。
1H NMR(300MHz,CDCI3)δ2.52(t,J=3.75Hz,4H),2.10(s,6H),1.67-1.57(m―4H),0.66-0.63(t, J=4.32Hz,4H),0.07(s,12H)
【0072】
表1に反応率の結果を示す。反応率は、1H NMRから算出した原料のクロロ末端メチレン基と反応後のメチルチオールの末端メチレン基の積分比により算出した値である。表1には、合成条件2の方法による収率も示す。収率は、原料(BCDS)の仕込み量(mol)と反応率から求められるBTDSの収量を理論収量と定義し、実際のBTDSの収量を理論収量で割ることで求めた値である。
【0073】
表1中、「IPA」はイソプロパノール、「MeOH」はメタノール、「EtOH」はエタノール、「EG」はエチレングリコールを意味する。
【0074】
【0075】
試験例2:1,3-ビス(3-メチルスルホニルプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BSDS)の合成
冷却管、温度計及び滴下ロートを接続した3つ口フラスコを反応容器とした。反応容器内は、N2雰囲気にした。その後、フラスコ内にスターラチップ、溶媒、触媒、1,3-ビス(3-メチルチオプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BTDS)を反応容器内に投入し、室温で撹拌した。酸化剤を含む水溶液を加えた滴下ロートから3秒に1滴のペースで反応容器内に、酸化剤を含む水溶液を滴下した。滴下後に反応液を、室温で所定の時間反応させた。反応終了後、分液ロートにて水層を取り除き、油層をエバポレーションして、反応物として、1,3-ビス(3-メチルスルホニルプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BSDS、下記式(III)で表される化合物)を得た。
【0076】
【化15】
得られたBSDSの
1H NMRの測定結果を以下に示す。
1H NMR(300MHz,CDCI
3)δ3.10(t,J=4.09,4H),2.94(s,6H),2.01-1.90(m―4H),0.76-0.70(t,J=4.27Hz-4H),0.18(s,12H)
【0077】
表2に反応率の結果を示す。反応率は、1H NMRから算出した原料のメチルチオールの末端メチル基と反応後のメチルスルホニルの末端メチル基の積分比から算出した値である。収率は、原料(BTDS)の仕込み量(mol)と反応率から求められるBSDSの収量を理論収量と定義し、実際のBSDSの収量を理論収量で割ることで算出した値である。
【0078】
【0079】
合成条件2-1及び2-2の方法によれば、過酸化水素を用いた合成条件2-6の方法と同程度の反応効率でスルホン化合物を製造することができることが示された。
【0080】
試験例3:3-メチルスルホニルプロピル―ジメチルフルオロシランの合成
PFAフラスコに冷却管を接続させ、冷却管の上に3方コックをつけ、3方コックの一方にチューブを付け、チューブを水の入った容器に入れた。3方コックのもう一方からはN
2ガスを吹き込み、N
2雰囲気にした。その後、トルエン、及び1,3-ビス(3-メチルスルホニルプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(BSDS)をフラスコ内に投入し、70℃で撹拌した。フラスコ内に一部又は全部のフッ素化剤を投入後、温度を110℃まで上昇させ、所定の時間反応させた。反応終了後、反応後液から桐山ロートにてフッ素化剤を取り除き、油層をエバポレーションして、目的とする反応物として、3-メチルスルホニルプロピル―ジメチルフルオロシラン(下記式(IV)で表される化合物)を得た。
【化16】
【0081】
合成条件1では、フッ素化剤を、2回に分けて投入した(1回目の投入量:50g、2回目の投入量:50g)。合成条件1では、フッ素化剤の投入は、反応開始(フッ素化剤の1回目の投入)時点と、反応開始時点から1時間経過した時点の2回に分けて実施した。
【0082】
合成条件2では、フッ素化剤を、4回に分けて投入した(1回目の投入量:3.5g、2回目の投入量:3.5g、3回目の投入量:3.5g、4回目の投入量:3.5g)。合成条件2では、フッ素化剤の投入は、反応開始(フッ素化剤の1回目の投入)時点並びに反応開始時点から1.5時間、5時間及び10時間経過した時点の4回に分けて実施した。
【0083】
合成条件3では、フッ素化剤を反応開始(フッ素化剤の1回目の投入)時点に全量投入した。
【0084】
得られた3-メチルスルホニルプロピル―ジメチルフルオロシランの1H NMRの測定結果を以下に示す。
1H NMR(300MHz,CDCI3)δ3.07(t,J=4.04,2H),2.92(s,3H),2.05-1.95(m―2H),0.95-0.82(q,J=4.04Hz,2H),0.29(s,6H)
【0085】
表3中の反応率は、1H NMRから算出した原料である1,3-ビス(3-メチルスルホニルプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンのシロキサン部分のメチル基の積分値を半分にした値と反応後の3-メチルスルホニルプロピル―ジメチルフルオロシランのシラン部分のメチル基の積分値を比較して算出した値である。収率は、原料(BSDS)の仕込み量(mol)と反応率から求められる式(IV)の収量を理論収量と定義し、実際の式(IV)の収量を理論収量で割ることで算出した値である。
【0086】
【0087】
合成条件1~3に示す条件によって、目的とするフルオロシラン化合物を得ることができた。フッ素化剤を段階的に加えることによって、反応時間が顕著に短縮されることが示された(合成条件1~2と、合成条件3との対比)。