(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022087329
(43)【公開日】2022-06-09
(54)【発明の名称】EUV露光用反射型マスクブランク、および反射型マスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20220602BHJP
【FI】
G03F1/24
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068079
(22)【出願日】2022-04-18
(62)【分割の表示】P 2018078632の分割
【原出願日】2018-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017081235
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】田邊 容由
(57)【要約】
【課題】60nm以下の膜厚でEUV光の反射率を2%以下に抑え、マスク加工が容易な反射型マスクブランクの提供。
【解決手段】基板11上にEUV光を反射する多層反射膜12と、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜16とを基板11側からこの順に備えるバイナリ型の反射型マスクブランク10であって、前記パターン膜16は、EUV光を吸収する吸収体膜14と、前記吸収体膜14上に形成される表面反射増強膜15とで構成されており、波長13.53nmにおける、前記吸収体膜14の屈折率をn
ABS、吸収係数をk
ABSとし、前記表面反射増強膜15の屈折率をn、吸収係数をkとしたとき、((n-1)
2+k
2)
1/2 > ((n
ABS-1)
2+k
ABS
2)
1/2 +0.03で示される条件を満たすことを特徴とする反射型マスクブランク。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にEUV光を反射する多層反射膜と、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜とを基板側からこの順に備えるバイナリ型の反射型マスクブランクであって、
前記パターン膜は、EUV光を吸収する吸収体膜と、表面反射増強膜とを基板側からこの順で備えており、
波長13.53nmにおける、前記吸収体膜の屈折率をnABS、吸収係数をkABSとし、前記表面反射増強膜の屈折率をn、吸収係数をkとしたとき、
((n-1)2+k2)1/2 > ((nABS-1)2+kABS
2)1/2 +0.03で示される条件を満たし、
前記表面反射増強膜の膜厚dは前記屈折率nを用いて、
13.53nm/4n×0.5<d<13.53nm/4n×1.5
で示される条件を満たすことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記表面反射増強膜は、前記屈折率nが0.95以下であることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記吸収体膜の膜厚をdABSとするとき、前記表面反射増強膜の膜厚dが、
d<1/10×dABS
で示される条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記表面反射増強膜はルテニウムを含むルテニウム系材料膜であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記パターン膜において、前記吸収体膜と、表面反射増強膜との間に、波長13.53nmにおける屈折率nBが、n<nABS<nBで示される条件を満たす表面反射補助膜が形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記表面反射補助膜は、波長13.53nmにおける屈折率nBが0.95以上であることを特徴とする請求項5に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記表面反射補助膜の膜厚dBは前記屈折率nBを用いて、
13.53nm/4nB×0.5<dB<13.53nm/4nB×1.5
で示される条件を満たすことを特徴とする請求項5または6に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記表面反射補助膜はシリコンを含むシリコン系材料膜あるいはアルミニウムを含むアルミニウム系材料膜であることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記多層反射膜と、前記パターン膜との間に、前記多層反射膜を保護するための保護膜を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記パターン膜上に、マスク加工時に除去されるハードマスク膜を備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
前記ハードマスク膜は、タンタル系材料を含むタンタル系材料膜、クロム系材料を含むクロム系材料膜、およびシリコン系材料を含むシリコン系材料膜からなる群から選択されるいずれか1つであることを特徴とする請求項10に記載の反射型マスクブランク。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の反射型マスクブランクのパターン膜にパターンを形成してなることを特徴とするバイナリ型の反射型マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造の露光プロセスで使用されるEUV(Etreme Ultra Violet:極端紫外)露光用マスクを製造するための原板である反射型マスクブランク、および、該反射型マスクブランクのパターン膜にマスクパターンを形成してなる反射型マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造で使用される露光装置の光源には、波長365~193nmの紫外光が用いられてきている。波長が短いほど露光装置の解像度は高くなる。そこで、次世代の露光装置の光源として、中心波長13.53nmのEUV光が有望視されている。
【0003】
EUV光は、多くの物質に対し吸収されやすく、露光装置に屈折光学系を用いることができない。このため、EUV露光では反射光学系ならびに反射型マスクが用いられている。
【0004】
このような反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターニングされている。多層反射膜と吸収体膜の間には、マスクパターンを形成する際のエッチングから多層反射膜を保護するための保護膜が通常形成されている。
【0005】
基板としては、露光時の熱膨張によるパターン歪を抑制する目的で合成石英に少量のチタンを添加した低熱膨張ガラスが良く用いられる。多層反射膜としては、モリブデン膜とシリコン膜を交互に40周期程度積層した膜が通常用いられている。保護膜には厚さ1~5nmのルテニウム系材料が通常用いられる。ルテニウム系材料は酸素を含まないガスに対し非常にエッチングされにくく、マスク加工時のエッチングストッパとして機能する。吸収体膜にはタンタル系材料が良く用いられる。マスク加工後のパターン欠陥検査を容易にするため、吸収体膜を2層構造、例えば、窒化タンタル膜と酸窒化タンタル膜との二層構造とすることも良く行われている。
【0006】
露光装置の照明光学系より反射型マスクに入射したEUV光は、吸収体膜の無い部分(開口部)では反射され、吸収体膜の有る部分(非開口部)では吸収され、マスクパターンが露光装置の縮小投影光学系を通してウエハ上に転写される。反射型マスクにEUV光は通常6度傾斜した方向から入射する。吸収体膜の膜厚が厚いと、吸収体膜の影となる部分が生じ、ウエハ上に忠実にマスクパターンを転写できなくなる。この問題は、マスクパターンの線幅が小さくなるほど顕著となるため、吸収体膜の膜厚をより薄くすることが求められている。
【0007】
EUV露光において高精度のパターン転写を行うためには、バイナリ型マスクの場合、非開口部の反射率を2%以下に抑える必要がある。特許文献1では、反射率が吸収体膜の膜厚に依存して振動することが示されている。
図14は、特許文献1に記載の反射型マスクブランクの概略断面図である。
図14に示す反射型マスクブランク100では、基板110上に多層反射膜120、保護膜130、および吸収体膜140の順に形成されている。
図14に示す反射型マスクブランク100の反射率が吸収体膜140の膜厚に依存して振動するのは、多層反射膜120で反射される反射光Aと吸収体膜140の表面で反射される反射光Bとで干渉が生じるためである。吸収体膜の膜厚に依存して振動する反射率には極小値が存在し、この極小値が2%以下になるように吸収体膜の膜厚を設定する必要がある。
【0008】
また、特許文献2では、
図15に示すように、吸収体膜として、低屈折材料膜と高屈折材料膜を交互に複数周期積層した積層吸収体240を備えた反射型マスクブランク200が開示されている。
図15に示す反射型マスクブランク200では、基板210上に多層反射膜220、保護膜230、および積層吸収体240の順に形成されている。このようにすることにより、積層吸収体240から反射される反射光Bの振幅が大きくなり、多層反射膜220で反射される反射光Aとの干渉効果も大きくなる。この結果、反射率が2%以下になるような吸収体膜の膜厚を、特許文献1に比べ薄くすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4780847号明細書
【特許文献2】特開2015-8283号公報
【特許文献3】特許5282507号明細書
【特許文献4】特開2015-142083号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Proceedings of SPIE Vol. 9635 (2015) 96351C
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献1に開示された従来の反射型マスクブランク100においては、吸収体膜140の膜厚は60nmを超える厚みとする必要がある。
図16に吸収体膜を窒化タンタル膜と酸窒化タンタル膜(5nm厚)との二層構造として反射率をシミュレーションした結果を示す。ここで、波長13.53nmにおける、窒化タンタルの屈折率nおよび吸収係数kは(n,k)=(0.947、0.031)、酸窒化タンタルの屈折率nおよび吸収係数kは(n,k)=(0.959、0.028)とした。吸収体膜140の膜厚54nmで2%の反射率が得られるが、成膜時の1nm程度の膜厚バラツキを考慮すると、膜厚54nmでの実施は現実的ではない。膜厚バラツキを考慮すると、吸収体膜の膜厚が61nm付近で2%以下の反射率が得られる。
【0012】
これに対し、特許文献2に開示された反射型マスクブランクス200では、積層吸収体240からの反射光Bの振幅が従来の反射型マスクブランク100に比べて大きくなるため、吸収体膜の膜厚が60nm以下でも2%以下の反射率が達成可能である。
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示された反射型マスクブランクス200では、吸収体膜を低屈折材料膜と高屈折材料膜を交互に複数周期積層した積層吸収体240で構成しているが、非特許文献1によると、マスク加工のために多層膜をエッチングあるいは洗浄する際、多層膜の側壁にダメージを生じる問題がある。積層吸収体240の場合も同様の問題が懸念される。
【0014】
本発明の目的は、パターン膜の膜厚を薄くしてもEUV光の反射率を2%以下とでき、マスク加工が容易な反射型マスクブランク、および反射型マスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の要旨を有する。
本発明の請求項1に関わる発明は、基板上にEUV光を反射する多層反射膜と、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜とを基板側からこの順に備えるバイナリ型の反射型マスクブランクであって、前記パターン膜は、EUV光を吸収する吸収体膜と、表面反射増強膜とを基板側からこの順で備えており、
波長13.53nmにおける、前記吸収体膜の屈折率をnABS、吸収係数をkABSとし、前記表面反射増強膜の屈折率をn、吸収係数をkとしたとき、((n-1)2+k2)1/2 > ((nABS-1)2+kABS
2)1/2 +0.03で示される条件を満たすことを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0016】
本発明の請求項2に関わる発明は、前記表面反射増強膜は、前記屈折率nが0.95以下であることを特徴とする請求項1記載の反射型マスクブランクである。
【0017】
本発明の請求項3に関わる発明は、前記表面反射増強膜の膜厚dは前記屈折率nを用いて、13.53nm/4n×0.5<d<13.53nm/4n×1.5で示される条件を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の反射型マスクブランクである。
【0018】
本発明の請求項4に関わる発明は、前記吸収体膜の膜厚をdABSとするとき、前記表面反射増強膜の膜厚dが、
d<1/10×dABS
で示される条件を満たすことを特徴とする請求項3に記載の反射型マスクブランクである。
【0019】
本発明の請求項5に関わる発明は、前記表面反射増強膜はルテニウムを含むルテニウム系材料膜であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の反射型マスクブランクである。
【0020】
本発明の請求項6に関わる発明は、前記パターン膜において、前記吸収体膜と、表面反射増強膜との間に、波長13.53nmにおける屈折率nBが、n<nABS<nBで示される条件を満たす表面反射補助膜を備えていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の反射型マスクブランクである。
【0021】
本発明の請求項7に関わる発明は、前記表面反射補助膜は、波長13.53nmにおける屈折率nBが0.95以上であることを特徴とする請求項6に記載の反射型マスクブランクである。
【0022】
本発明の請求項8に関わる発明は、前記表面反射補助膜の膜厚dBは、前記屈折率nBを用いて、13.53nm/4nB×0.5<dB<13.53nm/4nB×1.5で示される条件を満たすことを特徴とする請求項6または7に記載の反射型マスクブランクである。
【0023】
本発明の請求項9に関わる発明は、前記表面反射補助膜は、シリコンを含むシリコン系材料膜またはアルミニウムを含むアルミニウム系材料膜であることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の反射型マスクブランクである。
【0024】
本発明の請求項10に関わる発明は、前記多層反射膜と、前記パターン膜との間に、前記多層反射膜を保護するための保護膜を備えることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の反射型マスクブランクである。
【0025】
本発明の請求項11に関わる発明は、前記パターン膜上に、マスク加工時に除去されるハードマスク膜を備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の反射型マスクブランクである。
【0026】
本発明の請求項12に関わる発明は、前記ハードマスク膜は、タンタル系材料を含むタンタル系材料膜、クロム系材料を含むクロム系材料膜、およびシリコン系材料を含むシリコン系材料膜からなる群から選択されるいずれか1つであることを特徴とする請求項11に記載の反射型マスクブランクである。
【0027】
本発明の請求項13に関わる発明は、請求項1~12のいずれかに記載の反射型マスクブランクのパターンマスク膜にパターンを形成してなることを特徴とするバイナリ型の反射型マスクである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の反射型マスクブランク、および反射型マスクは、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜が、吸収体膜と、表面反射増強膜とを基板側からこの順に備える。表面反射増強膜の存在により、パターン膜表面で反射されるEUV光の振幅が大きくなり、多層反射膜で反射されるEUV光との干渉効果も大きくなる。この干渉効果を利用することにより、反射率が2%以下になるようなパターン膜厚を、従来の吸収体膜厚に比べ薄くできる。
本発明の反射型マスクブランクは膜構成が単純なため、マスク加工も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の反射型マスクブランクの実施の形態1を示す概略断面図である。
【
図2】
図1と同様の図である。但し、表面反射増強膜15と吸収体膜14との界面からの反射光Cが図示されている。
【
図3】本発明の反射型マスクブランクでパターン膜がTaN膜とRu膜(膜厚3.82nm)との二層構造の場合と、特許文献1の反射型マスクブランクで吸収体膜がTaN膜とTaON膜(膜厚5nm)との二層構造の場合について、パターン膜(TaN膜+Ru膜)または吸収体膜の膜厚(TaN膜+TaON膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【
図4】本発明の反射型マスクブランクでパターン膜がTaN膜とRu膜(膜厚3.82nm、1.69nm、5.08nm)との二層構造の場合について、パターン膜(TaN膜+Ru膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【
図6】本発明の反射型マスクブランクでパターン膜がTaN膜とPd膜(膜厚3.82nm)との二層構造の場合と、特許文献1の反射型マスクブランクで吸収体膜がTaN膜とTaON膜(膜厚5nm)との二層構造の場合について、パターン膜(TaN膜+Pd膜)または吸収体膜の膜厚(TaN膜+TaON膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【
図7】本発明の反射型マスクブランクでパターン膜がTaN膜とNi膜(膜厚3.57nm)との二層構造の場合と、特許文献1の反射型マスクブランクで吸収体膜がTaN膜とTaON膜(膜厚5nm)との二層構造の場合について、パターン膜(TaN膜+Ni膜)または吸収体膜の膜厚(TaN膜+TaON膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【
図8】反射型マスクブランクでパターン膜がTaN膜とCr膜(膜厚3.63nm)との二層構造の場合と、特許文献1の反射型マスクブランクで吸収体膜がTaN膜とTaON膜(膜厚5nm)との二層構造の場合について、パターン膜(TaN膜+Cr膜)または吸収体膜の膜厚(TaN膜+TaON膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【
図9】本発明の反射型マスクブランクの実施の形態2を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の反射型マスクブランクのパターン膜がTaN膜とRu膜(膜厚3.82nm)との二層構造の場合、および、TaN膜、Al膜(膜厚3.37nm)およびRu膜(膜厚3.82nm)の三層構造の場合に、パターン膜の膜厚(TaN膜+Ru膜、またはTaN膜+Al膜+Ru膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【
図11】本発明の反射型マスクブランクのパターン膜がTaN膜とRu膜(膜厚3.82nm)との二層構造の場合、および、TaN膜、Si膜(3.38nm)およびRu膜(膜厚3.82nm)の三層構造の場合に、パターン膜の膜厚(TaN膜+Ru膜、またはTaN膜+Si膜+Ru膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【
図12】本発明の反射型マスクブランクの実施の形態3を示す概略断面図である。
【
図13】本発明の反射型マスクブランクのパターン膜がTaN膜とRu膜(膜厚3.82nm)との二層構造の場合に、パターン膜の膜厚(TaN膜+Ru膜)と位相シフト量との関係を示したグラフである。
【
図14】特許文献1の反射型マスクブランクの概略断面図である。
【
図15】特許文献2の反射型マスクブランクの概略断面図である。
【
図16】特許文献1の反射型マスクブランクの吸収体膜がTaN膜とTaON膜(膜厚5nm)との二層構造の場合に、吸収体膜の膜厚(TaN膜+TaON膜)と反射率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1を説明する前に、特許文献1において反射率が吸収体膜厚に依存して振動する原因を説明する。まず、
図14において吸収体膜140が存在しない場合を考えると、多層反射膜120からの反射光Aのみが存在する。反射光Aの保護膜130表面での振幅をr
MLとすると、反射型マスクブランク100の反射率Rは下記式(1)で表される。R=│r
ML│
2 (1)
通常使われる、モリブデンとシリコンから構成される40層の多層反射膜の場合、露光波長λ=13.53nmでの反射率Rは70%程度になる。
【0031】
次に、吸収体膜140が存在する場合を考える。吸収体膜140の屈折率をnABS、吸収係数をkABS、膜厚をdABSとすると、多層反射膜120からの反射光Aの吸収体膜140表面での振幅は、反射光Aが吸収体膜140を往復するため、下記式(2)で表される。rMLexp(4πi(nABS+ikABS)dABS/λ) (2)
正確には、斜め入射光による補正があるが、その影響はcos(6°)=0.995と1%以下であるため無視した。
吸収体膜140が存在すると、吸収体膜140表面での反射光Bが発生し、その振幅をrSとすると、反射型マスクブランク100の反射率Rは近似的に下記式(3)で表される。R≒ |rMLexp(4πi(nABS+ikABS)dABS/λ)+rS|2 (3)
他にも、吸収体膜140中での多重反射が発生するが、その影響は小さい。
式(3)を書き直すと、下記式(4)で表される。
R ≒ |rML|2exp(-8πkABSdABS/λ)+|rS|2
+2|rML||rS|exp(-4πkABSdABS/λ)cos(4πnABSdABS/λ+Φ) (4)
ここでΦはrMLとrSとの位相差である。式(4)の第3項は多層反射膜120からの反射光Aと吸収体膜140表面での反射光Bとの干渉項を表す。この影響により、反射率Rは吸収体膜厚dABSに依存して振動する。
【0032】
特許文献1においては、上記干渉現象を利用して反射率が極小になるように膜厚を設定している。
図16のシミュレーション結果に示すように、吸収体膜を窒化タンタル(TaN)膜と酸窒化タンタル(TaON)膜(5nm厚)との二層構造とした場合、吸収体膜の膜厚が61nm付近で反射率は極小値となり、2%以下の反射率が得られる。
式(4)から判るように干渉項は吸収体膜表面からの反射光Bの振幅の絶対値|r
S|に比例している。それゆえ、反射光Bの振幅の絶対値が大きくなれば干渉効果が大きくなり、結果的に反射率Rの極小値を小さくすることができる。
【0033】
ところで、吸収体表面の反射光Bの振幅rABSは、吸収体膜の屈折率をnABS、吸収係数をkABSとすると下記式(5)で表される。rABS=(nABS+ikABS-1)/(nABS+ikABS+1) (5)
それゆえ、絶対値は下記式(6)で表される。
|rABS|=((nABS-1)2+kABS
2)1/2/((nABS+1)2+kABS
2)1/2 (6)
【0034】
吸収体膜表面の反射光Bの振幅の絶対値|rABS|を大きくするためには、できるだけ屈折率nABSが小さな吸収体材料を選ぶのが望ましい。しかしながら、吸収体材料の選定には光学定数、膜応力、エッチングレート、洗浄耐性、欠陥検査対応、欠陥修正対応など様々な条件が課せられる。吸収体材料を現在のタンタル系材料から変更するには、様々な課題を解決する必要がある。
【0035】
本発明の実施の形態1の反射型マスクブランクを
図1に示す。
図1に示す反射型マスクブランク10では、基板11上に多層反射膜12、保護膜13、および、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜16の順に形成されている。パターン膜16は、吸収体膜14と、表面反射増強膜15とを基板11側からこの順に備える。
図1に示す反射型マスクブランク10では、マスクパターン膜16が、吸収体膜14と、表面反射増強膜15とを基板11側からこの順に備えることにより、多層反射膜12で反射される反射光A、マスクパターン膜16表面をなす表面反射増強膜15の表面で反射される反射光Bとで干渉が生じる。これにより、吸収体膜14の選択を容易にしながら表面反射光を強めることができる。
【0036】
図1に示す反射型マスクブランク10において、表面反射増強膜15の屈折率をn、吸収係数をkとすると、表面反射増強膜5の表面で反射される反射光Bの振幅の絶対値は下記式(7)で表される。|r|=((n-1)
2+k
2)
1/2/((n+1)
2+k
2)
1/2 (7)
【0037】
図1に示す反射型マスクブランク10では、上記で示した吸収体膜表面の反射光Bの振幅の絶対値|r
ABS|よりも、表面反射増強膜15の表面で反射される反射光Bの振幅の絶対値|r|を大きくすることで、干渉効果が大きくなり、反射型マスクブランク10の反射率Rの極小値を小さくすることができる。
図1に示す反射型マスクブランク10では、波長13.53nmにおける、吸収体膜14の屈折率をn
ABS、吸収係数をk
ABSとし、表面反射増強膜15の屈折率をn、吸収係数をkとしたときに、下記式(8)を満たす。((n-1)
2+k
2)
1/2 > ((n
ABS-1)
2+k
ABS
2)
1/2 +0.03 (8)
なお、上記式(8)は、上記式(6),(7)より導出したものである。EUV光の波長域では、吸収体膜14の屈折率n
ABS、および表面反射増強膜15の屈折率nは1に近い値を取り、吸収体膜14の吸収係数をk
ABS、および表面反射増強膜15の吸収係数kは0に近い値を取る。そのため、式(6),(7)における分母は、吸収体膜14および表面反射増強膜15の構成材料を問わずほぼ2となる。なお、式(8)の右辺の定数、0.03は、
図5に示す金属元素の複素屈折率図から、表面反射増強膜15の構成材料と、吸収体膜14の構成材料を特定する際に見出した値である。
上記式(8)を満たすことで、干渉効果が大きくなり、反射型マスクブランク10の反射率Rの極小値を小さくすることができる。
【0038】
なお、表面反射増強膜15の屈折率nを吸収体膜14の屈折率nABSより小さく選べば、反射光Bの振幅の絶対値を大きく取れる。吸収体膜14を従来のタンタル系材料とした場合、表面反射増強膜15の屈折率nは0.95以下が望ましい。
【0039】
また、
図2に示すように、反射型マスクブランク10では、表面反射増強膜15と吸収体膜14との界面からの反射光Cも発生する。反射光B,Cの位相を揃えることにより、反射光A、反射光B,Cとで干渉が生じさせ、表面反射光をさらに強めることができる。 反射光Bと反射光Cの位相が揃う条件は、表面反射増強膜15の屈折率nと膜厚dを用いて、下記式(9)で与えられる。これが、表面反射増強膜15の膜厚dの最適値となる。d=λ/4n (9)
【0040】
図3に吸収体膜14として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜15としてルテニウム(Ru)膜を選定した場合の、反射率の膜厚依存性をシミュレーションした結果を示す。ルテニウム膜の屈折率nおよび吸収係数kとしては、波長13.53nmにおける数値、(n,k)=(0.886、0.017)を用いた。
また、ルテニウム膜の膜厚は、上記式(9)より、13.53nm/4/0.886=3.82nmとした。
また、
図3における横軸には、吸収体膜14と表面反射増強膜15の膜厚の合計値であるパターン膜16の膜厚を選んだ。
図3には、
図16のシミュレーション結果、すなわち、特許文献1に記載の反射型マスクブランクについてのシミュレーション結果を併せて示した。
両者を比較すると、本発明の反射型マスクブランクの方が反射率の振幅が大きいことがわかる。これは、ルテニウムの屈折率がタンタル系材料の屈折率より小さいため、表面反射が強まるからである。反射率を2%以下にするためには、従来は吸収体膜厚を61nm程度にする必要があったが、本発明ではパターン膜厚を48nm程度まで薄膜化できる。
【0041】
図4は、
図3と同じく吸収体膜14として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜15としてルテニウム(Ru)膜を選定した場合の、反射率の膜厚依存性をシミュレーションした結果を示している。但し、
図4は、Ru膜の膜厚が1.69nm、3.82nm、5.08nmの3通りである。Ru膜の膜厚が最適値の3.82nmに対し、Ru膜の膜厚が1.69nm、5.08nmの場合は、反射率の振幅が小さくなった。
【0042】
なお、表面反射増強膜15の膜厚dの好適値はシミュレーションの結果から下記式(10)となる。13.53nm/4n×0.5<d<13.53nm/4n×1.5 (10)
【0043】
上記から明らかなように、表面反射増強膜15として、ルテニウム(Ru)膜は好適な特性を有しているが、多層反射膜12の保護膜13としても用いられるため、吸収体膜14を構成するタンタル系材料に比べてエッチングされにくい。そのため、表面反射増強膜15がRu膜の場合、表面反射増強膜15の膜厚を薄くして、マスク加工性を向上させることが好ましい。表面反射増強膜15がRu膜の場合、吸収体膜14の膜厚をdABSとするとき、表面反射増強膜15の膜厚dが下記式(11)を満たすことが好ましい。
d<1/10×dABS (11)
【0044】
上記では、表面反射増強膜15がRu膜の場合について説明したが、表面反射増強膜15の構成材料はこれに限定されず、吸収体膜14の屈折率n
ABS、吸収係数k
ABSとの関係で、屈折率n、吸収係数kが上記式(8)を満たせばよい。
図5に金属元素の複素屈折率図を示す。
図5中の破線は下記式(12)に相当する。
((n-1)
2+k
2)
1/2 = ((n
ABS-1)
2+k
ABS
2)
1/2 +0.03 (12)
図5中、破線よりも右側の金属元素が吸収体膜14の構成材料の場合、破線よりも左側の金属元素を表面反射増強膜15の構成材料として用いることができる。例えば、吸収体膜14の構成材料が、TaN、TaONといったタンタル系材料の場合、表面反射増強膜15の構成材料としては、Ag,Pt,Pd,Au,Ru,Niを用いることができる。
なお、表面反射増強膜15の構成材料が上記したRu以外の材料の場合も、表面反射増強膜15の膜厚dの好適値は上記式(10)となる。また、表面反射増強膜15の構成材料が、タンタル系材料に比べてエッチングされにくい場合は、表面反射増強膜15の膜厚dは上記式(11)を満たすことが好ましい。
【0045】
図6に吸収体膜14として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜15としてパラジウム(Pd)膜を選定した場合の、反射率の膜厚依存性をシミュレーションした結果を示す。パラジウム(Pd)は、
図5中、破線よりも左側に位置する。パラジウム膜の屈折率nおよび吸収係数kとしては、波長13.53nmにおける数値、(n,k)=(0.876,0.046)を用いた。
また、パラジウム膜の膜厚は、上記式(9)より、13.53nm/4/0.876=3.86nmとした。
また、
図6における横軸には、吸収体膜14と表面反射増強膜15の膜厚の合計値であるパターン膜16の膜厚を選んだ。
図6には、
図16のシミュレーション結果、すなわち、特許文献1に記載の反射型マスクブランクについてのシミュレーション結果を併せて示した。
両者を比較すると、本発明の反射型マスクブランクの方が反射率の振幅が大きいことがわかる。これは、パラジウムの屈折率がタンタル系材料の屈折率より小さいため、表面反射が強まるからである。反射率を2%以下にするためには、従来は吸収体膜厚を61nm程度にする必要があったが、本発明ではパターン膜厚を40nm程度まで薄膜化できる。
【0046】
図7に吸収体膜14として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜15としてニッケル(Ni)膜を選定した場合の、反射率の膜厚依存性をシミュレーションした結果を示す。ニッケル(Ni)は、
図5中、破線よりも左側に位置する。ニッケル膜の屈折率nおよび吸収係数kとしては、波長13.53nmにおける数値、(n,k)=(0.948,0.073)を用いた。
また、ニッケル膜の膜厚は、上記式(9)より、13.53nm/4/0.948=3.57nmとした。
また、
図7における横軸には、吸収体膜14と表面反射増強膜15の膜厚の合計値であるパターン膜16の膜厚を選んだ。
図7には、
図16のシミュレーション結果、すなわち、特許文献1に記載の反射型マスクブランクについてのシミュレーション結果を併せて示した。
両者を比較すると、本発明の反射型マスクブランクの方が反射率の振幅が大きいことがわかる。これは、ニッケルの屈折率がタンタル系材料の屈折率より小さいため、表面反射が強まるからである。反射率を2%以下にするためには、従来は吸収体膜厚を61nm程度にする必要があったが、本発明ではパターン膜厚を46nm程度まで薄膜化できる。
【0047】
図8に吸収体膜14として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜15としてクロム(Cr)膜を選定した場合の、反射率の膜厚依存性をシミュレーションした結果を示す。クロム(Cr)は、
図5中、破線よりも右側に位置する。クロム膜の屈折率nおよび吸収係数kとしては、波長13.53nmにおける数値、(n,k)=(0.932,0.039)を用いた。
また、クロム膜の膜厚は、上記式(9)より、13.53nm/4/0.932=3.63nmとした。
また、
図8における横軸には、吸収体膜14と表面反射増強膜15の膜厚の合計値であるパターン膜16の膜厚を選んだ。
図8には、
図16のシミュレーション結果、すなわち、特許文献1に記載の反射型マスクブランクについてのシミュレーション結果を併せて示した。
両者を比較すると、反射率の振幅の差が小さいことがわかる。これは、クロムの屈折率とタンタル系材料の屈折率との差が小さいため、表面反射が強めることができないためである。反射率を2%以下にするためには、膜厚は54nm程度の薄膜化となる。
【0048】
(実施の形態2)
上述したように、本発明の実施の形態1の反射型マスクブランク10は、上記式(8)を満たす表面反射増強膜15の存在により、パターン膜表面での反射されるEUV光と、多層反射膜で反射されるEUV光との干渉効果により、反射率が2%以下になるようなパターン膜厚を、従来の吸収体膜厚に比べ薄くすることが可能となる。
本発明の実施の形態2の反射型マスクブランクを
図9に示す。
図9に示す本発明の実施の形態2の反射型マスクブランク20では、基板21上に多層反射膜22、保護膜23、および、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜27の順に形成されている。パターン膜27は、吸収体膜24と、表面反射補助膜26、および表面反射増強膜25を基板21側からこの順に備える。すなわち、パターン膜27において、吸収体膜24と、表面反射増強膜25との間に、表面反射補助膜26が形成されている。
表面反射補助膜26は、波長13.53nmにおける屈折率をn
Bとするとき、波長13.53nmにおける、吸収体膜24の屈折率n
ABSおよび表面反射増強膜25の屈折率nに対し下記式(13)を満たす。
n<n
ABS<n
B (13)
上記の構成とすることにより、パターン膜表面での反射されるEUV光の振幅がさらに大きくなり、多層反射膜で反射されるEUV光との干渉効果も大きくなる。これにより、反射率が2%以下になるようなパターン膜厚を、さらに薄くすることが可能となる。
なお、上述したように、吸収体膜24を従来のタンタル系材料とした場合、表面反射増強膜25の屈折率nは0.95以下が望ましいため、表面反射補助膜26の屈折率n
Bは0.95以上であることが望ましい。
【0049】
また、図示していないが、
図9には示す反射型マスクブランク20では、表面反射増強膜25表面の反射光、表面反射増強膜25と表面反射補助膜26との界面からの反射光、および表面反射補助膜26と吸収体膜24との界面からの反射光が発生する。これら反射光の位相を揃えることにより、パターン膜表面での反射されるEUV光の振幅がさらに大きくすることができる。
これらの反射光の位相が揃う条件は、表面反射増強膜25の屈折率をn、膜厚をd、表面反射補助膜26の屈折率をn
B、膜厚をd
Bとすると、dおよびd
Bの最適値は
d=λ/4n (14)
d
B=λ/4n
B (15)
となる。
【0050】
図10に吸収体膜24として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射補助膜26としてアルミニウム(Al)膜、表面反射増強膜25としてルテニウム(Ru)膜を選定した場合の、反射率の膜厚依存性をシミュレーションした結果を示す。アルミニウム(Al)膜の屈折率n
Bおよび吸収係数k
Bとしては波長13.53nmにおける数値、(n
B,k
B)=(1.003、0.03)を用いた。また、アルミニウム膜の膜厚は上記式(15)より、13.53nm/4/1.003=3.37nmとした。
また、
図10における横軸には、吸収体膜24、表面反射補助膜26、および表面反射増強膜25の膜厚の合計値であるパターン膜27の膜厚を選んだ。
図10には、
図3のシミュレーション結果、すなわち、本発明の実施の形態1の反射型マスクブランク(吸収体膜14:窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜25:ルテニウム(Ru)膜)についてのシミュレーション結果を併せて示した。
図10を見ると、吸収体膜と、表面反射増強膜との間に表面反射補助膜を形成することにより、表面反射補助膜を形成しない場合に比べ反射率の振幅がさらに大きくなることがわかる。反射率を2%以下にするためのパターン膜厚は、40nm程度まで薄膜化できる。この結果から、表面反射補助膜26として、アルミニウム(Al)を含むアルミニウム系材料膜が好ましいことがわかる。
【0051】
なお、表面反射補助膜26の膜厚dBの好適値はシミュレーションの結果から下記式(16)となる。
13.53nm/4nB×0.5<dB<13.53nm/4nB×1.5 (16)
【0052】
上記では、表面反射補助膜26がAl膜の場合について説明したが、表面反射補助膜26の構成材料はこれに限定されず、吸収体膜24の屈折率n
ABS、および表面反射増強膜25の屈折率nとの関係で、波長13.53nmにおける屈折率n
Bが上記式(13)を満たせばよい。
例えば、
図5中、吸収体膜24の構成材料よりも右側の金属元素を表面反射補助膜26の構成材料として用いることができる。例えば、吸収体膜24の構成材料が、TaN、TaONといったタンタル系材料の場合、表面反射補助膜26の構成材料としては、シリコン(Si)を含むシリコン系材料を用いることができる。
なお、表面反射補助膜26の構成材料が上記したAl以外の材料の場合も、表面反射補助膜26の膜厚d
Bの好適値は上記式(16)となる。
【0053】
図11に吸収体膜24として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射補助膜26としてシリコン(Si)膜、表面反射増強膜25としてルテニウム(Ru)膜を選定した場合の、反射率の膜厚依存性をシミュレーションした結果を示す。シリコン(Si)膜の屈折率nおよび吸収係数kとしては、波長13.53nmにおける数値、(n
B,k
B)=(0.999,0.002)を用いた。
また、シリコン膜の膜厚は、上記式(15)より、13.53nm/4/0.999=3.38nmとした。
また、
図11における横軸には、吸収体膜24、表面反射補助膜26、および表面反射増強膜25の膜厚の合計値であるパターン膜26の膜厚を選んだ。
図11には、
図3のシミュレーション結果、すなわち、本発明の実施の形態1の反射型マスクブランク(吸収体膜14:窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜25:ルテニウム(Ru)膜)についてのシミュレーション結果を併せて示した。
図11を見ると、吸収体膜と、表面反射増強膜との間に表面反射補助膜を形成することにより、表面反射補助膜を形成しない場合に比べ反射率の振幅がさらに大きくなることがわかる。反射率を2%以下にするためのパターン膜厚は、47nm程度まで薄膜化できる。
【0054】
なお、本発明の実施の形態2の反射型マスクブランクと類似の膜構成として、特許文献2では、
図15に示すように、吸収体膜として、吸収体膜として低屈折材料膜と高屈折材料膜を積層した構造を1周期として、交互に複数周期、具体的には4周期以上積層した積層吸収体240を備えた反射型マスクブランク200が開示されているのに対し、本発明の実施の形態2の反射型マスクブランク20は、パターン膜27において、低屈折材料膜(表面反射増強膜25)と高屈折材料膜(表面反射補助膜26)の積層膜を1周期しか使用していない。このため、本発明の実施の形態2の反射型マスクブランク20は、特許文献2の反射型マスクブランク200に比べ、マスク加工中にパターン膜をエッチングあるいは洗浄する際のパターン膜側壁へのダメージを低減できる。
【0055】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態1の反射型マスクブランク10では、パターン膜16の構成として、吸収体膜14の上層に表面反射増強膜15を備えている。このパターン膜16をエッチングする際の負荷は、
図14に示す従来の反射膜ブランク100のように、吸収体膜14のみの場合に比べ大きくなる。このため、マスクパターンの最小線幅が小さくなるにつれ、エッチングは難しくなる。この課題に対処するための常套手段として、吸収体膜のエッチング条件に対して耐性を有する材料で構成されるハードマスク膜を付加する手法が知られている。
図12に示す本発明の実施の形態3の反射型マスクブランク30では、基板31上に多層反射膜32、保護膜33、および、マスク加工時に部分的にエッチングされるパターン膜36の順に形成されている。パターン膜36は、吸収体膜34と、表面反射増強膜35とを基板31側からこの順に備えている。
図12に示す本発明の実施の形態3の反射型マスクブランク30では、パターン膜36上にハードマスク膜37を備えている。本発明の実施の形態3の反射型マスクブランク30において、吸収体膜34と、表面反射増強膜35との間に、本発明の実施の形態2の反射型マスクブランクにおける、表面反射補助膜を備えていてもよい。
【0056】
ハードマスク膜37の材料は、表面反射増強膜35のエッチング時に選択比が取れる材料である必要があり、表面反射増強膜35の材料に応じてタンタル系材料、クロム系材料あるいはシリコン系材料が選択できる。
上記では、本発明の実施の形態1の反射型マスクブランク10の一例として、吸収体膜14として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜15としてルテニウム(Ru膜)を選択した。本発明の実施の形態3の反射型マスクブランク30において、吸収体膜34として窒化タンタル(TaN)膜、表面反射増強膜35としてルテニウム(Ru膜)を選択した場合、ハードマスク膜37として窒化タンタル(TaN)膜を選ぶと、表面反射増強膜35としてのルテニウム(Ru)膜をエッチングする際、酸素ガスにより高いエッチング選択比を得ることができる。その後、吸収体膜34とハードマスク膜37は塩素ガスにより同時にエッチングされて、ハードマスク除去工程を簡略化できる。
【0057】
なお、本発明と類似のタンタル系膜とルテニウム膜よりなる膜構成が、特許文献3および特許文献4に開示されている。しかしながら、特許文献3,4は、ハーフトーン位相シフトマスクに関するものである。本発明の反射型マスクブランクは、EUV光の反射率が2%以下と低く、ハーフトーン位相シフトマスクで通常使用される反射率6%に比べてはるかに低い。さらに
図13に示すように、本発明の反射型マスクブランクは、最適パターン膜厚48nmに対する位相シフト量は142度となり、位相シフトマスクとしての最適値180度からは大きく外れている。
図13は、本発明の反射型マスクブランクのパターン膜がTaN膜とRu膜(膜厚3.82nm)との二層構造の場合に、パターン膜の膜厚(TaN膜+Ru膜)と位相シフト量との関係を示したグラフである。
このように、本発明の反射型マスクブランクは、いわゆるバイナリマスクの機能によりマスクパターンをウエハ上に転写するものであり、位相シフトマスクとしての機能は有しない。
【0058】
本発明の実施の形態1~3の反射型マスクブランクにおいて、パターン膜およびハードマスク膜以外の構成は従来の反射型マスクブランクと同様である。すなわち、基板としては、露光時の熱膨張によるパターン歪を抑制する目的で合成石英に少量のチタンを添加した低熱膨張ガラスが良く用いられる。多層反射膜としては、モリブデン膜とシリコン膜を交互に40周期程度積層した膜が通常用いられている。保護膜には厚さ1~5nmのルテニウム系材料が通常用いられる。
【0059】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4は、本発明の実施の形態1~3の反射型マスクブランクのパターン膜にパターンを形成してなることを特徴とするバイナリ型の反射型マスクである。
【実施例0060】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。本実施例では、
図1に示す反射型マスクブランク10を作製する。
成膜用の基板11として、SiO
2-TiO
2系のガラス基板(外形約6インチ(約152mm)角、厚さが約6.3mm)を使用する。このガラス基板の熱膨張係数は0.02×10
-7/℃である。このガラス基板を研磨により、表面粗さ(rms)が0.15nm以下で平坦度が100nm以下の平滑な表面にする。基板11裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのクロム膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の高誘電性コーティングを施す。平板形状をした通常の静電チャックに、形成したクロム膜を用いて基板11を固定して、該基板11の表面上にイオンビームスパッタリング法を用いてシリコン膜およびモリブデン膜を交互に成膜することを40周期繰り返すことにより、合計膜厚272nm((4.5nm+2.3nm)×40)の多層反射膜12を形成する。
さらに、多層反射膜12上に、イオンビームスパッタリング法を用いてルテニウム膜(膜厚2.5nm)を成膜することにより、保護膜13を形成する。
次に、保護膜13上に窒化タンタルよりなる吸収体膜14をマグネトロンスパッタリングにより44nm成膜する。ターゲットにはタンタル、スパッタガスにはアルゴンと窒素の混合ガスを用いる。
最後に、吸収体膜14上にルテニウムよりなる表面反射増強膜5をマグネトロンスパッタリングにより3.8nm成膜する。ターゲットにはルテニウム、スパッタガスにはアルゴンを用いる。
このようにして作成される反射型マスクブランク10に対し、波長13.5nmのEUV光を入射角6度で反射率を測定すると、反射率は1.3%となる。
本実施例の反射型マスクブランクによれば、パターン膜の総膜厚は47.8nmであり、従来の反射型マスクブランクの吸収体膜厚61nmより大幅に薄膜化できる。