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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022088216
(43)【公開日】2022-06-14
(54)【発明の名称】免疫賦活用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20220607BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220607BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220607BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220607BHJP
【FI】
A61K36/899
A61P37/04
A61P43/00 105
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020200530
(22)【出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖也
(72)【発明者】
【氏名】狩野 宏
(72)【発明者】
【氏名】今井 伸二郎
(72)【発明者】
【氏名】菅野 貴女
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD49
4B018ME14
4B018MF01
4C088AB78
4C088AC01
4C088AC04
4C088AC07
4C088BA08
4C088BA10
4C088CA06
4C088CA08
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZB02
4C088ZB03
4C088ZB09
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】インターフェロン-γの産生誘導活性がより優れた、免疫賦活のために有用な成分を提供する。
【解決手段】イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物、好ましくは南蛮毛抽出物を含む、免疫賦活用組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物を含む、免疫賦活用組成物。
【請求項2】
経口投与用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抽出物がエタノール易溶性である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
NK細胞を活性化する作用を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
インターフェロンγ(INF-γ)の産生を誘導する作用を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
トウモロコシ抽出物が、トウモロコシの花柱(南蛮毛)の抽出物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
1μg/dayの抽出物を摂取するための、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
南蛮毛から、溶媒を用いて抽出物を得る工程を含む、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかのための、食品素材又は医薬品素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫を賦活するための組成物に関する。本発明は、食品製造、医薬品製造、免疫治療等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザや2019年末より世界的流行が見られるCOVID-19などの病原性ウイルス、及び病原性細菌等からの感染防御には、自然免疫と獲得免疫の両者が重要であり、これらの活性化には、インターフェロン等のサイトカインが関与していることが知られている。そのため、インターフェロン等の産生を制御できる物質が、様々な分野で探索されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、トウモロコシ属(Zea mayaLinn’e)又はその変員に属しかつインターフェロン誘起活性及びIgE抗体産生抑制活性を有する水溶性高分子物質を産生する能力を有する植物の組織から、上記物質を抽出し、抽出物からこれを回収することを特徴とする、生物活性物質の製造法を開示する。この文献は、乾燥した市販品の食用トウモロコシの南蛮毛の水抽出物から得た、分子量約30万から100万(ゲル濾過法による)の、エタノールには難溶である糖タンパク質について、マウスへの静脈投与でインターフェロン誘起活性が見られたこと、また1g/kgの投与ではその活性は検出できなかったこと、及びアレルゲン投与マウスへの静脈投与でIgE産生を抑制したが、経口投与では抑制は弱く、またアレルゲン投与後、連続経口投与連続10日間ではIgE抑制効果を認めなかったことを示している。また特許文献2は、イネ科 (Gramineae)ススキ属 (Miscanthus) 又はその変種に属し、かつIgE抗体産生抑制活性をもつ物質を産生する能力を有する植物の組織から、上記活性物質を抽出し、抽出物からこれを回収することを特徴とする、生理活性物質の製造方法を開示する。この文献は、乾燥したススキ (Miscanthus sinensis Anderss)の花穂の熱水抽出物から得た、分子量約5万から約100万までの活性物質について、マウスへの腹腔内投与によりIgE抗体産生抑制活性が見られたこと、及びマウスへの静脈投与によりインターフェロン誘起活性が認められたことを示している。さらに特許文献3は、植物を120~250℃で蒸煮した後に溶剤抽出して得られる植物抽出物を含む生理活性組成物を開示する。この文献は、クマイザサの葉及び稈の高圧蒸気による抽出物について、腫瘍移植マウスへの経口投与により腫瘍の容積の増大の抑制が見られたこと、マウス脾臓から得たNK細胞に与えたところ活性化した旨、マウス脾臓から得たリンパ球細胞に与えたところ、LPS及びConAと同程度にIL-12、INFγ、TNFαの産生が促進されたことを示している。
【0004】
またインターフェロンγ(INF-γ)の産生を誘導する物質として、カードランオリゴ糖が知られており、カードランオリゴ糖100μg/mlの存在下で樹状細胞を培養した際、IFN-γの産生が1000pg/ml(カードランオリゴ糖添加なし)から2000pg/ml(カードランオリゴ糖添加時)に上昇したことが報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-19525号公報(特公平06-041416号)
【特許文献2】特開平6-256305号公報(特許第3240422号)
【特許文献3】特開2007-131579号公報
【特許文献4】特開2009-148206号公報(特許第5350626号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インターフェロン-γの産生誘導活性がより優れた物質があれば、免疫賦活のために望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、南蛮毛のエタノール抽出物に、インターフェロン-γ(INF-γ)産生を促進する活性があることを見出した。そしてこの活性が既存の成分に比較して非常に高いことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下を提供する。
[1] イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物を含む、免疫賦活用組成物。
[2] 経口投与用である、1に記載の組成物。
[3] 抽出物がエタノール易溶性である、1又は2に記載の組成物。
[4] NK細胞を活性化する作用を有する、1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] インターフェロンγ(INF-γ)の産生を誘導する作用を有する、1~4のいずれか1項に記載の組成物。
[6] トウモロコシ抽出物が、トウモロコシの花柱(南蛮毛)の抽出物である、1~5のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 1μg/dayの抽出物を摂取するための、1~6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 南蛮毛から、溶媒を用いて抽出物を得る工程を含む、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかのための、食品素材又は医薬品素材の製造方法。
【0009】
[9] 免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかのための組成物の製造における、イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物の使用。
[10] イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物を対象に投与することを含む、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかのための方法。
[11] 免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかのための方法に用いる、イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物。
[12] イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物を対象に投与することを含む、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかのための、非治療方法。
[13] イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物を対象に投与することを含む、感染症のリスクの低減のための方法。
[14] イネ科植物であるトウモロコシ(Zea mays)抽出物を対象に投与することを含む、がんのリスクの低減のための方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物により、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導を行うことができる。
本発明の有効成分は、少ない量の摂取・投与で、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導を達成しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】脾臓細胞を南蛮毛抽出物又はEPS存在下で培養した際のIFN-γ産生量
図2】脾臓細胞を南蛮毛抽出物存在下で培養した際のIFN-γ産生量
図3】南蛮毛抽出物のNK活性増強効果
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、トウモロコシから得られる抽出物を有効成分とする組成物に関する。より詳細には、抽出物を有効成分とし、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γからなる群より選択されるいずれかのための組成物に関する。
【0013】
[有効成分]
本発明の組成物は、有効成分としてイネ科植物であるトウモロコシ抽出物を含む。トウモロコシ(学名:Zea mays)は、その果実が食物や飼料として利用され、またコーンスターチやコーン油の原料としても利用されている。トウモロコシの実と南蛮毛(花柱、雌しべの柱頭と子房との間の部分)は、漢方としても用いられ、利尿作用、及び血圧降下作用が知られている。
【0014】
本発明においては、トウモロコシの各種部位、例えば、全草、南蛮毛、実、花、萼、種子、果実、葉、枝、樹皮、根皮、根茎、根等を原料とした抽出物を用いることができるが、南蛮毛又は実を原料とする抽出物であることが好ましく、南蛮毛を原料とする抽出物であることがより好ましい。また抽出物は、それらの生の原料から得られたものであってもよく、乾燥物、脱脂、脱色、発酵などの処理を施した原料からの抽出物であってもよい。
【0015】
有効成分の原料となるトウモロコシの品種は、目的の作用を有する抽出物が得られる限り特に限定されない。トウモロコシの品種の例として、スイートコーン、味来、サニーショコラ、ゴールドラッシュ、ミエルコーン、ピクニックコーン、ハニーバンタム、ピーターコーン、ゆめのコーン、カクテルコーン、甘々娘、ピュアホワイト、雪の妖精、ホワイトショコラ、硬粒種(フリントコーン)、爆裂種(ポップコーン)、軟粒種(ソフトコーン、スターチ・スイートコーン)、ジャイアントコーン、馬歯種(デントコーン)が挙げられる。
【0016】
本発明に関し、抽出物というときは、特に記載した場合を除き、原料植物からの、圧搾液及び抽出溶媒を用いて得た抽出液、ならびにそれらの濃縮物、乾燥物、それらからの粗精製物、単離した成分を含む。
【0017】
有効成分であるトウモロコシ抽出物を抽出溶媒を用いて得る場合、抽出溶媒は、目的の作用を有する抽出物が得られる限り特に限定されないが、用いることのできる溶媒の例として、エタノール、メタノール等の低級アルコール、又はプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール等の多価アルコール、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類、又はキシレン、ベンゼン、クロロホルム等の有機溶媒、動物油、植物油、水が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いることもできるが、2種類以上を任意に組み合わせたものであってもよい。
【0018】
抽出溶媒の好ましい例は、エタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール(単に、ブチレングリコールということもある。)、グリセリン、又はこれらのいずれかの混合溶媒が用いられる。これらにより、目的の効果を有する成分が十分に抽出できるからである。混合溶媒を用いる場合、割合は適宜とすることができる。
【0019】
抽出溶媒による抽出は、具体的には、例えば、植物原体あるいは乾燥物を細砕したもの、又は搾汁に、抽出溶媒を1~100倍量加え、常圧下、室温で1時間~2週間程度静置、又は抽出溶媒の沸点以下の温度で10分~10時間程抽出する。必要に応じ、濾過してもよく、また得られた濾液を、減圧乾固あるいは凍結乾燥してもよい。
【0020】
本発明に用いる抽出物は、好ましくはエタノールによく溶解する、すなわちエタノール易溶性である。本発明に関し、エタノール易溶性というときは、特に記載した場合を除き、25℃のエタノール10Lに、0.4gを超えて溶解する性質をいう。また、100%エタノールを抽出溶媒として抽出された成分は、エタノール易溶性ということができる。
【0021】
また、100%エタノールを抽出溶媒として、25℃でエタノール10Lあたり0.4gを超えて抽出される成分は、エタノール易溶性ということができる。
【0022】
本発明に用いる抽出物は、好ましい態様においては、トウモロコシの花柱の乾燥物からのエタノールを溶媒とする抽出により、0.02%以上得ることができ、より特定すると0.05%以上得ることができ、さらに特定すると、0.1%以上得ることができる。
【0023】
[用途]
(免疫賦活)
本発明の組成物は、免疫を賦活するために用いることができる。本発明に関し、免疫というときは、特に記載した場合を除き、自然免疫と獲得免疫との双方を含む。
【0024】
自然免疫は先天的に備わった免疫であり,異物認識は微生物などに固有の分子パターンを標的に行われる。獲得免疫と比較して特異性では劣り、免疫記憶も存在しないが、病原体の侵入に対して即時に対応できる。自然免疫を担う主な免疫細胞には、好中球、単球、マクロファージなどの食細胞、好塩基球、マスト細胞、好酸球(炎症を起こす)、NK細胞(感染細胞等を傷害する)がある。獲得免疫は、後天的に外来異物の刺激に応じて形成される免疫であり、高度な特異性と免疫記憶を特徴とする。異物を認識するのは,リンパ球がつくる抗体やT細胞受容体である。獲得免疫を担う主な免疫細胞は、外来遺物(抗原)と特異的に反応する抗原レセプターを持つリンパ球、すなわち抗原特異的なB細胞とT細胞である。本発明の組成物は、免疫の様々な段階を賦活しうるが、自然免疫の賦活のために特に有用である。
【0025】
免疫を賦活することは、INF-γ産生を誘導すること、及びNK細胞を活性化することを含む。
【0026】
(INF-γ産生誘導)
本発明の組成物は、インターフェロン-γ(INF-γ)の産生を誘導することができる。IFN-γは、ウイルス感染により産生され、ウイルスの増殖を抑制する物質として発見された。感染などの異物侵入に伴う抗原刺激に応じてT細胞の分化が進むと、主にヘルパーT細胞のサブセットの一つであるTh1からIFN-γが産生され、細胞傷害性T細胞(CTL)、マクロファージ、NK細胞の活性化など、免疫応答促進に働き、ウイルス、腫瘍細胞の排除に関わる。IFN-γはCTLやNK細胞からも産生される。
【0027】
本発明の組成物が有効成分とする抽出物は、優れたIFN-γ産生誘導作用を有する。前掲特許文献4に記載のカードランオリゴ糖はIFN-γ産生促進活性を有することが知られているが、その活性は、カードランオリゴ糖100μg/mlにより、1000pg/ml(カードランオリゴ糖添加なし)から2000pg/ml(カードランオリゴ添加時)に上昇する程度であったのに対し、本発明者らの検討によると、本発明の抽出物(具体的には、南蛮毛抽出物)25μg/mlの存在下で脾臓細胞を培養した際、IFN-γの産生促進が500pg/ml(南蛮毛抽出物添加なし)から20000pg/ml(南蛮毛刺激時)まで上昇することを確認している(実施例2参照)。
【0028】
現在、INF-γ製剤は、腎がん、慢性肉芽腫症に伴う重症感染の頻度と重篤度の軽減、菌状息肉症,セザリー症候群に対する効能効果が認められている。したがって、INF-γの産生を誘導することができる本発明の組成物も、これらの疾患に対する効果が期待できる。
【0029】
INF-γの産生誘導活性の有無、又はその程度は、当業者であれば種々の方法で確認することができる。例えば、脾臓細胞を対象となる物質の存在下で数時間~数日培養後、培養上清中のIFN-γを定量することにより確認することができる。
【0030】
(NK細胞活性化)
本発明の組成物は、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)を活性化することができる。NK細胞は、自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性のリンパ球である。近年、がんの免疫療法として高活性化したNK細胞を投与する療法が注目されている。NK細胞はまた、抗体依存性細胞傷害(Antibody dependent cellular cytotoxicity、ADCC)活性を有するため、抗体医薬によるがんの治療において、抗体医薬の効果を高めることが期待できる。
【0031】
NK細胞の活性化作用の有無、又はその程度は、NK細胞の有する細胞傷害活性を分析することにより確認できる。NK細胞の細胞傷害活性を分析する方法はいくつか知られており、例えば、対象となる物質で処理したNK細胞(E)と51Choromiumで標識した標的細胞(T)とを適切な比率(E:T=1:10~200:1)で混合して一定時間共培養し、培養上清中に放出される51Choromiumの量より傷害された標的細胞の割合を求めることにより、細胞傷害活性を算出することができる。
【0032】
細胞傷害活性(傷害された標的細胞の割合)(%)=(エフェクター細胞とインキュベートした場合の標的細胞の細胞死-自然細胞死(陰性コントロール))/(最大細胞死(陽性コントロール)-自然細胞死(陰性コントロール))×100
【0033】
評価に用いるNK細胞としては、NK細胞はin vitroで継続的に培養可能な株がいくつか樹立されているため、そのような細胞株を用いてもよく、また動物の脾臓から分離した初代の、NK細胞を含むリンパ球を用いてもよい。脾臓から調製した細胞の集団には、通常、NK細胞が5~10%含まれている。また評価に用いるNK細胞は、末梢血から調製してもよい。調製した細胞の集団からさらにT細胞等を除き、より純化したNK細胞を評価に用いてもよい。
【0034】
(効果等)
免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導による効果には、例えば、免疫機能の維持、免疫機能の活性化、免疫機能の増強、免疫機能の低下抑制、病原体による感染症に対して、感染のリスクを低減する、発症のリスクを低減する、感染した対象において、病原体の増殖を抑制する、病原体や病原体に感染した細胞を殺傷する、がんの発症のリスクを低減する、免疫機能の低下リスクを低減する、がん細胞の増殖を抑制する、がん細胞を殺傷する、がんを治癒させる、がんが転移・再発するのを防ぐことが含まれる。
【0035】
感染症を引き起こす病原体の例は、ウイルス(例えば、COVID-19(coronavirus disease 2019)、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス、インフルエンザウイルス(A型及びB型)、H5N1及びH7N9 A型トリインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス1~4型、アデノウイルス、RSウイルスA型及びB型、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、アストロウイルス)、細菌(例えば、百日咳菌、ジフテリア菌、大腸菌、インフルエンザ菌、ピロリ菌、肺炎桿菌、マイコプラスマ、緑膿菌、ぶどう球菌、連鎖球菌、コレラ菌、ペスト菌、炭疽菌、破傷風、ボツリヌス、ガス壊疽菌)、真菌、寄生虫等である。
【0036】
がんの例は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、尿路上皮がん、メルケル細胞がん等である。
【0037】
したがって、本発明の組成物は、感染症の処置、及びがんの処置のために用いうる。本発明に関し、処置というときは、特に記載した場合を除き、処置は、対象となる疾患のリスクを低減すること、対象となる疾患を予防すること、対象となる疾患を治療すること;、対象となる疾患の進行を抑えることを含む。また、処置は、治療行為と非治療行為を含む。感染症のリスクの低減は、感染を防ぐこと、発症前又は発症後の体内での病原体の増殖を抑制すること、病原体や病原体に感染した細胞を殺傷することを含む。がんのリスクの低減は、がんの発症を防ぐこと、発症前又は発症後の体内でのがん細胞の増殖を抑制すること、がん細胞を殺傷すること、がんの転移を抑制することを含む。
【0038】
本発明の組成物は、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかが、免疫賦活や感染症やがんの処置のための他の療法と一緒に行われる場合であっても、用いることができる。そのような他の療法には、薬物による療法、手術、放射線治療、他の免疫療法(例えば、サイトカイン療法、免疫賦活剤の投与、免疫細胞移植、等)、健康食品やサプリメントの摂取、運動療法等がある。
【0039】
[組成物]
(食品組成物等)
本発明の組成物は、食品組成物又は医薬組成物とすることができる。食品及び医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、及びスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0040】
(対象)
本発明の組成物は、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導からなる群より選択されるいずれかを行うことが好ましい対象に、投与するのに適している。このような対象には、乳幼児、子ども、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上)、病中病後の者、妊婦、産婦、男性、女性が含まれる。また本発明の組成物は、有効成分が食経験の長いトウモロコシからの抽出物であるため、長期間の摂取に適しているため、日常生活における病気になりにくい体づくりが重要な高齢者に、特に適している。
【0041】
(投与経路)
本発明の組成物は、それを経口的に、又は非経口的に(例えば、経腸投与、鼻腔投与、口腔投与、舌下投与、皮膚投与、皮下注射、筋肉内注射、皮内注射、腹腔内注射、静脈内注射、動脈内注射、硬膜外注射、腫瘍内注射、関節腔内注射、直腸投与、膣投与、冠動脈内投与、肝動脈内投与、門脈内投与、眼投与、脳室内投与、気道内投与、膀胱内注入、歯肉注入)投与することができる。本発明者らの検討によると、マウスに南蛮毛抽出物を3週間経口投与後、摘出した脾臓細胞中のNK細胞の活性化が見られた。したがって、本発明の組成物は経口投与により効果を発揮することができるから、経口的に投与することが好ましい。
【0042】
(有効成分の含有量・用量)
本発明の組成物における、有効成分である抽出物の含有量は、目的の効果が発揮される量であればよい。組成物は、その被験体の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、その投与量又は摂取量を適宜設定することができるが、一日量あたりの有効成分の量は、固形分として、例えば0.0010mg以上とすることができ、0.0060mg以上とすることが好ましく、0.010mg以上とすることがより好ましく、0.030mg以上とすることがさらに好ましく、0.10mg以上とすることがさらに好ましく、1.0mg以上とすることが好ましい。一日量あたりの有効成分の量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、1000mg以下とすることができ、500mg以下とすることが好ましく、300mg以下とすることがより好ましく、250mg以下とすることがさらに好ましい。
【0043】
1投与又は1食あたり、すなわち一回量あたりの有効成分の量は、例えば0.00030mg以上とすることができ、0.0020mg以上とすることが好ましく、0.0030mg以上とすることがより好ましく、0.010mg以上とすることがさらに好ましく、0.030mg以上とすることがさらに好ましい。一回量あたりの有効成分の量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、400mg以下とすることができ、200mg以下とすることが好ましく、100mg以下とすることがより好ましく、70mg以下とすることがさらに好ましく、30mg以下とすることがさらに好ましい。
【0044】
本発明の食品組成物としての一日量は、例えば0.0010mg以上とすることができ、0.0050mg以上としてもよく、0.010mg以上とすることが好ましく、0.050mg以上とすることがより好ましく、0.10mg以上とすることがさらに好ましく、0.150mg以上としてもよく、0.50mg以上としてもよく、1.0mg以上としてもよく、10mg以上とすることができ、0.10g以上とすることができ、1.0g以上とすることができ、10g以上とすることが好ましく、50g以上とすることがより好ましい。食品組成物としての一日量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば1500g以下とすることができ、1200g以下とすることが好ましく、900g以下とすることがより好ましく、600g以下とすることがより好ましい。
【0045】
医薬組成物としての一日量は、例えば0.1mg以上とすることができ、0.50mg以上とすることが好ましく、1.0mg以上とすることがより好ましく、5.0mg以上とすることがさらに好ましく、10mg以上とすることがさらに好ましく、15mg以上とすることがさらに好ましく、20mg以上としてもよく、40mg以上としてもよい。医薬組成物としての一日量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば150g以下とすることができ、100g以下とすることができ、50g以下とすることができ、20g以下とすることができ、10g以下とすることができ、5g以下とすることができ、1500mg以下とすることができ、1200mg以下とすることが好ましく、900mg以下とすることがより好ましく、600mg以下とすることがより好ましい。
【0046】
食品組成物としての一回量は、例えば0.00030mg以上とすることができ、0.0015mg以上としてもよく、0.0030mg以上とすることが好ましく、0.015mg以上とすることがより好ましく、0.030mg以上とすることがさらに好ましく、0.050mg以上としてもよく、0.15mg以上としてもよく、0.30mg以上としてもよく、3mg以上とすることができ、30mg以上とすることができ、0.30g以上とすることができ、3.0g以上とすることが好ましく、15g以上とすることがより好ましい。組成物としての一回量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば500g以下とすることができ、400g以下とすることが好ましく、200g以下とすることがより好ましく、125g以下とすることが特に好ましい。
【0047】
医薬組成物としての一回量は、例えば0.030mg以上とすることができ、0.15mg以上としてもよく、0.30mg以上とすることが好ましく、1.5mg以上とすることがより好ましく、3.0mg以上とすることがさらに好ましく、5.0mg以上としてもよく、7.0mg以上としてもよく、10mg以上とすることができ、20mg以上とすることが好ましく、30mg以上とすることがより好ましい。組成物としての一回量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば150g以下とすることができ、50g以下とすることができ、40g以下とすることができ、15g以下とすることができ、7g以下とすることができ、4g以下とすることができ、2g以下とすることができ、500mg以下とすることができ、400mg以下とすることが好ましく、200mg以下とすることがより好ましく、125mg以下とすることが特に好ましい。
【0048】
組成物は、一日1回の投与としてもよいし、一日複数回、例えば食事毎の3回の投与としてもよい。組成物は、食経験のあるトウモロコシからの抽出物を有効成分としている。そのため、本発明の組成物は、長期間の摂取にも適している。そのため繰り返し、又は長期間にわたって摂取してもよく、例えば3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、特に好ましくは1カ月以上、続けて投与・摂取することができる。
【0049】
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、食品又は医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸及びニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0050】
また組成物は、食品又は医薬として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。より具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上で許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、リン酸、酢酸、果汁、野菜汁等である。
【0051】
(剤型・形態)
本発明の医薬組成物は、経口投与に適した、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤型にすることができる。
【0052】
本発明の食品組成物は、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明に係る食品組成物は、乳製品、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。より具体的には、本発明の組成物は、乳飲料、清涼飲料、乳酸菌飲料ペースト料、発酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、タブレット、チョコレート、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、液体ミルク、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。
【0053】
(その他)
本発明の組成物の製造において、抽出物の配合の段階は、適宜選択することができる。抽出物の特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、製造の初期の段階に、原材料に混合して配合することができる。あるいは、製造の最後の段階に、抽出物を別添して混合して配合することができる。
【0054】
本発明の組成物には、免疫賦活、NK細胞活性化、及びINF-γの産生誘導、免疫機能の維持、免疫機能の活性化、免疫機能の増強、免疫機能の低下抑制、感染予防からなる群より選択されるいずれかのために用いることができる旨を表示することができ、また特定の対象に対して摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、商談資料、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。
【0055】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例0056】
[実施例1:南蛮毛抽出物のIFN-γの産生誘導活性]
(方法)
(1)南蛮毛抽出物の調製
乾燥南蛮毛 500gを10Lのエタノールに浸透し、常温で翌日まで静置した。エタノールを回収後、南蛮毛にさらにエタノール10Lを加え、常温で翌日まで静置し、エタノールを回収した。回収した計20Lのエタノールをロータリーエバポレーターで濃縮乾固し、抽出物を得た。黒色の固形物であり、収量は約0.18%であった。抽出物をジメチルスルホキシドに溶解し、抽出液とした。
【0057】
(2)細胞培養
マウス(8 週齢、C3H/HeJ、日本SLC)より脾臓を摘出し、脾臓細胞を調製した。得られた脾臓細胞を南蛮毛抽出物(0μg/mL、25μg/mL、50μg/mL、100μg/mL)の存在下で48時間培養後、培養上清中のIFN-γをELISA 法で定量した。ELISA 法による測定では、OptEIA ELISA kits (Becton Dickinson)を使用した。なお、南蛮毛抽出物存在下での培養時、ジメチルスルホキシド濃度は0.05%以下とした。
【0058】
(結果)
結果を図1に示す。南蛮毛抽出物存在下で脾臓細胞を培養することで、IFN-γの産生が誘導された(**P < 0.01, *P < 0.05, by Dunnett’s test vs 0μg/mL)。その活性は、EPS よりも格段に強かった。
【0059】
[実施例2:低濃度の南蛮毛抽出物のINF-γ産生誘導活性]
(方法)
実施例1と同様に南蛮毛抽出物を調製し、南蛮毛抽出物の添加濃度のみを変更して、実施例1と同様に細胞実験を行った。
【0060】
(結果)
結果を図2に示す。南蛮毛抽出物(0μg/mL、2.5μg/mL、5μg/mL、10μg/mL、20μg/mL、40μg/mL)存在下で、IFN-γの産生が誘導された(**P < 0.01, *P < 0.05, by Dunnett's test vs 0 μg/ml)。その活性は、2.5μg/mlというとても低い濃度でも認められることが分かった。
【0061】
[実施例3:南蛮毛抽出物のNK細胞活性増強効果]
(方法)
マウス(8 週齢、雌、BALB/c、日本クレア)に南蛮毛抽出物又は0.12%DMSO(溶媒)を3週間経口投与(100μg/mouse、抽出物固形分として)後、脾臓を摘出し、細胞を調製した。NK 活性の測定はクロムリリース法で行った。マウス脾臓細胞を Effector 細胞、51Cr で標識した YAC-1細胞(マウスリンパ腫由来)を Target 細胞として、E /T ratio =50:1で4時間共培養した。インキュベート終了後、上清を回収し、γカウンターを用いて放射能 (cpm) を測定した。NK活性は死滅した YAC-1細胞の割合として細胞傷害活性を算出した。
【0062】
(結果)
結果を図3に示す。南蛮毛抽出物投与群の脾臓細胞では、DMSO 投与群と比べて有意に細胞傷害活性が高かった(*P < 0.05, by Dunnett's test)。
図1
図2
図3